澪標(大島本) First updated 6/21/2001(ver.1-1)
Last updated 12/11/2006(ver.2-1)
渋谷栄一翻字(C)

  

澪 標


《概要》
 大島本は、青表紙本の最善本とはいうものの、現状では、後人の筆によるさまざまな本文校訂跡や本文書き入れ注記、句点、声点、濁点等をもつ。そうした現状の様態をそのままに、以下の諸点について分析していく。
1 大島本と大島本の親本復元との関係 鎌倉期書写青表紙本(池田本・伏見天皇本等)を補助的資料として
2 大島本の本文校訂に対校された本文系統
3 大島本の句点の関係
4 大島本の後人書き入れ注記

《書誌》

《翻刻資料》

凡例
1 本稿は、『大島本 源氏物語』(1996(平成8)年5月 角川書店)を翻刻した。よって、後人の筆が加わった現状の本文様態である。
2 行間注記は【 】- としてその頭に番号を記した。
2 小字及び割注等は< >で記した。/は改行を表す。また漢文の訓点等は< >で記した。
3 合(掛)点は、\<朱(墨)合点>と記した。
4 朱句点は「・」で記した。
5 本文の校訂記号は次の通りである。
 $(ミセケチ)・#(抹消)・+(補入)・&(ナゾリ)・=(併記)・△(不明文字)
 ( )の前の文字及び( )内の記号の前の文字は、訂正以前の文字、記号の後の文字が訂正以後の文字である。ただし、なぞり訂正だけは( )の前の文字は訂正後の文字である。訂正以前の本行本文の文字を尊重したことと、なぞり訂正だけは元の文字が判読しにくかったための処置である。
6 朱・墨等の筆跡の相違や右側・左側・頭注等の注の位置は< >と( )で記した。私に付けた注記は(* )と記した。
7 付箋は、「 」で括り、付箋番号を記した。
8 各丁の終わりには」の印と丁数とその表(オ)裏(ウ)を記した。
9 本文校訂跡については、藤本孝一「本文様態注記表」(『大島本 源氏物語 別巻』と柳井滋・室伏信助「大島本『源氏物語』(飛鳥井雅康等筆)の本文の様態」(新日本古典文学大系本『源氏物語』付録)を参照した。
10 和歌の出典については、伊井春樹『源氏物語引歌索引』と『新編国歌大観』を参照し、和歌番号と、古注・旧注書名を掲載した。ただ小さな本文異同については略した。

「みをつくし」(題箋)

  さやかにみえ給し夢の後は・院のみかと
  の御事をこゝろにかけきこえ給ひて・い
  かてかのしつみたまえむつみすくひ奉
  る事をせむとおほしなけきけるを・
  かくかへりたまひてはその御いそきし
  給・神無月に御八講し給・世の人の(の#<朱>)なひ
  きつかうまつることむかしのやうなり・おほ
  きさき御なやみをもくおはしますうち
0001【おはしますうちにも】-病中心中
  にも・つゐにこの人を・えけたすなりなむ
0002【この人】-源
  事と・心やみおほしけれとみかとは・院の」1オ
0003【みかと】-朱
0004【院】-桐
  御ゆいこんをおもひきこえ給ものゝむく
  ひありぬへくおほしけるを・なをしたて
  給て御心ちすゝしくなむおほしける
  時ときおこりなやませ給し御めも・さは
  やき給ぬれと・おほかた世にえなかくあ
  るましうこゝろほそき事とのみひ
  さしからぬ事をおほしつゝ・つねにめし
  ありてけんしの君はまいり給・世中の
  ことなとも・へたてなくの給はせつゝ・御ほい
  のやうなれは・大かたの世の人もあいなく」1ウ
  うれしきことによろこひきこえける・
  おりゐなむの御こゝろつかひちかくなり
0005【おりゐなむの御こゝろつかひ】-朱
  ぬるにも・内侍のかみ心ほそけによをおも
0006【内侍のかみ】-おほろ
  ひなけき給へる・いとあはれにおほされけ
  り・おとゝうせ給・大宮もたのもしけな
0007【おとゝうせ給】-二条 明石巻
  くのみあつひ給へるに・わか世残すくな
0008【あつひ給へる】-病
0009【わか世】-朱ノ心
  き心ちするになむ・いといとおしう・なこ
0010【いといとおしう】-朧
  りなきさまにて・とまり給はむとすら
  む・むかしより人にはおもひおとし給へれ
0011【人には】-源ニハ
  と・みつからのこゝろさしの又なきならひ」2オ
0012【みつからの】-朱
  に・たゝ御事のみなむあはれにおほえ
  ける・たちまさる人又御ほいありてみた
0013【人】-源
  まふとも・をろかならぬ心さしはしも・な
  すらはさらむと・おもふさへこそ心くるし
  けれとて・うちなき給ふ・女君かほはいと
0014【うちなき給ふ】-朱
0015【女君】-朧
  あかくにほひて・こほるはかりの御あい
  行にて・涙もこほれぬるをよろつの
  つみわすれて・あはれにらうたしと御覧
  せらる・なとか・みこ(こ+を)たに・もたまへるまし
  き・くちおしうもあるかな・ちきりふかき」2ウ
  人のためには・いま見いて給てむとおも
0016【人】-源
  ふもくちをしや・かきりあれはたゝ人
  にてそみたまはむかしなと・行すゑの
  ことをさへのたまはするに・いとはつかし
0017【いとはつかしうも】-朧心
  うも・かなしうもおほえ給・御かたちなと
  なまめかしうきよらにて・かきりなき
  御心さしのとし月にそふやうに・もてな
  させ給ふに・めてたき人なれと・さしも
0018【さしも】-朧ノ朱ヲ
  おも(も+ひ)給つ(つ#へ)らさりし・けしき・心はへなと・
  ものおもひしられたまふまゝに・なとて」3オ
0019【なとて】-朱雀院ノ我心のをさなかましくてよろつを太后にまかせ給へるゆへに光君をも須磨へうつし給へしことを悔給ふ也
  わか心のわかくいはけなきにまかせて・さる
  さわきをさへ・ひきいてゝわか名を
  は・さらにもいはす・人の御ためさへなとお
0020【人】-源
  ほしいつるに・いとうき御身なり・あくる
  としのきさらきに・春宮の御元服
0021【春宮】-冷泉院ノ御事也
  の事あり十一になり給へと・ほとより
  おほきにおとなしう・きよらにて・たゝ
  けむしの大納言の御かほを・ふたつに
  うつしたらむやうにみえ給ふ・いとまは
  ゆきまて・ひかりあひ給へるを・世人めて」3ウ
  たきものにきこゆれと・はゝ宮はいみ
0022【はゝ宮】-藤つほ
  しうかたはらいたきことに・あひなく御
  こゝろをつくし給ふ・うちにもめてたし
0023【うちにも】-朱
  とみたてまつり給て・世中ゆつりきこ
  え給へき事なと・なつかしうきこえ
  しらせ給・おなし月の廿よ日・御くにゆつ
0024【御くにゆつり】-譲国
  りのことにはかなれは・おほきさき
  おほしあはてたり・かいなきさまなから
  も・こゝろのとかに・御らんせらるへき事
  をおもふなりとそ・きこえなくさめ給」4オ
  ける・はうにはそ行殿のみこゐ給ひぬ・
0025【はうには】-東
0026【そ行殿】-鬚黒兄弟
0027【みこ】-朱雀院御子にてまします二歳
  世中あらたまりて・ひきかへ今めか
  しき事ともおほかり・源氏大納言内大
0028【源氏大納言】-ノ
  臣になり給ひぬ・かすさたまりて・くつ
0029【かすさたまりて】-左右大臣外内大臣
  ろく所もなかりけれは・くはゝり給也けり・
  やかて世のまつりことをした(た+ま<朱>)ふへきなれ
  と・さやう(う+の)こと(と+しけきそく(そく=職<墨>)には<朱>)は(は#<朱>)たえすなむとて・ちしの
