藤袴(大島本) First updated 9/17/2001(ver.1-1)
Last updated 1/21/2007(ver.2-1)
渋谷栄一翻字(C)

  

藤 袴

《概要》
 大島本は、青表紙本の最善本とはいうものの、現状では、後人の筆によるさまざまな本文校訂跡や本文書き入れ注記、句点、声点、濁点等をもつ。そうした現状の様態をそのままに、以下の諸点について分析していく。
1 大島本と大島本の親本復元との関係 鎌倉期書写青表紙本(池田本・伏見天皇本等)を補助的資料として
2 大島本の本文校訂に対校された本文系統
3 大島本の句点の関係
4 大島本の後人書き入れ注記

《書誌》

《翻刻資料》

凡例
1 本稿は、『大島本 源氏物語』(1996(平成8)年5月 角川書店)を翻刻した。よって、後人の筆が加わった現状の本文様態である。
2 行間注記は【 】- としてその頭に番号を記した。
2 小字及び割注等は< >で記した。/は改行を表す。また漢文の訓点等は< >で記した。
3 合(掛)点は、\<朱(墨)合点>と記した。
4 朱句点は「・」で記した。
5 本文の校訂記号は次の通りである。
 $(ミセケチ)・#(抹消)・+(補入)・&(ナゾリ)・=(併記)・△(不明文字)
 ( )の前の文字及び( )内の記号の前の文字は、訂正以前の文字、記号の後の文字が訂正以後の文字である。ただし、なぞり訂正だけは( )の前の文字は訂正後の文字である。訂正以前の本行本文の文字を尊重したことと、なぞり訂正だけは元の文字が判読しにくかったための処置である。
6 朱・墨等の筆跡の相違や右側・左側・頭注等の注の位置は< >と( )で記した。私に付けた注記は(* )と記した。
7 付箋は、「 」で括り、付箋番号を記した。
8 各丁の終わりには」の印と丁数とその表(オ)裏(ウ)を記した。
9 本文校訂跡については、藤本孝一「本文様態注記表」(『大島本 源氏物語 別巻』と柳井滋・室伏信助「大島本『源氏物語』(飛鳥井雅康等筆)の本文の様態」(新日本古典文学大系本『源氏物語』付録)を参照した。
10 和歌の出典については、伊井春樹『源氏物語引歌索引』と『新編国歌大観』を参照し、和歌番号と、古注・旧注書名を掲載した。ただ小さな本文異同については略した。

「藤はかま」(題箋)

  内侍のかみの御宮つかへのことを・たれも/\・
  そゝのかし給も・いかならむおやと思ひ
0001【いかならむおやと】-玉
  きこゆる人の御心たに・うちとくましき
  世なりけれは・ましてさやうのましらひに
  つけて・心より外にひんなき事もあ
  らは・中宮も・女御もかた/\につけて・心を
0002【中宮】-秋ー
0003【女御】-弘キ殿
  き給はゝ・はしたなからむに我身はかくはか
  なきさまにて・いつ方にもふかく思とゝめら
  れたてまつれるほともなく(く&く)あさきおほえ
  にて・たゝならすおもひいひいかて人わらへなる」1オ
  さまに見きゝなさむとうけひ給人々も
  おほく・とかくにつけてやすからぬことのみ
  ありぬへきを・ものおほししるましきほと
  にしあらねは・さま/\におもほしみたれ・人
  しれす物なけかし・さりとてかゝる有さまも
  あしき事はなけれと・このおとゝの御心はへ
0004【このおとゝ】-源
  のむつかしく・心つきなきもいかなるつゐてにか
  は・もてはなれて人のをしはかるへかめるす
  ちを・心きよくもありはつへき・まことの
  ちゝおとゝも此殿のおほさむ所・はゝかり給て・」1ウ
0005【ちゝおとゝ】-致
0006【此殿】-源
  うけはりてとりはなち・けさやき給へき
  ことにもあらねは・猶とてもかくても・見くるしう・
  かけ/\しきありさまにて・心をなやまし・
  人にもてさはかるへきみなめりと・中/\この
  おや尋きこえ給て後は・ことにはゝかり給
  けしきもなき・おとゝの君の御もてなしを・
  とりくはへつゝ人しれすなんなけかしかり
