若菜下(明融臨模本) First updated 12/29/2001(ver.1-1)
Last updated 2/26/2007(ver.2-1)
渋谷栄一翻字(C)

  

若菜下

《概要》
 明融臨模本は、藤原定家筆の青表紙本の臨模本とはいうものの、現状では、後人の筆によるさまざまな本文校訂跡や本文書き入れ注記、句点、声点、濁点等をもつ。そうした現状の様態をそのままに、以下の諸点について分析していく。
1 明融臨模本と青表紙本との関係 鎌倉期書写青表紙本(池田本・伏見天皇本等)を補助的資料として
2 明融臨模本本文と大島本本文との関係 青表紙本復元と大島本親本復元を比較して
3 明融臨模本の本文校訂に対校された本文系統
4 明融臨模本の句点の関係
5 明融臨模本の後人書き入れ注記
  大島本の書き入れ注記との関係
  その他の書き入れ注記との関係

《書誌》
 「若菜下」の筆跡は、定家風筆本を臨模したものと見える。

《翻刻資料》
凡例
1 本稿は、『源氏物語(明融本)・』(東海大学蔵桃園文庫影印叢書 1990(平成2)年7月 東海大学出版会)を現状のまま翻刻した。よって、後人の筆が加わった本文様態である。後人の筆を除いた青表紙本復元本文は別途に作成した。
2 行間注記は【 】- としてその頭に番号を記した。また付箋注記は、付箋番号を記した。
3 小字及び割注等は< >で記した。/は改行を表す。また漢文の訓点等は< >で記した。
4 合(掛)点は、\<朱(墨)合点>と記した。朱句点は「・」で記した。
5 本文の校訂記号は次の通りである。
 $(ミセケチ)・#(抹消)・+(補入)・&(ナゾリ)・=(併記)・△(不明文字)
 ( )の前の文字及び( )内の記号の前の文字は、訂正以前の文字、記号の後の文字が訂正以後の文字である。ただし、なぞり訂正だけは( )の前の文字は訂正後の文字である。訂正以前の本行本文の文字を尊重したことと、なぞり訂正だけは元の文字が判読しにくかったための処置である。
6 朱・墨等の筆跡の相違や右側・左側・頭注等の注の位置は< >と( )で記した。私に付けた注記は(* )と記した。
7 各丁の終わりには」の印と丁数とその表(オ)裏(ウ)を記した。
8 「若菜下」では、ヤ行「江」とワ行「越」を翻字した。なお該本には、朱点で濁点符号が付いているが、省略した。また、朱・墨の区別については、影印本(モノクロ写真)に拠ったために、必ずしも正確ではない。原典を直接に調査する機会ができたら正確を期したい。利用者は注意されたい。

「わかな下 三十五」(題箋)

「上冷泉殿為和卿御息明融 琴山(印)」(遊紙表貼紙)

  ことはりとはおもへともうれたくもいへるかないてや
  なそかくことなることなきあへしらひはかりをなく
  さめにてはいかゝすくさむかゝる人つてならてひと
  ことをものたまひきこゆる世ありなんやと思ふにつ
  けておほかたにてはおしくめてたしとおもひき
  こゆる院の御ためなまゆかむ心やそひにたらむ
0001【なまゆかむ心】-此御ハカリ院ノ御為アシケレトナヲサレヌノ心也
  つこもりの日は人/\あまたまいり給へりなま物う
  くすゝろはしけれとそのあたりの花の色をも
  見てやなくさむと思ひてまいり給殿上のゝりゆみきさ/らきにとありしをすきて」1オ
  三月はた御き月なれはくち越しくと人/\
0002【御き月】-藤壺后
  おもふにこの院にかゝるまとゐあるへしと
  きゝつたへてれいのつとひ給左右大将さる御
0003【左右大将】-ヒケクロ 夕霧也
  なからひにてまいり給へはすけたちなといと
0004【すけたち】-中将少将ノコト
  みかはしてこゆみとの給しかとかちゆみの
0005【かちゆみ】-歩射(大島本0011)
  すくれたる上すともありけれはめしいてゝ
  いさせ給殿上人ともゝつき/\しきかきりは
  みなまへしりへの心こまとりにかたわきてくれ
  ゆくまゝにけふにとちむるかすみのけしきもあ
0006【けふにとちむる】-\<朱合点>
  わたゝしくみたるゝゆふ風にはなのかけい
0007【はなのかけ】-\<朱合点>「けふのみと春をおもはぬ時た/にも/立ことやすき花のかけかは」(付箋01 古今134・和漢朗詠56・亭子院哥合40・躬恒集382、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄 大島本0014)
  と(と+ゝ)たつことやすからて人/\いたくゑひすき」1ウ
  給てえむなるかけものともこなたかなた人/\
  の御心見えぬへきをやなきのはをもゝたひ
0008【やなきのはを】-\<朱合点>
  あてつへき
ねりとものうけはりていとなむし
  むなりやすこしこゝしきてつきともをこそ
0009【こゝしき】-巨
  いとませめとて大将たちよりはしめており
  給に衛もんのかみひとよりけになかめをし
  つゝものし給へはかのかたはし心しれる御めには
0010【かのかたはし】-夕霧
  見つけつゝなをいとけしきことなりわつらは
  しき事いてくへきよにやあらんとわれさへ
  おもひつきぬる心ちすこの君たち御中いとよし」2オ
  さるなからひといふ中にも心かはしてねんころ
  なれははかなきことにてもゝのおもはしくう
  ちまきるゝことあらんをいとおしくおほえ給
  身つからもおとゝ越見たてまつるにけおそ
0011【身つからも】-柏木心
  ろしくまはゆくかゝる心はあるへきものかな
  のめならんにてたにけしからす人にてむつかる
0012【てむつかる】-ホメソシラルヽコト
  へきふるまひはせしとおもふもの越まして
  おほけなきことゝおもひわひてはかのありし
  ねこをたにえてしかなおもふことかたらふへくは
  あらねとかたはらさひしきなくさめにもなつ
  けむとおもふにものくる越しくいかてかはぬすみ」2ウ
  いてむとそれさへそかたきことなりける女御の御かた
0013【女御の御かた】-弘徽殿
  にまいりてものかたりなときこえまきらはし
  心みるいとおくふかく心はつかしき御もてなし
  にてまほに見え給こともなしかゝる御なからひ
  にたにけとをくならひたる越ゆくりかにあやしく
0014【ゆくりかに】-不意
  はありしわさそかしとはさすかにうちおほゆ
  れとおほろけにしめたるわか心からあさくもお
  もひなされす春宮にまいり給てろなうかよ
0015【ろなう】-無論(大島本0025)
0016【かよひ給へる】-似給ントミ給也
  ひ給へるところあらんかしとめとゝめて見たて
  まつるににほひやかになとはあらぬ御かたちな/れと」3オ
  さはかりの御ありさまはたいとことにてあてにな
  まめかしくおはしますうちの御ねこのあま
0017【うちの御ねこ】-禁中ノコト
  たひきつれたりけるはらからとものところ
  ところにあかれてこの宮にもまいれるかいとお
  かしけにてありく越みるにまつおもひいてら
  るれは六条の院のひめ宮の御かたにはへるねこそ
0018【六条の院の】-柏
  いと見えぬやうなるかほしておかしうはへしか
  はつかになむみ給へしとけいし給へはわさとらう
0019【らうたくせさせ給御心】-猫ヲ思給フ也
  たくせさせ給御心にてくはしくとはせ給
  からねこのこゝのにたかへるさましてなむはへ
0020【からねこ】-柏
  りしおなしやうなるものなれと心おかしくひと」3ウ
  なれたるはあやしくなつかしきものになむ
  はへるなとゆかしくおほさるはかりきこえな
  し給きこしめしをきてきりつほの御か
  たよりつたへてきこえさせ給けれはまいらせ
  給へりけにいとうつくしけなるねこなりけりと
  人/\けうする越衛もんのかみはたつねんとお
  ほしたりきと御けしきを見越きてひころへて
  まいり給へりわらはなりしより朱雀院のとりわき
  ておほしつかはせ給しかは御山すみに越くれ
  きこえては又この宮にもしたしうまいり
0021【この宮】-春宮
  心よせきこえたり御ことなと越しへきこえ給」4オ
  とて御ねこともあまたつとひはへりにけりいつら
0022【いつらこのみし人は】-柏ノ猫ヲシル人ニソシラス詞
  このみし人はとたつねて見つけたまへりいとら
  うたくおほえてかきなてゝゐたり宮もけに
  おかしきさましたりけり心なむまたなつき
  かたきは見なれぬ人をしるにやあ覧こゝな
  るねこともことにおとらすかしとの給へはこれは
0023【これは】-柏
  さるわきまへ心もおさ/\はへらぬものなれと
  その中にも心かしこきは越のつからたま
  しひはへらむかしなときこえてまさるとも
0024【まさるとも】-マタヨキモアレトモト也
  さふらふめるをこれはしはし給はりあつからん
  と申給心のうちにあなかちにおこかましくかつは
  おほゆるにこれをたつねとりてよるもあたりち」4ウ
  かくふせ給あけたてはねこのかしつき越して
  なてやしなひ給ひとけとをかりし心もいとよく
  なれてともすれはきぬのすそにまつはれよ
  りふしむつるゝをまめやかにうつくしとおもふ
  いといたくなかめてはしちかくよりふし給へるに
  きてねう/\といとらうたけになけはかきなてゝ
  うたてもすゝむ(む+ル)かなとほゝゑまる
    恋わふる人のかたみとてならせはなれよ
  なにとてなくねなる覧これもむかしのちき
0025【むかしのちきり】-\<朱合点>
  りにやとかをゝみつゝの給へはいよ/\らう
  たけになくをふところにいれてなかめゐ給へり」5オ
  こたちなとはあやしくにはかなるねこのとき
  めくかなかやうなるものみいれ給はぬ御心にとゝ
  かめけり宮よりめすにもまいらせすとりこめて
  これをかたらひ給左大将殿のきたのかたは
0026【左大将殿のきたのかた】-玉カツラコト
  大殿の君たちよりも右大将の君をはなをむ
  かしのまゝにうとからすおもひきこえ給へり
  心はへのかと/\しくけちかくおはする君にて
  たいめむし給とき/\もこまやかにへたてたる
  けしきなくもてなし給へれは大将もしけい
  さなとのうと/\しくをよひかたけなる御心さま
  のあまりなるにさまことなる御むつひにておもひ」5ウ
  かはし給へりおとこ君いまはましてかのはし
0027【おとこ君】-ヒケクロ
  めのきたのかたをもゝてはなれはてゝならひ
  なくもてかしつきゝこえ給この御はらには
  おとこきむたちのかきりなれはさう/\し
  とてかのまきはしらのひめきみをえてかし
  つかまほしくし給へとおほち宮なとさらに
  ゆるし給はすこの君をたに人わらへならぬさ
0028【この君】-槙柱ノコト式部卿ノ心
  まにてみむとおほしの給みこの御おほえいと
0029【みこの】-式部卿ノコト
  やむことなくうちにもこの宮の御心よせいと
  こよなくてこのことゝそうし給ことをはえそ
  むき給はす心くるしきものにおもひきこ」6オ
  え給へりおほかたもいまめかしくおはする宮
0030【宮】-式部卿
  にてこの院おほ殿にさしつきたてまつり
0031【この院】-源
0032【おほ殿】-太政大臣
  ては人もまいりつかうまつりよ人も越もく
  おもひきこえけり大将もさるよのおもしと
0033【大将】-ヒケクロ
  なり給へきしたかたなれはひめ君の御おほえ
0034【ひめ君】-真木柱
  なとてかはかるくはあらむきこえいつる人/\
  ことにふれておほかれとおほしもさためす衛
  門のかみをさもけしきはまはとおほすへか
  めれとねこにはおもひおとしたてまつるにや
  かけてもおもひよらぬそくち越しかりける」6ウ
  はゝ君のあやしくなをひかめる人にてよの
0035【はゝ君】-真木柱ノ心
  つねのありさまにもあらすもてけち給へるを
  くちおしきものにおほしてまゝはゝの御あた
0036【まゝはゝ】-玉カツラ
  りをは心つけてゆかしくおもひていまめき
  たる御心さまにそものし給ける兵部卿宮
  猶ひとゝころのみおはして御心につきてお
  ほしけることゝもはみなたかひて世中もす
  さましく人わらへにおほさるゝにさてのみや
  はあまえてすくすへきとおほしてこのわたり
0037【このわたり】-真木柱
  にけしきはみより給へれは大宮なにかはか」7オ
  しつかむとおもはむ女こをは宮つかへにつ
  きてはみこたちにこそは見せたてまつら
  めたゝ人のすくよかにな越/\しきをのみ
  いまのよのひとのかしこくするしなゝき
  わさなりとの給ていたくもなやましたて
  まつり給はすうけひき申給つみこあま
0038【みこ】-蛍
  りうらみところなきをさう/\しとおほせと
  おほかたのあなつりにくきあたりなれはえし
  もいひすへ(へ$く)し給はておはしましそめぬいとに
  なくかしつききこえ給大宮は女こあまた
  ものし給てさま/\ものなけかしきおり/\」7ウ
  おほかるにものこりしぬへけれと猶この君の
  事のおもひはなちかたくおほえてなむはゝ
  君はあやしきひかものにとしころにそへて
  なりまさり給大将はたわかことにしたかはす
  とてをろかにみすてられためれはいとなむ心く
  るしきとて御しつらひをもたちゐ御て
  つから御覧しいれよろつにかたしけなく御
  心にはいれ給へり宮はうせ給にけるきたのかた
0039【宮】-蛍
0040【きたのかた】-前斎院ト云人
  を世とゝもにこひきこえ給てたゝむかしの
  御ありさまにゝたてまつりたらむ人を」8オ
  見むとおほしけるにあしくはあらねとさま
0041【あしくはあらねと】-真木柱
  かはりてそものし給けるとおほすにくち
  おしくやありけむかよひ給さまいともの
  うけなり大宮いと心つきなきわさかなとおほ
  しなけきたりはゝ君もさこそひかみた
  まへれとうつしこゝろいてくるときはくち越
  しくうきよとおもひはて給大将の君も
  されはよいたくいろめき給へるみこをとはし
0042【いろめき給へる】-定ラヌ心
  めよりわか御心にゆるし給はさりし事
  なれはにやものしと思ひ給へりかむの君も
  かくたのもしけなき御さまをちかくきゝ」8ウ
0043【御さま】-蛍ノコト
  給にはさやうなるよのなか越みましかはこな
  たかなたいかにおほしみ給はましなとなま
  おかしくもあはれにもおほしいてけり
  そのかみもけちかくみきこえむとはおも
  ひよらさりきかしたゝなさけ/\しう
  心ふかきさまにの給わたりし越あえなく
  あはつけきやうにやきゝおとし給けむといと
  はつかしくとしころもおほしわたることな
  れはかゝるあたりにてきゝ給はむことも
  心つかひせらるへくなとおほすこれよりもさ
  るへきことはあつかひきこえ給せうとの君」9オ
0044【せうとの君】-真木柱ヘ兄弟シテ玉ノ申返ラルヽ也
  たちなとしてかゝる御けしきもしらすか
  ほにゝくからすきこえまつはしなとするに
  心くるしくてもてはなれたる御こゝろはなき
0045【もてはなれたる御こゝろ】-玉ノ心ワロクハ思ハヌニト也
  におほきたのかたといふさかなものそつね
  にゆるしなくゑんしきこえ給みこたちは
0046【みこたちは】-大宮ノ心宮仕ニセテヲクニト也
  のとかにふた心なくて見給はむ越たにこそ
  はなやかならぬなくさめにはおもふへけれと
  むつかり給越宮もゝりきゝ給てはいときゝ
0047【宮】-蛍
  ならはぬことかなむかしいとあはれとおもひ
0048【いとあはれと】-蛍ノマヘノ北方ノコト也
  し人をゝきてもな越はかなき心のすさひ
  はたえさりしかとかうきひしきものゑしは」9ウ
  こと(と+に)なかりしもの越心つきなくいとゝむかし
  越こひきこえ給つゝふるさとにうちなかめ
  かちにのみおはしますさいひつゝもふたとせ
  はかりになりぬれはかゝるかたにめなれてたゝ
  さるかたの御中にてすくし給はかなくて年
  月もかさなりてうちのみかと御くらゐにつか
0049【うちのみかと】-冷泉
  せ給て十八年にならせ給ぬつきの君とならせ
  給へきみこおはしまさすものゝはえなき
0050【ものゝはえなき】-冷泉院御心
  に世中はかなくおほゆる越心やすく思ふ人/\
0051【心やすく思ふ】-源ヲ敬ンコト也
  にもたいめむしわたくしさまに心をやり
  てのとかにすきまほしくなむとゝしころお」10オ
  ほしの給はせつる越ひころいと越もくな
  やませ給ことありてにはかに越りゐさせ給
  ひぬよのひとあかすさかりの御よ越かく
  のかれ給ことゝおしみなけゝと春宮もおと
0052【春宮】-今上ノ御コト
  なひさせ給にたれはうちつきて世中の
  まつりことなとことにかはるけちめもなかり
  けりおほきおとゝちしのへうたてまつりて
  こもりゐ給ぬよのなかのつねなきによりか
  しこきみかとの君もくらゐをさり給ぬ
  るにとしふかき身のかうふり越かけむな」10ウ
  にかおしからんとおほしの給て左大将右大臣
0053【左大将】-ヒケクロ
  になり給てそよのなかのまつりことつかう
  まつり給ける女御の君はかゝる御よをもま
0054【女御の君】-承香殿
  ちつけ給はてうせ給にけれはかきりある御
0055【かきりある御くらゐ】-贈皇后ニナラセ給
  くらゐをえ給へれとものゝうしろの心ちして
0056【ものゝうしろの心ち】-人ノシラヌ心
  かひなかりけり六条の女御の御はらの一の宮
  はうにゐ給ひぬさるへきことゝかねておもひ
  しかとさしあたりては猶めてたくめおとろ
  かるゝわさなりけり右大将の君大納言になり
0057【右大将の君】-夕霧
  (+給てれいの左にうつり給ぬイ)給ひぬいよ/\あらまほしき御なからひなり六条
  院はおりゐ給ひぬるれせい院の御つきおはし」11オ
  まさぬ越あかす御心のうちにおほすおなし
  すちなれとおもひなやましき御事ならて
  すくし給へるはかりにつみはかくれてすゑ
  のよまてはえつたふましかりける御すく
  せくち越しくさう/\しくおほせと人に
  の給ひあはせぬことなれはいふせくなむ春宮
  の女御はみこたちあまたかすそひ給て
  いとゝ御おほえならひなし源しのうちつゝ
  ききさきにゐ給へきこと越よひとあかすお
  もへるにつけても冷泉院のきさきはゆへな
0058【冷泉院のきさき】-秋好
  くてあなかちにかくしをき給へる御心を」11ウ
0059【かく】-如此也
  おほすにいよ/\六条院の御こと越とし月に
  そへてかきりなくおもひきこえ給へり院の
0060【院のみかと】-六条院へ御幸
  みかとおほしめしゝやうにみゆきもところ
  せからてわたり給ひなとしつゝかくてしも
  けにめてたくあらまほしき御ありさまなり
  ひめ宮の御ことはみかと御心とゝめておもひ
0061【ひめ宮】-女三
0062【みかと】-今上
  きこえ給おほかたのよにもあまねくもてか
  しつかれ給越たいのうへの御いきをひには
  えまさり給はすとし月ふるまゝに御中いと
  うるわしくむつひきこ江かはし給ていさゝ
  かあかぬことなくへたてもみえ給はぬもの」12オ
  からいまはかうおほそふのすまゐならてのと
  やかに越こなひをもとなむおもふこのよは
0063【をこなひをもとなむ】-紫ノ心中
  かはかりと見はてつる心ちするよはひにも
  なりにけりさりぬへきさまにおほしゆるし
  てよとまめやかにきこえ給おり/\あるをあ
0064【あるましく】-源
  るましくつらき御ことなりみつからふかき
  ほいあることなれとゝまりてさう/\しく
  おほえ給ひあるよにかはらん御ありさまの
  うしろめたさによりこそなからふれつゐに
  そのことゝけなんのちにともかくもおほし
  なれなとのみさまたけきこえ給女御の君」12ウ
0065【女御の君】-明石姫
  たゝこなた越まことの御おやにもてなし
0066【こなた】-紫
  きこえ給て御かたはかくれかの御うしろみ
0067【御かた】-明石上
  にてひけしものし給へるしもそなか/\
