胡蝶(大島本) First updated 8/15/2001(ver.1-1)
Last updated 1/9/2007(ver.2-1)
渋谷栄一翻字(C)

  

胡 蝶

《概要》
 大島本は、青表紙本の最善本とはいうものの、現状では、後人の筆によるさまざまな本文校訂跡や本文書き入れ注記、句点、声点、濁点等をもつ。そうした現状の様態をそのままに、以下の諸点について分析していく。
1 大島本と大島本の親本復元との関係 鎌倉期書写青表紙本(池田本・伏見天皇本等)を補助的資料として
2 大島本の本文校訂に対校された本文系統
3 大島本の句点の関係
4 大島本の後人書き入れ注記

《書誌》

《翻刻資料》

凡例
1 本稿は、『大島本 源氏物語』(1996(平成8)年5月 角川書店)を翻刻した。よって、後人の筆が加わった現状の本文様態である。
2 行間注記は【 】- としてその頭に番号を記した。
2 小字及び割注等は< >で記した。/は改行を表す。また漢文の訓点等は< >で記した。
3 合(掛)点は、\<朱(墨)合点>と記した。
4 朱句点は「・」で記した。
5 本文の校訂記号は次の通りである。
 $(ミセケチ)・#(抹消)・+(補入)・&(ナゾリ)・=(併記)・△(不明文字)
 ( )の前の文字及び( )内の記号の前の文字は、訂正以前の文字、記号の後の文字が訂正以後の文字である。ただし、なぞり訂正だけは( )の前の文字は訂正後の文字である。訂正以前の本行本文の文字を尊重したことと、なぞり訂正だけは元の文字が判読しにくかったための処置である。
6 朱・墨等の筆跡の相違や右側・左側・頭注等の注の位置は< >と( )で記した。私に付けた注記は(* )と記した。
7 付箋は、「 」で括り、付箋番号を記した。
8 各丁の終わりには」の印と丁数とその表(オ)裏(ウ)を記した。
9 本文校訂跡については、藤本孝一「本文様態注記表」(『大島本 源氏物語 別巻』と柳井滋・室伏信助「大島本『源氏物語』(飛鳥井雅康等筆)の本文の様態」(新日本古典文学大系本『源氏物語』付録)を参照した。
10 和歌の出典については、伊井春樹『源氏物語引歌索引』と『新編国歌大観』を参照し、和歌番号と、古注・旧注書名を掲載した。ただ小さな本文異同については略した。

「こてふ」(題箋)

  やよひのはつかあまりのころほひ春の御
0001【春の御前】-紫
  前のありさまつねより・ことにつくして・にほふ
  花の色・とりのこゑほかのさとには・またふり
  ぬにやと・めつらしう見えきこゆ・山のこ
  たちなかしまのわたりいろまさるこけの
  けしきなと・わかき人/\のはつかに
  心もとなくおもふへかめるに・からめいたるふ
0002【からめいたるふね】-竜頭ー
  ねつくらせ給ける・いそきさうそかせ給ひ
0003【いそきさうそかせ】-舟装束
  て・おろしはしめさせ給ひは・うたつかさ
0004【うたつかさ】-雅楽寮
  の人めして舟のかくせらる・みこたち・かむ」1オ
  たちめなと・あまたまいり給へり・中宮
0005【中宮】-秋
  この比さとにおはします・かの春まつその
0006【さとに】-六条院
0007【春まつそのは】-乙女 心から春待そのハ我宿ノ紅葉を風ノツテニタニ見よ 秋
  はと・はけましきこえ給へりし・御かへりも
0008【御かへり】-\<朱合点>
  この比やとおほし・おとゝの君もいかてこの
0009【おとゝの君】-源
  花(花+の)おり御らむせさせむとおほしのたま
  へと・ついてなくて・かるらかに・はひわたりはな
  をももてあそひ給ふへきならねはわかき
  女はうたちのものめてしぬへきを・ふねに
0010【女はうたち】-秋
  のせ給うて・みなみのいけのこなたにとほ
  し・かよはしなさせ給へるをちゐさき山を・」1ウ
  へたてのせきに見せたれと・そのやまのさ
  きより・こきまひてひむかしのつり殿に
  こなたのわかき人/\あつめさせたまふ・
0011【こなたの】-秋
  龍頭鷁首を・からのよそひに・こと/\しう・
0012【龍頭鷁首】-紫
  しつらひてかちとりの・さをさすわらはへ・
  みなみつらゆひてもろこしたゝせて・さ
  るおほきなるいけのなかに・さしいてたれは・
  まことのしらぬくにゝきたらむ心ちして・
  あはれにおもしろく見ならはぬ女はうなと
  はおもふ・なかしまのいりえのいはかけにさし」2オ
  よせて見れは・はかなきいしのたゝすまひ
  も・たゝゑにかいたらむやうなり・こなたかなた
  かすみあひたるこすゑとも・なしきをひ
  きわたせるにおまへのかたは・はる/\とみ
  やられて・いろをましたるやなき・えたを
  たれたる・花もえもいはぬにほひをちらし
  たり・ほかにはさかりすきたるさくらもいま
  さかりにほおゑみ・らうをめくれるふちの色も・
0013【らうをめくれるふちの色】-繞廊紫藤架夾砌紅薬欄 白
