First updated 2/24/2003(ver.1-1)
Last updated 10/6/2006(ver.2-1)
更新内容:翻刻を見やすくし、注記には番号を付けた。特に書き入れ注記について、大島本の書き入れ注記との関係を明らかにした。
渋谷栄一翻字(C)

  

帚 木


《概要》
 明融臨模本は、藤原定家筆の青表紙本の臨模本とはいうものの、現状では、後人の筆によるさまざまな本文校訂跡や本文書き入れ注記、句点、声点、濁点等をもつ。そうした現状の様態をそのままに、以下の諸点について分析していく。
1 明融臨模本と青表紙本との関係 鎌倉期書写青表紙本(池田本・伏見天皇本等)を補助的資料として
2 明融臨模本本文と大島本本文との関係 青表紙本復元と大島本親本復元を比較して
3 明融臨模本の本文校訂に対校された本文系統
4 明融臨模本の句点の関係
5 明融臨模本の後人書き入れ注記
  大島本の書き入れ注記との関係
  その他の書き入れ注記との関係

《書誌》
 「帚木」の筆跡は、「桐壺」第2丁表からと同様に、筆線もやや細く丸みを帯びた書体である。よって、親本の定家本においても周辺の祐筆の人が書写したものであろう。

《翻刻資料》
凡例
1 本稿は、『源氏物語(明融本)・』(東海大学蔵桃園文庫影印叢書 1990(平成2)年6月 東海大学出版会)を現状のまま翻刻した。よって、後人の筆が加わった本文様態である。後人の筆を除いた青表紙本復元本文は別途に作成した。
2 行間注記は【 】- としてその頭に番号を記した。また付箋注記は、付箋番号を記した。
3 小字及び割注等は< >で記した。/は改行を表す。また漢文の訓点等は< >で記した。
4 合(掛)点は、\<朱(墨)合点>と記した。朱句点は「・」で記した。
5 本文の校訂記号は次の通りである。
 $(ミセケチ)・#(抹消)・+(補入)・&(ナゾリ)・=(併記)・△(不明文字)
 ( )の前の文字及び( )内の記号の前の文字は、訂正以前の文字、記号の後の文字が訂正以後の文字である。ただし、なぞり訂正だけは( )の前の文字は訂正後の文字である。訂正以前の本行本文の文字を尊重したことと、なぞり訂正だけは元の文字が判読しにくかったための処置である。
6 朱・墨等の筆跡の相違や右側・左側・頭注等の注の位置は< >と( )で記した。私に付けた注記は(* )と記した。
7 各丁の終わりには」の印と丁数とその表(オ)裏(ウ)を記した。
8 なお、該本には、朱点で濁点符号が付いているが、省略した。また、朱・墨の区別については、影印本(モノクロ写真)に拠ったために、必ずしも正確ではない。原典を直接に調査する機会ができたら正確を期したい。利用者は注意されたい。

「はゝ木々」(題箋)

「上冷泉殿為和卿御息明融 琴山(印)」(見返貼紙)

  ひかる源氏名のみこと/\しう・いひけたれ給とか
0001【名のみこと/\しう】-\<合点> 名ノミコト/\シウハヨキ事也
0002【いひけたれ】-\<合点> イヒケタレタルハワロキ也
  おほか(か+ンナル<朱>)なる(る$カ<朱>)にいとゝかゝるすきことゝもをすゑの
0003【すきこと】-\<合点> スキ/\シキ事也
  世にもきゝつたへてかろひたる名をやなかさむと
0004【かろひたる】-\<合点> カロ/\シキ也(大島本0004)
  しのひ給けるかくろへことをさへかたりつたへけん
0005【かくろへこと】-\<合点> カクシ事也
  ひとのものいひさかなさよさるはいといたく世をはゝ
  かりまめたちたまひけるほとなよひ(ひ=ヒ)かにおかしき
0006【まめたち】-\<合点> マコトタツ也(大島本0008)
0007【おかしき】-\<合点> コレハ物ノヲカシキニハアラス面白クヨキ事ヲ云ホメタル心也又口フヒタル所モアルヘシ
  ことはなくてかたのゝ少将にはわらはれ給けむ
0008【かたのゝ少将】-\<朱合点> 業平ヲ云ト云説アリ(大島本0008)心ヲ云説アリ業平ノ中将カタノニトマリタル事アリ是ヲ交野ノ少将ト云ヘシ
  かし・また中将なとにものしたまひし時は内
0009【また中将なとに】-\<朱合点> 十六<朱>
  にのみさふらひようしたまひて大殿には」1オ
0010【さふらひ】-\<合点> 内リニ侍カヨキト云心也
0011【よう】-イヨキト也<左>
0012【大殿】-オホイトノ<朱>
  たえ/\まかて給しのふのみたれとう
0013【しのふのみたれ】-\<朱合点>
  たかひきこゆる事もありしかとさしも
  あためきめなれたるうちつけのすき/\
  しさなとはこのましからぬ御本上にて
0014【御本上】-\<合点> モトノ心也 ムマレツキノ心(大島本0016) 性<朱>
  まれにはあなかちにひきたかへ心つくしなる
  ことを御心におほしとゝむるくせなむあや
0015【くせ】-\<合点> 人ノクセヲ云
0016【あやにくにて】-ワリナキ<朱>
  にくにてさるましきおほむふるまひも
  うちましりける・なかあめはれまなき
0017【なかあめ】-\<合点> 三日ニ過ル雨ヲハ長雨ト云五月雨ノ事(大島本0017)
  ころうちの御物いみさしつゝきていとゝな」1ウ
0018【御物いみ】-\<合点> ツヽシム日ヲ云 神鬼<朱>ノ名也<墨>
  かゐさふらひ給を大殿にはおほつかなく
  うらめしくおほしたれとよろつの御よ
0019【御よそひ】-\<合点> 御シヤウソクノ事也(大島本0019)
  そひなにくれとめつらしきさまにてうし
0020【なにくれと】-\<合点> ナニヤカヤト云詞也(大島本0020)
  いて給つゝ御むすこのきみたちたゝこの
  御とのゐところの宮つかへをつとめ給宮は
  らの中将は中にしたしくなれきこえ給て
  あそひたはふれをも人よりは心やすくなれ/\
  しくふるまひたり・右のおとゝのいたはり
0021【右のおとゝ】-二条大臣四君(大島本0022)
  かしつき給すみかはこのきみもいと物う」2オ
0022【すみか】-\<合点> 人ノメヲ云(大島本0023)
  くしてすきかましきあた人也さとにても
0023【あた人なり】-\<合点>
  我かたのしつらひまはゆくしてきみのい
  ていりし給にうちつれきこえ給つゝよるひる
  かくもんをもあそひをもゝろともにして
  おさ/\たちをくれすいつくにてもまつは
0024【おさ/\】-\<合点> ヤウヤクト云心也又スコフルナト云心也ヲサ/\シキト云アリケレハ心カハル也
0025【まつはれ】-\<合点> ナレムツフルゝヲ云
  れきこえ給ほとにをのつからかしこまりもえ
0026【かしこまり】-インキンナラサル也
  をかす心のうちにおもふことをもかくしあへす
  なむゝつれきこえ給ける・つれ/\とふりくら
  してしめやかなるよひのあめに殿上にも」2ウ
  おさ/\人すくなに御とのゐ所もれいよりは
0027【御とのゐ所】-桐壺也
  のとやかなる心ちするにおほとな(な=ノア)ふらちか
  くて文ともなとみたまふ(ふ+次ニ)ちかきみつし
0028【文】-書<朱>
  なるいろ/\のかみなるふみともをひきいてゝ
  中将わりなくゆかしかれはさりぬへきすこ
0029【さりぬへき】-源氏(大島本0032)
  しはみせむかたわ(わ=ハ<朱>)なるへきもこそとゆるし
0030【かたわなる】-\<合点> ミクルシキヲ云
  給はねは・そのうちとけてかたはらいたしとおほ
0031【そのうちとけて】-中将ノ詞(大島本0033)
0032【かたはらいたしと】-真実ノヲ<朱>
  されむこそゆかしけれをしなへたるおほか
  たのはかすならねとほと/\につけてかきかは/しつゝも」3オ
  みはへりなむをのかしゝうらめしきおり/\
0033【をのかしゝ】-\<合点> ヲノレカ心サシ也
  まちかほならむゆふくれなとのこそ・みところは
  あらめとゑんすれはやむことなくせちにかく
0034【ゑんすれは】-\<合点> ウラムル心也
  し給へきなとはかやうにおほそうなるみつ
0035【おほそうなる】-\<合点> ウチハナレタルタル也(大島本0036)
0036【みつし】-△△△イ<朱>
  しなとにうちをきちらし給へくもあらす
  ふかくとりをき給へかめれは(は+コレハ)二のまちの心や
0037【二のまち】-\<合点> ツキト云心也(大島本0037)
  すきなるへしかたはしつゝみるにかく
  さま/\なる物ともこそはへりけれとてこゝろあ
0038【こゝろあてに】-ヲシアテ也
  てにそれかかれかなとゝふなかにいひあつるも」3ウ
  ありもてはなれたることをも思ひよせて
  うたかふもを(を=お)かしとおほせとことすくな
  にてとかくまきらはしつゝとりかくし給つ・そこ
0039【そこにこそ】-中将ヲ云<朱>
  にこそおほくつとへ給らめすこしみはや・さて
  なむこのつしも心き(き#)よくひらくへきとの
  給へはこ(こ=御)らむし所あらむこそかたくはへらめ
0040【こらむし所あらむこそ】-中将詞<朱>(大島本0040)
  なときこえ給ついてに・女のこれはしもとなん
0041【女のこれは】-中将雨夜品定事<右> 第一段<左>(大島本0041)
  つくましきはかたくもあるかなとやう/\なむ
  み給へしる・たゝうはへはかりのなさけにては」4オ
0042【はしりかき】-\<合点> サウニ文カクヲ云(大島本0044)
  しりかきおりふしのいらへ心えてうちし
0043【おりふしのいらへ】-哥ヨムコト也
  なとはかりはすいふんによろしきもおほかり
  とみ給ふれとそもまことにそのかたをとりいてむ
  えらひにかならすもるましきはいとかたしや
  ・我心え(え=エ<朱>)たることはかりをゝのかしゝ心をやりて人
  をはおとしめなとかたはらいたきことおほかり
  ・おやなとたちそひもてあかめておひさきこ
0044【おやなと】-玉カツラノ内侍ノカミ当此品(玉カツラノ内侍ノカミ当此品$)(大島本0050) 不用
0045【おひさきこもれるまとのうち】-\<合点> 草ナトノオヒ出タルハシメノヤウニ人ノイトケナキ時ヲ云(大島本0051) 窓ノ内トハ親ノ家ニアル程ヲ云<墨> 生尖<朱>
  もれるまとのうちなるほとはゝかたかとを
0046【まとのうちなるほと】-\<朱合点>
0047【かたかと】-\<合点> 一ノカド也
  きゝつたへて心をうこかす事もあめりか」4ウ
  たちおかしくうちおほときわかやかにてまき
0048【おほとき】-\<合点> 大ヤウニ長楽ナル也(大島本0054)
0049【まきるゝことなき】-カサラスアリノマゝナル也(大島本0055)
  るゝことなきほとはかなきすま(ま#さ)ひをも人まね
0050【すさひ】-ナヲサリ事也(大島本0056)
  に心をいるゝ事もあるにをのつからひとつゆへ
0051【ゆへつけて】-無用ナルコト也
  つけてしいつることもありみる人をくれた
  るかたをはいひかくしさてありぬへきかた
  をはつくろひてまねひいたすにそれしか
  あらしとそらにいかゝはをしはかり思ひくたさ
0052【思ひくたさむ】-\<合点> 思ヒマヘル也又心ニクタス也
  むまことかとみもてゆくにみをとりせぬやうは
