初音(大島本親本復元) First updated 1/6/2007(ver.1-1)
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渋谷栄一翻字(C)

  

初 音

《概要》
 現状の大島本から後人の本文校訂や書き入れ注記等を除いて、その親本の本文様態に復元して、以下の諸点について分析する。
1 飛鳥井雅康の「初音」巻の書写態度について
2 大島本親本の復元本文と他の青表紙本の本文との関係
3 大島本親本の復元本文と定家仮名遣い
4 大島本親本の復元本文の問題点 現行校訂本の本文との異同

《書誌》
 「帚木」巻以下「手習」巻までの書写者は、飛鳥井雅康である。

《復元資料》

凡例
1 本稿は、『大島本 源氏物語』(1996(平成8)年5月 角川書店)から、その親本を復元した。よって、本文中の書き入れ、注記等は、本文と一筆のみを採用し、書写者自身の誤写訂正と思われるものは、それに従って訂正した。しかし他の後人の筆と推測されるものは除いた。
2 付箋、行間注記は【 】- としてその頭に番号を記した。付箋は、( )で括り、付箋番号を記した。合(掛)点には、\<朱(墨)合点>と記した。
3 小字及び割注等は< >で記した。/は改行を表す。また漢文の訓点等は< >で記した。
4 本文の校訂記号は次の通りである。
 $(ミセケチ)・#(抹消)・+(補入)・&(ナゾリ)・=(併記)・△(不明文字)
 ( )の前の文字及び( )内の記号の前の文字は、訂正以前の文字、記号の後の文字が訂正以後の文字である。ただし、なぞり訂正だけは( )の前の文字は訂正後の文字である。訂正以前の本行本文の文字を尊重したことと、なぞり訂正だけは元の文字が判読しにくかったための処置である。
5 各丁の終わりには」の印と丁数とその表(オ)裏(ウ)を記した。

「はつね」(題箋)

  年たちかへる朝の空のけしき名残なく
  くもらぬうらゝかけさには数ならぬ垣根の
  うちたに雪まの草わかやかに色つきは
  しめいつしかとけしきたつ霞にこのめも
  うちけふりをのつから人の心ものひらかに
  そ見ゆるかしましていとゝ玉をしけるおま
  への庭よりはしめ見所おほくみかきまし給
  へる御方/\の御まへのありさまともまねひ
  たてんも言の葉たるましくなむ春のおと
  とのおまへとり分て梅のかもみすのうちの」1オ

  にほひに吹まかひいける仏のみ国とおほ
  ゆさすかにうちとけてやすらかにすみなし
  給へりさふらふ人/\もわかやかにすくれたるは姫
  君の御方にとえり給ひてすこしおとなひた
  るかきり中/\よし/\しくさうすく有さま
  よりはしめてもてつけてこゝかしこにむれ
  ゐつゝはかためのいはひしてもちゐ鏡をさ
  へとりよせて千年のかけにしるき年の
  うちのいはひ事ともしてそほれあへるに
  おとゝの君さしのそき給へれはふところてひ」1ウ

  きなをしつゝいとはしたなきわさかなと
  わひあへりいとしたゝかなるみつからのいはひ
  事ともみなをの/\思ふ事のみち/\あらむ
  かしすこしきかせよやわれことふきせんとう
  ちわらひ給へる御さま年のはしめのさかえに
  見たてまつるわれはとおもひあかれる中将の
  君そかねてそ見ゆるなとこそかゝみの
  影にもかたらひはんへりつれわたくしのい
  のりはなにはかりの事をかなときこゆあし
  たの程は人/\まいりこみて物さはかしかり」2オ

  けるをゆふつかた御方々のさむさし給はんとて
  心ことにひきつくろひけさうし給御かけこそ
  けにみるかひあめれけさこの人/\のたはふれ
  かはしつるいとうらやましく見えつるをうへに
  はわれ見せ奉らんとてみたれたる事ともす
  こしうちませつゝいはひきこえ給ふ
    うすこほりとけぬるいけのかゝみには
  世にくもりなき影そならへるけにめてた
  き御あはひともなり
    くもりなきいけのかゝみによろつ代を」2ウ

