《概要》
現状の明融臨模本から後人の本文校訂や書き入れ注記等を除いて、その親本である藤原定家の青表紙本の本文様態に復元して、以下の諸点について分析する。
1 青表紙本復元における定家の本文訂正跡
2 青表紙本復元における定家の付箋
3 青表紙本復元における定家の行間書き入れ注記
4 青表紙本復元における定家仮名遣い
5 青表紙本復元の本文上の問題点 現行校訂本の本文との異同
《復元資料》
凡例
1 本稿は、『源氏物語（明融本）・』（東海大学蔵桃園文庫影印叢書 1990（平成2）年6月 東海大学出版会）から、その親本の青表紙本を復元した。よって、本文中の書き入れ、注記等は、本文と一筆のみを採用し、他の後人の筆は除いたものである。
2 付箋、行間注記は【 】－ としてその頭に番号を記した。付箋は、（ ）で括り、付箋番号を記した。合（掛）点には、＼<朱（墨）合点>と記した。
3 小字及び割注等は＜ ＞で記した。／は改行を表す。また漢文の訓点等は< >で記した。
4 本文の校訂記号は次の通りである。
＄（ミセケチ）・＃（抹消）・＋（補入）・＆（ナゾリ）・＝（併記）・△（不明文字）
（ ）の前の文字及び（ ）内の記号の前の文字は、訂正以前の文字、記号の後の文字が訂正以後の文字である。ただし、なぞり訂正だけは（ ）の前の文字は訂正後の文字である。訂正以前の本行本文の文字を尊重したことと、なぞり訂正だけは元の文字が判読しにくかったための処置である。
5 各丁の終わりには」の印と丁数とその表（オ）裏（ウ）を記した。
6 「若菜上」では、ヤ行「江」とワ行「越」を翻字した。なお該本には、朱点で濁点符号が付いているが、省略した。また、朱・墨の区別については、影印本（モノクロ写真）に拠ったために、必ずしも正確ではない。原典を直接に調査する機会ができたら正確を期したい。利用者は注意されたい。
「わかな上」
朱雀院のみかとありしみゆきのゝちそのころを
ひよりれいならすなやみわたらせ給もとよりあ
つしくおはしますうちにこのたひは物心ほ
そくおほしめされて年ころをこなひのほいふ
かきをきさいの宮おはしましつるほとはよろつ
はゝかりきこ江させ給ていまゝておほしとゝこほり
つるを猶その方にもよおすにやあらん世にひ
さしかるましき心地なんするなとのたまはせて
さるへき御心まうけともせさせ給みこたちは」1オ
春宮を越きて（て＄）たてまつりて女宮たちな
むよところおはしましけるその中にふち
つほときこ江しは先帝の源氏にそおはしま
しけるまたはうときこ江させし時まいり給
てたかきくらゐにもさたまりたまへかりし
人のとりたてたる御うしろみもおはせすはゝ
かたもそのすちとなくものはかなきかういはら
にてものしたまひけれはおほんましらひのほと
も心ほそけにておほきさきのないしのかみ越」1ウ
まいらせたてまつり給てかたはらにならふ人なく
もてなしきこえ給なとせしほとにけをされてみ
かとも御心のうちにいと越しきものにはおもひきこ
えさせ給なからおりさせたまひにしかはかひなくゝ
ち越しくてよのなか越うらみたるやうにてうせ
給にしその御はらの女三宮越あまたの御中に
すくれてかなしきものにおもひかしつきゝこえ
たまふそのほと御とし十三四はかりおはすいまは
とそむきすて山こもりしなむのちのよにたちと
まりてたれをたのむかけにてものしたまはむと」2オ
すらむとたゝこの御ことをうしろめたくおほ
しなけくにしやまなる御てらつくりはてゝう
つろはせ給はんほとの御いそき越せさせ給にそへ
てまたこのみやの御もきのことをおほしいそかせ
給院のうちにやむことなくおほす御たからもの
御てうとゝも越はさらにもいはすはかなき御あそ
ひものまてすこしゆへあるかきり越はたゝこの
御かたにとりわたしたてまつらせ給てそのつき／＼
をなむことみこたちにはおほんそうふんともあり
ける春宮はかゝる御なやみにそへて世越そむかせた」2ウ
まふへき御こゝろつかひになむときかせたまひて
わたらせ給へりはゝ女御そひきこえさせ給てま
いり給へりすくれたる御おほえにしもあらさりし
かと宮のかくておはします御すくせのかきりなくめ
てたけれはとしころの御ものかたりこまやかにき
こえさせ給けりみやにもよろつのこと世越たもち給
はむ御心つかひなときこえしらせ給（給＋御年の程よりはいとよくおとなひさせ給て）御うしろみともゝ
こなたかなたかろ／＼しからぬなからひにものした
まへはいとうしろやすく思ひきこ江させ給このよに
うらみのこることもはへらす女御（御＄宮）たちのあまたのこ」3オ
りとゝまるゆくさき越おもひやるなむさらぬわかれに
もほたしなりぬへかりけるさき／＼人のうへにみきゝ
しにもをんなは心よりほかにあは／＼しく人におと
（＋しめらるゝすくせあるなんいとくちお）しくかなしきいつれをもおもふやうならん御よに
はさま／＼につけて御こゝろとゝめておほしたつね
よそのなかにうしろみなとあるはさるかたにも
おもひゆつりはへり三宮なんいはけなきよは
ひにてたゝひとりをたのもしきものとならひて
うちすてゝんのちのよにたゝよひさすらへむこと
いと／＼うしろめたくかなしくはへると御めを」3ウ
しの（の＋ひ、ひ＄）こひつゝきこえしらせさせ給女御にも心
心（心＄）うつくしきさまにきこえつけさせ給されと女
御の人よりはまさりてときめき給しにみな
いとみかはし給しほと御なからひともえうるはし
からさりしかはそのなこりにてけには（は＄）いまはわさ
とにくしなとはなくともまことに心とゝめてお
もひうしろ見むとまてはおほさすもやとそ
越しはからるゝかしあさゆふにこの御事をおほ
しなけくとしくれゆくまゝに御なやみま
ことにをもくなりまさらせ給てみすのとにも」4オ
いてさせ給はす御ものゝけにてとき／＼なやみ（み＄ま）
せ給こともありつれといとかくうちはへをやみな
きさまにはおはしまさゝりつるをこのたひはな
越かきりなりとおほしめしたり御くらゐをさ
らせ給つれと猶そのよにたのみそめ（め＋たてまつり）たまへる人／＼
はいまもなつかしくめてたき御ありさま越心や
り所にまいりつかうまつり給かきりは心をつくして
越しみきこえ給六条院よりもおほむとふらひ
しは／＼ありみつからもまいり給へきよしきこ」4ウ
しめして院はいといたくよろこひきこえさせ
給中納言のきみまいりたまへる越みすのうちにめ
しいれておほむものかたりこまやかなりこ院
のうへのいまはのきさみにあまたの御ゆいこむあ
りしなかにこの院の御事いまのうちの御事なむ
とりわきての給をきし越おほやけとなりてこと
かきりありけれはうち／＼の（の＋御）心よせはかはらすなから
はかなきことのあやまりに心をかれたてまつることも
ありけむとおもふをとしころことにふれてそのうら
みのこし給へるけしきをなむもらし給はぬさか」5オ
しき人といへとみのうへになりぬれはことたかひて
心うこきかならすそのむくゐみえゆかめることなむ
いにしへたにおほかりけるいかならむおりにかその御
こゝろはへほころふへからむとよのひともおもむけうた
かひける越ついにしのひすくし給て春宮なとにも
心をよせきこえ給いまはた又なくしたしかるへき
なかとなりむつひかはし給へるもかきりなく心には
おもひなから本上のおろかなるにそへてこのみちの
やみにたちましりかたくなゝるさまにやとて中／＼
よそのことにきこえはなちたるさまにてはへるうち」5ウ
の御事はかの御ゆいこんたかへすつかうまつり
越きてしかはかくすゑの世に（に＄の）あきらけきゝみとし
てきしかたの御おもて越もおこし給ほいのこと
いとうれしくなむこの秋（秋＋の）行幸のゝちいにしへの
ことゝりそへてゆかしくおほつかなくなむおほえ
給たいめんにきこゆへきことゝもはへりかならすみつ
からとふらひものし給へきよしもよ越し申給へ
なとうちしほたれつゝの給はす中納言のきみすき
はへりにけむかたはともかくもおもふたまへわきかたく
はへりとしまかりいりはへりておほやけにもつかうまつり
はへるあひたよのなかのこと越見給へまかりありくほと」6オ
には大小のことにつけてもうち／＼のさるへきものかた
りなとのついてにもいにしへのうれはしきことありて
なむなとうちかすめ申さゝるおりはゝへらすなむ
かくおほやけの御うしろみ越つかうまつりて（て＄）さし
てしつかなるおもひ越かなへむとひとへにこもり
ゐしのちはなにこと越もしらぬやうにてこ院
の御ゆいこんのこともえつかうまつらす御くらゐに
おはしましゝよにはよはひのほともみのうつはものも
をよはすかしこきかみの人／＼おほくてその心さし
越とけて御覧せらるゝこともなかりきいまかくまつり
ことをさりてしつかにおはしますころほひ心のう」6ウ
ちをもへたてなくまいりうけたまはらまほしきを
さすかになにとなくところせき身のよそほひに
ておのつから月ひをすくすことゝなむをり／＼なけ
き申給なとそうし給廿にもまたわつかなるほとな（な＄）
なれといとよくとゝのひすくしてかたちもさかりにゝ
ほひていみしくきよく（く＄ら）なる越御めにとゝめてう
ちまもらせ給つゝこのもてわつらはせ給ひめ宮の
御うしろみにこれをやなと人しれすおほしよりけり
おほきおとゝのわたりにいまはすみつかれにたり
となとしころ心えぬさまにきゝしかいと越しかりし
越みゝやすきものからさすかにねたくおもふことこ」7オ
そあれとの給はする御けしきをいかにの給はするにとあ
やしくおもひめくらすにこのひめみや越かくおほ
しあつかひてさるへき人あらはあつけて心やす
くよをもおもひはなれはやとなむおほしの給はす
るとおのつからもりきゝ給たよりありけれはさや
うのすちにやとはおもひぬれとふと心えかほにもな
にかはいらへきこえさせむたゝはか／＼しくもはへらぬ
みにはよるへもさふらひかたくのみなむとはかりそうし
てやみぬねうはうなとはのそきて見きこえていと
ありかたくもみえ給かたちよういかなあなめてたなと
あつまりてきこゆるをおいしらへるはいてさりともかの」7ウ
院のかはかりにおはせし御ありさまにはえなすらひ
きこえたまはさめりいとめもあやにこそきらよにものし給
しかなといひしろふをきこしめしてまことにかれは
いとさまことなりし人そかしいまは又そのよにもねひ
まさりてひかるとはこれをいふへきにやとみゆるにほ
ひなむいとゝくはゝりにたるうるはしたちてはか／＼し
きかたに見れはいつくしくあさやかにめもをよはす（す＄ぬ）
心ちする越又うちとけてたはふれことをもいひみた
れあそへはそのかたにつけてはにるものなくあい行つき
なつかしくうつくしきことのならひならひ（ならひ＄）なきこそよに
ありかたけれなにことにもさきのよおしはかられてめつらか」8オ
なる人のありさまなり宮のうちにおひいてゝていわ
うのかきりなくかなしきものにし給ひさはかりな
て（て＋かし）つき身にかへておほしたりしかと心のまゝにも越こ
らすひけして廿かうちには納言にもならすなりにきかし
ひとつあまりてやさい将にて大将かけたまへりけむ
それにこれはいとこよなくすゝみにためるはつき／＼の
このよのおほえのまさるなめりかしまことにかしこき
かたのさえ心もちゐなとはこれもおさ／＼おとるましく
あやまりてもおよすけまさりたるおほえいとことなめり
かし（かし＄）なとめてさせ給ひめ宮のいとうつくしけにてわかく
なに心なき御ありさまなる越見たてまつり給にもみはや」8ウ
したてまつりかつは又かたおひならんことをはみかくしを
しへきこえつへからむ人のうしろやすからむにあつけきこ
えはやなときこえ給おとなしき御めのとゝもめしいてゝ
御もきのほとのことなとのたまはするついてに六条のおとゝ
のしきふ卿のみこのむすめおほしたてけむやうに
この宮をあつかりてはくゝまむ人もかなたゝ人のなか
にはありかたしうちには中宮さふらひ給つき／＼の女御
たちとてもいとやむことなきかきりものせらるゝにはか／＼
しきうしろみなくてさやうのましらひいとなか／＼ならむ
この権中納言のあそむのひとりありつるほとにうちかすめて
こそ心みる（る＄）へかりけれわかけれといときやうさくにおひさ
きたのもしけれ（れ＄）なる人にこそあめるをとの給はす中納言」9オ
はもとよりいとまめ人にてとしころもかのわたりに心をか
けてほかさまにおもひうつろふへくもはへらさりけるに
そのおもひかなひてはいとゝゆるくかたはへらしかの
院こそなか／＼なをいかなるにつけても人をゆかし
くおほしたる心はたえすものせさせ給なれそ
の中にもやむことなき御ねかひふかくて前さい
院なとをもいまにわすれかたくこそきこえ給な
れと申すいてそのふりせぬあたけこそはいとうし
ろめたけれとはの給すれとけにあまたのなかにかゝつらひ
てめさましかるへきおもひはありとも猶やかておやさまに
さためたるにてさもやゆつりをきゝこ江ましなともおほ」9ウ
しめすへしまことにすこしもよつきてあらせむ
とおもはむ女こもたらはおなしくはかの人のあたり
にこそふれはゝせまほしけれいくはくならぬこのよのあ
ひたはさはかり心ゆくありさまにてこそすくさまほ
しけれわれ女ならはおなしはらからなりともかなら
すむつひよりなましわかゝりしときなとさなむお
ほえしまして女のあさむかれむはいとことはりそや
との給はせて御心のうちにかむのきみの御事もおほしい
てらるへしこの御うしろみともの中におも／＼しき御めのと
のせうと左中弁なるかの院のしたしき人にてとしころ
つかうまつるありけりこの宮にも心よせことにてさふらへは」10オ
まいりたるにあひてものかたりするついてにうへなむしか／＼
御けしきありてきこえ給し越かの院にをりあらはも
らしきこえさせ給へみこたちはひとりおはしますこそ
はれいのことなれとさま／＼につけて心よせたてまつりなに
ことにつけても御うしろみし給人あるはたのもしけ
なりうへをゝきたてまつりて又ま心におもひきこえ給へき
人もなけれは越のらはつかうまつるとてもなにはかりのみや
つかひ（ひ＄へ）にかあらむわか心ひとつにしもあらておのつから思
ひのほかのこともおはしましかる／＼しきゝこえもあらむとき
にはいかさまにかはわつらはしからむ御覧するよにともか
くもこの御事さたまりたらはつかうまつりよくなむあ」10ウ
るへきかしこきすちときこゆれと女はいとすくせさためかた
くおはしますものなれはよろつになけかしくかくあ
またの御中にとりわきゝこえさせ給につけても人のそ
ねみあへかめるをいかてちりもすゑたてまつらしと
かたらふに弁いかなるへき御事にかあらん院はあやし
きまて御心なかくかりにてもみそめ給へる人は御心とま
りたるをも又さしもふかゝらさり（り＋ける）越もかた／＼につけて
たつねとり給つゝあまたつとへきこえ給へれとやむこと
なくおほしたるはかきりありてひとかたなめれは
それにことよりてかひなけなるすまゐし給かた（た＋／＼）こそ
はおほかめるを御すくせありてもしさやうにおはし」11オ
ますやうもあらはいみしき人ときこゆともたちな
らひて越したち給ことは江あらしとこそは越し
はからるれと猶いかゝとはゝからるゝことありてなむお
ほゆるさるはこのよのさかえすゑのよにすきてみに
心もとなきことはなき越女のすちにてなむ人の
もときをもおも（も＄）ひわか心にもあかぬこともあるとなん
つねにうち／＼のすさひことにもおほしの給はすなるけに
をの（の＋れ）らか見たてまつるにもさなむおはしますかた／＼に
つけて御かけにかくし給へる人みなその人ならすたち
くたれるきはにはものし給はねとかきりあるたゝ人とも
にて院の御ありさまにならふへきおほえくしたるやは」11ウ
おはすめるそれに越なしくはけにさもおはしまさはいかに
たくひたる御あわひならむとかたらふをめのと又こと
のついてにしか／＼なむなにかしのあそむにほのめ
かしはへしかはかの院にはかならすうけけ（け＄）ひき申
させ給てむとしころの御ほいかなひておほしぬへき
ことなるをこなたの御ゆるしまことにありぬへくはつた
へきこえむとなむ申はへりし越いかなるへきことにか
