《概要》
大島本は、青表紙本の最善本とはいうものの、現状では、後人の筆によるさまざまな本文校訂跡や本文書き入れ注記、句点、声点、濁点等をもつ。そうした現状の様態をそのままに、以下の諸点について分析していく。
1 大島本と大島本の親本復元との関係 鎌倉期書写青表紙本(池田本・伏見天皇本等)を補助的資料として
2 大島本の本文校訂に対校された本文系統
3 大島本の句点の関係
4 大島本の後人書き入れ注記
《書誌》
《翻刻資料》
凡例
1 本稿は、『大島本 源氏物語』(1996(平成8)年5月 角川書店)を翻刻した。よって、後人の筆が加わった現状の本文様態である。
2 行間注記は【 】- としてその頭に番号を記した。
2 小字及び割注等は< >で記した。/は改行を表す。また漢文の訓点等は< >で記した。
3 合(掛)点は、\<朱(墨)合点>と記した。
4 朱句点は「・」で記した。
5 本文の校訂記号は次の通りである。
$(ミセケチ)・#(抹消)・+(補入)・&(ナゾリ)・=(併記)・△(不明文字)
( )の前の文字及び( )内の記号の前の文字は、訂正以前の文字、記号の後の文字が訂正以後の文字である。ただし、なぞり訂正だけは( )の前の文字は訂正後の文字である。訂正以前の本行本文の文字を尊重したことと、なぞり訂正だけは元の文字が判読しにくかったための処置である。
6 朱・墨等の筆跡の相違や右側・左側・頭注等の注の位置は< >と( )で記した。私に付けた注記は(* )と記した。
7 付箋は、「 」で括り、付箋番号を記した。
8 各丁の終わりには」の印と丁数とその表(オ)裏(ウ)を記した。
9 本文校訂跡については、藤本孝一「本文様態注記表」(『大島本 源氏物語 別巻』と柳井滋・室伏信助「大島本『源氏物語』(飛鳥井雅康等筆)の本文の様態」(新日本古典文学大系本『源氏物語』付録)を参照した。
10 和歌の出典については、伊井春樹『源氏物語引歌索引』と『新編国歌大観』を参照し、和歌番号と、古注・旧注書名を掲載した。ただ小さな本文異同については略した。
「みゆき」(題箋)
かくおほしいたらぬことなく・いかてよからむ
0001【かくおほしいたらぬ】-玉
0002【いかてよからむ】-\<朱合点>
ことはと・おほしあつかひ給へと・このをとなし
0003【このをとなしのたき】-\<朱合点> 「とにかくに人めつゝみをゝ(ゝ$せ)きかねて/したになかるゝをとなしの瀧」(付箋01 出典未詳、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄) いかにしてイカヽよからん小野山の上よりおつる音なしのたき(出典未詳、河海抄・弄花抄・一葉抄・細流抄・紹巴抄・岷江入楚)
のたきこそ・うたていとおしく・みなみのうへ
0004【みなみのうへ】-紫
の御をしはかり・ことにかなひて・かる/\しかるへ
き御なゝれ・かのおとゝなにことにつけても・き
0005【かのおとゝ】-致ー
はきはしうすこしもかたはなるさまの
ことを・おほししのはすなとものしたまふ・御
心さまをさて思ひくまなくけさやかなる
御もてなしなとのあらむにつけては・おこかまし
うもやなと・おほしかへさふ・そのしはすに大原」1オ
0006【大原野の行幸】-醍醐御門延長六ー十二月五日大原行幸
野の行幸とて・よにのこる人なくみさは
くを・六条院よりも・御かた/\ひきいてつゝ
みたまふ・うの時にいてたまうて・朱雀より
五条のおほちをにしさまにおれたまふ・かつ
らかはのもとまて・物見くるまひまなし・行
幸といへと・かならすかうしもあらぬを・けふは
みこたち・かむたちめもみな心ことに・御むま
くらをとゝのへ・すいしんむまそひの・かたち
たけたち・さうそくを・かさりたまふつゝ・めつ
0007【たけたち】-セイ高
らかにおかし・左右大臣・内大臣・納言より・しも」1ウ
はた・ましてのこらすつかうまつり給へり・あ
を色のうへのきぬ・ゑひそめのしたかさねを・
殿上人五位六位まてきたり・雪たゝいさゝ
かつゝうちゝりて・みちのそらさへえむなり・
みこたち・かむたちめなとも・たかにかか
つらひたまへるは・めつらしきかりの御よそ
ひともを・まうけ給・このゑのたかゝいとも
0008【まうけ】-儲ナリ
は・ましてよにめなれぬすり衣をみたれき
0009【めなれぬすり衣】-左鷹飼ハ赤白鶴ハミノ摺衣右青白橡三公卿ミナ布狩衣ニ摺文アリ付餌袋巻冠姿
つゝ・けしきことなり・めつらしうおかしき
ことにきをひいてつゝ・その人ともなく・かす」2オ
かなるあしよはきくるまなとわを・おしひ
しかれ・あはれけなるもあり・うきはしのもと
なとにも・このましうたちさまよふ・よきく
るまおほかり・にしのたひのひめきみも・た
0010【にしのたひのひめきみ】-玉
ちいてたまへり・そこはく・いとみ・つくし給
へる人の御かたちありさまをみ給に・みかとの
あか色の御そたてまつりて・うるはしう・うこ
きなき御かたはらめに・なすらひきこゆへ
き人なし・わかちゝおとゝを・人しれす・めをつ
けたてまつり給へと・きら/\しう物きよけに」2ウ
さかりにはものしたまへと・かきりありかし・いと
人にすくれたる・たゝ人とみえて・御こしのうち
よりほかに・めうつるへくもあらす・ましてかた
ちありや・おかしやなと・わかきこたちのき
えかへり心うつす・中少将なにくれの殿上人
やうの人は・なにゝもあらすきえわたれるは・
さらにたくひなうおはしますなりけり・源氏の
おとゝの御かほさまは・こと物ともみえ給はぬを・お
おもひなしのいますこし・いつかしうかたしけ
なく・めてたきなり・さはかゝるたくひは・おはし」3オ
かたかりけり・あてなる人はみな物きよけにけ