  なくなむあるへきとうめきたるけしきも」5オ
0053【うめきたる】-\<合点> ウソフキタル心也(大島本0058)
  はつかしけなれは・いとなへてはあらねと我(我+も<朱>)おほし
0054【いとなへては】-源氏<右> 第二段<左>(大島本0059)
  あはすることやあらむうちほお(お=ほ<朱>)ゑみてそのかた
0055【かたかと】-片廉<朱>
  かともなき人はあらむやとの給へはいとさはか
0056【いとさはかりならむあたりには】-中将第三段(大島本0060)
  りならむあたりにはたれかはすかされより侍
  らむとる(る=ル)かたなくくちを(を=お<朱>)しきゝはというな
  りとおほゆはかりすくれたるとはかすひとし
  くこそはへらめ人のしなたかくむまれぬれは
  人にもてかしつかれてかくるゝ事おほくしねん
  にそのけはひこよなかるへし中のしなに」5ウ
0057【中のしな】-中品<左>(大島本0066)
  なむ人の心/\をのかしゝのたてたるおも
  むきもみえてわかるへきことかた/\おほかる
  へきしものきさみといふきはになれはことに
0058【しものきさみ】-下品<左>(大島本0067)
  みゝたゝすかしとていとくまなけなるけし
  きなるもゆかしくて・そのしな/\やいかに
0059【そのしな/\やいかに】-源氏第四段(大島本0069)
  いつれをみつのしなにをきてかわくへき
  もとのしなたかくむまれなから身はし
  つみくらゐみしかくて人けなき・又なを
0060【なを人】-\<合点> イタク上ラフニテモナキシナノ人也
  人のかむたちめなとまてまて(まて<後>$)なりのほり我」6オ
0061【かむたちめなと】-上達部殿上人也<左>
  はかほにていゑのうちをかさり人におとらしと
  おもへるそのけちめをはいかゝわくへきとゝひ
  給(給=給<朱>)ほとに・ひたりのむまのかみ藤しきふのせ
0062【藤しきふのせう】-藤式部丞蔵人也(大島本0073)
  う御物いみにこもらむとてまいれりよのすき
  ものにてものよくいひとほ(ほ=を<朱>)れるを中将ま
0063【中将】-頭<朱>
  ちとりてこのしな/\をわきまへさためあらそ
  ふいときゝにくき事おほかり・なりのほれと
0064【なりのほれとも】-コレヨリ馬頭ノ詞第一段(大島本0074)
  ももとよりさるへきすちならぬはよ(よ=世ノ<朱>)人のお
  もへる事もさはいへとなをこと也・また(また=又)本」6ウ
0065【さはいへと】-世上ニヨシトハオモハネトモ官タカキナレハ申也<左>
0066【本】-性也(大島本0076)
  はやむことなきすちなれとよにふるたつ
0067【たつき】-\<合点> タヨリ也
  きすくなくときよ(よ=世<朱>)に(に$<朱>)うつろひておほえ
0068【たつきすくなく】-末摘花当此品(大島本0077)
  おとろへぬれは心は心としてことたらすわろ
  ひたることゝもいてくるわさなめれはとり/\
  にことはりて中のしなにそをくへき・す
0069【す両】-受領(大島本0079) リヤウ歟 領<朱>
  両といひて人のくに(くに=国)の事にかゝつらひいとな
  みてしなさたまりたる中こ(こ$に<朱>)も又きさみ/\
  ありてなかのしなのけしうはあらぬえりい
0070【けしうはあらぬ】-\<合点> ケスシクハアラヌ心也(大島本0080)
  てつへきころほひ也・なま/\のかむたちめ」7オ
0071【なま/\のかむたちめよりも】-ナミ/\也 ナマキンタチナトノヤウナル心也 空蝉夕顔当此品(大島本0081)
  よりも非参議の四位とものよのおほえくちを(を=お<朱>)
0072【参議】-サンキ
  しからすもとのねさしいやしからぬ(ぬ+カ<朱>)やすら
0073【もとのねさし】-\<合点> 其人ノ本ノホンシヤウ也
  かに身をもてなしふるまひたるいとかはらか
0074【かはらかなり】-\<合点> サハヤカナル也(大島本0084)
  なりやいゑのうちにたらぬ事なとはたなか
0075【いゑのうちにたらぬ事なと】-明石上当此品(大島本0085)
  めるまゝにはふかすまはゆきまてもてかしつ
  けるむすめなとのおとしめかたくおひいつ
  るもあまたあるへし・宮つかへにいてたちて
  思かけぬさいはひ(ひ=ゐ<朱>)とりいつるためしとも
  おほかりかしなといへは・すへてにきはゝしき」7ウ
0076【すへてにきはゝしき】-源氏第二段(大島本0088)
0077【にきはゝしき】-\<合点> タノシキヲ云
  によるへきな(な+ん<朱>)ゝなりとてわらひ給を・こと人のいはむ
0078【こと人のいはむやうに】-中将
  やうに心えすおほせらると(と+て<朱>)中将にくむ・もとの
0079【もとのしな時よのおほえ】-馬頭第三段上ノ品女三宮当此品<右>(大島本0090) 第八段$<左>
  しな時よのおほえうちあひ(ひ=ひ<朱>)やむ事なきあ
  たりのうち/\のもてなしけはひをくれ
  たらむはさらにもいはすなにをしてかく
0080【なにをして】-無能ノコト也<朱>
  おひいてけむといふかひなくおほゆへし・う
  ちあひてすくれたらむもことはりこれこ
  そは(は$<朱>)さるへき事とおほえてめつらかなるこ
  とゝ心もおとろくまし・なにかしかをよふへき」8オ
  ほとならねはかみかゝみに(に+うち)をき侍ぬ・さてよ(よ=世)
0081【さてよにありと】-下品也(大島本0093)
  にありと人にしられす(す+さ)ひしくあはれたら
  むゝくらのかとに思のほかにらうたけならむひ
  とのとちられたらむこそかきりなくめつらし
  くはおほえめ・いかてはたかゝりけむとおもふ
  よりたかへることなむあやしく心とまる
  わさなる・ちゝのとしおい物むつかしけにふ
  とりすきせうとのかほにくけに思やりことな
0082【せうと】-兄弟也
  る事なきねやのうちにいといたく思あ」8ウ
  かりはかなくしいてたることわさもゆへなか
0083【ゆへなからす】-ヨキ也
  らすみえたらむかたかとにてもいかゝ思のほか
  におかしからさらむすくれてきすなきかた
  のえらひにこそをよはさらめさるかたにて
  すてかたきものをはとて式部をみやれは・わか
  いもうとゝものよろしきゝこえあるをおもひて
  の給にやとや心うらむ物もいはす・いてやかみの
0084【かみのしな】-上々ノニモ上様ナキ也<朱>
  しなとおもしつ(しつ$ふ<朱>)にたにかたけなるよをときみ
  はおほすへし・しろき御そとものなよ(よ+ら<右朱>、よ<左朱>)かな」9オ
  るになおしはかりをしとけなくきなし給て
  ひもなともそ(そ$う)ちすてゝそひふしたまへる
  御ほかけいとめてたく女にてみたてまつらまほ
0085【御ほかけ】-\<合点> 火ノ影也(大島本0100)
  しこの御ためにはかみかゝみをえりいてゝも
  なをあくましくみえ給・さま/\の人のうへと
  もをかたりあはせつゝ・おほかたのよにつけて
0086【おほかたのよに】-第五段(大島本0101)
  みるにはとかなきもわかものとうちたのむへ
  きをえらむ(む=ん<朱>)におほかる中にもえなむ思さ
  たむましかりける・をのこのおほやけにつかう」9ウ
  まつりはか/\しき世のかためとなるへきもまこと
  のうつは物となるへきをとりいたさむには(には=には<朱>)かた
0087【うつは物】-器也(大島本0102)
  かるへしかし・されとかしこしとてもひとりふた
  りよの中をまつりこちしるへきならねはかみは
  しもにたすけられしもはかみになひきて
  事ひろきにゆつろふらむせはきいゑのうち
  のあるしとすへき人ひとりを思めくらすにた
  らはてあしかるへき大事ともなむかた/\
  おほかる・とあれはかゝりあふさきるさに」10オ
0088【あふさきるさにて】-\<朱合点> アフサマクルサマ也又トスルモカクスルモト云心モ有ヘシ(大島本0106)
  なのめにさてもありぬへき人のすくなきを
0089【なのめに】-十分ナラヌコト也
  すき/\しき心のすさひにて人のありさま
  をあまたみあはせむのこのみならねとひと
  へに思さたむへきよるへとすはかりにおなし
0090【よるへ】-\<合点> ヨル所也(大島本0108)
  くはわかちからいりをしなお(お=を<朱>)しひきつくろふ
  へきところなく心にかなふやうにもやとえり
  そめつる人のさたまりかたきなるへし・かな
  らすしもわかおもふにかなはねとみそめつる
  ちきりはかりをすてかたくおもひとまる人は物」10ウ
  まめやかなりとみえさてたもたるゝ女のため
  も心にくし(し=く<朱>)をしはからるゝ也・されとなにかよ
0091【なにかよの】-ナニカシカト云也(大島本0110)
  のありさまをみ給へあつむるまゝに心にをよ
  はすいとゆかしき事もなしやきむたちのか
  みなき御えらひにはましていかはかりのひとか
  はたら(ら=く<朱>)ひたまはむ(む+所せく思ひ給へぬにたに)かたちきたなけなくわか
  やかなるほとのをのかしゝはちりもつかしと身を
  もてなしふみをかけとおほとかにことえりを
0092【ことえりをし】-\<合点> 文ヲカクニ詞ヲエラヒテ書ヲ云
  しすみつきほのかに心もとなく思はせつゝ又」11オ
  さやかにもみてしかなとすへなくまたせわつか
0093【すへなく】-\<合点> ヒンナキヲ云(大島本0114)
  なるこゑきくはかりいひよれといきのしたにひ
  きいれことすくななるかいとよくもてかくす也
0094【もてかくす也】-ツカロウ様也
  けりなよひかに女しとみれはあまりなさけに
0095【女しとみれは】-ヲンナ 源内侍当此品(大島本0116)
  ひきこめられてとりなせはあためくこれをはし
0096【これをはしめのなん】-第一ノナン也<朱>
  めのなんとすへし・ことかなかになのめなるまし
0097【ことかなかに】-\<合点> コトナルカ中ニト云心也(大島本0117)
  き人のうしろみのかたは物のあはれしりすく
  しはかなきついてのなさけありを(を=お<朱>)かしきに
0098【をかしきに】-善<朱>
  すゝめるかたなくてもよかるへしとみえたるに・」11ウ
0099【よかるへし】-セタイカタヨリミヘタル也
  又まめ/\しきすちをたてゝみゝはさみかちに
0100【まめ/\しき】-直也
0101【みゝはさみかち】-カヒ/\シキスカタ(大島本0120)
  ひさうなきいゑとうしのひとへにうちとけた
0102【ひさうなき】-\<合点> ヒンサウナキ也フク/\シキ心也(大島本0121)
0103【いゑとうし】-\<合点> 家ノメヲ云(大島本0122)
  るうしろみはかりをしてあさゆふのいていりにつ
0104【あさゆふのいていり】-奉公ナト男ノスル方也
  けてもおほやけわたくしの人のたゝすまゐよ
  きあしき事のめにもみゝにもとまるありさ
0105【あしき事】-人ニ恨ナトアルコト也
  まをうとき人にわさとうちまねはむやは
0106【うとき人】-ウチトケヌ女房也
  ちかえ(え$く)てみむ人のきゝわき思しるへからむ
  にかたりもあはせはやとうちもゑまれなみた
