紅葉賀(大島本) First updated 6/8/2002(ver.1-1)
Last updated 11/7/2006(ver.2-1)
渋谷栄一翻字(C)

  

紅葉賀


《概要》
 大島本は、青表紙本の最善本とはいうものの、現状では、後人の筆によるさまざまな本文校訂跡や本文書き入れ注記、句点、声点、濁点等をもつ。そうした現状の様態をそのままに、以下の諸点について分析していく。
1 大島本と大島本の親本復元との関係 鎌倉期書写青表紙本(池田本・伏見天皇本等)を補助的資料として
2 大島本の本文校訂に対校された本文系統
3 大島本の句点の関係
4 大島本の後人書き入れ注記

《書誌》

《翻刻資料》

凡例
1 本稿は、『大島本 源氏物語』(1996(平成8)年5月 角川書店)を翻刻した。よって、後人の筆が加わった現状の本文様態である。
2 行間注記は【 】- としてその頭に番号を記した。
2 小字及び割注等は< >で記した。/は改行を表す。また漢文の訓点等は< >で記した。
3 合(掛)点は、\<朱(墨)合点>と記した。
4 朱句点は「・」で記した。
5 本文の校訂記号は次の通りである。
 $(ミセケチ)・#(抹消)・+(補入)・&(ナゾリ)・=(併記)・△(不明文字)
 ( )の前の文字及び( )内の記号の前の文字は、訂正以前の文字、記号の後の文字が訂正以後の文字である。ただし、なぞり訂正だけは( )の前の文字は訂正後の文字である。訂正以前の本行本文の文字を尊重したことと、なぞり訂正だけは元の文字が判読しにくかったための処置である。
6 朱・墨等の筆跡の相違や右側・左側・頭注等の注の位置は< >と( )で記した。私に付けた注記は(* )と記した。
7 付箋は、「 」で括り、付箋番号を記した。
8 各丁の終わりには」の印と丁数とその表(オ)裏(ウ)を記した。
9 本文校訂跡については、藤本孝一「本文様態注記表」(『大島本 源氏物語 別巻』と柳井滋・室伏信助「大島本『源氏物語』(飛鳥井雅康等筆)の本文の様態」(新日本古典文学大系本『源氏物語』付録)を参照した。
10 和歌の出典については、伊井春樹『源氏物語引歌索引』と『新編国歌大観』を参照し、和歌番号と、古注・旧注書名を掲載した。ただ小さな本文異同については略した。

「もみちの賀」(題箋)

  朱雀院の行幸は・神な月(月+の<朱>)十日あ
0001【朱雀院の行幸】-延喜十六年三月七日行幸朱雀院有法皇五十御賀ニこれになすらふへし寛平法皇御事也 ニタレニナスラヘシ寛平法皇ノ御事也
  まりなり(△&り)・よのつねならすおもしろ
  かるへきたひの事なりけれは・御かた/\
  ものみたまはぬ事を・くちおしかり
  給・うへも藤つほの見給はさらむを・あか
0002【藤つほ】-時ニ懐妊七ケ月
  すおほさるれは・しかくを御前にてせさ
0003【御前にて】-内裏にてせさせ給ふ也
  せ給ふ・源氏中将は・せいかいはそまひ
0004【せいかいは】-盤渉調楽
  たまひける・かたてには大とのゝのとふの
0005【とふの中将】-致仕太政大臣
  中将・かたちようい・人にはことなるを・
  たちならひては・なを・花のかたはらの」1オ
  みやま木なり・入かたのひかけさやかに
  さしたるに・かくのこゑまさり・ものゝ
  おもしろきほとに・おなしまひのあし
0006【あしふみ】-足踏
  ふみ・おもゝち・よに見えぬさまなり・ゑい
0007【おもゝち】-面持
0008【ゑい】-詠<朱>
  なとし給へるは・これやほとけの御かれう
0009【かれうひんか】-迦陵頻迦<朱>
  ひんかのこゑならむと・きこゆ・おもしろく
  あはれなるに・みかとなみたをのこひ
  給ひかむたちめみこたちも・みななき
  たまひぬ・ゑいはてゝ・そてうち・なをし
  たまへるに・まちとりたるかくの・」1ウ
  にきはゝしきに・かほのいろあひまさり
  て・つねよりもひかるとみえ給・春宮の
0010【春宮の女御】-東宮の母女御弘徽殿女御
  女御かくめてたきにつけてもたゝなら
  すおほして・神なとそらにめてつへき
  かたちかな・うたてゆゝしとの給を・わか
  き女房なとは心うしとみゝとゝめけり・
  藤つほはおほけなき心の・なからまし
  かはましてめてたく見えましとおほ
  すに・夢の心ちなむし給ひける・宮は
  やかて御とのゐなりける・けふのし」2オ
0011【けふのしかく】-御門の御詞
  かくはせいかいはに事みなつきぬな・い
  かゝ見給ひつると・きこえ給へは・あいなう
  御いらへきこえにくゝて・ことに侍つとは
0012【ことに侍つ】-藤ツホ詞<右>
0013【ことに】-殊<左>
  かりきこえたまふ・かたてもけしうは
0014【かたても】-又御門
  あらすこそ・見えつれ・まひのさま・てつかひ
  なむ・いゑのこはことなる・この世に名を
0015【いゑのこ】-良家子也
  えたる・まひのをのこともゝ・けにいと
  かしこけれと・こゝしうなまめいたる
0016【こゝしう】-古ふるめかしき也
  すちをえなむみせぬ・こゝろみの日かく
  つくし・つれは・もみちのかけやさう/\しくと」2ウ
0017【もみちのかけやさう/\しくと】-賀の日やさうさしからむされとイ本
  思へと・見せたてまつらんの心にて・よふいせ
  させつるなと・きこえたまふ・つとめて
  中将の君・いかに御らむしけむ・よに
0018【中将の君】-源氏
0019【いかに御らむしけむ】-藤ツホへの御文
  しらぬみたりこゝちなからこそ
    ものおもふにたちまふへくもあらぬみの
0020【ものおもふに】-源氏
  そてうちふりし心しりきやあなか
  しことある御返・めもあやなりし・
0021【御返】-藤ツホ
  御さまかたちにみ給ひ(ひ#ひ)しのはれすやあ
  りけむ
    から人のそてふることはとをけれと」3オ
0022【から人の】-藤ツホ 唐楽ハ唐朝ノ伝ナレハカラ人ノ袖フルトイヘリ
  たちゐにつけてあはれとは見き大かたに
  はとあるを・かきりなふめつらしう・かやう
0023【かきりなふ】-源氏
  のかたさへたと/\しからす・人のみかとまて
  おもほしやれる・御きさきことはの
0024【御きさきことは】-藤ツホハ次年十月ニ后ニ立ケリ然共后カネニテヲハシマセハ后詞トイヘリ聖詞童詞翁詞ナト云カ如シ
  かねてもと・ほゝゑまれて・ち経のやうに
  ひきひろけて見いたまへり・行幸には
0025【行幸には】-朱雀院行幸ノ事
  みこたちなとよにのこる人なく・つかう
  まつり給へり・春宮もおはします・
  れいのかくの(△&の)ふねとも・こきめくりて・
  もろこし・こまとつくしたる・まひとも」3ウ
0026【もろこし】-唐 左楽
0027【こま】-高麗 右楽
  くさおほかり・かくのこゑ・つゝみのをと・よを
0028【くさ】-種<朱>
  ひゝかす・ひとひの源氏の・御ゆふかけ・ゆゝ
  しうおほされて・みす経なと・所/\に
  せさせ給ふを・きく人もことはりと・あは
  れかりきこゆるに・とうくうの女御は・
  あなかちなりと・にくみきこえ給ふ・かい
