絵合(大島本親本復元) First updated 12/17/2006(ver.1-1)
Last updated 12/17/2006(ver.1-1)
渋谷栄一翻字(C)

  

絵 合

《概要》
 現状の大島本から後人の本文校訂や書き入れ注記等を除いて、その親本の本文様態に復元して、以下の諸点について分析する。
1 飛鳥井雅康の「絵合」巻の書写態度について
2 大島本親本の復元本文と他の青表紙本の本文との関係
3 大島本親本の復元本文と定家仮名遣い
4 大島本親本の復元本文の問題点 現行校訂本の本文との異同

《書誌》
 「帚木」巻以下「手習」巻までの書写者は、飛鳥井雅康である。

《復元資料》

凡例
1 本稿は、『大島本 源氏物語』(1996(平成8)年5月 角川書店)から、その親本を復元した。よって、本文中の書き入れ、注記等は、本文と一筆のみを採用し、書写者自身の誤写訂正と思われるものは、それに従って訂正した。しかし他の後人の筆と推測されるものは除いた。
2 付箋、行間注記は【 】- としてその頭に番号を記した。付箋は、( )で括り、付箋番号を記した。合(掛)点には、\<朱(墨)合点>と記した。
3 小字及び割注等は< >で記した。/は改行を表す。また漢文の訓点等は< >で記した。
4 本文の校訂記号は次の通りである。
 $(ミセケチ)・#(抹消)・+(補入)・&(ナゾリ)・=(併記)・△(不明文字)
 ( )の前の文字及び( )内の記号の前の文字は、訂正以前の文字、記号の後の文字が訂正以後の文字である。ただし、なぞり訂正だけは( )の前の文字は訂正後の文字である。訂正以前の本行本文の文字を尊重したことと、なぞり訂正だけは元の文字が判読しにくかったための処置である。
5 各丁の終わりには」の印と丁数とその表(オ)裏(ウ)を記した。

「ゑあはせ」(題箋)

  前斎宮の御まいりの事中宮の御心に
  いれてもよをしきこえ給ふこまかな
  る御とふらひまてとりたてたる御う
  しろ見もなしとおほしやれと大との
  は院にきこしめさむ事をはゝかり給
  て二条の院にわたしたてまつらむこ
  とをもこのたひはおほしとまりてたゝ
  しらすかほにもてなし給へれとおほかた
  の事ともはとりもちておやめきゝこえ
  給ふ院はいとくちおしくおほしめせと」1オ

  人わろけれは御せうそこなとたえにたる
  をその日になりてえならぬ御よそひとも
  御くしのはこうちみたれのはこかうこの
  はこともよのつねならすくさ/\の
  御たきものともくぬえかう又なきさ
  まに百ふのほかをおほくすきにほふま
  て心ことにとゝのへさせ給へりおとゝ見給
  もせんにとかねてよりやおほしまうけ
  けむいとわさとかましかむめりとのも
  わたり給へるほとにてかくなと女へたう」1ウ

  御覧せさすたゝ御くしのはこのかたつかた
  をみ給につきせすこまかになまめきて
  めつらしきさまなりさしくしのはこの
  心はに
    わかれ路にそへしをくしをかことにて
  はるけき中と神やいさめしおとゝこれ
  を御らんしつけておほしめくらすにいと
  かたしけなくいとをしくてわか御心の
  ならひあやにくなる身をつみてかのく
  たり給しほと御心におもほしけんことかう」2オ

  としへてかへりたまひてその御心さし
  をもとけ給へき程にかゝるたかひめの
  あるをいかにおほすらむ御くらゐをさり
  ものしつかにて世をうらめしとやおほ
  すらむなと我になりて心うこくへき
  ふしかなとおほしつゝけ給にいとおしく
  なにゝかくあなかちなる事を思はし
  めて心くるしくおもほしなやますらむ
  つらしとも思ひきこえしかと又なつ
  かしうあはれなる御心はへをなと思みたれ」2ウ

  給てとはかりうちなかめ給へりこの御返は
  いかやうにかきこえさせ給らむ又御せうそ
  こもいかゝなときこえ給へといとかたわ
  らいたけれは御文はえひきいてす宮はな
  やましけにおほして御返いとものうくした
  まへときこえ給はさらむもいとなさけ
  なくかたしけなかるへしと人/\そゝ
  のかしわつらひきこゆるけはひをきゝ給
  ていとあるましき御事なりしるしは
  かりきこえさせ給へときこえ給もいと」3オ

