朝顔(大島本) First updated 7/21/2001(ver.1-1)
Last updated 12/26/2006(ver.2-1)
渋谷栄一翻字(C)

  

朝 顔

《概要》
 大島本は、青表紙本の最善本とはいうものの、現状では、後人の筆によるさまざまな本文校訂跡や本文書き入れ注記、句点、声点、濁点等をもつ。そうした現状の様態をそのままに、以下の諸点について分析していく。
1 大島本と大島本の親本復元との関係 鎌倉期書写青表紙本(池田本・伏見天皇本等)を補助的資料として
2 大島本の本文校訂に対校された本文系統
3 大島本の句点の関係
4 大島本の後人書き入れ注記

《書誌》

《翻刻資料》

凡例
1 本稿は、『大島本 源氏物語』(1996(平成8)年5月 角川書店)を翻刻した。よって、後人の筆が加わった現状の本文様態である。
2 行間注記は【 】- としてその頭に番号を記した。
2 小字及び割注等は< >で記した。/は改行を表す。また漢文の訓点等は< >で記した。
3 合(掛)点は、\<朱(墨)合点>と記した。
4 朱句点は「・」で記した。
5 本文の校訂記号は次の通りである。
 $(ミセケチ)・#(抹消)・+(補入)・&(ナゾリ)・=(併記)・△(不明文字)
 ( )の前の文字及び( )内の記号の前の文字は、訂正以前の文字、記号の後の文字が訂正以後の文字である。ただし、なぞり訂正だけは( )の前の文字は訂正後の文字である。訂正以前の本行本文の文字を尊重したことと、なぞり訂正だけは元の文字が判読しにくかったための処置である。
6 朱・墨等の筆跡の相違や右側・左側・頭注等の注の位置は< >と( )で記した。私に付けた注記は(* )と記した。
7 付箋は、「 」で括り、付箋番号を記した。
8 各丁の終わりには」の印と丁数とその表(オ)裏(ウ)を記した。
9 本文校訂跡については、藤本孝一「本文様態注記表」(『大島本 源氏物語 別巻』と柳井滋・室伏信助「大島本『源氏物語』(飛鳥井雅康等筆)の本文の様態」(新日本古典文学大系本『源氏物語』付録)を参照した。
10 和歌の出典については、伊井春樹『源氏物語引歌索引』と『新編国歌大観』を参照し、和歌番号と、古注・旧注書名を掲載した。ただ小さな本文異同については略した。

「あさかほ」(題箋)

  斎院は御ふくにておりゐ給にきかし・
0001【斎院は御ふくにて】-槿斎院桃園式部卿御女榊巻ニ賀茂いつきにゐ給ふ薄雲巻に父宮の御服にておりゐ給ぬ
  おとゝれいのおほしそめつる事たえ
  ぬ御くせにて・御とふらひなといとしけ
  うきこえたまふ・宮わつらはしかり
0002【宮】-槿
  しことをおほせは・御かへりもうちとけて
0003【御かへり】-斎院
  きこえ給はす・いとくちをしとおほ
  しわたる・なか月になりてもゝそのゝ
  宮にわたり給ぬるをきゝて・女五の宮
0004【女五の宮】-槿姨<ヲハ>
  のそこにおはすれは・そなたの御とふ
  らひに事つけて・まうてたまふ・こ」1オ
0005【こ院】-桐
  院のこのみこたちをは・心ことにやむこと
  なくおもひきこえ給へりしかは・いまも
  したしく・つき/\にきこえかはし給
  ふめり・おなししんてむのにしひむかし
0006【しんてむ】-桃園宮
0007【にし】-斎院
0008【ひむかし】-女五宮
  にそすみ給ける・ほともなくあれに
  ける心ちして・あはれにけはひしめやか
  なり・宮たいめむしたまひて御もの
  かたりきこえ給ふ・いとふるめきたる御
  けはひしはふきかちにおはす・このか
  みにおはすれとこおほとのゝ宮はあ」1ウ
0009【こおほとのゝ宮】-葵上母三宮
  らまほしく・ふりかたき御ありさまなる
  を・もてはなれこゑふつゝかに・こち/\
0010【もてはなれ】-女宮
0011【ふつゝかに】-太
  しくおほえ給へるもさるかたなり・院
0012【院のうへ】-女五詞
  のうへかくれ給て後・よろつ心ほそくお
  ほえはへりつるに・としのつもるまゝに・
  いとなみたかちにてすくしはへるを・こ
0013【このみや】-桃ー式ー
  のみやさへかく(△&く)うちすて給へれは・いよ
  いよあるかなきかにとまりはへるを・かく
  たちよりとはせ給になむ・ものわす
  れしぬへくはへるときこえたまふ・」2オ
  かしこくもふり給へるかなとおもへと
0014【かしこくも】-源心中
  うちかしこまりて・院かくれ給て後は・
0015【院かくれ給て後は】-源氏御返答
  さま/\につけて・おなし世のやうにも
  はへらす・おほえぬつみにあたりはへり
  て・しらぬよにまとひはへりしを・たま/\
  おほやけにかすまへられたてまつりて
  は・またとりみたり・いとまなくなと
  して・としころもまいりて・いにしへの
  御物語をたにきこえうけ給はらぬを・
  いふせくおもひたまえわたりつゝ」2ウ
  なむなときこえたまふを・いとも/\
0016【いとも/\】-女五宮
  あさましく・いつかたにつけてもさた
  めなきよを・おなしさまにてみたまへ
