「二四代集」(題箋)

2009年6月22日入力、8月18日見直し、10月26日見直し了)

 

   巻第一

    春歌上

     ふる年に春立日よめる       在原元方

   古

0001 <>としの内に春は来にけり一とせをこそとやいはん今年とやいはむ

立春のこゝろを          壬生忠岑

0002 春たつといふ斗にやみよし野のやまもかすみて今朝はみゆらん

源重之

   同

0003 <>吉野山峯のしら雪いつ消て今朝はかすみの立かはるらん

後京極摂政

   新

0004 <>みよし野は山もかすみて白ゆきのふりにし里に春はきにけり

院御製

   同

0005 ほの/\と春こそ空にきにけらし天のかく山霞たなひく

凡河内躬恒」(1オ)

 

   撰

0006 <>春立と聞つるからにかすか山きえあへぬ雪の花とみゆらん

院に百首奉ける時立春

   権中納言国信

   千

0007 三室山谷にや春の立ぬらん雪のした水岩たゝくなり

正月一日二条のきさいの宮にてしろきおほうち

きを給りて

   藤原敏行朝臣

   撰

0008 <>降雪のみのしろ衣打きつゝ春きにけりとおとろかれぬる

題しらす             曾禰好忠

   後

0009 <>みしま江やつのくみわたる芦のねの一よはかりに春めきにけり

読人不知

   古

0010 春霞たてるやいつこみよし野のよしのゝ山に雪はふりつゝ

崇徳院に百首歌奉ける時春の歌」(1ウ)

 

                 待賢門院堀河

   千

0011 <>雪深き岩のかけ道跡たゆるよし野の里も春はきにけり

一条院の御時殿上人春の歌とこひ侍けるに

   紫式部

   後

0012 <>みよしのは春のけしきにかすめともむすほゝれたる雪の下草

寛平の御時きさいの宮の合に

    源当純

   古

0013 <>谷風にとくる氷のひまことに打いつる波やはるの初はな

たいしらす            山辺赤人

   新

0014 <>あすからは若菜つまんとしめしのに昨日もけふも雪は降つゝ

平兼盛

   撰

0015 <>けふよりは荻のやけはらかき分て若菜つみにと誰をさそはむ

よみ人しらす」(2オ)

 

   古

0016 <>春日野のとふ火のゝもり出て見よ今いくか有て若なつみてん

   同

0017 太山には松の雪たに消なくに都は野への若なつみけり

   同

0018 <>梓弓をして春雨けふふりぬあすさへふらはわかなつみてん

みこにおはしましける時人に若な給はせける御

  光孝天皇御製

   同

0019 <>君かため春のゝに出てわかなつむ我衣手に雪はふりつゝ

春の歌奉ける時          紀貫之

   同

0020 春日野の若なつみにや白妙の袖ふりはへて人の行らん

院に百首歌奉ける時      源俊頼朝臣

   千

0021 かすか野の雪をわかなにつみそへてけふさへ袖のしほれぬる

権中納言国信

   新

0022 <>春日野の下もえわたる草のうへにつれなく見ゆる春の泡雪

雪の降けるをよめる        つらゆき」(2ウ)

 

   古

0023 <>霞たち木のめもはるの雪ふれは花なき里も花そ散ける

家の合に            後京極摂政

   新

0024 <>そらは猶霞もやらす風さえて雪けにくもる春のよの月

崇徳院に百首奉けるに      待賢門院堀河

   千

0025 ときはなる松もやはるを知ぬらんはつねいはふ人にひかれて

春の初によめる          藤原言直

   古

0026 はるやとき花やをそきと聞わかん鶯たにもなかすもかな

二条の后の春のはしめの御うた

   同

0027 雪のうちに春はきにけりうくひすのこほれる涙今やとくらん

寛平御時きさいの宮の合の歌に

         紀友則

   同

0028 <>花の香をかせのたよりにたくへてそうくひすさそふしるへにはやる

百首の奉ける時         藤原家隆朝臣」(3オ)

 

   新

0029 谷河の打出る浪も声たてつ鶯さそへはるのやまかせ

雪の木にりかゝれるをよめる   素性法師

   古

0030 春たては花とやみらんしらゆきのかゝれる枝に鶯のなく

題しらす             よみ人しらす

   同

0031 梅かえに来居るうくひす春かけてなけともいまた雪は降りつゝ

所にてをのことも歌つかうまつる次てに

   院御製

   新

0032 鶯のなけともいまた降雪に杉の葉しろきあふさかの山(関イ)

題しらす             よみ人しらす

   同

0033 <>梅かえに鳴てうつろふ鶯のはね白妙に淡雪そふる

   撰

0034 かきくらしゆきは降つゝしかすかにわか家の園に鶯そなく

俊綱朝臣家にて山家尋人といふ心を

    藤原範永朝臣」(3ウ)

 

   後

0035 <>尋つるやとは霞にうつもれて谷のうくひす一声そする

贈太政大臣あひ別て後声をある所にてその本集

    富小路右大臣母

   撰

0036 鶯の鳴なる声はむかしにてわか身ひとつのあらすも有かな

題しらす             読人不知

   古

0037 <>百千鳥さえつる春は物ことにあらたまれとも我そふりゆく

   同

0039 春日野はけふはなやきそ若草の妻もこもれりわれもこもれり

中納言家持

0038 はるの野にあさる雉子の妻こひにをのかありかを人にしれつゝ

中納言広庭

0040 いにし年ねこして植しわかやとの若木の梅は花さきにけり

大納言扶幹

   後撰

0041 植し時花みんとしもおもはぬに咲ちるれは齢老にけり」(4オ)

 

よみ人しらす

   

0042 我せこに見せむと思ひし梅はなそれとも見えす雪のふれゝは

拾古

0043 梅花それとも見えす久かたのあまきる雪のなへてふれゝは

   古

0044 折つれは袖こそ匂へ梅のはなありとやこゝに鶯のなく

   撰

0045 うくひすの鳴つる声にさそはれて花のもとにそ我はきにける

素性法師

   古

0046 よそにのみあはれとそみし梅花あかぬ色香は折て成けり

梅花を折て人に送侍ける      紀友則

   同

0047 君ならて誰にかせむ梅のはな色をも香をも知人そしる

月夜に人の梅の花をおらせけれは

   躬恒

   同

0048 月夜にはそれとも見えす梅花香をたつねてそしるへかりける

堀河院に百首奉る時       前中納言匡房」(4ウ)

 

   千

0049 匂ひもてわかはそわかん梅花それとも見えぬ春のよの月

百首歌奉ける時          藤原家隆

   新

0050 梅かゝにむかしをとへは春の月こたへぬかけそ袖にうつれる

百首めしける時         崇徳院御製

   千

0051 はるの夜は吹まふ風のうつりかに木毎に梅とおもひけるかな

題しらす             みつね

   古

0052 春のよのやみはあやなし梅花色こそ見えね香やはかくるゝ

久しくまからさりける所にまかりて梅花を折て

   貫之

   古

0053 <>人はいさ心もしらす故郷ははなそむかしの香に匂ひける

題しらす             西行法師

   新

0054 とめこかし梅さかりなる我宿をうときも人は折にこそよれ

式子内親王」(5オ)

 

   

0055 なかめつるけふはむかしに成ぬとも軒端の梅よわれを忘

八条院高倉

   同

0056 ひとりのみなかめてちりぬ梅花しる斗なる人はとひこて

水の辺に梅花咲たるをみて     伊勢

   古

0057 はる毎になかるゝ河を花とみておられぬ水に袖やぬれ南

   同

0058 としをへて花のかゝみとなる水はちりかゝるをやくもるといふ覧

梅花を              つらゆき

   同

0059 くるとあくとめかれぬ物を梅花いつの人まにうつろひぬらん

寛平の御時后宮の合に      よみ人しらす

   同

0060 かゝを袖にうつしてとゝめてははるはすくともかたみならまし

素性法師

   同

0061 ちるとみてあるへき物を梅のはなうたてにほひの袖にとまれる

梅花を折て人につかはしける    権中納言定頼」(5ウ)

 

   新

0062 こぬ人によそへて見つる梅のはなちりなん後のなくさめそなき

返し               大弐三位

   同

0063 春ことにこゝろをしむる花の枝にたかなをさりの袖かふれつる

題しらす             西行法師

   同

0064 <>降つみし高根のみ雪とけにけり清瀧河の水のしら波

読人しらす

0065 今更に雪ふらめやもかけろふのもゆるはる日と成にし物を

   万十

志貴

   同

0066 <>岩そゝくたるひのうへのさはらひのもえ出る春に成にける哉

中納言行平

   古

0067 <>春のきる霞の衣ぬきをうすみ山かせにこそみたるへらなれ

寛平の御時后の宮の合に     源宗于朝臣

   同

0068 ときはなる松のみとりも春くれは今一しほの色まさりけり」(6オ)

 

奉ける時            つらゆき

   