  おとゝ・せふ正(せふ正=摂政イ<朱>)したまふへきよしゆつり
  きこえ給ふ・やまひによりてくらゐをか
  へしたてまつりてしを・いよ/\老の」4ウ
  つもりそひて・さかしき事侍らしと・う
  けひき申給はす・人のくにゝもことう
  つり世中さたまらぬおりは・ふかき山に
  あとをたえたる人たにも・おさまれる
  世にはしろかみもはちす・いてつかへ
0030【しろかみも】-\<朱合点> 商山の四皓のこと
  けるをこそ・まことのひしりには・しけれ・
  やまひにしつみて・かへし申給けるくら
  ゐを・世中かはりて・またあらため給はむ
  に・さらにとかあるましうおほやけわたく
  しさためらる・さるためしもありけれは・」5オ
  すまひはて給はて・太政大臣になり給ふ・
  御としも六十三にそなり給・世中すさ
0031【六十三】-清和天皇参議後忠仁公摂政貞観八六十三
  ましきにより・かつはこもりゐ給ひしを・
  とりかへしはなやき給へは・御子ともなと
  しつむやうにものし給へるを・みなうかひ
  給・とりわきて・宰相中将・権中納言に
0032【宰相中将】-摂政一男
  なり給・かの四の君の御はらのひめ君十
0033【ひめ君】-コキ殿柏妹
  二になり給ふを・うちにまいらせむとかし
  つき給ふ・かのたかさこうたひし君もかう
0034【たかさこうたひし君】-榊ノ巻にあり紅梅の右大臣のこと也
  ふりせさせて・いとおもふさまなり・はら/\に」5ウ
  御ことも・いとあまた・つき/\におひいて
  つゝ・にきわゝしけなるを・源氏のおとゝ
  はうらやみ給・大殿はらのわかきみ・人よ
0035【わかきみ】-夕霧事
  りことに・うつくしうて・内春宮の殿上
0036【殿上】-童殿上
  したまふ・こひめ君のうせ給にしなけき
0037【こひめ君】-葵上事
  を・宮おとゝ・又さらにあらためて・おほし
0038【宮】-葵上母宮
0039【おとゝ】-同父おとゝ也
  なけくされと・おはせぬなこりもたゝこの
  おとゝの御ひかりに・よろつに(に$)もてなされて(て#)
0040【おとゝ】-源氏
  給て・としころおほししつみつるなこりな
  きまてさかへ給ふ・なをむかしに御心」6オ
  はへかはらす・折ふしことにわたり給なと
  しつゝ・わか君の御めのとたちさらぬ人
  人も年ころのほとまかてちらさりける
  は・みなさるへきことにふれつゝ・よすかつ
  けむことを・おほしをきつるにさいはひ
  人おほくなりぬへし・二条院にもおなし
0041【二条院】-紫上
  事(事#こと)・まちきこえける人をあはれなる
  ものにおほして・としころのむねあくは
  かりとおほせは・中将・なかつかさやうの
0042【中将なかつかさ】-女房達
  人/\にはほと/\につけつゝ・なさけをみえ」6ウ
  給に・御いとまなくてほかありきもしたまは
  す・二条院のひむかしなる宮(宮=古イ<朱>)院の御せう
0043【ひむかしなる宮】-東院
  ふむなりしを・になくあらためつくらせ給
  ふ・花ちるさとなとやうの心くるしき人/\
  すませむなとおほしあてゝつくろはせ
  給・まことやかのあかしに心くるしけなり
  し事は・いかにとおほしわするゝ時なけれは・
  おほやけわたくしいそかしきまきれに・
  えおほすまゝにもとふらひたまはさり
  けるを・三月ついたちのほと・このころや」7オ
0044【三月ついたちのほと】-明石ノ上こそノ六月より懐妊也ことしの三月ハ十ケ月にあたる也
  とおほしやるに・人しれすあはれにて・御
  つかひありけり・とくかへりまいりて・十六日
  になむ・女にてたいらかにものし給ふと・つ
0045【女にて】-明石中宮此也
  けきこゆ・めつらしき様にてさへあな
  るを・おほすにをろかならす・なとて京に・
  むかへて・かゝることをもせさせさりけむ
  とくちおしうおほさる・すくえうに御子三
0046【御子三人】-冷泉院 明石中宮 夕霧左大臣
  人・みかと・きさきかならすならひてう
  まれたま(ま+ふ)へし・なかのおとりは・大政大臣
  にて・くらゐをきはむへしと・かむかへ申」7ウ
  たりし事・さしてかなふなめり・おほかたか
  みなきくらゐにのほり・よをまつりこち
  給ふへき事さはかりかしこかりし・あ
  またのさふ(ふ=ウ<朱>)人とものきこえあつめたるを・
  としころは世のわつらはしさに・みなおほし
  けちつるを・たうたいのかく位に・かなひ
0047【たうたい】-冷
  給ぬることを・思のこと・うれしとおほす・
  みつからも・もてはなれ給へるすちは・更にある
  ましきことゝおほす・あまたのみこたち
  の中に・すくれてらうたきものにおほし」8オ
  たりしかと・たゝ人におほしをきてける
  御心を思に・すくせとをかりけり・うちのかく
  ておはしますを・あらはに人のしる事な
  らねと・さうにむのことむなしからすと・御
  こゝろのうちにおほしけり・今ゆくすゑ
  のあらましことをおほすに・住吉の神の
  しるへ・まことにかの人も・世になへてならぬ
0048【かの人】-明石上
  すくせにて・ひか/\しきおやも・およひな
  き心をつかふにやありけむ・さるにては・かし
  こきすちにも・なるへき人のあやしき」8ウ
  せかいにてむまれたらむは・いとをしうかたし
  けなくもあるへきかな・このほとすくし
  てむかへてんとおほして・ひむかしの院い
  そきつくらすへきよしもよをしお
  ほせ給ふ・さる所に・はか/\しき人しも
  ありかたからむをおほして・こ院にさふら
  ひし・せむしのむすめ・宮内卿の宰相
0049【せむしのむすめ】-少将君こと
  にて・なくなりにし人の子なりしを・はゝ
  なともうせて・かすかなる世にへけるか・は
  かなきさまにて・こうみたりときこしめし」9オ
  つけたるを・しるたよりありて・ことのついて
  にまねひきこえける人めして・さるへきさ
  まにのたまひちきる・またわかくなに
  心もなき人にて・あけ暮人しれぬ・あは
  らやに・なかむる心ほそさなれは・ふかうも
  おもひたとらす・この御あたりのことを・ひと
  へにめてたうおもひきこえて・まいるへき
  よし申させたり・いとあはれにかつはおほし
  て・いたしたて給ふ・ものゝついてにいみし
0050【ものゝついてに】-源氏の君ノ少将の君のあハら屋に忍て出給へる也
  う・しのひまきれて・おはしまひたり・さは」9ウ
  きこえなから・いかにせましとおもひみたれ
  けるを・いとかたしけなきに・よろつおもひ
  なくさめて・たゝのたまはせむまゝにと
  きこゆ・よろしきひなりけれは・いそかし
  たて給ひて・あやしうおもひやりなきやう
  なれと・思ふさまことなる事にてなむ・み
  つからもおほえぬすまひに・むすほゝれ
  たりしためしを・おもひよそへて・しはし・ね
  むし給へなと・ことのありやう・くはしう・か
  たらひ給ふ・うへの宮つかへ時/\せしかは・」10オ
  みたまふおりもありしを・いたうおとろへ
  にけり・いへのさまもいひしらすあれ
  まとひて・さすかにおほきなる所のこ
  たちなと・うとましけに・いかてすくし
  つらむとみゆ・人のさまわかやかに・おかし
  けれは・御覧しはなたれす・とかくたは
  ふれ給ひて・とりかへしつへき心ちこそ
  すれ・いかにとの給ふにつけても・けに
  おなしうは・御みちかふもつかうまつりなれ
  は・うきみもなくさみなましと・みたて」10ウ
