梅枝(大島本) First updated 9/29/2001(ver.1-1)
Last updated 1/26/2007(ver.2-1)
渋谷栄一翻字(C)

  

梅 枝

《概要》
 大島本は、青表紙本の最善本とはいうものの、現状では、後人の筆によるさまざまな本文校訂跡や本文書き入れ注記、句点、声点、濁点等をもつ。そうした現状の様態をそのままに、以下の諸点について分析していく。
1 大島本と大島本の親本復元との関係 鎌倉期書写青表紙本(池田本・伏見天皇本等)を補助的資料として
2 大島本の本文校訂に対校された本文系統
3 大島本の句点の関係
4 大島本の後人書き入れ注記

《書誌》

《翻刻資料》

凡例
1 本稿は、『大島本 源氏物語』(1996(平成8)年5月 角川書店)を翻刻した。よって、後人の筆が加わった現状の本文様態である。
2 行間注記は【 】- としてその頭に番号を記した。
2 小字及び割注等は< >で記した。/は改行を表す。また漢文の訓点等は< >で記した。
3 合(掛)点は、\<朱(墨)合点>と記した。
4 朱句点は「・」で記した。
5 本文の校訂記号は次の通りである。
 $(ミセケチ)・#(抹消)・+(補入)・&(ナゾリ)・=(併記)・△(不明文字)
 ( )の前の文字及び( )内の記号の前の文字は、訂正以前の文字、記号の後の文字が訂正以後の文字である。ただし、なぞり訂正だけは( )の前の文字は訂正後の文字である。訂正以前の本行本文の文字を尊重したことと、なぞり訂正だけは元の文字が判読しにくかったための処置である。
6 朱・墨等の筆跡の相違や右側・左側・頭注等の注の位置は< >と( )で記した。私に付けた注記は(* )と記した。
7 付箋は、「 」で括り、付箋番号を記した。
8 各丁の終わりには」の印と丁数とその表(オ)裏(ウ)を記した。
9 本文校訂跡については、藤本孝一「本文様態注記表」(『大島本 源氏物語 別巻』と柳井滋・室伏信助「大島本『源氏物語』(飛鳥井雅康等筆)の本文の様態」(新日本古典文学大系本『源氏物語』付録)を参照した。
10 和歌の出典については、伊井春樹『源氏物語引歌索引』と『新編国歌大観』を参照し、和歌番号と、古注・旧注書名を掲載した。ただ小さな本文異同については略した。

「梅かえ」(題箋)

  御もきのことおほしいそく御こゝろをきて
0001【御もきのこと】-明石中宮
  世のつねならす・東宮もおなし二月に御
0002【東宮も】-朱雀院皇子今年十三歳也
  かうふりのことあるへけれは・やかて御まいりも
0003【御まいり】-明石中
  うちつゝくへきにや・正月のつこもりなれ
  はおほやけわたくしのとやかなるころをひ
  に・たき物あはせ給大弐のたてまつれる
0004【大弐】-無系図
  かうとも御覧するに・なをいにしへのには
  をとりてやあらむとおほして・二条院の
  みくらあけさせ給て・からのものともとり
  わたさせ給て御らむしくらふるに・にしき」1オ
0005【にしき】-錦
  あやなとも猶ふるき物こそなつかしう
0006【あや】-綾
  こまやかにはありけれとて・ちかき御しつ
  らひのものゝおほひしきものしとねなと
0007【しとね】-茵
  のはしともに・故院の御よのはしめつかた
  こまうとのたてまつれりける・あやひ
0008【こまうと】-高麗人
0009【ひこんき】-緋金錦
  こんきともなといまの世のものににす・
  なをさま/\御らむしあてつゝせさせ
  給て・このたひのあやうすものなとは
  人々に給はす・かうともはむかしいまの
  とりならへさせ給て・御かた/\にくはり」1ウ
  たてまつらせ給・ふたくさつゝあはせさせ
  給へときこえさせ給へり・をくりものかん
  たちめのろくなと世になきさまにうち
0010【ろく】-禄
  にもとにもことしけくいとなみ給に
  そへて・かた/\にえりとゝのへて・かなうす
0011【うす】-臼
  のをとみゝかしかましきころなり・おとゝ
0012【おとゝ】-源
  はしんてんにはなれおはしましてそうわう(そうわう$承和)
0013【承和】-仁明
  の御いましめのふたつのほうを・いかてか御
0014【ふたつのほう】-侍従黒方
0015【御みゝには】-源
  みゝにはつたへ給けん・心にしめてあはせ給・うへ
0016【つたへ給けん】-両種方不伝男
  はひんかしのなかのはなちいてに御しつ」2オ
0017【はなちいて】-放出 正殿東対西対共以中央号放出
