蛍(大島本) First updated 6/30/2003(ver.1-1)
Last updated 1/11/2007(ver.2-1)
渋谷栄一翻字(C)

  

《概要》
 大島本は、青表紙本の最善本とはいうものの、現状では、後人の筆によるさまざまな本文校訂跡や本文書き入れ注記、句点、声点、濁点等をもつ。そうした現状の様態をそのままに、以下の諸点について分析していく。
1 大島本と大島本の親本復元との関係 鎌倉期書写青表紙本(池田本・伏見天皇本等)を補助的資料として
2 大島本の本文校訂に対校された本文系統
3 大島本の句点の関係
4 大島本の後人書き入れ注記

《書誌》

《翻刻資料》

凡例
1 本稿は、『大島本 源氏物語』(1996(平成8)年5月 角川書店)を翻刻した。よって、後人の筆が加わった現状の本文様態である。
2 行間注記は【 】- としてその頭に番号を記した。
2 小字及び割注等は< >で記した。/は改行を表す。また漢文の訓点等は< >で記した。
3 合(掛)点は、\<朱(墨)合点>と記した。
4 朱句点は「・」で記した。
5 本文の校訂記号は次の通りである。
 $(ミセケチ)・#(抹消)・+(補入)・&(ナゾリ)・=(併記)・△(不明文字)
 ( )の前の文字及び( )内の記号の前の文字は、訂正以前の文字、記号の後の文字が訂正以後の文字である。ただし、なぞり訂正だけは( )の前の文字は訂正後の文字である。訂正以前の本行本文の文字を尊重したことと、なぞり訂正だけは元の文字が判読しにくかったための処置である。
6 朱・墨等の筆跡の相違や右側・左側・頭注等の注の位置は< >と( )で記した。私に付けた注記は(* )と記した。
7 付箋は、「 」で括り、付箋番号を記した。
8 各丁の終わりには」の印と丁数とその表(オ)裏(ウ)を記した。
9 本文校訂跡については、藤本孝一「本文様態注記表」(『大島本 源氏物語 別巻』と柳井滋・室伏信助「大島本『源氏物語』(飛鳥井雅康等筆)の本文の様態」(新日本古典文学大系本『源氏物語』付録)を参照した。
10 和歌の出典については、伊井春樹『源氏物語引歌索引』と『新編国歌大観』を参照し、和歌番号と、古注・旧注書名を掲載した。ただ小さな本文異同については略した。

「ほたる」(題箋)

  いまはかく・おも/\しきほとに・よろつ・の
0001【いまはかく】-源
  とやかにおほししつめたる御ありさまなれは・
  たのみきこえさせ給へる人/\・さま/\に
  つけてみな思ふさまにさたまり・たゝよ
  はしからて・あらまほしくてすくし給ふ・た
0002【たいのひめ君】-玉
  いのひめ君こそ・いとおしく思ひのほかなる
  思ひそひて・いかにせむとおほしみたるめれ・
  かのけむか・うかりしさまにはなすらふへき・
0003【かのけむか】-肥ー大夫ー
  けはひならねと・かゝるすちにかてけも・人の
  思ひよりきこゆへき事ならねは・心」1オ
  ひとつにおほしつゝ・さまことに・うとましと
  おもひきこえ給ふ・なに事をもおほし
  しりにたる御よはひなれは・とさまかうさま
  に・おほしあつめつゝ・はゝ君のおはせすな
0004【はゝ君】-夕かほ
  りにけるくちをしさも・またとりかへし
  おしくかなしくおほゆ・おとゝも・うちい
0005【おとゝ】-源
  てそめ給ひては・なか/\くるしくおほせと・
  人めをはゝかり給ひつゝ・はかなき事をも・
  えきこえ給はす・くるしくもおほさるゝ
  まゝに・しけくわたり給ひつゝ・おまへの人と」1ウ
  をく・のとやかなるおりは・たゝならすけしき
  はみきこえ給ふ・ことにむねつふれつゝ・け
  さやかに・はしたなくきこゆへきにはあらね
  は・たゝみしらぬさまに・もてなしきこえ
  給ふ人さまの・わららかにけちかくものし
0006【わららかに】-にこやかなる心なり
  たまへは・いたくまめたち心し給へと・猶を
  かしくあいきやうつきたるけはひのみみえ
  給へり・兵部卿宮なとは・まめやかにせめき
0007【兵部卿宮】-蛍
  こえ給ふ・御らうの程はいくはくならぬに・
0008【御らう】-労なり
  さみたれになりぬるうれへをし給ひて・す」2オ
0009【さみたれに】-\<朱合点> 信明集 神代よりいむと云なる五月雨の此方に人をみるよしもかな(信明集56、花鳥余情・休聞抄・紹巴抄・孟津抄・花屋抄・岷江入楚) わひつゝもたのむ月日はある物を五月雨にさへ成にける哉(出典未詳、花鳥余情・弄花抄・休聞抄・孟津抄・花屋抄・岷江入楚)
  こしけちかきほとをたにゆるし給はゝ・思
  ふ事をもかたはしはるけてしかなと
  きこえ給へるを・とのこらむしてなにかは・
0010【との】-源
0011【なにかは】-源氏の御詞
