帚木(大島本) Last updated 2/24/2003(ver.1-1)
Last updated 10/13/2006(ver.2-1)
更新内容 翻刻を見やすくし、注記には番号を付けた。特に書き入れ注記について、明融臨模本の書き入れ注記との関係を明らかにした。
渋谷栄一翻字(C)

  

帚 木


《概要》
 大島本は、青表紙本の最善本とはいうものの、現状では、後人の筆によるさまざまな本文校訂跡や本文書き入れ注記、句点、声点、濁点等をもつ。そうした現状の様態をそのままに、以下の諸点について分析していく。
1 大島本と大島本の親本復元との関係 鎌倉期書写青表紙本(池田本・伏見天皇本等)を補助的資料として
2 大島本本文と明融臨模本本文との関係 大島本親本復元と青表紙本復元を比較して
3 大島本の本文校訂に対校された本文系統
4 大島本の句点の関係
5 大島本の後人書き入れ注記
  明融臨模本の書き入れ注記との関係
  その他の書き入れ注記との関係

《書誌》

《翻刻資料》

凡例
1 本稿は、『大島本 源氏物語』(1996(平成8)年5月 角川書店)を翻刻した。よって、後人の筆が加わった現状の本文様態である。
2 行間注記は【 】- としてその頭に番号を記した。
2 小字及び割注等は< >で記した。/は改行を表す。また漢文の訓点等は< >で記した。
3 合(掛)点は、\<朱(墨)合点>と記した。
4 朱句点は「・」で記した。
5 本文の校訂記号は次の通りである。
 $(ミセケチ)・#(抹消)・+(補入)・&(ナゾリ)・=(併記)・△(不明文字)
 ( )の前の文字及び( )内の記号の前の文字は、訂正以前の文字、記号の後の文字が訂正以後の文字である。ただし、なぞり訂正だけは( )の前の文字は訂正後の文字である。訂正以前の本行本文の文字を尊重したことと、なぞり訂正だけは元の文字が判読しにくかったための処置である。
6 朱・墨等の筆跡の相違や右側・左側・頭注等の注の位置は< >と( )で記した。私に付けた注記は(* )と記した。
7 付箋は、「 」で括り、付箋番号を記した。
8 各丁の終わりには」の印と丁数とその表(オ)裏(ウ)を記した。
9 本文校訂跡については、藤本孝一「本文様態注記表」(『大島本 源氏物語 別巻』と柳井滋・室伏信助「大島本『源氏物語』(飛鳥井雅康等筆)の本文の様態」(新日本古典文学大系本『源氏物語』付録)を参照した。
10 和歌の出典については、伊井春樹『源氏物語引歌索引』と『新編国歌大観』を参照し、和歌番号と、古注・旧注書名を掲載した。ただ小さな本文異同については略した。

「はゝき木」(題箋)