  らひことにふかうしなさせ給て・八条の
0018【八条の式部卿】-本康仁明御子爰にてハ紫上父式部卿宮になすらへていへり
  式部卿の御ほうをつたへて・かたみにいとみ
  あはせ給ほと・いみしうひし給へは・にほひの
  ふかさあさゝも・かちまけのさためある
  へしとおとゝの給・人の御おやけなき御
  あらひ(ひ$<朱>)そひ心なり・いつかたにもおまへに
  さふらふ人あまたならす・御てうとゝもゝ・
  そこらのきよらをつくし給へるなかにも・
  かうこの御はことものやう・つほのすかた
0019【かうこの御はこ】-香壺箱<朱> 母屋調度共日記在之
0020【つほ】-壺
  ひとりのこゝろはへも・めなれぬさまにいま」2ウ
0021【ひとり】-火執
  めかしうやうかへさせ給へるに・ところ/\の
  こゝろをつくし給へらむにほひとものすく
  れたらむともを・かきあはせていれんとおほ
  すなりけり・二月の十日あめすこしふり
  て・おまへちかきこうはいさかりに色もかも
  にるものなきほとに・兵部卿の宮わたり給
0022【兵部卿の宮】-蛍
  へり御いそきのけふあすになりにけること・
0023【御いそき】-着裳
  ともとふらひきこえ給・むかしよりとりわき
  たる御なかなれは・へたてなくそのことかの(の+ことゝ<朱>)き
  こえあはせ給て・はなをめてつゝおはする」3オ
  ほとに・前斎院よりとてちりすきたる
0024【前斎院】-槿
0025【ちりすきたる梅のえた】-拾 春過てちりはてニける梅の花只かはかりそ枝ニのこれる(拾遺集1063、異本紫明抄・河海抄・紹巴抄・孟津抄・岷江入楚)
  梅のえたにつけたる御文もてまひれり・
  宮きこしめすこともあれはいかなる御せう
0026【宮】-蛍
  そこの・すゝみまいれるにかとておかしと
  おほしたれは・ほゝゑみていとなれ/\しき
  こときこえつけたりしを・まめやかに
  いそきものし給へるなめりとて・御文は引
  かくし給つ・ちむのはこにるりの・つきふた
0027【ちむ】-沈
0028【るり】-瑠璃
  つすゑて・おほきにまろかしつゝいれ給へり・
  こゝろはこむるりには五えうのえた・しろ」3ウ
  きには梅をえりて・おなしく引むすひ
  たるいとのさまも・なよひやかになまめかし
  うそし給へる・えんあるものゝさまかなとて・
  御めとめ給へるに
    花の香はちりにし枝にとまらねと
0029【花の香は】-前斎院
  うつらむ袖にあさくしまめやほのかなるを御
  覧しつけて・みやはこと/\しうすし給・さい
0030【みやは】-蛍
0031【こと/\しう】-褒美
  しやうの中将御つかひたつねとゝめさせ給て・
  いたうゑはし給・こうはいかさねのからのほそ
  なかそへたる女のさうそくかつけ給・御返も」4オ
  其色のかみにておまへの花をおらせて
0032【其色のかみ】-紅薄様重五衣
  つけさせ給・宮うちのことおもひやらるゝ
0033【宮】-蛍
  御ふみかな・なにことのかくろへあるにかふかく
  かくし給と・うらみていとゆかしとおほしたり・
  なにことか侍らむ・くま/\しくおほしたる
  こそくるしけれとて・御すゝりのついてに
    花のえにいとゝこゝろをしむるかな人の
0034【花のえに】-源氏
0035【人のとかめん】-古今 梅の花たちよるはかりありしより人のとかむるかにそしみぬる(古今35・兼輔集8、異本紫明抄・河海抄・孟津抄・岷江入楚)
  とかめん香をはつゝめとゝやありつらむま
  めやかには・すき/\しきやうなれとまた
  もなかめる人のうへにて・これこそはこと」4ウ
0036【なかめる人】-源娘明二人
  はりのいとなみなめれとおもひたまへなし
  てなん・いと見にくけれはうとき人はかた
0037【見にくけれは】-醜<ミニクシ>
  はらいたさに・中宮まかてさせたてまつり
0038【中宮】-秋
  てと思給・る(る$る<朱>)したしきほとになれきこえ
  かよへと・はつかしきところのふかうおはする
  宮なれは・なにこともよのつねにて見せたて
  まつらん・かたしけなくてなむなときこ
  え給・あえ物もけにかならすおほしよるへき
0039【あえ物も】-あやかり物よといふ心ナリ
  ことなりけりと・ことはり申給・このついて
  に御方/\のあはせ給とも・をの/\御つかひ」5オ
  してこのゆふ暮のしめりにこゝろみんと
  きこえ給へれは・さま/\おかしうしなして・