  この君たちのすき給はむはみところあり
0012【すき】-数寄
  なむかし・もてはなれてなきこえ給ひそ
  御かへりとき/\きこえ給へとて・をしへて
0013【をしへて】-玉
  かゝせたてまつりたまへと・いとゝうたておほ
  え給へは・みたり心ちあしとてきこえ給は
0014【みたり心ち】-玉
  す・人/\もことに・やむことなくよせおも
  きなとも・おさ/\なし・たゝはゝ君の御」2ウ
0015【はゝ君】-夕
0016【御をち】-ゆふかほのおちなり 舅<ヲチ>
  をちなりける・さい将はかりの人のむすめ
0017【さい将】-三位中将弟
0018【むすめ】-六条院ニテ玉ノ女房達
  にて・心はせなとくちおしからぬか・よにお
  とろへのこりたるを・たつねとり給へる・さい将
0019【さい将の君】-ゆふかほのうへにハいとこなるへし
  の君とて・てなともよろしくかき・おほ
  かたもおとなひたる人なれは・さるへき
  おり/\の御かへりなとかゝせたまへは・めしい
  てゝことはなとの給ひてかゝせ給ふ・もの
  なとのた給ふさまをゆかしとおほすなる
  へし・さうしみは・かくうたてあるものなけかし
  さの後は・この宮なとはあはれけにきこえ」3オ
0020【この宮】-蛍
  給ふときは・すこし見いれ給ふ時もありけ
  り・なにかとおもふに(に+は)あらす・かく心うき御
  けしきみぬわさもかなと・さすかにされ
  たるところつきておほしけり・とのはあいな
0021【とのは】-源
  くをのれ心けそうして・宮をまちきこえ
0022【宮を】-蛍
  給ふもしり給はて・よろしき御かへりの
  あるを・めつらしかりていとしのひやかにお
0023【おはしましたり】-蛍
  はしましたり・つまとのまに御しとねまいら
0024【御しとね】-兵部卿宮の御座をいふなり
  せて・みき丁はかりをへたてにてちかき
  ほとなり・いといたう心してそらたきもの・心」3ウ
  にくきほとに・にほはしてつくろひおはする
  さま・おやにはあらて・むつかしきさかしら
0025【おやにはあらて】-源氏の君の御事なり
  人のさすかにあはれに見えたまふ・さい将の
0026【さい将の君】-女房
  君なとも人の御いらへきこえむ事もお
  ほえす・はつかしくてゐたるを・むもれた
  りと・ひきつみ給へは・いとわりなし・夕
0027【ひきつみ給へは】-宰相ヲ源ノ手ニテ
  やみすきておほつかなき空のけしき
  のくもらはしきに・うちしめりたる宮の御
0028【宮の御けはひ】-蛍
  けはひもいとえむなり・うちよりほのめく
  おひかせもいとゝしき御にほひのたちそひ」4オ
  たれは・いとふかく・かほりみちて・かねておほ
  し(し+し)よりもおかしき御けはひを・心とゝめた
  まひけり・うちいてゝ思ふ心のほとをの給
  ひつゝけたることのは・おとな/\しくひ
  たふるに・すき/\しくはあらていとけはひ
  ことなり・おとゝいとおかしとほのきゝおはす・
0029【おとゝ】-源
  ひめ君はひんかしおもてにひきいりて・
0030【ひめ君】-玉
  おほとのこもりにけるを・さい将の君の御
0031【御せうそこ】-源
  せうそこつたへに・ゐさりいりたるにつけて
  いとあまりあつかはしき御もてなしなり・」4ウ
0032【あつかはしき】-暑
  よろつのことさまにしたかひてこそめやすけ
  れ・ひたふるにわかひ給ふへきさまにもあらす・
0033【わかひ】-若
  この宮たちをさへさしはなちたる人つて
0034【この宮たち】-蛍
  にきこえ給ましきことなりかし・御こゑこそ
  おしみ給ふとも・すこしけちかくたにこそ
  なと・いさめきこえ給へと・ゐとわりな
  くて・ことつけてもはいゝり給ぬへき御
  心はへなれは・とさまかうさまにわひし
  けれは・すへりいてゝ・もやのきはなるみき
  丁のもとに・かたはらふし給へる・なにくれとこと」5オ
  なかき御いらへきこえ給ふこともなく・おほ
  しやすらふに・よりたまひて・みき丁のかた
  ひらをひとへ・うちかけ給ふにあはせて・さと
  ひかるものしそくをさしいてたるかと・あき
0035【しそく】-指炬
  れたり・ほたるをうすきかたにこのゆふつ
0036【うすきかたに】-源 一ハ木丁帷一ハ直衣
  かた・いとおほくつゝみをきてひかりをつゝ
  みかくし給へりけるを・さりけなくとかく
  ひきつくろふやうにて・にわかにかく
  けちえむに・ひかれるにあさましくて・
0037【けちえむに】-掲焉 はれ/\しき心なり
  あふきをさしかくし給へる・かたはらめ」5ウ
0038【あふきを】-玉
  いとおかしけなり・おとろかしきひかりみえ
  は・宮ものそき給なむ・わかむすめとお
0039【わかむすめと】-源