  けるおもふことを・まほならすとも・かたはし
  にても・うちかすめつへきをなんおやもおは
  せす・いつ方も/\いとはつかしけにいとうる」2オ
  はしき御さまともには・なに事をかはさなむ
  かくなんともきこえわき給はむよの人に
  にぬ身の有さまを・うちなかめつゝ夕くれの
  空のあはれけなるけしきを・はしちかう
  てみいたし給へるさま・いとおかし・うすきにひ
0007【いとおかしう】-ウハ三条大宮爰ニ始見
  色の御そなつかしきほとにやつれて・例に
  かはりたるいろあひにしもかたちは・いとは
  なやかに・もてはやされておはするを・御
  まへなる人々はうちゑみて・見たてまつるに・
  宰相の中将おなし色のいますこし」2ウ
0008【宰相の中将】-夕霧
  こまやかなるなをしすかたにて・えいまき
  給へるすかたしも・またいとなまめかし(し+く<朱>)き
  よらにておはしたり・はしめよりものま
  めやかに心よせきこえ給へは・もてはなれて・
  うと/\しきさまにはもてなし給はさ
  りしならひに・今あらさりけりとてこ
  よなくかはらむもうたてあれは・なを
  みすにき丁そへたる御たいめむは・ひとつて
0009【ひとつて】-玉与夕
  ならてありけり・とのゝ御せうそこにて・
0010【とのゝ】-源
  うちよりおほせことあるさま・やかてこの」3オ
0011【この君】-夕
  君のうけたまはり給へるなりけり・御返
0012【御返】-玉
  おほとかなる物から・いとめやすくきこえなし
  給けはひの・らう/\しくなつかしきに
  つけても・かの野わきのあしたの御あさか
0013【かの野わきのあした】-夕心
  ほは・心にかゝりてこひしきを・うたてある
  すちにおもひし・きゝあきらめてのちは
  なをもあらぬ心ちそひて・この宮つかひを
  おほかたにしもおほしはなたしかし・さは
  かりみところある御あはひともにて・おかし
  きさまなることのわつらはしき・はたか」3ウ
  ならすいてきなんかしと思に・たゝならす
  むねふたかる心ちすれと・つれなくすく
  よかにて人にきかすましと侍つることを・
  きこえさせんに・いかゝ侍へきとけしきたては・
  ちかくさふらふ人も・すこししりそき
  つゝ・御き丁のうしろなとにそはみあへり・
  そらせうそこを・つき/\しく・とりつゝけ
0014【そらせうそこ】-消息也
  て・こまやかにきこえ給・うへの御けしき
  のたゝならぬすちを・さる御心し給へなと
  やうのすちなり・いらへ給はんこともなくて・」4オ
  たゝうちなけき給へるほと・しのひやかにうつ
  くしく・いとなつかしきになをえしのふまし
  く・御ふくもこの月には・ぬかせ給へきを・日
0015【この月】-八月
0016【ぬかせ給へき】-大宮廿月
  ついてなん・よろしからさりける・十三日に
  かはらへいてさせ給へきよしの給はせ(せ+つ<朱>)・なに
0017【かはらへいて】-解除
0018【なにかしも】-夕
  かしも御ともにさふらふへくなん思給ふる
  ときこえ給へは・たくひ給はんも・こと/\しき
0019【たくひ給はんも】-玉詞
  やうにや侍らん・しのひやかにてこそ・よく
  侍らめとの給・この御ふくなんとのくはしき
  さまを・人にあまねくしらせしとおもむ」4ウ
  け給へる・けしきいとらうあり・中将ももら
0020【らうあり】-臈ありハ心ふかく物なれたる心なり
  さしとつゝませ給らむこそ心うけれ・忍ひ
  かたく思たまへらるゝかたみなれは・ぬきすて
  侍らむこともいと物うく侍ものを・さても
0021【さても】-夕ノ心
  あやしうもてはなれぬことの・また心え
0022【あやしう】-夕顔
0023【もてはなれぬ】-源
  かたきにこそ侍れ・この御あらはしころも
  の色なくは・えこそ思給へわくましかりけれ
  との給へは・何事もおもひわかぬ心には・まして
0024【何事も】-玉詞