  ゆくさきたのもしけにめてたかりけるあ
  まきみもやゝもすれはたえぬよろこひの
  なみたともすれはおちつゝめをさへのこひ
  たゝしていのちなかきうれしけなるため
  しになりてものし給すみよしの御くわん
  かつ/\はたし給はむとて東宮の女御の御い
  のりにま(ま+う)て給はむとてかのはこあけて御覧
  すれはさま/\のいかめしきことゝもおほか」13オ
  りとしことの春秋のかくらにかならすなかき
  よのいのり越くはへたるくわんともけにかゝる
  御いきをひならてははたし給へきことゝも
  おもひ越きてさりけりたゝはしりかき
  たるおもむきのさえ/\しくはか/\しく
0068【さえ/\しく】-才々敷
  ほとけかみもきゝいれ給へきことのはあき
  らかなりいかてさる山ふしのひしり心にか
  かることゝもをおもひよりけむとあはれにお
  ほけなくも御覧すさるへきにてしはしかり
  そめにみをやつしけるむかしのよのをこ
0069【むかしのよ】-先世
  なひ人にやありけむなとおほしめくらすに」13ウ
  いとゝかる/\しくもおほされさりけりこの
  たひはこの心をはあらはし給はすたゝ院
  の御ものまうてにていてたち給うらつたひ
  のものさはかしかりしほとそこらの御
  くわんともみなはたしつくし給へれとも猶世
  中にかくおはしましてかゝるいろ/\のさかえ
  越み給につけてもかみのおほむたすけはわ
  すれかたくてたいのうへもくしきこえさせ
  給てまうてさせ給ひゝきよのつねならす
  いみしくことゝもそ(そ+き)すてゝよのわつらひ」14オ
  あるましくとはふかせ給へとかきりありけれは
  めつらかによそほしくなむかむたちめも
  大臣ふた所を越きたてまつりてはみなつ
  かうまつり給まひ人は衛ふのすけとものか
  たちきよけにたけたちひとしきかきり越
  えらせ給このえらひにいらぬをはゝちにう
  れへなけきたるすきものともありけりへい
  しうもいはし水かものりむしのまつりな
  とにめす人/\のみち/\のことにすくれたるかき
  りをとゝのへさせたまへりくはゝりたるふたりな
  む近衛つかさのなたかきかきりをめしたり」14ウ
  ける御かくらのかたにはいとおほくつかうまつ
  れり内東宮院の殿上人かた/\にわかれて心よ
  せつかうまつるかすもしらすいろ/\につく
  したるかむたちめの御むまくらむまそ
  ひすい身ことねりわらはつき/\のとねりなと
0070【ことねりわらは】-中間ナトノモノ也
  まてとゝのへかさりたるみものまたなきさま
  なり女御殿たいのうへはひとつにたてまつ
  りたりつきの御くるまにはあかしの御かたあ
  ま君しのひてのり給へり女御の御めのと心し
0071【心しり】-案内者ノ心
  りにてのりたりかた/\のひとたまゐう
0072【ひとたまゐ】-ノリカヘ也
  への御方の五女御とのゝいつゝあかしの御あか」15オ
  れのみつめもあやにかさりたるさうそく
0073【みつ】-三
0074【めも】-目
  ありさまいへはさらなりさるはあま君を
  はおなしくはおいのなみのしはのふはかり
  に人めかしくてまうてさせむと院はの給
  けれとこのたひはかくおほかたのひゝきに
0075【このたひは】-明石上詞
  たちましらむもかたはらいたしもしお
0076【おもふやうならむ世中】-春宮ノ御世ノコト
  もふやうならむ世中越まちいてたらはと
  御方はしつめ給ける越のこりのいのちう
  しろめたくてかつ/\ものゆかしかりてし
  たひまいり給なりけりさるへきにてもとより
  かくにほひたまふ御身ともよりもいみしか」15ウ
  りけるちきりあらはにおもひしらるゝ人の
0077【人のみありさま】-明石上コト
  みありさまなり十月中十日なれはかみのいかき
0078【かみのいかき】-\<朱合点>「ちはやふる神のいかきにはふく/すも/秋にはあへすもみちしにけり」(付箋02 古今262・古今六帖3881、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
  にはふくすもいろかはりてまつのしたもみ
  ちなとをとにのみ秋をきかぬかほなりこと/\
0079【をとにのみ秋を】-\<朱合点>「もみちせぬときハの山ハ吹風の/をとにや秋をきゝわたるらん」(付箋03 古今251・拾遺集189・新撰和歌12・古今六帖419・919・小町集100、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
  しきこまもろこしのかくよりもあつまあ
0080【あつまあそひ】-神楽也
  そひのみゝなれたるはなつかしくおもしろく
  なみかせのこゑにひゝきあひてさるこたかき
  まつ風にふきたてたるふえのねもほかに
  てきくしらへにはかはりて身にしみゝ(ゝ$御)こと(こと=琴)に
0081【御琴】-和琴也
  うちあはせたる兵しもつゝみをはなれて
0082【兵し】-拍子
0083【つゝみをはなれて】-皷ヲウタヌ也
  とゝのへとりたるかたおとろ/\しからぬもなま」16オ
  めかしくすこうおもしろくところからはま
  してきこえけり山あゐにすれるたけのふ
0084【山あゐにすれるたけのふし】-布ニアヲク竹ヲカク也
  しはまつのみとりに見えまかひかさしのいろ
  いろは秋のくさにことなるけちめわかれてなに
  ことにもめのみまかひいろふもとめこはつる
0085【いろふ】-色メク心
0086【もとめこ】-求子
  すゑにわかやかなるかむたちめはかたぬきて
  おり給にほひもなくゝろきうゑのきぬにす
0087【くろきうゑのきぬ】-四位ノ袍也
  わうかさねのえひそめのそて越にはかにひ
  きほころはしたるにくれなゐふかきあこめ
  のたもとのうちしくれたるにけしきはかり
  ぬれたるまつはら越はわすれてもみちのち」16ウ
  るにおもひわたさるみるかひおほかるすかた
  ともにいとしろくかれたるおきをたかやかに
0088【おきをたかやかに】-人長トモ云心也
  かさしてたゝひとかへりまひていりぬるは
  いとおもしろくあかすそありけるおとゝむか
  しのことおほしいてられ中ころしつみ給
  し世のありさまもめのまへのやうにおほさ
  るゝにそのよのことうちみたれかたり給へき
  人もなけれはちしのおとゝをそこひし
  くおもひきこえ給けるいり給て二のくる
0089【二】-フタツ
  まにしのひて
    たれかまた心をしりてすみよしの」17オ
0090【たれかまた】-源
  神世をへたるまつにことゝふ御たゝむかみ
  にかき給へりあま君うちしほたるかゝる
  世越見るにつけてもかのうらにていまはと
  わかれ給しほと女御の君のおはせしあり
  さまなとおもひいつるもいとかたしけなか
  りけるみのすくせのほと越おもふ世越そむき
  給し人もこひしくさま/\にものかなし
  き越かつはゆゝしとこといみして
    すみの江をいけるかひあるなきさとは
0091【すみの江を】-尼
  としふるあまもけふやしる覧越そくはひ」17ウ
  んなからむとたゝうちおもひけるまゝなりけり
    むかしこそまつわすられねすみよしの
0092【むかしこそ】-明石上
  神のしるしをみるにつけてもとひとりこ
  ちけりよひとよあそひあかし給はつかの
  月はるかにすみてうみのをもておもしろく
  見えわたるにしものいとこちたく越きて
  まつはらもいろまかひてよろつのことそゝ
  ろさむくおもしろさもあはれさもたち
  そひたりたいのうへつねのかきねのうち
  なからとき/\につけてこそけふあるあさゆふ」18オ
  のあそひにみゝふりめなれ給けれみかと
  よりとのもの見おさ/\し給はすまして
  かく宮このほかのありきはまたならひ
  給はねはめつらしくおかしくおほさる
    すみの江のまつによふかくおくしもは
0093【すみの江の】-紫
  かみのかけたるゆふかつらかもたかむらの
0094【たかむらのあそむ】-\<朱合点>
  あそむのひらの山さへといひけるゆきの
  あした越おほしやれはまつりの心うけ給
  しるしにやといよ/\たのもしくなむ女御君
    かみ人のてにとりもたるさかきはに
  ゆふかけそふるふかきよのしも中つかさの君
0095【中つかさの君】-紫ノ方ノ人
    はふりこかゆふうちまかひをくしもは」18ウ
  けにいちしるき神のしるしかつき/\か
  すしらすおほかりけるをなにせむ(む+に)かはき
  きをかむかゝるおりふしのうたはれいの上
  すめき給おとこたちも中/\いてきえして
  松のちとせよりはなれていまめかしきこと
  なけれはうるさくてなむほの/\とあけゆくに
  しもはいよ/\ふかくてもとすゑもたと/\
  しきまてゑひすきにたるかくらおもてとも
  のをのかゝをゝはしらておもしろきことに心
  はしみてにはひもかけしめりたるになを」19オ
  まさい/\とさかきはをとりかへしつゝいはひき
  こゆる御よのすゑおもひやるそいとゝしき
0096【御よ】-源ノ御世ノコト
  やよろつのことあかすおもしろきまゝにち
0097【ちよをひとよに】-\<朱合点>「秋の夜のちよを一夜になせり/とも/こと葉のこりて鳥やなきなん」(付箋04 続古今1157・古今六帖1987・伊勢物語46、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
  よをひとよになさまほしきよのなにゝも
  あらてあけぬれはかへるなみにきおふもく
  ちおしくわかき人々おもふまつはらにはる/\
  とたてゆつゝけたる御くるなともの風にうち
  なひくしたすたれのひま/\もときはのかけ
  にはなのにしき越ひきくはへたると見ゆるに
  うへのきぬのいろ/\けちめ越きておかしきかけ
  はんとりつゝきてものまいりわたすをそしも」19ウ
  人なとはめにつきてめてたしとはおもへる
  あま君のおまへにもせんかうのおしきにあ
  をにひのおもてをりてさうしもの越まいる
0098【をりて】-織 衣ニテ覆シタル也
  とてめさましき越むなのすくせかなと越
  のかしゝはしりうこちけりまうて給し
  みちはこと/\しくてわつらはしき神たから
  さま/\にところせけなりしをかへさはよろつ
  のせうよう越つくし給いひつゝくるもうるさ
  くむつかしきことゝもなれはかゝる御あり
  さま越もかの入道のきかすみぬよにかけはな」20オ
  れたうへるのみなむあかさりけるかた(た+き)ことなり
  かしましらはましもみくるしくや世中の
  人これをためしにて心たかくなりぬへきころ
  なめりよろつのことにつけてめてあさみよの
0099【あさみ】-欺
  ことくさにてあかしのあま君とそさいはい
  人にいひけるかのちしのおほとのゝあふみの
  君はすくろくうつときのことはにもあかしの
  あま君/\とそさいはこひける入道のみかとは御
0100【入道のみかと】-朱
  をこなひをいみしくし給てうちの御こと越も
  きゝいれ給はす春秋の行幸になむむかし
  おもひいてられ給こともましりけるひめ宮の」20ウ
  御ことをのみそ猶えおほしはなたてこの院をは
  猶おほかたの御うしろみにおもひきこえ給て
  うち/\の御こゝろよせあるへくそうせさせ給
  二品になり給て御封なとまさるいよ/\はな
0101【二品になり給て】-女三
  やかに御いきをひそふたいのうへかくとし月に
  そへてかた/\にまさり給御おほえにわかみは
  たゝひとゝころの御もてなしに人にはおとら
0102【たゝひとゝころ】-源ハカリノ愛ト也
  ねとあまりとしつもりなはその御心はへもつゐ
  におとろへなんさらむよ越見はてぬさきに心と
  そむきにしかなとたゆみなくおほしわたれと」21オ
  さかしきやうにやおほさむとつゝまれてはか/\
  しくもえきこえ給はすうちのみかとさへ
0103【うちのみかとさへ】-源心
  御心よせことにきこえ給へは越ろかにきかれた
  てまつらんもいとおしくてわたり給ことやう/\
0104【わたり給こと】-女三へ
  ひとしきやうになりゆくさるへきこと/\はり
0105【ひとしきやう】-紫ト女三ト也
0106【さるへきこと】-紫心
  とはおもひなからされはよとのみやすからす
  おほされけれと猶つれなくおなしさまにて
  すくし給東宮の御さしつきの女一の宮をこ
0107【こなたに】-紫上
  なたにとりわきてかしつきたてまつり給そ
  の御あつかひになんつれ/\なる御よかれのほと」21ウ
  もなくさめ給けるいつれもわかすうつくし
  くかなしとおもひきこえ給へりなつの御かた
  はかくとり/\なる御むまこあつかひをうら
  やみて大将の君のないしのすけはらの君をせちに
0108【ないしのすけ】-惟光女
  むかへてそかしつき給いとおかしけにて心はへ
  もほとよりはされおよすけたれはおとゝの
  君もらうたかり給すくなき御つきとおほし
0109【すくなき御つき】-源ノ子孫繁昌ノコト
  しかとすゑにひろこりてこなたかなたいとお
  ほくなりそひ給をいまはたゝこれをうつ
  くしみあつかひ給ひてそつれ/\もなくさ
  め給ける右大殿のまいりつかうまつり給こと」22オ
0110【右大殿】-ヒケクロ
  いにしへよりもまさりてしたしくいまはきたの
0111【きたのかた】-玉カツラ
  かたもおとなひはてゝかのむかしのかけ/\し
0112【かけ/\しきすち】-源ノ密通
  きすちおもひはなれ給にやさるへきおりも
  わたりまうて給たいのうへにも御たいめむ
  ありてあらまほしくきこえかはし給けり
  ひめ宮のみそおなしさまにわかくおほとき
0113【ひめ宮】-女三
  ておはします女御の君はいまはおほやけさ
0114【女御の君】-明石姫君 源心
  まにおもひはなちきこえ給てこの宮をは
0115【この宮】-女三
  いと心くるしくおさなからむ御むすめのやうに
  おもひはくゝみたてまつり給朱雀院のいまは」22ウ
  むけによちかくなりぬる心ちしてもの心ほそ
  き越さらにこのよのことかへりみしとおもひ(ひ+す)つ
  れとたいめんなんいまひとたひあらまほしきを
  もしうらみのこりもこそすれこと/\しきさま
  ならてわたり給へくきこえ給けれはおとゝも
  けにさるへきなりかゝる御けしきなから
  むにてたにすゝみまいり給へきをましてかう
  まちきこえ給けるか心くるしきことゝまいり
  給へきことおほしまうくついてなくすさまし
  きさまにてやははひわたり給へきなにわさ
  をしてか御らんせさせ給へきとおほしめくらす」23オ
  このたひたり給はむとしわかなゝとてうして
0116【わかなゝと】-朱ノ五十賀来年ノコト
  やとおほしてさま/\の御ほうふくのこといも
0117【いもゐ】-斎 イモヰ
  ゐの御まうけ(け+の)しつらひなにくれとさまことに
  かはれることゝもなれは人の御心しらひともい
  りつゝおほしめくらす(す+に)いにしへもあそひのかた
  に御心とゝめさせ給へりしかはまひ人かく人なとを
  心ことにさためすくれたるかきりをとゝのへさせ給
  右大殿ゝ御こともふたり大将の御こないしのす
0118【大将】-夕霧
  けのはらのくはへて三人またちゐさきなゝつ
  よりかみのはみな殿上せさせ給兵部卿宮の
  わらはそんわうすへてさるへき宮たちの御ことも」23ウ
  いへのこの君たちみなえらひいて給殿上の君
  たちもかたちよくおなしきまひのすかたも
  心ことなるへきをさためてあまたのまひのまう
  けをせさせ給いみしかるへきたひのことゝてみな
  人心をつくし給てなんみち/\のものゝし
  上すいとまなきころなり宮はもとよりきむ
0119【宮】-女三
  の御ことをなんならひ給けるをいとわかくて院
0120【ならひ給ける】-源ニナラヒ給
  にもひきわかれたてまつり給ひしかはおほつ
  かなくおほしてまいり給はむついてにかの
  御ことのねなむきかまほしきさりともきむ」24オ
0121【きむはかりは】-女三無キ用ノ人也
  はかりはひきとり給つらんとしりうことに
  きこえ給けるをうちにもきこしめして
  けにさりともけはひことならむかし院の御
  前にてゝつくし給はむついてにまいりきて
  きかはやなとのたまはせけるをおとゝの君は
  つたへきゝ給てとしころさりぬへきついてこと
  には越しへきこゆることもあるをそのけはひ
  はけにまさり給にたれとまたきこしめしと
  ころあるものふかきてにはをよはぬをなに心も
  なくてまいり給へらんついてにきこしめさんと
  ゆるしなくゆかしからせ給はんはいとはしたなか」24ウ
  るへきことにもといとおしくおほしてこのこ
  ろそ御心とゝめてをしへきこえ給しらへことなる
  てふたつみつおもしろき大こくともの四き
0122【大こく】-曲
  につけてかはるへきひゝきそらのさむさぬる
  さをとゝのへいてゝやむことなかるへきてのかきり
  越とりたてゝをしへきこえ給に心もとなく
  おはするやうなれとやう/\心え給まゝにいと
  よくなり(り+給)ひるはいと人しけく猶ひとたひも
  ゆしあんするいとまも心あはたゝしけれはよる/\
0123【ゆし】-由
0124【あんする】-ヲス心
  なむしつかにことの心もしめたてまつるへき
  とてたいにもそのころは御いとまきこえ給て」25オ
  あけくれをしへきこえ給女御の君にもたい
  のうへにもきむはならはしたてまつり給はさ
  りけれはこのおりおさ/\みゝなれぬてとも
  ひき給らん越ゆかしとおほして女御もわさと
  ありかたき御いとまをたゝしはしときこえ
  給てまかて給へりみこふたところをはするを
  又もけしきはみ給ていつゝきはかりにそなり
  給へれは神わさなとにことつけておはしますなり
  けり十一日すくしてはまいり給へき御せうそこ
  うちしきりあれとかゝるついてにかくおも」25ウ
  しろきよる/\の御あそひをうらやましく
  なとてわれにつたへ給はさりけむとつらく
  おもひきこえ給ふゆのよの月は人にたか
  ひてめて給御心なれはおもしろきよのゆき
  のひかりにおりにあひたるてともひき給つゝ
  さふらふ人/\もすこしこのかたにほのめき
  たるに御ことゝもとり/\にひかせてあそひなと
  し給としのくれつかたはたいなとにはいそかしく
  こなたかなたの御いとなみにをのつから御覧
  しいるゝことゝもあれは春のうらゝかならむゆふ
  へなとにいかてこの御ことのねきかむとの給ひわた」26オ
  るにとしかへりぬ院の御賀まつおほやけより
  せさせ給ことゝもこちきにさしあひては
0125【さしあひては】-六条院ニテノハノヒヌ
  ひんなくおほされてすこしほとすこし給
  二月十よ日とさため給てかく人まひ人なと
  まいりつゝ(ゝ+御)あそひたえすこのたいにつねに
  ゆかしくする御ことのねいかてかのひと/\のさう
0126【さう】-箏
  ひはのねもあはせて女かく心みさせむたゝいま
0127【ひは】-琵琶
  のものゝ上すともこそさらにこのわたりの人/\
  のみ心しらひともにまさらねはか/\しく
  つたへとりたることはおさ/\なけれとなにこと」26ウ
  もいかて心にしらぬことあらしとなむおさな
  きほとにおもひしかはよにあるものゝしと
0128【ものゝし】-師
  いふかきり又たかきいゑ/\のさるへき人の
  つたへともをものこさす心みしなかにいとふかく
  はつかしきかなとおほゆるきはのひとなむなか
  りしそのかみよりも又このころのわかき人/\
  のされよしめきすくすにはたあさくなりに
  たるへしきむはたましてさらにまねふ人
  なくなりにたりとかこの御ことのねはかりたに
0129【御ことのね】-女三
  つたへたる人おさ/\あらしとの給へはなに心なく
  うちゑみてうれしく」27オ
  かくゆるし給ほとになりにけるとおほす廿一二
