関屋(大島本) First updated 6/27/2001(ver.1-1)
Last updated 12/14/2006(ver.2-1)
渋谷栄一翻字(C)

  

関 屋

《概要》
 大島本は、青表紙本の最善本とはいうものの、現状では、後人の筆によるさまざまな本文校訂跡や本文書き入れ注記、句点、声点、濁点等をもつ。そうした現状の様態をそのままに、以下の諸点について分析していく。
1 大島本と大島本の親本復元との関係 鎌倉期書写青表紙本(池田本・伏見天皇本等)を補助的資料として
2 大島本の本文校訂に対校された本文系統
3 大島本の句点の関係
4 大島本の後人書き入れ注記

《書誌》

《翻刻資料》

凡例
1 本稿は、『大島本 源氏物語』(1996(平成8)年5月 角川書店)を翻刻した。よって、後人の筆が加わった現状の本文様態である。
2 行間注記は【 】- としてその頭に番号を記した。
2 小字及び割注等は< >で記した。/は改行を表す。また漢文の訓点等は< >で記した。
3 合(掛)点は、\<朱(墨)合点>と記した。
4 朱句点は「・」で記した。
5 本文の校訂記号は次の通りである。
 $(ミセケチ)・#(抹消)・+(補入)・&(ナゾリ)・=(併記)・△(不明文字)
 ( )の前の文字及び( )内の記号の前の文字は、訂正以前の文字、記号の後の文字が訂正以後の文字である。ただし、なぞり訂正だけは( )の前の文字は訂正後の文字である。訂正以前の本行本文の文字を尊重したことと、なぞり訂正だけは元の文字が判読しにくかったための処置である。
6 朱・墨等の筆跡の相違や右側・左側・頭注等の注の位置は< >と( )で記した。私に付けた注記は(* )と記した。
7 付箋は、「 」で括り、付箋番号を記した。
8 各丁の終わりには」の印と丁数とその表(オ)裏(ウ)を記した。
9 本文校訂跡については、藤本孝一「本文様態注記表」(『大島本 源氏物語 別巻』と柳井滋・室伏信助「大島本『源氏物語』(飛鳥井雅康等筆)の本文の様態」(新日本古典文学大系本『源氏物語』付録)を参照した。
10 和歌の出典については、伊井春樹『源氏物語引歌索引』と『新編国歌大観』を参照し、和歌番号と、古注・旧注書名を掲載した。ただ小さな本文異同については略した。

「せき屋」(題箋)