はゝへらむほと／＼につけて人のきわ／＼おほしわきまへつゝ
ありかたき御心さまにものし給なれとたゝ人たに又かゝつら
ひ思人たちならひたることは人のあかぬことにしは」12オ
へめるをめさましきこともやはへらむ御うしろみのそ
み給人／＼はあまたものし給めりよくおほしさため
てこそよくはへらめかきりなき人ときこゆれといまの
よのやうとてはみなほからかにあるへかしくてよのなか越
御心とすくし給つへきもおはしますへかめるをひめみや
はあさましくおほつかなく心もとなくのみみえさせ給
にさふらふ人／＼はつかうまつるかきりこそはへらめおほ
かたの御心越きてにしたかひきこえてさかしきしも
人もな（な＋ひ）きさふらふこそたよりあることにはへらす（す＄め）とりたて
たる御うしろみものし給はさらむはな越心ほそきわさ」12ウ
になむはへるへきときこゆしかおもひたとるによりなむ
みこたちのよつきたるありさまはうたてあわ／＼しき
やうにもあり又たかきゝはといへともをんなはおとこにみ
ゆるにつけてこそくやしけなることもめさましき
おもひもをのつからうちましるわさなめれとかつは心く
るしくおもひみたるゝをまたさるへき人にたちをくれ
てたのむかけともにわかれぬるのち心をたてゝ世中に
すくさむこともむかしは人の心たひらかにてよにゆるさる
ましきほとのことをはおもひをよはぬものとならひたり
けむいまのよにはすき／＼しくみたりかはしきこともるい」13オ
にふれてきこゆめりかしきのふまてたかきおやの
いゑにあかめられかしつかれし人のむすめのけふはなお／＼
しくゝたれるきはのすきものともになをたちあさ
むかれてなき越やのおもてをふせかけをはつかし
むるたくひおほくきこゆるいひもてゆけはみなおな
な（な＄）しことなりほと／＼につけてすき（き＄く）せなといふなる
ことはしりかたきわさなれはよろつにうしろめ
たくなんすへてあしくもよくもさるへき人の
心にゆるし越きたるまゝにて世中をすくすはすくせ／＼
にてのちの世におとろへあるときもみつからのあや」13ウ
まちにはならすありへてこよなきさいはひありめや
すきことになるおりはかくてもあしからさりけり
とみゆれと猶たちまちふとうちきゝつけたるほとは
おやにしられすさるへき人もゆるさぬに心つからのし
のひわさしいてたるなむ女の身にはますことな
ききすとおほゆるわさなるなお／＼しきたゝ人のなか
らひにてたにあはつけく心つきなきことなりみつから
の心よりはなれてあるへきにもあらぬをおもふ心より
ほかに人にもみえすゝくせのほとさためられむなむいとか
る／＼しくみのもてなしありさま／＼越しはからるゝこ」14オ
となるをあやしくものはかなき心さまにやとみゆ
める越（越＄）御さまなるをこれかれの心にまかせもてなし
きこゆなさやうなることのよにもりいてむこといとうき
ことなりなとみすてたてまつり給はむのちのよ越うし
ろめたけにおもひきこえさせたまへれはいよ／＼わつらは
しく思ひあへりいますこしものをも思ひしり
給ほとまてみすくさむとこそはとしころねむし
つるをふかきほいもとけすなりぬへき心ちのするに
おもひもよほされてなむかの六条のおとゝはけにさ
りともゝのゝ心えてうしろやすきかたはこよなかりな」14ウ
むをかた／＼にあまたものせらるへき人／＼をしるへきにも
あらすかしとてもかくても人の心からなりのとかにお
ちゐておほかたのよのためしともうしろやすきか
たはならひなくものせらるゝ人なりさらてよろしか
るへき人たれはかりかはあらむ兵部卿の宮ひとからは
めやすしかしおなしきすちにてこと人とわきまへ
をとしむへきにはあらねとあまりいたくなよひよし
めくほとにをもきかたをくれてすこしかろひたるおほえ
やすゝみにたらむ猶さる人はいとたのもしけなくなむあ
る又大納言のあそむのいゑつかさのそむなるさるかたに」15オ
ものまめやかなるへきことにはあなれとさすかにいかにそ
やさやうにおしなへたるきはゝ猶めさましくなむある
へきむかしもかうやうなる江らひにはなにことも人にこと
なるおほえあるにことよりてこそありけれたゝひとへに
またなくもちゐむかたはかり越かしこきことに思ひさ
ためむはいとあかすくち越しかるへきわさになむ右
衛もんのかみのしたにわふなるよしないしのかみ
のものせられしその人はかりなむくらゐなといま
すこしものめかしきほとになりなはなとかはともおも
ひよりぬへき越またとしいとわかくてむけにかろひた」15ウ
るほとなりたかき心さしふかくてやもめにてす
くしつゝいたくしつまり思ひあかれるけしき人には
ぬけてさえなともこともなくつゐにはよのかためとなるへ
き人なれはゆくすゑもたのもしけれと猶又このため
にとおもひはてむにはかきりそあるやとよろつにお
ほしわつらひたりかうやうにもおほしよらぬあねみや
たちをはかけてもきこえなやまし給人もなしあや
しくうち／＼にの給はすゑの（ゑの＄る）御さゝめきこともの越のつ
からひろこりてこゝをつくす人／＼おほかりけりお
ほきおとゝもこの衛門のかみのいまゝてひとりのみあり」16オ
てみこたちならすは江しとおもへるをかゝる御さためと
もいてきたなるおりにさやうにもおもむけたてまつりて
めしよせられたらんときいかはかりわかためにもめむほ
くありてうれしからむとおほしの給てないしのかむ
のきみにはかのあねきたのかたしてつたへ申給なり
けりよろつかきりなきことのは越つくしてそうせさせ
御けしきたまはらせ給兵部卿宮は左大将のきたの
かた越きこえはつし給てきゝ給らんところもありかた
ほならむことはとえりすくし給にいかゝは御心のたゝ（たゝ＄うこか）さらむ
かきりなき（き＄く）おほしいられたりとう大納言はとしころ院」16ウ
のへたうにてしたしき（き＄く）つかうまつりてさふらひなれに
たる越御山こもりし給なむのちよりところなく心ほ
そかるへきにこの宮の御うしろみにことよせてかへりみ
させ給へく御けしきせちにたまはり給なるへし権中納言
もかゝることゝも越きゝ給に人つてにもあらすさはかり
おもむけさせ給へりし御けしきをみたてまつり
てしかは越のつからたよりにつけてもらしきこし
めさることもあらはよもゝてはなれてはあらしかし
と心ときめきもしつへけれと女君のいまはとうちと
けてたのみ給へるをとしころつらきにもことつけつへ
かりしほとたにほかさまの心もなくてすくしてし越あ」17オ
やにくにいまさらにたちかへりにはかに物をやおもはせ
きこえむなのめならすやむことなきかたにかゝつらひ
なはなにこともおもふまゝならてひたりみきにやすからす
はわか身もくるしくこそはあらめなともとよりすき／＼
しからぬ心なれはおもひしつめつゝうちいてねとさす
かにほかさまにさたまりはて給はむもいかにそやおほえ
てみゝはとまりけり春宮にもかゝることもきこしめ
してさしあたりたるたゝいまのことよりものちのよの
ためしともなるへきことなり人からよろしとてもたゝ
人はかきりあるを猶しかおほしたつことならはかの六条」17ウ
院にこそおやさまにゆつりきこえさせ給はめとなんわさ
との御せうそこにはあらねと御けしきありけるをまちき
かせ給てもけにさることなりいとよくおほしのたまはせ
たりといよ／＼御心たゝせ給てまつかの弁してそかつ／＼
あないつたへきこえさせ給けるこの宮の御ことかくおほ
しわつらふさまはさき／＼もみなきゝおきたまへれは
心くるしきことにもあなるかなさはありとも院の御よ
のゝこりすくなしとてこゝにはまたいくはくたち越く
れたてまつるへしとてかその御うしろの事をはうけとり
きこえむけにしたいをあやまたぬにていましはしの」18オ
ほとものこりとまるかきりあらはおほかたにつけては
いつれのみこたち越もよそき（き＄）にきゝはなち（ち＋た）てまつる
へきにもあらぬと又かくとりわきてきゝをきて（て＄）たてま
つりてむ越はことにこそはうしろみきこえめとおもふ
越それたにいとふ定なるよのさためなさなりやとの
給てましてひとつにたのまれたてまつるへきすちに
むつひなれきこえむことはいとなか／＼にうちつゝきよ越
さらんきさみ心くるしくみつからのためにもあさから
ぬほたしになむあるへき中納言なとはとしわかくかろ／＼
しきやうなれとゆくさきとをくて人からもついにおほ」18ウ
やけの御うしろみともなりぬへき越ひさきなめれはさも
おほしよらむになとかこよなからむされといといたく
まめたちておもふひとさたまりにてそあめる（る＃れ）はそ
れにはゝからせ給にやあらむなとのたまひてみつから
はおほしはなれたるさまなる越弁はおほろけの
御さためにもあらぬをかくのたまへはいと越しく
くち越しくもおもひてうち／＼におほしたちにた
るさまなとくはしくきこゆれはさすかにうちゑみ
つゝいとかなしくしたてまつり給みこなめれはあな
かちにかくきしかたゆくさきのたとりもふかき」19オ
なめりかしなたゝうちにこそたてまつり給はめ
やむことなきまつのひと／＼おはすといふことはよしな
きことなりそれにさはるへきことにもあらすかなら
すさりとてすゑの人おろかなるやうもなしこ院
の御時におほきさきのはうのはしめの女御にていき
まき給しかとむけのすゑにまいり給へりし入道の
宮にしはしは越され給にきかしこのみこの御はゝ
女御こそはかの宮の御はらからにものし給けめかたち
もさしつきにはいとよしといはれ給し人なりしか」19ウ
はいつかたにつけてもこのひめ宮をしなへて
のきはにはよもおはせし越なといふかしくはおも
ひきこえ給へしとしもくれぬすさく院には御心ち
なをおこたるさまにもおはしまさねはよろつあは
たゝしくおほしたちて御も（も＋き）のことはおほしいそく
さまきしかたゆくさきありかたけなるまていつくし
くのゝしる御しつらひはかへ殿のにしおもてに御長御
き丁よりはしめてこゝのあやにしきませさせ給
はすもろこしのきさきのかさりをおほしやりてうる
はしくこと／＼しくかゝやくはかりとゝのへさせ給へ」20オ
り御こしゆひにはおほきおとゝ越かねてよりきこえ
させ給へりけれはこと／＼しくおはする人にてまいりにくゝ
おほしけれと院の御事越むかしよりそむき申給
はねはまいり給いまふた所の大臣たちそのゝこりかむ
たちめなとはわりなきさはりあるもあなかちに
ためらひたすけつゝまいり給みこたち八人殿上人
はたさらにもいはすうち春宮のゝこらすまいり
つとひていかめしき御いそきのひゝきなり院の御
ことこのた（た＃）たひこそとちめなれとみかと春宮をは」20ウ
しめたてまつりて心くるしくきこしめしつゝくら
人ところをさめ殿のからも（も＄）ものともおほくたてまつ
らせ給へり六条院よりも人／＼のろく尊者の大臣の
御ひきいてものなとかの院よりそたてまつらせ給け
る中宮よりも御さうそくゝしのはこ心ことにて
うせさせ給てかのむかしの御くしあけのくゆへ
あるさまにあらためくはへてさすかにもとの心は江
もうしなはすそれとみせてそのひのゆふつかた
たてまつれさせ給宮のこん（ん＋の）すけ院の殿上にもさふら」21オ
ふを御つかひにてひめみやの御かたにまいらすへく
のたまはせつれとかゝることそ中にありける
さしなからむかし越いまにつたふれは
たまのをくしそかみさひにける院こらんしつ
けてあはれにおほしいてらるゝこともありけりあ
江ものけしうはあらしとゆつりきこえ給へるほ
とけにおもたゝしきかむさしなれは御かへりも
むかしのあはれをはさしおきて
さしつきにみるものにもかよろつよ越つけの
越くしのかみさふるまてとそいはひきこえ給へる」21ウ
御心ちいとくるしき越ねむしつゝおほしおこし
てこの御いそきはてぬれは三日すくしてついに御く
しおろし給よろしきほとの人のうゑにてたに
いまはとてさまかはるはかなしけなるわさなれは
ましていとあはれけに御かた／＼もおほしまとふ
ないしのかんの君はつとさふらひ給ていみしくお
ほしいりたる越こしらへかね給てこを思道は
かきりありけりかくおもひしみ給へるわかれのた
へかたくもあるかなとて御心みたれぬへけれとあ
なかちに御けうそくにかゝり給て山のさすより」22オ
はしめて御いむことのあさり三人さふらひて
ほうふくなとたてまつるほとこのよ越わかれ給
御さほういみしくおほしいりたる越こしらへか
0001【いみしく】－「<いみしく以下削除符号>
ね給てこを思道はかきりありけりかくおもひし
み給へるわかれのたへかたくもあるかなとて御心みた
れぬへけれとあなかちに御けうそくにかゝり給て山
のさすよりはしめて御いむことのあさり三人さふら
ひてほうふくなとたてまつるほとこのよ越わかれ
給御さほういみしくかなしけふはよをゝもひすま
0002【御さほう】－」<御さほうマデ削除符号>
したるそうたちなとたになみたもえとゝめねは」22ウ
まして女宮たち女御かういこゝらのおとこ女かみ
しもゆすりみちてなきとよむにいとこゝろあは
たゝしうかゝらてしつやかなるところにやかて
こもるへくおほしまうけゝるほいたかひておほし
めさるゝもたゝこのおさなき宮にひかされてと
おほしの給はすうちよりはしめたてまつりて御
とふらひのしけさいとさらなり六条院もすこし
御心ちよろしくときゝたてまつらせ給てまいり給
御たうはりのみふなとこそみなおなしことおり
ゐのみかとゝひとしくさたまり給へれとまことの太上」23オ
天王のきしきにはうけはり給はすよのもてな
しおもひきこえたるさまなとは心ことなれとことさ
らにそき給てれいのこと／＼しからぬ御くるまにたてまつ
りてかんたちめなとさるへきか（か＋き）りくるまにてそつかう
まつり給へる院にはいみしくまちよろこひきこえ
させ給てくるしき御心ち越おほしつよりておほん
たいめむありうるわしきさまならすたゝおはします
かたにおましよそひくはへていれたてまつり給へる
御ありさま見たてまつり給にきしかたゆくさきく
れてかなしくとめかたくおほさるれはとみにもえた」23ウ
めらひ給はすこ院にをくれたてまつりしころほひ
よりよのつねなくおもふ給へられしかはこのかたの
ほいふかくすゝみはへりにし越心よはくおもふた
まへたゆたふことのみ侍つゝつゐにかくみたてまつり
なしはへるまてをくれ（れ＋たてまつり）はへりぬる心のぬるさ越
はつかしくおもふ給へらるゝかな身にとりてはことに
もあるましくおもふたまへたちはへるおり／＼あ
る越さらにいとしのひかたきことおほかりぬへきわ
さにこそはへりけれとなくさめかたくおほし
たり院もゝの心ほそくおほさるゝに江心つよからす」24オ
うちしほたれ給つる（つる＄つゝ）いにしへいまの御ものかたりいとよ
はけにきこえさせ給てけふかあすかとおほえ侍つゝさ
すかにほとへぬるをうちたゆみてふかきほいのはしにて
もとけすなりなむことゝおもひをこし（し＋て）なむかくても
のこりのよはひなくはおこなひの心さしもかなふ
ましけれとまつかりにてものとめ越きて念仏をたに
とおもひはへるはか／＼しからぬみにてもよになからふる
ことたゝこの心さしにひきとゝめられたるとおもふ給
へしられぬにしもあらぬをいまゝてつとめなきをこ
たり越たにやすからすなむとておほし越きてたるさ」24ウ
まなとくはしくのたまはするついてに女みこたち越
あまたうちすへしはへるなむ心くるしきなかにも又お
もひゆつるひとなき越はとりわきうしろめたくみ
わつらひはへるとてまほにはあらぬ御けしき心くるしく
みたてまつり給御心のうちにもさすかにゆかしき御あ
りさまなれはおほしすくしかたくてけにたゝ人より
もかゝるすちにはわたくしさまの御うしろみ
なきはくち越しけなるわさになむはへりける
東宮かくておはしませはいとかしこきすゑのよのまうけ
のきみとあめのしたのたのみところにあふきゝこえ
さするをましてこのことゝきこえをかせ給はんことは」25オ
ひとことゝしておろ（ろ＋そ）かにかろめ申給へきにはへらねは
さらにゆくさきのことおほしなやむへきにもはへら
ねとけにことかきりあれはおほやけとなり給よの
まつりこと御心にかなふへしとはいひなからをんなの
御ためになにはかりのけさやかなる御心よせあるへ
