詠歌大概

架蔵本「詠歌大概」整定本文
Last updated 9/9/2005(ver.1-1-1)

詠哥大概
情以新為先<求人未詠之心/詠之>詞以旧可用<詞不/可出
三代集先達之所用新古今/古人哥同可用之>風躰可效堪能先達之秀
歌<不論古今遠近見/宣歌可效其躰>近代之人所詠出之心詞雖
一句謹可除棄之<七八十年以来之人歌所/詠出之詞努々不可取用>於古人歌者
多以其同詞詠之已為流例但取古哥
詠新歌事五句之中及三句者頗過
分無珍気二句之上三四字免之猶案之
以同事詠古歌詞頗無念歟<以花詠花/以月詠月>以
四季歌詠恋雑歌以恋雑歌詠四季歌
如此之時無取古哥之難歟

 足引のやまほとゝぎす
 みよし野のよし野のやま
 ひさかたの月のかつら
 ほとゝぎすなくやさつき
 たまぼこのみちゆき人
   如此事全雖何度不憚之

 年の内に春はきにけり
 月やあらぬ春やむかし
 さくらちる木のしたかぜ
 ほの/\とあかしのうら
   如此之類雖一句更不可詠之

常観念古歌之景気可染心殊可見
習者古今伊勢物語後撰拾遺三十六人
集之内殊上手歌可懸心<人麿貫之忠岑/伊勢小町等之類>
雖非和歌之先達時節之景気世間之
盛衰為知物由白氏文集第一第二帙常
可握翫<深通和哥之/心>和哥無師匠只以旧歌
為師満心於古風習詞於先達者誰人
不詠之哉