  こまやかにひらけゆきにけり・ましていけ
  のみつにかけをうつしたるやまふ(ふ+き)・きしよ」2ウ
  りこほれていみしきさかりなり・みつとりと
  ものつかひをはなれすあそひつゝ・ほそき
  えたともをくひてとひちかふ・をしのなみ
  のあやにもんをましへたるなと・ものゝゑや
  うにもかきとらまほしき・まことに・をのの
0014【をののえもくいたつへう】-\<朱合点> 後 百敷ハをのゝえくたす山なれや入にし人の音信もせぬ(後撰717・一条摂政集66、河海抄・休聞抄・紹巴抄・孟津抄・岷江入楚)
  えも・くいたつへうおもひつゝ(ゝ+ひ)をくらす
    かせふけはなみの花さへ色みえて
  こやなにたてるやまふきのさき
    はるのいけやゐてのかはせにかよふらん
  きしの山ふきそこもにほへり」3オ
    かめのうへの山たつねしふねのうちに
0015【かめのうへの山】-不見蓬莱不敢<イヤ>帰童男丱<クワン>女舟中老 文集
  おいせぬなをはこゝにのこさむ
    春の日のうらゝにさしてゆくふねは
  さほのしつくも花そちりける
  なとやうのはかなことゝもを心/\にいひ
0016【なとやうの】-以上四首秋ー女房共
  かはしつゝ・ゆくかたもかへらむさともわすれ
  ぬへう・わかき人/\の心をうつすに・ことはり
  なる水のおもになむ・くれかゝるほとに・わう
0017【わうしやう】-皇[鹿+章]
  しやうといふかく・いとおもしろくきこゆるに
0018【かく】-平調楽也
  心にもあらすつり殿にさしよせられてお」3ウ
  りぬ・こゝのしつらひ・いとことそきたるさま
  に・なまめかしきに・御方かたのわかき人とも
  の・われおとらしと・つくしたる・さうすくかた
  ち・はなをこきませたるにしきにおとら
  すみえわたる・世にめなれす・めつらかなるかく
  ともつかうまつる・まひ人なと・心ことにえ
  らはせ給て・夜にいりぬれはいとあかぬ心ち
  して・御前のにはにかゝり火ともして・みはし
  のもとのこけのうへにかく人めして・かんたち
  めみこたちもみなをの/\・ひきもの(△&の)」4オ
  ふきもの・とり/\にしたまふものゝし
  ともことにすくれたるかきり・そうてうふき
0019【そうてう】-双調
  てうへに・まちとる御ことゝものしらへいとは
  なやかにかきたてゝ・あなたうとあそひ
0020【あなたうと】-\<朱合点> 安名尊 催馬楽
  給ふほと・いけるかひありとなにのあや
  めもしらぬしつのをも・みかとのわたりひま
  なきむまくるまのたちとにましりて・
  ゑみさかへきゝけり・そらのいろ・ものゝねも・
  はるのしらへひゝき(き+は)・いとことにまさりける
0021【はるのしらへ】-\<朱合点> 古今 浪ノ音ノけさからー(古今456、河海抄・休聞抄・紹巴抄・孟津抄・岷江入楚)
  けちめを・人/\おほしわくらむかし・夜」4ウ
0022【けちめ】-双調春 黄夏 平秋 盤冬 越中央
  もすからあそひあかし給・かへりこゑに・喜春
0023【かへりこゑ】-反音律ニウツルヲ云
0024【喜春楽】-黄鐘調
  楽たちそひて兵部卿みや・あをやき
0025【兵部卿みや】-蛍
0026【あをやき】-\<朱合点> 青柳をかた糸に(催馬楽「青柳」奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
  おりかへしおもしろくうたひ給・あるしの
0027【あるしのおとゝ】-源
  おとゝもことくはへ給ふ夜もあけぬあさ
  ほらけのとりのさえつりを・中宮はも
0028【中宮】-秋
  のへたてゝ・ねたうきこしめしけり・いつも
  春の光をこめ給へるおほ殿なれと・心をつ
0029【おほ殿】-御殿
  くるよすかのまたなきを・あかぬ事にお
  ほす人/\もありけるに・にしのたいの
  ひめ君こともなき御ありさま・おとゝの」5オ
  きみもわさとおほしあかめきこえたまふ
  御けしきなと・みなよにきこえいてゝお
0030【御けしき】-玉
  ほししもしるく・心なひかし給人おほかる
  へし・わか身さはかりとおもひあかり給ふき
  はの人こそ・たよりにつけつゝけしきはみ・
  こといてきこえ給ふもありけれ・えしもう
  ちいてぬ・中の思ひに・もえぬへきわかきむた
0031【中の思ひにもえぬへき】-\<朱合点> さゝれ石の中の思ハ有ナカラ打いつる事のさもかたきかな(出典未詳、奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
  ちなともあるへし・そのうちにことの心をし
  らて・うちのおほいとのの中将なとはすきぬ
0032【うちのおほいとのの中将】-柏
  へかめり・兵部卿の宮はたとしころおはし」5ウ
0033【兵部卿の宮】-蛍
  けるきたの方もうせ給て・このみとせはか
