恵慶集
2009.10.27見直し了
「恵慶集」(扉)
(白紙)」(扉オ)
此集若有上下巻歟先年所
持其集有他哥此草子不見
猶可尋之
恵慶
此集家本依引失随借出令書写之処
名哥多不見成哥又借求之処已候
半分也仍所書加端也」(扉ウ)
河原院にてしほかまうきしまと
いふ事を人/\よむに
0151 わたのはらしほみつほとのうきしまは(=ヲ)
さためなき世にたとへてそ見る
しほかま
0152 あまもなくうらもさひしきしほかまの
人の心をやくはかり也
ある人の家にむめのやつまに
さしいりていみしくちるを見て
0153 ふりにふるやとにもある哉梅花」(1オ)
のきのしつくも見えぬものから
かはらの院にて人のよみかき
たるうたを人/\見ていふやう
あはれなる事の葉なりやかく
いひけむ人/\いつちいにけむ
ことのはのこりてその人のなき
こそあはれなれといふに
0154 ふりにけむ人のうへかはたまつさは
むかしにならむ我もかなしな
あひしれる人のつかさ給て」(1ウ)
くにゝくたりてをとつ
れさりけるにつかはす
0155 宮こなる人のかすにはあらすとも
あきの月に(=見)は思いてなむ
かはらの院にていけのせに
なる心はへを人ゝよむに
0156 ふちせをやたつねわふらむゝかし/より
そこにやとりし秋の月かけ
もてならしたるあふきを
とをきくにへくたる人にとら
すとて」(2オ)
0157 とをくゆく心はうとくおもほえて
そふるあふきのなれにける哉
こつらゆきかゝきあつめたる
うたを一巻かりて返すとて
0158 ひとまきにちゝのこかねをこめたれは
人こそなけれこゑはのこれり
くらのすけ時ふかゝへし
0159 いにしへのちゝのこかねはかきりあるを
あふはかりなき君かたまつさ
すはうのかみもとすけかゝへし
0160 かへしけむゝかしの人のたまつさ/を
きゝてそゝそくおいのなみたは」(2ウ)
よしのふの朝臣
0161 みつくきのあとにのこれるたまつさに
いとゝもさむき秋のそら哉
かねもりかするかのかみになり
てまかるにあはつといふ所に
やとりたるにまかりたれといみ
てあはさりけれは
0162 うらめしきさとの名なりや君にわか
あはつのはらのあはてかへるよ
返し
0163 あはつのゝあはてすくるはせたのはし
こひてわたれと思なるへし」(3オ)
六月しらかはにすゝみにいてゝ
まつかけにゐて
0164 かはかせのすゝしきやともありける/を
あつかふよにもめくりける哉
月山のはよりいつ(よりいつ$にい)るをみて
0165 月のいる山のあなたのさと人と
こよひはかりは身をやなさまし
九月五日あるところに哥合す
るうたつるすにたてり
0166 かけみえてみきはにたてるたつはみな
うへしたちよを思なるへし」(3ウ)
みとりのまついけにのそめり
0167 たれにかはいけの心もおもふらむ
そこにやとれる松のちとせを
たひのかり雲のうへにつれたり
0168 ゆくとくと雲ちをならすかりかねは
つねにたひとは思はさらなむ
うりふ山きりふかし
0169 名にたかくなりはしぬれとき(き$う)りふさ/か
きりのみたてはみえすもある哉
さほ山にもみちあさし
0170 さほやまのなたてにあさきもみちは/を
あたりのかせはふかは吹なむ」(4オ)
みさうしのわかなつむ女のかつら
の木のもとにすゝむ所
0171 夏なれとなつともしらてすくすかな
月のかつらのかけにかくれて
秋あみひく所
0172 風ふけとえたもならさぬ秋なれは
あみひくそらものとけかりけり
春山ちゆく人ありこの山の中
にあしおひたりかもとりあそ/ふ
0173 はるひすらいそきこゆれとあしかも/の
あおはのやまは秋(秋$猶)そはるけき」(4ウ)