  すくす・いのちなかさのうらめしき
  ことおほくはへれと・かくてよにたち
  か(か#か)へり給へる御よろこひになむ・ありし
  としころを見たてまつりさしてま
  しかは・くちをしからましとおほえは
  へりと・うちわなゝき給て・いときよら
0017【いときよら】-源氏をいふ
  にねひまさり給にけるかな・わらはに」3オ
  ものし給へりしをみたてまつりそめ
  し・ときよにかゝるひかりのいておはし
  たる事と・おとろかれはへりしを・とき
  ときみたてまつることにゆゝしくお
  ほえはへりてなむ・内のうへなむいとよ
0018【内のうへ】-冷泉院
  くにたてまつらせ給へりと・人/\き
  こゆるを・さりともおとり給へらむと
  こそ・をしはかりはへれと・なか/\ときこえ
0019【なか/\と】-長々
  給へは・ことにかくさしむかひて・人のほめぬ
0020【ことにかく】-源
  わさかなと・おかしくおほす・やまかつ」3ウ
0021【やまかつになりて】-源氏詞
  になりて・いたう思ひくつをれはへりし・
  としころのゝち・こよなくおとろへにて
  はへるものを・うちの御かたちはいにしへの
  よにもならふ人なくやとこそありか
  たくみたてまつりはへれ・あやしき
  御をしはかりになむときこえ給・とき/\
0022【とき/\みたてまつらは】-女五宮
  みたてまつらは・いとゝしきいのちや
  のひはへらむ・けふはおいもわすれ・うき
  世のなけきみなさりぬる心ちなむと
  てもまたないたまふ・三宮うらやまし」4オ
0023【三宮】-摂政北方
  くさるへき御ゆかりそひて・したしく
  見たてまつり給ふをうらやみはへる・こ
0024【このうせ給ひぬる】-式部卿宮
  のうせ給ひぬるもさやうにこそくひ給ふ
0025【さやうに】-斎院の御事を思より給へる也
  おり/\ありしかとの給ふにそすこし
  みゝとまり給ふ・さもさふらひなれなましか
0026【さもさふらひ】-けんし詞
  は・いまに思ふさまにはへらまし・みなさし
  はなたせ給てと・うらめしけにけし
  きはみきこえ給ふ・あなたの御ま
0027【あなたの】-斎院御方西対也
  ゑをみやり給へは・かれ/\なるせむさい
  の心はへも・ことにみわたされて・のとやか」4ウ
  になかめ給ふらむ・御ありさまかたちもい
  とゆかしくあはれにて・えねんし給は
  て・かくさふらひたるついてを・すくし
0028【かくさふらひたる】-けんし詞
  はへらむは心さしなきやうなるを・あな
0029【あなたの】-槿ー
  たの御とふらひきこゆへかりけりとて・
  やかてすのこよりわたり給ふ・くらふなり
0030【すのこ】-簀子
  たるほとなれと・にひいろのみすに
0031【にひいろ】-ー縁
  くろきみき帳のすきかけ・あはれに
0032【くろきみき帳】-黒染
  おひかせなまめかしく・ふきとおしけ
  はひ・あらまほし・すのこは・かたはらいた」5オ
  けれは・みなみのひさしにいれたてまつる・
  せんしたいめんして御せうそこはきこ
  ゆ・いまさらにわか/\しき心ちする・みす
0033【いまさらに】-けんし詞
  のまへかな・神さひにけるとし月のらう
0034【神さひにける】-古タル心
0035【らう】-労也
  かそへられ侍に・いまは内外もゆるさせ給
  ひてむとそ・たのみはへりけるとて・あか
  すおほしたり・ありし世はみな夢に見な
0036【ありし世は】-斎院ノ返
0037【夢に見なして】-父宮の事也
  して・いまなむさめてはかなきにやと思
  たまへさためかたくはへるに・らうなとは・
  しつかにやとさためきこえさすへうはへ」5ウ
  らむときこえいたし給へり・けにこそさ
0038【けにこそ】-けんし詞
  ためかたき世なれと・はかなきことにつ
  けても・おほしつゝけらる
    人しれす神のゆるしをまちしまに
0039【人しれす】-けんし
0040【ゆるしを】-斎院退出
  こゝらつれなき世をすくすかないまは
0041【こゝら】-おほきナリ
  なにのいさめにか・ゝこたせ給はむとす
0042【いさめ】-神に
  らむ・なへて世に・わつらはしきことさへ
  はへりしのち・さま/\に思給へあつめし
  かな・いかてかたはしをたにと・あなかちに
  きこえたまふ・御よういなともむかし」6オ
0043【御よういなとも】-けんし
  よりもいますこしなまめかしきけさ
  へそひたまひにけり・さるはいといたうす
0044【すくし給へと】-ねひすくし給ふ也
  くし給へと・御くらゐのほとにはあはさめり
0045【あはさめり】-大臣なとハ年たけたるかよき也
    なへてよのあはれはかりをとふからに
0046【なへてよの】-斎院
  ちかひしことゝ神やいさめむとあれはあな
0047【あな心う】-源氏詞
  心う・そのよのつみはみな・しなとの風にた
0048【しなとの風】-\<朱合点> 樹下集 罪とかハ科戸の風にまかせたりさすらへぬらん大海ノ原ニ(出典未詳、河海抄・一葉抄・休聞抄・紹巴抄・孟津抄・花屋抄・岷江入楚)
