鈴虫(大島本親本復元) First updated 4/15/2007(ver.1-1)
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渋谷栄一翻字(C)

  

鈴虫

《概要》
 現状の大島本から後人の本文校訂や書き入れ注記等を除いて、その親本の本文様態に復元して、以下の諸点について分析する。
1 飛鳥井雅康の「鈴虫」巻の書写態度について
2 大島本親本の復元本文と他の青表紙本の本文との関係
3 大島本親本の復元本文と定家仮名遣い
4 大島本親本の復元本文の問題点 現行校訂本の本文との異同

《書誌》
 「帚木」巻以下「手習」巻までの書写者は、飛鳥井雅康である。

《復元資料》

凡例
1 本稿は、『大島本 源氏物語』(1996(平成8)年5月 角川書店)から、その親本を復元した。よって、本文中の書き入れ、注記等は、本文と一筆のみを採用し、書写者自身の誤写訂正と思われるものは、それに従って訂正した。しかし他の後人の筆と推測されるものは除いた。
2 付箋、行間注記は【 】- としてその頭に番号を記した。付箋は、( )で括り、付箋番号を記した。合(掛)点には、\<朱(墨)合点>と記した。
3 小字及び割注等は< >で記した。/は改行を表す。また漢文の訓点等は< >で記した。
4 本文の校訂記号は次の通りである。
 $(ミセケチ)・#(抹消)・+(補入)・&(ナゾリ)・=(併記)・△(不明文字)
 ( )の前の文字及び( )内の記号の前の文字は、訂正以前の文字、記号の後の文字が訂正以後の文字である。ただし、なぞり訂正だけは( )の前の文字は訂正後の文字である。訂正以前の本行本文の文字を尊重したことと、なぞり訂正だけは元の文字が判読しにくかったための処置である。
5 各丁の終わりには」の印と丁数とその表(オ)裏(ウ)を記した。

「すゝむし」(題箋)

  夏ころはちすの花なさかりに入道の
  ひめ宮の御ち仏ともあらはし給へるくやう
  せさせ給このたひはおとゝの君の御心さし
  にて御ねんすたうのくともこまかにとゝのへ
  させ給へるをやかてしつらはせ給ふはたのさま
  なとなつかしう心ことなるからのにしきを
  えらひぬはせ給へりむらさきのうへそいそ
  きせさせ給ひけるはなつくゑのおほひな
  とのおかしきめそめもなつかしうき
  よらなるにほひそめつけられたる心はへ」1オ

  めなれぬさまなりよるのみ丁のかたひら
  をよおもてなからあけてうしろのかたにほ
  花のまたらかけ奉りてしろかねのはなか
  めにたかくこと/\しきはなの色をとゝのへ
  て奉り名かうにからの百部のくのえかうを
  たき給へり阿弥陀仏けうしのほさちをの/\
  白たんしてつくり奉りたるこまかにうつ
  くしけなりあかのくはれいのきはやかに
  ちいさくてあをきしろきむらさきの蓮を
  とゝのへてかえうのほうをあわせたる名」1ウ

  かうみちをかくしほゝろけてたきにほはし
  たるひとつかをりににほひあひていとなつ
  かし経は六道の衆生のために六部かゝせ給て
  みつからの御持経は院そ御てつからかゝせ給ける
  是をたにこの世のけちえにてかたみにみち
  ひきかはし給ふへき心を願文につくらせ
  給へりさてはあみた経からのかみはもろくて
  あさゆふの御てならしにもいかゝとてかむや
  の人をめしてことにおほせこと給てこゝろ
  ことにきよらにすかせ給へるに此春のころ」2オ

  をひより御心とゝめていそきかゝせ給へるかひ
  ありてはしをみ給人/\めもかゝやきまとひ
  給けかけたるかねのすちよりもすみつきの
  うへにかゝやくさまなともいとなむめつらかなり
  けるちくへうしはこのさまなといへはさゝなり
  かしこれはことにちんの花そくのつくゑに
  すへて仏の御(御+お)なを(を#)しちやうたいのうへにかさら
  せ給へりたうかさりはてゝかうしまうの
  ほり行たうの人/\まいりつとひ給へは
  院もあなたにいて給ふとて宮のおはします」2ウ