0029【かいしろ】垣代<朱>
  しろなと殿上人地下も・心ことなりと・よ
  人におもはれたるいうそくのかきりとゝ
  のへさせ給へり・さい将ふたり左衛門督右衛門督
  ひたりみきのかくのことをこなふ・まひの師」4オ
  ともなと世になへてならぬをとりつゝ・を
  の/\こもりゐてなむならひける・こた
  かきもみちのかけに四十人のかいしろ
  いひしらすふきたてたるものゝねとも
  に・あひたるまつ風まことの(の+み)山をろしと
  きこえて・吹まよひ色々にちりかふ
  このはの中より・せいかひはのかゝやきいて
  たるさまいとおそろしきまて見ゆ・かさ
  しのもみちいたうちりすきてかほの
  にほひにけおされたる心ちすれは・お」4ウ
  まへなる菊を折て左大将さしかへ給・
0030【左大将】-御不知何人
  日暮かゝるほとにけしきはかりうちしく
  れて・空のけしきさへ見しりかほなるに・
  さるいみしきすかたに菊の色々うつろひ
  えならぬをかさしてけふはまたなきて
  をつくしたるいりあやのほとそゝろさむ
0031【いりあや】-\<朱合点> 郭公二村山を尋ミン入アヤノ声ヤ今日ハマサルト俊頼(散木奇歌集304) 入綾ハ入舞事也
  くこのよの事ともおほえすもの見しる
  ましきしも人なとのこのもといはかくれ山
  のこのはにうつもれたるさへすこしものゝ
  心しるは・なみたおとしけり承香殿」5オ
  の御はらの四のみこ・またわらはにて秋
0032【四のみこ】-桐ツホ御門御子也
0033【秋風楽】-盤渉調
  風楽まひ給へるなむ・さしつきのみも
  のなりける・これらにおもしろさの
  つきにけれは・こと事にめもうつらす
0034【うつらす】-トゝマラス
  かへりてはことさましにやありけむ・
  其夜源氏の中将正三位し給・頭中将
0035【其夜源氏の中将正三位し給】-延喜紀云貞観以来奉賀時有叙位ノ例
  正下のかゝいし給・かむたちめはみなさる
0036【正下】-正四位下也
  へきかきり・よろこひし給もこの君に
  ひかれ給へるなれは・人の目をもおとろかし
  心をもよろこはせ給・むかしの世ゆかし」5ウ
  けなり・宮はそのころまかて給ぬれはれい
0037【宮は】-藤ツホ女御
0038【まかて給ぬれは】-三条宮
  のひまもやと・うかゝひありき給をこと
  にて・おほいとのにはさはかれ給ふ・いとゝかのわか
0039【わか草】-紫上
  草たつねとり給ひてしを・二条院に
  は人むかへ給へ(へ$ふ)なりと人のきこえけれはいと
  こゝろつきなしとおほいたり・うち/\の
  ありさまはしり給はす・さもおほさむは
  ことはりなれと・心うつくしくれいの人
  のやうにうらみの給はゝ・われもうらなく
0040【うらみの給はゝ】-葵上ノ事
  うちかたりてなくさめきこえてんものを・」6オ
  おもはすにのみとりない給・心つきなさに
  さもあるましきすさひこともいてくるそかし・
  人の御ありさまのかたほに・その事のあかぬに(に$と<朱>)
  おほゆるきすもなし・人よりさきに見たて
  まつりそめてしかは・あはれにやむことなく
  おもひきこゆるこゝろをも知給はぬほとこそ
  あらめ・つゐにはおほしなをされなむと・お
0041【おたしく】-葵上ノ心ムケ也
  たしく(く&く)かる/\しからぬ御心の・ほともをの
  つからとたのまるゝかたはことなりけり
  おさなき人はみついたまふ(ふ+まゝに)・いとよき心さま」6ウ
0042【おさなき人】-紫上
  かたちにて・なに心もなくむつれまとはし
  きこえ給・しは(△△&しは)しとのゝうちの人に
  もたれと(△&と)しらせしとおほして・なをはな
  れたるたいに御しつらひ・になくして・われも
  あけ暮いりおはして・よろつの御事とも
  を・ゝしへきこえ給い・てほんかきてならはせ
  なとしつゝ・たゝほかなりける御むすめ
  をむかへ給へらむやうにそおほしたる・まむ
  所けいしなとをはしめことにわかちて・
0043【けいし】-家司
  こゝろもとなからすつかうまつらせ給ふ・」7オ
  これみつよりほかの人はおほつかなくのみ
  おもひきこえたり・かのちゝみやもえし
0044【ちゝみや】-兵部卿宮
  りきこえ給はさりけり・ひめ君はなを
0045【ひめ君】-紫上
  とき/\思ひいてきこえ給ときあま君
0046【あま君】-祖母
  をこひきこえ給おりおほかり・きみのおは
  するほとはまきらはし給を・よるなとは
  時/\こそとまりたまへ・こゝかしこの御い
  とまなくて・くるれはいて給を・したひき
  こえ給おりなとあるを・いとらうたく
  おもひきこえ給へり・二三日うちに」7ウ
  さふらひ・おほとのにもおはするおりは・いとい
  たく(いたく=いたうイ、く+く)しなとしたまへは・心くるしうて・はゝ
  なきこもたらむ心ちして・ありきも
  しつ心なくおほえ給・そうつはかくなむと
0047【そうつ】-紫上ノをち也
  きゝ給て・あやしきものからうれし
0048【あやしきものから】-またいとけなき故也
  となむおもほしける・かの御法事なと
0048【かの御法事】-北山尼上
  し給ふにも・いかめしうとふらひきこ
  え給へり・藤つほのまかてたまへる三
  条の宮に・御あり様もゆかしうてま
  いり給へれは・命婦中納言(言+ノ<朱>)君・中務なと」8オ
  やうの人々たいめしたり・けさやかにも
  もてなし給かなと・やすからすおもへと
  しつめて・おほかたの御物かたりきこえ
  給ふほとに・兵部卿宮まいり給へり・この
  君おはすときゝ給てたいめし給へり・
  いとよしあるさまして・色めかしうなよ
0049【色めかしうなよひたまへるを】-兵部卿宮ノアリサマ也
  ひたまへるを・女にて見むはおかしかりぬ
  へく人しれす見たてまつり給にも・かた/\
  むつましくおほえ給て・こまやかに御物
  かたりなときこえ給・宮も此御さまのつ」8ウ
  ねよりもことになつかしううちとけ
  給へるを・いとめてたしと見たてまつり
  たまひて・むこになとはおほしよらて・
  女にて見はやといろめきたる御心には・
  おもほす・くれぬれはみすの内に入給を
  うらやましくむかしはうへの御もてなし
  に・いとけちかく人つてならて・ものをも
  きこえたまひしを・こよなううとみ
  給へるもつらうおほゆるそわりなきや・
  しは/\もさふらふへけれと・ことそと」9オ
0050【ことそと侍らぬ】-無殊事也
  侍らぬほとはをのつからおこたり侍を・
  さるへ(へ+き)事なとはおほす(す$せ)事も侍らむこそ・
  うれしくなと・すく/\しうていて給ひぬ・
  命婦もたはかりきこえむかたなく・宮
0051【宮】-薄ー
  の御けしきもありしより(り+は)・いとゝうき
0052【うきふしに】-懐妊ノ後ハ
  ふしにおほしをきて・心とけぬ御け
  しきも・はつかしくいとをしけれは・なに
  のしるしもなくて・過行はかなのちきり
  やと・おほしみたるゝ事かたみにつきせ
  す・少納言はおほえすおかしきよをみる」9ウ
0053【少納言】-紫上ノ女房
