桐壺(青表紙本復元) First updated 9/18/2006(ver.1-1)
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渋谷栄一復元(C)

  

桐 壺


《概要》
 現状の明融臨模本から後人の本文校訂や書き入れ注記等を除いて、その親本である藤原定家の青表紙本の本文様態に復元して、以下の諸点について分析する。
1 青表紙本復元における定家の本文訂正跡
2 青表紙本復元における定家の付箋
3 青表紙本復元における定家の行間書き入れ注記
4 青表紙本復元における定家仮名遣い
5 青表紙本復元の本文上の問題点 現行校訂本の本文との異同

《復元資料》
凡例
1 本稿は、『源氏物語(明融本)・』(東海大学蔵桃園文庫影印叢書 1990(平成2)年6月 東海大学出版会)から、その親本の青表紙本を復元した。よって、本文中の書き入れ、注記等は、本文と一筆のみを採用し、他の後人の筆は除いたものである。
2 付箋、行間注記は【 】- としてその頭に番号を記した。付箋は、( )で括り、付箋番号を記した。合(掛)点には、\<朱(墨)合点>と記した。
3 小字及び割注等は< >で記した。/は改行を表す。また漢文の訓点等は< >で記した。
4 本文の校訂記号は次の通りである。
 $(ミセケチ)・#(抹消)・+(補入)・&(ナゾリ)・=(併記)・△(不明文字)
 ( )の前の文字及び( )内の記号の前の文字は、訂正以前の文字、記号の後の文字が訂正以後の文字である。ただし、なぞり訂正だけは( )の前の文字は訂正後の文字である。訂正以前の本行本文の文字を尊重したことと、なぞり訂正だけは元の文字が判読しにくかったための処置である。
5 各丁の終わりには」の印と丁数とその表(オ)裏(ウ)を記した。

「きりつほ」

  いつれの御時にか女御更衣あまたさふ
  らひ給けるなかにいとやむことなきゝはには
  あらぬかすくれて時めき給ありけりはしめより
  我はと思あかり給へる御方/\めさましき
  ものにおとしめそねみ給おなしほとそれより
  下らうの更衣たちはましてやすからす
  あさゆふの宮つかへにつけても人の心を
  のみうこかしうらみをおふつもりにやありけん」1オ

  いとあつしくなりゆき物心ほそけにさと
  かちなるをいよ/\あかすあはれなる物におも
  ほして人のそしりをも(も#も)えはゝからせ給はす
  世のためしにもなりぬへき御もてなし也
  かむたちめうへ人なともあいなくめをそ
  はめつゝいとまはゆき人の御おほえなりも
  ろこしにもかゝることのおこりにこそ世も
  みたれあしかりけれとやう/\あめのしたにも」1ウ

  あちきなう人のもてなやみくさになりて
  楊貴妃のためしもひきいてつへく(く=う)なりゆ
  くにいとはしたなきことおほかれとかたし
  けなき御心はへのたくひなきをたのみにて
  ましらひ給ちゝの大納言はなくなりてはゝ
  北の方なむいにしへの人のよしあるにておや
  うちくしさしあたりて世のおほえはなやかなる
  御方/\にもいたうおとらすなにことのきし/きをも」2オ

  もてなし給けれとゝりたてゝはか/\しきうしろ
  みしなけれは事ある時は猶より所なく心ほそ
  け也さきの世にも御ちきりやふかゝりけん世に
  なくきよらなるたまのをのこみこさへうまれ
  給ひぬいつしかと心もとなからせ給ていそきまい
  らせて御覧するにめつらかなるちこの御かたち
  なり一のみこは右大臣の女御の御はらにてよせ
  をもくうたかひなきまうけの君と世にもてか/しつきゝこゆれと」2ウ

  この御にほひにはならひ給へくもあらさりけれ
  はおほかたのやむことなき御おもひにてこの君
  をはわたくし物におもほしかしつき給事かき
  りなしはしめよりをしなへてのうへ宮つかへし
  給へきゝはにはあらさりきおほえいとやむことな
  く上すめかしけれとわりなくまつはさせ給あまり
  にさるへき御あそひのおり/\なにことにもゆ
  へあることのふし/\にはまつまうのほらせ給
  ある時にはおほとのこもりすくしてやかて」3オ

  さふらはせたまひなとあなかちにおまへさらす
  もてなさせ給しほとにをのつからかろき方
  にも見えしをこのみこうまれ給てのちはいと心
  ことにおもほしをきてたれは坊にもようせす
  はこのみこのゐ給へきなめりと一のみこの女御は
  おほしうたかへり人よりさきにまいり給て
  やむことなき御おもひなへてならすみこたちな
  ともおはしませはこの御方の御いさめをのみそ」3ウ

  猶わつらはしう心くるしう思ひきこえさせ給
  けるかしこき御かけをはたのみきこえなから
  おとしめきすをもとめ給人はおほくわか身は
  かよはく物はかなきありさまにて中/\なる物
  思ひをそし給御つほねはきりつほ也あまた
  の御方/\をすきさせ給てひまなき御まへわ
  たりに人の御心をつくし給もけにことはり
  と見えたりまうのほりたまふにもあまりうち
  しきるおり/\はうちはしわたとのゝこゝ」4オ