はひことなへい物とのみ・おとゝ・中将なとの御に
0011【おとゝ】-源
0012【中将】-夕
ほひにめなれ給へるを・いてきえともの・か
たはなるにやあらむ・おなしめはなともみえ
す・くちおしうそをされたるや・兵部卿宮
0013【兵部卿宮】-蛍
もおはす・右大将のさはかりをもりかに・よし
0014【右大将】-ヒケ
めくもけふのよそひいとなまめきて・やなく
0015【やなくひ】-箙
ひなと・おひてつかうまつり給へり・いろくろ
く・ひけかちにみえて・いと心月なし・いかて
かは(は+女の<朱>)つくろひたてたるかほの色あひにはにた」3ウ
らむ・いとわりなきことを・わかき御心地には・見を
としたまうてけり・おとゝの君のおほしより
ての給ことを・いかゝはあらむ宮つかへは心にもあ
0016【宮つかへは】-玉
らて・みくるしきありさまにやとおもひつゝ
み給うを・なれ/\しきすちなとをは・もて
はなれておほかたにつかうまつり御らむせら
れんは・おかしうもありなむかしとそ思より
たまうける・かうてのにおはしましつきて・御こ
しとゝめ・かむたちめのひらはりに物まいり・御さう
0017【ひらはり】-アクノ座
そくとも・なをし・かりのよそひなとにあらた」4オ
め給ほとに・六条院より御みき・御くた物なと
0018【六条院より】-模延長六ー六条院ハ宇多御門也今ハ源ー
たてまつらせ(△&せ)給へり・けふつかうまつり給へて(て$く<朱>)・か
ねて御けしきありけれと・御物いみのよしを
そうせさせ給へりけるなりけり・くら人の右(右$左<朱>)
0019【左衛門のせうを】-是ハ模延長四ー小野行幸
衛門のせうを御つかひにて・きしひとえたた
0020【ひとえた】-梅作枝紅葉等ヲシ折也不付一双産所へ遣根引松雀付竹
てまつらせたまふ・おほせことにはなにとかや・
さやうのおりのこと・まねふにわつらはしく
0021【さやうのおりのこと】-作者詞
なむ
雪深きをしほの山にたつきしの
ふるき跡をもけふは尋よ太政大臣のかゝる野」4ウ
0022【太政大臣の】-光孝ー仁和二ー十二月昭宣基経太政大臣奉供
の行幸に・つかうまつり給へるためしなとやあ
りけむ・おとゝ御つかひを・かしこまりもてなさせ
0023【かしこまり】-不参故也
給
小塩山みゆきつもれる松原にけふはか
0024【小塩山】-源氏返し
りなるあとやなからむと・そのころをひ・きゝ
0025【そのころを】-作者詞
しことの・そは/\思いてらるゝはひかことにやあ
らむ・又の日おとゝにしのたいに・きのふうへは・
0026【おとゝ】-源
0027【にしのたい】-玉
みたてまつりたまひきや・かのことはおほしな
0028【かのこと】-参内
ひきぬらんやときこえ給へり・しろきしき
0029【しろきしきしに】-源ヨリ
しに・いとうちとけたるふみこまかにけしき」5オ
はみてもあらぬか・おかしきをみたまうて・あい
0030【おかしきを】-源氏文也詞のおほき也
なのことやとわらひたまふ物から・よくもおし
はからせ給物かなとおほす・御返にきのふは
うちきえしあさくもりせしみ雪には
0031【うちきえし】-玉かつら文返し
さやかに空の光やはみしおほつかなき御
ことともになむとあるを・うへもみたまふさゝ
0032【うへも】-紫
のことをそゝのかしかと・中宮かくておはす・こゝ
0033【中宮】-秋
なからのおほえには・ひなかるへし・かのおとゝに
0034【かのおとゝ】-致
しられても・女御かくて又さふらひ給へはなと・思み
0035【女御】-弘ー
たるめりしすちなり・わか人のさもなれつ」5ウ
かうまつらむに・はゝかるおもひなからむは・うへをほ
のみたてまつりて・えかけはなれて思ふはあ
らしとの給へは・あなうたてめてたしとみたて
まつるとも・心もて宮つかひ思たゝむこそ・いと
さしすきたる心ならめとてわらひたまふ・いてそ
こにしもそ・めてきこえたまはむなとのた
まふて・又御返
あかねさす光は空にくもらぬをなとて
0036【あかねさす】-源氏
み雪にめをきらしけむなをおほしたて
なとたえすすゝめ給・とてもかうても・まつ御」6オ
もきのことをこそはとおほして・その御まう
けの御てうとのこまかなるきよらともく
はへさせたまひ・なにくれのきしきを・御心
にはいともお(お+も)ほさぬことをたに・をのつから・よた
0037【よたけく】-長ー
けくいかめしくなるを・ましてうちのおとゝ
(+に<朱>)も・やかてこのついてにや・しらせたてまつりて
ましとおほしよれは・いとめてたう所せきまて(う所せきまて$く<朱>)
なむ・としかへりて二月にとおほす・をむなはき
こえたかく・なかくしたまふへきほとならぬ
も・人の御むすめとてこもりおはするほとは・かな」6ウ
らすしも・うちかみの御つとめなと・あらはならぬ
ほとなれ(△&れ)はこそ・とし月はまきれすくし給へ・この
もしおほしよることもあらむには・かすかのかみ
の御心たかひぬへきも・つゐにはかくれて・やむま
しき物から・あちきなくわさとかましきのち
の名まて・うたゝあるへし・なを/\しき人
のきはこそ・いまやうとては・うちあらたむる
ことのたはやすきもあれなと・おほしめくら
すに・おやこの御ちきりたゆへきやうなし・お
なしくは・我心ゆるしてを・しらせたてまつら」7オ
むなと・おほしさためて・この御こしゆひには・かの
おとゝをなむ・御せうそこきこえ給ふけれは・
大宮こそのふゆつかたより・なやみたまふこと
さらにをこたりたまはねは・かゝるにあはせて・
ひなかるへきよしきこえ給へり・中将の君も・
よるひる三条にそさふらひ給て・心のひまな
くものしたまうて・おりあしきを・いかにせま
しとおほす・よもいとさためなし・宮もうせ
