梅枝(大島本親本復元) First updated 1/26/2007(ver.1-1)
Last updated 1/26/2007(ver.1-1)
渋谷栄一翻字(C)

  

梅 枝

《概要》
 現状の大島本から後人の本文校訂や書き入れ注記等を除いて、その親本の本文様態に復元して、以下の諸点について分析する。
1 飛鳥井雅康の「梅枝」巻の書写態度について
2 大島本親本の復元本文と他の青表紙本の本文との関係
3 大島本親本の復元本文と定家仮名遣い
4 大島本親本の復元本文の問題点 現行校訂本の本文との異同

《書誌》
 「帚木」巻以下「手習」巻までの書写者は、飛鳥井雅康である。

《復元資料》

凡例
1 本稿は、『大島本 源氏物語』(1996(平成8)年5月 角川書店)から、その親本を復元した。よって、本文中の書き入れ、注記等は、本文と一筆のみを採用し、書写者自身の誤写訂正と思われるものは、それに従って訂正した。しかし他の後人の筆と推測されるものは除いた。
2 付箋、行間注記は【 】- としてその頭に番号を記した。付箋は、( )で括り、付箋番号を記した。合(掛)点には、\<朱(墨)合点>と記した。
3 小字及び割注等は< >で記した。/は改行を表す。また漢文の訓点等は< >で記した。
4 本文の校訂記号は次の通りである。
 $(ミセケチ)・#(抹消)・+(補入)・&(ナゾリ)・=(併記)・△(不明文字)
 ( )の前の文字及び( )内の記号の前の文字は、訂正以前の文字、記号の後の文字が訂正以後の文字である。ただし、なぞり訂正だけは( )の前の文字は訂正後の文字である。訂正以前の本行本文の文字を尊重したことと、なぞり訂正だけは元の文字が判読しにくかったための処置である。
5 各丁の終わりには」の印と丁数とその表(オ)裏(ウ)を記した。

「梅かえ」(題箋)

  御もきのことおほしいそく御こゝろをきて
  世のつねならす東宮もおなし二月に御
  かうふりのことあるへけれはやかて御まいりも
  うちつゝくへきにや正月のつこもりなれ
  はおほやけわたくしのとやかなるころをひ
  にたき物あはせ給大弐のたてまつれる
  かうとも御覧するになをいにしへのには
  をとりてやあらむとおほして二条院の
  みくらあけさせ給てからのものともとり
  わたさせ給て御らむしくらふるににしき」1オ

  あやなとも猶ふるき物こそなつかしう
  こまやかにはありけれとてちかき御しつ
  らひのものゝおほひしきものしとねなと
  のはしともに故院の御よのはしめつかた
  こまうとのたてまつれりけるあやひ
  こんきともなといまの世のものににす
  なをさま/\御らむしあてつゝせさせ
  給てこのたひのあやうすものなとは
  人々に給はすかうともはむかしいまの
  とりならへさせ給て御かた/\にくはり」1ウ

  たてまつらせ給ふたくさつゝあはせさせ
  給へときこえさせ給へりをくりものかん
  たちめのろくなと世になきさまにうち
  にもとにもことしけくいとなみ給に
  そへてかた/\にえりとゝのへてかなうす
  のをとみゝかしかましきころなりおとゝ
  はしんてんにはなれおはしましてそうわう
  の御いましめのふたつのほうをいかてか御
  みゝにはつたへ給けん心にしめてあはせ給うへ
  はひんかしのなかのはなちいてに御しつ」2オ

  らひことにふかうしなさせ給て八条の
  式部卿の御ほうをつたへてかたみにいとみ
  あはせ給ほといみしうひし給へはにほひの
  ふかさあさゝもかちまけのさためある
  へしとおとゝの給人の御おやけなき御
  あらひそひ心なりいつかたにもおまへに
  さふらふ人あまたならす御てうとゝもゝ
  そこらのきよらをつくし給へるなかにも
  かうこの御はことものやうつほのすかた
  ひとりのこゝろはへもめなれぬさまにいま」2ウ

  めかしうやうかへさせ給へるにところ/\の
  こゝろをつくし給へらむにほひとものすく
  れたらむともをかきあはせていれんとおほ
  すなりけり二月の十日あめすこしふり
  ておまへちかきこうはいさかりに色もかも
  にるものなきほとに兵部卿の宮わたり給
  へり御いそきのけふあすになりにけること
  ともとふらひきこえ給むかしよりとりわき
  たる御なかなれはへたてなくそのことかのき
  こえあはせ給てはなをめてつゝおはする」3オ