  かしこのみちにあやしきわさをしつゝ御をくり
  むかへの人のきぬのすそたへかたくまさなき
  こともあり又ある時にはえさらぬめたうのとを
  さしこめこなたかなた心をあはせてはした
  なめわつらはせ給時もおほかり事にふれてかす
  しらすくるしきことのみまされはいといたう思
  わひたるをいとゝあはれと御覧して後涼殿に
  本よりさふらひ給更衣のさうしをほかに」4ウ

  うつさせたまひてうへつほねにたまはすその
  怨ましてやらむ方なしこのみこみつにな
  り給年御はかまきのこと一の宮のたてまつりし
  におとらすくらつかさおさめ殿の物をつくして
  いみしうせさせ給それにつけても世のそし
  りのみおほかれとこのみこのおよすけもてお
  はする御かたち心はへありかたくめつらしきまて
  見えたまふをえそねみあへたまはす物の
  こゝろしり給人はかゝる人も世にいて」5オ

  おはする物なりけりとあさましきまてめをお
  とろかし給その年の夏みやす所はかなき
  心地にわつらひてまかてなんとし給をいとま
  さらにゆるさせ給はす年ころつねのあつし
  さになりたまへれは御めなれて猶しはし心
  見よとのみのたまはするに日々にをもり給て
  たゝ五六日のほとにいとよはうなれははゝ君
  なく/\そうしてまかてさせたてまつりたまふ」5ウ

  かゝるおりにもあるましきはちもこそと心つかひ
  してみこをはとゝめたてまつりてしのひてそ
  いて給かきりあれはさのみもえとゝめさせ給はす
  御覧したにをくらぬおほつかなさをいふ方
  なくおもほさるいとにほひやかにうつくしけ
  なる人のいたうおもやせていとあはれと物を
  思ひしみなから事にいてゝもきこえやらす
  あるかなきかにきえいりつゝものし給を御覧
  するにきし方ゆくすゑおほしめされす」6オ

  よろつのことをなく/\ちきりのたまはすれと
  御いらへもえきこえ給はすまみなともいとた
  ゆけにていとゝなよ/\とわれかのけしきにて
  ふしたれはいかさまにとおほしめしまとはる
  てくるまの宣旨なとのたまはせても又いらせ
  給てさらにえゆるさせ給はすかきりあらむ
  みちにもをくれさきたゝしとちきらせ給けるを
  さりともうちすてゝはえゆきやらしとのたま/はするを」6ウ

  女もいといみしと見たてまつりて
    かきりとてわかるゝ道のかなしきに
  いかまほしきはいのちなりけりいとかく思
  たまへましかはといきもたえつゝきこえま
  ほしけなる事はありけなれといとくるし
  けにたゆけなれはかくなからともかくもなら
  むを御覧しはてむとおほしめすにけふ
  はしむへきいのりともさるへき人/\うけたま/はれる」7オ

  こよひよりときこえいそかせはわりなくおも
  ほしなからまかてさせたまふ御むねつとふ
  たかりてつゆまとろまれすあかしかねさせ給
  御つかひのゆきかふほともなきに猶いふせ
  さをかきりなくのたまはせつるを夜中うち
  すくるほとになむたえはて給ぬるとてなき
  さはけは御つかひもいとあえなくてかへりま
  いりぬきこしめす御心まとひなにこともお」7ウ

  ほしめしわかれすこもりおはしますみこは
  かくてもいと御覧せまほしけれとかゝるほとに
  さふらひ給れいなき事なれはまかて給な
  むとすなにことかあらむともおほしたらす
  さふらふ人/\のなきまとひうへも御なみた
  のひまなくなかれおはしますをあやしと
  見たてまつり給へるをよろしきことにたにかゝ
  るわかれのかなしからぬはなきわさなるを
  ましてあはれにいふかひなしかきりあれは」8オ

  れいのさほうにおさめたてまつるをはゝ北の方
  おなしけふりにのほりなむとなきこかれ給
  て御をくりの女房のくるまにしたひのり
  給ておたきといふ所にいといかめしうそのさほ
  うしたるにおはしつきたる心地いかはかりかは
  ありけむゝなしき御からを見る/\猶おはする
  物とおもふかいとかひなけれははひになり
  たまはむを見たてまつりていまはなき人と」8ウ

  ひたふるに思なりなんとさかしうのたまひつれ
  とくるまよりもおちぬへうまろひ給へは
  さは思つかしと人/\もてわつらひきこゆ
  内より御つかひあり三位のくらひをくり給
  よし勅使きてその宣命よむなんかなし
  きことなりける女御とたにいはせすなりぬる
  かあかすくちおしうおほさるれはいまひと
  きさみの位をたにとをくらせ給なりけり」9オ