  すむへき影そしるく見えけるなに事に
  つけてもすゑとをき御契をあらまほしく
  きこえかはし給けふは子の日なりけりけに千
  年の春をかけていはゝむにことはりなる日
  なり姫君の御方にわたり給へれはわらはしも
  つかへなとおまへの山の小松ひきあそふわかき
  人/\の心ちともをき所なくみゆ北のおとゝ
  よりわさとかましくしあつめたるひけこと
  もわりこなとたてまつれ給へりえならぬ
  五えうの枝にうつるうくひすもおもふ心あら」3オ

  むかし
    とし月をまつにひかれてふる人に
  けふうくひすのはつねきかせよをとせぬ
  さとのときこえ給へるをけにあはれとおほし
  しる事いみもえしあへ給はぬけしき也此御か
  へりはみつからきこえ給へ初ねおしみ給ふへき
  方にもあらすかしとて御硯とりまかなひかゝせ
  奉り給ふいとうつくしけにて明くれ見奉る人
  たにあかすおもひきこゆる御ありさまをいまゝて
  おほつかなき年月のへたゝりにけるもつみ」3ウ

  えかましう心くるしとおほす
    ひきわかれとしはふれともうくひすの
  すたちし松のねをわすれめやおさなき御心に
  まかせてくた/\しくそあめる夏の御すまひ
  を見給へは時ならぬけにやいとしつかにみえて
  わさとこのましき事もなくてあてやかに
  すみたるけはひ見えわたるとし月にそへて御心
  のへたてもなくあはれなる御中なりいまはあな
  かちにちかやかなる御ありさまにももてなし
  きこえ給はさりけりいとむつましくありかた」4オ

  からむいもせの契はかりきかはし給ふ御木丁へ
  たてたれとすこしをしやり給へはまたさておは
  すはなたはけに匂おほからぬあはひにて御く
  しなともいたくさかり過にけりやさしき方
  にあらぬとえひかつらしてそつくろひ給へき
  我ならさらむ人は見さめしぬへき御ありさま
  をかくてみるこそうれしくほゐあれ心かろき
  人のつらにて我にそむき給ひなましかはなと
  御たいめむのおり/\はまつわか心のなかきも人
  の御心のおもきをもうれしく思ふやうなり」4ウ

  とおほしけりこまやかにふるとしの御物かたりな
  となつかしうきこえ給ひてにしのたいへわた
  り給ぬまたいたくもすみなれ給はぬ程より
  はけはひおかしくしなしておかしけなるわ
  らはへのすかたなまめかしく人影あまたして
  御しつらひあるへきかきりなれとこまやかなる
  御てうとはいとしもとゝのへ給はぬをさる方に
  物きよけにすみなし給へりさうし身もあな
  おかしけとふと見えて山吹にもてはやし給へる
  御かたちなといと花やかにこゝそくもれると」5オ

  みゆる所なくくまなくにほひきら/\しく
  見まほしきさまそし給へる物思にしつみ給へる程
  のしわさにやかみのすそすこしほそりてさはら
  かにかゝれるしもいと物きよけにこゝかしこいと
  けさやかなるさまし給へるをかくて見さらまし
  かはとおほすにつけてもえしも見すくし給
  ましかくいとへたてなく見奉りなれ給へと猶お
  もふにへたゝりおほくあやしきかうつゝの心ち
  もし給はねはまほならすもてなし給へるも
  いとおかし年ころになりぬる心ちして見奉る」5ウ

  にも心やすくほいかなひぬるをつゝみなく
  もてなし給てあなたなとにもわたり給へかし
  いはけなきうい琴ならふ人もあめるをも
  ろともにきゝならし給へうしろめたくあは
  つけき心もたる人なき所なりときこえ給
  へはのたまはせむまゝにこそはときこえ給ふさも
  あることそかし暮かたになるほとにあかしの
  御方にわたり給ふちかきわた殿の戸をしあ
  くるより御すのうちの上風なまめかしくふき
  にほはして物よりことにけたかくおほさるさう」6オ