  たてまつり給へり・これわかせ給へたれにか
0040【わかせ】-自分
0041【たれにか見えん】-\<朱合点>
  見せんときこえ給て・御ひとりともめして
  こゝろみさせ給・しる人にもあらすやとひ
0042【しる人】-蛍
  けし給へと・いひしらぬにほひとものすゝみ
  をくれたるかうひとくさ・なとかいさゝかの・
  とかを・わきてあなかちに・おとりまさりの
  けちめををき給・かのわかおほむふたく
  さのは・いまそ・とうてさせ給・うこむのちんの」5ウ
  みかは水のほとりになすらへて・にしのわた
  とのゝしたよりいつるみきはちかう・うつ
  さ(さ$ま<朱>)せ給へるを・これみつのさい相のこの兵衛の
  そう・ほりてまひれり・宰相中将とりて
  つたへまいらせ給・宮いとくるしきはむさにも
  あたりて侍かな・いとけふたしやとなやみ
  給・おなしうこそはいつくにもちりつゝひろ
  こるへかめるを・人々のこゝろ/\にあはせ給へる・
  ふかさあさゝをかきあはせ給へるに・いとけふ
  あることおほかり・さらにいつれともなき」6オ
  なかに・斎院の御くろほうさいへとも・心に
  くゝしつやかなるにほひことなり・しゝうは
  おとゝの御(御+は<朱>)すくれてなまめかしうなつかし
  きかなりとさため給・たいのうへのおほ
0043【か】-香
0044【たいのうへ】-紫上
  むは・みくさあるなかにはい花はなやか
0045【はい花はなやかに】-春御方相応せり
  にいまめかしう・すこしはやき心しつらひを
  そへて・めつらしきかほりくはゝれり・この
  ころの風にたくへんには・さらにこれに
  まさるにほひあらしとめて給・夏の御方に
0046【夏の御方】-花散里
  は人々のかう心/\に・いとみ給なる中に・」6ウ
  かす/\にもたちいてすやと・けふりをさ
0047【けふりをさへ】-煙ノタヽヌヤウニキコユ
  へおもひきえ給へる御心にて・たゝ荷葉を
0048【荷葉】-荷葉
  ひとくさあはせ給へり・さまかはりしめやかなる
  かしてあはれになつかし・冬の御かたにもと
0049【冬の御かた】-明石上
  きときによれるにほひのさたまれるに・
  けたれんもあいなしとおほして・くのえかう
0050【くのえかう】-薫衣香 香惣名ナリトモ
  のほうのすくれたるは・さきのすさく院の
0051【さきのすさく院】-前朱雀院ハ宇多御門の御事也承平御門を朱雀院と申ニ対て宇多天皇をハ前の字を加て申也此物語ニハ又朱雀院ましますニよりて承平御門を前朱雀院と申也此御時公忠朝臣薫物方なと奉る故也
  をうつさせ給て・きむたゝのあそむのことに
  えらひつかうまつれりし百ふのほうなと
0052【百ふのほう】-香気遠きこゆるをいふ一方さたまらす
  思えて・世ににすなまめかしさをとりあつ」7オ
0053【思えて】-思なしてなり
  めたる心をきてすくれたりと・いつれ
  をもむとくならすさため給ふを・心きた
  なきはん者なめりときこえ給・月さし
0054【月さしいてぬれは】-二月十日上ノ詞ニアリ
  いてぬれはおほみきなとまいりて・むかし
  の御物かたりなとし給・かすめる月のかけ
  心にくきをあめのなこりの風すこし吹て・
  花のかなつかしきに・おとゝのあたりいひ
0055【おとゝの】-殿いへり
  しらすにほひみちて・人の御心ちいとえん
  あり・くら人所のかたにも・あすの御あそひ
  の・うちならしに・御ことゝものさうそくなと」7ウ
  して・殿上人なとあまたまいりておかしき
  ふえのねなともきこゆ・うちのおほいとのゝ頭
0056【おほいとの】-致仕
0057【頭中将】-柏木
  中将・弁の少将なともけさむはかりにて
  まかつるをとゝめさせ給て・御ことゝもめす
  宮の御まへにひは・おとゝにさう(う+の<朱>)御ことまいり
0058【宮】-蛍
0059【おとゝ】-源
  て・頭中将わこむ給て・はなやかにかき
  たてたるほといとおもしろくきこゆ・さい相
  中将よこふえふき給・おりにあひたるてうし
0060【てうし】-双調春
  雲井とをるはかりふきたてたり・弁の
0061【弁の少将】-後紅梅右大臣
  少将ひやうしとりてむめかえたしたる」8オ
0062【むめかえ】-\<朱合点> 古今 梅かえニ
  ほと(と+いと<朱>)おかし・わらはにてゐんふたきのおり
0063【ゐんふたきのおり】-榊の巻ニあり
  たかさこうたひし君なり・宮もおとゝも
