藤袴(大島本親本復元) First updated 1/21/2007(ver.1-1)
Last updated 1/21/2007(ver.1-1)
渋谷栄一翻字(C)

  

藤 袴

《概要》
 現状の大島本から後人の本文校訂や書き入れ注記等を除いて、その親本の本文様態に復元して、以下の諸点について分析する。
1 飛鳥井雅康の「藤袴」巻の書写態度について
2 大島本親本の復元本文と他の青表紙本の本文との関係
3 大島本親本の復元本文と定家仮名遣い
4 大島本親本の復元本文の問題点 現行校訂本の本文との異同

《書誌》
 「帚木」巻以下「手習」巻までの書写者は、飛鳥井雅康である。

《復元資料》

凡例
1 本稿は、『大島本 源氏物語』(1996(平成8)年5月 角川書店)から、その親本を復元した。よって、本文中の書き入れ、注記等は、本文と一筆のみを採用し、書写者自身の誤写訂正と思われるものは、それに従って訂正した。しかし他の後人の筆と推測されるものは除いた。
2 付箋、行間注記は【 】- としてその頭に番号を記した。付箋は、( )で括り、付箋番号を記した。合(掛)点には、\<朱(墨)合点>と記した。
3 小字及び割注等は< >で記した。/は改行を表す。また漢文の訓点等は< >で記した。
4 本文の校訂記号は次の通りである。
 $(ミセケチ)・#(抹消)・+(補入)・&(ナゾリ)・=(併記)・△(不明文字)
 ( )の前の文字及び( )内の記号の前の文字は、訂正以前の文字、記号の後の文字が訂正以後の文字である。ただし、なぞり訂正だけは( )の前の文字は訂正後の文字である。訂正以前の本行本文の文字を尊重したことと、なぞり訂正だけは元の文字が判読しにくかったための処置である。
5 各丁の終わりには」の印と丁数とその表(オ)裏(ウ)を記した。

「藤はかま」(題箋)

  内侍のかみの御宮つかへのことをたれも/\
  そゝのかし給もいかならむおやと思ひ
  きこゆる人の御心たにうちとくましき
  世なりけれはましてさやうのましらひに
  つけて心より外にひんなき事もあ
  らは中宮も女御もかた/\につけて心を
  き給はゝはしたなからむに我身はかくはか
  なきさまにていつ方にもふかく思とゝめら
  れたてまつれるほともなくあさきおほえ
  にてたゝならすおもひいひいかて人わらへなる」1オ

  さまに見きゝなさむとうけひ給人々も
  おほくとかくにつけてやすからぬことのみ
  ありぬへきをものおほししるましきほと
  にしあらねはさま/\におもほしみたれ人
  しれす物なけかしさりとてかゝる有さまも
  あしき事はなけれとこのおとゝの御心はへ
  のむつかしく心つきなきもいかなるつゐてにか
  はもてはなれて人のをしはかるへかめるす
  ちを心きよくもありはつへきまことの
  ちゝおとゝも此殿のおほさむ所はゝかり給て」1ウ

  うけはりてとりはなちけさやき給へき
  ことにもあらねは猶とてもかくても見くるしう
  かけ/\しきありさまにて心をなやまし
  人にもてさはかるへきみなめりと中/\この
  おや尋きこえ給て後はことにはゝかり給
  けしきもなきおとゝの君の御もてなしを
  とりくはへつゝ人しれすなんなけかしかり
  けるおもふことをまほならすともかたはし
  にてもうちかすめつへきをなんおやもおは
  せすいつ方も/\いとはつかしけにいとうる」2オ

  はしき御さまともにはなに事をかはさなむ
  かくなんともきこえわき給はむよの人に
  にぬ身の有さまをうちなかめつゝ夕くれの
  空のあはれけなるけしきをはしちかう
  てみいたし給へるさまいとおかしうすきにひ
  色の御そなつかしきほとにやつれて例に
  かはりたるいろあひにしもかたちはいとは
  なやかにもてはやされておはするを御
  まへなる人々はうちゑみて見たてまつるに
  宰相の中将おなし色のいますこし」2ウ