  し身は見えすいつらと見まはし給ふに硯の
  あたりにきはゝしくさうしともなととり
  ちらしたるなととりつゝ見給ふからのとう
  きやうきのこと/\しきはしさしたるしと
  ねにおかしけなるきむうちをきわさとめき
  よしある火おけにしゝうくゆらかして物ことに
  しめたるにえひ香のかのまかへるいとえむな
  り手習とものみたれうちとけたるもすちか
  はりゆへあるかきさまなりこと/\しうさうかち
  なともさえかゝすめやすくかきすましたり」6ウ

  小松の御かへりをめつらしと見けるまゝにあは
  れるふることゝもかきませて
    めつらしやはなのねくらに木つたひて
  谷のふるすをとつる鴬こゑまちてたるなと
  もさける岡へに家しあれはなとひきかへしな
  くさめたるすちなとかきませつゝあるをとり
  て見給つゝほゝゑみ給へるはつかしけ也筆さ
  しぬらしてかきすさみ給ふ程にゐさりいてゝ
  さすかに身つからのもてなしはかしこまり
  をきてめやすきよそいなるを猶人よりは」7オ

  ことなりとおほすしろきにけさやかなる
  かみのかゝりのすこしさはらかなる程にうすら
  きにけるもいとゝなまめかしさそひてなつか
  しけれはあたらしき年の御さはかれもやとつ
  つましけれとこなたにとまり給ひぬ猶おほえ
  ことなりかしとかた/\に心をきておほすみ
  なみのおとゝにはましてめさましかる人/\あり
  また明ほのゝ程にわたり給ぬかくしもある
  ましき夜ふかさそかしと思ふになこりもたゝ
  ならすあはれにおもふまちとりたまへるはたなさ」7ウ

  けやけしとおほすへかめる心の中はかられ給
  ひてあやしきうたゝねをしてわか/\しかり
  けるいきたなさをさしもおとろかし給はてと
  御けしきとり給ふもおかしくみゆことなる御
  いらへもなけれはわつらはしくて空ねをし
  つゝ日たかく御とのこもりをきたり今日はり
  ひしかくの事にまきらはしてそおもかくし
  給ふ上達部御こたちなとれいの残なくまいり
  給へり御あそひありてひきて物ろくなとに
  なしそこらつとひ給へるか我もおとらしと」8オ

  もてなし給へる中にもすこしなすらひなる
  たにも見え給はぬ物かなとりはなちてはいと
  いうそくおほく物し給ふ比なれとおまへにては
  けをされ給ふもわるしかしなにの数ならぬ
  下へともなとたに此院にまいるひは心つかひ
  ことなりけりましてわかやかなるかむたちめ
  なとはおもふ心なとの物し給ひてすゝろに
  心けさうし給ひつゝつねの年よりもこと
  なり花のかさそふ夕風のとやかにうちふきたる
  におまへの梅やう/\ひもときてあれはたれ時」8ウ

  なるに物のしらへともおもしろく此殿うち出た
  るひやうしいと花やかなりおとゝも時々こゑう
  ちそへ給へるさき草の末つかたいとなつかしく
  めてたくきこゆなに事もさしいらへし給ふ
  御ひかりにはやされて色をもねをもますけ
  ちめことになむわかれけるかうのゝしる馬車
  のをとを物へたてきゝ給ふ御方/\は蓮の中
  のせかいにまたひらけさらむ心ちもかくやと
  心やましけなりまして東の院にはなれ給へる御
  方/\は年月にそへてつれ/\の数のみまさ」9オ

  れと世のうきめみえぬ山路に思ひなすらへて
  つれなき人の御心をはなにとかは見奉りとかめ
  むそのほかの心もとなくさひしき事はた
  なけれはおこなひの方の人はそのまきれなく
  つとめかなのよろつのさうしの学文心にいれ
  給はむ人はまたねかひにしたかひ物まめやかに
  はか/\しきをきてにもたゝ心のねかひにしたか
  ひたるすまひなりさはかしき日かすすくし
  てわたり給へりひたちの宮の御方は人の程あれ
  は心くるしくをほして人めのかさりはかりはいと」9ウ