  にしのひさしにのそき給へれはせはき心
  ちするかりの御しつらひにところせくあつけな
  るまてこと/\しくさうそきたる女房五六
  十人はかりつとひたり北のひさしのすのこ
  まてわらはへなとはさまよふひとりともあまた
  してけふたきまてあふきちらせはさしより給て
  空にたくはいつくのけふりそと思ひはかれぬ
  こそよけれふしのみねよりもけにくゆり
  みちいてたるはほいなきわさなりかうせちの
  おりはおほかたのなりをしつめてのとかに物の」3オ

  心もきゝわくへきことなれははゝかりなききぬ
  のをとなひ人のけはひしつめてなんよかるへき
  なとれいのものふかゝらぬわか人とものようい
  をしへ給宮は人けにおされ給ていとちいさく
  おかしけにてひれふし給へりわかきみらう
  かはしからむいたきかくしたてまつれなとの給
  きたのみさうしもとりはなちてみすかけ
  たりそれ(れ#な)たに人/\はいれ給しつめて宮にも
  物の心しり給へきしたかたをきこえしらせ
  給ふいとあはれにみゆおましをゆつり給へる」3ウ

  仏の御しつらひ見やり給もさま/\にかゝるかた
  の御いとなみをももろともにいそかんものとは
  思ひよらさりしことなりよしのちの世にたに
  かのはなの中のやとりへたてなくとをおもほせ
  とてうちなき給ひぬ
    はちす葉をおなしうてなと契をきて
  露のわかるゝけふそかなしきと御すゝりに
  さしぬらしてかうそめの御あふきにかきつけ
  給へり宮
    へたてなくはちすのやとをちきりても」4オ

  君か心やすましとすらむとかき給へれはいふ
  かひなくもおもほしくたすかなとうちはらひ
  なからなをあはれと物をおもほしたる御気色
  なりれいのみこたちなともいとあまたまいり
  給へり御かた/\よりわれも/\といとなみいて
  たまへるほうもちの有様心ことにところせき
  まてみゆ七そうのほうふくなとすへて大
  かたのことゝもはみなむらさきのうへせさせ給へ
  りあやのよそひにてけさのぬいめまて見し
  る人は世になへてならすとめてけりとや」4ウ

  むつかしうこまかなることゝもかなかうしのいと
  たうとくことの心を申てこのよにすくれ給へる
  さかりをいとひはなれ給てなかきよゝにたゆ
  ましき御ちきりをほけ経にむすひ給ふた
  うとくふかきさまをあらはしてたゝいまのよの
  さえもすくれゆたけきさきらをいとゝ心し
  ていひつゝけたるいとたうとけれはみな人
  しほたれ給ふこれはたゝしのひて御ねんすた
  うのはしめとおほしたることなれとうち
  にも山のみかともきこしめしてみな御つかひ」5オ

  ともあり御す経のふせなといとゝころせきまて
  にはかになむことひろこりける院にまうけ
  させ給へりけることゝもゝそくとおほししかと
  よのつねならさりけるをまいていまめかし
  きことゝものくはゝりたれはゆふへのてらに
  をき所なけなるまて所せきいきをひに
  なりてなん僧ともは帰けるいましも心
  くるしき御心そひてはかりもなくかしつき
  きこえ給ふ院のみかとはこの御そうふんの
  宮にすみはなれ給なんもつゐのことにて」5ウ

  めやすかりぬへくきこえ給へとよそ/\にては
  おほつかなかるへしあけくれみ奉りき
  こえうけ給はらむことをこたらむにほいたかひ
  ぬへしけにありはてぬ世いくはくある
  ましけれとなをいけるかきりの心さしを
  たにうしなひはてしときこえ給つゝこの
  宮をもいとこまかにきよらにつくらせ給ひ
  みふのものともくに/\のみさうみまきなと
  より奉る物ともはか/\しきさまのは
  みなかの三条の宮のみくにゝおさめさせ給」6オ

  又もたてそへさせ給てさま/\の御たから物と
  も院の御そうふんにかすもなくたまはり
  給へるなとあなたさまの物はみなかの宮に
  はこひわたしこまかにいかめしうしをかせ
  給あけくれの御かしつきそこらの女房のこ
  とゝもかみしものはゝくゝみはをしなへて
  我御あつかひにてなといそきつかうまつらせ
  給ける秋ころにしのわたとのゝまへ中のへ
  いのひんかしのきはをおしなへてのに
  つくらせたまへりあかのたなゝとしてその」6ウ