させ給はゝ・御ふくあるへきをしらすかほにて
ものし給はむ・つみふかきことおほからむ・お」7ウ
はする世に・このことあらはしてむと・おほしとり
て・三条の宮に御とふらひかてらわたりたまふ・
いまはましてしのひやかにふるまいたまへと・
みゆきにおとらす・よそほしくいよ/\ひかりを
のみそへ給ふ御かたちなとのこの世にみえぬ
心ちして・めつらしう見たてまつり給には・いとゝ
御こゝちのなやましさも・とりすてらるゝ心
ちしておきい給へり・御けうそくにかゝりてよは
けなれと・物なといとよくきこえ給・けしうは・
おはしまささりけるを・なにかしのあそむの」8オ
0038【なにかしのあそむ】-夕
心まとはして・おとろ/\しう・なけきゝこえ
さすめれは・いかやうに物せさせたまふにかとな
む・おほつかなかりきこえさせつる・うちなとに
も・ことなるついてなきかきりは・まいらす・おほ
やけにつかふる人ともなくて・こもりはへれは・
よろつうゐ/\しう・よたけくなりにてはへ
り・よはひなとこれよりまさる人・こしたへぬ
まて・かゝまりありくためし・むかしもいまも
はへめれと・あやしくおれ/\しき本上に・そふ
ものうさになむはへるへきなときこえ給・と」8ウ
0039【としのつもりの】-大宮詞
しのつもりのなやみとおもふ給へつゝ・月ころに
なりぬるを・ことしとなりては・たのみすくな
きやうにおほえはへれは・いまひとたひかく
みたてまつりきこえさすることもなくてや
と・心ほそく思たまへつるを・けふこそ又・すこ
しのひぬる心ちしはへれ・いまはおしみとむへ
きほとにもはへらす・さへき人/\にもたち
をくれ・よのすゑにのこりとまれるたくひを・人
のうへにていと心月(月$つき<朱>)なしと見はへりしかは・
いてたちいそきをなむおもひもよをされ」9オ
はへるに・この中将のいとあはれにあやしき
まて・おもひあつかひ心をさはかいたまふ見
はへるになむ・さま/\に・かけとめられて・いまゝ
てなかひきはへると・たゝなきになきて
御こゑの・わなゝくも・おこかましけれと・さるこ
とゝもなれは・いとあはれなり・御物かたりとも
むかしいまのとりあつめきこえたまふつい
てに・うちのおとゝは・日へたてすまいりた
0040【うちのおとゝ】-源詞
まふことしけからむを・かゝるついてにたいめむ
のあらは・いかにうれしからむ・いかてきこえしら」9ウ
せんと・思ふことの侍を・さるへきついてなくて
は・たいめんもありかたけれは・おほつかなくてな
むときこえたまふ・おほやけことのしけき
にや・わたくしの心さしのふかゝらぬにや・さしも
とふらひものしはへらす・のたまはすへからむ
ことは・なにさまのことにかは・中将のうらめし
けに・おもはれたることもはへるを・はしめの
ことはしらねと・いまはけにきゝにくゝもてなす
につけて・たちそめにし名のとりかへさるゝ物に
0041【たちそめにし】-\<朱合点> 古今 村鳥のたちにし我名今更に(古今674・新撰和歌272・古今六帖4330、異本紫明抄・河海抄・孟津抄・岷江入楚)
もあらす・おこかましきやうに・かへりてはよ人」10オ
も・いひもらすなるをなとものしはへれは・
たてたる所むかしより・いとゝけかたき人の本
0042【たてたる所】-致ー
上にて・心えすなんみ給ふると・この中将の御こ
0043【この中将】-夕
とゝおほしての(の+た)まへは・うちわらひ給て・いふかひ
0044【うちわらひ給て】-源
なきにゆるして(て$<朱>)すてたまふこともやときゝ
はへりて・こゝにさへなむ・かすめ申やうありしか
と・いときひしう・いさめ給よしを見侍しの
ち・なにゝさまて・ことをもませはへりけむと・人
わるう・くいおもふたまへてなむ・よろつのこと
につけて・きよめといふことはへれは・いかゝは」10ウ
さもとりかへし・すゝいたまはさらむとは・思たまへ
なから・かうくちおしき・にこりのすゑにまち
とり・ふかうすむへき水こそ・いてきかたかへい
よなれ・なにことにつけても・すゑになれは・お
ちゆくけちめこそやすくはへめれいとほし
うきゝたまふるなと申たまうて・さるはかのし
り給へき人をなむ・おもひまかふることはへり
て・ふいにたつねとりて侍を・そのおりは・さる
0045【ふいに】-不意
ひかわさとも・あかし侍らすありしかは・あなか
ちにことの心をたつねかえさふ事もはへら」11オ
て・たゝさるものゝくさのすくなきをかこと
にても・なにかはとおもふたまへゆるして・おさ/\
むつひもみはへらすして・とし月はへりつる
を・いかてかきこしめしけむ・うちにおほせら
るゝやうなむある・ないしのかみみやつかへする
0046【ないしのかみ】-尚侍
人なくては・かの所のまつりこと・しとけなく
0047【かの所】-賢所
女官なとも・おほやけことを△(△#)つかうまつるに
たつきなく・ことみたるゝやうになむありけ
るを・たゝいまうへにさふらふ・こらうのすけ
二人・又さるへき人/\さま/\に申さするを・」11ウ
はか/\しうえらはせたまはむたつねに・た
くふへき人なむなき・猶いへたかふ人のおほえ
かろからて・いへのいとなみ・たてたらぬひと・なむ
いにしへよりなりきにける・したゝかに・かしこき
かたのえらひにては・その人ならても・とし月の
らうになりのほるたくひあれと・しかたくふ
へきもなしとならは・おほかたのおほえをたに・
えらせたまはんとなむ・うち/\におほせられ
たりしを・にけなきことゝしも・なにかはおもひた
0048【にけなきこと】-御返ニ
まはむ・宮つかへは・さるへきすちにて・上も下」12オ
も・思ひをよひいてたつこそ・心たかきことなれ・
おほやけさまにて・さる所のことをつかさとり・