  よくもてなしきこえ給ふいにしへさかりとみえ
  し御若かみも年比におとろいゆきまして瀧
  のよとみはつかしけなる御かたはらめなとをいと
  おしとおほせはまほにもむかひ給はす柳はけに
  こそすさましかりけれとみゆるもきなし給へる
  人からなるへしひかりもなくゝろきかいねりの
  さひ/\しくはりたる一かさねさるをり物のう
  ちきき給へるいとさむけに心くるしかさね
  のうちきなとはいかにしなしたるにかあらむ御
  はなの色はかり霞にもまきるましう花やかなる」10オ

  に御心にもあらすうちなけかれ給てことさらに
  みき帳ひきつくろひへたてたまふ中/\女は
  さしもおほしたゝすいまはかくあはれになかき
  御心の程をおたしき物にうちとけたのみきこ
  え給へる御様あはれなりかゝるかたにもをしなへ
  ての人ならすいとおしくかなしき人の御さま
  におほせはあはれにわれたにこそはと御心とゝめ給
  へるもありかたきそかし御こゑなともいとさむ
  けにうちわなゝきつゝかたらひきこえ給見わ
  つらひ給て御そものなとうしろみきこゆる人は」10ウ

  侍りやかく心やすき御すまひはたゝいとうちとけ
  たるさまにふくみなえたるこそよけれうはへは
  かりつくろひたる御よそひはあいなくなむと
  きこえ給へはこち/\しくさすかにうちわら
  ひ給ひてたいこの阿闍梨の君の御あつかひ
  し侍るとてきぬともゝえぬひ侍らてなむかは
  きぬをさへとられにしのちさむく侍ときこえ
  給ふはいとはなあかき御せうとなりけり心う
  つくしといひなからあまりうちとけ過たりと
  おほせとこゝにてはいとまめにきすくの人にて」11オ

  おはすかはきぬはいとよし山ふしのみのしろ
  衣にゆつり給ひてあへなむさてこのいたはりな
  きしろたへの衣は七へにもなとかかね給はさらむ
  さへきおり/\はうち忘れたらむ事もおとろかし
  給へかしもとよりおれ/\しくたゆき心のをこ
  たりにまして方々のまきらはしきゝほひに
  もをのつからなんとの給てむかひの院の御くら
  あけさせ給てきぬあやなと奉らせ給ふあれたる
  所もなけれとすみ給はぬ所のけはひはしつかに
  ておまへの木たちはかりそいとおもしろくこう」11ウ

  はいのさきいてたるにほひなと見はやす人もな
  きを見わたし給ひて
    ふる里の春のこすゑに尋きて世のつね
  ならぬ花をみるかなとひこりこち給へときゝし
  り給はさりけんかしうつせみのあま衣にもさし
  のそき給へりうけはりたるさまにはあらすかこや
  かにつほねすみにしなして仏はかりに所えさ
  せ奉りておこなひつとめけるさまあはれにみえ
  て仏のかさりはかなくしたるあかのくなと
  もおかしけになまめかしう猶心はせありとみゆる」12オ

  人のけはひなりあをにひのき帳心はへおかしき
  にいたくゐかくれて袖くちはかりそ色ことなるし
  もなつかしけれはなみたくみ給て松かうら嶋を
  はるかに思ひてそやみぬへかりける昔より心うか
  りける御契かなさすかにかはかりのむつひはた
  ゆましかりけるよなとのたまふあま君も
  物あはれなるけはひにてかゝる方にたのみきこ
  えさするしもなむあさくはあらす思給へしら
  れけるときこゆつらきおり/\かさねて心まと
  はし給ひし世のむくひなとを仏にかしこまり」12ウ

  きこゆるこそくるしけれおほししるやかくいと
  すなをにしもあらぬ物をとおもひあはせ給事
  もあらしやはとなむ△おもふたのむとのたま
  ふかのあさましかりし世のふることをきゝをき
  給へるなめりとはつかしくかゝるありさまを御
  らむしはてらるゝより外のむくひはいつ
  くにか侍らむとてまことにうちなきぬいにし
  へよりも物ふかくはつかしけさまさりてかくも
  てはなれたる事とおほすしも見はなちかた
  くおほさるれとはかなき事をのたまひか」13オ