  かたにしなさせ給へる御しつらひなといとなま
  めきたり御弟子にしたかひきこえたる
  あまとも御めのとふる人ともはさるものにて
  わかきさかりのもこゝろさたまりさるかた
  にて世をつくしつへきかきりはえりてなん
  なさせ給けるさかきをいにはわれも/\と
  きしろひけれとおとゝの君きこしめして
  あるましきことなり心ならぬ人すこしも
  ましりぬれはかたへの人くるしうあは/\
  しききこえいてくるわさなりといさめ給」7オ

  て十よ人はかりのほとそかたちことにては
  さふらふこのゝにむしともはなたせ給て風
  すこしすゝしくなりゆく夕暮にわた
  り給つゝむしのねをきゝ給やうにてなを
  おもひはなれぬさまをきこえなやまし給へは
  れいの御心はあるましきことにこそはあなれと
  ひとへにむつかしきことにおもひきこえ給
  へり人めにこそかはることなくもてなし
  給ひしかうちにはうきをしり給ふ気色
  しるくこよなうかはりにし御心をいかて」7ウ

  みえたてまつらしの御心にておほうは思ひ
  なり給にし御よのそむきなれはいまは
  もてはなれて心やすきになをかやうに
  なときこえ給そくるしうて人はなれたらむ
  御すまひにもかなとおほしなれとおよすけ
  てえさもしひ申給はす十五夜の夕暮に
  ほとけの御まへに宮おはしてはしちかうな
  かめ給ひつゝねんすし給わかきあま君たち
  二三人花たてまつるとてならすあかつきの
  をと水のけはひなときこゆるさまかはりたる」8オ

  いとなみにそゝきあへるいとあはれなるにれいの
  わたり給てむしのねいとしけうみたるゝゆ
  ふへかなとてわれもしのひてうちすんし
  給ふ阿弥陀の大すいとたうとくほの/\き
  こゆけにこゑ/\きこえたるなかに鈴虫の
  ふりいてたるほとはなやかにおかし秋の虫の
  こゑいつれとなき中にまつ虫なんすくれ
  たるとて中宮のはるけきのへをわけていと
  わさとたつねとりつゝはなたせ給へるしる
  くなきつたふるこそすくなかなれなにはたかひて」8ウ

  いのちのほとはかなきむしにそあるへき
  心にまかせて人きかぬおく山はるけきのゝまつ
  原にこゑおしまぬもいとへたて心あるむしに
  なんありける鈴虫は心やすくいまめいたるこそ
  らうたけれなとの給へは宮
    大かたの秋をはうしとしり(り+に)しを
  ふりすてかたきすゝむしのこゑとしのひや
  かにの給ふいとなまめいてあてにおほとか也
  いかにとかやいておもひのほかなる御ことに
  こそとて」9オ

    心もて草のやとりをいとへとも
  なをすゝむしの声そふりせぬなえ聞え
  給てきんの御ことめしてめつらしくひき
  たまふ宮の御すゝひきをこたり給て御ことに
  なをこゝろいれ給へり月さしいてゝいと
  はなやかなるほともあはれなるに空をう
  ちなかめて世中さま/\につけてはかな
  くうつりかはるありさまもおほしつゝけ
  られてれいよりもあはれなるねにかきなら
  し給ふこよひはれいの御あそひにや」9ウ

  あらむとおしはかりて兵部卿の宮はたり給
  へり大将のきみ殿上人のさるへきなとゝ
  してまいり給へれはこなたにおはします
  と御ことのねをたつねてやかてまいり給いと
  つれ/\にてわさとあそひとはなくともひさ
  しくたえにたるめつらしき物のねなと
  きかまほしかりつるひとりことをいとよう
  たつね給けるとて宮もこなたにおまし
  よそひていれたてまつり給うちの御まへに
  こよひは月のえんあるへかりつるをとまりて」10オ

  さう/\しかりつるにこの院に人/\まいり
  給ときゝつたへてこれかれかんたちめなとも
  まいり給へりむしのねのさためをし給ふ
  御ことゝものこゑ/\かきあはせておもしろき
  ほとに月みるよひのいつとても物あはれな
  らぬ折はなき中にこよひのあらたなる月
  の色にはけになをわか世のはかまてこそ
  よろつ思なかさるれ故権大納言なにの
  折/\にもなきにつけていとゝしのはるゝこと
  おほくおほやけわたくし物の折ふしの」10ウ