  もさしくみもしはあやなきおほやけはら(はら$)」12オ
0107【おほやけはらたゝしく】-上ニヘモ恨ノアルコト也
  はらたゝしく心ひとつに思あまることなむとおほ
  かるを・なにゝかはきかせむとおもへはうちそむかれ
  て人しれぬ思いてわらひもせられあはれともうち
0108【思いてわらひ】-語モセス人シレスヲカシキコトナトモアル様也
  ひとりこたるゝに・なにことそなとあはつかに
0109【あはつかに】-\<合点> アハ/\シキ也
  さしあふきね(ね=ゐ<朱>)たらむはいかゝはくちをしからぬ・
  たゝひたふるにこめきてやはらかならむ人
0110【こめきて】-\<合点> フシメカシキ心也コマヤカニヨキ也オサナクカタホナル心也(大島本0126)
  をとかくひきつくろひてはなとかみさらむ・
0111【ひきつくろひて】-引タテゝソフ也
  心もとなくともなをしところある心ちすへし・
  けにさしむかひてみむほとはさてもらうた」12ウ
0112【さしむかひて】-ヨキ中ニワロキ事アリ(大島本0127)
  きかたにつみゆるしみるへきをたちはなれ
0113【たちはなれ】-ヨソヨリ云ヲコスル用ナトモ不トゝノヘナル様也
  てさるへき事をもいひやりおりふしにし
  いてむわさのあた事にもまめことにも我心と
0114【我心とおもひうる事なく】-人ニヲシヘラレテ我ニ思ヨルフシナキ也(大島本0128)
  おもひうる事なくふかきいたりなからむは・
  いとくちをしくたのもしけなきとかやなを
  くるしからむ・つねはすこしそは/\しく心つき
0115【そは/\しく】-\<合点> タゝシカラヌ心也思フヤウナラヌ本也(大島本0129)
  なき人のおりふしにつけていてはえ(え=へ<朱>)するや
  うもありかしなとくまなき物いひもさためか
0116【くまなき物いひ】-馬頭事
  ねていたくうちなけく・いまはたゝしなにも」13オ
  よらしかたちをはさらにもいはし(し$す<朱>)・いとくちを(を=お<朱>)し
  くねちけかましきおほえたになくはたゝひとへ
0117【ねちけかましき】-\<合点> ヨカラヌ心也(大島本0133)
  に物まめやかにしつかなる心のおもむきならむ
  よるへをそつゐのたのみ所にはおもひをくへ
  かりける・あまりのゆへよし心はせうちそへたらむ
  をはよろこひに思ひ・すこしをくれたるかた
  あらむをもあなかちにもとめくはへし・うしろ
  やすく・のとけき所たにつよくは・うはへのな
  さけはをのつから・もてつけつへきわさをや・」13ウ
  え(え=ゑ<朱>)むに物はかり(かり$チ<朱>)してうらみいふへき事をもみし
0118【えむに】-\<合点> ウツクシクヤサシキ也ウツクシキヲモエナラヌト云也
  らぬさまにしのひて・うへはつれなくみさを
0119【うへはつれなく】-\<合点>
  つくり心ひとつに思ひあまる時は・いはむかたな
0120【心ひとつに】-恨也
  くすこき事のはあはれなるうたをよみ
  をきしのはるへきかたみをとゝめてふかき
  山さと(と+の<朱>)世はなれたるうみつらなとにはひか
  くれぬる(る=かし)おりわらはに侍し時女房なとのもの
  かたりよみしをきゝていとあはれにかなし
  く心ふかき事かなと・なみたをさへなむ」14オ
  おとし侍し・いま思ふには・いとかる/\しくことさら(ら=ラ<朱>)ひ
  たること也・心さしふかゝらむおとこをゝきてみる
  めのまへにつらき事ありとも・人のこゝろを
0121【めのまへにつらき事】-ソトシタル恨ナトヲ恨家出ナトスル女ノコト也
  みしらぬやうにゝけかくれて・人をまとはし心を
  みむとするほとになかきよの物思ひになる・いとあ
  ちきなき事也心ふかしやなとほめたてられて・
  あはれすゝみぬれはやかてあまになりぬかし
  思ひたつほとはいと心すめるやうにて・よにかへり
  みすへくもおもへらすいてあなかなし・かくは」14ウ
  たおほしなりにけるよなとやうにあひし
  れる人きとふらひひたすらにうしともおもひ
  はなれぬおとこきゝつけてなみたおとせは・つ
  かふ人ふるこたちなときみの御心はあはれなり
0122【こたち】-女房惣名(大島本0144)
  けるものを・あたら御身をなといふ・身つからひた
  ひかみをかきさくりて・あへなく心ほそけれは
  うちひそみぬかし・しのふれとなみたこほれ
0123【うちひそみぬ】-ナク様<朱>
  そめぬれは・おり/\ことに・えねむしえすくや
  しき事おほかめるに・ほとけも中/\心きた」15オ
  なしとみ給つへしにこりにしめるとよりも
0124【にこりにしめるほとよりも】-\<朱合点>
  なまうかひにてはかへりてあしき道にもた
  たよひぬへくそおほゆるたえぬすくせあ
  さからてあまにもなさてたつねとりた
  らむもやかてあひそひてとあらむおりもか
  からむきさみをもみすくしたらむ中
  こそちきりふかくあはれならめわれも人も
  うしろめたく心をかれしやは・又なのめにう
  つろふかた(た+あらむ人を・うらみてけしきはみそむかん・はたをこかまし<墨>かりなん心はうつろふ方<朱>)ありとも・みそめし心さしいとをし」15ウ
  くおもはゝ・さるかたのよすかに思ても・あり
  ぬへきに・さ(さ+ル<朱>)やうならむたちろきにたえぬへ
  きわさ也・すへてよろつの事なたらかに・ゑす
  へきことをは・みしれるさまにほのめかし・うらむ
  へからむふしをも・にくからすかすめなさは・そ
  れにつけてあはれもまさりぬへし・おほく
  は・わか心も・みる人からおさまりもすへし・あまり
0125【あまりむけに】-夕顔上此品(大島本0147)
  むけにうちゆるへ・みはなちたるも・心やすく
  らうたきやうなれと・をのつから・かろきかた」16オ
  にそおほえ侍かしつなかぬふねうきたる
0126【つなかぬふねのうきたるためしも】-\<朱合点>
  ためしもけにあやなしさは侍ぬかといへは・中
  将うなつく・さしあたりて・おかしともあはれとも
0127【さしあたりて】-中将ノ詞也
  心にいらむ人の・たのもしけなき・うたかひあらむ
0128【心にいらむ人】-第六段
  こそ大事なるへけれ・我心あやまちなくてみす
0129【我心あやまちなくて】-女ノ心也又男ノ心ニシテモ也
  くさはさしなおしてもなとかみさらむとおほ
  えたれと・それ・さしもあらし・ともかくもたかふ
0130【さしもあらし】-サウモアラシト也<朱>
0131【ともかくも】-コレヨリ惣テノヒハン也
0132【たかふへきふし】-男ノタカイ目也
  へきふしあらむを・のとやかにみしのはむより
  ほかに・ます事あるましかりけりといひて・わ」16ウ
  かいもうとの・ひめきみは・このさために・かなひ
  給へりとおもへは・きみのうちねふりて・ことはま
  せ給はぬをさう/\しく・心やましと思・むまのか
  み・ものさためのはかせになりて・ひゝらきゐ
  たり・中将はこの事はりきゝはてむと・心(心+に<朱>)いれて・あ
0133【あへしらひゐ給へり】-第八段
  へしらひゐ給へり・よろつの事によそへておほ
0134【よろつの事】-馬頭(大島本0151)
  せ・きのみちのたくみの・よろつの物を心にまかせ
  てつくりい(い+た)すも・りむしのもてあそひものゝその物と
  あともさたまらぬは・そはつきされはみたるも・」17オ
  けにかうもしつへかりけりと・時につけつゝさまを
  かへて・いまめかしきに・めうつも(も=り<朱>)ておかしきもあり
  大事としてまことにうるはしき人のてうとのかさ
  りとするさたまれるやうある物をなんなくしいつ
  る事なむなをまことの物ゝ(ゝ=の<朱>)上手はさまことに
  みえわかれ侍・又ゑ所に上手おほかれと・すみかき
  にえらはれて・つき/\にさらにおとりまさるけちめ
  ふとしもみえわかれすかゝれと人のみをよはぬ・ほう
  らいの山あらうみのいかれるいをのすかたからくに」17ウ
  のはけしきけた物ゝ(ゝ=の<朱>)かたちめにみえぬおにのかほ
  なとのおとろ/\しくつくりたる物は心にまかせて
  ひときはめをとろかしてしちにはにさらめとさ
  てありぬへし・よのつねの山のたゝすまひ水のなか
  れめにちかき人のいゑゐありさまけにとみえ
  なつかしく・やはらい(い$ひ<朱>)たる方なとをしつかにか
  きませて・すくよかならぬ山のけしき・こふかく
0135【すくよか】-スクミタル心
  よはなれてたゝみなしけちかきまかきの
  うちをはその心しらひをきてなとをなむ上」18オ
  すはいといきひほひことにわろ(ろ=ル<朱>)物はをよはぬ所おほ
  かめる・てをかきたるにもふかきことはなくて
  こゝかしこのてむなかにはしりかきそこはかとな
  くけしきはめるはうちみるにかと/\しくけし
  きたちたれとなをまことのすちをこまやかに
  かきえたるはうはへのふてきえてみゆれと・いま
  ひとたひとりならへてみれはなをしちになむ
  よりける・はかなき事たにかくこそ侍れまして
  人の心の・ときにあたりてけしきはめらむみる」18ウ
  めのなさけをはえ(え=エ)たのむましくおもふ給へえて
  侍・そのはしめの事すき/\しくとも申侍らむ
  とてちかくゐよれは・きみもめさまし給・中将
  いみしくしんして・つらつゑをつきて・むかひゐ
  給へり・のりのしの世の事はり・ときゝかせむ所
  の心ちするも・かつはおかしけれとかゝるついては・を
  の/\むつこともえしのひとゝめすなむ・ありけ
  る・はやうまたい(い=イ<朱>)と下らうに侍し時・あはれとおも
0136【はやうまたいと下らうに】-馬頭サキニト云詞也(大島本0158)
  ふ人侍き・ゝ(ゝこ=聞<朱>)えさせつるやうにかたちなといと」19オ
0137【きこえさせつるやうに】-マヘ品定ニ申ツル也
  まおにも侍(侍+ら)さりしかは・わかきほとのすき心には
  このひと(ひと=人)を・とまりにともおもひとゝめ侍(侍+ラ)すよ
  るへとは思なからさう/\しくて・とかくまきれは(は+ン)
  へりしを・物ゑんしをいたくし侍しかは・心つきな
  く・いとかゝらて・おいらかならましかはとおもひつゝ・
  あまりいとゆるしなくうたかひ侍しもうるさくて・
  かくかすならぬ身をみもはなたてなとかくしも
  おもふらむと心くるしきおり/\も侍(侍+て)しねんに心お
  さめらるゝやうになむ侍し・この女の・あるやう」19ウ
  もとよりおもひいたらさりける事にも・いかてこ
  の人のために(に+は)い(い$)となきてをいたしをくれたる
  すちの心をもなをくちをしくはみえしと思ひ
  はけみつゝとにかくにつけて物まめやかにうしろみ
  ・つゆにても心にたかふ事はなくもかなと思へり
  しほとに・すゝめるかたとおもひしかとゝか(ゝか=とか)くに
  なひき(き+き<朱>)てなよひ(ひ=ヒ)ゆきみにくきかたちをも・
  この人にみやうとまれむと・わりなくおもひつく
  ろひうとき人にみえはおもてふせにや思は(思は=見え<朱>)むと」20オ
0138【おもてふせ】-面目モアルマシキ也(大島本0161)