  いよのすけといひしは・故院かくれさ
0001【いよのすけといひしは】-榊の巻に桐壺の御門かくれさせ給ふそのかへるとし常陸守になりて下向せる也
  せ給て又のとしひたちになりてくた
  りしかは・かのはゝき木もいさなはれ
  にけり・すまの御たひゐも・はるかにき
  きて人しれすおもひやりきこえぬ
  にしもあらさりしかと・つたへきこ
  ゆへきよすかたになくて・つくはね
0002【つくはねの】-\<朱合点> つくはねの峯よりおつる<右>(後撰776・古今六帖1549、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄) 古 かひかねをねこし山こしふく風を人にもかなや事つてやらん<左>(古今1098、花鳥余情・弄花抄・一葉抄・細流抄・休聞抄・紹巴抄・孟津抄・花屋抄・岷江入楚)
  の山をふきこす風もうきたる心
  ちしていさゝかのつたへたになく
  てとし月かさなりにけり・かきれる」1オ
  事もなかりし御たひゐなれと京に
  かへりすみ給て・又のとしの秋そひた
0003【又のとしの秋】-源氏廿八歳帰京のあくるとしの事也
  ちはのほりけるせき入日しも・この
  殿いし山に御くわむはたしにまうて
  給ひけり・京よりかのきのかみなとい
  ひしこともむかへにきたる人/\・こ
  の殿かくまうて給ふへしとつけけ
  れは・みちのほとさはかしかりなむも
  のそとて・またあか月よりいそきける
  を・女車おほくところせうゆるきくる」1ウ
  にひたけぬ・うちいてのはまくるほと
  に・との(の+は)あわた山こえ給ひぬとて・御せ
0004【あわた山こえ】-\<朱合点> 六 粟田山コゆトモこゆとおもふとも猶相坂ハはるけかりけり(古今六帖899、河海抄・休聞抄・紹巴抄・孟津抄・岷江入楚)
  むの人/\みちもさりあへすきこ
  みぬれは・せき山にみなおりゐてこゝか
0005【せき山に】-\<朱合点> 後 関山の嶺の杉原過ゆけは近江は猶そはるけかりける(後撰875、河海抄・休聞抄・孟津抄・岷江入楚)
  しこのすきのしたに車ともかき
  おろしこかくれにゐかしこまりて
  すくしたてまつる・車なとかたへは
  をくらかし・さきにたてなとしたれと・
  なをるいひろくみゆ・くるまとをは
  かりそ袖くちものゝいろあひなとも」2オ
  もりいてゝ見えたる・ゐ中ひすよし
  ありて・さい宮の御くたり・なにそやう
  のおりのものみ車・おほしいてらる・殿
0006【殿も】-源
  もかく世にさかへいて給ふめつらしさ
  に・かすもなきこせむともみなめとゝ
  めたり・九月つこもりなれは・もみちの
0007【九月】-ナカ
  色/\こきませしもかれの草むら
  むらおかしう見えわたるに・せきやより
  さとくつれいてたるたひすかたとも
  の色/\のあをの・つき/\しきぬい」2ウ
  もの・くゝりそめのさまも・さるかたに
  おかしう見ゆ・御車はすたれおろし給
  ひて・かのむかしのこきみいま右衛門の
0008【右衛門のすけ】-この人もひたちにくたりていまのほるなり
  すけなるをし(し$)めしよせて・けふの御せき
  むかへはえおもひすて給はしなとの給ふ・
  御心のうちいとあはれにおほしいつること
  おほかれと・おほそうにてかひなし・女も
0009【おほそう】-大惣
  人しれすむかしのことわすれねはと
  りかへしてものあはれなり
    ゆくとくとせきとめかたき涙をや」3オ
0010【ゆくとくと】-うつせみ
  たえぬし水と人は見るらむえしり
  給はしかしと思ふにいとかひなし・いし山
0011【いし山より】-従同車
  よりいて給ふ・御むかへに右衛門のすけまい
  りてそ・まかりすきしかしこまりなと
0012【まかりすきし】-源七日籠歟
  申す・むかしわらはにて・いとむつましう
  らうたきものに・し給ひしかは・かうふ
  りなとえしまて・この御とくにかくれた
  りしを・おほえぬよのさはきありしこ
  ろ・ものゝきこえにはゝかりて・ひたちに
  くたりしをそ・すこし心をきて・とし」3ウ
  ころはおほしけれと・色にもいたし給は
  す・むかしのやうにこそあらねと・なをし
  たしきいへ人のうちには・かそへたまひ
  けり・きのかみといひしもいまはかうちの
  かみにそなりにける・そのを(を+と)うとの右
  近のそうとけて御ともにくたり(り+し、し&し)をそ・