まつりことのおもふきを・したゝめしらむことは・
はか/\しからす・あはつけきやうにおほえた
れと・なとか又さしもあらむ・たゝわか身のあり
さまからこそ・よろつのことはへめれと・思よわり
侍しついてになむ・よはひのほとなとゝひ
0049【よはひの】-玉
きゝはへれは・かのおほむたつねあへいことに
0050【おほむ】-御
なむありけるを・いかなへいことそとも・申あ
きらめまほしうはへる・ついてなくてはたい」12ウ
め侍へきにも侍らす・やかてかゝることなんとあ
らはし申へきやうを・思めくらして・せうそこ
まうしゝを・御なやみにことつけて・ものうけに
0051【御なやみに】-三条
すまひたまへりしけに・おりしもひんなう
おもひとまり侍に・よろしうものせさせ給けれ
は・猶かうおもひおこせるついてにとなむおもふ
給ふる・さやうにつたへものせさせたまへときこえ
給ふ・宮いかに/\侍けることにか・かしこには・
0052【宮いかに/\】-三条詞
0053【かしこには】-致ー
さま/\にかゝるなのりする人をいとふことな
く・ひろいあつめらるめるに・いかなる心にて・かく」13オ
ひきたかへ・かこちきこえらるらむ・このとし
ころうけたまはりてなりぬるにやときこえ
たまへは・さるやうはへることなり・くはしきさ
0054【さるやう】-源
まは・かのおとゝもをのつから・たつねきゝた
0055【かのおとゝも】-致ー
まうてむ・くた/\しきなを人のなからひ
に・ゝたることにはへれは・あかさんにつけても・らう
かはしう・人いひつたへはへらむを・中将のあ
0056【中将】-夕ー
そんにたに・またわきまへしらせはへらす・人
にももらさせ給ましと・御くちかためきこえ
たまふ・うちのおほゐとの・かく三条の宮に」13ウ
0057【うちのおほゐとの】-致ー
大きおとゝわたりおはしまいたるよしきゝた
0058【大きおとゝ】-源ー
まひて・いかにさひしけにて・いつく(く$か<朱>)しき御さ
0059【いかにさひしけにて】-致ー詞
まを・まちうけきこえ給らむ・こせんとも・も
てはやし・おましひきつくろふ人も・はか/\
しうあらしかし・中将は御ともにこそ・ものせら
0060【中将】-夕
れつらめなと・おとろき給ふて・御ことも
の君たち・むつましう・さるへき・まうち君
0061【まうち君】-五位以上ヲ云大夫達<マウチキン>
たち・たてまつれ給・御くた物御みきなと・さり
ぬへくまいらせよ・身つからも・まいるへきを・
かへりて物さはかしきやうならむなとのた」14オ
まふほとに・大宮の御ふみあり・六条のおとゝの
0062【大宮】-三条
0063【六条のおとゝの】-詞
とふらひにわたりたまへるを・物さひしけに侍
れは・人めのいとおしうも・かたしけなうもある
を・こと/\しう・かうきこえたるやうにはあら
て・わたり給なんや・たいめむに・きこえまほし
けなることもあなりときこえ給へり・なにこ
0064【なにことにかは】-致ー詞
とにかはあらむ・このひめ君の御こと・中将の
0065【この姫君】-雲井ー
0066【中将】-夕
うれへにやと・おほしまはすに・宮もかう御世のこ
りなけにて・このことゝせちにのたまい・おとゝ
もにくからぬさまにひとことうちいてうらみた」14ウ
まはむに・とかく申かへさふことえあらしかし・つ
れなくておもひい(ゝ&い)れぬをみるには・やすからすさる
へきついてあらは・人の御ことになひきかほにて・
ゆるしてむとおほす・御心をさしあはせての
たまはむことゝおもひよりたまふに・いとゝいなひ
所なからむか・又なとか・さしもあらむと・やすら
はるゝ・いとけしからぬ・御あやにく心なりかし・
されと宮かくのたまひ・おとゝも・たいめむす
0067【宮】-三条
0068【おとゝも】-源ー
へく・まちおはするにや・かた/\にかたしけなし・
まいりてこそは・御けしきにしたかはめなと」15オ
おもほしなりて・御さうそく心ことにひきつく
ろひて・こせんなともこと/\しきさまには
あらてわたりたまふ君たち・いとあまた・ひき
つれていりたまふさま・もの/\しうたのもし
けなり・たけたちそゝろかに・ものしたまふに・
ふとさもあひて・いとしうとくに・おもゝちあゆ
0069【しうとく】-宿徳
0070【おもゝち】-面持
0071【あゆまひ】-歩体也
まひ・大臣といはむに・たらひたまへり・ゑひそめ
0072【ゑひそめ】-[艸+補]ー
の御さしぬき・さくらの下かさねいとなかうはし
りひきて・ゆる/\とことさらひたる御もてなし・
あなきら/\しとみえたまへるに・六条とのは・さ」15ウ
くらのからのきの御なをし・いまやういろの御そひ
きかさねて・しとけなきおほ君すかた・いよ/\
たとへん物なし・ひかりこそまさり給へ・かうしたゝ
かに・ひきつくろひ給へる御ありさまに・なすら
へてもみえたまはさりけり・きみたち・つき/\
に・いと物きよけなる御なからひにてつとひ給へ
り・藤大納言春宮大夫なと・いまはきこゆる
こともゝ・みななりいてつゝ・ものしたまふ・をのつから
わさともなきに・おほえたかくやむことなき殿
上人・くらひとのとう五位のくら人・近衛の中」16オ
少将弁官なと・人からはなやかにあるへかしき・
十よ人つとひたまへれは・いかめしうつき/\
のたゝ人もおほくて・かはらけあまたゝひな
かれ・みなゑひになりて・をの/\かうさいはひ
人に・すくれ給へる御ありさまを・物かたりにしけ
り・おとゝもめつらしき御たいめんに・むかしの
ことおほしいてられて・よそ/\にてこそはか
なきことにつけて・いとましき御心も・そふへか
めれ・さしむかひきこえ給ては・かたみにいと
あはれなることのかす/\おほしいてつゝ・れいの」16ウ