  かな・これもこあまうへのこの御事を・おほし
  て御をこないにもいのりきこえ給し・
  ほとけの御しるしにやと・おほゆ・おほいとの
0054【おほいとの】-葵上
  いとやむ事なくておはします・こゝかしこ
  あまたかゝつらひたまふをそ・まことにおと
  なひ給はむほとはむつかしき事もやと
  おほえける・されとかくとりわき給へる
  御おほえの程は・いとたのもしけなりかし
  御ふくはゝかたは・三月こそはとて・つこも
  りには・ぬかせたてまつり給ふを・また」10オ
0055【ぬかせたてまつり給ふ】-除服
0056【また】-紫上はまた<右> 又<左>
  おやもなくておひいて給しかは・まはゆ
0057【おやもなくて】-父兵部卿宮にしられぬ程ハまたをやもなくてといへり
  き色にはあらて・くれなゐむらさき
  山ふきのちのかきりをれる・御こうちき
  なとをきたまへるさま・いみしういまめか
  しくおかしけなり・おとこ君はてうはいに
0058【おとこ君はてうはいに】-改年源氏十八歳紫上十一歳末摘花ノ巻改年ト同也
  まいり給とて・さしのそき給へり・けふより
  はおとなしくなり給へりやとて・うちゑみ
  給へるいとめてたうあひ行つき給へり・
  いつしかひゐなをしすゑて・そゝきゐ
0059【そゝきゐ】-楚々起也そゝめく也
  たまへる・三尺のみつしひとよろひに・しな/\」10ウ
  しつらひすへて・又ちひさきやとも・つくり
  あつめて・たてまつり給へるを・所せきまて・
  あそひひろけたまへり・なやらふとて・
0060【なやらふ】-追儺 十二月晦
  いぬきかこれをこほち侍にけれは・つく
0061【いぬき】-犬公
  ろひ侍そとて・いと大事とおほいたり・
  けにいと心なき人のしわさにも侍
0062【いと心なき人の】-源氏
  なるかな・いまつくろはせ侍らむ・けふは(は+こと<朱>)いみ
0063【けふは】-正月一日
  してなゝひたまひそとて・いて給けし
  き所せきを・人々はしにいてゝ・見たて
  まつれは・ひめ君もたちいてゝ・見たてま」11オ
  つり給て・ひゝなの中の・源しの君・つ
  くろひたてゝ・うちにまいらせなとし給・
  ことしたに・すこしおとなひさせ給へ・
0064【ことしたに】-少納詞<朱>
  とおにあまりぬる人は・ひゝなあそひは・
  いみ侍ものを・かく御おとこなとまうけ
  たてまつり給ては・あるへかしうしめやかに
  てこそ・見えたてまつらせ給はめ・御くし
  まいるほとをたに・ものうくせさせ給なと・
  少納言きこゆ・あそひにのみ・心いれ
  給へれは・はつかしとおもはせたてまつらむ」11ウ
  とていへは・心のうちに・我はさは・おとこまう
0065【心のうちに】-紫上
  けてけり・この人々のおとことてあるは・
  見にくゝこそあれ・われはかくおかしけに
  わかき人をもゝたりけるかなと・今そおも
  ほししりける・さはいへと御としの数そふ
  しるしなめりかし・かくおさなき御け
  はひの・ことにふれてしるけれは・とのゝ
  うちの人々も・あやしと思ひけれと・いと
  かうよつかぬ御そひふしならむとは・
0066【よつかぬ御そひふし】-夫婦ノ道ナキ也
  おもはさりけり・うちより大殿にまかて」12オ
  たまへれは・れひのうるはしうよそほし
0067【れひの】-葵上
  き御さまにて・心うつくしき御けしきも
  なく・くるしけれは・ことしよりたにす
0068【ことしより】-源氏
  こしよつきて・あらため給御心見えは・いか
  にうれしからむなと・きこえたまへと・
  わさと人すゑてかしつき給と・きき
0069【わさと人すゑてかしつき給と】-葵上
  給しよりは・やむ事(事+なくおほしさためたる事にこそはとこゝろ<朱>)のみをかれて・い
  とゝうとくはつかしくおほさるへし・
  しひて見しらぬやうにもてなして・
0070【しひて見しらぬやうに】-源氏
  みたれたる御けはひには・えしも心つよからす・」12ウ
0071【えしも】-葵上
  御いらへなとうちきこえ給へるは・なを人より
  はいとことなり・よとせはかりかこのかみに
0072【よとせはかり】-葵上廿二歳
  おはすれは・うちすくしはつかしけに
  さかりにとゝのほりて見え給・なに事かは・
0073【なに事かは】-源氏
  この人のあかぬ所は・ものし給・わか心の
  あまりけしからぬすさひに・かくうらみ
  られたてまつるそかしと・おほししらる・お
  なし大臣ときこゆるなかにも・おほえや
  む事なくおはするか・宮はらにひとり
  いつきかしつき給・御心をこり・いとこ」13オ
  よなくて・すこしもをろかなるをは・め
  さましとおもひきこえ給へるを・おとこ君
  は・なとかいとさしもとならはい給・御心の
0074【なとかいとさしも】-男ノならひニなんてうしと思ふ也
  へたてともなるへし・おとゝもかくたのもし
  けなき御心を・つらしとおもひきこえ
  給なから・見たてまつり給時は・うらみも
  わすれて・かしつきいとなみきこえ給ふ・
  つとめていて給ふ所にさしのそき給て・
  御さうそくし給けに・なたかき御をひ・
0075【御をひ】-石帯也
  御てつからもたせてわたり給て・御そ」13ウ
0076【御手つから】-落花形鴛通天
  のうしろひきつくろひ・なと御くつをとらぬ
  はかりにし給・いとあはれなり・これはない
0077【ないえむなと】-内宴正月廿一日於仁寿殿
  えむなといふこ事も侍なるを・さやうの
  おりにこそなと・きこえ給へは・それはまさ
  れるも侍り・これはたゝめなれぬさまな
  れはなむとて・しひてさゝせたてまつり
0078【さゝせ】-指
  給・けによろつにかしつきたてゝ・見たて
  まつり給ふに・いけるかひあり・たまさかに
  ても・かゝらん人をいたしいれて見んに・
  ますことあらしとみえ給・さむさしに」14オ
0079【さむさしに】-参座也 参賀事也
  とても・あまた所もありき給はす・内春宮
  一院はかり・さては藤つほの三(三&三)条の宮にそ・
0080【一院】-准寛平法皇歟桐ツホ帝傍親歟又陽成院
  まいり給へる・けふはまたことにも見えた
  まふかな・ねひ給まゝに・ゆゝしきまて
  なりまさり給ふ・御有さまかなと・人々めて
  きこゆるを・宮き丁のひまより・ほのみ
0081【宮】-藤ツホ
  給ふに・つけても・おもほす事しけかり
  けり・この御事の・しはすもすきにしか・心
0082【この御事】-御産ノ事ヲ云去年三月藤ツホ里居通源氏事不知之三月ヨリ計テ十二月ヲウミカ月ト思ヘリ誠ハ四月始孕之
  もとなきにこの月はさりともと・宮人も
0083【この月は】-正月中
  まちきこえ・内にもさる御心まうけとも」14ウ
  あり・つれなくてたちぬ・御ものゝけにやと・
  よ人もきこえさはくを・宮いとわひしう・
  この事によりみのいたつらになりぬ
0084【みのいたつらに】-\<朱合点> 後ーあはれともいふへき人ハおもほへて身のいたつらになりぬへきかな伊勢(拾遺集950・一条摂政集1、花鳥余情・休聞抄・紹巴抄・孟津抄)