  はかりになり給へと猶いといみしくかたなりに
  きひわなる心ちしてほそくあえ(え$え)かにうつ
  くしくのみ見え給院にもみえたてまつり
  給はてとしへぬる越ねひまさり給にけりと
  御覧すはかりよういくはへてみえたてまつ
  り給へとことにふれてをしへきこえ給けにかゝ
  る御うしろみなくてはましていはけなく
  おはします御ありさまかくれなからましと
  人/\も見たてまつる正月廿日はかりになれは」27ウ
  そらもおかしきほとにかせぬるくふきて
  おまへのむめもさかりになりゆくおほかたの
  はなのきともゝみなけしきはみかすみわたり
  にけり月たゝは御いそきちかくものさはかし
  からむにかきあはせ給はむ御ことのねもしか
  くめきて人いひなさむ越このころしつかな
  るほとに心み給へとて心殿にわたしたてまつり
0130【心殿にわたしたてまつり】-女三御試楽アソハス也 紫ヲワタシ給也
  給御ともにわれも/\とものゆかしかりてまう
  のほらまほしかれとこなたにとをきをは
  えりとゝめさせ給てすこしねひたれとよし
  あるかきりえりてさふらはせ給わらはへは」28オ
0131【わらはへ】-紫ノ方ノ人々也
  かたちすくれたる四人あかいろにさくらのかさみ
  うすいろのをりものゝあこめうきもむのうへの
  はかまくれなゐのうちたるさまもてなしす
  くれたるかきりをめしたり女御の御かたにも
  御しつらひなといとゝあらたまれるころのく
  もりなきにをの/\いとましくつくしたる
  よそおひともあさやかにゝなしわらはゝあお
  いろにすわうのかさみからあやのうへのはかまあ
  こめは山ふきなるからのき越ゝなしさまにとゝのへ
  たりあかしの御かたのはこと/\しからてこうはい」28ウ
  ふたりさくらふたりあおしのかきりにてあこ
  めこくうすくうちめなとえならてきせ給へり
  宮の御かたにもかくつとひ給へくきゝ給てわら
0132【宮の御かた】-女三
  はへのすかたはかりはことにつくろはせ給へり
  あおにゝやなきのかさみえひそめのあこめ
0133【あおに】-青丹
  なとことにこのましくめつらしきさまには
  あらねとおほかたのけはひのいかめしくけた
  かきことさへいとならひなしひさしの中の御
  さうし越はなちてこなたかなたみき丁はか
  り越けちめにて中のまは院のおはしますへき
  おましよそひたりけふの兵しあはせにはわらはへ」29オ
0134【兵し】-拍子
  越めさんとて右大いとのゝ三らうかむの君の御はら
0135【右大いとの】-ヒケクロ
  のあに君さうのふえ左大将の御たらうよこ
  ふえとふかせてすのこにさふらはせ給うちには
  御しとねともならへて御ことゝもまいりわたす
  ひし給御ことゝもうるわしきこむちのふく
  ろともにいれたるとりいてゝあかしの御方にひは
  むらさきのうへにわこむ女御の君にさう
  の御こと宮にはかくこと/\しきことはまたえ
  ひき給はすやとあやうくてれいのてならし
  給へるをそしらへてたてまつり給さうの御」29ウ
  ことはゆるふとなけれと猶かくものにあはする
  をりのしらへにつけてことちのたちとみたるゝ
  ものなりよくその心しらひとゝのふへき越
  をんなはえはりしつめし猶大将をこそめし
0136【大将】-夕霧
  よせつへかめれこのふえふきともまたいと
  おさなけにて兵しとゝのへむたのみつよからすと
  わらひ給て大将こなたにとめせは御かた/\はつ
  かしく心つかひしておはすあかしの君を
  はなちてはいつれもみなすてかたき御てし
  ともなれは御心くはへて大将のきゝ給はむに
  なんなかるへくとおほす女御はつねにうへの」30オ
  きこしめすにもゝのにあはせつゝひきなら
  し給へれはうしろやすき越わこむこそ
  いくはくならぬしらへなれとあとさたまりた
  ることなくて中/\をむなのたとりぬへけれ春の
0137【春のことのね】-未勘
  ことのねはみなかきあはするものなる越みた
  るゝ所もやとなまいとおしくおほす大将(将+いと)いたく
  心けさうしておまへのこと/\しくうるはしき
  御心みあらむよりもけふの心つかひはことにま
  さりておほえ給へはあさやかなる御な越し
  かうにしみたる御そともそていたくたき
  しめてひきつくろひてまいり給ほとくれ」30ウ
  はてにけりゆへあるたそかれときのそらには
0138【はなはこその】-梅花ヘシ
  なはこそのふるゆきおもひいてられてえたも
  たはむはかりさきみたれたりゆるゝかに
  うちふくかせにえならすにほひたるみす
  のうちのかをりもふきあはせてうくひす
0139【うくひすさそふ】-\<朱合点>「花のかを風のたよりにたくへ/てそ/鴬さそふしるへにハやる」(付箋05 古今13・新撰和歌15・古今六帖30・385・4394・友則集2・寛平后宮歌合1、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
  さそふつまにしつへくいみしきおとゝの
  あたりのにほひなりみすのしたよりさう
  の御ことのすそすこしさしいてゝかる/\しき
0140【かる/\しき】-源詞
  やうなれとこれかをとゝのへてしらへ心み給へ
0141【をとゝのへて】-緒
  こゝに又うとき人のいるへきやうもなきを」31オ
  との給へはうちかしこまりて給はり給ほとよう
  いおほくめやすくていちこちてうのこゑに
0142【いちこちてう】-壹越調
  はちのをゝたてゝふともしらへやらてさふら
0143【はちのを】-発絃
  ひ給へは猶かきあはせはかりはてひとつす
  さましからてこそとの給へはさらにけふの
  御あそひのさしいらへにましふはかりのてつ
  かひなむおほえすはへりけるとけしきはみ
  給さもあることなれと女かくにえことませて
  なむにけにけるとつたはらむなこそおしけれ
  とてわらひ給しらへはてゝおかしきほとにかき」31ウ
  あはせはかりひきてまいらせ給つこの御まこ
  の君たちのいとうつくしきとのゐすかた
  ともにてふきあはせたるものゝねともまた
  わかけれとおひさきありていみしくおかし
  けなり御ことゝものしらへともとゝのひはてゝ
  かきあはせ給へるほといつれとなきなかに
  ひはゝすくれて上すめきかみさひたるてつ
  かひすみはてゝおもしろくきこゆわこむ
  に大将もみゝとゝめ給へるになつかしくあい
  行つきたる御つまをとにかきかへしたる
  ねのめつらしくいまめきてさらにこのわさと」32オ
  ある上すとものおとろ/\しくかきたてたる
  しらへてうしにおとらすにきわゝしく山とこ
0144【しらへ】-調
0145【てうし】-調子
  とにもかゝる手ありけりときゝおとろかる
  ふかき御らうのほとあらはにきこえておも
  しろきにおとゝ御心おちゐていとありかたく
  おもひきこえ給さうの御ことはものゝひま/\
  に心もとなくもりいつるものゝねからにてうつ
  くしけになまめかしくのみきこゆきむは
  な越わかきかたなれとならひ給さかりなれは
  たと/\しからすいとよくものにひゝきあひ」32ウ
  ていうになりにける御ことのねかなと大将きゝ
  給兵しとりてさうかし給院も時/\あふき
  うちならしてくはへ給御こゑむかしよりも
  いみしくおもしろくすこしふつゝかにもの/\
  しきけそひてきこゆ大将もこゑいとすく
  れ給へる人にてよのしつかになりゆくまゝ
  にいふかきりなくなつかしきよの御あそひ
  なり月心もとなきころなれはとうろこなた
  かなたにかけて火よきほとにともさせ給へり
  宮の御かた越のそき給へれは人よりけにち
  ひさくうつくしけにてたゝ御そのみあるこゝち」33オ
  すにほひやかなるかたはをくれてたゝいとあて
  やかに越かしく二月の中十日はかりのあをやきの
  わつかにしたりはしめたらむ心ちしてうく
  ひすのはかせにもみたれぬへくあえかに見え
  給さくらのほそなかに御くしは左右よりこほ
  れかゝりてやなきのいとのさましたりこれ
  こそはかきりなき人の御ありさまなめれとみゆ
  るに女御の君はおなしやうなる御なまめきす
  かたのいますこしにほひくはゝりてもてなし
  けはひ心にくゝよしあるさまし給てよくさ」33ウ
  きこほれたるふちのはなのなつにかゝりて
  かたはらにならふはなゝきあさほらけの心ちそ
  し給へるさるはいとふくらかなるほとになり給
0146【ふくらかなる】-懐妊
  てなやましくおほえ給けれは御ことも越しや
  りてけうそくにをしかゝり給へりさゝやかに
  なよひかゝり給へるに御けうそくはれいのほ
  となれはをよひたる心ちしてことさらにちゐ
  さくつくらはやと見ゆるそいとあはれけにおは
  しけるこうはいの御そに御くしのかゝりはら/\
  ときよらにてほかけの御すかたよになくうつ
  くしけなるにむらさきのうへはえひそめにや」34オ
  あらむいろこきこうちきうすゝわうのほそ
  なかに御くしのたまれるほとこちたくゆるゝかに
  おほきさなとよきほとにやうたいあらまほしく
  あたりにゝほひみちたる心ちしてはなといはゝ
  さくらにたとへて(て+も)猶ものよりすくれたるけは
  ひことにものし給かゝる御あたりにあかしはけを
  さるへき越いとさしもあらすもてなしなとけしき
  はみはつかしく心のそこゆかしきさまして
  そこはかとなくあてになまめかしく見ゆやなき
  のおりものゝほそなかもえきにやあらむこう」34ウ
  ちきゝてうすものゝ裳のはかなけなるひきかけ
  てことさらひけしたれとけはひおもひなしも
  心にくゝあなつらはしからすこまのあおちのに
  しきのはしさしたるしとねにまほにもゐて
  ひわをうちをきてたゝけしきはかりひきかけ
  てたおやかにつかひなしたるはちのもてなし
  ねをきくよりも又ありかたくなつかしくて
  さ月まつはなたちはな花もみもくしてをし
0147【さ月まつはなたちはな】-\<朱合点>
  おれるかほりおほゆこれもかれもうちとけぬ
  御けはひともをきゝ見給に大将もいとうちゆか
  しくおほえ給たいのうへの見しおりよりも」35オ
  ねひまさり給へらむありさまゆかしきにしつ
  心もなし宮をはいますこしのすくせをよはま
  しかはわかものにても見たてまつりてまし
  心のいとぬるきそくやしきや院はたひ/\さや
  うにおもむけてしりうことにもの給はせけ
  る越とねたくおもへとすこし心やすきかたに
  みえ給御けはひにあなつりきこゆとはなけ
  れといとしも心はうこかさりけりこの御かた越
0148【この御かた】-紫上
  はなにこともおもひをよふへきかたなくけと
  をくてとしころすきぬれはいかてかたゝおほかた
  に心よせあるさまをもみえたてまつらんとはかり」35ウ
  のくち越しくなけかしきなりけりあなかちに
  あるましくおほけなき心ちなとはさらにものし
  給はすいとよくもておさめ給へりよふけゆくけは
  ひひやゝかなりふしまちの月はつかにさしいて
  たる心もとなしや春のおほろ月よゝ秋のあはれ
0149【春のおほろ月】-源詞
  はたかうやうなるものゝねにむしのこゑより
  あはせたるたゝならすこよなくひゝきそふ心ち
  すかしとの給へは大将の君秋のよのくまなき月には
  よろつのものゝとゝこほりなきにことふえのねも
  あきらかにすめる心ちはしはへれとな越ことさらに
  つくりあはせたるやうなるそらのけしきはなの」36オ
  露もいろ/\めうつろひ心ちりてかきりこそ
  はへれ春のそらのたと/\しきかすみのまより
  おほろなる月かけにしつかにふきあはせたる
  やうにはいかてかふえのねなともえむにすみ
  のほりはてすなむ女は春をあはれふふるき
0150【女は春をあはれふ】-\<朱合点>
  人のいひをきはへりけるけにさなむはへり
  けるなつかしくものゝとゝのほることははるの
  ゆふくれこそことにはへりけれと申給へはいな
0151【いなこのさためよ】-源
  このさためよいにしへよりひとのわきかねたる
0152【いにしへより】-春秋ノ勝負ノコト
  こと越すゑのよにくたれる人のえあきらめはつ」36ウ
  ましくこそものゝしらへこくのものともはし
0153【こく】-曲
  もけにりちをはつきのものにしたるはさも
  ありかしなとの給ていかにたゝいまいうそく
0154【いかにたゝいま】-源ノ夕ヘ詞
  のおほえたかきその人かの人御前なとにて
  たひ/\心見させ給にすくれたるはかすゝく
  なくなりためる越そのこのかみとおもへる上す
  ともいくはくえまねひとらぬにやあらむこの
  かくほのかなるをむなたちの御中にひきませ
  たらむにきはゝなるへくこそおほえねとし
0155【きはゝなる】-一キハアルハナキト也
  ころかくむもれてすくすにみゝなともすこ
  しひか/\しくなりにたるにやあらむくち」37オ
0156【ひか/\しく】-女楽ナトヲヨキトキクハヒカ/\シト也<左>
  越しうなむあやしくひとのさえはかなくとり
  することゝもゝものゝはえありてまさるところ
0157【ものゝはえありて】-六条院ノ内ノコト
  なるその御前の御あそひなとにひときさみ
0158【その御前の】-抄心中コト
  にえらはるゝ人/\それかれといかにそとの給
  へは大将それをなむとり申さむとおもひはへ
  りつれとあきらかならぬ心のまゝにおよす
  けてやはとおもひ給ふるのほりてのよ越きゝ
0159【のほりてのよ】-上代
  あはせはへらねはにや衛もんのかみのわこむ
  兵部卿宮の御ひわなと越こそこのころめつ
  らかなるためしにひきいてはへめれけにかた」37ウ
  はらなき越こよひうけたまはるものゝねとも
  のみなひとしくみゝおとろきはへるはなをかく
  わさともあらぬ御あそひとかねておもふ給へ
  たゆみける心のさはくにやはへらむさうかなといと
  つかうまつりにくゝなむ和琴はかのおとゝは
0160【かのおとゝ】-致仕大臣
  かりこそかくをりにつけてこしらへなひかし
  たるねなと心にまかせてかきたて給へるはいと
  ことにものし給へおさ/\きははなれぬものに
  はへめる越いとかしこくとゝのひてこそはへり
0161【とゝのひて】-紫ヲホメ給也
  つれとめてきこえ給いとさこと/\しきゝは
0162【いとさこと/\しき】-源詞
  にはあらぬをわさとうるはしくもとりなさるゝ」38オ
  かなとてしたりかほにほゝゑみ給けにけしう
  はあらぬてしともなりかしひわはしも(も+こゝに)くちいる
0163【ひわは】-明石上ノコト
  へきことましらぬをさいへとものゝけはひことなる
  へしおほえぬところにてきゝはしめたりしに
  めつらしきものゝこゑかなとなむおほえし
  かとそのおりよりは又こよなくまさりにたる
  をやとせめてわれかしこにかこち(こち$たり)なし給へは
  女房なとはすこしつきしろふよろつのこと
  みち/\につけてならひまねはゝさえといふもの
  いつれもきはなくおほえつゝわか心ちにあくへ」38ウ
  きかきりなくならひとらんことはいとかたけ
  れとなにかはそのたとりふかき人のいまのよに
0164【たとりふかき人】-習得ント思人ナキ也
  おさ/\なけれはかたはし越なたらかにまねひえ
  たらむひとさるかたかとに心をやりてもありぬ
  へきをきむなむ猶わつらはしく手ふれにく
  きものはありけるこのことはまことにあとのまゝ
  にたつねとりたるむかしのひとは天地をなひ
  かしをにかみの心をやわらけよろつのものゝ
  ねのうちにしたかひてかなしひふかきものも
  よろこひにかはりいやしくまつしきものも
  たかきよにあらたまりたからにあつかりよに」39オ
0165【たから】-宝
  ゆるさるゝたくひおほかりけりこのくにゝひき
  つたふるはしめつかたまてふかくこのこと越心
  えたる人はおほくのとしをしらぬくにゝすくし
  身をなきになしてこのことをまねひとらむと
  まとひてたにしうるはかたくなむありける
  けにはたあきらかにそらの月ほしをうこかし
  ときならぬしもゆき越ふらせくもいかつち越さ
  はかしたるためしあかりたるよにはありけり
  かくかきりなき物にてそのまゝにならひとる人
  のありかたくよのすゑなれは(は+にや)いつこのその神の
  かたはしにかはあらむされと猶かのおにかみの」39ウ
  みゝとゝめかたふきそめにけるものなれはにや
  なま/\にまねひておもひかなはぬたくひあり
  けるのちこれをひく人よからすとかいふなんを
  つけてうるさきまゝにいまはおさ/\つたふる
  人なしとかいとくちおしきことにこそあれきむ
  のねをはなれてはなにことをかものをとゝのへ
  しる/\へとはせむけによろつのことおとろふる
  さまはやすくなりゆく世中にひとりいてはな
  れて心をたてゝもろこしこまとこの世にま
  とひありきおやこをはなれむことは世中に
  ひかめるものになりぬへしなとかなのめにて」40オ
  猶このみち越かよはししるはかりのはしをは
  しりをかさらむしらへひとつにてをひきつく
  さむことたにはかりもなきものなゝりいはんや
  おほくのしらへわつらはしきこくおほかる越
0166【こく】-曲
  心にいりしさかりにはよにありと(と+あり)こゝにつた
  はりたるふといふものゝかきりをあまねく見
0167【ふ】-譜
  あはせてのち/\はしとすへき人もなくてなむ
  このみならひしかと猶あかりての人にはあたる
  へくもあらしをやましてこのゝちといひては
  つたはるへきすゑもなきいとあはれになむ」40ウ
0168【つたはるへきすゑ】-源ノ御弟子ニキヨフナルナキ也
  なとの給へは大将けにいとくち越しくはつか
  しとおほすこのみこたちの御なかにおも
  ふやうにおいゝて給ものし給はゝそのよになむ
  そもさまてなからへとまるやうあらはいくはく
  ならぬてのかきりもとゝめたてまつるへき三(三=二)宮
  いまよりけしきありて見え給をなとの給へは
  あかしの君はいとおもたゝしくな(な+み)たくみてきゝ
  ゐ給へり女御の君はさうの御ことをはうへに
0169【うへ】-紫
  ゆつりきこえてよりふし給ひぬれはあつま
  をおとゝの御まへにまいりてけちかき御あそひに
  なりぬかつらきあそひ給はなやかにおもしろし」41オ
0170【かつらき】-\<朱合点>
  おとゝおりかへしうたひ給御こゑたとへむかた
  なくあい行つきめてたし月やう/\さしあかる
  まゝにはなのいろかもゝてはやされてけにいと
  心にくきほとなりさうのことは女御の御つま
  をとはいとらうたけになつかしくはゝ君の
  御けはひくはゝりてゆのねふかくいみしく
  すみてきこえつる越この御てつかひは又
  さまかはりてゆるゝかにおもしろくきく人
  たゝならすゝすろはしきまてあい行つきて
  りむのてなとすへてさらにいとかとある御ことのね」41ウ
0171【りむのて】-臨歟<右> 輪<左>
  なりかへりこゑにみなしらへかはりてりちのか
  きあはせともなつかしくいまめきたるにきむ
  はこかのしらへあまたのての中に心とゝめてかな
  らすひき給へき五六のはち越いとおもしろく
  すましてひき給さらにかたほならすいとよく
  すみてきこゆ春秋よろつのものにかよへる
  しらへにてかよはしわたしつゝひき給心しらひ
  をしへきこえ給さまたかへすいとよくわき
  まへ給へる越いとうつくしくおもたゝしく
  おもひきこえ給この君たちのいとうつくし
  くふきたてゝせちに心いれたる越らうたかり」42オ
  給てねふたくなりにたらむにこよひのあそひ
  はなかくはあらてはつかなるほとにとおもひつる
  をとゝめかたきものゝねとものいつれともなき
  越きゝわくほとのみゝとからぬたと/\しさにいた
  くふけにけり心なきわさなりやとてさうのふえ