0069 我せこか衣はる雨ふることに野へのみとりそ色まさりける

千五百番歌合に          宮内卿

   新

0070 うすくこき野へのみとりの若草にあとまて見ゆる雪の村消

堀河院に百首歌奉ける時      藤原基俊

   千

0071 春雨の降そめしより片岡のすそのゝはらそ浅みとりなる

寛平の御時后の宮の合に     伊勢

   新

0072 水の面にあやをりみたる春雨や山のみとりをなへて染らん

百首歌よみ侍けるに        殷富門院大輔

   同

0073 春かせの霞吹とく絶間よりみたれてなひく青柳のいと

千五百番の合に         藤原雅経朝臣

   同

0074 白雲のたえまになひく青柳のかつらき山に春かせそふく

題しらす             能因法師」(6ウ)

 

   後

0075 心あらん人に見せはや津の国の難波わたりの春のけしきを

後京極摂政家百首歌合に春の明ほのを読侍ける

   藤原家隆朝臣

   新

0076 霞たつ末の松山ほの/\と浪にはなるゝよこ雲の空

不明不闇朧々月といふ心を     大江千里

   同

0077 照もせすくもりもはてぬ春のよのおほろ月よにしく物そなき

人々春秋の哀いつれにか心引とあらそひ侍けるに

   菅原孝標女

   同

0078 浅みとり空もひとつにかすみつゝおほろに見ゆる春のよの月

百首歌奉ける時          源具親朝臣

   同

0079 <>難波かたかすまぬ浪もかすみけりうつるもくもる朧月夜に

後京極家百首合に        寂蓮法師

   同

0080 <>今はとてたのむの雁も打侘ぬおほろ月よの明ほのゝそら」(7オ)

 

帰雁をよみ侍ける         皇太后宮大夫俊成

   

0081 <>聞人そ涙は落るかへる雁なきてゆくなるあけほのゝそら

俊頼朝臣

   千

0082 春くれはたのむの雁も今はとてかへる雲路におもひたつなり

貫之

   拾

0083 古郷の霞とひ分行雁はたひのそらにや春をくらさ

読人不知

   新

0084 故郷に帰る雁かねさよふけて雲路にまよふ声聞ゆなり

赤染衛門

   後

0085 かへる雁雲ゐはるかになりぬ也またこん秋も遠しとおもへは(へは$ふに)

馬内侍

   同

0086 とゝまらぬ心そ見えんる雁花のさかりを人にかたるな

百首奉ける時          式子内親王」(7ウ)

 

   新

0087 いまさくら咲ぬと見えて薄くもり春にかすめる世のけしき哉

題しらす             読人不知

   同

0088 ふしておもひ起てなかむる春雨に花の下紐いかにとくらん

中納言家持

   同

0089 ゆかん人こん人しのへ春かすみ立田の山の初さくらはな

西行法師

   同

0090 芳野山こそのしほ(ほ$お)りの道かへてまたみぬかたの花をたつねん

紀貫之

   同

0091 わかこゝろはるの山辺にあくかれてなか/\し日をけふもくらしつ

僧正遍昭

   撰

0092 <>礒上ふるの山辺のさくらはなうへけん時をしる人そなき

素性法師

   同

0093 山もりはいはゝいはなむ高砂の尾上のさくら折てかさゝむ」(8オ)

 

九十三首<>」(8ウ)

 

   巻第二

    春歌下

     奉ける時            紀貫之

   古

0094 <>桜はなさきにけらしな(もイ)足曳の山のかひより見ゆるしら雲

高陽院家合に          源俊頼朝臣

   金

0095 <>山桜咲めしよりひさかたの雲井に見ゆる瀧の白いと

前中納言匡房

   

0096 白雲にゆるにしるしみよしのゝ吉野の山の花さかりかも

崇徳院に百首奉ける時      左京大夫顕輔

   千

0097 <>かつらきや高まの山のさくら花雲井のよそに見てやゝみ(過)南

後二条関白家にて望山花と云心を

 前中納言匡房

   後

0098 <>高砂の尾上のさくら咲にけり外山のかすみたゝすもあらなん」(9オ)

 

釈阿和所にて九十賀給はせける時屏風に

 院御製

   新

0099 <>桜さく遠山とりのしたりのなか/\し日もあかぬ色かな

花のとてよめる         西行法師

   千

0100 <>をしなへて花のさかりになりにけり山のはことにかゝるしら雲

皇太后宮大夫俊成

   同

0101 みよしのの花のさかりをけふみれはこしのしらねに春風そ吹

崇徳院に百首奉ける時      藤原清輔朝臣

   

0102 <>神垣の室の山ははるてそはなのしゆふかけてえける

郷の花といへる心を       よみ人しらす

   同

0103 さゝ浪志賀の都はあれにしを昔なからの山さくらかな

題しらす             平城天皇御製

   古

0104 郷とにしならの都にも色はかはらす花はさきけり」(9ウ)

 

紀友則

   同

0105 色ももおなし昔にさくらめと年ふる人そあらたまりける

忠仁公

   同

0106 年ふれよはひは老ぬしかはあれと花をしみれは物思もなし

赤人

   新

0107 <>しきの大宮人はいとまあれや桜かさして今日もくらしつ

業平朝臣

   同

0108 花にあかぬ歎はいつもせしかともけふの今夜ににる時はなし

弥生にうるふ月ける年読る    伊勢

   古

0109 桜はなはるくはれるとしたにも人のころにあかれやはする(せぬ

山の花を望といへる心を      京極関白前太政大臣

   新

0110 白雲のたなひく山のさくら花いつれを花とらまし

祐子内親王家にて花の読侍けるに」(10オ)

 

  権大納言長家

   

0111 花の色にきるかすみ立まよひそらさへ匂ふ山さくらかな

題しらす             良宗貞

   古

0112 花の色は霞にこめてせすとも香をたにぬすめ春の山風

読人不知

0113 浅みとり野への霞はつめともほれて匂ふ花さくらかな

   古

0114 春の色のいたりいたらぬ里はあらしさけるさかさる花のみゆらん

雲林院のみこのもとに花に北山へ(まかれりける時

  素性法師

   同

0115 <>いさけふははるの山にましりなんくれなはなけの花の陰かは

              よみ人しらす

0116 <>桜かり雨はふりきぬ同しくはぬるとも花のかけにかくれむ

素性法師」(10ウ)

 

   古

0117 <>おもふとち春の山辺に打むれてそこともしらぬ旅ねしてしか

後京極摂政家の合に野遊といふ心を

  家隆朝臣

   新

0118 ふとちそこともしらす行暮ぬ花のやとかせへのうくひす

千五百番歌合に          皇太后宮大夫俊成

   同

0119 幾とせの春に心をつくしぬあはれとおもへみよしの

題しらす             能因法師

   後

0120 世間をおもひすてなれともころよしと花にえぬる

百首に             式子内親王

   

0121 <>はかなくて過にしかたをかそふれは花に物おもふ春そへにける

題しらす             小町

   古

0122 <>花の色はうつりにけりないたつらに世にふる詠せしまに

読人不知」(11オ)

 

   

0123 はることにはなのさかりはありなめとあひみんは命けり

   同

0124 花のことよのつねならはしてし昔は又もかへりきなまし

在原元方

   同

0125 霞たつはるの山へは遠けれと吹きくるかせは花の香そする

素性法師

   同

0126 いつまてかへにころのあくかれん花しちらすは千世もへぬへし

よみ人しら

   同

0127 鶯の鳴へことにれはうつろふ花にかせそ吹ける

   同

0128 駒なへていさにゆかん郷は雪とのみこそ花はちるらめ

貫之

   同

0129 梓弓はるの山辺をこえくれは道もさりあへす花そちりける

   同

0130 はるのに若なつまんとこしをちりかふ花に道はまとひぬ

   同

0131 やとりしてはるの山辺にねたるは夢のうちにも花そ散ける」(11ウ)

 

躬恒

   新

0132 いもやすくねられさりけり春のは花のちるのみ夢にえつ

伊勢

   同

0133 山桜ちりてみ雪にまかひなはいつれか花と春にとはな

一条院御時八重桜を奉れりけるを給はせてよめ

と仰られけれは

  伊勢大輔

   詞

0134 <>いにしへのならの都の八重さくらけふ九重に匂ひぬるかな

題しら             よみ人しらす

   新

0135 霞たつ春の山辺にさくら花あかすちるとやうくひすのなく

赤人

   同

0136 春雨はいたくなふりそ桜花またぬ人にちらまくも

紀有友

   古

0137 桜色に衣はふかく染てきむ花のちりなん後のかたみに」(12オ)

 

読人不知

0138 さくら色に我身はふかく成ぬらん心にしめて花をしめは

守覚法親王六十首よませ侍りけるに

  家隆朝臣

   新

0139 此程は知もしらぬも玉鉾のゆきかふ袖は花のかそする

後京極摂政家にて春の読侍ける

  皇太后宮大夫俊成

   同

0140 <>又やむかたのみのさくらかり花の雪ちる春のほの

題しらす             祝部成仲

   

0141 ちりちらすおほつかなきは春かすみたな桜なりけり

読人不知

   

0142 春かすみたな引山のさくら花うつろはんとや色かはりゆく

   同

0143 まてといふにちらてしとまる物ならは何をさくらに思ひまさまし」(12ウ)

 

