3.増補本 伝三条西公条筆本「異本源氏物語奥入」研究と資料
3-1 増補部分について
3-2 資料
《概要》
藤原定家は、「源氏物語」の研究を続けた。
《研究ノート》
増補部分について
「異本源氏物語奥入」には、「紅梅」巻の01「かわふえ」(一四五二・14)に「定家卿奥書云或人云猶笙を可謂歟」とあるので、定家以外の人が書いたものであることは明白。
《翻刻資料》
凡例
1. 底本には、宮内庁書陵部蔵蔵異本『源氏物語奥入』(紙焼資料)を使用し、その翻刻には、池田利夫「異本『源氏物語奥入』(源語古抄)」(『源氏物語とその周辺の文学 研究と資料』古代文学論叢第14輯 昭和61年5月 武蔵野書院)を参照し、同系統本の今井源衛「神宮文庫蔵「源語古抄」(『改訂版 源氏物語の研究』昭和56年8月 未来社)と対校した(略号「神」)。ただし、漢字と仮名との表記上の相異は原則として省略した。なお、神宮文庫蔵「源語古抄」には、漢文には訓点が付いているが、対校では省略した。
2.「自筆本奥入」と「青表紙本」(付箋・奥入)」に見られる注記は、その番号を付けた。
3. 本文抄出や注記題目名は、注釈本文よりも一字分高く掲出し、また出典題名と注記文は一字分低く下げて掲出した。
4. 小字や割注は< >で括り、振り仮名は< >で括り、改行は/で記した。また私による注記は( )で記した。
桐壺
此巻一の名 つほせんさい
或本分奥端有此名謬説也一巻之二
名也 桐壺は正説壺前栽は異説也
伊行朝臣勘
01 ある時はありのすさひにゝくかりき
なくてそ人の恋しかりける(自筆本奥入01・明融本付箋02)
02 むはたまのやみのうつゝはさたかなる
夢にいくらもまさらさりけり(自筆本奥入02・明融本付箋03)
03 やへむくらしけれる宿のさひしきに」1オ
人こそみえね秋はきにけり(自筆本奥入03 自筆本奥入「此哥非其時古哥不可為證哥」)
04 とふ人もなきやとなれとくる春は
八重葎にもさはらさりけり(自筆本奥入04・11・明融本付箋04 自筆本奥入は行間書入と「書加之」に重出)
此歌非其時古歌可為證哥
05 いかにしてありとしられし高砂の
松のおもはむこともはつかし(自筆本奥入05)
06 人のおやの心はやみにあらねとも
子をおもふ道に迷ぬるかな(自筆本奥入06・明融本付箋05)
07 長恨哥
帰来池苑皆依旧大液芙蓉未央柳(自筆本奥入07・明融本奥入01)」1ウ
08 在天願作比翼鳥在地願為連理枝(自筆本奥入08・明融本付箋06・奥入02)
09 たますたれあくるもしらすねし物を
夢にもみしとおもひかけきや(自筆本奥入09・明融本付箋08・奥入03)
書加之
10 寛平遺誡
外蕃之人必所召見者在簾中見之
不可直対耳李環已失之慎之(自筆本奥入10・明融本奥入04)
11 三条右大臣家屏風 貫之
とふ人もなきやとなれとー(自筆本奥入11・明融本付箋04・奥入06)
(約1行分空白)」2オ
12命婦 女房の五位に叙するをいふ
令曰謂婦人帯五位以上曰為内命婦
五位以上妻曰外命婦(自筆本奥入12)
13まくらこと
あけくれのことくさのよし也(自筆本奥入13・明融本奥入07)
14なき人のすみか尋いてたりけんかたみのかん
さし
長恨哥伝
指碧衣取金釵鈿合各折其半授使者曰
為謝太上皇謹献是物尋旧好也(自筆本奥入14・明融本奥入08)」2ウ
15ともし火をかゝけつくして
長恨歌伝
夕殿蛍飛思悄然秋灯挑尽未能眠(自筆本奥入15・明融本奥入09)
16あさまつりことをこたらせ(「をこたらせ」-「をこたらせ給」神 自筆本奥入16・明融本付箋09・奥入10)
<同>
春霄苦短日高起従此君王不早朝
17右近のつかさのとのひ申
亥一刻左近衛夜行官人初奏時<終子/四刻>丑
一刻右近衛宿申事至卯一刻内竪亥
一刻奏宿簡(「とのひ申」-「とのひ申の声きこゆるはうしに成ぬるへし」神 自筆本奥入17・明融本奥入11)
(約1行分空白)」3オ
18 延喜七年二月十六日当代源氏二人元服垂母屋壁
代撤昼御座其所立倚子御座孫庇第二間有引
入左右大臣座其南第一間置円座二枚為冠者座
<置四面円座前置円座又其下/置理髪具皆盛柳筥>先両大臣被召着円
座引入訖還着本座次冠者二人退出於侍
所改衣装此間両大臣給禄於庭前拝舞
<不着/沓>出仙華門於射場着沓撤禄次冠者二人
入仙華門於庭中拝舞退出参仁和寺帰参
先是宸儀御侍所倚子親王左右大臣已下
近臣等同候有盃酒御遊 両源氏候御座」3ウ
<候四位親王/之次依仰也>深更大臣以下給禄両源氏宅各調屯
食廿具令分諸陣所々(「左右大臣」-「左大(大=右イ)臣」神 自筆本奥入18・明融本奥入12)
19 天慶三年親王元服日屯食事
内蔵寮十具穀倉院十具已上検校太政大臣仰
之調之衛(衛+門)府五具<督仰/調之>左馬寮五具<御監/仰之>列其
南殿版位東其東春興殿西立辛櫃十合件
等物有 宣旨自長楽門出入上卿仰弁官分
所々史二人勾当其事仰検非違使令分給
弁官三太政大臣(大臣=官歟)二左右近三左右兵衛二左右
衛門二蔵人所二内記所薬殿一御書所一」4オ
内竪所一 校書殿一 作物所一 内侍所四
采女一 内教坊一 糸所(所+一)御匣殿一(「衛(衛+門)府」-「衛門府」神 「糸所(所+一)」-「糸所一」神 自筆本奥入19・明融本奥入13)
(約8行分空白)」4ウ
帚木
伊行注
01 かすか野のわかむらさきのすり衣
しのふのみたれかきりしられす(自筆本奥入01・明融本奥入02・大島本奥入02)
02 しかりとてとすれはかゝりかくすれは
あないひしらすあふさきるさに(自筆本奥入02・明融本奥入03・大島本奥入03)
03 はちすはのにこりにしまぬ心もて
なにかは露を玉とあさむく(自筆本奥入03・明融本奥入04・大島本奥入04)
04 観身岸額離(離+根)草論命江頭不繋舟(「離(離+根)草」-「離根草」神 自筆本奥入04・明融本奥入05・大島本奥入05)
05 ひきよせはたゝにはよらて春駒の」5オ
つなひきするそなはたつときく(自筆本奥入05・明融本奥入06・大島本奥入06)」5オ
06 あすか井にやとりはすへしかけもよし
みもひもさむしみま草もよし(自筆本奥入06・明融本奥入07・大島本奥入07)
07 いつこにかやとりとるらんあさひこの
さすやをかへのたまさゝのうへ(自筆本奥入07・明融本奥入08・大島本奥入08)
08 ちりをたにすへしとそ思ふさきしより
いもとわかぬるとこなつのはな(自筆本奥入08・明融本付箋01・奥入09・大島本奥入09)
09 それをたに思ふことゝてわかやとを
みきとなかけそ人のきかくに(自筆本奥入09・明融本奥入10・大島本奥入10)
10 あふさかの名をはたのみてこしかとも」5ウ
へたつる関のつらくもあるかな(自筆本奥入10・明融本奥入11・大島本奥入11)
11 恋しきをなにゝつけてかなくさめん
夢たにみえすぬる夜なけれは(自筆本奥入11・明融本付箋02・奥入12・大島本奥入12)
(「空蝉」の奥入2条が竄入 明融臨模本・大島本「空蝉」の奥入2条が竄入)
12 風俗
玉たれのかめをなかにうへてあるしはもや
さかなもきにさかなもとめにこゆるき」6オ
のいそにわかめかりめけに(自筆本奥入12・明融本奥入13・大島本奥入13)
13 催馬楽 呂
和加伊戸波止波利帳於毛多礼多留乎
於保支三万世无己尓せ无美以左可奈尓
奈尓与介无あ波<安々>比左多乎加世
与介无安々波<安々>比左太乎可加世与介无(自筆本奥入13・明融本奥入14・大島本奥入14)
14二道(自筆本奥入14・明融本奥入15・大島本奥入15)
(約1行分空白 自筆本奥入に「是ハ非本文」)
15三史 史記 漢書 後漢書」7オ
五経 毛詩 礼記 左伝 周易 尚書」6ウ
三道 紀伝 明経 明法(自筆本奥入15・明融本奥入16・大島本奥入16)
<已上伊行所注也>
注加
16まとのうちなるほとは
<長恨歌>
楊家有女初長成養在深窓人未識(自筆本奥入16・明融本奥入01・大島本奥入01)
17ふたつのみち 両途
文集 秦中吟
天下無正声 悦耳即為娯 人間無正色
悦目即為妹 顔色非相遠 貧富即有殊
貧為時所弃 富為時所趁 紅楼富家女
金縷繍羅襦 見人不斂手 矯癡二八初」7オ
母兄未開口 已嫁不須臾 緑窓貧家女
寂寞二十余 荊鈿不直銭 衣上無真珠
幾廻人欲娉 臨日又踟躊 主人会良媒
置酒満玉壺 四座且勿飲 聴我歌両途
富家女易嫁 嫁早軽其夫 貧家女難嫁
嫁晩孝於姑 聞君欲娶婦 娶婦意如何(「置酒満玉壺」-ナシ神 「嫁早軽其夫」-ナシ神 自筆本奥入17・明融本奥入17・大島本奥入17)
追注加
18なかゝみ
何神乎長歟中歟安
家答云なかゝみは天一神也世俗所称事
旧畢可為中字歟金[木+貴]経云天一立中」7ウ
央為十二将定吉凶断事者也如此文者中
字無不審歟凡天一神巡方八方猶天子巡狩
方岳云々毎其方名号雖異未有中神之
号件方忌事古今所違来也(自筆本奥入18・大島本奥入18)
(約6行分空白)」8オ
19「なか川
見李部王記今京極河也古人称中河法成寺の始は人中河の御堂と云又在行成卿記」(貼紙別筆、神宮文庫蔵「源語古抄」による、書陵部本「源語古抄」ナシ)
空蝉
01 夕やみは道たと/\し月まちて
かへれわかせこそのまにも見む(自筆本奥入01・大島本付箋01)
02 いよのゆのゆけたはいくついさしらす
かそへすよます君そしるらん(「いよのゆのゆけたは」-「いよのゆけたは」神 自筆本奥入02)
03 すゝか河伊勢をのあまのすて衣
しほなれたりと人やみるらん(自筆本奥入03・大島本付箋02・大島本奥入01 「帚木」に竄入)
04 とりかへすものにもかなや世中を
ありしなからの我身とおもはん(自筆本奥入04・大島本奥入02 「帚木」に竄入)」10オ
うつせみ
二のならひとあれとはゝ木ゝ」8ウ
のつき也ならひといふへくもみえす一説
には巻第二かゝやく日のみや此巻もとよりなし
ならひの一はゝ木ゝ<うつせみはこの/まきにこもる>二ゆふかほ(「巻第二」-「巻第」神)
(約2行分空白)
夕顔
01 世中はいつくかさしてわかならむ
ゆきとまるをそやとゝさたむる(自筆本奥入01)
02 うちわたすをちかた人に物申す
われそのそこにしろくさけるは何の花そも(「しろく」-「白」神 自筆本奥入02)」9オ
03 老ぬれはさらぬわかれのありといへは
いよ/\みまくほしきゝみかな(自筆本奥入03)
返し
04 世中にさらぬわかれのなくもかな
ちよもとなけく人のこのため(自筆本奥入04)
05揚名介(自筆本奥入14・大島本奥入01)
此事源氏第一之難儀也
非可勘知事
06 <長恨哥>
七月七日長生殿夜半無人私語時
在天願作比翼鳥
天長地久有時尽此恨綿々無絶期(自筆本奥入05・大島本奥入02)」9ウ
(「神宮文庫本」第6丁表裏には「紅葉賀」03~15が誤綴されている)
07 にほ鳥のおきなかゝはゝたえぬとも
きみにかたらふことつきめやは(自筆本奥入06)
07 おもふとていとしも人にむつれけむ
しかならひてそみねは恋しき(自筆本奥入07)
08 いはぬまは千とせをすくす心ちして
松はまことにひさしかりけり(自筆本奥入08・大島本奥入03)
此哥近代哥歟不足此證哥
09 貞信公於南殿御後被取釼鞘給抜
釼給之由在大鏡無他所見歟人之口伝歟(自筆本奥入09・大島本奥入04)
10 八月九月正長夜千声万声無終時(自筆本奥入10)」10オ
11 ねぬなはのくるしかるらんきみよりも
我そますたのいけるかひなき(自筆本奥入11)
12 こりすまに又もあた名はたちぬへし
人にくからぬ世にしすまへは(自筆本奥入12)
13 亥一時<ニ>侍臣名対面<ナタイメン><起自延喜元年>
滝口武士名対面事
亥一刻侍臣奏之後
延喜九年五月廿日蔵人源揚 宣云
候瀧口輩三ケ夜以上無故不<ハ>参莫
願着到宜待後仰者(「願」-「預」神 自筆本奥入13)」10ウ
若紫
<伊行>
01 あまのすむそこのみるめもはつかしく
いそにおいたるわかめをそかる(自筆本奥入01・大島本奥入01)
02 従冥入於冥<法華経>(自筆本奥入02・大島本奥入02)