  りひとりすみにてわひたまへは・うけはりて・い
  まはけしきはみたまふ・けさも・いといたう
  そらみたれして・ふちのはなをかさして
0034【そらみたれ】-酔
  なよひさうとき給へる御さまいとおかし・お
0035【さうとき】-早速
  とゝもおほしゝさまかなふとしたにはおほ
0036【したには】-下
  せと・せめてしらすかほゝつくり給・御かはらけ(け+の)
  ついてに・いみしうもてなやみたまうて・お
  もふ心侍らすは・まかりにけ侍なまし・いとたえ
  かたしやと・すまひ給ふ」6オ
    むらさきのゆへにこゝろをしめたれは
0037【むらさきの】-蛍兵部卿
  ふちに身なけんなやはおしけきとておとゝ
  の君に・おなしかさしをまいり給いといたう
0038【おなしかさしを】-\<朱合点> 後 我宿とたのむ吉野に君しいらハおなしかさしをさしこそハ見め<右>(後撰809・古今六帖2328・伊勢集13、異本紫明抄・紫明抄・河海抄) 拾 盗人ノたつたの山に入にけりおなしかさしの名にやけかれん<左>(拾遺集560・拾遺抄539・為頼集65、花鳥余情・休聞抄・孟津抄・花屋抄・岷江入楚)
  ほをゑみ給ひて
    ふちに身をなけつへしやとこの春は
0039【ふちに身を】-源氏返し
  花のあたりをたちさらて見よとせちに
  とゝめたまへは・えたちあかれ給はて・けさの
0040【あかれ】-別
  御あそひ・ましていとおもしろし・けふは中宮
  のみと経のはしめなりけり・やかてまかて給は
0041【みと経】-春秋アリ<朱>
  てやすみ所とりつゝ・ひの御よそひにかへ給ふ・」6ウ
0042【ひの御よそひ】-可聞師説也
  人/\もおほかり・さはりあるは・まかてなとも
  したまふ・むまの時はかりに・みなあなたにまいり
0043【あなたに】-秋
  給ふ・おとゝの君を・はしめたてまつりて・みな
  つきわたり給ふ・殿上人なとも・のこるなくま
0044【つきわたり給ふ】-着座
  いる・おほくはおとゝの御いきほひにもてなさ
  れ給ひて・やむことなくいつくしき御あり
  さまなり・はるのうへの御心さしに・ほとけに・は
0045【はるのうへの御心さしに】-紫秋へ
0046【はなたてまつらせ給ふ】-供花事也法会儀蝶鳥供養事也迦陵頻胡蝶寄捧供花二行相分経舞台上到壇下小伝柳
  なたてまつらせ給ふ・とりてふにさうそき
  わけたる・わらはへ八人・かたちなとことにとゝ
  のへさせ給ひて・とりにはしろかねのはなか」7オ
  めにさくらをさし・てふはこかねのかめにやま
  ふきを・おなしきはなのふさいかめしう・世
  になきにほひをつくさせ給へり・みなみの
  御まへのやまきはよりこきいてゝ・をまへにい
  つるほと・風ふきて・かめのさくらすこし・うち
  ちりまかふ・いとうらゝかにはれて・かすみのま
  よりたちいてたるは・いとあはれに・なまめき
  てみゆ・わさとひらはりなともうつされす・
0047【ひらはり】-楽屋の事也
  おまへにわたれるらうをかく屋のさまにして・
  かりにあくらともをめしたり・わらはへともみ」7ウ
0048【あくらとも】-胡床を日本紀にあくらとよめり楽人の座をいふ
  はしのもとによりて・はなともたてまつる
  行香の人/\とりつきて・あかにくはへさせ
  給・御せうそこ・殿の中将の君して・きこえ
  給へり
    はなそのゝこてふをさへやしたくさに
0049【はなそのゝ】-紫上
  秋まつむしはうとく見るらむ宮かの紅葉
0050【宮】-秋
  の御かへりなりけりと・ほおゑみて御らむす・き
  のふの女はうたちも・けに春のいろは・えお
0051【けに春の】-女房詞
  とさせ給ましかりけりと・はなにおれつゝきこ
  えあへり・うくひすのうらゝかなるねに(△&に)とり」8オ
0052【とりのかく】-一越調
  のかくはなやかに・きゝわたされて・いけのみ
  つとりも・そこはかとなく・さへつりわたるに・
  きうになりはつるほと・あかすおもしろし・
0053【きう】-急
0054【なりはつる】-舞也
  てうはましてはかなきさまにとひたちて・
0055【てうは】-蝶ハ宇多ー御時ツクラレシ舞也
  やまふきのませのもとにさきこほれたる
  花のかけにまひいつる・宮のすけをはしめて
0056【宮のすけ】-中宮亮
  さるへきうへ人とも・ろくとりつゝきて・わらはへ
  にたふ・とりには・さくらのほそなか・てふにはやま
  ふきかさね給はる・かねてしもとりあへたる
  やうなり・ものゝしともは・しろきひとかさね・こし」8ウ
  さしなと・つき/\にたまふ・中将の君には・ふち
  のほそなかそへて・女のさうそくかつけ給
  ふ・御かへりきのふは・ねになきぬへくこそは
0057【ねになきぬへく】-\<朱合点> 古今 我ソノの梅のほつえに鴬のねニなきぬへき恋もするかな(古今498、奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