  はつかしけれといにしへおほしいつるに
  いとなまめききよらにていみしうなき
  給し御さまをそこはかとなくあはれと見
  たてまつり給ひし御おさな心もたゝいま
  の事とおほゆるにこみやすむ所の
  御ことなとかきつらねあはれにおほされ
  てたゝかく
    わかるとてはるかにいひしひとことも
  かへりてものはいまそかなしきとはかり
  やありけむ御つかひのろくしな/\に給はす」3ウ

  おとゝは御返をいとゆかしうおほせとえき
  こえ給はす院の御ありさまは女にて見
  たてまつらまほしきをこの御けはひ
  もにけなからすいとよき御あはひなめる
  をうちはまたいといはけなくおはします
  めるにかくひきたかへきこゆるを人
  しれすものしとやおほすらむなとにく
  き事をさへおほしやりてむねつふ
  れ給へとけふになりておほしとゝむへ
  き事にしあらねはことゝもあるへき」4オ

  さまにのたまひをきてむつましうおほ
  すすりのさい将をくはしくつかうまつる
  へくの給て内にまいり給ぬうけはりたる
  おやさまにはきこしめされしと院をつゝ
  みきこえ給て御とふらひはかりと見せ給
  へりよき女房なとはもとよりおほかる宮
  なれはさとかちなりしもまいりつとひ
  ていとになくけはひあらまほしあはれ
  おはせましかはいかにかひありておほしい
  たつかましとむかしの御心さまおほしいつ」4ウ

  るにおほかたのよにつけてはおしうあたら
  しかりし人の御ありさまそやさこそえあ
  らぬものなりけれよしありしかたはなを
  すくれてものゝおりことに思ひいてきこ
  え給ふ中宮もうちにそおはしまし
  けるうへはめつらしき人まいり給ときこ
  しめしけれはいとうつくしう御心つかひ
  しておはしますほとよりはいみしうさ
  れおとなひ給へり宮もかくはつかしき
  人まいり給を御心つかひして見えたて」5オ

  まつらせ給へときこえ給けり人しれす
  おとなはつかしうやあらむとおほしける
  をいたうよふけてまうのほり給へりいと
  つゝましけにおほとかにてさゝやかにあえ
  かなるけはひのしたまへれはいとおかしと
  おほしけりこき殿には御らむしつきた
  れはむつましうあはれに心やすくおも
  ほしこれは人さまもいたうしめりはつ
  かしけにおとゝの御もてなしもやむ事
  なくよそほしけれはあなつりにくゝ」5ウ

  おほされて御とのゐなとはひとしくし
  まへとうちとけたる御わらはあそひ
  にひるなとわたらせ給ことはあなたかちに
  おはします権中納言は思心のありて
  きこえ給けるにかくまいり給ひて御
  むすめにきしろふさまにてさふらひ給
  をかたかたにやすからすおほすへし院
  にはかのくしのはこの御返御らんせしに
  つけても御心はなれかたかりけりそ
  のころおとゝのまいり給へるに御物かたり」6オ

  こまやかなりことのついてに斎宮のくた
  り給し事さき/\もの給いつれはき
  こえいてたまひてさ思ふ心なむあり
  しなとはえあらはし給はすおとゝもかゝ
  る御けしききゝかほにはあらてたゝいか
  かおほしたるとゆかしさにとかうかの御
  事をの給ひいつるにあはれなる御けし
  きあさはかならす見ゆれはいと/\
  おしくおほすめてたしとおもほししみ
  にける御かたちいかやうなるおかしさにかと」6ウ

  ゆかしう思ひきこえ給へとさらにえ見
  たてまつり給はぬをねたうおもほすいと
  をもりかにて夢にもいはけたる御ふるま
  ひなとのあらはこそをのつからほの見
  え給ふついてもあらめ心にくき御けは
  ひのみふかさまされは見たてまつり給
  ふまゝにいとあらまほしとおもひきこ
  え給へりかくすきまなくてふたところ
  さふらひ給へは兵部卿宮すか/\ともえ
  おもほしたゝすみかとをとなひ給ひなは」7オ

  さりともえおもほしすてしとそまちす
  くし給ふた所の御おほえともとり/\
  にいとみ給へりうへはよろつの事にす
  くれてゑをけうある物におほしたり
  たてゝこのませ給へはにやになくかゝせ
  給斎宮の女御いとおかしうかゝせ給へけれ
  はこれに御心うつりてわたらせ給つゝか
  きかよはさせ給殿上のわかき人/\も
  この事ねふをは御心とゝめておかしきもの
  におもほしたれはましておかしけなる人」7ウ