冬おほたかそてにすゑて人あり
0174 しもかれの山のにしきもおとろかし
わかはしたかをとりしかはねは
十月廿よ日かのえさるの(+夜)にひむか
し山のうへ(=しやう)とうしといふてら
にてあるやむことなき人/\あつ
めてよませ給そのたいはさ
くりてそよみける
おつるもみち ふかき山 のこりのき/く
山のもみち よるのしくれ にはのこけ
みねのあらし はつゆき たきのこゑ」(5オ)
たひの夢 かりのこゑ になむあ/り
けるこの心はへあるへしとあ
れは序にいはく
きりのたつうりふの山のふもと
月のひかりきよきみやこのてら
にくれぬへき神な月はつかなぬ/か
山のかひになくかのえさるもて
あそひ給はむとてあしひきの山
のこのは(+ちる)さかりむはたまのよるの
しくれあはれなるほとこのもかの
もにみゆる色/\くさ/\時に」(5ウ)
つけてあはれなるものになむ
ありけるそのたいにいはくくれ
なゐのいろ/\ひとの心をそめ
みたりのこれるきくさま/\あれ
たるまかきになまめかしみね
のあらしにたひのゆめさめて
あか月の露におきゐられかりの秋
をすくしてものさひしきこゑつる
の夜ふかくしてともこふる(+しか)ふかき
山へくものしろたへにみゆるには
のこけふかみとりなるはつゆき/の」(6オ)
いろめつらしきふるきいはほのかみ
さひたる所也あはれ我は(+わたつうみの)ふかき
心もしらて山みつのあさまし
ういひあつめたることゝもを
世中にいひなかさむこそはつかし
のもりのはつかしけれさくりては
ゆきをえたり
0175 めつらしき物なりなからはつ雪は
とひこむ人の道やなからむ
たきのこゑ
0176 よとゝもにたきのしらいとたれ(たれ$みた)るれは
ゆめをたにこそ我はむすはね」(6ウ)
くれの春かはらの院にてはるか
に(+山の)さくらみるかねてはあれたる
やとのむかしのあるしこふる
心はへの哥よみ人は
もとすけ かねもり よしのふ
(+のりまさ) かねすけ也
けふはゝつかひとひになりにけり
のこりの春もいくはくならすそらの
けしき(けしき#かすみ)もたち返ぬへしあを
やきのいとまのひまにしらまゆみ
はるのやま(+辺)にゆきちりぬへき花/の色」(7オ)
をもおしみ返ぬへきとりのこゑ
をもしのはむとかたらひてたまほ
この道のまに/\あしひきの山の
ほとりをたつねゆくほとにあかね
さす日のくれぬれはあさちかはら
あれたるやとにとゝまりてつれ/\と
そのありさまをみれはきしの
まつかたふきてふるき風つた
ふるもあはれ也にはのこけふりて
むかしのあとみえぬもかなし
ひむかしをみれは山さくらかすみ/のまより」(7ウ)
にほひたりみなみをのそめは
つまきひろふ山かつのゆきかふも
いそかしかゝるにつけてもゝのゝあは
れいとゝしきし(し#)くれになむありける
けふの人/\かきのもとのまうち君
にもおとらす花のまへのまらうとゝする
にたえたるかきりなりこれか中に
まつのもとにこけのころもにやつ
れたるひとりの山ふしあり花の山
のちりにもつき(き$か)すうちやまの風も
あふかぬ身なれともしらくもの」(8オ)
かゝるにはにめしあふくなれは
そらをあゆむ心ちしてものおも
ほえすなむありける
はるかに山のさくらをみる
0177 とをめにはなをそわかれぬ山さくら
いさやとかりてゆきておしまむ
ぬしなきあれたるやと
0178 うへをきしまつもいはほもかはらぬに
むかしの人はいつちなるらん
住持の法師 さくら
0179 あれにけるやとにはゝるもしられねは
山のさくらをよそにこそみれ」(8ウ)
するかのさきのかみかねもり
0180 道とをみゆきてはみねは山さくら
こゝろをやりてけふは返ぬ
ぬしなきやと