  はゝかりはちて・みさをにもてつけて・みなるゝ
  まゝに・心もけしうはあらす侍しかと・たゝこのに
  くきかたひとつなむ心おさめす侍し・そのかみ
  思ひ侍(侍+ツ<朱>)しやう・かうあなかちにしたかひをちた
  る人なめれ(れ$)り・いかてこるはかりのわさしてをとし
  てこのかたもすこしよろしくもなり・さかなさも
0139【このかた】-物ノ方(大島本0162)
  やめむと思て・まことにうしなとも思ひてたえぬへ
  きけしきならは・かはかり・われにしたかふ心な
  らは思ひこりなむと思ふ(ふ=ひ<朱>)給へ(へ=ヒ)えて・ことさらにな」20ウ
  さけなく・つれなきさまをみせて・れいのはらた
  ちゑんするに(に=を<朱>)かくおそましくは・いみしきちき
0140【おそましく】-ヲソ/\シキ也(大島本0163)
  りふかくともたえて・又みしかきりとおもはゝかく
  わりなきものうたかひはせよ・ゆくさきなかく
  みえむとおもはゝつらき事ありともねむして
  なのめに思ひなりて・かゝる心たにうせなは・いと
  あはれとなむ思ふへき・ひとなみ/\にもなり・す
  こしおとなひむにそへて・又ならふ人なくあるへ
  きやうなと・かしこくをしへたつるかなと・思給へて」21オ
  われたけくいひ(ひ=ひ<朱>)そ(そ+つ<朱>)し侍に・すこしうちわらひて・よ
  ろつにみたてなく・物けなきほとをみすくして
  人かすなる世もやと・まつかたはいとのとかに・思ひな
  されて心やましくもあらす・つらき心をしのひ
  て・思ひなおらむおりを・みつけむと・ゝし月を
  かさねむ・あいなたのみはいとくるしくなむある
  へけれは・かたみにそむきぬへき・ゝさみになむある
0141【かたみに】-タカヒニ也(大島本0164)
  とねたけにいふ(ふ+時<朱>)に・はらたゝしくなりて・にくけな
0142【はらたゝしく】-男(大島本0165)
  る事ともを・いひはけまし侍に・女もえおさめぬ」21ウ
  すちにておよひひとつを・ひきよせてくひては(は+ン)へ
  りしを・おとろ/\しくかこちて・かゝるきすさへ
  つきぬれはいよ/\ましらひをすへきにもあ
  らす・はつかしめ給める・つかさくらゐいとゝしく
  なにゝつけてかは人めかむよをそむきぬへき
  身なめりなといひをとして・さらはけふこそは
  かきりなめれと・このおよひをかゝめてまかてぬ
    てをゝりてあひみしことをかそふれはこれ
    ひとつやはきみかうきふし」22オ
  えうらみしなと・いか(か=ひ<朱>)侍れはさすかにうちなきて
    うきふしを心ひとつにかそへきてこやき
0143【うきふしを】-女返し(大島本0168)
    みかてをわかるへきおり
  なといひしろひ侍しかと・まことには・かはるへき
  ことゝも思給へすなから・日ころふるまて・せうそこ
0143【せうそこ】-書ナラテ物イフヲモ消息ト云(大島本0169)
  もつかはさす・あくかれまかりありくに・り(り+む)しの
0144【りむしのまつり】-十一月午日
  まつりのてうかくに・夜ふけていみしうみそ
  れふるよこれかれまかりあかるゝ所にて・思め
  くらせはなをいゑちと思はむかたは・又なかり」22ウ
0145【又】-まだトモ<朱>(大島本0170)
  けり・うちわたりのたひね(ね+も<朱>)・すさましかるへく・け
  しきはめるあたりは・そゝろさむくやと思給へ
  られしかは・いかゝおもへると・けしきもみかてら
  ゆきをうちはらひつゝ(ゝ+まかてゝ<朱>)なま人わろくつめく
  はるれとさりともこよひ日ころのうらみはとけ
  なむとおもふ給へしに火ほのかにかへにそむけ
  なえたるきぬとものあつこえたるおほいなる
0146【あつこえたる】-ワタノ入タル也(大島本0173)
  こに・うちかけて・ひきあくへき物ゝ(ゝ=の)かたひら
  なとうちあけてこよひはかりやと・まちける」23オ
  さま也・されはよと心おこりするにさうしみはな
  し・さるへき女方ともはかりとまりて・おやのいゑに
  このよさりなむ・わたりぬるとこたへはへり・えむ
  なるうたもよますけしきはめるせうそこも
  せていとひたやこもりになさけなかりしかは
0147【ひたやこもり】-ヤカテコモリワタル也(大島本0175)
  あえなき心ちしてさかなくゆるしなかりしも
  我をうとみねと思ふかたの心やありけむとさ
  しもみ給へさりし事なれと心やましきまゝ
  に思ひ侍しにきるへき物つねよりも心とゝめ」23ウ
  たるいろあひしさま・いとあらまほしくて・さすか
  にわかみすてゝむ・のちをさへなむ・おもひやり
  ・うしろみたりし・さりともたえて・思ひはなつ
0148【さりともたえて】-女房ノ心ニ馬頭思タエマシト思カト思也
  やうはあらしと思ふたまへて・とかくいひ侍
0149【かくいひ侍】-男ヨリ云コト
  しを・そむきもせすと(と$<朱>)たつねまとはさむと
  も・かくれしのひす・かゝやかしからす・いらへつゝ
  たゝありし(し+心<朱>)なからはえなむみすくすましき
0150【たゝありしなから】-女房ノカタカラ<朱>
  あらためてのとかに思ひならはなむ・あひみる
  へきなと・いひしを・さりともえ思ひはなれしと」24オ
0151【さりとも】-男也<朱>
  思給へしかは・しはしこらさむの心にて・しかあらた
  めむともいはす・いたくつなひきてせしあひ
  たに・いといたく思ひなけきてはかなくなり侍
  にしかは・たはふれにくゝなむおほえはへりし・
  ひとへに・うちたのみたらむかたは・さはかりに
  てありぬへくなむ思給へいてらるゝ・はかなき
  あた事をも・まことの大事をもいひあはせた
  るに・かいなからすたつたひめといはむにもつ
  きなからす・たなはたのてにもおとるましく」24ウ
  そのかたもく(く=具<朱>)してうるさくなむ侍しとて・い
  とあはれと思いてたり・中将そのたなはたのたち
  ぬふかたをのとめて・なかきちきりにそあえまし・
0152【なかきちきりに】-第十四段
  けにそのたつたひめの・にしきにはまた(また=又<朱>)しく
  物あらし・はかなきはな・もみちといふも・おりふしの
  いろあひ・つきなくはか/\しからぬは・つゆのはえ
  なくきえぬるわさ也・さあるにより・かたき世と
0153【かたき世とはさためかね】-カタキ世ト云コトハ上品ヲ定カヌル也<朱>
  は・さためかねたるそやと・いひはやし給・さて又
0154【さて又】-第十五段(大島本0181)
  おなしころ・まかりかよひし所は・人もたちまさり」25オ
0155【おなしころ】-馬頭
  心はせまことに・ゆへありとみえぬへく・うちよみは
0156【うちよみ】-哥事(大島本0184)
  しりかきかいひくつまをと・てつきくちつき
  みな・たと/\しからすみきゝわたり侍き・み
  るめも・こともなく侍しかは・このさかな物を・
0157【こともなく】-難ナキ<朱>
0158【このさかな物】-サキノ女也(大島本0185)
  うちとけたるかたにて・とき/\かくろへ(へ+見)侍し
  ほとは・こよなく心とまり侍き・この人うせて
  のちいかゝはせむあはれなからも・すきぬるは・かひ
  なくて・しは/\まかりなるゝ(ゝ+まゝ)には・すこしまはゆく
  えむに・このましきことは・めにつかぬ所あるに」25ウ
  うちたのむへくは・みえす・かれ/\にのみゝせはへる
  ほとに・しのひて心かはせる人そありけらし・神
  な月のころほひ・月おもしろかりし夜・うちより
  まかて侍に・あるうへ人きあひて・このくるまに
  あひのりて侍れは・大納言のいゑにまかりとま
  らむとするに・この人いふやう・こよひ人まつらむ
  やとなむ・あやしく心くるしき(き+とて)この女(女+の<朱>)家はた
  よきぬ道なりけれはあれたるくつれより
  いけの水・かけみえて・つきたにやとるすみかを」26オ
0159【つきたにやとる】-\<合点>
  すきむもさすかにており侍ぬかし・もとよりさる心
0160【おり侍ぬ】-馬頭車ヨリ(大島本0187)
  をかはせるにやありけむ・このおとこいたくすゝろ
  きて・かと・ちかきらうの・すのこたつ物に・しりか
  けて・とはかり月(月+を)みる・きくいとをもしろくうつろ
  ひわたり(り+て<朱>)・風にきほへる・もみちのみたれなと・あ
  はれとけにみえたり・ふところなりけるふえと
  りいてゝふきならし・景もよしと・つゝしりう
0161【景】-\<合点> カゲ
  たふほとに・よくなるわこむを・しらへとゝのへたり
  ける・うるはしくかきあはせたりしほとけしうは」26ウ
  あらすかしりちのしらへは・女の物やはらかにかき
  ならして・すのうちよりきこえたるも・いまめき
  たる物のこゑなれは・きよくすめる月にお
  りつきなからす・おとこいたくめてゝ・すのもと
  にあゆみきて・にはのもみちこそふみわけたる
  あともなけれなと・ねたます・きくをゝりて
    ことのねも月(月=菊)もえならぬやとなからつれ
0162【ことのねも】-カヨフ男(大島本0194)
    なき人をひきやとめける
  わろかめりなといひて・いまひとこゑ・きゝはやす」27オ
  へき人のある時(時+に<朱>)・手なのこい給そなと・いたくあされ
  かゝれは女(女+声<朱>)いたうこゑつくろひて
    こからしにふきあはすめるふえのねを
0163【こからしに】-女返シ(大島本0198)
    ひきとゝむへきことのはそなき
  となまめきかはすに・ゝくゝなるをもしらて・
  又さうのことを・はんしきてうにしらへて・いまめ
0164【又さうのことを】-女(大島本0199)
  かしく・かいひきたるつまをと・かとなきにはあ
  らねと・まはゆき心ちなむし侍し・たゝとき/\う
  ちかたらふ宮つかへ人なとの・あくまてされはみ」27ウ
  すきたるは・さてもみるかきりは・おかしくもあ
  りぬへし・時/\にても・さるところにて・わすれぬよす
  かと思給へむには・たのもしけなく・さしすくいたりと
  心をかれて・そのよの事にことつけてこそまかりたえ
  にしかこのふたつのことをゝもふ給へあはするにわか
  きときの心にたに猶さやうにもていてたることは(は+いと)あ
  やしくたのもしけなくおほえ侍き・いまよりの
  ちはましてさのみなむ思給へらるへき・御心のまゝ
0165【御】-ミ
  におらはおちぬへきはきのつゆひろはゝきえ」28オ
  なむとみ(み+ゆ<朱>)る・たまさゝのうへあは(は=ら<朱>)れなとの・えむ
0166【たまさゝのうへ】-\<合点>
  にあえかなる・すき/\しさのみこそおかしくお
  ほさるらめ・いまさりともなゝとせあまりかほとに
  ・おほしゝりは(は+ン)へなむ・なにかしかいやしきいさ
  めにて・すきたはめらむ(む=るイ<左>)女に心をかせ給へあや
0167【すき】-数寄(大島本0204)
  あや(あや#)まちして・みむ人の・かたくなゝる名をも
  たてつへき物也といましむ・中将れいのうなつく・き
0168【中将れいの】-第十二段<左>(大島本0205)