  くへくもあらす大かたのむかし今の物かたり
  をし給てかはかりのいふかひたにあれかしと
  あなたを見やり給ふかやうにても御影にかく
  れたる人/\おほかりみなさしのそきわたし給
  ておほつかなき日かすつもるおり/\あれと心
  のうちはをこたらすなむたゝかきりあるみち
  のわかれのみこそうしろめたけれいのちをしら
  ぬなとなつかしくの給ふいつれをも程々に
  つけてあはれとおほしたり我はとおほしあかり
  ぬへき御身の程なれとさしもこと/\しくもて」13ウ

  なし給はす所につけ人の程につけつゝさま/\
  まねくなつかしくおはしませはたゝかはかり
  の御心にかゝりてなむおほくの人/\年をへ
  けることしはおとこたうかありうちより朱雀
  院にまいりてつきにこの院にまいるみちの
  程とをくなとして夜あけかたになりにけり
  月くもりなくすみまさりてうす雪すこし
  ふれる庭のえならぬに殿上人なとも物の上手
  おほかる比をひにて笛のねもいとおもしろう
  ふきたてゝこの御まへはことに心つかひしたり御」14オ

  方/\ものみにわたり給ふへくかねて御せうそ
  こともありけれは左右のたいわた殿なとに御
  つほねしつゝおはす西のたいの姫君はしむ
  てむのみなみの御方にわたり給てこなたのひめ
  君に御たいめむありけり上も一所におはしませ
  は御木帳はかりへたてゝきこえ給ふ朱雀院のき
  さきの御方なとめくりける程に夜もやう/\
  あけゆけは水むまやにて事そかせ給ふへき
  をれいある事より外にさまことにことくはへていみ
  しくもてはやさせ給ふ影すさましき暁月」14ウ

  夜に雪はやう/\ふりつむ松風こたかくふきおろ
  し物すさましくもありぬへき程にあを色の
  なえはめるにしらかさねの色あひなにのかさ
  りかは見ゆるかさしのわたはなにのにほひもな
  き物なれと所からにやおもしろく心ゆき命
  のふる程なり殿の中将の君内の大殿の君た
  ちそことにすくれてめやすく花やかなりほの
  ほのと明ゆくに雪やゝちりてそゝろさむき
  に竹河うたひてかよれるすかたなつかしき
  こゑ/\のゑにかきとゝめかたからむこそくち」15オ

  おしけれ御方/\いつれも/\おとらぬ袖くち
  ともこほれ出たるこちたさ物の色あひなとも
  あけほのゝ空に春のにしきたちいてにける
  霞のなかと見へわたさるあやしく心のうち
  ゆく見物にそありけるさるはかうこむしのよは
  なれ一本かうさしのいともよはなれたるさまこ
  とふきのみたりかはしきおこめきたる事を
  ことゝしくとりなしたる中/\なにはかりのおも
  しろかるへきひやうしにもきこえぬ物をれい
  のわたかつきわたりてまかてぬ夜あけはてぬれ」15ウ

  は御方/\えかへり給はすおとゝの君すこし御と
  のこもりて日たかくおき給へり中将のこゑは
  弁少将にをさ/\おとらさめるはあやしういう
  そくともおひいつる比ほひにこそあれいにしへ
  の人はまことにかしこき方やすくれたる事
  もおほかりけむなさけたちたるすちはこの比
  の人にえしもまさらさりけむかし中将なと
  をはすく/\しき大やけ人にしなしてむと
  なむ思ひをきてし身つからのいとあされ
  はみたるかかたくなしさをもてはなれよと」16オ

  思ひしかとも猶したにはほのすきたるすちの
  心をこそとゝむへかめれもてしつめすくよかなる
  うはへはかりはうるせかめりなといとうつくしとおほ
  したりはんすらくと御口すさみにのたまひ
  て人/\のこなたにつとひ給へるついてにいかて物の
  ね心みてしかなわたくしのこえむすへしとの給
  ひて御ことゝものうるはしきふくろともしてひめ
  をかせ給へるみなひきいてゝをしのこひゆるへる
  をとゝのへさせ給ひなとす御方/\心つかひいたくし
  つゝ心をつくし給らむかし」16ウ

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