  の心はへあるさまにまほならすかきすさ
  ひなまめかしうそひふしてとかくふて
  うちやすらひ給へる御さまらうたけさに
  御心しみていとしけうわたらせ給てあり
  しよりけに御おもひまされるを権中
  納言きゝ給てあくまてかと/\しく
  いまめきたまへる御心にて我人におとり
  なむやとおほしはけみてすくれたる
  上すともをめしとりていみしくいまし
  めて又なきさまなるゑともをになき」8オ

  かみともにかきあつめさせ給ものかたり
  ゑこそ心はえみえて見所あるものな
  れとておもしろく心はへあるかきりをえ
  りつゝかゝせ給れいの月なみのゑも見
  なれぬさまにことの葉をかきつゝけて
  御らんせさせ給わさとおかしうしたれは
  又こなたにてもこれをこらむするに心
  やすくもとりいて給はすいといたくひめ
  てこの御かたへもてわたらせ給をおしみ
  らうしたまへはおとゝきゝたまて猶」8ウ

  権中納言のみ心のわか/\しさこそあら
  たまりかたかめれなとわらひ給あなかち
  にかくして心やすくも御らんせさせす
  なやましきこゆるいとめさましや
  こたいの御ゑともの侍るまいらせむと
  そうし給てとのにふるきもあたらし
  きもゑともいりたる御つしともひら
  かせ給て女君ともろともにいまめかし
  きはそれ/\とえりとゝのへさせ給長恨哥
  王昭君なとやうなるゑはおもしろくあは」9オ

  れなれとことのいみあるはこたみはたて
  まつらしとえりとゝめ給ふかのたひの
  御日記の箱をもとりいてさせ給てこの
  ついてにそ女君にも見せたてまつり給
  ひける心ふかくしらていまみむ人たゝす
  こしもの思ひしらむ人は涙おしむまし
  くあはれなりまいてわすれかたくその
  よの夢をおほしさますおりなき御心と
  ともにはとりかへしかなしうおほしいてらる
  いまゝて見せ給はさりけるうらみをそき」9ウ

  こえ給ける
    ひとりゐてなけきしよりはあまの
  すむかたをかくてそみるへかりけるおほつ
  かなさはなくさみなましものをとの給
  いとあはれとおほして
    うきめ見しそのおりよりもけふはまた
  すきにしかたにかへる涙か中宮はかりに
  は見せたてまつるへきものなりかたはな
  るましき一てうつゝさすかにうら/\の
  ありさまさやかに見えたるをえり給ふ」10オ

  ついてにもかのあかしのいゑゐそまつい
  かにとおほしやらぬ時のまなきかう絵
  ともあつらるときゝ給て権中納言い
  と心をつくしてちくへうしひものかさり
  いよ/\とゝのへ給ふやよひの十日のほ
  となれは空もうらゝかにて人の心も
  のひものおもしろきおりなるにうちわ
  たりもせちゑとものひまなれはたゝか
  やうの事ともにて御方/\くらし給ふ
  をおなしくは御らむし所もまさりぬへ」10ウ

  くてたてまつらむの御心つきていとわさ
  とあつめまいらせ給へりこなたかなた
  とさま/\におほかりものかたりゑはこま
  やかになつかしさまさるめるをむめつ
  ほの御かたはいにしへのものかたりなたかく
  ゆえあるかきりこき殿はそのころよに
  めつらしくおかしきかきりをゑりかゝせ
  給へれはうち見るめのいまめかしき
  はなやかさはいとこよなくまされりうへ
  の女坊なともよしあるかきりこれはかれ」11オ

  はなとさためあへるをこのころの事に
  すめり中宮もまいらせ給へるころに
  てかた/\こらむし△すてかたくおも
  ほす事なれは御をこなひもをこたり
  つゝ御らむすこの人/\のとり/\に
  ろむするをきこしめしてひたりみきと
  かたはかたせ給ふむめつほの御かたにはへ
  いないしのすけ侍従の内侍少将の命婦
  右には大弐の内侍のすけ中将の命婦
  兵衛の命婦をたゝいまは心にくきいうそ」11ウ

  くともにて心/\にあらそふくちつき
  ともをおかしときこしめしてまつもの
  かたりのいてきはしめのおやなるたけとり
  のおきなにうつほのとしかけをあはせて
  あらそふなよたけのよゝにふりにける
  ことおかしきふしもなけれとかくやひ
  めのこの世のにこりにもけかれすはる
  かに思ひのほれる契たかく神世の事
  なめれはあさはかなる女めをよはぬなら
  むかしといふみきはかくやひめののほり」12オ