0181 いしまよりいつるいつみそむせふな/る
むかしをしのふこゑにやあるらむ
さくら もとすけ
0182 春かすみたちなかくしそうすくこく
にしきとみゆる山のさくらを
ぬしなきやと
0183 いにしへを思やりつゝこひわたる
あれたるやとのこけのいはゝし」(9オ)
のりまさ
0184 山(山$吹)かせのよきたるまにも山さくら
きみこさりせはみてやゝまゝし
0185 のりのきし(きし$声)たえせぬきしに水すみて
しのふるかけをうかへつる哉
かねすみ
0186 ふるさとにゆかむことこそ物うけれ
山のさくらに心うつりて
0187 やとなれ(=り)しむかしの人はなけれとも
すみつく水のたえぬをそみる
かねもりかおほやけに申す/事」(9ウ)
ならさりけれは世をうしていひ
をこせて侍ける
0188 世中をいまはかきりとおもふには
きみこひしくやあらむとすらん
返し
0189 あひたのむ世ゝのちきりのふかけれは
こひしきほとに我をくれめや
はりまよりのほりたるにひゝ
きのなたに風ふきていといみ
しきめみたりときゝてある人の
0190 よそ人もかゝるひゝきのなたゆへに
きくにたもとのたゝならぬ哉」(10オ)
返し
0191 かなしさはひゝきのなたにみちにけり
宮この人もきゝをつるまて
つらゆきかとさの日記をゑにかけ
るをいつとせをすくしける
家のあれたる心を
0192 くらへこしなみちもかくはあらさり/き
よもきのはには(はには$はらと)なれるわかやと
ある所の御屏風のかすかのにわか
なつむ女あり
0193 かすか野ののもりもいかに思ふらむ
おい/\わかなつみにきたるを」(10ウ)
いもせ山にかすみたちたり
0194 いもせやまふもとにすまぬ身なりせは
うとくそみましみねのかすみを
うたゝねのはしたひ人ゆく
0195 はしのなを猶うたゝねときく人の
きくはゆめちかうつゝなからに
春みかきのはらにかすみ花みる
人あり
0196 おもふ人こさせまほしきところ哉
みかきのはらの花のさかりは
夏ぬのひきのたきみる人あり
0197 なつころもすゝみかてらにたちもき/む」(11オ)
ちひろさらせるぬのひきのたき
なつすまのうらにたひ人ゆく
0198 まちとをに宮この人はおもふらむ
すまのはまへはすみうかりけり
なからのはしをふねこく
0199 夏のひのなからのはし(はし$浦)にふねとめて
いつれかはしとゝへとこたへぬ
すみよしにあまのいへあり
0200 かせふかぬなつのひなれとすみのえの
まつのこすゑはなみそたちける
秋さか野に花みる女あり」(11ウ)
0201 はなみつゝくれなはのへにやとりせむ
夜のまもむしのこゑをきくへく
おほゐにいかたくたすもみち
みる人あり
0202 大井かはいかたのさほもさすまなく
にしきにみゆるなみのうへ哉
秋こゝゐのもりにもみちみる人あ/り
0203 人のおやの思ふこゝろやいかならむ
こゝゐのもりの秋のゆふくれ
かたのにかりする人あり
0204 あさまたきしもうちはらひかりにくる
かたのゝきしはたちやしぬらん」(12オ)
しのたのもりにゆきおほかり
0205 ましてかのよしのゝ山やいかならむ
しのたのもりのゆきたにもあり
もゝちのうたのたいこれは世中
にそねのよしたゝといふ人の
よめるうたの返し
わかすへらきやみつ(みつ$天徳の末)のころほひあは(は$さ)
なそた(+む)こといふ人もゝちとりもゝ
ちのうたをさくりいたしいはまの
し水のいはまほしきかきりいひ
いたし(いたし$なかし)たる事ともそのありさま
春の花おり/\につけて(て#)秋のもみ/ち」(12ウ)
色/\になむうくひすきゝすく/し
しかたきあしたなくしかあはれ