   同

0144 此さとに旅ねしぬへしさくら花ちりのまかひに家路わすれて

   同

0145 空蝉のよにもたるか花桜さくとしまにかつちりにけり

僧正遍昭に読て送りける      惟喬親王

   同

0146 桜花ちらはちらなちらすとて古郷人のきてもなくに

桜花のちるをみて読る       素性法師

   同

0147 花ちらす風のやとりは誰かしるわれにをしへよ行てうらみ

承均法師

   同

0148 さくらちる花の所は春なから雪そふりつゝ消かてにする

わつらひける時風にあたらしとておろしこめて

侍けるにれる桜の散をみて    藤原因香朝臣

   同

0149 たれこめて春の行もしらぬまに待し桜もうつろひにけり

朱雀院の桜のおもしろきよしをき

  大将御息所」(13オ)

 

   撰

0150 咲さかす我になけそ桜はな人つてにやはきかんとおもひし

花のちるをて          友則

   古

0151 <>の光のとけき春の日にしつころなく花のちるら

題しらす             藤原興風

   同

0152 いたつらに過る月日はおもほえて花みてくらす春そすくなき

藤原好風

   同

0153 春かせは花のあたりをよきてふけころつからやうつろふとみ

読人不知

   同

0154 吹くかせにあつらへつくる物ならは此一もとはよきよといはまし

   撰

0155 大空におほふの袖もかな春さく花を風にまかせし

五十首奉ける時         宮内卿

   新

0156 花さそふひらの山かせ吹にけり漕行舟の跡ゆるまて

   同

0157 あふさかや梢の花を吹からにあらしそかすむ関の杉むら」(13ウ)

 

百首奉ける時          讃岐

   同

0158 山のあらしに散はなの月にあまきる明かたの空

千五百番歌合に          参議定家

   同

0159 <>桜色の庭のはるかせ跡もなしとはそ人の雪とたにみん

花の盛に久しくとはさりける人のまうてきて侍ける

に                よみ人しらす

   古

0160 /<>あたなりと名にこそたてれ桜はなとしに稀なる人も待けり

返し               在原業平朝臣

   同

0161 けふこすはあすは雪とそ降なましきえすはとも花とみましや

しのひて大内の花を御して後京極摂政の

つかはしける           院御製

   新

0162 けふたにも庭をさかとうつる花きすはとも雪かとも

御返し              後京極摂政」(14オ)

 

   

0163 さそはれぬ人のためとや残りけあすよりさきの花のしら雪

助信か母身まかりて後家に忠朝臣まかりて

花のちりける木のに侍けれ

 よみ人しらす

   撰

0164 今よりは風にまかせんさくら花ちる木のもとに君とまりけり

返し               権中納言敦忠

   同

0165 風にしも何かまかせむさくら花にほひあかぬにちるはうかりき

すみ侍けるめ院に参りにけれはあふ事も侍らさり

ける又のとし花の枝につけて    元良親王

   同

0166 <>花の色はむかしながらにし人のころのみこそうつろひにけれ

月のあかきよ花をみて       源信明

   同

0167 <>あたらよの月と花とを同しくはあはれしれらん人にみせはや

題しらす             躬恒」(14ウ)

 

   

0168 雪とのみふるたにあるをさくら花いかにちれとか風の吹らむ

読人不知

   同

0169 桜はなちりぬる風の名残には水なき空に波そ立ける

大納言経信

   新

0170 山深み杉のむら立えぬまて尾上のかせに花のちるかな

左京大夫顕輔

   同

0171 麓まてを尾上の桜ちりこすはたなひく雲とみてや過まし

西行法師

   同

0172 <>むとて花にもいたく馴ぬれはちる別こそかなしかりけれ

五十首奉し時          家隆朝臣

   同

0173 桜はな夢かうつかしら雲のたえてつれなきの春かせ

千五百番合に          権大納言良平

   同

0174 散花のわすれかたみのの雲そをたにのこせ春の山かせ」(15オ)

 

落花のころを          雅経朝臣

   

0175 花さそふ名残を雲に吹とめてしはしは匂へ春の山かせ

残春のころを          後京極摂政

   同

0176 よしの山花のふる跡たえてむなしき枝に春かせそ吹

百首のに            式子内親王

   同

0177 花はちりその色となくなかむれはむなしき空に春雨そ降

題しらす             大納言経信

   同

0178 郷の花のさかりは過ぬれと俤さらぬ春のそらかな

堀河院に百首奉ける時      権中納言国信

   千

0179 よひねてつみてかへら菫咲をの芝生は露しけくとも

題しらす             貫之

   

0180 よしの河岸の山吹ふくかせに底のかけさへうつろひにけり

百首歌奉し時           家隆朝臣」(15ウ)

 

   新

0181 吉野河きしの山吹さきにけりみねのさくらは散はてぬらん

皇太后宮大夫俊成

   同

0182 駒とめていさ水かはん款冬の花の露そふ井手の玉河

題しらす             よみ人しらす

   古

0183 <>今もかも咲にほふらん橘のこしまかさきの山ふきの花

見王

0184 蛙鳴神南備河に影えて今かさくらん款冬のはな

   万八

家の藤花を人の立とまりて侍りけれは

  躬恒

   古

0185 わ宿にさける藤波立かへり過かてにのみ人のみるらん

五十首奉ける時         寂蓮法師

   新

0186 <>暮てく春のみなとしらねとも霞におつる宇治の柴舟

題しらす             よみ人しら」(16オ)

 

0187 春霞たちわかれ山みちは花こそぬさとちりまかひけれ

三月尽の心を           貫之

0188 風吹はかたもさためすちる花いつかたへ春とかはみむ

躬恒

   古

0189 けふのみと春を思ぬ時たにもたつことやすき花の陰かは

百首奉ける時          後京極摂政

   新

0190 <>あすよりはしかの花園まれにたに誰かはとはん春のふるさと

弥生の晦の日雨ふりけるに藤花をしける 

業平朝臣

   古

0191 ぬれつそして折つる年の内に春はいく日もあらしと思へは

         崇徳院御製

   千

0192 花は根に鳥は古巣に帰る也春のとまりを知人そなき

三月尽皇太后宮大夫俊成もとにつかはしける」(16ウ)

 

  法印静賢

   同

0193 花は皆よものあらしにさそはれてひとりや春のけふは行らん

題しらす             業平朝臣

   撰

0194 しめとも春のかきりのけふの日の夕にさへ成にけるかな

     百一首〈朱〉

     拾十首〈青〉」(17オ)

 

(白紙)」(17ウ)

 

   巻第三

    

     題しらす             よみ人しらす 人丸

   古

0195 <>我やとの池の藤さきにけり山ほときすいつかきなか

源重之

   

0196 花の色にそめし袂のしけれは衣かへうきけふにも有哉

卯月にさける桜をみて       紀俊貞

   古

0197 哀ふことをあまたにやらしとやはるにくれて独さくらん

題しらす             持統天皇御製

   新

0198 <>はる過て夏きにけらし白妙のころもほすてふあまのかく山

源順

0199 吾宿の垣根や春をへたつらん夏来にけりとみゆる卯花

よみ人しらす(18オ)

 

撰拾

0200 時わかすふれる雪かとるまてに垣根もたにさける卯花

相模

   後

0201 <>見渡は波のしからみかけてけり卯花さける玉河のさと

藤原元真

   新

0202 夏草は茂りけりな玉鉾の道ゆき人もむすふはかりに

曾禰好忠

   同

0203 花ちりし庭の木葉も茂りあひて天照月の影そまれなる

読人不知

   撰

0204 行かへる八十氏人の玉かつらかけてそたのむあふひてふなを

大納言経信

   金

0205 玉かし庭もひろに成にけりこやゆふして神まつる比

曾禰好忠

   後

0206 <>榊とる卯月になれは神山のならのかしもとつはもなし(18ウ)

 

読人不知

   古

0207 五月待山ほとゝきす打はふき今もなかなん去年の古

   同

0208 <>さつきまつ花たちはなの香をかけは昔の人の袖のかそする

   同

0209 今朝きなきいまた旅なる郭公はなたち花に宿はからなん

   同

0210 去年の夏鳴ふるしてし郭公それかあらぬか声のかはらぬ

天暦の御時内裏歌合に       平兼盛

0211 太山出て夜半にやきつる時鳥暁かけて声のきこゆる

題しらす             壬生忠岑

   古

0212 むかしへや今もこひしき郭公古郷にしも鳴てつらん

修理大夫顕季

   金

0213 山いてゝまた里なれぬほときす旅の空なる音をや鳴らん

大納言経信

   新

0214 <>早苗とる山田のかけ樋もりにけり引しめ縄に露そこほるゝ(19オ)

 

曾禰好忠

   後

0215 みたやもりけふは五月に成にけりいそけや早苗おもこそすれ

所にて入道皇太后宮大夫俊成九十賀給はせける

屏風に              後京極摂政

   新

0216 <>小山田に引しめ縄の打はへて朽やしぬらん五月雨の比

題しらす             延喜御製

0217 足曳の山ほとゝきすけふとてやあやめの草のねにたてゝ

後京極摂政

   新

0218 <>打しめりあやめそか郭公なくや五月の雨の夕暮

よみ人しらす

0219 <>時鳥鳴や五月のみしか夜もひとりしぬれはあかしかねつも

祭主輔親

0220 足曳の山ほとゝきす里なれてそかれ時になのりすらしも」(19ウ)