  ほすはかりのおほえに・かくまてのたまふ
  なめり・人さまかたちなといとかくしも・く
  したらむとはえをしはかり給はし・いとよく
  すき給ひぬへき・心まとはさむと・かまへあ
  りき給ふなりけり・まことのわかひめ君
0040【まことのわかひめ君】-これハ作者の詞也明石の姫君ナリ
  をは・かくしも・もてさはき給はし・うたて
  ある御心なりけり・こと方よりやをらすへ
  りいてゝ・わたり給ひぬ・宮は人のおはする」6オ
0041【人のおはする】-玉
  ほと・さはかりとをしはかり給ふか・すこし
  けちかきけはひするに・御心ときめき
  せられ給ひて・えならぬうすものゝかたひ
  らのひまより見いれ給へるに・ひとまはかり
  へたてたる・みわたしに・かくおほえなき
  ひかりのうちほのめくを・おかしと見た
  まふ・程もなく・まきらはして・かくしつ
  されと・ほのかなるひかり・えむなることの
  つまにもしつへくみゆ・ほのかなれと・そひ
  やかにふし給へりつるやうたいのおかしかり」6ウ
  つるを・あかすおほして・けにこのこと・御心
  にしみにけり
    なくこゑもきこえぬむしの思ひたに
0042【なくこゑも】-蛍宮
  人のけつにはきゆるものかはおも(おも&おも)ひしり給
  ひぬやときこえ給ふ・かやうの御かへしを・思
  まはさむも・ねちけたれは・ときはかりをそ
0043【ときはかり】-早
    声はせて身をのみこかすほたるこそ
0044【声はせて】-玉かつら
  いふよりまさるおもひなるらめなとはかな
  くきこえなして・御みつからはひきいり
  給ひにけれは・いとはるかに・もてなし給ふ・うれ」7オ
  はしさを・いみしくうらみきこえ給ふ・す
  きすきしきやうなれは・ゐたまひもあか
  さて・のきのしつくもくるしさに・ぬれ/\
  よふかくいて給ひぬ・ほとゝきすなとかなら
0045【よふかく】-\<朱合点> 古今 五月雨に物おもひおれハほとゝきす夜ふかく鳴ていつち行らん(古今153・新撰万葉47・古今六帖4441・友則集10・寛平后宮歌合54、紫明抄・河海抄・花鳥余情・細流抄・紹巴抄・孟津抄) 郭公模兵部卿
  すうちなきけむかし・うるさけれはこそきゝ
0046【うるさけれは】-作者詞
  もとめね・御けはひなとのなまめかしさは・い
0047【御けはひ】-蛍
  とよくおとゝの君に・にたてまつり給へりと・
0048【おとゝの君ににたてまつり給へりと】-源兄弟
  人/\もめてきこえけり・よへいと・めおやた
0049【めおやたちて】-如母ー
  ちて・つくろひ給ひし御けはひを・うち/\
  はしらて・あはれにかたしけなしとみない」7ウ
  ふ・ひめ君はかくさすかなる御けしきを・
0050【ひめ君】-玉
  わか身つからのうさそかし・おやなとにし
0051【わか身つからの】-古今 わかみからうき世中と嘆つゝ人のためさへかなしかるらん(古今960、源氏釈・異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
  られたてまつり・よのひとめきたるさまにて・
  かやうなる御心はへならましかは・なとかはいと
  にけなくもあらまし・人にゝぬありさま
  こそ・つゐによかたりにやならむと・おき
  ふしおほしなやむ・さるはまことにゆかしけ
  なきさまには・もてなしはてしと・おと
0052【おととは】-源
  とはおほしけり・なをさる御心くせなれは・
  中宮なともいとうるはしくや思ひきこえ」8オ
0053【中宮】-秋ー
  給へる・ことにふれつゝたゝならすき(き+こ)えう
  こかしなとし給へと・やむことなき方のを
  よひなく・わつらはしさに・おりたちあら
  はしきこえより給はぬを・この君は人の御
  さまもけちかく・いまめきたるに・をのつから
  おもひしのひかたきにおり/\・人みたてま
  つりつけは・うたかひおひぬへき御もてなし
0054【うたかひ】-源与玉
  なとは・うちましるわさなれと・ありかたく
  おほしかへしつゝ・さすかなる御なかなり
  けり・五日にはむまはのおとゝにいて給けるつ」8ウ
0055【むまは】-六条院東向競馬有今日
0056【おとゝ】-殿
0057【いて給ける】-源
  いてにわたり給へり・いかにそや宮は夜やふ
0058【わたり給へり】-玉方へ
0059【いかにそや】-源詞
0060【宮は】-蛍
0061【夜やふかし給ひし】-光夜事
  かし給ひし・いたくもならしきこえし・わつ
0062【ならしきこえし】-なれたる也
  らはしきけそひ給へる人そや・ひとの心
  やふりものゝあやまちすましき人は・かた
  くこそありけれなと・いけみころしみ・いまし
  めおはする御さまつきせす・わかくきよけ
