藤裏葉(大島本) First updated 10/7/2001(ver.1-1)
Last updated 1/29/2007(ver.2-1)
渋谷栄一翻字(C)

  

藤裏葉

《概要》
 大島本は、青表紙本の最善本とはいうものの、現状では、後人の筆によるさまざまな本文校訂跡や本文書き入れ注記、句点、声点、濁点等をもつ。そうした現状の様態をそのままに、以下の諸点について分析していく。
1 大島本と大島本の親本復元との関係 鎌倉期書写青表紙本(池田本・伏見天皇本等)を補助的資料として
2 大島本の本文校訂に対校された本文系統
3 大島本の句点の関係
4 大島本の後人書き入れ注記

《書誌》

《翻刻資料》

凡例
1 本稿は、『大島本 源氏物語』(1996(平成8)年5月 角川書店)を翻刻した。よって、後人の筆が加わった現状の本文様態である。
2 行間注記は【 】- としてその頭に番号を記した。
2 小字及び割注等は< >で記した。/は改行を表す。また漢文の訓点等は< >で記した。
3 合(掛)点は、\<朱(墨)合点>と記した。
4 朱句点は「・」で記した。
5 本文の校訂記号は次の通りである。
 $(ミセケチ)・#(抹消)・+(補入)・&(ナゾリ)・=(併記)・△(不明文字)
 ( )の前の文字及び( )内の記号の前の文字は、訂正以前の文字、記号の後の文字が訂正以後の文字である。ただし、なぞり訂正だけは( )の前の文字は訂正後の文字である。訂正以前の本行本文の文字を尊重したことと、なぞり訂正だけは元の文字が判読しにくかったための処置である。
6 朱・墨等の筆跡の相違や右側・左側・頭注等の注の位置は< >と( )で記した。私に付けた注記は(* )と記した。
7 付箋は、「 」で括り、付箋番号を記した。
8 各丁の終わりには」の印と丁数とその表(オ)裏(ウ)を記した。
9 本文校訂跡については、藤本孝一「本文様態注記表」(『大島本 源氏物語 別巻』と柳井滋・室伏信助「大島本『源氏物語』(飛鳥井雅康等筆)の本文の様態」(新日本古典文学大系本『源氏物語』付録)を参照した。
10 和歌の出典については、伊井春樹『源氏物語引歌索引』と『新編国歌大観』を参照し、和歌番号と、古注・旧注書名を掲載した。ただ小さな本文異同については略した。

「藤のうら葉」(題箋)

  御いそきのほとにも・宰相の中将はなかめ
0001【御いそき】-明石姫君東宮へまいり給事ナリ
0002【なかめかちにて】-雲居雁の事を思しつめるをいへり
  かちにて・ほれ/\しき心ちするを・かつは
  あやしくわかこゝろなからしふねきそかし・
  あなかちにかうおもふことならは・せきもりの
0003【せきもりの】-\<朱合点>
  うちもねぬへきけしきに・おもひよはりた
  まふなるをきゝなから・おなしくは人はるからぬ
  さまにみはてんとねんするも・くるしう
  おもひみたれ給・女君もをとゝのかすめ給しこと
0004【女君も】-左大臣又中務宮なとの夕霧に我御女をまいらせむとのそみ給し事なり
  のすちをもしさもあらはなにのなこりか
  はと・なけかしうて・あやしく・そむき/\に」1オ
  さすかなる御もろ恋なり・をとゝもさこそこゝろ
0005【もろ恋なり】-\<朱合点> 六 みこもりのかみしまさしきすちならはわかかた恋を諸恋になけ(古今六帖2020、河海抄・休聞抄・紹巴抄・孟津抄・岷江入楚)
  つよかり給ひしかと・たけからぬにおほしわつらひ
  て・かの宮にもさやうにおもひたちはてた
0006【をとゝ】-致ー
0007【かの宮にも】-中務宮の事夕霧の方よりうけひき給ハぬを思ひいたちはて給ふとハいへり
  まひなは・またとかくあらためおもひかゝつら
  はむほと・人のためもくるしうわか御方さま
  にも・人わらはれにをのつからかろ/\しき
  ことやましらむ・しのふとすれと・うち/\の
  ことあやまりもよにもりにたるへし・とかく
  まきらはしてなをまけぬへきなめりと
  おほしなりぬ・うへはつれなくて・うらみとけぬ」1ウ
0008【うへ】-上
0009【うらみとけぬ】-源与致ー
  御中なれは・ゆくりなくいひよらむも・い
  かゝとおほしはゝかりて・こと/\しくもて
  なさむも・人のおもはむところをこなり・いかな
  るつゐてしてかは・ほのめかすへきなとおほす
  に・やよひ廿日・おほ殿の大宮の御き日にて・
0010【おほ殿】-致ー
0011【大宮】-致ー母
  こくらくしにまうて給へり・君たちみな
0012【こくらくし】-昭宣公建立之在深草
  ひきつれ・いきほひあらまほしく・かむたちめ
  なともあまたまいりつとひ給へるに・宰
  相の中将をさ/\けはひをとらすよそほ
  しくて・かたちなとたゝいまのいみしき」2オ
  さかりに・ねひゆきて・とりあつめめてたき
  人の御ありさまなり・このおとゝをはつら
  しとおもひきこえ給しより・見えたて
  まつるも・こゝろつかひせられて・いといたう
  よをひし・もてしつめて物し給ふを・おとゝも
  つねよりは・めとゝめ給・みす経なと六条の
  院よりもせさせ給へり・宰相の君は・ま
  してよろつをとりもちて・あはれにいとなみ
  つかうまつり給ふ・ゆふかけてみなかへり給
  ほと・花はみなちりみたれ・かすみたと/\しき」2ウ
  に・おとゝむかしをおほしいてゝ・なまめかしう・
  うそ吹なかめ給ふ・宰相もあはれなるゆふ
  へのけしきに・いとゝうちしめりて・あまけ
  ありと(て&と)人々のさはくに・なをなかめいりて
  ゐ給へり・心ときめきにみたまふことやあり
  けん・袖をひきよせて・なとかいとこよなくは・