03 可津良支乃天良乃末戸名留や止与良
乃天良乃尓之奈留や江乃波為尓之良
太万之川久や末之良たましつくやお
し止と於之止々之かしてはくにそさかへ
んや和以戸曽と美せむやおゝ之止々
止之屯止おゝ之屯止々屯止(「おゝ之止々止之屯止おゝ之屯止々屯止」-「おし止々止しもおゝしも止々も止」神 自筆本奥入03・大島本奥入03)」11オ
04 君をいかておもはん人にわすらせて
とはぬはつらき物としらせん(自筆本奥入04)
05 命たに心にかなふものならは
なにかは人をうらみしもせん(自筆本奥入05)
06 すみそめのくらふの山にいる人は
たとる/\そかへるへらなる
此哥くらま山也此哥之心更不叶くら
ふの山の本哥尤有事故歟(「くらま山」-「くらふ山」神 自筆本奥入06・大島本奥入04)
07 <此哥上句如何>
みなといりのあしわけを舟さはりおほみ
おなし人にやこひんと思ひし(自筆本奥入07・大島本奥入05)」11ウ
08 人しれぬ身はいそけともとしをへて
なとこえかたきあふさかのせき(自筆本奥入08・大島本奥入06)
09 風俗常陸哥
ひた地には田をこそつくれ田礼をかは
山をこえ野をもこえ君かあまたきませる(「野をもこえ」-「野をこえ」神 自筆本奥入09・大島本奥入07)
10 しらねともむさし野といへはかこたれぬ
よしやそこそはむらさきのゆへ(自筆本奥入10)
書加
11 あしわかの浦にきよするしら浪の
しらしな君はわかおもふとも(自筆本奥入11)」12オ
12なそこひさらむ 未勘(自筆本奥入12)
13くらふの山(自筆本奥入13)
14くさのとさし
ちはやふる神のいかきもこゆる身は
くさのとさしになにかさはらん(自筆本奥入14)
15ゆほひか
みよしのゝおほかは水のゆほひかに
あらぬものからなみのたつらん
(約2行分空白)」12ウ
末摘花
<伊行>
01 琴詩酒友皆抛我雪月花時尤憶君(自筆本奥入01・大島本奥入01)
02 伊毛可々度世奈可々度由支須支可祢天
也和可由可波比知可左の比知可左のあめも
ふらなんしてたを左あまやとりかさやとりて
まからんしてたをさ(「比知可左の比知可左の」-「比知可左の」神 自筆本奥入02・大島本奥入02)
03 我袖は名にたつすゑのまつやまか
空より浪のこえぬ日そなき(自筆本奥入03)
04 白露(白露=アハ雪)はけふはなふりそ白妙の
袖まきほさん人もなき身に(「白露(白露=アハ雪)」-「白露」神 自筆本奥入04・大島本付箋02)」13オ
05 くれなゐを色こき花とみしかとも
人をあくたにうつろひにけり(自筆本奥入05・大島本付箋03)
06 あらたまのとしたちかへるあしたより
またるゝ物はうくひすの声(自筆本奥入06)
07 もゝちとりさへつる春は物ことに
あらたまれともわれそふり行(自筆本奥入07・大島本付箋04)
08 夢とこそ思ふへけれとおほつかな
ねぬにみしかはわきそかねつる(自筆本奥入08・大島本付箋05)
<書加>
09 北窓三友<文集六十二> 三友是也
今日北窓下 自問何所為 欣然得三友 三友者為誰」13ウ
琴罷輙挙酒 酒罷輙吟詩 三友逓相引 脩環無已時
一弾[心+匚+火]中心 一詠暢四支 猶恐中有間 以酔弥縫之(自筆本奥入09・大島本奥入05)」16オ
10 おもはすはおもはすとやはいひはてぬ
なそ世中のたまたすきなる(自筆本奥入10・大島本付箋01)
11 したにのみこふれはくるし山のはに
またるゝ月のあらはれはいかに(自筆本奥入11)
12ふるき 貂といふけものゝかはのきぬ也(自筆本奥入12)
13 文集秦中吟
夜深爐火尽 霰雪白紛々 幼者形不蔽 老者体無温
悲端与寒気 併入鼻中辛(自筆本奥入13・大島本奥入03)」14オ
14 求子の哥を春日にてはみかさの山とうたふ(自筆本奥入14・大島本奥入04)
15 <平中か妻の哥>
我にこそつらさは君かみすれとも
人にすみつくかほのけしきよ(「平中か妻」-「平中の妻」神 自筆本奥入15・大島本付箋06)
16 にほはねとほおゑむ梅の花をこそ
我もおかしとなりてなかむれ(自筆本奥入16・大島本付箋07)
17わかむとほり 王孫をいふ(自筆本奥入17)
18夢かとそみるとうちすして
伊行釈不相叶可勘之(自筆本奥入18)
(約2行分空白)」14ウ
紅葉賀
01 我やとのまちしなてしこいつしかも
はなにさかなんよそへてもみむ(自筆本奥入02)
02 しほみてはいりぬるいそのくさなれや
みらくすくなくこふらくのおほき(自筆本奥入03)
03 伊勢のあまのあさなゆふなにかつくてふ
みるめに人をあくよしもかな(「みるめに人を」-「みるめを人に」神 自筆本奥入04)
04 保曽呂倶世利<楽名也狛笛也左楽也>(自筆本奥入05・大島本奥入05)
05 おほあらきのもりのした草おいぬれは
こまもすさめすかる人もなし(自筆本奥入06)」15オ
06 ひまもなくしけりにけりなおほあらきの
もりこそなつのかけはしりけれ(自筆本奥入07)
07 つの国のなからのはしのはし/\ら
おいぬる身こそかなしかりけれ(自筆本奥入08)
08 にくからぬ人のきせけるぬれきぬは
おもひにあへすいまかはきなん(自筆本奥入09)
09 恋しさのかきりたにある世なりせは
つらきをしゐてなけかさらまし(自筆本奥入10)
10 山代<呂>
山しろのこまのわたりのうりつくりなよやら
いしなやさいしなやうりつくり/\はれ
うりつくりわれおほ之止伊不伊加尓せ无
名与や良伊之名や左伊之奈也以可耳せん
いかにせん波礼いかにせんなりやしなまし乎
利多川末天にや良以之奈佐いしなや乎
利多川末乎利たつまてに(自筆本奥入11・大島本奥入01)
11 文集巻第十 夜聞歌者宿鄂州
夜泊鸚鵡洲 江秋月澄徹 隣船有歌者 発調堪愁絶
歌罷継以泣 泣声通復咽 尋声見其人 有婦顔如雪
独倚帆檣立 娉[女+亭]十七八 夜涙似真珠 双々堕明月」16オ
借問誰家婦 歌泣何悽切 一問一霑巾 低眉竟不説(自筆本奥入17・大島本奥入02)
12 あつまやのまやのあまりのあまそゝきわれ
たちぬれぬとのとひらかせかすかひも
とさしもあらはこそそのとのとわれさゝめ
おしひらいてきませわれやひとつま(「われやひとつま」-「われやひとつまわかせこ(わかせこ$)」神 自筆本奥入12・大島本奥入03)
13 わかせこかくへきよひなりさゝかにの
くものふるまひかねてしるしも(自筆本奥入13)
14 くれなゐのこそめの衣したにきて
うへにとりきはしるからんかも(自筆本奥入14)
15 わかれてのゝちそかなしきなみたかは」16ウ
そこもあらはになりぬとおもへは
16 いぬかみのとこの山なるいさらかは
いさとこたへよ我名もらすな(「いさとこたへよ」-「いさとこたへて」神 自筆本奥入15)
(約1行分空白)
17 青海波詠之<小野篁作>
桂殿迎初歳 桐楼媚早年
剪花梅樹下 蝶鴛昼梁辺
此楽嵯峨天皇御時雖平調為盤
渉調(自筆本奥入01・大島本奥入04)
(約1行分空白)」17オ
花宴
01はるといふもしたまはれり
西京記
十月九日残菊宴若有探韻博士還幄之後内
弁令置韻左近少将持韻盃昇殿置二人台一
匣中右将監又以韻盃置中庭文台<先令蔵人給/内弁加韻目>
<六二通内弁召次将給韻次召内記給目六一通殿上新也召外記給/一通幄下新也可賜式部録也件韻以土器入之以土器覆其上以>
<紙封其辺二盃之中片坏是殿上料也給時居楊筥天暦七年居/折敷云々及欲置之期少将召右将監於階下伝給下料韻坏令置>
<文台時開封云々寛平二年以韻坏先置殿上次将/昇殿(殿+取)給右将監令置下料延喜廿一年如此>内弁起座
進就文台挿笏以韻器居遷蓋進膝捧候」17ウ
天気天探訖返置坏還座<内弁出自文台東間/就案入時用立文台間>
<云々進倚御帳東主上探一字不探字或不字訓音内弁還出而/入置坏具間経簀子東行復座天長八年大納言自進探韻奉天>
<皇而延喜廿一年同之但東宮預参之時還給/御前之次献之太子探之内弁置酒具>次王卿属文者
就文台推探韻<経東階上簀子就東下挿笏取韻字右傾/開見加笏立申官姓名字訓字等右廻還着>
<本座或左廻/云々非也>内記於階下探字<唱字之声不聞/者便宜可示之>幄下
文人次第探之式部録於座西頭着床子記之(「昇殿(殿+取)給」-「昇殿取給」神、「幄下文人」-「文人」神)
02はなしろめるおほかり
おこのことをははなしろといふなり世俗
のことわさなり
03はるのうくひすさへつるといふまひ」18オ
これは一越調に春鴬囀と云楽の
あるなりそのことなり
04なをあらしに
<万葉七>
なをあらしとことなしくさにいふことを
きゝしれてはすくなかりけり(明融本奥入01・大島本奥入01)
05おほろ月夜に
てりもせすくもりはてぬ春の夜の
おほろ月夜にしく物そなき(自筆本奥入01・明融本付箋02)
06やはらかにぬるよはなくて
貫河<律 催馬楽>」18ウ
ぬき河のせゝのや波良多まくらやはらか
にぬるよはなくておやさくるつまをやさ
くるつまはましてるはしもしるしあらは
やはきのいちにくつかひにかむくつか
はゝちかひのほそしきをかへさしはきて
うはもとりきてみやちかよはん(自筆本奥入03・明融本奥入02・大島本奥入02)
07さかゆくはるに
今こそあれわれもむかしはおとこ山
さかゆく時もありこし物を(自筆本奥入04・明融本付箋03)
08ゆみのけち」19オ
弓結也故人日記多有此事(事$筆)(「有此事(事$筆)」-「有此筆」神)
09からのきのなをし
からのきは綺羅之類也此下襲及于近代
如執柄間用之
10ほかのちりなんとや
みる人もなきやまさとのさくらはな
ほかのちりなん後そさかまし(自筆本奥入05・明融本付箋04)
11あふきをとられて
石川<呂 催馬楽>
いし河むのこまうとに帯をとられて」19ウ
からきくひするいかむなるおひそはなた
の帯のなかはたえたるかやなかやたかなかは
たえたる(自筆本奥入06・明融本奥入03・大島本奥入30)」23オ
葵
01ひとたまひ 人給<今出車名也/権記多有此名>(自筆本奥入01)
02 我をおもふ人をおもはぬむくひにや
わかおもふ人のわれを思はぬ(自筆本奥入02)
03 さゝのくまひのくまかはにこまとめて
しはし水かへかけをたにみむ(自筆本奥入03)」20オ
04 伊勢の海につりするあまのうけなれや
心ひとつをさためかねつる(自筆本奥入04)
05 くやしくそくみそめてけるあさけれは
袖のみぬるゝ山の井の水(自筆本奥入05)
06 身をすてゝいにやしにけんおもふより
ほかなるものは心なりけり(自筆本奥入06)
07 おもはしとおもふも物をおもふなり
おもはしとたに思はしやなそ(自筆本奥入07)
08 むすひをきしかたみのこたになかりせは
なにゝしのふの草をつまゝし(自筆本奥入08)」20ウ
09 [敬+手]掌上珠摧心中丹<古願文歟此事非此本文歟追可勘>(大島本奥入01)
10 時しもあれ秋やは人のわかるへき
さるは夜さむになれる比しも(自筆本奥入09)
11 神な月いつもしくれはふりしかと
かく袖ひつるおりはなかりき(自筆本奥入10)
12 しら雲の九重にたつ峯なれは
おほうち山とむへもいひけり(「峯」-「嶺」神 自筆本奥入11)
13 色ならはうつるはかりも染てまし
おもふ心をしる人のなさ(自筆本奥入12)
14 みなれ木のみなれそなれてはなれなは」21オ
恋しからんや恋しからしや(自筆本奥入13)
15 末の露もとのしつくや世中の(自筆本奥入14)
16 有所嗟二首 夢得
[广+臾]令楼中初見時 武昌春柳似胸支
相逢相失両如夢 為雨為雲今不知
鄂渚濛々烟雨微 女郎魂逐暮雨帰
只応長在漢陽渡 化作鴛鴦一隻飛
夢得ハ白楽天同時之人也思ふ人にをくれて作詩也(「烟雨微」-「烟雨徹」神 自筆本奥入19・大島本奥入02)
17 わか草のにゐたまくらをまきそめて」21ウ
よをやへたてんにくからなくに(自筆本奥入15)
18 みかりするかりはのをのゝならしはの
なれはまさらて恋そまされる(自筆本奥入16)
19 あたらしくあくることしをもゝとせの
春やきぬるとうくひすの鳴(自筆本奥入17)