  さしいらへし給て・こと/\こしからぬものから
0064【さしいらへ】-助音事也
  おかしきよの御あそひなり・御かはらけまいる
  に宮
    うくひすのこゑにやいとゝあくかれん
0065【うくひすの】-蛍兵部卿宮
0066【こゑ】-郢曲
  こゝろしめつる花のあたりにちよもへぬ
0067【ちよもへぬへし】-\<朱合点> 古今<墨> いつまてかのへに心のあくかれん花しちらすハちよもへぬへし<朱>(古今96・古今六帖55・素性集14、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
  へしときこえ給へは
    色も香もうつるはかりにこの春は
0068【色も香も】-けんし
  花さくやとをかれすもあらなん頭中将に」8ウ
0069【頭中将】-柏木
  たまへは・とりて宰相中将にさす
    鴬のねくらのえたもなひくまてなを
  ふきとをせよはの笛竹宰相中将
0070【宰相中将】-夕霧
    心ありて風のよくめるはなの木に
  とりあへぬまてふきやよるへきなさけ
  なくとみなうちわらひ給・弁の少将
0071【弁の少将】-紅
    かすみたに月と花とをへたてすは
  ねくらの鳥もほころひなましまことにあ
0072【ねくらの鳥】-夜深体
  けかたになりてそ宮かへり給ふ・御をくり
  物に身つからの御れうの御なをしの御よそひ」9オ
0073【身つからの御れう】-源氏御料
  ひとくたり・てふれ給はぬたき物ふたつ
  ほそへて・御車にたてまつらせ給・宮
    花の香をえならぬ袖にうつしもてこと
0074【えならぬ】-縁ならぬ也
  あやまりといもやとかめむとあれはいと
  くつしたりやとわらひ給ふ・御車かくるほと
0075【くつしたりや】-苦したる也
0076【御車かくる】-牛
  にを(を$を)いて
    めつらしとふる里人もまちそみむ
0077【めつらしと】-けんし
  花のにしきをきてかへる君またなき
0078【またなき事と】-蛍北方ヲ
  事とおほさるらむとあれは・いといたう
  からかり給・つき/\の君たちにもこと/\」9ウ
0079【からかり給】-たへかたき心なり
  しからぬさまに・ほそなかこうちきなとかつ
  け給・かくてにしのおとゝに・いぬの時にわたり
  給・宮のおはしますにしのはなちいてをし
0080【宮】-秋好中宮
  つらひて・御くしあけの内侍なとも・やかて
0081【御くしあけ】-ミ 光髪上ヲスル也
  こなたにまいれり・うへもこのついてに
0082【うへ】-紫上
  中宮に御たいめんあり・御かた/\の女房
0083【中宮】-秋
  をしあはせたるかすしらすみえたり・ね
  の時に御もたてまつる・おほとなふらほのか
  なれと・御けはひいとめてたしと・宮は見た
0084【宮】-秋
  てまつれ給ふ・おとゝおほしすつましきを・」10オ
0085【おとゝ】-けん詞
  たのみにて・なめけなるすかたをすゝみ
  御覧せられ侍なり・のちの世のためしにや
  と・心せはくしのひ思たまふるなとき
  こえ給・宮いかなるへきことゝも・思たまへわき
0086【宮】-秋
  侍らさりつるを・かうこと/\しうとりなさ
  せたまふになん・中/\心をかれぬへくと
  の給けつほとの御けはひ・いとわかくあいき
  やうつきたるに・おとゝもおほすさまにおか
  しき御けはひともの・さしつとひ給へるを・あ
  はひめてたくおほさる・はゝ君のかゝるおり」10ウ
0087【はゝ君】-明石上
  たにえ見たてまつらぬを・いみしとおも
  へりしも心くるしうて・まうのほらせや
  せましとおほせと・人のものいひをつゝみ
  てすくし給つ・かゝる所のきしきはよろし
0088【かゝる所】-作ー
0089【よろしきにたに】-よろしきハよのつねの事也
  きにたに・いとことおほくうるさきを・
0090【いとことに】-けふの事ハ中/\ことの葉もまねひたてられぬ事なれハ大かひはかりをしるすとなり
  かたはしはかりれいのしとけなくまね
  はむも中/\にやとて・こまかにかゝす・春
  宮の御けんふくは二十よひのほとになんあり
  ける・いとおとなしくおはしませは・ひとのむす
  めともきほひまいらすへきことを・心さし」11オ
  おほすなれと・此とのゝ・おほしきさすさま
0091【此との】-源
  の・いとことなれは・中/\にてやましらはん
  と・左のおとゝなともおほしとゝまるなる
0092【左のおとゝ】-麗景殿女御御父
