Last updated 3/1/2005 (ver.1-1-1)
渋谷栄一翻刻(C)
凡例
1 本文は、冷泉家時雨亭文庫蔵『百人秀歌』(冷泉家時雨亭叢書37)を翻刻した。
2. 虫損等によって判読不能の箇所は「御所本百人秀歌」(宮内庁書陵部蔵 笠間影印叢刊)を参照した。
3. なお、帖末の「金葉和謌」(16オから17ウ)は掲載しない。
4. 割注は</>で表わした。
5. 集付は【】で記した。
6. 作者名を[]で記した。
7. 本文校訂と記号は次のとおり。ミセケチ($)、抹消(#)、併記(=)、補入(+)、判読不能(△)
 例)「いつく(く=こ〈\〉)」は、本文「く」に「こ」を併記しかつ「\」が付いている形。
 例)「こひしかるへき(へき$らん)」は、本文「へき」をミセケチにして「らん」と訂正している形。
 例)「たえ(え+て)」は、本文「え」の下に「て」を補入した形。
 例)「すゑのまつ松(松#)山」は、「松」を抹消した形。

   百人秀歌<嵯峨山庄色紙形/京極黄門撰>
               天智天皇御製
001【撰】あきのたのかりほのいほのとまをあらみ
     わかころもてはつゆにぬれつゝ
               持統天皇御製
002【新古】はるすきてなつきにけらし白妙の
      ころもほすてふあまのかく山
               柿本人麿
003【拾遺】あしひきの山とりのをのしたりをの
      なか/\しよをひとりかもねん」1オ
               山辺赤人
004【新】たこのうらにうちいてゝみれは白妙の
     ふしのたかねにゆきはふりつゝ
               中納言家持
005【同】かさゝきのわたせるはしにおくしもの
     しろきをみれはよそふけにける
               安倍仲丸
006【古今】あまのはらふりさけみれはかすかなる
      みかさの山にいてし月かも
               参議篁」1ウ
007【同】わたのはらやそしまかけてこきいてぬと
     人にはつけよあまのつりふね
               猿丸大夫
008【同】おく山にもみちふみわけなくしかの
     こゑきくときそ秋はかなしき
               中納言行平
009【同】たちわかれいなはの山のみねにおふる
     まつとしきかはいまかへりこん
               在原業平朝臣
010【同】ちはやふる神よもきかすたつた河」2オ
     からくれなゐにみつくゝるとは
               藤原敏行朝臣
011【同】すみのえのきしによるなみよるさへや
     ゆめのかよひち人めよくらん
               陽成院御製
012【撰】つくはねのみねよりおつるみなのかは
     こひそつもりてふちとなりける
               小野小町
013【古】はなのいろはうつりにけりないたつらに
     わか免(免$身)よにふるなかめせしまに」2ウ
               喜撰法師
014【同】わかいほはみやこのたつみしかそすむ
     よをうち山と人はいふなり
               僧正遍昭
015【同】あまつかせ雲のかよひちふきとちよ
     をとめのすかたしはしとゝめん
               蝉丸
016【撰】これやこのゆくもかへるもわかれつゝ
     しるもしらぬもあふさかのせき
               河原左大臣[源融]」3オ
017【古】みちのくのしのふもちすりたれゆへに
     みたれむとおもふ我ならなくに
               光孝天皇御製
018【同】君かためはるのゝにいてゝわかなつむ
     わかころもてにゆきはふりつゝ
               伊勢
019【新】なにはかたみしかきあしのふしのまも
     あはてこのよをすすくしてよとや
               元良親王
020【撰】わひぬれはいまはたおなしなにはなる」3ウ
     みをつくしてもあはむとそ思
               源宗于朝臣
021【古】やまさとはふゆそさひしさまさりける
     人めも草もかれぬとおもへは
               素性法師
022【同】いまこんといひしはかりになか月の
     ありあけの月をまちいてつる哉
               菅家[菅原道真]
023【同】このたひはふさもとりあへすたむけ山
     もみちのにしき神のまに/\」4オ
               壬生忠岑
024【同】ありあけのつれなくみえしわかれより
     あかつきはかりうきものはなし
               凡河内躬恒
025【同】こゝろあてにおらはやおらんはつしもの
     おきまとはせる白きくのはな
               紀友則
026【同】ひさかたのひかりのとけきはるの日に
     しつこゝろなく花のちるらむ
               文屋康秀」4ウ
027【同】ふくからに秋の草木のしほるれは
     むへ山風をあらしといふらん
               紀貫之
028【同】人はいさ心も知らすふるさとは
     花そむかしのかにゝほひける
               坂上是則
029【同】あさほらけありあけの月とみるまてに
     よしのゝさとにふれるしらゆき
               大江千里
030【同】月みれはちゝにものこそかなしけれ」5オ
     わか身ひとつの秋にはあらねと
               藤原興風