  ひかる源氏名のみこと/\しういひけた
0001【ひかる源氏】-桐壺巻の詞をうけて発端の詞にあり
  れたまふとか・おほかなるに・いとゝかゝるすき
0002【とか】-過ナリ
0003【すきこと】-光源氏といふ名をすき事とハいへる也
  ことゝもをすゑの世にもきゝつたへて・かろ
0004【かろひたる】-カロ/\シ(明融本0004)
  ひたる名をやなかさむとしのひ給けるかくろ
0005【しのひ給ける】-高麗人に相せしめ給し事なり
  へことをさへ・かたりつたへけむ・人のものいひさか
0006【人のものいひさかなさ】-\<朱合点> 古今こゝにしも(も+何)にほふらん女郎花人の物いひさかにくき世に(拾遺集1098・拾遺抄411・遍昭集23、河海抄・休聞抄)
0007【さかなさ】-ワルキコト也
  なさよ・さるはいといたく世をはゝりまめたち
0008【まめたち】-マコトタツ(明融本0006) 斂色<レンシヨク><右><ヲサム><左>遊ー
  給けるほと・なよひかにをかしきことはなくて・かた
0009【なよひかに】-シナヤカナル也<右> 麗子<ナヨヒ><頭> び一禅<左>
0010【をかしきこと】-おもしろき所なくての心なり
0011【かたのゝ少将には】-業平をいふといふ説あり(明融本0008)
  のゝ少将には・わらはれ給けむかしまた・中将
0012【給けむかし】-爰迄記者詞
0013【また中将なとに】-爰ヨリ草子ノ詞
  なとにものし給しときは・内にのみさふらひ
0014【内にのみさふらひようし給て】-大裏ヲヨクヲホシテ也
  よら(ら$う<朱>)し給て・大殿にはたえ/\まかて給ふ・しのふ」1オ
0015【しのふのみたれ】-\<朱合点> 伊せ春日のゝわかむらさきすり衣しのふのみたれかきりしられす(古今六帖3309・業平集77・伊勢物語1、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄) 藤壺ノ女御事 両説内ニテモ皮又若ツ若ノ
  のみたれ
とうたかひきこゆる事もありしか
  と・さしもあためきめなれたるうちつけの
  すき/\(△△&/\)しさなとはこのましからぬ御本上にて・
0016【御本上】-むまれつきの心(明融本0014) 書捨也 乱ル心ナシト云心コモルト也
  ま(ま$ま<朱>)れにはあなかちにひきたかへ心つくしなる
  ことを御心におほしとゝむるくせなむあや
  にくにて・さるましき御ふるまひもうちまし
  りける・なかあめはれまなきころ内の御
0017【なかあめ】-五月雨事 三日過ルヲ霖ト云六月トミユ(明融本0017)
  ものいみさしつゝきていとゝなかゐさふらひ
0018【ものいみさしつゝきて】-カサストモタチトー 物忌ノ字アリカスツヽシム
  給を大殿には・おほつかなく・うらめしくおほし
  たれと・よろつの御よそひなにくれとめつ」1ウ
0019【御よそひ】-御狩装束事(明融本0019)
0020【なにくれと】-何ヤカヤ也(明融本0020)
  らしきさまに・てうしいて給つゝ御むすこ(こ+の<朱>)
0021【御むすこ】-左大ノ
  君たち・たゝこの御とのゐところに宮つかへ
  をつとめ給ふ・宮はらの中将はなかにした
  しくなれきこえ給て・あそひたはふれをも
  人よりは・心やすくなれ/\しくふるまひたり・
  右のおとゝのいたはりかしつき給ふすみかは・
0022【いたはりかしつき】-二条太政大臣四君(明融本0021)
0023【すみか】-人のめをもいふ和ー<朱>(明融本0022)
  この君もいとものうくしてすきかましき
  あた人なり・さとにてもわかかたのしつら
0024【あた人なり】-\<朱合点> 古秋といへは余所にそきゝしあた人ハわれをふるせる名にこそ有けれ読人不知(古今824、異本紫明抄・紫明抄) 後あた人のなきニハあらす有なから我身にいまたきゝそならハぬ左大臣新理(後撰1198・九条右大臣集75)
  ひまはゆくして・君のいていりし給にうち
  つれきこえ給つゝ・よるひるかくもむをも」2オ
  あそひをももろともにしておさ/\・たち
0025【あそひをも】-雨夜物カタリノ序<左>
0026【おさ/\】-漸ナトニ同
  をくれす・いつくにてもまつはれきこえ給ふ
  ほとに・をのつからかしこまりもえをかす心
  のうちにおもふこともかくしあへすなんむつ
0027【むつれきこえ】-\<朱合点> 思ふとて何しる人にむつれけんしかならひてそみねハ恋しき(拾遺集900、河海抄・孟津抄)
  れきこえ給ける・つれ/\とふりくらして
  しめやかなるよひの雨に殿上にも・おさ/\人
0028【おさ/\】-粗漸凡
  すくなに御とのゐ所もれいよりはのとやか
0029【御とのゐ所】-源曹司
  なる心ちするに・おほとなふらちかくてふみ
0030【ふみとも】-学問方ノ
  ともなとみ給・ちかきみつしなる・いろ/\の
  かみなるふみともをひきいてゝ中将わり」2ウ
0031【いろ/\のかみなるふみとも】-艶書
  なくゆかしかれは・さりぬへきすこしは見
0032【さりぬへき】-源氏(明融本0029)
  せむ・かたわなるへきもこそとゆるし給はね
  は・そのうちとけてかたはらいたしとおほ
0033【そのうちとけて】-中将之詞(明融本0031)
  されんこそゆる(る$か<朱>)しけれをしなへたるおほ
  かたのはかすならねとほと/\につけてかき
  かはしつゝもみ侍なん・をのかしゝうらめしき
0034【をのかしゝ】-\<朱合点> 春ハ梅秋ハ籬の菊の花おのかしゝこそ恋しかりけれ貫之(古今六帖1650・貫之集88、紫明抄・河海抄・孟津抄)
  おり/\まちかほならむゆふくれなとのこそ・
  み所はあらめとゑんすれは・やむことなくせ
0035【やむことなく】-源ノ詞アルヘキヲヤンコトモ頭ノ也此書サマ
  ちにかくし給へきなとは・かやうにおほさう
0036【おほさうなる】-ウチハナチタル心ナリ(明融本0035)
  なるみつしなとにうちをきちらし給ふ」3オ
  へくもあらすふかくとりをき給へかめれは・
  二のまちの心やすきなるへし・かたはしつゝ
0037【二のまち】-ツキトイフ心ナリ(明融本0037)
  みるによくさま/\なるものともこそ侍けれ
  とて・心あてにそれかかれかなとゝ(ゝ$と<朱>)ふなかに・いひ
0038【心あてに】-\<朱合点> 古心アテニヲラハヤヲラム初霜ノヲキマトハセル白菊ノ花躬恒(古今277・古今六帖3744・和漢朗詠273、河海抄・孟津抄)
【それかかれか】-源心中
  あつるもありもてはなれたることをも思ひ
  よせてうたかふもをかしとおほせと・ことすく
  なにてとかくまきらはしつゝとりかくし給
  つ・そこにこそおほくつとへ給らめ・すこしみ
0039【そこにこそ】-足下源氏御詞
  はやさてなんこのつしも心よくひらくへ
  きとのたまへは・御らむし所あらむこそ」3ウ
0040【御らむし所あらむこそ】-中将(明融本0040)
  かたく侍らめなときこえ給ふついてに・女の
0041【女のこれは】-第一段詞中将雨夜品定事問答四段在之(明融本0041)
  これはしもとなんつくましきはかたくも
0042【なん】-難
  あるかなと・やう/\なむみ給へしる・たゝう
  はへはかりのなさけにてはしりかきおりふし
0043【て】-手不用之
0044【はしりかき】-草ニカク文(明融本0042)
  のいらへ心えて・うちしなとはかりはすいふん
0045【いらへ】-哥
0046【うち】-内 詞也
0047【すいふん】-随分
  によろしきもおほかりとみ給れと・そもまこ
  とにそのかたをとりいてんえらひにかならす
  もるましきはいとかたしや・わか心えたる事
0048【わか心えたる】-前ノ段ノツヽキ
  はかりををのかしゝ心をやりて人をはおと
0049【をのかしゝ】-各競 自ノ志ノマゝナルヲ云
  しめなとかたはらいたき事おほかり・おやなと」4オ
0050【おやなと】-玉かつらの内侍のかみ当此品<右>(明融本0044) 末ツムニアタル弄<左>
  たちそひもてあかめておひさきこもれる
0051【おひさきこもれる】-草ナト生心(明融本0045)
  まとのうちなるほとはたゝかたかとをきゝ
0052【まとのうちなるほと】-親ノ家ニアル程
  つたへて心をうこかすこともあめり・かたち
0053【かたちをかしく】-末ツムニアタル顔大ヤウニミル
  をかしくうちおほとき・わかやかにてまき
0054【おほとき】-おほやうにのとかなる也(明融本0048)
0055【まきるゝことなき】-かさらすありのまゝなるへし(明融本0049)
  るゝことなきほと・はかなきすさひをも人ま
0056【すさひ】-なをさり事也(明融本0050)
  ねに心をいるゝ事もあるに・をのつからひとつ
0057【ひとつゆへ】-末ハ琴上手也
  ゆへつけてしいつる事もありみる人を
  くれたるかたをはいひかくし・さてありぬへき
  かたをはつくろひてまねひいたすに・それ
  しかあらしとそらにいかゝはをしはかりおもひ」4ウ
  くたさむ・まことかと(と+見もてゆくに見をとりせぬやうはなくなん<朱>)あるへきと・うめきたる
0058【うめきたる】-歎体 ウソフク心(明融本0053)
  けしきもはつかしけなれは・いとなへては
0059【いとなへては】-源氏第二段(明融本0054)
  あらねと我おほしあはすることやあらむ
  うちほをえみて・そのかたかともなき人は
  あらむやとの給へは・いとさはかりならむあた
0060【いとさはかりならむあたりには】-中将 第三段(明融本0056)
  りにはたれかはすかされより侍らむ・とる方なく
0061【とる方なく】-様悪
  くちおしきゝはと・いうなりと・おほゆはかり・
0062【いうなり】-優様吉
  すくれたるとはかすひとしくこそ侍らめ・
0063【すくれたるとは】-此二ハ上下ノ人ニアルヘシ
  人のしなたかくむまれぬれは人にもてかし
0064【しなたかく】-上品
  つかれてかくるゝ事おほくしねんにそのけはひ」5オ
0065【しねんに】-自然
  こよなかるへし・中のしなになん人の・心/\
0066【中のしなに】-中品<左>(明融本0057)
  をのかしゝのたてたるおもむきもみえて
  わかるへきことかた/\おほかるへき・しもの
0067【しものきさみ】-下品(明融本0058)
  きさみといふきはになれは・ことにみゝたゝ
0068【みゝたゝすかし】-きけとも耳にたゝぬ也
  すかしとていとくま(△&ま)なけなるけしきなる
  もゆかしくて・そのしな/\やいかに・いつれを
0069【そのしな/\やいかに】-源氏の詞第四段也(明融本0059)
  みつのしなにをきてかわくへき・もとのしな
0070【しなたかくむまれなから】-末摘ニ似タリ
  たかくむまれなから身はしつみくらゐみしかく
  て人けなき・又なを人のかむたちめなと
0071【なを人】-種姓いやしき人をいふ
  まてなりのほりわれは(は$ハ<朱>)かほにて・家のうち」5ウ
  をかさり人におとらしとおもへるそのけちめ
  をはいかゝわくへきと・とひ給ほとに・左のむま
0072【左のむまのかみ】-五位
  のかみ・藤式部のせ(せ=そ△、△#)う御物いみにこもらむとて
0073【藤式部のせう】-藤式部丞蔵人ナリ六位(明融本0062)
  まいれり・世のすきものにてものよくいひと
  をれるを中将まちとりて・このしな/\を
  わきまへさためあらそふいときゝにくき事
  おほかり・なりのほれとももとよりさるへきす
0074【なりのほれとも】-馬頭之詞第一段也以下十八問答在之(明融本0064)
0075【もとよりさるへきすちならぬ】-惟光カ女ニアタル藤内侍カコト
  ちならぬ(ぬ+ハ<朱>)世人のおもへることもさはいへと
  なをことなり・又もとはやむことなきすち
0076【もと】-姓ナリ(明融本0066)
  なれと世にふるたつきすくなく時世にうつ」6オ
0077【たつきすくなく】-末摘花当此品(明融本0068)
  ろひて・おほえ・おとろえぬれは心は心として
  事たらす・わろひたる事ともいてくる
  わさなめれは・とり/\にことはりてなかのしな
0078【とり/\にことはりて】-過不及儒道中庸ノ道仏教ハ非空非有中道
  にそをくへき・すりやうといひて人の国のこと
0079【すりやう】-受領(明融本0069) 軒ハノ荻
  にかゝつらひいとなみて・しなさたまりたる
  中にも・又きさみ/\ありて中のしなの
  けしうはあらぬえりいてつへきころほひ也・
0080【けしうはあらぬ】-けすしくハあらぬ也(明融本0070)
  なま/\の上達部よりも非参議の四位
0081【なま/\の上達部よりも】-なみ/\ 空蝉夕顔等当此品(明融本0071)
0082【非参議】-宰相なとにならぬをいふ
  ともの世の・おほえくちおしからすもとの
0083【もとのねさし】-\<朱合点> 古瀧つせに根サシとゝめぬ浮草のうきたる恋も我ハする哉(古今592・忠岑集182、河海抄・孟津抄)
  ねさしいやしからぬ・やすらかに・身をもて」6ウ
  なしふるまひたるいとかはらかなりや・家の
0084【かはらかなり】-サハヤカナルナリ(明融本0074)
  うちにたえ(え$ら<朱>)ぬことなとはたなかめるまゝに・
0085【家のうちにたらぬことなと】-明石上当此品(明融本0075)
  はふかす・まはゆきまてもてかしつけるむす
0086【はふかす】-不放埒<ハフラツ>又云者ノ字也身ヨリ過タル事ヲモカヘリ見ス艶ナル也
  めなとの・おとしめかたくおひいつるもあまた
  あるへし・宮つかへにいてたちておもひかけ
0087【宮つかへにいてたちて】-桐更衣
  ぬさいはひとりいつるためしともおほかりかし
  なといへは・すへて・にきはゝしきによるへき
0088【すへてにきはゝしき】-源氏第二段(明融本0076)
  なむなりとてわらひ給ふを・こと人のい
0089【こと人のいはむやうに】-中将詞問答外ナリ コト人好色ナラヌ人ノト也源ハソレニハヨラネト女ノ落フレタルハイカヽト也
  はむやうに心えすおほせらると中将にく
  む・もとのしな時世のおほえうちあひやむ」7オ