  くへてきとの給ふ・あひきやうもこよな
  しみそきをかみはいかゝはへりけんなと・
0049【みそきをかみは】-\<朱合点> 此詞源の詞又ハぜんじ詞とも<朱>
  はかなき事をきこゆるも・まめやかに
0050【はかなき事を】-これよりせんしか事を北にいへり<朱>
  はいとかたはらいたし・よつかぬ御ありさま」6ウ
0051【よつかぬ御ありさま】-斎院
  は・とし月にそへても・ものふかくのみ・ひ
  きいり給ひて・えきこえ給はぬを・みた
  てまつりなやめり・すき/\しきやうに
0052【すき/\しき】-けんし
  なりぬるをなと・あさはかならす・うち
  なけきてたち給ふ・よはひのつもりには・
  おもなくこそなるわさなりけれよに
0053【よにしらぬやつれを】-\<朱合点> 住吉物 君か門今<イマ>そ過行いてゝみよ恋する人のなれるすかたを(住吉物語15、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
  しらぬやつれを・いまそとたにきこえさ
  すへくやは・もてなし給ひけるとていて
  給ふ・なこりところせきまてれいのき
  こえあへり・おほかたのそらもおかしき」7オ
  ほとに・このはのおとなひにつけても・
  すきにしものゝあはれとりかへしつゝ・その
  おり/\おかしくもあはれにも・ふかく見
  え給し御心はへなとも・思ひいてきこえ
  さす・心やましくてたちいて給ひぬるは・
0054【心やましくて】-けんし心中
  まして・ねさめかちに・おほしつゝけらる
  とく・みかうし参らせ給て・朝きりを
  なかめ給ふ・かれたる花ともの中にあさ
  かほの・これかれにはひまつはれてあるかな
  きかにさきて・にほひもことにかはれる」7ウ
  をゝらせ給てたてまつれ給ふ・けさや
  かなりし御もてなしに・人わろき心ち
  しはへりて・うしろてもいとゝいかゝ御
  らむしけむと・ねたく・されと
    みしおりの露わすられぬあさかほの
0055【みしおりの】-けんし
  はなのさかりはすきやしぬらんとしころ
  のつもりもあはれとはかりは・さりとも
  おほししるらむやと・なむかつはなと
0056【かつはなと】-いかゝおほすらん
  きこえ給へり・おとなひたる御ふみの
  心はへに・おほつかなからむもみしらぬやう」8オ
  にと・おほし人/\も御すゝりとりまかなひ
  て・きこゆれは
    あきはてゝきりのまかきにむすほゝれ
0057【あきはてゝ】-斎院
  あるかなきかにうつるあさかほにつら(ら$か)はし
  き御よそへにつけても・つゆけくと
  のみあるはなにのおかしきふしもなき
  を・いかなるにか・をきかたく御らむすめ
  り・あをにひのかみのなよひかなるすみ
0058【あをにひのかみ】-服者之用紙色ナリ
  つきはしも・おかしくみゆめり・人の
0059【人の御ほと】-作者詞
  御ほと・かきさまなとに・つくろはれつゝ・そ」8ウ
  のおりはつみなきことも・つき/\しく
  まねひなすには・ほゝゆかむ事もあめれ
  はこそ・さかしらにかき(き+まき)らはしつゝおほつ
  かなきこともおほかりけり・たちかへり
0060【たちかへり】-けんし
  いまさらにわか/\しき御ふみかきなとも・
  にけなきことゝおほせとも・なをかく
  むかしよりもてはなれぬ御けしきな
  から・くちをしくてすきぬるを・おもひ
  つゝえやむましくておほさるれは・さら
0061【さらかへりて】-今更ニ立かへりて也
  かへりてまめやかにきこえ給・ひんかしの」9オ
  たいにはなれおはして・せむ(む$)しをむかへ
0062【せし】-斎院宣旨
0063【むかへ】-けんし
  つゝ・かたらひ給ふ・さふらふ人/\のさしも
  あらぬきはのことをたに・なひきや
  すなるなとは・あやまちもしつへく・めて
  きこゆれと・宮はそのかみたに・こよなく
  おほしはなれたりしを・いまはましてた
  れもおもひなかるへき御よはひおほえ
  にて・はかなき木草につけたる御かへり
  なとのおりすくさぬも・かる/\しくやと
  りなさるらむなと・人のものいひをはゝ」9ウ
  かり給ひつゝ・うちとけ給へき御けしきも
  なけれは・ふりかたくおなしさまなる御心は
  へを・よの人にかはりめつらしくもねたく
  も思ひきこえ給ふ・よのなかにもりき
  こえてせむ斎院(院+を<朱>)ねんころにきこえた
  まへはなむ・女五の宮なとも・よろしくお
  ほしたなり・にけなからぬ御あはひなら
  むなといひけるを・たいのうへはつたへき
0064【たいのうへ】-紫上
  き給ひて・しはしはさりとも・さやうならむ
  こともあらは・へたてゝはおほしたらしとおほ」10オ
  しけれと・うちつけにめとゝめきこえ給に・御けし
0065【御けしき】-源
  きなともれいならす・あくかれたるも・心う
  くまめ/\しくおほしなるらむことを・つれな
  くたはふれにいゝなしたまひけんよとおなし
  すちにはものし給へと・おほえことに・むか