  へき事と・おほしなけくに・御心ちもいと
  くるしくてなやみ給・中将の君は・いとゝ
0085【中将の君】-源氏時三位
  おもひあはせて・みすほうなと・さとは
  なくて・所/\にせさせたまふ・世の中の
  さためなきにつけても・かくはかなく
  てややみなむと・とりあつめてなけき
  給ふに・二月十よ日のほとに・おとこみこ」15オ
0086【二月】-きさらき
0087【おとこみこむまれ給ひぬれは】-冷泉院誕生事
  むまれ給ひぬれは・なこりなくうちにも
  宮人も・よろこひきこえ給・いのちな
0088【宮人も】-藤ツホ方
0089【いのちなかくもと】-藤ツホ御こゝろ
  かくもと・おもほすは心うけれと・こうき
  てんなとのうけはしけにのたまふときゝ
0090【うけはしけに】-呪詛
  しを・むなしくきゝなし給はまし(し+△、△#)は・人
  はらはれにやとおほしつよりてなむやう/\
  すこしつゝさはやい給ける・うへのいつ
0091【うへの】-御門
  しかと・ゆかしけにおほしめしたる・事
  かきりなし・かの人しれぬ御心にも・いみ
0092【かの人しれぬ御心】-源氏君
  しう心もとなくて・人まにまいり給て・」15ウ
  うへのおほつかなかりきこえさせ給を・まつ
  見たてまつりて・(て+くはしく)そうし侍らむときこえ
  給へと・むつかしけなるほとなれはとて・
  みせたてまつり給はぬも・ことはりなり・さ
  るはいとあさましうめつらかなるまて・うつ
0093【うつしとり給へるさま】-源氏ニ似タリ
  しとり給へるさま・たかふへくもあらす・宮
  の御心のおにゝ・いとくるしく・人のみたて
0094【御心のおにゝ】-\<朱合点> 心ノおそろしさ也<右> 我ためにうときけしきのつくからにかつハ心のをにも見えけり謙徳公<左>(一条摂政集37、花鳥余情・休聞抄・孟津抄)
  まつるも・あやしかりつるほとの・あやまり
  を・まさに人のおもひとかめしや・さらぬは
  かなき事をたに・きすをもとむる世に・」16オ
  いかなる名のつゐにもりいつへきにかと・
  おほしつゝくるに・身のみそいと心うき・
  命婦の君に・たまさかにあひ給て・いみ
  しき事ともをつくし給へと・なにの
  かひあるへきにもあらす・わか宮の御事
0095【わか宮】-冷泉院
  を・わりなくおほつかなかりきこえ給へは・なと
0096【なとかうしも】-王命婦
  かうしもあなかちにのたまはすらむ・今
  をのつからみたてまつらせ給ひてむと・き
  こえなから・おもへるけしき・かたみに
  たゝならす・かたはらいたき事なれは・」16ウ
  まほにもえのたまはて・いかならむよに・人
  つてならてきこえさせむとて・ない給
  さまそ・心くるしき
    いかさまにむかしむすへるちきりにて
0097【いかさまに】-源氏
  このよにかゝる中のへたてそかゝる事こそ・
0098【このよに】-子ニよせり
  こゝろへかたけれとの給・命婦も宮の
  おもほしたるさまなとを・みたてまつるに・
  えはしたなふも・さしはなちきこえす
    みてもおもふ見ぬはたいかになけくらむ
0099【みてもおもふ】-命婦 六帖ミテモおもふミステモおもふ大かたハ我身一や物おもひの山(万代集2261)
  こやよの人のまとふてふやみあはれに心」17オ
0100【こやよの人の】-子にそへたり
  ゆるひなき御事ともかなとしのひて
0101【ゆるひ】-緩
  きこえけり・かくのみいひやるかたな
0102【かくのみ】-源氏
  くて・かへり給ものから・人のものいひ
  もはつらはしきを・わりなき事にのた
  まはせおほして・命婦をも・むかしおほひ
  たりしやうにも・うちとけむつひ給
  はす・人めたつましく・なたらかにもて
0103【人め】-藤壺
  なし給ものから・心つきなしと・おほす
  ときも有へきを・いとはひしく思ひの
0104【いとはひしく】-源氏
  ほかになる心ちすへし・四月にうちへ」17ウ
0105【四月】-う月
0106【うちへ】-若宮
  まいり給ふ・ほとよりはおほきにおよすけ
  給て・やう/\おきかへりなとし給・あさ
  ましきまて・まきれところなき御かほ
  つきを・おほしよらぬ事にしあれは・また
0107【おほしよらぬ】-御門
  ならひなきとちは・けにかよひ給へるに
  こそはと・おもほしけりいみしうおもほし
  かしつく事かきりなし・源しの君を・
  かきりなきものにおほしめしなから・
  よの人のゆるしきこゆましかりしに
  よりて・はうにもえすゑたてまつらすなり」18オ
0108【はう】-坊
  にしを・あかすくちおしう・たゝ人にてか
  たしけなき御ありさまかたちに・ねひ
  もておはするを・御らむするまゝに・心く
  るしく・おほしめすを・かうやむ事な
  き御はらに・おなしひかりにて・さし
  いて給へれは・きすなきたまと・おほしかし
  つくに・宮はいかなるにつけても・むねの
0109【宮】-藤ツ
  ひまなくやすからすものをおもほす・
  れいの中将の君・こなたにて御あそひ
0110【中将の君】-源シ
  なとし給に・いたきいてたてまつらせ」18ウ
  給て・みこたちあまたあれと・そこをのみ
0111【みこたち】-御門ノ御詞也
0112【そこを】-源氏
  なむ・かゝる程よりあけ暮見しされは
  おもひわたさるゝにやあらむ・いとよく
  こそおほえたれ・いとちいさきほとは・みなかく
  のみあるわさにやあらむとて・いみしく
  うつくしと思ひきこえさせ給へり・中将の
  君・おもての色かはる心ちして・おそろしう
  も・かたしけなくも・うれしくも・あはれにも・
  かた/\うつろふ心ちして・なみたおちぬへし・
  物かたりなとして・うちゑみ給へるか・いと」19オ
0113【物かたりなとして】-若宮<左>
  ゆゝしううつくしきに・我身なからこれに
  にたらむは・いみしういたはしうおほえ給そ・
  あなかちなるや・宮はわりなくかたはら
  いたきに・あせもなかれてそおはしける
  中将は・中/\なる心ちの・みたるやうな
  れはまかて給ぬ・わか御かたにふし給て・
  むねのやる方なきほとすくして・大いとの
  へとおほす・おまえのせむさいの・なにと
  なくあをみわたれる中に・とこ夏の
  花やかに・さきいてたるを・おらせ給て・」19ウ
  命婦の君のもとに・かき給事おほかるへし
    よそへつゝ見るに心はなくさまて
0114【よそへつゝ】-源氏 新古今よそへツゝみれト露たになくさますいかにかすへきとこ夏ノ花(新古今1494・義孝集73、花鳥余情・休聞抄・孟津抄・紹巴抄・岷江入楚)
  露けさまさるなてしこの花はなに
0115【はなにさかなん】-\<朱合点> 後ー我やとにまきしなてしこいつしかも花にさかなんよそへてもみん(古今六帖3618、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
  さかなんとおもひたまへしも・かひなきよに
  侍りけれはとありさか(か$り<朱>)ぬへきひまにや
  ありけむ・御らむせさせて・たゝちりは