  けむ雲井はけにおよはぬことなれは
  たれもしりかたしこのよの契はたけ
  の中にむすひけれはくたれる人のことゝ
  こそはみゆめれひとついゑのうちはてら
  しけめともゝしきのかしこき御ひかり
  にはならはすなりにけりあへのおほしかちゝ
  のこかねをすてゝひねすみの思かた
  時にきえたるもいとあへなしくらもち
  のみこのまことのほうらいのふかき心も
  しりなからいつはりてたまのえたにき」12ウ

  すをつけたるをあやまちとなすゑはこ
  せのあふみてはきのつらゆきかけりかむ
  やかみにからのきをはいしてあかむらさ
  きのへうししたむのちくよのつねの
  よそひなりとしかけははけしき浪かせ
  におほゝれしらぬくにゝはなたれしかと猶
  さしてゆきける方の心さしもかなひ
  てつゐに人のみかとにもわか国にもあ
  りかたきさえのほとをひろめなをの
  こしけるふるき心をいふにゑのさまもゝ」13オ

  ろこしとひのもとゝをとりならへておも
  しろき事とも猶ならひなしといふしろ
  きしるしあをきへうしきなる玉のちく
  なり絵はつねのりてはみち風なれはいま
  めしうおかしけにめもかゝやくまてみゆ
  みきはそのことはりなしつきに伊勢物
  かたりに正三位をあはせてまたさため
  やらすこれもみきはおもしろくにき
  わゝしくうちわたりよりうちはしめちかき
  世のありさまをかきたるはおかしう見」13ウ

  所まさるへいないし
    いせのうみのふかき心をたとらすて
  ふりにしあとゝなみやけつへきよ
  のつねのあた事のひきつくろひ
  かされるにをされてなりひらか名をや
  くたすへきとあらそひかねたり右のすけ
    雲のうへに思ひのほれるこゝろには
  ちいろのそこもはるかにそ見る兵衛の
  大君の心たかさはけにすてかたけれと
  さい五中将のなをはえくたさしとの給」14オ

  はせて宮
    みるめこそうらふりぬらめとしへにし
  いせをのあまのなをやしつめむかやうの
  女ことにてみたりかはしくあらそふに
  一まきにことのはをつくしてえもいひ
  やらすたゝあさはかなるわか人とも
  はしにかへりゆかしかれとうへのも宮のも
  かたはしをたにえみすいといたうひ
  めさせ給おとゝまいりたまてかくとり/\
  にあらそひさはく心はへともおかしくお」14ウ

  ほしておなしくは御前にてこのかちま
  けさためむのたまひなりぬかゝる事も
  やとかねておほしけれは中にもことなる
  はゑりとゝめ給へるにかのすまあかしのふ
  たまきはおほす所ありてとりませさ
  せ給へり中納言もその御心おとらす
  このころのよにはたゝかくおもしろきか
  みゑをとゝのふることをあめのしたいと
  なみたりいまあらためかゝむ事はほい
  なき事なりたゝありけむかきりを」15オ

  こそとのたまへと中納言は人にもみせて
  わりなきま△とをあけてかゝせ給けるを
  院にもかゝる事きかせ給てむめつほに御
  ゑともたてまつらせ給へりとしのうちの
  せちゑとものおもしろくけふあるをむ
  かしの上すとものとり/\にかけるに
  えむきの御てつから事のこゝろかゝせ
  給へるに又わか御よの事もかゝせ給へる
  まきにかの斎宮のくたり給しひの大
  こくてんのきしき御心にしみておほし」15ウ

  けれはかくへきやうくはしくおほせ
  られてきむもちかつかまつれるかいと
  いみしきをたてまつらせ給へりえん
  にすきたるちむのはこにおなしき心
  はのさまなといといまめかし御せうそこは
  たゝことはにて院のてんしやうにさふら
  ふさこむの中将を御つかひにてありかの
  大こくてんの御こしよせたる所のかう/\し
  きに
    みこそかくしめのほかなれそのかみの」16オ

  心のうちをわすれしもせすとのみあり
  きこえ給はさらむもいとかたしけなけ
  れはくるしうおほしなからむかしの御
  かむさしのはしをいさゝかおりて
    しめのうちはむかしにあらぬこゝちして
  神よの事もいまそ恋しきとてはな
  たのからのかみにつゝみてまいらせ給御
  つかひのろくなといとなまめかし院の
  みかと御らんするにかきりなくあはれと
  おほすにそありし世をとりかへさまほ」16ウ