  こまやかなるなをしすかたにてえいまき
  給へるすかたしもまたいとなまめかしき
  よらにておはしたりはしめよりものま
  めやかに心よせきこえ給へはもてはなれて
  うと/\しきさまにはもてなし給はさ
  りしならひに今あらさりけりとてこ
  よなくかはらむもうたてあれはなを
  みすにき丁そへたる御たいめむはひとつて
  ならてありけりとのゝ御せうそこにて
  うちよりおほせことあるさまやかてこの」3オ

  君のうけたまはり給へるなりけり御返
  おほとかなる物からいとめやすくきこえなし
  給けはひのらう/\しくなつかしきに
  つけてもかの野わきのあしたの御あさか
  ほは心にかゝりてこひしきをうたてある
  すちにおもひしきゝあきらめてのちは
  なをもあらぬ心ちそひてこの宮つかひを
  おほかたにしもおほしはなたしかしさは
  かりみところある御あはひともにておかし
  きさまなることのわつらはしきはたか」3ウ

  ならすいてきなんかしと思にたゝならす
  むねふたかる心ちすれとつれなくすく
  よかにて人にきかすましと侍つることを
  きこえさせんにいかゝ侍へきとけしきたては
  ちかくさふらふ人もすこししりそき
  つゝ御き丁のうしろなとにそはみあへり
  そらせうそこをつき/\しくとりつゝけ
  てこまやかにきこえ給うへの御けしき
  のたゝならぬすちをさる御心し給へなと
  やうのすちなりいらへ給はんこともなくて」4オ

  たゝうちなけき給へるほとしのひやかにうつ
  くしくいとなつかしきになをえしのふまし
  く御ふくもこの月にはぬかせ給へきを日
  ついてなんよろしからさりける十三日に
  かはらへいてさせ給へきよしの給はせなに
  かしも御ともにさふらふへくなん思給ふる
  ときこえ給へはたくひ給はんもこと/\しき
  やうにや侍らんしのひやかにてこそよく
  侍らめとの給この御ふくなんとのくはしき
  さまを人にあまねくしらせしとおもむ」4ウ

  け給へるけしきいとらうあり中将ももら
  さしとつゝませ給らむこそ心うけれ忍ひ
  かたく思たまへらるゝかたみなれはぬきすて
  侍らむこともいと物うく侍ものをさても
  あやしうもてはなれぬことのまた心え
  かたきにこそ侍れこの御あらはしころも
  の色なくはえこそ思給へわくましかりけれ
  との給へは何事もおもひわかぬ心にはまして
  ともかくも思たまへたとられ侍らねとかゝる
  いろこそあやしくもあはれなるわさに侍」5オ

  けれとて例よりもしめりたる御けしきいと
  らうたけにおかしかゝるついてにとや思より
  けむらにの花のいとおもしろきをもたまへり
  けるをみすのつまよりさし入てこれも御
  らんすへきゆへは有けりとてとみにもゆる
  さても給へれはうつたへに思よらてとり給御
  袖をひきうこかしたり
    おなしのゝ露にやつるゝふちはかまあはれ
  はかけよかことはかりもみちのはてなるとかや
  いと心つきなくうたてなりぬれと見しらぬ」5ウ

  さまにやをらひきいりて
    たつぬるにはるけき野への露ならは
  うすむらさきやかことならましかやう
  にてきこゆるよりふかきゆへはいかゝとの
  給へはすこしうちわらひてあさきも
  ふかきもおほしわくかたは侍なんと思給
  ふるまめやかにはいとかたしけなきす
  ちを思しりなからえしつめ侍らぬ心中
  をいかてかしろしめさるへきなか/\おほし
  うとまんかわひしさにいみしくこめ」6オ

  侍を今はたおなしと思給へわひてなむ
  頭の中将のけしきは御らむししりきや
  人のうへになんとおもひ侍けん身にてこそ
  いとおこかましくかつは思給へしられけれ
  中/\かの君は思さましてつゐに御あたり
  はなるましきたのみにおもひなくさめたる
  けしきなと見侍もいとうらやましく
  ねたきにあはれとたにおほしをけよ
  なとこまやかにきこえしらせ給ことおほ
  かれとかたはらいたけれはからぬなりかむ」6ウ