0013【袖をひきよせて】-致ー夕ー
  かむし給へる・けふのみのりの・えにをも
  たつねおほさは・つみゆるし給ひてよや・
  のこりすくなくなり行すゑの世に・おもひ
  すて給へるも・恨きこゆへくなんとの給へは・」3オ
  うちかしこまりて・すきにし御おもむけも・
0014【すきにし御おもむけ】-三条大宮
  たのみきこえさすへきさまに・うけ給をく
  こと侍しかと・ゆるしなき御けしきに
  はゝかりつゝなんときこえ給・心あはたゝし
  きあま風に・みなちり/\にきほいかへり
  給ぬ・きみいかにおもひてれいならすけしき
0015【きみ】-夕
  はみ給つらんなと・よとゝもにこゝろをかけ
  たる御あた(△&た)りなれは・はかなきことなれと・
  みゝとまりて・とやかうやとおもひあかし給ふ・
  こゝらのとしころのおもひのしるしにや・」3ウ
  かのおとゝもなこりなくおほしよはりて・はか
0016【かのおとゝも】-致ー
  なきつゐてのわさとはなく・さすかにつき
  つきしからんをおほすに・四月のついたち
0017【ついたちころ】-七日まてをいふ別習へし
  ころ・おまへのふちのはないとおもしろう
0018【おまへの】-致ー家
  咲みたれて・よのつねの色ならす・たゝにみ
  すくさむことおしきさかりなるに・あそひ
  なとし給て・くれ行ほとのいとゝ色まされる
  に・とうの中将して御せうそこあり・一日の花の
0019【とうの中将】-かしは木
  かけのたいめんのあかすおほえ侍しを・御いとま
  あらはたちより給ひなんやとあり・御文には」4オ
    わかやとの藤の色こきたそかれに
0020【わかやとの】-うちのおとゝ
  たつねやはこぬ春のなこりをけにいと面白き
  枝につけ給へり・待つけ給へるも・こゝろ
  ときめきせられて・かしこまりきこえ給ふ
    中/\に折やまとはむふちのはな
0021【中/\に】-夕霧返し
0022【ふちのはなたそかれときの】-貫之集 君にたにゆかてへぬれは藤の花たそかれ時もしらすそ有ける(後撰139・貫之集864、河海抄・休聞抄・孟津抄・岷江入楚)
  たそかれときのたと/\しくはときこえて・
  くちをしくこそ・おくしにけれ・とりなをし
  給へよときこえたまふ・御ともにこそとの給へは・
0023【御ともにこそ】-柏詞
  わつらはしきすいしんはいなとて返しつ・おとゝ
0024【わつらはしき】-夕ー詞
0025【おとゝの御まへに】-源ニ文ヲ
  の御まへに・かくなんとて・御覧せさせ給ふ・」4ウ
  おもふやうありてものし給つるにやあらむ・
0026【おもふやう】-源詞
  さもすゝみものし給はゝこそは・すきにしかた
  のけうなかりしうらみも・とけめとの給
  御心をこり・こよなうねたけなり・さしも侍ら
0027【さしも侍らし】-夕詞
  し・たいのまへの藤つねよりもおもしろう
  さきて侍なるを・しつかなるころほひなれは・
  あそひせんなとにや侍らんと申給・わさとつ
0028【わさと】-源詞
  かひ・さゝれたりけるを・はやうものしたまへと・
0029【さゝれ】-指
  ゆるしたまふいかならむと・したにはくるし
  う・たゝならすなをしこそ・あまりこくて・」5オ
  かろひためれ・ひさむきのほと・なにとなき
  わか人こそ・ふたあひはよけれ・ひきつくろ
  はんやとて・わか御れうの心ことなるに・えな
  らぬ御そともくして・御ともにもたせてたて
  まつれ給・わか御方にてこゝろつかひ・いみしう
  けさうして・たそかれもすき心やましき
  ほとにまうて給へり・あるしの君たち中
0030【あるし】-致ー
0031【中将】-柏ー
  将をはしめて・七八人うちつれて・むかヘいれ
  たてまつる・いつれとなくおかしきかたちと
  もなれと・なを人にすくれてあさやかに」5ウ
  きよらなる物から・なつかしう・よしつきは
  つかしけなり・おとゝおましひきつくろ
0032【おとゝ】-致ー
  はせなとし給ふ・御よういをろかならす・御
  かうふりなとし給て・いてたまふとて・きたの
  かたは(は=わ<朱>)かき女房なとに・のそきてみ給へ・いと
  かうさくに・ねひまさる人なり・ようひなといと
0033【かうさくに】-夕 スクレ
  しつかにもの/\しや・あさやかに・ぬけいて
  およすけたるかたは・ちゝおとゝにもまさりさま
  にこそあめれ・かれはたゝいとせちに・なまめかし
  うあひきやうつきて・みるにゑましく世の」6オ
  中わするゝ心ちそしたまふ・おほやけさ
  まは・すこしたはれて・あされたるかたなり
  し・ことはりそかし・これはさえのきはも・
  まさり心もちゐをゝしく・すくよかにたら
0034【をゝしく】-雄抜又ヌケイテタル心
  いたりと・よにおほえためりなとの給ひて・
  そたいめし給・ものまめやかに・むへ/\しき
  御ものかたりは・すこしはかりにて・花のけふに
  うつり給ぬ・春の花いつれとなく・みなひらけ
  いつる色ことに・めをおとろかぬはなきを・心みし
  かくうちすてゝちりぬるか・うらめしうおほゆる」6ウ
  ころほひ・この花のひとりたちをくれて・
  夏に咲かゝるほとなんあやしう心にくゝ
0035【夏に咲かゝる】-\<朱合点> 拾 夏にこそさきかゝりけれ藤の花松にとのみも思けるか哉(拾遺集83・拾遺抄401・重之集240、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
  あはれにおほえ侍る・いろもはたなつかしき
  ゆかりに・しつへしとて・うちほゝゑみ給へる・
  けしきありてにほひきよけなり・月は
0036【月はさしいてぬれと】-下ニ七日ノ夕月夜とあり可習合也