031【同】たれをかもしる人にせんたかさこの
     まつもむかしのともならなくに
               春道列樹
032【同】山かはにかせのかけたるしからみは
     なかれもあへぬもみちなりけり
               清原深養父
033【同】なつのよはまたよひなからあけぬるを
     くものいつく(く=こ〈\〉)に月やとるらむ」5ウ
               貞信公[藤原忠平]
034【拾】おくら山みねのもみちはこゝろあらは
     いまひとたひのみゆきまたなん
               三条右大臣[藤原定方]
035【撰】なにしおはゝあふさか山のさねかつら
     人にしられてくるよしも哉
               中納言兼輔
036【新】みかのはらわきてなかるゝいつみ河
     いつみきとてかこひしかるへき(へき$らん)
               参議等」6オ
037【撰】あさちふのおのゝしのはらしのふれと
     あまりてなとか人のこひしき
               文屋朝康
038【同】白つゆにかせのふきしく秋のゝは
     つらぬきとめぬたまそちりける
               右近
039【拾】わすらるゝ身をはおもはすちかひてし
     人のいのちのをしくもある哉
               中納言敦忠
040【同】あひみてのゝちの心にくらふれは」6ウ
     むかしはものを(を$も)おもはさりけり
               平兼盛
041【同】しのふれといろにいてにけりわかこひは
     ものやおもふと人のとふまて
               壬生忠岑
042【同】こひすてふ我なはまたきたちにけり
     ひとしれすこそ思そめしか
               謙徳公[藤原伊尹]
043【同】あはれともいふへき人はおもほえて
     身のいたつらになりぬへきかな」7オ
               中納言朝忠
044【同】あふことのたえ(え+て)しなくはなか/\に
     人をも身をもうらみさらまし
               清原元輔
045【後拾遺】ちきりきなかたみに袖をしほりつゝ
       すゑのまつ松(松#)山なみこさしとは
               源重之
046【詞華】かせをいたみいはうつなみのをのれのみ
      くたけてものを思ころかな
               曽祢好忠」7ウ
047【新】ゆらのとをわたるふな人かちをたえ
     ゆくへもしらぬこひのみちかな
               大中臣能宣朝臣
048【詞】みかきもり衛士のたくひのよるはもえ
     ひるはきえつゝものをこそ思へ
               藤原義孝
049【後】君かためをしからさりしいのちさへ
     なかくもかなと思ぬるかな
               藤原実方朝臣
050【同】かくとたにえやはいふきのさしもくさ」8オ
     (+さ)しもしらしなもゆる思を
               藤原道信朝臣
051【同】あけぬれはくるゝものとはしりなから
     なをうらめしきあさほらけ哉
               恵慶法師
052【拾】やへむくらしけれるやとのさひしきに
     人こそみえね秋はきにけり
               一条院白(白#皇〈\〉)后宮[藤原定子]
053【後】よもすからちきりしことをわすれすは
     こひむなみたのいろそゆかしき」8ウ
               三条院御製
054【同】こゝろにもあらてうきよになからへは
     こひしかるへきよはの月かな
               儀同三司母[高階貴子]
055【新】わすれしのゆくすゑまてはかたけれは
     けふをかきりのいのちともかな
               右大将道綱母
056【拾】なけきつゝひとりふるよのあくるまは
     いかにさ(さ#)ひ(ひ+さ)しきものとかはしる
               能因法師」9オ
057【後】あらしふくみむろの山のもみちはゝ
     たつたのかはのにしきなりけり
               良*法師
058【同】さひしさにやとをたちいてゝなかむれは
     いつくもおなし秋のゆふくれ
               大納言公任
059【拾】たきのおとはたえてひさしくなりぬれと
     なこそなかれてなをとまりけれ
               清少納言
060【後】よをこめてとりのそらねにはかるとも」9ウ
     よにあふさかのせきはゆるさし
               和泉式部
061【同】あらさらんこのよのほかの思いてに
     いまひとたひのあふこともかな
               大弐三位
062【同】ありま山井なのさゝはらかせふけは
     いてそよ人をわすれやはする
               赤染衛門
063【同】やすらはてねなましものをさよふけて
     かたふくまての月をみしかな」10オ
               紫式部
064【新】めくりあひてみしやそれともわかぬまに
     くもかくれにしよはの月かな
               伊勢大輔
065【詞】いにしへのならのみやこのやへさくら
     けふこゝのへにゝほひぬるかな
               小式部内侍
066【金葉】おほえ山いくのゝみちのとをけれは
      またふみもみすあまのはしたて
               権中納言定頼」10ウ