20 <長恨歌>
鴛鴦瓦冷霜華重旧枕故衾誰与共(「故衾」-「古今」神 自筆本奥入18・大島本奥入03)
榊
01長奉送使 奉行の時公卿をなさる」22オ
02御くしあけのてうと
すゑひたひさいしのたくひか
03御くしのはこ 群行の御ひたひくしをは
まきゑなるはこにいれたり
04うちみたれのはこ 一尺あまりなるはこ
のふかさ二寸はかりにてふかふたをおほひ
たるなり
05かうこのはこ いゑのもやのてうとに二
合あり一合の中にこはこ四いりたり四しゆの
たき物をいるゝ也一合にははこ二あり一の」22ウ
はこにはきらゝをいれたりひとつの箱には
さむかをいれたりそのほかたき物のはしかひ
なとをつるかめすはまなとのふりうにす
ゑていれたるなり
06からくしけ おなしきひさしの調度に
ありあしたかきたいにすゑたりふたの
うへにちいさきはこをつけたり
07かゝけのはこ からくしけのいたゝきのこ
はこのなきなりいつれにもくしかみかいの
たくひをいれたる也」23オ
08いかきをもこえ侍けれ
ちはやふる神のいかきもこえぬへし
<大宮人の見まくほしさに>
いまは我身のおしけくもなし(自筆本奥入01・大島本奥入01)
09 あまのはらふみとゝろかしなる神も
おもふ中をはさくるものかは(自筆本奥入02)
10わかれのくし 群行之時於大極殿主上
令刺額櫛於斎王給不可赴京方之由被申
故有此号(「不可赴」-「不可趣」神)
11 世にふれはうさこそまされみよしのゝ
いはのかけみちふみならしてん()」23ウ
12 あまの河うきゝにのれるわれなれや
ありしにもあらす世は成にけり
13せきふしんのみけんめのやうに
史記呂后本紀 戚夫人趙王如意母也呂后怨
戚夫人其子趙王囚戚夫人断手足去眼[火+軍]耳
飲[疔-丁+昔]薬使居厠中命曰人[王+比](「囚戚夫人」-「因戚夫人」神 自筆本奥入04・大島本奥入02)
14 あまの戸をゝしあけかたの月みれは
うき人しもそ恋しかりける(自筆本奥入05)
15 いにしへのしつのをたまきくりかへし
むかしをいまになすよしもかな(自筆本奥入06)」24オ
16とのゐものゝふくろ 宿物袋只納件物
之袋歟
17 みる人もなくてちりぬるおく山の
もみちは夜るのにしきなりけり
史記朱買臣伝云富貴不帰故郷如衣錦夜行
18ちかきよに 未勘(自筆本奥入07)
19白虹日をつらぬけり
<漢書>
昔荊軻慕燕丹之義白虹貫日而太子畏之(自筆本奥入08・大島本奥入03)
20 山桜見にゆくみちを(を+へ)たつぬ(ぬ=イ無)れは
霞も人のこゝろなるへし(「みちを(を+へ)たつぬ(ぬ=イ無)は」-「道を(を+へイ)たつぬ(ぬ=イ無)れは」神 自筆本奥入09)」24ウ
21 数ならぬ身のみものうくおもほえて
またるゝまてもなりにけるかな(自筆本奥入10)
22 をとにきくまつかうら嶋けふそみる
むへもこゝろあるあまはすみけり(自筆本奥入11)
23 甕頭竹葉経春熟階底薔微入夏開(自筆本奥入12・大島本奥入04)
24あはましものをさゆりはの
<催馬楽>
高砂<律>
たかさこの左伊左々古乃太加左この乎の戸尓多
天留之良太末川波木多万や名支曽礼毛加止
左牟末之毛可止末之毛可度祢利乎左美」25オ
乎乃見曽加介尓世牟多万や名支尓之加
毛沙む名尓之加毛名尓之加毛古々呂毛万
多伊介牟由利波名乃沙由利波名乃介左々
伊多留波川波名尓安波末之毛乃乎左由
利波名の(「沙む」-「沙毛」神 自筆本奥入13・大島本奥入05)
25文王の子武王のおとゝ
史記魯世家
於是卒相成王而使其子伯禽代就封於魯戒伯
禽曰我文王之子武王之弟成王叔父也於天下亦
不賤矣然我一沐三捉髪一飯三起以待士猶恐失」25ウ
天下之賢人子之魯慎無以国驕人<周公旦者文王之子/武王之弟自知其貴>
<貞信公第三表>
忠仁公者皇帝之祖皇后之父世推其仁<江相公>(自筆本奥入14・15)
26くろきくるま 重服人所乗用也
(約2行分空白)
花散里
01 かこはねとよもきのまかき夏くれは
うへしかきねもしけりあひにけり(「まかき」-「まき」神 自筆本奥入01)
02 いにしへのことかたらへはほとゝきす
如何しりてかなく声のする(自筆本奥入02・定家本付箋01)」26オ
03 橘の香をなつかしみほとゝきす
かたらひしつゝなかぬ日そなき(自筆本奥入03・定家本付箋02)」
(約2行分空白)
陬磨
01 いへはえにふかくかなしき笛竹の
夜こゑやたれとゝふ人もかな(自筆本奥入01)
02ことなしにて
きみ見すて程のふるやのひさしには
あふ事なしの草そおひぬる(自筆本奥入02)」26ウ
03 あひにあひて物おもふころの我袖に
やとる月さへぬるゝかほなる(自筆本奥入03)
04 いとゝしく過行かたの恋しきに
うらやましくもかへる波かな(自筆本奥入05)
05 わくらはにとふ人あらはすまの浦に
もしほたれつゝわふとこたへよ(自筆本奥入07)
06 しら浪はたちさはくともこりすまの
うらのみるめはからんとそおもふ(自筆本奥入09)
07せき吹こゆる
行平中納言哥可尋之能宣朝臣似之(自筆本奥入10・大島本奥入01)」27オ
08 三五夜中新月色二千里外故人心(自筆本奥入11・大島本奥入02)
09 去年今夜侍清涼秋憶詩篇独断腸
恩賜御衣今在此捧持毎日拝余香(自筆本奥入12・大島本奥入03)
10 おもひきやひなのわかれにおとろへて
あまのなはたきいさりせむとは(自筆本奥入13)
11 駅長無驚時変改一栄一落是春秋(自筆本奥入14・大島本奥入04)
12 <史記>
趙高指鹿謂馬<秦二世時>(自筆本奥入15・大島本奥入05)
13 王昭君 朝綱卿
翠黛紅顔錦繍粧泣尋沙塞出家郷
辺風吹断秋心緒瀧水流添夜涙行」27ウ
胡角一声霜後夢漢宮万里月前腸
昭君若贈黄金賂定是終身奉帝王(自筆本奥入16・大島本奥入06)
14 文集 香鑪峯下新卜山居草堂
五架三間新草堂石階松柱竹編墻(自筆本奥入20・大島本奥入09)
15 十年三月卅日別微之於[水+豊]上十四年三月十一
日過微之於峡中停舟夷陵三宿而別言不
尽以詩終之<七言十七韻之中>
一別五年方見面語到天明竟不眠
生涯共寄蒼波上郷国倶抛白日辺
往時渺茫都似夢旧遊零落半帰泉」28オ
酔悲灑涙春盃裏吟苦支頤暁燭前(「過微之」-「遇微之」神、「白日辺」-「自日辺」神 自筆本奥入21・大島本奥入10)
16 いもか門ゆきすきかねつひちかさの
雨もふらなんあまかくれせん(自筆本奥入22)
(約2行分空白)
明石
01 浪にのみぬれつるものを吹かせの
たよりうれしきあまのつり船(自筆本奥入01)
02 あさりするよさのあま人ほこるらし
浦風ぬるみかすみわたれり(自筆本奥入02)」28ウ
03 程ふるもおほつかなくはおもほえす
いひしにたかふとはかりはしも(自筆本奥入03)
04 あは地にてあはとはるかにみし月の
ちかきこよひはところからかも(自筆本奥入04)
05 [秋+山]叔夜夢伶人教広陵散<注奥>(自筆本奥入05)
06あき人の中にてたに<在奥>(自筆本奥入05・大島本奥入05)
07 またよひにうちきてたゝく水鶏かな
たかかとさしていれぬなるらん(自筆本奥入06)
08 伊勢の宇美乃支与支名支左乃之保加比
尓名乃利曽也川末牟加比也比呂波牟」29オ
也多末也比呂波牟(自筆本奥入07・大島本奥入01)
09 おもふにはしのふることそまけにける
色にはいてしとおもひしものを(自筆本奥入09)
10 うれしさをむかしは袖につゝみけり
こよひは身にもあまりぬるかな(自筆本奥入10)
11 ありぬやとこゝろみかてらあひみねは
たはふれにくきまてそ恋しき(自筆本奥入11)
12 あたら夜の月と花とをおなしくは
あはれしれらん人にみせはや(自筆本奥入12・大島本付箋01)
13 久堅のつきけのこまをうちはやめ」29ウ
きぬらんとのみ君を待かな(自筆本奥入13)
14 おもふとちいさみにゆかん玉津しま
入江のそこにしつむ月かけ(自筆本奥入14)
15 まきのとをやすらひにこそさゝさらめ
いかにあけつる秋の夜ならん(自筆本奥入15)
16 わすれしとちかひし事をあやまたす
みかさのやまの神もことはれ(自筆本奥入16・大島本付箋02)
17しなへうらふれひるのこの
日本世紀<故略之>
二男蛭児生而体如蛭及三年不起其父母」30オ
乗葦船而流(「体如蛭」-「態如蛭」神 自筆本奥入17・大島本奥入02)
(約4行分空白)
18 わすらるゝ身をは思はすちかひてし
人の命のおしくもあるかな(自筆本奥入18)
19あき人の中にてたに
文集琵琶引
今年歓笑復明年 秋月春風等閑度
弟走従軍阿夷死 暮去朝来顔色故
門前零落鞍馬稀 老大嫁作商人婦
商人重利軽離別 前月浮梁買茶去
去来江口守空船 遶船月明江水寒」30ウ
夜深忽夢少年事 夢啼粧涙紅闌干
我聞琵琶已嘆息 又聞此語重[口+即]々
同是天涯淪落人 相悲不必曽相識
我従去年辞帝京 謫居病臥尋陽城
尋陽小処無音楽 終歳不聞糸竹声
今夜聞君琵琶語 如聴仙楽耳暫明
莫辞更坐弾一曲 為君翻作琵琶行
感我此言良久立 却坐促絃々転急
悽々不似向前声 満座重聞皆淹泣
就中泣下誰最多 江州司馬青衫湿(「去来江」-「来江」神、「夢啼」-「一啼」神、「更坐弾」-「更座弾」神 自筆本奥入19・大島本奥入03)」31オ
20まくなき<可尋勘 但凡俗之詞有之云々>(自筆本奥入20・大島本奥入04)
21 晋書[秋+山]康伝
[秋+山]康遊洛西暮宿華陽亭引琴弾夜分忽有客
詣云称是古人与康共談音律辞致清弁因索琴
弾之而為広陵散声調絶倫遂以授康仍誓不
伝人亦不言其姓字(自筆本奥入21・大島本奥入05)
(約2行分空白)
[水+口+耳+戈]盡
01源氏の大納言内大臣になり給ぬかすさたまり」31ウ
てくつろく所もなけれはくはゝりたまふ
三公者太政大臣左右大臣也内大臣者加任也大
織冠以後至于忠義公五人時々任此職中
関白以後大旨相続歟且此任此職者可置納
言参議闕之由見寛平遺誡
02 みくまのゝ浦よりをちにこく船の
われをはよそにへたてつるかな(自筆本奥入01)
03 わひぬれは今はたおなし難波なる
みをつくしてもあはんとそ思(自筆本奥入02)
(約1行分空白)」32オ
蓬生(後書加)」40オ
01 いはそゝくたるみのうへのさわらひの
もえいつる春にあひにけるかな(自筆本奥入02)
02 世中はむかしよりやはうかりけむ
我身ひとつのためになれるか(自筆本奥入03)
03 みよし野の山のあなたに宿もかな
世のうき時のかくれかにせむ(自筆本奥入04)
04五濁 法華経方便品劫濁煩悩濁衆生濁
見濁命濁疏云見濁六道衆生煩悩濁五陰
和合衆生濁一期連持命濁一期報命劫濁無」32ウ
体段上四成(自筆本奥入05・大島本奥入01)
05くのえかう 薫衣香和語也同襄衣香
06みつのみち 蒋[言+羽]字元卿舎中竹下開三逕(自筆本奥入06・大島本奥入02)
07 みさふらひみかさとまうせみやきのゝ
木のした露は雨にまされり(自筆本奥入07)
08 いとゝこそまさりにまされわすれしと
いひしにたかふ事のつらさは(自筆本奥入08)
09 ひきうへし人はむへこそおいにけれ
松の木たかく成にけるかな(自筆本奥入09)
10 おもひきやひなのわかれにおとろへて」33オ
あまのなはたきいさりせんとは
11たうこほちけん
顔叔子といふ人男他行の間その男のうた
かひのために塔のかへをこほちてよ
もすからともしあかしてゐたる事也(自筆本奥入10・大島本奥入03)
(約2行分空白)
関屋
01いろ/\のあおとも 襖者有裏衣裳之号也」33ウ
(約1行分空白)
絵合
01御くしのはこうちみたりかうこ
櫛筥香壺筥等在母屋調度打乱者為庇
調度近年略儀元服之時櫛手巾猶納打乱筥
(約2行分空白)
松風
01 みなれ木のみなれそなれて(自筆本奥入01)
02 ありはてぬ命まつまのほとはかり
うき事しけく思はすもかな(自筆本奥入02)」34オ
03 夜光玉<書奥>(自筆本奥入03)
04 富貴不帰故郷如衣錦夜行<史記項羽本紀>(自筆本奥入04・大島本奥入01)
05 おのゝえはくちなは又もすけかへん