0063【御さま】-源
  に見え給・つやも色もこほるはかりなる御
0064【つやも】-厳又光
  そに・なをし・はかなく・かさなれるあはひ
  も・いつこに・くはゝれるきよらにかあらむ・こ
  のよの人のそめいたしたると見(見&見)えす・つね」9オ
  の色もかへぬあやめも・けふはめつらかにおか
  しくおほゆるかほりなとも・思ふ事なくは
  おかしかりぬへき御ありさまかなと・ひめ君
0065【ひめ君】-玉
  おほす・宮より御ふみあり・しろきうすやう
0066【宮より】-蛍
0067【しろきうすやう】-菖蒲根色
  にて・御てはいとよしありてかきなし給へり・みる
  ほとこそおかしけれ・まねひいつれは・ことなる
  ことなしや
    けふさへやひく人もなきみかくれに
0068【けふさへや】-蛍兵部卿
  おふるあやめのねのみなかれんためしにも・
0069【なかれん】-泣
0070【ためしにも】-\<朱合点> 水かくれておふる五月のあやめ草なかきためしに人ハ引なん 貫之(続古今229、花鳥余情・休聞抄・紹巴抄・孟津抄・花屋抄・岷江入楚)
  ひきいてつへき(き+ね)にむすひつけ給へれは・けふ」9ウ
0071【けふの御かへり】-源詞
  の御かへりなと・そゝのかしをきていて給ひぬ・
0072【いて給ひぬ】-源
  これかれも・なをときこゆれは・御心にもいかゝ
  おほしけむ
    あらはれていとゝあさくもみゆるかなあや
0073【あらはれて】-玉かつら返し
  めもわかすなかれけるねのわか/\しくと
0074【なかれける】-泣
  はかりほのかにそあめる・てをいますこしゆ
  へつけたらはと・宮はこのましき御心に・いさゝか
0075【宮は】-蛍
  あかぬことゝみたまひけむかし・くすたまな
0076【あかぬ】-不足
0077【くすたま】-続命縷
  と・えならぬさまにて・所/\よりおほかりお
  ほししつみつるとしころのなこりなき御」10オ
  ありさまにて・こゝろゆるひ給ふ事もおほ
0078【ゆるひ】-ゆる/\しき也
  かるに・おなしくは・人のきすつくはかりの
  ことなくても・やみにしかなと・いかゝおほさゝ
  らむ・とのはひむかしの御方にも・さしの
0079【とのは】-源
0080【ひむかしの御方】-花ー
  そき給ひて・中将のけふのつかさのて
0081【中将のけふのつかさ】-夕霧の中将左近なるゆへにいへり
0082【てつかひ】-手給ハ左近衛手給也五月五日にあたれり
  つかひのついてに・をのこともひきつれ
  て・ものすへきさまにいひしを・さる心し
  給へまたあかきほとにきなむものそ・あ
  やしくこゝにはわさとならす・しのふること
  をもこのみこたちのきゝつけて・とふらひも」10ウ
  のし給へは・をのつからこと/\しくなむある
  を・ようゐしたまへなときこえ給ふ・むまは
  のおとゝは・こなたのらうよりみとおすほと
0083【おとゝは】-殿
  とをからす・わかき人々・わたとのゝとあけ
  てものみよや・左のつかさにいとよしある
  官人おほかるころなり・せう/\の殿上人に
0084【官人】-将監将曹府生をいへり
  おとるましとのたまへは・ものみむことを・
  いとおかしとおもへり・たいの御方よりも・わら
0085【たいの御方】-玉
  はへなともの見にわたりきて・らうのとくち
  に・みすあをやかにかけわたしていまめきたる」11オ
  すそこのみき丁ともたてわたし・わらは
0086【すそこ】-末濃
  しもつかへなとさまよふ・さうふかさねのあこ
0087【さうふかさね】-玉 面青裏濃紅梅
  め・ふたあひのうすものゝかさみきたるわら
  はへそ・にしのたいのなめる・このましく
  なれたるかきり四人・しもつかへは・あふちの
0088【あふちのすそこ】-面うす色裏青也末濃ハすそを紫に染也
  すそこの裳・なてしこのわかはのいろし
0089【なてしこのわかは】-面蘇芳裏一説面紅梅裏青也
  たるからきぬ・けふのよそひともなり・こな
0090【こなたの】-花
  たの(の+は<朱>)こきひとかさねに・なてしこかさね
  のかさみなと・おほとかにて・をの/\いとみ
  かほなるもてなしみところあり・わかやか」11ウ
  なる殿上人なとは・めをたてゝけしきはむ・
  ひつしの時に・むまはのおとゝにいて給ひ
  て・けにみこたちおはしつとひたり・てつか
0091【てつかひ】-手番
  ひのおほやけことには・さまかはりて・す
0092【すけたち】-次将
  けたちかきつれまいりて・さまことにいまめ
  かしくあそひくらし給ふ・女はなにのあ
  やめもしらぬことなれと・とねりともさへ
0093【とねり】-近衛随身
  えむなるさうそくを・つくして・身をなけ
0094【えむなる】-艶也