  まつる
    かねてよりへたてぬ中とならはねと
0051【かねてより】-源氏
  わかれはおしき物にさ(さ#そあ)りけるしたひや
  しなましとのたまへは・うちはらひて
0052【うちはらひて】-女房
    うちつけのわかれをおしむかことにて
0053【うちつけの】-明石上のめのと返し
  おもはむかたにしたひやはせぬなれてき
0054【おもはむかた】-あかしのうへの事をいへり
  こゆるをいたしとおほす・くるまにて
0055【いたし】-痛
0056【くるまにてそ】-少将君
  そ京のほとはゆきはなれける・いとしたし
  き人さしそへ給て・夢に(に#)もらすまし
  く口かため給てつかはす・御はかしさるへき」11オ
0057【御はかし】-三条院皇女陽明門院御誕生ニ奉御太刀
  ものなと・所せきまて・おほしやらぬくま
  なし・めのとにもありかたう・こまやかなる
  御いたはりのほとあさからす・入道のお
  もひかしつきおもふらむ有さま・おもひ
  やるもほゝゑまれたまふことおほゝ(ゝ$く)・又あ
  はれに心くるしうも・たゝこの事の御心
  にかゝるも・あさからぬにこそは・(は+御)文にも・をろか
  に・もてなし思ふましと・かへす/\いましめ
  たまへり
    いつしかも袖うちかけむおとめこの(の#か)」11ウ
0058【いつしかも】-源し
  世をへてなつるいはのおひさきつのくに
  まては船にて・それよりあなたはむまにて
  いそきいきつきぬ・入道まちとり・よろ
  こひ・かしこまりきこゆることかきりなし
  そなたにむきておかみきこえて・ありかた
  き御心はへをおもふに・いよ/\いたはしう
  おそろしきまて思ふ・ちこのいとゆゝし
0059【ちこ】-明石中宮
  きまて・うつくしうおはすることたく
  ひなし・けにかしこき御心にかしつき△(△#き)
0060【御心に】-少将の君の心に思へる事也
  こえむとおほしたるはむへなりけりとみた」12オ
  てまつるに・あやしきみちにいてたち
  て・夢の心ちしつるなけきもさめにけり・
  いとうつくしうらふたうおほえて・あつかひ
  きこゆ・こもちの君も月ころ物をのみ
0061【こもちの君】-明石上
  思ひしつみて・いとゝよはれる心ちに・
  いきたらむともおほえさりつるを・こ
  の御をきてのすこしものおもひなく
  さめらるゝにそ・かしらもたけて・御つ
  かひにもになきさまの心さしをつくす・とく
  まいりなむといそきくるしかれは・お」12ウ
  もふ事ともすこしきこえつゝけて
    ひとりしてなつるは袖のほとなきに
0062【ひとりして】-明石上返し
  おほふはかりのかけをしそまつときこ
  えたり・あやしきまて・御心にかゝりゆかし
0063【あやしきまて】-源し
  うおほさる・女君にはことにあらはして・お
0064【女君】-紫の上
  さおさきこえ給はぬを・きゝあはせ給ふ
  こともこそとおほして・さこそあなれ・
  あやしうねちけたるわさなりさ(さ#)や・(や+さ)も
0065【ねちけたる】-おもふやうにもなき心と聞たり
  おはせなむと・思ふあたりには・心もとなくて・
  おもひのほかにくちおしくなん・女にて」13オ
  あなれは・いとこそものしけれ・たつねしらて
  もありぬへき事なれと・さはえおもひす
  つましきわさなりけり・よひやにやりて・み
  せたてまつらむ・にくみ給ふなよときこえ
  たまへは・おもてうちあかみて・あやしう
0066【あやしう】-紫上御詞
  つねにかやうなるすち・のたまひつくる・心
  のほとこそわれなからうとましけれ・もの
  にくみは・いつならふへきにかと・ゑしたまへは・
  いとよくうちゑみて・そよ・たかならはしにか
0067【いとよく】-源
  あらむ・おもはすにそみえ給ふや・人の心より」13ウ
0068【おもはすにそ】-人のおもはぬことをおもはせて物なんしなとかけるをいふ
  ほかなる思ひやりことして・ものゑしなと
  したまふよ・おもへはかなしとて・はて/\は
  なみたくみ給ふ・としころあかすこひしと思
  きこえ給し御心のうちとも・おり/\の
  御ふみのかよひなと・おほしいつるには・よろ
  つのことすさひにこそあれと・思ひけたれ
  給ふ・この人をかうまておもひやり・ことゝふ
0069【この人】-明
  は猶思ふやうの侍そまたきにきこえは・又
  ひか心えたまふへけれはとのたまひさし
  て・人からのおかしかりしも所からにや・めつ」14オ
  らしうおほえきかしなと・かたりきこえ給・
  あはれなりしゆふへのけふりいひしことなと
0070【ゆふへのけふり】-明石巻にての源氏の哥事也
  まほならねと・そのよのかたちほのみし・
  ことのねの・なまめきたりしも・すへて
  御心とまれるさまにのたまひいつるにも・我
0071【我は又なくこそ】-紫の上の心ニ思給へる事也
  は又なくこそかなしと思ひなけきしか・す
  さひにても心をわけ給けむよと・たゝならす
  思ひつゝけ給て・我はわれと・うちそむき
  なかめて・あはれなりしよの有さまなと・ひ
0072【あはれなりしよの】-過にしかたのことを思いたしての給へる詞ナリ
  とりことのやうにうちなけきて」14ウ
    おもふとちなひくかたにはあらすとも
0073【おもふとち】-紫上
  われそけふりにさきたちなましなにとか
0074【なにとか心うや】-源詞
  心うや
    たれにより世をうみ山に行めくり
0075【たれにより】-源氏
  たえぬなみたにうきしつむみそいてや
  いかてかみえたてまつらむ・いのちこそかなひ
  かたかへい・ものなめれ・はかなき事にて人
  に心をかれしとおもふも・たゝひとつゆへそや
0076【ひとつゆへ】-紫
  とて・さうの御ことひきよせて・かきあはせ
  すさひ給て・そゝのかしきこえたまへと・かの」15オ
  すくれたりけむも・ねたきにや・てもふれ
0077【すくれたりけむも】-明石上ノ箏をの給ふ心也
  給はす・いとおほとかに・うつくしうたをやき
  たまへる・ものから・さすかにしふねき所つき
  て・ものゑししたまへるか・中/\あひ行つ
  きて・はらたちなし給を・おかしう見所あ
  りとおほす・五月五日にそ・いかにはあたるら
0078【五月五日にそ】-明石の姫君三月十六日誕生五月五日ハ五十ニあたるへし
  むと人しれすかすへ給て・ゆかしうあはれに
  おほしやる・なに事もいかにかひあるさま
  に・もてなし・うれしからまし・くちをしの
  わさや・さる所にしも心くるしきさまに」15ウ
  て・いてきたるよとおほす・おとこ君なら
  ましかはかうしも・御心にかけ給ましきを・
  かたしけなういとをしう・わか御すくせも・
  この御事につけてそ・かたほなりけりと・お
0079【かたほなりけり】-おさなき時をいへり
  ほさるゝ・御つかひいたしたて給ふ・かならすそ
  のひたかへす・まかりつけとのたまへは・五日(日+△&にイ、イ<朱>)
  いきつきぬ・おほしやる事も・ありかたう
  めてたきさまにて・まめ/\しき御とふらひ
  もあり
    うみ松やときそともなきかけにゐて」16オ
0080【うみ松や】-源し 後浦松体
0081【かけにゐて】-入道
  なにのあやめもいかにわくらむ心のあくか
0082【あやめも】-五月五日なれは
0083【いかに】-五十
0084【心の】-源文詞
  るゝまてなむ・猶かくてはえすくすましき