  さしいてぬれと・花の色さたかにも見えぬ程
  なるを・もてあそふに心をよせて・おほみき
  まいり御あそひなとし給う・おとゝほとなく・
0037【おとゝ】-致ー
  そらゑひをし給て・みたりかはしくしひゑ
  はし給を・さる心していたうすまひなやめり・」7オ
  君はすゑのよにはあまるまて・あめのしたの
0038【君は】-致詞
  いふそくに・ものし給ふめるを・よはいふりぬる
  人おもひすて給ふなん・つらかりける・文籍
0039【文籍】-フンセキ
  にも・家礼といふことあるへくや・なにかしの
0040【家礼といふこと】-子の父をうやまふ事也他人なれとも子に准して礼をいたすをはいまの世にも家礼といへり内大臣の我と称する詞也
  をしへも・よくおほししるらむと・おもひ給ふ
  るを・いたうこゝ(こゝ#こゝ<朱>)ろなやまし給ふと・うらみ
  きこゆへくなんなとの給ひて・ゑいなきにや・
  おかしきほとに・けしきはみ給・いかてかむかしを
0041【むかしを】-夕ー詞
  おもふたまへいつる・御かはりともには・みをすつ
  るさまにもとこそ・思給へしり侍を・いかに」7ウ
  御覧しなすことにか侍らん・本よりおろかなる
  心のおこたりにこそと・かしこまりきこえ給
  ふ・御ときよくさうときて・ふちのうらはのと
0042【さうときて】-イソカシ
0043【ふちのうらはのと】-\<朱合点> 後 春日さす藤のうらはのうらとけて君しおもハゝ我もたのまん(後撰100、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
  うちすし給へる御けしきを給はりて・頭中将
0044【頭中将】-柏
  はなの色こく・ことにふさなかきを折て・まら
  うとの御さかつきにくはふ・とりてもてなや
  むにおとゝ
    紫にかことはかけむふちのはな
  まつよりすきてうれたけれとも宰相
0045【まつよりすきて】-待過
0046【うれたけれ】-憂
  盃を・もちなから・けしきはかり・はいし」8オ
  たてまつり給へるさま・いとよしあり
    幾かへり露けき春をすくしきて
0047【幾かへり】-夕霧
  はなのひもとくをりにあふらんとうの中将に
  たまへは
    たをやめの袖にまかへる藤の花
0048【たをやめの】-かしは木 婦人
  みる人からや色もまさらむつき/\・すん
0049【すん】-巡
  なかるめれと・ゑひのまきれに・はか/\しからて・
  これよりまさらす・七日の夕つく夜・かけほ
  のかなるに・いけのかゝみ・のとかにすみわたれり・
  けにまたほのかなる木すゑともの・さう/\しき」8ウ
  比なるに・いたうけしきはみ・よこたはれる
  松の・こたかきほとにはあらぬに・かゝれる花の
  さま・よのつねならすおもしろし・例の
  弁少将・こゑいとなつかしくて・あしかきをう
0050【弁少将】-紅
0051【あしかき】-\<朱合点> 催ー
  たふ・おとゝいとけやけうもつかふまつるかなと・
0052【けやけう】-常花<ケヤケシ> けやけきハ花の字也爰テノ心ハ無憚ツカマツレト云心也
  うちみたれ給て・としへにけるこのいゑのと・
0053【としへにける】-致ー助音 破タル家ノ心ナリ
  うちくはへ給へる・御こゑいとおもしろし・おか
  しきほとに・みたりかはしき御あそひ
  にて・物おもひのこらすなりぬめり・やう/\
  夜更行ほとに・いたう・そらなやみして・」9オ
  みたり心ちいとたへかたうて・まかてん空も
  ほと/\しうこそ侍ぬへけれ・とのいところゆつり
0054【ほと/\しう】-\<朱合点> 拾 宮つくるひたのたくみのてうのをとほと/\しかるめをも見る哉(拾遺集1226、花鳥余情・休聞抄・紹巴抄・孟津抄・岷江入楚) 是ハおそろしき心歟<右> 拾 なけきこる人いる山のおのゝゑのほと/\しくも成にける哉(拾遺集913、河海抄・花鳥余情・休聞抄・孟津抄・岷江入楚) これはうと/\しき心<左>
  給てんやと・中将にうれへ給・おとゝ朝臣や・御や
0055【中将】-柏
  すみ所もとめよ・おきな・いたうゑひすゝみて・
  むらいなれは・まかりいりぬと・いひすてゝいり
  給ぬ・中将はなのかけの旅ねよ・いかにそや・
  くるしきしるへにそ侍やといへは・松にちきれる
0056【松にちきれる】-\<朱合点> 六 みとりなる松にちきれる藤なれとおのか比とそ花ハさきける 貫之(新古今166・古今六帖4244・貫之集50、河海抄・一葉抄・休聞抄・紹巴抄・孟津抄・岷江入楚)
  は・あたなる花かは・ゆゝしやとせめ給・中将
  は心のうちに・ねたのわさやとおもふところ
  あれと人さまのおもふさまに・めてたきに」9ウ
  かうもありはてなむと・心よせわたることな
  れは・うしろやすくみちひきつ・おとこ君は・
0057【おとこ君は】-夕
  夢かとおほえ給ふにも・わかみいとゝいつかしう
  そおほえ給けんかし・女はいとはつかしう(う#と)おもひ
0058【女は】-雲ー
  しみて・ものし給もねひまされる御あり
  さま・いとゝあかぬところなくめやすし・世の
0059【世のためしにもなりぬへかりつる】-\<朱合点> 伊勢集 恋するにしぬる物とハきかねとも世のためしにも成ぬへきかな(続後撰713・古今六帖1986、河海抄・休聞抄・紹巴抄・孟津抄・岷江入楚)
  ためしにもなりぬへかりつるみを・心もてこそ・
  かうまてもおほしゆるさるめれ・あはれを知
  給はぬも・さまことなるわ(わ&わ)さかなと・うらみき
  こえ給・中(中#少)将のすゝみいたしつる・あしかきの」10オ
0060【あしかきの】-\<朱合点>
