末摘花(大島本) First updated 6/6/2002(ver.1-1)
Last updated 11/3/2006(ver.2-1)
渋谷栄一翻字(C)

  

末摘花


《概要》
 大島本は、青表紙本の最善本とはいうものの、現状では、後人の筆によるさまざまな本文校訂跡や本文書き入れ注記、句点、声点、濁点等をもつ。そうした現状の様態をそのままに、以下の諸点について分析していく。
1 大島本と大島本の親本復元との関係 鎌倉期書写青表紙本(池田本・伏見天皇本等)を補助的資料として
2 大島本の本文校訂に対校された本文系統
3 大島本の句点の関係
4 大島本の後人書き入れ注記

《書誌》

《翻刻資料》

凡例
1 本稿は、『大島本 源氏物語』(1996(平成8)年5月 角川書店)を翻刻した。よって、後人の筆が加わった現状の本文様態である。
2 行間注記は【 】- としてその頭に番号を記した。
2 小字及び割注等は< >で記した。/は改行を表す。また漢文の訓点等は< >で記した。
3 合(掛)点は、\<朱(墨)合点>と記した。
4 朱句点は「・」で記した。
5 本文の校訂記号は次の通りである。
 $(ミセケチ)・#(抹消)・+(補入)・&(ナゾリ)・=(併記)・△(不明文字)
 ( )の前の文字及び( )内の記号の前の文字は、訂正以前の文字、記号の後の文字が訂正以後の文字である。ただし、なぞり訂正だけは( )の前の文字は訂正後の文字である。訂正以前の本行本文の文字を尊重したことと、なぞり訂正だけは元の文字が判読しにくかったための処置である。
6 朱・墨等の筆跡の相違や右側・左側・頭注等の注の位置は< >と( )で記した。私に付けた注記は(* )と記した。
7 付箋は、「 」で括り、付箋番号を記した。
8 各丁の終わりには」の印と丁数とその表(オ)裏(ウ)を記した。
9 本文校訂跡については、藤本孝一「本文様態注記表」(『大島本 源氏物語 別巻』と柳井滋・室伏信助「大島本『源氏物語』(飛鳥井雅康等筆)の本文の様態」(新日本古典文学大系本『源氏物語』付録)を参照した。
10 和歌の出典については、伊井春樹『源氏物語引歌索引』と『新編国歌大観』を参照し、和歌番号と、古注・旧注書名を掲載した。ただ小さな本文異同については略した。

「すゑつむ花」(題箋)

  思へともなをあかさりしゆふかほの・露に
0001【思へとも】-\<朱合点> 夕顔巻ニつゝけてかけり故発端之句如此
  をくれし心地を・とし月ふれと・おほしわす
  れす・こゝもかしこもうちけけぬ・かきりの
0002【こゝも】-葵上
0003【かしこも】-六条御息所
  けしきはみ心ふか(△&か)きかたの・御いとましさ
0004【いとましさ】-挑
  に・けちかくうちとけたりし・あはれににる
  物なう・恋しくおもほえ給ふ・いかてこと/\
  しきおほえはなく・いとらうたけならむ人
  のつゝましき事なからむ・みつけてしか
  なと・こりすまにおほしわたれは・すこしゆ
  へつきてきこゆるわたりは・御みゝとゝめ給」1オ
  はぬくまなきに・さてもやとおほしよるはかり
  のけはひあるあたりにこそ・ひとくたりをも・
0005【ひとくたり】-文事
  ほのめかし給ふめるに・なひきゝこえす・も
  てはなれたるは・おさ/\あるましきそ(△&そ)いとめ
  なれたるや・つれなう心つよきはたとしへ
0006【つれなう心つよきは】-又かゝる人あり
  なう・なさけをくるゝまめやかさなと・あま
  り物のほとしらぬやうに・さてしもすくし
  はてす・なこりなくくつをれて・なを/\し
0007【なを/\しきかたに】-よのつねの心也
  きかたに・さたまりなとするもあれは・の給
  ひさしつるもおほかりける・かのうつせみを・」1ウ
  ものゝおり/\には・ねたうおほしいつ・おきの
0008【おきの葉も】-\<朱合点> 空蝉巻ニ蔵人少将妻となれり 後撰秋風のふくにつけてもとはぬかな(後撰846・古今六帖3718・和漢朗詠401・中努集230、源氏古注・花鳥余情・休聞抄・孟津抄)
  葉も・さりぬへきかせのたよりある時は・おとろ
  かし給ふ・おりもあるへし・ほかけのみたれたり
  しさまは・またさやうにても・見まほしく
0009【また】-又
  おほす・おほかたなこりなきものわすれ
  をそ・えしたまはさりける・左衛門のめの
  とゝて・大弐のさしつきに・おほいたるかむす
0010【大弐】-惟光か母
  め・たいふの命婦とて(て+うちに)さふらふ・わかむとほりの
0011【わかむとほり】-王家無等倫王孫をいふ也
  兵部のたいふなるむすめなりけり・いといたう
0012【兵部のたいふ】-左衛門のめのとか夫ナリ
  いろこのめるわか人にて・ありけるを・君もめし」2オ
0013【君も】-源氏
  つかひなとし給・はゝはちくせむのかみのめに
0014【ちくせむのかみ】-大輔命婦かまゝちゝ也
  てくたりにけれは・ちゝ君のもとをさとにて
0015【ちゝ君】-兵部大輔
  ゆきかよふ・故ひたちのみこのすゑにまう
0016【故ひたちのみこ】-常陸太守親王也父ハいつれの御門とみえす
  けて・いみしうかなしうかしつき給ひし・
  御むすめ・心ほそくてのこりゐたるを・ものゝ
0017【御むすめ】-末摘花トモ蓬生君トモ云
  ついてに・かたりきこえけれは・あはれのことやと
0018【かたりきこえけれは】-命婦
0019【あはれのことや】-源氏
  て・御心とゝめてとひきゝ給ふ・心はへかたちなと
  ふかきかたはえしり侍らす・かいひそめ人
  うとうもてなし給へは・さへきよひなともの
  こしにてそ・かたらひ侍る・きむをそなつかし」2ウ
  きかたらひ人と・おもへるときこゆれは・みつ
0020【みつのとも】-\<朱合点> 白氏文集北窓三友詩三友者為誰琴罷輒挙酒々罷輒吟詩
  のとも
ていまひとくさや・うたてあらむとて・
0021【ひとくさ】-酒をいへり
  われにきかせよ・ちゝみこのさやうのかたに・いと
  よしつきてものし給ふけれは・をしなへて
  のてにはあらしとなむ・おもふとの給へは・さや
0022【さやうに】-命婦
  うにきこしめすはかりには・あらすや侍らむ
  といへと・御心とまるはかりきこえなすを・いた
0023【いたうけしきはましや】-源氏
  うけしきはましや・このころのおほろ月
  夜に・しのひてものせむ・まかてよとの給へは・
  わつらはしとおもへと・うちわたりものとやかなる・」3オ
0024【わつらはしとおもへと】-命婦
  はるのつれ/\にまかてぬ・ちゝの大輔の君は・
  ほかにそすみける・こゝには時/\そかよひける・
  命婦はまゝはゝのあたりは・すみもつかす・ひめ君
0025【まゝはゝのあたり】-兵部大輔か左衛門めのとの後むかへたる妻也
  の御あたりをむつひて・こゝにはくるなりけり・の
0026【のたまひしもしるく】-源氏
  たまひしもしるくいさよひの月おかしきほ
  とにおはしたり・いとかたはらいたきわさかな・
0027【いとかたはらいたきわさかな】-命婦
  ものゝねすむへき夜のさまにも・侍らさめる
  にときこゆれと・なをあなたにわたりて・たゝ
0028【なをあなたにわたりて】-源氏
  ひとこゑも・もよをしきこえよ・むなしくて
  かへらむか・ねたかるへきをとの給へは・うちとけ」3ウ
  たるすみかに・すへたてまつりて・うしろめたう
  かたしけなしとおもへと・しむてむにまいりたれ
  は・またかうしもさなから・むめのかおかしきを・見
0029【見いたして】-末つむ花
  いたしてものし給・よきおりかなと思ひて・御こと
  のねいかにまさり侍らむと・思給へらるゝよのけし
  きにさそはれ侍りてなむ・心あはたゝしきいて
  いりに・えうけたまはらぬこそ・くちをしけれ
  といへは・きゝしる人こそあなれ・もゝしきに・