  のきみやう/\ひきいりつゝむつかしとおほし
  たれは心うき御けしきかなあやまちすま
  しき心のほとはをのつから御らむしし
  らるゝやうも侍らむ物をとてかゝるついてに
  今すこしもらさまほしけれとあやし
  くなやましくなむとていりはて給ぬれは
  いといたくうちなゝけきてたち給ぬなか/\
  にもうちいてゝけるかなとくちおしきに
  つけてもかの今すこし身にしみておほえし
  御けはひをかはかりのものこしにてもほの」7オ

  かに御こゑをたにいかならむつゐてにかきか
  むとやすからす思つゝ御まへにまいり給へ
  れはいて給て御返なときこえ給この宮
  つかへをしふけにこそ思給へれみやなとの
  れんし給へる人にていと心ふかきあはれを
  つくしいひなやまし給ふになん心やしみ
  給らんとおもふになん心くるしきされと大原
  野の行幸にうへを見たてまつり給ては
  いとめてたくおはしけりとおもひ給へりき
  わかき人はほのかにも見たてまつりてえしも」7ウ

  宮つかへのすちもてはなれしさ思ひてなん
  このこともかくものせしなとの給へはさても人
  さまはいつ方につけてかはたくひてものし
  給らむ中宮かくならひなきすちにておは
  しまし又こき殿やむことなくおほえこと
  にてものし給へはいみしき御思ひありとも
  立ならひ給ことかたくこそ侍らめ宮はいと
  ねんころにおほしたなるをわさとさる
  すちの御宮つかへにもあらぬ物からひき
  たかへたらむさまに御心をき給はむもさる」8オ

  御なからひにてはいと/\おしくなんきゝ給ふる
  とおとな/\しく申給かたしや我心ひとつ
  なるひとのうへにもあらぬを大将さへ我をこそ
  うらむなれすへてかゝることの心くるしさを
  見すくさてあやなき人のうらみをふか
  へりてはかる/\しきわさなりけりかのはゝ
  君のあはれにいひをきしことのわすれさ
  りしかは心ほそき山さとになときゝしを
  かのおとゝはたきゝいれ給へくもあらすとう
  れしにいとおしくてかくわたしはしめ」8ウ

  たるなりこゝにかくものめかすとてかのおとゝも
  人めかい給なめりとつき/\しくの給なす
  人からは宮の御人にていとよかるへしいまめ
  かしくいとなまめきたるさましてさすかに
  かしこくあやまちすましくなとして
  あはひはめやすからむさてまた宮つかへ
  にもいとよくたらひたらんかしかたちよく
  らう/\しきものおほやけ事なとにも
  おほめかしからすはか/\しくてうへの
  つねにねかはせ給御心にはたかふましなと」9オ

  の給けしきのみまほしけれはとしころかく
  てはくゝみきこえ給ける御心さしをひかさまに
  こそ人は申なれかのおとゝもさやうになむお
  もふけて大将のあなたさまのたよりにけし
  きはみたりけるにもいらへけるときこえ
  給へはうちわらひてかた/\いとにけなき
  ことかな猶宮つかへをも御心ゆるして
  かくなんとおほされんさまにそしたかふへき
  女は三従にしたかふのにこそあなれとついて
  をたかへてをのか心にまかせんことはある」9ウ

  ましきことなりとの給うち/\にもやむこと
  なきこれかれ年ころをへてものし給へは
  えそのすちの人かすにはものし給はてすて
  かてらにかくゆつりつけおほそふの宮つかへ
  のすちにらうせんとおほしをきつるいと
  かしこくかとあることなりとなんよろこひ
  申されけるとたしかに人のかたり申侍し
  なりといとうるはしきさまにかたり申
  給へはけにさはおもひ給らむかしとおほすに
  いとおしくていとまか/\しきすちにも」10オ

  思より給けるかないたりふかき御心ならひ
  ならむかし今をのつからいつ方につけても
  あらはなる事ありなむ思ひくまなしや
  とわらひ給御けしきはけさやかなれと猶
  うたかひはをかるおとゝもさりやかく人の
  をしはかるあんにおつることもあらましかは
  いとくちおしくねちけたらましかの
  おとゝにいかてかく心きよきさまをしら
  せたてまつらむとおほすにそけに宮
  つかへのすちにてけさやかなるましく」10ウ