秀歌躰大略
 随耄昧之覚悟書連之古今相交狼
 藉無極者歟
春たつといふばかりにやみよし野の やまもかすみてけさはみゆらむ
君がため春の野に出てわかなつむ わが衣てに雪はふりつゝ
梅がえになきてうつろふうぐひすの はねしろ妙にあは雪ぞふる
梅の花それとも見えずひさかたの あまぎる雪のなべてふれゝば
人はいさこゝろもしらずふる郷は 花ぞむかしの香にゝほひける
さくら花さきにけらしもあし引の やまのかひより見ゆるしら雲
やま桜さきそめしよりひさかたの 雲井に見ゆる瀧のしらいと
桜さくとをやまどりのしだり尾の なが/\し日もあかぬ色かな
おしなべて花のさかりに成にけり やまのはごとにかゝるしら雲
もゝしきのおほ宮人はいとまあれや 桜かざしてけふもくらしつ
いざけふは春のやまべにまじりなむ くれなばなげの花のかげかは
さくらがり雨はふりきぬおなじくは ぬるとも花のかげにかくれむ
花の色はうつりにけりないたづらに わが身世にふるながめせしまに
またやみむかた野のみのゝ桜がり 花の雪ちる春のあけぼの
ひさかたのひかりのどけき春の日に しづ心なく花のちるらむ
あすよりはしがの花ぞのまれにだに たれかはとはむ春のふる郷
春すぎて夏きにけらししろ妙の ころもほすてふあまのかぐ山
見わたせば浪のしがらみかけてけり 卯花さけるたま河のさと
さみだれはたくものけぶり打しめり しほたれまさるすまのうら人
道のべのしみづながるゝやなぎかげ しばしとてこそたちとまりつれ
おのづからすゞしくもあるかなつ衣 日もゆふ暮のあめのなごりに
いつとてもをしくやはあらぬ年月を みそぎにすつるなつの暮かな
秋たちていくかもあらねどこのねぬる あさけのかぜはたもとすゞしも
やへむぐらしげれるやどのさびしきに 人こそ見えね秋はきにけり
秋はきぬ年もなかばに過ぬとや 荻ふく風のおどろかすらむ
あはれいかに草葉の露のこぼるらむ 秋かぜたちぬみやぎ野のはら
月見れば千々に物こそかなしけれ わが身ひとつの秋にはあらねど
ふる郷のもとあらの小萩さきしより 夜な/\庭の月ぞうつろふ
あすもこむ野路のたま河萩こえて 色なる浪に月やどりけり
ながめつゝおもふもさびし久かたの 月の都のあけがたのそら
秋の露やたもとにいたくむすぶらむ ながき夜あかずやどる月かな
なきわたるかりのなみだや落つらん 物おもふやどの萩のうへの露
萩が花ちるらむ小野のつゆしもに ぬれてをゆかむさ夜はふくとも
秋の田のかりほのいほのとまをあらみ わが衣では露にぬれつゝ
しら露に風のふきしく秋の野は つらぬきとめぬたまぞちりける
たつた姫かざしのたまのをゝよわみ みだれにけりと見ゆるしら露
しら雲をつばさにかけて行かりの 門田のおものともしたふなる
秋風にさそはれわたるかりがねは 物おもふ人の宿をよかなむ
千たびうつきぬたの音に夢さめて 物思ふそでの露ぞくだくる
はるかなるもろこしまでも行物は 秋のねざめのこゝろなりけり
夕されば門田のいなばおとづれて あしのまろ屋に秋風ぞ吹
さびしさはその色としもなかりけり まきたつやまの秋の夕暮
それながらむかしにもあらぬ秋風に いとゞながめをしづのをだまき
ふくからに秋の草木のしをるれば むべやま風をあらしといふらん
さをしかのつまどふやまの岡べなる わさ田はからじ霜はおくとも
おくやまにもみぢふみ分なく鹿の 声きくときぞ秋はかなしき
秋かぜの吹上にたてるしらぎくは 花かあらぬか浪のよするか
心あてにをらばやをらんはつ霜の おきまどはせるしらぎくの花
しら露もしぐれもいたくもる山は 下葉のこらず色づきにけり
たつた河もみぢ葉ながる神なびの みむろの山にしぐれふるらし
秋はきぬもみぢは宿に降しきぬ みちふみ分てとふ人はなし
千はやぶる神代もきかずたつた川 からくれなゐに水くゝるとは
山川にかぜのかけたるしがらみは ながれもあへぬもみぢなりけり
ほの/\と有あけの月の月かげに もみぢ吹おろす山おろしのかぜ
ふかみどりあらそひかねていかならむ まなくしぐれのふるの神すぎ
あきしのやとやまの里やしぐるらむ いこまのたけに雲のかゝれる
冬がれのもりの朽葉の霜のうへに おちたる月のかげのさやけさ
君こずはひとりやねなむさゝの葉の みやまもそよにさやぐ霜よを
かたしきの袖のこほりもむすぼゝれ とけてねぬ夜の夢そぞみじかき
やたの野にあさぢ色づくあらち山 みねのあは雪さむくぞ有らし
ふる郷はよし野の山しちかければ ひとひもみ雪ふらぬ日はなし
いまよりはつぎてふらなむわが宿の すゝきおしなみふれるしら雪
あさぼらけ有あけの月とみるまでに よし野の里にふれる白雪
いそのかみふる野のをざゝ霜をへて 一夜ばかりに残るとしかな
君が代はつきじとぞおもふ神風や みもすそ河のすまむかぎりは
すゑの露もとのしづくや世中の おくれさきだつためし成らん
みな人は花のころもに成ぬなり 苔のたもとよかはきだにせよ
もろともに苔のしたには朽ずして うづもれぬ名をみるぞかなしき
かぎりあればけふぬぎ捨つ藤衣 はてなき物はなみだなりけり
おもひいづる折たくしばの夕けぶり むせぶもうれしわすれがたみに
なき人のかたみの雲やしほるらむ 夕のあめに色は見えねど
たちわかれいなばのやまの峯におふる まつとしきかばいまかへりこむ
しら雲のやへにかさなるをちにても おもはむ人にこゝろへだつな
わくらばにとふ人あらばすまの浦に もしほたれつゝわぶとこたへよ
このたびはぬさもとりあへず手向山 もみちぢのにしき神のまに/\
難波人あし火たく屋に宿かりて すゞろに袖のしほたるゝかな
たちかへり又もきてみむ松しまや をじまのとまや浪にあらすな
あけば又こゆべきやまの嶺なれや そらゆく月のすゑのしら雲
難波えのもにうづもるゝたまがしは あらはれてだに人をこひばや
もらすなよ雲ゐるみねのはつしぐれ 木の葉ゝしたに色かはるとも
あづまぢのさ野の船ばしかけてのみ おもひわたるをしる人のなき
浅茅生のを野のしのはら忍ぶれど あまりてなどか人の恋こひしき
いかにせむむろのやしまに宿もがな 恋のけぶりを空にまがへん
夕暮は雲のはたてに物ぞおもふ あまつ空なる人をこふとて
難波がたみじかきあしのふしのまも あはでこの世をすぐしてよとや
うかりける人をはつ瀬の山おろしよ はげしかれとはいのらぬ物を
瀬をはやみ岩にせかるゝたき河の われてもすゑにあはむとぞ思
おもひ河たえずながるゝ水のあはの うたかた人にあはできえめや
なき名のみたつの市とはさわげども いざまた人をうるよしもなし
かたいとをこなたかなたによりかけて あはずは何をたまの緒にせむ
おもひ草葉すゑにむすぶしら露の たま/\きては手にもたまらず
思きやしぢのはしがきかきつめて もゝ夜もおなじまろねせんとは
有あけのつれなくみえし別より あかつきばかりうき物はなし
なとり河瀬々のむもれ木あらはれば いかにせむとかあひみそめけん
いまこむといひしばかりに長月の あり明の月をまち出つるかな
あふことはとほ山ずりのかりごろも きてはかひなきねをのみぞ鳴
足引のやまどりの尾のしたりをの なが/\し夜をひとりかもねん
わびぬれば今はたおなじなにはなる 身をつくしてもあはむとぞ思
わが恋は庭のむら萩うらがれて 人をも身をも秋のゆふ暮
袖の露もあらぬ色にぞきえかへる うつればかはるなげきせしまに
おもひいづるときはの山の岩つゝじ いはねばこそあれ恋しき物を
ちぎりきなかたみに袖をしぼりつゝ すゑのまつ山浪こさじとは
なげゝとて月やは物をおもはする かこちがほなるわがなみだかな

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