  おもむきは・みゝとゝめたまひつや・いたきぬし
0061【いたき】-片腹
0062【ぬしかな】-弁少ー
  哉な・かはくちのとこそ・さしいらへまほし
0063【かはくちの】-\<朱合点> 川口の関の荒垣まもれともいてゝわれねぬ関のあしかき 催馬ー呂哥(催馬楽「川口」、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
  かりつれとの給へは・女いときゝくるしと・おほして
    あさきなをいひなかしける川くちは
0064【あさきなを】-雲ゐのかり
  いかゝもらしし関のあらかきあさましとの
  給さま・いとこめきたり・すこしうちはらひて
    もりにけるくきたのせきを川くちの
0065【もりにける】-夕霧 名モレタル也
0066【くきたのせき】-奥州白川菊多関<キクタノセキ>
  あさきにのみはおほせさらなんとし月のつ
  もりも・いとわりなくて・なやましきに・も
  のおほえすと・ゑひにかこちて・くるしけに」10ウ
  もてなして・あくるもしらすかほなり・人/\
0067【あくるもしらす】-\<朱合点> 玉すたれ(異世襲、紫明抄・河海抄・休聞抄・紹巴抄・孟津抄・岷江入楚)
  きこえわつらふを・おとゝゑ(ゑ$し<朱>)たりかほなるあさ
  ゐかなと・とかめ給ふ・されとあかしはてゝそ
  いて給ふ・ねくたれの御あさかほ・みるかひあり
0068【ねくたれの】-\<朱合点> 六 ねくたれのあさかほの花秋きりにおもかくしつゝ見えぬ君かな(夫木抄4576、河海抄・花鳥余情・休聞抄・孟津抄・岷江入楚)
  かし・御文はなをしのひたりつるさまの心
  つかひ(ひ+に)てあるを・なか/\今日はえきこえ給
  はぬを・ものいひさかなきこたち・つきしろう
  に・おとゝわたりて見給ふそ・いとはりなきや・
0069【おとゝ】-致
  つきせさりつる御けしきに・いとゝおもひ
  しらるゝ身のほとを・たえ(え$へ)ぬ心に・又き△(△#こイ)えぬ」11オ
  へきも
    とかむなよしのひにしほるても(も=をイ<朱>)たゆみ
0070【とかむなよ】-夕霧
  けふあらはるゝ袖のしつくをなといとなれ
  かほなり・うちゑみてゝも(ゝも$てを)いみしうも・かき(き+な<朱>)ら
0071【うちゑみて】-致ー
  れり(り#)にけるかななとの給も・むかしのなこり
  なし・御返いといてきかたけなれは・見くる
  しやとて・さもおほしはゝかりぬへきこと
  なれはわたり給ぬ・御つかひのろく・なへて
  ならぬさまにて給へり・中将をかしきさまに
0072【中将】-柏
  もてなし給ふ・つねにひきかくしつゝ・」11ウ
  かくろへありきし御つかひ・けふはをもゝち
  なと・人々しくふるまふめり・右近のそう
0073【右近のそう】-夕ー使 将監
  なる人のむつましう・おほしつかひ給なり
  けり・六条のおとゝも・かくときこしめして
  けり・宰相つねよりも・ひかりそひてまいり
0074【宰相】-夕
0075【まいり】-源へ
  給へれは・うちまもり給て・けさはいかに文なと・
0076【けさは】-源心詞
  ものしつや・さかしき人も・女のすちには
  みたるゝためしあるを・人わろくかゝつらひ・
  心いられせて・すくされたるなん・すこし
  人にぬけたりける・御心とおほえける・」12オ
  おとゝのみ・をきてのあまりすくみて・なこ
0077【おとゝ】-致
  りなくくつをれ給ぬるを・よ人もいひ出る
  事あらんや・さりとても我かた・ゝけうおもひ
  かほに・心をこりして・すき/\しき心はへ
  なと・もく(く#ら)し給ふな・さこそおいらかに・おほき
  なる心をきてと・みゆれと(は&と)したの心はへ・
  をか(をあ#おゝ)しからすくせありて・人見えにくき・
  ところつき給へる人なりなと・例の教へ
  きこえ給・ことうちあひ・めやすき御あはひと
  おほさる・御ことも見えす・すこしか・このかみ」12ウ
0078【御ことも】-夕
  はかりと見え給ふ・ほか/\にては・おなしかほと・
  うつしとりたるとみゆるを・御まへにては
  さま/\あなめてたと見え給へり・おとゝはうす
0079【うすき御なをし】-薄花田
  き御なをし・しろき御その・からめきたる
0080【しろき御そ】-重ノ衣
  か・もんけさやかに・つや/\とすきたるをたて
0081【つや/\と】-発
  まつりて・なをつきせすあてに・なまめ
  かしうおはします・宰相殿(殿+は)・すこし色
  ふかき御なをしに・丁子そめのこかるゝまて
  しめる・しろきあやのなつかしきをき給
  へる・ことさらめきてえんに見ゆ・灌仏ゐて」13オ
0082【灌仏ゐて】-国史云承和七年四月八日請律師伝灯大法師位静安於清涼殿始行灌仏事
  たてまつりて・御導師・をそくまいりけれは・
  日暮て御かた/\より・はらはへいたしふせなと・
0083【ふせなと】-灌仏布施昔銭也中比より紙になされたり舟つゝみといふ
  おほやけさまにかはらす・心/\にし給へり・お
0084【おまへのさほう】-内清涼殿始行
  まへのさほうを・うつして君たちなとも・ま
  いりつとひて・なか/\うるはしきこせんより
  も・あやしう心つかひせられて・おくしかちなり・
  宰相はしつこゝろなく・いよ/\けさうしひき
  つくろひていて給ふを・わさとならねと・なさけ
0085【いて給ふ】-致ーへ
0086【なさけたち】-夕霧の思かけ給ふ女房の事なり
  たち給・わか人はうらめしと・おもふもあり
  けり・としころのつもり・とりそへて・おもふ」13ウ
  やうなる御なからひなめれは・みつもゝらむやは・