0093【おほしとゝまる】-ヒケ黒左大将なとも
  を・きこしめして・いとたい/\しきことなり・
  みやつかへのすちはあまたあるなかに・す
  こしのけちめを・いとまむこそ・ほいならめ・
  そこらのきやうさくのひめきみたち・ひき
0094【きやうさく】-還迹なりすくれたる心なり
  こめられなは・世にはえあらしとの給て・
  御まいりのひぬ・つき/\にもと・しつめ給ける
0095【しつめ給ける】-参内ヲ
  を・かゝるよしところ/\にきゝ給て・左大臣」11ウ
  殿三の君まいり給ぬ・れいけい殿ときこ
  ゆる・この御かたはむかしの御とのゐ所しけい
0096【しけいさ】-源母曹司
  さを・あらためしつらひて・御まいりのひぬるを・
  宮にも心もとなからせ給へは・四月にと・さた
  めさせ給・御てうとゝもゝ・もとあるよりも・
  とゝのへて御身つからもものゝしたかた・ゑやう
  なとをも御らむしいれつゝ・すくれたる
  みち/\の上手ともをめしあつめて・こまか
  にみかきとゝのへさせ給・さうしのはこにいる
  へきさうしともの・やかて本むにもし給へき」12オ
  をえらせ給・いにしへのかみなきゝはの御て
0097【かみ】-上
0098【きは】-際
  ともの世になをのこしたまへる・たくひのも
  いとおほくさふらふ・よろつのことむかしには・
  おとりさまに・あさくなりゆくよのすゑ
  なれと・かむなのみなんいまのよは・いとき
  はなくなりたる・ふるきあとはさたまれる
  やうにはあれと・ひろき心ゆたかならす・ひと
  すちにかよひてなんありける・たへにおか
0099【たへにおかしきことは】-あうよりハ奥也昔ニよりたる心なり とよりハ外なり末ニ成の心なり
  しきことは・とよりてこそかきいつる人々あり
  けれと・女てを心にいれて・ならひしさかりに」12ウ
  こともなきて・本おほくつとへたりしなかに・
  中宮のはゝみやす所の心にもいれす・はし
  りかい給へりしひとくたりはかり・わさと
  ならぬをえて・きはことにおほえしはや・さ
  てあるましき御名も・たてきこえしそかし・
  くやしきことに思しみ給へりしかと・さしも
  あらさりけり・宮にかくうしろみつかうまつ
  ることを・心ふかうおはせしかは・なき御かけ
  にも・見なをし給らん・宮の御ては・こまかに
  おかしけなれと・かとやをくれたらんと・うち」13オ
  さゝめきてきこえ給ふ・こ入道の宮の御ては・
0100【こ入道の宮】-薄雲女院
  いと気色ふかう・なまめきたるすちは
  ありしかと・よはき所ありて・にほひそす
  くなかりし・院のないしのかみこそいまの
0101【院のないしのかみ】-朧
  世の上すにおはすれと・あまりそほれて・
0102【そほれて】-俳
  くせそそひためる・さはありとも・かの君と・
0103【くせ】-癖
0104【かの君】-朧
  前斎院と・こゝにとこそはかき給はめと
0105【こゝに】-紫上事
  ゆるしきこえ給へは・このかすにはまはゆ
0106【このかすには】-紫詞
  くやときこえ給へは・いたうなすくし給そ・
0107【いたう】-源
0108【すくし】-マンスル
  にこやかなるかたのなつかしさは・ことなるも」13ウ
  のを・まんなのすゝみたるほとに・かなはしと
0109【しとけなき】-悪
  けなきもしこそましるめれとて・またかゝ
  ぬさうしともつくりくはへて・へうしひもなと・
  いみしうせさせ給ふ・兵部卿の宮の(の#)・さへもん
0110【兵部卿の宮】-蛍
0111【さへもんのかみ】-無系図
  のかみなとにものせん・みつから・ひとよろひは
  かくへし・けしきはみいますかりとも・
0112【けしきはみ】-紫
0113【いますかりとも】-紫の上をの給ふ
  えかきならへしやと・我ほめをしたまふ・
0114【我ほめ】-源 自讃
  すみふて・ならひなくえりいてゝ・れいの
  所/\にたゝならぬ御せうそこあれは・ひと
  ひとかたきことにおほして・かへさひ申給も」14オ
0115【かへさひ】-返申
  あれはまめやかにきこえ給ふ・こまのかみ
0116【こまのかみ】-高麗紙
  の・うすやうたちたるか・せめてなまめかし
  きを・このものこのみするわかき人々・心見ん
  とて・宰相の中将・式部卿の宮の兵衛督・
  うちのおほいとのゝとうの中将なとに・
  あしてうたゑを・思/\にかけとの給へは・
0117【あしてうたゑ】-あしてのいろはもあり