へたてなくむかしいまのことゝもとしころの
御物かたりに・日くれゆく・御かはらけなとすゝめ
まいりたまふ・さふらはてはあしかりぬへかりける
0073【さふらはては】-致ー詞
を・めしなきにはゝかりて・うけたまはりすく
してましかは・御かうしや・そはましと申たまふ
0074【御かうし】-考事
に・かむたうはこなたさまになむかうしとおも
0075【かうしと】-源
ふことおほくはへるなと・けしきはみたま
ふに・このことにやとおほせは・わつらはしうてかし
0076【このこと】-雲ー
こまりたるさまにてものしたまふ・むかしより
おほやけわたくしのことにつけて・心のへたて」17オ
なく・大小のこときこえうけたまはり・は
ねをならふるやうにて・おほやけの御うし
ろみをも・つかうまつるとなむおもふたまへし
を・すゑのよとなりて・そのかみ思たまへし・ほ
いなきやうなることうちましりはへれと・う
ちうちのわたくしことにこそは・おほかたの心さ
しはさらにうつろふことなくなむ・なにともな
くてつもりはへるとしよはひにそへて・いにし
へのことなん・こひしかりけるを・たいめん給はる
ことも・いとまれにのみはへれは・ことかきりありて・」17ウ
よたけき御ふるまひとは思たまへなから・したし
きほとには・その御いきをひをも・ひきしゝめ
たまひてこそは・とふらひものしたまはめとな
む・うらめしきおり/\はへるときこえた
まへは・いにしへは・けにおもなれてあやしくたい
0077【おもなれて】-忍
たいしきまて・なれさふらひ心にへたつること
なく・御らむせられしを・おほやけにつかうま
つりしきはゝ・はね(ね+を<朱>)ならへたるかすにも・思ひ
はへらてうれしき御かへりみをこそ・はか/\
しからぬ身にて・かゝるくらゐにをよひ侍て・」18オ
大やけにつかうまつりはへることにそへても・お
もふたまへしらぬにははへらぬを・よはひのつ
もりには・けにをのつからうちゆるふことのみな
むおほく侍けるなと・かしこまりまうしたまふ・
そのついてに・ほのめかしいて給てけり・おとゝ
0078【そのついてに】-源ー
0079【ほのめかしいて】-玉かつらの君の事
0080【おとゝ】-致ー
いとあはれにめつらかなることにも侍かなと・まつ
うちなき給て・そのかみよりいかになりに
けむと・たつねおもふたまへしさまは・なにの
ついてにか侍けむ・うれへにたへす・もらしきこし
めさせし心ちなむし侍る・いまかくすこし人」18ウ
かすにもなりはへるにつけて・はか/\しからぬ
ものともの・かた/\につけて・さまよひ侍を・かた
くなしくみくるしと・見侍につけても・又さる
さまにてかす/\につらねてはあはれにおもふた
まへらるゝおりにそへても・まつなむ・思たまへ
いてらるゝとのたまふついてに・かのいにしへの
あまよの物かたりに・いろ/\なりし御むつこと
のさためを・おほしいてゝ・なきみわらひみ・みなうち
みたれたまひぬ・夜いたうふけて・をの/\あかれ
たまふ・かくまいりきあひては・さらに・ひさしく」19オ
なりぬるよのふることおもふた(ふた&ふた)まへいてられ・
こひしきことのしのひかたきに・たちいてむ心
ちもしはへらすとて・おさ/\心よはくおはし
まさぬ・六条とのもゑいなきにや・うちしほれ
たまふ・宮はたまいてひめ君の御ことをおほし
0081【ひめ君の御こと】-あふひの上の御事也
いつるに・ありしにまさる御ありさま・いきをひ
0082【ありしにまさる】-\<朱合点> 伊勢 出ていなは誰かわかれのかたからん有しにまさるけふハかなしも(伊勢物語77、異本紫明抄・紫明抄・河海抄・孟津抄)
を見たてまつりたまふに・あかすかなしくて・
とゝめかたくしほしほとなきたまふ・あまころも
0083【あまころも】-大宮
はけに心ことなりけり・かゝるついてなれと・中将の
0084【中将】-夕ー
御ことをは・うちいてたまはすなりぬ・ひとふしよう」19ウ
いなしとおほしをきてけれは・くちいれむことも
人わるくおほしとゝめ・かのおとゝはた人の御
けしきなきに・さしすくしかたくて・さすかに
むすほゝれたる心ちしたまうけり・こよひも
御ともにさふらふへきを・うちつけにさはかしく
もやとてなむ・けふのかしこまりは・ことさらに
なむまいるへくはへるとまうしたまへは・さらは
この御なやみもよろしうみえたまふを・かなら
すきこえし日たかへさせ給はす・わたり給へき
よしきこえちきりたまふ・御けしきとも」20オ
ようて・をの/\いてたまふひゝきいといかめし
きみたちの御ともの人/\・なにことありつる
ならむ・めつらしき御たいめにいと・御けしきよけ
なりつるは・又いかなる御ゆつりあるへきにかなと・
0085【いかなる御ゆつり】-この事ハしらす雲井の雁の事とひか心えたる人々ハおもふ也
ひか心をえつゝ・かゝるすちと(と+は)おもひよらさり
けり・おとゝうちつけに・いといふかしう・心もとなう
おほえたまへと・ふと・しか・うけとり・おやからむ
も・ひなからむ・たつねえたまへらむはしめを・
おもふに・さためて心きようみはなち給はし・
やむことなきかた/\を・はゝかりて・うけはりて・」20ウ
そのきはには・もてなさす・さすかにわつら
はしう・物のきこえを思て・かくあかしたまふ
なめりとおほすは・くちおしけれと・それをき
すとすへきことかは・ことさらにも・かの御あた
りに・ふれははせむに・なとかおほえのおとら
む・宮つかへさまに・おもむきたまへらは・女御
なとのおほさむことも・あちきなしとおほせ
と・ゝもかくもおもひよりの給はむをきてを・
たかふへきことかはと・よろつにおほしけり・かくの
たまふは・二月ついたちころなりけり・十六日ひ」21オ
かむのはしめにて・いとよき日なりけり・ちかう又