  を・おもひたち給ひねさりとも・うしろめたき
  事はよもと・かい給へり・入道れいのよろこひ
  なきしてゐたり・かゝるおりはいけるかひも
0085【かひもつくり】-かひつくるはなくをいふよろこひなき也
  つくりいてたることはりなりとみゆ・こゝに
  もよろつところせきまて・おもひまうけたり
  けれと・この御つかひなくはやみの夜にてこそ
0086【やみの夜にてこそくれぬへかりけれ】-闇夜錦
  くれぬへかりけれ・めのともこの女君のあはれ
0087【めのと】-少将君
0088【女君】-明
  に思やうなるを・かたらひ人にて・世のなく」16ウ
  さめにしけり・おさ/\おとらぬ人も・るひに
  ふれてむかへとりて・あらすれと・こよなく
  おとろへたる・みやつかへ人なとのいはほの
  中たつぬるか・おちとまれるなとこそあ
  れ・これはこよなうこめき思あかれりきゝ
0089【これは】-小侍従
  所ある世の物かたりなとして・おとゝの君
  の御ありさま・世にかしつかれ給へる御おほ
  えのほとも・女心ちにまかせてかきりなく
  かたりつくせは・よ(よ$け)にかくおほしいつはかりの
  なこりとゝめたるみもいとたけくやう/\」17オ
  おもひなりけり・御ふみももろともにみて
  心のうちに・あはれかうこそ・おもひの外に
  めてたきすくせはありけれ・うきものはわ
  かみこそありけれと・おもひつゝけらるれ
  と・めのとのことはいかになと・こまかにとふら
0090【めのと】-源文詞
  はせ給へるも・かたしけなく・なに事もなくさめ
  けり御返には
    かすならぬみしまかくれになくたつを
0091【かすならぬ】-明石上返し
  けふもいかにととふ人そなきよろつに思ふ
  給へむすほゝるゝ有さまを・かく給ま(給ま#たまさ)かの」17ウ
  御なくさめに・かけ侍いのちのほともはかな
  くなむ・けにうしろやすくおもふ給へを
  くわさもかなとまめやかにきこえたり・
  うちかへし見給つゝあはれと・なかやかに
0092【うちかへし】-源ノ
0093【なかやか】-長
  ひとりこち給を・女君しりめにみをこせ
0094【女君】-紫
  て・うらよりをちにこく船のと・しのひや
0095【うらよりをちに】-\<朱合点> 御くまのゝ浦よりをちにこく舟の我をハよそにへたてつるかな(新古今1048・古今六帖1888・伊勢集380、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
  かにひとりこちなかめ給ふを・まことは・かく
  まてとりなし給ふよ・こはたゝかはかりのあは
  れそや・ところのさまなと・うち思ひやる・時/\
  きしかたの事・わすれかたきひとりことを・」18オ
  ようこそきゝすん(ん#く)い給はねなとうらみき
  こえ給て・うはつゝみはかりを・見せたてまつ
0096【うはつゝみ】-文ノ
  らせ給ふ・ふん(ん#て)なとの・いとゆへつきて・やむこ
  となき人くるしけなるを・かゝれはなめり
  とおほす・かくこの御心とり給ふほとに・花
  ちる里(里+なと<朱>)を・あ(あ#か<朱>)れはて給ひぬるこそ・いと
  をしけれ・おほやけこともしけく所せき
  御みに・おほしはゝかるにそへても・めつらし
0097【御み】-源
  く・御めおとろくことのなきほと・思ひし
0098【思ひし】-源
  つめ給なめり・さみたれ・つれ/\なるころ・お」18ウ
  ほやけわたくし物しつかなるに・おほしおこ
  してわたり給へり・よそなからもあけ暮に
  つけて・よろつにおほしやり・とふらひきこ
  え給をたのみにてすくい給所なれは・いま
  めかしう・心にくきさまに・そはみうらみ給
  ふへきならねは・心中やすけなり・年比に
  いよ/\あれまさり・すこけにておはす・女
0099【女御の君】-麗景ー姉
  御の君に御物かたりきこえ給て・西のつ
  まとに夜ふかして立より給へり・月おほろ
  にさし入て・いとゝえむなる御ふるまひ・つ」19オ
  きもせすみえ給ふ・いとゝつゝましけれと・
  はしちかふ・うちなかめ給けるさまなから・
  のとやかにてものし給ふけはひ・いとめや
  すし・くひなのいとちかふなきたるを
    くひなたにおとろかさすはいかにして
0100【くひなたに】-花ちる
  あれたるやとに月をいれましといとなつ
  かしういひけち給へるそ・とり/\に・すて
  かたきよかな・かゝるこそ中/\みも・くるし
  けれと・おほす
    をしなへてたゝくくひなにおとろかは」19ウ
0101【をしなへて】-源し返し
  うはの空なる月もこそいれうしろめた
0102【うしろめたう】-源詞
  うとは・なをことにきこえ給へと・あた/\
0103【あた/\しき】-花ー
  しきすちなと・うたかはしき御こゝろはへ
  にはあらす・とし比まちすくしきこえ給へ
  るも・さらにをろかにはおほされさりけり・
  空ななかめそと・たのめきこえ給ひし
0104【たのめきこえ給ひし】-源行めくりつゐニすむへき月影ノ
  おりの事も・のたまひいてゝ・なとてた
  くひあらしと・いみしうものを思しつ
  みけむ・うきみからは・おなしなけかしさ
0105【うきみからは】-花ー
  にこそとのたまへるも・おいらかにらうたけ」20オ
  なり・れいのいつこの御ことのはにかあらむ・
0106【御ことのは】-源
  つきせすそ・かたらひなくさめきこえ
  給・かやうのついてにも・かの五せちをおほし
0107【かの五せち】-大宰大弐娘
  わすれす・又見てしかなと心にかけ給へ
  れと・いとかたき事にて・えまきれ給す・
  女・ものおもひたえぬを・おやは・萬におもひ
  いふ事も・あれと・よにへんことを・思ひたへ(へ$え<朱>)
  たり・心やすきとのつくりしては・かやうの人
  つとへても・おもふさまに・かしつき給ふへき
  人も・いてものし給はゝ・さる人のうしろみに」20ウ
  もとおほす・かの院のつくりさま・中/\
0108【かの院のつくりさま】-二条院ノ東院ノ造作の事也
  みところおほく・いま(いま#)いまめひたり・よしある
  すらうなとを・えりて・あて/\にもよをし
0109【えりて】-国守等ニ命テ造作
  給ふ・ないしのかむの君・なをえおもひは
0110【ないしのかむの君】-朧
  なちきこえ給はす・こりすまに・たちかへ
  り御心はへもあれと・女はうきに・こり給
  て・むかしのやうにも・あひしらへきこえ給
  はす・中/\ところせう・さう/\しう・世中お
  ほさる・院はのとやかに・おほしなりて・時/\(/\+に)
0111【院】-朱
  つけて・おかしき御あそひなと・このましけ」21オ
  にておはします・女御かういみなれいの・こと
0112【こと】-如
  さふらひ給へと・春宮の御はゝ女御のみそ・
0113【女御】-承香殿
  とりたてゝ・時めき給ふ事もなく・かむ
  の君の御おほえに・をしけたれたまへ
  りしを・かくひきかへめてたき御さいは
  ひにて・はなれいてゝ・宮にそひたてまつり
0114【宮】-東宮
  給へる・このおとゝの・御とのゐところは・むかし
0115【このおとゝ】-源
  のしけいさなり・なしつほに・春宮はおはし
0116【しけいさ】-淑景舎
0117【春宮】-承香殿
  ませは・ちかとなりの御心よせに・なに事も
  きこえかよひて・宮をも・うしろみたて」21ウ