0172【さうのふえふく君】-玉ノ子
  ふく君にかはらけさし給て御そぬきてかつ
0173【御そぬきて】-源
  け給よこふえの君にはこなたよりをり物の
0174【よこふえの君】-夕ノ子
0175【こなたより】-紫
  ほそなかにはかまなとこと/\しからぬさまに
  けしきはかりにて大将の君には宮の御方より
  さかつきさしいてゝ宮の御さうそくひとくたり
  かつけたてまつり給をおとゝあやしやものゝ」42ウ
  しをこそまつはものめかし給はめうれは
  しきことなりとの給に宮のおはします御木丁
  のそはより御ふえ越たてまつるうちわらひ給て
  とり給いみしきこまふえなりすこしふき
  ならし給へはみなたちいて給ほとに大将たち
  とまり給て御このもち給へるふえ越とりていみ
  しくおもしろくふきたて給へるかいとめてたく
  きこゆれはいつれも/\みな御てをはなれぬものゝ
  つたへ/\いとになくのみあるにてそわか御さえの
0176【わか御さえの】-源ノ心
  ほとありかたくおほししられける大将殿は君た
  ち越御くるまにのせて月のすめるにまかて給」43オ
  みちすからさうのことのかはりていみしかりつる
  ねもみゝにつきてこひしくおほえ給わか
  きたのかたはこ大宮のをしへきこえ給しかと
  心にもしめ給はさりしほとにわかれたてまつ
  り給ひにしかはゆるゝかにもひきとり給はて
  おとこ君の御まへにてはゝちてさらにひき給
  はすなにこともたゝおひらかにうちおほとき
  たるさましてことものあつかひをいとまなく
  つき/\し給へはおかしきところもなくおほゆ
  さすかにはらあしくてものねたみうちしたる
  あい行つきてうつくしき人さまにそものし」43ウ
  給める院はたいへわたり給ひぬうへはとまり給て
0177【うへは】-紫
  宮に御物かたりなときこえ給てあか月にそ
  わたり給へる日たかうなるまておほとのこもれり
  宮の御ことのねはいとうるさ(さ=せイ)くなりにけりないかゝ
0178【いとうるさくなり】-コヽニハウルハシキ心
  きゝ給しときこえ給へははしめつかたあなたに
0179【はしめつかた】-紫
  てほのきゝしはいかにそやありし越いとこよ
  なくなりにけりいかてかはかくこと/\なくをしへ
  きこえ給はむにはといらへきこえ給さかして
  越とる/\おほつかなからぬものゝしなりかしこれ
0180【これかれに】-源
  かれにもうるさくわつらはしくていとまいるわ
  さなれは越しへたてまつらぬを院にもうちにも」44オ
  きむはさりともならはしきこゆらんとの給と
  きくかいとおしくさりともさはかりのことをた
  にかくとりわきて御うしろみにとあつけ給へる
  しるしにはとおもひおこしてなむなときこ
  え給ついてにもむかしよつかぬほと越あつか
  ひおもひしさまそのよにはいとまもありかた
  くて心のとかにとりわきをしへきこゆることな
  ともなくちかきよにもなにとなくつき/\ま
  きれつゝすくしてきゝあつかはぬ御ことのねの
  いてはへしたりしもめむほくありて大将のいたく
  かたふきおとろきたりしけしきもおもふやう」44ウ
  にうれしくこそありしかなときこえ給かや
  うのすちもいまはまたおとな/\しく宮たち
  の御あつかひなとゝりもちてし給さまも
  いたらぬことなくすへてなにことにつけてもゝ
  とかしくたと/\しきことましらすありかた
  き人の御ありさまなれはいとかくゝしぬる人は
0181【くしぬる人】-具
  よにひさしからぬためしもあなるをとゆゝしき
  まておもひきこえ給さま/\なる人のありさま
  を見あつめ給まゝにとりあつめたらひたる
  ことはまことにたくひあらしとのみおもひき
  こえ給へりことしは卅七にそなり給見たて」45オ
0182【見たてまつり給しとし月のこと】-養育ノ時ノコト
  まつり給しとし月のことなともあはれにお
  ほしいてたるついてにさるへき御いのりなとつ
  ねよりもとりわきてことしはつゝしみ給へ
  ものさはかしくのみありておもひいたらぬこと
0183【ものさはかしく】-コトシケク源ノ御乱コトアルトモト也
  もあらむを猶おほしめくらしておほきなる
0184【おほきなることゝも】-大徳
  ことゝもゝし給はゝ越のつからせさせてむこそ
0185【こそうつ】-北山ノナニカシ僧都
  うつのものし給はすなりにたるこそいとくち越
  しけれおほかたにてうちたのまむにもいと
  かしこかりし人をなとの給(給+ひ)いつみつからは
0186【みつからは】-源ノ御コト
  越さなくより人にことなるさまにてこと/\
  しくおひいてゝいまのよのおほえありさま」45ウ
  きしかたにたくひすくなくなむありけるされと
  又よにすくれてかなしきめを見るかたも人に
0187【かなしきめを】-須磨ノコト
  はまさりけりかしまつはおもふ人にさま/\を
  くれのこりとまれるよはひのすゑにもあかすか
0188【あかすかなし】-桐心之コト
  なしとおもふことおほくあちきなくさるまし
  きことにつけてもあやしくものおもはしく
  心にあかすおほゆることそひたる身にてすきぬれは
  それにかへてやおもひしほとよりはいまゝても
  なからふるならむとなむおもひしらるゝ君の御身
0189【君の御身】-紫ヲサシテ
  にはかのひとふしのわかれよりあなたこなたも
0190【ひとふし】-スマノコト
  のおもひとて心みたり給はかりのことあらしと」46オ
  なむおもふきさきといひましてそれより
  つき/\はやむことなき人といへとみなかならす
  やすからぬものおもひそふわさなりたかき
  ましらひにつけても心みたれ人にあらそふお
  もひのたえぬもやすけなき越おやのまとの
  うちなからすくし給へるやうなる心やすきことは
  なしそのかたひと(ひと=一人イ)にすくれたりけるすくせとは
  おほしゝるやおもひのほかにこの宮のかくわた
0191【この宮】-女三
  りものし給へるこそはなまくるしかるへけれと
  それにつけてはいとゝくはふる心さしのほと越
  御身つからのうへなれはおほしゝらすやあらむ」46ウ
  ものゝ心もふかくしり給めれはさりともとなむ
  おもふときこえ給へはの給やうにものはかなき身
0192【の給やうに】-紫
  にはすきにたるよそのおほえはあらめと心にた
0193【すきにたる】-過歟
  へぬものなけかしさのみうちそふやさはみつから
0194【さは】-サレハノ心
  のいのりなりけるとてのこりおほけなるけはひ
0195【いのりなりける】-物思カ我身ノ祈請トナルト也
  はつかしけなりまめやかにはいとゆくさきすくな
  き心ちする越ことしもかくしらすかほにてす
0196【ことし】-今年
  くすはいとうしろめたくこそさき/\もきこゆ
0197【きこゆること】-出家コト
  ることいかて御ゆるしあらはときこえ給それは
0198【それは】-源
  しもあるましきことになむさてかけはなれ
  給ひなむよにのこりてはなにのかひかあらむ」47オ
  たゝかくなにとなくてすくるとし月なれとあ
  けくれのへたてなきうれしさのみこそます
  ことなくおほゆれな越おもふさまことなる
  心のほと越見はて給へとのみきこえ給をれい
0199【れいのこと】-紫心
  のことゝ心やましくてなみたくみ給へるけしき
  越いとあはれとみたてまつり給てよろつにき
0200【いとあはれと】-源心
  こえまきらはし給おほくはあらねと人の
0201【おほくはあらねと】-人ノヒヤウハン也
  ありさまのとり/\にくち越しくはあらぬを見し
  りゆくまゝにまことの心はせおひらかにおちゐた
  るこそいとかたきわさなりけれとなむおもひは」47ウ
  てにたる大将のはゝ君越おさなかりしほとに
  見そめてやむことなくえさらぬすちにはおも
  ひしをつねに中よからすへたてある心ちして
  やみにしこそいまおもへはいとおしくゝやしく
  もあれ又わかあやまちにのみもあらさりけり
0202【わかあやまちにのみもあらさりけり】-葵ノ心クツロカサリシコト
  なと心ひとつになむおもひいつるうるわしく
  おもりかにてそのことのあかぬかなとおほゆる
  こともなかりきたゝいとあまりみたれたる
  ところなくすく/\しくすこしさかしとやいふ
0203【すく/\しく】-驀直<マツスク>
  へかりけむとおもふにはたのもしくみるにはわつ
0204【たのもしくみるには】-夫婦ニテハトケヌ心
  らはしかりし人さまになむ中宮の御はゝ宮」48オ
  すところなむさまことに心ふかくなまめかしき
  ためしにはまつおもひいてらるれと人みえ
0205【人みえにくゝ】-心トリニクキ人也
  にくゝくるしかりしさまになむありしうら
  むへきふしそけにことはりとおほゆるふし越
  やかてなかくおもひつめてふかくゑんせられ
  し(し=ぬイ)こそいとくるしかりしか心ゆるひなくはつ
  かしくてわれも人もうちたゆみあさゆふの
  むつひをかはさむにはいとつゝましきところの
  ありしかはうちとけては見おとさるゝことや
  なとあまりつくろひしほとにやかてへたゝり」48ウ
  し中そかしいとあるましきな越たちて
  みのあは/\しくなりぬるなけきをいみしく
  おもひしめ給へりしかいとおしくけにひとか
  ら越おもひしもわれつみある心ちしてやみ
  にしなくさめに中宮越かくさるへき御ちき
0206【さるへき御ちきり】-冷トノ契サルコトナレ共ト也
  りとはいひなからとりたてゝよのそしり
  人のうらみをもしらす心よせたてまつるを
  かの世なからも見なをされぬらんいまもむかし
0207【かの世なからも】-後世ニテモ也
  もなをさりなる心のすさひにいとおしくゝや
  しきこともおほくなむときしかたの人の御
  うへすこしつゝの給いてゝうちの(の+御方の)御うしろみは」49オ
0208【うちの御方の御うしろみ】-女御ノ御後見明石上ノコト
  なにはかりのほとならすとあなつりそめて心や
  すきものにおもひしを猶心のそこみえす
  きはなくふかき所ある人になんうわへは人に
  なひきおひらかに見えなからうちとけぬけし
  きしたにこもりてそこはかとなくはつかし
  き所こそあれとの給へはこと人は見ねはしらぬ
0209【こと人】-紫
  をこれはまほならねとをのつからけしき見る
  おり/\もあるにいとうちとけにくゝ心はつかし
  きありさましるき越いとたとしへなきうら
  なさ越いかに見給らんとつゝましけれと女御は」49ウ
0210【いかに見給らん】-源ノ紫ヲモイカニ思給ト我テニノ詞
  をのつからおほしゆるすらむとのみ思てなんと
0211【おほしゆるすらむ】-源ノ女御ヲ明石上ノ如ト見給ユルスラント紫心
  の給さはかりめさましと心をき給へりし人を
0212【さはかり】-源心
0213【めさましと】-明石上ヲ恥カシク紫ノ思給シヲ今カク互ニアリ女御ヲ思給ユヘト也
  いまはかくゆるしてみえかはしなとし給も
  女御の御ためのま心なるあまりそかしとおほす
  にいとありかたけれは君こそはさすかにくま
0214【君こそは】-紫ノコトヲホメ給詞
  なきにはあらぬものから人によりことにした
  かひいとよくふたすちに心つかひはし給けれ
  さらにこゝと(と$ら)みれと御ありさまにゝたる人はなか
  りけりいとけしきこそものし給へとほゝゑみ
0215【けしきこそ】-嫉妬ノ心ハナク也
  てき(き+こ)え給宮にいとよくひきとり給へりし
0216【よくひきとり】-琴
  ことのよろこひきこえむとてゆふつかたわたり」50オ
  給ひぬわれに心をく人やあらんともおほし
0217【われに】-女三ノ心ヲ源ノ心
  たらすいといたくわかひてひとへに御ことに心い
  れておはすいまはいとまゆるしてうちやすま
0218【いまは】-女三ヘ源詞
  せ給へかしものゝしは心ゆかせてこそいとくるし
0219【心ゆかせて】-琴ヲ心ニ入給テオホエ給ト也
  かりつるひころのしるしありてうしろやすく
  なり給にけりとて御ことゝもをしやりておほと
  のこもりぬたいにはれいのおはしまさぬよはよ
  ひゐし給てひと/\にものかたりなとよませて
  きゝ給かくよのたとひにいひあつめたるむかし
  かたりともにもあたなるおとこいろこのみふた」50ウ
  心ある人にかゝつらひたるをんなかやうなる
0220【かやうなること】-フルキモノ語ノコト
  こと越いひあつめたるにもついによるかたあり
0221【よるかたありて】-\<朱合点>「よるかたもありといふなり(り$る)ありそ/海に/たつ白なみのおなし所に」(付箋06 出典未詳、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
  てこそあめれあやしくうきてもすくしつる
  ありさまかなけにの給つるやうにひとよりこと
0222【の給つるやうに】-源ノヽ給ヤウニ人メハカリハヨキト也
  なるすくせもありける身なからひとのしのひ
  かたくあかぬことにするものおもひはなれぬ身
0223【あかぬこと】-嫉妬ノコト
  にてやゝみなむとすらんあちきなくもあるかな
  なとおもひつゝけてよふけておほとのこもりぬる
  あか月かたより御むねをなやみ給人/\みたてま
  つりあつかひて御せうそこきこえさせむと
0224【御せうそこ】-源ヘ也
  きこゆる越いとひんないことゝせいし給てたえ」51オ
  かたき越おさへてあかし給つ御身もぬるみて
  御心ちもいとあしけれと院もとみにわたり給
  はぬほとかくなむともきこえす女御の御方
0225【女御の御方】-明石
  より御せうそくあるにかくなやましくてなむと
  きこえ給へるにおとろきてそなたよりきこ
  え給へるにむねつふれていそきわたり給へるに
  いとくるしけにておはすいかなる御心ちそとて
  さくりたてまつり給へはいとあつくおはすれは
  きのふきこえ給し御つゝしみのすちなとおほし
  あはせ給ていとおそろしくおほさる御かゆなと
0226【御かゆなと】-源ヘ也
  こなたにまいらせたれと御覧しもいれすひゝとひ」51ウ
  ひ(ひ$)そひおはしてよろつにみたてまつりなけ
  き給はかなき御くたものをたにいとものうく
  し給ておきあかり給ことたえてひころへぬ
  いかならむとおほしさはきて御いのりともかすし
  らすはしめさせ給そうめして御かちなとせさ
  せ給そこところともなくいみしくゝるしくし
  給てむねはとき/\おこりつゝわつらひ給さま
  たへかたくゝるしけなりさま/\の御つゝしみ
  かきりなけれとしるしも見えすをもしとみれと
  越のつからをこたるけちめあらはたのもしきを
  いみしく心ほそくかなしと見たてまつり給に」52オ
  こと/\おほされねは御かのひゝきもしつまり
0227【御かのひゝき】-朱雀院
  ぬかの院よりもかくわつらひ給よしきこし
0228【かの院】-朱
  めして御とふらひいとねむころにたひ/\きこ
  え給おなしさまにて二月もすきぬいふかきりな
  くおほしなけきて心みに所をかへ給はむとて
  二条の院にわたしたてまつり給つ院のうち
  ゆすりみちておもひなけく人おほかり冷泉院
  もきこしめしなけくこの人うせ給はゝ院も
  かならす世をそむく御ほいとけ給てむと大将の
  君なとも心をつくして見たてまつりあつかひ」52ウ
  給みすほうなとはおほかたのをはさるものに
  てとりわきてつかうまつらせ給いさゝかもの
  おほしわくひまにはきこゆることをさも心う
0229【きこゆること】-紫ノ出家ノコト
  くとのみうらみきこえ給へとかきりありてわ
  かれはて給はむよりもめのまへにわか心とやつ
  しすて給はむ御ありさまを見てはさらにかた
  時たふましくのみおしくかなしかるへけれはむかし
  より身つからそかゝるほいふかきをとまりて
  さう/\しくおほされん心くるしさにひかれつゝ
  すくすをさかさまにうちすて給はむとやおほす
  とのみおしみきこえ給にけにいとたのみかたけに」53オ
  よはりつゝかきりのさまに見え給おり/\おほ
  かるをいかさまにせむとおほしまとひつゝ宮の
  御方にもあからさまにわたり給はす御ことゝもゝ
  すさましくてみなひきこめられ院のうちの
  人/\はみなあるかきり二条の院につとひまい
  りてこの院には火をけちたるやうにてたゝをん
  なとちおはして人ひとり(り+の)御けはひなりけりとみ
0230【人ひとり】-紫コト
  ゆ女御の君もわたり給てもろともにみたてまつ
  りあつかひ給たゝにもおはしまさてものゝけ
0231【たゝにもおはしまさて】-紫詞 御懐妊
  なといとおそろしき越はやくまいり給ねとくる」53ウ
  しき御心ちにもきこえ給わか宮のいとうつ
  くしうておはしますを見たてまつり給ても
  いみしくなき給ておとなひ給はむ越え見たて
0232【おとなひ給はむ】-女一宮
  まつらすなりなむことわすれ給なむかしとの給へは
  女御せきあへすかなしとおほしたりゆゝしくかく
0233【ゆゝしくかく】-源
  なおほしそさりともけしうはものし給はし
  心によりなむ人はともかくもあるをきてひろき
0234【心によりなむ】-心モチカラ病ナヲルト也
  うつはものにはさいはひもそれにしたかひせ
  はき心ある人はさるへきにてたかきみとなりても
  ゆたかにゆ(ゆ+る)へるかたはをくれきうなる人はひさ
  しくつねか(か$な)らす心ぬるくなたらかなる人はなかき」54オ
  ためしなむおほかりけるなとほとけ神にもこの
  御心はせのありかたくつみかろきさまを申
  あきらめさせ給みすほうのあさりたちよゐ
  なとにてもちかくさふらふかきりのやむこと
  なきそうなとはいとかくおほしまとへる御けは
  ひをきくにいといみしく心くるしけれは心を
  おこしていのりきこゆすこしよろしきさま
  にみえ給時五六日うちませつゝ又をもりわつ
  らひ給こといつとなくて月日をへ給はなをいか
  におはすへきにかよかるましき御心ちにやとおほ
  しなけく御ものゝけなといひていてくるもなし」54ウ
  なやみ給さまそこはかとみえすたゝひにそ
  へてよはり給さまにのみゝゆれはいとも/\かな
  しくいみしくおほすに御心のいとまもなけなり
  まことや衛もんのかみは中納言になりにきかし
  いまの御よにはいとしたしくおほされていと
  ときのひとなりみのおほえまさるにつけても
  おもふことのかなはぬうれわしさ越おもひわひ
  てこの宮の御あねの二の宮越なむえたてまつ
0235【御あねの二の宮】-オチハノ宮
  りてける下らうのかういはらにおはしましけれは
0236【下らうのかうい】-一条御息所
  心やすきかたましりておもひきこえ給へり
  人からもなへての人におもひなすらふれは」55オ
  けはひこよなくおはすれともとよりしみに
0237【しみにしかた】-女三
  しかたこそな越ふかゝりけれなくさめかた
0238【なくさめかたきをはすて】-「わか心なくさめかねつさらし/なや/をはすて山にてる月をみて」(付箋07 古今878・新撰和歌257・古今六帖320・大和物語261、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
  きをはすてにて人めにとかめらるましきはかりに
  もてなしきこ江給へりな越かのしたの心わす
  られすこしゝうといふかたらひ人は宮の御しゝう
  のめのとのむすめなりけりそのめのとのあねそ
  かのかむのきみの御めのとなりけれははやくより
0239【かむのきみ】-柏木ノコト
  けちかくきゝたてまつりてまた宮おさなく越
  はしましゝときよりいときよらぬ(ぬ$に)なむおはし
  ますみかとのかしつきたてまつり給さまなと
  きゝをきたてまつりてかゝるおもひもつき」55ウ
  そめたるなりけりかくて院もはなれおはし
0240【院】-源
  ますほとひとめすくなくしめやかならむをゝ