  しよりやむことなくきこえ給ふ
  お・御心なとうつりなは・はしたな
  くもあへいかな・としころの御もてなしな
0066【としころの】-むらさき心中
  とはたちならふかたなく・さすかになら
  ひて人にをしけたれむ事なと・」10ウ
  人しれすおほしなけか(△&か)る・かきたえ
  なこりなきさまには・もてなし給はす
  とも・いとものはかなきさまにて・みな
  れ給へるとしころのむつひあなつら
  はしきかたにこそはあらめなと・さま/\
  に思ひみたれ給ふに・よろしきことこそ・う
0067【よろしきこと】-ナヲサリナル
  ちゑしなと・にくからすきこえ給へ・ま
  めやかに・つらしとおほせは・いろにもいたし
  給はす・はしちかうなかめかちにうち
0068【はしちかう】-けんし
  すみしけくなりや(△&や)くとは・御文をか」11オ
0069【やく】-役
  き給へは・けに人のことは・むなしかる
  ましきなめり・けしきをたにかす
  め給へかしと・うとましくのみおもひ
  きこえ給ふ・ゆふつかた・神わさなと
0070【神わさなともとまりて】-諒闇ニ十一月の神事停心也
  もとまりて・さう/\しきに・つれ/\と
0071【つれ/\と】-けん
  おほしあまりて・五の宮にれいのちか
  つきまいり給ふ・ゆきうちゝりて
  えむなるたそかれときに・なつかし
  きほとに・なれたる御そともを・いよ/\
  たきしめ給て・こゝろことに・けさうし・」11ウ
  くらし給へれは・いとゝ心よはからむ人は・
  いかゝとみえたり・さすかにまかり申はた
0072【まかり申は】-紫上ニいとまこひ給ふ也
  きこえ給ふ・女五の宮のなやましく
  したまふなるを・とふらひきこえになむ
  とて・ついゐ給へれと・みもやり給はす・
0073【ついゐ給へれと】-源
0074【みもやり給はす】-紫
  わか君を・もてあそひまきらはしおは
0075【わか君を】-明石姫君
  する・そはめのたゝならぬを・あやしく
  御けしきの(の+の、の$<朱>)かはれるへきころかな・つみ
0076【つみもなしや】-けんし
  もなしや・しほやきころものあまりめ
0077【しほやきころもの】-\<朱合点> すまの海人のしほやき衣なれゆけハうとくのみこそ成まさりけれ(出典未詳、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
  なれ・みたてなくおほさるゝにやとて・」12オ
  とたえをくを・またいかゝなときこえ
  給へは・なれゆくこそけにうきことおほかり
0078【なれゆけは】-\<朱合点>「すまのあまのしほやき衣ハれゆけは/うきたのみこそなりまさりけれ<朱> 此哥不審」(付箋01 出典未詳、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄) なれゆくハ浮世なれはやすまの海人のしほやく衣まとをなるらん(新古今1210、河海抄・一葉抄・細流抄・休聞抄・紹巴抄・孟津抄・花屋抄・岷江入楚)
  けれとはかりにて・うちそむきて・ふし給
  へるは・みすてゝいて給ふ・みちものうけれ
0079【みすてゝいて給ふ】-けん
  と・みやに御せうそこきこえたま(ま+ひ)てけ
0080【みやに】-女五
  れはいて給ひぬ・かゝりける事もあり
0081【かゝりける事も】-紫心
  けるよを・うらなくてすくしけるよと・お
  もひつゝけてふし給へり・にひたる御そ
0082【にひたる御そ】-けんしも諒闇ニにひ色のなをしをき給ふ也
  ともなれと・いろあひかさなりこのまし
  くなか/\みえて・ゆきのひかりに・いみ」12ウ
  しくえむなる御すかたをみいたして・ま
  ことにかれまさり給はゝとしのひあへす
  おほさる・御せんなとしのひやかなるかきり
  して・うちより・ほかのありきはものうき
0083【うちより】-源詞
  ほとになりにけりや・もゝそのゝ宮の
  心ほそきさまにてものし給ふも・式
  部卿宮にとしころはゆつりきこえつ
  るを・いまはたのむなとおほしの給も・
  ことはりにいとおしけれはなと・人/\に
  も・の給ひなせと・いてや御すき心のふり」13オ
  かたきそ・あたら御きすなめる・かる/\し
  き事もいてきなむなと・つふやき
  あへり・宮にはきたをもての人しけき
0084【宮には】-桃園
  かたなる・みかとはいり給はむも・かろ/\
  しけれは・にしなるか・こと/\しきを人
  いれさせ給て・宮の御方に御せうそこ
0085【宮の御方】-女五
  あれは・けふしもわたり給はしとおほ
  しけるを・おとろきてあけさせ給・み
  かともりさむけなるけはひ・うすゝきい
0086【うすゝき】-薄映さむキ心ナリ
  てきて・とみにもえあけやらす・これより」13ウ
  ほかのをのこはたなきなるへし・こ
  ほこほとひきて・上のいといたくさひに
0087【さひにけれは】-錆
  けれは・あかすと・うれふるを・あはれと
  きこしめす・きのふけふとおほすほ
  とに・みそ(そ$<朱>)とせのあなたにもなりに