なるゆふくれほとゝきすねたきこゑ
する夏の夜まさきのかつらいろ
つきわたる冬のはしめ風のをと
ふきあけのはま月のひかりあかし
のはま(+ちゝなる)よものあはれ/\におもほゆれは
いひあつめたることゝもゝはる
のはな秋のもみちよりもけによの
中にちりはてにけりみゝなし山の
きゝしらぬ身にもみなしこをかの
あはれになむおもほえけるあはれ
世中はさゝかにのいやしきもた/うと」(13オ)
きもはるのたのすくもすかぬも
いひせめてはおなしみやまのくも
かすみとのほりぬるをやといへる
事ともを又あるふやわらはのあ
さな いふ人おなしもゝちの
うたをおなし心によみおほみ
かきもりのゑしゝつのをたま
きまてになむあはれに思はせたり
けるこれを又ある山ふしこ(+け)の
ころもに身をやつしまつのもと
においをゝくる心にもさすかに物の
あはれわすれかたく世中のはかなき」(13ウ)
ありさまもこれにつけていはまほ
しけれはむかしはうち山のきせん
きみみかたのさみといふ山ふしも
世をすてなからかゝるすちの事
なくはこそあらめとてことこのむ
とにはあらねとみやきにこつたふ
さるにいひあつめたることゝもに
のまひになむなりにけるおかしと
にはあらねとみむ人わらひもしなむ/かし
春
0206 ふりしきてきえけもみえぬみよし/のゝ
みゆきのうへにかすむけさ哉」(14オ)
0207 山さとの人のみなかけゝさみれは
うすくかすみのみねにうゐたつ
0208 昨日まてさえし山みつぬるけれは
うくひすのねそしたまたれける
0209 あつま地にはるやきぬらむあふみな/る
をかたのはらにわかなむれつむ
0210 おひかせのこしけきむめのはらゆけは
いもかたもとのうつりかそする
0211 ひとゝせのひたおもむきの(=に)春ならは
のとけくみましみ山へのむめ(=山のさくらを)
0212 よとのなるみつのみまきにはな/ちかふ
こまいはへたり春めきぬらし」(14ウ)
0213 たくさとるはゝそもうへしもえぬれ/は
しつのますらもおりたちにけり
0214 なはしろのた水にかけをやとしつゝ
いゑちに返かりを(+し)そ思
0215 ふかみとりはやまのいろをゝすまてに
ふちのむらこはさきみちにけり
夏
0216 花ちらむのちもみるへくさくら色に
そめしころもをぬきやかふへき
0217 わかひくやうひねはなくとほとゝき/す
みとりこ山にいりてこそきけ
0218〔新〕わかやとのそともにたてるならのはの
しけみにすゝむ夏はきにけり」(15オ)
0219 わさなへもうへときすくるほとな/れや
してのたおさのこゑはやめたり
0220 くすりひのたもとにむすふあやめ草
たまつくりえにひけはなるへし
0221 をくら山しかのかよひちみえぬまて
いまはしたくさしけりあひぬらん
0222 わかつまをまつといもねぬ夏の夜の
ねまちの月もやゝかたふきぬ
0223 夏山にたつやをしかのつのならて
わかなけきとにおちさらめやは
0224 あかねさすあをみな月の日をいたみ
あふきのて風ぬるくもあるかな」(15ウ)
0225 したひもはうちとけなからてをひちて
さかゐのし水むすひけるかな
秋
0226〔後〕あさちはらたまゝくゝすのうら風の
うらかなしかる秋はきにけり
0227 ひとりねのよころもいまはゝたさむし
さほのかはきりたちやしぬらん
0228 吹風にすまひやすらむ神なひの
うらこの山のみねのもみちは
0229 もみちせぬときはのやまの時はきも
秋はしたはそけしきはむらし」(16オ)
0230 かりかねはみふねの山やこえくらむ
かちかけたりとあまつこゑする
0231 秋はきのしたはにつけておもふ哉
うかりし人の心はへをも