  これにつけてもにくみ給人/\おほかり物思ひ
  しり給はさまかたちなとのめてたかりし事
  心はせのなたらかにめやすくにくみかたかり
  しことなといまそおほしいつるさまあしき
  御もてなしゆへこそすけなうそねみ給
  しか人からのあはれになさけありし御心を
  うへの女房なともこひしのひあへりなくて
0001【なくてそとは】-\<朱合点>「ある時はありのすさひににくかりき/なくてそ人はこひしかりける」(付箋02 出典未詳、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄 大島本0069)
  そとはかゝるおりにやと見えたりはかなく」9ウ

  日ころすきてのちのわさなとにもこまかに
  とふらはせ給ほとふるまゝにせむ方なう
  かなしうおほさるゝに御方/\の御とのゐなと
  もたえてし給はすたゝなみたにひちて
  あかしくらさせたまへは見たてまつる人さへ
  つゆけき秋也なきあとまて人のむねあ
  くましかりける人の御おほえかなとそ弘
  徽殿なとには猶ゆるしなうのたまひける」10オ

  一の宮を見たてまつらせ給にもわか宮の御こひ
  しさのみおもほしいてつゝしたしき女房
  御めのとなとをつかはしつゝありさまをきこ
  しめす野わきたちてにはかにはたさむき
  ゆふくれのほとつねよりもおほしいつること
  おほくてゆけひの命婦といふをつかはすゆ
  ふつくよのおかしきほとにいたしたてさせ給
  てやかてなかめおはしますかうやうのおりは」10ウ

  御あそひなとせさせ給しに心ことなる物のねを
  かきならしはかなくきこえいつる事のはも
  人よりはことなりしけはひかたちのおもかけ
  につとそひておほさるゝにもやみのうつゝには
0002【やみのうつゝには】-\<朱合点>「むはたまのやみのうつゝはさたかなる/夢にいくらもまさらさりけり」(付箋03 古今647・古今六帖2034、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄 大島本0075)
  猶おとりけり命婦かしこにまてつきて
  かとひきいるゝよりけはひあはれ也やもめ
  すみなれと人ひとりの御かしつきにとかくつ
  くろひたてゝめやすきほとにてすくし給つる」11オ

  やみにくれてふしゝつみ給へるほとに草もたか
  くなり野わきにいとゝあれたる心地して月影
  はかりそやへむくらにもさはらすさしいりたる
0003【やへむくらにも】-\<朱合点>「とふ人もなきやとなれとくる春は/やへむくらにもさはらさりけり」(付箋04 新撰和歌7・古今六帖1306・貫之集207、奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄 大島本0078)
  みなみをもてにおろしてはゝ君もとみにえ
  物ものたまはすいまゝてとまり侍かいとうきを
  かゝる御つかひのよもきふのつゆわけいり給につ
  けてもいとはつかしうなんとてけにえたふま
  しくない給まいりてはいとゝ心くるしう心きもゝ
  つくるやうになんと内侍のすけのそうし給し」11ウ

  を物おもふたまへしらぬ心地にもけにこそ
  いとしのひかたう侍けれとてやゝためらひて
  おほせことつたへきこゆしはしはゆめかとのみ
  たとられしをやう/\思ひしつまるにしもさむ
  へき方なくたへかたきはいかにすへきわさにか
  ともとひあはすへき人たになきをしのひて
  はまいり給ひなんやわか宮のいとおほつかなく
  つゆけきなかにすくし給も心くるしうおほさ
  るゝをとくまいり給へなとはか/\しうものたま/はせ」12オ

  やらすむせかへらせ給つゝかつは人も心よはく
  見たてまつるらんとおほしつゝまぬにしもあら
  ぬ御けしきの心くるしさにうけたまはりは
  てぬやうにてなんまかて侍ぬるとて御ふみたて
  まつるめも見え侍らぬにかくかしこきおほせこと
  をひかりにてなんとて見給ほとへはすこしう
  ちまきるゝこともやとまちすくす月日にそへて
  いとしのひかたきはわりなきわさになんいは/けなき人を」12ウ

  いかにと思ひやりつゝもろともにはくゝまぬおほ
  つかなさをいまは猶むかしのかたみになすら
  へてものしたまへなとこまやかにかゝせたまへり
    宮木のゝつゆふきむすふ風のをとに
  こはきかもとを思ひこそやれとあれとえ
  見たまひはてすいのちなかさのいとつらう
  思給へしらるゝに松のおもはむことたにはつ
  かしう思給へ侍れはもゝしきにゆきかひ侍
  らむことはましていとはゝかりおほくなん」13オ

  かしこきおほせことをたひ/\うけたまはりなか
  らみつからはえなん思たまへたつましきわか宮
  はいかにおもほしゝるにかまいりたまはむ事を
  のみなんおほしいそくめれはことはりにかな
  しう見たてまつり侍なとうち/\に思たまふる
  さまをそうし給へゆゝしき身に侍れはかくて
  おはしますもいま/\しうかたしけなくなんと
  のたまふ宮はおほとのこもりにけり見たてま
  つりてくはしう御ありさまもそうし侍」13ウ