0030【きゝしる人】-末つむ花 伯牙鐘子期知音故事 六帖五ことのねをきゝしる人のあるなへにいまそたちいてゝをゝそすくへき(古今六帖3392、異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
  ゆきかう人のきくはかりやはとて・めしよする
  も・あいなう・いかゝきゝ給はむとむねつふる・」4オ
  ほのかにかきならし給ふ・おかしうきこゆ・なに
0031【おかしうきこゆ】-源氏
  はかりふかきてならねと・ものゝねからのすちこと
  なるものなれは・きゝにくゝもおほされすいとい
  たうあれわたりて・さひしき所に・さはかりの
  人の・ふるめかしう・ところせくかしつきすへたり
  けむ・なこりなく・いかに・おもほしのこす事な
0032【なこりなく】-をやの御名残ノなき也
  からむ・かやうの所にこそは・むかしものかたり
0033【むかしものかたりにも】-うつほのとしかけかすめ母にをくれて故里にのこりとゝまり侍を太政大臣の賀茂にまて侍るとてこの家のまへをすくるとてさし入てよめる哥云むしたにもあまた声せぬあさちふにひとりすむらん人をしそ思ふ(うつほ物語4、源氏古注・花鳥余情・孟津抄)
  にも・あはれなる事ともゝありけれなと・思ひつ
  つけても物やいひよらましとおほせと・うち
  つけにやおほさむと・心はつかしくて・やすらひ」4ウ
  給・命婦かとあるものにて・いたうみゝならさせ
  たてまつらしと思ひけれは・くもりかちに侍る
0034【くもりかち】-命婦月事
  めり・まらうとのこむと侍りつる・いとひかほ
  にもこそいま心のとかにをみかうしまいりな
  むとて・いたうもそゝのかさてかへりたれは・
  なか/\なるほとにてもやみぬるかな・もの
0035【なか/\なるほとにても】-源氏ノ御心
0036【ものきゝわくほとにもあらて】-末ツムノ詞
  きゝわくほとにもあらて・ねたうとの給ふ
  けしきおかしとおほしたり・おなしくはけ
0037【おかしとおほしたり】-源氏ノ御心
0038【おなしくは】-源氏
  ちかきほとのたちきゝせさせよとの給へと・心
0039【心にくゝて】-命婦
  にくゝてとおもへは・いてやいとかすかなるあり」5オ
  さまに・思ひきえて・心くるしけにものし給ふ
  めるを・うしろめたきさまにやといへは・けにさも
0040【けにさも】-源氏
  ある事にはかに我も人も・うちとけてかたらふ
  へき・人のきはゝきはとこそあれなと・あはれに
  おほさるゝ人の御ほとなれは・なをさやうのけし
  きをほのめかせとかたらひ給ふ・またちきり
0041【またちきり給へる】-源氏
  給へるかたやあらむ・いとしのひてかへりたまふ・
  うへのまめにおはしますと・もてなやみきこえ
0042【うへの】-命婦
  させ給ふこそ・おかしう・おもふ給へらるゝおり/\
  侍れ・かやうの御やつれすかたを・いかてか(か+は)御らむ」5ウ
  しつけむときこゆれは・たちかへりうちわらひて・
0043【たちかへり】-源氏
  こと人のいはむやうに・とかなあらはされそ・これ
  をあた/\しきふるまひといはゝ・女のあり
0044【女のありさま】-命婦をさす也
  さま・くるしからむとのたまへは・あまりいろめい
  たりとおほして・おり/\かうの給ふを・はつか
0045【はつかしと思ひて】-命婦
  しと思ひて・ものもいはす・しむ殿のかたに・
0046【しむ殿のかたに】-源氏
  人のけはひきくやうもやとおほして・やをら
  たちのき給ふ・すいかいのたゝすこしおれ
  のこりたるかくれのかたに・たちより給ふに・も
  とよりたてるおとこありけり・たれならむ」6オ
  心かけたるすきものありけりとおほして・かけに
  つきてたちかくれ給へは・とうの中将なりけり・
  このゆふつかたうちよりもろともにまかて給ひ
  けるやかて大殿にもよらす・二条の院にもあらて
  ひきわかれ給ひけるを・いつちならむとたゝなら
0047【いつちならむと】-頭中将
  て・われもゆくかたあれと・あとにつきてうかゝ
  ひけり・あやしきむまにかりきぬすかたの・な
0048【かりきぬすかた】-狩衣すかた不審
  いかしろにてきけれは・えしりたまはぬに・
  さすかにかうことかたにいりたまひぬれは・心も
  えす思ひけるほとに・ものゝねにきゝついてた」6ウ
  てるに・かへりやいて給ふとしたまつなりけり・き
  みはたれともえ見わき給はて・われとしられし
  とぬきあしにあゆみ給ふに・ふとよりて・ふりすて
0049【ふりすてさせ給へるつらさに】-頭中将
  させ給へるつらさに・御をくりつかうまつりつるは
    もろともにおほうち山はいてつれと
0050【もろともに】-頭中将 一時日本記
0051【おほうち山】-内裏<ヲフウチ>日本記
  いるかた見せぬいさよひのつきとうらむる
0052【うらむるもねたけれと】-源氏
  もねたけれと・この君と見給ふ・すこしおかし
  うなりぬ・人の思おもひよらぬ事よと・にくむ/\
    さとわかぬかけをは見れとゆく月の
0053【さとわかぬ】-源氏
  いるさの山をたれかたつぬるかうしたひあ」7オ
0054【かうしたひありかは】-頭中将
  りかは・いかにせさせ給はむときこえ給・まこと
  はかやうの御ありきには・すいしむからこそ・は
  かはかしきこともあるへけれ・をくらさせ給
  はてこそあらめ・やつれたる御ありきは・かる/\
  しき事もいてきなと・をしかへしいさめた
  てまつる・かうのみ見つけらるゝを・ねたしと
0055【かうのみ見つけらるゝを】-源氏
  おほせと・かのなてしこは・えたつねしらぬを・
0056【かのなてしこ】-玉かつらの君
  をもきこうに・御心のうちにおほしいつ・をの/\
0057【こうに】-劫也人のいたむへき心也碁の劫も同心也劫ハつむ心也
  ちきれるかたにもあまえてえゆきわかれ給
0058【あまえて】-したふ心也
  はす・ひとつくるまにのりて・月のおかしき」7ウ
  ほとに・くもかくれたるみちのほと・ふえふき
  あはせて・大殿におはしぬ・さきなともをはせ給
  はす・しのひいりて・人みぬらうに・御なをしと
  もめしてきかへ給・つれなういまくるやうにて・御
  ふえともふきすさひておはすれは・おとゝれ
  いのきゝすくし給はて・こまふえとりいて
0059【こまふえ】-六帖高麗笛のこまにわかのりならさなんみきをハいはしあなにくけとハ(古今六帖3410、源氏古注)
  給へり・いと上すにおはすれは・いとおもしろう
  ふき給・御ことめして・うちにもこのかたに
  心えたる人/\に・ひかせ給ふ・中つかさのき
0060【中つかさのきみ】-葵上の女房源氏密通也
  みわさとひはゝひけと・頭の君心かけたる」8オ
  を・もてはなれて・たゝこのたまさかなる御
0061【このたまさかなる御けしき】-源氏事
  けしきの・なつかしきをは・えそむききこえ
  ぬに・をのつからかくれなくて・大宮なとも・よろ
0062【大宮なとも】-大殿の北方
  しからすおほしなりたれは・ものおもはしく・
  はしたなきこゝちして・すさましけに・より
  ふしたり・たえて見たてまつらぬ所に・かけ
  はなれなむもさすかに・心ほそくおもひみた
  れたり・君たちは・ありつるきむのねを
0063【君たち】-源氏頭中将
  おほしいてゝ・あはれけなりつる・すまゐの
  さまなともやうかへて・おかしう思ひつゝけ・あらまし」8ウ
  事にいとおかしうらうたき人の・さてとし
  月をかさねゐたらむとき・見そめていみしう
  心くるしくは・人にもゝてさはかるはかりや・わか
  心もさまあしからむなとさへ・中将は思ひけり・この
0064【この君】-源氏の君
  君のかうけしきはみありき給を・まさにまて
  はすくし給ひてむやと・なまねたうあやうかり
  けり・そのゝちこなたかなたより・ふみなとやり