  ともかくも思たまへたとられ侍らねと・かゝる
  いろこそあやしくも(も+の<朱>)あはれなるわさに侍」5オ
  けれとて・例よりもしめりたる御けしきいと
  らうたけにおかし・かゝるついてにとや思より
  けむ・らにの花のいとおもしろきを・もたまへり
0025【らにの花】-紫蘭
  けるを・みすのつまよりさし入て・これも御
  らんすへきゆへは有けりとて・とみにもゆる
  さても給へれは・うつたへに思よらてとり給・御
0026【うつたへに】-\<朱合点> 松かねを磯への浪のうつたへ(うつたへ=打度)ニあらわれぬへき袖のうへかな 定<右>(新勅撰675・拾遺愚草972) 忠見集 春雨ハふりそめしかとうつたへに山をみとりになさんとや見し<左>(忠見集61、花鳥余情・休聞抄・孟津抄・岷江入楚)
  袖をひきうこかしたり
    おなしのゝ露にやつるゝふちはかまあはれ
0027【おなしのゝ】-夕霧
0028【露にや】-玉ト
  はかけよかことはかりもみちのはてなるとかや・
0029【みちのはてなる】-\<朱合点> 万 東ちの道のはてなるひたち帯のかことはかりもあはんとそ思ふ(新古今1052・古今六帖3360、源氏釈・奥入・紫明抄・河海抄)
  いと心つきなくうたてなりぬれと・見しらぬ」5ウ
  さまにやをらひきいりて
    たつぬるにはるけき野への露ならは
0030【たつぬるに】-玉かつら返し
  うすむらさきやかことならまし・かやう
0031【かやうにて】-\<朱合点> 後 武蔵野ハ袖ひつはかりはけしかと若紫ハたつねわひにき(後撰1177、花鳥余情・休聞抄・紹巴抄・孟津抄・岷江入楚)
  にてきこゆるよりふかきゆへはいかゝとの
  給へは・すこしうちわらひてあさきも
0032【すこしうちわらひ】-夕詞
  ふかきも・おほしわくかたは侍なんと・思給
  ふる・まめやかには・いとかたしけなきす
  ちを思しりなから・えしつめ侍らぬ心中
  を・いかてかしろしめさるへきなか/\おほし
  うとまんか・わひしさにいみしくこめ」6オ
  侍を今はたおなしと思給へわひてなむ・
0033【今はたおなし】-\<朱合点> 後 わひぬれは(後撰960・拾遺集7866・拾遺抄317・古今六帖1960・元良親王集120)
  頭の中将のけしきは御らむししりきや・
0034【頭の中将】-柏木はおとゝいともしらて思かけし事也
  人のうへになんとおもひ侍けん身にてこそ(こそ&こそ)
0035【おもひ侍けん】-兄弟
  いとおこかましくかつは思給へしられけれ・
  中/\かの君は思さまして・つゐに御あたり
0036【かの君】-柏
  はなるましきたのみに・おもひなくさめたる
  けしきなと見侍も・いとうらやましく
  ねたきにあはれとたにおほしをけよ
  なと・こまや(や#)かにきこえしらせ給ことおほ
  かれと・かたはらいたけれはから(ら$か<朱>)ぬなり・かむ」6ウ
  のきみやう/\ひきいりつゝ・むつかしとおほし
  たれは・心うき御けしきかなあやまちすま
  しき心のほとは・をのつから御らむしし
  らるゝやうも侍らむ物をとて・かゝるついてに
  今すこし・もらさまほしけれと・あやし
  くなやましくなむとていりはて給ぬれは・
0037【いりはて給ぬれは】-玉
  いといたくうちなゝ(ゝ#)けきてたち給ぬ・なか/\
0038【いといたく】-夕
  にもうちいてゝけるかなと・くちおしきに
  つけても・かの今すこし身にしみておほえし
0039【身にしみて】-紫事
  御けはひを・かはかりのものこしにても・ほの」7オ
  かに御こゑをたに・いかならむつゐてにか・きか
  むとやすからす思つゝ・御まへにまいり給へ
  れは・いて給て御返なときこえ給・この宮
0040【いて給て】-源
  つかへを・しふけにこそ思給へれ・みやなとの
0041【みや】-蛍
0042【みやなとのれんし給へる】-「諸習不審也/宮なとのれんし給へる」(付箋)
  れんし給へる人にて・いと心ふかきあはれを