きにもはへらさりけりすへて女の御ためにはさま／＼
まことの御うしろみとすへきものは猶さるへきすち
にちきり越かはしえさらぬことにはくゝみきこゆる御（御＄）
御まもりめはへるなむうしろやすかるへきことにはへ
るを猶しひてのちのよの御うたかひのこるへくはよろ」25ウ
しきにおほしえらひてしのひてさるへき御あ
つかりをさためをかせ給へきになむはへなるとそう
し給さやうにおもひよることはへれとそれもかたき
ことになむありけるいにしへのためし越きゝ侍にも
よ越たもつさかりのみこにたに人をえらひてさるさ
まのことをし給へるたくひおほかりけりましてかく
いまはとこの世越はなるゝきはにてこと／＼しくおもふ
へきにもあらねと又しかすつる中にもすてかたきこ
とありてさま／＼におもひわつらひ侍ほとにやまひは
越もりゆくまたとりかへすへきにもあらぬ月ひのす」26オ
きゆけは心あわたゝしくなむかたはらいたきゆ
つりなれとこのいはけなき内新王ひとりわきて
はくゝみおほしてさるへきよすかをも御心におほしさ
ためてあつけ給へときこえまほしきを権中納言なと
のひとりものしつるほとにすゝみよるへくこそあり
けれおほいまうち君にせんせられてねたくおほえ
はへるときこえ給中納言のあそむまめやかなるかた
はいとよくつかうまつりぬへくはへるをなにこともまた
あさくてたとりすくなくこそはへらめかたしけなくとも
ふかき心にてうしろみきこえさせはへらんにおはし」26ウ
ますおほむかけにかはりてはおほされし越たゝゆ
くさきみしかくてつかうまつりさすことやはへらむ
とうたかはしきかたのみなむ心くるしくはへる
へきとうけひき申給つよにいりぬれはあるし
の院かたもまらうとのかむたちめたちもみな
御前にて御あるしのことさうし物にてうるはし
からすなまめかしくせさせ給へり院の御まへにせん
かうのかけはに御はちなとむかしにかはりてまいる
を人／＼なみたをしのこひ給あはれなるすちのこ
とゝもあれとうるさけれはかゝす夜ふけてかへり給」27オ
ろくともつき／＼に給へたう大納言も御をくりにま
いり給あるしの院はけふのゆきにいとゝ御風くはゝ
りてかきみたりなやましくおほさるれとこの
宮の御事きこえさためつる越心やすくおほし
けり六条院はなま心くるしうさま／＼おほしみ
たるむらさきのうへもかゝる御さためなむとかねて
もほのきゝ給けれとさしもあらし前さい院をも
ねむころにきこえ給やうなしかとわさとしもおほ
しとけすなりにしをなとおほしてさることもや
あるともとひきこえ給はすなに心もなくておはする」27ウ
にいとおしくこの事をいかにおほさむわか心はつゆも
かはるましくさることあらんにつけてはなか／＼いとゝ
ふかさこそまさらめみさため給はさらむほといかに
思ひうたかひ給はむなとやすからすおほさるいまの
としころとなりてはましてかたみにへたてきこえ給事
なくあはれなる御中なれはしはし心にへたてのこ
したることあらむもいふせき越そのよはうちやす
みてあかし給つ又のひゆきうちふりそらのけし
きもゝのあはれにすきにしかたゆくさきの御ものか
たりきこえかはし給院のたのもしけなくなり給に」28オ
たる御とふらひにまいりてあはれなることゝものあり
つるかな女三宮の御事をいとすてかたけにおほし
てしか／＼なむのたまはせつけしかは心くるしくて江
きこ江いなひすなりにし越こと／＼しくそ人はいひ
なさむかしいまはさやうのこともうゐ／＼しくすさ
ましくおもひなりにたれは人つてにけしきはま
せ給しにはとかくのかれきこえしをたいめんのついてに
心ふかきさまなることゝも越の給つゝけしにもえす
く／＼しくもかへさひ申さてなむふかき御山すみに
うつろひ給はむほとにこそはわたしたてまつらめ」28ウ
あちきなくやおほさるへきいみしきことありとも
御ためあるよりかはることはさらにあるましきを心
なをき給そよかの御ためこそ心くるしからめそれも
かたはならすもてなしてむたれも／＼のとかにてすく
し給はゝなときこえ給はかなき御すさひことをたに
めさましき△△（△△＃もの）におほして心やすからぬ御心さまな
れはいかゝおほさむとおほすにいとつれなくてあはれ
なる御ゆつりにこそあなれこゝにはいかなる心をゝき
たてまつるへきにかめさましくかくてなとゝかめらるま
しくは心やすくてもはへなむをかのはゝ女御の御かたさ」29オ
まにてもうとからすおほしかすまへてむやとひけ
し給をあまりかうゝちとけ給御ゆるしもいかなれ
はとうしろめたくこそあれまことはさたにおほし
ゆるいてわれも人も心えてなたらかにもてなしすく
し給はゝいよ／＼あはれになむひかこときこえなと
せむ人のこときゝいれ給なすへてよの人のくちといふ
ものなむたかひいへることともなく越のつからひとのな
からひなとうちともなく越のつから（ともなく越のつから＄）ほをゆかみお（お＋も）はす
なることいてくるものなるを心ひとつにしつめてありさ
まにしたかふなむよきまたきにさはきてあいなきも」29ウ
のうらみし給なといとよくをしへきこえ給心のう
ちにもかくそらよりいてきにたるやうなることにての
かれ給かたきをにくけにもきこえなさむ（む＄し）わか心にはゝ
かり給ひいさむることにしたかひ給へきをのかとちの
心より越これるけさうにもあらすせかるへきかたなきもの
からおこかましく思ひむすほをるゝさまよひとにもり
きこえししきふ卿の宮のおほきたのかたつねにうけ
はしけなることゝもをの給ひいてつゝあちきなき大将の
御事にてさへあやしくうらみそねみ給なる越かや
うにきゝていかにいちしるく思ひあはせ給はむなと越」30オ
ひらかなる人の御心といへといかてかはかはかりのくまは
なからむいまはさりともとのみわか身をおもひあかり
うらなくてすくしけるよの人わらへならむこと越し
たには思ひつゝけ給へといとおひらかにのみもてなし給
へりとしもかへりぬ朱雀院にはひめ宮六条院にう
つろひ給はむ御いそき越し給きこえ給へる人／＼い
とくちおしくおほしなけくうちにも御こゝろはへあり
てきこえ給けるほとにかゝる御さため越きこしめして
おほしとまりにけりさるはことしそよそちになり給けれ
は御かの事おほやけにもきこしめしすくさす世中の」30ウ
いとなみにてかねてよりひゝくをことのわつらひおほ
くいかめしき事はむかしよりこのみ給はぬ御心にて
みなかへさひ申給正月廿三日子のひなるに左大将殿
のきたのかたわかなまいり給かねてけしきもゝらし
給はていといたくしのひておほしまうけたりけれは
にはかにてえいさめかへしきこえ給はすしのひたれは
さはかりの御いきほひなれはわたり給きしきなといとひゝ
きことなりみなみのおとゝのにしのはなちいてにおま
しよそふ屏風かへしろよりはしめあたらしく
はこひしつらひ（ひ＄）はれたりうるはしくいしなとはたて」31オ
す御ちしき四十枚御しとねけうそくなとすへて
その御（御＋く）ともいときよらにせさせ給へりらてんのみつし
ふたよろひに御ころもはこよ（よ＋つ）すへてなつふゆの御
さうそくかうこくすりのはこ御すゝりゆするつきかゝ
けのはこなとやうのものうち／＼きよら越つくし給へり
御かさしのたいにはちむしたむをつくりめつらしきあや
めをつくしおなしきかねをもいろつかひなしたる
心はへありいまめかしくかむのきものゝみやひふかくか
とめき給へる人にてめなれぬさまにしなし給へる
おほかたのことをはことさらにこと／＼しからぬほとなり人／＼」31ウ
まいりなとし給ておましにいて給とてかむのきみ
に御たいめんあり御心のうちにはいにしへおほしいつる
こともさま／＼なりけむかしいとわかくきよらにてかく
御かなといふことはひかゝそへにやとおほゆるさまのなま
めかしく人のおやけなくおはします越めつらしくて
とし月へたてゝ見たてまつり給はいとはつかしけれと
猶けさやかなるへたてもなくて御ものかたりきこえか
はし給おさなきゝみもいとうつくしてものし給かむの
きみはうちつゝきても御覧せられしとの給けるを大将
かゝるついてにたに御覧せさせむとてふたりおなし」32オ
やうにふりわけかみのなに心なきなをしすかたとも
にておはすゝくるよはひもみつからの心にはことにお
もひとかめられすたゝむかしなからのわか／＼しきあ
りさまにてあらたむることもなきをかゝるすゑ／＼のも
よ越しになむなまはしたなきまておもひしらるゝ
おりもはへりける中納言のいつしかとまうけたなるを
こと／＼しく思ひへたてゝまたみせすかし人よりことに
かそへとり給けるけふのねのひこそなをうれたけれ
しはしはおいをわすれてもはへるへきをときこえ給かむ
のきみもいとよくねひまさりもの／＼しきけさへそひ」32ウ
てみるかひあるさまし給へり
わかはさすのへのこまつをひきつれてもとの
いはねをいのるけふかなとせめておとなひきこえ給
ちんのおしきよつして御わかなさまはかりいれり御かはら
けとり給て
こ松はらすゑのよはひにひかれてやのへのわかな
もとし越つむへきなときこえかはし給てかむたちめ
あまたみなみのひさしにつき給しきふきやうの宮は
まいりにくゝおほしけれと御せうそこありけるにかく
したしき御なからひにて心あるやうならむもひんなく」33オ
てひたけてそわたり給へる大将のしたりかほにてかゝ
る御中らひにうけはりてものし給もけに心やまし
けなるわさなめれと御むまこのきみたちはいつかたに
つけてもをりたちてさうやくし給こものよそえた（△△＆えた）お
りひつものよそち中納言をはしめたてまつりてさるへき
かきりとりつゝきたまへり御かはらけくたりわかなのおほ
むあついものまいるおまへにはちんのかけはんよつおほ
むつきともなつかしくいまめきたるほとにせられたり
朱雀院の御くすりのことなをたひらきはて給はぬに
よりかく人なとは（は＋めさす御ふえなとおほきおとゝのその）かたはとゝのへ給てよのなかにこの御か」33ウ
より又めつらしくきよらへくすへき事あらしとの給
てすくれたるねのかきり越かねてよりおほしまうけ
たりけれはしのひやかに御あそひありとり／＼にたて
まつる中にわこむはかのおとゝの第一にひし給ける
御ことなりさるものゝ上すの心をとゝめてひきならし
給へるねいとならひなき越こと人はかきたてにくゝし
給へは（は＋衛門のかみのかたくいなふるをせめたまへは）けにいとおもしろくおさ／＼をとるましくひくなに
ことも上すのつきといひなからかくしもえつぬわさそ
かしと心にくゝあはれに人／＼おほすしらへにした
かひてあとあるてともさたまれるもろこしのつるへとも」34オ
はなか／＼たつねしるへきかたあらはなるを心にまか
せてたゝかきあはせたるすかゝきによろつのものゝね
とゝのへられたるはたへにおもしろくあやしきまて
ひゝくちゝおとゝはことのをもいとゆるにはりていたうく
たしてしらへひゝきおほくあはせてそかきならし給
これはいとわらゝかにのほるねのなつかしくあい行
つきたるをいとかうしもはきこえさりし越とみ
こたちもをとろき給きむは兵部卿宮ひき給この
御ことはきやう殿の御ものにてたい／＼にたい一のなありし
御ことをこ院のすゑつかた一品宮のこのみ給ことにて」34ウ
たまはりたまへりける越このをりのきよらをつくし
たまはんとするためおとゝの申給はる給へる御つたへ／＼
越おほすにいとあはれにむかしの事もこひしくお
ほしいてらるみこもゑひなきえとゝめ給はす御けし
きとり給てきむはおまへにゆつりきこえさせ給ものゝ
あはれに江すくし給はてめつらしきものひとつはかりひ
き給にこと／＼しからねとかきりなく越もしろきよの
御（御＋あ）そひなりさうかの人／＼みはしにめしてすくれた
るこゑのかきりいたして返こゑになるよのふけゆく
まゝにものゝしらへともなつかしくかはりてあ越」35オ
やきあそひ給ほとけにねくらのうくひすおとろ
きぬへくいみしくおもしろしわたくしことのさ
まにしなし給てろくなといと経さくにまうけられ
たりけりあか月にかむのきみ返給御をくり物なとありけ
りかうよ越すつるやうにてあかしくらすほとにとし月
のゆくゑもしらすかをなるをかうかそへしらせた
まへるにつけては心ほそくなむとき／＼はをい（い＋や）まさ
るとみ給くらへよかしかくふるめかしきみのところせ
さにおもふにしたかひてたいめんなきもいとくち越
しくなむなときこえたまひてあはれにもをかしく」35ウ
もおもひいてきこえ給ことなきにしもあらねは
なか／＼ほのかにてかくいそきわたり給をいとあかす
くち越しくそおほされけるかむのきみもまことのを
やをはさるへきちきりはかりにおもひきこえ給て
ありかたくこまかなりし御こゝろはへ越とし月に
そへてかくよにすみはて給につけてもをろかなら
すおもひきこえ給けりかくてきさらきの十よ日に
朱雀院のひめみや六条院へわたり給この院にも御
御心まうけよのつねならすわかなまいりしにしのは
なちいてに御帳丁（丁＄）たてゝそなたの一二のたいわたとの」36オ
かけてねうはうのつほね／＼まてこまかにしつらひみ
かゝせ給へりうちにまいり給人のさほうをまねひて
この院よりも御てうとなとはこはるわたり給きし
きいへはさらなり御をくりにかむたちめなとあまた
まいり給かのけいしのそみ給し大納言もやすからす
おもひなからさふらひ給御くるまよせたるところに
ゐんわたり給ておろしたてまつり給なともれいに
はたかひたる事ともなりたゝ人におはすれはよろつ
のことかきりありてうちまいりにもにすむこのおほきみ
といはむにもことたかひてめつらしき御なかのあはひ」36ウ
ともになむ三日かほとかの院よりもあるしのゐんか
たよ（よ＋り）もいかめしくめつらしきみやひをつくし給た
いのうへも事にふれてたゝにもおほされぬよのあ
りさまなりけにかゝるにつけてこよなく人におと
りけたるゝこともあるましけれとまたならふ人な
くならひ給てはなやかにをひさきとをくあな
つりにくきけはひにてうつろひたまへるになま
はしたなくおほさるれとつれなくのみもてなして
御わたりのほともゝろ心にはかなきこともしいて給て
いとらうたけなる御ありさま越いとゝありかたしと」37オ
おもひきこえ給ひめみやはけにまたいとちひさくかた
なりにおはするうちにもいといはけなきけしきして
ひたみちにわかひ給へりかのむらさきのゆかりたつね
とり給へりしおりおほしいつるにかれはかれは（かれは＄）され
ていふかひありしに（に＄）をこれはいといはけなくのみみえ
給へはよかめりにくけに越したちたることなとはあるま
しかめりとおほすものからいとあまりものゝはえなき
御さまかなとみたてまつり給三日かほとはよかれなく
わたり給をとしころさもならひ給はぬ心ちにしのふ
れとなをものあはれなり御そともなといよ／＼たきし」37ウ
めさせ給ものからうちなかめてものし給けしきいみ
しくらうたけにおかしなとてよろつのことありとも
また人をはならへてみるへきそあた／＼しく心よはく
なりをきにけるわかをこたりにかゝる事もいてくるそ
かしわかけれと中納言をはえおほしかけすなりぬめり
し越とわれなからつらくおほしつゝくるになみた
くまれてこよひはかりはことはりとゆるし給てんなこれ
よりのちのとた江あらんこそ身なからも心つきな
かるへけれ又△△（△△＃）さりとてかの院にきこしめさむこと
よとおもひみたれ給へる御心のうちくるしけなり」38オ
すこしほゝゑみてみつからの御こゝろなからたにえさ
ためたまふましかなるをましてことはりもなにも
いつこにとまるへきにかといふかひなけにとりなし給へは
はつかしうさへおほえ給てつらつゑをつき給てよ
りふしたまへれはすゝりをひきよせ給て
めにちかくうつれはかはるよのなか越ゆくすゑ
とをくたのみけるかなふることなとかきませ給をとりて
みたまひてはかなきことなれとけにとことはりにて
いのちこそたゆともたえめさためなきよのつね
ならぬなかのちきりをとみにも江わたりたまはぬを」38ウ
いとかたわらいたきわさかなとそゝのかしきこえ給へは
なよゝかにおかしきほとに江ならすにほひてわたり
たまふをみいたし給もいとたゝにはあらすかしとし