うき世中にかへらすもかな(自筆本奥入05)
06 みさこゐるあら磯波に袖ぬれて
たかためひろふいけるかひそも(自筆本奥入06)
07 千世へんといはひそめてしひめ松の
ねさしとめてしやとはわすれす(自筆本奥入07)
08 しら雲のたえすたなひく山にたに
すめは住ぬる世にこそ有けれ(自筆本奥入08・大島本付箋01)」34ウ
09 たれをかもしる人にせんたかさこの
松もむかしの友ならなくに(自筆本奥入09・大島本付箋02)
10 久かたの中におひたるさとなれは
ひかりをのみそたのむへらなる(「たのむ」-「たのひ(ひ$)む」神 自筆本奥入10)
11 あはちにてあはとはるかにみし月の(自筆本奥入11)
(約1行分空白)
12 ふる里はみしこともあらすおのゝえの
くちし所そ恋しかりける(自筆本奥入12)
13夜光玉
斉威王二十四年与魏王会田於郊魏王問曰王亦」35オ
有宝乎威王曰無有梁王曰若寡人国小尚有
径寸之珠照車前後各十二乗者十枚奈何以万乗
之国而無宝乎威王曰寡人之所以為宝与王異
吾臣有檀子者使守南城則楚人不敢為冦東取
泗上十二諸侯皆来朝吾臣有盻子者使守高唐
則趙人不敢漁於河吾吏有黔夫者使守徐州則
燕人祭北門趙人祭西門徒而従者七千余家臣
有種首者使備盗賊則道不拾遺将以照千里
豈特十二乗哉梁恵王慙不懌而去
寡人は諸王のかたみになのる名也(自筆本奥入13・大島本奥入02)」35ウ
薄雲
01 やとかへてまつにもみえすなりぬれは
つらき所のおほくもあるかな(自筆本奥入01)
02 うらみての後さへ人のつらからは
いかにいひてかねをもなくへき(自筆本奥入02)
03 かくこひん物とはわれもおもひにき
こゝろのうらそまさしかりける(自筆本奥入03)
04 桜人<呂 催馬楽>
左久良比と曽乃不祢知々女之末川多乎
と万知川久礼は見天可戸利己牟也曽与」36オ
也さ春可戸利己牟也曽於与於己止於己曽
安春止毛以波女牟千可太に川万左留世
那々礼波安春毛左祢己之也曽与也左安
春毛左祢己之也曽与也(自筆本奥入04・大島本奥入01)
05 世中は夢のわたりのうきはしか
うちわたりつゝ物をこそおもへ(自筆本奥入05)
06 深草の野へのさくらし心あらは
ことしはかりは墨染にさけ(自筆本奥入06)
07 いにしへのむかしのことをいとゝしく
かくれは袖そ露けかりける(自筆本奥入07・大島本付箋01)」36ウ
08 むすほゝれもえし煙もいかゝせむ
きみたにこめよなかきちきりを(自筆本奥入08・大島本付箋02)
09はるのにしきしくものなし
晋石季倫居金谷春花満林作五十里錦障(「春花満」-「春満」神 自筆本奥入09・大島本奥入02)
10 文集草堂
春有錦繍谷花夏有石門澗雲秋有虎溪月
冬有鑪峯雪(自筆本奥入10・大島本奥入03)
11 梅かゝを桜の花ににほはせて
柳か枝にさかせてしかな(自筆本奥入11・大島本付箋03)
12 うちかへしおもへはかなし世中を」37オ
たれうき物としらせそめけん
(約2行分空白)
槿
01しなとのかせにたくへてしものを
なかとはらへにしなとのかせのあめのやへ
くもを吹はらふといふ事のある也
02 恋せしのみそきは神もうけすとか
人をわするゝ罪ふかしとて(自筆本奥入01)
03 君か門いまそ過行いてゝみよ」37ウ
恋する人のなれるすかたを(自筆本奥入02)
04 すまのあまのしほやき衣なれゆけは
うきめのみこそみえまさりけれ(自筆本奥入03・大島本付箋01)
05 <聖徳太子伝>
しなてるやかたをか山にいひにうへて
ふせるたひ人あはれおやなし(「聖徳太子伝」-「聖徳太子作」神 自筆本奥入04・大島本付箋02)
06 身をうしといひこし程にいまは又
人のうへともなけくへきかな(自筆本奥入05)
07 かけていへは涙の河のせをはやみ
心つからや又もなかれむ(自筆本奥入06・大島本付箋03)
(約1行分空白)」38オ
未通女
01四位になしてんとおほしよ人もさそあらんと
おもふをいときひはなるほとをわか心にまか
せたるよにてしかゆくりなからんもなか/\めなれ
たることなりとおほしとゝめつあさきにて
殿上にかへり給を大宮はあかすあさましき
ことゝおほしたるそことはりにいとをしかりける
御たいめんありてこの事きこえ給にたゝいま
かうあなかちにしもまたきにをいつかす
ましう侍れとおもふやうありて大かくの」38ウ
みちにしはしならはさむのほい侍によりいま
二三年をいたつらのとしにおもひなして
勘申以皇親補明経得業生事
右学令云大学生取五位以上子孫為之義解云
諸臣諸王皆是大同元年格云諸王及五位以上
子孫十歳以上皆入学分業教習経一選後補
大舎人但願遂業者聴之天平二年格云大学
生選芸業優長者十人已下五位已上賜夏
冬時服并給食料式云得業生者明経四人
者案此等文大学生徒始取王臣至補得業
生唯選優長者由是言之無妨充補但案選
叙令皇親本蔭従五位下明経上々第従八
位上此則論位階之一端也偏拠可叙八位之文
未必可独為補諸臣之例仍勘申如件
元慶八年三月廿二日明法博士忌部説継
依為准拠勘文載之(「ゆくりなからんも」-「ゆくからんも」神、「諸王及」-「諸(+王<朱>)及」神、「給食料式云」-「給食断(断$)新式云」神)
02まとのほたるをむつひえたの雪をならし
孫康家貧無油常映雪読書
車胤字武子南平人好読書無油夏月則
絹嚢盛数十蛍火照書(自筆本奥入01・大島本奥入01)」39ウ
03 秋は猶ゆふまくれこそたゝならね
荻のうはかせ萩のした露(自筆本奥入02)
04 落葉俟微風以隕而風之力蓋寡孟甞<注奥>(自筆本奥入03・大島本奥入02)
05はきか花すり 更衣<律催馬楽>
己呂毛加戸世牟也左支牟多知和加支奴波
乃波良之乃波良波支の波奈須利也左支牟
多知也(自筆本奥入04・大島本奥入03)
06 霧ふかき雲井のかりもわかことや
はれせすものゝかなしかるらん(自筆本奥入05)
07 おほかたの秋のさかとはしりなから」40オ
荻吹かせそ身にもしみける
08うへの五節 殿上五節江州献之歟
09 穴貴<呂催馬楽>
安名多不止介不之多不止左や伊仁之戸
毛波礼伊耳之戸毛加久也安利介牟
や介不之多不止左也安波礼曽己与之
や介不之多不止左や(「介不之多不止左や」-「介之多不止左や」神、「伊耳之戸毛加久也」-「伊耳之戸毛波礼伊耳之戸毛加久や」神 自筆本奥入07・大島本奥入04)
10 をとめこか袖ふる山のみつかきの
久しき世より思ひそめてき(自筆本奥入06)
11五節にことつけてなをしなとさまかはれ」41ウ
る色ゆるされて
六位七位可着浅深緑袍直衣者旧例聴
雑袍之人所着也(自筆本奥入08・大島本奥入05)
12あおすりのかみ 豊明節会日諸物用青
摺之故歟 朱雀陰行幸皆已下着青色
袍内院源氏太政大臣赤色袍諸人着青色
袍日主上并一大臣者赤色袍定事也
13 桜人
さくら人そのふねちらぬしまつたをとまちつくれは
みてかへりこんやそよやさすかへりこんやそよ」41オ
やことをこそあすともいはめをちかたにつま
さるせなゝれはあすもさねこしやそよやさ
すもさねこしやそよや
14 寮試
寮頭以下各一員博士以下各一員参着試庁
出貢挙交名等博士加署渡寮々頭見了下允
以下以[竹+冊]匣三合置試衆座前又以読書等置頭
博士秀才<謂之試/博士>并試衆等前次第召試衆々々把
巻進出幔門下允仰云版に試衆揖立版允又仰
云敷居に試衆揖於敷居下脱沓着座置帙置頭」41ウ
仰云[竹+冊]衆唯之採[竹+冊]<三史之間今/日読[竹+冊]也>膝行置試博士前
試博士対寮頭云史記乃本紀乃一乃巻世家乃上
帙乃五巻下帙乃一乃巻伝乃中乃帙乃七乃巻頭仰
云令読与試衆各披帙把巻引音読之頭仰云古
々末天試博士対頭云文得頭云注せ寮捧
簡称注由了試衆退出堂監於幔外仰登料
酒肴事(「次第召」-「次第占」神 自筆本奥入09・大島本奥入06)
15 文選豪士賦序云落葉俟微風以隕而風力
蓋寡孟甞遭雍門而泣而琴之感已未何
者欲隕葉無所仮烈風将墜之泣不足繁哀」42オ
響也 注曰草木遭霜者不可以風過又云雍
門周以琴見孟甞君々々々曰先未鼓琴亦能
令文悲乎対曰臣竊為足下有所悲千秋
万歳後墳墓生荊棘游童牧竪躑躅其足歌
其上孟甞君之尊貴亦猶若是乎於是孟
甞君唱然太息涕承睫而未下雍門引琴
而鼓之徐動宮徴揮角羽終成曲孟甞君
遂歔欷(「悲千秋」-「悲千愁」神 自筆本奥入03・10・大島本奥入02)
(約2行分空白)」42ウ
玉鬘
01 世中にあらましかはとおもふひと
なきかおほくもなりにけるかな(自筆本奥入02・大島本奥入01)
02 さらぬたにすきゆくかたの恋しきに
うらやましくもかへるなみかな
03 おもひきやひなのわかれにおとろへて
あまのなはたきいさりせんとは
04 いつとてもこひしからすはなけれとも
あきのゆふへはあやしかりけり(自筆本奥入03)
05こ地のせいしをはむなしくすて/\つ」43オ
文集<楽府縛戎人>
涼源郷井不得見胡地妻子虚棄捐(自筆本奥入04・大島本奥入02)
06 かそいろはいかにあはれとおもふらむ
三とせになりぬあしたゝすして(自筆本奥入05)
07ねさう 念誦之類歟(「類歟」-「類也」神)
08このつきはきのはて
若忌歟
(約3行分空白)」43ウ
はつね
01 あふみのやかゝみの山をたてたれは
かねてそみゆるきみかちとせは(自筆本奥入01)
02 けふたにもはつねきかせよ鴬の
をとせぬさとはすむかひもなし(自筆本奥入02)
03 梅花さけるをかへにいゑしあれは
ともしくもあらすうくひすの声(自筆本奥入04)
04このとのうちいてたる
このとのはむへもとみけりさきくさの
あはれさきくさのはれさきくさのみつは」44オ
よしはのなかにとのつくりせりやとのつ
くりせり(自筆本奥入06)
05かさしのわた
男踏哥儀有種々綿召内蔵寮綿給作
物所令造進綿花
06はちすのなかのさかひ 下品下生歟(自筆本奥入07・大島本奥入03)
07 よのうきめみえぬ山ちへいらんには
おもふ人こそほたしなりけれ(自筆本奥入08)
08 よそにきく松かうらしまきてみれは
むへこゝろあるあまもすみけり(「すみけり」-「すみける」神 自筆本奥入10)」44ウ
09 承平四年正月十二日九暦云自大内召而昨夜
風発動辛苦無極仍不能参入但主上出給云々
踏歌飯駅水駅被定云々中宮飯北宮水今
宮許左大臣宿所飯右大臣宿所水右大将宿所飯
天慶五年正月十四日李部王記云御前事了
参大后宮<承香/殿>賜饌被綿次参康子内親王<麗/景>
<殿>設酒肴如前成明親王同注此殿仍被綿後
設饗<水駅/也>更詣昭陽舎先被綿而就饗饌
蒭駅也
10 踏謌儀」45オ
新儀式云当夜哥頭以下相卒(卒+麹塵袍白下襲イ)集中院暫也自
月華門参入行列右近陣前庭時剋出御々座<孫庇/南四>
<間平文/御倚子>内蔵寮舁禄綿机立前庭<南第四/間>王卿依
召参上<簀子南第三間菅円座/人多及南廊小板敷>賜酒肴於王卿御
厨子所供御酒踏歌人進南殿西頭始奏調子了
入仙華門列立庭上踏歌周旋<三度>後列立御前
言吹進当綿案立奏祝詞喚嚢持二声
嚢持称唯進而計綿数奏絹鴨曲次奏此
殿曲訖着座<行立間掃部寮当御階南辺一許丈立
床子為歌頭已下舞人以上座相対北為上>
<仁寿殿西階南立床子為菅絃者座南廊壁下南西東上敷
畳立机為打熨斗持座若有諸司二分次管絃者着>」45ウ
<之同壁下北面西上敷畳為殿上侍臣座内蔵舁四尺台盤
三基立舞人以上前八尺台盤一基為管絃者座弁備肴饌>
次公卿已下々殿勧盃侍臣所雑色以下行酒三四
巡後漸奏調子唱竹河曲即起座列立三四唱
後舞人已上雙舞進半上東階内侍二人相分
被綿且舞且還<女蔵人二人持綿/匣候内侍後>但弾琴者已
下男蔵人二人伝取御簾中於庭中被之
奏我家曲退出自北廊戸其後踏哥所々
暁更帰参御座如初哥頭舞人賜座於庭中
<黄端畳相/対西上>管絃者在横切<北上/西面>打熨斗嚢持座
在南<西上/北面>出御之後哥頭以下依召参入<王卿元/簀子>」46オ
着座賜之酒饌此間奏管弦数巡之後賜
禄有差事了退出<哥頭与子染褂各一領哥掌/同色衾一条吹物弾物襖子>
<一領打熨嚢/持絹一疋>(「相卒(卒+麹塵袍白下襲イ)」-「相卒麹塵袍白下襲(襲+イ)」神、「半上東階」-「半上車(車$)東階」神、「男蔵人二人」-「男蔵人」神 自筆本奥入13・大島本奥入01)