 

読人不知

 古

0221 あし引の山ほとゝきすりはへて誰かまさると音をのみそ鳴

大納言経信

   新

0222 <>入江のまこも雨ふれはいとゝしれてかる人もなし

藤原基俊

   同

0223 玉柏しけりにけりな五月雨に葉守の神のしめはふるまて

宇治関白太政大臣家合に     相模

   後

0224 <>五月雨は水のみまきのまこも草かりほすもあらしとそ思ふ

をよみ侍ける         同

   後拾

0225 さみたれの空なつかしく匂ふかな花立はなに風や吹らん

百首めしける時         崇徳院御製

   千

0226 さみたれに花たちはなのかは月すむ秋もさもあらあれ

題しらす             左近中将公衡」(20オ)

 

   

0227 折しもあれ花たちはなのかるかなむかしをつる夢の枕に

皇太后宮大夫俊成

   新

0228 誰か又花におもひ出んわれもむかしの人となりなは

中納言俊忠家歌合に五月雨をよめる

 藤原顕仲朝臣

   金

0229 五月雨に水まさるらし沢田河まきのつきうきぬ

崇徳院に百首奉ける時      皇太后宮大夫俊成

   千

0230 <>さみたれはたくものけふりしめりしほたれまさるすまの浦人

題しらす             参議定家

   新

0231 <>玉鉾の道行人の言つてもたえて程ふる五月雨のそら

延喜御時月次御屏風に       紀貫之

   拾

0232 夏山の陰をしけみや玉ほこの道行人も立とまるらむ

0233 五月山木の下やみにともす火は鹿の立とのしるへけり」(20ウ)

 

夏の歌の中に           前大僧正慈円

   新

0234 鵜飼舟あはれとそみる武士の八十氏河の夕やみの空

源重之

   後

0235 <>夏かりの玉江のあしをみしたきむれゐる鳥の立空そなき

貫之

   古

0236 夏のの臥かとすれは郭公なく一声にあくるしゝのめ

読人不知

   同

0237 郭公なかなく里のあまたあれ猶うとまれぬ思ふから

   同

0238 おもひるときはの山の時鳥からからくれなゐのふり出てそ鳴

   同

0239 声はして涙はえぬほとゝきす我衣手のひつをからな

   撰

0240 旅ねして妻こひすらし郭公神なひ山にさよ更てなく

宇治前関白太政大臣

   後

0241 <>有明の月たにあれやほとゝきすたゝ一声の行かたも見む」(21オ)

 

後徳大寺左大臣

   千

0242 時鳥鳴つるかたをなかむれはたゝ有明の月そのこれる

皇太后宮大夫俊成

   同

0243 過ぬるか夜半のね覚のほとゝきす声は枕に有こゝちして

三国町

   古

0244 やよやまて山ほとゝきすことつてんわれよの中に住侘ぬとよ

千里

   同

0245 やとりせし花橘もかれなくになとほとゝきす声たえぬらん

閏五月郭公といふ心を       権中納言国信

   新

0246 時鳥五月六月わきかねてやすらふ声そ空にきこゆる

題しらす             よみしらす

0247 吾やとのかき根にうし撫子は花にさかなんよそへつゝみん

俊頼朝臣」(21ウ)

 

   金

0248 <>里も夕立しけり浅茅生露のすからぬ草のは

   同

0249 <>風吹けはすのうき葉に玉こえて涼しく成ぬ日くらしの声

僧正遍昭

   古

0250 蓮葉のにこりにしまぬこゝろもて何かは露を玉とあさむく

基俊

   金

0251 <>夏の夜月待程の手すさに岩もる清水幾結ひしつ

深養父

   古

0252 <>夏のよはまたなからあけぬるを雲のいつこに月やとるらん

曾禰好忠

   後

0253 <>夏衣たつた河原の柳かけすゝみにつゝならす比かな

源頼綱朝臣

   同

0254 夏山のならの葉そよく夕くれはことしも秋のこゝちこそすれ

清輔朝臣」(22オ)

 

   新

0255 <>のつから涼しくもあるか夏衣日もゆふくれの雨の名残に

西行法師

   同

0256 <>よられつる野もせの草のかけろひて涼しく曇る夕立の空

   同

0257 <>道のへに清水なかるゝ柳陰しはしとてこそ立とまりつれ

夏夜深養父琴をひくをきゝて    中納言兼輔

   撰

0258 <>みしか夜の更まゝに高砂のの松かせ吹かとそきく

千五百番合に          宮内卿

   新

0259 かた枝さすふのうらなし初秋になりもならすも風そ身にしむ

百首歌奉ける時          後京極摂政

   同

0260 秋ちかきけしきの森に鳴蝉のなみたの露や下染らん

題しらす             忠岑

   同

0261 夏はつるあふきと秋のしら露といつれかかんとすらん」(22ウ)

 

崇徳院に百首歌奉りける時

     皇太后宮大夫俊成

   千

0262 <>いつとてもしくやはあらぬ年月をみそきる夏の暮

凡河内躬恒

   古

0263 夏と秋と行かふ空のかよひちはかたへ涼しき風や吹らん

     六十九首〈朱〉

     拾六首〈青〉」(23オ)

 

(白紙)」(23ウ)

 

   巻第四

    秋歌上

     秋立日よめる           藤原敏行朝臣

   古

0264 <>秋来ぬとめにはさやかに見えねとも風のをとにそおとろかれぬる

紀貫之

   同

0265 <>河かせの涼しくもあるか打よするとゝもにや秋は立ら

題しらす             読人不知

   同

0266 <>わかせこか衣のすそを吹かしうらめつらしき秋のはつかせ

   同

0267 <>昨日こそ早苗とりしかいつのまに稲葉そよきて秋かせ

百首めしける時         崇徳院御製

   新

0268 いつしかと荻の葉むけのかたよりにそゝや秋とそ風も聞ゆる

藤原季通朝臣

   同

0269 <>このねぬるよのまに秋はきにけらし朝けのかせの昨日にもぬ」(24オ)

 

題しらす              よみ人しらす

   後撰

0270 <>うちつけに物そかなしき木葉ちる秋のはしめをけふそと思へは

家隆朝臣

   新古

0271 <>昨日たにとはんと思ひし津国の生田の森に秋はにけり

よみ人しらす

   古

0272 独ぬる床は草葉にあらねとも秋くるよひは露けかりけり

安法

0273 <>夏衣またひとへなるうたゝねに心してふけ秋の初かせ

恵慶法師

0274 <>八重むくらしけれるとのさひしきに人こそみえね秋はにけり

   後

0275 浅茅はら玉まく葛のうら風うらかなしかる秋はきにけり

安貴王

276             <>秋たちていくかもあらねとねぬる朝けの風は袂すゝしも(24ウ)

 

藤原為頼朝臣

   後

0277 大かたの秋くるからに身にちかくならすあふきのかせそかはれる

百首のに            式子内親王

   新

0278 うたゝねの朝けの袖にかはる也ならすあふきの秋の初風

題しらす             侍従乳母

   千

0279 秋たつと聞つるからにわか宿の荻のかせの吹かはるらん

崇徳院に百首奉ける時秋歌

    皇太后宮大夫俊成

   同

0280 八重むくらさしこもりにしよもきふにいかてか秋のわきてきつらん

題しらす             寂然法師

   同

0281 <>秋は来ぬ年も半に過ぬとや荻ふくかせのおとろかすらん

大蔵卿行宗

   同

0282 物ことに秋のけしきはしるけれと先身にしむは荻のうはかせ(25オ)

 

崇徳院に百首歌奉ける時秋の歌

     皇太后宮大夫俊成

   新

0283 <>荻の葉もちきりありてや秋かせの音信そむる妻とらん

       贈左大臣 長実

   金

0284 真葛はふあたの大野の白露を吹なはらひそのはつかせ

         西行法師

   新

0285 <>しなへて物をおもはぬ人にさへ心をつくる秋のうはかせ

   同

0286 <>あはれいかに草葉の露のこほるらん秋かせたちぬ宮城のゝ原

崇徳院に百首歌奉ける時      皇太后宮大夫俊成

   同

0287 <>みしふつきうし山田にひたはへてまた袖ぬらす秋はきにけり

題しらす             大弐三位

   同

0288 秋かせは吹むすへとも白つゆのれてかぬ草のはそなき

好忠(25ウ)

 

   同

0289 朝ほらけ荻の上はの露れはやゝはたし秋のはつかせ

小町

   同

0290 <>吹むすふ風はむかしの秋なからありしにもにぬ袖の露

よみ人しらす

   古

0291 秋かせの吹にし日より久かたの天の河原にたゝぬ日はなし

   同

0292 久かたの天の河原のわたし守君わたりなはかかくしてよ

   同

0293 天河紅葉をはしにわたせはやたなはたつめの秋をしもまつ

寛平御時后宮合のうた      躬恒

   同

0294  たなはたにかしつるはへて年のなかくこひや渡らん

七夕のとて           清原元輔

   拾

0295 銀河ふきの風に霧はれて空すみわたるかさゝき

読人しらす

   撰

0296  七夕のあまのわたるけふさへや遠かた人のつれなかるらん(26オ)

