2009年6月22日入力、8月18日見直し、10月26日見直し了)
巻第一
春歌上
ふる年に春立日よめる 在原元方
古
0001 \/<朱黄>としの内に春は来にけり一とせをこそとやいはん今年とやいはむ
立春のこゝろを 壬生忠岑
拾
0002 春たつといふ斗にやみよし野のやまもかすみて今朝はみゆらん
源重之
同
0003 /<黄>吉野山峯のしら雪いつ消て今朝はかすみの立かはるらん
後京極摂政
新
0004 /<黄>みよし野は山もかすみて白ゆきのふりにし里に春はきにけり
院御製
同
0005 ほの/\と春こそ空にきにけらし天のかく山霞たなひく
凡河内躬恒」(1オ)
撰
0006 /<黄>春立と聞つるからにかすか山きえあへぬ雪の花とみゆらん
堀河院に百首哥奉ける時に立春の歌
権中納言国信
千
0007 三室山谷にや春の立ぬらん雪のした水岩たゝくなり
正月一日二条のきさいの宮にてしろきおほうち
きを給りて
藤原敏行朝臣
撰
0008 /<黄>降雪のみのしろ衣打きつゝ春きにけりとおとろかれぬる
題しらす 曾禰好忠
後
0009 /<黄>みしま江やつのくみわたる芦のねの一よはかりに春めきにけり
読人不知
古
0010 春霞たてるやいつこみよし野のよしのゝ山に雪はふりつゝ
崇徳院に百首歌奉ける時春の歌」(1ウ)
待賢門院堀河
千
0011 /<黄>雪深き岩のかけ道跡たゆるよし野の里も春はきにけり
一条院の御時殿上人春の歌とこひ侍けるに
紫式部
後
0012 /<黄>みよしのは春のけしきにかすめともむすほゝれたる雪の下草
寛平の御時きさいの宮の哥合に
源当純
古
0013 \/<朱黄>谷風にとくる氷のひまことに打いつる波やはるの初はな
たいしらす 山辺赤人
新
0014 /<黄>あすからは若菜つまんとしめしのに昨日もけふも雪は降つゝ
平兼盛
撰
0015 /<黄>けふよりは荻のやけはらかき分て若菜つみにと誰をさそはむ
よみ人しらす」(2オ)
古
0016 /<黄>春日野のとふ火のゝもり出て見よ今いくか有て若なつみてん
同
0017 太山には松の雪たに消なくに都は野への若なつみけり
同
0018 /<黄>梓弓をして春雨けふふりぬあすさへふらはわかなつみてん
みこにおはしましける時人に若な給はせける御哥
光孝天皇御製
同
0019 \/<朱黄>君かため春のゝに出てわかなつむ我衣手に雪はふりつゝ
春の歌奉ける時 紀貫之
同
0020 春日野の若なつみにや白妙の袖ふりはへて人の行らん
堀河院に百首歌奉ける時 源俊頼朝臣
千
0021 かすか野の雪をわかなにつみそへてけふさへ袖のしほれぬる哉
権中納言国信
新
0022 /<黄>春日野の下もえわたる草のうへにつれなく見ゆる春の泡雪
雪の降けるをよめる つらゆき」(2ウ)
古
0023 /<黄>霞たち木のめもはるの雪ふれは花なき里も花そ散ける
家の哥合に 後京極摂政
新
0024 /<黄>そらは猶霞もやらす風さえて雪けにくもる春のよの月
崇徳院に百首哥奉けるに 待賢門院堀河
千
0025 ときはなる松もやはるを知ぬらんはつねといはふ人にひかれて
春の初によめる 藤原言直
古
0026 はるやとき花やをそきと聞わかん鶯たにもなかすも有かな
二条の后の春のはしめの御うた
同
0027 雪のうちに春はきにけりうくひすのこほれる涙今やとくらん
寛平御時きさいの宮の哥合の歌に
紀友則
同
0028 /<黄>花の香をかせのたよりにたくへてそうくひすさそふしるへにはやる
百首の哥奉ける時 藤原家隆朝臣」(3オ)
新
0029 谷河の打出る浪も声たてつ鶯さそへはるのやまかせ
雪の木にふりかゝれるをよめる 素性法師
古
0030 春たては花とやみらんしらゆきのかゝれる枝に鶯のなく
題しらす よみ人しらす
同
0031 梅かえに来居るうくひす春かけてなけともいまた雪は降りつゝ
和哥所にてをのことも歌つかうまつる次てに
院御製
新
0032 鶯のなけともいまた降雪に杉の葉しろきあふさかの山(関イ)
題しらす よみ人しらす
同
0033 \<朱>梅かえに鳴てうつろふ鶯のはね白妙に淡雪そふる
撰
0034 かきくらしゆきは降つゝしかすかにわか家の園に鶯そなく
俊綱朝臣家にて山家尋人といふ心を
藤原範永朝臣」(3ウ)
後
0035 /<黄>尋つるやとは霞にうつもれて谷のうくひす一声そする
贈太政大臣あひ別て後声を聞て(ある所にてその本集)
富小路右大臣母
撰
0036 鶯の鳴なる声はむかしにてわか身ひとつのあらすも有かな
題しらす 読人不知
古
0037 /<黄>百千鳥さえつる春は物ことにあらたまれとも我そふりゆく
同
0039 春日野はけふはなやきそ若草の妻もこもれりわれもこもれり
中納言家持
拾
0038 はるの野にあさる雉子の妻こひにをのかありかを人にしれつゝ
中納言広庭
同
0040 いにし年ねこして植しわかやとの若木の梅は花さきにけり
大納言扶幹
後撰
0041 植し時花みんとしもおもはぬに咲ちる見れは齢老にけり」(4オ)
よみ人しらす
撰
0042 我せこに見せむと思ひし梅はなそれとも見えす雪のふれゝは
拾古今
0043 梅花それとも見えす久かたのあまきる雪のなへてふれゝは
古
0044 折つれは袖こそ匂へ梅のはなありとやこゝに鶯のなく
撰
0045 うくひすの鳴つる声にさそはれて花のもとにそ我はきにける
素性法師
古
0046 よそにのみあはれとそみし梅花あかぬ色香は折て成けり
梅花を折て人に送侍ける 紀友則
同
0047 君ならて誰にか見せむ梅のはな色をも香をも知人そしる
月夜に人の梅の花をおらせけれは
躬恒
同
0048 月夜にはそれとも見えす梅花香をたつねてそしるへかりける
堀河院に百首哥奉る時 前中納言匡房」(4ウ)
千
0049 匂ひもてわかはそわかん梅花それとも見えぬ春のよの月
百首歌奉ける時 藤原家隆
新
0050 梅かゝにむかしをとへは春の月こたへぬかけそ袖にうつれる
百首哥めしける時 崇徳院御製
千
0051 はるの夜は吹まふ風のうつりかに木毎に梅とおもひけるかな
題しらす みつね
古
0052 春のよのやみはあやなし梅花色こそ見えね香やはかくるゝ
久しくまからさりける所にまかりて梅花を折て
貫之
古
0053 \<朱>人はいさ心もしらす故郷ははなそむかしの香に匂ひける
題しらす 西行法師
新
0054 とめこかし梅さかりなる我宿をうときも人は折にこそよれ
式子内親王」(5オ)
新
0055 なかめつるけふはむかしに成ぬとも軒端の梅よわれを忘るな
八条院高倉
同
0056 ひとりのみなかめてちりぬ梅花しる斗なる人はとひこて
水の辺に梅花咲たるをみて 伊勢
古
0057 はる毎になかるゝ河を花とみておられぬ水に袖やぬれ南
同
0058 としをへて花のかゝみとなる水はちりかゝるをやくもるといふ覧
梅花を つらゆき
同
0059 くるとあくとめかれぬ物を梅花いつの人まにうつろひぬらん
寛平の御時后宮の哥合に よみ人しらす
同
0060 梅かゝを袖にうつしてとゝめてははるはすくともかたみならまし
素性法師
同
0061 ちるとみてあるへき物を梅のはなうたてにほひの袖にとまれる
梅花を折て人につかはしける 権中納言定頼」(5ウ)
新
0062 こぬ人によそへて見つる梅のはなちりなん後のなくさめそなき
返し 大弐三位
同
0063 春ことにこゝろをしむる花の枝にたかなをさりの袖かふれつる
題しらす 西行法師
同
0064 \<朱>降つみし高根のみ雪とけにけり清瀧河の水のしら波
読人しらす
同
0065 今更に雪ふらめやもかけろふのもゆるはる日と成にし物を
万十
志貴皇子
同
0066 \<朱>岩そゝくたるひのうへのさはらひのもえ出る春に成にける哉
中納言行平
古