  ほとに前斎院よりとてちりすきたる
  梅のえたにつけたる御文もてまひれり
  宮きこしめすこともあれはいかなる御せう
  そこのすゝみまいれるにかとておかしと
  おほしたれはほゝゑみていとなれ/\しき
  こときこえつけたりしをまめやかに
  いそきものし給へるなめりとて御文は引
  かくし給つちむのはこにるりのつきふた
  つすゑておほきにまろかしつゝいれ給へり
  こゝろはこむるりには五えうのえたしろ」3ウ

  きには梅をえりておなしく引むすひ
  たるいとのさまもなよひやかになまめかし
  うそし給へるえんあるものゝさまかなとて
  御めとめ給へるに
    花の香はちりにし枝にとまらねと
  うつらむ袖にあさくしまめやほのかなるを御
  覧しつけてみやはこと/\しうすし給さい
  しやうの中将御つかひたつねとゝめさせ給て
  いたうゑはし給こうはいかさねのからのほそ
  なかそへたる女のさうそくかつけ給御返も」4オ

  其色のかみにておまへの花をおらせて
  つけさせ給宮うちのことおもひやらるゝ
  御ふみかななにことのかくろへあるにかふかく
  かくし給とうらみていとゆかしとおほしたり
  なにことか侍らむくま/\しくおほしたる
  こそくるしけれとて御すゝりのついてに
    花のえにいとゝこゝろをしむるかな人の
  とかめん香をはつゝめとゝやありつらむま
  めやかにはすき/\しきやうなれとまた
  もなかめる人のうへにてこれこそはこと」4ウ

  はりのいとなみなめれとおもひたまへなし
  てなんいと見にくけれはうとき人はかた
  はらいたさに中宮まかてさせたてまつり
  てと思給るしたしきほとになれきこえ
  かよへとはつかしきところのふかうおはする
  宮なれはなにこともよのつねにて見せたて
  まつらんかたしけなくてなむなときこ
  え給あえ物もけにかならすおほしよるへき
  ことなりけりとことはり申給このついて
  に御方/\のあはせ給ともをの/\御つかひ」5オ

  してこのゆふ暮のしめりにこゝろみんと
  きこえ給へれはさま/\おかしうしなして
  たてまつり給へりこれわかせ給へたれにか
  見せんときこえ給て御ひとりともめして
  こゝろみさせ給しる人にもあらすやとひ
  けし給へといひしらぬにほひとものすゝみ
  をくれたるかうひとくさなとかいさゝかの
  とかをわきてあなかちにおとりまさりの
  けちめををき給かのわかおほむふたく
  さのはいまそとうてさせ給うこむのちんの」5ウ

  みかは水のほとりになすらへてにしのわた
  とのゝしたよりいつるみきはちかううつ
  させ給へるをこれみつのさい相のこの兵衛の
  そうほりてまひれり宰相中将とりて
  つたへまいらせ給宮いとくるしきはむさにも
  あたりて侍かないとけふたしやとなやみ
  給おなしうこそはいつくにもちりつゝひろ
  こるへかめるを人々のこゝろ/\にあはせ給へる
  ふかさあさゝをかきあはせ給へるにいとけふ
  あることおほかりさらにいつれともなき」6オ

  なかに斎院の御くろほうさいへとも心に
  くゝしつやかなるにほひことなりしゝうは
  おとゝの御すくれてなまめかしうなつかし
  きかなりとさため給たいのうへのおほ
  むはみくさあるなかにはい花はなやか
  にいまめかしうすこしはやき心しつらひを
  そへてめつらしきかほりくはゝれりこの
  ころの風にたくへんにはさらにこれに
  まさるにほひあらしとめて給夏の御方に
  は人々のかう心/\にいとみ給なる中に」6ウ

  かす/\にもたちいてすやとけふりをさ
  へおもひきえ給へる御心にてたゝ荷葉を
  ひとくさあはせ給へりさまかはりしめやかなる
  かしてあはれになつかし冬の御かたにもと
  きときによれるにほひのさたまれるに
  けたれんもあいなしとおほしてくのえかう
  のほうのすくれたるはさきのすさく院の
  をうつさせ給てきむたゝのあそむのことに
  えらひつかうまつれりし百ふのほうなと
  思えて世ににすなまめかしさをとりあつ」7オ