    こてふにもさそはれなましこゝろありて
0058【こてふにも】-秋好中宮返し
  やへ山ふきをへたてさりせはとそありける・
0059【やへ山ふきを】-六 名にしほへハ八重山吹そうかりけるへたてゝおれる君によそへて(古今六帖2763、河海抄・休聞抄・紹巴抄・孟津抄・岷江入楚)
  すくれたる御らうともにかやうの事はた
0060【すくれたる】-作者詞
  え(え#へ)ぬにやありけむ・おもふやうにこそ見えぬ・
  御くちつきともなめれ・まことやかの見も
0061【御くちつき】-哥事
  のゝ女はうたち・宮のには・みなけしき
  あるをくりものともせさせ給ふけり・さやう」9オ
  のことくはしけれはむつかし・あけくれにつけて
  も・かやうのはかなき御あそひしけく心をや
  りてすくし給へは・さふらふ人もをのつから・
  ものおもひなきこゝちしてなむこなたか
  なたにもきこえかはし給ふ・にしのたい
  の御方は・かのたうかのおりの御たいめんのゝ
  ちは・こなたにもきこえかはし給・ふかき御心
  もちゐやあさくも・いかにもあらむけしき・
  いとらうあり・なつかしき心はへとみえて
0062【らうあり】-らう/\しきを云也
  人の心へたつへくも・ものしたまはぬひとさ」9ウ
  まなれは・いつかたにもみな心よせきこえ給へ
  り・きこえ給人いとあまたものし給・され
  とおとゝおほろけにおほしさたむへくもあら
  す・わか御心にも・すくよかに・おやかりはつま
  しき御心やそふらむ・ちゝおとゝにもしらせや
0063【ちゝおとゝ】-致仕
  してましなとおほしよるおり/\もあり・と
0064【とゝの中将】-夕
  のゝ中将はすこしけちかく・みすのもとなと
  にも・よりて御いらへ身つからなとするも・女は
0065【女は】-玉
  つゝましうおほせと・さるへきほとゝ人/\も
  しりきこえたれは・中将はすく/\しくて」10オ
  おもひもよらす・内のおほいとのゝ君たち
0066【内のおほいとの】-致ー
  は・この君にひかれてよろつにけしきはみ・
  わひありくを・その方のあはれにはあら
  て・したに心くるしう・まことのおやにさもしら
  れたてまつりにしかなと人しれぬ心に・かけ
  たまへれと・さやうにももらしきこえ給
  はすひとへにうちとけたのみきこえ給心
  むけなと・らうたけにわかやかなり・にるとは
  なけれと・なをはゝ君のけはひにいとよくおほ
0067【はゝ君】-夕顔上
  えて・これはかとめいたるところそ・ゝひたる・こ」10ウ
  ろもかへのいまめかしうあらたまれるころほひ
  そらのけしきなとさへ・あやしうそこはか
  となくおかしきをの(△&の)とやかにおはしませは・
  よろつの御あそひにてすくし給ふに・たい
0068【たいの御方】-玉
  の御方に人/\の御ふみしけくなりゆくを・
  おもひしことゝ・おかしうおほいて・ともすれは・
  わたり給ひつゝこらむし・さるへきには御か
  へりそゝのかしきこえ給ひなとするを・
  うちとけすくるしいゝ(ゝ#<朱>)ことにおほいたり・
  兵部卿の宮のほとなくいられかましき」11オ
0069【兵部卿の宮】-蛍
  わひことゝもを・かきあつめたまへるおほむふ
  みをこらむしつけて・こまやかにわらひ給ふ・
  はやうよりへたつることなう・あまたのみこ
  たちの御なかにこのきみをなん・かたみに
  とりわきて・おもひしに・たゝかやうのすち
  のことなむ・ゐみしう・へたておもふ給ひて・や
  みにしを・よのすゑにかくすき給へる心はえ
  をみるか・おかしうもあはれにもおほゆるかな・
  なを御かへりなときこえ給へ・すこしもゆ
  へあらむ・女の・かのみこよりほかに・またこと」11ウ
  のはを・かはすへき人こそ・世におほえねいと
  けしきある人の御さまそやと・わかき人
  はめて給ひぬへくきこえしらせ給へと・つゝ(ゝ$つ<朱>)
  ましくのみおほいたり・右大将のいとまめやか
0070【右大将】-ヒケ
  に・こと/\しきさましたる人の・こひのやま
0071【こひのやま】-いかはかり恋の山ちのしけゝれハいると入ぬる人まとふらん(古今六帖1980、異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
  には・くしのたうれ・まねひつへきけしきに
0072【くしのたうれ】-\<朱合点> 孔子のたうれといふ事昔より世のことわさにいひつたへたる聖人なれとも時としてたうるゝことのあることく鬚黒大将実なる人なれと恋山に入てまとふといへり
  うれへたるも・さるかたにおかしとみなみくら
  へ給・なかにからのはなたのかみのいとなつ
  かしうしみふかうにほへるを・いとほそくちひ
  さく・むすひたるあり・これはいかなれは・かく」12オ