よきひなしと・かうかへ申けるうちに・(に+宮<朱>)よろしう
0086【宮】-大宮
おはしませはいそきたちたまうて・れいの
0087【れいの】-源
わたりたまうても・おとゝに申あらはしゝさまなと・
いとこまかにあへきこととも・をしへきこえ
たまへは・あはれなる御心はおやときこえなか
らも・ありかたからむをとおほす物から・いと
なむうれしかりける・かくてのちは中将の君
0088【中将の君】-夕ー
にもしのひてかゝることの心のたまひしらせけ
り・あやしのことゝもや・むへなりけりと・おもひあ」21ウ
0089【あやしのことゝもや】-夕ー心
はすることゝもあるに・かのつれなき人の
0090【つれなき人】-雲
御ありさまよりも・猶もあらす・思ひいてられ
ておもひよらさりけることよと・しれ/\しき
心ちす・されとあるましう・ねちき(き$け<朱>)たるへきほ
となりけりと・おもひかへすことこそは・ありか
たき・まめ/\しさなめれ・かくてその日に
なりて・三条の宮より・しのひやかに御つか
ひあり・御くしのはこなと・にはかなれとこと
ともいときよらに・したまうて御ふみにはき
こえむにも・いま/\しきありさまを・けふはし」22オ
のひこめ侍れと・さるかたにてもなかきためし
はかりを・おほしゆるすへうやとてなむ・あは
れにうけたまはりあきらめたるすちを・
かけきこえむも・いかゝ御けしきにしたかひて
なむ
ふた方にいひもてゆけは玉くしけ
0091【ふた方に】-大宮
わか身はなれぬかけこなりけりといとふるめ
0092【かけこ】-いつれに孫なり
かしう・わなゝきたまへるを・とのもこなたに
0093【との】-源
おはしまして・ことし(し$と<朱>)も御らむしさたむる
程なれはみたまうて・こたいなる御ふみかき」22ウ
なれと・いたしや・この御てよ・むかしは上すに
0094【いたしや】-いたましき心也
ものしたまけるを・としにそへて・あやしく
おいゆく物にこそありけれ・いとからく御てふる
ひにけりなと・うちかへしみたまうて・よくもた
まくしけにまつはれたるかな・三十一字のなかに・
こともしはすくなく・そへたることのかたきなり
と・しのひてわらひたまふ・中宮より・しろき
0095【中宮】-秋
御も・からきぬ・御さうそく御くしあけのくなと・
いとになくて・れいのつほともに・からのたき物・
心ことにかほりふかくてたてまつり給へり・御かた」23オ
かたみな心/\に・御さうそく・人/\のれうに・く
しあふきまて・とり/\にしいて給へるありさま・
おとりまさらす・さま/\につけて・かはかりの御
心はせともに・いとみつくしたまつ(つ$へ<朱>)れは・おかし
うみゆるを・ひむかしの院の人/\も・かゝる御いそ
きはきゝたまうけれとも・とふらひきこえ給
へきかすならねは・たゝきゝすくしたるに・
ひたちの宮の御方・あやしうものうるはしう
さるへきことのおりすくさぬこたいの御心にて・
いかてかこの御いそきを・よそのことゝは・きゝす」23ウ
くさむとおほして・かたのことなむしいてたま
うける・あはれなる御心さしなりかし・あをにひ
のほそなかひとかさね・おちくりとかやなにと
0096【おちくりとかや】-こき紅のくろみ入タルヲ云ヘシ
かや・むかしの人のめてたうしける・あはせのは
0097【あはせ】-裏面アリ紅
かま一く・むらさきのし△(△#ら)きりみゆる・あられち
0098【しらきり】-シラミタル
の御こうちきと・よきころもはこにいれ
て・つゝみいとうるはしうて・たてまつれたま
へり・御ふみには・しらせたまふへきかすにも侍ら
ねは・つゝましけれと・かゝるおりはおもたまへ・
しのひかたくなむ・これいとあやしけれと・人にも」24オ
たまはせよとおひらかなり・との御らむしつけ
0099【おひらかなり】-文ノかきさまを云
て・いとあさましう・れいのとおほすに御かほあ
かみぬ・あやしきふる人にこそあれ・かく物つゝ
みしたる人は・ひきいりしつみ入たるこそよけ
れ・さすかにはちかましやとて・返ことはつかは
せ・はしたなくおもひなむ・ちゝみこの・いとかな
しうしたまひける・おもひいつれは・人におとさむ
はいと心くるしき人也ときこえたまふ・御こう
ちきのたもとに・れいのおなしすちのうたあ
りけり」24ウ
我身こそ恨られけれから衣君かたもとに
0100【我身こそ】-末摘
なれすとおもへは・おほむてはむかしたにあり
しを・いとわりなう・しゝかみ・ゑりふかう・つよう・
0101【しゝかみ】-チヽミタル也
0102【ゑりふかう】-字エリ入タル様也手家ヲ入木ト云無心也
かたうかきたまへり・おとゝにくき物の・おかし
さをは・えねんし給はて・このうたよみつらむほ
とこそ・ましていまは・ちからなくて・ところせかり
けむと・いとおしかりたまふいて・この返こと・さは
かしうとも・われせんとの給て・あやしう人
0103【われ】-源ー
のおもひよるましき御心はへこそ・あらてもあ
りぬへけれと・にくさかきたまうて」25オ
唐衣又から衣からころもかへす/\も
0104【唐衣】-源氏 末摘の三度まて唐衣と読たまへる故ニ嘲弄の哥也
から衣なるとていとまめやかにかの人のたてゝ・
このむすちなれは・ものしてはへるなりとて・
みせたてまつりたまへは・きみいとにほひやかに
0105【きみ】-玉
わらひたまひて・あないとおし・ろうしたるやう
にもはへるかなと・くるしかり給・ようなしこと
0106【ようなしこと】-唐衣ト云文字ノ多事也
いとおほかりや・うちのおとゝは・さしもいそかれ
0107【うちのおとゝ】-致ー
たまふましき御心なれと・めつらかに・きゝたまふ
しのちは・いつしかと御心にかゝりたれは・とくま