  まきれたるおほえをかしこくも思より給ける
  かなとむくつけくおほさるかくて御ふくなとぬき
  給て月たゝは猶おほしの給をまいり給
  はむこといみあるへし十月はかりにとおほ
  しの給をうちにも心もとなくきこしめし
  きこえ給人々はたれも/\いとくちおしくて
  この御まいりのさきにと心よせのよすか/\
  にせめわひ給へとよしのゝたきをせかむより
  も
かたきことなれはいとわりなしとをの/\
  いらふ中将もなか/\なることをうちいてゝい」11オ

  かにおほすらむとくるしきまゝにかけり
  ありきていとねんころにおほかたの御うし
  ろみをおもひあつかひたるさまにてついせうし
  ありき給たはやすくかるらかにうちいてゝは
  きこえかゝりたまはすやすくもてしつめ
  給へりまことの御はらからの君たちはえより
  こす宮つかへのほとの御うしろみをとをの/\
  心もとなくそ思ける頭の中将心をつくし
  わひしことはかきたえにたるをうちつけ
  なりける御心かなと人々はおかしかるに」11ウ

  とのゝ御つかひにておはしたりなをもてい
  てす忍ひやかに御せうそこなともきこえ
  かはし給けれは月のあかき夜かつらのかけに
  かくれてものし給へり見きゝいるへくも
  あらさりしをなこりなくみなみのみすの
  まへにすへたてまつる身つからきこえ給
  はんことはしも猶つゝましけれは宰相
  のきみしていらへきこえ給なにかしらを
  えらひてたてまつり給へるは人つてならぬ
  御せうそこにこそ侍らめかくものとをくては」12オ

  いかゝきこえさすへからむ身つからこそかす
  にも侍らねとたえぬたとひも侍なるはいかに
  そやこたいの事なれとたのもしくそ思
  給へけるとてものしとおもひたまへりけに
  としころのつもりもとりそへてきこえ
  まほしけれとひころあやしくなやましく
  侍れはおきあかりなともえし侍らてなむ
  かくまてとかめ給も中/\うと/\しき
  心ちなむし侍けるといとまめたちて
  きこえいたし給へりなやましくおほ」12ウ

  さるらむみき丁のもとをはゆるさせ給ましく
  やよし/\けにきこえさするも心ちなかり
  けりとておとゝの御せうそことも忍ひやかに
  きこえ給ようゐなと人にはおとり給はす
  いとめやすしまいり給はむほとのあな
  いくはしきさまもえきかぬをうち/\に
  の給はむなんよからむなに事も人めにはゝ
  かりてえまいりこすきこえぬことをなむ
  中/\いふせくおほしたるなとかたりき
  こえ給ついてにいてやおこかましき事」13オ

  もえそきこえさせぬやいつ方につけても
  あはれをは御覧しすくすへくやはあり
  けるといよ/\うらめしさもそひ侍かな
  まつはこよひなとの御もてなしよきたお
  もてたつかたにめしいれてきむたちこそ
  めさましくもおほしめさめしもつかへなと
  やうの人々とたにうちかたらはゝやまた
  かゝるやうはあらしかしさま/\にめつらしき
  よなりかしとうちかたふきつゝうらみ
  つゝけたるもおかしけれはかくなむときこゆ」13ウ

  けに人きゝをうちつけなるやうにやとはゝ
  かり侍ほとに年ころのむもれいたさをも
  あきらめ侍らぬはいと中/\なることお
  ほくなむとたゝすくよかにきこえなし
  給にまはゆくてよろつおしこめたり
    いもせ山ふかきみちをはたつねすてをたえの
  はしにふみまよひけるよとうらむるも人
  やりならす
    まよひけるみちをはしらすいもせ山たと/\
  しくそたれもふみゝしいつかたのゆへと」14オ