0095【身をなけたる】-身捨勝負する也
  たる・てまとはしなとを・みるそおかしかり
0096【てまとはし】-手
  ける・みなみのまちもとをして・はる/\と」12オ
0097【みなみのまち】-紫
  あれは・あなたにもかやうのわかき人ともはみ
0098【あなたにも】-紫
  けり・打毬楽らくそむなとあそひて・かち
0099【らくそむ】-楽
  まけのらさうとも・のゝしるも・よにいりは
0100【らさう】-乱声勝方大鼓等打
  てゝ・なに事もみえすなりはてぬ・とねり
0101【とねり】-舎人
  とものろくしな/\給はる・いたくふけて・ひと
  ひとみなあかれ給ひぬ・おとゝはこなたに・
0102【あかれ】-別
0103【こなたに】-花ちる里
  おほとのこもりぬ・物かたりなときこえ給
  て・兵部卿宮の人よりはこよなくものし
0104【兵部卿宮】-蛍
  給かな・かたちなとはすくれねと・ようゐけ
  しきなとよしあり・あいきやうつきたる」12ウ
  君なり・しのひてみたまひつや・よしとい
0105【しのひてみたまひつや】-花ー
  へと・なをこそあれとのたまふ・御おとうとに
0106【御おとうとに】-花ー詞 弟源歳
  こそものし給へと・ねひまさりてそみえ給
  ひける・としころかくおりすくさす・わたり
  むつひきこえ給ふときゝ侍れと・むかし
  の内わたりにて・ほのみたてまつりし後・おほ
  つかなしかし・いとよくこそかたちなと・ね
  ひまさり給ひにけれ・そちのみこ・よく
0107【そちのみこ】-帥兄弟
  ものしたまふめれと・けはひおとりておほ
0108【おほ君】-王
  君けしきにそ・ものし給ひけるとのた」13オ
  まへは・ふとみしりたまひにけりと・おほせと
0109【おほせと】-源
  ほゝゑみてなをあるを・よしとも・あしとも
  かけ給はす・人のうへを・なむつけおとしめ
  さまの事いふ人をは・いとおしきものにした
  まへは・右大将なとをたに・心にくき人にす
0110【右大将】-鬚
  めるを・なにはかりかはある・ちかきよすかに
0111【ちかきよすか】-玉与鬚
  てみむは・あかぬ事にやあらむとみたまへ
0112【みたまへと】-源
  と・ことにあらはしてものたまはす・いまはた
0113【ことに】-言
  たおほかたの御むつひにて・おましなとも・
0114【おまし】-座
  こと/\にて・おほとのこもる・なとてかくはな」13ウ
0115【こと/\にて】-各別
0116【なとてかくは】-源独言
  れそめしそと・殿はくるしかり給ふ・おほかた
0117【おほかたなにやかやとも】-花ー心
  なにやかやとも・そはみきこえ給はて・と
  しころかくおりふしにつけたる御あそひとも
  を・人つてに見きゝ給ひけるに・けふめつ
  らしかりつることはかりをそ・このまちのお
  ほえきら/\しと・おほしたる
    そのこまもすさめぬ草となにたてる
0118【そのこまも】-花ちる 催馬曲 拾 おふれとも駒もすさめぬあやめ草かりにも人のこぬかわひしき 躬恒(拾遺集768・拾遺抄275・躬恒集274、河海抄)
  みきはのあやめけふやひきつるとおほと
0119【みきはのあやめ】-我事云
  かにきこえ給・なにはかりの事にもあらね
  と・あはれとおほしたり」14オ
    にほとりにかけをならふるわかこまは
0120【にほとりに】-源氏 菖蒲似たれともこもハおとりたる心也
0121【わかこまは】-若薦也五音通する也駒くらへの日なる故也
  いつかあやめにひきわかるへきあいたちなき
0122【あいたちなき】-無アイたちハ詞也ありのまゝ両方よみ給へハ思き也
  御事ともなりや・あさゆふのへたてあるやうな
  れと・かくてみたてまつるは・心やすくこそ
  あれ・たはふれ事なれと・のとやかにおは
  する人さまなれは・しつまりてきこえなし
  給ふ・ゆかをはゆつりきこえ給ひて・みき
  丁ひきへたてゝ・おほとのこもる・けちかくな
  とあらむすちをは・いとにけなかるへきす
  ちに思ひはなれはてきこえ給へれは・あ」14ウ
  なかちにもきこえ給はす・なかあめれいの
  としよりも・いたくして・はるゝかたなく・
  つれ/\なれは・御方/\ゑものかたりなとの
  すさひにて・あかしくらし給ふ・あかしの御
  かたはさやうのことをもよしありてしなし
  給て・ひめ君の御方にたてまつり給ふ・にし
0123【ひめ君の御方】-明ー中
0124【にしのたいには】-玉
  のたいには・ましてめつらしくおほえ給ことの
  すちなれは・あけくれかきよみいとなみ
  おはす・つきなからぬわか人あまたあり・
  さま/\にめつらかなる人のうへなとを・ま」15オ
  ことにや・いつはりにや・いひあつめたる中に