 

皇太后宮大夫俊成

   新

0297 織女のとわたる舟ののはにいく秋かきつ露の玉つさ

式子内親王

   同

0298 なかむれは衣手し久かたの天のかはらの秋の夕

大納言隆季

   千

0299 七夕の天つひれふく秋かせに八十の舟を御舟出らし

俊頼朝臣

   

0300 織女の天の原の枕かはしもはてす明ぬこの

 

百首歌めしける時         崇徳院御製

   

0301 たなはたに花染衣ぬきかせはあかつき露のかへすけり

七夕のこゝろを          斎宮女御

   新

0302 わくらはにあまの河よるなから明る空にはまかせすもかな

題しらす             読人不知(26ウ)

 

   古

0303 <>木間よりもりくる月の影れは心つくしの秋はきにけり

上東門院小少将

   新

0304 かはらしな知もしらぬも秋の夜の月まつほとのこゝろ

式子内親王

   同

0305 <>詠わひぬ秋より外のやともかな野にもやまにも月やすむらん

千里

   古

0306 <>月みれは千に物こそかなしけれわか身ひとつの秋にはあらねと

壬生忠岑

   同

0307 <>久かたの月のかつらも秋はなもみちすれはやまさるらん

五十首歌奉ける時         後京極摂政

   新

0308 郷のもとあらの小萩咲しよりよな/\庭の月そうつろふ

権中納言俊忠かつらの家にて水上月と云心を 俊頼朝臣

   千

0309  <>あすもこん野路の玉河萩こえて色なる波に月やとりけり(27オ)

 

秋の歌の中に           家隆朝臣

   新

0310  なかめつゝおもふも淋し久かたの月のみやこのあけかたのそら

後京極摂政

   同

0311 月たにもなくさめかたき秋のよの心もしらぬ松のかせかな

題しらす             院御製

   同

0312 秋の露や袂にいたくむすふらんなかき夜あかすやとる月影

二条院讃岐

   同

0313 大かたの秋の覚の露けくは又たか袖に有明の月

月の歌あまた読ける中に      法性寺入道前関白太政大臣

   千

0314 <>秋の月根の雲のあなたにてはれゆく空のくるゝ待けり

院に百首歌奉ける時      俊頼朝臣

   同

0315 <>木枯の雲吹はらふ高根よりさえても月のすみのほるかな

崇徳院に百首歌奉ける時      左京大夫顕輔(27ウ)

 

   新

0316 <>秋かせにたなひく雲の絶間よりもれいつる月の影のさやけさ

月の歌とてよめる         基俊

   千

0317 山端にますみのかゝみかけたりと見ゆるは月のいつるけり

権中納言長方

   同

0318 <>八百日行はまの真砂をかへて玉になしつる秋のよの月

清輔朝臣

   同

0319 <>更にけるわかの秋そ哀なるかたふく月はまたもいてなん

俊頼朝臣

   

0320 <>照月の旅ねの床やしもとゆふかつき山の谷河のみ

読人不知

   

0321 <>白雲にはね打かはしとふかりの数さへゆる秋のよの月

合に湖辺月と心を    家隆朝臣

   新

0322  鳰の海や月のひかりのうつろへはのはなにも秋は見えけり(28オ)

 

しらす             読人不知

   古

0323 秋はきの下葉色つく今よりやひとりある人のいねかてにする

   同

0324 <>鳴わたる雁のなみたやおちつらんものおもふ宿の萩の上の露

   同

0325 萩の露玉にぬかんとれはけぬよしん人は枝なからみよ

   同

0326 折てはおちそしぬへき秋はきの枝もたゝにける白露

   同

0327 <>はきか花ちるらんのゝ露霜にぬれてをゆかんさよは吹共

人丸

   新

0328 あきはききちる野の夕露にぬれつきませ夜は更ぬとも

中納言家持

   同

0329 棹鹿のあさたつ小野の秋萩に玉とみるまてけるし

範永朝臣

   後

0330 今朝きつる野はらの露に我ぬれぬうつりやしぬる萩か花すり

よみ人しらす(28ウ)

 

   

0331 <>秋の田のかりほののにほふまてさける秋はきみれとあかぬかも

天智天皇御製

   同

0332 <>あきの田のかりほのいのとまをあらみ我衣手は露にぬれつゝ

人丸

0333 比の暁つゆわか宿はきかした葉は色にけり

   万

崇徳院に百首歌ける時      清輔朝臣

   新

0334 <>うす霧のかきの花の朝しめり秋はゆふと誰かいひけん

題しらす             和泉式部

   千

0335 人もかなせもきかせも萩花さく夕かけの日くらしの声

守覚法親王五十首歌読せ侍けるに

 法橋顕昭

   新

0336 萩か花真袖にかけて高円尾上の宮にひれふるやたれ

亭子院女郎花合に         三条右大臣(29オ)

 

   古

0337 秋ならてことかたき郎花天の河原に生ぬものゆ

貫之

   同

0338 秋にあらぬ物ゆへ女郎花色に出てま

院に百首歌奉ける時      大納言師頼

   千

0339 露しけきあしたの原のみなへし一枝らん袖はぬるとも

不知              貫之

   古

0340 やとりせし人のかたみか藤はかまわすられたき香に匂ひつゝ

素性法師

   同

0341 ぬしらぬかこそにほへれ秋のにたかぬきかけし藤袴そも

人丸

   新

0342 小男鹿入野のすゝき初尾花いつしかか手枕にせ

よみ人しらす

   同

0343  小倉山ふもとの野への花すゝきほのかにゆる秋の夕暮(29ウ)

 

百首に             式子内親王

   同

0344 <>花すゝきまた露ふかしほに出てなかめしとおもふ秋のさかりを

寛平御時后宮の合に       在原棟梁

   古

0345 秋の野のくさのたもとか花すゝきほにてまねく袖とみゆらん

題しらす             坂上是則

   新

0346 うらかるゝ浅茅か原のかるかやのみたれて物をおもふ比かな

基俊

   同

0347 <>秋かせのやゝはたさむく吹なへに上葉の音そかなしき

読人不知

   古

0348 あきのに道もまとひぬ松むしの声するに宿やからまし

藤原為頼朝臣

   拾

0349 <>おほつかないつこなるらん虫の音をたつねは草の露やみたれん

家隆朝臣(30オ)

 

   新

0350 <>むしのもなかき夜あかぬ古郷に猶思ひそふ松風そふく

式子内親王

   同

0351 <>跡もなき庭の浅芽にむすほゝれ露の底なる松虫の

人しらす

   古

0352 君しのふ草にやつるゝふるさとは松むしの音そかなしかりける

   同

0353 日くらしの鳴つるなへに日はくれぬとおもふ山の影にそける

   同

0354 くらしのなく山里の夕くれはかせより外にとふ人もなし

菅贈太政大臣

   新

0355 <>草葉には玉と見えつゝ侘人の袖のなみたののしら露

中納言家持

   同

0356 吾宿の花か末にしら露のをきし日よりそ秋かせも吹

麿

   

0357  秋されはく白露にわかやとのあさちか上葉色付にけり(30ウ)

 

院御製

   同

0358 露はそてに物おもふ比はさそなく必あきのならひならねと

   同

0359 野原より露のゆかりをたすねてわか衣手に秋かせそ吹

文屋朝康

   撰

0360 <>白露にかせの吹しく秋のゝはつらぬきとめぬ玉そ散ける

前大僧正慈円

   千

0361 <>くさ木まて秋のあはれをしのへとや野にも山にも露こほるらん

清輔朝臣

   同

0362 <>立田姫かさしの玉のをゝよたれにけりとゆる白露

素性法師

   古

0363 <>われのみやあはれとおもはんなく夕けの山となてしこ

よみ人しらす

   同

0354  みとりなるひとつ草とそ春はみし秋は色の花にそありける(31オ)

 

   古秋上

0365 <>月草にころもはすらん朝露にぬれての後はうつろひぬとも

   拾雑上

僧正遍昭

   

0366  里はあれて人はふりに宿なれや庭もまかきも秋のゝらなる

     百三首〈朱〉」(31ウ)

 

   巻第五

    秋歌下

     是貞のみこの家の歌合に      紀友則

   古

0367 秋かせにはつかりかねそきこゆなるたか玉つさをかけてきつらん

題しらす             読人不知

   同

0368 わか門にいなおほせ鳥のなくなへに今朝ふくに雁はきにけり

   同

0369 いとはやも鳴ぬる雁かしら露の色とる木ゝも紅葉あへなくに

   同

0370 はるかすみかすみていにし雁金はいまそなくなる秋きりの上に

   同

0371 夜をさむみ衣かりかねなくなへに萩の下葉もうつろひにけり

人丸

   新

0372 垣ほなる荻の葉そよき秋かせの吹なるなへに雁そ鳴なる

   同

0373 秋かせに山とひこゆる雁かねのいやとさかり雲かくれつ

西行法師(32オ)

 

   