11ことふき 述祝言之仁為言吹
12 竹川
たけかはのはしのつめなるやはしのつめ
なるやはなそのにはれはなそのにわれを
ははなてやわれをははなてやめさしたくへて(「はなそのにはれ」-「はなそのに(に+はれ)」神 自筆本奥入11)
13 万春楽のことははむすらく<二反>
くわうえむそうおくせんねん<二反>」46ウ
くえ(え$ゑ)むせいくゑうくゑねんくわうれい<二反>
これはさいはら也多氏これをつたふすへて
踏哥にはわかいへこのとのはんすらくなに
そもそこの四をうたふ也(「ことははむすらく」-「ことはゝはむすらく」神、「くえ(え$ゑ)むせい」-「くゑむせい」神 自筆本奥入05・大島本奥入02)
(約2行分空白)
胡蝶
01かめのうへの山 蓬莱の心也
楽府
眼穿不見蓬莱嶋不見蓬莱不」47オ
敢帰童男丱女舟中老徐福文成
多誑誕(「童男丱女」-「童男非女」神 自筆本奥入01・大島本奥入01)
02 我そのゝ梅のほつえにうくひすの
ねになきぬへき恋もするかな(自筆本奥入02)
03 さゝれいしのなかにおもひはありなから
うちいつることのさもかたき哉(自筆本奥入03)
04 風生竹夜窓間臥月照松時台上行(自筆本奥入04・大島本奥入02)
05 恋わひぬおほ田の松のおほかたは
いろにいてゝやあはんといはまし(自筆本奥入05)
06和して又きよし」47ウ
文集第十九 早夏朝帰閑斉独処
四月天気和且清緑槐陰合沙堤平(自筆本奥入06・大島本奥入03)
(約8行分空白)」48オ
蛍
01 わか身からうき世中となけきつゝ
人のためさへかなしかるらん
02 ほとゝきすをちかへりなけうなひこか
うちたれかみのさみたれのそら
03 <盛明親王集>
<わひつゝもたのむ月日はある物を五月雨にさへなりにけるかな>(神本、普通字体)
(約2行分空白)
とこなつ
01 わかやとゝたのむよしのに君しいらは」48ウ
おなしかさしをさしこそはせめ(自筆本奥入02)
02おほきみ女 為女王号歟
03 我家
我いへんはとはりちやうもたれたるをおほ
きみきませむこにせんみさかなになに
よけんあはひさたをかかせよけんあはひ
さかをかかせよけん
04 貫河
ぬきかはのせゝのやはらたまくらやはらかに
ぬるよはなくておやさくるつまおやさく」49オ
さくるつまはましてるはしもしかしあらは
やはきのいちにくつかひもせんくつかはゝ
ちかひのほそしきをかへさしはきてうは
もとりきてみやちかよはん(自筆本奥入03)
05 たらちねのおやのかふこのまゆこもり
いふせくもあるかいもにあはすて(自筆本奥入04)
06 つくはやま葉山しけ山しけゝれと
おもひいるにはさはらさりけり(自筆本奥入06)
07 たらちねのおやのいさめしうたゝねは
ものおもふときのしわさなりけり(自筆本奥入05)」49ウ
08 人しれぬおもひやなそとあしかきの
まちかけれともあふよしもなき(自筆本奥入07)
09 たちよらはかけふむはかりちかけれと
あひみぬせきをたれかすゑけん(自筆本奥入08)
10 あひみてはおもてふせ(せ+や)におもふへし
なこそのせきにおいよはゝき木(「おもてふせ(せ+や)に」-「おもてふせやに」神 自筆本奥入09)
11 しらねともむさしのといへはかこたれぬ
よしやさこそはむらさきのゆへ(自筆本奥入10)
12 にくさのみますたのいくのねぬなはゝ
いとふにはゆるものにそ有ける(自筆本奥入11)」50オ
13 あしきてをなをよきさまにみなせ河
そこのみくつのかすならすとも(自筆本奥入12)
14 みよしのゝおほかはのへのふちなみの
なみにおもはゝわかこひめやも(「ふちなみの」-「敷なみの」神 自筆本奥入13)
(約2行分空白)
かゝり火
01 夏なれはやとにふすふるかやり火の
いつまて我身したもえをせん
(約1行分空白)」50ウ
野分
01 おほそらにおほふはかりの袖もかな
はるさく花を風にまかせし(自筆本奥入01)
02 宮き野のもとあらのこ萩露をゝもみ
かせをまつこと君をこそまて(自筆本奥入02)
03 人のおやの心はやみに(自筆本奥入03)
(約1行分空白)
04いつこのゝへのほとりの花(自筆本奥入04)
(約2行分空白)」51オ
みゆき
01 とにかくにひとめつゝみをせきかねて
したになかるゝをとなしのたき(自筆本奥入01・大島本付箋01)
02太政大臣のかゝる野の行幸に
仁和二年十二月十四日<戊/午>寅四刻行幸芹川野為
用鷹鷂也式部卿本康親王常陸太守貞固
親王太政大臣藤原朝臣左大臣源朝臣右大臣源
朝臣大納言藤原朝臣<良世>中納言源朝臣<能有>在原
朝臣<行平>藤原朝臣<山蔭>已下参議皆扈従其
狩猟之儀一依承和故事或考旧記或付」51ウ
故老口語而行事
乗輿出朱雀門留輿砌上勅召太政大臣云皇
子源朝臣定ー宜賜佩釼太政大臣伝勅定了
拝舞輿前帯釼騎馬皇子源朝臣正五位
下藤原時平特着摺衣午三剋亘猟野
於淀河辺供朝膳<行宮泉川鴨川/宇治川之会>漁人等献鯉
鮒天子命飲右衛門督諸葛朝臣奏歌天子
和之群臣以次謌謡大納言藤原朝臣起舞未二
刻入猟野放鷂撃鶉如前放隼撃水鳥
坂上宿祢ム献鹿一太政大臣馬上奏之」52オ
乗輿還幸於左衛門権佐高経別墅供夕
膳高経献贄勅叙正五位下太政大臣率
高経拝舞(自筆本奥入02・大島本奥入01)
03こらうのすけ
後宮職員令云典侍四人
04まうちきみ 大夫訓也
05えひそめのさしぬき
紫色旧記或返用此字但裏色可有差
別歟
06ころもはこ」52ウ
或付足或居台入衣裳之筥也
藤袴
01 あつま地のみちのはてなるひたち帯の
かことはかりもあはんとそおもふ(自筆本奥入01)
02 わひぬれはいまはたおなしなにはなる
みをつくしてもあはんとそおもふ(自筆本奥入02)
03三従
女おさなき時父にしたかひさかりなる」53オ
ときおとこにしたかひ老後に子にしたかふ也(自筆本奥入03・大島本奥入01)
(約2行分空白)
真木柱
01 おもひつゝねなくにあくる冬の夜は
袖の氷のとけすもあるかな(自筆本奥入01)
02 君かすむやとの木すゑのゆく/\と
かくるゝまてもかへりみしかな(自筆本奥入02)
03 もゝちとりさへつる春は(自筆本奥入03)
04 すまのあまのしほやく煙風をいたみ」53ウ
おもはぬかたになひきにけり(自筆本奥入04)
05 風俗<上野哥>
乎志多加戸加毛左戸支井留波良乃伊
介乃也多末毛波万祢奈加利曽於比毛須
加祢也万祢奈加利曽也(自筆本奥入05・大島本奥入01)
06 立て思ゐてもそ思くれなゐの
あかもたれひきいにしすかたを(自筆本奥入06)
07 かたみなる色に衣はなりぬれは
はなのかはよにつねならなくに(自筆本奥入07)
08 いはぬまをつゝみしほとはくちなしの」54オ
色にやみえし山吹のはな(自筆本奥入08)
09 ほり江こくたなゝしを舟漕かへり
おなし人をやこひわたるへき(自筆本奥入09)
(約2行分空白)
梅枝
01 君ならてたれにかみせん梅のはな
色をも香をもしる人そしる(自筆本奥入01)
02むめかえいたしたるほと
梅かえにきゐるううくひすやはるかけて
はれはるかけてなけともいまたやゆき
はふりつゝあはれそこよしやゆきはふり
つゝ(自筆本奥入02・大島本奥入01)
03 いつまてか野へにこゝろのあくかれん
花しちらすは千世もへぬへし(「千世もへぬへし」-「千世もへぬへく」神 自筆本奥入03)
04 ありぬやとこゝろみかてらあひみねは
たはふれにくきまてそ恋しき(自筆本奥入04)
05 あしねはふうきはうへこそつれなけれ
したはえならすおもふこゝろを
06 偽とおもふ物からいまさらに」55オ
たかまことをかわれはたのまむ(「われは」-「いま(いま$われ)は」神 自筆本奥入05)
(約2行分空白)
藤裏葉
01 夏にこそさきかゝりけれふちのはな
松にとのみもおもひけるかな(自筆本奥入01)
02文籍にも家礼
史記漢高祖幸父太公之家以家礼敬之
高祖雖子君也太公雖父臣也(自筆本奥入02)
03 春日さすふちのうら葉のうらとけて」55ウ
きみしおもはゝわれもおもはん(自筆本奥入03)
04 安之可支末可支万可支加支和介天不己
春止於比己須止多礼可太礼可己乃己止乎
於也尓末宇与己之末宇之止々呂介留己乃
以戸己乃伊戸乃於止与女於也尓万宇与己之
介良之毛安女川知乃可見毛可美毛曽宇
之多戸和礼波万宇与己之万宇左春須
加乃祢乃春可奈須可奈支己止乎和礼波
支久和礼波支久宇之可名(「多礼可太礼可己乃己止乎」-「多礼可己乃己止乎」神 自筆本奥入04)
(約1行分空白)」56オ
05 加波久知乃せ支乃安良可支やせ支のあら
かきやまもれともはれまもれともいてゝわ
れねぬいてゝわれねぬやせきのあらかき(自筆本奥入05)
(約1行分空白)
06かつらをおりし
晋書云郊[言+先]字広基挙賢良対策為天下第
一為雍州刺史武帝於東堂会送帝問説曰
卿才自何如[言+先]対曰臣対策為天下第猶桂林
一枝崑山片玉
今以之課試及第之事<ニ>作来也(自筆本奥入06)」56ウ
07 かすしらす君かよはひをのはへつゝ
なたゝるやとの露とならなん<伊勢/送雅正>(自筆本奥入07)
08 君かうへしひとむらすゝきむしのねの
しけきのへともなりにけるかな(自筆本奥入08)
09うたのほうし 和琴名也
宇陀法師
新儀式 四月旬儀
若有奏絃哥事者近衛府音楽訖内侍奉仰
出御屏風南辺召大臣々々起座跪候御屏風
南頭即勅仰可召堪管絃親王公卿等大臣奉」57オ
仰退帰召出居令置草塾於御帳東面一許
丈大臣先進着草塾次依召移着大臣召書司
々々一人執和琴出東障子戸献之<謂宇陀/法師>各奏
絲竹或召加殿上侍臣能歌者預之王卿逓勧盃
数曲之後奏見参
小野右府記
長保二年十一月十五日新宮之後初出御南殿曰
大臣以下管絃人着御前草塾次召書司々々
女嬬取宇陀法師出自御障子戸置草塾
前又絲竹器次々取出皆書司女官役之」57ウ
見前例或書司女官取出和琴之後次々絲竹
近衛次将等執之賜(「宇陀法師」-「宇多法師」神、「大臣々々」-「大臣云々」神、「謂宇陀/法師」-「謂宇多/法師」神 自筆本奥入11)
(約8行分空白)」58オ
若菜
01 春の夜のやみはあやなしむめの花
いろこそみえねかやはかくるゝ(自筆本奥入01)
02なをのこ(こ+れ)るゆき
子城陰處猶残雪衙皷声前未有塵(「のこ(こ+れ)る」-「のこれる」神 自筆本奥入02・明融本付箋01)
03 おりつれは袖こそにほへむめのはな
ありとやこゝにうくひすのなく(自筆本奥入03・明融本付箋02)
04 なき名そと人にはいひてありぬへし
こゝろのとはゝいかゝこたへん(自筆本奥入04・明融本付箋03)
05 むらとりのたちにしわかないまさらに」58ウ
ことなしふともしるしあらめや(自筆本奥入05・明融本付箋04)
06 よもこひしわれをはこひしいつみなる
しのたのもりのしつくなるらん
07 いにしへのしつのをたまきくりかへし
むかしをいまになすよしもかな(自筆本奥入06・明融本付箋05)
08 わか屋とゝたのむよしのに君しいらは
おなしかさしをさしこそはせめ
09ちとせをかねてあそふつるのけ衣
席田第二反度也(自筆本奥入07・明融本奥入01・大島本奥入01)
10 吹風も心しあらはこのはるは」59オ
桜をよきてちらさゝらなん(自筆本奥入08)
11 後撰 あひかたらひ人のあらさまに
こしへまかりけるにぬさふくろなとつ
かはすとて よみ人しらす
われをのみおもひつるかのこしならは
かへる山にはまとはさらまし(「つかはすとて」-「つかはし(し$)すとて」神)
12 おきもせすねもせてよるをあかしては
春のものとてなかめくらしつ
13 みすもあらすみもせぬ人の恋しくは
あやなくけふやなかめくらさん(自筆本奥入09・明融本付箋06)」59ウ
(約3行分空白)
下
01 けふのみと春をおもはぬときたにも
たつことやすき花のかけかは(自筆本奥入01・明融本付箋01)
02やなきの葉をもゝたひあてつへき
史記周本記楚有養由基善射者也去柳葉