  めたる心をきてすくれたりといつれ
  をもむとくならすさため給ふを心きた
  なきはん者なめりときこえ給月さし
  いてぬれはおほみきなとまいりてむかし
  の御物かたりなとし給かすめる月のかけ
  心にくきをあめのなこりの風すこし吹て
  花のかなつかしきにおとゝのあたりいひ
  しらすにほひみちて人の御心ちいとえん
  ありくら人所のかたにもあすの御あそひ
  のうちならしに御ことゝものさうそくなと」7ウ

  して殿上人なとあまたまいりておかしき
  ふえのねなともきこゆうちのおほいとのゝ頭
  中将弁の少将なともけさむはかりにて
  まかつるをとゝめさせ給て御ことゝもめす
  宮の御まへにひはおとゝにさう御ことまいり
  て頭中将わこむ給てはなやかにかき
  たてたるほといとおもしろくきこゆさい相
  中将よこふえふき給おりにあひたるてうし
  雲井とをるはかりふきたてたり弁の
  少将ひやうしとりてむめかえたしたる」8オ

  ほとおかしわらはにてゐんふたきのおり
  たかさこうたひし君なり宮もおとゝも
  さしいらへし給てこと/\こしからぬものから
  おかしきよの御あそひなり御かはらけまいる
  に宮
    うくひすのこゑにやいとゝあくかれん
  こゝろしめつる花のあたりにちよもへぬ
  へしときこえ給へは
    色も香もうつるはかりにこの春は
  花さくやとをかれすもあらなん頭中将に」8ウ

  たまへはとりて宰相中将にさす
    鴬のねくらのえたもなひくまてなを
  ふきとをせよはの笛竹宰相中将
    心ありて風のよくめるはなの木に
  とりあへぬまてふきやよるへきなさけ
  なくとみなうちわらひ給弁の少将
    かすみたに月と花とをへたてすは
  ねくらの鳥もほころひなましまことにあ
  けかたになりてそ宮かへり給ふ御をくり
  物に身つからの御れうの御なをしの御よそひ」9オ

  ひとくたりてふれ給はぬたき物ふたつ
  ほそへて御車にたてまつらせ給宮
    花の香をえならぬ袖にうつしもてこと
  あやまりといもやとかめむとあれはいと
  くつしたりやとわらひ給ふ御車かくるほと
  にをいて
    めつらしとふる里人もまちそみむ
  花のにしきをきてかへる君またなき
  事とおほさるらむとあれはいといたう
  からかり給つき/\の君たちにもこと/\」9ウ

  しからぬさまにほそなかこうちきなとかつ
  け給かくてにしのおとゝにいぬの時にわたり
  給宮のおはしますにしのはなちいてをし
  つらひて御くしあけの内侍なともやかて
  こなたにまいれりうへもこのついてに
  中宮に御たいめんあり御かた/\の女房
  をしあはせたるかすしらすみえたりね
  の時に御もたてまつるおほとなふらほのか
  なれと御けはひいとめてたしと宮は見た
  てまつれ給ふおとゝおほしすつましきを」10オ

  たのみにてなめけなるすかたをすゝみ
  御覧せられ侍なりのちの世のためしにや
  と心せはくしのひ思たまふるなとき
  こえ給宮いかなるへきことゝも思たまへわき
  侍らさりつるをかうこと/\しうとりなさ
  せたまふになん中/\心をかれぬへくと
  の給けつほとの御けはひいとわかくあいき
  やうつきたるにおとゝもおほすさまにおか
  しき御けはひとものさしつとひ給へるをあ
  はひめてたくおほさるはゝ君のかゝるおり」10ウ

  たにえ見たてまつらぬをいみしとおも
  へりしも心くるしうてまうのほらせや
  せましとおほせと人のものいひをつゝみ
  てすくし給つかゝる所のきしきはよろし
  きにたにいとことおほくうるさきを
  かたはしはかりれいのしとけなくまね
  はむも中/\にやとてこまかにかゝす春
  宮の御けんふくは二十よひのほとになんあり
  けるいとおとなしくおはしませはひとのむす
  めともきほひまいらすへきことを心さし」11オ

  おほすなれと此とのゝおほしきさすさま
  のいとことなれは中/\にてやましらはん
  と左のおとゝなともおほしとゝまるなる
  をきこしめしていとたい/\しきことなり
  みやつかへのすちはあまたあるなかにす
  こしのけちめをいとまむこそほいならめ
  そこらのきやうさくのひめきみたちひき
  こめられなは世にはえあらしとの給て
  御まいりのひぬつき/\にもとしつめ給ける
  をかゝるよしところ/\にきゝ給て左大臣」11ウ