  給へし・いつれもかへり事見えす・おほつかなく
  心やましき(き+に)あまりうたてもあるかな・さやう
0065【あまりうたても】-頭中将
  なるすまひする人は・もの思ひしりたる」9オ
  けしき・はかなき木くさ・そらのけしきに
  つけても・とりなしなとして・心はせをしはか
  らるゝおり/\あらむこそ・あはれなるへけれ・
  をもしとても・いとかうあまりうもれたらむ
0066【うもれたらむ】-拾遺久かたの雨のふる日をたゝひとり山へにおれはむもれたりけり(拾遺集1252・拾遺抄470万葉772、源氏古注)
  は・心つきなくわるひたりと・中将はまいて心い
0067【心いられ】-いら/\しき心也
  られしけり・れいのへたてきこえ給はぬこゝ
0068【れいの】-頭中将問
  ろにてしか/\のかへり事は見給や・心みにか
  すめたりしこそはしたなくてやみにし
  かとうれふれは・されはよ・いひよりにけるをやと・
0069【されはよ】-源氏答
  ほゝゑまれていさみむとしも思はねはにや」9ウ
  みるとしもなしといらへ給を・人わきゝ(ゝ#し)けると
0070【人わきしけると思ふに】-頭中将心中
  思ふにいとねたし・君はふかうしもおもはぬ
  事のかうなさけなきをすさましくお
0071【なさけなきを】-返事なきを
  もひなり給にしかと・かうこの中将のいひあ
  りきけるをことおほくいひなれたらむ方に
  そなひかむかし・したりかほにてもとの事
0072【もとの事】-源氏をもとの事といふ
  をおもひはなちたらむけしきこそうれはし
  かるへけれとおほして・命婦をまめやかにかたらひ
  給・おほつかなくもてはなれたる御けしき
0073【おほつかなく】-源氏
  なむ・いと心うきすき/\しきかたにうた」10オ
  かひよせ給にこそあらめ・さりとみしかき心はへ
0074【心はへ】-源氏ハ人にむきて心なかくあると也
  つかはぬものを・人の心ののとやかなる事な
0075【人の心】-葵上の嫉妬の心也
  くておもはすにのみあるになむ・をのつ
  からわかあやまちにもなりぬへき・心のとかにて
0076【心のとか】-閑也
  おやはらからのもてあつかひうらむるもなう
0077【おやはらから】-親 兄弟
  心やすからむ人はなか/\なむらうたかる
0078【心やすからむ人】-末摘花の事をいふ
  へきをとの給へは・いてやさやうにおかしき
0079【いてやさやうに】-命婦
  かたの御かさやとりにはえに(に$<朱>)しもやと・つき
0080【御かさやとりには】-催馬楽妹之門云あまやとりかさやとり云々
  なけにこそみえ侍れ・ひとへにものつゝみしひ
  きいりたるかたはしもありかたうものし」10ウ
0081【かたはし】-方 詞
  給ふ人になむと見るありさまかたりきこゆ・
  らう/\しうかとめきたる心はなきなめり・いと
0082【らう/\しう】-源氏 良
  こめかしうおほとかならむこそらうたくはある
  へけれとおほしわすれすの給ふ・わらはやみに
0083【わらはやみに】-若紫巻始同時也横並此にみえたり
  わつらひ給人しれぬものをもひのまきれ
  も御心のいとまなきやうにてはるなつすき
  ぬ秋のころほひしつかにおほしつゝけて・か
0084【かのきぬたのをと】-夕顔
  のきぬたのをともみゝにつきてきゝにく
  かりしさへ恋しうをほしいてらるゝまゝに・
  ひたちの宮にはしは/\きこえ給へと・なを」11オ
  おほつかなうのみあれはよつかす心やましう
  まけてはやましの御心さへそひて・命婦をせめ
  給いかなるやうそいとかゝる事こそまたし
  らねといとものしとおもひてのたまへは・いと
0085【いとおしと思ひて】-命婦
  おしと思ひてもてはなれてにけなき御事と
  もおもむけ侍らす・たゝおほかたの御ものつゝ
  みのわりなきにて(て+を)えさしいて給はぬとなむ
  み給ふるときこゆれは・それこそはよつからぬ事
0086【それこそは】-源氏
  なれ・ものおもひしるましきほとひとり身を・え
  心にまかせぬほとこそ事はりなれ・なに事も」11ウ
  思しつまり給へらむと思ふこそ・そこはかと
  なくつれ/\に心ほそうのみおほゆるをおなし
  心にいらへ給はむはねかひかなふ心ちなむすへ
  き・なにやかやとよつけるすちならてその
  あれたるすのこにたゝすまゝほしきなり・いと
  うたて心えぬ心ちするをかの御ゆるしなう(う$く)
  ともたはかれかし・心いられしうたてあるもてな
  しにはよもあらしなとかたらひ給ふ・なを世に
0087【なを世に】-命婦猶の字有心
  ある人のありさまをおほかたなるやうにて
  きゝあつめみゝとゝめ給くせのつき給へるを・」12オ
  さう/\しきよひゐなとに(に$<朱墨>)はかなきついてに
  さる人こそとはかりきこえいてたりしに・かく
  わさとかましうのたまひわたれはなまわ(は&わ)つら
  はしく・をむな君の御ありさまもよつかはしく
  よしめきなともあらぬを中/\なるみちひき
  にいとおしき事やみえむなむと思ひけれと・
  君のかうまめやかにの給ふにきゝいれさらむも
  ひか/\しかるへし・ちゝみこおはしけるおりに
  たにふりにたるあたりとてをとなひきこゆる
  人もなかりけるをましていまはあさちはくる」12ウ
  人もあとたえたるに・かくよにめつらしき御
  けはひのもりにほひくるをはなま女はらなとも
  ゑみまけてなをきこえ給へ(△△&給へ)とそゝのかした
  てまつれと・あさましうものつゝみしたまふ
  心にて・ひたふるに見もいれ給はぬなりけり・命婦
  はさらはさりぬへからんおりにものこしにきこえ
  給はむほと御心につかすはさてもやみねかし・
  又さるへきにてかりにもおはしかよはむをとか
  め給へき人なしなとあためきたるはやり
  心はうち思ひて・ちゝきみにもかゝる事なと」13オ
0088【ちゝきみ】-兵部大輔
  もいはさりけり・八月廿よ日よひすくるまて・
  またるゝ月の心もとなきにほしのひかりはかり
0089【またるゝ月】-\<朱合点> 六帖したにのみこふれはくるし山のはにまたるゝ月のあらハれハいかに(古今六帖336・万葉3825、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
  さやけくまつのこすゑふく風のをと心ほそ
  くていにしへの事かた(△&た)りいてゝうちなきなとし
0090【いにしへの事】-故宮の御事
  給いとよきおりかなと思ひて御せうそこやき
  こえつらむ・れいのいとしのひておはしたり・月
0091【れいのいとしのひて】-源氏
  やう/\いてゝあれたるまかきのほとうとまし
  くうちなかめ給ふにきむそゝのかされてほのか
  にかきならし給ほと・けしうはあらすすこし
0092【けしうはあらす】-命婦心
  けちかういまめきたるけをつけはや(や+と)そみた」13ウ
  れたる心には心もとなくおもひいたる・人めしな
0093【めし】-目詞
  き所なれは心やすくいりたまふ・命婦をよは
  せ給・いましもおとろきかほにいとかたはらいた
  きわさかな・しか/\こそおはしましたなれ・つ
  ねにかううらみきこえ給ふを心にかなはぬよし
  をのみいなひきこえ侍れは・みつからことはりも
  きこえしらせむとの給ひわたるなり・いかゝきこ
  えかへさむ・なみ/\のたはやすき御ふる
0094【たはやすき】-\<朱合点> たやすくといふ詞也文字ヲそへていふ也 あられふるの山の里のさひしきハきてたハやすくとふ人そなき(後撰468・古今六帖982、河海抄・孟津抄・岷江入楚)
  まひならねは心くるしきを・ものこしにて
  きこえ給はむ事きこしめせといへは・いと」14オ
0095【いとはつかしと】-末摘
  はつかしと思て人(△&人)にものきこえむやうも
  しらぬをとておくさまへゐさりいり給さまいと