0088【みそとせのあなたにも】-帰京廿七は当年卅一歳
  けるよかな・かゝるをみつゝ・かりそめの
  やとりを・え思ひすてす・きくさの色
  にも心をうつすよと・おほししらるゝ・
  くちすさひに
    いつのまによもきかもとゝむすほゝれ」14オ
0089【いつのまに】-けんし
  ゆきふるさとゝあれしかきねそやゝひ
  さしう・ひこしらひあけていり給ふ・宮
  の御かたにれいの御物かたりきこえ給
  ふに・ふることゝもの・そこはかとなき・
  うちはしめきこえつくし給へと・御みゝ
  もおとかす・ねふたきに・みやもあく
  ひうちし給て・よひまとひをしはへれ
  は・ものもえきこえやらすとの給ほ
  ともなく・いひきとか・ききしらぬをと
  すれは・よろこひなから・たちいて給はむ」14ウ
0090【たちいて給はむ】-源
  とするに・またいとふるめかしきしはふき
  うちして・まいりたる人あり・かしこけ
0091【かしこけれと】-源内侍詞
  れときこしめしたらむとたのみき
  こえさするを・よにあるものともかす
  まへさせたまはぬになむ・院のうへ
0092【院のうへ】-桐
  は・をはおとゝと・わらはせ給しなと・なの
0093【をはおとゝ】-老人をハうはおほちと世俗ニいふナリ
  りいつ(つ+る)にそ・おほしいつる・源内侍のす
  けといひし人は・あまになりてこの
  みやの御てしにて・なむをこなふとき
  きしかと・いまゝてあらむとも・たつね」15オ
  しりたまはさりつるを・あさましうなり
  ぬ・そのよのことは・みなむかしかたりに
0094【そのよのことは】-けんし
  なりゆくを・はるかにおもひいつるも・心
  ほそきに・うれしき御こゑかな・おやなし
0095【おやなし】-けんし詞我事 \<朱合点>「しなてるやかたをか山にいひにうへて/ふせるたひ人あはれおやなし<朱>」(付箋02 拾遺集1350、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
  にふせるたひ人と・はくゝみ給へかしとて・
  よりゐたまへる御けはひに・いとゝむかし
  おもひいてつゝ・ふりかたくなまめかしき
0096【ふりかたく】-源内ー
  さまに・もてなして・いたうすけみにたる
  くちつき・おもひやらるゝ・こはつかひのさ
  すかに・したつきにてう(△&う)ちされむとは・」15ウ
  猶おもへり・いひこしほとになときこえ・
0097【いひこしほとに】-\<朱合点> 身をうしといひこしほとに今ハ又人のうへともなけくへきかな(出典未詳、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
  かゝるまはゆさよいましもきたるおひ
0098【いましも】-源心
  のやうになと・△△(△△#ほゝ)ゑまれ給ふものから・
  ひきかへこれもあはれなり・このさかり
0099【このさかり】-源内ー
  にいとみ給し・女御かういあるは・ひたすら
  なくなり給・あるはかひなくて・はかな
  きよにさすらへ給ふもあへかめり・入
0100【入道の宮】-薄雲
  道の宮なとの御よはひよ・あさましと
  のみおほさるゝよに・としのほとみのゝ
0101【としのほと】-源内侍
  こりすくなけさに・こ(こ+こ)ろはへなとも・もの」16オ
  はかなくみえし人のいきとまりて・の
  とやかにおこなひをも・うちして・すくし
  けるは・猶すへてさためなき世なりと・
  おほすに・ものあはれなる・御けしき
0102【ものあはれなる】-けん
  を・心ときめきに・思ひて・わかやく
0103【心ときめきに】-源内ー
    としふれとこの契こそわすられね
0104【としふれと】-源内侍尼
  おやのおやとかいひしひとことゝき
  こゆれは・うとましくて
    身をかへて後もまちみよこのよにて
0105【身をかへて】-源氏
  おやをわするゝためしありやとたのもし」16ウ
  きちきりそや・いまのとかにそきこえ
  さすへきとてたち給ひぬ・にしおもてに
0106【にしおもて】-斎院
  は・みかうしまいりたれと・いとひき(△△&ひき)こえかほ
  ならむも・いかゝとて・ひとまふたまはお
  ろさす・月さしいてゝ・うすらかに・つもれ
  るゆきのひかり△(△#)あひ(ひ+て)なか/\(△△&/\)・いとおも
  しろきよのさまなり・ありつるおいら
  くの心けさうも・よからぬものゝよの
  たとひ
かきゝしと・おほしいてられ
  て・おかしくなむ・こよひはいとまめ」17オ
0107【こよひは】-槿
  やかにきこえ給ひて・ひとこと・にくし
  なとも・人つてならてのたまはせん
0108【人つてならて】-\<朱合点> 今ハさハ思たへなんとはかりを人つてならて云よしもかな 道雅(後拾遺750・袋草紙168、紫明抄・河海抄・休聞抄・細流抄・紹巴抄・孟津抄・岷江入楚)
  を・おもひたゆるふしにもせんと・おり
  たちてせめきこえたまへと・むかしわ
0109【むかしわれも】-槿心
  れも人も・わかやかにつみゆるされたり