0067 \<朱>春のきる霞の衣ぬきをうすみ山かせにこそみたるへらなれ
寛平の御時后の宮の哥合に 源宗于朝臣
同
0068 ときはなる松のみとりも春くれは今一しほの色まさりけり」(6オ)
哥奉ける時 つらゆき
古
0069 我せこか衣はる雨ふることに野へのみとりそ色まさりける
千五百番歌合に 宮内卿
新
0070 うすくこき野へのみとりの若草にあとまて見ゆる雪の村消
堀河院に百首歌奉ける時 藤原基俊
千
0071 春雨の降そめしより片岡のすそのゝはらそ浅みとりなる
寛平の御時后の宮の哥合に 伊勢
新
0072 水の面にあやをりみたる春雨や山のみとりをなへて染らん
百首歌よみ侍けるに 殷富門院大輔
同
0073 春かせの霞吹とく絶間よりみたれてなひく青柳のいと
千五百番の哥合に 藤原雅経朝臣
同
0074 白雲のたえまになひく青柳のかつらき山に春かせそふく
題しらす 能因法師」(6ウ)
後
0075 心あらん人に見せはや津の国の難波わたりの春のけしきを
後京極摂政家百首歌合に春の明ほのを読侍ける
藤原家隆朝臣
新
0076 霞たつ末の松山ほの/\と浪にはなるゝよこ雲の空
不明不闇朧々月といふ心を 大江千里
同
0077 照もせすくもりもはてぬ春のよのおほろ月よにしく物そなき
人々春秋の哀いつれにか心引とあらそひ侍けるに
菅原孝標女
同
0078 浅みとり空もひとつにかすみつゝおほろに見ゆる春のよの月
百首歌奉ける時 源具親朝臣
同
0079 /<黄>難波かたかすまぬ浪もかすみけりうつるもくもる朧月夜に
後京極家百首哥合に 寂蓮法師
同
0080 /<黄>今はとてたのむの雁も打侘ぬおほろ月よの明ほのゝそら」(7オ)
帰雁をよみ侍ける 皇太后宮大夫俊成
新
0081 /<黄>聞人そ涙は落るかへる雁なきてゆくなるあけほのゝそら
俊頼朝臣
千
0082 春くれはたのむの雁も今はとてかへる雲路におもひたつなり
貫之
拾
0083 古郷の霞とひ分行雁はたひのそらにや春をくらさむ
読人不知
新
0084 故郷に帰る雁かねさよふけて雲路にまよふ声聞ゆなり
赤染衛門
後
0085 かへる雁雲ゐはるかになりぬ也またこん秋も遠しとおもへは(へは$ふに)
馬内侍
同
0086 とゝまらぬ心そ見えん帰る雁花のさかりを人にかたるな
百首哥奉ける時 式子内親王」(7ウ)
新
0087 いまさくら咲ぬと見えて薄くもり春にかすめる世のけしき哉
題しらす 読人不知
同
0088 ふしておもひ起てなかむる春雨に花の下紐いかにとくらん
中納言家持
同
0089 ゆかん人こん人しのへ春かすみ立田の山の初さくらはな
西行法師
同
0090 芳野山こそのしほ(ほ$お)りの道かへてまたみぬかたの花をたつねん
紀貫之
同
0091 わかこゝろはるの山辺にあくかれてなか/\し日をけふもくらしつ
僧正遍昭
撰
0092 /<黄>礒上ふるの山辺のさくらはなうへけん時をしる人そなき
素性法師
同
0093 山もりはいはゝいはなむ高砂の尾上のさくら折てかさゝむ」(8オ)
九十三首<朱>」(8ウ)
巻第二
春歌下
哥奉ける時 紀貫之
古
0094 \/<朱黄>桜はなさきにけらしな(もイ)足曳の山のかひより見ゆるしら雲
高陽院家哥合に 源俊頼朝臣
金
0095 \/<朱黄>山桜咲そめしよりひさかたの雲井に見ゆる瀧の白いと
前中納言匡房
詞
0096 白雲に見ゆるにしるしみよしのゝ吉野の山の花さかりかも
崇徳院に百首哥奉ける時 左京大夫顕輔
千
0097 /<黄>かつらきや高まの山のさくら花雲井のよそに見てやゝみ(過)南
後二条関白家にて望山花と云心を
前中納言匡房
後
0098 \/<朱黄>高砂の尾上のさくら咲にけり外山のかすみたゝすもあらなん」(9オ)
釈阿和哥所にて九十賀給はせける時屏風に
院御製
新
0099 \/<朱黄>桜さく遠山とりのしたり尾のなか/\し日もあかぬ色かな
花の哥とてよめる 西行法師
千
0100 \/<朱黄>をしなへて花のさかりになりにけり山のはことにかゝるしら雲
皇太后宮大夫俊成
同
0101 みよしのの花のさかりをけふみれはこしのしらねに春風そ吹
崇徳院に百首哥奉ける時 藤原清輔朝臣
同
0102 /<黄>神垣の三室の山ははる来てそはなのしらゆふかけて見えける
古郷の花といへる心を よみ人しらす
同
0103 さゝ浪や志賀の都はあれにしを昔なからの山さくらかな
題しらす 平城天皇御製
古
0104 故郷と成にしならの都にも色はかはらす花はさきけり」(9ウ)
紀友則
同
0105 色も香もおなし昔にさくらめと年ふる人そあらたまりける
忠仁公
同
0106 年ふれとよはひは老ぬしかはあれと花をしみれは物思ひもなし
赤人
新
0107 \/<朱黄>もゝしきの大宮人はいとまあれや桜かさして今日もくらしつ
業平朝臣
同
0108 花にあかぬ歎はいつもせしかともけふの今夜ににる時はなし
弥生にうるふ月有ける年読る 伊勢
古
0109 桜はなはるくはゝれるとしたにも人のこゝろにあかれやはする(せぬ)
山の花を望といへる心を 京極関白前太政大臣
新
0110 白雲のたなひく山のさくら花いつれを花と行ておらまし
祐子内親王家にて花の哥人々読侍けるに」(10オ)
権大納言長家
新
0111 花の色に天きるかすみ立まよひそらさへ匂ふ山さくらかな
題しらす 良岑宗貞
古
0112 花の色は霞にこめて見せすとも香をたにぬすめ春の山風
読人不知
拾
0113 浅みとり野への霞はつゝめともこほれて匂ふ花さくらかな
古
0114 春の色のいたりいたらぬ里はあらしさけるさかさる花のみゆらん
雲林院のみこのもとに花見に北山へ(に)まかれりける時
素性法師
同
0115 \<朱>いさけふははるの山辺にましりなんくれなはなけの花の陰かは
よみ人しらす
拾
0116 \/<朱黄>桜かり雨はふりきぬ同しくはぬるとも花のかけにかくれむ
素性法師」(10ウ)
古
0117 \<朱>おもふとち春の山辺に打むれてそこともしらぬ旅ねしてしか
後京極摂政家の哥合に野遊といふ心を
家隆朝臣
新
0118 思ふとちそこともしらす行暮ぬ花のやとかせ野へのうくひす
千五百番歌合に 皇太后宮大夫俊成
同
0119 幾とせの春に心をつくし来ぬあはれとおもへみよしのゝ花
題しらす 能因法師
後
0120 世間をおもひすてゝし身なれともこゝろよはしと花に見えぬる
百首哥に 式子内親王
新
0121 /<黄>はかなくて過にしかたをかそふれは花に物おもふ春そへにける
題しらす 小町
古
0122 \/<朱黄>花の色はうつりにけりないたつらにわか身世にふる詠せしまに
読人不知」(11オ)
古
0123 はることにはなのさかりはありなめとあひみん事は命也けり
同
0124 花のことよのつねならは過してし昔は又もかへりきなまし
在原元方
同
0125 霞たつはるの山へは遠けれと吹きくるかせは花の香そする
素性法師
同
0126 いつまてか野へにこゝろのあくかれん花しちらすは千世もへぬへし
よみ人しらす
同
0127 鶯の鳴野へことに来て見れはうつろふ花にかせそ吹ける
同
0128 駒なへていさ見にゆかん故郷は雪とのみこそ花はちるらめ
貫之
同
0129 梓弓はるの山辺をこえくれは道もさりあへす花そちりける
同
0130 はるのゝに若なつまんとこし物をちりかふ花に道はまとひぬ
同
0131 やとりしてはるの山辺にねたる夜は夢のうちにも花そ散ける」(11ウ)
躬恒
新
0132 いもやすくねられさりけり春の夜は花のちるのみ夢に見えつゝ
伊勢
同
0133 山桜ちりてみ雪にまかひなはいつれか花と春にとはなむ
一条院御時八重桜を奉れりけるを給はせて哥よめ
と仰られけれは
伊勢大輔
詞
0134 /<黄>いにしへのならの都の八重さくらけふ九重に匂ひぬるかな
題しらす よみ人しらす