  らまほしきをまちおはしますらむに夜ふ
  け侍ぬへしとていそくくれまとふ心のやみも
0004【心のやみも】-\<朱合点> ひとのおやの心はやみにあらねとも/こを思道に迷ぬる哉(付箋05 後撰1102・古今六帖1412・兼輔集127・大和物語61、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄 大島本0095)
  たへかたきかたはしをたにはるく許にきこえ
  まほしう侍をわたくしにも心のとかにまかて
  たまへ年ころうれしくおもたゝしきついて
  にてたちより給し物をかゝる御せうそこにて
  見たてまつる返/\つれなきいのちにも侍かな
  むまれし時より思ふ心ありし人にて故大
  納言いまはとなるまてたゝこの人の宮」14オ

  つかへのほいかならすとけさせたてまつれ我なく
  なりぬとてくちおしう思くつをるなと返々い
  さめをかれ侍しかははか/\しうゝしろみ思
  へき人もなきましらひはなか/\なるへき事と
  思給へなからたゝかのゆいこんをたかへしと許に
  いたしたて侍しを身にあまるまての御心さしの
  よろつにかたしけなきに人けなきはちをかく
  しつゝましらひ給ふめりつるを人のそねみ
  ふかくつもりやすからぬことおほくなりそひ」14ウ

  侍つるによこさまなるやうにてつゐにかく
  なり侍ぬれはかへりてはつらくなむかしこき
  御心さしを思給へられ侍これもわりなき心の
  やみになむといひもやらすむせかへり給ほとに
  夜もふけぬうへもしかなんわか御心なからあ
  なかちに人めおとろく許おほされしもなかゝ
  るましきなりけりと今はつらかりける人のち
  きりになん世にいさゝかも人の心をまけたる事
  はあらしと思ふをたゝこの人のゆへにて」15オ

  あまたさるましき人のうらみをおひしはて/\
  はかうゝちすてられて心おさめむ方なきに
  いとゝ人わろうかたくなになりはつるもさき
  の世ゆかしうなむとうち返しつゝ御しほ
  たれかちにのみおはしますとかたりてつき
  せすなく/\夜いたうふけぬれはこよひ
  すくさす御返そうせむといそきまいる月
  はいりかたのそらきようすみわたれるに」15ウ

  風いとすゝしくなりてくさむらのむしのこゑ/\
  もよほしかほなるもいとたちはなれにくき
  草のもと也
    すゝむしのこゑのかきりをつくしても
  なかき夜あかすふるなみた哉えも
  のりやらす
    いとゝしく虫のねしけきあさちふに
  つゆをきそふるくものうへ人」16オ

  かこともきこえつへくなむといはせ給ふおか
  しき御をくり物なとあるへきおりにもあらねは
  たゝかの御かたみにとてかゝるようもやとのこ
  したまへりける御さうそくひとくたり御くし
  あけのてうとめく物そへ給ふわかき人/\
  かなしきことはさらにもいはす内わたりを
  あさゆふにならひていとさう/\しくうへの御
  ありさまなと思ひいてきこゆれはとくまいり
  たまはん事をそゝのかしきこゆれとかく」16ウ

  いま/\しき身のそひたてまつらむもいと人
  きゝうかるへし又見たてまつらてしはしも
  あらむはいとうしろめたう思ひきこ江給て
  すか/\ともえまいらせたてまつり給はぬなりけり
  命婦はまたおほとのこもらせたまはさり
  けるとあはれに見たてまつるおまへのつほ
  せんさいのいとおもしろきさかりなるを御覧
  するやうにてしのひやかに心にくきかきりの
  女房四五人さふらはせ給て御物かたりせさせ」17オ

  給なりけりこのころあけくれ御覧する長
  恨哥の御ゑ亭子院のかゝせ給て伊勢つらゆき
  によませ給へるやまとことのはをもゝろこしの
  うたをもたゝそのすちをそまくらことに
  させ給いとこまやかにありさまとはせたまふ
  あはれなりつる事しのひやかにそうす御返
  御覧すれはいともかしこきはをき所も侍らす
  かゝるおほせことにつけてもかきくらすみたり」17ウ

  心地になん
    あらき風ふせきしかけのかれしより
  こはきかうへそしつ心なきなとやうにみた
  りかはしきを心おさめさりけるほとゝ御覧
  しゆるすへしいとかうしも見えしとおほ
  しゝつむれとさらにえしのひあへさせ給はす
  御覧しはしめし年月の事さへかきあ
  つめよろつにおほしつゝけられて時の
  まもおほつかなかりしをかくても月日は」18オ

  へにけりとあさましうおほしめさる故大
  納言のゆいこんあやまたす宮つかへのほいふか
  くものしたりしよろこひはかひあるさまに
  とこそ思(思+わたり)つれいふかひなしやとうちのたまは
  せていとあはれにおほしやるかくてもをのつから
  わか宮なとおひいて給はゝさるへきついてもあ
  りなむいのちなかくとこそ思ねむせめなとの
  たまはすかのをくり物御覧せさすなき人
  のすみかたつねいてたりけんしるしのかむ」18ウ