0374 <>よこ雲の風にわかるゝしのゝめに山とひこゆるはつ雁の声

   同

0375 <>しらくもをつはさにかけて雁の門田の面の友したふなる

俊成卿女

   同

0376 吹まよふ雲井をわたる雁かねのつはさにならす四方の秋風

伊勢大輔

   後

0377 小夜ふかく旅のそらにて鳴雁はのか羽かせや夜さむらん

よみ人しらす

   撰

0378 <>秋かせにさそれわたる雁かねはものおもふ人の宿をよかなん

人丸

   新

0379 秋されは雁のかせにふりてさむきよな/\時雨さへふる

藤原輔尹朝臣

   同

0380 秋かせは身にしむ吹にけり今やうつらんいもかさころも

雅経朝臣(32ウ)

 

   同

0381 <>みよし野の山の秋かせさふけて古郷さむく衣うつなり

大納言経信

   同

0382 ふるさとに衣うつとは行雁やたひのそらにも鳴て告らん

貫之

   同

0383 雁なきて吹かせさむみから衣君まちかてにうたぬそなき

式子内親王

   同

0384 <>千たひうつきぬの音にさめて物おもふ袖の露そくたくる

和歌所歌合に月下擣衣といふ心を

  宮内卿

   同

0385 まとろまてなかめよとてのすさ哉あさの衣月にうつ声

院に百首歌奉ける時擣衣のこゝろを

 俊頼朝臣

   千

0386  <>松かせの音たに秋はさひしきに衣うつなり玉河のさと(33オ)

 

基俊

   

0387 たかにいかにうてはから衣度八千たひ声のうらむる

題しらす             曾禰好忠

   新

0388 <>山さとにきりのまかきのへたてすは遠かた人の袖もみてまし

大納言経信母

   後

0389 明ぬるか河瀬の霧のたえ/\に遠方人の袖のみ

権中納言定頼

   千

0390 朝ほらけ宇治の河霧たえ/\にあらはれわたる瀬々の網代木

深養父

   拾

0391 河きりの麓をこめて立ぬれは空にそ秋の山はみえける

寂蓮法師

   新

0392 <>村雨の露もまたひぬ槙のはに霧立のほる秋の夕くれ

よみ人不知(33ウ)

 

   古

0393 <>きりたちて雁そなくなる片岡のあしたの原は紅葉しぬらん

   同

0394 神無月時雨もいまたふらなくにかねてうつろふ神南備の森

覚盛法師

   千

0395 秋といへは岩田のをのゝ柞原時雨もまたす紅葉しにけり

紀淑望

秋下

0396 紅葉せぬときはの山はくかせの音にや秋をきゝわたるらん

   拾雑

よみ人しらす

   古秋下

0397 いつはとは時はわかねと秋の夜そものおもふことの限り也ける

   拾雑$

大弐三位

   千

0398 <>はるかなるもろこしまても行は秋のねさめのこゝろ也けり

崇徳院に百首歌奉ける時      藤原季通朝臣

   同

0399 秋のよは松をはらはぬ風たにもかなしきことの音をたてすやは

読人不知(34オ)

   古

0400 秋かせの吹とふきぬる武蔵野はなへて草葉の色かりけり

基俊

   千

0401 秋にあへすさこそは葛の色つかめあなうらめしの風のけしきや

田家秋風と云心を読侍ける     大納言経信

   金

0402  <>夕されは門田の稲葉つれてあしの丸やに秋風そふく

崇徳院に百首歌奉ける時      皇太后宮大夫俊成

   千

0403 <>夕されは野への秋かせ身にしみてうすら鳴也深くさのさと

院御時上のをのことも題をさくりて奉けるに

薄をとりて読侍ける        俊頼朝臣

   金

0404 <>うつらなくのゝ入江のはまかせに尾花波よる秋の夕くれ

題しらす              良暹法師

   後

0405 <>淋しさにやとを立いてゝ詠れはいつくもおなし秋の夕暮

寂蓮法師(34ウ)

 

   新

0406 <>さひしさはその色としもなかりけり槙立山の秋の夕くれ

式子内親王

   同

0407 <>それなから昔にもあらぬ秋かせにいとゝ詠をしつのをた巻

和泉式部

   同

0408 <>秋くれはときはの山の松かせもうつる斗ににそしみける

基俊

   同

0409 <>高円の野路の篠原末さはきそゝや木からしけふ吹ぬなり

文屋康秀

   古

0410 <>吹からに秋の草木のしるれはむへ山かせをあらしといふらん

   同

0411 草も木も色かはれともわたつ海の波の花にそ秋なかりける

百首歌奉ける時          寂蓮法師

   新

0412 <>野分せし小野の草あれはてゝ太山にふかき小男鹿の声

鹿のとて読侍ける        俊恵法師(35オ)

 

   

0413 <>あらし吹まくすか原になく鹿はうらみてのみや妻をこふらん

後京極摂政

   同

0414 <>たくへ来る松のあらしやたゆむらんをのへに帰る小男鹿の声

寂蓮法師

   千

0415 尾上より門田にかよふ秋風にいなはをわたる棹鹿の声

読人不知

0416 秋かせのうち吹(吹こそイ)ことに高砂の尾上の鹿のなかぬ日そなき

院に百首歌奉ける時      権中納言公実

   千

0417 杣かたに道やまとへる小男鹿の妻とふ声のしけくもあるかな

人丸

   新

0418 <>棹鹿のつまとふ山の岡辺なるわさ田はからし霜はをくとも

大中臣能宣朝臣

0419  <>紅葉せぬときはの山にすむ鹿はをのれ鳴てや秋を知るらん(35ウ)

 

祐子内親王家にて鹿の歌とてよみ侍ける

 権中納言長家

   新

0420 過て行く秋のかたみに棹鹿のをのか鳴もおしくや有らん

和歌所にておのことも歌つかうまつりけるに夕鹿と云心を

家隆朝臣

   同

0421 <>下紅葉かつちる山の夕しくれぬれてや鹿のひとり鳴らん

題しらす             読人不知

   古

0422 <>奥山にもみちふみ分なく鹿の声きく時そ秋はかなしき

   同

0423 あき萩にうらひれをれは足曳の山したとよみ鹿の鳴らん

敏行朝臣

   同

0424 <>秋はきの花さきにけり砂の尾上の鹿は今やなくらん

三条の后の宮の裳き侍ける屏風に九月九日書たる所を 

元輔(36オ)

 

   拾

0425 我やとのきくのしら露けふことにいく世つもりて淵と成ら

題しらす             躬恒

0426 長月のこゝぬかことにつむ菊の花もかひなく老にけるかな

人の前裁に菊にむすひてうへける

業平朝臣

   古

0427 うへし栽は秋なき時やさかさらん花こそちらめ根さへかれめや

是貞のみこの家の合に      友則

   同

0428 露なから折てかさゝん菊のはな老せぬ秋のひさしかるへく

寛平御時菊の花をよませ給ふけるに

 敏行朝臣

   同

0429 久かたの雲のうへにてる菊は天つほしとそあやまたれける

寛平の御時后の宮の合の歌    千里

0430  植しとき花まちとしきくうつろふ秋にあはんとやみし(36ウ)

 

たいしらす            友則

   同

0431 花見つゝ人まつときは白妙の袖かとのみそあやまたれける

寛平御時菊合に吹上浜菊     菅贈太政大臣

   同

0432 <>秋風の吹上にたてるしら菊は花かあらぬかのよするか

上東門院菊合に          伊勢大輔

   後

0433 めもかれすつゝくらさん白きくの花より後の花しなけれは

菊のとて読る          家隆朝臣

   千

0434 さえわたる光を霜にまかへてや月にうつろふしら菊のはな

躬恒

   古

0435 <>心あてにらはやおらん初霜のをきまとはせる白きくの花

五十首歌奉ける時菊籬月といふこゝろを

 宮内卿

   新

0436  <>霜をまつまかきの菊のよひのにをきまふ色は山端の月(37オ)

 

百首歌奉ける時         参議定家

   

0437 <>独ぬる山鳥の尾のしたりおに霜をきまよふ床の月影

後京極摂政家にて月の歌読侍けるに

 寂蓮法師

   同

0438 ひとめみし野へのけしきはうら枯て露のよすかにやとる月影

題しらす             式子内親王

   千

0439 <>草も木も秋の末葉はえ行に月こそ色もかはらさりけれ

千五百番歌合に          権大納言通光

   新

0440 入日さす麓の尾花打なひきたか秋かせにうつら鳴らん

百首歌奉ける時          後京極摂政

   同

0441 <>きり/\す鳴や霜よのさむしろに衣かたしき独かもね

後京極摂政家にて百首歌読侍けるに

 寂蓮法師(37ウ)

 

   同

0442 <>かさゝきの雲のかけはし秋くれて夜半にや霜のさえわたるらん

題しらす             忠岑

古賀

0443 千鳥なくさほの河霧立ぬらし山の木の葉の色かは(まさ)りゆく

   拾秋

好忠

0444 神なひの室の山をけふみれは下くさかけて色付にけり

よみ人しらす

   古

0445 千早振神なひ山のもみち葉におもひはかけしうつろふ物を

忠岑

   同

0446 <>秋のよの露をはつゆと置なから雁のなみたや野へを染らん

貫之

   同

0447 <>白露も時雨もいたくも山は下葉のこらす色付にけり

   同

0448 <>ちはやふる神のいかきにはふ葛も秋にはあへすうつろひにけり

読人しらす(38オ)