0087【みつもゝらむやは】-\<朱合点> 堅固なる契をいふ水洩不通故言也 伊せー なとてかくあふこかたみと成ぬらん水もらさしとむすひし物を(伊勢物語61、河海抄・休聞抄・孟津抄・紹巴抄・花屋抄・岷江入楚)
  あるしのおとゝ・いとゝしきちかまさりを・うつ
0088【あるしのおとゝ】-致
  くしき物におほして・いみしう・もてかし
  つききこえ給ふ・まけぬるかたのくちおし
  さは・なをおほせとつみも・のこるましうそ・
  まめやかなる御心さまなとの・としころ・こと心
  なくて・すくしたまへるなとを・ありかたく
  おほしゆるす・女御の御有様なとよりも・はな
0089【女御】-弘ー
  やかにめてたくあらまほしけれは・きたのかた
0090【きたのかた】-二条おとゝ四君雲井雁のまゝ母也
  さふらふ人/\なとは・心よからす・おもひいふ」14オ
  もあれと・なにのくるしき事かはあらむ・
  あせちの北の方なとも・かゝるかたにて・うれしと
0091【北の方】-雲井雁の実母也
  おもひきこえ給けり・かくて六条院の
  御いそきは・二十よ日のほとなりけり・たいの上
0092【御いそき】-明ー中ー東宮へ参
0093【たいの上】-紫
  みあれにまうて給とて・れいの御かた/\・いさ
0094【まうて】-酉日ノ暁参詣
0095【れいの御かた/\】-賀茂祭前日垂迹石上にて神事あり御形<アレ>といふ又御生<ムマレ>又御玉依姫の別雷神を生給ふ形ヲあらはし給ふへ御形<アレ>
  なひきこえ給へと・なか/\さしもひきつゝ
  きて・心やましきをおほして・たれも/\
  もと(もと$とま<朱>)り給て・こと/\しきほとにもあらす・
  御くるま二十斗して・御前なともくた/\しき
  人数おほくもあらす・ことそきたるしもけはひ」14ウ
  ことなり・まつりの日の・あか月にまうへ(へ$て朱<>)た
  まひて・かへさには物御覧すへき・御さしきに
0096【御さしき】-桟敷
  おはします・御方かたの女房・おの/\くる
  まひきつゝきて・御まへところしめたるほと・
  いかめしう・かれは・それと・ゝをめより・おとろ
  おとろ/\しき御いきほひなり・おとゝは・
0097【おとゝは】-源心詞
  中宮の御はゝ宮す所の車・をしさけられ
0098【中宮】-秋
  たまへりしをりのことおほしいてゝ・時に
  より・心おこりして・さやうなることなん
  なさけなき事なりける・こよなくおもひ」15オ
  けちたりし人も・なけきおふやうにてな
0099【なくなりにき】-葵上
  くなりにきと・そのほとはの給ひけちて・の
0100【のこりとまれる人】-夕
  こりとまれる人の・中将はかくたゝ人にて・
0101【中将】-夕
  わつかになりのほるめり・宮はならひなき
0102【宮】-秋
  すちにておはするも思へは・いとこそあはれ
  なれ・すへていとさ(△&さ)ためなき世なれはこそ・なに
  事もおもふさまにて・いけるかきりのよを・
  すくさまほしけれと・のこり給はむすゑ
  の世なとのたとしへなき・おとろへなとをさへ・
  思はゝからるれはと・うちかたらひ給て・かむ」15ウ
  たちめなとも・御さしきにまいりつとひ
  給へれは・そなたにいて給ぬ・近衛つかさの
0103【近衛つかさのつかひ】-奉東遊舞人倍従近衛被官也賀茂春日祭同
  つかひは・とうの中将なりけり・かのおほとの
0104【とうの中将】-柏
0105【かのおほとの】-致ー
  にていてたつ所よりその(の#)人/\はまいり
0106【いてたつ】-出立帰色々儀式アリ可聞師説
  たまふける・とうないしのすけも・つかひなり
0107【とうないしのすけ】-惟光女
  けり・おほえことにて・うちとうくうよりはし
  め奉りて・六条院なとよりも御とふらひとも・
  ところせきまて御心よせ・いとめてたし・
  宰相の中将いてたちのところにさへ・とふ
  らひ給へり・うちとけすあはれをかはし」16オ
  給御中なれは・かくやむことなきかたに・さた
  まり給ぬるを・たゝならす・うちおもひけり
    なにとかやけふのかさしよかつ見つゝ
0108【なにとかや】-夕霧
  おほめくまてもなりにけるかなあさましと
0109【おほめくまても】-久不逢心
  あるを・おりすくし給はぬはかりを・いかゝ思ひ
  けん・いと物さはかし・くるまにのるほとなれと
    かさしてもかつたとらるゝくさのなは
0110【かさしても】-藤内侍すけ
  かつらをおりし人やしるらんはかせなら
0111【かつらをおりし】-拾 久方の月のかつら(拾遺集473・拾遺抄438、異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
  てはときこえたり・はかなけれと・ねたき
0112【はかなけれ】-夕心
  いらへとおほす・なをこのないしにそ・おもひ」16ウ
  はなれす・はひまきれ給へき・かくて御まいり
0113【御まいり】-明ー中
  は・きたのかたそひ給ふへきを・つねになか/\
0114【きたのかた】-紫
  しう・えそひさふらひ給はし・かゝるつゐてに・
  かの御うしろみをや・そへましとおほす・うへもつ
0115【かの御うしろみ】-明ー上
0116【うへも】-紫
  ゐにあるへきことのかくへたゝりて・すくし
  給ふを・かの人もゝのしとおもひなけかるらむ・
  この御心にもいまはやう/\おほつかなく・あ
0117【この御心】-明ー中
  はれにおほししるらん・かた/\心をかれたて
  まつらんもあいなしと・おもひなり給て・此
  をりにそへたてまつり給へ・またいとあえ」17オ
  かなるほとも・うしろめたきに・さふらふ人と