  しよにたに・こ宮なとの心よせおほし
0110【こ宮】-式部卿ー
  たりしを・なをあるましく・はつかしと
  おもひきこえて・やみにしをよのすゑに・
  さたすき・つきなきほとにて・ひとこゑ
0111【ひとこゑ】-前ににくしなと有し事
  もいとまはゆからむとおほして・さらに」17ウ
  うこきなき御心なれは・あさましうつら
  しと思ひきこえ給・さすかにはした
  なくさしはなちてなとはあらぬ人
  つての御かへりなとそ・心やましきや夜
  もいたうふけゆくに・風のけはひはけ
  しくてまことにいともの心ほそくおほ
0112【まことに】-心を付てみるへし
  ゆれは・さまよきほと・をしのこひ給ひて
    つれなさをむかしにこりぬ心こそ
0113【つれなさを】-けんし
  人のつらきにそへてつらけれ心つから
0114【心つからの】-「かけていへはなみたの川のせをはやみ/心つからやまたもなかれん<朱>」(付箋03 古今六帖2093・伊勢集18、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
  のとのたまひすさふるを・けにかたはら」18オ
  いたしと・人/\れいのきこゆ
    あらためてなにかはみえむ人のうへに
0115【あらためて】-斎院
  かゝりときゝし心かはりをむかしにかはる
  ことは・ならはすなときこえたまへり・
  いふかひなくて・いとまめやかにゑしきこ
0116【いふかひなくて】-源
  えていて給も・いとわか/\しき心ちし給
  へは・いとかくよのためしになりぬへきあり
  さま・もらし給なよ・ゆめ/\・いさらかは
0117【いさらかは】-\<朱合点> 犬かみのとこの山なるいさら川いさとこたへて我名もらすな<朱>(古今墨滅1108・古今六帖3061、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
  も・なれ/\しやとて・せちにうちさゝめ
  きかたらひ給へと・なに事にかあらむ人/\」18ウ
  も・あなかたしけな・あなかちになさけ
  をくれても・ゝてなしきこえたまふ
  らん・かるらかにをしたちてなとはみえ
  給はぬ・御けしきを・心くるしうといふけに
0118【けに】-斎院内心
  人のほとのおかしきにも・あはれにもお
  ほしゝらぬにはあらねと・ものおもひしる
  さまにみえたてまつるとて・をしなへ
  てのよの人のめて・きこゆらむつらに
  や・おもひなされむ・かつはかる/\しき
  心のほとも・みしり給ひぬへく・はつかし」19オ
  けなめる御ありさまをとおほせは・なつ
  かしからむなさけもいとあひなし・よそ
  の御かへりなとは・うちたえておほつかな
  かるましきほとにきこえ給ひ・人つて
  の御いらへ・はしたなからてすくしてむ・
  (+とふかくおほす<朱>)としころしつみつるつみうしなふは
0119【としころ】-斎院ニてまし/\し時の事
  かり・御おこなひをとは・おほしたてと・に
  はかにかゝる御事をしも・もてはなれか
  ほにあらむも・中/\いまめかしきやうに
  みえきこえて・人のとりなさしやは」19ウ
  と・よの人のくちさかなさを・おほしし
  りにしかは・かつさふらふ人にもうちと
  け給はす・いたう御心つかひし給ひつゝ・
  やう/\御をこなひをのみしたまふ・御はら
  からのきむたち・あまたものし給へ
  と・ひとつ御はらならねは・いとうと/\しく・
  宮のうちいとかすかになりゆくまゝに・
  さはかりめてたき人のねむころに
0120【めてたき人】-けん
  御心をつくしきこえ給へは・みな人心を
  よせきこゆるも・ひとつ心とみゆ・おとゝ」20オ
0121【おとゝ】-源
  はあなかちにおほしいらるゝにしもあら
  ねと・つれなき御けしきのうれたき
  に・まけてやみなむもくちをしく・け(け+に)
  はた人の御ありさま・よのおほえことに
  あらまほしく・ものをふかくおほしし
  り・よの人のとあるかゝるけちめも・き
  きつめ給ひて・むかしよりもあまたへ
0122【へまさり】-経也
  まさりておほさるれは・いまさらの御△(△#あたけ)
  もかつはよのもときをもおほしなから・
  むなしからむはいよ/\人わらへなるへし・」20ウ
  いかにせむと御心うこきて・二条院に夜
0123【いかにせむと】-誰里ニ夜

  かれかさね給ふを・女きみはたはふれにくゝ
0124【女きみ】-紫上
0125【たはふれにくゝ】-\<朱合点> ありぬやとこゝろみかてらあひみねハたはふれにくきまてそ恋しき(古今1025、異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
  のみおほす・しのひたまへといかゝうちこ
  ほるゝおりもなからむ・あやしくれい
  ならぬ御けしきこそ・心えかたけれとて・
  御くしをかきやりつゝ・いとおしとおほし
  たるさまも・ゑにかゝまほしき御あはひ
  なり・宮うせ給ひて後・うへのいとさう