  まつり給・にら(にら#にう)たう后の宮御くらゐを・また
  あらため給へきならねは・太上天皇になす
  らへて・みふ給まはらせ給・院司とも・なりて・
0118【院司とも】-判官代 △典代
  さまことに・いつくし・御をこなひ・くとく
  の事を・つねの御いとなみにておはします
  としころ世にはゝかりて・いていりも・かたく
  みたてまつり給はぬなけきを・いふせく
  おほしけるに・おほすさまにて・まいりまか
  て給も・いとめてたけれは・おほきさきは・
  うきものはよなりけりとおほしなけく・」22オ
  おとゝはことにふれて・いとはつかしけに・
0119【おとゝ】-源
  つかまつり・心よせきこえ給も・中/\いとをし
  けなるを・人もやすからすきこえけり・
  兵部卿のみこ・としころの御こゝろはへの・つ
0120【兵部卿のみこ】-須磨留守不問
  らくおもはすにて・たゝ世のきこえをのみ・
  おほしはゝかりたまひし事を・おとゝは・う
  きものにおほしをきて・むかしのやうにも・
  むつひきこえ給はす・なへての世にはあ
  まねく・めてたき御心なれと・この御あたり
0121【この御あたり】-兵
  は・中/\なさけなきふしもうちませ給」22ウ
  を・入道の宮は・いとをしうほいなきことに
  みたてまつり給へり・世中の事・たゝな
  かはをわけて・おほきおとゝ・このおとゝの
0122【おほきおとゝ】-摂政
0123【このおとゝ】-源
  御まゝなり・権中納言の御むすめ・その年
0124【御むすめ】-弘徽殿女御絵合せし人
  の八月に・まいらせ給・おほち殿・ゐたちて・
0125【殿】-ヲトゝ
  きしきなと・いとあらまほし・兵部卿宮
  のなかの君も・さやうに心さして・かしつ
0126【なかの君】-冷ー女御紫姉也女ゑ合ニ入内
  き給・名たかきを・おとゝは・人よりまさり
  給へとしも・おほさすなむありける・いかゝ
  し給はむとすらむ・その秋・すみよしに」23オ
  まうて給・願とも・はたし給・へけれは・いかめしき
0127【まうて給】-源
  御ありきにて・世中ゆすりて・かむたちめ
  殿上人・我も/\とつかふまつり給・おりしも・
  かのあかしの人・としことのれいのことにて・ま
  うつるを・こそことしはさはる事あり
0128【さはる事】-懐妊
  て・をこたりけるかしこまり・とりかさねて・
  おもひたちけり・船にてまうてたり・きし
  にさしつくるほと・みれはのゝしりて・まう
  て給ふ人(人+の)けはひ・なきさにみちて・いつく
  △(△#)しき・かむたからをもてつゝけたり・かく」23ウ
  人とをつゝ(ゝ#ら)なと・さうそくをとゝのへかたちを
0129【とをつら】-十列ナリ
0130【さうそく】-東遊求子舞乗馬神社行幸ニ詣召具出社頭けい馬
  えらひたり・たかまうて給へるそととふめれ
0131【たかまうて】-明石人
  は・内大臣殿の御願はたしにまうて給ふ
  を・しらぬ人もありけりとて・はかなき程
  のけすたに・心ちよけにうちはらふけに
0132【けに】-明石心
  あさましう・月日もこそあれ・中/\この
  御有さまを・はるかにみるも・身のほとく
  ちをしうおほゆ・さすかにかけはなれた
  てまつらぬすくせなから・かくくちおしき
  きわの物たに・もの思なけにてつかうま」24オ
  つるを・いろふしに思ひたるに・なにのつみふ
  かき身にて・心にかけておほつかなうおもひ
  きこえつゝ・かゝりける御ひゝきをもしら
  て・たちいてつらむなと・おもひつゝくる
  に・いとかなしうて人しれす・しほたれけり・松
  はらのふかみとりなるに・花もみちを・こ
  きちらしたるとみゆる・うへのきぬの
  こきうすきかすしらす・六位の中にも・蔵
0133【こきうすき】-紫赤依位有浅深
  人はあをいろしるくみえて・かのかもの
0134【あを】-麹塵
  みつかき・うらみし右近のせうも・ゆけゐ」24ウ
0135【右近のせう】-引つれてあふひかさしゝそのかみを思へハつらしかものみつかき須磨巻
  になりて・こと/\しけなる・すいしんくし
0136【すいしん】-小随身カチニコウ矣判官等同
  たる蔵人なり・よしきよも・おなしすけにて・
0137【よしきよ】-源少納言といひし人也
0138【おなしすけ】-廷尉佐
  人よりことにもの思ひなきけしきにて・お
  とろおとろしきあかきぬすかたいときよ
  けなり・すへて見し人/\・ひきかへはなやか
  になに事おもふらむとみえて・うちちり
0139【うちちりたるに】-アツマル心歟
  たるに・わかやかなるかむたちめ・殿上人
  の・我も/\も(も#)とおもひいとみ・むまくらな
  とまて・かさりをとゝのへ・みかき給へるは・い
  みしきものに・ゐなか人もおもへり・御車」25オ
  をはるかにみやれは・なか/\心やましくて・
  恋しき御かけをも・えみたてまつらす・か
0140【かはらのおとゝの御れい】-證歟関白例アリ
  はらのおとゝの御れいをまねひて・わらはす
0141【わらはすかた】-装束の色同所見なしと
  いしんを給はり給ける・いとをかしけに・さう
  そきみつらゆひて・むらさきすそこの
  もとゆひ・なまめかしう・たけすかた・とゝ
0142【とゝのひ】-長徳二年八月九日御堂殿于時左大臣辞左大将同日以童六人為随身三年十月九日勅賜左右近衛府生各一人 近衛各三人為随身但停童子云々
  のひうつくしけにて・十人さまことに・いま
  めかしうみゆ・おほとのはらのわか君かきり
0143【おほとのはらのわか君】-夕霧事 殿上わらはにて供奉せられたる也
  なく・かしつきたてゝ・むまそひ・はらはの
  ほと・みなつくりあはせて・やうかへてさう」25ウ
  そきわけたり・雲井はるかにめてたく
0144【はるかに】-人ノ行末を云
  みゆるにつけても・わか君のかすならぬさまに
0145【わか君】-明石姫君事
  て・ものし給を・いみしと思・いよ/\みやし
  ろ(ろ+の)かたを・おかみきこゆ・くにのかみ・まい
  りて御まうけ・れいの大臣なとのまいり給
  よりは・ことによになく・つかうまつりけむ
  かし・いとはしたなけれは・たちましりかす
  ならぬ身の・いさゝかの事せむに・神も
0146【神もみいれかすまへ】-引 タムケニハツヽリノ袖モキルヘキニモミチニアケル神ヤカヘサン(古今421・素性集48、弄花抄・一葉抄・細流抄・休聞抄・紹巴抄・孟津抄・岷江入楚)
  みいれ・かすまへ給ふへきにもあらす・かへら
  むにも中そらなり・けふはなにはに船さ」26オ
  しとめて・はらへをたにせむとて・こきわた
  りぬ・君はゆめにもしり給はす・夜ひと
0147【君】-源
  よ色/\のことをせさせ給ふ・まことに神
  のよろこひ給へき事をしつくして・き
  しかたの御願にも・うちそへ・ありかたきまて
  あそひのゝしり・あかし給・これみつやうの
  人は・心のうちに・神の御とくをあはれに
  めてたしとおもふ・あからさまにたちいて
  給へるにさふらひて・きこえいてたり
    すみよしのまつこそものはかなしけれ」26ウ
0148【すみよしの】-惟光
  神世のことをかけておもへはけにとおほし
  いてゝ
    あらかりしなみのまよひに住よしの
0149【あらかりし】-けんし
  神をはかけてわすれやはするしるしあり
  なとのたまふもいとめてたし・かのあかしの
  舟・このひゝきにをされて・すきぬる事も
  きこゆれは・しらさりけるよとあはれに