 

   

0449 ちらねともかねてそおしき紅葉は今はかきりの色とみつれは

崇徳院に百首歌奉ける時      左京大夫顕輔

   千

0450 山姫にへのにしきを手向てもちる紅葉ゝをいかゝとゝめ

題しらす             八条院高倉

   新

0451 神なひの室の梢いかならなへての山も紅葉するころ

後京極摂政家百首歌合       参議定家

   同

0452 <>時わかぬ浪さへ色にいつみ河はゝそのにあらし吹らし

障子の絵に荒たる宿のもみちを

   俊頼朝臣

   同

0453 ふるさとはちる紅葉にうつもれて軒の忍ふに秋風そ吹

百首歌に             式子内親王

   同

0454 <>桐の葉もふみかたく成にけりかならす人を待となけれと

崇徳院に百首歌奉ける時      前参議親隆(38ウ)

 

   同

0455 うつらなくかた野にたてるはし紅葉ちりぬ斗に秋かせそ吹

百首歌奉ける時          二条院讃岐

   同

0456 ちりかる紅葉の色はふかけれとわたれはにこる山河の水

秋の歌あまた読侍ける中に     権中納言長方

   同

0457 飛鳥せゝに波よるくれなやかつらき山の木からしのかせ

題しらす             文武天皇御製

   古

0458 <>田河もみちみたれてなかるめりわたらは錦中や

人丸

   同

0459 <>田河もみち葉なかる神なひの三室の山に時雨ふるらし

よみ人しらす

   同

0460 こひしくはてもしのはむ紅葉ゝをふきなちらしそ山のかせ

   同

0461 <>秋は来ぬもみちはやとにふりしきぬ道ふみ分てとふ人なし

   同

0462 踏分てさらにやとはん紅葉ゝのふりかくしてしなから(39オ)

 

藤原関雄

   

0463 <>霜のたて露のぬきこそよからし山の錦のおれはかつちる

雲林院の木陰にたゝすみて読侍ける

 僧正遍昭

   同

0464 <>わひ人のわきて立よる木のもとはたのむ陰なく紅葉散けり

題しらす             業平朝臣

   同

0465 <>千早振神代もきかす田河から紅に水くゝるとは

敏行朝臣

   同

0466 わかきつるかたしられすくらふ山木ゝののはの散とまかふに

賀の山越にて読る        春道列樹

   同

0467 <>山河にかせのかけたるしからみはなかれもあへぬなりけり

北山に僧正遍昭とたけかりにまかりけるによめる

 素性法師(39ウ)

 

   同

0468 紅葉ゝは袖にこき入てもてなん秋はかきりとん人の為

堀河院に百首歌奉ける時      俊頼朝臣

   千

0469 秋の田にもみちゝりける山さとをこともろかにおもひける

百首歌奉ける時          宮内卿

   新

0470 田河あらしや峯によるらんわたらぬ水も錦たえけり

千五百番合に          家隆朝臣

   同

0471 露時雨もる山陰の下紅葉ぬるともおらん秋のかたみに

長月の比水瀬に侍て山里なる人の返事にしける

 権大納言公経

   同

0472 もみち葉をさこそあらしのはらふらめ此山も雨とふる也

百首歌めしける時に        崇徳院御製

   千

0473 紅葉ゝのちりかたをたつぬれは秋もあらしの声のみそする

花園左大臣家小大進(40オ)

 

   

0474 今夜まて秋はかきりとさためける神代も更にうらめしき哉

長月の晦日の日大井にてよみ侍ける

 紀貫之

   古

0475 夕月夜をくらの山に鳴鹿の声のうちにや秋はくるらん

     百九首(40ウ)

 

   巻第六

    冬歌

     題しらす

                      読人不知

   撰

0476 <>月ふりみふらすみさためなき時雨そ冬の初成ける

天暦御時神無月と云ことを上につかうまつりける

 藤原高光

   新

0477 <>神無月風にもみちのちる時はそこはかとなく物そ悲しき

題しらす             読人不知

   古

0478 田河にしきりかく神月しくれのあめをたてぬきにして

   拾

0479 かみな月時雨とゝもに神南備のもりの木葉はふりにこそふれ

能因法師

0480 あらし吹三室の山の紅葉ゝは立田の河のにしき也けり

俊恵法師(41オ)

 

   千

0481 けふみれ嵐の山は大井もみ吹おろす名にこそ有けれ

亭子院大井川におはしましける御もにつかうまつりて

 貞信公

0482 <>小倉山のもみち葉心あらは今一たひの御幸またな

承保三年十月大井河に御幸せさせ給ひけるに

 白川院御製

   後

0483 <>大井河ふるきなかれをたつねきてあらしの山の紅葉をそみる

後冷泉院御時殿上のをのことも大井河にまかりけるに

 藤原資宗朝臣

   新

0484 筏士よまてことゝはん水上はいかはかり吹山のあらしそ

大納言経信

   同

0485 <>ちりかゝるもみちなかれぬ大井河いつれいせきの水のしからみ

題しらす             源信明朝臣(41ウ)

   同

0486 <>ほの/\と有明の月のつきかけに紅葉吹おろす山颪のかせ

前大僧正慈円

   同

0487 もみち葉はのかたる色そかしよそけにける今朝の霜哉

百首歌召しける時         崇徳院御製

   千

0488 隙もなくもみちはにうつもれて庭けしきも冬けり

たいしらす            和泉式部

   同

0489  <>外山吹あらしの風の音きけはまたきに冬の奥そしらるゝ

散残たる紅葉をみて       僧正遍昭

0490 からにしき枝に一むらのこれるは秋のかたみをたゝぬ也けり

五十首歌奉ける時         宮内卿

   新

0491 からにしき秋のかたみやたつた山ちりあへぬ枝にあらし吹也

雅経朝臣

   同

0492  秋の色をはらひはてゝや久かたの月のかつらに木からしの風(42オ)

 

たいしらす            読人不知

   撰

0493 千ふる神かき山の榊葉はしくれに色もかはらさりけり

藤原兼房朝臣

   後

0494 あはれにも絶す音するしくれかなとふへき人もとはぬす栖を(イ)

崇徳院に百首歌奉ける       皇太后宮大夫俊成

   千

0495 <>まはらなるまきの板やに音はしてもらぬ時雨や木葉成らん

時雨を読侍ける          従三位頼政

   同

0496  山めくる雲のしたにや成らんすそのゝはらに時雨ふる也

道因法師

   同

0497 あらしひらのたかねのねわたしにあはれしくるゝ神無月

院に百首歌奉ける時      権中納言国信

   同

0498 深山のしくれてわたる数ことにかことかましき玉かかな

題しらす             西行法師(42ウ)

 

   新

0499 <>月を待根のくもははれにけりこゝろあるへき初しくれかな

能因法師

   同

0500 時雨のあめ染かねてけり山しろのときはの森の槙の下葉は

前大僧正慈円

   同

0501 <>やよしくれものおもふ袖のなかりせは木葉のゝちに何を染まし

をのことも(+哥)つかうまつるつゐて

 院御製

   同

0502 <>深みとりあらそひかねていかならんまなく時雨の布留の神杉

たいしらす            人麿

   <>

0503 時雨の雨まなくふれ槙の葉もあらそひかねて色付にけり

西行法師

   同

0504 <>秋篠や山の里やしくるらん伊こまのたけに雲のかゝれる

千五百番歌合に          二条院讃岐(43オ)

 

   <>

0505 世にふるはくるしきを槙の屋にやすくも過る初時雨哉

題しらす             赤染衛門

   

0506 神無月有明の空のしくるゝを又われならぬ人やみるらん

四条太皇太后宮越前

   後

0507 <>の松かき隙をあらみいたくな吹そ木からしの風

宗于朝臣

   古

0508 <>山さとはそ淋しさまさりける人めも草もかれぬとおもへは

百首歌中に            重之

0509 の葉にかくれてすみし津の国のこやもあらはに冬はきにけり

題しらす             和泉式部

   後

0510 <>さひしさに煙をたにもたしとて柴折くふる冬の山里

殷富門院大輔

   新

0511  我門のかり田のねやにふす鴫の床あらはなる冬のよの月(43ウ)

 

清輔朝臣

   同

0512 <>冬枯の森の朽葉の霜のうへに落たる月の影のさやけさ

崇徳院に百首歌奉ける時      関

   同

0514 <>君こすは独やねなんのはのみ山もそよにさや

百首歌奉りける時         後京極摂政

   

0513 <>さゝの葉は太山もさやに打そよき氷れる霜を吹あらし哉

しらす             俊成卿女

   同

0515 <>霜かれはそことも見え草の原誰にとはまし秋の名残を

前大僧正慈円

   同

0516 <>霜さゆる山田のくろのむらすゝきかる人なしに残る比かな

曾禰好忠

   同

0517 <>草のうへにこゝら玉し白露を下葉の霜とむすふ冬

中納言家持(44オ)

 

   

0518 <>のわたせるはしにをく霜の白きをみれは夜そ更にける

和泉式部

   同

0519 野へれは尾花かもとのおもひ草かれ行冬に成そしにける

                      康資王母

   同

0520 東路の道の冬草しけりあひて跡たにえぬ忘水かな

恒徳公家御屏風に         元輔

   