  つくしいひなやまし給ふになん・心やしみ
  給らんとおもふになん心くるしき・されと大原
  野の行幸に・うへを見たてまつり給ては・
  いとめてたくおはしけりとおもひ給へりき・
  わかき人はほのかにも見たてまつりて・えしも」7ウ
  宮つかへのすちもてはなれし・さ思ひてなん
  このこともかくものせしなとの給へは・さても人
0043【の給へは】-源
0044【さても】-夕詞
  さまはいつ方につけてかは・たく(く$ら)ひてものし
0045【たらひて】-后ニモノル人ニモ
  給らむ中宮かくならひなきすちにておは
0046【中宮】-秋
  しまし・又こき殿やむことなく・おほえこと
0047【こき殿】-女御
  にてものし給へは・いみしき御思ひありとも・
  立ならひ給ことかたくこそ侍らめ・宮はいと
0048【宮】-蛍
  ねんころにおほしたなるを・わさとさる
  すちの御宮つかへにもあらぬ物から・ひき
  たかへたらむさまに・御心をき給はむも・さる」8オ
  御なからひにては・いと/\おしくなんきゝ給ふる
  と・おとな/\しく申給・かたしや我心ひとつ
0049【我心ひとつ】-源心実親アレハ
  なるひとのうへにもあらぬを・大将さへ我をこそ
0050【大将】-ヒケ
  うらむなれ・すへてかゝることの心くるしさを
  見すくさて・あやなき人のうらみをふ・か
  へりてはかる/\しきわさなりけり・かのはゝ
0051【かのはゝ君】-夕顔
  君のあはれにいひをきしことの・わすれさ
  りしかは・心ほそき山さとになときゝしを・
  かのおとゝはたきゝいれ給へくもあらすと・う
0052【かのおとゝ】-致
  れ(れ+へ)しにいとおしくて・かくわたしはしめ」8ウ
  たるなり・こゝにかくものめかすとて・かのおとゝも
0053【かのおとゝ】-致
  人めかい給なめりと・つき/\しくの給なす・
  人からは宮の御人にていとよかるへし・いまめ
0054【宮】-蛍
0055【御人】-北方
  かしくいとなまめきたるさまして・さすかに
  かしこくあやまちすましくなとして・
  あはひはめやすからむ・さてまた宮つかへ
  にも・いとよくたらひたらんかし・かたちよく
  らう/\しきものゝおほやけ事なとにも・
  おほめかしからす・はか/\しくて・うへの
0056【うへ】-冷
  つねにねかはせ給御心にはたかふましなと」9オ
  の給・けしきのみまほしけれは・としころかく
0057【けしき】-夕詞
  て・はくゝみきこえ給ける御心さしを・ひかさまに
0058【御心さし】-源
  こそ人は申なれ・かのおとゝもさやうになむ・お
0059【かのおとゝ】-致
  もふけて・大将のあなたさまのたよりにけし
0060【大将】-ヒケ
  きはみたりけるにも・いらへけるときこえ
  給へは・うちわらひて・かた/\いとにけなき
0061【うちわらひて】-源
  ことかな・猶宮つかへをも御心ゆるして・
0062【猶宮つかへをも】-夕ー致仁詞ヲ私申
  かくなんとおほされんさまにそしたかふへき・
  女は三従(従#)にしたかふのにこそあなれと・ついて
0063【三に】-\<朱合点> 父男子
0064【ついて】-三次第
  をたかへて・をのか心にまかせんことは・ある」9ウ
  ましきことなりとの給・うち/\にもやむこと
  なき・これかれ年ころをへてものし給へは・
0065【これかれ】-人々
  えそのすちの人かすには・ものし給はて・すて
0066【人かすには】-玉
  かてらに・かくゆつりつけ・おほそふの宮つかへ
0067【おほそふ】-大想
  のすちに・らうせんとおほしをきつる・いと
0068【らうせんと】-牢籠也をしこめたる心也
  かしこく・かとあることなりとなん・よろこひ
  申されけると・たしかに人のかたり申侍し
0069【たしかに】-夕ノ
  なりと・いとうるはしきさまにかたり申
  給へは・けにさはおもひ給らむかしとおほすに・
  いとおしくて・いとまか/\しきすちにも・」10オ