  ても・わか/\しきのみこそおほかれ・御めのと
  たちなとも・みをよふことの心いたるかきり
  あるを・みつからは・えつとしもさふらはさらむ
  ほと・うしろやすかるへくときこえ給へは・いと
  よくおほしよる哉とおほして・さなんと・あ
  なたにもかたらひの給けれは・いみしく
  うれしく・おもふことかなひ侍る心ちして・人
  のさうそく・なにかのことも・やむことなき
  御ありさまに・おとるましくいそきたつ・」17ウ
  あまきみなんなをこの御をいさき・みたて
  まつらんの心ふかゝりける・いま一度・見奉る
  よもやと・いのちをさへしふねくなして・
  ねんしけるを・いかにしてかはとおもふも
  かなし・其よはうへそひてまいり給ふに・御(御$)
  てくるま(てくるま$)さて車にも・たちくたりうちあゆみ
  なと・人わるかるへきを・わかためはおもひ
  はゝからす・たゝかくみかきたてまつり給ふ・
  たまのきすにて・わかかくなからうるを・かつは
  いみしう・心くるしう思・まいりのきしき・」18オ
  人のめおとろく斗のことはせしとおほし
  つゝめと・をのつからよのつねのさまにそ
  あらぬや・かきりもなくかしつきすへたて
  まつり給て・うへはまことにあはれにうつくし
  とおもひきこえ給ふにつけても・人にゆつる
0118【人にゆつる】-紫の上の御子ナキ事をいふ
  ましう・まことにかゝる事もあらましかはと
  おほす・おとゝも宰相の君も・たゝこの事
  ひとつをなん・あかぬ事かなとおほしける・
  三日すこしてそ・うへはまかてさせ給・たちか
  はりてまいり給よ・御たいめんあり・かく」18ウ
  おとなひ給けちめになん・とし月の程も
  しられ侍れは・うと/\しきへたては・のこる
  ましくやと・なつかしうの給て・物語なとし
  給・これもうちとけぬるはしめなめり・物なと
  うちいひたるけはひなと・むへこそはと・めさま
  しう見給・またいとけたかう・さかりなる
  御けしきを・かたみにめてたしとみて・そこ
  らの御なかにも・すくれたる御心さしにて・
  ならひなきさまに・さたまり給けるも・いと
  ことはりとおもひしらるゝに・かうまてたち」19オ
  ならひきこゆるちきり・をろかなりやはと・
  おもふ物からいて給ふきしきのいとことによそほ
  しく・御手車なとゆるされ給て・女御の御
  有様にことならぬを・おもひくらふるに・さすかな
  るみのほとなり・いた(た$と)うつくしけに・ひゝなのやう
  なる御有様を・夢の心ちしてみたてまつる
  にも・涙のみとゝまらぬは・ひとつものとそ見えさり
0119【ひとつもの】-\<朱合点> 後 うれしきもうきもこゝろは一にて別ぬ物は泪なりけり(後撰118、異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
  ける・としころよろつになけき・しつみ
  さま/\うきみとおもひくしつるいのちも・
  のへまほしう・はれ/\しきにつけて・誠に」19ウ
  住吉の神も・をろかならすおもひしらる・おもふ
  さまに・かしつききこえて・こゝろをよ
  はぬことはた・おさ/\なき人のらう/\しさ
  なれは・おほかたのよせおほえよりはしめ・な
  へてならぬ御有様かたちなるに・宮もわかき
  御心ちにいと心ことにおもひきこえ給へり・いと
  見たまへる御かた/\の人なとは・このはゝ君の
  かくてさふらひ給を・きすにいひなしなとす
  れと・それにけたるへくもあらす・いまめか
  しう・ならひなきことをは・さらにもいはす・」20オ
  心にくゝよしある御けはひを・はかなきことに
  つけても・あらまほしう・もてなしきこえ
  給へれは・殿上人なとも・めつらしきいとみと
  ころにて・とり/\にさふらふ人々も・心をかけ
  たる女房のようい有様さへ・いみしくとゝのへ
  なし給へり・上もさるへきをりふしには
  まいり給・御なからひあらまほしう・うちとけ
  行に・さりとてさしすきものなれす・あな
  つらはしかるへきもてなし・はたつゆなく
  あやしくあらまほしき人のありさま」20ウ
  心はへ也・おとゝもなかゝらすのみおほさるゝ
  御よのこなたにとおほしつる・御まいりのかひ
  あるさまに・みたてまつりなし給て・心からなれと・
  世にうきたるやうにて・見くるしかりつる・宰相
  の君も思なく・めやすきさまに・しつまり
  給ぬれは・御心おちゐはて給て・今はほいもと
  けなんとおほしなる・たいのうへの御有様の
  見すてかたきにも・中宮おはしませは・をろかな
  らぬ御心よせ也・此御方にも世にしられたる
  おやさまには・まつおもひきこえ給ふへけれは・」21オ
  さりともとおほしゆつりけり・夏の御方の
  時にはなやき給ましきも・宰相の物し
  給へはと・みなとり/\にうしろめたからすおほ
  しなり行・あけむとし・よそちになり給
  御賀のことを・おほやけよりはしめ奉りて・
  おほきなるよのいそき也・その秋太上天皇に
0120【太上天皇になすらふ御くらゐ】-院司公卿判官代主典代院庁非位ー無例敦<アツ>明太子号小一条院其外無例漢太公高宗ノ父間曰太上ー皇師可聞師説
  なすらふ御くらゐえ給ふて・みふ・くはゝり・
  つかさ・かうふりなとみなそひ給・かゝらてもよ
  の御心にかなはぬことなけれと・なをめつらし
  かりける・むかしのれいをあらためて・院し」21ウ
  ともなと・なりさまことにいつくしうなりそひ
  給へは・うちにまいり給へき事かたかるへきをそ・
  かつはおほしける・かくてもなをあかすみかとは