0126【宮】-薄雲
  さうしけにのみ・よをおほしたるも心
  くるしう見たてまつり・おほきおとゝも・」21オ
0127【おほきおとゝ】-引入大臣
  ものし給はて・みゆつる人なき・ことしけ
  さになむ・このほとのたえまなとを・
  みならはぬことにおほすらむも・事はりに
0128【みならはぬ】-紫
  あはれなれと・いまはさりとも心のとかに・
  おほせ・おとなひ給ためれと・またいとおもひ
  やりもなく人の心もみしらぬさまに
  ものし給ふこそ・らうたけれなと・まろか
  れたる・御ひたいかみ・ひきつくろひ給へと・
  いよ/\そむきて・ものもきこえ給は
0129【いよ/\そむき】-紫
  す・いといたくわかひ給へるは・たかならはし」21ウ
  きこえたるそと(と+て)・つねなきよにかく
  まて・心をかるゝもあちきなのわさ
  やと・かつはうちなかめ給ふ・さい院に・は
  かなしこときこゆるや・もしおほしひ
  かむるかたある・それはいともてはなれた
  る事そよ・をのつからみたまひてむ・
  昔よりこよなうけとをき御心はへ
  なるを・さうさうしきおり/\たゝなら
  て・きこえなやますに・かしこもつれ
  つれにものし給ふところなれは・たま」22オ
  さかのいらへなとし給へと・まめ/\しき
  さまにもあらぬを・かくなむあるとしも・
  うれへきこゆへきことにやは・うしろめた
  うはあらしとを思ひなをしたまへなと・
  ひひとひなくさめきこえ給ふ・雪のい
  たうふりつもりたるうへに・いまもちりつゝ・
  まつとたけとのけちめおかしう見
  ゆる夕くれに・人の御かたちも・ひかりま
  さりてみゆ・とき/\につけても・人の
  心をうつすめる・花もみちのさかりよりも・」22ウ
  冬の夜のすめる月に・ゆきのひかりあひ
  たる空こそあやしういろなきものゝ・
  身にしみてこのよのほかの事まて・
  おもひなかされおもしろさも・あはれ
  さものこらぬおりなれ・すさましきた
  めしにいひをきけむ・人の心あささよ
  とて・みすまきあけさせ給ふ・月はくま
0130【みすまきあけさせ給ふ】-一条院御時清少納言遺アヒ寺鐘
  なくさしいてゝ・ひとつ色にみえわたさ
  れたるに・しほれたるせむさいのかけ・
  心くる(る+し<朱>)うやり水もいといたうむせひ」23オ
  て・池のこほりも・えもいはす・すこき
  にわらはへおろして・雪まろはしせさせ
  給ふ・おかしけなるすかた・かしらつき
  とも・つきにはへておほきやかに・
  なれたるか・さま/\のあこめ・みたれき・
  おひしとけなき・とのいすかた・なまめい
0131【おひ】-帯
  たるに・こよなうあまれるかみのすゑ・
  しろきには・まして・もてはやしたる・
0132【には】-庭也
  いとけさやかなり・ちゐさきは・わらは
0133【わらはけて】-童気也をさなけなといふ詞也
  けて・よろこひはしるに・あふきなとも」23ウ
  おとして・うちとけかをおかしけなり・
  いとおほうまろはさむと・ふくつけ
0134【ふくつけ】-力をいたす心
  かれと・えもをしうこかさて・わふめり・か
  たへはひんかしのつまなとに・いてゐて・
  心もとなけにわらふ・ひとゝせ中宮の
0135【ひとゝせ】-源詞
0136【中宮】-薄雲
  おまへに・ゆきのやまつくられたりし・よ
0137【ゆきのやまつくられたりし】-花山院御時雪山庭作作文アリ
  にふりたる事なれと・猶めつらしくも・
  はかなきことをしなし給へりしかな・な
0138【なにのおり/\につけても】-薄ー
  にのおり/\につけても・くちをしう
  あかすもあるかな・いとけとをく・もてな」24オ
  し給ひて・くわしき御ありさまを・みな
  らしたてまつりしことは・なかりしかと・
  御ましらひのほとにうしろやすきもの
0139【御ましらひ】-薄
  にはおほしたりきかし・うちたのみき
  こえて・とある事かゝるおりにつけて・な
  に事もきこえかよひしに・もていてゝ・
  らう/\しきこともみえ給はさりしかと・
  いふかひあり・思ふさまに・はかなきことわさ
  をも・しなし給ひしはや・よにまたさは
  かりの・たくひありなむやはらかに・をひ」24ウ
  れたるものから・ふかうよしつきたる
  ところのならひなくものし給しを・
  君こそはさいへと・むらさきのゆへこよな
0140【君こそは】-紫上の事
0141【むらさきのゆへ】-薄紫メイ
  からす・ものし給ふめれと・すこしわつ
  らはしきけそひて・かと/\しさの・
  すゝみ給へるやくるしからむ・せんさい
  院の御心はへはまたさまことにそみゆる
  さう/\しきになにとはなくとも・き
  こえあはせ・われも心つかひせらるへき
  あたり・たゝこのひとゝころや・よにのこ」25オ
  り給へらむとのたまふ・内侍のかみこそは・
0142【内侍のかみ】-朧月夜
  らう/\しくゆへ/\しきかたは・人
0143【ゆへ/\しきかたは】-紫上詞
  にまさり給へれ・あさはかなるすちなと・