  うゐ/\しけなり・うちわらひていとわか/\
0096【うちわらひて】-命婦
  しうおはしますこそ心くるしけれ・かきり
  なき人もおやなとおはしてあつかひうしろ
  見きこえ給ふほとこそわかひたまふもこと
  はりなれ・かはかり心ほそき御ありさまになを
  よをつきせすおほしはゝかるはつきなう
  こそとをしへきこゆ・さすかに人のいふ事は
0097【さすかに人のいふ事は】-末摘花
  つようもいなひぬ御心にていらへきこえてたゝ」14ウ
  きけとあらはかうしなとさしてはありなむとの
  給・すのこなとはひむなう侍りなむをしたち
0098【すのこなとは】-命婦
  てあは/\しき御心なとはよもなといとよく
  いひなしてふたまのきはなるさうしてつか
  らいとつよくさして御しとねうちをきひ
  きつくろふ・いとつゝましけにおほしたれと
  かやうの人にものいふらむ心はへなとも夢に
  しり給はさりけれは・命婦のかういふをあるやう
  こそはと思ひてものし給・めのとたつおい人
  なとはさうしにいりふしてゆふまとひしたる」15オ
  ほとなり・わかき人二三人あるはよにめてられ
  給ふ御ありさまをゆかしきものに思ひき
  こえて心けさうしあへり・よろしき御そたて
  まつりかへくつろひきこゆれは・さうしみはなに
  の心けさうもなくておはす・おとゝ(ゝ$)こはいとつ
0099【おとこは】-命婦カ心
  きせぬ御さまをうちしのひよういし給へる御け
  はひいみしうなまめきて見しらむ人にこそ見
  せめはへあるましきわたりをあないとおしと命
  婦はおもへと・たゝおほとかにものし給ふをそう
  しろやすうさしすきたる事は見えたてまつ」15ウ
  り給はしとおもひける・わかつねにせめられたて
  まつるつみさりことに心くるしき人の御もの
  思ひやいてこむなとやすからす思ひゐたり・君は
0100【君は】-源氏
  人の御ほとをおほせはされくつかへるいまやうの
  よしはみよりはこよなうおくゆかしうとおほ
  さるゝに・いたうそゝのかされてゐさりより
  給へるけはひしのひやかにえひのかいとなつ
0101【えひのか】-薫衣香の名也又云すへて薫物の名也云々
  かしうかほりいてゝおほとかなるを・されはよと
  おほす・としころ思ひわたるさまなといとよくの
  給つゝくれと・ましてちかき御いらへはたえてなし・」16オ
  わりなのわさやとうちなけき給ふ
0102【わりなのわさやと】-源氏
    いくそたひ君かしゝまにさ(さ$ま<朱>)けぬらん
0103【いくそたひ】-源氏
0104【しゝま】-進退也又棲遑日本記 物いはぬ也ちかふ事也
  ものないひそといはぬたのみにのたまひもす
  てゝよかしたまたすきくるしとの給ふ・女
0105【たまたすき】-\<朱合点> 「<古今イ>/おもはすはおもはすとやはいひい(い=はイ)てぬ/なと(と=そイ)世中のたまたすきなる<朱>」(付箋01 古今六帖3216、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄) 六帖玉たすきかけねハくるしかけたれはあなわつらハし人の心やイ<朱>(古今六帖3218、源氏古注)
  君の御めのとこししうとてはやりかなるわか
  人いと心もとなうかたはらいたしと思ひてさし
  よりてきこゆ
    かねつきてとちめむことはさすかにて
0106【かねつきて】-侍従 論義の時鐘ヲつけはいひやむ也
  こたえまうきそかつはあやなきいとわかひ
  たるこゑのことにおもりかならぬを人つて」16ウ
  にはあらぬやうにきこえなせは・ほとよりはあ
0107【あまえて】-されハみたる心也一云あさやか也
  まえてときゝ給へと・めつらしきかなか/\くれ(れ#ち)
  ふたかるわさかな
    いはぬをもいふにまさるとしりなから
0108【いはぬをも】-源氏<右> 六帖心にハ下行水のわきかへりいはておもふそいふにまされる(古今六帖2948、源氏古注・花鳥余情・一葉抄・休聞抄・紹巴抄・孟津抄・岷江入楚) 大和物語此下句侍り鷹事ニアリ
  をしこめたるはくるしかりけりなにやかや
  とはかなき事なれと・おかしきさまにも
  まめやかにもの給へとなにのかひなし・いと
0109【いとかゝるも】-源氏
  かゝるもさまかはりおもふかたことにものし給ふ
  人にやとねたくてやをらをしあけていり
  たまひにけり・命婦あなうたてたゆめ給」17オ
0110【たゆめ】-油断セサセタル也
  へるといとおしけれは・しらすかほにてわかかたへいに
  けり・このわか人ともはたよにたくひなき
0111【このわか人】-侍従そと
  御ありさまのをときゝにつみゆるしきこえて
  おとろおとろしうもなけかれす・たゝおも
  ひもよらすにはかにてさる御心もなきをそ
  思ひける・さうしみはたゝわれにもあらすはつ
  かしくつゝましきよりほかの事またなけ
  れは・いまはかゝるそあはれなるかしまたよな
0112【いまは】-源氏の心
  れぬ人うちかしつかれたると見ゆるし給ふ
  ものから心えすなまいとおしとおほゆる御さ」17ウ
  まなり・なに事につけてかは御心のとまらむう
  ちうめかれてよふかういて給ひぬ・命婦はいかな
  らむとめさめてきゝふせりけれとしりかほ
  ならしと(と+て)御をくりにともこはつくらす君もや
  をらしのひていて給にけり・二条の院におは
  してうちふし給ひてもなを思ふにかなひ
  かたきよにこそとおほしつゝけてかるらかなら
0113【かるらかならぬ人】-末摘
  ぬ人の御ほと(と+を)心くるしとそおほしける・
  思ひみたれておはするに・頭中将おはして
  こよなき御あさいかなゆへあらむかしとこそ」18オ
  思ひ給へらるれといへは・おきあかり給て心や
0114【おきあかり給て】-源氏
  すきひとりねのとこにてゆるひにけりやうち
0115【ゆるひ】-緩
  よりかとの給へは・しかまかて侍るまゝなり・すさ
0116【しかまかて】-頭中将
  く院の行幸けふなむかく人まひ人(△&人)
0117【かく人】-ヒト
  さためらるへきよしよへうけたまはりしを・
  おとゝにもつたへ申さむとてなむまかて侍
  る・やかてかへりまいりぬへう侍るといそかしけ
  なれは・さらはもろと(と+も)にとて御かゆこはいひめし
0118【御かゆこはいひ】-粥 強飯
  て・まらうとにもまいり給て・ひきつゝけたれ
0119【ひきつゝけ】-源氏与頭中将車をつらねなから同車せられたる也
  とひとつにたてまつりて・なをいとねふたけな」18ウ
0120【なをいと】-頭中将
  りととかめいてつゝかくい給事おほかりと
  そうらみきこえ給ふ・ことともおほくさた
0121【こととも】-行幸事
  めらるゝ日にてうちにさふらひくらし給つ・
  かしこにはふみをたにといとをしくおほ
0122【かしこには】-末摘
  しいてゝゆふつかたそありける・雨ふりいてゝ
  所せくもあるにかさやとりむとはたおほ
  されすやありけむ・かしこにはまつほとすき
  て命婦もいといとをしき御さまかなと心う
  くおもひけり・さうしみは御心のうちにはつ
0123【さうしみは】-末摘花
  かしう思ひ給てけさの御ふみのくれぬれと」19オ
  なか/\とかとも思ひわき給はさりけり・
    ゆふきりのはるゝけしきもまたみぬに
0124【ゆふきりの】-源氏イ
  いふせさそふるよひのあめかなくもままち
0125【くもままちいてむほと】-雨はれハ行へしと云心也
  いてむほといかに心もとなうとあり・おはします
  ましき御けしきを人/\むねつふれて
  おもへとなをきこえさせ給へとそゝのかしあ
  へれと・いとゝおもひみたれ給へるほとにてえ
  かたのやうにもつゝけたまはねはよふけぬ
  とて・ししうそれいのをしへきこゆる
    はれぬよの月まつさとをおもひやれ」19ウ