新
0135 霞たつ春の山辺にさくら花あかすちるとやうくひすのなく
赤人
同
0136 春雨はいたくなふりそ桜花また見ぬ人にちらまくもおし
紀有友
古
0137 桜色に衣はふかく染てきむ花のちりなん後のかたみに」(12オ)
読人不知
拾
0138 さくら色に我身はふかく成ぬらん心にしめて花をおしめは
守覚法親王六十首哥よませ侍りけるに
家隆朝臣
新
0139 此程は知もしらぬも玉鉾のゆきかふ袖は花のかそする
後京極摂政家にて春の哥読侍ける
皇太后宮大夫俊成
同
0140 \/<朱黄>又や見むかた野のみ野のさくらかり花の雪ちる春の明ほの
題しらす 祝部成仲
同
0141 ちりちらすおほつかなきは春かすみたな引山の桜なりけり
読人不知
古
0142 春かすみたな引山のさくら花うつろはんとや色かはりゆく
同
0143 まてといふにちらてしとまる物ならは何をさくらに思ひまさまし」(12ウ)
同
0144 此さとに旅ねしぬへしさくら花ちりのまかひに家路わすれて
同
0145 空蝉のよにも似たるか花桜さくと見しまにかつちりにけり
僧正遍昭に読て送りける 惟喬親王
同
0146 桜花ちらはちらなむちらすとて古郷人のきても見なくに
桜花のちるをみて読る 素性法師
同
0147 花ちらす風のやとりは誰かしるわれにをしへよ行てうらみん
承均法師
同
0148 さくらちる花の所は春なから雪そふりつゝ消かてにする
心地わつらひける時風にあたらしとておろしこめて
侍けるにおれる桜の散をみて 藤原因香朝臣
同
0149 たれこめて春の行ゑもしらぬまに待し桜もうつろひにけり
朱雀院の桜のおもしろきよしをきゝて
大将御息所」(13オ)
撰
0150 咲さかす我になつけそ桜はな人つてにやはきかんとおもひし
花のちるを見て 友則
古
0151 \/<朱黄>久堅の光のとけき春の日にしつこゝろなく花のちるらん
題しらす 藤原興風
同
0152 いたつらに過る月日はおもほえて花みてくらす春そすくなき
藤原好風
同
0153 春かせは花のあたりをよきてふけこゝろつからやうつろふとみん
読人不知
同
0154 吹くかせにあつらへつくる物ならは此一もとはよきよといはまし
撰
0155 大空におほふ斗の袖もかな春さく花を風にまかせし
五十首哥奉ける時 宮内卿
新
0156 花さそふひらの山かせ吹にけり漕行舟の跡見ゆるまて
同
0157 あふさかや梢の花を吹からにあらしそかすむ関の杉むら」(13ウ)
百首哥奉ける時 讃岐
同
0158 山高み峯のあらしに散はなの月にあまきる明かたの空
千五百番歌合に 参議定家
同
0159 /<黄>桜色の庭のはるかせ跡もなしとはゝそ人の雪とたにみん
花の盛に久しくとはさりける人のまうてきて侍ける
に よみ人しらす
古
0160 /<黄>あたなりと名にこそたてれ桜はなとしに稀なる人も待けり
返し 在原業平朝臣
同
0161 けふこすはあすは雪とそ降なましきえすは有とも花とみましや
しのひて大内の花を御覧して後京極摂政の許に
つかはしける 院御製
新
0162 けふたにも庭をさかりとうつる花きえすは有とも雪かとも見よ
御返し 後京極摂政」(14オ)
新
0163 さそはれぬ人のためとや残りけんあすよりさきの花のしら雪
助信か母身まかりて後彼家に敦忠朝臣まかりて
花のちりける木の本に侍けれは
よみ人しらす
撰
0164 今よりは風にまかせんさくら花ちる木のもとに君とまりけり
返し 権中納言敦忠
同
0165 風にしも何かまかせむさくら花にほひあかぬにちるはうかりき
すみ侍けるめ院に参りにけれはあふ事も侍らさり
ける又のとし花の枝につけて 元良親王
同
0166 /<黄>花の色はむかしながらに見し人のこゝろのみこそうつろひにけれ
月のあかきよ花をみて 源信明
同
0167 /<黄>あたらよの月と花とを同しくはあはれしれらん人にみせはや
題しらす 躬恒」(14ウ)
古
0168 雪とのみふるたにあるをさくら花いかにちれとか風の吹らむ
読人不知
同
0169 桜はなちりぬる風の名残には水なき空に波そ立ける
大納言経信
新
0170 山深み杉のむら立見えぬまて尾上のかせに花のちるかな
左京大夫顕輔
同
0171 麓まてを尾上の桜ちりこすはたなひく雲とみてや過まし
西行法師
同
0172 /<黄>なかむとて花にもいたく馴ぬれはちる別こそかなしかりけれ
五十首哥奉し時 家隆朝臣
同
0173 桜はな夢かうつゝかしら雲のたえてつれなき峯の春かせ
千五百番哥合に 権大納言良平
同
0174 散花のわすれかたみの嶺の雲そをたにのこせ春の山かせ」(15オ)
落花のこゝろを 雅経朝臣
新
0175 花さそふ名残を雲に吹とめてしはしは匂へ春の山かせ
残春のこゝろを 後京極摂政
同
0176 よしの山花のふる郷跡たえてむなしき枝に春かせそ吹
百首の哥に 式子内親王
同
0177 花はちりその色となくなかむれはむなしき空に春雨そ降
題しらす 大納言経信
同
0178 故郷の花のさかりは過ぬれと俤さらぬ春のそらかな
堀河院に百首哥奉ける時 権中納言国信
千
0179 こよひねてつみてかへらん菫咲をのゝ芝生は露しけくとも
題しらす 貫之
古
0180 よしの河岸の山吹ふくかせに底のかけさへうつろひにけり
百首歌奉し時 家隆朝臣」(15ウ)
新
0181 吉野河きしの山吹さきにけりみねのさくらは散はてぬらん
皇太后宮大夫俊成
同
0182 駒とめていさ水かはん款冬の花の露そふ井手の玉河
題しらす よみ人しらす
古
0183 /<黄>今もかも咲にほふらん橘のこしまかさきの山ふきの花
原見王
新
0184 蛙鳴神南備河に影見えて今かさくらん款冬のはな
万八
家の藤花を人の立とまりて見侍りけれは
躬恒
古
0185 わか宿にさける藤波立かへり過かてにのみ人のみるらん
五十首哥奉ける時 寂蓮法師
新
0186 /<黄>暮てゆく春のみなとはしらねとも霞におつる宇治の柴舟
題しらす よみ人しらす」(16オ)
拾
0187 春霞たちわかれ行山みちは花こそぬさとちりまかひけれ
三月尽の心を 貫之
同
0188 風吹はかたもさためすちる花をいつかたへ行春とかはみむ
躬恒
古
0189 けふのみと春を思はぬ時たにもたつことやすき花の陰かは
百首哥奉ける時 後京極摂政
新
0190 \<朱>あすよりはしかの花園まれにたに誰かはとはん春のふるさと
弥生の晦日の日雨ふりけるに藤花を折て遣しける
業平朝臣
古
0191 ぬれつゝそしゐて折つる年の内に春はいく日もあらしと思へは
崇徳院御製
千
0192 花は根に鳥は古巣に帰る也春のとまりを知人そなき
三月尽皇太后宮大夫俊成もとにつかはしける」(16ウ)
法印静賢
同
0193 花は皆よものあらしにさそはれてひとりや春のけふは行らん
題しらす 業平朝臣
撰
0194 おしめとも春のかきりのけふの日の夕昏にさへ成にけるかな
百一首〈朱〉
拾十首〈青〉」(17オ)
(白紙)」(17ウ)
巻第三
夏
題しらす よみ人しらす 人丸
古
0195 /<黄>我やとの池の藤波さきにけり山ほとゝきすいつかきなかむ
源重之
撰
0196 花の色にそめし袂のおしけれは衣かへうきけふにも有哉
卯月にさける桜をみて 紀俊貞
古
0197 哀てふことをあまたにやらしとやはるにをくれて独さくらん
題しらす 持統天皇御製
新
0198 \/<朱黄>はる過て夏きにけらし白妙のころもほすてふあまのかく山
源順
拾
0199 吾宿の垣根や春をへたつらん夏来にけりとみゆる卯花
よみ人しらす」(18オ)
撰拾
0200 時わかすふれる雪かと見るまてに垣根もたはにさける卯花
相模
後拾
0201 \<朱>見渡は波のしからみかけてけり卯花さける玉河のさと
藤原元真
新