0090【もとのしな時世のおほえ】-馬頭第三段 上の品 女三宮 当此品<右> 女三ノ宮ニアタル<左>(明融本0079)
  ことなきあたりのうち/\のもてなしけはひ
  をくれたらむは・さらにもいはすなにをして
0091【さらにもいはす】-中/\云ニ及ス
  かくおひいてけむといふかひなくおほゆへし・
  うちあひてすくれたらむもことはりこれこそ
0092【うちあひて】-藤ツホ
  はさるへきこととおほえてめつらかなる事
  と心もおとろくまし・なにかしかをよふへ
  きほとならねは・かみかかみは(は$ハ<朱>)うちをき侍ぬ・
  さてよにありと人にしられすさひしく
0093【さてよにありと】-下品ナリ(明融本0081) 夕顔ノ上ノルイ
  あはれたらむ・むくらのかとにおもひのほか
0094【むくら】-葎
  にらうたけならん人のとちられたらん」7ウ
  こそ・かきりなくめつらしくはおほえめ・い
  かてはたかゝりけむとおもふよりたかへる
  ことなんあやしく心とまるわさなる・ちゝ
0095【ちゝのとしおひ】-藤式部イモウト
  のとしおひものむつかしけにふとりすき・
  せうとのかほにくけにおもひやりことなる
  事なきねやのうちにいといたくおもひ
  あかり・はかなくしいてたることわさもゆへ
  なからすみえたらむかたかとにてもいかゝ思ひ
  のほかにをかしからさらむ・すくれてきす
  なきかたのえらひにこそをよはさらめ・さる」8オ
  かたにてすてかたきものをはとて式部を
  見やれは・わかいもうと(と+と)ものよろしきゝ
0096【わかいもうとともの】-第四段藤式部カ心也
  こえあるをおもひての給にやとや心うら
  むものもいはす・いてやかみのしなとおもふ
0097【いてやかみのしな】-源氏ノ御心アヲイノ上ノコト
  にたにかたけなるよをと君はおほすへ(へ+し<朱>)
  ・しし(し$<朱>)ろき御そとものなよゝかなるにな
0098【なよゝか】-和
0099【なをし】-直衣
  をしはかりをしとけなくきなし給てひも
  なともうちすてゝそひふし給へる御ほかけ
0100【御ほかけ】-火かけ也(明融本0085)
  いとめてたく・女にてみたてまつらまほし・
  この御ためにはかみかかみをえりいてゝも」8ウ
  猶あくましくみえ給ふ・さま/\の人のうへ
  ともをかたりあはせつゝ・おほかたの世に
0101【おほかたの世に】-第五段又馬頭カ詞ナリ(明融本0086)
  つけてみるには・とかなきもわかものとうち
  たのむへきをえらんにおほかる中にも
  えなんおもひさたむましかりける・おのこ
  の大やけにつかうまつりはか/\しき世の
  かためとなるへきもまことのうつはものと
0102【うつはもの】-器ナリ(明融本0087)
  なるへきをとりいたさむにはかたかるへし
  かし・されとかしこしとてもひとりふたり世中
0103【世中をまつりこち】-天下ノ政ヲハ於太政官三公公卿行之
  をまつりこちしるへきならねは・かみはしもに」9オ
0104【こち】-事也
  たすけられしもはかみになひきて事ひろ
  きにゆつろふらんせはき家のうちのあるし
  とすへき人ひとりをおもひめくらすに
0105【人ひとりを】-ウシロミノコト
  たらはて・あしかるへき大事ともなむかた
  かたおほかる・とあれはかゝりあふさきるさにて
0106【あふさきるさにて】-\<朱合点> ソヘニトテトスレハーシラスー 重荷ニソヘ荷ノ如クノ煩ナル心也 あふさまくるさまなり(明融本0088)
  なのめにさてもありぬへき人のすくなき
0107【なのめに】-ナヲサリ
  を・すき/\しき心のすさひにて人のありさま
  をあまたみあはせむのこのみならねと・
  ひとへにおもひさたむへき・よるへとすはかり
0108【よるへ】-ヨリ所(明融本0090)
  におなしくは・わかちからいりをしなをしひき」9ウ
  つくろふへき所なく・心にかなふやうにも
  やとえりそめつる人のさたまりかたき
  なるへし・かならすしもわかおもふにかなは
  ねとみそめつる契はかりをすてかたく思ひ
0109【みそめつる契はかり】-君臣明文思へし
  とまる人はものまめやかなりとみえ・さて
  たもたるゝ女のためも心にくゝをしはか
  らるゝなり・されとなにか世のありさまをみ
0110【なにか世の】-なにかしかといふなり(明融本0091)
  たまへあつむるまゝに・心にをよはす・いとゆかし
  き事もなしや・君達のかみなき御えらひ
  にはましていかはかりの人かはたくひ給はん・」10オ
  かたちきたなけなくわかやかなるほとの
  をのかしゝは・ちりもつかしと身をもてなし・
0111【ちりもつかし】-六宮スニアタル
  ふみをかけとおほとかにことえりをし・すみ
  つきほのかに心もとなくおもはせつゝ・又
0112【又さやかにも】-又一ノ様也一説文カクニ対シテ花鳥ノ説カハル文ノコトトアリ
  さやかにもみてしかなと・すへなくまたせわ
0113【みてしかな】-古今あふくまに霧立くもり明ぬとも君をはやらしまてハすへなし<右>(古今1087、河海抄・孟津抄) 其人ヲ一<左> ヨミトカレヌ心ト花<左>
0114【すへなくまたせ】-\<朱合点> 無便 ヒンナキ也<右>(明融本0093) 文使<右> 程ヲヘテマタセ云コレハ声ヲ引入也<左>
0115【わつかなるこゑきくはかり】-木枯ノ類
  つかなるこゑきくはかりいひよれと・いきの
  したにひきいれことすくなゝるか・いとよく
  もてかくすなりけり・なよひかに女しと見
0116【女しと見れは】-源内侍当此品也(明融本0095)
  れはあまりなさけにひきこめられてとり
  なせはあためく・これをはしめのなむとす」10ウ
  へし・ことかなかになのめなるましき人
0117【ことかなかに】-殊中ニ也 又異カ中<右>(明融本0097) 取分ノ心<左>
0118【なのめなるましき】-ナヲサリナラヌ人也<右> 十分ナラヌ也<左> 子細ナキ人ノカタキ也<左> 両説アリ女ノコトヲモナノメナルマシキト云又ナヲサリニスマシキ男ノコトヲモ云ニヤ一<頭>
  のうしろみのかたはものゝあはれしりすく
  し・はかなきついてのなさけありをかしき
  にすゝめるかたなくてもよかるへしと
  みえたるに・又まめ/\しきすちをたてゝ
0119【まめ/\しき】-マコトシクウシロミノ方
  みゝはさみかちに・ひさうなき家とうし
0120【みゝはさみかち】-かひ/\しきすかた(明融本0101)
0121【ひさうなき】-無美相千 無貧相福/\シキ和(明融本0102)
0122【家とうし】-いゑのめ(明融本0103)
  のひとへにうちとけたるうしろみはかりを
  して・あさゆふのいていりにつけてもおほ
  やけわたくしの人のたゝすまひ・よきあし
  き事のめにもみゝにもとまるありさまを」11オ
  うとき人にわさとうちまねはんやは・ちか
  くて見ん人のきゝわきおもひしるへか
  らむにかたりもあはせはやとうちもゑま
  れ・なみたもさしくみもしはあやなき
  おほやけはらたゝしく心ひとつにおもひ
0123【おほやけはらたゝしく】-主人ナトニ恨切ナルコト
  あまる事なとおほかるを・なにゝかはきか
  せむとおもへはうちそむかれて人しれぬ
  思いてわらひもせられ・あはれともうち
  ひとりこたるゝになに事そなと・あはつ
0124【あはつかに】-淡
  かにさしあふきゐたらむはいかゝはくちお」11ウ
0125【さしあふき】-花説扇ナトサシカサシテゐタル也
  しからぬ・たゝひたふるにこめきてやはらか
0126【こめきて】-ふしめかしき心ナリ又子めきおさなくかたほなる様也<右>(明融本0110) 巨ノ字大ヤウナル也ヲサナキハ花ノ説<左> 紫上ナトノコト<頭>
  ならむ人をとかくひきつくろひては・なとか
  みさらん心もとなくともなをしところある
  心地すへし・けにさしむかひて見むほとは
0127【さしむかひて】-ヨキ中にわろき事あり(大島本0112)
  さてもらうたきかたにつみゆるしみるへき
  を・たちはなれてさるへきことをもいひやり
  おりふしにしいてむわさのあた事にも
  まめことにも・わか心とおもひうる事なく
0128【わか心と】-人にをしへられて我に思よるふしなき也(明融本0114)
  ふかきいたりなからむはいとくちおしくたの
  もしけなきとかやなをくるしからむ・つねは」12オ
  すこしそは/\しく心つきなき人のおり
0129【そは/\しく】-カタチヨカラヌヲ云祇 又タシカナラヌ心思ふ様ナラヌ様和(明融本0115) 形悪ケレハ人ノ心不付
  ふしにつけて・いてはへするやうもありかし
0130【いてはへする】-打フルマイニテ人ニマサルコトアリ<左>
  なとくまなきものいひもさためかねて・い
0131【くまなきものいひ】-\<朱合点> 古今おもふてふ人の心のくまことに立カクれつつゝ見るよしもかな(古今1038・古今六帖2131、河海抄・孟津抄)
  たくうちなけく・いまはたゝしなにもよらし
0132【しなにもよらし】-品ニモヨラシ一部ノ肝心 三界唯心万法唯識の心ナリ
  かたちをはさらにもいはしいとくちおしく・
  ねちけかましきおほえたになくはたゝひ
0133【ねちけかましき】-\<朱合点> 万なら山のコノ手柏ノ二面ー(万葉3858・古今六帖4303、河海抄・孟津抄・岷江入楚) 口きゝかましきをいふ<右> ヨカラヌ心也<頭>(明融本0117)
  とへにものまめやかにしつる(る$か<朱>)なる心のおもむき
0134【まめやかにしつかなる心】-葵ノ上ニアタル
  ならむよるへをそつゐのたのみ所には思ひ
  をくへかりける・あまりゆへよし心はせうち
0135【ゆへ】-ヨキ種姓
0136【よし】-ヨセアルコト
0137【心はせ】-故由ノ様
  そへたらむをはよろこひにおもひすこし」12ウ
  をくれたるかたあらむをもあなかちにもと
  めくはへしうしろやすくのとけき所たに
  つよくはうはへのなさけはをのつからもてつ
  けつへきわさをや・えんにものはちして
0138【えんにものはち】-夕顔
  うらみいふへきことをも見しらぬさまに
0139【うらみいふへきこと】-ウラミヲカクシテヲ引
  しのひてうへはつれなくみさをつくりこゝろ
0140【うへはつれなく】-\<朱合点> 後蓮葉ノ上ハつれなきうらにこそ物あらかひハつくと云なれ<右>(後撰903、河海抄・孟津抄・岷江入楚) 芦根ハフウキハウヘコソツレナケレ下ハエナラス思ふ心ヲ拾ー<頭>(拾遺集893・拾遺抄331・古今六帖1688、花鳥余情・休聞抄紹巴抄・孟津抄・岷江入楚)
0141【みさをつくり】-\<朱合点> シラスカホノ心常ニカワラヌ心<右> 堀哀にもみさほにもゆる蛍かなこゑたてぬへき此世とおもふに俊頼<左>(千載202・堀河百首472)
  ひとつに思あまる時はいはんかたなくす
  こきことのはあはれなるうたをよみをきし
  のはるへきかたみをとゝめてふかき山さと世
  はなれたるうみつらなとにはひかくれ」13オ
0142【はひかくれぬるおりかし】-此おりかし心得カタシト/養松講尺ノ時アリ一宮ノ/本ニはひカクレぬかしトアリ/只此心ナリト云々<朱>(付箋01)
  ぬるおりかし・わらはに侍しとき女房なと
  の物かたりよみしをきゝていとあはれに
  かなしく心ふかきことかなと涙をさへなん
  おとし侍しいま思には・いとかる/\しく・こと
  さらひたる事也・心さしふかゝらんおとこ
  をゝきてみるめのまへにつらきことありとも
  人の心をみしらぬやうに・ゝけかくれて人
  をまとはし心をみんとするほとになかき世の
  物おもひになるいとあちきなき事也・心
  ふかしやなとほめたてられてあはれすゝみ」13ウ
  ぬれはやかてあまになりぬかし思ひたつ
  ほとはいと心すめるやうにて世にかへり見
  すへくもおもへらす・いてあなかなしかくはた
0143【いてあなかなし】-知人ノ訪詞也
  おほしなりにけるよなとやうにあひしれる
  人きとふらひひたすらにうしともおもひ
  はなれぬ男きゝつけて涙おとせは・つかふ
  人ふるこたちなと君の御心はあはれなり
0144【こたち】-女房惣名(明融本0122)
  けるものをあたら御身をなといふ・みつから
  ひたひかみをかきさくりてあへなく心ほそ
0145【ひたひかみ】-額髪
  けれはうちひそみぬかししのふれと涙」14オ
  こほれそめぬれはおり/\ことにえねむし
  えす・くやしきことおほかめるに仏も
  中/\心きたなしとみ給つへし・にこりに
  しめる
とよりもなまうかひにてはかへり
  てあしきみちにもたゝよひぬへくそ
  おほゆるたえぬすくせあさからてあま
  にもなさてたつねとりたらんも・やかてそ
  のおもひいてうらめしきふしあらさらん
  や・あしくもよくもあひそひて・とあらむ
  おりもかゝらんきさみをもみすくしたらん」14ウ
  中こと(と$そ<朱>)契ふかくあはれならめわれも人も
  うしろめたく心をかれしやは・又なのめに
  うつろふかたあらむ人をうらみて・けしき
  はみそむかんはたおこかましかりなん・心は(△&は)
  うつろふかたありともみそめし心さしいと
  おしくおもはゝさるかたのよすかにおもひ
  てもありぬへきにさやうならむたちろき
  にたへぬへきわさなり・すへてよろつの
0146【すへてよろつ】-紫上当此品
  事なたらかにゑんすへきことをはみし
  れるさまにほのめかしうらむへからむふし」15オ
  をもにくからすかすめなさはそれにつけて
  あはれもまさりぬへし・おほくはわか心も
  みる人からおさまりもすへし・あまりむ
0147【あまりむけに】-夕顔上当此品(明融本0125)
  けにうちゆるへ見はなちたるも心やすく
  らうたきやうなれと・をのつからかろきかた
  にそおほえ侍かし・つなかぬ舟のうきたる
  ためし
けにあやなし・さは侍らぬかといへ
  は・中将うなつくさしあたりてをかしとも
0148【中将うなつく】-第六段
0149【さしあたりて】-馬頭之詞第七段
  あはれとも心にいらむ人のたのもしけ
  なきうたかひあらむこそ大事なるへけ」15ウ
  れ・わか心あやまちなくてみすくさはさし