  もてはなれ給へりける人の御心を・あ
  やしくもありけることゝもかなと
  の給へは・さかしなまめかしう・かたちよき
0144【さかし】-源氏返答
  女のためしには・なをひきいてつへ
  き人そかし・さも思ふにいとをしくゝ
  やしきことのおほかるかな・まいてうちあた
  けすきたる人の・としつもりゆくまゝ」25ウ
  に・いかにくやしきことおほからむ・人よりは
  ことなきしつけさと・思ひしたになと
  の給ひいてゝ・かむの君の御ことにもな
  みたすこしはおとし給ひつ・このかすにも
  あらす・おとしめたまふ山さとの人こそ
0145【山さとの人】-明石上の事
  は・身のほとには・やゝうちすき・ものゝ
  心なとえつへけれと・人よりことなへき
  ものなれは・思ひあかれるさまをも・みけち
  てはへるかな・いふかひなき・きはの人は
  またみす・人はすくれたるは・かたきよ」26オ
  なりや・ひんかしの院になかむる人の
0146【ひんかしの院になかむる人】-花散里事
  心はへこそ・ふりかたく・らうたけれ・さ
  はたさらにえあらぬ(△&ぬ)ものを・さるかたに
  つけての・心はせ人にとりつゝ・みそめ
  しよりおなしやうに・よをつゝましけに
  おもひてすきぬるよ・いまはたかたみにそ
  むくへくもあらす・ふかうあはれと思ひは
  へるなと・むかしいまの御物語に夜ふけ
  行・月いよ/\すみて・しつかに・おもしろ
  し女君」26ウ
    こほりとちいしまの水はゆきなやみ
0147【こほりとち】-紫上
  空すむ月のかけそなかるゝとをみい
  たしてすこしかたふき給へるほと・に
  るものなくうつ(つ+く<朱>)しけなり・かむさし
  おもやうのこひきこゆる人のおもかけ
0148【こひきこゆる人】-薄雲事
  に・ふとおほえてめてたけれは・いさゝかわく
  る御心もとりかさねつへし・をしのう
  ちなきたるに
    かきつめてむかし恋しきゆきもよに
0149【かきつめて】-源し かきあつめて也(△△△△△△&源し かきあつめて也)
  あはれをそふるをしのうきねかいり給ひ」27オ
  てもみやの御事をおもひつゝ・おほとの
0150【みや】-薄
  こもれるに夢ともなく・ほのかにみたて
  まつるを・いみしくうらみ給へる御けしき
  にて・もらさしとのたまひしかと・うき
0151【もらさしと】-紫上昔の物語し給ふ也
  なのかくれなかりけれは・はつかしうくる
  しきめをみるにつけても・つらくなむ
  とのたまふ・御いらへきこゆとおほすに・
  をそはるゝ心ちして・女君のこはなと
0152【女君】-紫上
  かくはとの給ふにおとろきて・いみしく
  くちをしくむねのおきところなく」27ウ
  さはけは・をさへて涙もなかれいてにけり・
  いまもいみしくぬらしそへ給ふ・女君
  いかなる事にかとおほすに・うちも
  みしろかて・ふし給へり
    とけてねぬねさめさひしき冬の夜に
0153【とけてねぬ】-源氏
  むすほゝれつる夢のみしかさなか/\
  あかすかなしとおほすに・とくおきた
  まひて・さとはなくて・ところ/\に・みす
0154【みすきやうなと】-故宮の御ためなり
  きやうなとせさせ給ふ・くるしきめ
  みせ給ふと・うらみ給へるも・さそおほ」28オ
  さるらんかし・をこなひをし給ひ・よろ
  つにつみかろけなりし御ありさま
  なから・このひとつ事にてそ・このよ
  のにこりをすゝ(ゝ$す<朱>)い給はさらむと・ものゝ
  心をふかくおほしたとるにいみしく・
  かなしけれは・なにわさをして・しる人
  なきせかいに・おはすらむを・とふらひ
  きこえに・まうてゝ・つみにも・かはりき(き#)
  きこえはやなと・つく/\とおほす・か
  の御ためにとりたてゝ・なにわさをも」28ウ
  したまふむは・人とかめきこえつへし・
  うちにも御心のおにゝ・おほすところやあ
  らむとおほしつゝむほとに・あみた
  ほとけを心にかけてねんしたてまつ
  り給・おなしはちすにとこそは
    なき人をしたふ心にまかせても
0155【なき人を】-けんし
  かけみぬみつのせにやまとはむとおほ
0156【みつのせ】-三ツせ川によせたり
  すそうかりけるとや」29オ

  イ本
  以哥并詞為巻名源氏卅一歳の事うす雲
  のすゑのとしと同なり」29ウ

【奥入01】世俗しはすの月夜といふ(戻)
【奥入02】たまさかにゆきあふみなるいさゝ(ゝ$ら<朱>)かは
    いさとこたへてわかなもらすな
     此哥強不可入歟(戻)」30オ

  槿 巻名ハ哥ト詞トヲ以テ号ス源氏卅一歳九月ヨリ
  冬マテノ事アリ薄雲ノ巻ノ末ト同年也 一
  詞枯タル花トモノ中ニアサカホノコレカレニ
   ハヒマツワレテアルカナキニ咲テ
  哥見しおりの露わすられぬあさかほノ
   花ノさかりハ過やしぬらん源氏ノ」(前遊紙1ウ貼紙)

  二校了<朱>(表表紙蓋紙)

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