  にほひうせたる心ちこそすれ花とりの色
  にもねにも思ひはきまへいふかひあるかたのいと
  うるさかりし物をなとの給ひいてゝ身つか
  らもかきあはせ給御ことのねにも袖ぬらし給つ
  みすのうちにもみゝとゝめてやきゝ給らんと
  かたつかたの御心にはおほしなからかゝる御あそひ
  のほとにはまつこひしう内なとにもおほし
  いてけるこよひはすゝむしのえんにて
  あかしてんとおほしの給御かはらけふた
  はたりはかりまいるほとにれんせいゐんより」11オ

  御せうそこあり御せんのあそひにはかにとまり
  ぬるをくちおしかりて左大弁式部大輔
  又人/\ひきゐてさるへきかきりまいり
  たれは大将なとは六条のゐんにさふらひ給時
  こしめしてなりけり
    雲のうへをかけはなれたるすみかにも
  ものわすれせぬ秋の夜の月おなしくはと
  きこえ給へれはなにはかりところせきみの
  ほとにもあらすなからいまはのとやかにおはし
  ますにまいりなるゝこともおさ/\なきを」11ウ

  ほいなきことにおほしあまりておとろかさせ
  給へるかたしけなしとてにはかなるやうなれと
  まいり給はんとす
    月かけはおなし雲井にみえなから
  わかやとからの秋そかはれることなる事なかめ
  れとたゝむかしいまの御ありさまのおほし
  つゝけられけるまゝなめり御つかひにさか
  月たまひてろくいとになし人/\の御
  車したいのまゝにひきなをしこせんの
  人/\たちこみてしつかなりつる」12オ

  御あそひまきれていて給ぬ院の御車に
  みこたてまつり大将左衛門の督とうさい
  しやうなとおはしけるかきりみなまいり給
  なをしにてかろらかなる御よそひともな
  れはしたかさねはかり奉りくはへて月やゝ
  さしあかりふけぬる空おもしろきに
  わかき人/\ふえなとわさとなくふかせ
  給なとしてしのひたる御まいりのさま
  なりうるはしかるへきおりふしはところ
  せくよたけけききしきをつくして」12ウ

  かたみに御らんせられ給ひ又いにしへの
  たゝ人さまにおほしかへりてこよひは
  かる/\しきやうにふとかくまいり給へれは
  いたうおとろきまちよろこひきこえ給
  ねひとゝのひ給へる御かたちいよ/\こともの
  ならすいみしき御さかりの世を御心とおほし
  すてゝしつかなる御有様にあはれすくなから
  すその夜の哥ともからのも山とのも心はへ
  ふかうおもしろくのみなんれいのことたゝぬ
  かたはしはまねふもかたはらいたくてなむ」13オ

  あけかたにふみなとかうしてとく人/\まかて
  給六条の院は中宮の御方にわたり給て
  御物語なときこえ給ふいまはかうしつかなる御
  すまひにしは/\もまいりぬへくなにとはな
  けれとすくるよはひにそへてわすれぬむ
  かしの御物語なとうけ給はりきこえまほし
  うおもひたまふるになにゝもつかぬみのあり
  さまにてさすかにうゐ/\しくところせく
  も侍てなんはれよりのちの人/\にかた
  かたにつけてをくれゆく心ちしはへるもいと」13ウ

  つねなきよの心ほそさのゝとめかたうおほ
  え侍れはよはなれたるすまひにもやとや
  う/\おもひたちぬるをのこりの人/\の
  物はかなからんたゝよはし給なとさき/\もき
  つけし心たかへすおほしとゝめて物せさせ給
  へなとまめやかなるさまにきこえさせ給れ
  いのいとわかうおほとかなる御けはひにてこゝ
  のへのへたてふかう侍しとしころよりも
  おほつかなさのまさるやうにおもひ給へらるゝ
  有様をいとおもひのほかにむつかしうてみな」14オ

  人のそむきゆく世をいとはしうおもひなる
  ことも侍りなからその心のうちをきこえさせ
  うけたまはらねはなに事もまつたのもし
  きかけにはきこえさせならひていふせく
  侍ときこえ給けにおほやけさまにてはかき
  りあるおりふしの御さとゐもいとようまち
  つけきこえさせしをいまはなにことにつけ
  てかは御心にまかせさせ給御うつろひもあらむ
  さためなきよといひなからもさしていとはし
  きことなき人のさはやかにそむきはな」14ウ