  なをしても・なとか見さらむとおほえたれと・
  それさしもあらし・ともかくもたかふへき
  ふしあらむを・のとやかにみしのはむより
  ほかにます事あるましかりけりといひ
  て・わかいもうとの姫君はこのさためにか
0150【わかいもうとの姫君】-中将葵の上の心むけこれにかなへりとおもへり
  なひ給へりとおもへは・君のうちねふりて
  ことはませ給はぬをさう/\しく心やましと(く&と)
  おもふ・むまのかみ物さためのはかせになり
  てひゝらきゐたり・中将はこのことはりきゝ」16オ
  はてむと心いれてあへしらひゐ給へり・
  よろつの事によそへておほせ・きのみちの
0151【よろつの事に】-馬頭第八段(明融本0134)
0152【おほせ】-思也
  たくみのよろつの物を心にまかせてつく
  りいたすも・りむしのもてあそひものゝそ
  の物とあともさ(さ+た<朱>)まらぬはそはつきされは
0153【されはみ】-左道
  みたるもけにかうもしつへかりけりと時に
  つけつゝさまをかへていまめかしきにめ
  うつりてをかしきもあり・大事としてまこ
  とにうるはしき人のてうとのかさりとする
0153【てうと】-調度
  さたまれるやうある物を・なんなくし」16ウ
  いつる事なんなをまことのものゝ上手
  は・さまことにみえわかれ侍・又ゑところに
  上手おほかれとすみかきにえらはれて・つ
  きつきにさらにおとりまさるけちめ・ふと
  しもみえわかれす・かゝれと人の見をよはぬ
  ほうらいの山あらうみのいかれるいほのすか
  たから国のはけしきけたものゝかたち・め
  に見えぬおにのかほなとのおとろ/\しく
  つくりたる物は心にまかせてひときはめ
  おとろかして・しちにはにさらめとさてありぬ」17オ
  へし・世のつねの山のたゝすまひ水の
  なかれめにちかき人の家ゐありさま・けに
  と見えなつかしくやはらいたるかたなとを
  しつかにかきませてすくよかならぬ山のけ
0154【すくよか】-健
  しきこふかくよはなれてたゝみなし・けち
  かきまかきのうちをはその心しらひをき
0155【心しらひ】-心使也
  てなとをなん・上手はいといきほひことにわろ
  物はおよはぬ所おほかめる・てをかきたるにも
  ふかき事はなくてこゝかしこのてんなかに
  はしりかき・そこはかとなくけしきは」17ウ
  めるはうち見るにかと/\しくけしきた
  ちたれと・なをまことのすちをこまやかに
  かきえたるはうはへのふてきえて見ゆれ
  と・いまひとたひとりならへてみれは猶しち
0156【しち】-実
  になんよりける・はかなき事たにかくこそ
  侍れまして人の心の時にあたりてけ
  しきはめらむ・みるめのなさけをはえたのむ
  ましくおもふ給へて侍る・そのはしめの事
  すき/\しくとも申侍らむとてちかく
  ゐよれは・君もめさまし給ふ中将いみ」18オ
  しくしんしてつらつえをつきてむかひ
0157【つらつえをつきて】-\<朱合点> 古今歎(+コル<朱>)山としたかく成ぬれハ(つら$ツラ)杖のみそ先つかれける(古今1059、河海抄・孟津抄)
  ゐ給へり・のりの師の世のことはりときゝかせ
  む所の心ちするも・かつはをかしけれとかゝる
  ついては・をの/\むつこともえしのひとゝ
  めすなんありける・はやうまたいと下らう
0158【はやうまたいと下らうに】-第九段馬頭さきにといふ詞也(明融本0136)
  に・侍し時あはれとおもふ人侍き・きこえさ
  せつるやうにかたちなといとまほにも侍
  らさりしかはわかきほとのすき心には・この
  人をとまりにともおもひとゝめ侍らす
  よるへとは思ひなからさう/\しくて・とかく」18ウ
  まきれ侍しをものゑんしをいたくし侍
  しかは・心つきなくいとかゝらておいらか
  ならましかはとおもひつゝ・あまりいとゆる
  しなくうたかひ侍しもうるさくて・かく
  かすならぬ身をみもはなたてなとかくし
  もおもふらむと心くるしきおり/\も侍
  て・しねんに心おさめらるゝやうになん侍
  し・この女のあるやう・もとよりおもひいた
  らさりける事にも・いかてこの人のため
  にはとなきてをいたしをくれたるすちの」19オ
  心をもなをくちおしくはみえしとおもひ
  はけみつゝ・とにかくにつけてものまめ
  やかにうしろみつゆにても心にたかふこと
  はなくもかなと思へりしほとに・すゝ(く&ゝ)める
0159【すゝめる】-健強
  かたと思ひしかと・とかくになひきてなよひ
  ゆき・みにくきかたちをもこの人に見や
  うとまれんと・わりなくおもひつくろひう
0160【うとき人に見えは】-後カサセトモ老(後撰96、源注拾遺) 外人白氏
  とき人に見えは・おもてふせにや思はんとはゝ
0161【おもてふせ】-\<朱合点> 面目もあるましきなり(明融本0138)
  かりはちてみさをにもてつけて見な
  るゝまゝに・心もけしうはあらす侍しかと」19ウ
  たゝこのにくきかたひとつなん・心おさ
  めす侍し・そのかみおもひ侍しやう・かう
  あなかちにしたかひをちたる人なめり
  ・いかてこるはかりのわさしておとして・こ
0162【このかた】-物見しの方(明融本0139)
  のかたもすこしよろしくもなり・さかな
  さもやめむとおもひて・まことにうしなとも
  おもひてたえぬへきけしきならは・かは
  かりわれにしたかふ心ならは・おもひこり
  なむと思給へえて・ことさらになさけなく
  つれなきさまをみせてれいのはらたち」20オ
  ゑんするに・かくおそましくはいみしき
0163【おそましく】-をそ/\しきナリ(明融本0140)
  契りふかくともたえて又(又+見し<朱>)かきりとおもはゝ
  かくわりなきものうたかひはせよゆく
  さきなかくみえむとおもはゝつらきこと
  ありともねんしてなのめにおもひなりて・
  かゝる心たにうせなはいとあはれとなん思
  ふへき・人なみ/\にもなりすこしおと
  なひんにそへて(て+も・)またならふ人なくあるへき
  やうなとかしこくおしへたつるかなと
  思給へて・我たけくいひそし侍に・すこし」20ウ
  うちわらひてよろつにみたてなく物
  けなきほとをみすくして人かすなる世もや
  と・まつかたはいとのとかにおもひなされて
  心やましくもあらす・つらき心をしのひ
  ておもひなをらんおりをみつけんと・とし
  月をかさねん・あいなたのみはいとくるしく
  なんあるへけれは・かたみにそむきぬへき
0164【かたみに】-たかひにナリ(明融本0141)
  きさみになむあると・ねたけにいふにはら
0165【はらたゝしく】-男(明融本0142)
  たゝしくなりて・にくけなる事ともを
  いひはけまし侍に女もえおさめぬすち」21オ
  にて・およひひとつをひきよせてくひて
  侍りしを・おとろ/\しくかこちてかゝる
0166【おとろ/\しく】-おとこ
  きすさへつきぬれは・いよ/\ましらひを
  すへきにもあらすはつかしめ給める・つかさ
  くらゐいとゝしくなにゝつけてかは人めかん・
  世をそむきぬへき身なめりなといひお
  としてさらはけふこそはかきりなめれと・この
  およひをかゝめてまかてぬ
    てをおりてあひ見し事をかそふれは
0167【てをおりて】-馬頭
  これひとつやは君かうきふしえうらみし」21ウ
  なといひ侍れはさすかにうちなきて
    うきふしを心ひとつにかそへきて
0168【うきふしを】-女返し(明融本0143)
  こや君かてをわかるへきおりなといひし
  ろひ侍しかとまことにはかはるへきことゝ
  も思給へすなからひころふるまてせうそ
0169【せうそこ】-書ならて物いふをも消息といふ(大島本0143)
  こもつかはさす・あくかれまかりありくに
  りむしのまつりのてう(う$うか<朱>)くに夜ふけてい
  みしうみそれふる夜これかれまかりあか
  るゝ所にておもひめくらせは・猶家ちと思
  はむかたは又なかりけり・内わたりのたひ」22オ
0170【又】-まだ(明融本0145)
  ねすさましかるへくけしきはめるあ
0171【けしきはめるあたり】-木枯
  たりは・そゝろさむくやとおもふ給へられし
  かは・いかゝおもへるとけしきも見かてら雪
0172【おもへる】-ユヒクヒ
  をうちはらひつゝ・なま人わるくつめくは
  るれとさりともこよひ日ころのうら
  みはとけなむと思給へしに・火ほのかに
  かへにそむけなへたるきぬとものあつこへ
0173【あつこへたる】-わたのいりたる也(明融本0146)
  たるおほいなるこにうちかけて・ひき
  あくへきものゝかたひらなとうちあけて
0174【かたひら】-帷
  こよひはかりやとまちけるさまなり・」22ウ
  されはよと心おこりするにさうしみは
  なし・さるへき女房ともはかりとまりて
  おやの家にこのよさりなんわたりぬると
  こたへ侍り・えんなる哥もよますけし
  きはめるせうそこもせていとひたやこ
0175【ひたやこもり】-\<朱合点> やかてこもりたる也(明融本0147) うきによりひたやこもりとおもへともあふみの道ハうちいてゝ見よ和泉式部(和泉式部日記57、異本紫明抄・紫明抄・河海抄・孟津抄)
  もりになさけなかりしかは・あへなき心
  ちしてさかなくゆるしなかりしも我を
  うとみねとおもふかたの心やありけむと・
  さしもみ給へさりしことなれと心やまし
  きまゝにおもひ侍しに・きるへき物つねよ」23オ
  りも心とゝめたる色あひしさまいとあ
  らまほしくて・さすかにわか見すてん後
  をさへなんおもひやりうしろみたりし・
  さりともたえておもひはなつやうはあら
  しと思ふ給へてとかくいひ侍しを・そむき
  もせすとたつねまとはさむともかくれ
  しのひすかゝやかしからすいらへつゝ・たゝ
0176【かゝやかしからす】-恥カゝヤク心也
  ありしなからはえなんみすくすましき・
  あらためてのとかにおもひなから(から$<朱>ら<墨>)はなん・あひ
  みるへきなといひしを・さりともえおもひ」23ウ
  はなれしと思給へしかは・しはしこらさむ
  の心にてしかあらためむともいはすいたく
  つなひきてせしあひたに・いといたく
0177【つなひきて】-\<朱合点> 奥入引よせハ只ニハよらて春駒のつな引するそなわたつときく(拾遺集1185・拾遺抄445、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
  おもひなけきてはかなくなり侍にしかは・
  たはふれにくゝなむおほえ侍し・ひとへに
0178【たはふれにくゝ】-\<朱合点> 古ありぬやと心見かてらあひみねハたはふれにくきまてそ恋しき(古今1025、異本紫明抄・紫明抄・河海抄・一葉抄・細流抄・休聞抄・紹巴抄・孟津抄・岷江入楚)
  うちたのみたらむかたはさはかりにてあ
  りぬへくなんおもひ給へいてらるゝ・はか
  なきあた事をもまことの大事をも
  いひあはせたるにかひなからす・たつた姫と
0179【たつた姫】-\<朱合点> 後みることに秋にもなるかたつた姫紅葉染んとや山のてるらん(後撰378、休聞抄・紹巴抄・孟津抄・岷江入楚)
  いはむにもつきなからす・たなはたのて」24オ
0180【たなはた】-\<朱合点> 後逢ことは七夕ツメニ同しくて立ぬ(あ$ぬ)ふわさハあへすそ有ける(後撰225、異本紫明抄・紫明抄・河海抄・孟津抄・一葉抄・細流抄・休聞抄・紹巴抄・岷江入楚)
  にもおとるましく・そのかたもくしてう
  るさくなん侍しとて・いとあはれとおもひ
  いてたり中将そのたなはたのたちぬふ
  かたを・のとめて・なかき契にそあえまし
  けに・そのたつた姫のにしきにはまたし
  くものあらし・はかなき花紅葉といふも
  おりふしの色あひつきなくはか/\し
  からぬは・露のはえなくきえぬるわさなり・
  さあるによりかたき世とはさためかねたる
  そやといひはやし給ふ・さて又おなしころ」24ウ
0181【さて又】-第十一段馬頭か詞(明融本0154)
0182【おなしころ】-木枯
  まかりかよひしところは人もたちまさり
  心はせまことにゆへありとみえぬへく
0183【心はせ】-操
  うちよみはしりかきかいひくつまをと
0184【うちよみ】-哥事(明融本0156)
  てつきくちつきみなたと/\しからす
  みきゝわたり侍き・みるめもこともなく
  侍しかはこのさかなものをうちとけたる・
0185【このさかなもの】-さきの女也(明融本0157)
  かたにて時/\かくろへみ侍しほとは・こよ
  なく心とまり侍きこの人うせて後
  いかゝはせむあはれなからも・すきぬるはかひ
  なくてしは/\まかりなるゝには・すこし」25オ
  まはゆくえんにこのましき事はめに
  つかぬ所あるに・うちたのむへくは見えす
  かれ/\にのみみせ侍程に・しのひて心かは
  せる人そありけらし・神無月のころ
  をひ月おもしろかりし夜うちより日(日#<朱>)
  まかて侍に・あるうへ人きあひてこの車
  にあひのりて侍れは・大納言の家に
  まかりとまらむとするにこの人いふやう
  こよひ人まつらむやとなんあやしく
  心くるしきとて・この女の家はたよき」25ウ
  ぬみちなりけれはあれたるくつれ
  より池の水かけみえて月たにやとる
0186【みえて】-\<朱合点>
  すみかをすきむもさすかにており侍ぬ
0187【おり侍ぬ】-馬頭車より(明融本0160)
  かし・もとよりさる心をかはせるにやあ
  りけん・この男いたくすゝろきてかとち
  かきらうのすのこたつものにしりかけて(△&て)・
  とはかり月をみる・きくいとおもしろく
0188【とはかり】-シハシ也千
  うつろひわたり風にきほへるもみちの
  みたれなとあはれとけにみえたり・ふと
  ころなりけるふえとりいてゝふきならし」26オ
  かけもよしとつゝしりうたふほとに・
0189【かけもよし】-\<朱合点> 律飛鳥井ニやとりハすへしかけ<木也>もよしみもひ<寒水也>もさむしみまくさもよし(催馬楽「飛鳥井」8、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