  みな心/\にいとむへかめり・れいのしん殿に
  はなれおはしましてかき給ふ・花さかり
  過て・あさみとり(り$り<朱>)なる空うらゝかなるに・
  ふるきことゝもなとおもひすまし給ひ」14ウ
  て・御心のゆくかきり・さうのも・たゝのも・女て
  もいみしう・かきつくし給ふ・御まへに人しけ
  からす・女房二三人はかり・すみなとすら
  せ給て・ゆへあるふるきしうの歌なと・いか
  にそやなと・えりいて給ふに・くちおし
  からぬかきりさふらふ・みすあけわたして・
  けうそくのうへに・さうしうちをきはし
  ちかく・うちみたれて・ふてのしりくはへて・
  おもひめくらし給へるさま・あくよなくめてたし・
  しろきあかきなと・けちえんなるひらは・」15オ
0118【けちえんなる】-はれ/\しき心掲焉
  ふてとりなをしよういし給へるさまさへ・見
  しらむ人は(は+けに)めてぬへき御ありさまなり・兵
  部卿の宮わたり給ときこゆれは・おとろ
  きて御なをしたてまつり・御しとねまいり
  そへさせ給て・やかてまちとりいれたて
  まつり給ふ・この宮も・いときよけにて・みは
0119【この宮】-蛍
  しさまよく・あゆみのほり給ふほと・うち
  にも人々のそきてみたてまつる・うちかし
  こまりてかたみにうるはしたち給へるも・
  いときよらなり・つれ/\にこもり侍も」15ウ
  くるしきまて・おもふ給へらるゝこゝろの・
  のとけさに・おりよくわたらせ給へると・
  よろこひきこえ給ふ・かの御さうしもたせて
  わたりたまへるなりけり・やかて御覧すれは・
  すくれてしもあらぬ御てを・たゝかたかとに・
  いといたうふてすみたるけしきありて
0120【すみたる】-清
  かきなし給へり・うたもことさらめきそ
  はみたるふることともをえりて・たゝみ
  くたりはかりにもしすくなにこのましく
  そかき給へる・おとゝ御覧しおとろきぬ・かう」16オ
  まてはおもひたまへすこそありつれ・さら
  にふてなけすてつへしやと・ねたかり
0121【ふてなけすてつへし】-班超<ハンテウ>投筆硯
  給ふ・かゝる御中に・おもなくくたすふての
  ほと・さりともとなんおもふたも(も$ま)ふるなと・
  たはふれ給ふ・かき給へるさうしともゝ・かくし
  給へきならねは・とうて給てかたみに御覧
  す・からのかみのいとすくみたるに・さうかき
  給へるすくれて・めてたしと見給に・こまの
  かみのはたこまかに・なこうなつかしき
0122【なこう】-和
  か色なとは・はなやかならて・なま(△&ま)めきたるに・」16ウ
  おほとかなる女てのうるはしう・心とゝめてかき
  給へる・たとうへきかたなし・見給ふ人のなみた
0123【なみたさへ水くきになかれそふ】-感心 なき人のかきとゝめける水くきを見るニ涙のなかれぬる哉(伊勢集451、河海抄・休聞抄・孟津抄・岷江入楚)
  さへ・水くきになかれそふ心地して・あくよある
  ましきに・またこゝのかんやのしきしの
  色あひはなやかなるに・みたれたるさうの
  うたを・ふてにまかせてみたれかき給へる
  みところかきりなし・しとろもとろに・
  あひきやうつき見まほしけれは・さらに
  のこりともに・めもみやり給はす・さへもんの
  かみは・こと/\しうかしこけなるすちを」17オ
  のみこのみてかきたれと・ふてのをきて
  すまぬ心地して・いたはりくはへたるけし
  きなり・うたなともことさらめきて・えり
  かきたり・女の御はまほにもとりいて給
  はす・斎院のなとはまして・とうて給はさり
0124【斎院】-槿
  けり・あしてのさうしともそ・心/\にはかなふ
  おかしき・さいしやうの中将のは・みつのいき
  をいゆたかにかきなし・そゝけたるあしの
  おいさまなと・なにはのうらにかよひてこなた
  かなた・いきましりて・いたうすみたる」17ウ
  ところあり・またいといかめかしうひきかへて・
  もしやう・いしなとのたゝすまひ・このみかき
  給へるひらもあめり・めもをよはす・これはいと
  まいりぬへきものかなと・けうしめて給ふ・なに
0125【けうしめて給ふ】-玩
  こともものこのみし・えんかりおはするみこにて・
0126【みこ】-蛍
  いといみしうめてきこえ給・けふはまたての
  ことゝもの給くらし・さま/\のつきかみの
  ほんとも・えりいてさせ給へるつゐてに・御この
  しゝうして・宮にさふらふほんとも・とりに