  るゝもありかたう心やすかるへき程につけて
  たにをのつからおもひかゝつらふほたしのみ
  侍るをなとかその人まねにきほふ御たうしん
  はかへりてひか/\しうおしはかりきこえ
  さする人もこそ侍れかけてもいとあるまし
  き御ことになむときこえ給をふかうもくみ
  はかりたまはぬなめりかしとつらうおもひ
  きこえ給ふ宮す所の御身のくるしうなり
  給らむありさまいかなるけふりの中にまとひ
  給らんなきかけにても人にうとまれたて」15オ

  まつり給御なのりなとのいてきけること
  かの院にはいみしうかくし給ひけるを
  をのつから人のくちさかなくてつたへき
  こしめしけるのちいとかなしういみしくて
  なへての世のいとはしくおほしなりてかり
  にてもかのの給けん有様のくはしうきかま
  ほしきをまをにはえうちいてきこえ給
  はてたゝなき人の御有様のつみかろからぬ
  さまにほのきくことの侍しをさるしるし
  あらはならてもおしはかりつたへつへきことに」15ウ

  侍りけれとをくれしほとのあはれはかりを
  わすれぬことにて物のあなたおもふ給へやら
  さりけるかものはかなさをいかてよういひき
  かせんひとのすゝめをもきゝ侍りて身つから
  たにかのほのほをもさまし侍りにしかなと
  やう/\つもるになむおもひしらるゝことも
  ありけるなとかすめつゝその給ふけにさも
  おほしぬへきことゝあはれにみ奉り給ふて
  そのほのをなむたれものかるましきことゝ
  しりなからあしたの露のかゝれるほとは思ひ」16オ

  すて侍らぬになむもくれんかほとけに
  ち
かきひしりの身にてたちまちにすくひ
  けむためしにもえつかせ給はさらむ物から
  たまのかんかしすてさせ給はんもこの世には
  うらみのこるやうなるわさなりやう/\さる
  御心さしをしめ給てかの御けふりはるへきこ
  とをせさせ給へしかおもひたまふること侍り
  なからものさはかしきやうにしつかなるほいも
  なきやうなる有様にあけくらし侍りつゝ
  身つからのつとめにそへていましつかにと」16ウ

  おもひ給ふるもけにこそ心をさなきこと
  なれなと世中なへてはかなくいとひすて
  まほしきことをきこえかはし給へとなをや
  つしにくき御身の有様ともなりよへはうち
  しのひてかやすかりし御ありきけさはあら
  はれたまひて上達部とんまいり給へるか
  きりはみな御をくりつかうまつり給ふ春宮
  の女御の御有様ならひなくいつきたて
  給へるかひ/\しさも大将のまたいと人に
  ことなる御様をもいつれとなくめやすしと」17オ

  おほすになをこのれせいゐんを思ひきこえ
  給(給+御心さしハすくれてふかく哀にそおほえ給<朱>)院もつねにいふかしう思ひきこえ給ひ
  しに御たいめんのまれにいふせうのみおほされ
  けるにいそかされ給てかく心やすきさま
  にとおほしなりけるになん中宮そ中/\
  まかて給ふこともいとかたうなりてたゝひとの
  中のやうにならひおはしますにいまめかしう
  なか/\むかしよりもはなやかに御あそひをも
  し給ふなに事も御心やれる有様なから
  たゝかの宮す所の御ことをおほしやりつゝをこ」17ウ

  なひの御心すゝみにたるを人のゆるし
  きこえ給ましきことなれはくとくのことを
  たてゝおほしいとなみいとゝ心ふかう世中
  をおほしとれるさまになりまさりたまふ」18オ

(白紙)」18ウ

【奥入01】目蓮初得道眼見母生所而堕地獄
    砕骨焼膚仍乗神通自行地獄
    逢卒相代<と>乞請母獄卒答云善
    悪業造者自受其果大小利注也
    更不可免則閇鉄城之戸成不見
    目蓮悲空帰但女往文者塗餓鬼中
    仍七月十五日設盂蘭盆様之是
    明事也(戻)
     横笛同年夏秋也」19オ

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