百歩而射百発而百中之左右観者数千人皆
云善射(自筆本奥入20・明融本奥入01・大島本奥入01)」60オ
03 ちはやふる神のいかきにはふくすも
秋にはあへすもみちしにけり(自筆本奥入02・明融本付箋02)
04 もみちせぬときはのやまは吹風の
をとにや秋をきゝわたるらん(自筆本奥入03・明融本付箋03)
05 秋の夜のちよを一夜になせりとも
こと葉のこりてとりやなきなん(自筆本奥入05・明融本付箋04)
06 花の香を風のたよりにたくへてそ
うくひすさそふしるへにはやる(自筆本奥入06・明融本付箋05)
07女は春をあはれふとふるき人のいひを
き侍ける
毛詩女感陽気春思男々感陰気秋思女(自筆本奥入08・明融本奥入02・大島本奥入02)
08 葛城
かつらきのてらのまへなるやとよらのてらのや
にしなるやえのは井にしらたましつくや
ましらたましつくやをしとんととしとむ
としかしてはくにそさかへんやわいへらそと
見せんやをしとむととしとむとをしとむ
ととしとむと(「とよらのてらのや」-「とよらのてらの」神、「としとむと」-「としとむ」神)
09 よるかたもありといふなるありそ海に
たつしらなみのおなしところに(自筆本奥入09・明融本付箋06)」61オ
10 わか心なくさめかねつさらしなや
をはすてやまにてる月をみて(自筆本奥入10・明融本付箋07)
11 恋しなはたか名はたゝし世中の
つねなきものといひはなすとも(自筆本奥入11・明融本付箋08)
12 これをみよ人もとかめぬこひすとて
ねをなくむしのなれるすかたを
13 まてといふにちらてしとまる物ならは
なにをさくらにおもひまさまし(自筆本奥入12・明融本付箋09)
14 のこりなくちるそめてたき桜花
なにかうき世にひさしかるへき(自筆本奥入13・明融本付箋10)」61ウ
15 ゆふやみはみちたと/\し月まちて
かへれわかせこそのまにもみむ(自筆本奥入14・明融本付箋11)
16 いかはかりこひのやま地のしけゝれは
いりといりぬる人まとふらん(自筆本奥入15・明融本付箋12)
17 なつの日もあさゆふすゝみある物を
なとわかこひのひまなかるらん(自筆本奥入16・明融本付箋13)
18かうふりをかけくるまをおします
東観漢記王莽居摂子宇諌莽而莽殺
之逢萌謂其友人云三綱絶矣不去禍将及
人即解冠掛東門而去」62オ
蒙求後漢逢萌字子康北海人掛冠避世
牆東
古文孝経七十老致仕懸其所仕之車置諸
廟永使子孫監而則焉立身之終其要然也
漢薛広徳為御史大夫凡十月免帰沛太守
迎之界上沛以為栄懸其安車伝子孫<師/古>
<曰懸其所賜安車以乗/
栄也致仕懸車亦古法也>(自筆本奥入21・明融本奥入03・大島本奥入03)
19 冬なから春のとなりのちかけれは
なかゝきよりそ花はちりける(自筆本奥入18・明融本付箋14)
(約1行分空白)」62ウ
柏木
01 うくもよの心にものゝかなはぬか
たれもちとせのまつならなくに(「うくもよの」-「かくもよの」神 自筆本奥入01・定家本付箋01・明融本付箋03)
02 夏むしの身をいたつらになすことも
ひとつおもひによりてなりけり(自筆本奥入02・定家本付箋02・明融本付箋04)
03 人のよをおいをはてにしせましかは
けふかあすかもいそかさらまし(自筆本奥入03・定家本付箋03・明融本付箋07)
04 なけきわひいてにしたまのあるならん
夜ふかくみえはむすひとゝめよ(自筆本奥入04)
05 つゐに行みちとはかねてきゝしかと」63オ
きのふけふとはおもはさりしを
06 われこそやみぬ人こふるやまひすれ
あふよりほかのやむくすりなし(自筆本奥入05・定家本付箋04・明融本付箋23)
07 とりかへすものにもかなやよのなかを
ありしなからの我身とおもはん(自筆本奥入06)
08しつかにおもひてなけくにたへたり
文集五十八自嘲詩云
五十八翁方有後静思堪喜亦堪嗟
持盃祝願無他語慎勿頑愚似汝爺
白楽天は子なくしておいにのそむ也」63ウ
おいのゝちはしめて生遅といふ子いて
きてむまるゝことをそきによりて名
を生遅とつけたりその子にむかひて
つくれる也(「のそむ也」-「のそむや」神 自筆本奥入10・定家本奥入01・明融本奥入01・大島本奥入01)
09 ふかくさの山のさくらし心あらは
ことしはかりはすみそめにさけ
10 春ことにはなのさかりはありなめと
あひみんことはいのちなりけり(自筆本奥入07・定家本付箋05・明融本付箋38)
11 きみかうへしひとむら薄虫のねの
しけきのへともなりにけるかな」64オ
12 天与善人吾不信右将軍墓草初青(自筆本奥入09・明融本付箋44)
(約2行分空白)
横笛
01 春ことに花のさかりは(自筆本奥入01)
(約1行分空白)
02 君かうへし一むらすゝき(自筆本奥入02)
(約1行分空白)
03 あさちふのをさゝかはらにをく露そ
よのうきつまとおもひみたるゝ(「をさゝかはらに」-「をさゝの原に」神 自筆本奥入03)」64ウ
04 こひしさのかきりたにあるよなりせは
としへてものは思はさらまし(自筆本奥入04)
05 白雲にはねうちかはしとふかりの
かすさへみゆるあきの夜の月(自筆本奥入05)
06 かたいとをこなたかなたによりかけて
あはすはなにをたまのをにせん(自筆本奥入06)
07 いもとあれといるさのやまのやまあら
きてなとりふれそゝやかほまさるかに
やとくまさるかにや(「ふれそゝや」-「ふれそや」神 自筆本奥入07)
(約1行分空白)」65オ
今年
六条院四十九歟<去年春四十八云々>
大将二十九
紫上 院十七歳 十許云々
四十二歟 若菜丗七云々付之者丗九
<入道>
女三宮 廿三歟
(約1行分空白)
鈴虫
01はちすのなかのやとりにへたてなく
十方仏土之中以西方為望九品蓮台」65ウ
之間雖下品応足(自筆本奥入01)
02ゆふへのてらにをきところなき
蒼茫霧雨之晴初寒汀鷺立重畳
煙嵐之断処晩寺僧帰(自筆本奥入02)
03あらたなる月のいろには
三五夜中新月色(自筆本奥入03)
04 目蓮初得道眼見母生所而堕地獄砕骨焼膚
仍乗神通自行地獄逢獄率相代ト乞請母獄
率答云善悪業造者自受其果大小利法也
更不可免則閇鉄城戸成不見目蓮悲空」66オ
帰
但如経文者堕餓鬼中仍七月十五日設盂
蘭盆救之是明事也(「自受其果」-「自受果」神 自筆本奥入04・大島本奥入01)
(約2行分空白)
夕霧
01 ゆふきりに衣はぬれてくさまくら
たひねするかもあらぬ君ゆへ(自筆本奥入02)
02 なき名そと人にはいひてありぬへし
心のとはゝいかゝこたへむ(自筆本奥入03)」66ウ
03 身をすてゝいにやしにけんおもふより
ほかなるものはこゝろなりけり(自筆本奥入04)
04 心にはちへにおもへと人にいはぬ
わかこひつまをみるよしもかな(自筆本奥入05)
05 かねてよりつらさをわれにならはさて
にはかにものをおもはするかな(自筆本奥入06)
06 あまのかるもにすむむしの我からと
ねをこそなかめなにかうらみむ(自筆本奥入07)
07 あきなれは山とよむまてなく鹿に
われおとらめやひとりぬるよは(自筆本奥入08)」67オ
08 秋のよの月のひかりのきよけれは
をくらのやまもこえぬへら也(自筆本奥入09)
09 いかにしていかによからむをのやまの
うへよりおつるをとなしの瀧(自筆本奥入10)
10むこんたいしとかほうしはらの
波羅奈王之太子其名休魄容端正生而十三年
不言人不聞声諸臣婆羅門道士等誹謗地下作
城欲埋之時大臣伏其車前重悲此事太子云
我将不言生而欲埋将言怖入地獄自全身不
害欲救魂脱苦謗我不言者皆欲生聾盲」67ウ
于時国王夫人行迎太子々々云我昔先身為国
王以正道雖治国有所過堕地獄六万余苦難
忍我怖地獄故巻舌不言遂請出家父母聞之
許之入深山求道命終生兜率天太子者釈迦如来也(「作城欲埋之時」-「作城願埋之時」神 自筆本奥入14・大島本奥入01)
(約1行分空白)
11 なつの世はうらしまかこかはこなれや
はかなくあけてくやしかるらん(自筆本奥入12)
12 かひすらもいもせはなへてある物を
うつしひとにてわかひとりぬる(自筆本奥入11)
13 いひたてはたか名かおしきしなのなる」68オ
きそちのはしのふみしたえなは(自筆本奥入13)
(約3行分空白)
御法
01 ちりひちのよゝの日かすにありへてそ
おもひあつむることもおほかる(自筆本奥入01)
02たきゝこるさむたん
提婆品採菓汲水
法華経をわかえしことは薪こり」68ウ
なつみ水くみつかへてそえし
たきゝつくとは仏のうせさせ給へる事也(「たきゝつく」-「たゝきつく」神 自筆本奥入02・大島本奥入01)
03 もゝちとりさへつる春はものことに
あらたまれともわれそふりゆく(自筆本奥入03)
04れうわうまひてきうになるすゑつかた
羅陵王序三切破三切ある舞也しかる
を破一きれ中古より絶了云々もとより
急はなき舞也急になるとあるははやく
なる心歟序三きれをはりて破になる
ほと尤急也然者此詞不可相違云々」69オ
05 うつせみはからをみつゝもなくさめつ
ふか草のやまけふりたにたて(自筆本奥入05・大島本付箋01)
(約2行分空白)
幻
01 なにゝきく色いめかへしにほふらん
はなもてはやすきみもこなくに(自筆本奥入11)
02 おほそらにおほふはかりの袖もかな
春さく花をかせにまかせし(自筆本奥入01)
03 ひかりなき谷には春もよそなれは」69ウ
さきてとくちるものおもひもなし(自筆本奥入02)
04 ふか草の野辺のさくらし心あらは
ことしはかりはすみそめにさけ(自筆本奥入03)
05 いろかへぬはなたち花にほとゝきす
ちよをならせるこゑきこゆ也(自筆本奥入04)
06まとをうつこゑなと
文集<上陽人>
秋夜長々々無眠天不明耿々残
灯背壁影蕭々暗雨打窓声(自筆本奥入05)
07 いにしへのことかたらへはほとゝきす」70オ
いかにしりてかなくこゑのする(自筆本奥入06)
08 かなしさそまさりにまさる人のため
いかにおほかるなみたなるらん(自筆本奥入07)
09 長恨哥
夕殿蛍飛思悄然秋灯挑尽未能眠(自筆本奥入09)
10 人の身もならはしものをいまゝてに
かくてもへぬるものにそありける(自筆本奥入08)
11もろともにおきふしきくの朝露も
ひとりたもとにかゝる秋かな
あくるまておきゐる菊のしら露は」70ウ
かりのよをおもふなみたなるへし(自筆本奥入12)
12 神な月いつもしくれはふりしかと
かく袖ひつるおりはなかりき(自筆本奥入10)
13 やれはおしやらねは人にみえぬへし
なく/\もなをかへすまされり
(約2行分空白)
匂兵部卿宮
01せむけうたいしのわか身にとひけん
さとりをもえてしかなとそ」71オ
七陀太子釈迦仏也
耶輸陀羅之子羅[目+侯]羅者仏出家後経六
年誕生仍大臣等疑之耶輸陀羅抱児投入火
全不焼(自筆本奥入04・大島本奥入01)
02女の御さとりのほとにはちすのつゆも
法華経 有女人身猶有五障(自筆本奥入05・大島本奥入02)
03 ぬしゝらぬ香こそにほへれ秋の野に
たかぬきかけしふちはかまそも(自筆本奥入01)
04左あなかちにかちぬれはとくことはてゝ
賭射還饗」71ウ
大将先着座<垣下座上設菅円座/親王来着次将上>次将着奥座<賭弓/不設>
<土敷円座依倉卒也相撲之時/敷土敷円座或筵上敷之>次垣下公卿着座<相対/次将>次
立机<或次将/机先立>三献了有絃歌之興給禄有差
或命東遊将監以下舞之<天禄例也>
相撲之時三献之後示次将召相撲人少将
臨檻召相撲所将監仰之数巡之後有相撲
布引等事<少将同仰/手番>(自筆本奥入06・大島本奥入03)
05もとめこまひよる袖ともの
かみのますといふはふそくなり
八乙女と申哥にて候此哥二段の哥也」72オ
やをとめはわかやをとめにたつややをと
めたつややをとめ
二段
かみのますこのみやしろにたつややを
とめたつやゝをとめ
神のやすともうたひさふらふ事も候此
こと葉には三の説候かさねたるおほせにし
たかふへく候かくのこときの事も今の世に
下らうのしりたるは候はすかく申さふら