  かり・この花ひらにときこゆるを・わか御
  心にも・ものいとあはれにおほししらるゝ
  ほとにて
    袖ぬるゝ露のゆかりとおもふにも」20オ
0116【袖ぬるゝ】-藤ツホ 返し
  猶うとまれぬやまとなてしことはかり
0117【うとまれぬ】-をかぬノ心也
  ほのかに・かきさしたるやうなるを・よろこひ
  なからたてまつれる・れいの事なれは・
  しるしあらしかしと・くつをれてなかめ
  ふし給へるに・むねうちさはきて・いみ
  しくうれしきにも・なみたおちぬ・
  つく/\とふしたるにも・やるかたなき
  心ちすれは・れいのなくさめには・にしの
0118【にしのたいに】-紫上
  たいにそわたり給ふ・しとけなくうち
  ふくたみ給へる・ひむくき・あされたる・」20ウ
  うちきすかたにて・ふえをなつかしうふき
0119【うちきすかたにて】-掛衣スカタ也
  すさひつゝ・のそきたまへれは・女君あり
  つる花の露にぬれたる心ちして・そひ
0120【花の露】-撫子ナリ
  ふし給へるさま・うつくしうらうたけなり・
  あい行こほるゝやうにて・おはしなから・とく
  もわたり給はぬ・なまうらめしかりけれは・
  れいならすそむき給へるなるへし・はし
0121【はしのかたに】-源氏
  のかたについゐて・こちやとの給へと・おと
  ろかす・いりぬるいそのと・くちすさみて・
0122【いりぬるいその】-\<朱合点> 拾しほみてハ入ぬるいその草なれやみらくすくなくこふらくのおほき(拾遺集967・拾遺抄318・古今六帖3582・新撰和歌280・万葉1398、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
  口をゝいしたまへるさま・いみしうされて」21オ
  うつくし・あなにくかゝる事くちなれ給に
0123【あなにく】-源氏
  けりな・みるめにあくはまさなき事そよ
0124【みるめにあくは】-\<朱合点> 古今いせノあまのあさなゆふなにかつくてふみるめに人ヲあくよしもかな(古今683、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
  とて・人めして御こととりよせて・ひかせた
  てまつり給・さうのことは・なかのほそをのた
0125【さうのこと】-箏秦声世謂蒙恬<テン>為之
0126【なかのほそを】-九十斗為を中細絃ト云歟
  へかたきこそ・所せけれとて・ひやうてふに
0127【ひやうてふに】-平調ハ柱をさけて立也
  をしくたしてしらへ給・かきあはせはかり
0128【かきあはせ】-撥心
  ひきて・さしやり給へれは・えゑしはて
0129【ゑし】-怨
  すいとうつくしうひき給ふ・ちひさき御
  ほとにさしやりて・ゆし給御てつきいと
0130【ゆし】-由
  うつくしけれは・らうたしとおほして・ふえ」21ウ
  ふきならしつゝ・おしへ給・いとさとくて・かた
  きてうしともを・たゝひとわたりに・ならひ
  とり給・大かたらう/\しうおかしき御
  心はへを・思し事かなふとおほす・ほそ
0131【ほそろくせり】-\<朱合点> 保曽呂具世利長保楽破也
  ろくせり
いふものは・なはにくけれとおも
  しろふふきすさひ給へるに・かきあはせ・
  またわかけれと・はうしたかはす・上手
0132【はうし】-拍子
  めきたり・おほとなふらまいりて・ゑとも
  なと御らむするに・いて給へしとありつ
  れは・人々こはつくり・きこえて・あめふり」22オ
  侍ぬへしなといふに・ひめ君れいの心
  ほそくて・くし給へり・ゑも見さして・うつ
0133【くし給へり】-苦
  ふしておはすれは・いとらうたくて・御くしの
  いとめてたく・こほれかゝりたるをかき
  なてゝ・ほかなるほとは・恋しくやあるとの
  たまへは・うなつき給・われもひとひも見
0134【ひとひも見たてまつらぬは】-詩云一日不見如三月云々
  たてまつらぬは・いとくるしうこそ・△(△#あ△、△#)れと
  おさなくおはするほとは・心やすくおもひ
  きこえて・まつくね/\しくうらむる人
0135【うらむる人】-葵上
  の・心やふらしと思て・むつは(は=かイ)しけれは」22ウ
  しはしかくもありくそ・おとなしくみなし
  ては・ほかへもさらにいくまし・人のうらみ
  おはしなとおもふも・よになかふありて・
  おもふさまにみえたてまつらんと思ふそなと・
  こま/\とかたらひきこえ給へは・さす
  かにはつかしうて・ともかくもいらへき
  こえ給はす・やかて御ひさによりかゝりて・
  ねいり給ぬれは・いと心くるしうて・こよひ
  はいてすなりぬとの給へは・みなたちて・
  おものなとこなたにまいらせたり・ひめ」23オ
  君おこしたてまつり給ひて・いてすな
  りぬときこえ給へは・なくさみておき給
  へり・もろともにものなとまいる・いとはかな
  けにすさひて・さらはね給ねかしと・あや
  うけに思給つれは・かゝるをみすてゝは・い
  みしきみちなりとも・おもむきかたくお
  ほえ給・かやうにとゝめられ給おり/\なと
  も・おほかるを・ゝのつからもりきく人・おほ
  いとのにきこえけれは・たれならむ・いとめ
  さましき事にもあるかな・今まてその」23ウ
  人ともきこえす・さやうにまつはしたはふ
  れなとすらんは・あてやかに心にくき人
0136【あてやかに】-少
  にはあらし・内わたりなとにて・はかなく
  見給けむひとを・ものめかし給て・人や
  とかめむと・かくし給なゝり・心なけに・
  いわけてきこゆるはなと・さふらふ人々
0137【いわけて】-幼
  も・きこえあへり・うちにもかゝる人ありと(りて&りと)
  きこしめして・いとおしくおとゝの思ひ
  なけかるなるなとのたまはすれと・かしこ
0138【かしこまりたるさま】-源氏
  まりたるさまにて・御いらへもきこえ給は」24オ
  ねは・心ゆかぬなめりと・いとおしくおほし
0139【心ゆかぬなめり】-御門
  めす・さるはすき/\しう・うちみたれて・
  この見ゆる女はうにまれ・又こなたかなた
0140【女はう】-内ノ女房也
  のひと/\なとなへてならすなとも・みえき
0141【ならす】-タヽナラヌ風情
  こえさめるを・いかなるものゝくまにかくれ
  ありきて・かく人にもうらみらるらむと
  のたまはす・みかとの御としねひさせ給
  ぬれと・かうやうのかたえすくさせ給は
  す・うねへ・女くら人なとをも・かたち心ある
0142【うねへ】-采女
  をは・ことにもてはやしおほしめし」24ウ
  たれは・よしあるみやつかへ人・おほかる比なり・
  はかなき事をも・いゝふれ給ふには・もて
0143【はかなき事】-源氏
  はなるゝ事も有かたきに・めなるゝにや
  あらむ・けにそあやしうすい給はさめると・
  心みにたはふれ事を・きこえかゝりなと
  するおりあれと・なさけなからぬほとに・
  うちは(は$い<朱>)らへて・まことにはみたれ給はぬを・
  まめやかにさう/\しと思きこゆる人
  もあり・としいたう老たる内侍のすけ・