  殿三の君まいり給ぬれいけい殿ときこ
  ゆるこの御かたはむかしの御とのゐ所しけい
  さをあらためしつらひて御まいりのひぬるを
  宮にも心もとなからせ給へは四月にとさた
  めさせ給御てうとゝもゝもとあるよりも
  とゝのへて御身つからもものゝしたかたゑやう
  なとをも御らむしいれつゝすくれたる
  みち/\の上手ともをめしあつめてこまか
  にみかきとゝのへさせ給さうしのはこにいる
  へきさうしとものやかて本むにもし給へき」12オ

  をえらせ給いにしへのかみなきゝはの御て
  ともの世になをのこしたまへるたくひのも
  いとおほくさふらふよろつのことむかしには
  おとりさまにあさくなりゆくよのすゑ
  なれとかむなのみなんいまのよはいとき
  はなくなりたるふるきあとはさたまれる
  やうにはあれとひろき心ゆたかならすひと
  すちにかよひてなんありけるたへにおか
  しきことはとよりてこそかきいつる人々あり
  けれと女てを心にいれてならひしさかりに」12ウ

  こともなきて本おほくつとへたりしなかに
  中宮のはゝみやす所の心にもいれすはし
  りかい給へりしひとくたりはかりわさと
  ならぬをえてきはことにおほえしはやさ
  てあるましき御名もたてきこえしそかし
  くやしきことに思しみ給へりしかとさしも
  あらさりけり宮にかくうしろみつかうまつ
  ることを心ふかうおはせしかはなき御かけ
  にも見なをし給らん宮の御てはこまかに
  おかしけなれとかとやをくれたらんとうち」13オ

  さゝめきてきこえ給ふこ入道の宮の御ては
  いと気色ふかうなまめきたるすちは
  ありしかとよはき所ありてにほひそす
  くなかりし院のないしのかみこそいまの
  世の上すにおはすれとあまりそほれて
  くせそそひためるさはありともかの君と
  前斎院とこゝにとこそはかき給はめと
  ゆるしきこえ給へはこのかすにはまはゆ
  くやときこえ給へはいたうなすくし給そ
  にこやかなるかたのなつかしさはことなるも」13ウ

  のをまんなのすゝみたるほとにかなはしと
  けなきもしこそましるめれとてまたかゝ
  ぬさうしともつくりくはへてへうしひもなと
  いみしうせさせ給ふ兵部卿の宮のさへもん
  のかみなとにものせんみつからひとよろひは
  かくへしけしきはみいますかりとも
  えかきならへしやと我ほめをしたまふ
  すみふてならひなくえりいてゝれいの
  所/\にたゝならぬ御せうそこあれはひと
  ひとかたきことにおほしてかへさひ申給も」14オ

  あれはまめやかにきこえ給ふこまのかみ
  のうすやうたちたるかせめてなまめかし
  きをこのものこのみするわかき人々心見ん
  とて宰相の中将式部卿の宮の兵衛督
  うちのおほいとのゝとうの中将なとに
  あしてうたゑを思/\にかけとの給へは
  みな心/\にいとむへかめりれいのしん殿に
  はなれおはしましてかき給ふ花さかり
  過てあさみとりなる空うらゝかなるに
  ふるきことゝもなとおもひすまし給ひ」14ウ

  て御心のゆくかきりさうのもたゝのも女て
  もいみしうかきつくし給ふ御まへに人しけ
  からす女房二三人はかりすみなとすら
  せ給てゆへあるふるきしうの歌なといか
  にそやなとえりいて給ふにくちおし
  からぬかきりさふらふみすあけわたして
  けうそくのうへにさうしうちをきはし
  ちかくうちみたれてふてのしりくはへて
  おもひめくらし給へるさまあくよなくめてたし
  しろきあかきなとけちえんなるひらは」15オ

  ふてとりなをしよういし給へるさまさへ見
  しらむ人はめてぬへき御ありさまなり兵
  部卿の宮わたり給ときこゆれはおとろ
  きて御なをしたてまつり御しとねまいり
  そへさせ給てやかてまちとりいれたて
  まつり給ふこの宮もいときよけにてみは
  しさまよくあゆみのほり給ふほとうち
  にも人々のそきてみたてまつるうちかし
  こまりてかたみにうるはしたち給へるも
  いときよらなりつれ/\にこもり侍も」15ウ