  さしらましかはとおもほすもいとかひなし
    たつねゆくまほろしも哉つてにても
  たまのありかをそことしるへく
  ゑにかける楊貴妃のかたちはいみしきゑしと
  いへともふてかきりありけれはいとにほひす
  くなし大液芙蓉未央柳けにかよひ
  たりしかたちをからめいたるよそひはうる
  わしうこそありけめありけめなつかしうらう
  たけなりしをおほしいつるに花とりのいろ」19オ

  にもねにもよそふへき方そなきあさゆふの
  ことくさにはねをならへ枝をかさはむ
0005【はねをならへ枝をかさはむ】-\<朱合点> 在天願作比翼鳥/在地願為連理枝(付箋06 白氏文集「長恨歌」)
  きらせ給しにかなはさりけるいのちのほと
  そつきせすうらめしき風のをとむしのねに
  つけて物のみかなしうおほさるゝに弘徽殿
  には久しくうへの御つほねにもまうのほり
  給はす月のおもしろきに夜ふくるまてあそ
  ひをそし給なるいとすさましうものしと
  きこしめすこのころの御けしきを見たて」19ウ

  まつるうへ人女房なとはかたはらいたしときゝ
  けりいとをしたちかと/\しき所ものしたまふ
  御方にて事にもあらすおほしけちてもて
  なし給なるへし月もいりぬ
    雲のうへもなみたにくるゝ秋の月
  いかてすむらんあさちふのやとおほしめし
  やりつゝともし火をかゝけつくしてきお
0006【ともし火をかゝけつくして】-\<朱合点> 夕殿蛍飛思悄然/秋灯挑尽未能眠(付箋07 白氏文集「長恨歌」)
  はします右近のつかさのとのゐ申こゑ
  きこゆるはうしになりぬるなるへし」20オ

  人めをおほしてよるのおとゝにいらせ給ても
  まとろませ給ことかたしあしたにおきさせ
  給とてもあくるもしらておほしいつるにも
0007【あくるもしらて】-\<朱合点> たますたれあくるもしらすねし物を/ゆめにも見しと思ひかけきや(付箋08 伊勢集55、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄 大島本0127)
  猶あさまつりことはをこたらせ給ぬへかめり
0008【あさまつりことは】-\<朱合点> 春宵苦短日高起/従此君王不早朝(付箋09 白氏文集「長恨歌」)
  物なともきこしめさすあさかれひのけしき許
  ふれさせ給て大正しのおものなとはいと
  はるかにおほしめしたれははいせんにさふ
  らふかきりは心くるしき御けしきを見たて
  まつりなけくすへてちかうさふらふかきりは」20ウ

  おとこ女いとわりなきわさかなといひあはせつゝ
  なけくさるへきちきりこそはおはしましけめ
  そこらの人のそしりうらみをもはゝからせ
  給はすこの御事にふれたる事をはたう
  りをもうしなはせ給ひいまはたかく世中
  のことをもおもほしすてたるやうになり
  ゆくはいとたい/\しきわさなりと人のみ
  かとのためしまてひきいてさゝめきなけき
  けり月日へてわか宮まいり給ひぬいとゝ」21オ

  この世の物ならすきよらにおよすけ給へれは
  いとゆゝしうおほしたりあくる年の春坊さ
  たまり給にもいとひきこさまほしうおほせ
  と御うしろみすへき人もなく又世のう
  けひくましき事なりけれはなか/\あやう
  くおほしはゝかりていろにもいたさせ給はす
  なりぬるをさはかりおほしたれとかきりこそあ
  りけれと世人もきこえ女御も御心おちゐた
  まひぬかの御をは北の方なくさむ方なく」21ウ

  おほしゝつみておはすらむ所にたつねゆ
  かむとねかひ給ひしゝるしにやつゐにうせ給ひ
  ぬれは又これをかなしひおほすことかきりなし
  みこむつになり給年なれはこのたひはお
  ほしゝりてこひなき給年ころなれむつひ
  きこえ給つるを見たてまつりをくかなしひを
  なむ返々のたまひけるいまは内にのみさふ
  らひ給なゝつになり給へはふみはしめなと
  せさせ給て世にしらすさとうかしこく」22オ

  おはすれはあまりおそろしきまて御覧す
  いまはたれも/\えにくみ給はしはゝきみ
  なくてたにらうたうし給へとて弘徽殿なと
  にもわたらせ給御ともにはやかてみすの内に
  いれたてまつり給いみしき物のふあたかたきな
  りとも見てはうちゑまれぬへきさまのし給
  へれはえさしはなち給はす女みこたちふ
  た所この御はらにおはしませとなすらひ給
  へきたにそなかりける御方/\もかくれ給はす」22ウ