0202 夏草は茂りにけりな玉鉾の道ゆき人もむすふはかりに
曾禰好忠
同
0203 花ちりし庭の木葉も茂りあひて天照月の影そまれなる
読人不知
撰
0204 行かへる八十氏人の玉かつらかけてそたのむあふひてふなを
大納言経信
金
0205 玉かしは庭も葉ひろに成にけりこやゆふしてゝ神まつる比
曾禰好忠
後拾
0206 \/<朱黄>榊とる卯月になれは神山のならの葉かしはもとつはもなし」(18ウ)
読人不知
古
0207 五月待山ほとゝきす打はふき今もなかなん去年の古声
同
0208 /<黄>さつきまつ花たちはなの香をかけは昔の人の袖のかそする
同
0209 今朝きなきいまた旅なる郭公はなたち花に宿はからなん
同
0210 去年の夏鳴ふるしてし郭公それかあらぬか声のかはらぬ
天暦の御時内裏歌合に 平兼盛
拾
0211 太山出て夜半にやきつる時鳥暁かけて声のきこゆる
題しらす 壬生忠岑
古
0212 むかしへや今もこひしき郭公古郷にしも鳴て来つらん
修理大夫顕季
金
0213 深山いてゝまた里なれぬほとゝきす旅の空なる音をや鳴らん
大納言経信
新
0214 /<黄>早苗とる山田のかけ樋もりにけり引しめ縄に露そこほるゝ」(19オ)
曾禰好忠
後拾
0215 みたやもりけふは五月に成にけりいそけや早苗おひもこそすれ
和哥所にて入道皇太后宮大夫俊成九十賀給はせける
屏風に 後京極摂政
新古
0216 /<黄>小山田に引しめ縄の打はへて朽やしぬらん五月雨の比
題しらす 延喜御製
拾
0217 足曳の山ほとゝきすけふとてやあやめの草のねにたてゝ鳴
後京極摂政
新
0218 /<黄>打しめりあやめそかほる郭公なくや五月の雨の夕暮
よみ人しらす
拾
0219 \<朱>時鳥鳴や五月のみしか夜もひとりしぬれはあかしかねつも
祭主輔親
同
0220 足曳の山ほとゝきす里なれてたそかれ時になのりすらしも」(19ウ)
読人不知
古
0221 あし引の山ほとゝきすおりはへて誰かまさると音をのみそ鳴
大納言経信
新
0222 /<黄>三嶋江や入江のまこも雨ふれはいとゝしほれてかる人もなし
藤原基俊
同
0223 玉柏しけりにけりな五月雨に葉守の神のしめはふるまて
宇治関白太政大臣家哥合に 相模
後
0224 /<黄>五月雨は水のみまきのまこも草かりほす隙もあらしとそ思ふ
花橘をよみ侍ける 同
後拾
0225 さみたれの空なつかしく匂ふかな花立はなに風や吹らん
百首哥めしける時 崇徳院御製
千
0226 さみたれに花たちはなのかほる夜は月すむ秋もさもあらはあれ
題しらす 左近中将公衡」(20オ)
千
0227 折しもあれ花たちはなのかほるかなむかしを見つる夢の枕に
皇太后宮大夫俊成
新
0228 誰か又花橘におもひ出んわれもむかしの人となりなは
中納言俊忠家歌合に五月雨をよめる
藤原顕仲朝臣
金
0229 五月雨に水まさるらし沢田河まきのつき橋うきぬ斗に
崇徳院に百首哥奉ける時 皇太后宮大夫俊成
千
0230 \/<朱黄>さみたれはたくものけふり打しめりしほたれまさるすまの浦人
題しらす 参議定家
新
0231 /<黄>玉鉾の道行人の言つてもたえて程ふる五月雨のそら
延喜御時月次御屏風に 紀貫之
拾
0232 夏山の陰をしけみや玉ほこの道行人も立とまるらむ
拾
0233 五月山木の下やみにともす火は鹿の立とのしるへ也けり」(20ウ)
夏の歌の中に 前大僧正慈円
新
0234 鵜飼舟あはれとそみる武士の八十氏河の夕やみの空
源重之
後
0235 \/<朱黄>夏かりの玉江のあしをふみしたきむれゐる鳥の立空そなき
貫之
古
0236 夏の夜の臥かとすれは郭公なく一声にあくるしゝのめ
読人不知
同
0237 郭公なかなく里のあまたあれは猶うとまれぬ思ふ物から
同
0238 おもひ出るときはの山の時鳥からからくれなゐのふり出てそ鳴
同
0239 声はして涙は見えぬほとゝきす我衣手のひつをからなむ
撰
0240 旅ねして妻こひすらし郭公神なひ山にさよ更てなく
宇治前関白太政大臣
後
0241 /<黄>有明の月たにあれやほとゝきすたゝ一声の行かたも見む」(21オ)
後徳大寺左大臣
千
0242 時鳥鳴つるかたをなかむれはたゝ有明の月そのこれる
皇太后宮大夫俊成
同
0243 過ぬるか夜半のね覚のほとゝきす声は枕に有こゝちして
三国町
古
0244 やよやまて山ほとゝきすことつてんわれよの中に住侘ぬとよ
千里
同
0245 やとりせし花橘もかれなくになとほとゝきす声たえぬらん
閏五月郭公といふ心を 権中納言国信
新
0246 時鳥五月六月わきかねてやすらふ声そ空にきこゆる
題しらす よみ人しらす
0247 吾やとのかき根にうへし撫子は花にさかなんよそへつゝみん
俊頼朝臣」(21ウ)
金
0248 /<黄>此里も夕立しけり浅茅生に露のすからぬ草のはもなし
同
0249 /<黄>風吹けははすのうき葉に玉こえて涼しく成ぬ日くらしの声
僧正遍昭
古
0250 蓮葉のにこりにしまぬこゝろもて何かは露を玉とあさむく
基俊
金
0251 \/<朱黄>夏の夜は月待程の手すさみに岩もる清水幾結ひしつ
深養父
古
0252 \<朱>夏のよはまた宵なからあけぬるを雲のいつこに月やとるらん
曾禰好忠
後拾
0253 \/<朱黄>夏衣たつた河原の柳かけすゝみに来つゝならす比かな
源頼綱朝臣
同
0254 夏山のならの葉そよく夕くれはことしも秋のこゝちこそすれ
清輔朝臣」(22オ)
新古
0255 \<朱>をのつから涼しくもあるか夏衣日もゆふくれの雨の名残に
西行法師
同
0256 \/<朱黄>よられつる野もせの草のかけろひて涼しく曇る夕立の空
同
0257 \<朱>道のへに清水なかるゝ柳陰しはしとてこそ立とまりつれ
夏夜深養父琴をひくをきゝて 中納言兼輔
撰
0258 /<黄>みしか夜の更行まゝに高砂の峯の松かせ吹かとそきく
千五百番哥合に 宮内卿
新
0259 かた枝さすおふのうらなし初秋になりもならすも風そ身にしむ
百首歌奉ける時 後京極摂政
同
0260 秋ちかきけしきの森に鳴蝉のなみたの露や下葉染らん
題しらす 忠岑
同
0261 夏はつるあふきと秋のしら露といつれか先はをかんとすらん」(22ウ)
崇徳院に百首歌奉りける時
皇太后宮大夫俊成
千
0262 \<朱>いつとてもおしくやはあらぬ年月をみそきに捨る夏の暮哉
凡河内躬恒
古
0263 夏と秋と行かふ空のかよひちはかたへ涼しき風や吹らん
六十九首〈朱〉
拾六首〈青〉」(23オ)
(白紙)」(23ウ)
巻第四
秋歌上
秋立日よめる 藤原敏行朝臣
古
0264 /<黄>秋来ぬとめにはさやかに見えねとも風のをとにそおとろかれぬる
紀貫之
同
0265 /<黄>河かせの涼しくもあるか打よする浪とゝもにや秋は立らむ
題しらす 読人不知
同
0266 /<黄>わかせこか衣のすそを吹かえしうらめつらしき秋のはつかせ
同
0267 /<黄>昨日こそ早苗とりしかいつのまに稲葉そよきて秋かせそ吹
百首哥めしける時 崇徳院御製
新古
0268 いつしかと荻の葉むけのかたよりにそゝや秋とそ風も聞ゆる
藤原季通朝臣
同
0269 /<黄>このねぬるよのまに秋はきにけらし朝けのかせの昨日にもにぬ」(24オ)
題しらす よみ人しらす
後撰
0270 /<黄>うちつけに物そかなしき木葉ちる秋のはしめをけふそと思へは
家隆朝臣
新古
0271 /<黄>昨日たにとはんと思ひし津国の生田の森に秋は来にけり
よみ人しらす
古
0272 独ぬる床は草葉にあらねとも秋くるよひは露けかりけり
安法々師
拾
0273 /<黄>夏衣またひとへなるうたゝねに心してふけ秋の初かせ
恵慶法師
拾
0274 \/<朱黄>八重むくらしけれるやとのさひしきに人こそみえね秋は来にけり
後拾