  おほす・神の御しるへをおほしいつるも・をろ
  かならねは・いさゝかなるせうそこをたに
  して・心なくさめはや・中/\におもふらむ」27オ
  かしとおほす・みやしろたちたまて・所/\
  に・せうえうをつくし給ふ・なにはの御はら
0150【なにはの御はらへ】-御代始八十島祭アリ難波にて祓行
  へなゝせに・よそをしうつかまつる・ほりえ
0151【ほりえ】-塹<ホリエ> 仁徳天皇の御時堀れたる河也  堀江ニハ玉しかましを大君の御舟こかんとかねてしりせハ 井手左大臣(万葉4080、河海抄・休聞抄・孟津抄・岷江入楚)
  のわたりを御らむして・いまはたおなし
0152【いまはたおなし】-\<朱合点>
  なにはなると御こゝろにもあらて・うちすし
  給へるを・御車のもとちかきこれみつうけ
  給はりやしつらむ・さるめしもやとれいに
  ならひて・ふところにまうけたる・つかみし
0153【つか】-柄
  かきふてなと・御車とゝむる所にてたて
  まつれり・おかしとおほして・たゝうかみに」27ウ
    みをつくしこふるしるしにこゝまても
0154【みをつくし】-源氏
  めくりあひけるえにはふかしなとて給へ
  れは・かしこのこゝろしれる・しも人して
  やりけり・こまなめてうちすき給ふにも・
0155【こまなめて】-明ー心
  心のみうこくに・露はかりなれと・(と+いと)あはれにかた
  しけなくおほえて・うちなきぬ
    かすならてなにはのこともかひなきに
0156【かすならて】-明石上返し
  なとみをつくしおもひそめけむたみ
  のゝしまに・みそきつかうまつる・御はらへのも
  のにつけてたてまつる・日暮かたになり」28オ
  行・ゆふしほみち△(△#)・きて・入えのたつも
0187【入えのたつ】-\<朱合点> なにはかたしほみちくらし海人衣たみのゝ嶋にたつ鳴わたる(古今913・古今六帖1909、異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
  こゑおしまぬほとのあはれなるおりからなれ
  はにや・人めもつゝます・あひみまほしく
  さへおほさる
    露けさのむかしににたるたひころも
0158【露けさの】-けんし
  たみのゝしまのなにはかくれすみちのまゝ
0159【たみのゝしま】-古今 雨により田蓑の嶋を今日ゆけは名にはかくれぬ物にそ有ける(古今918・拾遺集343・古今六帖465・1917・貫之集831、異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
  に・かひあるせうえうあそひのゝしり給へと・
  御心にはなをかゝりておほしやる・あそひ
0160【あそひとも】-遊女
  ともの・つとひまいれるかむたちめと・き
  こゆれと・わかやかにことこのましけなるは・」28ウ
  みなめとゝめ給へかめり・されといてやおかしき
  ことも物のあはれも人からこそあへけれ・なの
  めなることをたに・すこし・あわきかたによ
0161【あわきかたに】-遊女を賞する事をいふナリ 浅心
  りぬるは・心とゝむるたよりもなきもの
  をとおほすに・をのか心をやりて・よしめき
  あへるも・うとましうおほしけり・かの人は
0162【かの人】-明ー
  すくしきこえて・又の日そよろしかりけれ
  は・御てくらたてまつる・ほとにつけたる・
0163【御てくら】-幣
  願ともなと・かつ/\はたしける・又中/\物
  おもひそはりて・あけ暮くちおしき身を」29オ
  おもひなけく・いまや京におはしつくらむと
  おもふ日かすもへす・御つかひあり・このころの
  ほとに・むかへむことをそのたまへる・いとたのも
  しけにかすまへのたまふめれと・いさやまた
  しまこきはなれ・なか空に心ほそきことや
0164【しまこきはなれ】-\<朱合点> 今はとて嶋こきはなれ行舟もひれふる袖をみるそかなしき うつほ(落窪物語72、河海抄・花鳥余情・弄花抄・休聞抄・花屋抄・孟津抄・岷江入楚)
  あらむとおもひわつらふ・入道もさてい
  たしはなたむと(と$は)・いとうしろめたう・さり
  とて・かくうつもれすくさむをおもはむも・
  中/\きしかたの年ころよりも心つくし
  なり・よろつにつゝましう・おもひたちかたき」29ウ
  事をきこゆ・まことや・かのさい宮もかはり
0165【さい宮も】-冷泉院御位につき給ひて又斎宮かはり給へハ六条
  給にしかは・みやすむ所のほり給てのち・か
0166【みやすむ所】-斎宮ハ御息所とゝもにのほり給ふ也
  はらぬさまに・なに事もとふらひきこえ
  給事はありかたきまて・なさけをつくし給
  へと・むかしたにつれなかりし御心はへの中/\
0167【むかしたに】-御息
  ならむ名残は・見しと・おもひはなち給へれ
0168【おもひはなち】-御息
  は・わたり給なとすることはことになし・あなか
  ちに・うこかしきこえ給ても・わか心なから・
  しりかたく・とかくかゝつらはむ・御ありきなと
  も所せう・おほしなりにたれは・しゐたる」30オ
  さまにもおはせす・さい宮をそいかに・ねひなり
0169【さい宮をそ】-源詞
  給ぬらむと・ゆかしうおもひきこえ給・なをか
  の六条のふる宮を・いとよくすりしつく
0170【六条のふる宮】-京極御息所
  ろひたりけれは・みやひかにてすみ給けり・よ
0171【みやひかに】-昔こそ難波ゐ中といわれけめ今ハ宮美<ヒ>堵<ト>そなはりにけり(万葉315、異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
  しつき給へることふりかたくて・よき女房な
  とおほく・すいたる人のつとひところにて・もの
  さひしきやうなれと・心やれるさまにてへ
  たまふほとに・にはかにをもくわつらひ給ひ
0172【わつらひ給ひ】-御息所
  て・ものゝいと心ほそくおほされけれは・つみ
  ふかきところほとりに・としへつるも・いみし」30ウ
0173【ところ】-\<朱合点>「花鳥ニハつみふかきほとりと/ハカリアリ以他本可/見合し」(付箋01)
  うおほして・あまになり給ひぬ・おとゝきゝ給
0174【あまになり給ひぬ】-御息所
0175【おとゝきゝ給て】-源氏
  て・かけ/\しきすちにはあらねと・なをさる
0176【かけ/\しきすち】-心盛
  かたのものをもきこえあはせ人におもひ
  きこえつるを・かくおほしなりにけるかく
  ちをしうおほえ給へは・おとろきなからわた
0177【わたり給へり】-源
  り給へり・あかすあはれなる御とふらひきこ
  え給ふ・ちかき御まくらかみに・おましよそ
  ひて・けうそくにをしかゝりて・御返なとき
  こえ給ふも・いたうよはり給へるけはひ
  なれは・たえぬこゝろさしのほとは・え見え」31オ
  たてまつらてやとくちおしうて・いみしう
0178【いみしう】-源
  ない給・かくまてもおほしとゝめたりけるを・
  女もよろつにあはれにおほして・斎宮の御
0179【斎宮】-秋
  事をそきこえ給・心ほそくて・とまり給は
0180【心ほそく】-御息所御詞
  むを・かならすことにふれて・かすまへきこ
  え給へ・又みゆつる人もなく・たくひなき御
0181【みゆつる人もなく】-無親
  ありさまになむ・かひなきみなからも・いまし
  はし世中をおもひのとむるほとは・とさま
  かうさまに・ものをおほししるまて・見たて