いり給へり・きしきなとあへいかきりに・又すき」25ウ
てめつらしきさまに・しなさせたまへり・けにわさ
と御こゝろとゝめたまふけることゝみたまふも・
かたしけなき物からやうかはりておほさる・ゐ
のときにていれたてまつりたまふ・れいの御
まうけをはさる物にて・うちのおましいとに
なく・しつらはせたまうて・御さかなまいらせた
0108【御さかな】-ミ
まふ・御となふられいのかゝる所よりは・すこし
ひかりみせておかしきほとに・もてなしきこ
えたまへりいみしうゆかしう思きこえ給へと・
こよひはいとゆくりかなへけれは・ひきむすひ」26オ
0109【ゆくりかなへけれは】-不意とかけり心なきやうなる心なるへし
0110【ひきむすひたまふほと】-裳のこしをゆふなり
たまふほと・えしのひたまはぬけしきなり・
あるしのおとゝ・こよひはいにしへさまのことはか
けはへらねは・なにのあやめもわかせたまふ
ましくなむ・心しらぬ人めをかさりて・猶よの
つねのさほうにと・きこえ給・けにさらにき
こえさせやるへき方はへらすなむ・御かはらけま
いるほと(と+に<朱>)・かきりなきかしこまりをは・よにためし
なきことゝきこえさせなから・いまゝて・かくしの
ひこめさせ給けるうらみも・いかゝそへはへらさら
むと・きこえたまふ」26ウ
うらめしや興津玉もをかつくまて磯
0111【うらめしや】-致仕 後 何せんにへたのみる目を思けん奥津玉もをかつく身にして 黒主(後撰1099・古今六帖3338、花鳥余情・孟津抄・岷江入楚)
かくれけるあまの心よとて猶つゝみもあへす・し
ほたれたまふ・ひめ君はいとはつかしき御さま
0112【ひめ君】-玉かつら
ともの・さしつとひ・つゝましさに・えきこえ
たまはねは殿
よるへなみかゝるなきさにうちよせて
0113【よるへなみ】-源氏
あまもたつねぬもくつとそみしいとわりなき
御うちつけことになんときこえたまへは・いと
ことはりになんと・きこえやる方なくていて
たまひぬ・みこたちつき/\人/\・のこるなく」27オ
つとひたまへり・御けさう人もあまたましり
0114【御けさう】-化粧
たまへれは・このおとゝかくいりおはして・ほと
0115【このおとゝ】-致ー
ふるを・いかなることにかとうたかひたまへり・
かのとのゝきむたち・中将・弁のきみはかりそ・ほ
0116【中将】-柏
0117【弁のきみ】-紅ー
0118【ほのしり給へりける】-玉
のしり給へりける・人しれすおもひしことをから
うも・うれしうもおもひなりたまふ・弁はよくそ
うちいてさりけると・さゝめきて・さまことなる・
おとゝの御このみともなめり・中宮の御たくひ
0119【おとゝの】-源氏
0120【中宮】-秋ー
にしたてたまはむとやおほすらむなと・をの
をのいふよしをきゝたまへと・猶しはしは御心つ」27ウ
0121【猶しはしは】-源詞
かひしたまうて・よにそしりなきさまに・もて
なさせたまへ・なにことも心やすきほとの人こそ・
みたりかはしう・とも・かくも・はへへかめれ・こなたを
も・そなたをも・さま/\の(の$<朱>)人のきこえなやま
さむ・たゝならむよりは・あちきなきを・なたら
かに・やう/\人めをもならすなむ・よきことに
ははへるへきと申たまへは・たゝ御もてなしに
なん・したかひ侍へき・かうまてこらむせられ・
ありかたき御はくゝみに・かくろへ侍けるも・さき
0122【かくろへ侍ける】-玉
の世のちきりをろかならしと申たまふ・御」28オ
0123【御をくり物】-自源致ー
をくり物なと・さらにもいはす・ゝへてひきいて
物・ろくとも・しな/\につけて・れいあることかき
りあれと・又ことくはへ・になくせさせたまへり・
おほ宮の御なやみにことつけたまうし・なこりも
あれは・こと/\しき御あそひなとはなし・兵部卿
の宮・いまはことつけやり給へき・とゝこほりもな
きをと・をりたちきこえ給へと・うちより御
けしきあること・かへさひそうし・又またおほせ
ことにしたかひてなむ・ことさまのことは・ともかく
も・思さたむへきとそきこえさせ給ける・ちゝ」28ウ
おとゝはほのかなりしさまを・いかてさやかに又みむ・
なまかたほなること・みえたまはゝかうまて・こと/\
しう・もてなし・おほさしなと・中/\心もとなうこひ
しう思きこえたまふ・いまそかの御ゆめも・ま
0124【御ゆめ】-蛍巻
ことにおほしあはせける・女御はかりには・さたかなる
0125【女御】-弘ー
ことのさまをきこえ給ふけり・世の人きゝに・
しはしこのこといたさしと・せちにこめたまへと・く
ちさかなきものはよの人なりけり・しねんにいひ
もらしつゝ・やう/\やうきこえいてくるを・かのさか
0126【さかな物】-サカ/\シ
な物のきみ・きゝて・女御のおまへに中将少将さふ」29オ
らひたまふにいてきて・殿は・御むすめまうけた
0127【殿】-致ー
まふへかなり・あなめてたや・いかなる人二かたに・
0128【二かたに】-源氏 致ー
もてなさるらむ・きけは・かれもをとりはらな
りと・あふなけにのたまへは・女御かたはらいたし
0129【あふなけに】-無奥
0130【女御】-弘ー
とおほして・ものものたまはす・中将しか・かしつ
0131【中将】-柏
かるへきゆへこそ・物したまふらめ・さてもたかい
ひしことを・かくゆくりなく・うちいて給ふそ・物い
ひたゝならぬ女房なとも(も$<朱>)こそ・みゝとゝむれと
のたまへは・あなかまみなきゝてはへり・ないしの
0132【あなかま】-近
0133【ないしのかみ】-玉
かみに・なるへかなり宮つかへにと・いそきいてたち」29ウ
侍しことは・さやうの御返みもやとてこそ・なへて
の女房たちたに・つかふまつらぬことまて・おり