0144【内侍のすけ】-源内侍事
  人もやむことなく・心はせありあてに・」25オ
  おほえたかくはありなから・いみしうあため
  いたる心さまにて・そなたにはをもからぬある
  を・かうさたすくるまて・なとさしもみたるら
0145【さた】-央也人寿百歳にとりて五十余を半過ルト云源内侍五十七八ト下ニアリ
  むと・いふかしくおほえ給けれは・たはふれ事
  いひふれて・心みたまふに・にけなくも
0146【にけなく】-似
  思はさりける・あさましとおほしなから・
  さすかに・かゝるもをかしふて・物なとの給て
  けれと・人のもりきかむも・ふるめかしき
  ほとなれは・つれなくもてなし給へるを・
  女はいとつらしとおもへり・うへの御けつり」25ウ
0147【女は】-源内侍
0148【御けつり】-梳櫛
  くしにさふらひけるを・はてにけれは・うへは
  みうちきのひとめして・いてさせ給ぬる
0149【みうちきのひとめして】-中院事書云御本鳥とる人也御梳櫛の人ハわらハくひの無文ノ直衣ヲ給リテ着する也御うちきの人と云也一説云御装束奉仕スル人也
  ほとに・又人もなくて・この内侍つねよりも
  きよけに・やうたいかしらつき・なまめきて・
  そうそくありさま・いと花やかに・このまし
  けにみゆるを・さもふりかたうもと・心つき
0150【ふりかたう】-難旧
  なく見たまふ物から・いかゝおもふらんと・
  さすかにすくしかたくて・ものすそをひ
  きおとろかし給へれは・かはほりのえなら
  すゑかきたるを・さしかくして・見かへりたる」26オ
  まみ・いたうみのへたれと・まかはらいたくくろ
0151【まかはら】-眼皮也
  みおちいりて・いみしう・はつれそゝけたり・
0152【はつれそゝけたり】-髪ノハツレ也
  につかはしからぬあふきのさまかなと見給て・
  わかもたせ(せ#<朱>)まへるにさしかへて見給へは
  あかきかみのうつるはかり色ふかきにこた
  かきもりのかたえ(え$を<朱>)ぬりかへ(へ$く<朱>)したり・かたつ
0153【ぬりかくし】-渟土色也
  かたに・てはいとさたすきたれと・よしなから
0154【さたすき】-老年也
  すもりの下草おひぬれはなと・かき
0155【もりの下草】-\<朱合点> 能宣集扇ニ夏クレハコリスマニヲフル大アラキノ杜ノ下草かひもあらなくに<右>(能宣集220、花鳥余情・孟津抄) 古今<墨>おほあらきのもりの下草老ぬれハこまもすさめすかる人もなし<朱>(古今892・古今六帖1046・和漢朗詠441、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
  すさひたるを・ことしもあれ・うたての心
  はへやと・ゑまれなからもりこそなつのと」26ウ
0156【もりこそなつの】-\<朱合点> 六帖ひまもなくしけりにけりなおほあらきのもり社夏のかけハしるけれ<朱>(出典未詳、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
  みゆめるとて・なにくれとの給ふも・にけなく
  人や見つけんとくるしきを・女はさも
  おもひたらす
    きみしこはたなれのこまにかりかはむ
0157【きみしこは】-源内侍
0158【たなれのこま】-古今我門ノ一村薄かりかハん君かてなれの駒もこぬかな小町<左>(後撰616、花鳥余情・休聞抄・紹巴抄・孟津抄・岷江入楚)
  さかりすきたる下葉なりともといふさま
  こよなく色めきたり
    さゝわけは人やとかめむいつとなく
0159【さゝわけは】-源氏<右> 蜻蛉日記サゝワケハあれこそまさめ草かれの駒なつくへき杜ノ下草<左>(蜻蛉日記242、花鳥余情・休聞抄・紹巴抄・孟津抄・岷江入楚)
  こまなつくめるもりのこかくれわつらはしさに
  とてたち給ふを・ひかへてまたかゝるものを
0160【ひかへて】-内侍ノスケ源氏ノ袖ヲヒカヘテ
0161【またかゝるものを】-\<朱合点> 万四しろかみにくろかみましりをふるまてまたいとかゝるものハ思ハす坂上郎女(拾遺集966・拾遺抄271・万葉集566、花鳥余情・一葉抄・細流抄・休聞抄・紹巴抄・孟津抄・花屋抄・岷江入楚)
  こそ思侍らね・今さらなるみのはちになむ」27オ
  とてなくさまいといみし・今きこえむ・思ひ
  なからそやとて・ひきはなちていて給を・
  せめてをよひてはしはしらとうらみかくる
0162【はしはしら】-\<朱合点> 古今<墨>津の国のなからの橋のはし柱古ぬる身社かなしかりけれ<朱>(新勅撰1283・一条摂政集11、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
  を・うへはみうちきはてゝ・みさうしよりのそ
0163【うへは】-御門
  かせ給けり・につかはしからぬあはひかなと・
  いとおかしうおほされて・すき心なしと・
0164【すき心】-数寄
  つねにもてなやむめるを・さはいへとすく
  さゝりけるはとて・わらはせ給へは・ないしは
  なまゝはゆけれと・にくからぬ人ゆへは・
0165【にくからぬ人ゆへ】-\<朱合点> 六帖<墨>にくからぬ人のきせたるぬれきぬハおもひにあへす今かハきなん<朱>(後撰956、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
  ぬれきぬをたにきまほしかるたくひも」27ウ
  あなれはにや・いたうもあらかひきこえさせす・
  人々もおもひのほかなる事かなと・あつかふ
  めるを・頭中将きゝつけて・いたらぬくまな
0166【いたらぬくまなき心】-我恋也
  き心にて・またおもひよらさりけるよと・
  思ふに・つきせぬこのみ心も・見まほしう
  なりにけれは・かたらひつきにけり・この君
0167【この君】-頭中将ヲ云
  も・人よりはいとことなるを・かのつれなき
0168【かのつれなき人】-源氏をいふ
  人の御なくさめにと・おもひつれと・見まほし
0169【見まほし】-源氏ヲ
  きは・かきりありけるをとや・うたてのこの
  みや・いたうしのふれは・源しの君はえし」28オ
  り給はす・見つけきこえては・まつうらみき
0170【見つけきこえては】-源中将
  こゆるを・よはひのほと・いとおしけれは・なく
0171【よはひ】-源氏ノ心
  さめむとおほせと・かなはぬ物うさに・いとひさし
  くなりにけるを・ゆふたちして・なこりすゝし
  きよひのまきれに・温明殿のわたりを・
0172【温明殿】-内侍所也
  たゝすみありき給へは・このないし・ひはを
  いとおかしうひきゐたり・御前なとにても・
  おとこかたの御あそひにましりなとして・
  ことにまさる人なき上手なれは・もの
  うらめしうおほえけるおりから・いとあはれに」28ウ
  きこゆ・うりつくりになりやしなまし
0173【うりつくりになりやしなまし】-\<朱合点> 山しろのこまのわたりのうりつくりとなりてなりなる心かな<右朱>(三百六十首歌162) 催馬楽山しろのこまのわたりのうりつくりになりやしなましうりたつまてに<左墨>