0070【いとまか/\しき】-源ノ心玉紫
  思より給けるかな・いたりふかき御心ならひ
  ならむかし・今をのつからいつ方につけても
  あらはなる事ありなむ・思ひくまなしや
0071【思ひくまなし】-\<朱合点> 後 いつ方にたちかくれつゝみよとてかおもふくまなく人の成ゆく(後撰748、花鳥余情・休聞抄・紹巴抄・孟津抄・岷江入楚)
  と・わらひ給御けしきは・けさやかなれと・猶
  うたかひはをかる・おとゝもさりや・かく人の
0072【おとゝ】-源
  をしはかる・あんにおつることもあらましかは・
0073【あんにおつる】-案落
  いとくちおしくねちけたらまし・かの
0074【かのおとゝ】-致
  おとゝに・いかてかく心きよきさまをしら
  せたてまつらむとおほすにそ・けに宮
  つかへのすちにて・けさやかなるましく・」10ウ
  まきれたるおほえをかしこくも・思より給ける
  かなと・むくつけくおほさる・かくて御ふくなとぬき
  給て・月たゝは猶おほしの給を(おほしの給を$)まいり給
  はむこといみあるへし・十月はかりにとおほ
0075【いみあるへし】-九月ハいむ月なとをいふなり
  しの給を・うちにも心もとなくきこしめし
  きこえ給・人々はたれも/\いとくちおしくて・
  この御まいりのさきにと心よせの・よすか/\
  にせめわひ給へと・よしのゝたきをせかむより
0076【よしのゝたき】-\<朱合点> 手をさへて吉野の瀧をせきつとも人の心をいかゝたのまん(古今六帖2233、異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
  も
・かたきことなれは・いとわりなしと・をの/\
  いらふ・中将もなか/\なることを・うちいてゝ・い」11オ
0077【中将】-夕
  かにおほすらむとくるしきまゝに・かけり
  ありきて・いとねんころにおほかたの御うし
  ろみをおもひあつかひたるさまにて・ついせうし
  ありき給・たはやすくかるらかに・うちいてゝは・
  きこえかゝりたまはす・(す+め)やすくもてしつめ
  給へり・まことの御はらからの君たちは・えより
  こす・宮つかへのほとの御うしろみをと・をの/\
  心もとなくそ思ける頭の中将心をつくし
  わひしことは・かきたえにたるをうちつけ
  なりける御心かなと・人々はおかしかるに・」11ウ
  とのゝ御つかひにておはしたり・なをもてい
0078【とのゝ】-致
0079【御つかひ】-頭ー玉へ
  てす忍ひやかに・御せうそこなともきこえ
  かはし給けれは・月のあかき夜・かつらのかけに
0080【かつらのかけにかくれて】-\<朱合点> 恵慶集 夏なれと夏ともしらてすくるかな月の桂のかけにかくれて(恵慶集171、花鳥余情・休聞抄・紹巴抄・孟津抄・岷江入楚)
  かくれてものし給へり・見きゝいるへくも
  あらさりしをなこりなく・みなみのみすの
  まへにすへたてまつる・身つからきこえ給
0081【すへたてまつる】-柏
  はんことはしも・猶つゝましけれは・宰相
0082【宰相のきみ】-女房
  のきみしていらへきこえ給・なにかしらを
0083【なにかしらを】-柏詞
  えらひてたてまつり給へるは・人つてならぬ
  御せうそこにこそ侍らめ・かくものとをくては・」12オ
  いかゝきこえさすへからむ・身つからこそかす
  にも侍らねと・たえぬたとひも侍なるは・いかに
0084【たえぬたとひ】-親類兄弟間也
  そや・こたいの事なれと・たのもしくそ思
  給へけるとて・ものしとおもひたまへり・けに
0085【けにとしころ】-玉返
  としころのつもりも・とりそへてきこえ
  まほしけれと・ひころあやしくなやましく
  侍れは・おきあかりなともえし侍らてなむ・
  かくまて・とかめ給も・中/\うと/\しき
  心ちなむし侍けると・いとまめたちて
  きこえいたし給へり・なやましくおほ」12ウ
0086【なやましく】-柏詞