0126【はれぬよの】-返し
  おなし心になかめせすともくち/\にせめ
  られてむらさきのかみのとしへにけれは・はひ
0127【むらさきのかみ】-万十六紫ハはいさすものそつハいちのやそのちまたにあへるこやたれ(万葉3115、源氏物語新釈)
  をくれふるめいたるにて(て&て)はさすかにもしつ
  よう中さたのすちにてかみしもひとしく
0128【中さた】-中央也中比也
0129【かみしもひとしく】-女の文ハ上下なかくみしかくかきてひとしくハかゝぬ也ちらしかき本也
  かい給へり・みるかひなううちをき給ふ・いかに
0130【みるかひなう】-源氏
  をもふらんと思ひやるもやすからす・かゝること
  をくやしなとはいふにやあらむ・さりとていかゝ
  はせむわれはさりとも心なかく見はてゝ
  むとおほしなす・御心をしらねはかしこにはい
  みしうそなけい給ける・おとゝ夜にいりて」20オ
  まかて給にひかれたてまつりて大殿にをはし
  ましぬ・行幸のことをけふありとおもほし
0131【けふ】-興
  て君たちあつまりての給ひ・をの/\まひ
  ともならひ給ふを・そのころの事にてす
  きゆく・ものゝねともつねよりもみゝかしか
  ましくてかた/\いとみつゝれゐの御あそ
0132【れゐの御あそひならす】-康保三年十月七日覧殿上舞有大篳篥<ヒチリキ>小篳篥<ヒチリキ>
  ひならす・大ひちりき・さくはちのふえなと
0133【さくはちのふえ】-尺八長一尺八寸舌四寸八分又名短笛
  のおほこゑをふきあけつゝ・たいこをさへかう
0134【たいこをさへ】-礼記鐘皷在庭瑟在堂 寛治五年五月廿五日殿上競馬六番主上自打大皷給此時並堂上 延木四年三月廿四日覧舞楽左大臣明平公仰令推大皷階前自打之
  らむのもとにまろはしよせて・てつからうち
  ならしあそひおはさふす・御いとまなきやう」20ウ
  にてせちにおほす所はかりにこそぬすま
0135【おほす所】-藤壺なと也
0136【ぬすまはれ給へれ】-ぬすまれ給ふ也
  はれ給へ(へ+れ)・かのわたりにはいとをほつかなく(く+て)あき
0137【かのわたり】-末摘花
  くれはてぬなをたのみこしかひなくてすき
  ゆく・行幸ちかくなりてしかくなとのゝしる
  ころそ命婦はまいれる・いかにそなと・とひたま
0138【いかにそ】-源氏
0139【とひたまいて】-末摘の事
  いていとをしとはおほしたり・ありさまきこえ
0140【ありさま】-命婦
  ていとかうもてはなれたる御心はえはみた
  まふる人さへ心くるしくなとなきぬはかり
  おもへり・心にくゝもてなしてやみなむとおもへ
  りし事をくたいて・ける心もなく・この人」21オ
0141【くたいて】-腐
0142【この人】-命婦か心
  のおもふらむをさへおほす・さうしみのものは
0143【さうしみ】-末摘
  いはて・おほしうつもれ給らむさまおもひやり
  給ふもいとおしけれは・いとまなきほとそやわり
0144【いとまなき】-源氏
  なしとうちなけい給てものおもひしらぬやう
  なる心さまをこらさむと思ふそかしとほゝ
  ゑみ給へるわかううつくしけなれは・われもうち
0145【われも】-命婦
  ゑまるゝ心ちして・わりなの人にうらみられ給ふ
  御よはひや・おもひやりすくなう御心のまゝなら
  むもことはりとおもふ・この御いそきのほとす
  くしてそ時/\おは(△△&おは)しける・かのむらさきの」21ウ
0146【時/\おはしける】-末摘
0147【かのむらさきのゆかり】-紫上ハ薄雲の姪女故也
  ゆかりたつねとり給ひてそのうつくしみに心
  いり給ひて・六条わたりにたにかれまさりたま
  ふめれは・ましてあれたるやとは・あはれにおほし
0148【あれたるやと】-末摘花
  をこたらすなからものうきそわりなかりける
  と・所せき御ものはちを見あらはさむの御心も
0149【御ものはち】-蓬生の事
  ことになうてすきゆくを・またうちかへし見
  まさりするやうもありかし・てさくりのたと
0150【てさくりの】-鼻の長き手あたる也
  たとしきにあやしう心えぬ事もあるにや・
  みてしかなとおもほせとけさやかにとりな
  さむもまはゆし・うちとけたるよひゐの」22オ
  ほとやをらいり給ひて・かうしのはさまより・
  見給ひけりされとみつからは見え給へくもあ
0151【みつからは】-末摘
  らす・き丁なといたくそこなはれたるもの
  から・としへにけるたちとかはらすおしやり
  なとみたれねは心もとなくて・こたち四五人
  ゐたり・御たい・ひそくやうのもろこしのもの
0152【御たい】-台
0153【ひそく】-茶碗事也唐の世ニ秘蔵して秘色といへり
  なれと・ひとわろきになにのくさはひもな
0154【わろきに】-此器物ふるくてよからねハ人わろしと也
0155【くさはひ】-種
  くあはれけなるまかてゝ人/\くふ・すみ
0156【まかてゝ】-退
  のまはかりにそいとさむけなる女はらしろき
  きぬのいひ(△&ひ)しらすすゝけたるにきたなけ」22ウ
  なるしひらひきゆひつけたるこしつきかた
0157【しひら】-うは裳ナリ
  くなしけなり・さすかにくしをしたれてさ
  したるひたいつき・ないけうはう内侍所の
0158【ないけうはう】-内教坊也女楽をつかさとる所也
  ほとにかゝるものともあるはやとおかし・かけ
0159【かけても】-源氏御心
  ても人のあたりにちかうふるまふものとも
  しりたまはさりけり・あはれ・さもさむきとし
  かないのちなかけれはかゝる世にもあふものな
  りけりとて・うちなくもあり・こ宮をはしまし
  し世をなとてからしと思ひけむかくたのみ
0160【からし】-辛
  なくてもすくるものなりけりとてとひたち」23オ
0161【とひたちぬへく】-とひたちぬへしつるの毛衣 後撰哥世ノ中ヲウシトヤサシト思ヘトモトヒタチカネツ鳥ニシアラネハ(万葉893、河海抄・一葉抄・休聞抄・孟津抄・紹巴抄・岷江入楚)
  ぬへくふるふもあり・さま/\に人わろき事
  ともをうれへあへるをきゝ給もかたはらいた
  けれは・たちのきてたゝいまおはするやうに
  てうちたゝき給ふ・そゝやなといひて火とり
  なをしかうしはなちていれたてまつる・しゝう
  はさい院にまいりかよふわか人にてこのころは
  なかりけり・いよ/\あやしうひなひたるかきり
0162【ひなひたる】-いなかひたるナリ
  にて・みならはぬ心ちそする・いとゝうれふなり
  つる(る+にイ、にイ$)ゆきかきたれいみしうふりけり・空の
  けしきはけしうかせふきあれておほとな」23ウ
  ふらきえにけるをともしつくる人もなし・かの
0163【かの】-夕顔
  ものにをそはれしおりおほしいてられてあれ
  たるさまはおとらさめるをほとのせはう人
  けのすこしあるなとになくさめたれと・
  すこううたていさとき心ちする夜のさま
0164【いさとき】-さとき也
  なり・おかしうもあはれにもやうかへて心とまり
  ぬへきありさまを・いとむもれすくよかにて
  なにのはへなきをそくちをしうおほす・
  からうしてあけぬるけしきなれは・かうしてつ
  からあけ給てまへのせむさいのゆきを見」24オ
  たまふ・ふみあけたるあともなくはる(△&る)/\とあれ
  わたりていみしうさひしけなるに・ふりいてゝゆ
  かむ事もあはれにて・おかしきほとの空も
  見給へ・つきせぬ御心のへたてこそわりなけれ
0165【見給へつきせぬ】-末つむにの給ふ也
  とうらみきこえ給ふ・またほのくらけれと
  ゆきのひかりにいとゝきよらにわかう見え
  給ふを・おい人ともゑみさかへて見たてまつる・
0166【ゑみさかへて】-咲 栄
  はやいてさせ給へ・あちきなし・心うつくしき
0167【はやいてさせ給へ】-源氏
  こそなとをしへきこゆれは・さすかに人のき
  こゆる事をえいなひ給はぬ御心にて・とかうひ」24ウ