ころさもやあらむとおもひしことゝもゝいまはとのみ
もてはなれたまひつゝさらはかくにこそはとうちとけ
ゆくすゑにあり／＼てかくよのきゝみゝもなのめならぬ
ことのいてきぬるよおもひさたむへきよのありさま
にもさらさりけれはいまよりのちもうしろめたな（な＃）
くそおほしなりぬるさこそつれなくまきらはし
給へとさふらふ人／＼もおもはすなるよなりやあ」39オ
またものし給やうなれといつかたもみなこなたの御
けはひにはかたさりはゝかるさまにてすくし給へは
こそことなくなたらかにもあれをしたちてかはかり
なるありさまにけたれても江すくしたまふまし
またさりとてはかなきことにつけてもやすからぬこと
のあらむおり／＼かならすわつらはしきことゝもい
てきなむかしなとをのかしゝうちかたらひなけか
しけなる越つゆもみしらぬやうにいとけはひおかし
くものかたりなとし給つゝよふくるまておも（も＄）はすかう人
のたゝならすいひおもひたるもきゝにくしとおほして」39ウ
かくこれかれあまたものし給めれと御心にかなひていま
めかしくすくれたるきはにもあらすとめなれてさう／＼
しくおほしたりつるにこの宮のかくわたり給へるこ
そめやすけれなをわらはこゝろのうせぬにやあらむ
われもむつひてきこえてあらまほしきをあいなくへたて
あるさまに人／＼やとりなさむとすらむひとしき
ほとおとりさまなとおもふ人にこそたゝならすみゝ
たつこともをのつからいてくるわさなれかたしけな
く心くるしき御事なめれはいかて心をかれたてまつ
らしとなむおもふなとの給へは中つかさ中将君なと」40オ
やうの人／＼め越くはせつゝあまりなる御おもひやりかな
なといふへしむかしはたゝならぬさまにつかひならし
給し人ともなれとゝしころはこの御かたにさふらひ
てみな心よ（よ＋せ）きこえたるなめりこと御かた／＼よりもいかに
おほすらむもとより思ひはなれたる人／＼はなか／＼
心やすき越なとおもむけつゝとふらひきこえ給も
ある越かくをしはかる人こそ中／＼くるしけれ世
中もいとつねなき物越なとてかさのみはおもひなや
まむなとおほすあまりひさしきよゐもれいならす」40ウ
人やとかめむと心のおにゝおほしていり給ぬれは御
ふすまゝいりぬれとけにかたはらさひしきよな／＼
へにけるも猶たゝならぬ心ちすれとかのすまの御わか
れのおりなと越おほしいつれはいまはとかけはなれ
給てもたゝおなしよのうちにきゝたてまつらましかは
とわか身まてのことはうち越きあたらしくかなしか
りしありさまそかしさてそのまきれにわれも人
もいのちたへすなりなましかはいふかひあらましよ
かはとおほしな越す風うちふきたるよのけはひ」41オ
ひやゝかにてふともねいられ給はぬをちかくさふら
ふ人／＼あやしとやきかむとうちもみしろき給
はぬも猶いとくるしけなりよふかきとりのこゑの
きこえたるもゝのあはれなりわさとつくしとには
あらねとかやうにおもひみたれ給けにやかの御ゆ
めに見え給けれはうち越とろきたまひていかに
と心さはかし給にとりのねまちいて給へれはよふか
きもしらすかほにいそきいて給いといはけなき御あり
さまなれはめのとたちゝかくさふらひけりつまとおし
あけていて給をみたてまつりをくるあけくれの」41ウ
そらにゆきのひかりみえておほつかなしなこり
まてとまれる御にほひやみはあやなしとひとりみ（み＄こ）
たるゆきはところ／＼きえのこりたるかいとしろきに
はのふとけちめみえわかれぬほとなるに猶のこ（こ＋れ）る
【付箋01】－＼<朱合点>「子城陰處猶残雪／衙皷声前未有塵」
ゆきとしのひやかにくちすさひ給つゝみかうしうち
たゝき給もひさしくかゝることなかりつるならひに人／＼
もそらねをしつゝやゝまたせたてまつりてひきあ
けたりこよなくひさしかりつるにみもひ江にける
はをちきこゆる心のをろかならぬにこそあめれさるは
つみもなしやとて御そひきやりなとし給にすこし」42オ
ぬれたる御ひとへのそて越ひきかくしてうらもな
くなつかしきものからうちとけてはたあらぬ御よう
いなといとはつかしけに越かしかきりなき人ときこ
ゆれとかたかめるよをとおほしくらへらるよろついに
しへのこと越おほしいてつゝとけかたき御けしき
をうらみきこえ給てそのひはくらし給ひつれはえわ
たり給はてしむ殿には御せうそこ越きこえ給けさの
ゆきに心ちあやまりていとなやましくはへれはこゝろ
やすきかたにためらひはへるとあり御めのとさきこえ
させはへりぬとはかりことはにきこえたりことなること」42ウ
なの御返やとおほす院にきこしめさむこともいと
おしこのころはかりつくろはむとおほせとえさもあ
らぬをさはおもひしことそかしあなくるしとみ
つからおもひつゝけ給をむなきみもおもひやりな
き御心かなとくるしかり給けさはれいのやうにおほ
とのこもりおきさせ給て宮の御かたに御ふみたてま
つれ給ことにはつかしけもなき御さまなれと御ふ
てなとひきつくろひてしろきかみに
なかみち越へたつるほとはなけれともこゝろ
みたるゝけさのあはゆきむめにつけ給へり人」43オ
めしてにしのわたとのよりたてまつらせよとの
給やかてみいたしてはしちかくおはしますしろき
御そともをき給てはなをまさくり給つゝともまつ
ゆきのほのかにのこれるうへにうちゝりそふそら越な
かめ給へりうくひすのわかやかにちかきこうはいの
すゑにうちなきたる越そてこそにほへとはな越
【付箋02】－＼<朱合点>「おりつれは袖こそにほへ梅の花／ありとやこゝに鴬のなく」（古今32、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄）
ひきかくしてみす越しあけてなかめ給へるさまゆ
めにもかゝる人のおやにて越もきくらゐとみえ給はす
わかうなまめかしき御さまなり御かへりすこしほとふる
心ちすれはいり給てをむなきみにはなみせたてま」43ウ
つり給はなといはゝかくこそにほはまほしけれなさ
くらにうつしてはまたちりはかりも心わくるかたなくや
あらましなとの給これもあまたうつろはぬほとめと
まるにやあらむはなのさかりにならへて見はやなと
の給に御かへりありくれなゐのうすやうにあさやかに
をしつゝまれたる越むねつふれて御てのいとわかき
越しはしみせたてまつらてあらはやへたつとはな
けれとあは／＼しきやうならんは人のほとかたしけな
しとおほすにひきかくし給はむも心をき給へけ
れはかたそはひろけ給へるをしりめにみをこせて」44オ
そひふし給へり
はかなくてうはのそらにそきえぬへき風に
たゝよふはるのあはゆき御てけにいとわかくおさな
けなりさはかりのほとになりぬる人はいとかくは
おはせぬものをとめとまれとみぬやうにまきらはして
やみ給ぬこと人のうへならはさこそあれなとは
しのひてきこえ給へけれといとおしくてたゝ心やす
く越思ひなし給へとのみきこえ給けふは宮の御か
たにひるわたり給心ことにうちけさうし給へる御あり
さまいまみたてまつるねうはうなとはましてみる」44ウ
かひありとおもひきこゆらんかしおほむめのとなとやう
のおいしらへる人／＼そいてやこの御ありさまひとゝころ
こそめてたけれめさまきことはありなむかしとう
ちませておもふもありける女宮はいとらうたけにおさ
なきさまにて御しつらひなとのうと／＼しくよたけく
うるはしきにみつからはなに心もなくものはかなき御
ほとにていと御そかちにみもなくあえかなりことには
ちなともし給はすたゝちこのおもきらひせぬ心ちし
てこゝろやすくうつくしきさまし給へり院のみかとは
越ゝしくすくよかなるかたの御さえなとこそ心もとな」45オ
くおはしますとよひとおもひためれおかしきすち
なまめきゆへ／＼しきかたは人にまさり給へるを
なとてかくおひらかにおほしたて給けむさるはいと
御心とゝめ給へるみこときゝし越とおもふもなまくち
越しけれとにくからす見たてまつりたまふたゝ
きこえ給まゝになよ／＼となひき給て御いらへなとを
もおほえ給けることはいはけなくうちの給て（給て＄たまひ）いてゝ
ゑみはなたすみえ給むかしの心ならましかはうた
て心おとりせまし越いまはよの中をみなさま／＼にお
もひなたらめてとあるもかゝるもきはゝなるゝことは」45ウ
かたきものなりけりとり／＼にこそおほゆれ（ゆれ＄）うはあり
けれよそのおもひはいとあらまほしきほとなりかしと
おほすにさしならひめかれすみたてまつり給へるとし
ころよりもたいのうへの御ありさまそな越ありかたく
われなからもおほしたてけりとおほすひとよのほと
あしたのまもこひしくおほつかなくいとゝしき御心さ
しのまさる越なとかくおほゆらんとゆゝしきまてな
む院のみかとは月のうちに御てらにうつろひ給ひぬ
このゐんにあはれなる御せうそこともきこえ給ひめ宮
の御事はさらなりかゝり（かゝり＄わつらはしくいかにきくところやなとはゝかり）給ことなくてともかくもたゝ御心」46オ
にかけてもてなし給へくそたひ／＼きこえ給けるさ
れとあはれにうしろめたくおさなくおはするを
おもひきこえ給けりむらさきのうへにも御せうそこ
ことにありおさなき人の心ちなきさまにてうつろひ
ものすらんをつみなくおほしゆるしてうしろみ給へ
たつね給へきゆへもやあらむとそ
そむきにしこのよにのこる心こそいる山み
ちのほたしなりけれやみ越はるけてきこゆるも
おこかましくやとありおとゝもみ給てあはれなる御せ
うそこ越かしこまりきこえ給へとて御つかひにも女房」46ウ
してかはらけさしいてさせ給てしひさせ給御かへりは
いかゝなときこえ（え＋に）くゝおほしたれとこと／＼しくおもし
ろかるへきおりのことならねはたゝ心越のへて
そむくよのうしろめたくも（も＄は）さりかたきほたし越
しひてかけなはなれそなとやうにそあめりし
女はう（はう＄のさ）うそくにほそなかそへてかつけ給御てなとの
いとめてたきを院御覧してなにこともいとはつかしけ
なめるあたりにいはけなくてみえ給らむこといと心くる
しうおほしたりいまはとて女御かういたちなと越
のかしゝわかれ給もあはれなることなむおほかりける」47オ
ないしのかむのきみはこきさいの宮のおはしましゝ二
条の宮にそすみ給ひめ宮の御こと越ゝきてはこの御事
越なむかへりみかちにみかともおほしたりけるあまに
なりなむとおほしたれとかゝるきほひにはしたふ
やうに心あはたゝしくといさめたまひてやう／＼ほとけの
御事なといそかせ給六条のおとゝはあはれにあかすのみ
おほしてやみにし御あたりなれはとしころもわすれか
たくいかならむおりにたいめあらむいまひとたひあひみ
てそのよのこともきこえまほしくのみおほしわたるをかた
みによのきゝみゝもはゝかり給へきみのほとにいとおし」47ウ
けなりしよのさはきなともおほしいてらるれは
よろつにつゝみすくし給ける越かうのとやかになり
給てよの中越思ひしつまり給覧ころほひの御
ありさまいよ／＼ゆかしく心もとなけれはあるましき事
とはおほしなからおほかたの御（御＄）とふらひにことつけて
あはれなるさまにつねにきこえ給わか／＼しかるへき御
あはひならねは御かへりもとき／＼につけてきこえかはし
給むかしよりもこよなくうちくしとゝのひ（ひ＋は）てにたる御
けはひ越見給にも猶しのひかたくてむかしの中納言のき
みのもとにも心ふかきことゝも越つねにの給かの人のせう」48オ
となるいつみのさきのかみをめしよせてわか／＼しく
いにしへにかへりてかたらひ給人つてならてものこしに
きこ江しらすへきことなむあるさりぬへくきこ江な
ひかしていみしくしのひてまいらむいまはさやうの
ありきもところせき身のほとにおほろけならすしの
ふれはそこにもまた人にはもらし給はしとおもふに
かたみにこゝろやすくなむとのたまふかむのきみ
いてやよの中越思ひしるにつけてもむかしよりつら
き御こゝろをこゝらおもひ（ひ＋し）つめつるとしころ（ろ＋の）はてに
あはれにかなしき御事越さしをきていかなるむかし」48ウ
かたり越かきこえむけに人はもりきかぬやうありとも
心のとはむこそいとはつかしかるへけれとうちなけ
【付箋03】－＼<朱合点>「なき名そと人にはいひてありなまし／心のとはゝいかゝこたへん」（後撰725、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄）
き給つゝ猶さらにあるましきよし越のみきこゆいに
しへわりなかりしよにたに心かはし給はぬことにもあ
らさりし越けにそむき給ぬる御ためうしろめたき
やうにはあれとあらさりしことにもあらねはいまし
もけさやかにきよまはりてたちにしわかないま
【付箋04】－＼<朱合点>「むらとりのたちにしわか名いま／さらに／ことなしふともしるしあらめや」（古今674・新撰和歌272・古今六帖4330、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄）
さらにとりかへし給へきにやとおほしおこしてこのしの
たのもり越みちのしるへにてまうて給女君にはひ
むかしの院にものするひたちのきみのひころわつら」49オ
ひてひさしくなりにけるをものさはかしきまき
れにとふらはねはいとおしくてなむひるなとけさ
やかにわたらむもひんなき越よのまにしのひて
となむおもひはへるひとにもかくともしらせしと
きこえ給ていといたく心けさうし給をれいはさしも
見え給はぬあたり越あやしとみ給ておもひあはせ
給こともあは（は＄）れとひめ宮の御事のゝちはなにこともい
とすきぬるかたのやうにはあらすすこしへたつる心そ
ひてみしらぬやうにておはすそのひはしむ殿へもわ
たり給はて御ふみかきかはし給たきものなとに心越い」49ウ
れてくらし給よひすくしてむつましき人のかきり
四五人はかりあしろくるまのむかしおほえてやつれ
たるにていて給いつみのかみして御せうそこきこえ給
かくわたりおはしましたるよしさゝめきゝこゆれはお
とろき給てあやしくいかやうにきこえたるにかとむつ
かり給へと越かしやかにてかへしたてまつらむにいとひ
むなうはへらむとてあなかちにおもひめくらして
いれたてまつる御とふらひなとに（に＄）きこえ給てたゝこゝ
もとにものこしにてもさらにむかしのあるましき
心なとはのこらすなりにけるをとわりなくきこえ給」50オ
へはいたくなけく／＼ゐさりいて給へりされはよ猶けち
かさはとかつおほさるかたみにおほろけならぬ御
みしろきなれはあはれもすくなからすひんかしの
たいなりけりたつみのかたのひさしにすゑたてま
つりてみさうしのしり（り＋はかり）はかためたれはいとわかやかな
る心ちもするかなとし月のつもり越もまきれなく
かそへらるゝ心ならひに（に＋かく）おほし（し＄）めかしきはいみし
うつらくこそとうらみきこえ給夜いたくふけゆ
くたまもにあそふ越しのこゑ／＼なとあはれにきこ
江てしめ／＼と人めすくなき宮のうちのありさ」50ウ
まもさもうつりゆくよかなとおほしつゝくるにへい
中かまねならねとまことになみたもろになむむかし
にかはりておとな／＼しくはきこえ給ものからこれ
をかくてやとひきうこかし給
とし月をなかにへたてゝあふさかのさもせ
きかたき（き＄く）おつるなみたか女
なみたのみせきとめかたきしみつにてゆき
あふみちはゝやくたえにきなとかけはなれきこえ給
へといにしへをゝほしいつるもたれによりおほう
はさるいみしきこともありしよのさはきそはと」51オ
おもひいて給にけにいまひとた（た＋ひ）のたいめむはありも
すへかりけりとおほしよはるもゝとよりつしやかなる
ところはおはせさりし人のとしころはさま／＼によの中
をゝもひしりきしかた越くやしくおほやけわたく
しのことにふれつゝかすもなくおほしあつめていと
いたくすくし給にたれとむかしおほえたる御たいめ
むにそのよのこともとをからぬ心ちして江心つよからぬ（からぬ＄くも）
もてなし給はす猶らう／＼しくわかうなつかしく
てひとかたならぬよのつゝましさ越もあはれをもお
もひみたれてなけきかちにてものし給けしき」51ウ
なといまはしめたらむよりもめつらしくあはれ