  むすほゝれたるにかとて・ひきあけたまへり(り+て)
  いとおかしうて
    おもふとも君はしらしなわきかへり
0073【おもふとも】-中将
  いはもるみつにいろし見えねはかきさま・
  ゐまめかしうそほれたり・これはいかなる
  そと・ゝひきこえ給へと・はか/\しうもき
  こえ給はす・右近をめしいてゝ・かやうにをとつ
  れきこえん人をは・ひとえりしていらへ
  なとはせさせよ・すき/\しうあされかまし
  き・いまやうの人のひんないこと・しいてな」12ウ
  とする・をのこのとかにしもあらぬ事なり・
  われにて思ひしにも・あなゝさけな・うらめし
  うもと・そのおりにこそ・むしむなるにや・
  もしは・めさましかるへき・きはゝ・けやけう
0074【けやけう】-目ニ立
  なとも・おほえけれ・わさとふかゝらて・はな
  てふに・つけたるたよりことは・心ねたうもて
  ないたる・なか/\心たつやうにもあり・またさて
  わすれぬるは・なにのとかゝはあらむ・ものゝ
  たよりはかりのなをさりことに・くちとう心
  えたるも・さらてありぬへかりける・のちの」13オ
  なむとありぬへきわさなり・すへて女のも
  のつゝみせす・心のまゝにものゝあはれもしり
  かほつくり・おかしき事をも・見しらんなん・
  そのつもりあちきなかるへきを・宮・大将は・
0075【宮】-蛍
0076【大将】-ヒケ
  おほな/\なをさりことを・うちいて給へき
0077【おほな/\】-懇々
  にもあらす・またあまりものゝほとしらぬやう
  ならんも・御ありさまにたかへり・そのきはより
  しもは・心さしのおもむきにしたかひて・を(を#<朱>)あは
  れをもわき給へ・らうをも・かそへ給へなと
  きこえ給へは・きみはうちそむきておはする・」13ウ
0078【きみは】-玉
  そはめ・いとおかしけなり・なてしこのほそな
  かにこのころのはなのいろなる御こうち
  き・あはひけちかういまめきて・もてなし
  なとも・さはいへとゐなかひ給へりし・なこり
  こそ・たゝありにおほとかなるかたにのみは・
  みえ給ひけれ・人のありさまを(を+も<朱>)・見しり給ふ
  まゝにいとさまようなよひかに・けさうなとも
  心してもてつけたまへれは・いとゝあかぬ所な
0079【あかぬ所】-不足
  く・はなやかにうつくしけなり・こと人と・み
  なさむは・いとくちおしかへうおほさる・うこむ」14オ
  もうちゑみつゝ・見たてまつりて・おやとき
  こえんには・にけなうわかくおはしますめり・
  さしならひたまへらむんはしも・あはひめてた
  しかしと・おもひゐたり・さら(△&ら)に人の御せうそ
0080【さらに人の】-右近詞
  こなとは・きこえつたふる事はへ(はへ$侍<朱>)らす・さき
  さきも・しろしめし御らむしたるみつよつ
  は・ひきかへしはしたなめきこえむもいかゝ
  とて・御ふみはかり・とりいれなとし侍めれと・御か
  へりはさらにきこえさせ給ふおりはかりな
  む・それをたにくるしいことにおほいたると」14ウ
  きこゆ・さてこのわかやかにむすほゝれたる
0081【さてこの】-源氏詞也
0082【むすほゝれたる】-柏木の文の事也
  はたかそ・いといたうかいたるけしきかなと・ほ
  ほゑみて・御らんすれは・かれは・しふねうとゝめ
0083【とゝめて】-使
  てまかりにけるにこそ・内のおほいとのゝ中
  将の・このさふらふ・みてこそを(てこそを$るこをそ<朱>)・もとより見
0084【みるこ】-玉小女房の名也
  しり給へりける・つたへにて侍ける・また
  見いるゝ人も侍らさりしにこそときこ
  ゆれは・いとらうたき事かなけらうなり
0085【いとらうたき】-源
  とも・かのぬしたちをは・いかゝいとさはゝした
  なめむ・公卿といへと・この人のおほえにかな」15オ
  らすしも・ならふましきこそおほかれ・さる
  なかにもいとしつまりたる人なり・をの
  つから・思ひあはする世もこそあれ・けち
  えむにはあらてこそ・いひまきらはさめ・見
  ところあるふみかきかなゝと・とみにも
  うちをきたまはす・かうなにやかやときこ
  ゆるをもおほす所やあらむと・やゝまし
  きを・かのおとゝにしられたてまつり給は
0086【かのおとゝ】-致
  む事も・またわか/\しうなにとなき
  ほとに・こゝらとしへ給へる御なかに・さしいて給」15ウ
  はむ事は・いかゝとおもひめくらし侍るなを世
  のひとのあめるかたにさたまりてこそは・ひと
0087【かたにさたまりて】-嫁娶後親ニキカス
  ひとしうさるへきついても・ものしたまは
  めとおもふを・宮はひとりものし給やうなれ
0088【宮】-蛍
  とひとからいといたうあためいてかよひた
  まふところあまたきこえ・めしうとゝか・に
0089【めしうと】-常夏巻にも此詞あり