067【千】あさほらけうちの河きりたえ/\に
     あらはれわたるせゝのあしろき
               左京大夫道雅
068【後】いまはたゝ思たえなんとはかりを
     人つてならていふよしもかな
               周防内侍
069【千】はるのよの夢はかりなるたまくらに
     かひなくたゝむなこそをしけれ
               大納言経信
070【金】ゆふされはかとたのいなはおとつれて」11オ
     あしのまろやに秋かせそふく
               前大僧正行尊
071【同】もろともにあはれとおもへ山さくら
     花よりほかにしる人もなし
               前中納言匡房
072【後】たかさこのおのへのさくらさきにけり
     とやまのかすみたゝすもあらなむ
               権中納言国信
073【新】かすかのゝしたもえわたるくさのうへに
     つれなくみゆるはるのあはゆき」11ウ
               祐子内親王家紀伊
074【金】おとにきくたかしのはまのあたなみは
     かけしや袖のぬれもこそすれ
               相模
075【後】うらみわひぬほさぬそてたにある物を
     こひにくちなむなこそおしけれ
               源俊頼朝臣
076【金】山さくらさきそめしよりひさかたの
     くも井にみゆるたきの白いと
               崇徳院御製」12オ
077【詞】せをはやみいはにせかるゝたきかはの
     われてもすゑにあはんとそ思
               待賢門院堀河
078【千】なかゝらんこゝろもしらすくろかみの
     みたれてけさはものをこそ思へ
               法性寺入道前関白太政大臣[藤原忠通]
079【詞】わたのはらこきいてゝみれはひさかたの
     くも井にま(ま+か)ふおきつしらなみ
               左京大夫顕輔
080【新】秋かせにたなひく雲のたえまより」12ウ
     もりいつる月のかけのさやけさ
               源兼昌
081【金】あはちしまかよふちとりのなくこゑに
     いくめさめぬすまのせきもり
               藤原俊基
082【千】ちきりをきしさせもかつゆをいのちにて
     あはれことしの秋もいぬめり
               道因法師
083【千】おもひわひさてもいのちはある物を
     うきにたえぬはなみたなりけり」13オ
               藤原清輔朝臣
084【新】なからへはまたこのころやしのはれん
     うしとみしよそいまはこひしき
               俊恵法師
085【千】よもすからもの思ころはあけやらぬ
     ねうあのひまさへつれなかりけり
               後徳大寺左大臣[藤原実定]
086【同】ほとゝきすなきつるかたをなかむれは
     たゝありあけの月そのこれる
               皇太后宮大夫俊成」13ウ
087【同】よの中を(を#よ)みちこそなけれおもひいる
     山のおくにもしかそなくなる
               西行法師
088【同】なけゝとて月やはものをおもはする
     かこちかほなる我なみたかな
               皇嘉門院別当
089【同】なにはえのあしのかりねのひとよゆへ
     身をつくしてやこひやわたるへき
               権中納言長方
090【新】きのくにのゆらのみさきにひろふてふ」14オ
     たまさかにたにあひみてしかな
               殷富門院大輔
091【撰】みせはやなをしまのあまのそてたにも
     ぬれにそぬれしいろはかはらす
               式子内親王
092【新】たまのをよたえなはたえねなからへは
     しのふることのよはりもそする
               寂蓮法師
093【同】むらさめのつゆもまたひぬまきのはに
     きりたちのほる秋のゆふくれ」14ウ
               二条院讃岐
094【千】わか袖はしほひにみえぬおきのいしの
     人こそしらねかはくまもなし
               後京極摂政前太政大臣[藤原良経]
095【新】きり/\すなくやしもよのさむしろに
     ころもかたしきひとりかもねん
               前大僧正慈円
096【千】おほけなくうきよのたみにおほふかな
     我たつそまの(の$に)すみそめのそて
               参議雅経」15オ
097【新】みよしのゝ山の秋かせさよふけて
     ふるさとさむくころもうつなり
               鎌倉右大臣[源実朝]
098【新勅】よのなかはつねにもかもななきさこく
      あまのをふねのつなてかなしも
               正三位家隆
099【同】かせそよくならのをかはのゆふくれは
     みそきそなつのしるしなりける
               権中納言定家
100【同】こぬ人をまつほのうらのゆふなきに」15ウ
     やくやもしほの身もこかれつゝ
               入道前太政大臣[藤原公経]
101【同】はなさそふあらしのにはのゆきならて
     ふりゆくものは我身なりけり

     上古以来哥仙之一首随思出書出之名
     誉之人秀逸之詠皆△(△$漏)之用捨在心
     自他不可有傍難歟」16オ
inserted by FC2 system