  おほして・世の中をはゝかりて・くらゐをえ
  ゆつりきこえぬことをなむ・朝夕の御嘆き
  くさなりける・内大臣に(に#)あかり給て・宰相の
0121【内大臣】-致
0122【宰相の中将】-夕
  中将中納言になり給ぬ・御よろこひにいて
0123【いて給て】-夕ー致ーへ
  給・ひかりいとゝまさり給へるさまかたちより
  はしめて・あかぬことなきを・あるしのおとゝも・
  なか/\人におされまし・宮つかへよりはと」22オ
  おほしなをる・女君の大輔のめのと・六位す
  くせと・つふやきし・よひのこと・物のをり/\
  に・おほしいてけれは・きくのいとおもしろく(く+て<朱>)・
  うつろひたるを・給はせて
0124【給はせて】-大夫乳母
    あさみとりわかはの菊を露にても
0125【あさみとり】-夕霧 六位
  こきむらさきの色とかけきやからかりしを
0126【こきむらさき】-一位
  りのひとことはこそ・わすられねと・いとにほひ
  やかに・ほゝゑみて給へり・はつかしういとをしき
0127【はつかしう】-大夫乳母
  物から・うつくしう・みたてまつる
    ふた葉よりなたゝるそのゝ菊なれは」22ウ
0128【ふた葉より】-大夫乳母返し
0129【なたゝるそのゝ菊】-\<朱合点>
  あさき色わく露もなかりきいかに心をかせ
0130【あさき色】-浅緑の心ナリ
  給へりけるにかと・いとなれてくるしかる・御
  いきおひまさりて・かゝる御すまひも・ところ
  せけれは・三条殿にわたり給ぬ・すこしあれ
0131【三条殿】-大宮
  にたるを・いとめてたくすりしなして・宮のお
  はしましゝかたを・あらためしつらひてすみ
  給ふ・むかしおほえて(えて&えて)あはれにおもふさまなる
  御すまひなり・せんさいともなとちいさき木
  ともなりしも・いとしけきかけとなり・
  一村薄も・心にまかせて・みたれたりける・」23オ
0132【一村薄】-\<朱合点> 古今 君かうへし一むら薄虫のねのしけき野へにも成にけるかな(古今853・古今六帖3704、奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
  つくろはせ給やり水のみくさも・かきあら
  ためて・いと心行たるけしきなり・おかしき
  ゆふ暮のほとを・ふたところなかめ給て・あさ
  ましかりしよの御おさなさの物語なとし
  給に・恋しきこともおほく・人のおもひけむこ
  ともはつかしう・女きみはおほしいつ・ふる人
  とものまかてちらす・さま(ま#うし)/\に・さふらひける
  なと・まうのほりあつまりて・いとうれしと
  おもひあへり・おとこ君
    なれこそは岩もるあるしみし人の」23ウ
0133【なれこそは】-夕霧
  ゆくゑはしるややとのまし水女きみ
0134【女きみ】-雲井のかりなり
    なき人のかけたにみえすつれなくて
  こゝろをやれるいさらゐの水なとの給ほとに・
0135【いさらゐの水】-浅小川也
  おとゝ・内よりまかて給けるを・もみちの色に
0136【おとゝ】-致ー
  おとろかされてわたり給へり・むかしおはさゐし
0137【むかしおはさゐし】-致ー
  御有様にも・おさ/\かはる事なく・あたり/\
  おとなしくすまひ給へるさまはなやかなるを
  みたまふにつけても・いと物あはれにおほさる・
  中納言もけしきことにかほすこしあかみて・
0138【中納言】-夕霧なり
0139【あかみて】-カヽル栖ヲ恥心
  いとゝしつまりて物し給・あらまほしく」24オ
  うつくしけなる御あはひなれと・女はまたかゝる
  かたちのたくひもなとかなからんとみえ給へり・
  おとこはきはもなくきよらにをはす・ふる
  人ともおまへにところえて・かみさひたること
  ともきこえいつ・ありつる御手習とものちり
  たるを御らんしつけて・うちしほたれ給・こ
  のみつの心たつねまほしけれと・おきなは・
  こといみしくとの給ふ
0140【こといみ】-言忌
    そのかみのおい木はむへもくちぬれ(れ$ら)む
0141【おい木は】-古後達共
  うへしこ松もこけおひにけりおとこ君の」24ウ
0142【おとこ君の御さいしやうのめのと】-夕霧のめのとなり
  御さいしやうのめのと・つらかりし御心もわすれ
  ねは・したりかほに
    いつれをもかけとそたのむふたはより
0143【いつれをも】-宰相乳母
  ねさしかはせる松のすゑ/\おい人ともゝ
  かやうのすちにきこえあつめたるを・中納言は
  おかしとおほす・女君はあいなくおもてあかみ・
  くるしときゝ給ふ・神無月の二十日あまりの
  ほとに・六条院に行幸あり・紅葉のさかり
  にて・けふあるへきたひの行幸なるに・朱
  雀院にも御せうそこありて・院さへわたり」25オ
  おはしますへけれは・世にめつらしく有難き
  ことにて・よ人も心をおとろかす・あるしの院方も・
  御心をつくしめもあやなる御心まうけを
  せさせ給ふ・みの時に行幸ありて・まつむまは
  殿に・左右のつかさの御馬ひきならへて・左右
  近衛たちそひたるさほう・五月のせちにあや
  め・わかれすかよひたり・ひつしくたるほとに・みなみ
  のしん殿にうつりおはします・道のほとのそり
  橋・わた殿にはにしきをしき・あらはなるへ
  き所には・せんしやうをひき・いつくしう・」25ウ
  しなさせ給へり・ひんかしのいけに・船とも
  うけて・みつしところのうかひのおさ・院の
  うかひを・めしならへて・うをおろさせ給へり・
  ちいさきふなとも・くいたり・わさとの御らんとは
  なけれとも・すきさせ給ふ・みちのけふはかり