  も・わかありさまのやうなるはなかりけり
0125【わかありさま】-玉
  とみたまふ・すみよしのひめ君のさしあた
0126【みたまふ】-給事
0127【さしあたりけむおりは】-当時
  りけむおりはさるものにて・いまのよのおほえ
  もなを心ことなめるに・かそへのかみか・ほと/\
0128【かそへのかみ】-頭
0129【ほと/\】-\<合点> 驚/\ 拾 宮つくるひたのたくみのてをのをとほと/\しかるめをも見しかな(拾遺集1226、河海抄・紹巴抄・孟津抄・孟津抄・岷江入楚)
  しかりけむなとそ・かのけむかゆゝしさをおほ
  しなすらへ給ふ・とのもこなたかなたに・
  かゝるものとものちりつゝ御めにはなれね
0130【かゝるものとも】-絵双紙
  は・あなむつかし・女こそものうるさからす・人
0131【女こそ】-源詞
  にあさむかれむとむまれたるものなれ・」15ウ
  こゝらのなかにまことは・いとすくなからむを・
  かつしる/\・かゝるすゝろ事に・心をうつし
0132【心をうつしはかられ給ひて】-タハカル
  はかられ給ひて・あつかはしき・さみたれの
0133【さみたれのかみのみたるゝ】-\<朱合点> 拾 時鳥をちかへりなけうなゐこかさみたれかみの五月雨の比 躬恒(拾遺集116・寛平中宮歌合・躬恒集164、源氏釈・異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
  かみのみたるゝもしらてかき給ふよとて・
0134【かき給ふよ】-玉双紙
  わらひ給ものから・またかゝるよのふる事
  ならては・けになにをかまきるゝことなきつ
  れつれをなくさめまし・さてもこのいつ
0135【このいつはりとも】-絵
  はりとものなかに・けにさもあらむとあは
  れをみせ・つき/\しく・つゝけたるはた・は
  かなしことゝしりなから・いたつらに心うこき・ら」16オ
  うたけなるひめ君のものおもへるみるにかた
0136【ひめ君】-住吉
  心つくかし・またいとあるましき事かなと・
  見る/\おとろ/\しく・とりなしけるか
  めおとろきて・しつかにまたきくたひそ
  にくけれと・ふとおかしきふし・あらはなる
  なともあるへし・このころおさなき人の
0137【このころ】-源
  女はうなとに・時/\よまするをたちきけ
  は・ものよくいふものゝよにあるへきかな・そ
  らことをよくしなれたるくちつきよりそ・
  いひいたすらむとおほゆれと・さしもあら」16ウ
  しやとのたまへは・けにいつはりなれたる人
  や・さま/\にさもくみ侍らむ・たゝ(ゝ+いと)まことのこ
0138【くみ侍らむ】-心を汲知
  とゝこそ・思ふ給へられけれとて・すゝりをゝし
  やり給へは・こちなくもきこえおとしてける
  かな・神よゝり世にあることをしるしをきける
  なゝり・日本記なとはたゝかたそはそかし・こ
  れらにこそみち/\しくくはしき事
  はあらめとてわらひ給ふ・その人のうへとて・
  ありのまゝにいひいつる事こそなけれ・よき
  もあしきも・世にふる人のありさまのみる」17オ
  にもあかす・きくにもあまることを・後の世に
  も・いひつたへさせまほしきふし/\を・心に
  こめかたくて・いひをきはしめたるなり・よき
  さまにいふとては・よき事のかきりえりい
  てゝ人にしたかはむとては・又あしきさま
  のめつらしき事を・とりあつめたる・みなか
  たかたにつけたる・このよのほかのことならす
  かし・人のみかとのさ(さ&さ)えつくりやうかはる・
0139【人のみかと】-唐朝書籍皆才人作也
0140【さえ】-才
0141【つくりやう】-作ナリ
  おなしやまとのくにのことなれは・むかしいま
  のにかはるへし・ふかきこと・あさき事の」17ウ
  けちめこそあらめ・ひたふるにそら事と・
  いひはてむも・ことの心たかひてなむあり
  ける・ほとけのいとうるはしき心にて・ときを
  き給へる御法も・はうへむといふ事あり
  て・さとりなきものは・こゝかしこ・たかふ・うた
  かひを・ゝきつへくなん・はうとう経の中
  におほかれと・いひもてゆけは・ひとつむねに
0142【ひとつむねに】-五時諸経是帰法帰一実道理
  ありて・ほたいとほむなうとのへたゝりな
  む・この人のよきあしきはかりの事は
  かはりける・よくいへは・すへてなに事もむ」18オ
  なしからすなりぬやと・ものかたりをいと
  わさとのことに・のたまひなしつ・さてかゝるふ
  る事の中にまろかやうに・しほうなる・
0143【まろかやうに】-丸男女乃通称也
  しれものゝ物語はありや・いみしくけとをき
  ものゝひめ君も・御心のやうにつれなく・そ(そ+ら)
0144【御心のやう】-玉ー