  さるらむ・みき丁のもとをは・ゆるさせ給ましく
  や・よし/\けにきこえさするも心ちなかり
  けりとて・おとゝの御せうそことも忍ひやかに
  きこえ給・ようゐなと人にはおとり給はす・
  いとめやすし・まいり給はむほとのあな
0087【まいり給はむ】-玉
  い・くはしきさまもえきかぬを・うち/\に
0088【うち/\に】-内は我になり
  の給はむなんよからむ・なに事も人めにはゝ
0089【人めに】-柏
  かりて・えまいりこすきこえぬことをなむ・
  中/\いふせくおほしたるなと・かたりき
  こえ給ついてに・いてやおこかましき事」13オ
0090【いてや】-柏詞
  も・えそきこえさせぬや・いつ方につけても・
  あはれをは御覧しすくすへくやはあり
  けると・いよ/\うらめしさもそひ侍かな・
  まつ(まつ=かつイ$)はこよひなとの御もてなしよ・きたお
  もてたつかたにめしいれて・きむたちこそ
  めさましくもおほしめさめ・しもつかへなと
  やうの人々とたに・うちかたらはゝや・また
  かゝるやうはあらしかし・さま/\にめつらしき
  よなりかしと・うちかたふきつゝうらみ
  つゝけたるもおかしけれは・かくなむときこゆ・」13ウ
0091【かくなむと】-宰相詞
  けに人きゝを・うちつけなるやうにやと・はゝ
0092【けに】-玉詞
  かり侍ほとに・年ころのむもれいたさをも・
  あきらめ侍らぬは・いと中/\なることお
  ほくなむと・たゝすくよかにきこえなし
  給に・まはゆくてよろつおしこめたり
    いもせ山ふかきみちをはたつねすてをたえの
0093【いもせ山】-かしは木 兄弟をも云
0094【をたえのはし】-陸奥
  はしにふみまよひけるよとうらむるも人
0095【ふみまよひ】-兄弟不知
0096【人やりならす】-\<朱合点> 人やりの道(古今388・新撰和歌185、河海抄・孟津抄)
  やりならす
    まよ(よ#と<朱>)ひけるみちをはしらすいもせ山たと/\
  しくそたれもふみゝしいつかたのゆへと」14オ
  なむ・えおほしわかさめりし・なにこともわり
0097【なにことも】-宰相詞
  なきまて・おほかたのよをはゝからせ給めれは・
  えきこえさせ給はぬになむ・をのつからかく
  のみも侍らしと・きこゆるもさることなれは
  よし・なかゐし侍らむもすさましき
0098【なかゐし侍らむも】-\<朱合点> 古今 住吉と海人は(古今917・新撰和歌299・古今六帖3851・忠岑集161、河海抄・休聞抄・紹巴抄・孟津抄・岷江入楚)
  ほとなり・やう/\らうつもりてこそは・かこ(△&こ=くこんイ<朱>)
0099【らう】-奉云
  とをもとて(△△△△△&とをもとて)をもとて(をもとて$)たち給・月くま
  なくさしあかりてそらのけしきもえむ
  なるに・いとあてやかにきよけなるかたち
  して・御なをしのすかたこのましく・」14ウ
0100【御なをし】-柏
  はなやかにていとおかし・宰相の中将のけはひ
0101【宰相の中将】-夕
  有さまには・えならひ給はねと・これもおかし
  かめるは・いかてかゝる御なからひなりけむと・わか
  き人々は・例のさるましきことをも・とり
  たてゝめてあへり・大将はこの中将はおなし
0102【大将】-ヒケ
0103【中将】-柏
  右のすけなれは・つねによひとりつゝ・ねんこ
  ろにかたらひ・おとゝにも申させ給けり・人から
0104【おとゝ】-致
  もいとよくおほやけの御うしろみとなるへ
  かめる・したかたなるをなとかいあらむとおほ
  しなから・かのおとゝのかくし給へること」15オ
  を・いかゝはきこえかへすへからん・さるやう
  あることにこそと心え給へるすちさへあれ
  は・まかせきこえ給へり・この大将は春宮
0105【大将】-ヒケクロ
0106【春宮の女御】-承香殿女御
  の女御の御はらからにそおはしける・おとゝ