0275 浅茅はら玉まく葛のうら風のうらかなしかる秋はきにけり
安貴王
拾
276
\<朱>秋たちていくかもあらねと此ねぬる朝けの風は袂すゝしも」(24ウ)
藤原為頼朝臣
後拾
0277 大かたの秋くるからに身にちかくならすあふきのかせそかはれる
百首の哥に 式子内親王
新古
0278 うたゝねの朝けの袖にかはる也ならすあふきの秋の初風
題しらす 侍従乳母
千
0279 秋たつと聞つるからにわか宿の荻の葉かせの吹かはるらん
崇徳院に百首哥奉ける時秋歌
皇太后宮大夫俊成
同
0280 八重むくらさしこもりにしよもきふにいかてか秋のわきてきつらん
題しらす 寂然法師
同
0281 \/<朱黄>秋は来ぬ年も半に過ぬとや荻ふくかせのおとろかすらん
大蔵卿行宗
同
0282 物ことに秋のけしきはしるけれと先身にしむは荻のうはかせ」(25オ)
崇徳院に百首歌奉ける時秋の歌
皇太后宮大夫俊成
新
0283 /<黄>荻の葉もちきりありてや秋かせの音信そむる妻と成らん
贈左大臣 長実
金
0284 真葛はふあたの大野の白露を吹なはらひそ荻のはつかせ
西行法師
新
0285 /<黄>をしなへて物をおもはぬ人にさへ心をつくる秋のうはかせ
同
0286 /<黄>あはれいかに草葉の露のこほるらん秋かせたちぬ宮城のゝ原
崇徳院に百首歌奉ける時 皇太后宮大夫俊成
同
0287 /<黄>みしふつきうへし山田にひたはへてまた袖ぬらす秋はきにけり
題しらす 大弐三位
同
0288 秋かせは吹むすへとも白つゆの乱れてをかぬ草のはそなき
好忠」(25ウ)
同
0289 朝ほらけ荻の上はの露見れはやゝはた寒し秋のはつかせ
小町
同
0290 /<黄>吹むすふ風はむかしの秋なからありしにもにぬ袖の露哉
よみ人しらす
古
0291 秋かせの吹にし日より久かたの天の河原にたゝぬ日はなし
同
0292 久かたの天の河原のわたし守君わたりなはかちかくしてよ
同
0293 天河紅葉をはしにわたせはやたなはたつめの秋をしもまつ
寛平御時后宮哥合のうた 躬恒
同
0294 たなはたにかしつる糸の打はへて年の緒なかくこひや渡らん
七夕の哥とて 清原元輔
拾
0295 銀河あふきの風に霧はれて空すみわたるかさゝきの橋
読人しらす
撰
0296 七夕のあまの戸わたるけふさへや遠かた人のつれなかるらん」(26オ)
皇太后宮大夫俊成
新
0297 織女のとわたる舟の梶のはにいく秋かきつ露の玉つさ
式子内親王
同
0298 なかむれは衣手涼し久かたの天のかはらの秋の夕霧
大納言隆季
千
0299 七夕の天つひれふく秋かせに八十の舟つを御舟出らし
俊頼朝臣
同
0300 織女の天の河原の岩枕かはしもはてす明ぬこの夜は
百首歌めしける時 崇徳院御製
同
0301 たなはたに花染衣ぬきかせはあかつき露のかへす成けり
七夕のこゝろを 斎宮女御
新
0302 わくらはにあまの河浪よるなから明る空にはまかせすもかな
題しらす 読人不知」(26ウ)
古
0303 /<黄>木間よりもりくる月の影見れは心つくしの秋はきにけり
上東門院小少将
新
0304 かはらしな知もしらぬも秋の夜の月まつほとのこゝろ斗は
式子内親王
同
0305 /<黄>詠わひぬ秋より外のやともかな野にもやまにも月やすむらん
千里
古
0306 \/<朱黄>月みれは千々に物こそかなしけれわか身ひとつの秋にはあらねと
壬生忠岑
同
0307 /<黄>久かたの月のかつらも秋はなをもみちすれはや照まさるらん
五十首歌奉ける時 後京極摂政
新
0308 古郷のもとあらの小萩咲しよりよな/\庭の月そうつろふ
権中納言俊忠かつらの家にて水上月と云心を 俊頼朝臣
千
0309 \/<朱黄>あすもこん野路の玉河萩こえて色なる波に月やとりけり」(27オ)
秋の歌の中に 家隆朝臣
新
0310 なかめつゝおもふも淋し久かたの月のみやこのあけかたのそら
後京極摂政
同
0311 月たにもなくさめかたき秋のよの心もしらぬ松のかせかな
題しらす 院御製
同
0312 秋の露や袂にいたくむすふらんなかき夜あかすやとる月影
二条院讃岐
同
0313 大かたの秋のね覚の露けくは又たか袖に有明の月
月の歌あまた読ける中に 法性寺入道前関白太政大臣
千
0314 \<朱>秋の月高根の雲のあなたにてはれゆく空のくるゝ待けり
堀河院に百首歌奉ける時 俊頼朝臣
同
0315 \/<朱黄>木枯の雲吹はらふ高根よりさえても月のすみのほるかな
崇徳院に百首歌奉ける時 左京大夫顕輔」(27ウ)
新
0316 \<朱>秋かせにたなひく雲の絶間よりもれいつる月の影のさやけさ
月の歌とてよめる 基俊
千
0317 山端にますみのかゝみかけたりと見ゆるは月のいつる也けり
権中納言長方
同
0318 \<朱>八百日行はまの真砂を敷かへて玉になしつる秋のよの月
清輔朝臣
同
0319 /<黄>更にけるわかよの秋そ哀なるかたふく月はまたもいてなん
俊頼朝臣
千
0320 \/<朱黄>照月の旅ねの床やしもとゆふかつらき山の谷河のみつ
読人不知
同
0321 \/<朱黄>白雲にはね打かはしとふかりの数さへ見ゆる秋のよの月
和哥所歌合に湖辺月と云心を 家隆朝臣
新
0322 鳰の海や月のひかりのうつろへは浪のはなにも秋は見えけり」(28オ)
題しらす 読人不知
古
0323 秋はきの下葉色つく今よりやひとりある人のいねかてにする
同
0324 \/<朱黄>鳴わたる雁のなみたやおちつらんものおもふ宿の萩の上の露
同
0325 萩の露玉にぬかんととれはけぬよし見ん人は枝なからみよ
同
0326 折て見はおちそしぬへき秋はきの枝もたはゝにをける白露
同
0327 \<朱>はきか花ちるらんをのゝ露霜にぬれてをゆかんさよは吹共
人丸
新
0328 あきはきのさきちる野への夕露にぬれつゝきませ夜は更ぬとも
中納言家持
同
0329 棹鹿のあさたつ小野の秋萩に玉とみるまてをけるしら露
範永朝臣
後
0330 今朝きつる野はらの露に我ぬれぬうつりやしぬる萩か花すり
よみ人しらす」(28ウ)
後撰
0331 \<朱>秋の田のかりほの庵のにほふまてさける秋はきみれとあかぬかも
天智天皇御製
同
0332 \/<朱黄>あきの田のかりほのいほのとまをあらみ我衣手は露にぬれつゝ
人丸
拾
0333 此比の暁つゆにわか宿のはきかした葉は色付にけり
万
崇徳院に百首歌奉ける時 清輔朝臣
新
0334 /<黄>うす霧のかきの花の朝しめり秋はゆふへと誰かいひけん
題しらす 和泉式部
千
0335 人もかな見せもきかせも萩か花さく夕かけの日くらしの声
守覚法親王五十首歌読せ侍けるに
法橋顕昭
新
0336 萩か花真袖にかけて高円の尾上の宮にひれふるやたれ
亭子院女郎花合に 三条右大臣」(29オ)
古
0337 秋ならて逢ことかたき女郎花天の河原に生ぬものゆへ
貫之
同
0338 誰秋にあらぬ物ゆへ女郎花なそ色に出てまたき移ふ
堀河院に百首歌奉ける時 大納言師頼
千
0339 露しけきあしたの原のをみなへし一枝おらん袖はぬるとも
題不知 貫之
古
0340 やとりせし人のかたみか藤はかまわすられかたき香に匂ひつゝ
素性法師
同
0341 ぬししらぬかこそにほへれ秋のゝにたかぬきかけし藤袴そも
人丸
新
0342 小男鹿の入野のすゝき初尾花いつしか妹か手枕にせむ
よみ人しらす
同
0343 小倉山ふもとの野への花すゝきほのかに見ゆる秋の夕暮」(29ウ)
百首哥に 式子内親王
同
0344 /<黄>花すゝきまた露ふかしほに出てなかめしとおもふ秋のさかりを
寛平御時后宮の哥合に 在原棟梁
古
0345 秋の野のくさのたもとか花すゝきほに出てまねく袖とみゆらん
題しらす 坂上是則
新
0346 うらかるゝ浅茅か原のかるかやのみたれて物をおもふ比かな