0190【つゝしり】-[口+幾]也
  よくなるわこむをしらへとゝのへたりける
  うるはしくかきあはせたりしほと・けしう
  はあらすかしりちのしらへは女の物や
0191【りちのしらへ】-律平調
  はらかにかきならして・すのうちよりき
  こえたるもいまめきたるものゝこゑな
  れは・きよくすめる月におりつきなから
  す男いたくめてゝすのもとにあゆみきて・
  にはのもみちこそふみわけたるあとも
0192【にはのもみちこそ】-\<朱合点> 秋ハきぬ紅葉ハ宿にふりしきぬ道ふみ分てとふ人もなし(古今287・猿丸集41、異本紫明抄・紫明抄・河海抄・弄花抄・一葉抄・細流抄・休聞抄・紹巴抄・孟津抄花屋抄・岷江入楚)
  なけれなと・ねたますきくをおりて」26ウ
0193【ねたます】-妬
    ことのねも月もえならぬやとなから
0194【ことのねも】-かよふ男(明融本0162)
  つれなき人をひきやとめけるわろかめり
0195【人】-馬頭ヲいふ
  なといひていまひとこゑきゝはやすへ
0196【いひて】-男
  き人のある時てなのこひ給そなと・いたく
0197【人の】-男自ヲ指詞也
  あされかゝれは女こゑいたうつくろひて
    木からしに吹あはすめるふえのねをひ
0198【木からしに】-女返し(明融本0163)
  きとゝむへきことのはそなきとなまめき
  かはすににくゝなるをもしらて・又さうの
0199【又さうのことを】-女(明融本0164)
  ことをはむしきてうにしらへていまめかし
  くかいひきたるつまをとかとなきには」27オ
  あらねとまはゆき心地なんし侍し・たゝ
  時/\うちかたらふみやつかへ人なとのあ
  くまてされはみすきたるは・さても見るかき
  りはをかしくもありぬへし時/\にても
  さる所にてわすれぬよすかとおもふ給へん(△△&へん)
  には・たのもしけなくさしすくいたりと心
  をかれて・その夜の事にことつけてこそ
  まかりたえにしか・このふたつのことをおもふ
0200【このふたつ】-物語事
  給へあはするにわかき時の心にたに猶さや
  うにもていてたる事はいとあやしく」27ウ
  たのもしけなくおほえ侍き・いまよりのちは
  ましてさのみなんおもふ給へらるへき御心
  のまゝに・おらはおちぬへきはきの露・ひ
0201【おらはおちぬへき】-\<朱合点> 古今折てみハおちそしぬへき秋萩の(古今223・古今六帖580、異本紫明抄・紫明抄・河海抄・孟津抄・岷江入楚)
  ろはゝきえなんと見る玉さゝのうへの
0202【玉さゝのうへのあられ】-\<朱合点> いつくにかやとりハすらんあさひこのさすや岡辺の玉さゝの霰(古今六帖269・1321、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄・孟津抄・岷江入楚)
  あられ
とのえんにあへかなるすき/\しさ
  のみこそをかしくおほさるらめ・いまさり
  ともなゝとせあまりかほとにおほしゝり
0203【なゝとせあまりかほとに】-源十六
  はへなんなにかしかいやしきいさめにて
  すきたはめらむ女に・心をかせ給へあやま
0204【すき】-数寄(明融本0167)
  ちして見む人のかたくなゝる名をも」28オ
  たてつへき物なりといましむ・中将れい
0205【中将れいの】-第十二段(明融本0168)
  のうなつく君すこしかたゑみてさる事
0206【君】-源氏(明融本0169)
  とはおほすへかめり・いつかたにつけても人わ
  るくはしたなかりけるみ物かたりかな
  とてうちわらひおはさうす・中将なにかし
0207【おはさうす】-おはしますなり(明融本0170)
0208【なにかしは】-第十三段
  はしれものゝ物かたりをせむとていとしのひて
0209【しれもの】-只ワロキモノ也千
  みそめたりし人のさてもみつへかりし
  けはひなりしかは・なからふへきものとし
  もおもふ給へさりしかと・なれゆくまゝに
  あはれとおほえしかはたえ/\わすれぬ物に」28ウ
  思給へしを・さはかりになれはうちたのめる
  けしきもみえき・たのむにつけてはうら
  めしとおもふ事もあらむと心なからお
  ほゆるおり/\も侍しをみしらぬやうにて
  ひさしきとたえをも・かうたまさかなる人
  ともおもひたらすたゝあさゆふにもて
  つけたらむありさまにみえて心くるしかり
  しかは・たのめわたる事なともありき
  かし・おやもなくいと心ほそけにてさら
0210【おやもなく】-女のありさま(明融本0171)
  はこの人こそはとことにふれておもへるさ」29オ
  まもらうたけなりき・かうのとけきに
  おたしくてひさしくまからさりしころ・
  このみ給ふるわたりよりなさけなく
  うたてある事をなん・さるたよりありて・
  かすめいはせたりける後にこそきゝ
  侍しか・さるうき事やあらむともしらす
  心にわすれすなからせうそこなともせて
  ひさしく侍しに・むけにおもひしほれ(れ+て<朱>)
  (+こゝろほそかりけれはおさなきものなとも<朱>)ありしにおもひわつらひて・なてしこの
0211【おさなきものなとも】-玉カツラノ内侍ノカミト後ニミエケリ(明融本0172)
  花をおりておこせたりしとてなみた」29ウ
0212【なみたくみたり】-中将(明融本0173)
  くみたり・さてそのふみのことはゝとゝひ
  給へはいさやことなる事もなかりきや
0213【いさや】-中将(明融本0174)
    山かつのかきほあるともおり/\に
0214【山かつの】-女(明融本0175)
  あはれはかけよなてしこの露おもひ
  いてしまゝにまかりたりしかはれいの
  うらもなきものからいとものおもひかほ
  にて・あれたる家の露しけきをなか
  めてむしのねにきほへるけしき・むかし
0215【きほへる】-あらそふ心
0216【むかし物かたりめきて】-うつほとしかけり(り$カ<朱>)女事
  物かたりめきておほえ侍し
    さきましる色はいつれとわかねとも」30オ
0217【さきましる】-中将返し(明融本0176)
  猶常夏にしくものそなきやまとなてし
0218【やまとなてしこ】-\<朱合点> 古今我のみや哀と(古今244・古今六帖3624・寛平后宮歌合80・素性集5、河海抄・孟津抄)
  こをはさしをきて・まつちりをたにとおや
0219【ちりをたに】-\<朱合点> 古今<墨>ちりをたにすへしとそおもふ咲しよりいもとわかぬる床夏のはな<朱>(古今167・古今六帖3625・和漢朗詠299・躬恒集273、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
  の心をとる
    うちはらふ袖も露けきとこなつに
0220【うちはらふ】-又女房(明融本0178)
  あらし吹そふ秋もきにけりとはかなけに
  いひなして・まめ/\しくうらみたるさま
  もみえす涙をもらしおとしても・いとはつ
  かしくつゝましけにまきらはしかくして・
  つらきをもおもひしりけりとみえむは・わり
  なくくるしきものと思ひたりしかは・心」30ウ
  やすくて又とたえをき侍しほとに・あとも
  なくこそかきけちてうせにしか・また世に
  あらははかなきよにそさすらふらん・あはれと
  おもひしほとにわつらはしけにおもひまと(と$つ<朱>)
  はすけしきみえましかは・かくもあくから
  さゝ(ゝ$ザ)らまし・こよなきとたえをかす・さる
  ものにしなしてなかくみるやうも侍なまし・
  かのなてしこのらうたく侍しかは・いか
  てたつねむとおもひ給るを・いまもえこそ
  きゝつけ侍らね・これこそのたまへるはか」31オ
  なきためしなめれ・つれなくてつらしと
  おもひけるもしらてあはれたえさりしも
  やくなきかたおもひなりけり・いまやう/\
  わすれゆくきはにかれはたえしもおもひ
0221【かれは】-女
  はなれす・おり/\・人やりならぬむねこかるゝ
0222【人やりならぬ】-\<朱合点> 古今人やりのみちならなくに大方ハ(古今388、異本紫明抄・紫明抄・河海抄・孟津抄)
0223【むねこかるゝ】-\<朱合点> 後身のうきをしれハはしたに成ぬへみおもへハむねのこかれのみする(後撰1275、河海抄)
  ゆふへもあらむとおほえ侍・これなんえたも
  つましくたのもしけなきかたなりける・
  されはかのさかな物もおもひいてあるかた
0224【されはかの】-中将詞第十四段(明融本0180)
0225【さかな物】-指食人
  にわすれかたけれと・さしあたりて見んには
  わつらはしく・よくせすはあきたき事」31ウ
  もありなんや・ことのね(ね=ねイ<朱>)すゝめけんかと/\し
  さも・すきたるつみおもかるへし・この心もと
0226【心もとなき】-中将のかよへる女
  なきもうたかひそふへけれは・いつれとつゐ
  におもひさためすなりぬるこそ・世中や
  たゝかくこそ・とり/\にくらへくるし
  かるへき・このさま/\のよきかきりをとりくし・
  なんすへきくさはひませぬ人はいつこに
0227【なん】-難
  かはあらむ・きち上天女をおもひかけむと
  すれはほうけつきくすしからむこそ又
  わひしかりぬへけれとて・みなわらひぬ・式部か」32オ
0228【式部か所にそ】-第十五段中将の詞(明融本0182)
  所にそけしきある事はあらむ・すこし
  つゝかたり申せとせめらる・しもかしもの
  なかにはなてう事か・きこしめし所侍ら
  むといへと・頭の君まめやかにおそしとせめ
  給へは・なに事をとり申さんとおもひ
0229【なに事をとり】-式部か詞第十六段(明融本0183)
  めくらすに・また文章の生に侍し時かし
  こき女のためしをなんみ給へし・かのむま
  のかみ申給へるやうにおほやけことをも
  いひあはせ・わたくしさまの世にすまふへき
  心をきてをおもひめくらさむかたも・いたり」32ウ
  ふかくさえのきは・なま/\のはかせはつかしく
  すへてくちあかすへくなん侍らさりし・
  それはあるはかせのもとにかくもんなとし
  侍とてまかりかよひしほとに・あるしのむ
  すめともおほかりときゝ給て・はかなき
  ついてにいひよりて侍しを・おやきゝつ
  けてさかつきもていてゝ・わかふたつ
0230【わかふたつ】-\<朱合点>
  みちうたふきけとなんきこえこち
  侍しかと・おさ/\うちとけてもまからす・か
  のおやの心をはゝかりてさすかに・かゝつらひ侍」33オ
  しほとにいとあはれにおもひうしろみ・ねさ
  めのかたらひにも・身のさへつきおほやけに
  つかうまつるへきみち/\しきことを
  おしへて・いときよけにせうそこふみ
  にも・かんなといふものかきませす・むへ/\
  しくいひまはし侍にをのつからえまかり
  たえて・そのものを師としてなんわつか
  なるこしおれふみつくる事なとな
  らひ侍しかは・いまにそのおんはわすれ
  侍らねと・なつかしきさいしと・うちたの」33ウ
  まむにはむさいの人なまわろならむふる
  まひなとみえむに・はつかしくなんみえ侍し・
  まいて君達の御ためはか/\しく・した
  たかなる御うしろみは・なにゝかせさせ給はん
  はかなしくちおしとかつみつゝも・たゝ我心
  につき・すくせのひくかた侍めれはおのこしも
  なん・しさひなきものは侍めると申せは・のこり
  をいはせむとてさて/\をかしかりける女
  かなとすかい給を心はえ(え&え、え=得)なから・はなのわたり・
  おこつきてかたりなす・さていとひさし」34オ
  くまからさりしに・ものゝたよりにたち
  よりて侍れは・つねのうちとけゐたるかた
  には侍らて・心やましきものこしにてなん
  あひて侍る・ふすふるにやとおこかまし
  くも又よきふしなりともおもひ給るに・
  このさかし人はたかる/\しきものゑんし
  すへきにもあらす・世のたうりをおもひとり
  てうらみさりけり・こゑもはやりかにて
  いふやう・月ころふひやうおもきにたえかね
  てこくねちのさうやくをふくして」34ウ
  いとくさきによりなんえたいめむたま
  はらぬ・まのあたりならすともさるへからん・
  さうしらはうけ給はらむと・いとあはれに
0231【さうし】-雑事
  むへ/\しくいひ侍・いらへになにとかは
  たゝうけ給はりぬとてたちいて侍に・さう
  さうしくやおほえけんこのかうせなん時に・
  たちより給へとたかやかにいふを・きゝす
  くさむもいとおし・しはしやすらふへきに
  はた侍らねは・けにそのにほひさへはなやか
  にたちそへるも・すへなくて・にけめをつか」35オ
0232【すへ】-便
  ひて
    さゝかにのふるまひしるきゆふくれに
0234【さゝかにの】-式部(明融本0186)
  ひるますくせといふかあやなさいかなる
  事つけそやといひもはてす・はしりいて
  侍ぬるにおひて
    あふことの夜をしへたてぬ中ならは
0235【あふことの】-女返し(明融本0188)
  ひるまもなにかまはゆからましさすかにく
  ちとくなとは侍きと・しつ/\と申せは
  君達あさましとおもひて・そら事とて
0236【君達あさましとおもひて】-第十七段(明融本0189)
  わらひ給ふいつこのさる女かあるへきおひ」35ウ
  らかにおにとこそむかひゐたらめ・むくつけき
0237【むくつけき】-ヲソロシキ心ナリ(明融本0190) おそろしき心ナリ
  事と・つまはしきをして・いはむかたなし
0238【つまはしき】-ハチシムル心
  と・式部をあはめにくみてすこしよろし
0239【あはめにくみて】-イサメニクム也
  からむ事を申せとせめ給へと・これより
  めつらしき事はさふらひなんやとて
  をり・すへて男も女もわろものはわつかに
0240【すへて男も女も】-第十八段惣説也右馬頭カ詞也ヒハン者也<右> 大弁<ヘン>如訥<トツノ>孝子経<左>
  しれるかたの事をのこりなくみせつく
  さむとおもへるこそいとおしけれ三史・五経
0241【三史】-\<朱合点> 史記カン書後カン書