  こゑはいとおかしうて・うたふそすこし心
  つきなきかくしうにありけむかしの
0174【かくしうにありけむ】-\<朱合点> 白氏文集夜聞歌者宿鄂州云 文君といひけん昔ノ人もト有本ヲ不用之候御意也習侍り 山城哥をうたひたるを楽天ノ鄂州ノ哥ヲ聞シニ思よそへたる也
  人も・かくやおかしかりけむと・みゝとま
  りてきゝ給ふ・ひきやみて・いといたう
  思ひみたれたるけはひなり・きみあつま
0175【あつまやを】-\<朱合点> あつまやのまやのあまりのあまそゝきわれたちぬれぬとの戸ひらかせ<右朱> かすかひもとさしもあらハこそこのとわれさゝめをしひらいてきませわれや人ツマ催馬楽東屋律二段<左墨>
  や
・しのひやかにうたひて・より給へるに・
  をしひらいてきませと・うちそへたるも・
0176【をしひらいて】-\<朱合点>
  れいにたかひたる心ちそする
    たちぬるゝ人しもあらしあつまやに」29オ
0177【たちぬるゝ】-内侍
  うたてもかゝるあまそゝきかなとうちなけく
  を・われひとりしもきゝおふましけれと
  うとましやなに事をかくまてはとおほゆ
    人つまはあなわつらはしあつまやの
0178【人つまは】-源氏
  まやのあまりもなれしとそおもふとてう
  ちすきなまほしけれと・あまりはし
  たなくやと・思ひかへして・人にしたかへは・
  すこしはやりかなるたはふれことなと・いひ
  かはして・是もめつらしき心ちそし給・
  頭中将は此君の・いたうまめたちすくして・」29ウ
  つねにもとき給かねたきを・つれなくてう
  ち/\しのひ給かた/\・おほかめるを・いかて
  見あらはさむとのみ・思ひわたるに・これを
  みつけたる心ち・いとうれしかゝるおりに
  すこしをとしきこえて・御心まとはして・
  こりぬやといはむと・おもひてたゆめきこ
0179【たゆめきこゆ】-頭中将見つけなから猶たゆめて源氏のね入給をまちける也
  ゆ・風ひやゝかにうちふきて・やゝふけ行
  ほとに・すこしまとろむにやと見ゆる
  けしきなれは・やをらいりくるに・君は
  とけてしもね給はぬ心なれは・ふときゝつ」30オ
0180【とけてしもね給はぬ心】-藤つほの御事を思ふ比也
  けて・此中将とは思よらす・なをわす
  れかたくすなる・すりのかみにこそあらめと
0181【すりのかみ】-修理大夫内侍ニかよふ人也
  おほすに・おとな/\しき人に・かくにけなき
  ふるまひをして・見つけられん事はは
  つかしけれは・あなわつらはしいてなむよ・
  (+く)ものふるまいは・しるかりつらむものを・
0182【くものふるまい】-\<朱合点> 我せこかくへきよひなりさゝかにのくものふるまひかねてしるしも<朱>(古今1110・古今六帖3099、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
  心うくすかし給けるよとて・なをしはかり
  をとりて・屏風のうしろにいり給ひぬ・
  中将おかしきをねむして・ひきたて
  まつる屏風のもとによりて・こほ/\と」30ウ
  たゝみよせて・おとろ/\しくさはかすに・
  内侍はねひたれと・いたくよしはみなよひ
0183【ねひたれと】-年よりたる也
  たる人の・さき/\もかやうにて心うこかす
  おり/\ありけれはならひて・いみしく心
  あはたゝしきにも・此君をいかにしきこ
  えぬるかと・わひしさにふるふ/\・つとひ
0184【つとひかへたり】-頭中将を
  かへたり・たれとしられて・いてなはやとお
0185【たれとしられて】-源氏
  ほせと・しとけなきすかたにて・かうふり
  なと・うちゆかめて・はしらむうしろて
  おもふに・いとおこなるへしと・おほしやす」31オ
0186【おこ】-嗚呼
  らふ・中将いかて我としられきこえしと
  おもひて・物もいはす・たゝいみしういか
  れるけしきにもてなしてたちをひき
  ぬけは・女あかきみ/\とむかひて・手を
  するに・ほと/\わらひぬへし・この
  ましうわかやきてもてなしたる
  うはへこそ・さりもありけれ・五十七八の人
  の・うちとけてものいひ(いひ=思ひイ<朱>)さわけるけは
  ひ・えならぬ二十のわか人たちの御
0187【二十のわか人たち】-源氏此時十八也致仕大臣二十余也
  中にて・ものをちしたる・いと月なし・」31ウ
  かふあらぬさまにもてひかめて・おそろし
  けなるけしきをみすれと・中/\しるく
  見つけ給て・我としりて・ことさらに
  するなりけりと・おこになりぬ・その人
0188【その人】-頭中将と見なす也
  なめりと見給に・いとおかしけれは・
  たちぬきたるかひなをとらへて・いといたう
  つみ給へれは・ねたきものから・えたへて
  わらひぬ・まことはうつく(く$<朱>)し心かとよ・
0189【うつし心】-万十一ますらをのうつし心も我はなし夜昼いはす恋しわたれは(古今六帖1998・万葉2380、河海抄・孟津抄) 現心うつし心をハ誠の心かといふ
  たはふれにくしや・いてこのなおしきむと
0190【たはふれにくしや】-ありぬやと心ミナカラあひみねはたはふれにくきまてそ恋シキ(古今1025、河海抄・孟津抄)
  の給へと・つととらへて・さらにゆるし」32オ
  きこえす・さらはもろともにこそとて・
  中将のおひをひきときて・ぬかせ給
  へは・ぬかしとすまふを・とかくひきしろふ
  ほとに・ほころひはほろ/\とたえぬ・中将
    つゝむめるなやもりいてんひきかはし
  かくほころふるなかのころもにうへにとり
0191【うへにとりきは】-\<朱合点> 紅のこそめのころもしたにきてうへにとりきはしるからんも<朱>(古今六帖3261・万葉1317、奥入・紫明抄・河海抄)
  きはしるからんといふ君
    かくれなき物としる/\なつころも
0192【かくれなき】-源氏返し 頭中将をその人とハかくれなきにかくきたりておとすハあさき心とよめる也
  きたるをうすき心とそみるといひかは
  して・うらやみなきしとけなすかたに・」32ウ
  ひきなされて・見ないて給ひぬ・君はいとく
  ちおしく見つけられぬる事と思ひ
  ふし給へり・内侍はあさましくおほえ
  けれは・おちとまれる御さしぬきおひ
  なと・つとめて・たてまつれり
    うらみてもいふかひそなき立かさね
0193【うらみても】-内侍
  ひきてかへりしなみのなこりに
  そこもあらはにとあり・おもなのさまや
0194【そこもあらはに】-\<朱合点> 六わかれての後そかなしきなみた川そこもあらはになりぬとおもへは<朱>(新勅撰937、源氏釈・異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
0195【おもな】-無面
  と・見たまふもにくけれと・わりなしと
  おもへりしも・さすかにて」33オ
    あらたちし浪に心はさはかねと
0196【あらたちし】-源氏
  よせけむいそをいかゝうらみぬとのみな
0197【よせけむいそ】-頭中将をいふ
  むありける・おひは中将のなりけり・