  とりわきて・なしいて給ひけれは・それに
0013【なしいて】-成人
  そたれもおもひしりて・なとてすこ
  しもよにしたかふ心をつかひけんなと
  おもひいてける・すけめしよせて御せう」4オ
  そこあり・いまはおほしわすれぬへき
  ことを心なかくもおはするかなと思
  ひゐたり・一日(へる&一日)はちきりしられしを・さは
0014【一日は】-△△一日イ(△△一日イ#)
  おほししりけむや
    わくら葉にゆきあふ道をたのみ
0015【わくら葉に】-源氏
  しも猶かひなしやしほならぬうみせきもり
0016【しほならぬうみ】-しほならぬ海ときけはやよとゝもにみるめなくしてとしのへぬらん 貫之(後撰528、河海抄・休聞抄・花鳥余情・一葉抄・紹巴抄・岷江入楚)
0017【せきもり】-常ー前司ヲ云
  のさもうらやましくめさましかりしか
  なとあり・としころのとたえもうひ/\
  しくなりにけれと・心にはいつとなく・たゝ
  いまのこゝちするならひになむ・すき/\」4ウ
  しういとゝにくまれむやとて給へれは・
  かたしけなくて・もていきて猶きこえ
0018【猶きこえ給へ】-空蝉の君になをきこえ給へといふ詞也
  給へ・むかしにはすこしおほしのくことあら
  むと思給ふるに・おなしやうなる御心の
  なつかしさなむ・いとゝありかたきすさひ
  ことそ・ようなきことゝ思へと・えこそす
  くよかにきこえかへさね・女にてはま
0019【女にては】-空蝉の身にてハまけて御返事を申させ給へと衛門佐かさかしらする也
  けきこえ給へらむに・つみゆるされ
  ぬへしなといふ・いまはましていとはつか
  しうよろつのこと・うひ/\しき心ちす」5オ
  れと・めつらしきにや・えしのはれさりけむ
    あふさかの関やいかなるせきなれは
0020【あふさかの】-うつせみ返し
  しけきなけきの中をわくらん夢の
  やうになむときこえたり・あはれも
0021【あはれも】-源氏御心中
  つらさもわすれぬふしと・おほしをかれ
  たる人なれは・おり/\は猶のたまひう
  こかしけり・かゝるほとにこのひたちの
  かみおいのつもりにやなやましくのみ
  して・もの心ほそかりけれは・こともにたゝ
  この君の御ことをのみいひをきて・よろ」5ウ
  つの事たゝこの御心にのみまかせてあ
  りつる世にかはらて・つかうまつれとのみ
  あけくれいひけり・女君心うきすくせ
0022【女君】-空
  ありて・この人にさへをくれていかなるさ
  まに・はふれまとふへきにかあらんと思ひ
  なけき給ふを見るに・いのちのかきり
  あるものなれはおしみとゝむへきかたもな
  し・いかてかこの人の御ためにのこし
0023【のこしをくたましひ】-\<朱合点> 古今 あかさりし袖のなかにや入にけんわか玉しヰノナキ心ちスル(古今992、河海抄・岷江入楚)
  をくたましひもかな・わかことものこゝろ
  もしらぬをと・うしろめたうかなしき」6オ
  ことにいひ思へと・心にえとゝめぬものにて
  うせぬ・しはしこそさのたまひしものを
  なと・なさけつくれと・うはへこそあれ
  つらきことおほかり・とあるもかゝるも・よ
  のことはりなれは・みひとつのうきことにて・
  なけきあかしくらす・たゝこのかはち
  のかみのみそむかしよりすき心ありて・
  すこしなさけかりける・あはれにのたまひ
  をきし・かすならすともおほしうとま
  て・のたまはせよなとついそうしより」6ウ
  て・いとあさましき心の見えけれは・う
  きすくせある身にて・かくいきとまり
  て・はて/\は・めつらしきことともを・きゝ
  そふるかなと人しれす思ひしりて・人に
  さなむともしらせて・あまになりに
  けり・ある人/\いふかひなしとおもひな
  けく・かみもいとつらうをのれをいとひ
  給ふほとに・のこりの御よはひはおほくも
  のし給らむ・いかてかすくし給ふへき
0024【いかてかすくし給ふへき】-河内守はらたちていまより後ハ御身の事ハ我ハしるましきさるにてハのこりの御よはひいかてかすくし給ふへきといふなり
  なとそあいなのさかしらやなとそはへるめる」7オ

(白紙)」7ウ

  文明十三年九月十八日依
  大内左京兆所望染紫毫
  者也
     権中納言雅康」8オ

  二校了<朱>」(前遊紙1オ)

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