  しはかりてこしゝうをむかへとりつゝいみしう
  かたらふむかしよりかくいのちもたふましく
  おもふこと越かゝるしたしきよすかありて御
  ありさま越きゝつたへたえぬ心のほと越もき
  こしめさせてたのもしきにさらにそのしるし
  のなけれはいみしくなむつらき院のうへたに
0241【院のうへ】-朱
  かくあまたにかけ/\しくて人にをされ給やう
  にてひとりおほとのこもるよな/\おほくつれ/\
  にてすくし給なりなと人のそうしけるついて」56オ
  にもすこしくいおほしたる御けしきにておな
  しくはたゝ人の心やすきうしろみをさためむ
  にはまめやかにつかうまつるへき人をこそさた
  むへかりけれとの給はせて女二宮のなか/\うしろ
  やすくゆくすゑなかきさまにてものし給なる
0242【ゆくすゑなかきさまにて】-柏ノ心ハタカハシト朱ノヽ給ト人ノツケル也
  ことゝの給はせけるをつたへきゝしにいとをしく
  もくちをしくもいかゝおもひみたるゝけにお
  なし御すちとはたつねきこえしかとそれはそれ
  とこそおほゆるわさなりけれとうちうめき給へは
  こしゝういてあなおほけなそれをそれとさし
0243【それを】-女二ノコト
  をきたてまつり給てまたいかやうにかきりな」56ウ
  き御心ならむといへはうちほゝゑみてさこそは
  ありけれ宮にかたしけなくきこえさせを
0244【宮】-女二
  よひけるさまは院にもうちにもきこし
  めしけりなとてかはさてもさふらはさらま
0245【さてもさふらはさらまし】-女三ヲ柏ニモト前ハノ給シト也
  しとなむことのついてにはの給はせけるいてや
  たゝいますこしの御いたはりあらましかはなと
0246【いますこしの御いたはり】-女二ノ給ホトナラハ女三ヲトノ心
  いへはいとかたき御事なりや御すくせとかいふこと
0247【いとかたき御事なりや】-小侍従
  はへなるをもとにてかの院のこと(と+に)いてゝねむころ
  にきこえ給にたちならひさまたけきこえ
  させ給へき御身のおほえとやおほされし
0248【御身のおほえ】-柏ノコト
  このころこそすこしもの/\しく御そのいろも」57オ
0249【御そのいろ】-三位ノ色ハコキ紫
  ふかくなり給へれといへはいふかひなくはやりか
0250【いふかひなく】-柏
  なるくちこは(は+さにえいひはてたまはていまはよしすきにし)かたをはきこえしやたゝかく
  ありかたきものゝひまにけちかきほとにて
  このころのうちにおもふことのはしすこし
  きこえさせつへくたはかり給へおほけなき
  心はすへてよしみ給へいとおそろしけれはおも
  ひはなれてはへりとの給へはこれよりおほけなき
0251【これよりおほけなき】-小侍従
  心はいかゝはあらむいとむくつけきことをもおほし
  よりけるかなゝにしにまいりつらんとはちふく
  いてあなきゝにくの(の$)あまりこちたくものを」57ウ
0252【いてあなきゝにく】-柏
  こそいひなし給へけれよはいとさためなきも
  のを女御きさきもあるやうありてものし
  給たくひなくやはましてその御ありさまよ
0253【その御ありさまよ】-女三
  おもへはいとたくひなくめてたけれとうち/\は
  心やましきこともおほかるらむ院のあまたの
0254【院】-朱
  御中に又ならひなきやうにならはしきこえ
0255【ならひなきやう】-女二ノコト
  給しにさしもひとしからぬきはの御かた/\に
  たちましりめさましけなることもありぬへく
  こそいとよくきゝはへりやよのなかはいとつね
0256【よのなかはいとつねなき】-\<朱合点>「恋しなはたか名ハたゝし世中の/つねなき物といひハなすとも」(付箋08 古今603・深養父集25、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
  なきものをひときはにおもひさためてはし
  たなくつきゝりなることなの給そよとの給へは」58オ
0257【つきゝりなる】-ツ キリタル心
  人におとされ給へる御ありさまとてめてたき
0258【人に】-小侍従
  かたにあらため給へきにやはゝへらむこれはよの
  つねの御ありさまにもはへらさめりたゝ御うし
  ろみなくてたゝよはしくおはしまさむよりは
  おやさまにとゆつりきこえ給しかはかたみにさ
  こそおもひかはしきこえさせ給ためれあい
  なき御おとしめことになんとはて/\ははらたつを
  よろつにいひこしらへてまことはさはかりよに
0259【よろつに】-柏
  なき御ありさまを見たてまつりなれ給へる御心に
0260【御ありさまを】-源ノコト
  かすにもあらすあやしきなれすかたをうちとけ
  て御らんせられむとはさらにおもひかけぬことなり」58ウ
  たゝひとことものこしにてきこえしらすはかり
  はなにはかりの御身のやつれにかはあらんかみ
  ほとけにもおもふ事申すはつみあるわさかは
  といみしきちかことをしつゝの給へはしはし
0261【ちかこと】-誓
0262【しはしこそ】-小侍従
  こそいとあるましきことにいひかへしけれもの
  ふかゝらぬわか人はひとのかく身にかへていみしく
  おもひの給ふをえいなひはてゝもしさりぬへき
  ひまあらはたはかりはへらむ院のおはしまさ
  ぬよは御丁のめくりに人おほくさふらひてお
  ましのほとりにさるへき人かならすさふらひ給
  へはいかなるおりをかはひまを見つけはへるへか覧」59オ
  とわひつゝまいりぬいかに/\とひゝにせめられこ
0263【こうして】-功
  うしてさるへきおりうかゝひつけてせうそこ
  しをこせたりよろこひなからいみしくやつ
0264【なから】-ツヽノ心
  れしのひておはしぬまことにわか心にもいとけ
  しからぬことなれはけちかくなか/\おもひみたるゝ
0265【けちかくなか/\】-ソハチカクマテハ思ヨラヌト也
  こともまさるへきことまてはおもひもよらすたゝ
  いとほのかに御そのつまはかりをみたてまつりし
  春のゆふのあかすよとゝもにおもひいてられ給
  御ありさまをすこしけちかくて見たてまつり
  おもふことをもきこえしらせてはひとくたりの」59ウ
  御かへりなともや見せ給あはれとやおほししる
  とそおもひける四月十よ日はかりのことなりみそ
  きあすとてさい院にたてまつり給女房十二人
  ことに上らうにはあらぬわかき人わらはへなと越
  のかしゝものぬひけさうなとしつゝもの見むと
  おもひまうくるもとり/\にいとまなけにて御前
  のかたしめやかにて人しけからぬおりなりけり
  ちかくさふらふあせちの君もとき/\かよふ源
0266【あせちの君も】-女三ノ御方ヘ
0267【源中将】-アセチニ通人
  中将せめてよひいたさせけれはおりたるまに
  たゝこのしゝうはかりちかくはさふらふなりけり
  よきおりとおもひてやをら御帳のひ(ひ+む)かし」60オ
  おもてのおましのはしにすゑつさまてもあるへ
0268【さまてもあるへきことなりや】-柏ノ心ニモレウシト思給心
  きことなりやは宮はなに心もなくおほとのこもり
  にける越ちかくおとこのけはひのすれは院のおは
  するとおほしたるにうちかしこまりたるけし
  き見せてゆかのしもにいたきおろしたて
  まつるにものにをそはるゝかとせめて見あけ
  給へれはあらぬ人なりけりあやしくきゝも
0269【きゝもしらぬ】-柏ノヽ給コト
  しらぬことゝもをそきこゆるやあさましく
  むくつけくなりて人めせとちかくもさふら
  はねはきゝつけてまいるもなしわなゝき給さま」60ウ
  みつのやうにあせもなかれてものもおほえ給は
  ぬけしきいとあはれにらうたけなりかすならね
0270【かすならねと】-柏詞
  といとかうしもおほしめさるへきみとはおもふ
  給へられすなむむかしよりおほけなき心のはへ
  りしをひたふるにこめてやみはへなましかは心
  のうちにくたしてすきぬへかりける越なか/\
  もらしきこえさせて院にもきこしめされに
  しをこよなくもてはなれてもの給はせ
  さりけるにたのみ越かけそめはへりて身のかす
  ならぬひときはにひとよりふかき心さし越
  むなしくなしはへりぬることゝうこかしはへ」61オ
  りにし心なむよろついまはかひなきことゝ
  おもふたまへかへせといかはかりしみはへりにけ
  るにかとし月にそへてくち越しくもつらく
  もむくつけくもあはれにもいろ/\にふかく
  おもふたまへまさるにせきかねてかくおほけ
  なきさま越御覧せられぬるもかつはいと
  おもひやりなくはつかしけれはつみをもき
0271【つみをもき】-宮事アルマシト也
  こゝろもさらにはへるましといひもてゆくに
  この人なりけりとおほすにいとめさましく
  おそろしくてつゆいらへもし給はすいとこと」61ウ
  わりなれとよにためしなきことにもはへらぬを
  めつらかになさけなき御心はへならはいと心うく
  て中/\ひたふるなる心もこそつきはへれあ
0272【ひたふるなる心】-フツル心
  はれとたにの給はせはそれをうけ給はりて
  まかてなむとよろつにきこえ給よそのおもひ
  やりはいつくしくものなれてみえたてまつら
0273【いつくしく】-女三ノ御体
  むもはつかしくをしはかられ給にたゝかは
  かりおもひつめたるかたはしきこえしらせて
  なか/\かけ/\しきことはなくてやみなむとおも
0274【かけ/\しき】-来心
  ひしかといとさはかりけたかうはつかしけには」62オ
  あらてなつかしくらうたけにやは/\とのみ
  見え給御けはひのあてにいみしくおほゆる
  事そ人にゝさせ給はさりけるさかしくおも
  ひしつむる心もうせていつちも/\ゐてか
  くしたてまつりてわか身もよにふるさま
  ならすあとたえてやみなはやとまておもひ
  みたれぬたゝ(たゝ=さて)いさゝかまとろむともなきゆめ
  にこのてならしゝねこのいとらうたけにうち
  なきてきたる越この宮にたてまつらんとて
  わかゐてきたるとおほしき越なにしに」62ウ
0275【なにしに】-形見トヲシム心
  たてまつりつらむとおもふほとにおとろきて
  いかに見えつるならむとおもふ宮はいとあさま
  しくうつゝともおほえ給はぬにむねふたか
  りておほしおほゝるゝをなをかくのかれぬ
0276【なをかくのかれぬ】-柏
  御すくせのあさからさりけるとお(お+も)ほしなせ身
  つからの心なからもうつし心にはあらすなむ
  おほえはへるかのおほえなかりしみすのつまを
  ねこのつなひきたりしゆふへ(へ+の)こともきこえ
  いてたりけにさはたありけむよとくちおしく
  ちきり心うき御身なりけり院にもいまはいかてかは」63オ
  見えたてまつらんとかなしく心ほそくていと
  おさなけになき給をいとかたしけなくあはれと
  見たてまつりてひとの御なみたをさへのこふ
  そてはいとゝつゆけさのみまさるあけゆく
  けしきなるにいてむかたなくなか/\なりいかゝ
  はしはへるへきいみしくにくませ給へは又き
  こえさせむこともありかたき越たゝひと
  こと御こゑをきかせ給へとよろつにきこえ
  なやますもうるさくわひしくてものゝさ
  らにいはれ給はねははて/\はむくつけくこそ」63ウ
  なりはへりぬれまたかゝるやうはあらしといと
0277【またかゝるやうは】-柏
  うしとおもひきこえてさらはふようなめり
0278【ふよう】-不用
  身越いたつらにやはなしはてぬいとすてかたき
0279【身をいたつらに】-\<朱合点>
  によりてこそかくまてもはへれこよひにかき
  りはへりなむもいみしくなむつゆにても御心
  ゆるし給さまなと(と$ラ)はそれにかへつるにても
0280【それにかへつる】-命ノコト
  すてはへりなましとてかきいたきていつるには
  てはいかにしつるそとあきれておほさるすみ
  のまの屏風をひきひろけてとをゝしあけ
  たれはわたとのゝみなみのとのよへいりしかまた」64オ
  あきなからあるにまたあけくれのほとなるへ
  しほのかに見たてまつらんの心あれはかう
  しをやをらひきあけてかういとつらき御
  心にうつし心もうせはへりぬすこしおもひ
  のとめよとおほされはあはれとたにの給はせ
  よとをとしきこゆる越いとめつらかなりとお
  ほしてものもいはむとし給へとわなゝかれて
  いとわか/\しき御さまなりたゝあけにあけゆ
  くにいと心あはたゝしくてあはれなるゆめかたり
  もきこえさすへき越かくにくませ給へはこそ」64ウ
  さりともいまおほしあはすることもはへりな
  むとてのとかならすたちいつるあけくれ秋の
  そらよりも心つくしなり
    越きてゆくそらもしられぬあけくれに
  いつくの露のかゝるそてなりとひきいてゝ
  うれへきこゆれはいてなむとするにすこし
  なくさめ給て
0281【なくさめ給て】-ウレシク思給也
    あけくれのそらにうきみはきえなゝむゆめ
  なりけりと見てもやむへくとはかなけにの給
  こゑのわかくおかしけなるをきゝさすやうにて
  いてぬるたましひはまことに身をはなれてとま」65オ
  りぬる心ちす女宮の御もとにもまうて給はて
0282【女宮】-女二ノコト
  大殿へそしのひておはしぬるうちふしたれと
  めもあはす見つるゆめのさたかにあはむことも
  かたき越さへおもふにかのねこのありしさまいと
  こひしく思ひいてらるさてもいみしきあやま
  ちしつるみかなき(き$)よにあらむことこそまはゆ
  くなりぬれとおそろしくそらはつかしき
0283【そらはつかしき】-ヲソロシキ心
  心ちしてありきなともし給はす女のためはさ
  らにもいはすわか心ちにもいとあるましきことゝ
  いふ中にもむくつけくおほゆれはおもひの」65ウ
  まゝにもえまきれありかすみかとの御めをも
0284【御め】-ミ
  とりあやまちてことのきこえあらむにかはかり
  おほえむことゆへは身のいたつらにならむくるしく
  おほゆましゝかいちしるきつみにはあたらすと
0285【いちしるき】-キツトシタル心
  もこの院にめをそはめられたてまつらむことは
  いとおそろしくはつかしくおほゆかきりなき
0286【かきりなきをむな】-世人ヲ云 ハカナキ女トイヘ共
  をむなときこゆれとすこしよつきたる心はへ
  ましりうはへはゆへありこめかしきにもしたかはぬ
  したの心そひたるこそとあることかゝることにうち
0287【こそとあること】-コソヲウヘニ付テミヨト
  なひき心かはし給たくひもありけれこれはふか
  き心もおはせねとひたおもむきにものをちし」66オ
  給へる御心にたゝいましも人の見きゝつけたらむ
  やうにまはゆくはつかしくおほさるれはあかき
  ところにたにえゐさりいて給はすいとくち越
  しき身なりけりとみつからおほしゝるへし
  なやましけになむとありけれはおとゝきゝ給て
0288【なやましけに】-女三
  いみしく御心をつくし給御ことにうちそへて又
0289【御心を】-紫コト
  いかにとおとろかせ給てわたり給へりそこはかと
  くるしけなることもみえ給はすいといたくはち
  らひしめりてさやかにも見あはせたてまつり給
  はぬをいとひさしくなりぬるたえま越うらめしく
  おほすにやといとおしくてかの御心ちのさまなと」66ウ
0290【御心ち】-紫コト
  きこえ給ていまはのとちめにもこそあれいま
  さらにをろかなるさま越見えをかれしとてなむ
  いわけなかりしほとよりあつかひそめて見はな
  ちかたけれはかうつきころよろつをしらぬ
  さまにすくしはへるそをのつからこのほとすき
  は見なおし給てむなときこえ給かくけしき
0291【かく】-女三心
0292【けしきも】-柏心
  もしり給はぬもいとおしく心くるしくおほされ
  て宮は人しれすなみたくましくおほさるかむの
  君はましてなか/\なる心ちのみまさりておき
  ふしあかしくらしわひ給まつりの日なとはもの
  見にあらそひゆくきむたちかきつれきていひ」67オ
  そゝのかせとなやましけにもてなしてなかめふし
  給へり女宮をはかしこまりをきたるさまに
0293【女宮】-女二
  もてなしきこえておさ/\うちとけても見えたて
  まつり給はすわかゝたにはなれゐていとつれ/\に
  心ほそくなかめゐ給へるにわらはへのもたるあふひを
  見給て
    くやしくそつみをかしけるあふひくさかみ
0294【くやしくそ】-柏
  のゆるせるかさしならぬにとおもふもいとなか/\なり
  世中しつかならぬくるまのをとなと越よそのことに
  きゝて人やりならぬつれ/\にくらしかたくお
  ほゆる女宮もかゝるけしきのすさましけさも」67ウ
0295【女宮】-女二心
0296【けしき】-柏体
  見しられ給へはなにことゝはしり給はねとはつか
  しくめさましきにものおもはしくそおほさ
  れける女房なともの見にみないてゝ人すくなに
  のとやかなれはうちなかめてさうのことなつかし
0297【さうのことなつかしく】-女二
  くひきまさくりておはするけはひもさすかに
  あてになまめかしけれとおなしくはいまひとき
  はをよはさりけるすくせよとなをおほゆ
    もろかつらおちはをなにゝひろひけむなは
  むつましきかさしなれともとかきすさひゐ
  たるいとなめけなるしりうことなりかしおとゝ
0298【なめけなる】-無礼ノ心
0299【おとゝの君】-源
  の君はまれ/\わたり給てえふともたちかへり給はす」68オ
  しつ心なくおほさるゝにたえいり給ひぬとてひと
0300【たえいり給ひぬ】-紫ノセツシ也
  まいりたれはさらになにこともおほしわかれす御
  心もくれてわたり給みちのほとの心もとなきに
  けにかの院はほとりのおほちまてひとたち
0301【かの院】-二条院
  さはきたりとのゝうちなきのゝしるけはひいと
  まか/\しわれにもあらていり給へれはひころは
  いさゝかひま見え給へる越にはかになむかくおは
  しますとてさふらふかきりはわれもをくれた
  てまつらしとまとふさまともかきりなしみす
  ほうとものたむこほちそうなともさるへきかき
  りこそまかてねほろ/\とさわく越見給にさらは」68ウ
  かきりにこそはとおほしはへるあさましさに
  なにことかはたくひあらむさりともゝのゝけの
  するにこそあらめいとかくひたふるになさはき
  そとしつめ給ていよ/\いみしきくわんとも越
  たてそへさせ給すくれたるけむさとものかき
  りめしあつめてかきりある御いのちにてこのよつ
  き給ひぬともたゝいましはしのとめ給へふとう
  そんの御本のちかひありそのひかすをたにかけ
  とゝめたてまつり給へとかしらよりまことにくろ
  けふりをたてゝいみしき心をおこしてかちし
  たてまつる院もたゝいまひとたひめ越見あ」69オ
  はせ給へいとあえなくかきりなりつらんほとを
  たにえ見すなりにけることのくやしくかなし
  きをとおほしまとへるさまとまり給へきにも
  あらぬを見たてまつる心ちともたゝをしは
  かるへしいみしき御心のうち越ほとけも見た
  てまつり給にや月ころさらにあらはれいて
  こぬものゝけちひさきわらはにうつりてよは
  ひのゝしるほとにやう/\いきいて給にうれ
  しくもゆゝしくもおほしさはかるいみしくてうせら
  れて人はみなさりね院ひとゝころの御みゝにきこ
  えむをのれを月ころてうしわひさせ給かな」69ウ
0302【てうし】-テウロウノ心
  さけなくつらけれはおなしくはおほしゝら
  せむとおもひつれとさすかにいのちもたう
  ましくみをくたきておほしまとふを見たて
  まつれはいまこそかくいみしきみをうけ
0303【いみしきみ】-ナニ身ニテイマ/\シキ業ト也
  たれいにしへの心のゝこりてこそかくまても
  まいりきたるなれはものゝ心くるしさ越え見す
  くさてつゐにあらはれぬることさらにしら