  つかはす・さかの御かとの・古万葉集をえらひ」18オ
0127【古万葉集】-コ
  かゝせ給へる四巻・延喜のみかとの古今和哥
0128【四巻】-ヨマキ
  集を・からのあさはなたのかみをつきてお
  なし色のこきもんのきのへうし・おなしき
0129【きのへうし】-綺<キ>
  たまのちく・たむのからくみのひもなと・
0130【ちく】-軸
0131【たむ】-談
0132【くみひも】-組
  なまめかしうて・まきことに御てのすちを
  かへつゝ・いみしうかきつくさせ給へり・おほと
  なふらみしかくまいりて御らんするに・つ
0133【みしかくまいりて】-切灯台ニすゆる也
  きせぬものかな・このころの人はたゝかたそ
  はをけしきはむにこそありけれなと
  めてたまふ・やかてこれはとゝめたてまつり」18ウ
  給ふ・女こなとをもて侍らましにたに・おさ/\
  みはやすましきには・つたふましきを・まし
  てくちぬへきをなときこえてたてまつれ
  給・しゝうにからのほんなとのいとわさとかま
  しき・ちんのはこにいれていみしきこま
  ふえそへて奉れ給・又この比はたゝかんなの
  さためをし給て・世中にてかくとおほえたる・
  上中下の人々にもさるへきものともおほし
  はからひて・尋つゝかゝせ給・この御はこには・
  たちくたれるをはませ給はす・わさと人の」19オ
  ほと・しなわかせ給つゝ・さうしまき物みな
  かゝせたてまつり給・よろつにめつらかなる御
  たから物とも・人のみかとまて・ありかたけなるなかに・
  このほんともなんゆかしと・心うこき給・わか人よに
  おほかりける・御ゑともとゝのへさせ給なかに・かのす
  まの日記は・すゑにもつたへしらせむとおほせと・
  いますこし世をもおほししりなんにと・お
  ほしかへして・またとりいて給はす・うちのおとゝ
  は・この御いそきを人のうへにて・きゝ給ふもい
  みしう心もとなく・さう/\しとおほす・ひめ」19ウ
0134【ひめ君】-雲
  君の御有様・さかりにとゝのひて・あたらしうう
  つくしけなり・つれ/\とうちしめり給へるほと・
  いみしき御なけきくさなるに・かの人の御けしき・
0135【かの人】-夕
  はたおなしやうになたらかなれは・心よはくすゝみ
0136【心よはく】-致仕
  よらむも・人はらはれに人のねんころなりし
  きさみに・なひきなましかはなと・人しれす
  おほしなけきて・ひとかたにつみをも・おほせ
  給はす・かくすこし・たはみ給へる御気色を・
  宰相の君はきゝ給へと・しはしつらかりし
  御心をうしとおもへは・つれなくもてなし」20オ
  しつめて・さすかにほかさまの心はつくへくもお
  ほえす・心つからたはふれにくきおりおほかれ
0137【たはふれにくき】-古今 ありぬやと心みかてら会みねハたはふれにくきまてそ恋しき(古今1025、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
  と・あさみとり・きこえこちし・御めのとゝもに・
0138【御めのとゝも】-雲ノ
  納言にのほりてみえんの御心ふかゝるへし・おとゝ
0139【おとゝは】-源氏の君の夕霧ニかたり給ふ事也
  はあやしう・うきたるさまかなと・おほしなやみて・
  かのわたりのことおもひたえにたらは・みきの
0140【かのわたり】-致仕
0141【みきのおとゝ】-ヒケ父
  おとゝ中務の宮なとのけしきはみいはせ給
0142【中務の宮】-ケイツなし
0143【けしきはみ】-夕霧のむこのすみ給ふ事
  めるを・いつくもおもひさためられよとの給へ
  と・ものもきこえ給はす・かしこまりたる御
0144【ものもきこえ給はす】-夕
  さまにて・さふらひ給ふ・かやうのことはかしこき」20ウ
0145【かしこき御をしへ】-源氏の昔の桐壺の御門の御をしへを思出し給て夕霧を教訓し給ふ詞なり
  御をしへにたに・したかふへくもおほえさりし
  かは・ことませま・うけれといまおもひあはするに
0146【ことませ】-言ナリ
  は・かの御をしへこそなかきためしにはありけれ・
  つれ/\とものすれは・思所あるにやと・世人
0147【つれ/\と】-夕ノ
  もおしはかるらんを・すくせのひくかたにて・
  なを/\しきことに・あり/\てなひく(く+いと)しりひに・
0148【しりひに】-後 のちよわくなる心歟
  人わろきことそや・いみしうおもひのほれと・