0232 そめひとは露ときえしをからにしき
みねのあきゝりをのれたつらむ
0233 あけかたのなかき秋の夜ひとりぬる
よつまなにゝと思ひとむらん
0234 秋の夜のねさめかちなる山さとは
まくらつとへにしかのみそなく
0235 わかいもと思はましかはさほひめの
そめし(=むるイ)にしきをたちきせてま/し」(16ウ)
冬
0236 あられふる冬はきにけりまさきつら
いろのありかもけさはことなり
0237 ふゆはみつふたみのうらのあさこほり
とけぬほとこそかゝみなりけれ
0238 山さとのしはのいほりもふゆくれは
しらたまふける心地かもする
0239 つくまかはいりえにあ(あ$を)しのさはかぬは
あしのうらはにこほりしぬらし
0240 みなかみにこほりむすへはいはそゝく
たきのしらいとみたれさりけり
0241 すみよしのきしのむら松たはむまて
ふりしこりぬるふるさとの雪」(17オ)
0242〔勅〕しもかれやならのひろはをやひく(く$ら)てに
さすといそける神の宮つこ
0243 うら風のはけしきふゆもすきぬら(ぬら$なゝ)ん
あまのてつわさせぬもわひしも
0244 冬くれはあらきなみたちさはくなり
たれかはなこのうし(=み)といひけ(△△&ひけ)む
0245 おいぬれはそらよりふるとみえねとも
かしらのゆきはふかさをそます
恋
0246 あふことのまとをにあめるいよすた/れ
いよ/\われをわひさする哉」(17ウ)
0247 こひしきに心のかきりくたけなは
いつれとまりてのちもあひみむ
0248 恋しさのひかすへぬれはそてにいつる
なみたのたきのみかさまされる
0249 こひしさのなくほともなくうちはへて
たこのうらなみたちゐわひつゝ
0250〔後〕いはしろのもりのいはしと思へとも
しつくにぬるゝ身をいかにせん
0251 こきはなれわすれし人のをふねか/と
むまもとき風ふかはまちみむ」(18オ)
0252 いはゝしをわたす神にもなく/\に(=あらなくに)
なかたえてわれこひわたる哉
0253 つらかりし人のこゝろをみくまのゝ
うらへにひろふかひのなきかな
0254 おほしまやせとのしほあひをこくふ/ねの
かちとりあへぬ恋をするかな
0255 こひわたるかけやみゆるといもかきる
みもすそかはのわたりへそゆく
あさか山なにはつをかみしもに
すへたり
春」(18ウ)
0256 あらしたにをとせぬはると思せは
のとけくみましよものはな/\
0257 さゝかにのいやはねらるゝはるの夜の
うしろめたなき花を思に
0258 かすみわけとをめにみえし山さく/ら
そらにゝほひし花はいつらは
0259 山ふきのにほふさかりになりぬれは
ゐてへいてたつ我はかつ/\
0260 まつのねにかゝるふちなみうらなれ/や
いさふねこかむなはしろみつに(なはしろみつに$まつ心みに)
夏」(19オ)
0261 かをとめて我はむつふるあやめ草
よそめにこまのみるかあやしさ
0262 けちかくてきかまほしきをほとゝきす
まつはつこゑはいつくにかなく
0263 さ月まつ花たちはなのかをかきて
むかしの人はきつゝとはすや
0264 辺かたけにみゆる世なれと夏ひき/の
かたいとにてもたえぬわかせこ
0265 み山へのしかのたちとをたつぬれは
みたるゝものかなつおちのつの
秋」(19ウ)
0266 ゆるかりし風のをとこそはけしけ/れ
いまはわ(+せ)あきになりぬと思へは
0267 るいしつゝいさ秋のゝにわかせこか
はなみる道をわれをくらすな
0268 やまものもからくれなゐになりゆけ/は
たかそめしとそみる人もとふ
0269 まつかせもうら/\めしきほとなれと
みねのもみちもまゝに日のみゆ