0169【きみ】-源氏(大島本0206)
  みすこしかたゑみて・さる事(事=こと)とはおほすへか
  めり・いつかたにつけても・人わろく・はしたなかりける・」28ウ
  み物かたりかなとて・うちわらひおはさうす・中将
0170【おはさうす】-オハシマス也(大島本0207)
  なにかしは・しれ(れ+ものゝ)・物かたりをせむとていとしのひて
  みそめたりし人の・さてもみつへかりしけはひ
  なりしかはなからふへき物としも思給へさりし
  かとなれゆくまゝに・あはれとおほえしかは・た
  え/\わすれぬものに思給へしを・さはかりになれ
  はうちたのめるけしきもみえきたのむにつ
  けてはうらめしと思事もあらむと・心なから
  おほゆるおり/\も侍しをみしらぬやうにて」29オ
  ひさしきとたえをもかうたまさかなる人とも
  思たらす・たゝあさゆふにもてつけたらむあり
  さまにみえて・心くるしかりしかは・たのめわたる
  ことなともありきかし・おやもなくいと心ほそ
0171【おやもなく】-女ノ有様(大島本0210)
  けにて・さらは・この人こそはと事にふれて・おも
  へるさま(さま=けしき)も・らうたけなりきかうのとけきに
  おたしくてひさしくまからさりしころ・このみ給
  ふるわたりよりなさけなくうたてある事を
  なむ・さるたよりありてかすめいはせたりける・」29ウ
  のちにこそきゝ侍しか・さるうき事やあらむと
  もしらす・心にはわすれすなから・せうそこなとも
  せて・ひさしく侍しに・むけに思ひしほれて心
  ほそかりけれはおさなき物なともありしに・
0172【おさなき物なとも】-玉カツラノ内侍ノカミト後ニミエケリ(大島本0211)
  思わつらひて・なてしこのはなをゝりてをこせた
  りしとて・なみたくみたり・さてそのふみのこと
0173【なみたくみたり】-中将(大島本0212)
  はゝとゝひ給へは・いさやことなる事もなかりきや
0174【いさや】-中将(大島本0213)
    山かつのかきほあるともおり/\にあはれ
0175【山かつの】-女(大島本0214)
    はかけよなてしこのつゆ」30オ
  おもひいてしまゝにまかりたりしかは・れいのうらも
  なき物からいと物思かほにてあれたるいゑのつゆ
  しけきをなかめて・むしのねにきほへるけ
  しきむかしものかたりめきておほえ侍し
    さきましるいろ(いろ=花イ)はいつれとわかねとも
0176【さきましる】-中将返シ(大島本0217)
    なをとこ夏に(夏に$)なつにしく物そなき
  山となてしこをはさしをきて・まつちりを
0177【ちりをたに】-\<合点> ちりをたにすへしとそおもふ/咲しより/いもとわかぬるとこ夏の花(付箋01)
  たに
とおやの心をとる
    うちはらふそても露けきとこなつに」30ウ
0178【うちはらふ】-又女房(大島本0220)
    あらしふきそふ秋もきにけりとはか
  なけにいひなして・まめ/\しくうらみたるさま
  もみえす・なみたをもらしおとしても・いとはつか
  しく・つゝましけにまきらはしかくして・つら
  きをも思しりけりとみえむは・わりなくゝる
  しきものと思たりしかは・心やすくてまたと
  たえをき侍しほとに・あともなくこそかき
  けちてうせにしか・又よにあらははかなきよにそ
0179【又】-マダ
  さすらふらむ・あはれと思しほとに・わつらはしけに」31オ
  思まとはすけしきみえましかはかくもあくからさゝ(ゝ$<朱>)
  らまし・こよなきとたえをかす・さる物にし
  なして・なかくみるやうも侍なまし・かのなて
  しこの・らうたく侍しかは・いかてたつねむ
  と思(思+ヒ<朱>)給ふるを・いまもえこそきゝつけはへら
  ね・これこその給へ(ヘ=フ<朱>)るはかなきためしなめれ・
  つれなくて・つらしと思けるもしらて・あはれたえ
  さりしも・やくなきかた思なりけり・いまやう/\
  わすれゆくきはに・かれはた・えしも思はな」31ウ
  れす・おり/\・人やりならぬ・むねこかるゝ・ゆふへ
  もあらむとおほえ侍・これなむ・えたもつま
  しく・たのもしけなきかたなりける・されは
0180【されはかの】-第十四段(大島本0224)
  ・かのさかな物も・思いてあるかたに・わすれかたけ
  れと・さしあたりてみむにはわつらはしく・よ(よ$<朱>)
  よくせすは・あきたきこともありなむや・
  ことのねすゝめけむ・かと/\しさも・すきた
  るつみをもかるへし・このころ(ころ=心)もとなきも・う
  たかひそふへけれは・いつれと・つゐに思さた」32オ
  めすなりぬるこそ・世中や・たゝかくこそ・とり/\
  にくらへくるしかるへき・このさま/\の・よきか
  きりをとり具し・なんす(す+つ、つ$<朱>)へき・くさはひ(はひ=ワイ<朱>)・ませ
  ぬ人は・いつこにかはあらむ・きち上天女をゝも
  ひかけむとすれはほうけつき・くすしからむ
0181【くすしからむ】-クスムコト
  こそ・又わひしかりぬへけれとて・みなわらひぬ・
  しきふか所(所=トコロ)にそ・けしきあることはあらむ・す
0182【しきふか所にそ】-第十五段<左>(大島本0228)
  こしつゝ・かたり申せとせめらる・しもかしもの(の$<朱>)
  中(中$<朱>)には・なてふことか・きこしめし所侍らむといへ」32ウ
  と・頭のきみ・まめやかに・をそしとせめ給へは
  ・なに事を(を+か<朱>)・とり申さむと思めくらすに・また
0183【なに事をとり】-式部 第十六段(大島本0229)
  文上の生に侍し時・かしこき女のためしを
  なむ見給へし・かのむまのかみの申給へるや
  うに・おほやけことをもいひあはせ・わたくし
  さまの・世にすまふへき心をきてをゝもひ
  めくらさむかたも・いたりふかく・さえのきは
  ・なま/\のはかせ・はつかしくすへてくちあかす
  へくなむ・侍らさりし・それは・あるはかせの」33オ
  もとに・かくもんなとし侍とて・まかりかよひし
  ほとに・あるしのむすめとも・おほかりときゝ給へ(へ=フ<朱>)て・
  はかなきついてに・いひよりて侍しを・おやきゝ
  つけて・さか月もていてゝ・わかふたつ道・うた
0184【わかふたつの道うたふをきけ】-\<合点>
  ふをきけ
なむ・きこえこち侍しかと・おさ/\
  ・うちとけてもまからす・かのおやのこゝろをはゝ
  かりて・さすかにかゝつらひ侍しほとに・いとあはれ
  に思うしろみ・ねさめのかたらひにも・身のさえ
  つき・おほやけにつかうまつるへき・みち/\しき」33ウ
  ことをゝしへて・いときよけに・せうそこふみに
  も・かんなといふ物かきませす・むへ/\しくいひま
  はし侍に・をのつから・えまかりたえて・その物を
  しとしてなむ・わつかなるこしをれふみ・つく
0185【しとして】-師
  る事なと・ならひ侍しかは・いまにそのおんは
  ・わすれ侍らねと・なつかしきさいしと・うちたの
  まむには・むさいのひと・なまわろならむふ
  るまいなとみえむに・はつかしくなむみえ侍
  し・まいて・きむたちの御ためはか/\しく・し」34オ
  たし(し$た<朱>)かなる御うしろみは・なにゝかせさせ給
  はむ・はかなしくちをしと・かつみつゝも・たゝわ
  か心につき・すくせのひくかた侍(侍+へ<朱>)めれ・は(は$朱>)をのこし
  もなむしさいなき物はゝ(ゝ+ン)へめると申せは・の
  こりをいはせむとて・さて/\おかしかりける女かな
  と・すかい給を心はえなから・はなのわたり・をこつ
  きて・かたりなす・さていとひさしくまからさり
  しに・ものゝたよりにたちよりてはへれは・つね
  のうちとけゐたるかたにははへらて・こゝろやま」34ウ
  しきものこしにてなむ・あいて侍(侍+り<朱>)・ふすふる
  にやと・おこかましくも・又よきふしなりとも
  思給ふるに・このさかし人・はたかろ/\しきものゑ
  んしすへきにもあらす・よのたうりを思とりて・う
  らみさりけり・こゑも・はやりかにていふやう・月ころ・
  ふひやうをもきにたへかねて・こくねち(ち=ツ<朱>)の・さ
  うやくをふくして・いとくさきによりなむ・えたい
  めん給はらぬ・まのあたりならすとも・さるへからむ
  さうしらは・うけたまはらむと・いとあはれに・むへ/\」35オ
  しくいひ侍(侍+リ<朱>)・いらへに・なにとかは・たゝうけたま
  はりぬとて・たちいて侍に・さう/\しくやおほえけ
  む・このか・うせなむ時に・たちより給へと・たかやかに
  いふを・きゝすくさむもいとをし・しはしやすらふ
  へきにはた侍らねは・けにそのにほひさへ・はな
  やかにたちそへるも・すへなくて・にけめをつかひて
    さゝかにのふるまひしるきゆふくれに
0186【さゝかにの】-式部(大島本0234)
    ひるますくせといふかあやなさいかなる
  ことつけそやと・いひもはてす・はしりいて侍」35ウ
  ぬるにをひて
0187【をひて】-追<朱>
    あふことのよをしへたてぬ中ならは
0188【あふことの】-女返シ(大島本0235)
    ひるまもなにかまはゆからまし
  さすかにくちとくなとは・ゝつ(つ=へ<朱>)りきと・しつ/\に(に=と<朱>)
  申せは・きみたちあさましと思て・そら事とてわ
0189【きみたちあさましと思て】-第十七段<左>(大島本0236)
  らひ給いつこのさる女かあるへきおいらかに・をにとこそ
  むかひゐたらめむくつけきこととつまはしきを
0190【むくつけき】-オソロシキ心也(大島本0237)
  して・いはむかたなしと式部を・あはめ・にくみて・
  すこしよろしからむ事を申せとせめ給へと・これ」36オ
  よりめつらしき事はさふらひなむやとてをり・すへて
0191【すへておとこもをむなも】-馬頭<朱>
  おとこもをむなも・わろ物は(は+ワ<朱>)わつかに・しれるかたの
  事を・のこりなくみせつくさむと思へるこそ・いと
  おしけれ三史五経経+の<朱>)みち/\しきかたを・あきら
0192【三史五経】-\<合点>
0193【史】-シ
  かにさとりあかさむこそ・あい行・な(な+か)らめ・なとかは
0194【行】-ギヤウ<朱>
  女といはむからに・よにある事の・おほやけわたくし
  につけて・むけに・しらすいたらすもあらむ・わ
  さとならひまねはねと(と+も<朱>)すこしも・かとあらむ人の
  みゝにもめにもとまること・しねんにおほかるへし」36ウ
  さるまゝには・まんなを・はしりかきて・さるましき
  とちの・女ふみに・なかはすきてかきすゝめたる
0195【とち】-中<朱>
  あなうたて・この人(人$かた)のたをやかならましかはとみ
  えたり・心ちには・さしも思はさらめと・をのつから
  こは/\しきこゑによみなされなとしつゝ・ことさ
  らひたり・(り+これは<朱>)上らうの中にも・おほかる事そかし・う
  たよむとおもへる人の・やかてうたにまつはれ・
  おかしきふることをも・はしめより・とりこみつゝ・す