  おほめきしたるは・よにあらしな・いさたくひ
  なきものかたりにして・世につたへさせんと
  さしよりてきこえ給へは・かほゝひきいれ
  て・さらすとも・かくめつらかなる事は・よかた
0145【さらすとも】-玉かつら
  りにこそは・なり侍ぬへかめれとのたまへは・め」18ウ
0146【めつらかに】-源氏
  つらかにやおほえ給・けにこそまたなき心ち
  すれとて・よりゐたまへるさま・いとあされたり
    思ひあまりむかしのあとをたつぬれと
0147【思ひあまり】-源氏
  おやにそむけるこそたくひなきふけう
0148【ふけう】-不孝
  なるは・ほとけのみちにもいみしくこそい
  ひたれとのたまへと・かほもゝたけ給はねは・
  御くしをかきやりつゝ・いみしくうらみ給へ
  は・からうして
    ふるきあとをたつぬれとけになかなりけり
0149【ふるきあとを】-玉かつら返し
  このよにかゝるおやの心はときこえ給も・」19オ
0150【このよにかゝるおや】-子によそへたり
  心はつかしけれは・いといたくもみたれ給はす・
0151【心はつかしけれは】-源
  かくしていかなるへき御あれさまならむ・むら
  さきのうへもひめ君の御あつらへにことつ
0152【ひめ君】-明ー中
  けて・物かたりはすてかたくおほしたり・
  くまのゝものかたりのゑにてあるを・いと
  よくかきたるゑかなとてこらむす・ちゐ
0153【こらむす】-紫
  さき女君のなに心もなくて・ひるねした
  まへる所を・むかしのありさま・おほしいてゝ・
  女君はみたまふ・かゝるわらはとちたに・いかに
0154【かゝるわらはとち】-絵
  されたりけり・まろこそなをためしにしつ」19ウ
  へく・心のとけさは・人にゝさりけれと・きこえ
  いて給へり・けにたくひおほからぬ事とも
0155【けにたくひ】-源詞
0156【たくひ】-コマ物ー
  は・このみあつめ給へりけりかし・ひめ君の御
0157【ひめ君】-明ー中
  まへにて・このよなれたるものかたりなとな・
  よみきかせ給ひそ・みそか心(心&心)つきたるも
0158【みそか心】-密
  のゝむすめなとは・おかしとにはあらねと・かゝる
  事・よにはありけりと・みなれ給はむそ・ゆゝ
0159【みなれ】-耳
  しきやとのたまふもこよなしと・たい
  の御方きゝ給はゝ・心をき給ひつへくなむ・
  うへ(うへ&うへ)・心あさけなる人まねともは・みるにも」20オ
  かたはらいたくこそ・うつほのふちはら君の
0160【うつほの】-空
  むすめこそ・いとおもりかにはか/\しき人
  にて・あやまちなかめれと・すくよかにいひいて
0161【いひいてたる】-あて宮哥
  たる(る+事も<朱>)しわさも・女しき所なかめるそ・ひとやうな
0162【ひとやう】-一様
  めるとのたまへは・うつゝの人もさそあるへかめ
0163【うつゝの人も】-源詞
  る・ひと/\しく・たてたるおもむき・ことに
  てよきほとに・かまへぬや・よしなからぬお
  やの心とゝめて・おほしたてたる人のこめかし
0164【こめかしき】-おさなかまし
  きをいけるしるしにて・をくれたる事おほ
  かるは・なにわさして・かしつきしそと・おや」20ウ
  のしわさゝへ・おもひやらるゝこそ・いとをしけ
  れ・けにさいへと・その人のけはひよとみえ
  たるはかひあり・おもたゝしかし・ことはの
  かきり・まはゆく・ほめをきたるにしいてたる
  わさいひいてたることのなかに・けにとみえ
  きこゆる・事なき・いと見をとりするわさ
  なり・すへてよからぬ人に・いかてひとほめ
  させしなと・たゝこのひめ君の・てむつか
0165【このひめ君】-明ー中
  れ給ふましくと・よろつにおほしのた
  まふ・まゝはゝのはらきたなき・むかしもの」21オ
0166【まゝはゝの】-紫
  かたりもおほかるを(を+此比<朱>)心みえに・心つきなし
  とおほせは・いみしくえりつゝなむ・かきとゝ
  のへさせ・ゑなとにもかゝせ給ひける・中将の
0167【中将の君】-夕
  君をこなたには・けとをく・もてなしきこ
0168【こなたには】-紫
  え給へれと・ひめ君の御方には・さしも・さし
0169【ひめ君の御方】-明ー
  はなちきこえ給はす・ならはし給ふ・わか
0170【わかよ】-源
  よの程は・とてもかくても・おなしことなれと・
  なからむよを思ひやるに・なをみつきおも
  ひしみぬる事ともこそ・とりわきては・お
  ほゆへけれとて・みなみおもての・みすのうち」21ウ
  はゆるし給へり・たいはむ所女はうのなか
  はゆるし給はす・あまたおはせぬ御なから
  ひにて・いとやむことなく・かしつききこ
  え給へり・おほかたの心もちゐなとも・いと