0521 <>高砂の松にすむ鶴冬くれは尾上の霜や置まさるらん

院に百首歌奉ける時      前中納言匡房

   千

0522 高砂の尾上のかねの音すなりあかつきかけて霜やらむ

基俊

   同

0523 しもさえてかれれをのゝかへなるならのひろはに時雨ふる也

神楽を読侍ける          権中納言師時

   金

0524  なひ御室の山に霜ふれはゆふしかけぬ榊葉そなき(44ウ)

 

題しらす             大納言公任

0525 霜かぬ袖たにさゆる冬のは鴨の上毛をおもひこそやれ

曾禰好忠

   

0526 鳰とりの氷のせきにとちられて玉藻の宿をかれやしぬらん

深山霰と云心を読侍ける

 前中納言匡房

   金

0527 鷹のしらふに色やまかふらんとかへる山に霰ふるなり

鷹狩の心を            藤原長能

   

0528 <>あられふる交野のみのかり衣ぬれぬやとかす人しなけれは

源道済

   金

0529 <>ぬれ/\も猶かりゆかんはしたかの上毛の雪を打はらひつゝ

院に百首歌奉ける時      藤原仲実朝臣

   千

0530 やかたをのましろの鷹を引すへてうたのとを狩くらしつ

題しらす             和泉式部(45オ)

 

   詞恋下

0531 竹の葉にあられふる夜はさら/\にひとりはぬへき心ちこそせね

貫之

0532 <>おもひかねかりゆけは冬のよの河かせさむみ千とり鳴なり

関路千鳥といふ心をよめる     源兼昌

   金

0533 <>淡路しまかよふ千とりの鳴声にいくよねさめぬ須磨の関守

永承四年内裏合に        相模

   後

0534 難波かたあさみつしほにたつ千鳥浦つたひする声聞ゆ也

千鳥をよみ侍ける         後徳大寺左大臣

   新

0535 <>夕なきにとわたるちとり波間よりゆる小の雲に消ぬる

皇太后宮大夫俊成

   千

0536 <>須磨の関有明のそらに鳴千とりかたふく月はなれもかなしや

大中臣能宣朝臣

拾雑

0537  あかつきのねさめの千とりたか為佐保の河原に百千反鳴(45ウ)

 

しらす             快覚法師

   後

0538 <>小夜るまゝに汀やこほるらんとさかり行志賀の浦波

後京極摂政

   新

0539 消かへり岩まにまよふ水の泡のしはしやとかる薄氷哉

百首歌奉けるに          同

   同

0540 <>かたしきの袖の氷もむすほゝれとけてねぬよの夢そ短き

最勝四天王院障子に宇治河書たる所

院御製

   同

0541 橋姫のかたしき衣さむしろに待よむなしき宇治のほの

後京極摂政家歌合に湖上冬月

    家隆朝臣

   同

0542 <>志賀の浦やとさかり行波よりこりて出る有明の月

題しらす              読人不知(46オ)

 

   撰

0543 <>おもひつゝねなくにあくる冬のよの袖のこほりはとけすも有哉

   古

0544 大空の月の光し清けれはかけみし水そ先こほりける

恵慶法師

0545 <>天原空さへさえやわたるらこほゆる冬のよの月

永承四年内裏合に        相摸

   後

0546 <>都にも初雪ふれは小野山の槙のすみかまたきまさるらん

題しらす             人丸

   新

0547 <>矢田の野に浅茅色つくあちら有乳山くそあるらし

権中納言長方

   同

0548 初雪のふるの神杉埋れてしめゆふ野は冬こもりせり

百首歌に             式子内親王

   

0549 小筵の夜半の衣手さえ/\て初雪しろし岡のへの松

題しらす             よみ人しらす(46ウ)

 

   古

0550 夕されは衣手さむしみよしのゝよしゝ山にみ雪るらし

   同

0551 古里はよしのゝ山しちかけれはひとひもみ雪ふらぬ日はなし

   同

0552 わかやとは雪ふりしきて道もなしふみ分てとふ人しなけれは

   同

0553 今よりはつきてふらなんわかやとのすゝきをしなみふれる白雪

紀貫之

   同

0554 雪ふれは冬こもりせる草も木も春にしられぬ花そ咲ける

坂上是則

   同

0555 みよしのゝ山の白雪つもるらし古郷さむく成まさる

東三条入道摂政家の屏風に     平兼盛

   

0556 見渡せは松のはしろきよしの山いく世つもれる雪にか有らん

題しらす             深養父

   

0557 冬なから空より花のちりくるは雲のあなたは春にや有らん

坂上是則(47オ)

 

   

0558 朝ほらけ有明の月とるまてに吉野の里にふれる白雪

よみ人しらす

   同

0559 けぬかうへに又もふりしけはる霞たちなはみ雪稀にこそみめ

友則

   同

0560 雪ふれは木毎に花そ咲にけるいつれを梅と分てらまし

高陽院家歌合に          二条太皇后宮摂津

   金

0561 降雪に杉の青葉も埋れてしるしもえぬ三輪の山本

家に百首歌読侍けるに       後法性寺入道関白太政大臣

   新

0562 ふる雪にたくもの煙かきたえて淋しくも有か塩かまの浦

題しらす              赤人

   同

0563 田子の浦に打いてゝれは白妙のふしの高嶺に雪は降りつゝ

百首歌奉ける時          参議定家

   同

0564  <>駒とめて袖打はらふかけもなしさのゝわたりの雪の夕暮(47ウ)

 

後京極摂政家にて山家雪といふ心を

   同

0565 <>待人の麓のみちや絶ぬらん軒端の杉に雪をもるなり

守覚法親王の五十首に      皇太后宮大夫俊成

   同

0566 <>雪ふれはのまさきうつもれて月にみかける天のかく山

右大将定国四十賀し侍ける屏風に

  貫之

古賀

0567 <>しら雪の降りしく時はみよしのゝ山下かに花そちりける

   拾冬

源道済

   後

0568 あさほらけ雪ふる空をわたせはやまのはことに月そ残れる

源頼家朝臣

   同

0569 山さとは雪こそふかく成にけれとはても年のにける哉

よみ人しらす

0570  雪ふりて年のくれぬる時にこそつにもみちぬ松もえけれ(48オ)

 

百首歌めしける時         院御製

   新

0571 此ころは花ももみちも枝になしはしなきえそ松の白雪

年のはてに読侍ける        春道列樹

   古

0572 <>昨日いひけふとくらしてあすか河なかれてはやき月日也けり

年のはてに人にしける      西行法師

0573 をのつから岩ね(岩ね#いはぬ<>をしたふ人やあとやすらふ程に年のぬる

百首歌奉ける時          太皇太后宮小侍従

   同

0574 おもひやれ八十の年の暮なれはいか斗かは物はかなしき

西行法師

   同

0575 <>むかしおもふ庭にうき木をつみ置てし世にも似ぬ年の暮哉

後京極摂政

   同

0576 <>上ふるのゝ小篠霜をへて一はかりに残るとしかな

入道左大臣 実房公也」(48ウ)

 

   同

0577 いそかれぬ年のくれこそあはれなれ昔はよそに聞し春かは

年の暮の心を           後徳大寺左大臣

   同

0578 <>石はしるはつせの河の波枕はやくも年のくれにけるかな

権中納言国信

   金

0579 <>何事を待となしに明くれてことしもけふに成にける哉

斎院屏風にしはす晦日の夜     平兼盛

   拾

0580  <>かそふれは我身につもる年月を送りむかふと何いそくらん

      百五首(49オ)

 

   巻第七

    賀

     みつきものゆるされて国とめるを御して 

仁徳天皇御製

   

0581 <>高き屋にのほりてれは煙たつ民のかまとはにきはひにけり

大歌所のうた

   古

0582 あたらしきとしのはしめにかくしこそ千年をかねてたのしきをつめ

題しらす             読人不知

   新

0583 <>初はるのはつねのけふの玉はゝき手にとるからにゆらく玉の緒

延喜御時前坊むまれ給へりける時

  因香朝臣

   古

0584 たかき春日の山に出る日はくもる時なくてらすへらなり

たいしらす            よみ人しらす(50オ)

 

   

0585 我君は千世にや千世にさゝれ石のいはほとなりて苔のむすまて

0586 君か代は天の羽衣まれにきてなつともつきぬ巌ならな

大江嘉言

   後

0587 <>きみか代は千世に一度ゐる塵のしらくもかゝる山となるま

承暦二年内裏歌合に        大納言経信

   同

0588 <>君か代はしとそおもふ神かせやみもすそ河のすま限りは

永承四年内裏歌合に        式部大輔資業

   同

0589 きみか代はしら玉椿千世とも何にかそへむ限りなけれは

いはひのこゝろを         皇太后宮大夫俊成

   新

0590 <>きみか代は千世ともさゝし天の戸やいつる月日のかきりなけれは

題不知              読人しらす

   古

0591 しほの山さしての磯に住千とり君か御代をは八千世とそなく

僧正遍昭に七十賀給はせける時   光孝天皇御製(50ウ)


続きはこちら→「二四代集」(題箋)2


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