  さましきおり/\・よみかけたるこそものしき」37オ
  事なれ・返し(し=事<朱>、事=コト<墨>)せねは・なさけなし・え・せさらむ人は
  ・はしたなからむ・さるへき・せちゑなと・五月のせち
  に・いそきまいるあした・なにのあやめも思しつめられ
  ぬに・えならぬねを・ひきかけ・九日のえんに・まつ
0196【えならぬ】-エナラヌ夕立旦アリ(大島本0249)
0197【ねをひきかけ】-菖蒲ノ哥ヲヨミカヘル也(大島本0250)
0198【九日】-コゝヌカ
  かたきしのこゝろを思めくらし・て(て$<朱>)いとまなき
  おりにきくのつゆを・かこちよせな(な+ン)とやうの・月な
  き・いとなみにあはせ・さならても・をのつから・けに
  のちに思へは・おかしくもあはれにもあへかりける事
  の・そのおりに・つきなく・めにとまらぬなとを・」37ウ
  をしはからすよみいてたる・中/\心をくれてみゆ
  よろつの事に・なとかはさてもとおほゆる・おり
  から・とき/\思わかぬはかりの心にては・よしはみ
  なさけたゝさらむなむ・めやすかるへき・すへて
  心に・しれらむことをも・しらすかほにもてなし・い
  はまほしからむ事をも・ひとつふたつの・ふし
  は・すくすへくなむあへかりけるといふにも・きみ
  は・ひとひとりの御ありさまを・心のうちに思つゝ
  け給(給+フ<朱>)・これはたらす・又さしすきたることなく・も」38オ
0199【これは】-藤壺ノコト
0200【たらす】-不足(大島本0254)
  のし給けるかなとありかたきにも・いとゝむねふた
  かる・いつかたに・より・はつともなく・はて/\は・あやし
  き事ともになりてあかし給つからうして・けふ
0201【からうして】-ヤウ/\シテ(大島本0255)
  は日のけしきもなをれりかくのみ・こもりさふ
  らひ・給も・大殿の御心・いとをしけれはまかて給へり・
  おほかたのけしき・人のけはひも・けさやかに・けた
0202【おほかたのけしき】-アフヒノ上(大島本0256)
  かく・みたれたる所ましらす・なをこれこそは・
  かの人/\の・すてかたくとりいてし・まめひとには・た
  のまれぬへけれとおほす物から・あまりうるはしき」38ウ
  御ありさまのとけかたくはつかしけに・思しつま
  り給へるを・さう/\しくて・中納言のきみ・中つか
  さなとやうのをしなへたらぬわか人ともに・
0203【人】-ウト<朱>
  たはふれ事なとのたまひつゝ・あつま(ま#さ)にみた
  れ給へる御ありさまを・みるかひありと思き
  こえたり・おとゝもわたり給て・うちとけ給へれは・
  御き丁へたてゝおはしまして・御物かたりきこえ
0204【御き丁】-ミ
  給を・あつきにと・にかみ給へは・人/\わらふあなかまと
0205【あなかまと】-アナカシカマシ也(大島本0260)
  て・けうそくによりをはす・いとやすらかなる御」39オ
  ふるまひなりや・くらくなるほとに・こよひなか
0206【なかかみ】-\<合点> 天一方事(大島本0261)
  かみ・うちよりはふたかりて侍けりときこゆ・さかし
  ・れいはいみ給かたなりけり・二条院にもおな
  しすちにて・いつくにか・たかへむ・いとなやましき
  にとて・おほとのこもれり・いとあしき事也と・これ
  かれきこゆ・きのかみにてしたしくつかふまつ
  る人の・なかゝはのわたりなり(り=ル<朱>)いゑなむ・このころ
  水せきいれて・すゝしきかけに侍ときこゆ・いと
  よかなり・なやましきにうしなからひきいれ」39ウ
  つへき(き$)からむ所をとの給(給+フ<朱>)・しのひ/\の御かたゝかへ
  所は・あまたありぬへけれと・ひさしくほとへて
  わたり給へるに・かたふたけて・ひきたかへ・ほかさ
  まへとおほさむは・いとをしきなるへし・きの
  かみにおほせ事給へは・うけ給(給=たま)はりなから・しり(り$<朱>)
  そきて・いよのかみのあそむ(む=ン)のいゑに・つゝしむ事
  侍て・女はうなむまかりうつれるころにて・せはき
  所に侍れは・なめけなる事や侍らむと・し
  たになけくをきゝ給(給+フ<朱>)て・その人・ちか(か#)ゝら(ら$)むなむ(む$ル)」40オ
  うれしかるへき・女とをきたひねは・物おそろ
  しき心ちすへきを・たゝそのき丁の・うしろに
  とのたまへは・けによろしきをまし所にもとて
  人はしらせやる・いとしのひて・ことさらにこと/\し
  からぬ所をといそきいて給へは・おとゝにもきこ
  え給はす・御ともにもむつましきかきりして
  ・おはしましぬ(ぬ+カミ<朱>)・にはかにとわふれと人もきゝいれ
  す・心殿のひむかしをもて・はらひあけさせて・かり
0207【心】-シン
  そめの御しつらひしたり・水の心はえなと・さ」40ウ
  る(る=ル<朱>)かたにおかしくしなしたり・ゐ中いゑたつ
  しはかきして・せんさいなと心とめてうへたり・
  風すゝしくて・そこはかとなき・むしのこゑ/\き
  こえ・ほたるしけくとひまかひて・おかしきほと也・
  人/\わた殿より・いてたるいつみにのそきゐて・さ
  けのむ・あるしもさかなもとむこゆるきのいそ
0208【さかなもとむ】-\<合点>
  きありくほと・きみはのとやかになかめ給て・
  かの中のしなに・とり(り+い)てゝいひし・このなみならむ
  かしとおほしいつ・思ひあかれるけしきに・きゝをき」41オ
  給へるむすめなれは・ゆかしくて・みゝとゝめたま
  へるにこのにしをもてにそ・人のけはひする・きぬ
  のをとなひ・はら/\として・わかきこゑともにく
  からすさすかにしのひて(て+物いひえ<朱>)わらひなとするを(を$けはひ)・こと
  さらひたり・かうしをあけたりけれと・かみ・心な
  しとむつかりて・おろしつれは・火ともしたるす
  きかけ・さうしの・かみよりもりたるに・やをら
  より給てみゆやとおほせと・ひまも(も=し<朱>)なけれは・し
  はしきゝ給に・このちかきもやにつとひゐたる」41ウ
  なるへし・うちさゝめきいふ事ともをきゝ給へ
  は・わか御うへなるへし・いといたうまめたちて・またき
  にやむことなきよすかさたまり給へるこそ・さう/\
0209【よすか】-\<合点> 人ノメヲ云(大島本0268)
  しかむめれ・されと・さるへきくまにはよくこそかく
  れありき給なれなといふにも・おほすことのみ・
0210【おほすことのみ】-\<合点> 藤ツホノ事(大島本0269)
  心にかゝり給へ(へ+レ<朱>)は・まつむねつふれて・かやうのついて
  にも・人の・いひもらさむをきゝつけたらむ時な
  とおほえ給・ことなる事なけれは・きゝさした
  まひつ・しきふ卿の宮のひめきみに・あさかほ」42オ
0211【ひめきみ】-\<合点> 槿斎院ナリ源氏ニ心ツヨクテヤミニシ人也(大島本0270)
  たてまつりたまひし・うたなとを・すこしほゝゆ
  かめて・かたるもきこゆ・くつろきかましく・
0212【くつろきかましく】-\<合点> カル/\シクシトケナキ心也(大島本0271)
  うたすしかちにもあるかな(な+と<朱>)なをみをとりは・し
  なむかしとおほす・かみ・いてきて・とうろかけそへ・
0213【かみ】-\<合点> 紀伊守(大島本0272)
  火あかくかゝけなとして・御くた物はかりまいれり
  とはり長もいかにそは・さるかたの・心もなとくては・
0214【とはり長も】-\<合点>
  めさましきあるしならむとの給へは・なによ
  けむとも・えうけたまはらすと・かしこまりて
  さふらふ・はしつかたのおましに・かりなるやうにて・」42ウ
  おほとのこもれは・人/\も(も$<朱>)しつまりぬ・あるしの
0215【あるし】-\<合点> 紀伊守(大島本0276)
  ことも・おかしけにてあり・わらはなる・殿上のほと
0216【ことも】-子
  に御らむしなれたるもあり・いよのすけのこも
  あり・あまたある中に・いとけはひあてはかにて・
0217【いとけはひあてはかにて】-小君故衛門督ノ子空蝉ノオトゝ(小君故衛門督ノ子空蝉ノオトゝ$)
  十二三はかりなるもあり・いつれか・いつれなとゝひた
0218【十二三はかりなる】-小君故衛門督ノ子空蝉ノオトゝ(大島本0277)
  まふに・これは・こゑもんのかみのすゑのこにて・
  いとかなしくし侍けるを・ゝさなきほとに・をく
  れ侍て・あねなる人のよすかにかくて侍なり・さ
0219【よすか】-タヨリ也(大島本0279)
  えな(な+ン)とも・つきはへりぬへく・けしうはゝへらぬを・天/上な(な+ン)とも」43オ
  思給へかけなから・すか/\しうはえ・ましらひ
  侍らさ(さ+ン<朱>)めると申す(す+ニ<朱>)・あはれの事や・このあねき
0220【あはれの事や】-\<合点> 源氏(大島本0280)
  みや・まうとの・ゝちのおや・さなむ侍と申すに・
  にけなきおやをもまうけたりけるかな・
  うへにもきこしめしをきて・宮つかへに・いたした
0221【宮つかへに】-\<合点> 此女ヲ(大島本0281)
  てむともらしそうせし・いかになりにけむといつ
0222【いつそや】-\<合点> 御門(大島本0282)
  そやもの給はせし・よこそさためなきものなれ
  と・いとをよすけのたまふ・ふいにかくて物し侍也
0223【をよすけのたまふ】-\<合点> 思ノ外也(大島本0283)
  世中といふ物・さのみこそ・いまもむかしも・さた」43ウ
  まりたる事侍ね(ね$ラヌ<朱>)・中について(ついて$<朱>)も女のすくせは・うか
  ひ(ひ=ミ)たるなむ・あはれに侍なと・きこえさす・いよ
  のすけはかしつくや・きみと思ふらむな・いかゝ
  は・わたくしのしうとこそは(は$<朱>)思て侍(侍+ヘ<朱>)めるを・すき/\
  しきことゝ・なにかしより・はしめてうけひきは
  へらす・なむと申す・さりともまうとたちの・つ
0224【さりとも】-\<合点> 源氏(大島本0287)
  き/\しく・いまめきたる(る$ら)むに・おろしたてむ
  やは・かのすけは・いとよしありて・けしきは
  めるをやなと・ものかたりし給て(て=つゝ<朱>)・いつかたにそみな」44オ
  しもやにおろし侍ぬるを・えや・まかりおりあ
  へさらむときこゆ・ゑひすゝみて・みな人/\すのこに
  ふしつゝ・しつまりぬ・きみは・とけてもねられ
  給はす・いたつらふしとおほさるゝに・御めさめて・
  このきたのさうしのあなたに・人のけはひす
  るを・こなたや・かくいふ人の・かくれたるかたな
  らむ・あはれやと御心とゝめて・やをらおきて・た
  ちきゝ給へは・ありつるこのこゑにて・ものけ給
0225【ものけ給はる】-\<合点> ウケ給ルゝ也(大島本0291)
  はる・いつくにおはしますそと・かれたるこゑの・おか」44ウ
0226【いつくに】-\<合点> 老女房(大島本0292)
  しきにていへは・こゝにそふしたる・まらうとは・
0227【こゝにそ】-コ君詞<朱>
0228【まらうとは】-女詞<朱> 源氏ノコトヲトフ也<朱>