基俊
同
0347 /<黄>秋かせのやゝはたさむく吹なへに萩の上葉の音そかなしき
読人不知
古
0348 あきのゝに道もまとひぬ松むしの声する方に宿やからまし
藤原為頼朝臣
拾
0349 /<黄>おほつかないつこなるらん虫の音をたつねは草の露やみたれん
家隆朝臣」(30オ)
新
0350 \/<朱黄>むしのねもなかき夜あかぬ古郷に猶思ひそふ松風そふく
式子内親王
同
0351 /<黄>跡もなき庭の浅芽にむすほゝれ露の底なる松虫の声
読人しらす
古
0352 君しのふ草にやつるゝふるさとは松むしの音そかなしかりける
同
0353 日くらしの鳴つるなへに日はくれぬとおもふ山の影にそ有ける
同
0354 ひくらしのなく山里の夕くれはかせより外にとふ人もなし
菅贈太政大臣
新
0355 /<黄>草葉には玉と見えつゝ侘人の袖のなみたの秋のしら露
中納言家持
同
0356 吾宿の尾花か末にしら露のをきし日よりそ秋かせも吹
人麿
新
0357 秋されはをく白露にわかやとのあさちか上葉色付にけり」(30ウ)
院御製
同
0358 露はそてに物おもふ比はさそなをく必あきのならひならねと
同
0359 野原より露のゆかりをたすね来てわか衣手に秋かせそ吹
文屋朝康
撰
0360 \/<朱黄>白露にかせの吹しく秋のゝはつらぬきとめぬ玉そ散ける
前大僧正慈円
千
0361 /<黄>くさ木まて秋のあはれをしのへとや野にも山にも露こほるらん
清輔朝臣
同
0362 \/<朱黄>立田姫かさしの玉のをゝよはみみたれにけりと見ゆる白露
素性法師
古
0363 \/<朱黄>われのみやあはれとおもはん蛩なく夕かけの山となてしこ
よみ人しらす
同
0354 みとりなるひとつ草とそ春はみし秋は色々の花にそありける」(31オ)
古秋上
0365 \<朱>月草にころもはすらん朝露にぬれての後はうつろひぬとも
拾雑上
僧正遍昭
古
0366 里はあれて人はふりにし宿なれや庭もまかきも秋のゝらなる
百三首〈朱〉」(31ウ)
巻第五
秋歌下
是貞のみこの家の歌合に 紀友則
古
0367 秋かせにはつかりかねそきこゆなるたか玉つさをかけてきつらん
題しらす 読人不知
同
0368 わか門にいなおほせ鳥のなくなへに今朝ふく風に雁はきにけり
同
0369 いとはやも鳴ぬる雁かしら露の色とる木ゝも紅葉あへなくに
同
0370 はるかすみかすみていにし雁金はいまそなくなる秋きりの上に
同
0371 夜をさむみ衣かりかねなくなへに萩の下葉もうつろひにけり
人丸
新
0372 垣ほなる荻の葉そよき秋かせの吹なるなへに雁そ鳴なる
同
0373 秋かせに山とひこゆる雁かねのいやとをさかり雲かくれつゝ
西行法師」(32オ)
新
0374 \<朱>よこ雲の風にわかるゝしのゝめに山とひこゆるはつ雁の声
同
0375 \<朱>しらくもをつはさにかけて行雁の門田の面の友したふなる
俊成卿女
同
0376 吹まよふ雲井をわたる雁かねのつはさにならす四方の秋風
伊勢大輔
後拾
0377 小夜ふかく旅のそらにて鳴雁はをのか羽かせや夜さむ成らん
よみ人しらす
撰
0378 \/<朱黄>秋かせにさそわれわたる雁かねはものおもふ人の宿をよかなん
人丸
新
0379 秋されは雁のはかせに霜ふりてさむきよな/\時雨さへふる
藤原輔尹朝臣
同
0380 秋かせは身にしむ斗吹にけり今やうつらんいもかさころも
雅経朝臣」(32ウ)
同
0381 \/<朱黄>みよし野の山の秋かせさ夜ふけて古郷さむく衣うつなり
大納言経信
同
0382 ふるさとに衣うつとは行雁やたひのそらにも鳴て告らん
貫之
同
0383 雁なきて吹かせさむみから衣君まちかてにうたぬ夜そなき
式子内親王
同
0384 \/<朱黄>千たひうつきぬたの音に夢さめて物おもふ袖の露そくたくる
和歌所歌合に月下擣衣といふ心を
宮内卿
同
0385 まとろまてなかめよとてのすさみ哉あさの小衣月にうつ声
堀河院に百首歌奉ける時擣衣のこゝろを
俊頼朝臣
千
0386 \/<朱黄>松かせの音たに秋はさひしきに衣うつなり玉河のさと」(33オ)
基俊
千
0387 たか為にいかにうてはかから衣千度八千たひ声のうらむる
題しらす 曾禰好忠
新
0388 /<黄>山さとにきりのまかきのへたてすは遠かた人の袖もみてまし
大納言経信母
後拾
0389 明ぬるか河瀬の霧のたえ/\に遠方人の袖のみゆるは
権中納言定頼
千
0390 朝ほらけ宇治の河霧たえ/\にあらはれわたる瀬々の網代木
深養父
拾
0391 河きりの麓をこめて立ぬれは空にそ秋の山はみえける
寂蓮法師
新
0392 \/<朱黄>村雨の露もまたひぬ槙のはに霧立のほる秋の夕くれ
よみ人不知」(33ウ)
古
0393 /<黄>きりたちて雁そなくなる片岡のあしたの原は紅葉しぬらん
同
0394 神無月時雨もいまたふらなくにかねてうつろふ神南備の森
覚盛法師
千
0395 秋といへは岩田のをのゝ柞原時雨もまたす紅葉しにけり
紀淑望
古秋下
0396 紅葉せぬときはの山はふくかせの音にや秋をきゝわたるらん
拾雑
よみ人しらす
古秋下
0397 いつはとは時はわかねと秋の夜そものおもふことの限り也ける
拾雑$
大弐三位
千
0398 \/<朱黄>はるかなるもろこしまても行物は秋のねさめのこゝろ也けり
崇徳院に百首歌奉ける時 藤原季通朝臣
同
0399 秋のよは松をはらはぬ風たにもかなしきことの音をたてすやは
読人不知」(34オ)
古
0400 秋かせの吹とふきぬる武蔵野はなへて草葉の色かはりけり
基俊
千
0401 秋にあへすさこそは葛の色つかめあなうらめしの風のけしきや
田家秋風と云心を読侍ける 大納言経信
金
0402 \/<朱黄>夕されは門田の稲葉音つれてあしの丸やに秋風そふく
崇徳院に百首歌奉ける時 皇太后宮大夫俊成
千
0403 \/<朱黄>夕されは野への秋かせ身にしみてうすら鳴也深くさのさと
堀河院御時上のをのことも題をさくりて哥奉けるに
薄をとりて読侍ける 俊頼朝臣
金
0404 \/<朱黄>うつらなくまのゝ入江のはまかせに尾花波よる秋の夕くれ
題しらす 良暹法師
後
0405 \/<朱黄>淋しさにやとを立いてゝ詠れはいつくもおなし秋の夕暮
寂蓮法師」(34ウ)
新
0406 \/<朱黄>さひしさはその色としもなかりけり槙立山の秋の夕くれ
式子内親王
同
0407 \/<朱黄>それなから昔にもあらぬ秋かせにいとゝ詠をしつのをた巻
和泉式部
同
0408 /<黄>秋くれはときはの山の松かせもうつる斗に身にそしみける
基俊
同
0409 /<黄>高円の野路の篠原末さはきそゝや木からしけふ吹ぬなり
文屋康秀
古
0410 \/<朱黄>吹からに秋の草木のしほるれはむへ山かせをあらしといふらん
同
0411 草も木も色かはれともわたつ海の波の花にそ秋なかりける
百首歌奉ける時 寂蓮法師
新
0412 \/<朱黄>野分せし小野の草伏あれはてゝ太山にふかき小男鹿の声
鹿の哥とて読侍ける 俊恵法師」(35オ)
新
0413 /<黄>あらし吹まくすか原になく鹿はうらみてのみや妻をこふらん
後京極摂政
同
0414 /<黄>たくへ来る松のあらしやたゆむらんをのへに帰る小男鹿の声
寂蓮法師
千
0415 尾上より門田にかよふ秋風にいなはをわたる棹鹿の声
読人不知
拾
0416 秋かせのうち吹(吹こそイ)ことに高砂の尾上の鹿のなかぬ日そなき
堀河院に百首歌奉ける時 権中納言公実
千
0417 杣かたに道やまとへる小男鹿の妻とふ声のしけくもあるかな
人丸
新
0418 \/<朱黄>棹鹿のつまとふ山の岡辺なるわさ田はからし霜はをくとも
大中臣能宣朝臣
拾
0419 /<黄>紅葉せぬときはの山にすむ鹿はをのれ鳴てや秋を知るらん」(35ウ)