  れしとおもひつるものをとてかみをふりか
  けてなくけはひたゝのむかしみ給しものゝけ
  のさまとみえたりあさましくむくつけしと
  おほしゝみにしことのかはらぬもゆゝしけれは」70オ
  このわらはのてをとらへてひきすゑてさまあし
  くもせさせ給はすまことにその人かよからぬき
  つねなといふなるものゝた(た+は)ふれたるかなき人
  のおもてふせなることいひいつるもあなるを
  たしかなるなのりせよ又ひとのしらさらんこと
0304【ひとのしらさらんこと】-源ノ人ノシラヌコト我ハカリシリタルコトヲイヘト也
  の心にしるくおもひいてられぬへからむをいへさ
  てなむいさゝかにてもしんすへきとの給へはほろ/\
  といたくなきて
    わか身こそあらぬさまなれそれなから
  そらおほれする君はきみなりいとつらし/\
  となきさけふものからさすかにものはちした」70ウ
  るけはひかはらす中/\いとうとましく心うけれは
  ものいはせしとおほす中宮の御ことにてもいとう
0305【ものいはせし】-源ノハツカシキ心
  れしくかたしけなしとなむあまかけりても見たて
  まつれとみちことになりぬれはこのうへまてもふかく
0306【なりぬれは】-生前死後
0307【この】-子
  おほえぬにやあらん猶みつからつらしとおもひ
  きこえし心のしふなむとまるものなりけるそ
0308【しふ】-執心
  の中にもいきてのよに人よりおとしておほし
  すてしよりもおもふとちの御もの(の+かたりの)ついてに心よか
  らすにくかりしありさまをの給いてたりし
  なむいとうらめしくいまはたゝなきにおほし
  ゆるしてこと人のいひおとしめむ越たにはふき」71オ
  かくし給へとこそおもへとうちおもひし
  はかりにかくいみしきみのけはひなれはかく
0309【みのけはひ】-アラハルヽモハツカシキケハヒト也
  ところせきなりこのひとをふかくにくしと
0310【ふかくにくし】-紫コト
  おもひきこゆることはなけれとまもりつよく
  いと御あたりとをき心ちしてえちかつきまいらす
0311【御あたりとをき】-源ニモツキタケレ共ト也
  御こゑをたにほのかに(に+なんきゝ)はへるよしいまはこのつ
  みかろむはかりのわさをせさせ給へすほうと経と
  のゝしることも身にはくるしくわひしきほ
  のほとのみまつはれてさらにたうときことも
  きこえねはいとかなしくなむ中宮にもこのよし」71ウ
  越つたへきこえ給へゆめ御みやつかへのほとに
  人ときしろひそねむ心つかひ給なさい宮に
  おはしましゝころほひの御つみかるむへからむ
  くとくのこと越かならすせさせ給へいとくやしき
  ことになむありけるなといひつゝくれとものゝけに
  むかひてものかたりし給はむもかたはらいたけ
  れはふんしこめてうへをは又ことかたにしのひ
  てわたしたてまつり給かくうせ給にけりと
  いふこと世中にみちて御とふらひにきこえ給
  人/\ある越いとゆゝしくおほすけふのかへさ」72オ
0312【かへさみに】-祭ノカヘサヲミルコト
  みにいて給けるかむたちめなとかへり給みちに
  かく人の申せはいといみしくさ(くさ$き)ことにもあるか
  ないけるかひありつるさいはひ人のひかりうし
  なふひにてあめはそほふるなりけりとうちつ
  け事し給人もあり又かくたらひぬる人は
  かならすえなかゝらぬことなりなに越さくらにと
0313【なにをさくらに】-\<朱合点>「まてといふにちらてしとまる物/ならハ/なにを桜に思まさまし」(付箋09 古今70・古今六帖4197・素性集10、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
  いふゝることもあるはかゝる人のいとゝ世になから
  へてよのたのしひをつくさはかたはらの人
  くるしからんいまこそ二品宮はもとの御おほえ」72ウ
  あらはれ給はめいとおしけにをされたりつる
  御おほえ越なとうちさゝめきけり衛もんのかみ
  きのふくらしかたかりしをおもひてけふは御
  おとうとゝも左大弁とうさい将なと越くのかた
  にのせてみ給けりかくいひあへるをきくにも
  むねうちつふれてなにかうきよにひさしかる
0314【なにかうきよに】-\<朱合点>「のこりなくちるそめてたきさくら/花/有てよのなかはてのうけれは」(付箋10 古今71、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
  へきとうちすしひとりこちてかの院へみなまいり
  給たしかならぬことなれはゆゝしくやとてたゝ
  おほかたの御とふらひにまいり給へるにかく人の
  なきさはけはまことなりけりとたちさはき」73オ
0315【たちさはき給へり】-夕
  給へりしきふ卿の宮もわたり給ていといたく
  おほしほれたるさまにてそいり給人の御せう
  そこもえ申つたへ給はす大将の君なみた
  をのこひてたちいて給へるにいかに/\ゆゝし
0316【いかに/\】-柏詞
  きさまに人の申つれはしんしかたきことにて
  なむたゝひさしき御なやみをうけ給はりなけき
  てまいりつるなとの給いとをもくなりて月日へ
  給へる越このあか月よりたえいり給へりつるを
  ものゝけのしたるになんありけるやう/\いきいて
  給やうにきゝなしはへりていまなむみな人心」73ウ
  しつむめれとまたいとたのもしけなしや心く
  る(る=ル)しきことにこそとてまことにいたくなき給
  へるけしきなりめもすこしはれたり衛もん
  のかみわかあやしき心ならひにやこの君のいと
  さしもしたしからぬまゝはゝの御こと越いたく心
  しめたまへるかなとめをとゝむかくこれかれま
0317【かくこれかれ】-院
  いり給へるよしきこしめしてをもきひやう
  さのにはかにとちめつるさまなりつる越ねう
  はうなとは心もえおさめすみたりかはしく
  さはきはへりけるにみつからもえのとめす心あ
  はたゝしきほとにてなむことさらになむかく」74オ
  ものし給へるよろこひはきこゆへきとの給へり
  かむの君はむねつふれてかゝるおりのらうろう
0318【らうろう】-牢籠 ヲトロク心
  ならすはえまいるましくけはひはつかしく
  おもふも心のうちそはらきたなかりけるかく
  いきいて給てのゝちしもおそろしくおほし
  て又/\いみしきほうとも越つくしてくはへ
  をこなはせ給うつし人にてたにむくつけかり
0319【うつし人】-御息所ノコト
  し人の御けはひのましてよかはりあやしき
  ものゝさまになりたまへらむをおほしやるにいと
  心うけれは中宮をあつかひきこえ給さへそ」74ウ
  このおりはものうくいひもてゆけは女の身は
  みなおなしつみふかきもとゐそかしとなへて
  の世中いとはしくかの又人もきかさりし御な
  かのむつものかたり(むつものかたり=ムツコト イ)にすこしかたりいて給へり
  しこと越いひいてたりしにまことゝおほしいつ
  るにいとわつらはしくおほさる御くしおろして
  むとせちにおほしたれはいむことのちからもやとて御
  いたゝきしるしはかりはさみて五かいはかりうけ
  させたてまつり給御かいのしいむことのすくれたる
  よしほとけに申すにもあはれにたうとき」75オ
  ことましりて人わるく御かたわらにそひゐて
  なみたをしのこひ給つゝほとけをもろ心に
  ねむしきこえ給さまよにかしこくおは
  する人もいとかく御心まとふことにあたりては
  えしつめ給はぬわさなりけりいかなるわさ
  をしてこれをすくひかけとゝめたてまつら
  むとのみよるひるおほしなけくにほれ/\しき
  まて御かをもすこしおもやせ給ひにたり五月
  なとはましてはれ/\しからぬそらのけしき
  にえさはやき給はねとありしよりはすこし」75ウ
  よろしきさまなりされとなをたえすなやみ
  わたり給ものゝけのつみすくふへきわさひこ
  とにほ花経一部つゝくやうせさせ給日ことに
  なにくれとたうときわさせさせ給御まくら
0320【御まくら】-紫ノコト
  かみちかくてもふたんのみと経こゑたうとき
  かきりしてよませ給あらはれそめてはおり/\
  かなしけなることゝも越いへとさらに(に+こ)のものゝ
0321【かなしけなる】-モノヽケ
  けさりはてすいとゝあつきほとはいきもた
  えつゝいよ/\のみよはり給へはいはむかたなく
  おほしなけきたりなきやうなる御心ちにも
0322【なきやうなる】-紫心
  かゝる御けしきを心くるしくみたてまつり」76オ
  給て世中になくなりなむもわか身にはさらに
  くちおしきことのこるましけれとかくおほし
  まとふめるにむなしく見なされたてまつらむか
  いとおもひくまなかるへけれはおもひおこして
  御ゆなといさゝかまいるけにや六月になりてそ
  とき/\御くしもたけ給けるめつらしく見
  たてまつり給にも猶いとゆゝしくて六条の院
0323【ゆゝしくて】-アヤシキ心
  にはあからさまにもえわたり給はすひめ宮は
  あやしかりしことをおほしなけきしよりやかて
  れいのさまにもおはせすなやましくし給へと」76ウ
0324【れいのさまに】-クワイニン
  おとろ/\しくはあらすたちぬる月よりもの
  きこしめさていたくあおみそこなはれ給
  かの人はわりなくおもひあまるとき/\はゆめ
0325【かの人】-柏
  のやうに見たてまつりけれと宮つきせすわ
  りなきことにおほしたり院をいみしくをち
  きこえ給へる御心にありさまも人のほとも
  ひとしくたにやはあるいたくよしめきなまめき
  たれはおほかたのひとめにこそなへてのひとには
  まさりてめてらるれおさなくよりさるたくひ
  なき御ありさまにならひ給へる御心にはめさま」77オ
0326【御ありさまに】-女三ノ源ニソヒ給ヘハ柏ヲハ御心ニイカヽソマントノ心
  しくのみ見給ほとにかくなやみわたり給は
  あはれなる御すくせにそありける御めのとたち
  見たてまつりとかめて院のわたらせ給こともいと
  たまさかなる越つふやきうらみたてまつる
  かくなやみ給ときこしめしてそわたり給女君
0327【女君】-紫上ノコト
  はあつくむつかしとて御くしすましてすこし
  さはやかにもてなし給へりふしなからうちやり
  給へりしかはとみにもかはかねとつゆはかりうち
  ふくみまよふすちもなくていときよらにゆら/\
  としてあおみおとろへ給へるしもいろはさ越に」77ウ
0328【いろは】-紫コト
0329【さをにしろく】-アヲキ心
  しろくうつくしけにすきたるやうに見ゆる御
  はたつきなとよになくらうたけなりもぬけ
  たるむしのからなとのやうにまたいとたゝよは
  しけにおはすとしころすみ給はてすこし
  あれたりつる院のうちたとしへなくせはけに
0330【院】-二条院
  さへ見ゆきのふけふかくものおほえ給ひまにて
  心ことにつくろはれたるやり水前さいのうち
  つけ(け+に)心ちよけなるを見いたし給てもあはれに
  いまゝてへにける越おもほすいけはいとすゝし
  けにてはちすのはなのさきわたれるにはゝいと」78オ
  あおやかにて露きら/\とたまのやうに見えわ
  たるをか(か=あ)れ見給へをのれひとりもすゝしけ
  なるかなとの給におきあかりて見いたし給へる
  もいとめつらしけれはかくて見たてまつるこそ
  ゆめの心ちすれいみしくわか身さへかきりとお
0331【ゆめの心ち】-タエ入タル心ヲミレハト也
  ほゆるおり/\のありしはやとなみた越うけ
  ての給へは身つからもあはれとおほして
    きえとまるほとやはふへきたまさかにはち
0332【きえとまる】-紫
  すのつゆのかゝるはかりをとの給
    ちきりをかむこのよならてもはちすはに」78ウ
0333【ちきりをかむ】-源
  たまゐるつゆのこゝろへたつないてた(た$)給かたさ
0334【いて給かた】-源心
  まはものうけれとうちにも院にもきこし
  めさむところありなやみ給ときゝてもほとへぬ
  るをめにちかきに心をまとはしつるほとみたて
  まつることもおさ/\なかりつるにかゝるくもま
  にさへやはたえこもらむとおほしたちてわたり給ひ
  ぬ宮は御心のおにゝみえたてまつらんもはつかしう
  つゝましくおほすにものなときこえ給御いらへも
  きこえ給はねはひころのつもりをさすかにさり
  けなくてつらしとおほしけると心くるしけれは
  と(と=ふ)かくこしらへきこえ給おとなひたる人めして」79オ
  御心ちのさまなとゝひ給れいのさまならぬ御心ち
0335【れいのさまならぬ御心ち】-懐妊
  になむとわつらひ給(給+御)ありさまをきこゆあやし
  くほとへてめつらしき御ことにもとはかりの
  給て御心のうちにはとしころへぬる人/\たにも
  さることなき越不定なる御事にもやとおほ
  せはことにともかくもの給ひあへしらひ給
  はてたゝうちなやみ給へるさまのいとらうたけ
  なるをあはれと見たてまつり給からうしてお
  ほしたちてわたり給しかはふともえかへり給は
  て二三日おはするほといかに/\とうしろめたく」79ウ
  おほさるれは御ふみをのみかきつくし給いつの
0336【御ふみ】-紫ヘノ源ノ文
  まにつもる御ことのはにかあらむいてやゝすから
  ぬ世をも見るかなとわか君の御あやまちをし
  らぬ人はいふしゝうそかゝるにつけてもむねう
  ちさはきけるかの人もかくわたり給へりとき
  くにおほけなく心あやまりしていみしきこ
  とゝも越かきつゝけてをこせ給へりたいにあから
  さまにわたり給へるほとに人まなりけれはしの
  ひて見せたてまつるむつかしきもの見するこ
  そいと心うけれ心ちのいとゝあしきにとてふし」80オ
  たまへれは猶たゝこのはしかきのいとおしけに
  はつるそやとてひろけたれはひとのまいるにいと
  くるしくてみき丁ひきよせてさりぬいとゝむ
  ねつふるゝに院いり給へはえよくもかくし給
  はて御しとねのしたにさしはさみ給つよ
  うさりつかた二条の院へわたり給はむとて御いと
  まきこえ給こゝにはけしうはあらす見え給を
0337【こゝには】-源
0338【けしうはあらす】-女三ノ御ナヤミハサホトナキ心
  またいとたゝよはしけなりし越見すてたるや
  うにおもはるゝもいまさらにいとおしくてなむ
  ひか/\しくきこえなす人ありともゆめ心を」80ウ
  き給ないま見なおし給てむとかたらひ給れ
  いはなまいはけなきたはふれことなともうち
  とけきこえ給をいたくしめりてさやかにもみあ
  はせたてまつり給はぬをたゝよのうらめし
  き御けしきと心え給(給+フ)ひ(ひ+ル)そのをましにうちふし
  給て御ものかたりなときこえ給ほとにくれにけ
  りすこしおほとのこもりいりにけるにひくら
  しのはなやかになくにおとろき給てさらはみ
  ちたと/\しからぬほとにとて御そなとたてま
  つりなおす月まちてともいふなるものをと」81オ
0339【月まちて】-\<朱合点>「夕くれはみちたと/\し月待て/かへれわかせこそのまにも/みむ」(付箋11 古今六帖371・伊勢集437、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
  いとわかやかなるさましての給はにくからすかし
  そのまにもとやおほすと心くるしけにおほ
0340【そのまにもとや】-\<合点>
  してたちとまり給
    ゆふ露にそてぬらせとやひくらしの
0341【ゆふ露に】-女三
  なくをきく/\おきてゆく覧かたなりなる
  御心にまかせていひいて給へるもらうたけれは
  ついゐてあなくるしやとうちなけき給
    まつさともいかゝきくらむかた/\に心さ
0342【まつさとも】-源
  はかすひくらしのこゑなとおほしやすらひて
  猶なさけなからむも心くるしけれはとまり給ひ」81ウ
  ぬしつ心なくさすかになかめられ給て御くたもの
  はかりまいりなとしておほとのこもりぬまたあさ
  すゝみのほとにわたり給はむとてとくおき給よへ
  のかはほりをおとしてこれは風ぬるくこそ
  ありけれとて御あふきをき給てきのふうたゝね
  し給へりしおましのあたりをたちとまりて見
  給に御しとねのすこしまよひたるつまより
0343【まよひたる】-乱タ心
  あさみとりのうすやうなるふみのをしまきたる
  はし見ゆるをなに心もなくひきいてゝ御覧
  するにおとこのてなりかみのかなといとえむに
  ことさらめきたるかきさまなりふたかさねに」82オ
  こま/\とかきたる越み給にまきるへきかた
  なくその人のてなりけりと見給ひつおほ
  むかゝみなとあけてまいらする人は見給ふみ
  にこそはと心もしらぬにこしゝうみつけて
  きのふのふみのいろと見るにいといみしくむ
  ねつふ/\となる心ちす御かゆなとまいるかたに
  めも見やらすいてさりともそれにはあらしいと
  いみしくさることはありなむやかくい給てけ
  むとおもひなす宮はなに心もなくまたおほと
  のこもれりあないはけなかゝるものをちらし給」82ウ
  てわれならぬ人も見つけたらましかはとおほ
  すも心おとりしてされはよいとむけに心にく
  きところなき御ありさま越うしろめたしと
  はみるかしとおほすいて給ぬれは人/\すこし
  あかれぬるにしゝうよりてきのふのものはいかゝ
0344【あかれぬる】-ワカレタル心
  せさせ給てしけさ院の御覧しつるふみのいろ
  こそにてはへりつれともきこゆれはあさましと
  おほしてなみたのたゝいてきにいてくれはいと
  おしきものからいふかひなの御さまやと見たて
  まつるいつくにかはをかせ給てし人/\のまいり」83オ
  しにことありかほにちかくさふらはしとさはかり
0345【ちかくさふらはし】-小侍従女三ノ御ソハチカクイルモ人メヲモヒサルト也
  のいみをたに心のおにゝ(ゝ+さ)りはへし越いらせ給し
  ほとはすこしほとへはへりにしをかくさせ給
  つらむとなむおもふ給へしときこゆれはいさとよ
0346【いさとよ】-女三
  見しほとにいり給しかはふともえをきあか(か=へ)
  らてさしはさみし越わすれにけりとの給
0347【ら】-無イ
  にいときこえむかたなしよりて見れはいつく
  のかはあらむあないみしかの君もいといたく越
0348【かの君】-柏
  ちはゝかりてけしきにてもゝりきかせ給こと
  あらはとかしこまりきこえ給しもの越ほと」83ウ
  たにへすかゝることのいてまうてくるよすへて
  いわけなき御ありさまにて人にもみえさせ
0349【御ありさま】-鞠ノコト<朱>
  給けれはとしころさはかりわすれかたくうらみ
  いひわたり給しかとかくまておもふ給へし御
  ことかはたか御ためにもいとおしくはへるへき
  ことゝはゝかりもなくきこゆ心やすくわかく
  おはすれはなれきこえたるなめりいらへもし
  給はてたゝなきにのみそなき給いとなやまし
  けにてつゆはかりのものもきこしめさねはかく
  なやましくせさせ給を見をきたてまつり」84オ
0350【なやましく】-源ノソヒヲハシマサハカヤウノコトモタハカルマシイモノトノ心
  給ていまはをこたりはて給にたる御あつかひに
0351【いまは】-紫
  心をいれ給へることゝつらくおもひいふおとゝは
  このふみの猶あやしくおほさるれは人見ぬか
  たにてうちかへしつゝみ給さふらふ人/\の中に
  かの中納言のてにゝたるてしてかきたるかと
  まておほしよれとことはつかひきら/\とまか
  うへくもあらぬことゝもありとしをへておもひ
  わたりけることのたまさかにほいめ(め$か)なひて心やすか
  らぬすちをかきつくしたることはいと見ところ
  ありてあはれなれといとかくさやかに(に+は)かくへし」84ウ
  やあたら人のふみをこそおもひやりなくかき
  けれをちゝることもこそと思ひしかはむかし