  まつらむとこそ思たまへつれ・とても・きえ」31ウ
  いりつゝない給・かゝる御事なくてたに・おもひ
0182【かゝる御事】-けんし御詞
  はなちきこえさすへきにもあらぬを・まし
  て心のをよはむにしたひては・なに事
  もうしろみきこえむとなんおもふ給ふる・
  さらにうしろめたくなおもひきこえ給そ
  なときこえたまへは・いとかたき事ま
0183【いとかたき事】-御息詞 難有
  ことにうちたのむへきおやなとにてみゆ
  つる人たに・女おやにはなれぬるは・いとあ
  はれなることにこそ侍めれ・ましておもほし
  人めかさむにつけても・あちきなきかた」32オ
  や・うちましり・人に心もをかれ給はむ・
  うたてあるおもひやり事なれと・かけて
  さやうのよついたるすちにおほしよるな・
  うき身をつみ侍にも・女はおもひの外にて・
  もの思をそふるものになむ侍けれは・いか
  てさるかたを・もてはなれてみたてまつら
  むとおもふ給ふるなときこえ給へは・あひ
0184【あひなく】-けん詞
  なくも・の給かなとおほせと・としころによろ
  つおもふ給へ・しりにたるものを・むかし
  のすき心の名残ありかほにの給ひなすも・」32ウ
  ほいなくなむ・よしをのつからとて・とはくら
0185【とは】-外
  うなり・うちはおほとのあふらのほのかに・
  ものよりとほりてみゆるを・もしやと
  おほして・やをらみき丁のほころひよ
  り見たまへは・心もとなきほとのほかけ
  に・御くしいとおかしけに・はなやかにそき
0186【御くし】-御息所
  てよりゐたまへる・ゑにかきたらむさまして
  いみしうあはれなり・丁のひむかしおもて
  にそひふし給へるそ・みやならむかし・みき
0187【みや】-秋
  丁のしとけなくひきやられたるより・御」33オ
  めとゝめてみとをし給へれは・つらつえ
  つきて・いとものかなしとおほいたるさまな
  り・はつかなれと・いとうつくしけならむと
  みゆ・御くしのかゝりたるほと・かしらつき
  けはひ・あてにけたかきものから・ひちゝか
  にあひ行つき給へるけはひしるく・みえ
  給へは・心もとなくゆかしきにも・さはかり・の
  たまふものをとおほしかへす・いとくるしさ
  まさり侍・かたしけなきを・はやわたらせ
  給ねとて・人にかきふせられ給ふ・ちかくま」33ウ
0188【ちかく】-源詞
  いりきたるしるしに・よろしうおほされは・
  うれしかるへきを・心くるしきわさかな・
  いかにおほさるゝそとて・のそき給ふけし
  きなれは・いとをそろしけに侍や・みたり
0189【いとをそろしけに】-御息
0190【みたり心ち】-御息詞
  心ちの・いとかくかきりなるおりしもわたら
  せ給へるは・まことにあさからすなむおもひ
  侍ことを・すこしもきこえさせつれは・
  さりともとたのもしくなむときこえ
  させ給・かゝる御ゆいこむのつらにおほし
0191【かゝる御ゆいこむの】-源詞
  けるもいとゝあはれになむ・こ院のみこた」34オ
0192【こ院】-桐
  ちあまたものし給へと・したしくむつひ
  おもほすも・おさ/\なきを・うへのおなし
  みこたちのうちに・かすまへきこえ(え+給)しかは・
  さこそはたのみきこえ侍らめ・すこしおと
  なしきほとになりぬるよはひなから・あつ
  かふ人もなけれは・さう/\しきをなと
  きこえてかへり給ぬ・御とふらひいますこし
0193【かへり給ぬ】-源
  たちまさりて・しは/\きこえ給ふ・七八日
  ありてうせ給にけり・あえなうおほさるゝに・
0194【うせ給にけり】-御息所
  よもいとはかなくて・もの心ほそくおほされて・」34ウ
  うちへもまいり給はす・とかくの御事なと・
0195【うちへも】-源
  をきてさせ給ふ・又たのもしき人も・こと
  におはせさりけり・ふか(か#る)き斎宮の宮つか
  さなとつかうまつりなれたるそ・わつかに事
  ともさためける・御みつからもわたり給へ
0196【御みつからも】-源
  り・宮に御せうそこきこえ給・なに事も
0197【宮に】-斎宮
  おほえ侍らてなむと・女別当してきこえ
  給へり・きこえさせの給(給+イ<朱>)・をきし事もは
0198【きこえさせ】-源詞
  へしを・いまはへたてなきさまにおほされは・
  うれしくなむときこえ給て・人/\めし」35オ
  いてゝ・あるへき事ともおほせ給ふ・いとたの
  もしけにとしころの御心はへとりかへし
0199【御心はへ】-源
  つへうみゆ・いといかめしう・とのゝ人/\かすも
  なうつかうまつらせ給へり・あはれにうちなか
  めつゝ・御さうしにて・みすおろしこめてをこ
0200【御さうしにて】-源
  なはせ給ふ・宮にはつねにとふらひきこえ
0201【宮には】-秋
  給・やう/\御心しつまり給ては・みつから御かへ
  りなときこえ給ふ・つゝましうおほしたれ
  と・御めのとなとかたしけなしとそゝのかし
  きこゆるなりけり・雪・みそれ・かきみたれあるゝ」35ウ
  日・いかに宮のありさま・かすかになかめ給ふら
  むと・おもひやりきこえ給て・御つかひたて
  まつれ給へりたゝいまの空を・いかに御覧す
  らむ
    ふりみたれひまなき空になき人の
0202【ふりみたれ】-けんし
  あまかけるらむやとそかなしき空いろの
0203【あまかける】-天翔
0204【空いろのかみ】-薄花田
  かみの・くもらはしきにかい給へり・わかき人の
  御めに・とゝまるはかりと・心してつくろひ給
  へる・いとめもあやなり・宮はいときこえにくゝ
  したまへと・これかれ人つてには・いとひむな」36オ
  きことゝせめきこゆれは・にひいろのかみ
0205【にひいろのかみ】-浅黄墨
  のいとかうはしうえむなるに・すみつき
  なとまきらはして
    きえかてにふるそかなしきかきくらし
0206【きえかてに】-斎宮返し みそれをかくしてよめり
  わか身それともおもほえぬよにつゝましけ
  なるかきさま・いとおほとかに御てすくれて
  はあらねと・らうたけにあてはかなるすち
  にみゆ・くたり給しほとより・猶あらす・おほし
0207【猶あらす】-源心 有マシ
  たりしを・いまは心にかけて・ともかくもきこえ
  よりぬへきそかしとおほすには・れいのひ」36ウ
  きかへしいとをしくこそ・こ宮すむとこ
  ろのいとうしろめたけに・心をき給しを・こと
0208【心をき給しを】-源
  はりなれと・世中の人もさやうにおもひより
  ぬへきことなるを・ひきたかへこゝろきよく
0209【こゝろきよく】-源ノ
  て・あつかひきこえむ・うへのいますこしも
0210【うへの】-冷
  のおほししるよはひにならせ給なは・内す
0211【内すみ】-秋
  みせさせたてまつりて・さう/\しきに・かし
  つきくさにこそとおほしなる・いとまめや
  かに・ねんころにきこえ給て・さるへきおり/\
  はわたりなとし給ふ・かたしけなくとも・むかし」37オ
0212【わたりなと】-源六条
  の御名残におほしなすらへて・けとをから
0213【御名残】-御息
  すもてなさせ給はゝなむ・ほいなる心ちす
  へきなときこえたまへと・わりなくもの
0214【ものはちをしたまふ】-秋
  はちをしたまふ・おくまりたる人さまに
0215【おくまりたる】-奥
  て・ほのかにも・御こゑなときかせたてまつらむ