  くるしきまておもふ給へらるゝこゝろの
  のとけさにおりよくわたらせ給へると
  よろこひきこえ給ふかの御さうしもたせて
  わたりたまへるなりけりやかて御覧すれは
  すくれてしもあらぬ御てをたゝかたかとに
  いといたうふてすみたるけしきありて
  かきなし給へりうたもことさらめきそ
  はみたるふることともをえりてたゝみ
  くたりはかりにもしすくなにこのましく
  そかき給へるおとゝ御覧しおとろきぬかう」16オ

  まてはおもひたまへすこそありつれさら
  にふてなけすてつへしやとねたかり
  給ふかゝる御中におもなくくたすふての
  ほとさりともとなんおもふたもふるなと
  たはふれ給ふかき給へるさうしともゝかくし
  給へきならねはとうて給てかたみに御覧
  すからのかみのいとすくみたるにさうかき
  給へるすくれてめてたしと見給にこまの
  かみのはたこまかになこうなつかしき
  か色なとははなやかならてなま(△&ま)めきたるに」16ウ

  おほとかなる女てのうるはしう心とゝめてかき
  給へるたとうへきかたなし見給ふ人のなみた
  さへ水くきになかれそふ心地してあくよある
  ましきにまたこゝのかんやのしきしの
  色あひはなやかなるにみたれたるさうの
  うたをふてにまかせてみたれかき給へる
  みところかきりなししとろもとろに
  あひきやうつき見まほしけれはさらに
  のこりともにめもみやり給はすさへもんの
  かみはこと/\しうかしこけなるすちを」17オ

  のみこのみてかきたれとふてのをきて
  すまぬ心地していたはりくはへたるけし
  きなりうたなともことさらめきてえり
  かきたり女の御はまほにもとりいて給
  はす斎院のなとはましてとうて給はさり
  けりあしてのさうしともそ心/\にはかなふ
  おかしきさいしやうの中将のはみつのいき
  をいゆたかにかきなしそゝけたるあしの
  おいさまなとなにはのうらにかよひてこなた
  かなたいきましりていたうすみたる」17ウ

  ところありまたいといかめかしうひきかへて
  もしやういしなとのたゝすまひこのみかき
  給へるひらもあめりめもをよはすこれはいと
  まいりぬへきものかなとけうしめて給ふなに
  こともものこのみしえんかりおはするみこにて
  いといみしうめてきこえ給けふはまたての
  ことゝもの給くらしさま/\のつきかみの
  ほんともえりいてさせ給へるつゐてに御この
  しゝうして宮にさふらふほんともとりに
  つかはすさかの御かとの古万葉集をえらひ」18オ

  かゝせ給へる四巻延喜のみかとの古今和哥
  集をからのあさはなたのかみをつきてお
  なし色のこきもんのきのへうしおなしき
  たまのちくたむのからくみのひもなと
  なまめかしうてまきことに御てのすちを
  かへつゝいみしうかきつくさせ給へりおほと
  なふらみしかくまいりて御らんするにつ
  きせぬものかなこのころの人はたゝかたそ
  はをけしきはむにこそありけれなと
  めてたまふやかてこれはとゝめたてまつり」18ウ

  給ふ女こなとをもて侍らましにたにおさ/\
  みはやすましきにはつたふましきをまし
  てくちぬへきをなときこえてたてまつれ
  給しゝうにからのほんなとのいとわさとかま
  しきちんのはこにいれていみしきこま
  ふえそへて奉れ給又この比はたゝかんなの
  さためをし給て世中にてかくとおほえたる
  上中下の人々にもさるへきものともおほし
  はからひて尋つゝかゝせ給この御はこには
  たちくたれるをはませ給はすわさと人の」19オ

  ほとしなわかせ給つゝさうしまき物みな
  かゝせたてまつり給よろつにめつらかなる御
  たから物とも人のみかとまてありかたけなるなかに
  このほんともなんゆかしと心うこき給わか人よに
  おほかりける御ゑともとゝのへさせ給なかにかのす
  まの日記はすゑにもつたへしらせむとおほせと
  いますこし世をもおほししりなんにとお
  ほしかへしてまたとりいて給はすうちのおとゝ
  はこの御いそきを人のうへにてきゝ給ふもい
  みしう心もとなくさう/\しとおほすひめ」19ウ