  みち/\しきかたをあきらかにさとりあか
  さんこそあいきやうなからめ・なとかは女と」36オ
0242【あいきやうなからめ】-女ハアシキ也
0243【なとかは女と】-紫式カ才ノホト見タリ
  いはんからに世にある事のおほやけわた
0244【いはんからに】-一向シラヌモ口惜ト也
  くしにつけて・むけにしらすいたらすし
  もあらむ・わさとならひまねはねとすこし
  もかとあらむ人のみゝにもめにもとまる(△&る)事
  しねんにおほかるへし・さるまゝにはまむな
0245【しねんにおほかるへし】-三史五経迄ハコト/\シキノ心也
0246【さるまゝに】-サヤウニ物ヲシリタレハトテト也
  をはしりかきて・さるましきとちの女
  ふみに・なかはすきてかきすくめたるあ
  なうたてこの人のたをやかならまし
0247【たをやかならましかは】-文カキノコト
  かはとみえたり・心ちにはさしも思はさらめ
  と・をのつからこは/\しきこゑによみ」36ウ
  なされなとしつゝ・ことさらひたり・上らう
  のなかにもおほかる事そかし・うたよむと
0248【うたよむと】-ヲシヘ也
  おもへる人のやかてうたにまつはれをかしき
  ふる事をもはしめよりとりこみつゝ・
  すさましきおり/\よみかけたるこそ
  ものしき事なれ・返しせねはなさけ
  なし・えせさらむ人ははしたなからん・
  さるへきせちゑなと五月のせちにいそ
  きまいるあした・なにのあやめもおもひし
  つめられぬにえならぬねをひきかけ・九日」37オ
0249【えならぬ】-ゑならぬ多意アリ<右>(明融本0196) タゝナラヌ也イソカシキニエンナラヌ也<左>
0250【ねをひきかけ】-あやめの哥をよみかくる也(明融本0197)
  のえんにまつかたき詩の心を思めくらし・
  いとまなきおりにきくの露をかこち
  よせなとやうのつきなきいとなみにあは
  せ・さならてもをのつからけにのちにおもへは
  をかしくもあはれにもあへかりける事の・
  そのおりに・つきなくめにとまらぬなとを・
  おしはからすよみいてたる中/\心をくれて
  みゆ・よろつの事になとかはさてもとおほ
0251【なとかはさてもと】-ナトカハ情タゝヌ事目安キニテハアラントノ心
  ゆるおりから・時/\おもひわかぬはかりの心にて
0252【おもひわかぬはかりの】-一向無分別ト少分別ト両説<右> 後ニヲモヘハヲカシクモ有ヘキト<頭>
  は・よしはみなさけたゝさらむなん・めやす」37ウ
  かるへき・すへて心にしれらむ事をも・しらす
  かほにもてなしいはまほしからむ事をも
  ひとつふたつのふしはすくすへくなん
  あへかりけるといふにも・君は人ひとりの
0253【君は】-源氏
  御ありさまを心のうちにおもひつゝけ給・これ
  にたらす又さしすきたる事なくも
0254【たらす】-不足(明融本0200)
  のし給けるかなとありかたきにも・いとゝ
  むねふたかる・いつかたによりはつとも
  なく・はて/\はあやしき事ともにな
  りてあかし給つ・からうしてけふは日のけ」38オ
0255【からうして】-やう/\歟(明融本0201)
  しきもなをれり・かくのみこもりさふらひ
  給も大殿の御心いとおしけれはまかて給
  へり・おほかたのけしき人のけはひも
0256【おほかたのけしき】-あふひの上(明融本0202)
  けさやかにけたかくみたれたる所まし
  らす・猶これこそはかの人々のすてかたく
  とりいてし・まめ人にはたのまれぬへ
  けれとおほすものからあまりうるはしき
  御ありさまのとけかたくはつかしけに
  おもひしつまり給へるを・さう/\しくて中納
0257【さう/\しく】-寂寞
0258【中納言の君】-葵女房須磨ヘウツロヒノヲリ一夜立トマル人
  言の君・中つかさなとやうのをしなへ」38ウ
0259【中つかさ】-末摘巻ニアリ
  たらぬ・わか人ともにたはふれ事なと
  の給つゝ・あつさにみたれ給へる御ありさま
  を見るかひありとおもひきこえたり・おとゝ
  もわたり給てかくうちとけ給へれはみ
  木丁へたゝ(ゝ$てゝ<朱>)おはしまして御ものかたりき
  こえ給を・あつきにとにかみ給へは人々わらふ・
  あなかまとてけうそくによりおはすいと
0260【あなかま】-\<朱合点> あなかしかまし也<右墨>(明融本0205) 床チカシアナカマ<頭朱>
  やすらかなる御ふるまひなりや・くらくな
  るほとにこよひなかゝみちよりはふた
0261【なかゝみ】-\<朱合点> 天一方事(明融本0206)
  かりて侍けりときこゆ・さかしれいは」39オ
0262【さかし】-サソカシ也賢ケニト云
  いみ給ふかたなりけり・二条院にもおなし
0263【二条院】-法興院模之
  すちにていつくにか・たかへんいとなや
  ましきにとておほとのこもれり・いとあし
  き事なりとこれかれきこゆきのかみに
  てしたしくつかうまつる人の中河の
0264【中河】-京極川也カモ川ト白川トノ中ノ故ニ中川
  わたりなる家なんこのころ水せき
  いれてすゝしきかけに侍ときこゆ
  いとよかなり・なやましきにうしなから
  ひきいれつへからむ所をとの給・しのひ/\
  の御方たかへ所はあまたありぬへけれと・」39ウ
  ひさしくほとへてわたり給へるにかたふ
  たけてひきたかへ・ほかさまへとおほさんは
  いとおしきなるへし・きのかみにおほせ事
  給へはうけ給なからしりそきて・いよのかみ
0265【しりそき】-退
  のあそむの家につゝしむ事侍て女房
  なんまかりうつれるころにて・せはき所に
  侍れはなめけなることや侍らむとしたに
  なけくをきゝ給て・その人ちかゝらむなん
  うれしかるへき女とをきたつ(つ$ひ<朱>)ねはものおそ
  ろしき心ちすへきを・たゝその木丁の」40オ
  うしろにとの給へは・けによろしきおまし
  所にもとて人はしらせやる・いとしのひて
  ことさらに・こと/\しからぬ所をといそき
  いて給へは・おとゝにもきこえ給はす・御とも
  にもむつましきかきりしておはしましぬ・
  にはかにとわふれと人もきゝいれす・心
  殿の東おもてはらひあけさせてかりそめ
  の御しつらひしたり水の心はへなとさる
  かたにをかしくしなしたり・ゐなかいゑた
  つしはかきしてせむさいなと心とめてうへ」40ウ
  たりかせすゝしくて・そこはかとなき
  むしのこゑ/\きこえほたるしけくとひ
  まかひてをかしきほとなり人々わたとの
  よりいてたるいつみにのそきゐてさけの
  む・あるしもさかなもとむこゆるきの
0266【さかなもとむと】-\<朱合点> 催馬楽ニアリ
0267【こゆるきの】-\<朱合点> 同哥
  いそきありくほと・君はのとやかになかめ
  給てかの中のしなにとりいてゝいひし・こ
  のなみならむかしとおほしいつ・おもひ
  あかれるけしきにきゝをき給へるむす
  めなれは・ゆかしくてみゝとゝめ給へるにこ」41オ
  のにしおもてにそ人のけはひする・きぬの
  をとなひはら/\としてわかきこゑとも
  にくからすさすかにしのひて・わらひなと
  するけはひことさらひたり・かうしをあけ
  たりけれと・かみ心なしとむつかりておろ
  しつれは・火ともしたるすきかけさうしの
  かみよりもりたるに・やをらより給て見ゆ
  やとおほせとひまもなけれ(れ+は<朱>)しはしきゝ給
  よけむともえうけ給はらすとかしこ(よけむともえうけ給はらすとかしこ$<朱>)
  まりてさふらふはしつかたのおましに(まりてさふらふはしつかたのおましに$<朱>)」41ウ
  に・このちかきもやにつとひゐたるなるへし・
  うちさゝめきいふことゝもをきゝ給へは・わか
  御うへなるへし・いといたうまめたちてまた
  きにやむことなきよすかさたまり給へるこそ・
0268【よすか】-人のめをいふ(明融本0209)
  さう/\しかむめれされと・さるへきくまには
  よくこそかくれありき給ふなれなといふに
  も・おほす事のみ心にかゝり給へは・まつむね
0269【おほすことのみ】-藤つほの事(明融本0210)
  つふれてかやうのつゐてにも・人のいひもら
  さむをきゝつけたらむときなとおほえ
  給・ことなる事なけれはきゝさし給つ・」42オ
  式部卿の宮の姫君にあさかほたてまつり
0270【式部卿の宮の姫君】-槿斎院ナリ源氏に心つよくてやみにし人ナリ(明融本0211)
  給し哥なとをすこしほをゆかめてかたる
  もきこゆ・くつろきかましくうたすしかち
0271【くつろきかましく】-かる/\しくしとけなき心ナリ(明融本0212)
  にもあるかな・なをみおとりはしなんかしと
  おほす・かみいてきてとうろかけそへ火あかく
0272【かみ】-紀伊守(明融本0213)
  かゝけなとして・御くた物はかりまいれり・
0273【とはり帳も】-\<朱合点> 源氏 我家曲大君ムコニセンノ心(催馬楽「我家」、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
  はり帳も
かにそは・さるかたの心もなくて
  は・めさましきあるしならむとの給へは・なに
0274【あるし】-饗
0275【なによけむ】-同曲詞
  よけむともえうけ給はらすと・かしこ
  まりてさふらふ・はしつかたのおましに」42ウ
  かりなるやうにておほとのこもれは人々
  もしつまりぬ・あるしのこともをかしけ
0276【あるし】-紀伊守(明融本0215)
  にてありわらはなる殿上のほとに御
  らむしなれたるもあり・いよのすけのこも
  あり・あまたあるなかにいとけはひあて
  はかにて・十二三はかりなるもあり・いつれか
0277【十二三はかりなる】-小君故衛門督の子うつ蝉のおとゝ(明融本0218)
  いつれなら(ら$とゝ<朱>)ひ給にこれは故衛門督のすゑの
  こにて・いとかなしくし侍けるをおさなき
  ほとにをくれ侍て・あねなる人のよすかに・
0278【あねなる人】-空ニ
0279【よすか】-たより也(明融本0219)
  かくて侍也・さえなともつきぬへく・けしう」43オ
  は侍らぬを・殿上なとも思ふ給へかけなから・
  すか/\しうはえましらひ侍らさめると申
  あはれのことや此あね君や・まうとの後の
0280【あはれのことや】-源氏(明融本0220)
  おや・さなん侍と申ににけなきおやをもま
  うけたりけるかな・うへにもきこしめしを
  きて宮つかへにいたしたてむともらしそ
0281【宮つかへに】-此女を(明融本0221)
  うせし・いかになりにけむと・いつそやものた
0282【いつそや】-御門(明融本0222)
  まはせし・世こそさためなきものなれといと
  およすけの給ふ(ふ+ふ<朱>)いにかくてものし侍なり・
0283【およすけの給ふ】-思の外也(明融本0223)
0284【ふいに】-不意
  世中といふものさのみこそいまは(は$も<朱>)むかし」43ウ
  もさたまりたる事侍らね・中につゐても
  女のすくせはいとうかひたるなんあはれに
  侍るなんときこえさす・いよのすけかし
0285【いよのすけかしつくや】-源詞
  つくや君とおもふらむな・いかゝはわたくし
0286【いかゝは】-紀伊守
  のしうとこそは思ひて侍めるをすき/\しき
  ことゝ・なにかしよりはしめてうけひき侍
  らすなむと申す・さりともまうとたち
0287【さりとも】-源氏(明融本0224)
  のつき/\しくいまめきたらむに・おろ
0288【おろし】-下
  したてんやはかのすけは・いとよしありてけし
  きはめるをやなとものかたりし給て・」44オ
  いつかたにそみなしもやにおろし侍
0289【みなしもやに】-紀詞
  ぬるを・えやまかりおりあへさらむときこゆ・
  ゑいすゝみてみな人々すのこにふしつゝ
  しつまりぬ君はとけてもねられ給はす・いた
0290【いたつらふしと】-\<朱合点> 拾いかなりし時くれ竹の一夜たにいたつらふしヲくるしと云ラン(拾遺集804、異本紫明抄・河海抄・一葉抄・孟津抄・岷江入楚)
  つらふしとおほさるゝに・御めさめてこの
  きたのさうしのあなたに人のけはひ
  するを・こなたやかくいふ人のかくれたる
  かたならむあはれやと・御心とゝめてやをら
  おきてたちきゝ給へは・ありつる子のこゑ
  にてものけ給はる・いつくにおはしますそと・」44ウ
0291【ものけ給はる】-うけタマハル也(明融本0225)
0292【いつくに】-老女房(明融本0226)
  かれたるこゑのをかしきにていへはこゝにそ
  ふしたる・まらうとはねたまひぬるか・いかに
0293【まらうとは】-空蝉
  ちかゝらむとおもひつるを・されとけとを
  かりけりといふねたりけるこゑのしとけ
  なきいとよくにかよひたれは・いもうとゝき
0294【いとよくにかよひ】-さきの十二三の子に似かよふ也(明融本0229)
0295【いもうと】-あねをもいもうとゝいふ(明融本0230)
  き給つ・ひさしにそおほとのこもりぬる
0296【ひさしにそおほとのこもりぬる】-源氏の事(明融本0231)
  をとにきゝつる御ありさまを見たてまつ
  りける・けにこそめてたかりけれと・みそ
  かにいふ・ひるならましかはのそきて見
0297【ひるならましかは】-空詞
  たてまつりてましとねふたけにいひ」45オ
  て・かほひきいれつるこゑす・ねたう心(△&心)とゝ
0298【ねたう】-源心
0299【心とゝめて】-\<朱合点> 年ふれとわすられはてぬ人のうへハ心とゝめて猶きかれきタレ伊せ(伊勢集463、異本紫明抄・紫明抄・河海抄・孟津抄)
  めてもとひきけかしとあちきなくおほ
  す・まろははしにね侍らんあなくらとて
0300【まろは】-小君(明融本0234)
  火かゝけなとすへし・女君はたゝこのさうし
  くちすちかひたるほとにそふしたるへき・
  中将の君はいつくにそ人けとをき心地
  して・ものおそろしといふなれはなけ
  しのしもに人々ふしていらへす也・しもに
  ゆにおりてたゝいままいらむと侍といふ・
0301【ゆ】-湯
  みなしつまりたるけはひなれは・かけ」45ウ
  かねを心みにひきあけ給へれは・あなた
  よりはさゝさりけり・木丁をさうしくちに
  はたてゝ火はほのくらきにみ給へはからひ
  つたつものともをゝきたれは・みたりか
  はしきなかをわけいり給れはけはひし
  つる所に・いり給へれはたゝひとりいと
  さゝやかにてふしたりなまわつらはしけ
  れとうへなるきぬをしやるさ(△&さ、さ$ま)て・もとめ
  つる人とおもへり・中将めしつれはなん
0302【もとめつる人】-中将君(明融本0235)
0303【中将】-源氏官中将也(明融本0236)
  ひとしれぬおもひのしるしある心地」46オ
0304【おもひのしるし】-\<朱合点> 伊しるしらす何かあやなくわきていはん思のみこそしるへ成けれ(古今477・古今六帖2541・業平集24・伊勢物語175、業平集72・今昔物語87、源氏物語新釈・源注余滴)
  してとの給を・ともかくも思わかれす
  ものにおそはるゝ心ちして・やと・おも(も#<墨朱>)ひ
  ゆれとかほにきぬのさはりてをとにもた
  てすうちつけにふかゝらぬ心のほとゝみ給
  らんことはりなれと・としころおもひわ
  たる心のうちもきこえしらせむとてなん・
  かゝるおりをまちいてたるも・さらにあさ
  くはあらしとおもひなし給へと・いとや
  はらかにの給ひておに神もあらたつましき
  けはひなれは・はしたなくこゝに人とも」46ウ
  えのゝしらす・心ちはたわひしくあるま
  しきことゝおもへはあさましく人たかへに
  こそ侍めれといふもいきのしたなり・きえ
  まとへるけしきいと心くるしくらうたけ
  なれはをかしとみ給て・たかうへくもあ
  らぬ心のしるへを思はすにもおほめい給
  かな・すきかましきさまには・よに見えたて
  まつらし・おもふ事すこしきこゆへき
  そとて・いとちいさやかなれはかきいたき
  てさうしのもといて給にそ・もとめつる」47オ
  中将たつ人きあひたる・やゝとの給に
  あやしくてさくりよりたるにそ・いみしく
  にほひみちてかほにもくゆりける(ける#かゝる<朱>)心ち
  するに思よりぬ・あさましうこはいかなる
0305【あさましう】-中将(明融本0237)
  事そとおもひまとはるれときこえ(こえ#こえ<朱>)ん
  かたなし・なみ/\の人ならはこそあら
0306【なみ/\の人】-次々人也(明融本0238)
  らかにもひきかなくらめ・それたに人のあ
  またしらむはいかゝあらん・心もさはきて
  したひきたれと・とうもなくておく
  なるおましにいり給ぬ・さうしをひき」47ウ
  たてゝあかつきに御むかへにものせよとの
  給へは女は・この人のおもふらむことさへ
0307【この人】-女中将(明融本0239)
  しぬはかりわりなきに・なかるゝまて
  あせになりていとなやましけなる(る$り)・
  いとおしけれと・れいのいつこよりとうて
0308【いとおしけれと】-源氏(明融本0240)
0309【とうて】-取出ノ心
  給ことのはにかあらむあはれし(し+る<朱>)はかり
  なさけ/\しくの給つゝ(ゝ#く<朱>)すへかめれと・な
  をいとあさましきにうつゝともおほえ
  すこそかすならぬ身なからも・おほしく
  たしける御心はへのほとも・いかゝあさくは」48オ
  おもふ給へさらむ・いとかやうなるきはは(<後>は#は<朱>)き
  はとこそはへなれとて・かくをしたち
  給へるを・ふかくなさけなくうしと思ひ
  いりたるさまも・けにいとをしく心はつ
  かしき・けはひなれは・そのきは/\を・
0310【そのきは/\】-源氏(明融本0241)
  またしらぬうゐ事そや・中/\をしなへ
  たるつらにおもひなし給へるなんうたて
  ありける・をのつからきゝ給ふやうもあらむ・
  あなかちなるすき心は・さらにならはぬを
  さるへきにやけにかくあはめられたて」48ウ
  まつるもことはりなる心まとひを・みつからも
  あやしきまてなんなとまめたちて・よろ
  つにの給へと・いとたくひなき御ありさま
  のいよ/\うちとけきこえん事わひしけ
  れはすくよかに心つきなしとはみえたて
  まつるとも・さるかたのいふかひなきにて
  すくしてむとおもひて・つれなくのみもて
  なしたり・人からのたをやきたるにつよ
  き心をしゐてくはへたれは・なよ竹の心
0311【なよ竹の】-\<朱合点> 古今なよ竹の夜なかきうへに初霜のをきいて物をおもふ比かな(古今993・古今六帖670、異本紫明抄・紫明抄・河海抄・紹巴抄・孟津抄)
  ちしてさすかにおるへくもあらす・まこと」49オ
  に心やましくてあなかちなる御心はへを
  いふかたなしとおもひて・なくさまなと
  いとあはれなり・心くるしくはあれと見
0312【心くるしく】-源氏(明融本0242)
  さらましかはくちおしからましとおほ
  す・なくさめかたくうしと思へれはなと
  かくうとましきものにしもおほすへき
  おほえなきさまなるしもこそ・契ある
  とはおもひ給はめむけに世をおもひしらぬ
  やうにおほゝれ給なん・いとつらきとうらみ
  られていとかくうき身のほとのさたまら」49ウ
0313【いとかく】-女(明融本0243)
  ぬありしなからの身にて・かゝる御こゝろ
0314【ありしなからの】-\<朱合点> 古今古今とりかへす物にもかなや世中をありしなからの我身とおもはん(出典未詳、異本紫明抄・紫明抄・河海抄・細流抄・休聞抄・紹巴抄・孟津抄・岷江入楚)
  はへを見ましかは・あるましきわかたのみ
  にて・みなをし給ふのちせをもおもひ給へ
0315【のちせをも】-\<朱合点> 万わかさなるのちせの山の後に又あはん必けふならすとも(古今六帖1272、源氏釈・異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
  なくさめましを・いとかうかりなるうきね
  のほとを思ひ侍にたくひなくおもふ給へ
  まとはるゝ也・よしいまはみきとなかけそ
0316【みきとなかけそ】-\<朱合点> 古今それをたにおもふ事とて我宿を見きとなかけそ人のきかくに(古今811・新撰和歌278・大和物語37、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
  と
ておもへるさまけにいとことはりなり・おろ
  かならす契なくさめ給ふ事おほかる
  へし・とりもなきぬ人/\おきいてゝいと
  いきたなかりける夜かな御車ひきいてよ」50オ
0317【いきたなかりける】-つよくねられたる也(明融本0246)
  なといふなり・かみもいてきて女なとの御
  かたゝかへこそ夜ふかく(△&く)いそかせ給へきかは
  なといふもあり・きみは又かやうのつゐてあ
  らむ事もいとかたくし(し#<朱>△、△#)さしはへては・
  いかてか御ふみなともかよはんことのいと
  わりなきをおほすに・いとむねいたし・おく
  の中将もいてゝいとくるしかれはゆるし
  給ても・又ひきとゝめ給つゝいかてかきこゆ
  へき世にしらぬ御心のつらさもあはれも
  あさからぬよのおもひいては・さま/\めつら」50ウ
  かなるへきためしかなとてうちなき給ふ
  けしきいとなまめきたり・鳥もしは/\
  なくに心あはたゝしくて
    つれなきをうらみもはてぬしのゝめに
0318【つれなきを】-源氏(明融本0247)
  とりあへぬまておとろかすらむ女身の
  ありさまをおもふにいとつきなくまはゆき
  心地して・めてたき御もてなしもなにとも
  おほえす・つねはいとすく/\しく心つき
  なしとおもひあなつ(つ$つ<朱>)るいよのかたのおもひ
  やられて・夢にや見ゆらむとそらおそろし」51オ
  くつゝまし
    身のうさをなけくにあかてあくる夜は
  とりかさねてそねもなかれけることゝあ
  かくなれは・さうしくちまてをくり給ふ・
  うちもとも人さはかしけれはひきた
  てゝわかれ給ほと・心ほそくへたつるせき
0319【へたつるせき】-\<朱合点> 古今あふ坂の名をたのみつゝこしかともへたつる関のつらくも有かな(新勅撰731、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
  と
みえたり御なをしなとき給て・みなみ
  のかゝら(ゝら#うら<朱>)むにしはしうちなかめ給ふにし
  おもてのかうしそゝきあけて人/\の
  そくへかめる(る$りイ、イ#)・すのこの中のほとにたてたる」51ウ
  こさうしのかみよりほのかにみえ給へる御
  ありさまを身にしむはかりおもへるすき
  心ともあめり・月はあり明にてひかりお
  さまれるものからかけさやかに見えて中
  中おかしきあけほのなり・なに心なき
  そらのけしきもたゝみる人からえんにも・
  すこくもみゆるなりけり・人しれぬ御心に
  はいとむねいたくことつてやらんよすかた
  になきをと・かへりみかちにていて給ぬ・殿に
  かへり給てもとみにもまとろまれ給はす」52オ
  またあひみるへきかたなきをましてか
0320【かの人】-うつせみ(明融本0251)
  の人のおもふらん心のうちいかならむと心
  くるしくおもひやり給ふ・すくれたること
  はなけれとめやすくもてつけてもありつる
  中のしなかな・くまなくみあつめたる人の
  いひし事はけにとおほしあはせられけり・
  このほとは大殿にのみおはしますなをいと
0321【いとかきたえて】-うつせみ(明融本0252)
  かきたえておもふらむ事のいとおしく御心に
  かゝりてくるしくおほしわひて・きのかみ
  をめしたり・かのありし中納言のこは」52ウ
0322【中納言】-右衛門督同人ナリ(明融本0253)
0323【こは】-小君(明融本0254)
  えさせてんやらうたけにみえしを身ち
  かくつかふ人にせむ・うへにも我たてまつ
  らむとの給へは・いとかしこきおほせ事に
  侍なりあねなる人にのたまひみんと申
  もむねつふれておほせと・そのあね君
  はあそむのおとゝ(ゝ#う<朱>)とやもたる・さも侍らす
  この二年はかりそかくてものし侍れとおや
  のおきてにたかへりとおもひなけきて心
  ゆかぬやうになんきゝ給ふる・あはれのこと
  やよろしくきこえし人そかし・まことによし」53オ
  やとの給へは・けしうは侍らさるへし・もて
  はなれてうと/\しく侍れは世のたとひにて
  むつひ侍らすと申す・さて五六日ありて
  この子ゐてまいれり・こまやかにをかしと
  はなけれとなまめきたるさま(ま#ま<朱>)してあて人
0324【あて人】-\<朱合点> 妙人 大方の秋をかなしと見る事もあてなる人ハしらてそ有ける千里(出典未詳、異本紫明抄・河海抄・孟津抄)
  とみえたり・めしいれていとなつかしく
  かたらひ給ふ・わらは心ちにいとめてたく
  うれしとおもふ・いもうとの君の事もくは
  しくとひ給ふ・さるへきことはいらへきこえ
  なとして・はつかしけにしつまりたれは・」53ウ
  うちいてにくしされといとよくいひ
  しらせ給・かゝる事こそはと・ほの心うるも
  おもひのほかなれと・おさな心ちにふかく
  しもたとらす御ふみをもてきたれは・
  女あさましきに涙もいてきぬ・このこの
  おもふらん事もはしたなくて・さすかに御
  ふみを・おもかくしに・ひろけたりいとおほ
  くて
    見し夢をあふ夜ありやとなけく
0325【見し夢を】-源氏
  まにめさへあはてそころもへにける(る+ぬる<朱>)夜な」54オ
  けれは
と・めもをよはぬ御かきさまもきり
0326【ぬる夜なけれは】-\<朱合点> 恋しさを何につけてかなくさまん夢にも見えすぬる夜なけれハ(拾遺集735・拾遺抄265・能宣集330・天徳四年内裏歌合34、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄)
  ふたかりて・心えぬすくせうちそへりける
  身をおもひつゝけて・ふし給へり・又の日小
  君めしたれはまいるとて御かへりこふ・かゝる
0327【かゝる御ふみ】-空
  御ふみみるへき人もなしときこえよと
  のたまへは・うちゑみてたかふへくもの
  給はさりしものを・いかゝさは申さむといふに・
  心やましくのこりなくのたまはせしらせて
  けるとおもふに・つらきことかきりなし・いて
  およすけたる事はいはぬそよき・さはなま」54ウ
  いり給そとむつかられて・めすにはいかてか
0328【めすには】-小君
  とてまいりぬ・きのかみすき心に・このまゝ
  はゝのありさまをあたらしきものにおもひて・
  ついそうしありけれは・この子をもてかしつ
0329【ついそう】-追従
0330【かしつきて】-紀ー空ニ心ヲカク
  きてゐてありく・君めしよせてきのふ
  まちくらししを・猶あひおもふましき
  なめりとゑんし給へは・かほうちあかめて
  ゐたりいつらとの給ふにしか/\と申すに・
  いふかひなのことやあさましとて又も給へり・
  あこはしらしなそのいよのおきなよりはさ」55オ
  きにみし人そ・されとたのもしけなくくひ
  ほそしとて・ふつゝかなるうしろみまうけて・
0331【ふつゝかなる】-けすしき也(明融本0258)
  かくあなつり給ふなめり・さりともあこは
  わか子にてをあれよ・このたのもし人はゆく
0332【この】-うつせみ
  さきみしかゝりなんとの給へは・さもやありけん
  いみしかりけることかなとおもへるをかしと
  おほす・この子をまつはし給てうちにも・
  ゐてまいりなとし給ふ・わかみくしけと
  のにの給ひて・さうそくなともせさせまこ
  とに・おやめきてあつかひ給ふ・御ふみはつね」55ウ
  にありされとこの子もいとおさなし心
  よりほかにちりもせは・かろ/\しき名
  さへとりそへん身のおほえをいとつきな
  かるへくおもへは・めてたき事もわか身
  からこそとおもひてうちとけたる御いらへ
  もきこえす・ほのかなりし御けはひあり
  さまはけになへてにやはとおもひいてきこ
  えぬにはあらねと・をかしきさまをみえたて
  まつりてもなにゝかはなるへきなとおもひかへ
  すなりけり・君はおほしおこたる時のまも」56オ
  なく心くるしくもこひしくもおほし
  いつ・おもへりしけしきなとのいとおしさも
  はるけんかたなくおほしわたる・かろ/\しく・
  はひまきれ・たちより給はんも・人めしけ
  からむ所にひんなきふるまひやあらはれん
  と・人のためもいとをしくとおほしわつ
  らふ・れいのうちに日かすへ給ふころさる
  へきかたのいみまちいて給ふ・にはかにま
  かて給まねして・みちのほとよりおはし
  ましたり・きのかみおとろきてやり水の」56ウ
  めいほくとかしこまりよろこふ・こきみには
  ひるよりかくなんおもひよれるとの給ひ
  契れり・あけくれ・まつはしならはし給け
  れはこよひもまつめしいてたり・女もさる
  御せうそこありけるに・おほしたはかりつ
  らむほとは・あさくしもおもひなされねと・
  さりとてうちとけ人けなきありさまを
  みえたてまつりても・あちきなくゆめの
  やうにてすきにしなけきをまたや
  くはへんと思みたれてなをさてまちつけ」57オ
  きこえさせん事のまはゆけれは・こきみ
  かいてゝいぬるほとにいとけちかけれはかた
  はらいたしなやましけれはしのひて・うち
  たゝかせなとせむにほとはなれてをとて・わ
  た殿に中将といひしかつほねしたるかく
  れに(△&に)うつろひぬ・さる心して人とくしつめて
  御せうそこあれと・小君はたつねあはす(△&す)
  よろつの所・もとめありきてわたとのに
  わけいりてからうしてたとりきたり・いと
  あさまたくつらしとおもひて・いかにかひ」57ウ
  なしとおほさむとなきぬはかりいへは・かく
  けしからぬ心はえはつかふものかおさなき人の
  かゝる事いひつたふるは・いみしくいむなる
  ものをといひおとして・心地なやましけれ
  は人々さけす・おさへさせてなむと・きこえ
  させよ・あやしとたれも/\みるらむといひ
  はなちて心のうちにはいとかくしなさた
  まりぬる身のおほえならて・すきにし
  おやの御けはひとまれる・ふるさとなから
  たまさかにもまちつけたてまつらはおかし」58オ
  うもやあらまししゐておもひしらぬ
  かほに・みけつもいかにほとしらぬやうに
  おほすらむと・心なからもむねいたくさす
  かにおもひみたる・とてもかくてもいまはいふ
  かひなきすくせなりけれは・むしんに心
  つきなくてやみなむとおもひはてたる(る$りイ、イ#)・
  君はいかにたはかりなさむとまたおさなき
  をうしろめたくまちふし給へるにふよう
0333【ふようなる】-もちゐぬ心ナリ
  なるよしをきこゆれは・あさましくめ
  つらかなりける心のほとを・身は(は#も<朱>)いとはつ」58ウ
  かしくこそなりぬれと・いと/\おしき御
  けしき也・とはかりものものたまはす
  いたくうめきてうしとおほしたり
    はゝ(△&ゝ)き木の心をしらてその原の(の+みちにあやなくまとひぬるかなきこえん<朱>)かた
0334【はゝき木の】-源氏(明融本0261)
  こそなけれとの給へり・女もさすかにまと
  ろまさりけれは
    かす(△&す)ならぬふせ屋におふる名のうさ
0335【かすならぬ】-うつせみ<右> 返哥ニアラス/引哥はゝ木ゝヲ/ヨム事作物語ノ/トリ合也
  にあるにもあらすきゆるはゝ木ゝときこ
  えたりこきみいと/\おしさにねふたくも
  あらてまとひありくを・人あやしと見る」59オ
  らんとわひ給ふ・れいの人/\はいきたな
  きにひと所すゝろに・すさましくおほし
  つゝけらるれと・人にゝぬ心さまのなを
  きえすたちのほれりけると・ねたくかゝる
  につけてこそ・心もとまれとかつはおほし
  なからめさましくつらけれは・さはれと
0336【さはれと】-さらハさてあれといふ心ナリ(明融本0264)
  おほせともさもおほしはつましくかく
  れたらむ所になをゐていけとの給へと・
  いとむつかしけにさしこめられて人あま
  た侍めれは・かしこけにときこゆ・いとおしと」59ウ
  おもへり・よしあこたに・なすてそとの給ひ
  て・御かたはらにふせたまへりわかくなつかし
  き御ありさまをうれしく・めてたしと思ひ
  たれは・つれなき人よりは・なか/\あはれ
0337【つれなき人】-うつせみ(明融本0265)
  におほさるとそ」60オ
(白紙)」60ウ