0352【むかしかやうに】-朧ノカタヘノ源文
  かやうにこまかなるへきおりふしにもことそき
  つゝこそかきまきらはしゝか人のふかきよ
  ういはかたきわさなりけりとかのひとの心をさ
  へ見おとし給つさてもこの人越はいかゝもて
  なしきこゆへきめつらしきさまの御心ちも
0353【めつらしきさま】-懐妊
  かゝることのまきれにてなりけりいてあな心
  うやかく人つてならすうき事越しる/\あ(あ$)
  ありしなからみたてまつらんよとわか御心なか」85オ
  らもえおもひなおすましくおほゆる越な越
  さりのすさひとはしめより心をとゝめぬ人たに
  又ことさまの心わくらむとおもふは心つきなく
  おもひへたてらるゝ越ましてこれはさまことに
  おほけなき人の心にもありけるかなみかとの御
  め越もあやまつたくひむかしもありけれと
  それはまたいふかたことなりみやつかへといひてわ
  れも人もおなし君になれつかうまつるほと
  にをのつからさるへきかたにつけても心をか
  はしそめものゝまきれおほかりぬへきわさなり」85ウ
  女御かういといへとゝあるすちかゝるかたにつけて
  かたほなる人もあり心はせかならすをもから
  ぬうちましりておもはすなることもあれと
  おほろけのさたかなるあやまち見えぬほとは
  さてもましらふやうもあらむにふとしもあら
  はならぬまきれありぬへしかくはかり又なき
0354【かくはかり】-女三ノコト
  さまにもてなしきこえてうち/\の心さし
  ひくかたよりもいつくしくかたしけなきも
  のにおもひはくゝまむ人をゝきてかゝること
0355【おもひはくゝまむ人】-源ノ身上ノコト
  はさらにたくひあらしとつまはしきせられ」86オ
  給みかとゝきこゆれとたゝすなほにおほやけ
  さまの心はへはかりにてみやつかへのほともゝ
  のすさましきに心さしふかきわたくしの
  ねきことになひきをのかしゝあはれをつく
  し見すくしかたきおりのいらへをもいひそ
  めしねむに心かよひそむらむなからひはおな
  しけしからぬすちなれとよるかたありやわか
0356【わか身】-源
  身なからもさはかりの人に心わけ給へくはお
  ほえぬものをといと心つきなけれと又けしき
  にいたすへきことにもあらすなとおほしみたるゝ」86オ
  につけて故院のうへもかく御心にはしろし
0357【故院のうへ】-ウスクモノコト
  めしてやしらすかほをつくらせ給けむおも
  へはそのよのことこそはいとおそろしくあるま
  しきあやまちなりけれとちかきためしをお
  ほすにそこひの山ちはえもとくましき御
0358【こひの山ち】-\<朱合点>「いかはかり恋の山路のしけゝれは/いりといりぬる人まとふらん」(付箋12 古今六帖496、奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
  心ましりけるつれなしつくり給へとものおほし
  みたるゝさまのしるけれは女君きえのこり
0359【女君】-紫
  たるいとほしみにわたり給て人やりならす心く
  るしうおもひやりきこえ給にやとおほして
  心ちはよろしくなりにてはへる越かの宮のな」87オ
  やましけにおはすらむにとくわたり給にし
  こそいとおしけれときこえ給へはさかしれい
  ならすみえ給しかとことなる心ちにもおはせ
  ねはおのつから心のとかにおもひてなむうち
  よりは(は$)たひ/\御つかひありけりけふも御ふみ
0360【たひ/\御つかひ】-女三ノコトヲ尋ヘニトノ御文ナルヘシ
  ありつとか院のいとやむことなくきこえつけ
0361【院】-朱
  給へれはうへもかくおほしたるなるへしすこし
  をろかになともあらむはこなたかなたおほさん
  ことのいとおしきそやとてうめき給へはうちの
0362【うちの】-紫
  きこしめさむよりもみつからうらめしと」87ウ
  おもひきこえ給はむこそ心くるしからめわれ
0363【おもひきこえ】-女三ノ心ノコト
  はおほしとかめすともよからぬさまにきこえ
  なす人/\かならすあ覧とおもへはいとくるし
  くなむなとの給へはけにあなかちにおもふ人の
  ためにはわつらはしきよすかなけれとよろつ
  にたとりふかきことゝやか(か+く)やとおほよそ人の
  おもはむ心さへおもひめくらさるゝをこれはたゝ
  こくわうの御心やをき給はむとはかり越はゝから
  むはあさき心ちそしけるとほゝゑみての給ひ
  まきらはすわたり給はむことはもろともに」88オ
0364【わたり給はむこと】-六条院ニ紫ト源ト
  かへりてを心のとかにあらむとのみきこえ給を
  こゝにはしはし心やすくてはへらむまつわたり
0365【こゝには】-紫
  給て人の御心もなくさみなむほとにをとき
  こえかはし給ほとにひころへぬひめ宮はかく
  わたり給はぬ日ころのふるも人の御つらさ
  にのみおほすをいまはわか御をこたりうち
  ませてかくなりぬるとおほすに院もきこしめし
0366【院も】-朱
  け(け$つ)けていかにおほしめさむと世中つゝましくなん
  かの人もいみしけにのみいひわたれともこしゝ
0367【かの人】-柏
  うもわつらはしくおもひなけきてかゝるこ」88ウ
0368【かゝること】-文ヲ源ノミ給シト也
  となむありしとつけてけれはいとあさましく
  いつのほとにさることいてきけむかゝることは
  ありふれはをのつからけしきにてもゝりいつ
  るやうもやとおもひしたにいとつゝましく
  そらにめつきたるやうにおほえし越まして
  さはかりたかふへくもあらさりしことゝも越
  見給てけむはつかしくかたしけなくかたわら
  いたきにあさゆふすゝみもなきころなれと身
0369【あさゆふすゝみも】-\<朱合点>「夏のひのあさゆふすゝみある物を/なとわか恋のひまなかるらん」(付箋13 出典未詳、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
  もしむる心ちしていはむかたなくおほゆとし
0370【しむる心ち】-ソヽロヲソロシキ心
  ころまめことにもあたことにもめしまつはし」89オ
  まいりなれつるものを人よか(か=り)はこまかにおほ
  しとゝめたる御けしきのあはれになつかし
  きをあさましくおほけなきものに心をかれ
  たてまつりてはいかてかはめをもみあはせたて
  まつらむさりとてかきたえほのめきまいらさら
  むも人めあやしくかの御心にもおほしあはせむ
  ことのいみしさなとやすからすおもふに心ちも
  いとなやましくてうちへもまいらすさして
  をもきつみにはあたるへきならねと身のいた
  つらになりぬる心ちすれはされはよとかつは」89ウ
  わか心もいとつらくおほゆいてやしつやかに
0371【いてやしつやかに】-女三ノ心ニ難ヲツケテ云フ
  心にくきけはひ見え給はぬわたりそやまつは
  かのみすのはさまもさるへきことかはかる/\しと
  大将のおもひ給へるけしき見えきかしなといま
  そおもひあはするしひてこのこと越おもひ
  さまさむとおもふかたにてあなかちになん
  つけたてまつらまほしきにやあらむよき
  やうとてもあまりひたおもむきにおほとか
0372【ひたおもむき】-ウツクシキ心
  にあてなる人はよのありさまもしらすかつさ
  ふらふ人に心越きたまふこともなくてかく」90オ
  いとおしき御身のためも人のためもいみしき
  ことにもあるかなとかの御ことの心くるしさも
  えおもひはなたれ給はす宮はいとらうた
  けにてなやみわたり給さまのなをいと心くるし
  くかく思ひはなち給につけてはあやにくに
0373【かく思ひはなち】-源心女三ヲ思ハナチテハ又恋シト也
  うきにまきれぬこひしさのくるしくおほさ
0374【うきにまきれぬ】-\<朱合点>
  るれはわたり給て見たてまつり給につけても
  むねいたくいとおしくおほさる御いのりなと
  さま/\にせさせ給おほかたのことはありしに
  かはらすなか/\いたはしくやむことなくもて」90ウ
  なしきこゆるさまをまし給けちかくうち
  かたらひきこえ給さまはいとこよなく御心
  へたゝりてかたわらいたけれは人めはかりをめや
  すくもてなしておほしのみゝたるゝにこの御
  心のうちしもそくるしかりけるさること見
  きともあらはしきこえ給はぬにみつから
  いとわりなくおほしたるさまも心おさなし
  いとかくおはするけそかしよきやうといひな
  からあまり心もとなくをくれたるたのもし
  けなきわさなりとおほすに世中なへてう」91オ
  しろめたく女御のあまりやはらかにをひ
0375【女御】-明石
0376【をひれ給へる】-ヲサナキコト
  れ給へるこそかやうに心かけきこえむ人はま
  して心みたれなむかし女はかうはるけ所な
  くなよひたるを人もあなつらはしきにや
  さるましきにふとめとまり心つよからぬあや
  まちはしいつるなりけりとおほすみきのおとゝ
  のきたのかたのとりたてたるうしろみもなくおさ
0377【きたのかた】-玉カツラ
  なくよりものはかなきよにさすらふるやうに
  ておひいて給けれとかと/\しくらうありて
  われもおほかたにはおやめきしかとにくき心の」91ウ
  そはぬにしもあらさりし越なたらかにつ
  れなくもてなしてすくしこのおとゝのさるむ
0378【むしむの女はうに】-心ヲツクシテ弁ヲ契タマフ心也
  しむの女はうに心あはせていりきたりけむに
  もけさやかにもてはなれたるさまを人にも
  見えしられことさらにゆるされたるありさまに
  しなしてわか心とつみあるにはなさすなりにし
  なといまおもへはいかにかとあることなりけりちき
0379【ちきりふかきなか】-ヒケクロト玉トノ中
  りふかきなかなりけれはなかくかくてたもた
  むことはとてもかくてもおなしことあらましも
  のから心もてありしことゝもよ人もおもひいて
  はすこしかる/\しきおもひくはゝりなまし」92オ
0380【かる/\しきおもひ】-玉ノカロクハ今モ人ノイヒ出サンカオモクアリタルト女三コトヲアテヽ源詞也
  いといたくもてなしてしわさなりとおほしいつ
  二条のないしのかむの君をは猶たえす思ひいて
0381【二条のないしのかむの君】-朧月
  きこえ給へとかくうしろめたきすちのことうき
  ものにおほしゝりてかの御心よわ(わ=は)さもすこし
0382【かの御心よわさ】-女三
  かるくおもひなされ給けりつゐに御ほいのこ
0383【御ほいのこと】-朧ノ出家
  とし給てけりときゝ給てはいとあはれにくちおし
  く御心うこきてまつとふらひきこえ給いま
  なむとたにゝほはし給はさりけるつらさを
0384【にほはし給はさりける】-源ニシラセ給ハヌトノ給也
  あさからすきこえ給
    あまのよをよそにきかめやすまの浦に」92ウ
0385【あまのよを】-源
  もしほたれしもたれならなくにさま/\
  なる世のさためなさ越心におもひつめていまゝ
  てをくれきこえぬるくち越しさ越おほし
  すてつともさりかたき御ゑかうのうちにはま
0386【まつこそは】-エカウニハ源ノ我ヲモ入給ヘトノ心
  つこそはとあはれになむなとおほくきこえ
  給へりとくおほしたちにしことなれとこの御
0387【とくおほしたち】-朧ノトクヨリ出家ヲ思立シト也
0388【この御さま】-源ノコト
  さまたけにかゝつらひて人にはしかあらはし給
  はぬことなれと心のうちあはれにむかしより
  つらき御ちきりをさすかにあさくしも
  おほしゝられぬなとかた/\におほしいてらる」93オ
  御返いまはかくしもかよふましき御ふみの
0389【かくしもかよふましき】-コレカトチメナルヘシトノ心
  とちめとおほせはあはれにて心とゝめてかき
  給すみつきなといとおかしつねなきよとは
  身ひとつにのみしりはへりにしをゝくれ
  ぬとの給はせたるになむけに
    あまふねにいかゝはおもひをくれけむ
0390【あまふねに】-朧
  あかしのうらにいさりせし君ゑかうにはあま
0391【あまねきかとにても】-普門示現 エカウノコト
  ねきかと(と=タ)にてもいかゝはとありこきあをに
  ひのかみにてしきみにさし給へるれいのこと
  なれといたくすくしたるふてつかひ猶ふ」93ウ
  りかたくおかしけなり二条院におはします
  ほとにて女君にもいまはむけにたえぬること
0392【たえぬること】-朧トノ中ノコト
  にて見せたてまつり給いといたくこそはつか
0393【いといたくこそ】-返歌ニ我ヲハツカシメシト也
  しめられたれけに心つきなしやさま/\心ほ
  そき世中のありさまをよくみすくしつる
  やうなるよなへてのよのこと(こと=中)にてもはかなく
  ものをいひかはしとき/\によせ(よせ=付イ)てあはれを
  もしりゆへをもすくさすよそなからのむつ
  ひかはしつへき人はさい院とこの君とこそは
0394【この君】-朧ノコト
  のこりありつる越かくみなそむきはてゝさい
  院(院+ハ)はたいみしうつとめてまきれなくをこ」94オ
  なひにしみ給にたなりな越こゝらのひとの
  ありさま越きゝみる中にふかくおもふさま
  にさすかになつかしきことのかの人の御なす
0395【かの人】-斎院コト
  らひにたにもあらさりけるかなをむなこを
  おほしたてむことよいとかたかるへきわさなり
0396【おほし】-生
  けりすくせなといふらんものはめにみえぬわさ
  にておやの心にまかせかたしおひたゝむ
  ほとの心つかひは猶ちからいるへかめりよくこ
0397【よくこそ】-源ノ今ヨリ心ヲミタスマシト也
  そあまたかた/\に心をみたるましきちき
  りなりけれとしふかくいらさりしほとはさう/\」94ウ
  しのわさやさま/\に見ましかはとなむなけ
0398【さま/\に見ましかはと】-源ノ昔ハ女子少ト思シト也今ハイヤト也
  かしきおり/\ありしわか宮を心しておほ
0399【わか宮】-今上女一宮
  したて/\まつり給へ女御はものゝ心をふかく
  しり給ほとならてかくいとまなきましらひ
  をし給へはなにことも心もとなきかたにそ
  ものし給らむみこたちなむな越あくかきり
  人にてむつかるましくて世越のとかにすくし
  給はむにうしろめたかるましき心はせつけ
  まほしきわさなりけるかきりありてとさま
  かうさまのうしろみまうくるたゝ人は越のつか
  らそれにもたすけられぬるをなときこえ給へは」95オ
  はか/\しきさまの御うしろみならすともよに
0400【はか/\しきさまの】-紫
  なからへむかきりは見たてまつらぬやうあらしと
  おもふ越いかならむとてな越もの越心ほそけに
0401【いかならむ】-命ヲシラヌト心
  てかく心にまかせてをこなひをもとゝこほり
  なくし給人/\をうらやましくおもひきこ
  え給へりかむの君にさまかはり給へらむさう
0402【かむの君に】-源 朧ヘ源ヨリツカハシ給ヘキト也
  そくなとまたたちなれぬほとはとふらふへき
  越けさなとはいかにぬふものそゝれせさせ
  給へひとくたりは六条のひむかしの君にもの
0403【六条のひむかしの君】-花チル
  しつけむうるわしきほうふくたちては」95ウ
  うたて見(見+る)めもけうとかるへしさすかにその
  心はえ見せてをなときこえ給あをにひのひ
0404【あをにひ】-コレハ衣装コト
  とくたり越こゝにはせさせ給つくもところの人
0405【こゝには】-紫上
0406【つくもところ】-細工所
  めしてしのひてあまの御くとものさるへきは
0407【御くとも】-手道具
  しめの給はす御しとねうわむしろ屏風木丁
  なとのこともいとしのひてわさとかましくいそ
  かせ給けりかくて山のみかとの御賀ものひて
  秋とありし越八月は大将の御き月にてかくそ
0408【大将の御き月】-葵上
  のことをこなひ給はむにひんなかるへし九月は
  院のおほきさきのかくれ給にし月なれは十月
0409【院のおほきさき】-弘徽殿
  にとおほしまうくる越ひめ宮いたくなやみ給へは」96オ
  又のひぬ衛もんのかみの御あつかりの宮なむその
  月にはまいり給けるおほきおとゝゐたちていか
0410【まいり給ける】-朱へ也
  めしくこまかにものゝきよらきしきをつ
  くし給へりけりかむの君もそのついてにそ
  おもひおこしていて給ける猶なやましく
0411【いて給ける】-朱へ
  れいならすやまひつきてのみすくし給(給+宮)も
  うちはえてものをつゝましくいとおしとの
  みおほしなけくけにやあらむ月おほくか
  さなり給まゝにいとくるしけにおはしませ
  は院は心うしとおもひきこえ給かたこそ」96ウ
0412【院は】-源
  あれいとらうたけにあえかなるさまして
  かくなやみわたり給をいかにおはせむとな
  けかしくてさま/\におほしなけく御いのり
  なとことしはまきれおほくてすくし給御山
0413【御山】-ミ
  にもきこしめしてらうたくこひしと(と+思)きこ
  え給月ころかくほか/\にてわたり給こと
0414【月ころ】-源ノ女三ヘウトキコト
  もおさ/\なきやうに人のそうしけれは
  いかなるにかと御むねつふれて世中もいまさ
  らにうらめしくおほしてたいのかたのわつら
  ひけるころは猶そのあつかひにときこし
  めしてたになまやすからさりし越そのゝち」97オ
  なおりかたくものし給らむはそのころほ
  ひゝむなきことやいてきたりけむみつか
  らしり給ことならねとよからぬ御うしろみと
  もの心にていかなることかありけむうちわた
  りなとのみやひ越かはすへきなからひなと
0415【みやひをかはす】-宮仕ナトニ心ヲカハスコト
  にもけしからすうきこといひいつるたくひ
  もきこゆかしとさへおほしよるもこまや
  かなることおほしすてゝし世なれと猶このみち
0416【このみち】-子
  はゝなれかたくて宮に御ふみこまやかにて
  ありけるをおとゝおはしますほとにて見給」97ウ
  そのことゝなくてしは/\もきこえぬほとに
0417【そのことゝなくて】-文詞
  おほつかなくてのみとし月のすくるなむあは
  れなりけるなやみ給なるさまはくはしく
  きゝしのちねむすのついてにもおもひやらるゝ
  はいかゝ世中さひしくおもはすなることあり
  ともしのひすくし給へうらめしけなるけしき
  なとおほろけにて見しりかほにほのめかすいと
  しなをくれたるわさになむ(む+なと)をしへきこえ
  給へりいと/\おしく心くるしくかゝるうち/\
0418【いと/\おしく】-源ノ心 朱ノ我ウト/\シキヲ思給ト也
  のあさましき越はきこしめすへきにはあらて」98オ
  わかおこたりにほいなくのみきゝおほすらん
  こと越とはかりおほしつゝけてこの御返をは
0419【この御返】-女三ヘノ詞
  いかゝきこえ給心くるしき御せうせこに
  まろこそいとくるしけれおもはすにおもひ
  きこゆることありともをろかに人の見とか
  むはかりはあらしとこそおもひはへれたか
  きこえたるにかあらむとの給にはちらひて
  そむき給へる御すかたもいとらうたけなりいた
  くおもやせてものおもひくし給へるいとゝあ
  てにおかしいとおさなき御心はへをみ越き給」98ウ
  ていたくはうしろめたかりきこえ給なり
0420【いたくは】-朱ノ心ヲ思心
  けりとおもひあはせたてまつれはいまよりの
  ちもよろつになむかうまてもいかてきこえ
  しとおもへとうへの御心にそむくときこしめす
0421【うへの】-朱ノコト
0422【御心にそむく】-女三ノ心ニ源ノ背ト朱ノ思給ハント也
  らむことのやすからすいふせき越こゝにたにき
  こえしらせてやはとてなむいたりすくなくたゝ
  人のきこえなすかたにのみよるへかめる御心に
0423【御心】-朱ノ御心也
  はたゝをろかにあさきとのみおほし又いまは
  こよなくさたすきにたるありさまもあなつ