  心にしもかなはす・かきりのある物から・すき/\
  しき心つかはるな・いはけなくより・宮のうちに
  おいいてゝ・身を(を+心に)まかせす・所せくいさゝかの事」21オ
  のあやまりもあらは・かろ/\しきそしりをや・
  おはむとつゝみしたに・なをすき/\しき
  とかをおいて・よにはしたなめられき・位あさく
  なにとなきみのほと・うちとけ心のまゝなる
  ふるまひなと・(と+物)せらるな・心をのつからおこりぬ
  れは・おもひしつむへき・くさはひなきとき・
  女のことにてなむ・かしこき人むかしもみた
0149【女のこと】-六条御息所
  るゝためしありける・さるましきことに心を
  つけて・人のなをもたて・みつからもうらみを
  おふなむ・つゐのほたしとなりける・とり」21ウ
0150【とりあやまりつゝ】-見始
  あやまりつゝ・みん人のわか心にかなはす・しの
0151【みん人】-末摘
  はむこと・かたきふしありとも・なをおもひ
  かへさん心をならひて・もしはおやの心にゆ
  つり・もしはおやなくて世中かたほにあり
  とも・人から心くるしうなとあらむひとをは・
  それをかたかとによせても見給へ・我ため人
  のため・ついによかるへき心そふかうあるへきなと
  のとやかに・つれ/\なるおりはかゝる御心つかひ
  をのみをしへたまふ・かやうなる御いさめにつき
0152【かやうなる】-夕心
  て・たはふれにても・ほかさまの心をおもひかゝるは・」22オ
  あはれに人やりならすおほえ給ふ・をんなも
0153【をんなも】-雲井
  つねよりことに・おとゝの思なけき給へる
  御けしきに・はつかしう・うき身とおほししつめと・
  うへはつれなくおほとかにて・なかめすくし
  給・御ふみはおもひあまり給・折/\あはれに心
0154【御ふみ】-夕ー
  ふかきさまにきこえ給ふ・たかまことをかと
0155【たかまことをか】-\<朱合点> 古今<墨> いつハりとおもふ物から今更に誰かまことをか我ハたのまん<朱>(古今713・拾遺集932・古今六帖2141・伊勢物語235、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
  おもひなから・よなれたる人こそあなかちに・人の
  心をもうたかふなれ・あはれと見たまふふし
  おほかり・なかつかさの宮なん・おほとのにも・
0156【おほとの】-源
  御けしき給りて・さもやとおほしかはした」22ウ
  なると・人の聞えけれは・おとゝはひきかへし
  御むねふたかるへし・しのひてさることをこそ
  きゝしか・なさけなき人の御こゝろにもあり
  けるかな・おとゝのくちいれ給しに・しふねかり
0157【おとゝ】-けん
  きとて・ひきたかへ給ふなるへし・心よはくな
0158【心よはく】-致仕
  ひきても・人はらへならましことなと・なみた
  をうけての給へは・ひめ君いとはつかしきに
0159【ひめ君】-雲井
  も・そこはかとなく・なみたのこほるれは
  はしたなくて・そむき給へるらうたけさ
  かきりなし・いかにせましなをやすゝみいてゝ」23オ
  気色をとらましなと・おほしみたれて・
  たち給ぬるなこりもやかてはしちかうな
0160【たち給ぬる】-致仕
0161【やかて】-雲
  かめ給・あやしく心をくれても・すゝみいて
0162【あやしく】-雲井
  つるなみたかな・いかにおほしつらんなとよ
  ろつにおもひゐ給へるほとに・御ふみあり・さす
0163【御ふみ】-夕
  かにそ見たまふ・こまやかにて
    つれなさはうき世のつねになりゆくを
0164【つれなさは】-宰相中将
  わすれぬ人や人にことなるとありけしき
0165【けしきはかり】-源別ノムコ
  はかりも・かすめぬつれなさよと・おもひつゝ
  け給はうけれと」23ウ
    かきりとて忘かたきをわするゝも
0166【かきりとて】-雲井のかり
  こや世になひく心なるらむとあるをあ
0167【あやしと】-夕心何事カト
  やしとうちをかれす・かたふきつゝ見ゐ
  たまへり」24オ

(白紙)」24ウ

【奥入01】梅之枝<呂>(戻)」25オ
イ本
源氏卅九歳の正月二月事見え侍り以詞
為巻名梅かえハ催馬楽をうらみる事也イ本」25オ

△校畢<朱>
二校了<朱>」(表表紙蓋紙)

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