  くけなるなのりする人ともなむかすあま
  たきこゆるさやうならむ事は・にくけなう
  てみなほいたまはむ人は・いとよう・なたら
  かにもてけちてむ・すこし心にくせありて」16オ
  は・人にあかれぬへきことなむをのつからいて
  きぬへきを・その御心つかひなむあへき・大
  将はとしへたる人のいたうねひすきたるを・
  いとひかてにともとむなれと・それも(△&も)人/\わ
  つらはしかるなり・さもあへい事なれは・さま
  さまになむ人しれす思ひさためかね侍る・
  かうさまのことは・おやなとにも・さはやかに
  わかおもふさまとて・かたりいてかたきことなれと・
  さはかりの御よはひにもあらす・いまは
  なとかなにことをも御心にわいたまはさらむ・」16ウ
  まろをむかしさまになすらへて・はゝ君と思
  ひないたまへ・御心にあかさらむことは・心くるしく
  なといとまめやかにてきこえ給へは・くるし
  うて・御いらへきこえむともおほえ給は
  す・いとわか/\しきもうたておほえて・な
0090【なにことも】-玉
  にこともおもひしり侍らさりけるほとより・
  おやなとは見ぬものにならひ侍て・ともか
0091【おやなとは見ぬものに】-三歳別
  くも思ふたまへられすなむと・きこえ給
  さまの・いとおいらかなれは・けにとおほいて・
  さらは・世のたとひのゝちの(の+おや<朱>)をそれとおほ」17オ
0092【さらは世の】-源
  いてをろかならぬ心さしのほとも・見あら
  はしはて給てむやなと・うちかたらひ給・
  おほすさまのことは・まはゆけれは・えうち
  いて給はす・けしきあることはゝとき/\
  ませ給へと・見しらぬさまなれは・すゝろに
  うちなけかれてわたり給・おまへちかきくれ
  たけのいとわかやかにおいたちて・うちなひく
  さまのなつかしきに・たちとまり給うて
    ませのうちにねふかくうへし竹のこの
0093【ませのうちに】-源氏
  をのかよゝにやおひわかるへきおもへはうらめし」17ウ
  かへい事そかしと・みすをひきあけてき
  こえ給へは・ゐさりいてゝ
    いまさらにいかならむよかわかたけの
0094【いまさらに】-玉かつら
0095【わかたけの】-朝忠集 いく世しもあらし物ゆへ若竹の生そわりける春さへそうき(朝忠集29、異本紫明抄・河海抄・休聞抄・紹巴抄・孟津抄・岷江入楚)
  おいはしめ(△&め)けむねをはたつねんなか/\にこそ
0096【なか/\にこそ】-玉詞
  侍らめときこえ給ふを・いとあはれと・おほし
  けり・さるは心のうちにはさもおもはすかし
  いかならむおりきこえいてむとすらむと・
0097【いかならむおり】-源致ニ
  心もとなくあはれなれと・このおとゝの御心
0098【このおとゝの御心はへの】-源
  はへのいとありかたきを・おやときこゆとも
  もとより見なれたまはぬは・えかうしも・こ」18オ
  まやかならすやと・むかしものかたりを見
0099【むかしものかたりを】-玉
  給にも・やう/\人のありさま世中のあるやう
  を見しり給へは・いとつゝましう・心としられ
  たてまつらむことは・かたかるへうおほす・との
0100【とのは】-源
  はいとゝらうたしと・おもひきこえ給ふ・うへ
0101【うへにも】-紫
  にもかたり申たまふあやしう・なつかしき人
  のありさま(△&ま)にもあるかな・かのいにしへのはあま
0102【いにしへのは】-夕
  りはるけ所なくそありし・この君はものゝ
0103【この君は】-玉
  ありさまも・見しりぬへく・けちかきこゝろ
  さまそひて・うしろめたからすこそ見ゆれな」18ウ
  と・ほめたまふ・たゝにしも・おほすましき御心
0104【たゝにしもおほすましき御心さま】-紫心
  さまを・みしり給へれは・おほしよりて・ものゝ
  心えつへくはものし給ふめるを・うらなくし
  も・うちとけたのみきこえ給らんこそ・心
  くるしけれとのたまへは・なとたのもしけ
0105【なとたのもしけ】-源詞
  なくやはあるへきときこえ給へは・いてやわ
0106【いてやわれにても】-紫詞
  れにてもまたしのひかたうものおもはしき
  おりおりありし御心さまの・思ひいてらるゝふし
  ふしなくやはと・ほゝゑみてきこえ給へは・
  あな心とゝおほいてうたてもおほしよるかな・」19オ
0107【あな心と】-源詞
0108【心と】-速
  いと見しらすしもあらしとて・わつらはしけ
  れはの給ひさして・心のうちに人のかうをしは
0109【人の】-紫
  かり給ふにも・いかゝはあへからむとおほしみた
  れ・かつは・ひか/\しうけしからぬわかこゝろの
0110【わかこゝろの】-源
  ほともおもひしられ給ふけり・心にかゝれるまゝ
  にしは/\わたり給ひつゝ見たてまつり給・あ
  めのうちふりたるなこりのいとものしめやか