  いまよりなまめかしうはつかしけにおはすれは
  いとおかしうゝちとけぬあそひくさにた
  れも/\思きこえ給へりわさとの御かくもんは
  さる物にてことふえのねにもくもゐをひゝ
  かしすへていひつゝけはこと/\しうゝたてそ
  なりぬへき人の御さまなりけるそのころ
  こまうとのまいれるなかにかしこきさうにん
  ありけるをきこしめして宮のうちにめさむ/ことは」23オ

  宇多のみかとの御いましめれはいみし
  うしのひてこのみこをこうろくわんにつか
0009【こうろくわん】-鴻臚舘(池田本・伏見天皇本)
  はしたり御うしろみたちてつかうまつる
  右大弁の子のやうにおもはせてゐてたてま
  つるに相人おとろきてあまたゝひかたふき
  あやしふくにのおやとなりて帝王のかみなき
  くらゐにのほるへきさうおはします人のそ
  なたにて見れはみたれうれふる事やあらむ
  おほやけのかためとなりて天下をたすくる」23ウ

  方にて見れは又そのさうたかふへしといふ
  弁もいとさえかしこきはかせにていひかは
  したる事ともなむいとけうありけるふ
  みなとつくりかはしてけふあすかへりさり
  なむとするにかくありかたき人にたいめん
  したるよろこひかへりてはかなしかるへき
  心はへをおもしろくつくりたるにみこもいと
  あはれなる句をつくりたまへるをかきり
  なうめてたてまつりていみしきをくり物と/もを」24オ

  さゝけたてまつるおほやけよりもおほくの物
  たまはすをのつから事ひろこりてもらさせ
  給はねと春宮のおほちおとゝなといかなる
  事にかとおほしうたかひてなんありける
  みかとかしこき御心にやまとさうをおほせて
  おほしよりにけるすちなれはいまゝてこの君
  をみこにもなさせたまはさりけるを相人は
  まことにかしこかりけりとおほして無品の親
  王の外尺のよせなきにてはたゝよはさし」24ウ

  わか御世もいとさためなきをたゝ人にておほ
  やけの御うしろみをするなむゆくさきも
  たのもしけなめることゝおほしさためて
  いよ/\みち/\のさえをならはさせ給きは
  ことにかしこくてたゝ人にはいとあたらし
  けれとみことなり給なは世のうたかひおひ
  給ぬへくものし給へはすくえうのかしこき
  みちの人にかむかへさせ給にもおなしさまに
  申せは源氏になしたてまつるへくおほし」25オ

  をきてたり年月にそへてみやす所の御事
  をおほしわするゝおりなしなくさむやと
  さるへき人/\まいらせ給へとなすらひにおほ
  さるゝたにいとかたき世かなとうとましうの
  みよろつにおほしなりぬるに先帝の四
  の宮の御かたちすくれ給へるきこえたかく
  おはしますはゝ后世になくかしつきゝこ
  えたまふをうへにさふらふ内侍のすけは
  先帝の御時の人にてかの宮にもした」25ウ

  しうまいりなれたりけれはいはけなくおは
  しましゝ時より見たてまつりいまもほの見
  たてまつりてうせ給にしみやす所の御かた
  ちにゝたまへる人を三代のみやつかへにつ
  たはりぬるにえ見たてまつりつけぬをき
  さいの宮のひめ宮こそいとようおほえて
  おひいてさせ給へりけれありかたき御か
  たち人になんとそうしけるにまことにや
  と御心とまりてねむころにきこえさせ給けり」26オ

  はゝきさきあなおそろしや春宮の女御の
  いとさかなくてきりつほのかういのあらはに
  はかなくもてなされにしためしもゆゝしう
  とおほしつゝみてすか/\しうもおほしたゝ
  さりけるほとに后もうせ給ひぬ心ほそき
  さまにておはしますにたゝわか女みこた
  ちのおなしつらに思きこえむといとねむ
  ころにきこえさせ給さふらふ人/\御うしろ
  みたち御せうとの兵部卿のみこなとかく」26ウ

  心ほそくておはしまさむよりはうちすみ
  せさせ給て御心もなくさむへくなとおほし
  なりてまいらせたてまつり給へりふちつほと
  きこゆけに御かたちありさまあやしきまて
  そおほえ給へるこれは人の御きはまさり
  て思ひなしめてたく人もえおとしめきこえ
  給はねはうけはりてあかぬことなしかれは
  人のゆるしきこ江さりしに御心さしあや
  にくなりしそかしおほしまきるとは」27オ

  なけれとをのつから御心うつろひてこよなう
  おほしなくさむやうなるもあはれなるわさ
  なりけり源氏のきみは御あたりさり給はぬ
  をましてしけくわたらせ給御方はえはち
  あへたまはすいつれの御方も我人におとらむ
  とおほいたるやはあるとり/\にいとめてたけ
  れとうちおとなひ給へるにいとわかうゝつくし
  けにてせちにかくれ給へとをのつからもり見た
  てまつるはゝみやす所もかけたにおほえた」27ウ