  きつくろいてゐさりいて給へり・見ぬやうに
  てとのかたをなかめ給へれと・しりめはたゝなら
  す・いかにそうちとけまさりのいさゝかもあ
  らはうれしからむとおほすもあなかちなる
  御心なりや・まつゐたけのたかくをせなかに
  みえ給ふに・されはよとむねつふれぬ・うちつ
  きてあなかたわと見ゆるものは(は+御、御#)はななりけり
  ふとめそとまる・ふけむほさつのゝりものとお
0168【ふけむほさつのゝりもの】-普賢菩薩乗大白象鼻如紅蓮華色観普賢経
  ほゆ・あさましうたかうのひらかにさきの
  かたすこしたりていろつきたる事ことの」25オ
  ほかにうたてあり・いろはゆきはつかしくし
0169【しろうてさおに】-少青也極て白物青く見ゆる也
  ろうて・さおにひたひつきこよなうはれたる
  に・なをしもかちなるおもやうは・おほかたおと
0170【しもかち】-面長也
  ろおとろしうなかきなるへし・やせたまへる
  事いとをしけにさらほひてかたのほとなと(△&と)
0171【いとをしけに】-痛
0172【さらほひて】-[骨+尭]床子ヤセカラ/\トシタル也
  はいたけなるまてきぬのうへまてみゆ・なに
0173【なににのこりなう】-源氏
  にのこりなう見あらはしつらむと思ものから
  めつらしきさまのしたれはさすかにうちみや(や+ら)
  れ給ふ・かしらつきかみのかゝりはしもうつ
  くしけにめてたしとおもひきこゆる人/\」25ウ
0174【めてたしとおもひきこゆる人/\】-藤壺
  にもおさ/\おとるましう・うちきのすそに
  たまりてひかれたるほと一尺はかりあまり
  たらむと見ゆ・きたまへるものともをさへ
0174【きたまへるものともを】-作者詞也
  いひたつるもものいひさかなきやうなれと
  むかしものかたりにも人の御さうそくをこそ
  まついひためれ・ゆるしいろのわりなううはし
0175【ゆるしいろ】-聴色也紅梅をいふ見延喜式深紅ハ禁色也
  らみたるひとかさね・なこりなうくろきう
0176【ひとかさね】-衣一かさね也
  ちきかさねて・うはきにはふるきのかはき
0177【ふるきのかはきぬ】-\<朱合点> 貂裘可聞師説
  ぬいときよらにかうはしきをき給へり・こた
0178【こたい】-古代
  いのゆへつきたる御さうそくなれとなを」26オ
0179【ゆへつき】-由付
  わかやかなる女の御よそひにはにけなうおとろ
  おとろしき事いともてはやされたり・されと
  けにこのかはなうてはたさむからましとみゆる
  御かほさまなるを心くるしと見給ふ・なに
  事もいはれ給はすわれさへくちとちたる
  心ちしたまへと・れいのしゝまも心みむとと
  かうきこえ給ふにいたうはちらひてくちお
  ほひしたまへるさへひなひふるめかしうこと
  ことしくきしき官のねりいてたるひち
0180【きしき官】-儀式官 判官ナト也
  もちおほえて・さすかにうちゑみ給へるけし」26ウ
  きはしたなうすゝろひたり・いとをしく
  あはれにていとゝいそきいて給ふ・たのもしき
0181【たのもしき人なき御ありさまを】-源氏詞
  人なき御ありさまを見そめたる人にはう
  とからす思ひむつひ給はむこそほいある心
  ちすへけれ・ゆるしなき御けしきなれはつら
  うなとことつけて
    あさひさすのきのたるひはとけなから
0182【あさひさす】-源氏<右> 好忠集あさ日こやけさハうらゝにさしつらん軒のたるみのしたの玉水<左>(好忠集6、花鳥余情・休聞抄・紹巴抄・孟津抄・岷江入楚)
  なとかつらゝのむすほゝるらむとの給へと・た
  たむく(く=むイ、イ#)とうちわらひていとくちをもけなる
  もいとおしけれはいて給ひぬ・御車よせたる」27オ
  中もむのいといたうゆかみよろほひてよめに
  こそしるきなからもよろつかくろへたる事
  おほかりけれ・いとあはれにさひしくあれまとへる
  に・まつのゆきのみあたゝかけにふりつめる
  山さとの心ちして・ものあはれなるを・かの人/\
  のいひしむくらのかとはかうやうなる所なり
0163【むくらのかと】-雨夜の物かたりにいへる事也
  けむかし・けに心くるしくらうたけならん
  人をこゝにすゑてうしろめたう恋しと
  おもはゝや・あるましきものおもひはそれにま
0164【あるましき】-薄雲を思ふをいふ
  きれなむかしと・おもふやうなるすみかに」27ウ
0165【おもふやうなるすみか】-末摘
  あはぬ御ありさまはとるへきかたなしと思ひな
  から・われならぬ人はまして見しのひてむや・わか
  かうて見なれけるはこみこのうしろめたし
0166【こみこ】-常陸宮
  とたくへをきたまひけむたましひのしる
  へなめりとそおほさるゝ・たち花の木のうつ
  もれたるみすいしむめしてはらはせた
  まふ・うらやみかほにまつのきのをのれお
  きかへりて・さとこほるゝゆきもなにた
0167【ゆきもなにたつすゑの】-\<朱合点> 古君をゝきてあたし心をわかもたハ末の松山なみもこえなん(古今1093、弄花抄) 古浦ちかくふりくる雪ハしらなみの末の松山こすかとそ見る(古今326・拾遺集239・古今六帖717・興風集7・63・寛平后宮歌合143、花鳥余情・弄花抄・孟津抄・岷江入楚)
  つすゑのとみゆるなとを・いとふかゝらす
  ともなたらか(△&か)なるほとにあひしらはむ人」28オ
  もかなと見給・御車いつへきかとはまたあけ
  さりけれは・かきのあつかりたつねいてたれはおき
  なのいといみしきそいてきたる・むすめにや
  むまこにや・はしたなるおほきさの女の
0168【はしたなる】-半なる勢分ナリ
  きぬはゆきにあひて・すゝけまとひさむし
  と思へるけしきふかう(う+て)あやしきものに火を
  たゝほのかにいれてそてくゝみにもたり・お
  きなかとをえあけやらねはよりてひきた
  すくるいとかたくなゝり・御ともの人よりてそ
  あけつる」28ウ
    ふりにけるかしらの雪をみるひとも
0169【ふりにける】-源氏
  おとらすぬらすあさのそてかなわかきもの
0170【ぬらすあさのそて】-古今秋ののゝさゝわけしあさの袖よりもあハてこし夜そひちまさりける(古今622・古今六帖3037・業平集15・伊勢物語、河海抄・孟津抄・岷江入楚)
0171【わかきものはかたちかくれす】-\<朱合点> 白氏文集夜深煙火尽霰雪白紛々幼者形不蔽老者体無温悲端与寒気併入鼻中辛秦中吟
  はかたちかくれす
うちすし給ひても・花
  の色に・いてゝいとさむしと見えつる御をもか
  け・ふとおもひいてられてほゝゑまれたま
  ふ・頭中将にこれを見せたらむときいかなる
  事をよそへいはむ・つねにうかゝひくれはいま
  見つけられなむとすへなうおほす・世の
  つねなるほとのことなる事なさならはおも
  ひすてゝもやみぬへきを・さたかに見たま」29オ
  ひてのちは中/\あはれにいみしくて・まめや
  かなるさまにつねにをとつれ給・ふるきの
  かはならぬ(ぬ+きぬ)あやわたなとおい人とものきるへ
  きものゝたくひ・かのおきなのためま
  てかみしもおほしやりてたてまつり給ふ・
  かやうのまめやか事もはつかしけならぬを
  心やすくさるかたのうしろみにてはくゝま
  むとおもほしとりてさまことにさならぬう
  ちとけわさもし給けり・かのうつせみの
  うちとけたりしよひのそはめには・いとわ」29ウ
  ろかりしかたちさまなれと・もてなしにかくさ
  れてくちおしうはあらさりきかし・おとる
  へきほとの人なりやは・けにしなにもよらぬわ
0172【しな】-品
  さなりけり・心はせ(せ+の)なたらかにねたけなり
  しをまけてやみにしかなとものゝおり
0175【まけ】-負
  ことにはおほしいつ・としもくれぬ・内のとの
0176【内のとのゐ所】-源ノ淑景舎
  ゐ所におはしますに・たいふの命婦まいれり・