  なるゆふつかた・御まへのわかゝえて・かしわき
0111【御まへの】-紫
  なとのあをやかにしけりあひたるかなにとなく
  心ちよけなるそらを見いたし給ひて・わし」19ウ
0112【わしてまたきよし】-四月天気和ノ且清緑槐陰合沙<サ>堤平 白
  てまたきよし
うちすし給うて・まつこ
0113【このひめ君】-玉
  のひめ君の御さまのにほひや(や+か<朱>)けさをおほし
  いてられて・れいのしのひやかにわたり給へり・
  てならひなとしてうちとけ給へりけるを・お
0114【てならひなとして】-玉
  きあかり給て・はちらひ給へるかほのいろあ
  ひいとおかし・なこやかなるけはひのふとむかし
  おほしいてらるゝにもしのひかたくてみそめ
  たてまつりしは・いとかうしもおほえ給はすと
  思ひしを・あやしうたゝそれかとおもひまか
  へらるゝおり/\こそあれあはれなるわさな」20オ
  りけり中将のさらにむかしさまのにほひ
  にもみえぬならひにさしもにぬものと思ふに・か
  かる人もゝのしたまうけるよとて・なみたくみ
  給へり・はこのふたなる御くたものゝなかに・
  たちはなのあるをまさくりて
    たちはなのかほりしそてによそふれは
0115【たちはなの】-源し
  かはれるみともおもほえぬかなよとゝもの
  心にかけて・わすれかたきになくさむことなくて・
  すきつるとしころをかくて見たてまつる
  は・ゆめにやとのみおもひなすをなを・えこそ」20ウ
  しのふましけれおほしうとむなよとて・御て
0116【御てを】-玉
  をとらへたまへれは・女かやうにもならひ給は
  さりつるを・いとうたておほゆれと・おほ(ほ+と)かなる
  さまにてものし給ふ
    そてのかほ(ほ$を<朱>)よそふるからにたちはなの
0117【そてのかを】-玉かつら
  みさへはかなくなりもこそすれ・むつかし
0118【むつかしと】-\<朱合点> 玉 橘ハみさへ花さへ(古今六帖4250・万葉1014、河海抄・孟津抄・岷江入楚)
  とおもひて・うつふし給へるさま・いみしう・なつ
  かしう・てつきのつふ/\と・こゑ給へる・みなり・
  はたつきの・こまやかに・うつくしけなるに・
  中/\なるものおもひそふこゝちしたまて・け」21オ
0119【けふはすこし】-源
  ふはすこしおもふこときこえしらせ給ひける・
  女は心うく・いかにせむとおほえて・わなゝ
0120【女は】-玉
  かるけしきも・しるけれとなにかかくうと
0121【なにかかく】-源
  ましとはおほいたる・いとよくもてかくして・
  人にとかめらるへくもあらぬ心のほとそよさ(よさ&よさ)
  りけなくてをもてかくし給へ・あさくも・思
  きこえさせぬ心さしに・またそふへけれは・世
  にたくひあるましきこゝちなんするを・この
  をとつれきこゆる人/\にはおほしおとすへ
  くやはある・いとかうふかき心ある人は・世に」21ウ
  ありかたかるへきわさなれは・うしろめたくのみ
  こそとのたまふ・いとさかしらなる御おや心な
  りかし・あめはやみてかせのたけになると・
  はなやかにさしいてたる月かけおかしき
  よのさまもしめやかなるに・人/\はこまやか
  なる御ものかたりに・かしこまりをきてけ
  ちかくもさふらはす・つねに見たてまつり給ふ
  御なかなれと・かくよきおりしもありかた
  けれは・ことにいてたまへるついての御ひたふる
  心にや・なつかしい程なる御そとものけはひは・」22オ
  いとようまきらはしすへしたまひて・ちかやか
0122【すへしたまひて】-源ノヌキスヘシ
  にふし給へは・いと心うく人のおもはむ事も
0123【いと心うく】-玉
  めつらかにいみしうおほゆ・まことのおやの御
  あたりならましかは・おろかには見はなち給ふ
  とも・かくさまのうき事はあらましやと
  かなしきに・つゝむとすれと・こほれいてつゝ
  いとこゝろくるしき御けしきなれは・かうお
  ほすこそつらけれ・もてはなれしらぬ人たに・よの
  ことはりにて・みなゆるすわさなめるを・かくとし
  へぬるむつましさに・かはかりみえたてまつるや・」22ウ
  なにのうとましかるへきそこれよりあなか
  ちなる心はよも見せたてまつらし・おほろ
  けにしのふるにあまるほとを・なくさむる
  そやとて・あはれけになつかしうきこえ
  給事おほかり・ましてかやうなるけはひは・
  たゝむかしの心ちしていみしうあはれなり・
  わか御心なからもゆくりかに・あはつけきこと
  とおほし・しらるれは・いとよくおほしかへし
  つゝ人もあやしとおもふへけれはいたう夜も
  ふかさていて給ぬ・おもひうとみたまはは・いと」23オ
0124【おもひうとみたまはは】-源詞
  心うくこそあるへけれ・よその人はかうほれ/\
  しうはあらぬものそよ・かきりなくそこひし
0125【かきりなく】-\<朱合点>