  もの/\しく・まめやかにものし給ふき
  みなれは・うしろやすくおほしゆつれり・
  またいはけたる・御ひゝなあそひなとの・け
0171【御ひゝなあそひなとの】-明ー
  はひの見ゆれは・かの人のもろともに
0172【見ゆれは】-夕ー心
  あそひて・すくしゝ・とし月のまつ思ひいてら(△&ら)
  るれは・ひゐなのとのゝみやつかへ・いとよくし」22オ
  給ひて・おり/\にうちしほたれ給けり・さも
  ありぬへきあたりには・はかなしことも・のた
  まひふるゝは・あまたあれと・たのみかくへく
  もしなさす・さるかたになとかは・みさらむと・
  心とまりぬへきをも・しゐて・なをさり事
  にしなして・なをかのみとりのそてを・みえ
0173【みえなをして】-雲ー
  なをしてしかなと・思ふ心のみそやむこと
  なきふしにはとまりける・あなかちに・なと
  かゝつらひまとはゝたふるゝ方に・ゆるし
0174【ゆるし給ひも】-致ーノ
  給ひもしつへかめれと・つらしとおもひし」22ウ
  おり/\・いかて人にも・ことはらせたてまつら
  むと・おもひをきしわすれかたくて・さうし
0175【さうしみ】-雲ー
  みはかりには・をろかならぬあはれをつくし
  みせて・おほかたには・いられおもへらす・せうと
0176【いられ】-いら/\しく
0177【せうとの君たち】-雲兄弟
  の君たちなとも・なまねたしなとのみ
  おもふことおほかり・たいのひめ君の御あり
0178【たいのひめ君】-玉
  さまを・右中将は・いとふかく思ひしみて・い
0179【右中将】-柏
  ひよるたよりも・いとはかなけれは・この君
  をそ・かこちよりけれと・ひとのうへにては・
  もとかしきわさなりけりと・つれなくいら」23オ
  へてそ・ものし給ひける・むかしのちゝおとゝ
0180【むかしの】-詞
0181【ちゝおとゝたちの御なからひ】-源 致ー
  たちの・御なからひににたり・内のおとゝは・御
0182【内のおとゝ】-致ー
  こともはら/\いとおほかるに・そのおひいてたる
  おほえ・人からにしたかひつゝ・心にまかせたる
  やうなるおほえ・(え+御)いきほひにて・みななしたて
0183【なしたて給ふ】-成人
  給ふ・女は・あまたもおはせぬを・女御もかくおほ
0184【女御】-絵合セシ人
0185【かくおほしゝこと】-后立事絵ー
  しゝことの・とゝこほり給ひ・ひめ君も・かくこと
0186【ひめ君】-雲ー
0187【ことたかふ】-夕ーノ事
  たかふさまにて・ものしたまへは・いとくちおしと
  おほす・かのなてしこをわすれ給はす・ものゝ
0188【かのなてしこを】-致ー心 玉
  おりにも・かたりいて給ひしことなれは・いかにな」23ウ
  りにけむ・ものはかなかりける・おやの心にひかれ
0189【おやの心に】-夕顔
  て・らうたけなりしひとを・行ゑしらすな
  り(り+に)たること・すへて女こといはむものなん・いか
  にもいかにも・めはなつましかりける・さかしら
  に・わかこといひて・あやしきさまにて・はふれ
  やすらむ・とてもかくても・きこえいてこは
  と・あはれにおほしわたる・君たちにももし・
0190【君たちにも】-致ー子達詞
  さやうなるなのりする人あらは・みゝとゝめ
  よ・心のすさひにまかせて・さるましき事
  も・おほかりし中に・これはいとしかをし」24オ
  なへてのきはにも・おもはさりし人のはか
  なきものうむしをして・かくすくなかり
0191【ものうむしをして】-夕顔 慍<イカル>うらみたる心也
0192【すくなかりける】-便
  けるものゝくさはひひとつを・うしなひ
  たることのくちおしき事と・つねにのたま
  ひいつ・なかころなとはさしもあらす・うちわ
  すれ給ひけるを・人のさま/\につけて・おんな
0193【人の】-源
  こかしつきたまへる・たくひともに・わかおもほ
0194【たくひともに】-玉明ー中等
  すにしも・かなはぬかいと心うく・ほいなく
  おほすなりけり・夢みたまひて・いとよくあ
0195【夢みたまひて】-致
  はするものめ(△&め)してあはせ給ひけるに・もし」24ウ
  としころ御心にしられ給はぬ・御こを人のものに
  なして・きこしめしいつることやと・きこえ
  たりけれは・女この・人のこになる事は・おさ
  おさなしかし・いかなる事にかあらむなと・こ
  のころそおほしのたまふへかめる」25オ

  イ本
  胡蝶同年事也竪並也以哥并詞為巻名
  六条院卅六歳五月事在之
   任大殿御意加首筆者也 良鎮」(後遊紙1ウ)

  二校<朱>」(表表紙蓋紙)

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