にてあけゆくもいとくち越しくていて給はむそら
もなしあさはらけのたゝならぬそらにもゝちとりのこゑ
もいとうらゝかなりはなはみなちりすきてなこりか
すめるみ（み＄こ）すゑのあさみとりなるこたちむかしふち
の江んし給しこのころのことなりけりかしとおほし
いつるとし月のつもりにけるほともそのおりのことかき
つゝけあはれにおほさる中納言のきみゝたてまつりを
くるとてつま（ま＋と）をしあけたるにたちかへり給てこの
ふちよいかにそめけむいろにか猶えならぬ心そふに」52オ
ほひにこそいかてかこのかけ越はたちはなるへきとわり
なくいてかてにおほしやすらひたり山きはよりさし
いつるひのはなやかなるにさしあひめもかゝやく心
ちする御さまのこよなくねひくはゝり給へる御けは
ひなと越めつらしくほとへてもみたてまつるはまし
てよのつねならすおほゆれはさるかたにてもなとか
見たてまつりすくし給はさらむ御みやつかへにもか
きりありてきはことにはなれ給こともなかりし越
こ宮のよろつに心をつくし給ひよからぬよのさはき」52ウ
にかろ／＼しき御なさへひゝきてやみにしよなとおも
ひいてらるなこりおほくのこりぬらん御ものかたり
のとちめはけにのこりあらせまほしきわさなり（り＄め）
るを御身心にえまかせ給ましくこゝらの人めも
いと越そろしくつゝましけれはやう／＼さしあかりゆく
に心あはたゝしくてらうのとに御くるまさしよせ
たる人／＼もしのひてこわつくりきこゆ人めして
かのさきかゝりたるはなひと江たおらせ給へり
しつみしもわすれぬものをこりすまに身も
なけつへきやとのふちなみ」53オ
いといたくおほしわつらひてよりゐ給へる越心くる
しうみたてまつる女君もいまさらにいとつゝましく
さま／＼におもひみたれ給つ（つ＄へ）るにはなのかけはなをな
つかしくて
みをなけむふちもまことのふちならてかけ
しやさらにこりすまのなみいとわかやかなる御ふる
まひを心なからもゆるさぬ事におほしなからせき
もりのかたからぬたゆみにやいとよくかたらひをきて
いて給そのかみも人よりこよなく心とゝめておもふ給
へりし御心さしなからはつかにてやみにし御なからひ」53ウ
にはいかてかはあはれもすくなからむいみしくしのひ
いり給へるおほんねくたれのさまをまちうけて女君
さはかりならむと心え給へれとおほめかしくもてなし
ておはすなか／＼うちふすへなとし給へらむよりも心
くるしくなとかくしも見はなち給つらむとおほさ
るれはありしよりけにふかきちきりをのみなかきよを
かけてきこえ給かむのきみの御事も又もらすへきな
らねといにしへのこともしり給へれはまほにはあらねと
ものこしにはつかなりつるたいめなんのこりある心
ちするいかてひとめとかめあるましくもてかくしては」54オ
いまひとたひもとかたらひきこえ給うちわらひていま
めかしくもなりかへる御ありさまかなむかし越い
【付箋05】－＼<朱合点>「いにしへのしつのをたまきくり／返し／むかしを今になすよしもかな」（伊勢物語65、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄）
まにあらためはへ給ほとなかそらなる身のためくるし
くとてさすかになみたくみたまへるまみのいと
らうたけにみゆるにかう心やすからぬ御けしきこそ
くるしけれたゝおひらかにひきつみなとして越し
へたまへゝたてあるへくもならはしきこえぬをおも
はすにこそなりにける御心なれとてよろつに御心と
り給ほとになにこともえのこし給はすなりぬめり
宮の御かたにもとみにえわたり給はすこしらへきこ」54ウ
江つゝおはしますひめ宮はなにともおほしたら
ぬを御うしろみともそやすからすきこえけるわつら
はしうなとみえ給けしきならはそなたもまし
て心くるしかるへきをお（お＋い）らかにうつくしきもてあそ
ひくさにおもひきこえ給へりきりつほの御方はうち
はへえまかて給はす御いとまのありかたけれは心やすく
ならひ給へるわかき御心にいとくるしくのみおほした
りなつころなやましくし給をとみにもゆるしき
こえ給はねはいとわりなしとおほすめつらしきさ
まの御心ちにそありけるまたいとあえかなるおほむほと」55オ
にいとゆゝしくそたれも／＼もおほすらむかしから
うしてまかて給へりひめ宮のおはしますおとゝのひむ
かしおもてに御かたはしつらひたりあかしの御方いまは
御身にそひていていり給もあらまほしき御すくせ
なりかしたいのうへに（に＄）こなたにわたりてたいめし給
ついてにひめ宮にも中のとあけてきこえむかねて
よりもさやうにおもひしかとついてなきにはつゝまし
きをかゝるおりにきこえは（は＄）なれなは心やすくなむある
へきとおとゝにきこえたまへはうちゑみておもふやうなる
へき御かたらひにこそはあなれいとおさなけにもの」55ウ
し給める越うしろやすく越しへなし給へかしとゆ
るしきこえ給宮よりもあかしのきみ（み＋の）はつかしけ
にてましらむをおほせは御くしすましひきつく
ろひておはするたくひあらしと見え給へりおとゝは
宮の御かたにわたり給てゆふかたかのたいにはへる人のし
けいさにたいめんせんとていてたつそのついてにちかつき
きこえさせまほしけにものすめる越ゆるしてかたらひ
給へ心なとはいとよき人なりまたわか／＼しくて御あそひ
かたきにもつきなからすなむなときこえ給はつかし
うこそはあらめなにこと越かきこえむとおひらかにの」56オ
給人のいらへはことにしたかひてこそはおほしいてめへた
てをきてなもてなし給そとこまかに越しへきこえ
給御なかうるはしくてすくし給へとおほすあまりに
なに心もなき御ありさまをみあらはされむもはつ
かしくあちきなけれとさのたまはん越こゝろへたて
むもあいなしとおほすなりけりたいにはかくいて
たちなとし給ものからわれよりかみの人やはあ
るへき身のほとなるものはかなきさま越みえ越き
たてまつりたる（る＋はかり）こそあらめなとおもひつゝけられ
てうちなかめ給てならひなとするにも越のつから」56ウ
ふることもゝのおもはしきすちのみかゝるゝ越さらは
わか身にはおもふことありけりと身なからそおほし
しらるゝ院わたり給て宮女御のきみなとのおほさ（さ＄）
むさむ（さむ＄）さまとも越うつくしうもおはするかなとさ
ま／＼みたてまつり給へる御めうつしにはとしころ
めなれ給へる人のおほろけならんかいとかくおとろい（い＃）
かるへきにもあらぬをな越たくひなくこそはとみ給
ありかたき事なりかしあるへきかきりけたかうはつか
しけにとゝのひたるにそひてはなやかにいまめかしく
にほひなまめきたるさま／＼のかは（は＄を）りもとりあつめゝて」57オ
たきさかりにみえたまふこそよりことしはまさり
きのふよりはけふはめつらしくつねにめなれぬさ
まのしたまへるをいかてかくしもありけむとおほ
すうちとけたりつる御てならひをすゝりのしたに
さしいれたまへれとみつけ給てひきかくしみ給
てなとのいとわさとも上すとみえてらう／＼しく
うつくしけにかき給へり
みにちかくあきやきぬらんみるまゝにあ越
はの山もうつろひにけりとあるところにめとゝめ
給て」57ウ
みつとりのあをはゝいろもかはらぬをはきのし
たこそけしきことなれなとかきそへつゝすさ
ひ給ことにふれてこゝろくるしき御けしきのし
たにはをのつからもりつゝみゆるをことなくけち
たまへるもありかたくあはれにおほさるこよひは
いつかたにも御いとまありぬへけれはかのしのひとこ
ろにいとわりなくていて給ひにけりいとあるましき
ことゝいみしくおほしかへすにもかなはさりけり
東宮の御かたはしちのはゝきみよりもこの御かた越は
むつましきものにたのみきこえ給へりいとうつ（つ＋く）し」58オ
けにおとなひまさりたまへるをゝもひへたてすか
なしとみたてまつり給御ものかたりなといとなつ
かしくきこえかはしたまひてなかのとあけてみ
やにもたいめんし給へりいとおさなけにのみみえ給へは
心やすくておとな／＼しく越やめきたるさまにむかし
の御すちをもたつねきこえ給中納言のめのとゝいふめ
しいてゝ越なしかさしをたつねきこゆれはかたし
けなけれとわかぬさまにきこえさすれは（は＄と）ついてなく
てはへりつるをいまよりはうとからすあなたなとに
もゝのし給てをこたらむことはおとろかしなとも」58ウ
ものしたまはむなむうれしかるへきなとのた
まへはたのもしき御かけともにさま／＼にをくれきこ
江たまひて心ほそけにおはしますめるをかゝる御
ゆるしのはへめれはますことなくなむおもふたまへられ
けるそむき給にしうへの御心むけもたゝかくなむ御心へた
てきこえ給はすまたいはけなき御ありさまをもはく
くみたてまつらせ給へくそはへめりしうち／＼にもさ
なむたのみきこえさせ給しなときこゆいとかたし
けなかりし御せうそこのゝちはいかてとのみおもひ
侍れとなにことにつけてもかすならぬ事（事＄身）なむくち」59オ
越しかりけるとやすらかにおとなひたるけはひにて
宮にも御心につき給へくゑなとのことひゐなのすて
かたきさまわかやかにきこえ給へはけにいとわかく心
よけなる人かなとおさなき御心ちにはうちとけ
給へりさてのちはつねに御ふみかよひなとしてお
かしきあそひわさなとにつけてもうとからすき
こ江かはし給よの中の人もあいなうかはかりに
なりぬるあたりのことはいひあつかふものなれは
はしめつかたはたいのうへいかにおほすらむ御をほ
江いとこのとしころのやうにはおはせしすこしは」59ウ
おとりなんなといひけるをいますこしふかき
御心さしかくてしもまさるさまなる越それに
つけてもまたやすからすゆ（ゆ＄い）ふ人／＼あるにかくに
くけなくさへきこえかはし給へはことなおりてめ
やすくなんありけるかみなつきにたいのうへ院
の御賀さかのゝみたうにてやくしほとけくや
うしたてまつり給いかめしきことはせちにいさめ
申給へはしのひやかにとおほしをきてたりほとけ
経はこちすのとゝのへまことのこくらくおもひやらるさい
そうわう経こむかうはむにやすみやう経なといと」60オ
ゆたけき御いのりなりかむたちめいとおほくまいり
給へりみたうのさま越もしろくいはんかたなく
もみちのかけわけゆくのへのほとよりはしめて
みものなるにかたへはきほひあつまり給なるへし
しもかれわたれるのはらのまゝにうまくるまのゆき
ちかふをとしけくひゝきたり御す経われも／＼と御
かた／＼いかめしくせさせたまふ廿三日を御としみの
ひにてこの院はかくすきまなくつとひたまへるう
ちにわか御わたくしのとのとおほす二条の院にて
その御まうけせさせ給御さうそく越はしめおほ」60ウ
かたのことゝもゝみなこなたにのみし給御かた／＼もさる
へ（つ＆へ）きことゝもわけつゝのそみつかうまつり給たいともは
人のつほね／＼にしたる越はらひて殿上人諸大夫
院ししも人まてのまうけいかめしくせさせたま
へり心殿のはなちいて越れいのしつらひにてらてん
のいしたてたりおとゝのにしのまに御そのつくゑ十
二たてゝなれ（れ＄つ）ふゆの御よそひ御ふすまなとれいのこと
くむらさきのあやのおほひともうるわしくみえわた
りてうちのこゝろはあらはならす御まへにをきものゝつく
ゑふた△（△＃つから）のちのすそこのおほひしたりかさしのたい」61オ
はちむのくゑそくこかねのとりしろかねの江たに
ゐたる心はへなとしけいさの御あつかりにてあかし
の御かたのせさせ給へるゆへふかく心ことなりうしろ
の御屏風四帖はしきふ卿宮なむせさせ給ける
いみしくつくしてれいの四季のゑなれとめつらしき
せんすいたんなとの（の＄め）なれすおもしろしきたのかへに
そへてをきものゝみつしふたよろひたてゝ御てう
とゝもれいのことなりみなみのひさしにかむたちめ
左右の大臣しきふ卿宮をはしめたてまつり」61ウ
てつき／＼はましてまいり給はぬ人なしふたいの左
右にかく人のひらはりうちてにしひんかしにとんし
き八十くろくのからひつ四十つゝつゝけてたてたり
ひつしのときはかりにかく人まいるまんさいらく
わうしやうなとまいてひくれかゝるほとにこまのらん
0003【わうしやう】－皇[鹿+章]
0004【らんしやう】－乱声
しやうしてらくそんまいゝてたるほと猶つねのめな
0005【らくそん】－落蹲
れぬまひのさまなれはまひはつるほとに権中納言
ゑもんのかみおりていりあやをほのかにまひてもみ
ちのかけにいりぬるなこりあかすけうありと人／＼」62オ
おほしたりいにしへのすさく院の行幸にせいかい
はのいみしかりしゆふへおもひいて給人／＼は権中
納言衛もんのかみ又おとらすたちつゝき給にける
よのおほえありさまかたち（ち＋ようい）なともおさ／＼おとらす
つかさくらゐはやゝすゝみてさへこそなとよはひの
ほとをもかそへて猶さるへきにてむかしよりかく
たちつゝきたる御中らひなりけりとめてたく思
あるしの院もあはれになみたくましくおほしいて
らるゝことゝもおほかりよにいりてかく人ともまかりいつ」62ウ
きたのまむところのへたうともひと／＼ひきゐて
ろくのからひつによりてひとつゝつとりてつき／＼給
しろきものともをしな／＼かつきて山きはより
いけのつゝみすくるほとのよそめはちとせ越かねて
あそふ（ふ＋つるのけ衣に思まかへらる御あそひ）はしまりて又いとおもしろし御ことゝも
は春宮よりそとゝのへさせ給ける朱雀院よりわた
りまいれるひわきむうちより給はり給へるさうの御こと
なとみなむかしおほえたるものゝねともにてめつらし
くかきあはせ給へるになにのおりにもすきにしかた」63オ
の御ありさまうちわたりなとおほしいてらる故入道の
宮おはせましかはかゝる御かなとわれこそすゝみつか
うまつらましかは（は＄）なにことにつけてかは心さしもみえ
たてまつりけむとあかすくちおしくのみおもひい
てきこえ給うちにも故宮のおはしまさぬこと越な
にことにもはえなくさう／＼しくおほさるゝにこの院
の御こと越たにれいのあと越あるさまのかしこまりをつ
くしてもえみせたてまつらぬをよとゝもにあかぬ心
ちし給もことしはこの御賀にことつけてみゆきなとも」63ウ
あるへくおほしをきてけれとよのなかのわつらひ
ならむことさらにせさせ給ましくなむといなひ
申給ことたひ／＼になりぬれはくちおしくおほし
とまりぬしはすのはつかあまりのほとに中宮まかて
させ給てことしのゝこりの御いのりにならの京の七大
寺にみす行ぬの四千収このちかきみやこの四十寺に
きぬ四百疋をわかちてせさせ給ありかたき御はくゝみ
越おほしゝりなからなにこともつけてもふかき御心さ
しをもあらはし御覧せさせ給はむとてちゝ宮」64オ
はゝ宮す所のおはせまし御ための心さしをも
とりそへおほすにかくあなかちにおほやけに
もきこえかへさせ給へはことゝもおほくとゝめさせ給
つ四十の賀といふことはさき／＼越きゝはへるにもの
こりのよはひゝさしきためしなむすくなかりけ
るをこのたひは猶よのひゝきとゝめさせ給てまことに
のちにたえむこと越かそへきか（きか＄さ）せ給へとありけれとお
ほやけさまにて猶いといかめしくなむありける宮の
おはしますまちの心殿に御しつらひなとしてさき／＼」64ウ
にことかはらすかむたちめのろくなとたいきやうにな
すらへてみこたちにはことに女のさうろくひ参きの
四位まうちきむたちなとの（の＃）たゝの殿上人にはしろ
きほそなかひとかさねこしさしなとまてつき／＼にた（た＃）
たまふさうそくかきりなくきよら越つくしてなた
かきおひ御はかしなと故前坊の御かたさまにてつた
はりまいりたるも又あはれになむふるきよの一の
ものとなあるかきりはみなつとひまいる御賀になむ
あめるむかしものかたりにもゝのえさせたるをかしこ」65オ
きことにはかそへつゝけためれといとうるさくてこ△△（△△＃ちた）
き御なからひのことゝも（も＋は）江そかそへあへはへらぬや△（△＃）
内にはおほしそめてしことゝも越むけにやはとて中納言
にそつけさせ給てけるそのころの右大将やまゐし
てしゝ給けるをこの中納言に御賀のほとよろこひく
はへむとおほしめしてにはかになさせ給つ院もよ