【奥入01】まとのうちなるほとは
     長恨哥
     楊家有女初長成 養在深宮人未識(戻)

伊行注
【奥入02】かすか野のわかむらさきのすり衣
     しのふのみたれかきりしられす(戻)
【奥入03】しかりとてとすれはかゝりかくすれは
     あないひしらすあふさきるさに(戻)
【奥入04】はちすはのにこりにしまぬ心もて
     なにかはつゆをたまとあさむく(戻)」61オ
【奥入05】観身岸額離根草 論命江頭不繋舟(戻)
【奥入06】ひきよせはたゝにはよらて春駒の
     つなひきするそなはたつときく(戻)
【奥入07】あすか井にやとりはすへしかけもよし
     みもひもさむしみまくさもよし(戻)
【奥入08】いつこにかやとりとならむあさひこの
     さすやをかへのたまさゝのうへ(戻)
【奥入09】ちりをたにすへしとそ思さきしより
     いもとわかぬるとこなつの花(戻)
【奥入10】それをたに思ふことゝてわかやとを」61ウ
     見きとなかけそ人のきかくに(戻)
【奥入11】あふさかの名をはたのみてこしかとも
     へたつるせきのつらくもあるかな(戻)
【奥入12】こひしきをなにゝつけてかなくさまむ
     夢たに見えすぬるよなけれは(戻)
     すゝか山いせをのあまのぬれ衣
     しほなれたりと人や見るらむ(空蝉01 竄入)
     とりかへす物にもかなや世中を
     ありしなからのわか身とおもはん(空蝉02 竄入)
【奥入13】風俗」62オ
     玉たれのかめをなかにすへてあるしはもや
     さかなもりにさかなもとめにこゆるきのいそに
     わかめかりあけに(戻)
【奥入14】催馬楽
     我家はとはり帳もたれたるをおほきみき
     ませむこにせむみさかなになによけむあは
     ひさたをかかせよけんあはひさたをか
     かせよけむ(戻)
【奥入15】二道
     父家居住せハ孝心可有男家居住せハ」62ウ
     嫂仕ヲせよといふ事也(戻)
【奥入16】三史 史記 漢書 後漢書
     五経 毛詩 礼記 左伝 周易 尚書
     三道 紀伝 明経 明法(戻)
      已上伊行所注也