  しくおもほしけるおとゝをもつらしと
  おもひきこえさせ給けんかしすきにし
  かたの御むくひにやありけむ院の御ゑは
  きさいの宮よりつたはりてあの女御
  の御方にもおほくまいるへしないしの
  かむの君もかやうの御このましさは人
  にすくれておかしきさまにとりなしつゝ
  あつめ給その日とさためてにはかなる
  やうなれとおかしきさまにはかなう
  しなして左右の御ゑともまいらせ給ふ」17オ

  女はうのさふらひにおましよそはせて
  きたみなみかた/\わかれてさふらふ
  殿上人は後涼殿のすのこにをの/\心
  よせつゝさふらふ左はしたむのはこ
  にすわうの花そくしきものにはむら
  さきちのからのにしきうちしきはえ
  ひそめのからのきなりわらは六人あか
  色にさくらかさねのかさみあこめはく
  れなゐにふちかさねのをりものなり
  すかたよういなとなへてならす見ゆ右は」17ウ

  ちむのはこにせかうのしたつくゑうち
  しきはあをちのこまのにしきあしゆひ
  のくみ花そくの心はえなといまめかし
  わらはあを色にやなきのかさみ山ふき
  かさねのあこめきたりみなおまへにかき
  たつうへの女坊まへしりへとそうそきわ
  けたりめしありてうちのおとゝ権中
  納言まいり給ふそのひそちの宮も
  まいり給へりいとよしありておはするう
  ちにゑをこのみ給へはおとゝのしたに」18オ

  すゝめ給へるやうやあらむこと/\しきめ
  しにはあらて殿上におはするをおほせこ
  とありて御こせむにまいり給ふこのはん
  つかうまつり給いみしうけにかきつくし
  たるゑともありさらにえさためやり
  給はすれいのしきのゑもいにしへの上
  すとものおもしろき事ともをえらひ
  つゝふてとゝこほらすかきなかしたるさま
  たとへんかたなしとみるにかみゑはかきり
  ありてやまみつのゆたかなる心はへをえ」18ウ

  みせつくさぬものなれはたゝふてのかさ
  り人の心につくりたてられていまの
  あさはかなるもむかしのあと△はちな
  くにきわゝしくあなおもしろと見ゆる
  すちはまさりておほくのあらそひとも
  けふは方/\にけふあることもおほかりあ
  さかれいのみさうしをあけて中宮もお
  はしませはふかうしろしめしたらむと思
  ふにおとゝもいというにおほえ給て所/\
  のはむとも心もとなきおり/\に時/\」19オ

  さしいらへ給けるほとあらまほしさた
  めかねてよにいりぬ左は猶かすひとつある
  はてにすまのまきいてきたるに中納言
  の御心さはきにけりあなたにも心して
  はてのまきは心ことにすくれたるをえり
  をきたまへるにかゝるいみしきものゝ上
  すの心のかきり思ひすましてしつかに
  かきたまへるはたとふへきかたなしみこより
  はしめたてまつりて涙とゝめ給はすその
  よに心くるしかなしとおもほししほとより」19ウ

  もおはしけむありさま御心におほししこ
  とゝもたゝいまのやうにみえところの
  さまおほつかなきうら/\いそのかくれ
  なくかきあらはしたまへりさうのてに
  かなの所/\にかきませてまほのくは
  はしき日記にはあらすあはれなるうた
  なともましれるたくひゆかしたれも
  こと/\おもほさすさま/\の御ゑのけう
  これにみなうつりはてゝあはれにおもしろ
  しよろつみなをしゆつりてひたりかへに」20オ

  なりぬ夜あけかたちかくなるほとにものい
  とあはれにおほされて御かはらけなとま
  いるついてにむかしの御ものかたりともいて
  きていはけなきほとよりかくもむに
  心を入れて侍しにすこしもさえなとつ
  きぬへくや御らんしけむ院のゝたまはせ
  しやうさいかくといふもの世にいとをも
  くする物なれはにやあらむいたうすゝみ
  ぬる人のいのちさいはひとならひぬるは
  いとかたき物になんしなたかくむまれさら」20ウ