へともひかことなんとや候覧(自筆本奥入07・大島本奥入04)」72ウ
06 春の夜のやみはあやなしむめのはな
いろこそみえねかやはかくるゝ(自筆本奥入02)
03 ふる雪に色はまかひぬ梅のはな
香にこそにたる物なかりけれ(自筆本奥入03)
(約2行分空白)
紅梅
01かわふえふつゝかになれたる声して
定家卿奥書云或人云猶笙を可謂歟
天慶五年正月七日九別云今日酒盃十一」73オ
巡王卿有酒気吹皮笛式部卿<敦実>親王云
年来不有如此之時今日以古昔甚感悦
天慶五年正月七日李部王記云楽間数催造
酒司引王公座漸及酩酊内弁大将云式部卿
親王略定左衛門督帥ー卿参議庶明朝臣撒
殿上禄事故実節会酒巡不過七巡而
今日及十一巡王卿唱哥撃筋(筋=節歟)公宴酒興
延長以後未有如今夜
如此記者以嘯号皮笛歟(「式部卿<敦実>親王」-「式部卿敦実親王」神 大島本奥入02)
02 君ならてたれにかみせむ梅のはな」73ウ
色をも香をもしる人そしる(自筆本奥入01)
03あなんかひかりはなちけむ
釈迦仏涅槃之後阿難昇高座結集
諸経之時其形如仏仍衆会疑仏再出給(自筆本奥入02・大島本奥入01)
04 あたらよの月と花とをおなしくは
こゝろしれらむ人に見せはや(自筆本奥入03)
(約2行分空白)
竹河
01はるかに目をそはめられて」74オ
楽府上陽人
未容君王得見面已被楊妃遥側目
妬令潜配上陽宮(自筆本奥入01・大島本奥入01)
02 色よりも香こそあはれとおもほゆれ
たか袖ふれしやとの梅そも(自筆本奥入02)
03むめかえをうそふきて
梅枝<呂催馬楽>
むめかえにきゐるうくひすやはるかけて
はれはるかけてなけともいまたやゆきは
ふりつゝあはれそこよしやゆきはふりつゝ(「ゆきはふりつゝ」-「ゆきはふりつゝ花の香を風のたよりにたくへてそ(花の香を風のたよりにたくへてそ$)」神 自筆本奥入03)」74ウ
04 花の香を風のたよりにたくへてそ
うくひすさそふしるへにはやる(自筆本奥入04)
05 竹河<呂催馬楽>
たけかはのはしのつめなるやはしのつめ
なるやはなそのにはれはなそのにわれをは
はなてやわれをははなてやめさしたく
へて(自筆本奥入05・大島本奥入02)
06 おもふにはしのふることそまけにける
色にはいてしとおもひし物を(自筆本奥入06)
(約1行分空白)」75オ
07 はんすらく<二反くわうはん>おくせんねん
くゑむせいくゑうくゑねんくわうれい
これはさいはらにて候いつれの人/\もつたへ
候はす多氏はかりつたへ候すへてたうかには
わかいゑこのとのはんすらくなにゝもに
此催馬楽四にて候これみなれしにて候(自筆本奥入14)
08 桜さくさくらのやまのさくら花
さく桜あれはちる桜あり(自筆本奥入07)
09 桜花ちりかひくもれおいらくの
こんといふなる道まかふかに(自筆本奥入08)」75ウ
10 桜色に衣はふかく染てきん
花のちりなんのちのかたみに(自筆本奥入09)
11 恋しなはたか名はたゝし世中の
つねなきものといひはなすとも(自筆本奥入10)
12つかのうへにもかけ給へき
史記呉世家季札之初使北過徐君々々好
季札釼口弗敢言季札心知之為使上国未
献還至徐々君已死於是乃解其宝釼繋
之徐君冢樹而去従者曰徐君已死而誰与
乎季札曰不然始吾心已許之豈以死倍吾」76オ
心哉(自筆本奥入11・大島本奥入03)
13 春の夜のやみはあやなしむめの花
色こそみえね香やはかくるゝ(自筆本奥入12)
14 あつまちのみちのはてなるひたち帯の
かことはかりもあひみてしかな(自筆本奥入13)
15 やへむくらさしてしかとを今さらに
なにゝくやしくあけてまちけん
(約3行分空白)」76ウ
橋姫
01 君ならてたれにかみせんむめのはな
色をも香をもしる人そしる
02 かりのくるみねの朝きりはれすのみ
おもひつきせぬよのなかのうさ(自筆本奥入04・明融本付箋01)
03 宇治河のなみの枕に夢さめて
よるはゝし姫いやねさるらん(自筆本奥入01・明融本奥入02・大島本奥入02)
04 ぬしゝらぬかこそにほへれ秋のゝに
たかぬきかけし藤はかまそも(自筆本奥入02)
05いる日をかへすはちこそありけれ」77オ
還城楽陵王をあやふめんとす日の
くるゝにはちして日をむまにかきかへ
すといふ事也くはしくしらす
史記魯陽以戈廻落日事歟(「くはしくしらす」-「くやしくしらす」神 自筆本奥入03・明融本奥入01・大島本奥入01)
06 をちこちのたつきもしらぬ山中に
おほつかなくもよふことりかな(明融本付箋02)
07 さすさほのしつくにぬるゝ袖ゆへに
身さへうきてもおもほゆるかな(自筆本奥入05・明融本付箋03)
08 ことのねに峯の松かせかよふらし
いつれのをよりしらへそめけん(自筆本奥入06・明融本付箋04)」77ウ
(約2行分空白)
椎本
01 わかやとゝたのむよしのに君しいらは
おなしかさしをさしこそはせめ 伊勢
02 春の野にすみれつみにとこし我そ
野をなつかしみひとよねにける 赤人
03 わきてしもなにゝほふらん秋のゝに
いつれともなくなひくおはなに(自筆本奥入01)
04 経云香山大樹緊那羅於仏前調瑠璃琴」78オ
弾八万(万+四千)里音楽于時迦葉尊者志威儀舞
給(「八万(万+四千)里」-「八万四千里」神 自筆本奥入02・大島本奥入01)
05 つゐにゆくみちとはかねてきゝしかと
昨日けふとはおもはさりしを(を=に)(自筆本奥入03)
06 さゝのくまひのくまかはにこまとめて(自筆本奥入04)
07 ふち衣はつるゝいとはわひ人の
涙のたまのをとそなりける(「なりける」-「成ぬる」神 自筆本奥入05)
08 すゑのつゆもとのしつくや(自筆本奥入06)
(約1行分空白)
09 あまのすむさとのしるへにあらなくに」78ウ
うらみむとのみ人のいふらん(自筆本奥入07)
10 神なひのみむろのきしやくつるらん
たつたの河のみつのにこれる(自筆本奥入08)
11 あさかやまかけさへみゆる(自筆本奥入09)
(約2行分空白)
角総
01 身をうしとおもふにきえぬ物なれは
かくてもへぬるよにこそ有けれ(自筆本奥入01)
02わかなみたをは玉にぬかんとうちすんし」79オ
たまへるいせのこもかくこそはありけめと
伊勢集
つねにやましくせさせ給へるをつゐに
六月にかくれ給にけるあさましくいみしく
かなしくてつかうまつりし人さなからあつ
まりてよるひるなきかなしひ恋たてま
つるにのちの御わさのおりにやう/\なりぬ
あめのふる日心うしといひし人しもになん
こもりゐたりけるうへの人あつまりて御わさ
のくみをなんしけるしもなる人いとは」79ウ
よりはて給つなりたゝいまなにわさをか
し給こゝにはあめをなんみいたしてなか
め侍といひあけたりけれはうへのおもと
たちの返しにはいとよりはてゝいまはね
をなんよりあはせてなき侍といひをこせ
たれはしもなる人
よりあはせてなくなる声をいとにして
わか涙をは玉にぬかなん(自筆本奥入01・33・大島本奥入04)
(約1行分空白)
03 糸によるものとはなしにわかれちの」80オ
心ほそくもおもほゆるかな(自筆本奥入03)
04 かた糸をこなたかなたによりかけて
あはすはなにを玉のをにせん(自筆本奥入04)
05 かたちこそみやまかくれのくちきなれ
心は花になさはなりなん
06 おく山のはれぬけしきそわひ人の
袖の色をはいとゝましける(「はれぬけしきそ」-「はなのけしきそ」神 自筆本奥入05)
07むまとものいはゆるをとも
文集晨鶏再鳴残月没征馬連嘶行人出(自筆本奥入07)
08 またしらぬあかつきをきのわかれには」80ウ
みちさへまとふものにそありける
09 角総<呂催馬楽>
あけまきやとう/\ひろはかりやとう/\
さかりてねたれともまろひあひにけり
とう/\かよりあひにけりとう/\(自筆本奥入08・大島本奥入01)
10 いなせともいひはなたれすうき物は
身を心ともせぬよなりけり(自筆本奥入09)
11 世中をうしといひてもいつくにか
身をはかくさむ山なしの花(自筆本奥入10)
12 なかしともおもひそはてぬ昔より」81オ
あふ人からの秋の夜なれは(自筆本奥入11)
13 わかさなるのちせの山のゝちにまた
あはんかならすけふならすとも
14 たつねくる身をしとはすはよさの海の
身もなけつへきこゝちこそすれ(自筆本奥入12)
15 ほり江こくたなゝしを舟こきかへり
おなし人をやこひわたりなん(「こひわたりなん」-「こひん(ん$)なん」神 自筆本奥入13)
16 秋の野になまめきたてるをみなへし
あなかしかまし花もひとゝき
17 雲井にてとを山とりのはつかにも」81ウ
ありとしきけはこひつゝもあはん(「ありとしきけは」-「ありとしきかは」神)
18 わか草のにゐたまくらをまきそめて
夜をやへたてんにくからなくに(自筆本奥入14)
19 やましろのこはたの里にむまはあれと
きみをおもへはかちよりそゆく(自筆本奥入15)
20 世中をなにゝたとへんあさほらけ
こきゆく船の跡のしら浪(自筆本奥入16)
21 いそのかみふるのやまさといかならん
をちのさと人かすみへたてゝ(自筆本奥入17)
22 夢にたにみゆとはみえしあさな/\」82オ
わかおもかけにはつる身なれは(自筆本奥入18)
23 いかなれはあふみのうみそかゝりてふ
人をみるめのたえておいねは(自筆本奥入20)
24 いて人はことのみそよきつきくさの
うつし心は色ことにして(自筆本奥入21)
25 とりかへす物にもかなや世中を
ありしなからの我身とおもはん(自筆本奥入22)
26 うらわかみねよけにみゆる若草を
人のむすはんことをしそおもふ(自筆本奥入23)
27 はつ草のなとめつらしきことのはそ」82ウ
うらなく物をおもひけるかな(自筆本奥入24)
28 たらちねのおやのいさめしうたゝねは
ものおもふときのしわさなりけり
29人のくにゝありけんかうのけふり
楽府李夫人
漢武帝初喪李夫人 夫人病時不肯別
死後留得生前恩 君恩未尽念未已
甘泉殿裏令写真 丹青画出竟何益
不言不笑愁殺君 又令方士合霊薬
玉釜煎練金炉焚 九華帳深夜悄々」83オ
反魂香反夫人魂 夫人之魂在何許
香煙引到焚香処 既来何苦不須臾
縹眇悠揚還滅去 々何速兮来何遅
是邪非邪両不知 翠娥髣髴平生貌
不似昭陽寝疾時 魂之不来君心苦
魂之来兮君思悲(「丹青画出」-「丹青尽出」神 自筆本奥入25・大島本奥入02)
30 あすしらぬわか身とおもへとくれぬまの
けふは人こそかなしかりけれ(自筆本奥入26)
31 いはくゝるやま井の水をむすひあけて
たかためおしき命とかしる(自筆本奥入27)」83ウ
32 いにしへもいまもむかしもゆくすゑも
かくそてひつるおりはあらしを(自筆本奥入28)
33 みなといりのあしわけを船さはり/おほみ
こひしき人にあはぬころかな(自筆本奥入29)
34むかひのてらのかねのこゑけふもくれぬと
遺愛寺鐘声[奇+欠]枕聴香鑪峯雪撥簾看
やまてらのいりあひのかねの声ことに
けふもくれぬときくそかなしき(自筆本奥入30)
35こひわひてしぬるくすりのゆかしきに
ゆきのやまにや跡をけたまし」84オ
なかはなるけをしへけんおにもかな
涅槃経曰雪山童子半偈投身 諸行無常
是生滅法 生滅々已 寂滅為楽(自筆本奥入31・大島本奥入03)
36 いかになをつれなき人に身をかへて
くるしきものとおもひしらせむ(自筆本奥入32)
(約2行分空白)
さわらひ
01 日のひかりやふしわかねはいそのかみ
ふりにしさとに花もさきけり(自筆本奥入01・定家本付箋01・大島本付箋01)」84ウ
02 春の夜のやみはあやなし梅のはな
色こそみえね香やはかくるゝ
03 恋しくはきてもみよかし人つてに
いはせのもりのよふことりかな(自筆本奥入02)
04 春霞たつをみすてゝ行かりは
花なきさとにすみやならへる(自筆本奥入03・大島本付箋02)
05 いまそしるくるしき物と人またん
さとをはかれすとふへかりけり(自筆本奥入04)
06 月やあらぬ春やむかしの春ならぬ