  まはぬをいとように給へりと内侍のすけの
  きこえけるをわかき御心地にいとあはれと
  思きこ江給てつねにまいらまほしくなつ
  さひ見たてまつらはやとおほえ給うへも
  かきりなき御おもひとちにてなうとみ給
  そあやしくよそへきこ江つへき心地なん
  するなめしとおほさてらうたくし給へつ
  らつきまみなとはいとようにたりしゆへ
  かよひて見え給もにけなからすなむなと」28オ

  きこえつけ給へれはおさな心地にもはかなき
  花もみちにつけても心さしを見えたてま
  つるこよなう心よせきこ江給へれは弘徽殿
  女御又この宮とも御なかそは/\しきゆへ
  うちそへて本よりのにくさもたちいてゝもの
  しとおほしたり世にたくひなしと見たて
  まつり給ひなたかうおはする宮の御かたちにも
  猶にほはしさはたとへむ方なくうつく
  しけなるを世の人ひかるきみときこゆ」28ウ

  ふちつほならひ給て御おほえもとり/\なれ
  はかゝやく日の宮ときこゆこのきみの御わら
  はすかたいとかへまうくおほせと十二にて
  御元服たまふゐたちおほしいとなみて
  かきりある事に事をそへさせ給ひとゝせ
  の春宮の御元服南殿にてありしきしき
  よそほしかりし御ひゝきにおとさせ給はす
  ところ/\のきやうなとくらつかさこくさうゐんなと」29オ

  おほやけことにつかうまつれるおろそかなる
  こともそとゝりわきおほせことありてきよ
  らをつくしてつかうまつれりおはします
  殿のひむかしのひさしひむかしむきにいし
  たてゝ火んさの御座ひきいれの大臣の御さ
  御前にありさるの時にて源氏まいり給み
  つらゆひたまへるつらつきかほのにほひ
  さまかへたまはむ事おしけなり大蔵卿」29ウ

  くらひとつかうまつるいときよらなる御く
  しをそくほと心くるしけなるをうへは
  みやす所の見ましかはとおほしいつるに
  たへかたきを心つよくねむしかへさせ給
  かうふりし給て御やすみ所にまかてたまひて
  御そたてまつりかへておりてはいしたてまつり
  給さまにみな人なみたおとし給みかとは
  たましてえしのひあへ給はすおほしまき
  るゝおりもありつるむかしのことゝり返し」30オ

  かなしくおほさるいとかうきひわなるほとは
  あけをとりやとうたかはしくおほされ
  つるをあさましうゝつくしけさそひ給
  へりひきいれの大臣のみこはらにたゝひと
  りかしつき給おほむ女春宮よりも御け
0001【女】-ムスメ(池田本)
  しきあるをおほしわつらふ事ありけるこの
  きみにたてまつらむの御心なりけり内
  にも御けしきたまはらせ給へりけれは」30ウ

  さらはこのおりのうしろみなかめるをそ
  ひふしにもともよほさせ給けれはさお
  ほしたりさふらひにまかて給て人/\お
  ほみきなとまいるほとみこたちの御さのす
  ゑに源氏つき給へりおとゝけしきはみ
  きこ江給事あれと物のつゝましきほとにて
  ともかくもあへしらひきこ江給はすおまへ
  より内侍せんしうけたまはりつたへて/おとゝまいりたまふへき」31オ

  めしあれはまいり給御ろくの物うへの
  命婦とりてたまふしろきおほうちきに
  御そひとくたりれいの事也御さかつきの
  ついてに
    いときなきはつもとゆひになかき世を
  ちきる心はむすひこめつや
  御心はえありておとろかさせ給
    むすひつる心もふかきもとゆひに」31ウ

  こきむらさきの色しあせすは
  とそうしてなかはしよりおりてふた
  うし給ひたりのつかさの御むまくら人
  所のたかすへてたまはり給みはしの
  もとにみこたちかむたちめつらねて
  ろくともしな/\にたまはり給その日の
  おまへのおりひつものこものなと右大弁
  なむうけたまはりてつかうまつらせける」32オ

  とんしきくのからひつともなと所せきまて
  春宮の御元服のおりにもかすまされり
  なか/\かきりもなくいかめしうなんその
  夜おとゝの御さとに源氏のきみまかて
  させたまふさほう世にめつらしきまても
  てかしつきゝこえ給へりいときひはにて
  おはしたるをゆゝしうゝつくしと思きこ江
  給へり女きみはすこしすくし給へるほとに」32ウ

  いとわかうおはすれはにけなくはつかしと
  おほいたりこのおとゝの御おほえいとやむ
  ことなきにはゝ宮内のひとつきさいは
  らになむおはしけれはいつかたにつけても
  いとはなやかなるにこの君さへかくおはし
  そひぬれは春宮の御おほちにてつゐに
  世中をしり給へき右のおとゝの御いきをひは
  物にもあらすをされ給へり御こともあまた」33オ