  御けつりくしなとにはけさうたつすちな
0177【御けつりくし】-天子の御くしをけつりたてまつる時ハ上臈御くしをはらひ中臈けつり奉る也
  く心やすきものゝさすかにの給たはふれ
  なとしてつかひならし給へれは・めしなき」30オ
  時もきこゆへき事あるおりはまうのほりけり・
  あやしき事の侍をきこえさせさらむも
0178【あやしき事の侍を】-命婦
  ひか/\しう・おもひ給へわつらひてとほゝゑみ
  てきこえやらぬを・なにさまの事そわれに
0179【なにさまの】-源氏
  はつゝむ事あらしとなむおもふとの給へは・いか
0180【いかかは】-命婦
  かはみつからのうれへはかしこくともまつこそ
  は・これはいときこえさせにくゝなむといたうこと
  こめたれは・れいのえむなるとにくみ給・か
0181【れいの】-源氏
0182【かの宮より】-命婦
  の宮より侍る御ふみとてとりいてたり・まし
0183【宮】-蓬生
0184【まして】-源氏
  てこれはとりかくすへき事かはとてとり給」30ウ
  ふも・むねつふる・みちのくにかみのあつこえ
0185【みちのくにかみ】-今の檀紙ナリ 古今にみちのくのまゆみのかみといへり 檀ハまゆみ也
  たるににほひはかりはふかうしめ(△&め)給へり・いとよう
  かきおほせたりうたも
    からころも君かこゝろのつらけれは
0186【からころも】-末摘 元真集いつかわれ涙のつきんから衣君か心のつらきかきりは(元真集311、源氏古注・花鳥余情・休聞抄・紹巴抄・孟津抄・岷江入楚)
  たもとはかくそそほちつゝのみ心えすうち
  かたふき給へるに・つゝみにころもはこのお
0187【つゝみ】-裹
0188【ころもはこ】-衣筥
  もりかにこたいなるうちをきてをしいて
0189【こたい】-古代
  たり・これをいかてかはかたはらいたく思ひ給へ
0190【これを】-命婦
  さらむ・されとついたちの御よそひとてわ
  さと侍めるをはしたなうはは(は$え<朱>)かへし侍らす・」31オ
  ひとりひきこめ侍らむも人の御心たかひ侍へ
  けれは・御らむせさせてこそはときこゆれは・
  ひきこめられなむはからかりなまし・そてまき
0191【ひきこめられなむは】-源氏
0192【そてまきほさむ人も】-\<朱合点> 「白露(露=雪イ<墨>)はけふはなふりそ白たえの/そてまきほさむ人もなき身に<朱>」(付箋02 古今六帖755・万葉2325、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・源氏古注・河海抄)
  ほさむ人もなき身に・いと(と+うれしき心さしにこそはと<朱>)の給ひてことにも
  のいはれ給はす・さてもあさましのくちつき
  やこれこそはてつからの御事のかきりなめれ・
  侍従こそとりなをすへかめれ・またふてのし
0193【侍従こそとりなをす】-此哥ハ手つからのかわろし侍従こそよくハよむへきとなり
  りとるはかせそなかへきと・いふかひなくおほ
  す・心をつくしてよみいて給へらむほとを・お
  ほすにいともかしこきかたとはこれをもいふ」31ウ
  へかりけりと・ほゝゑみて見給ふを・命婦おもて
  あかみて見たてまつる・いまやういろのえゆ
0194【いまやういろ】-こき紅梅也 うす紅梅ハ聴色也濃によりてえゆるすましといふ也
  るすましくつやなうふるめきたる・なおし
  のうらうへひとしうこまやかなる・いとなを/\しう
  つま/\そみえたる・あさましとおほすに・こ
  のふみをひろけなからはしにてならひすさひ
  給ふを・そはめに見れは
0195【そはめに見れは】-命婦
    なつかしき色ともなしになにゝこの
0196【なつかしき】-源氏
  すゑつむ花をそてにふれけむ色こきは
0197【すゑつむ花】-万よそにのみみつゝやこひん紅の末つむ花の色にいてすとも人丸(拾遺集632、河海抄・休聞抄・紹巴抄・孟津抄・岷江入楚) 古今人しれす思へハくるし紅の末つむ花の色にいてなん(古今496・古今六帖3493、異本紫明抄・紫明抄・源氏古注・河海抄)
0198【色こきはな】-\<朱合点> 「くれなゐを(を=のイ)色こき花とみしかとも/人をあくたに(たに=にはイ)うつろひにけり(ろひにけり=るてふなりイ)<朱>」(付箋03 出典未詳、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・源氏古注・河海抄)
  なとみしかともなと・かきけかし給ふ・花のと」32オ
0199【花のとかめを】-命婦
  かめを(を+なを)あるやうあらむとおもひあはするおり/\
  の月かけなとを・いとおしきものからをかし
0200【月】-つま河海説
  うおもひなりぬ
    くれなゐのひと花ころも(△△&ろも)うすくとも
0201【くれなゐの】-命婦
  ひたすらくたすなをしたてすは心くるし
  のよやといといたうなれてひとりこつを・よき
0202【よきには】-源氏
  にはあらねとかうやうのかいなてにたにあら
0203【かいなてに】-をしなへてといふ心也
  ましかはとかへす/\くちをし人のほとの心
  くるしきになのくちなむはさすかなり・ひと
  ひとまいれは・とりかくさむやかゝるわさは人」32ウ
0204【とりかくさむや】-源氏
  のするものにやあらむとうちうめき給ふ・な
0205【なにゝこらむせさせつらむ】-命婦
  にゝこらむせさせつらむわれさへ心なきやうに
  といとはつかしくてやをらおりぬ・またの日うへに
0206【おりぬ】-下
0207【うへにさふらへは】-命婦
  さふらへは・たいはむ所にさしのそき給て・く
0208【くはや】-さあといふ也
  はや・きのふのかへり事あやしく心はみすく
0209【心はみすくさるゝ】-心たちすきたるとの給ふ
  さるゝとてなけ給へり・女はうたちなに
  事ならむとゆかしかる・たゝ梅の花の色
0210【たゝ梅の花の色】-\<朱合点>
  のこと
みかさの山のをとめをはすてゝと・
0211【みかさの山のをとめをは】-\<朱合点> 求子哥也春日社ニテハミカサ山トウタフ余社ニテハ各其所ヲうたふ也青表紙云未勘云々
  うたひすさひていて給ひぬるを・命婦は
  いとおかしとおもふ・心しらぬ人/\はなそ御ひと」33オ
  りゑみは(は+と)とかめあへり・あらすさむきしも
  あさにかいねりこのめる花のいろあひやみ
0212【かいねり】-掻練也面ウラにくさハりにて中倍(倍=へ)なし紅の色也火色ハ面裏くれなゐの打物中へあり
0213【かいねりこのめる花のいろあひや】-風俗哥たゝらめの花のことかいねりこのむやけしむらさきの色このむや
  えつらむ・御つゝしりうたのいとおしきとい
  へは・あなかちなる御事かなこのなかにはにほ
  へる花もなかめり・さこむの命婦・ひこのう
0214【さこむの命婦ひこのうねへ】-此二人ハ鼻のあかき人也
  ねゑ(ゑ$へ)や・ましらひつらむなと心もえすいひ
  しろふ・御かへりたてまつりたれは・宮には
  女はうつとひて見めてけり
    あはぬよをへたつるなかのころもてに
0215【あはぬよを】-源氏返し 拾衣たに中にありしハうとかりきあハぬ世をさへへたてぬるかな(拾遺集789・拾遺抄270、源氏古注花鳥余情・休聞抄・紹巴抄・孟津抄・岷江入楚)
  かさねていとゝ見もしみよとやしろきかみ」33ウ
  にすてかひ給へるしもそなか/\おかしけ
  なる・つこもりの日ゆふつかたかの御ころもはこ
  に御れうとて人のたてまつれる御そひとく(く+たり・)
  えひそめのをりものゝ御そ又やまふきかな
  にそ・いろ/\見えて・命婦そたてまつりたる・
  ありしいろあひをわろしとや見たまひけんと
  思ひしらるれと・かれはたくれなゐのおも/\し
  かりしをやさりともきえしと・ねひ人ともは
0216【ねひ人】-老