【奥入17】ふたつのみち 両途
     文集 秦中吟
     天下無正声 悦耳即為娯 人間無正色
     悦目即為妹 顔色非相遠 貧富則有殊
     貧為時所弃 富為時所趁 紅楼富家女」63オ
     金縷繍羅襦 見人不斂手 矯癡二八初
     母兄未開口 已嫁不須臾 緑窓貧家女
     寂寞二十余 荊釼不直銭 衣上無真珠
     幾廻人欲娉 臨日又踟躊 主人会良媒
     置酒満玉壺 四座且勿飲 聴我歌両途
     富家女易嫁 嫁早軽其夫 貧家女難嫁
     嫁晩孝於姑 聞若欲娶婦 娶婦意此如(戻)」63ウ

【奥入18】   追注加之
  なかゝみ 何神字 長歟中歟
  問安家答云なかゝみ天一神也
  世俗所称事旧事(△&事)可為中字歟
  金[木+貴]経云天一立中央為十二将定吉凶
  断事者也如此文者中字無不審歟
  凡天一神巡方八方猶天子巡狩方
  岳云々毎其方名号注異未有中
  有中(有中$<朱>)神之号只和語凡俗之詞所
  伝承也件方忌事古今所違来也(「空蝉」巻から転載)(戻)

 任庭訓加頭書但近年之御意相違事在弖所詮
 可用異説者也イ本 前大僧正良鎮」64オ

巻ノ箒ノ心モシラテソノ原ノ道ニアヤナクマトヒヌル哉
ソノ原ヤフセヤニ生ルーノアリトハー君哉坂ヒモー
一亦有亦空ー一部五十四ーニ成末ノ巻ノ名ノ事<荘子/夢>
末ノ巻今ノ身ノウツヽ共古ノ夢トモ云難シ(前表紙1オ貼紙)

二校了<朱>(表表紙蓋紙)

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