ろこひきこえさせ給ものからいとかくにはかにあまる
よろこひをなむいちはやき心ちし侍とひけし申
給うしとらのまちに御しつらひまうけ給てかくろへ」65ウ
たるやうにしなし給つれとけふはなをかたことに
きしきまさりてところ／＼のきやうなともくらつ
かさこくさう院よりつかうまつらせ給へりとんし
きなとおほやけさまにて頭中将せんしうけ給はりて
みこたち五人左右おとゝ大納言ふたり中納言三人さい
将五人殿上人はれいの内東宮院のこるすくなし
おまし御てうとゝもなとはおほきおとゝくはしくうけ
給はりてつかうまつらせ給へりけふはおほせことあり
てつかうまつらせ（つかうまつらせ＄わたりまいり）給へりゐんもいとかしこくおとろ」66オ
き申給て御さにつき給ぬもやの御さにむかへて越
とゝの御さありいときよらにもの／＼しくふとりてこのおとゝ
そいまさかりのしうとくとは見え給へるあるしの院は
猶いとわかき源しのきみにみえ給御屏風四帖にう
ちの御てかゝせ給へるからのあやのうすたんにしたゑの
さまなと越ろかならむやはおもしろき春秋のつくりゑ
なとよりもこの御屏風のすみつきのかゝやくさまは
めもをよはすおもひなしさへ（く＆へ）めてたくなむありける
越きものゝみつしひき物ふき物なとくら人所より給」66ウ
はり給へり大将の御いきをひいといかめしくなり給に
たれはうちそへてけふのさほういとことなり御むま四十
疋左右むまつかさ六ゑふの官人かみよりつき／＼に
ひきとゝのふるほとひくれはてぬれいのまんさいら
くかわうおんなといふまひけしきはかりまひて
おとゝのわたり給へるにめつらしくもてはやし給
へる御あそひにみな人心をいれ給へりひわはれいの
兵部卿宮なにことにもよにかたきものゝ上すにお
はしていとになしおまへにきむの御ことおとゝわこむ」67オ
ひき給としころそひ給にける御みゝのきゝなし
にやいというにあはれにおほさるれはきむも御て
おさ／＼かくし給はすいみしきねともいつむかしの
御ものかたりともなといてきていまはたかゝる御なか
らひにいつかたにつけてもきこえかよひ給へき
御むつひなと心よくきこえ給て御みきあまたゝひ
まいりてものゝおもしろさもとゝこほりなく御ゑひ
なきとも江とゝめ給はす御をくりものにすくれたる
わこむひとつこのみ給こまふ江そへてしたんの」67ウ
はこひとよろひにからの本ともこゝのさうの本
なといれて御くるまにをひてたてまつれ給御むま
ともむかへとりて右（右＋の）つかさとんこまのかくしてのゝし
る六衛ふの官人のろくとも大将（将＋たまふ）御心とそき給て
いかめしきことゝもはこのたひとゝめ給へれと内東宮
一院きさいの宮つき／＼の御ゆかりいつくしきほといひ
しらすみえにたることなれはなをかゝるおりにはめ
てたくなむおほえける大将のたゝひとゝころおは
する越さう／＼しくはえなき心ちせしかとあまた」68オ
の人にすくれおほえことに人からもかたはらなきや
うにものし給にもかのはゝきたのかたのいせのみや
す所とのうらみふかくいとみかはし給けむほとの御す
くせとものゆくすゑ見えたるなむさま／＼なりける
そのひの御さうそくともなとこなたのうへなむし
給けるろくともおほかたのことをそ三条のきたのか
たはいそき給めりしおりふしにつけたる御いとなみ
うち／＼のものゝきよら越もこなたにはたゝよそのことに
のみきゝわたり給越なにことにつけてかはかゝるもの／＼」68ウ
しきかすにもましらひ給はましとおほえたる
を大将のきみの御ゆかりにいとよくかすまへられ給へ
りとしかへりぬきりつほの御かたちかつき給ぬるに
より正月ついたちよりみすほうふたんにせさせ給て
ら／＼やしろ／＼の御いのりはたかすもしらすおとゝの
きみゆゝしきことを見給へてしかはかゝるほとのこと
いとおそろしきものにおほしゝみたるをたいのうへ
なとのさることし給はぬはくち越しくさう／＼しき
ものからうれしくおほさるゝにまたいとあえかなる」69オ
御ほとにいかにおはせむとかねておほしさはくに
二月はかりよりあやしく御けしきかはりてなやみ
給に御心ともさわくへし御みやうしともゝところを
かへてつゝしみ給へく申けれはほかのさしはなれ
たらむはおほつかなしとてかのあかしの御まちの
なかのたいにわたしたてまつり給こなたはたゝおほ
きなるたいふたつらうともなむめくりてありけるに
みすほうのたんひまなくぬりていみしきけむさ
ともつとひてのゝしるはゝきみこのときにわか御」69ウ
すくせも見ゆへきわさなめれはいみしき心を
つくし給かのおほあまきみもいまはこよなきほ
け人にてそありけむかしこの御ありさまを見た
てまつるはゆめの心ちしていつしかとまいりちかつき
なれたてまつるとしころはゝ君はかうそひさふらひ
給へとむかしのことなとまほにしもきこえしらせ給
はさりけるをこのあま君よろこひにえたへてまいり
てはいとなみたかちにふるめかしきことゝも越わなゝき
いてつゝかたりきこゆはしめつかたはあやしくむ」70オ
つかしき人かなとうちまもり給しかとかゝる人あり
とはかりはほのきゝをき給へれはなつかしくもてな
し給へりむまれ給しほとの事おとゝのき（き＋み）のかのう
らにおはしましたりしありさまいまはとて京（京＋へ）の
ほり給しにたれも／＼心をまとはしていまはかき
りかはかりのちきりにこそはありけれとなけきし
越わかきみのかくひきたすけ給へる御すくせの
いみしくかなしきことゝほろ／＼となき（き＄け）はけにあ
はれなりけるむかしのことをかくきかせさらまし」70ウ
かはおほつかなくてもすきぬへかりけりとおほし
てうちなけ（け＄）き給心のうちにはわか身はけにうけは
りていみしかるへきゝはにはあらさりけるをたいの
うへの御もてなしにみかゝれて人のおもへるさま
なともかたほにはあらぬなりけりみ（み＄ひと／＼）をはまたなき
物におもひて（て＄）けちこよなき心おこり越はしつ
れよひとはしたにいひいつるやうもありつらむ
かしなとおほしゝりはてぬはゝ君をはもとよりか
くすこしおほえくたれるすちとしりなからむま」71オ
れ給けむほとなとをはさるよはなれたるさかひ
にてなともしり給はさりけりいとあまりおほと
きたまへるけにこそはあやしくおほ／＼しかりける
ことなりやかの入道のいまは仙人のよにもすまぬや
うにてゐたなるをきゝ給も心くるしくなとかた／＼
におもひみたれ給ぬいとものあはれになかめてお
はするに御かたまいり給て日中の御かちにこなたかな
たよりまいりつとひものさはかしくのゝしるにおまへに
こと人もさふらはすあまきみところえていとちかくさふ」71ウ
らひ給あな見くるしやみしかき御木丁ひきよせて
こそさふらひ給はめ風なとさはかしくて越のつからほ
ころひのひまもあらむにくすしなとやうのさまし
ていとさかりすき給へりやなとなまかたわらいたく
思ひ給へりよしめきそしてふるまふはおほゆめ
0006【そして】－存
れとももう／＼にみゝもおほ／＼しかりけれはあゝとか
たふきてゐたりさるはいとさいふはかりにもあら
すかし六十五六のほとなりあますかたいとかはらか
に（に＋あてなるさましてめつやゝかに）なきはれたるけしきのあやしくむかしおも」72オ
ひいてたるさまなれはむねうちつふれてこたいの
ひかことゝもや侍りつらむよくこのよのほかなるやう
なるひかおほえともにとりませつゝあやしきむかし
の事ともゝいてまうてきつらむはやゆめの心ちこそ
しはへれとうちほおゑみてみたてまつり給へはいと
なまめかしくきよらにてれいよりもいたくしつま
りものおほしたるさまに見え給わかこともおほえ給
はすかたしけなきにいと越しきことゝもをきこえ給
ておほしみたるゝにやいまはかはかりと御くらゐを」72ウ
きはめ給はむよにきこえもしらせむとこそ
おもへくち越しくおほしすつへきにはあらねといと／＼
おしく心おとりし給らむとおほゆ御かちはてゝま
かてぬるに御くたものなとちかくまかなひなしこ
れはかり越たにといと心くるしけに思ひ（ひ＋て）きこえ給あ
まきみはいとめてたううつくしう見たてまつるまゝ
にもなみたはえとゝめすかほはゑみてくちつきな
とは見くるしくひろこりたれとまみのわたりうち
しくれてひそみゐたりし（し＃）あなかたわらいたとめく」73オ
はすれときゝもいれす
おいのなみかひあるうらにたちいてゝし
ほたるゝあまをたれかとかめむむかしのよにも
かやうなるふる人はつみゆるされてなむ侍ける
ときこゆ御すゝりなるかみに
しほたるゝあま越なみちのしるへにてたつね
も見はやはまのとまやを御かたも江しのひ給はて
うちなき給ひぬ
よをすてゝあかしのうらにすむ人も心のやみ」73ウ
はゝるけしもせしなときこえまきらはし給
わかれけむあか月のこともゆめの中におほしいて
られぬをくち越しくもありけるかなとおほす
やよひの十よひのほとにたいらかにむまれ給ひぬか
ねてはおとろ／＼しくおほしさはきしかといた
くなやみたまふことなくておとこみこさへお
はすれはかきりなくおほすさまにておとゝも
御心おちゐ給ひぬこなたはかくれのかたにてたゝけ
ちかきほとなるにいかめしき御うふやしなひな」74オ
とのうちしきりひゝきよそ越しきありさまけ
にかひあるうらとあまきみのためにはみえたれと
きしきなきやうなれはわたり給なむとすたいの
うへもわたり給へりしろき御さうそくし給て人
のおやめきてわか宮をつといたきてゐ給へるさま
いとおかしみつからかゝることしり給はす人のうへに
ても見ならひ給はねはいとめつらかにうつくしとお
もひきこえ給へりむつかしけにおはするほと越たえす
いたきとり給へはまことの越は君はたゝまかせたてまつ」74ウ
りて御ゆとのゝあつかひなと越つかうまつり給春
宮のせんしなるないしのすけそつかうまつる御
むかへゆ（ゆ＋に）おりたち給へるもいとあはれにうち／＼の△（△＃）
こともほのしりたるにすこしかたほならはいとを
しからまし越あさましくけたかくけにかゝるち
きりことにものし給ける人かなとみきこゆこのほと
のきしきなともまねひたてむにいとさらなりや
六日といふにれいのおとゝにわたり給ひぬ七日の夜内
よりも御うふやしなひのことあり朱雀院のかく」75オ
世越すておはします御かはりにやくら人ところよ
り頭弁宣旨うけ給はりてめつらかなるさまにつか
うまつれり六のきぬなとまた中宮の御方よりも
おほやけことにはたちまさりいかめしくせさせ給
つき／＼のみこたち大臣のいへ／＼そのころのいとなみにて
われも／＼ときよらをつくしてつかうまつり給おとゝの
きみもこのほとのことともはれいのやうにもことそかせ
給はてよになくひゝきこちたきほとにうち／＼のなまめ
かしくこまかなる宮ひのまねひつたふへきふしはめ」75ウ
もとまらすなりにけりおとゝのきみもわか宮越ほとな
くいたきたてまつり給て大将のあまたまうけた
なる越いまゝてみせぬかうらめしきにかくらうた
き人越そ江たてまつりたるとうつくしみきこえ給は
ことはりなりや日ゝにもの越ひきのふるやうにをよ
すけ給御めのとなと心しらぬはとみにめさてさふら
ふ中にしな心すくれたるかきり越えりてつかう
まつらせ給御かたの御心をきてのらう／＼しくけたかく
おほとかなるものゝさるへきかたにはひけしてにくら」76オ
かにもうけはらぬなと越ほめぬ人なしたいのうへは
まほならねとみえかはし給てさはかりゆるしなくお
ほしたりしかといまは宮の御とくにいとむつまし
くやむことなくおほしなりにたりちこうつくしみ
し給御心にてあまかつなと御てつからつくりそゝく
りおはするもいとわか／＼しあけくれこの御かしつきに
てすくし給このこたいのあまきみはわか宮越え心のと
かにみたてまつらぬなむあかすおほえける中／＼みたて
まつりそめてこひきこゆるにそいのちもえたふ」76ウ
ましかめるかのあかしにもかゝる御事つたへきゝてさ（さ＄）
さるひしり心ちにもいとうれしくおほえけれはい
まなむこのよのさかひ越心やすくゆきはなるへき
とてしともにいひてこのいゑをはてらになしあ
たりの田なとのやうのものはみなそのてらのことにし越
きてこのくにのおくのこほりに人もかよひかたくふ
かき山あるをとしころもしめ越きなからあしこ
にこもりなむのち又人にはみえしらるへきにもあ
らすとおもひてたゝすこしのおほつかなきこと」77オ
のこりけれはいまゝてなからへけるをいまはさり
ともとほとけかみ越たのみ申てなむうつろひけ
るこのちかきとしころとなりては京にことなること
ならて人もかよはしたてまつらさりつこれより
くたし給人はかりにつけてなむひとくたりにても
あまきみさるへきおりふしのこともかよひける
おもひはなるゝよのとちめにふみかきて御かたにた
てまつれ給へりこのとしころはおなしよの中のう
ちにめくらひはへりつれとなにかはかくなから身越」77ウ
かへたるやうにおもふたまへなしつゝさせることなき
かきりはきこえうけ給はらすかなふみみ給ふるは
めのいとまいりて念仏もけたいするやうにやくなう
てなむ御せうそこもたてまつらぬをつてにうけ
給はれはわかきみは春宮にまいり給ておとこ宮
むまれ給へるよし越なんふかくよろこひ申し
はへるそのゆへはみつからかくつた△（△＃）なき山ふし
の身にいまさらにこのよのさかえ越おもふにも
はへらすゝきにしかたのとしころ心きたなく」78オ
六時のつとめにもたゝ御事越心にかけてはち
すのうへの露のねかひ越はさし越きてなむ
ねむしたてまつりしわかおもとむまれ給はむとせ
しそのとしの二月のそのよのゆめにみしやうみ
つからすみの山をみきのてにさゝけたり山の左右よ
り月日のひかりさやかにさしいてゝ世をてらすみ
つからは山のしものかけにかくれてそのひかりにあた
らす山をはひろきうみにうかへをきてちゐさき
ふねにのりてにしのかた越さしてこきゆくとなむ」78ウ
見はへしゆめさめてあしたよりかすならぬ身にた
のむところいてきなからなにことにつけてかさるいかめ
しきことをはまちいてむと心のうちにおもひはへし
越そのころよりはらまれ給にしこなたそゝのかたの
ふみ越見はへしにも又ないけうの心をたつぬる中
にもゆめ越しんの心を（の心を＄）すへきことおほくはへしかは
いやしきふところのうちにもかたしけなく思ひ
いたつきたてまつりしかとちからをよはぬ身に
おもむき（むき＄ふ）たまへかねてなむかゝるみちにおもむ」79オ
きはへりにし又このくにのことにしつみ侍てお
いのなみにさらにたちかへらしと思ひとちめて
このうらにとしころ侍しほともわか君をたのむ
ことにおもひきこ江はへしかはなむ心ひとつに
おほくのくわんをたてはへしそのかへり申
たひらかにおもひのことときにあひ給わかきみくに
のはゝとなり給てねかひみち給はむ世にすみよ
しの宮しろをはしめはた（た＋し）申給へさらになに
こと越かはうたかひ侍らむこのひとつのおもひちか」79ウ
きよにかなひはへりぬれははるかに西のかた十万
億のくにへたてたる九品のうへのゝそみうたか
ひなくなりはへりぬれはいまはたゝむかふるは
ちすをまちはへるほとそのゆふへまて水草き
よき山のすゑにてつとめ侍らむとてなむまか
りいりぬる
ひかりいてむあか月ちかくなりにけりいまそみ
しよのゆめかたりするとて月日かきたりいの
ちおはらむ月日もさらになしろしめしそいにしへ」80オ
より人のそめをきけるふちころもにもなにかや
つれ給たゝわか身はへん化のものとおほしなして
おいほうしのためにはくとくをつくり給へこのよの
たのしみにそへてものちのよをわすれ給なねか
ひはへる所にたにいたり侍なはかならす又たいめんは
侍なむさはりのほかのきしにいたりてとくあひみむと
をおほせさてかのやしろにたてあつめたるくわんふみ
ともをおほきなるちむ（む＋の）ふはこにふんしこめてたて
まつり給へりあま君にはこと／＼にもかゝすたゝこの月」80ウ
の十四日になむくさのいほりまかりはなれてふかき
山にいりはへりぬるかひなき身をはくまおほかみに
もせしはへりなむそこには猶おもひしやうなる
御よをまちいて給へあきらかなるところにて又た
いめんはありなむとのみありあまきみこのふみを