0126【そこひ】-底
  らぬこゝろさしなれは・ひとのとかむへきさま
  にはよもあらし・たゝむかしこひしきなくさ
  めにはかなきことをもきこえん・おなし心に
  いらへなとし給へと・いとこまかにきこへ給へと・
  われにもあらぬさましていと/\うしとおほ
0127【われにもあらぬ】-玉
  いたれは・いとさはかりには見たてまつらぬ御
0128【いとさはかりには】-源氏詞
  心はへをいとこよなくもにくみたまふへか(△&か)める
  かなとなけきたまいてゆめけしきなくて」23ウ
0129【ゆめけしきなくて】-夢ニ気色ナキヨシ
  をとていて給ひぬ・女君も御としこそすく
0130【女君】-玉
  し給ひにたるほとなれ・世中をしりたま
  はぬなかにも・すこしうちよなれたる人の
  ありさまをたに見しりたまはねは・これより
  けちかきさまにもおほしよらす・おもひの
  ほかにもありけるよかなと・なけかしきにいと
  けしきもあしけれは・ひと/\御心ちなや
  ましけに見え給ふと・もてなやみき(△&き)こゆ・
  とのゝ御けしきのこまやかにかたしけなくも
0131【とのゝ】-源
  おはしますかなまことの御おやときこゆとも・」24オ
  さらにかはかりおほしよらぬことなくは・もてな
  しきこえ給はしなと・兵部なともしのひ
0132【兵部なと】-玉乳母
  てきこゆるにつけて・いとゝおもはすに心つき
  なき御心のありさまをうとましう思はて
  たまふにも・身そ心うかりける・またのあし
  た御文とくあり・なやましかりてふし給へれと・
0133【なやましかりて】-玉
  人/\御すゝりなとまいりて・御かへりとくと
  きこゆれは・しふ/\に見たまふ・しろき
  かみのうはへはおひらかに・すく/\しきに・いと
  めてたうかいたまへり・たくひなかりし御けし」24ウ
0134【たくひなかりし】-文詞
  きこそ・つらきしもわすれかたう・いかに
  人見たてまつりけむ
    うちとけてねも見ぬものをわかく
0135【うちとけて】-源し いせ物 ウラワカミねよけにみゆる若草を人のむすはん事をしそ思ふ(古今六帖3548・伊勢物語90、河海抄・花鳥余情・休聞抄・孟津抄・岷江入楚)
  さのことありかほにむすほゝるらむおさな
  くこそものし給ひけれと・さすかにおや
  かりたる御ことはも・いとにくしと見たまひ
  て・御かへり事きこえさらむも・人めあや
  しけれは・ふくよかなるみちのくにかみに・
  たゝうけたまはりぬ・みたり心ちのあしう
  侍れは・きこえさせぬとのみあるに・かやう」25オ
0136【かやうのけしきは】-源
  のけしきは・さすかにすくよかなりと・ほゝ
  ゑみてうらみ所ある心ちしたまふ・うたて
  ある心かな・いろにゐてたまひてのちはおほ
0137【おほたのまつの】-\<朱合点> 六 恋わひておほ田ノ松の大方ハ色にいてゝやあハんとハいはまし(躬恒集358、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
  たのまつのとおもはせたることなく・むつ
  かしうきこえ給ことおほかれは・いとゝところ
0138【いとゝところせきこゝちして】-玉心
  せきこゝちして・をき所なきものおもひ
  つきて・いとなやましうさへし給ふ・かくてこ
  との心しる人はすくなうて・うときもした
  しきも・むけのおやさまに思きこえた
  るを・かうやうのけしきのもりいては・いみ」25ウ
  しう人わらはれにうきなにもあるへきかな・
  ちゝおとゝなとのたつねしり給にても・まめ
  まめしき御心はへにもあらさらむものから・
  ましていとあはつけうまちきゝおほさんこ
  とゝ・よろつにやすけなうおほしみたる・宮・
0139【宮】-蛍
  大将なとは・とのゝ御けしきもてはなれぬ
0140【大将】-ヒケ
  さまにつたへきゝ給うて・いとねんころにき
  こえたまふ・このいはもる中将も・おとゝ
0141【おとゝ】-源
  の御ゆるしを見てこそ・かたよりにほの
  きゝて・まことのすちをはしらす・たゝひとへ」26オ
0142【まことのすち】-兄弟
  にうれしくて・をりたちうらみきこ
  えまとひありくめり」26ウ

【奥入01】かめのうへの山
    蓬莱の心也 楽府
    眼穿不見蓬莱嶋不見蓬莱不敢
    帰童男臥如舟中老徐福更成多
    誑誕(戻)
【奥入02】風生竹夜窓間臥月照松時台上
    行(戻)
【奥入03】和して又きよし
    文集第十九
    早夏朝帰閑斎独処
    四月天気和<ワシテ>且<マタ>清<キヨシ>」27オ
    緑槐陰<カケ>合<アツウテ>沙堤平ナリ(戻)」27ウ

  二交了<朱>」(前遊紙1オ)

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