我身ひとつはもとの身にして(自筆本奥入06・大島本付箋03)
07 にくさのみますたの池のねぬなはゝ
いとふにはゆる物にそありける(自筆本奥入07)
08 おほかたのわか身ひとつのうきからに
なへてのよをもうらみつる哉(自筆本奥入08・大島本付箋04)
09 とりかへすものにもかなや世中を
ありしなからの我身とおもはん(自筆本奥入09)
10 うへてみしぬしなきやとの桜花
色はかりこそむかしなりけれ(自筆本奥入10)
(約2行分空白)」85ウ
やとり木
01なかつかさのみこ
於御前奏人々名事
親王<其官の御子 無官ハ其名御子>
大臣<おほきおほいまうちきみ左のおほいまうちきみ/右のおほいまうちきみ>
大納言以下三位以上其官姓朝臣<有兼官人其兼官/姓朝臣ヲ申>
四位参議名朝臣 四位<同上> 五位ハ名 殿上六位ハ
同五位 地下六位ハ加姓
親王以下三位以上ハ申詞 親王<其官の御子無官/をハ郎の御子>
太上天皇 東宮同之」86オ
大臣ヲハ其大殿 大納言以下其官或加姓
四位ヲハ其官朝臣<不云/姓> 五位ヲハ名朝臣六位ヲハ名<有官/加申>
左右大将ヲハひたりとは申さす左大将右大将と申
承平六年四月一日李部王記云日上令権帥
公頼朝臣仰録事権帥召右馬猟源朝臣
<其五位大膳掾/土産 土産々々>諸卿云召公卿唱官号諸大夫
須字召之<按式職事親王及三位/已上以所帯官為号>(自筆本奥入31・大島本11)
02いたつらに日をゝくる
銷日不如碁(自筆本奥入01・大島本奥入01)
03むかしありけんかうのけふり
さきの同事歟あけまきにみえたり」86ウ
04あさかほはめとまりてあくるまさきてと
はかなきかたに心くるしきなめり
文選第八歎逝賦譬日及之在條垣雖尽而不
悟(自筆本奥入02・大島本奥入02)
05なにゝかゝれるといとはかなけに
松蘿契夫妻事也 古詩与君結新
婚兎絲附女蘿(自筆本奥入05・大島本奥入04)
06 さとはあれて人はふりにしやとなれや
にはもまかきも秋のゝらなる(自筆本奥入06)
07 山さとはものわひしかるときこそあれ」87オ
よのうきよりはすみよかりけり(自筆本奥入07)
08 わかこゝろなくさめかねつさらしなや
をはすて山にてる月をみて(自筆本奥入08)
09 ありはてぬ命まつまのほとはかり
うきことしけくおもはすもかな(自筆本奥入09)
10 こひをしてねをのみなけはしきたへの
まくらのしたにあまそ釣する(自筆本奥入13)
11 とりかへすものにもかなやよの中を
ありしなからのわか身とおもはん
12 ひるはさてよるはわかるゝ山とりの」87ウ
かけみるときそねはなかれける
13 身をしれはうらみぬものをなそもかく
ことはりしらぬなみたなるらん
14 うきなからきえせぬものは身也けり
うらやましきは水のあはかな(自筆本奥入14)
15 うくもよの心にものゝかなはぬか
たれもちとせの松ならなくに(自筆本奥入15)
16 恋しさのかきりたにある世なりせは
としへてものはおもはさらまし(自筆本奥入16)
17 こひわひぬねをたになかん声たてゝ」88オ
いつくなるらんをとなしの瀧(自筆本奥入17)
18 恋せしとみたらし河にせしみそき
神はうけすもなりにけるかな
19こかねもとむるゑし
漢書元帝宮人既多乃令画工図之欲有呼者輙
披図名焉其中常者悉皆行貨賂王明君姿
容甚麗志不局求工遂毀為其状後匈奴来和
美女於帝以明君充行既召見而惜之但名字
已去不欲中改於是遂行
昭君若贈黄金賂定是終身奉帝王<朝綱>(「匈奴」-「勾奴」神、「惜之」-「措之」神 自筆本奥入19・大島本奥入08)」88ウ
20はなふらせたるたくみも侍けるを
荘子云郢人[亞+土]縵其鼻端若蝿翼使匠石断之
運斤成風而断之尽[亞+土]而鼻不傷郢人立而不
失容宋元君聞之召匠石曰嘗試為寡人為之匠
石曰臣則嘗能断之雖然臣質死久矣
若此事歟但近世字不審也(自筆本奥入21)
21 なき人のかたみのこたになかりせは
なにゝしのふの草をつまゝし(自筆本奥入22)
22よをうみなかにてもたまのありかをたつね
むことは」89オ
楊貴妃の蓬莱山のことはしにて候歟(自筆本奥入23・30)
23わかれをかなしひてかはねをつゝみて
仏の方便にてかはねのふくろ経の文也
昔観音せいしのこにておはしましけるに
まゝはゝのためにころされにけれはその
おやのかはねをくひにかけ給てつ
ゐに仏道えたまへる事也(自筆本奥入20・大島本奥入09)
24 おほかたのわか身ひとつのうきからに
なへての世をもうらみつるかな(自筆本奥入25)
25はなのなかにひとへにとのたまふ
不是偏花中愛菊此花開後更無花(自筆本奥入26)
26なにかしの御このはなめてたるゆふへそかし
いにしへの天人のかけりてひはのてをしへ
けるはなにこともあさくなりたるよはもの
うらめしやとて御ことさしをく
或云西宮殿庭前霊物降居樹上託前遊
児詠此詩教作者之本意兼請琵琶授
秘手曲小児醒訖(自筆本奥入27)
27 伊勢海<律催馬楽>
いせのうみのきよきなきさにしほかひに」90オ
なのりそやつまんかひやひろはんやたま
やひろはんや(自筆本奥入28)
28 折つれは袖こそにほへむめの花
ありとやこゝにうくひすのなく(自筆本奥入29)
29ほうらいたつねえてかんさしのかきり
つたへみたまひけん
長恨歌伝
方士竭其術以索之不至又能遊神馭気出天
界没地府以求之又不見又旁求四虚上下東極
絶天海跨蓬莱見最高仙山上多楼閣西廂」90ウ
下有洞戸東嚮闖其門署曰玉妃太真院方
士抽簪叩扉有雙鬟音女出応于時雲海
沈々洞天日晩瓊戸重闔悄然無声言訖憫
然指碧衣女取金釵鈿合各折其半授使者
曰為我謝太上皇謹献是物(自筆本奥入23・30・大島本奥入10)
(約2行分空白)
あつまや
01 おほかたのわか身ひとつのうきからに
なへての世をもうらみつるかな(自筆本奥入01)91オ
02 おほぬさのひくてあまたになりぬれは
おもへとえこそたのまさりけれ(自筆本奥入02)
03 おほぬさと名にこそたてれなかれても
つゐによるせはありといふ物を(自筆本奥入03)
04 わきもこかきてはよりたつまきはしら
そもむつましやゆかりと思へは
05 いかならむいはほのなかにすまはかは
世のうきことのきこえさるへき
06 おもはむとたのめしこともあるものを
なき名はたてゝたゝにわすれね(自筆本奥入04)」91ウ
07 ふすほともなくて明ぬる夏の夜は
あひてもあはぬ心地こそすれ(自筆本奥入05)
08 うつろはんことたにおしき秋萩を
おれぬはかりにをける露かな(自筆本奥入06)
09 くるしくもふりくる雨かみわの崎
さのゝわたりに家もあらなくに(「みわの崎」-「みか(か$)わの崎」神 自筆本奥入08)
10 我恋にむなしきそらにみちぬらし
おもひやれともゆくかたもなし(自筆本奥入09)
11 班女閨中秋扇色楚王台上夜琴声(自筆本奥入11)
(約1行分空白)」92オ
うき舟
01 恋しくはきつゝみよかしちはやふる
神のいさむるみちならなくに(自筆本奥入01)
02 こひしなん後はなにせんいけるみの
ためこそ人はみまくほしけれ(自筆本奥入02)
03 あかさりし袖のなかにやいりにけん
わかたましゐのなきこゝちする(自筆本奥入03・明融本付箋01)
04 しのゝめのほから/\とあけゆけは
をのかきぬ/\なるそかなしき(自筆本奥入04)
05 心にはしたゆく水のわきかへり」92ウ
いはておもふそいふにまされる(自筆本奥入05)
06 さむしろに衣かたしきこよひもや
われをまつらんうちのはし姫(自筆本奥入06・明融本付箋03)
07 いぬかみやとこのやまなるいさや川
いさとこたへて我名もらすな(自筆本奥入07)
08 やましろのこはたのさとにむまはあれと
君をおもへはかちよりそゆく(自筆本奥入08・明融本付箋04)
09 うらみてもなきてもいはんかたそなき
かゝみにみゆるかけならすして(「かゝみにみゆる」-「かたみにみゆる」神、「かけならすして」-「顔ならすして」神 自筆本奥入09)
10 たらちねのおやのかうこのまゆこもり」93オ
いふせくもあるかいもにあはすて(自筆本奥入10・明融本付箋05)
11 ゆく船の跡なきかたにましりなは
たれかは水のあはとたにみん(自筆本奥入11)
12 わひぬれは身をうき草のねをたえて
さそふ水あらはいなんとそ思(自筆本奥入12)
13 しら雲のたえすたなひく峯にたに
すめはすみぬる世にこそありけれ(自筆本奥入13)
14 恋せしとみたらし河にせしみそき
神はうけすも成にけるかな(自筆本奥入14・明融本付箋06)
15 道口<律催馬楽>」93ウ
みちのくちたけふのこうにわれはありと
おやにまうしたへこゝろあひのかせや
さきんたちや(自筆本奥入15・明融本奥入01)
16 君にあはんその日をいつと松の木の
こけのみたれて物をこそおもへ(自筆本奥入16・明融本付箋07)
17けさうする人いつれとなき
やまとものかたり(自筆本奥入19・明融本奥入03)
18 わすれ草つみてかへ覧すみよしの
きしかたのよはおもひいてもなし
19ひつしのあゆみよりも」94オ
大国ニハ以羊為食物如馬牛飼置テ
臨食期相具屠所歩行也随歩以之
世間人如相待無常喩也
経云歩々近死地人(人+命)亦如是
けふもまたむまのかひをそ吹つなる
ひつしのあゆみちかつきぬらん(「人(人+命)亦如是」-「人命亦如是」神 自筆本奥入18・明融本奥入02)
(約2行分空白)
かけろふ
01 わきもこかきてはよりゐるまき柱」94ウ
そもむつましやゆかりとおもへは(自筆本奥入01)
02人ほくせきにあらされはみななさけあり
楽府李夫人
人非木石皆有情不如不遇傾城色(自筆本奥入02)
03 なき人のやとにかよはゝほとゝきす
我かくこふとなきてつけなん(自筆本奥入03)
04なかつくにはらはたのたゆるはこれ秋の天
大底四時心惣苦就中腸断是秋天(自筆本奥入04)
05にるへきこのかみやは侍といらふるこゑ
遊仙窟」95オ
容貌似舅潘安仁之外甥気調如兄
崔季珪之小妹(「侍と」-「侍ると」神 自筆本奥入07)
06 たれをかもしる人にせんたかさこの
松もむかしの友ならなくに(自筆本奥入05)
07 たとへてもはかなき物はかけろふの
あるかなきかのよにこそ有けれ(自筆本奥入06)
(約2行分空白)
手習
01 もゝとせにひとゝせたらぬつくもかみ」95ウ
われをこふらしおもかけにみゆ(自筆本奥入01)
02 あかてこそおもはんなかはわかれなめ
そをたにのちのわすれかたみに
03 こゝにしもなにゝほふらんをみなへし
人のものいひさかにくきよに(自筆本奥入02)
04 山さとは秋こそことにわひしけれ
鹿のなくねにめをさましつゝ(自筆本奥入03)
05 よのうきめみえぬ山路にいらんには
おもふ人こそほたしなりけれ(自筆本奥入04)
06 あたら夜の月と花とをおなしくは」96オ
こゝろしれらむ人にみせはや(自筆本奥入05)
07 はつせかはふるかはのへにふたもとあるすき
年をへて又もあひみむ二もとあるすき
08きせいたいとこにて
抱朴子云善囲碁者世謂之碁聖故厳
子以馬綏明有碁聖之名也我朝碁聖
橘良利
09 たらちねはかゝれとてしもむは玉の
わかくろ髪をなてすやありけん(自筆本奥入06)
10るてむ三かい中なといふにもたちはてゝ」96ウ
しものをと
流転三界中 恩愛不能断 棄恩入無為
真実報恩者
11りうのなかよりほとけむまれたまはすは
こそ侍らめ
提婆品龍女事也
12いのちは葉のうすきかことしといひしら
せて
楽府陵園妾
陵園妾々々々顔色如花命如葉命如」97オ
葉薄将奈何(自筆本奥入09・大島本奥入01)
13 松門到暁月徘徊栢城終日風蕭瑟(自筆本奥入07・大島本奥入02)
14 月やあらぬ春やむかしの春ならぬ
我身ひとつはもとの身にして(自筆本奥入08)
15 あかさりしきみかにほひの恋しさに
むめの花をそ今朝はおりつる
(約4行分空白)」97ウ
夢浮橋
01 あふ事は雲井はるかになる神の
おとにきゝつゝよをやわたらん(自筆本奥入01)
(約7行分空白)」98オ
(空白)」98ウ