見てかのつかひのたいとこにとへはこの御ふみかき
給て三日といふになむかのたえたるみねにうつろ
ひ給にしなにかしらもかの御をくりにふもとまて
はさふらひしかとみなかへし給てそう一人わらは二人」81オ
なむ御ともにさふらはせ給いまはと世越そむき
給しおり越かなしきとちめとおもふ給へしかとの
こりはへりけりとしころをこなひのひま／＼によりふ
しなからかきならし給しきむの御ことひはとり
よせ給てかいしらへ給つゝほとけにまかり申給てな
むみたうにせにうし給しさらぬものともゝおほく
はたてまつり給てそのゝこり越なむ御てしとも
六十よ人なむしたしきかきりさふらひけるほと
につけてみな所分し給てなをしのこり越なむ」81ウ
京の御れうとてをくりたてまつり給へるいまはと
てかきこもりさるは（は＋る）けき山のくもかすみにまし
り給ひにしむなしき御あとにとまりてかなしひ
おもふ人／＼なむおほくはへるなとこのたいとこも
わらはにて京よりくたりしける人のおいほうし
になりてとまれるいとあはれに心ほそしとおもふ（ふ＄へ）
りほとけの御てしのさかしきひしり（り＋た）にわし
のみねをはたと／＼しからすたのみきこえなから猶
たきゝつきける夜のまとひはふかゝりけるをましてあ」82オ
まきみのかなしとおもひたまへることかきりなし
御かたみなみのおとゝにおはするをかゝる御せうそこ
なむあるとありけれはしのひてわたり給へりおも／＼
しくみをもてなしておほろけならてはかよひあ
ひ給こともかたき越あはれなることなむときゝてお
ほつかなけれはうちしのひてものし給へるにいといみ
しくかなしけなるけしきにてゐ給へり火ちかく
とりよせてこのふみみ越見給にけにせきとめむかた
そなかりけるよの人はなにともめとゝむましき事」82ウ
のまつむかしきしかたのことおもひいてこひしとお
もひわたり給心にはあひ見てすきはてぬるに
こそはとみ給にいみしくいふかひなしなみた越えせ
きとめすこのゆめかたり越かつはゆくさきたのもし
くさらはひか心にてわか身越さしもあるましき
さまにあくからし給となかころおもひたゝよはれ
しことはかくはかなきゆめにたのみをかけて心た
かくものし給なりけりとかつ／＼おもひあはせ給あ
ま君ひさしくためらひてきみの御とくにはうれしく
おもたゝしきことをもみにあまりてならひなくおもひ」83オ
はへりあはれにいふせきおもひもすくれてこそは
へりけれかすならぬかたにてもなからへし宮こをす
てゝかしこにしつみゐしをたによひとにたかひ
たるすくせにもあるかなと思ひはへしかといけ
るよにゆきはなれへたゝるへき中のちきりとは
おもひかけすおなしはちすにすむへきのちのよ
のたのみをさへかけてとし月越すくしきてには
かにかくおほえぬ御こといてきてそむきにしよにた
ちかへりてはへるかひある御事をみたてまつり」83ウ
よろこふものからかたつかたにはおほつかなくかな
しきことのうちそひてたえぬをついにかくあひみ
すへたてなからこのよ越わかれぬるなむくち越し
くおほえはへるよにへし時たに人にぬ心はへにより
世越もてひかむるやうなりし越わかきとちたのみな
らひてをの／＼は又なくちきり越きてけれはかたみに
いとふかくこそたのみはへしかいかなれはかくみゝにち
かきほとなからかくし（し＄）てわかれぬらむといひつゝけて
いとあはれにうちひそみ給御かたもいみしくな」84オ
きて人にすくれむゆくさきのこともおほえすやか
すならぬ身にはなにこともけさやかにかひあるへ
きにもあらぬものからあはれなるありさまに
おほつかなくてやみなむのみこそくちおし
けれよろつのことさるへき人の御ためとこそお
ほえはへれさてたえこもり給なは世中もさた
めなきにやかてきえ給なはかひなくなむとてよも
すからあはれなることゝもをいひつゝあかし給き
のふもおとゝのきみのあなたにありと見越き給て」84ウ
しをにはかにはひかくれたらむもかろ／＼しきや
うなるへし身ひとつはなにはかりもおもひはゝかり
はへらすかくそひ給御ためなとのいとおしきになむ
心にまかせてみをもゝてなしにくかるへきとてあか
月にかへりわたり給ひぬわか宮はいかゝおはします
いかてか見たてまつるへきとてもなきぬいまみたて
まつり給てむ女御の君もいとあはれになむおほし
いてに（に＄）もしよの中思ふやうならはゆゝしきかねこ
とあま君そのほとまてなからへ給はなむとのたまふ」85オ
めりきいかにおほすことにかあらむとの給へは又うち
ゑみていてやされはこそさま／＼ためしなきすく
せにこそはへれとてよろこふこのふはこはもたせ
てまうのほり給ひぬ宮よりとくまいり給へきよし
のみあれはかくおほしたることはりなりめつらし
きことさへそひていかに心もとなくおほさるらん
とむらさきのうへもの給てわか宮しのひてまい
らせたてまつらん御つかひし給宮す所はおほむ
いとまの心やすからぬにこり給てかゝるついてにし」85ウ
はしあらまほしくおほしたりほとなき御身にさ
るおそろしきことをし給へれはすこしおもやせ
ほそりていみしくなまめかしき御さまし給へり
かくためらひかたくおはするほとつくろひ給てこそは
なと御かたなとは心くるしきこえ給をおとゝはかやう
におもやせてみえたてまつり給はむも中／＼あはれ
なるへきわさなりなとの給たいのうへなとのわたり
給ひぬるゆふつかたしめやかなるに御かたおまへに
まいり給てこのふはこきこえしらせ給おもふさまに」86オ
かないはてさせ給まてはとりかくして越きてはへ
るへけれと世中さためかたけれはうしろめたさ
になむなにことをも御心とおほしかすまへさら
むこなた（た＋と）もかくもはかなくなりはへりなはかなら
すしもいまはのとちめ越御らむせらるへきみにも
侍らねは猶うつしこゝろうせすはへるよになむ
はかなきことをもきこえさせをくへくはへりけると
思ひ侍てむつかしくあやしきあとなれとこれも
御らむせよこのくわんふみはちかきみつしなと」86ウ
に越かせ給てかならすさるへからむおりに御らむ
してこのうちのことゝもはせさり（り＄せ）給へうとき人に
はなもら（ら＋さ）せ給そかはかりとみたてまつりをき
つれはみつからも世をそむきはへなむとおもふ
たまへなりゆけはよろつ心のとかにもおほえはへ
らすたいのうへの御心をろかに思ひきこえさせ給な
いとありかたくものし給ふかき御けしきを見はへ
れは身にはこよなくまさりてなかき御よにもあら
なむとそおもひはへるもとより御身にそひきこ」87オ
江させむにつけてもつゝましき身のほとにはへれは
ゆつりきこえそめはへりにしをいとかうしもゝ
のし給はしとなむとしころは猶よのつねに
おもふ給へわたり侍つるいまはきしかた行さきう
しろやすくおもひなりにて侍りなといとおほく
きこえ給なみたくみてきゝおはすかくむつまし
かるへきおまへにもつねにうちとけぬさまし
給てわりなくものつゝま（ま＄み）したるさまなりこのふ
みのことはいとうたてこはくにくけなるさまをみち」87ウ
のくにかみにてとしへにけれはきはみあつこえ
たる五六枚さすかにかうにいとふかくしみたるにか
き給へりいとあはれとおほして御ひたひかみのやう／＼
ぬれゆく御そはめあてになまめかし院はひめ宮
の御かたにおはしけるをなかのみさうしよりふ
とわたり給へれは江しもひきかくさて御木丁を
すこしひきよせてみつからはゝたかくれ給へりわか
宮はおとろき給へりや時のまもこひしきわさなり
けりときこえ給へは宮す所はいらへもきこえ給はねは」88オ
御かたゝいにわたしきこ江給つときこえ給（給＋つ）いとあや
しやあなたにこの宮越らうしたてまつりて
ふところをさらにはなたすもてあつかひつゝ
人やりならすきぬもみなぬらしてぬきかへか
ちなめるかろ／＼しくなとかくわたしたてまつり
給（給＋こなたにわたりてこそ見たてまつりたま）はめとの給へはいとうたておもひくまなき御事か
な女におはしまさむにたにあなたにて見たてま
つり給はむこそよくはへらめましておとこはかき
りなしときこ江さすれと心やすくおほえ給をた」88ウ
はふれにてもかやうにへたてかましきことなさ
かしら（ら＄）かりきこ江させ給そときこえ給うちわ
らひて御なかともにまかせて見はなちきこゆへ
きなゝりなへたてゝいまはたれも／＼さしはなちさ
かしら（△＆ら）なとの給こそおさなけれまつはかやうに
はひかくれてつれなくいひおとし給めりし（し＄かし）とて
御木丁をひきやり給へれはもやの△しらによりかゝ
りていときよけに心はつかしけなるさまして
ものし給ありつるはこもまとひかくさむもさまあ
しけれはさておはするをなそのはこふかき心」89オ
あらむけさう人のなかうたよみてふんしこめ
たる心ちこそすれとの給へはあなうたてやいま
めかしくなりかへらせ給める御心ならひにきゝし
らぬやうなる御すさひことゝもこそとき／＼いて
くれとてほゝゑみ給へれとものあはれなりける御
けしきともしるけれはあやしとうちかたふき給
へるさまなれはわつらはしくてかのあかしのいはや
よりしのひてはへし御いのりの巻数又またしき
くわんなとのはへりける越御心にもしらせたてまつ
るへきおりあらは御覧しをくへくやとてはへ」89ウ
るをたゝいまはついてなくてなにかはあけさせ
給はむときこえ給にけにあはれなるへきありさ
まそかしとおほしていかにをこなひましてすみ
給にたらむいのちなかくてこゝらのとしころつとむ
るつみもこよなからむかしよのなかによしあり
さかしきかた／＼の人とてみるにもこのよにそみた
るほとのにこりふかきにやあらむかしこきかたこ
そあれいとかきりありつゝをよはさりけりや
さもいたりふかくさすかにけしきありし人の」90オ
ありさまかなひしりたちこのよはなれかほ
にもあらぬものからしたの心はみなあらぬよに
かよひすみにたるとこそ見えしかましていまは
心くるしきほたしもなくおもひはなれにたら
むをやかやすき身ならはしのひていとあはま
ほしくこそとの給いまはかの侍し所をもす（す＄）
すてゝとりのねきこえぬ山にとなむきゝはへる
ときこゆれはさらはそのゆいこんなくも（くも＄なり）なせうそ
こはかよはし給やあまきみいかに思給らんお」90ウ
やこの中よりもまたさるさまのちきりはことに
こそゝふへけれとてうちなみたくみ給へりとしの
つもりによの中のありさまをとかくおもひしりゆ
くまゝにあやしくこひしく思いてらるゝ人の
みありさまなれはふかきちきりのなからひは
いかにあはれならむなとの給ついてにこのゆめ
かたりもおほしあはすることもやと思ひ（ひ＋て）いとあや
しきほむしとかいふやうなるあとにはへめれ
と御らんしとゝむへきふしもやましりはへると」91オ
てなむいまはとてわかれはへり（り＋に）しかとな越こそ
あはれはのこりはへるものなりけれとてさまよ
くうちなけ（け＄）き給て（て＄より給て）いとかしこく猶ほれ／＼しからす
こそあるへけれてなともすへてなにこともわ
さというそくにしつへかりける人のたゝこのよふ
るかたの心越きてこそすくなかりけれかの千そのお
とゝをいとかしこくありかたき心さし越つくしておほ
やけにつかうまつり給ひに（に＄）けるほとにものゝたかひ
めありてそのむくひにかくすゑはなきなりなと人」91ウ
いふめりしを女子のかたにつけたれとかくていと
つきなしといふへきにも（も＄は）あらぬもそこらのをこなひ
のしるしにこそはあらめなとなみたをしのこ
ひ給つゝこのゆめのわたりにめとゝめ給あやし
くひか／＼しくすゝろにたかき心さしありと人も
とかめ又われも（も＄）なからもさるましきふるまひ越
かりにてもするかなとおもひしことはこのきみのむ
まれ給しときにちきりふかくおもひしりにしかと
めのまへにみえぬあなたのことはおほつかなくこそ」92オ
おもひわたりつれさらはかゝるたのみありてあなか
ちにはのそみしなりけりよこさまにいみしき
めをみたゝよひしもこの人ひとりのためにこそ
ありけれいかなるくわんをか心に越こしけむとゆか
しけれは心のうちにをかみてとり給つこれはまた
くしてたてまつるへきものはへりいま又きこえしら
せむ（む＃）はへらむと女御にはきこえ給そのついてにいまは
かくいにしへのことをもたとりしり給ぬれとあなたの
御心はへ越ゝろかにおほしなすなもとよりさるへきな」92ウ
かえさらぬむつひよりもよこさまの人のなけの
あはれをもかけ（け＋ひと）ことの心よせあるはおほろけのことに
もあらすましてこゝになとさふらひなれ給越みる／＼
もはしめの心さしかはらすふかく（く＋ねむ）ころにおもひきこ
えたるをいにしへのよのたとへにもさこそはうはへには
はくゝみけれれ（れ＄）とらう／＼しきたとりあらむもかし
こきやうなれと猶あやまりてもわかためしたの心
ゆかみたらむ人をさもおもひよらすうらなからむ
ためはひきかへしあはれにいかてかゝるにはとつみ
江かましきにも思なをることもあるへしおほろ」93オ
けのむかしのよのあたならぬ人はたかふゝし／＼あ
れとひとり／＼つみなきときにはをのつからも
てなすためしともあるへかめりさしもあるまし
きことにかと／＼しき（き＄く）ゝせをつけあい行なく人を
もてはなるゝ心あるはいとうちとけかたくおもひ
くまなきわさになむあるへきおほくはあらねと人
の心のとあるさまかゝるおもむきを見るにゆへよし
といひさま／＼にくち越しからぬきはの心はせあるへかめ
りみなをの／＼えたるかたありてとるところなくも」93ウ
あらねと又とりたてゝわかうしろみにおもひまめ／＼
しくえらひおもむにはありかたきわさになむたゝ
まことに心のくせなくよきことはこのたい越のみ
なむこれをそおひらかなる人といふへかりけると
なむ思はへるよしとて又あまりひたくけてたのも
しけなきもいとくちおしやとはかりの給にかたへの
人はおもひやられぬかしそこにこそすこしものゝ
心えてものし給めるをいとよしむつひかはしてこの
御うしろみをもおなし心にてものし給へなと」94オ
しのひかにの給のたまはせねといとありかたき御
けしきを見たてまつるまゝにあけくれのことく
さにきこえはへるめさましきものになとおほし
ゆるさゝらむにかうまて御覧しゝるへきにもあら
ぬ越かたはらいたきまてかすまへの給はすれは
かへりてはまはゆくさへなむかすならぬ身のさすか
にきえぬはよのきゝみゝもいとくるしくつゝましく
おもふたまへらるゝ越つみなきさまにもてかくされ
たてまつりつゝのみこそときこえ給へはその御た」94ウ
めにはなに（に＋の）心さしかはあらむたゝこの御ありさま
越うちそひても江見たてまつらぬおほつかなさ
にゆつりきこえらるゝなめりそれもまたとりも
ちてけちえになとあらぬ御もてなしともによ
ろつのことなのめにめやすくなれはいとなむおも
ひなくうれしきはかなきことにてものこゝろえす
ひか／＼しき人はたちましらふにつけて人のた
めさへからきことありかしさな越しところなくたれ
もゝのし給めれは心やすくなむとの給につけても」95オ
さりやよくこそひけしにけれなとおもひつゝけ
給たいへわたり給ひぬさもいとやむことなき御心
さしのみまさるめるかなけにはた人よりことに
かくしもくし給へるありさまのことわりとみえ給へ
るこそめてたけれ宮の御かたうわへの御かしつきの
みめてたくてわたり給こともえなのめならさめるは
かたしけなきわさなめりかしおなしすちにはお
はすれといまひときはゝ心くるしくとしりふこちき
こえ給につけてもわかすくせはいとたけくそおほえ」95ウ
給けるやむことなきたにおほすさまにもあらさめるよ
にましてたちましるへきおほえにしあらねはすへて
いまはうらめしきふしもなしたゝかのた江こもり
にたる山すみを思ひやるのみそあはれにおほつかな
きあまきみもたゝふくちのそのにたねまきてとや
うなりしひとことをうちたのみてのちの世越思ひ
やりつゝなかめゐ給へり大将のきみはこのひめ宮の
御こと越おもひをよはぬにしもあらさりしかはめに
ちかくおはします越いとたゝにもおほえすおほかた」96オ
の御かしつきにつけてこなたにはさりぬへきおり／＼
にまいりなれをのつから御けはひありさまも見