  になん・山のもみちいつかたもおとらねと・西の
  おまへは・心ことなるを・なかのらうのかへを・くつ
  し中門をひらきて・霧のへたてなくて御
  覧せさせ給ふ・御さふたつよそひて・あるしの
  御さはくたれるを・せむしありて・なを(を+させ<朱>)給ふほと・」26オ
  めてたく見えたれと・みかとはなをかきりある・
0144【みかとは】-朝覲行幸ニハ帛袷<ハクノアハセ>ヲ敷主上拝上皇
  いや/\しさをつくして・みせたてまつり給
0145【いや/\しさ】-敬
  はぬことをなんおほしける・池のいをゝ・左少将取・
  蔵人所のたかゝいのきたのにかりつかまつ
  れる・鳥ひとつかひを・右のすけさゝけて・しん
  殿のひんかしより・御まへにいてゝ・みはしの
  左右に・ひさをつきてそうす・おほきおとゝ・仰
  こと給て・てうして・おものにまいる・みこたちか
  むたちめなとの御まうけも・めつらしきさまに・
  つねのことともをかへて・つかうまつらせ給へり・」26ウ
  みな御ゑいになりて・暮かゝるほとに・かく
0146【かく所】-楽
  所の人めす・わさとの大かくにはあらす・なまめ
0147【大かく】-ヲホ
  かしきほとに・殿上のわらはへ・まひつかうまつる・
  朱雀院の紅葉の賀れいのふる事おほ
  しいてらる・賀皇恩といふものを・そうす
  るほとに・おほきおとゝの御おとこのとをはかり
0148【おほきおとゝ】-致ー
0149【御おとこ】-弟
  なる・せちにおもしろうまふ・うちのみかと御
  そぬきて給ふ・おほきおとゝおりて・ふたう
0150【おほきおとゝ】-致ー
0151【ふたう】-舞踏
  し給・あるしの院・きくをおらせ給て・せいかい
0152【あるしの院】-源
  はのをりをおほしいつ」27オ
    色まさるまかきの菊もをり/\に
0153【色まさる】-源氏
  袖うちかけし秋をこふらしおとゝそのお
  りは・おなしまひにたちならひきこえ給ひ
  しを・われも人にはすくれたまへるみなから・
  なをこのきはゝ・こよなかりけるほと・おほし
  しらる・しくれおりしりかほなり
    むらさきの雲にまかへるきくのはな
0154【むらさきの】-大おとゝ
  にこりなきよのほしかとそみるときこそ
0155【にこりなきよのほし】-慶雲寿星吉時出
0156【ときこそありけれ】-\<朱合点>
  ありけれと聞え給ふ・ゆふ風のふきしく
  もみちの色々こきうすき・にしきをしき」27ウ
  たる・わた殿のうへ見えまかふ・にはのおもに・かた
  ちをかしきわらはへのやむことなきいへの
  こともなとにて・あをきあかき・しらつるはみ・す
  はうゑひそめなと・つねのことれいのみつらに・
  ひたい斗のけしきを見せて・みしかき物
0157【ひたい】-額
0158【みしかき物とも】-小楽
  ともを・ほのかにまひつゝ・もみちのかけにかへ
  りいるほと・日のくるゝもいとほ(ほ$お)しけなり・かく
  しよそなとおとろ/\しくはせす・うへの御あそひ
  はしまりて・ふんのつかさの御ことゝもめす・
0159【ふんのつかさ】-女官楽器ヲ納所
  物のけうせちなるほとに・こせんにみな御こと」28オ
0160【けうせちなる】-興 切
  ともまいれり・宇多の法師かはらぬ声
0161【宇多の法師】-宇陀ノ法師一条院内裏炎上時焼失寛平御物也以檜作也称又名等タナラシ
  も・朱雀院はいとめつらしく・あはれにき
  こしめす
    秋をへて時雨ふりぬる里人も
0162【秋をへて】-朱雀院
  かゝるもみちのをりをこそみねうらめし
0163【うらめしけに】-朱雀院御代無行幸事ー
  けにそ・おほしたるやみかと
    よのつねのもみちとやみるいにしへの
  ためしにひけるにはのにしきをときこえ
  しらせ給ふ・御かたちいよ/\ねひとゝのほり
  給て・たゝひとつ物とみえさせ給を・中納言」28ウ
0164【中納言】-夕
  さふらひ給か・こと/\ならぬこそめさましか
  めれ・あてにめてたき・けはひやおもひな
  しに・をとり(り+ま<朱>)さらん・あさやかに・にほはしき
  所は・そひてさへみゆ・ふへつかうまつり給・いと
  おもしろし・さうかの殿上人・みはしに
  さふらふなかに・弁の少将のこゑすくれたり・
0165【弁の少将】-紅
  なをさるへきにこそと見えたる・御なからひ
  なめり」29オ

(白紙)」29ウ

【奥入01】宇陀法師
    新儀式<四月旬儀>
    若有奏絃哥事者近衛府音楽記
    内侍奉仰出御屏風南辺召大臣々々起
    座跪候御屏風南頭即勅可召堪管
    絃親王公卿等大臣奉仰退還召出居令
    置草塾於御帳東西一許丈大臣先進
    着草塾次人依召移着大臣召書司
    々々一人執和琴出車障子戸献之
    <謂宇陀法/師也>各奏絲竹或召加殿上侍臣能歌」30オ
    者預之王卿廻勧盃数曲之後奏見参
    長保二年十一月十五日<小野右府>新宮之後
    初出御南殿曰大臣以下管絃人着御前
    草塾次召書司々々
    女嬬凡宇陀法師出自御障子戸置
    草塾前又絲竹之器次々取出皆書
    司女官役之
    或記云
    延久四年宇治殿御命云於南殿御遊之
    時召宇陀法師<和/琴>其詞云<御タナ/ラシ>此詞有」30ウ
    故之宇陀法師以檜作之先一条院
    御時内裏焼已々時焼失之(戻)」31オ

イ本
源氏卅九歳自三月廿日至十月以詞為巻名
梅か枝同年の事也」(後遊紙1オ)

二校了<朱>」(表表紙蓋紙)

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