0424【こよなくさたすき】-源ノ年タリタルコト
  らはしくめなれてのみ見なし給らむもかた/\」99オ
0425【見なし給らむ】-女三ノミナシ給ハント也
  にくちおしくもうれたくもおほゆる越院の
  おはしまさむほとは猶心おさめてかのおほ
  しをきてたるやうありけむさたすきひと
0426【さたすき】-トシヨリタルコト
  越もおなしくなすらへきこえていたくな
  かるめ給そいにしへよりほいふかきみちに
0427【ほい】-出家
  もたとりうすかるへき女(女+かた)にたにみなおもひ
0428【うすかるへき】-葵ナトノ時
  をくれつゝいとぬるきことおほかる越みつから
  の(の+御)こゝろにはなにはかりおほし(ほし=もひ)まよふへきには
  あらねといまはとすて給けむよのうしろみに
  (+ゆつり)をき給へる御心はえのあはれにうれしかりし越」99ウ
  ひきつゝきあらそひきこゆるやうにておなし
  さまに見すてたてまつらんことのあえなく
  おほされむにつゝみてなむ心くるしとおもひ
  し人/\もいまはかけとゝめらるゝほたしはかり
  なるもはへらす女御もかくてゆくすゑはし
  りかたけれとみこたちかすそひ給めれはみつ
  からのよたにのとけくはと見をきつへし
  そのほかはたれも/\あらむにしたかひて
  もろともに身越すてむもおしかるましき
  よはひともになりにたる越やう/\すゝしく」100オ
0429【よはひともに】-方々ノ所モミナトシヨリシト也
  おもひはへる院の御よのゝこりひさしくもお
  はせしいとあつしくいとゝなりまさり給て
  もの心ほそけにのみおほしたるにいまさらに
  おもはすなる御な(な+の)もりきこえて御こゝろみ
  たり給なこのよはいとやすしことにもあらす
  のちのよの御みちのさまたけならむもつみ
  いとおそろしからむなとまほにそのことゝはあ
  かし給はねとつく/\ときこえつゝけ給に
  なみたのみおちつゝわれにもあらすおもひ
  しみておはすれは我もうちなき給て人」100ウ
  のうへにてももとかしくきゝおもひしふる
  人のさかしらよ身にかはることにこそいかに
  うたてのおきなやとむつかしくうるさき
  御心そふらむとはち給つゝ御すゝりひきよせ給
  てゝつからをしすりかみとりまかなひかゝせた
  てまつり給へと御てもわなゝきてえかき給は
  すかのこまかなりし返事はいとかくしも
0430【かのこまかなりし返事】-柏ノ方ヘノコト
  つゝますかよはし給らむかしとおほしやるに
  いとにくけれはよろつのあはれもさめぬへけれと
  ことはなとをしへてかゝせたてまつり給まいり給」101オ
0431【まいり給はむこと】-賀ノコト
  はむことはこの月かくてすきぬ二の宮の御
  いきほひことにてまいり給ける越ふるめかし
  き御身さまにてたちならひかほならむも
0432【御身さま】-懐妊
  はゝかりある心ちしけりしも月は身つから
0433【身つからのき月】-桐壺御門
  のき月なりとしのをはりはたいとものさは
  かしまたいとゝこの御すかたもみくるしく
0434【御すかた】-懐妊
  まち見給はむをとおもひはへれとさりとて
  さのみのふへきことにやはむつかしくものおほ
  しみたれすあきらかにもてなし給てこのいた
  くおもやせ給へるつくろひ給へなといとらう」101ウ
  たしとさすかに見たてまつり給衛もんのかみ
  をはなにさまのことにもゆへあるへきおりふ
  しにはかならすことさらにまつはし給つゝ
  の給はせあはせし越たえてさる御せうそこ
  もなしひとあやしとおもふらんとおほせと見
  むにつけてもいとゝほれ/\しきかたはつか
  しく見むには又わか心もたゝならすやとおほ
  しかへされつゝやかて月ころまいり給はぬを
  もとかめなしおほかたの人は猶れいならすなやみ
  わたりて院に(に+ハ)はた御あそひなとなきとしなれは」102オ
0435【院に】-源ノコト
  とのみ思ひわたる越大将の君そあるやうある
  ことなるへしすきものはさためてわかけし
0436【けしきとりしこと】-ネコノ時ノコト
  きとりしことにはしのはぬにやありけむ
  と思ひよれといとかくさたかにのこりなきさ
0437【のこりなきさま】-源ノシリ給トハシリ給ハヌ夕ノ心
  まならむとはおもひより給はさりけり十二月
  になりにけり十よ日とさためてまひともな
  らしとのゝうちゆすりてのゝしる二条の院の
  うへはまたわたり給はさりける越このしかく
  によりそ(そ=て)えしつめはてゝわたり給へる女御
  の君もさとにおはしますこのたひのみこは」102オ
  又おとこにてなむおはしましけるすき/\
0438【おとこにて】-匂宮ニテハナシ常陸君
0439【すき/\】-次々
  いとおかしけにておはする越あけくれもてあ
  そひたてまつり給になむすくるよはひの
  しるしうれしくおほされけるしかくに
  右大臣とのゝきたのかたもわたり給へり大将
  の君うしとらのまちにてまつうち/\にて
  うかくのやうにあけくれあそひならし給
  けれはかの御方はおまへのものは見給はす
0440【かの御方は】-心得カタキ段
  衛もんのかみ越かゝることのおりもましら
  はせさらむはいとはえなくさう/\しかる」103オ
  へきうちにひとあやしとかたふきぬへきこと
  なれはまいり給へきよしありける越をもく
  わつらふよし申てまいらすさるはそこは
  かとくるしけなるやまひにもあらさなる越
  思ふ心のあるにやと心くるしくおほしてとり
  わきて御せうそこつかはすちゝおとゝもな
  とかゝへさひまうされけるひか/\しきやう
  に院にもきこしめさむをおとろ/\しき
  やまひにもあらすたすけてまいり給へとそ(そ+そ)のか」103ウ
  し給にかくかさねての給へれはくるしと思ふ/\
  まいりぬまたかむたちめなともつとひ給はぬ
  ほとなりけりれいのけちかきみすのうちに
0441【けちかき】-源ヘチカク
  いれ給てもやのみすおろしておはします
  けにいといたくやせ/\にあおみてれいもほこ
  りかにはなやきたるかたはおとうとの君た
  ちにはもてけたれていとよういありかおにし
  つめたるさまそことなる越いとゝしつめてさ
  ふらひ給さまなとかはみこたちの御かたは
  らにさしならへたらむにさらにとかあるまし」104オ
  き越たゝことのさまのたれも/\いとおもひ
  やりなきこそいとつみゆるしかたけれなと
  御めとまれとさりけなくいとなつかしくそ
0442【御めとまれと】-源ノ心
0443【さりけなく】-詞
  のことゝなくてたいめむもいとひさしくなりに
  けり月ころはいろ/\のひやうさ越見あつ
  かひ心のいとまなきほとに院の御かのためこゝ
  にものし給みこのほうしつかうまつり給
0444【みこ】-女三
  へくありし越つき/\とゝこほることしけくて
0445【つき/\】-月々
  かくとしもせめつれはえ思ひのことくしあへて」104ウ
  かたのことくなむいもゐの御はちまいるへき越
0446【御はち】-ミ
  御賀なといへはこと/\しきやうなれといへに
  おひいつるわらはへのかすおほくなりにけるを
  御覧せさせむとてまひなとならはしはしめ
  しそのことをたにはたさむとて兵しとゝの
  へむこと又たれにかはとおもひめくらしかねて
  なむ月ころとふらひものし給はぬうらみも
0447【うらみもすてゝけると】-恨モステヽヨヒタルト
  すてゝけるとの給御けしきのうらなきやうなる
  ものからいと/\はつかしきにかほのいろたかふ
0448【いと/\】-イトヽ
  らむとおほえて御いらへもとみにえきこえす」105オ
  月ころかた/\におほしなやむ御事うけ給
0449【月ころ】-柏
  はりなけきはへりなから春のころほひより
  れいもわつらひはへるみたりかくひやうといふ
  ものところせくおこりわつらひはへりてはか/\
  しくふみたつることもはへらす月ころに
  そへてしつみはへりてなむうちなとにもまい
  らす世中あとたえたるやうにてこもりはへる
  院の御よはひたり給としなり人よりさたかに
  かそへたてまつりつかうまつるへきよしちしの
  おとゝ思ひをよひ申されし越かうふり越かけ」105ウ
0450【かうふり越かけ】-\<朱合点>
  くるまをおしますすてゝ
身にてすゝみつ
0451【おしますすてゝ】-御賀ヲ致仕シタレハトクモタレヌト也
  かうまつらむにつくところなしけに下らう
0452【つく】-着
  なりともおなしことふかきところはへらむその
0453【おなしこと】-柏ニユツリ給ト也
  心御覧せられよともよ越しまうさるゝことの
  はへしかはをもきやまひ越あひたすけてなむ
  まいりてはへしいまはいよ/\いとかすかなるさ
0454【いまは】-朱ノコト
  まにおほしすましていかめしき御よそひを
0455【いかめしき御よそひをまちうけ】-女三ノ御賀ヲ待給コト
  まちうけたてまつり給はむことねかはしく
  もおほすましく見たてまつりはへし越
  ことゝもをはそかせ給てしつかなる御もの」106オ
  かたりのふかき御ねかひかなはせ給はむなむ
  まさりてはへるへきと申給へはいかめしく
  きゝし御賀のこと越女二の宮の御かたさまに
  はいひなさぬもらうありとおほすたゝかく
  なむことそきたるさまに世人はあさく見る
  へき越さはいへと心えてものせらるゝにされは
  よとなむいとゝおもひなられはへる大将はおほ
  やけかたはやう/\おとなふめれとかうやうにな
0456【なさけひたる】-アソヒノ方
  さけひたるかたはもとよりしまぬにやあらむ
  かの院なにことも心をよひ給はぬ事はおさ/\」106ウ
  なきうちにもかくのかたのことは御心とゝめて
  いとかしこくしりとゝのへ給へるをさこそおほ
  しすてたるやうなれしつかにきこしめし
  すまさむこといましもなむ心つかひせらるへき
  かの大将ともろともに見いれてまひのわらはへ
  のようい心はへよくゝはへ給へものゝしなといふ
  ものはたゝわかたてたることこそあれいとくちお
  しきものなりなといとなつかしくの給ひつく
  るをうれしきものからくるしくつゝましく
0457【うれしきものから】-柏心
  てことすくなにてこの御まへをとくたちなむと」107オ
  おもへはれいのやうにこまやかにもあらてやう/\
  すへりいてぬひむかしのおとゝにて大将のつくろ
0458【ひむかしのおとゝにて】-花チル
  ひいたし給かく人まひゝとのさうそくのこと
  なとまた/\をこなひくはへ給あるへきかき
0459【をこなひくはへ給】-柏ノイケンアル也
  りいみしくつくし給へるにいとゝくはしき
  心しらひそふもけにこのみちはいとふかき
  人にそものし給めるけふはかゝる心見のひなれと
0460【ものし給】-柏ノコト
  御かた/\もの見給はむにみところなくはあらせ
  しとてかの御賀のひはあかきしらつるはみに
  えひそめのしたかさねをきるへしけふはあお」107ウ
  いろにすわうかさねかく人三十人けふはしら
  かさねをきたるたつみのかたのつりとのにつゝ
  きたるらうをかく所にて山のみなみのそはよ
0461【かく所】-ソ
  り御前にいつるほと仙遊霞といふものあそひ
  てゆきのたゝいさゝかちるに春のとなりちかく
0462【春のとなりちかく】-\<朱合点>「冬なから春のとなりのちか/けれは/中かきよりそ花ハちりくる(く$け)る」(付箋14 古今1021・古今六帖1349・深養父集18、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
  むめのけしき見るかひありてほゝゑみたり
  ひさしのみすのうちにおはしませはしき
  ふ卿の宮右のおとゝはかりさふらひ給てそれ
  よりしものかむたちめはすのこにわさとならぬ
  日のことにて御あるしなとけちかきほとにつ」108オ
  かうまつりなしたり右の大とのゝの四らう君大将
  殿の三らう君兵部卿宮のそむわうの君たち
  ふたりはまんさいらくまたいとちゐさきほと
  にていとろうたけなり四人なからいつれとなく
  たかきいへのこにてかたちおかしけにかしつ
  きいてたるおもひなしもやむことなし又大将
  の御(御$)のないしのすけはらの二らう君しきふ卿の
0463【ないしのすけ】-惟光女
  宮の兵衛のかみといひしいまは源中納言の御
  こわう上右のおほい殿の三らう君れうわう
0464【れうわう】-陵王
  大将殿のたらうらくそむさてはたいへいら」108ウ
0465【らくそむ】-落蹲
0466【たいへいらく】-大平
  く喜春らくなといふまひともをなむおなし
  御なからひの君たちおとなたちなとまひける
  くれゆけはみすあけさせ給てものゝけうまさる
  にいとうつくしき御むまこの君たちのかたち
  すかたにてまひのさまもよに見えぬてをつく
  しておほむしともゝをの/\てのかきり越ゝしへ
  きこえけるにふかきかと/\しさ越くはへてめつ
  らかにまひ給をいつれをもいとらうたしと
  おほすおい給へるかむたちめたちはみなゝみ
  たおとし給しきふ卿の宮も御まこをおほ」109オ
  して御はなのいろつくまてしほたれ給ある
  しの院すくるよはひにそへてはゑひなき
  こそとゝめかたきわさなりけれ衛もんのかみ
  心とゝめてほゝゑまるゝいと心はつかしやさりとも
  いましはしならむさかさまにゆかぬとし月
0467【いましはしならむ】-柏ヲヤカテ老ント源ノ心
0468【さかさまにゆかぬ】-\<朱合点>
  よおいはえのかれぬわさなりとてうちみやり給
  に人よりけにまめたちくんしてまことに心ちも
  いとなやましけれはいみしきこともめもとまら
  ぬ心ちする人をしもさしわきてそらゑひをし」109ウ
0469【そらゑひをしつゝ】-源ノコト
  つゝかくの給たはふれのやうなれといとゝむね
  つふれてさか月のめくりくるもかしらいたく
  おほゆれはけしきはかりにてまきらはすを
  御覧しとかめてもたせなからたひ/\しゐ給
  へははしたなくてもてわつらふさまなへての
  人にゝすおかし心地かきみたりてたえかたけれ
  はまたこともはてぬにまかて給ぬるまゝにいと
  いたくまとひてれいのいとおとろ/\しきゑひ
  にもあらぬをいかなれはかゝるならむつゝましと
  ものをおもひつるにけのゝほりぬるにやいと」110オ
  さいふはかりおくすへき心よはさとはおほえ
  ぬ越いふかひなくもありけるかなと身つから
  おもひしらるしはしのゑひのまとひにも
  あらさりけりやかていといたくわつらひ給おとゝ
  はゝきたのかたおほしさはきてよそ/\にて
  いとおほつかなしとてとのにわたしたてまつ
0470【おほつかなし】-柏ヲ女ニヨリ親ノヨヒ給ト也
  り給を女宮のおほしたるさま又いと心くるし
0471【女宮の】-柏心
  ことなくてすくすへきひ(ひ=比)は心のとかにあいなた
  のみしていとしもあらぬ御心さしなれといま」110ウ
  はとわかれたてまつるへきかとてにやとおも
  ふはあはれにかなしくをくれておほしなけ
  かむことのかたしけなき越いみしとおもふはゝ
0472【はゝ宮す所】-オチハノハヽ
  宮す所もいといみしくなけき給てよのことゝ
0473【よのことゝして】-御息所詞
  しておやをはな越さるものにをきたてま
  つりてかゝる御なからひはとあるおりもかゝるお
0474【御なからひ】-夫婦
  りもはなれ給はぬこそれいの事なれかくひ
  きわかれてたひらかにものし給まてもすくし
  給はむか心つくしなるへきこと越しはしこゝ
  にてかくて心見給へと御かたはらに御木丁はかり越」111オ
  へたてゝみたてまつり給ことわりやかすならぬ
0475【ことわりや】-柏詞
  身にてをよひかたき御なからひになまし
  ひにゆるされたてまつりてさふらふしるし
  にはなかく世にはへりてかひなき身のほと
  もすこしひとゝひとしくなるけちめをもや
  御覧せらるゝとこそおもふ給つれいといみし
  くかくさへなりはへれはふかき心さし越たに
  御覧しはてられすやなりはへりなむとおも
  ふ給ふるになむとまりかたき心ちにもえゆ」111ウ
0476【とまりかたき心ち】-柏ノナカラヘ難キ女二ヲヽキテチヽヘハエユキヤラシト也
  きやるましく思給へらるゝなとかた身になき
  給てとみにもえわたり給はねは又はゝきたの
  かたうしろめたくおほしてなとかまつ見えむと
  はおもひたまふましきわれは心地もすこし
  れいならす心ほそきときはあまたの中にま
  つとりわきてゆかしくもたのもしくもこそ
  おほえ給へかくいとおほつかなきことゝうらみ
  きこえ給も又いとことわり人よりさきなり
0477【又いとことわり人より】-柏
  けるけちめにやとりわきて思ひならひたる越
  いまに猶かなしくし給てしはしもみえぬをは」112オ
  くるしきものにし給へは心ちのかくかきり
  におほゆるおりしもみえたてまつらさらむ
  つみふかくいふせかるへしいまはとたのみな
0478【いまはと】-女二宮ヘ柏ノ詞
  くきかせ給はゝいとしのひてわたり給て御
  覧せよかならす又たいめむたまはらむあや
  しくたゆくをろかなる本上にてことにふれ
  てをろかにおほさるゝことありつらむこそ
  くやしくはへれかゝるいのちのほと越しらて
  ゆくすゑなかくのみおもひはへりけることゝ」112ウ
  なく/\わたり給ぬ宮はとまり給ていふかたなく
  おほしこかれたり大殿にまちうけきこえ
  給てよろつにさはき給さるはたちまちにお
  とろ/\しき御心ちのさまにもあらす月ころ
  ものなと越さらにまいらさりけるにいとゝはかな
  きかうしなとをたにふれたまはすたゝやう/\
  ものにひきいるゝやうにみえ給さるときの
  いうそくのかくものし給へは世中をしみ
  あたらしかりて御とふらひにまいり給はぬ人」113オ
0479【あたらしかりて】-アタラト云コト
  なしうちよりも院よりも御とふらひしは/\
  きこえつゝいみしくおしみおほしめしたるに
  もいとゝしきおやたちの御心のみまとふ六条
  院にもいとくちおしきわさなりとおほし
  おとろきて御とふらひにたひ/\ねむころに
  ちゝおとゝにもきこえ給大将はましていと
  よき御中なれはけちかくものし給つゝいみ
  しくなけきありき給御賀は廿五日になりに
  けりかゝるときのやむことなきかむたちめの」113ウ
  をもくわつらひ給におやはらからあまたの
  ひと/\さるか(か#)たかき御なからひのなけきし
  ほれ給へるころほひにてものすさましきや
  うなれとつき/\にとゝこほりつることたに
  あるをさてやむましきことなれはいかてかは
  おほしとゝまらむをむな宮の御心のうちを
0480【をむな宮】-女三
  そいとおしくおもひきこえさせ給れいの
  五十寺の御す経またかのおはします御てら
  にもまかひるさなの」114オ

(白紙)」114ウ

【奥入01】史記<周本紀>
    楚有養由基者善射者也去柳葉
0481【史記<周本紀>】-「百七」(貼紙)
    百歩而射百発而百中左右観者数十人
    皆曰善射ーーー(戻)
    <伊行>
【奥入02】毛詩云
    女ハ感陽気春思男々感陰気
    秋思(戻)」115オ
【奥入03】掛冠 懸車
    東観漢記曰王莽居構子宇諌
    莽而莽殺之逢萌謂其友人曰三綱
    絶矣不去禍将及人即解冠掛東門而去
    蒙求 逢萌掛冠
    後漢書逢萌字子康北海人掛冠避世
    牆東」115ウ
    懸車
    古文孝経曰
    七十老致仕懸其所仕之車置諸
    廟永使子孫監而則焉立身之給(給=終)
    其要然也(戻)」116オ

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