祐子内親王家にて鹿の歌とてよみ侍ける
権中納言長家
新
0420 過て行く秋のかたみに棹鹿のをのか鳴ねもおしくや有らん
和歌所にておのことも歌つかうまつりけるに夕鹿と云心を
家隆朝臣
同
0421 /<黄>下紅葉かつちる山の夕しくれぬれてや鹿のひとり鳴らん
題しらす 読人不知
古
0422 \/<朱黄>奥山にもみちふみ分なく鹿の声きく時そ秋はかなしき
同
0423 あき萩にうらひれをれは足曳の山したとよみ鹿の鳴らん
敏行朝臣
同
0424 /<黄>秋はきの花さきにけり高砂の尾上の鹿は今やなくらん
三条の后の宮の裳き侍ける屏風に九月九日書たる所を
元輔」(36オ)
拾
0425 我やとのきくのしら露けふことにいく世つもりて淵と成らむ
題しらす 躬恒
同
0426 長月のこゝぬかことにつむ菊の花もかひなく老にけるかな
人の前裁に菊にむすひ付てうへける哥
業平朝臣
古
0427 うへし栽は秋なき時やさかさらん花こそちらめ根さへかれめや
是貞のみこの家の哥合に 友則
同
0428 露なから折てかさゝん菊のはな老せぬ秋のひさしかるへく
寛平御時菊の花をよませ給ふけるに
敏行朝臣
同
0429 久かたの雲のうへにて見る菊は天つほしとそあやまたれける
寛平の御時后の宮の哥合の歌 千里
0430 植しとき花まちとをに有しきくうつろふ秋にあはんとやみし」(36ウ)
たいしらす 友則
同
0431 花見つゝ人まつときは白妙の袖かとのみそあやまたれける
寛平御時菊合に吹上浜菊 菅贈太政大臣
同
0432 \<朱>秋風の吹上にたてるしら菊は花かあらぬか浪のよするか
上東門院菊合に 伊勢大輔
後
0433 めもかれす見つゝくらさん白きくの花より後の花しなけれは
菊の哥とて読る 家隆朝臣
千
0434 さえわたる光を霜にまかへてや月にうつろふしら菊のはな
躬恒
古
0435 \/<朱黄>心あてにおらはやおらん初霜のをきまとはせる白きくの花
五十首歌奉ける時菊籬月といふこゝろを
宮内卿
新
0436 \/<朱黄>霜をまつまかきの菊のよひの間にをきまよふ色は山端の月」(37オ)
百首歌奉ける時 参議定家
新
0437 \/<朱黄>独ぬる山鳥の尾のしたりおに霜をきまよふ床の月影
後京極摂政家にて月の歌読侍けるに
寂蓮法師
同
0438 ひとめみし野へのけしきはうら枯て露のよすかにやとる月影
題しらす 式子内親王
千
0439 /<黄>草も木も秋の末葉は見え行に月こそ色もかはらさりけれ
千五百番歌合に 権大納言通光
新
0440 入日さす麓の尾花打なひきたか秋かせにうつら鳴らん
百首歌奉ける時 後京極摂政
同
0441 \/<朱黄>きり/\す鳴や霜よのさむしろに衣かたしき独かもねむ
後京極摂政家にて百首歌読侍けるに
寂蓮法師」(37ウ)
同
0442 \/<朱黄>かさゝきの雲のかけはし秋くれて夜半にや霜のさえわたるらん
題しらす 忠岑
古賀
0443 千鳥なくさほの河霧立ぬらし山の木の葉の色かは(まさ)りゆく
拾秋
好忠
拾
0444 神なひの三室の山をけふみれは下くさかけて色付にけり
よみ人しらす
古
0445 千早振神なひ山のもみち葉におもひはかけしうつろふ物を
忠岑
同
0446 /<黄>秋のよの露をはつゆと置なから雁のなみたや野へを染らん
貫之
同
0447 \/<朱黄>白露も時雨もいたくもる山は下葉のこらす色付にけり
同
0448 \<朱>ちはやふる神のいかきにはふ葛も秋にはあへすうつろひにけり
読人しらす」(38オ)
古
0449 ちらねともかねてそおしき紅葉ゝは今はかきりの色とみつれは
崇徳院に百首歌奉ける時 左京大夫顕輔
千
0450 山姫に千へのにしきを手向てもちる紅葉ゝをいかゝとゝめむ
題しらす 八条院高倉
新
0451 神なひの三室の梢いかならんなへての山も紅葉するころ
後京極摂政家百首歌合 参議定家
同
0452 \<黄>時わかぬ浪さへ色にいつみ河はゝその森にあらし吹らし
障子の絵に荒たる宿のもみちを
俊頼朝臣
同
0453 ふるさとはちる紅葉ゝにうつもれて軒の忍ふに秋風そ吹
百首歌に 式子内親王
同
0454 \<朱>桐の葉もふみ分かたく成にけりかならす人を待となけれと
崇徳院に百首歌奉ける時 前参議親隆」(38ウ)
同
0455 うつらなくかた野にたてるはし紅葉ちりぬ斗に秋かせそ吹
百首歌奉ける時 二条院讃岐
同
0456 ちりかゝる紅葉の色はふかけれとわたれはにこる山河の水
秋の歌あまた読侍ける中に 権中納言長方
同
0457 飛鳥河せゝに波よるくれなゐやかつらき山の木からしのかせ
題しらす 文武天皇御製
古
0458 \/<朱黄>龍田河もみちみたれてなかるめりわたらは錦中や絶なむ
人丸
同
0459 \/<朱黄>立田河もみち葉なかる神なひの三室の山に時雨ふるらし
よみ人しらす
同
0460 こひしくは見てもしのはむ紅葉ゝをふきなちらしそ山颪のかせ
同
0461 \/<朱黄>秋は来ぬもみちはやとにふりしきぬ道ふみ分てとふ人もなし
同
0462 踏分てさらにやとはん紅葉ゝのふりかくしてし道と見なから」(39オ)
藤原関雄
古
0463 /<黄>霜のたて露のぬきこそよはからし山の錦のおれはかつちる
雲林院の木陰にたゝすみて読侍ける
僧正遍昭
同
0464 \<朱>わひ人のわきて立よる木のもとはたのむ陰なく紅葉散けり
題しらす 業平朝臣
同
0465 \<朱>千早振神代もきかす龍田河から紅に水くゝるとは
敏行朝臣
同
0466 わかきつるかたもしられすくらふ山木ゝのこのはの散とまかふに
志賀の山越にて読る 春道列樹
同
0467 \<朱>山河にかせのかけたるしからみはなかれもあへぬ栬なりけり
北山に僧正遍昭とたけかりにまかりけるによめる
素性法師」(39ウ)
同
0468 紅葉ゝは袖にこき入てもて出なん秋はかきりと見ん人の為
堀河院に百首歌奉ける時 俊頼朝臣
千
0469 秋の田にもみちゝりける山さとをこともをろかにおもひける哉
百首歌奉ける時 宮内卿
新
0470 龍田河あらしや峯によはるらんわたらぬ水も錦たえけり
千五百番哥合に 家隆朝臣
同
0471 露時雨もる山陰の下紅葉ぬるともおらん秋のかたみに
長月の比水無瀬に侍て山里なる人の返事に遣しける
権大納言公経
同
0472 もみち葉をさこそあらしのはらふらめ此山本も雨とふる也
百首歌めしける時に 崇徳院御製
千
0473 紅葉ゝのちり行かたをたつぬれは秋もあらしの声のみそする
花園左大臣家小大進」(40オ)
千
0474 今夜まて秋はかきりとさためける神代も更にうらめしき哉
長月の晦日の日大井河にてよみ侍ける
紀貫之
古
0475 夕月夜をくらの山に鳴鹿の声のうちにや秋はくるらん
百九首」(40ウ)
巻第六
冬歌
題しらす
読人不知
撰
0476 /<黄>神無月ふりみふらすみさためなき時雨そ冬の初成ける
天暦御時神無月と云ことを上に置て哥つかうまつりける
藤原高光
新
0477 /<黄>神無月風にもみちのちる時はそこはかとなく物そ悲しき
題しらす 読人不知
古
0478 龍田河にしきをりかく神無月しくれのあめをたてぬきにして
拾
0479 かみな月時雨とゝもに神南備のもりの木葉はふりにこそふれ
能因法師
後拾
0480 あらし吹三室の山の紅葉ゝは立田の河のにしき也けり
俊恵法師」(41オ)
千
0481 けふみれは嵐の山は大井河もみち吹おろす名にこそ有けれ
亭子院大井川におはしましける御もとにつかうまつりて
貞信公
拾
0482 \<朱>小倉山峯のもみち葉心あらは今一たひの御幸またなむ
承保三年十月大井河に御幸せさせ給ひけるに
白川院御製
後拾
0483 /<黄>大井河ふるきなかれをたつねきてあらしの山の紅葉をそみる
後冷泉院御時殿上のをのことも大井河にまかりけるに