  てもひとにおとるましきほとにてあな
  かちにこのみちなふかくならひそといさ
  めさせ給てほんさいのかた/\のものをし
  へさせたましにつたなき事もなく又
  とりたてゝこのことゝ心うる事も侍ら
  さりきゑかくことのみなむあやしく
  はかなきものからいかにしてかは心ゆく
  はかりかきて見るへきとおもふおり/\
  侍しをおほえぬやまかつになりてよも
  のうみのふかき心を見しにさらに思」21オ

  よらぬくまなくいたられにしかとふての
  ゆくかきりありて心よりはことゆかすなむ
  思ふたまへられしをついてなくて御らむ
  せさすへきならねはかうすき/\しきや
  うなるのちのきこえやあらむとみこ
  に申給へはなにのさえも心よりはなちて
  ならふへきわさならねとみち/\にものゝ
  しありまねひ所あらむはことのふかさあ
  さゝはしらねとをのつからうつさむにあ
  とありぬへしふてとるみちと五うつことゝ」21ウ

  そあやしうたましゐのほとみゆる
  をふかきらうなくみゆるをれもの
  さるへきにてかきうつたくひもいてくれ
  といへのこのなかには猶人にぬけぬる人
  のなに事をもこのみえけるとそみえ
  たる院の御せむにてみこたちないしん
  わういつれかはさまとり/\のさえならは
  させ給はさりけむその中にもとりたて
  たる御心にいれてうたへうけとらせ給へる
  かひありて文さいをはさるものにていはす」22オ

  さらぬ事の中には琴ひかせ給事なん
  一のさえにてつきにはよこふえひはさう
  のことをなむつき/\にならひ給へると
  うへもおほしの給はせきよの人しかおも
  ひきこえさせたるをゑは猶ふてのついて
  にすさひさせ給あたことゝこそおもひ給
  へしかいとかうまさなきまていにしへのす
  みかきの上すともあとをくちうなし
  つへかめるはかへりてけしからぬわさなりと
  うちみたれてきこえ給てゑひなき」22ウ

  にや院の御こときこえいてゝみなうち
  しほ△れ給ぬ廿日あまりの月さしいてゝ
  こなたはまたさやかならねとおほかたの
  そらおかしきほとなるにふんのつかさ
  の御ことめしいてゝわこむ権中納言給
  はり給ふさはいへと人にまさりてかきた
  てたまへりみこ箏の御ことおとゝきん
  ひはは少将の命婦つかうまつるうへ人の
  中にすくれたるをめして拍子給はす
  いみしうおもしろしあけはつるまゝに花」23オ

  の色も人の御かたちともほのかに見
  えてとりのさえつるほと心ちゆき
  めてたきあさほらけなりろくともは
  中宮の御かたより給はすみこは御そ又
  かさねて給はり給ふそのころのことに
  はこのゑのさためをしたまふかのうら/\
  のまきは中宮にさふらはせ給へときこ
  えさせ給けれはこれかはしめのこりのまき
  まきゆかしからせ給へといまつき/\にと
  きこえさせ給ふうへにも御心ゆかせ給てお」23ウ

  ほしめしたるをうれしく見たてまつり
  給ふはかなきことにつけてもかうもて
  なしきこえ給へは権中納言は猶おほえ
  をさるへきにやと心やましうおほさるへ
  かめりうへの御心さしはもとよりおほしし
  みにけれは猶こまやかにおほしめしたる
  さまを人しれす見たてまつりしり給
  てそたのもしくさりともとおほされ
  けるさるへきせちゑともにもこの御と
  きよりとすゑの人のいひつたふへきれ」24オ

  いをそへむとおほしわたくしさまのかゝる
  はかなき御あそひもめつらしきすちに
  せさせ給ていみしきさかりの御世なりおとゝそ
  猶つねなきものに世をおほしています
  こしおとなひおはしますとみたてまつり
  て猶世をそむきなんとふかくおもほすへ
  かめるむかしのためしを見きくにもよは
  ひたえてつかさくらゐたかくのほりよに
  ぬけぬる人のなかくえたもたぬわさ
  なりけりこの御世にはみのほとおほえす」24ウ

  きにたりなかころなきになりてしつ
  みたりしうれへにかはりていまゝても
  なからふるなりいまより後のさかへは猶い
  のちうしろめたししつかにこもりゐて
  後の世のことをつとめかつはよはひをも
  のへんとおもほしてやまさとののとかなる
  をしめてみ堂をつくらせ給ひ仏経の
  いとなみそへてせさせ給ふめるにすゑの
  君たちおもふさまにかしつきいたしてみ
  むとおほしめすにそとくすて給」25オ

  はむことはかたけなるいかにおほしをき
  つるにかといとしりかたし」25ウ

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