  なむえおほしわかさめりしなにこともわり
  なきまておほかたのよをはゝからせ給めれは
  えきこえさせ給はぬになむをのつからかく
  のみも侍らしときこゆるもさることなれは
  よしなかゐし侍らむもすさましき
  ほとなりやう/\らうつもりてこそはかこ
  △△△△△をもとてたち給月くま
  なくさしあかりてそらのけしきもえむ
  なるにいとあてやかにきよけなるかたち
  して御なをしのすかたこのましく」14ウ

  はなやかにていとおかし宰相の中将のけはひ
  有さまにはえならひ給はねとこれもおかし
  かめるはいかてかゝる御なからひなりけむとわか
  き人々は例のさるましきことをもとり
  たてゝめてあへり大将はこの中将はおなし
  右のすけなれはつねによひとりつゝねんこ
  ろにかたらひおとゝにも申させ給けり人から
  もいとよくおほやけの御うしろみとなるへ
  かめるしたかたなるをなとかいあらむとおほ
  しなからかのおとゝのかくし給へること」15オ

  をいかゝはきこえかへすへからんさるやう
  あることにこそと心え給へるすちさへあれ
  はまかせきこえ給へりこの大将は春宮
  の女御の御はらからにそおはしけるおとゝ
  たちをゝきたてまつりてさしつきの
  御おほえいとやむことなき君也とし
  三十二三のほとにものし給きたのかたは
  むらさきのうへの御あねそかし式部卿の
  宮の御おおいきみよとしのほとみつ
  よへかこのかみはことなるかたはにもあらぬ」15ウ

  を人からやいかゝおはしけむおんなつけて
  心にもいれすいかてそむきなんとおもへり
  そのすちにより六条のおとゝは大将の
  御ことはにけなくいとおしからむとお
  ほしたるなめりいろめかしくうちみた
  れたる所なきさまなからいみしくそ心を
  つくしありき給けるかのおとゝももて
  はなれてもおほしたえさなり女は宮つ
  かへをものうけにおほいたなりとうち/\の
  けしきもさるくはしきたよりあれは」16オ

  もりきゝてたゝおほとのゝ御おもむけのこと
  なるにこそはあなれまことのおやの御心た
  にたかはすはとこの弁の御もとにもせた
  めたまふ九月にもなりぬはつしもむす
  ほゝれえむなるあしたにれいのとり/\
  なる御うしろみとものひきそはみつゝもて
  まいる御ふみともを見給こともなくてよみ
  きこゆるはかりをきゝ給大将とのゝには
  なをたのみこしもすきゆくそらのけしき
  こそ心つくしに」16ウ

    かすならはいとひもせまし長月に命を
  かくるほとそはかなきつきたゝはとあるさ
  ためをいとよくきゝ給なめり兵部卿の
  宮はいふかひなきよはきこえむかたなきを
    あさ日さすひかりを見てもたまさゝのはわけ
  の霜をけたすもあらなむおほしたに
  しらはなくさむかたもありぬへくなんとて
  いとかしけたるしたおれのしもゝおとさ
  すもてまいれる御つかひさへそうちあひ
  たるや式部卿の宮の左兵衛督はとゝの」17オ

  うへの御はらからそかししたしくまいり
  なとし給君なれはをのつからいとよく
  ものゝあないもきゝていみしくそ思ひわひ
  けるいとおほくうらみつゝけて
    わすれなむと思ふも物のかなしきをいかさま
  にしていかさまにせむかみのいろすみつき
  しめたるにほひもさま/\なるを人々もみな
  おほしたへぬへかめるこそさう/\しけれ
  なといふ宮の御かへりをそいかゝおほすらむ
  たゝいさゝかにて」17ウ

    心もてひかりにむかふあふひたにあさをく
  霜をゝのれやはけつとほのかなるをいと
  めつらしと見給に身つからはあはれをし
  りぬへき御けしきにかけ給つれはつ
  ゆはかりなれといとうれしかりけりかやう
  になにとなけれとさま/\なる人々の
  御わひこともおほかり女の御心はへはこの
  きみをなんもとにすへきとおとゝたち
  さためきこえ給けりとや」18オ

(白紙)」18ウ

【奥入01】三従
    女おさなき時父にしたかひさかり
    なる時おとこにしたかひ老後子に
    したかひ(戻)
【奥入02】よし野のたきをせかむよりも(戻)」19オ

inserted by FC2 system