0270 のこりなくみねのもみちもちりに/けり
秋よひかへせ山の山ひこ」(20オ)
冬
0271 ゐてのかはけふはなみのをときこえぬは
ふゆのはしめとこほりすらしも
0272 のとかにてまちとをなりしあらたま/の
としのおいゆく冬はきにけり
0273 あけかたきふゆのよな/\恋すれは
ねられさりけり山さとのおい
0274 さらしなやゆきのうちなるまつよりも
はけしき(=るけき)ものはわかたのむつま
0275 くさまくらむすふたよりもなき/冬は
あられふるらむあまのあしやは」(20ウ)
恋
0276 はまゆふのいくへか思ひたえぬ(=つイ)らむ
ほかねにく(=かち)なる我かよつまは
0277 ひるまなくなみたのかはにしつむ哉
心かろしと思ひしる/\
0278 とをけれは恋しきこともなくさま/す
いつこなる覧いもかすむ家
0279 をちかたや山うちへたてうとましく
いゑゐすへしやをのかさと/\
0280 おくやまのほそたにかはのいはま/より」(21オ)
さすかにたへぬつまのあやしさ
0281 もかりふね秋へのうらにさおさして
思つまとちさし(=こき)つゝそ行
0282 ふしのみねけふりたえせぬ恋てへと
世のつねならぬ我おとらめや
0283 もしほやくけふりと恋をくらふれは
まさらさりけりするかなるたこ
0284 野も山もこひしきまゝにわけくれ/と
みは(は#え)やはしたか(=しける)わか思人の
0285 かつみれと物をこそ思へあた人の
とまらてついにわかるへけれは」(21ウ)
0286 はまちとりふみゝるあとをとめつゝ/は
こひしき人をたつねてし哉
きのえ
0287 あきはきのえたにかゝれるしら露を
あやしくたまとわか思ける
きのと
0288 ふたりねしよとこにふかくちきり/てき
のとかに我をうちたのむへく
ひのえ
0289 はしたかのとかへる山のしひのえの
ときはにかれぬ中とたのまむ」(22オ)
ひのと
0290 ゆふされはあひみるへきを春のひの
とくゝれぬこそわひしかりけれ
つちのえ
0291 風さむみころもうつなるつちのえの
おれぬはかりのをとのする哉
つちのと
0292 かとたわせ昨日かりそむと思しを
ひつちのとくもおひにける哉
かのえ」(22ウ)
0293 さくら花いつれもいろはにくからす
かのえたをも(=り)ていゑつとにせむ
かのと
0294 さをしかのともまとはせるこゑするは
つまや恋しき秋の山へに
みつのえ
0295 よとかはのすきてあなたにある水の
えこそまたみねこまのたちとも
みつのと
0296 ちはやふる神のやしろのはふりこも
みつのとあけていてにける哉
ひとひめくり」(23オ)
0297 わかれても猶わすられてかつしのひ
とひめくりこよそらのうき雲
ひと夜めくり
0298 いくたてはうしろめたなきあた人/よ
めくりにすへてはなたすもかな
ひむかし
0299 われわひむかしらのしろくなるまて/に
とし月へてもあはすなりなは
たつみ
0300 かすみたつみねや(=は)いつれそたつねみ/む
はなのとをめをまきらはすかな」(23ウ)
みなみ
0301 なみ/\の人数ならはすみのえの
まつとも色にいてゝいはまし
ひつしさる
0302 みちのくのしらかはこえてわかれにし
ひつしさる/\ゆけとはるけし
にし
0303 わすれにしことをうしとは思へとも
心よはくもうちしのふかな
いぬゐ
0304 いまはいぬゐのつのまつのおひ/ぬとも」(24オ)
とし月へてもまちもつけなむ
きた
0305 しきたえのまくらにねさめせられつゝ
ゆめにたにみぬころにもあるかな
うしとら
0306 にくかりし人のあたりはもの(+も)うし
とらはとらなむたまのをくしけ」(24ウ)