  ねたまひぬるか・いかにちかゝらむと思ひ(ひ$)つるを・さ
  れと・けとほ(ほ=を<朱>)かりけりといふ・ねたりけるこゑの・し
  とけなき・いとよくにかよひたれは・いもうと
0229【いとよくにかよひ】-\<合点> サキノ十二三ノ子ニ似カヨフ也(大島本0294)
0230【いもうと】-\<合点> アネヲモイモウトゝ云(大島本0295)
  ときゝ給つ・ひさしにそ・おほとのこもりぬる・
0231【ひさしにそおほとのこもりぬる】-\<合点> 源氏ノ事(大島本0296)
  をとにきゝつる御ありさまを・見たてまつ
  りつる・けにこそめてたかりけれと・みそかにいふ・
  ひるならましかは・のそきてみたてまつりてま
0232【ひるならましかは】-女<朱>
  しと・ねふたけにいひて・かほひきいれつるこゑ」45オ
  す・ねたう・心とゝめても・とひきけかしとあちきなく
  おほす・まろはゝし(ゝし=こゝ<朱>、こゝ#)にね侍らむ・あなくらしと
0234【まろは】-\<合点> 小君(大島本0300)
  て・ひかゝけなとすへし・女きみは・たゝこのさう
  しくち・すちかひたるほとにそふしたるへき・
  中将のきみは・いつくにそ・人けとをき心ちして・
  物おそろしといふなれは・なけしのしもに・人/\
  ふして・いらへす也・しもに(に$やに<朱>)ゆにおりて・たゝいま
  まいらむと侍といふ・みなしつまりたる(たる=ヌ<朱>)けはひ
  なれは・かけかねを心みにひきあけ給へれは・あな」45ウ
  たよりはさゝさりけり・き丁をさうしくちに
  はたてゝ・火はほのくらきにみ給へは・からひつ・た
  つ物ともを・ゝきたれは・みたりかはしき中を
  わけいり給(給+てけはひしつる所に入給へれは<朱>)へれは(へれは$<朱>)・たゝひとり・いとさゝやかにてふ
  したり・なまわつらはしけれと・うへなるきぬを
  しやるまてもとめつる人と思へり・中将めしつれ
0235【もとめつる人】-\<合点> 中将君(大島本0302)
0236【中将】-\<合点> 源氏官中将也(大島本0303)
  はなむ・人しれぬ思ひのしるしある心ちして
  との給を・ともかくも思ひわかれす・物に・をそはるゝ
  心ちして・やとをひゆれと・かをにきぬのさはりて」46オ
  をとにもたてす・うちつけに・ふかゝらぬ心のほとゝ・
  み給らむ・事はりなれと・ゝしころ思ひわたる
  心のうちも・きこえしらせむとてなむ・かゝるを
  りをまちいてたるも・さらに・あさくは・あらし
  と・思なしたまへは(は$と<朱>)・いとやはらかにの給て・おにかみも
  ・あらたつましきけはひなれは・ゝしたなく・こ
  こに人(人+の<朱>)ともえのゝしらす・心ちはたわる(る$ひ)しくある
  ましき事と思へは・あさましく・人たかへにこ
  そ・侍めれといふも・いきのした也・きえまとへ」46ウ
  るけしき・いと心くるしく・らうたけなれは・をか
  しとみ給て・たかふへくもあらぬ・心のしるへを・思
  はすにも・おほめい給かな・すきかましきさま
  には・よに(に=も<朱>)みえたてまつらし・おもふ事すこし・
  きこゆへきそとて・いとちゐさやかなれは・かき
  いたきて・さうしのもと(と+ニ<朱>)いて給にそもとめつる中
  将たつ人きあひたる・やゝとの給に・あやしくて・
  さくりよりたるにそ・いみしくにほひみちて・か
  ほにも・くゆりかゝる心ちするに・おもひよりぬ・あさ/ましう」47オ
0237【あさましう】-\<合点> 中将(大島本0305)
  こは・いかなる事そと・おもひまとはるれと・きこえむ
  かたなし・なみ/\の人ならはこそ・あらゝかにも・
0238【なみ/\の人】-\<合点> 次々人也(大島本0306)
  ひきかなくらめ・それたに・人のあまたしらむは・
  いかゝあらむ・心もさはきて・したひ(ひ=イ)きたれと・ゝう
  もなくておくなるおましにいり給ぬ・さうしを
  ひきたてゝあか月に御むかへに・ものせよとの給へ
  は女は・この人の思らむ事さへしぬはかり・わり
0239【この人】-\<合点> 女中将(大島本0307)
  なきに・なかるゝまてあせ(せ=せ)になりて・いとなやま
  しけなる・いとをしけれと・れいのいつこよりとうて」47ウ
0240【いとをしけれと】-\<合点> 源氏(大島本0308)
  給事のはにかあらむ・あはれしらる(る$るゝ<朱>)はかりなさけ
  なさけしく・の給つ(つ=ツ<朱>)くすへかめれとなをいとあ
  さましきにうつゝともおほえすこそかすなら
  ぬ身なからも・おほしくたしける御心はえのほ
  ともいかゝあさくは・思ふたまへさらむ・いとかやう
  なる・きはゝきはとこそ・侍へ(へ+ル<朱>)なれとて・かくを
  したち給へるをふかくなさけなく・うしと
  思いりたるさまも・けにいとをしく・心はつかしき
  けはひなれは・そのきは/\を・またしらぬうひ」48オ
0241【そのきは/\】-\<合点> 源氏(大島本0310)
  事そや・中/\をしなへたるつ(つ=ふ)らに・思なし給へる
  なむうたてありける・をのつからきゝたまふや
  うもあらむ・あなかちなるすき心はさらになら
  はぬを・さるへきにや・けにかくあはめられ(れ=ふ)・たて
  まつるもことはりなる・心まとひを・身つからもあやし
  きまてなむなと・まめたちてよろつに・の給へと・
  いとたくひなき御ありさまの・いよ/\うちとけ
  きこえむ事わひしけれは・すくよかに・心つきな
  しとはみえたてまつるとも・さるかたの・いふかひ」48ウ
  なきにて・すくしてむと思て・つれなくのみもて
  なしたり・人からのたをやきたるに・つよき
  心をしゐてくはへたれはなよたけの心ちして・
  さすかにおるへくもあらす・まことに心やましくて
  あなかちなる・御心はえを・いふかたなしと思ひ(ひ+て)・なく
  さまなといとあはれ也・心くるしくはあれと・みさら
0242【心くるしく】-\<合点> 源氏(大島本0312)
  ましかは・くちをしからましと・おほすなくさめか
  たく・うしと思へれはなと・かくうとましき物に
  しも・おほすへき・おほえなきさまなるしも」49オ
  こそ・ちきりあるとは・思ひたまはめ・むけに
  よを思しらぬやうに・をほゝれ給なむ・いとつら
  きとうらみられて・いとかく・うき身のほとのさた
0243【いとかく】-\<合点> 女(大島本0313)
  まらぬ・ありしなからの身にて・かゝる御心はえを
  みましかは・あるましき・我たのみにてみな
  おし給・のちせをも(をも=モヤト)・思給へなくさめましを・
0244【のちせをも】-\<合点>
  いとかうかりなるうきねのほとを思侍に・たく
  ひなくおもふ給へまとはるゝ也・よしいまは・
0245【みきとなかけそ】-\<合点>
  きとな・かけそ
て・思へるさま・けにいとことはり」49ウ
  なりをろかならすちきりなくさめ給ことお
  ほかるへし・とりもなきぬ・人/\をきいてゝ・
  いと・いきたなかりける夜かな・御くるまひき
0246【いきたなかりける】-\<合点> ツヨクネラレタル也(大島本0317)
  いてよなといふ也・かみも・いてきて・女なとの御かた
  たかへこそ・よふかく・いそかせ給へきかはなといふ
  もあり・きみは・またかやうのついてあらむ事
  も・いとかたく(く$し<朱>)・さしはえては・いかてか御ふみな
  ともかよはむことの・いとわりなきを・おほす
  に・いと・むねいたし・おくの・中将もいてゝ・いとくるし」50オ
  かれはゆるし給ても又・ひきとゝめたまひつゝ・
  いかてかきこゆへきよにしらぬ御心のつらさも・あ
  はれも・あさからぬ・夜(夜=世<朱>)の思いては・さま/\めつらかな
  るへき・ためしかなとて・うちなき給けしき・いと
  なまめきたり・とりもしは/\なくに・心あはたゝ
  しくて
    つれなきをうらみもはてぬしのゝめに
0247【つれなきを】-源氏(大島本0318)
    とりあへぬまておとろかすらむ女身のあり
  さまをおもふに・いとつきなくまはゆき心ち」50ウ
  して・めてたき・御もてなしも・なにともおほえす
  つねは・いとすく/\しく・心つきなしと思あなつる・いよ
  のかたの(の+ミ<朱>)思やられて・ゆめにやみゆらむと・そらおそ
  ろしくつゝまし
    身のうさをなけくにあかてあくる夜は
0248【身のうさを】-女返し
    とりかさねてそねもなかれける
  ことゝあかくなれは・さうしくちまて・をくり給・
  うちも・とも・人さはかしけれは・ひきたてゝ・わかれ(れ+入<朱>)
  給ほと・心ほそくへたつるせきみえたり・御なをし」51オ
0249【へたつるせき】-\<合点>
  なとき給て・みなみの・かうらんにしはし・うちな
  かめ給・にしをもての・かうしそゝきあけて・人/\・
  のそくへかめる・すのこの中のほとに・たてたるこさ
  うしのかみより・ほのかにみえ給へる御ありさまを・
  身にしむ・はかり思へるすき心ともあめり・月は
  ありあけにて・ひかりおさまれる物から・かほ(ほ=け歟、ほ$<朱>)けさ
  やかにみえて・中/\をかしきあけほの也・なに心なき
  そらのけしきも・たゝみる人からえむにも・すこ
0250【えむに】-艶<朱>
  くもみゆる也けり・人しれぬ御心には・いとむねいた」51ウ
  く・ことつてやらむ・よすかたになきをとかへり
  見かちにて・いて給ぬ・殿に返給ても・とみにも・ま
  とろまれ給はす・又あひみるへきかたなきを・ま
  して・かの人の思ふらむ心のうち(ち+を<朱>)いかならむと心
0251【かの人】-\<合点> 空蝉(大島本0320)
  くるしく思ひやり給・すくれたる事はなけれと・め
  やすく・もてつけても・ありつるなかのしなかな・
  くまなくみあつめたる人のいひしことは・けにと
  おほしあはせられけり・このほとは・大殿にのみ
  おはします・なをいとかきたえて・思ふらむ事」52オ
0252【いとかきたえて】-\<合点> 空蝉(大島本0321)
  のいとおしく・御心にかゝりてくるしく・おほしわひて
  きのかみをめしたり・かのありし・中納言のこは・え
0253【中納言】-右衛門督同人也(大島本0322)
0254【こは】-小君(大島本0323)
  させてむや・らうたけにみえしを・身ちかくつかふ
  人にせむ・うへにも・われたてまつらむとのたまへは・
  いとかしこきおほせ事に侍(侍+ル<朱>)なり・あねなる人に・の
  たまひみむと申すも・むねつふれておほせと・
  そのあねきみは朝臣の・おとうとやもたるさも
  侍らす・この二ねん(ねん$とせ<朱>)はかりそ・かくてものし侍へれと
  おやのをきてに・たかへりとおもひなけきて」52ウ
  心ゆかぬやうになむ・きゝ給ふる・あはれの事や・よろ
  しく・きこえし人そかし・まことによしやとの給へは
  けしうはゝへらさるへし・もてはなれて・うと/\し
0255【もてはなれて】-紀伊守詞<朱>
  く(く=ウ<朱>)侍へれは・よのたとひにて・むつひ侍らすと申