  はら/\にものし給宮の御はらは蔵人
  少将にていとわかうおかしきを右のおとゝ
  の御なかはいとよからねとえ見すくし給
  はてかしつき給四の君にあはせ給へり
  おとらすもてかしつきたるはあらまほ
  しき御あはひともになん源氏の君
  はうへのつねにめしまつはせは心やすく
  さとすみもえし給はす心のうちには」33ウ

  たゝふちつほの御ありさまをたくひな
  しと思きこえてさやうならむ人をこそ
  見めにる人なくもおはしけるかなおほ
  いとのゝきみいとおかしけにかしつかれ
  たる人とは見ゆれと心にもつかすおほえ
  給ておさなきほとのこゝろひとつにかゝりて
  いとくるしきまてそおはしけるおとなに
  なり給てのちはありしやうにみすの内/にも」34オ

  いれたまはす御あそひのおり/\ことふえの
  ねにきこえかよひほのかなる御こゑをなく
  さめにて内すみのみこのましうおほえ給
  五六日さふらひ給ておほいとのに二三日な
  とたえ/\にまかて給へとたゝいまはおさ
  なき御ほとにつみなくおほしなして
  いとなみかしつききこ江給御方/\の人/\
  世中にをしなへたらぬをえりとゝのへす」34ウ

  くりてさふらはせ給御心につくへき御
  あそひをしおほな/\おほしいたつく
  内にはもとのしけいさを御さうしにて
0002【しけいさ】-淑景舎(池田本・伏見天皇本・大島本0214)
  はゝみやす所の御方の人/\まかてちらす
  さふらはせ給さとの殿はすりしきた
0003【すりしき】-修理職(池田本・伏見天皇本)
  くみつかさに宣旨くたりてになうあら
  ためつくらせたまふもとのこたち山のたゝ
  すまひおもしろき所なりけるを池の」35オ

  こゝろひろくしなしてめてたくつくりのゝ
  しるかゝる所におもふやうならむ人をすへ
  てすまはやとのみなけかしうおほし
  わたるひかるきみといふ名はこまうとの
  めてきこえてつけたてまつりけるとそい
  ひつたへたるとなむ」35ウ

【奥入01】対此如何 芙蓉似面柳如眉(戻)
【奥入02】在天願作比翼鳥 在地願為連理枝(戻)
【奥入03】たますたれあくるもしらすねし物を
     ゆめにも見しと思ひかけきや(戻)

書加之
【奥入04】寛平遺誡
     外蕃之人必所召見<シム>者<モノ>在簾中見之
     不可直<タヽチニ>対<ムカフ>耳李環<クワイニ>朕已失<セリ>之慎之(戻)」36オ

【奥入05】<古哥也可用此一両首>(小字)
     今更にとふへき人もおもほえす
     やへむくらしてかとさせりてへ
     とふ人もなきやとなれとくる春は
     やへむくらにもさはらさりけり(戻)
【奥入06】まくらことに あけくれのことくさといふ心也(戻)
【奥入07】かたみのかむさし
     長恨哥 伝
     指碧衣女取金釵鈿合各折其中
     授使者曰為我謝太上皇謹献是物尋(戻)」36ウ

【奥入08】ともし火をかゝけつくして 同長恨哥
     夕殿蛍飛思悄然 秋灯挑尽未能眠(戻)
【奥入09】あさまつりことはをこたらせ給
     春夜苦<イト>短<ミシカクシテ>日高<タケテ>起<オク> 従是<コレヨリ>君王不早朝<アサマツリコトシタマ>(戻)
【奥入10】右近のつかさのとのゐ申
     亥一刻左近衛夜行官人初奏時<終子/四刻>
     丑一刻右近衛宿申事至卯一刻
     内竪亥一刻奏宿簡(戻)」37オ

【奥入11】延長七年二月十六日当代源氏二人元服垂
     母屋壁代撤昼御座其所立倚子御座孫庇第
     二間有引入左右大臣座其南第一間置円座二枚
     為冠者座<並西面円座前置円座又其/下置理髪具皆盛柳筥>先両大臣被召
     着円座引入訖還着本座次冠者二人退下
     於侍所改衣装此間両大臣給禄於庭前拝
     舞<不着/沓>出仙華門於射場着沓撤禄次冠者二人
     入仙華門於庭中拝舞退出参仁和寺帰参先是
     宸儀御侍所倚子親王左右大臣已下同候有盃酒御遊」37ウ

     両源氏候此座<候四位親王/之次依仰也>深更大臣已下給禄両源
     氏宅各調屯食廿具令分諸陣所々(戻)
【奥入12】天慶三年親王元服日屯食事
     内蔵寮十具穀倉院十具已上検校太政大臣仰調之衛府
     五具<督仰/調之>列立南殿版位東其東春興殿西立辛櫃
     十合件等物有宣旨自長楽門出入上卿仰弁官分所々
     史二人勾当其事仰検非違使令分給弁官三大政官二
     左右近三左右兵衛二左右衛門二蔵人所二内記所一薬殿一
     御書所一内竪所一校書殿一作物所一内侍所四
     采女一内教坊一糸所一匣殿一(戻)」38オ

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