  君の御有様さかりにとゝのひてあたらしうう
  つくしけなりつれ/\とうちしめり給へるほと
  いみしき御なけきくさなるにかの人の御けしき
  はたおなしやうになたらかなれは心よはくすゝみ
  よらむも人はらはれに人のねんころなりし
  きさみになひきなましかはなと人しれす
  おほしなけきてひとかたにつみをもおほせ
  給はすかくすこしたはみ給へる御気色を
  宰相の君はきゝ給へとしはしつらかりし
  御心をうしとおもへはつれなくもてなし」20オ

  しつめてさすかにほかさまの心はつくへくもお
  ほえす心つからたはふれにくきおりおほかれ
  とあさみとりきこえこちし御めのとゝもに
  納言にのほりてみえんの御心ふかゝるへしおとゝ
  はあやしううきたるさまかなとおほしなやみて
  かのわたりのことおもひたえにたらはみきの
  おとゝ中務の宮なとのけしきはみいはせ給
  めるをいつくもおもひさためられよとの給へ
  とものもきこえ給はすかしこまりたる御
  さまにてさふらひ給ふかやうのことはかしこき」20ウ

  御をしへにたにしたかふへくもおほえさりし
  かはことませまうけれといまおもひあはするに
  はかの御をしへこそなかきためしにはありけれ
  つれ/\とものすれは思所あるにやと世人
  もおしはかるらんをすくせのひくかたにて
  なを/\しきことにあり/\てなひくしりひに
  人わろきことそやいみしうおもひのほれと
  心にしもかなはすかきりのある物からすき/\
  しき心つかはるないはけなくより宮のうちに
  おいいてゝ身をまかせす所せくいさゝかの事」21オ

  のあやまりもあらはかろ/\しきそしりをや
  おはむとつゝみしたになをすき/\しき
  とかをおいてよにはしたなめられき位あさく
  なにとなきみのほとうちとけ心のまゝなる
  ふるまひなとせらるな心をのつからおこりぬ
  れはおもひしつむへきくさはひなきとき
  女のことにてなむかしこき人むかしもみた
  るゝためしありけるさるましきことに心を
  つけて人のなをもたてみつからもうらみを
  おふなむつゐのほたしとなりけるとり」21ウ

  あやまりつゝみん人のわか心にかなはすしの
  はむことかたきふしありともなをおもひ
  かへさん心をならひてもしはおやの心にゆ
  つりもしはおやなくて世中かたほにあり
  とも人から心くるしうなとあらむひとをは
  それをかたかとによせても見給へ我ため人
  のためついによかるへき心そふかうあるへきなと
  のとやかにつれ/\なるおりはかゝる御心つかひ
  をのみをしへたまふかやうなる御いさめにつき
  てたはふれにてもほかさまの心をおもひかゝるは」22オ

  あはれに人やりならすおほえ給ふをんなも
  つねよりことにおとゝの思なけき給へる
  御けしきにはつかしううき身とおほししつめと
  うへはつれなくおほとかにてなかめすくし
  給御ふみはおもひあまり給折/\あはれに心
  ふかきさまにきこえ給ふたかまことをかと
  おもひなからよなれたる人こそあなかちに人の
  心をもうたかふなれあはれと見たまふふし
  おほかりなかつかさの宮なんおほとのにも
  御けしき給りてさもやとおほしかはした」22ウ

  なると人の聞えけれはおとゝはひきかへし
  御むねふたかるへししのひてさることをこそ
  きゝしかなさけなき人の御こゝろにもあり
  けるかなおとゝのくちいれ給しにしふねかり
  きとてひきたかへ給ふなるへし心よはくな
  ひきても人はらへならましことなとなみた
  をうけての給へはひめ君いとはつかしきに
  もそこはかとなくなみたのこほるれは
  はしたなくてそむき給へるらうたけさ
  かきりなしいかにせましなをやすゝみいてゝ」23オ

  気色をとらましなとおほしみたれて
  たち給ぬるなこりもやかてはしちかうな
  かめ給あやしく心をくれてもすゝみいて
  つるなみたかないかにおほしつらんなとよ
  ろつにおもひゐ給へるほとに御ふみありさす
  かにそ見たまふこまやかにて
    つれなさはうき世のつねになりゆくを
  わすれぬ人や人にことなるとありけしき
  はかりもかすめぬつれなさよとおもひつゝ
  け給はうけれと」23ウ

    かきりとて忘かたきをわするゝも
  こや世になひく心なるらむとあるをあ
  やしとうちをかれすかたふきつゝ見ゐ
  たまへり」24オ

(白紙)」24ウ

【奥入01】梅之枝<呂>(戻)」25オ

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