  さたむる・御うたもこれよりのはことはりきこえて
  したゝかにこそあれ・御かへりはたゝおかしきかた」34オ
  にこそなとくち/\にいふ・ひめ君もおほろけ
  ならてしいて給へるわさなれはものにかきつけ
  てをき給へりけり・ついたちのほとすき
0217【ついたちのほと】-正月一日改年源氏十八紫上十一
  てことしおとこたうかあるへけれは・れいの
  所/\あそひのゝしり給ふに・ものさはかしけれ
0218【ものさはかしけれと】-蓬生
  とさひしき所のあはれにをほしやらるれは・
  なぬかの日のせちゑはてゝ夜にいりて御せむ
  よりまかて給ひけるを御とのゐ所にやかて
0219【御とのゐ所】-きりつほ
  とまり給ぬるやうにてよふかしておはしたり・
0220【おはしたり】-蓬生許
  れいのありさまよりはけはひうちそよめき」34ウ
  (+よ)ついたり・君もすこしたをやき給へるけし
0221【君も】-蓬生
  きもてつけたまへり・いかにそあらためてひき
0222【いかにそ】-源氏
  かへたらむときとそおほしつゝけらるゝ・日さし
  いつるほとにやすらひなしていて給ふ・ひむかし
  のつまとをしあけたれはむかひたるらうの
  うへもなくあはれたれは・ひのあしほとなくさし
0223【あし】-脚
  いりてゆきすこしふりたるひかりに・いとけ
  さやかに見いれらる・御なをしなとたてま
  つるを見いたしてすこしさしいてゝかたはら
0224【見いたして】-蓬生
  ふし給へるかしらつきこほれいてたるほと」35オ
  いとめてたし・おひなをりを見いてたらむ
  時とおほされてかうしひきあけ給へり・いと
  おしかりしものこりにあけもはて給はて・け
  うそくををしよせてうちかけて御ひん(ん$)くき
  のしとけなきをつくろひ給ふ・わりなうふる
  めきたるきやうたいの・からくしけ・かゝ
0225【からくしけ】-唐匣
0226【かゝけのはこ】-掻上函也
  けのはこなと・とりいてたり・さすかにおとこ
  の御くさへほの/\あるをされておかしと見
  給ふ・女の御さうそくけふはよつきたりと
  見ゆるは・ありしはこの心はをさなからなり」35ウ
  けり・さもおほしよらすけふあるもむつきてしる
  きうはきはかりそあやしとおほしける・ことし
0227【うはき】-表着
  たにこゑすこしきかせたまへかし・またるゝ
0228【またるゝものは】-\<朱合点>
  ものはさしをかれて御けしきのあらたまらむ
  なむゆかしきとの給へは・さえつるはるはと
0229【さえつるはるは】-\<朱合点> 蓬生<右> 「百千鳥さえつる春ハ物ことに/あらたまれとも我そふりゆく<朱>」(付箋04 古今28、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・源氏古注・河海抄)
  かし(し$らイ、イ#)うしてわなゝかしいてたり・さりやとし
0230【さりや】-源氏
  へぬるしるしよとうちわらひ給て夢かと
0231【夢かとそみる】-\<朱合点> 「夢とこそおもふへけれとおほつかな/ねぬに見しかハわきそかねぬる<朱>」(付箋05 後撰714、奥入・源氏古注・河海抄・孟津抄・岷江入楚) わすれてハ夢かとそおもふ思きやイ<左>(古今970・古今六帖715・業平集60・伊勢物語152、源氏釈・異本紫明抄・紫明抄)
  そみるとうちすしていて給ふを・見をく
  りてそひふし給へりくちおほひのそは
  めよりなをかのすゑつむ花いとにほひや」36オ
  かにさしいてたり・見くるしのわさやとおほ
  さる・二条の院におはしたれは・むらさきの君
0232【むらさきの君】-今年十一歳
  いともうつくしきかたおひにて・くれなゐは
  かうなつかしきもありけりと見ゆるに・む
0233【かうなつかしき】-紅顔をいふ
  もんのさくらのほそなかなよらかにきな
  して・なに心もなくてものし給ふさまいみしう
  らうたし・こたいのをは君の御なこりにて・
  はくろめもさ(さ#ま、ま=まイ)たしかりけるを・ひきつくろは
0234【はくろめ】-歯黒 山海経云東海有黒歯国其俗婦人歯志黒染
  せ給へれは・まゆのけさやかになりたるも・う
  つくしうきよらなり・心からなと(と+か)かううき」36ウ
0235【心から】-源氏
0236【うき世を】-紫上と蓬生とをいへり
  世をみあつかふらむ・かく心くるしきものを
0237【心くるしき】-蓬生
  も見てゐたらてとおほしつゝ・れいのもろ
  ともにひい(ゝ&い)なあそひし給ゑなとかきて色
  とり給・よろつにおかしうすさひちらし給
  けり・われもかきそへ給ふ・かみいとなかき女
0238【われも】-源ノ
  をかき給ひて・はなにへにをつけて見給
0239【へに】-遠脂
  ふに・かたにかきても見ま(△&ま)うきさまし
  たり・わか御かけのきやうたいにうつれるかい
  ときよらなるを見給ひて・てつからこの
  あかはなをかきつけにほはして見給ふに・」37オ
  かくよきかほたにさてましれらむは見く
  るしかるへかりけり・ひめ君みていみしく
  わらひ給・まろかかくかたはになりなむと
  きいかならむとのたまへは・うたてこそあ
  らめとてさもやしみつかむとあやうく思ひ
  給へり・そらのこひをしてさらにこそしろ
  まね・ようなきすさひわさなりや・うち
  にいかにの給はむ(む+と)すらむといとまめやか
  にの給を・いと/\おしとおほしてよりての
  こひ給へは・へいちうかやうに色とりそへ給な・」37ウ
0240【へいちうかやうに】-「<平中妻哥也>/我にこそつらさハ君かみすれとも/人にすみつくかほのけしきよ<朱>」(付箋06 出典未詳、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・源氏古注・河海抄) 平中也定文事也宇治大納言物語大和物語にあり女のよめる哥<右>
  あかゝらむはあえなむとたはふれ給・さまいと
0241【あえなむ】-ありなんといふ也又似たらんといふ心
  おかしきいもせとみえ給へり・ひのいとうらゝか
  なるにいつしかとかすみはたれるこすゑ
  ともの心もとなき中にも・むめはけしきは
0242【むめはけしきはみ】-「にほはねとほおゑむ梅の花をこそ/われもおかしとおりてなかむれ(おりてなかむれ=折テハヲラマホシケレ イ)<朱>」(付箋07 好忠集26、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・源氏古注・河海抄)
  みほゝゑみわたれるとりわきて見ゆ・はしか
  くしのもとのこうはいゝとゝくさく花に
  て色つきにけり
    くれなゐのはなそあやなくうとまるゝ
0243【くれなゐの】-源氏
  梅のたちえはなつかしけれといてやとあ
  いなくうちうめかれ給ふ・かゝる人/\のす」38オ
0244【かゝる人/\の】-作者詞也
  ゑすゑいかなりけむ」38ウ

  伊行
【奥入01】琴詩酒伴皆抛我雪月花時
  尤憶君(奥入05)
【奥入02】伊毛可々度世奈可々度申支酒支可祢天也
  和可由可波比知可左乃比知可左のあめも
  やふらなむしてたをさあまやとり可左や
  とりて末からむしてたをさ(戻)
【奥入03】文集秦中吟
  夜深煙火尽 霰雪白紛々 幼者形不蔽」39オ
  老者体無温 悲端与寒気 併入鼻中辛(戻)
【奥入04】求子の哥をかすかにてはみかさ山とうたふ(戻)
【奥入05】文集六十二
  北窓三友
  今日北窓下 自問何所為 欣然得三友
  三友者為誰 琴罷輙挙酒 々罷輙吟詩
  三友逓相引 脩隈無已時 一弾△<カナフ>中心
  一詠暢四支 猶恐中有問 以酔弥縫之
  みつ(つ+の)ともはこれ也(戻)」39ウ

二校了(前遊紙1オ)

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