きゝ給にいとわかく越ほとき給へるひとすちにて
うへのきぬ（ぬ＄）しきはいかめしくよのためしにし
つはかりもてかしつきたてまつり給へ（△＆へ）れとおさ／＼け
さやかにものふかくは見えす女房なともおとな／＼し
きはすくなくわかやかなるかたち人のひたふるに
うちはなやきされさり（さり＃は）めるはいとおほくかすしら
ぬまてつとひさふらひつゝものおもひなけなる」96ウ
御あたりとはいひなからなにことものとやかに心しつ
めたるは心のうちのあらはにしも見えぬわさなれは身
に人しれぬおもひそひたらむも又まことに心ちゆ
きけにとゝこほりなかるへきにしうちましれはかた
への人にひかれつゝおなしけはひもてなしにな
たらかなる越たゝあけくれはいはけたるあそひ
たはふれに心い（い＆い）れたるわらはへのありさまなと院はい
とめにつかぬ（ぬ＄す）見給ことゝもあれとひとつさまによの中
をおほしの給はぬ御本上なれはかゝるかたをもまか」97オ
せてさこそはあらまほしからめと御らむしゆるし
つゝいましめとゝのへさせ給はすさうしみの御ありさま
はかり越はいとよく越しへきこえ給にすこしもて
つけ給へりかやうのことを大将のきみもけにこそ
ありかたき世なりけれむらさきの御よういけしき
のこゝらのとしへぬれとともかくもゝりいて見えきこえ
たる所なくしつやかなるをもとゝしてさすかに心う
つくしう人をもけたす身越もやむことなく心にくゝ
もてなしそへ給つることゝみしおもかけもわすれか」97ウ
たくのみなむ思ひいてられけるわか御きたのかたも
あはれとおほすかたこそふかけれいふかひありす
くれたるらう／＼しさなとものし給はぬ人なり
おたしきものにいまはとめなるゝに心ゆるひて
猶かくさま／＼につとひ給へるありさまとものとり／＼
に越かしき越心ひとつにおもひはなれかたきをま
してこの宮は人の御ほとをおもふにもかきりなく心
ことなる御ほとにとりわきたる御けしきしもあらす
人めのかさりはかりにこそと見たてまつりしりわさ」98オ
とおほけなき心にしもあらねとみたてまつるおり
ありなむやとゆかしくおもひきこえ給けりゑもん
のかむのきみも院（院＋に）つねにまいりしたしくさふらひ
なれ給し人なれはこの宮をちゝみかとのかしつき
あかめたてまつり給し御心をきてなとくはしく
みたてまつりをきてさま／＼の御さためありしころほ
ひよりきこえより院にもめさましとはおほしの給は
せすときゝしをかくことさまになり給へるはいとく
ち越しくむねいたき心ちすれは猶えおもひはな」98ウ
れすそのおりよりかたらひつきにけるねうはう
のたよりに御ありさまなともきゝつたふる越なくさ
めにおもふそはかなかりけるたいのうへの御けはひ（ひ＋に）は猶
をされ給てなむとよひともまねひつたふる越
きゝてはかたしけなくともさるものはおもはせたて
まつらさらましけにたくひなき御身にこそあたら
さらめとつねにこのこしゝうといふ御ちぬしをもいひ
はけまして世中さためなき越も（も＄おとゝ）のきみもとより
ほいありておほしをきてたるかたにおもむき給はゝ」99オ
とたゆみなくおもひありきけりやよひはかりのそら
うらゝかなるひ六条の院に兵部卿宮衛もむのかみ
なとまいり給へりおとゝいて給て御ものかたりなとし
給しつかなるすまゐはこのころこそいとつれ／＼に△
まきるゝことなかりけれおほやけわたくしにことな
しやなにわさしてかはくらすへきなとの給てけさ
大将のものしつるはいつかたにそいとさう／＼しき越
れいのふ（ふ＄こ）ゆき（き＄み）いさせてみるへかりける（る＝り）このむめるわかうと
ともゝみえつる越ねたういてやしぬるとゝはせ給大将」99ウ
のきみはうしとらのま（ま＋ち）に人／＼あまたしてま△り
もてあそはしてみ給ときこしめしてみたりかはし
きことのさすかにめさめてかと／＼しきそかしいつら
こなたにとて御せうそこあれはまいり給へりわかき
むたちめく（△＆く）人／＼おほかりけりまりもたせ給へり
やたれ／＼かものしつるとの給これかれはへりつこなた
へまかてむやとの給て心殿のひむかしおもてきりつ
ほはわか宮くしたてまつりてまいり給ひにしころな
れはこなたかくろへたりけりやり水なとのゆきあ」100オ
ひはれてよしあるかゝりのほと越たつねてたちいつ
おほきおほいとのゝの君たち頭弁兵衛佐大夫の君
なとすくしたるも又かたなりなるもさま／＼に人より
まさりてのみものし給やう／＼くれかゝるに風ふか
すかしこき日なりとけうして弁のきみもえし
つめすたちましれはおとゝ弁官も江おさめあへさ
めるをかむたちめなりともわかきゑふつかさたち
はなとかみたれ給はさらむかはかりのよはひにては
あやしく見すくすくち越しくおほえしわ（△＆わ）さ」100ウ
なりさるはいと経／＼なりやこのことのさまよなとの
給に大将もかむの君もみなおり給て江ならぬ花
のかけにさまよひ給て（て＃）ゆふはえいときよけなりお
さ／＼さまよくしつかならぬみたれことなめれと
心から人からなりけりゆへあるにはのこたちのいたくか
すみこめたるにいろ／＼ひもときわたるはなのきとも
わつかなるもえきのかけに（△＆に）かくはかなきことなれと
よきあしきけちめあるをいとみつゝ我もおとら
しと思ひかほなる中にゑもむのかみのかりそめにたち」101オ
ましり給へるあしもとにならふ人なかりけりかたちいと
きよけになまめきたるさましたる人のよういゝた
くしてさすかにみたりかはしきおかしくみゆみ
はしの（の＋まにあたれるさくらのかけによりて人／＼花の）うへもわすれて心にいれたるをおとゝも宮も
すみのかうらにいてゝ御覧すいとらうある心はへともみ
えてかすおほくなりゆくに上らうもみたれてかう
ふりのひたひすこしくつろきたり大将のきみも
御くらゐのほと思ふこそれいならぬみたりかはしさか
なとおほゆれみるめは人よりけにわかくおかしけにて」101ウ
さくらのなおしのやゝなえたるにさしぬきのすそ
つかたすこしふくみてけしきはかりひきあけ
給へりかる／＼しうもみえすものきよけなるうち
とけすかたはな（はな＃に花）のゆきのゆきの（ゆきの＄）やうにふりかゝれは
うちみあけてしほ△れ（△れ＃れたる）えたすこしをしおりて
みはしのなかのしなのほとにゐ給ひ（ひ＋ぬ）かむのきみつゝ
きてはな（な＋み）たりかはしくちるめりやさくらはよきてこ
そなとの給つゝ宮の御前のかたをしりめに見れは
れいのことにおさまらぬけはひともしていろ／＼こほれ
いてたるみすのつますきかけなとはるのたむけのぬ」102オ
さふくろにやとおほゆみ木丁ともしとけなくひ
きやりつゝ人けちかくよつきてそみゆるにからね
このいとちゐさく越かしけなるをすこしおほき
なるねこをひき（き＃）つゝきてにはかにみすのつまより
はしりいつるに人／＼をひえさはきてそよ／＼と
みしろきさまよふけはひともきぬのをとなひ
みゝかしかましき心ちすねこはまたよく人にも
なつかぬにやつないとなかくつきたりける越ものに
ひきかけまつはれにける越にけむとひこしろふほと」102ウ
にみすのそはいとあらはにひきあけられたるをとみに
ひきなをす人もなしこのはしらのもとにありつる
人／＼も心あはたゝしけにてものおちしたるけ
はひともなり木丁のきはすこしいりたるほとに
うちきすかたにてたち給へる人ありはしよりにし
の二のまのひんかしのそはなれはまきれところも
なくあらはに見いれらるこうはいにやあらむこき
うすきに（に＃）すき／＼にあまたかさなりたるけちめはな
やかにさうしのつまのやうにみえてさくらのをりも」103オ
のゝほそなかなるへし御くしのすそまてけさ
やかにみゆるはいとをよりかけたるやうになひきて
すそのふさやかにそ（そ＋か）れたるいとうつくしけにて
七八すはかりそあまり給へる御そのすそかちに
いとほそくさく（さく＄さゝ）やかにてすかたつきかみのかゝり給へる
そはめいひしらすあて（て＋に）らうたけなりゆふかけなれは
さやかならすおくゝらき心ちするもいとあかすくち越
しまりに身をなくるわかきむたちのはなのちるを
おしみもあ（あ＄あ）へぬけしきとも越みるとて人／＼あら」103ウ
は越ふともえ見つけぬなるへしねこのいたくなけ
はみかへり給へるおもゝちもてなしなといとおひらかに
てわかくうつくしの人やとふとみえたり大将いとか
たわらいたけれとはひよらんもなか／＼いとかる／＼し
けれはたゝ心を江させてうちしはふき給へるにそ
やをらひきいり給さるはわか心ちにもいとあかぬ心ち
し給へとねこのつなゆるしつれは心に（に＄に）もあらすうち
な（な＋け）かるましてさはかり心をしめたるゑもんのかみはむ
ねふとふたかりてたれはかりにかはあらむこゝらの中
にしるきうちきすかたよりも人にまきるへくもあ」104オ
らさりつる御けはひなと心にかゝりておほゆさら
ぬかほにもてなしたれとまさにめとゝめしやと
大将はいとおしくおほさるわりなき心ちのなくさ
めにねこをまねきよせてかきいたきたれはいとかう
はしくてらうたけにうちなくもなつかしくおもひ
よそへらるゝそすき／＼しきやおとゝ御らむしをこせ
てかむたちめのさいとかろ／＼しやこなたにこそとて
たいのみなみおもてにいり給へれはみなそなたにまいり
給ひぬ宮もゐなおり給て御ものかたりし給つき／＼の
殿上人はすのこにわらうためしてわさとなくつはいも」104ウ
ちゐなしかうしやうのものともさま／＼にはこのふた
ともにとりませつゝある越わかき人／＼そほれとり
くふさるへきからものはかりして御かはらけまいるゑも
むのかみはいといたくおもひしめりてやゝもすれはは
なの木にめをつけてなかめやる大将は心しりにあや
しかりつるみすのすきかけ思ひいつることもやあらむ
と思給いとはしちかなりつるありさま越かつはかろ／＼
しとおもふらむかしいてやこなたの御ありさまの
さはあるましかめるものをとおもふにかゝれはこそ
よのおほえのほとよりはうち／＼の御心さしぬるきや」105オ
うにはありけれと思ひあはせて猶うちとのよう
いおほからすいはけなきはらうたきやうなれとう
しろめたきやうなりやとおもひおとさるさい将
のきみはよろつのつみをもおさ／＼たとられすお
ほえぬものゝひまよりほのかにもそれとみたてま
つりつるにもわかむかしよりの心さしのしるしあ
るへきにやとちきりうれしき心ちしてあかすのみお
ほゆ院はむかし△△（△△＃）ものかたりしいて給ておほき
おとゝのよろつのことにたちならひてかちまけのさた
めし給し中にまりなむ江越よはすなりにしはかな」105ウ
きことはつたへ（△＆へ）あるましけれとものゝすちは猶こよ
なかりけりいとめも越よはすかしこうこそみえつれと
の給へはうちほゝゑみてはか／＼しきかたにはぬるくは
へるいへの風のさしもふきつたへはへらむにのちのよの
ためことなることなくこそはへりぬへけれと申給へはいか
てかなにことも人にことなるけちめ越はしるしつたふ
へきなりいゑのつたへなとにかきとゝめいれたらむこそ
けうはあらめなとたはふれ給御さまのにほひやかにき
よらなる越みたてまつるにもかゝる人にならひていかはかり
の事にか心をうつす人はものし給はむなにことにつけ」106オ
てかあはれとみゆるし給はかりはなひかしきこゆへきとお
もひめくらすにいとゝこよなく御あたりはるかなるへき
みのほともおもひしらるれはむねのみふたかりてまかり
て給ぬ大将のきみひとつくるまにてみちのほともの
かたりし給な越このころのつれ／＼にはこの院にまいりて
まきらはすへきなりけりけふのやうならむいとまのひ
まゝちつけてはなのおりすくさすまいれとの給つるを
はる越しみかてら月のうちにこゆみもたせてまいり
給へとかたらひちきるをの／＼わかるゝみちのほとものかた
りしたまうて宮の御事のな越いはましけれは院」106ウ
にはなをこのたいにのみものせさせ給なめりなかのおほ
むおほえのことなるなめりかしこの宮いかにおほすらん
みかとのならひなくならはしたてまつり給へるにさし
もあらてくし給ひにたらむこそ心くるしけれとあ
いなくいつはたい／＼しきこといかてかさはあらむこ
なたはさまかはりておほしたてたまへるむつひ
のけちめはかりにこそあへかめれ宮をはかた／＼に
つけていとやむことなく思ひきこえ給へるものを
とかたり給へはいてあなかま給へみなきゝてはへりいと／＼」107オ
越しけなるおり／＼あなるをやさるはよに越し
なへたらぬ人の御おほえ越ありかたきわさな
りやといとほしかる
いかなれははなにこつたふうくひすのさく
ら越わきてねくらとはせぬ春のとりのさくらひ
とつにとまらぬ心よあやしとおほゆることそか
しとくちすさひにいへはいてあなあちきなの
ものあつかひやされはよとおもふ
みやまきにねくらさたむるはことりもいかて
かはなのいろにあくへきわりなきことひたおもむ」107ウ
きにのみやは（は＋と）いらへてわつらはしけれはことにいはせ
すなりぬこと／＼にいひまきらはしてをの／＼わかれ
ぬかむのきみは猶おほいとのゝひんかしのたいにひとり
（＋す）みにてそものし給けるおもふ心ありてとしころかゝ
るすまひをするに人やりならぬ（ぬ＄す）さう／＼しく心ほ
そきおり／＼あは（は＃）れとわか身かはかりにてなとかお
もふことかなはさらむとのみ心おこりをするにこの
ゆふへよりくしいたくものおもはしくていかならむおり
にまたさはかりにてもほのかなる御ありさまをたに
みむともかくもかきまきれたるきはの人こそか」108オ
りそめにもたはやすきものいみかたゝかへのうつろ
ひもかる／＼しき（き＋に）をのつからとかくものゝひまをう
かゝひつくるやうもあれなと思やるかたなくふか
きまとのうちになにはかりのことにつけてかゝくふか
き心ありけりとたにしら（△＆ら）せたてまつるへきとむね
いたくいふせけれはこしゝうかりれいのふみやり
給一日風にさそはれてみかきのはら（△＆ら）越わけいりては
へしにいとゝいかにみおとし給けむそのゆふへよりみ
たり（△＆り）心ちかきくらしあやなくけふはなかめくらし
はへるなとかきて」108ウ
よそにみておらぬなけきはしけれともなこり
こひしきはなのゆふかけとあれと（と＋侍従は一日）のこゝろもし
らぬはたゝよのつねのなかめにこそはとおもふ越まへに
人しけからぬほとなれはかのふみ越もてまいりて
この人のかくのみわすれぬものにことゝひものし給
こそわつらはしくはへれ心くるしけなるありさ
まもみたまへあまる心もやそひはへらんと身つから
の心なからしりかたくなむとうちわらひてきこゆれは
いとうたてあることをもいふかなとなに心もなけれ（れ＃）
にの給てふみひろけたるを御らむす見もせぬと」109オ
【付箋06】－＼<朱合点>「見すもあらすみもせぬ人の恋し／くは／あやなくけふやなかめくらさむ」（古今476・業平集22・伊勢物語174・大和物語276、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄）
いひたるところをあさましかりしみすのつま
越おほしあはせらるゝに御おもてあかみておとゝ
のさはかり（り＋こと）のついてことに大将に見え給ないは
けなき御ありさまなんめれはをのつからとりはつ
して見たてまつるやうもありなむといましめ
きこえ給をおほしいつるに大将のさることの
ありしとかたりきこえたらむときいかにあはめ給は
むと人の見たてまつりけむことをはおほさてまつ
はゝかりきこ江給心のうちそおさなかりけるつねよ
りもおほむさしらへなけれはすさましくしゐて」109ウ
きこゆへきことにもあらねはひきしのひてれ
いのかく一日はつれなしかほをなむめさましく
とゆるしきこえさりし越みすもあらぬやいかに
あなかけ／＼しとはやりかにはしりかきて
いまさらにいろにないてそ山さくらをよは
ぬ江たにこゝろかけきとかひなきこと越とあり」110オ
（白紙）」110ウ
【奥入01】ちとせをかねてあそふつるのけ衣
席田第二反度也（戻）
【奥入02】耶輸陀蘿かふくちのそのに
たねまきてあはむかならす
有為のみやこに
雖有此説此哥之證拠不知誰説
頗凡俗事歟（戻）」111オ