  す・さて五六日ありてこのこ・ゐてまいれり・こまやか
  に・おかしとはなけれと・なまめきたるさまし
  て・あて人とみえたり・めしいれて・いとなつかしくかた
  らひ給・わらは心ちに・いとめてたくうれしと思ふ・い
  もうとのきみの事も・くはしくとひ給・さるへき」53オ
  事はいらへきこえなとして・はつかしけにしつまり
  たれは・うちいてにくし・されといとよくいひしらせ
  給・かゝることこそはと・ほの心うるも・思ひのほかなれと・
  おさな心ちに・ふかくしもたとらす・御文をもて
  きたれは・女あさましきに・なみたもいてきぬ
  このこのおもふらむ事も・はしたなくて・さすかに
  御ふみをゝもかくしに・ひろけたり・いとおほくて
    みしゆめをあふよありやとなけくまに
    めさへあはてそころもへにける」53ウ
  くぬるよなけれはと・めもをよはぬ御かきさ
0256【ぬるよなけれは】-\<合点> 恋しさのなにゝつけてかな/くさまん/夢た(た$)に(に+モ)みえすぬるよなけれは/レテモアル也(付箋02 拾遺集735・拾遺抄265・能宣集330・天徳四年内裏歌合34)
  まも・きりふたかりて心えぬ・すくせうちそへりける
0257【きりふたかりて】-目モキリテ<朱>
  身(身+を)・おもひつゝけてふし給へりける(ける$)またのひ・
  こきみめしたれは・まいるとて・御返こふ・かゝる
  御文みるへき人もなしときこえよと・の給へは・う
  ちゑみてたかふへくも・の給はさりし物を・いかゝ
  さは申さむといふに・心やましく・のこりなくの
  たまはせしらせてけると・おもふにつらき事
  かきりなし・いてをよすけたる事は・いはぬ/そよき」54オ
  さは・なまいり給(給$<朱>)そと・むつか(か+ら)れて・めすには・いかてかとて
  まいりぬ・きのかみすき心に・このまゝはゝのありさ
  まを・あたらしきものに思て・ついそうしありけ
  は・このこを・もてかしつきてゐてありく・きみ
  めしよせて・きのふまちくらしゝを・なをあひ
  思ふましきなめりと・ゑんし給へは・かほうちあ
  かめてゐたり・いつらとのたまふに・しか/\と申すに
  いふかひなの事や・あさましとて・又も給へり・あこ
  はしらしな・そのいよの・おきなよりはさきに」54ウ
  みし人そ・されと・たのもしけなく・ゝひほそし
  とて・ふつゝかなるうしろみまうけてかくあなつ
0258【ふつゝかなる】-\<合点> ケスシキ也(大島本0331)
  り給なめり・さりとも・あこは・わかこにてを(を$<朱>)あれ
  よ・こ(こ=カ<朱>)のたのもし人は・ゆくさき・みしかゝりなむ
  との給へは・さもやありけむいみしかりける事
  かなと思へる・おかしとおほす・このこを・まつはし
  給て・うちにもゐてまいりなとし給・わか御(御$<朱>)みく
  しけ殿にのたまひて・さうそくなとも
  せさせ・まことにおやめきてあつかひ給・御ふみは」55オ
  つねにあり・されとこのこもいと・おさなし・心より
0259【されと】-女<朱>
  ほかに・ちりもせは・かろ/\しき・名さへとりそへむ・身
  のおほえを・いとつきなかるへく思へは・めてたき
  ことも・わか身からこそと思て・うちとけたる御いらへ
  もきこえす・ほのかなりし御けはひありさま
  はけになへてにやはと・思いてきこえぬにはあ
  らねと・おかしきさまを・みえたてまつりても・な
  にゝかは・なるへきなと・思かへすなりけり・きみ
  はおほし・をこたる時のまもなく・心くるしく」55ウ
  も・こひしくも・おほしいつ・思へりしけしき
  なとの・いとをしさも・はるけむかたなく・おほ
  しわたる・かろ/\しく・はひまきれたちよ
  り給はむも・人めしけからむところに・ひんなき
  ふるまひやあら(ら+はれ)むと・ひとのためも・いとおしく
  とおほしわつらふ・れいのうちに・日かすへ給ころ・
  さるへきかたの・いみ・まちいてたまふ・にはかに・ま
  かて給まねして・道のほとよりおはしましたり・
  きのかみおとろきて・やり水のめ(め+い)ほくと・かしこまり」56オ
  よろこふ・こきみには(は$<朱>)ひる(ひる=ヒル<朱>)より・かくなむ・思よ
  れるとの給(給+ヒ<朱>)ちきれり・あけくれまつはし・ならし
  給けれは・こよひも・まつめしいてたり・女も・さ
  る御せうそこありけるに・おほしたはかりつらむ
  ほとは・あさくしも思なされねと・さりとて・う
  ちとけ・人けなきありさまを・みえたてまつりて
  もあちきなく・ゆめのやうにて・すきにしなけき
  を又やくはへむと・思みたれて・なをさてまち
  つけ・きこえ(え+させ)む事の・まはゆけれは・こきみか」56ウ
  いてゝいぬるほとに・いとけちかけれは・かたはら
  いたし・なやましけれは・しのひて・うちたゝかせ
  なとせむに・ほとはなれてをとて・わた殿に中将
  といひしか・つほねしたるかくれに・うつろひぬ・さ
  る心して人・とくしつめて御せうそこあれとこき
  みは(は+え<朱>)たつねあはす・よろつの所・もとめありき
  て・わた殿にわけいりて・からうしてたとりきたり・
  いとあさましくつらしと思て・いかにかひなしと・
  おほさむと・なきぬはかりいへは・かくけしからぬ所(所#心)」57オ
  はえ(はえ$<朱>)はつかふ物か・おさなき人の・かゝる事・いひ(ひ=ひ)つ
  たふるは・いみしくいむなる物をといひをとし
  て・心ちなやましけれは・人/\さけすをさへさせ
  てなむときこえさせよ・あやしと・たれも/\
  みるらむといひはなちて・心のうちには・いとかくし
  なさたまりぬる身の・おほえならて・すきにし
  おやの御けはひとまれるふるさとなから・た
  まさかにも・まちつけたてまつらは・おかしうも
  やあらまし・ゝゐて思ひしらぬかほにみけつも」57ウ
  いかにほとしらぬやうにおほすらむと・心なからも
  ・むねいたく・さすかに思ひみたる・とてもかくても・
  いまは・いふかひなきすくせ也けれは・むしんに心
  つきなくて・やみなむと思はてたり・きみは
0260【きみは】-源氏<朱>
  いかに・たはかりなさむと・また・をさなきを・うし
  ろめたくまちふし給へるに・ふようなるよし
  をきこゆれは・あさましく・めつらかなりける
  心のほとを・身もいとはつかしくこそなりぬれと
  いと・/\おしき御けしき也・とはかり物もの給はす」58オ
  いたくうめきてうしとおほしたり
    はゝきゝの心をしらてそのはらの道に
0261【はゝきゝの】-源氏(大島本0334)
    あやなくまとひぬるかな
  きこえむかたこそなけれと・の給へり・女もさ
  すかにまとろまさりけれは
    かすならぬふせやにおふる名のうさに
0262【かすならぬ】-空蝉返し
    あるにもあらすきゆるはゝ木ゝ
  ときこえたり・こきみ・いと・/\をしさに・ねふ
  たくもあらて・まとひありくを・人あやしと」58ウ
  みるらむと(と+女イ)・わひ給・れいの人/\は・いきたなきに・ひ
  と所すゝろに・すさましくおほしつゝけらる
  れと・人にゝぬ心さまの・なを・きえすたちの
0263【人にゝぬ】-女ノコト<朱>
  ほれりけると・ねたく・かゝるにつけてこそ・心も
  とまれと・かつはおほしなから・めさましく
  つらけれは・さはれとおほせとも・さもおほし
0264【さはれと】-\<合点> サラハニテアレトイフ心也(大島本0336)
  はつましく・かくれたらむ所に・なをゐていけ・
  との給へと・いとむつかしけにさしこめられて・人
  あまた侍めれは・かしこけにときこゆいとおしと」59オ
  おもへり・よしあこたになすてそとのたまひて
  ・御かたはらにふせ給へり・わかくなつかしき
  御ありさまを・うれしくめてたしとおもひた
  れは・つれなき人よりは中/\あはれにおほさ
0265【つれなき人】-\<合点> 空蝉(大島本0337)
  るとそ」59ウ

【奥入01】まとのうちなるほとは
     長恨哥
     楊家有女初長成 養在深宮人未識(戻)

伊行注
【奥入02】かすかのゝわかむらさきのすり衣
     しのふのみたれかきりしられす(戻)
【奥入03】しかりとてとすれはかゝりかくすれは
     あないひしらすあふさきるさに(戻)」60オ
【奥入04】はちすはのにこりにしまぬ心もて
     なにかはつゆをたまとあさむく(戻)
【奥入05】観身岸額離根草 論命江頭不繋舟(戻)
【奥入06】ひきよせはたゝにはよらて春駒の
     つなひきするそなはたつときく(戻)
【奥入07】あすか井にやとりはすへしかけもよく
     みもひもさむしみまくさもよし(戻)
【奥入08】いつらにかやとりとならむあさひこの
     さすやをかへのたまさゝのうへ(戻)」60ウ
【奥入09】ちりをたにすへしとそ思さきしより
     いもとわかぬるとこなつの花(戻)
【奥入10】それをたに思ふことゝてわかやとを
     見きとなかけそ人のきかくに(戻)
【奥入11】あふさかの名をはたのみてこしかとも
     へたつるせきのつらくもあるかな(戻)
【奥入12】こひしきをなにゝつけてかなくさまむ
     夢たにみえすぬるよなけれは(戻)
     すゝか山いせをのあまのぬれ衣
     しほなれたりと人や見るらむ(空蝉01 竄入)
     とりかへす物にもかなや世中を
     ありしなからのわか身とおもはん(空蝉02 竄入)」61オ
【奥入13】風俗
     玉たれのかめをなかにすへてあるしはもや
     さかなもりにさかなもとめにこゆるきのいそに/わかめかりあけに(戻)
【奥入14】催馬楽
     我家はとはり帳もたれたるをおほきみきませ
     むこにせむみさかなになによけむあはひさたをか
     かせよけんあはひさたをかかせよけむ(戻)
【奥入15】二道
     父家居住せハ孝心可有男家居住せハ
     嫂仕ヲせよといふ事也(戻)」61ウ
【奥入16】三史 史記 漢書 後漢書
     五経 毛詩 礼記 左伝 周易 尚書
     三道 紀伝 明経 明法(戻)
      已上伊行所注也

【奥入17】ふたつのみち 両途
     文集 秦中吟
     天下無正声 悦耳即為娯 人間無正色
     悦目即為妹<カホヨキ> 顔色非相遠<ヒカレル> 貧富則有殊<ナルコト>
     貧為時所<ラル>弃 富為時所<ラル>趁 紅楼富家女」62オ
     金縷繍羅襦 見人不斂手 矯癡二八(二八=十六)初
     母兄未開口 已<ニ>嫁<テハ>不須臾 緑窓貧家女
     寂寞二十余 荊釼不直銭 衣上無真珠
     幾廻人欲娉<ヨハムト> 臨日又踟躊 主人会良媒
     置酒満玉壺 四座且勿飲 聴我歌両途
     富家女易<ヤスシ>嫁 嫁早軽其夫 貧家女難嫁
     嫁晩孝於姑<シウトメ> 聞若欲<ナラハ>娶<トラムト>婦 娶<トラムコト>婦意女何(戻)」62ウ

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