  たちを・ゝきたてまつりて・さしつきの
  御おほえいとやむことなき君也・とし
  三十二三のほとにものし給・きたのかたは
  むらさきのうへの御あねそかし・式部卿の
  宮の御おおいきみよ・としのほとみつ
0107【おおいきみ】-嫡女云
  よへ(へ$つ<朱>)かこのかみは・ことなる・かたはにもあらぬ」15ウ
  を・人からや・いかゝおはしけむ・おん(ん$う)な(な+と)つけて
  心にもいれす・いかてそむきなんとおもへり・
  そのすちにより・六条のおとゝは・大将の
0108【大将】-ヒケ
  御ことは・にけなくいとおしからむと・お
  ほしたるなめり・いろめかしく・うちみた
  れたる所なきさまなから・いみしくそ・心を
  つくしありき給ける・かのおとゝも・もて
  はなれても・おほしたえ(△&え)さなり・女は宮つ
0109【たえさなり】-タヘヌ也
0110【女】-玉
  かへを・ものうけにおほいたなりと・うち/\の
  けしきも・さるくはしきたよりあれは・」16オ
  もりきゝてたゝ・おほとのゝ御おもむけのこと
  なるにこそはあなれ・まことのおやの御心た
  にたかはすはと・この弁の御もとにもせた
  めたまふ・九月にもなりぬ・はつしもむす
  ほゝれ・えむなるあしたに・れいのとり/\
  なる御うしろみともの・ひきそはみつゝ・もて
  まいる御ふみともを・見給こともなくて・よみ
  きこゆるはかりをきゝ給・大将とのゝには・
  なをたのみこしも・すきゆくそらのけしき
  こそ・心つくしに」16ウ
    かすならはいとひもせまし長月に命を
0111【かすならは】-ヒケクロ
  かくるほとそはかなきつきたゝはとあるさ
  ためを・いとよくきゝ給なめり・兵部卿の
  宮は・いふかひなきよは・きこえむかたなきを
    あさ日さすひかりを見てもたまさゝのはわけ
0112【あさ日さす】-蛍兵部卿
  の霜をけたすもあらなむおほしたに
  しらは・なくさむかたもありぬへくなんとて・
  いとかしけたるしたおれのしもゝおとさ
  す・もてまいれる・御つかひさへそうちあひ
0113【うちあひたる】-ヒケト蛍使
  たるや・式部卿の宮の左兵衛督は・とゝの」17オ
0114【左兵衛督】-後源中納言
  うへの御はらからそかし・したしくまいり
0115【うへ】-紫上
  なとし給君なれは・をのつからいとよく
  ものゝあないもきゝて・いみしくそ思ひわひ
  ける・いとおほくうらみつゝけて
    わすれなむと思ふも物のかなしきをいかさま
0116【わすれなむと】-源中納言
0117【いかさまにしていかさまにせむ】-義孝集 わすれぬをかくわするれとわすられすいかさまにしていかさまにせん(義孝集19、花鳥余情・紹巴抄・孟津抄・岷江入楚)
  にしていかさまにせむかみのいろすみつき・
  しめたるにほひも・さま/\なるを・人々もみな
  おほしたへぬへかめるこそ・さう/\しけれ
  なといふ宮の御かへりをそいかゝおほすらむ・
  たゝいさゝかにて」17ウ
    心もてひかりにむかふあふひたにあさをく
0118【心もて】-玉かつら返し
  霜をゝのれやはけつとほのかなるをいと・
  めつらしと見給に・身つからは・あはれをし
  りぬへき御けしきにかけ給つれは・つ
  ゆはかりなれと・いとうれしかりけり・かやう
  になにとなけれと・さま/\なる人々の
  御わひこともおほかり・女の御心はへは・この
0119【このきみ】-蛍
  きみをなんも(も=ほイ<朱>)とにすへきと・おとゝたち
  さためきこえ給けりとや」18オ

(白紙)」18ウ

【奥入01】三従
    女おさなき時父にしたかひさかり
    なる時おとこにしたかひ老後子に
    したかひ(戻)
【奥入02】よし野のたきをせかむよりも(戻)」19オ

藤はかま<墨> 二交了<朱>」(表表紙蓋紙)

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