たちつかうまつれ・おまへのつらくおはします
0134【おまへ】-弘ー
也と・恨みかくれは・みなお(お$ほ<朱>)ほゑみて・ないしのかみ
ある(る$か<朱>)は・なにかしこそ・のそまんとおもふを・ひた
0135【ひたう】-非道
うにも・おほしかけけるかななとのたまふに・はら
たちて・めてたき御中に・かすならぬ人はましる
ましかりけり・中将の君そつらくおはする・
0136【中将の君】-柏
さかしらにむかへたまひて・かろめあさけり給
0137【さかしらに】-\<朱合点> 古今 さかしらに夏ハ人まねさゝの(古今1047・古今六帖213・2707、異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
ふ・せうせうの人は・えたてるましきとのゝう」30オ
0138【との】-致ー
ちかな・あなかしこ/\と・しりゑさまに・ゐさりし
そきて・見おこせたまふ・にくけもなけれと・いと
はらあしけに・ましり・ひきあけたり・中将はかく
0139【中将】-柏
いふにつけても・けにしあやまちたることゝおもへ
は・まめやかにてものしたまふ・少将はかゝるかた
0140【少将】-紅ー
にても・たくひなき御ありさまを・をろかには
よもおほさし・御心しつめたまふてこそ・かたきいは
ほも・あはゆきになしたまふつへき・おほむけ
0141【おほもむけしき】-天ー踏堅庭而陥股若沫雪
しきなれは・いとようおもひかなひたまふときも
ありなむと・ほほゑみて・いひゐ給へり・中将も・あ」30ウ
0142【あまのいはとさしこもり】-天ー閉天ノ磐戸出居素ー尊兄弟今模之
まのいはと・さしこもりたまひなんや・めやすく
とて・たちぬれは・ほろ/\となきて・このきみ
0143【このきみ】-近ー詞
たちさへ・みなすけなくしたまふに・たゝ御前の
御心のあはれに・おはしませは・さふらふなりとて・いと
かやすく・いそしく・下らうわらはへなとの・つかうま
つりたらぬ・さうやくをもたちはしりやすく
まとひありきつゝ・心さしをつくして・みやつかへ
しありきて・ないしのかみに・をれを申なした
まへと・せめきこゆれは・あさましう・いかにおもひ
ていふことならむと・おほすに・物もいはれ給はす・」31オ
おとゝこの・ゝそみをきゝたまひて・いとはなやか
0144【おとゝ】-致ー
に・うちわらひたまひて・女御の御かたにまいり
0145【女御の御かたに】-致ー
たまへるつゐてに・いつらこのあふみの君・こな
たにと・めせは・をといとけさやかにきこえて・いて
きたり・いとつかへたる・御けわひ・おほやけ人
0146【いとつかへたる】-致ー詞
にて・けにいかにあひたらむ・ないしのかみのことは・
なとかをのれに・とくは・ものせさりしと・いとまめ
やかにてのたまへは・いとうれしとおもひて・さも御
0147【さも御けしき】-近ー詞
けしきたまはらまほしう侍しかと・この女
御とのなと・をのつから・つたへきこえさせ給て」31ウ
な(な#)むとなと(なと$)たのみふくれてなむ・さふらひ
つるを・なるへき人ものしたまふやうに・き(き+き<朱>)た
まふれは・ゆめにとみしたる心ちしはへりて
0148【ゆめに】-邯鄲枕
なむ・むねにてをゝきたるやうに侍と申たまふ・
0149【むねにて】-胸フサカル心
したふり・いと物さはやかなり・えみ給ぬへきを・ね
むして・いとあやしう・おほつかなき御くせなり
や・さもおほしのたまはましかは・まつ人のさき
にそうしてまし・おほきおとゝの御むすめ・
0150【おほきおとゝの】-致ー詞 源ー
やむことなくとも・こゝにせちに申さむことは・
きこしめさぬやう・あらさらまし・いまにても・」32オ
申ふみをとりつくりて・ひゝしう・かきいたされよ・
なかうたなとの心はへあらむを・こらんせむには・
すてさせ給はし・うへはそのうちに・なさけす
てすおはしませはなと・いとようすかしたま
ふ・人のおやけなく・かたはなりや・山とうたは・あし(し+/\<朱>)
0151【山とうたは】-近詞
し(し$<朱>)も・つゝけ侍なむ・むね/\しき方のこと
0152【むね/\しき】-宗
はた・とのより申させたまはゝ・つまこえのやう
0153【つまこえ】-我意を人ニいはせ風にはいふ也
にて・御とくをも・かうふりはへらむとて・てをゝし
すりて・きこえゐたり・みき丁のうしろなとに
て・きく女房・しぬへくおほゆ・物わらひにたへ」32ウ
ぬは・すへりいてゝなむ・なくさめける・女御も御お
もてあかみて・わりなうみくるしとおほしたり・
とのもものむつかしきおりは・あふみの君みる
こそ・よろつまきるれとて・たゝわらひくさに・
つくり給へと・よ人は・はちかてら・はしたなめた
まふなと・さま/\いひけり
自本
源氏卅六歳ノ十二月ノ事并明年の二月まてノ事有以哥
為巻名竪並也」33オ
【奥入01】仁和二年十二月十四日<戊/午>寅四剋行幸芹河野
用鷹鷂也式部卿本康親王常陸太守貞
固親王太政大臣<藤原/朝臣>左大臣<源朝臣>右大臣<源朝臣>
大納言藤原朝臣<良世>中納言源朝臣<能有>在原朝臣<行平>
藤原朝臣<山蔭>已下参議皆扈従其狩猟之儀
一依承和故事或考旧記付故老口語而行事
乗輿出朱雀門留輿砌上勅召太政大臣云
皇子源朝臣定ー宜賜佩釼太政大臣伝
勅定ー拝舞輿前帯釼騎馬皇子源
朝臣正五位下藤原時平着摺衣午三剋」34オ
亘猟野於淀河辺供朝膳<行宮在泉川鴨川/宇治河之会>
海人等献鯉鮒天子命飲右衛門督
諸葛朝臣奏歌天子和之群臣以
次歌謳大納言藤原朝臣起舞未二剋
入猟野放鷂撃鶉如前放隼
撃水鳥坂上宿祢ム献鹿一太政大臣
馬上奏之乗輿幸於左衛門権佐高経別
墅供夕膳高経献贄勅叙正五位下太政
大臣率高経拝舞(戻)」34ウ
二校了」(表表紙蓋紙)