  は・いと(と+よ)になくめつらかなる事とおほした
  れは・人/\もきこえわつらひて・かゝる御
  心さま(ま+を)うれへきこえあへり・女へたう・内侍なと
  いふ人/\・あるは・はなれたてまつらぬ・わかむ
0216【わかむとをり】-王氏の女をいふ
  とをりなとにて・心はせある・人/\おほかる」37ウ
  へし・この人しれすおもふかたのましらひ
  を・せさせたてまつらむに・人におとりた
  まふましかめり・いかてさやかに御かたちを・み
  てしかなとおほすも・うちとくへき御おや
  心にはあらすやありけむ・わか御心もさためか
  たけれは・かくおもふといふ事も・人にも・も
  らし給はす・御わさなとの御事をも・とり
0217【御わさ】-御息
  わきてせさせたまへは・ありかたき御心を・
  宮人もよろこひあへり・はかなくすくる
  月日にそへて・いとゝさひしく・心ほそき」38オ
  事のみまさるに・さふらふ人/\も・やう/\
  あ(あ+か)れゆきなとして・しもつかたの京極わた
  りなれは・人けとをく・山てらの入あひの
  こゑ/\にそへても・ねなきかちにてそすく
  し給ふ・おなしき御おやときこえしなか
  にも・かた時のまも・たちはなれたてまつり
  給はて・ならはしたてまつり給ひて・斎宮
  にもおやそひてくたり給事は・れいなきこと
0218【おやそひてくたり給事】-村上御女規子斎宮下時御母徽子女王下自延喜已後ナレハ無例事也
  なるを・あなかちに・いさなひきこえ給し御
  心にかきりあるみちにては・たくひきこえ給」38ウ
0219【たくひきこえ給はす】-王死道ニハ秋ー
  はすなりにしを・ひるよなうおほしなけき
  たり・さふらふ人/\たかきもいやしきも
  あまたあり・されとおとゝの御めのとたち
0220【おとゝ】-源
0221【御めのと】-秋ー
  たに・こゝろにまかせたる事ひきいたしつ(つ+かう)
  まつるなゝと・おやかり申給へは・いとはつかし
0222【いとはつかしき】-乳母
  き御ありさまに・ひんなき事きこしめ
0223【ひんなき】-便
  しつけられしといひおもひつゝ・はかなき
  事のなさけも更につくらす・院にもかの
0224【院】-朱
  くたり給し大極殿の・いつかしかりしき
  しきに・ゆゝしきまてみえ給し・御かたち」39オ
  をわすれかたうおほしをきけれは・まいり
0225【まいり給て】-朱詞
  給て斎院なと御はらからの宮/\・おはし
0226【斎院】-女三
0227【御はらからの】-朱
  ますたくひにて・さふらひ給へと・みやす所
0228【みやす所】-六条
  にもきこえ給き・されとやむことなき
0229【されと】-故御息所詞
  人/\さふらひ給ふに・かす/\なる御うしろ
  みもなくてやとおほしつゝみ・うへはいと
0230【うへは】-朱
  あつしうおはしますも・おそろしう又も
  のおもひやくはへ給はんと・はゝかりすくし
  給しを・いまはまして・たれかはつかうまつら
  むと・人/\おもひたるを・ねむころに院」39ウ
0231【院】-朱
  にはおほしのたまはせけり・おとゝきゝ給
0232【おとゝ】-源
  て・院より御けしきあらむを・ひきたかへ
0233【院】-朱
  よことり給はむを・かたしけなき事と
  おほすに・人の御ありさまのいとらうたけ
0234【人の】-秋ー
  に・見はなたむは又くちをしうて・入道の
0235【入道の宮】-藤つほ
  宮にそきこえたまひける・かう/\のこと
0236【かう/\のこと】-源詞
  をなむおもふ給へわつらふに・はゝみやすむ
  所いとおも/\しく・心ふかきさまに・も
  のし侍しを・あちきなきすき心にまかせ
  て・さるましきなをもなかし・うきもの」40オ
  におもひをかれ侍にしをなん・よにいとおし
  くおもひたまふる・この世にてそのうらみ
  の心とけすすき侍にしを・いまはとなり
0237【いまはとなりて】-御息所
  てのきはに・この斎宮の御事をなむ・
0238【この斎宮】-秋
  ものせられしかは・さもきゝをき・心に
  ものこすましうこそは・さすかにみを
  き給けめと・おもひ給ふるにも・しのひかた
  う・おほかたのよにつけてたに・心くるし
  き事は見きゝすくされぬわさに侍
  を・いかてなきかけにても・かのうらみわす」40ウ
  るはかりとおもひ給ふるを・うちにもさ
  こそおとなひさせ給へと・いときなき
  御よはひにおはしますを・すこし物の心
  しる人は・さふらはれても・よくやとおもひ
  給ふるを・御(御+さ)ためになときこえたまへはい
0239【いとよう】-藤つほ御詞
  とようおほしよりけるを・院にもおほ
  さむ事は・けにかたしけなういとをし
  かるへけれと・かの御ゆひこむをかこちて・
  しらすかほに・まいらせたてまつりたまへ
  かし・いまはたさやうの事・わさともおほ」41オ
  しとゝめす・御をこなひかちになり給て
  かうきこえ給を・ふかうしもおほしとかめ
  しとおもひたまふる・さえ(え$ら<朱>)は御けしき
0240【さらは】-源詞
  ありて・かすまへさせ給はゝ・もよをしは
  かりのことをそふるになし侍らむ・とさま
  かうさまにおもひたまへのこす事な
  きに・かくまてさはかりの心かまへもま
  ねひ侍るによ人やいかにとこそ・はゝかり
  侍れなと・きこえたまてのちには・けに
  しらぬやうにて・こゝにわたしたてまつりて」41ウ
  むとおほす・女君にもしかなん思ひかた
0241【女君】-紫上ニかたり給事也
  らひきこえて・すくひ給はむに・いとよき
  ほとなるあはひならむときこえしらせ
  たまへは・うれしきことにおほして・御
  御(御#)わたりのことをいそき給ふ・入道の宮・
  兵部卿の宮の姫君をいつしかと・かし
0242【姫君】-王女御紫姉
  つきさはき給ふめるを・おとゝのひまあ
0243【おとゝのひま】-けん与仲悪
  る中にて・いかゝもてなしたまはむと心
  くるしくおほす・権中納言の御むすめ
0244【権中納言】-後致仕
  は・こき殿の女御ときこゆ・おほとのゝ御こ」42オ
0245【こき殿】-テン
  にていとよそほしう・もてかしつきたま
  ふ・うへもよき御あそひかたきにおほいたり・
  宮の中の君もおなしほとにおはすれは・う
0246【中の君】-王女御
  たてひゐなあそひの心ちすへきを・おとな
  しき御うしろ見は・いとうれしかる(る#)へいことゝお
  ほしの給て・さる御けしききこえ給つゝ・
  おとゝのよろつにおほしいたらぬことなく・お
0247【おとゝ】-源
0248【おほやけかたの】-冷
  ほやけかたの御うしろ見は・さらにもいはす
  あけ暮につけて・こまかなる御心はへの
  いとあはれにみえ給ふをたのもしきものに」42ウ
  おもひきこえ給て・いとあつしくのみおは
0249【いとあつしく】-入道宮
  しませは・まいりなとし給ても心やすくさふ
  らひたまふこともかたきを・すこしおとなひ
0250【おとなひ】-御門ハ十一歳秋好中宮ハ廿ニなり給ふ也
  てそひさふらはむ・御うしろみはかならすある
  へきことなりけり

  イ本
  以歌為巻名源氏廿七歳ノ十月ヨリ廿八歳ノ八月マテノ
  事アリ廿七歳ハ明石ノ巻ノ末同年也」43オ

  一校畢<朱>(後見返し)
  二校了<朱>(前遊紙1オ)

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