  わか御なをしよりは色ふかしと見給に・
0198【色ふかし】-師説きくへし直衣ノキレヲ帯ニスル也
  はた袖もなかりけり・あやしの事
  ともや・おりたちてみたるゝ人は・むへ
  おこかましき事はおほからむと・いと(と+と)
  御心おさめられ給ふ・中将とのゐ
  所より・これまつとちつけさせ給へ
  とて・をしつゝみてをこせたるを・いかて」33ウ
  とりつらむと心やまし・このおひを
  えさらましかはとおほす・その色のかみ
0199【その色のかみ】-花田紙
  につゝみて
    なかたえはかことやおふとあやふさに
0200【なかたえは】-源氏
0201【かことやおふ】-カコツ事也
  はなたのおひをとりてたにみすとて
0202【はなたのおひ】-石川哥花田の帯の中ハたえたる 二藍同色ナリ
  やり給たちかへり
    君にかくひきとられぬるおひなれは
0203【君にかく】-中将
  かくてたえぬるなかとかこたむえのかれ
  させ給はしとあり・ひたけてをの/\殿上
  にまいり給へり・いとしつかにものとをき」34オ
  さましておはするに・頭のきみもいとおかし
  けれと・おほやけ事おほくそうしくた
  すひにて・いとうるはしくすくよかなるを
  みるも・かたみにおほ(おほ$ほゝイ<朱>、イ#<墨>)えまる・人まに
  さしよりて・ものかくしはこりぬらむか
0204【ものかくしは】-頭中将詞
  しとて・いとねたけなるしりめなり・
  なとてかさしもあらむ・たちなからか
0205【なとてかさしも】-源氏君返事
  へりけむ人こそいとおしけれ・まことは
  うしや世中よといひあはせて・とこの
0206【うしや世中】-\<朱合点>
0207【とこのやまなる】-\<朱合点> いぬかみのとこの山なるいさや川いさとこたへてわか名もらすな<朱>(古今1108・古今六帖3061、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
  やまなると・かたみにくちかたむ・(む+さ<朱>)て」34ウ
  そのゝち・ともすれはことのついてことに・
  いひむかふるくさはひなるを・いとゝもの
0208【いとゝ】-源氏
  むつかしき人ゆへと・おほししるへし・
  女はなをいとえむにうらみかくるを・わ
0209【女は】-源内侍
  ひしと思ありき給・中将はいもうとの
  君にもきこえいてす・たゝさるへきおり
0210【君にも】-葵上
  のをとしくさにせむとそ思ひける・やむ
0211【をとしくさ】-下種也
  ことなき御はら/\のみこたちたに・
  うへの御もてなしのこよなきに・わつら
  はしかりて・いとことに・さりきこえ給へる」35オ
0212【さりきこえ】-所をさる也
  を・この中将はさらにをしけたれきこ
  えしと・はかなき事につけても・おもひ
  いとみきこえ給ふ・この君ひとりそ・ひめ
  君の御ひとつはらなりける・みかとの御
  こといふはかりこそあれ・我もおなし大臣
  ときこゆれと・御おほえことなるか・みこ
  はらにてまたなくかしつかれたるは・
  なにはかりおとるへききはとおほえたま
  はぬなるへし・人からもあるへき・かきりと
  とのひてなに事もあらまほしくたら」35ウ
  いてそものし給ける・この御中とものいと
  みこそ・あやしかりしかされ(れ+と<朱>)うるさくて
0213【されと】-作者の詞也
  なむ・七月にそ・きさきゐ給めりし・
0214【きさきゐ給めりし】-藤つほ立后
  源しの君・宰相になり給ぬ・みかとお
  りゐさせ給はむの御心つかひ・ちかふなり
  て・このわか宮を・坊にと思ひきこえさせ
0215【わか宮】-冷泉院
  給に・御うしろみし給へき人おはせす・御
  はゝかたの・みなみこたちにて・源しの
0216【はゝかたのみなみこたちにて】-冷泉院ノ御母方皆親王ニテ人臣ノ御うしろみなしト也源氏の執政又例なき也
  おほやけ事しり給すちならねは・はゝ
  宮をたにうこきなきさまに・しをき」36オ
  たてまつりて・つよりにとおほすになむ
  ありける・こうきてむいとゝ御心うこき給
  ことはり也・されと東宮の御よ・いとちかふ
  なりぬれは・うたかひなき御くらゐなり・
  おもほしのとめよとそきこえさせ給ける・
0217【おもほしのとめよ】-御門ノ御詞
  けに東宮の御母にて・廿よ年になり給へ
  る女御を・ゝきたてまつりては・ひきこし
  たてまつり給かたき事なりかしと・れ
  いのやすからす・世人もきこえけり・まいり
  給夜の御とん(ん$も<朱>)に・宰相の君もつかふまつり」36ウ
0218【宰相の君】-源氏
  たまふ・おなし宮ときこゆる中にも・き
0219【きさいはら】-藤つほの母后
  さいはらのみこ・たま・ひかりかゝやきて・たくひ
  なき御おほえにさへ・ものし給へは・人
  もいとことに思かしつききこえたり・ま
0220【ましてわりなき御心】-源氏
  してわりなき御心には・御こしのうちも
0221【御こしのうちも】-ミ 皇后行啓奉鳳輿也
  おもひやられて・いとゝをよひなき心ちし
  たまふに・すゝろはしきまてなむ
    つきもせぬ心のやみにくるゝかな
0222【つきもせぬ】-源氏
  雲井に人をみるにつけてもとのみひ
  とりこたれつゝ・ものいとあはれなり・みこ」37オ
0223【みこ】-冷泉院
  はおよすけ給月日にしたかひて・いとみ
0224【いとみたてまつり】-源氏
  たてまつりわきかたけなるを・宮いと
0225【わきかたけなる】-源氏ニ似タマヘル也
0226【宮】-藤つほ
  くるしとおほせと・思ひよる人なきな
  めりかし・けにいかさまにつくりかへて
0227【けにいかさまに】-世ノ人ノ思ヘル事
  かは・おとらぬ御ありさまはよにいてもの
  し給はまし・月日のひかりの空に
  かよひたるやうにそ・世人もおもへる」37ウ

【奥入01】山代 呂
  や左伊シ奈やい可せむ/\
  波礼いかにせんなりやしなまし
  宇利多川末天仁や良以シ奈佐いしなや
  宇利多川末宇利多つまてに(戻)
【奥入02】文集巻第十 夜聞歌者 宿鄂州
  夜泊鸚鵡州 江秋月澄徹 隣船有歌者
  発調堪愁絶 歌罷継以泣 々声通復咽
  尋声見其人 有婦顔如雪 独倚帆墻立
  娉[女+亭]十七八 夜涙似真珠 雙々堕明月」38オ
  借間誰家婦 歌泣何凄切 一間一霑中
  低眉竟不説(戻)
【奥入03】律哥
  あつまやの末(=ま<朱>)やのあま利の曽のあまそゝき
  われたちぬれぬとのとひらかせ
  かすかひもと左しもあらはこそそのとひらかせ
  のとわれさゝめおしひらいてきませわれやひとつま(戻)
【奥入04】多久行説
  青海波詠 小野篁作也
  桂殿迎初歳 桐楼媚早年 剪花梅樹下」38ウ
  蝶鴛画梁辺
  此楽嵯峨天皇御時改平調為盤渉調(戻)
【奥入05】保曽呂倶世利 楽名也狛笛右楽也(戻)」39オ

もみちの賀<墨> 一校<朱> 二校了<朱>(表表紙蓋紙)

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