藤原資宗朝臣
新古
0484 筏士よまてことゝはん水上はいかはかり吹山のあらしそ
大納言経信
同
0485 /<黄>ちりかゝるもみちなかれぬ大井河いつれいせきの水のしからみ
題しらす 源信明朝臣」(41ウ)
同
0486 \/<朱黄>ほの/\と有明の月のつきかけに紅葉吹おろす山颪のかせ
前大僧正慈円
同
0487 もみち葉はをのか染たる色そかしよそけにをける今朝の霜哉
百首歌召しける時 崇徳院御製
千
0488 隙もなく散もみちはにうつもれて庭のけしきも冬籠けり
たいしらす 和泉式部
同
0489 \<朱>外山吹あらしの風の音きけはまたきに冬の奥そしらるゝ
散残したる紅葉をみて 僧正遍昭
拾
0490 からにしき枝に一むらのこれるは秋のかたみをたゝぬ也けり
五十首歌奉ける時 宮内卿
新
0491 からにしき秋のかたみやたつた山ちりあへぬ枝にあらし吹也
雅経朝臣
同
0492 秋の色をはらひはてゝや久かたの月のかつらに木からしの風」(42オ)
たいしらす 読人不知
撰
0493 千早ふる神かき山の榊葉はしくれに色もかはらさりけり
藤原兼房朝臣
後拾
0494 あはれにも絶す音するしくれかなとふへき人もとはぬす栖を(にイ)
崇徳院に百首歌奉ける 皇太后宮大夫俊成
千
0495 \<朱>まはらなるまきの板やに音はしてもらぬ時雨や木葉成らん
時雨を読侍ける 従三位頼政
同
0496 山めくる雲のしたにや成らんすそのゝはらに時雨ふる也
道因法師
同
0497 あらし吹ひらのたかねのねわたしにあはれしくるゝ神無月哉
堀河院に百首歌奉ける時 権中納言国信
同
0498 深山辺のしくれてわたる数ことにかことかましき玉かはしはかな
題しらす 西行法師」(42ウ)
新
0499 \/<朱黄>月を待高根のくもははれにけりこゝろあるへき初しくれかな
能因法師
同
0500 時雨のあめ染かねてけり山しろのときはの森の槙の下葉は
前大僧正慈円
同
0501 \<朱>やよしくれものおもふ袖のなかりせは木葉のゝちに何を染まし
をのことも冬の(+哥)つかうまつるつゐてに
院御製
同
0502 \<朱>深みとりあらそひかねていかならんまなく時雨の布留の神杉
たいしらす 人麿
新<朱>
0503 時雨の雨まなくしふれは槙の葉もあらそひかねて色付にけり
西行法師
同
0504 \/<朱黄>秋篠や外山の里やしくるらん伊こまのたけに雲のかゝれる
千五百番歌合に 二条院讃岐」(43オ)
新<朱>
0505 世にふるはくるしき物を槙の屋にやすくも過る初時雨哉
題しらす 赤染衛門
詞
0506 神無月有明の空のしくるゝを又われならぬ人やみるらん
四条太皇太后宮越前
後拾
0507 \<朱>山里の賤の松かき隙をあらみいたくな吹そ木からしの風
宗于朝臣
古
0508 \/<朱黄>山さとは冬そ淋しさまさりける人めも草もかれぬとおもへは
百首歌中に 重之
拾
0509 芦の葉にかくれてすみし津の国のこやもあらはに冬はきにけり
題しらす 和泉式部
後拾
0510 \/<朱黄>さひしさに煙をたにもたしとて柴折くふる冬の山里
殷富門院大輔
新
0511 我門のかり田のねやにふす鴫の床あらはなる冬のよの月」(43ウ)
清輔朝臣
同
0512 \/<朱黄>冬枯の森の朽葉の霜のうへに落たる月の影のさやけさ
崇徳院に百首歌奉ける時 関
同
0514 \/<朱黄>君こすは独やねなん篠のはのみ山もそよにさやく霜よを
百首歌奉りける時 後京極摂政
同
0513 \/<朱黄>さゝの葉は太山もさやに打そよき氷れる霜を吹あらし哉
題しらす 俊成卿女
同
0515 \<朱>霜かれはそことも見えす草の原誰にとはまし秋の名残を
前大僧正慈円
同
0516 \<朱>霜さゆる山田のくろのむらすゝきかる人なしに残る比かな
曾禰好忠
同
0517 \<朱>草のうへにこゝら玉しく白露を下葉の霜とむすふ冬哉
中納言家持」(44オ)
新
0518 \<朱>鵲のわたせるはしにをく霜の白きをみれは夜そ更にける
和泉式部
同
0519 野へ見れは尾花かもとのおもひ草かれ行冬に成そしにける
康資王母
同
0520 東路の道の冬草しけりあひて跡たに見えぬ忘水かな
恒徳公家御屏風に 元輔
拾
0521 /<黄>高砂の松にすむ鶴冬くれは尾上の霜や置まさるらん
堀河院に百首歌奉ける時 前中納言匡房
千
0522 高砂の尾上のかねの音すなりあかつきかけて霜や置らむ
基俊
同
0523 しもさえてかれれ行をのゝおかへなるならのひろはに時雨ふる也
神楽を読侍ける 権中納言師時
金
0524 神なひの御室の山に霜ふれはゆふしてかけぬ榊葉そなき」(44ウ)
題しらす 大納言公任
拾
0525 霜をかぬ袖たにさゆる冬の夜は鴨の上毛をおもひこそやれ
曾禰好忠
同
0526 鳰とりの氷のせきにとちられて玉藻の宿をかれやしぬらん
深山霰と云心を読侍ける
前中納言匡房
金
0527 箸鷹のしらふに色やまかふらんとかへる山に霰ふるなり
鷹狩の心を 藤原長能
詞
0528 \/<朱黄>あられふる交野のみ野のかり衣ぬれぬやとかす人しなけれは
源道済
金
0529 \/<朱黄>ぬれ/\も猶かりゆかんはしたかの上毛の雪を打はらひつゝ
堀河院に百首歌奉ける時 藤原仲実朝臣
千
0530 やかたをのましろの鷹を引すへてうたのと立を狩くらしつる
題しらす 和泉式部」(45オ)
詞恋下
0531 竹の葉にあられふる夜はさら/\にひとりはぬへき心ちこそせね
貫之
拾
0532 \/<朱黄>おもひかね妹かりゆけは冬のよの河かせさむみ千とり鳴なり
関路千鳥といふ心をよめる 源兼昌
金
0533 /<黄>淡路しまかよふ千とりの鳴声にいくよねさめぬ須磨の関守
永承四年内裏哥合に 相模
後
0534 難波かたあさみつしほにたつ千鳥浦つたひする声聞ゆ也
千鳥をよみ侍ける 後徳大寺左大臣
新
0535 /<黄>夕なきにとわたるちとり波間より見ゆる小嶋の雲に消ぬる
皇太后宮大夫俊成
千
0536 \/<朱黄>須磨の関有明のそらに鳴千とりかたふく月はなれもかなしや
大中臣能宣朝臣
拾雑
0537 あかつきのねさめの千とりたか為か佐保の河原に百千反鳴」(45ウ)
題しらす 快覚法師
後
0538 /<黄>小夜更るまゝに汀やこほるらんとをさかり行志賀の浦波
後京極摂政
新古
0539 消かへり岩まにまよふ水の泡のしはしやとかる薄氷哉
百首歌奉けるに 同
同
0540 \/<朱黄>かたしきの袖の氷もむすほゝれとけてねぬよの夢そ短き
最勝四天王院障子に宇治河書たる所
院御製
同
0541 橋姫のかたしき衣さむしろに待よむなしき宇治の明ほの
後京極摂政家歌合に湖上冬月
家隆朝臣
同
0542 \/<朱黄>志賀の浦やとをさかり行波間よりこほりて出る有明の月
題しらす 読人不知」(46オ)
撰
0543 /<黄>おもひつゝねなくにあくる冬のよの袖のこほりはとけすも有哉
古
0544 大空の月の光し清けれはかけみし水そ先こほりける
恵慶法師
拾
0545 /<黄>天原空さへさえやわたるらむこほると見ゆる冬のよの月
永承四年内裏哥合に 相摸
後
0546 /<黄>都にも初雪ふれは小野山の槙のすみかまたきまさるらん
題しらす 人丸
新
0547 \<朱>矢田の野に浅茅色つくあちら有乳山峯の泡雪寒くそあるらし
権中納言長方
同
0548 初雪のふるの神杉埋れてしめゆふ野へは冬こもりせり
百首歌に 式子内親王
同
0549 小筵の夜半の衣手さえ/\て初雪しろし岡のへの松
題しらす よみ人しらす」(46ウ)
古
0550 夕されは衣手さむしみよしのゝよし野ゝ山にみ雪ふるらし
同
0551 古里はよしのゝ山しちかけれはひとひもみ雪ふらぬ日はなし
同
0552 わかやとは雪ふりしきて道もなしふみ分てとふ人しなけれは
同
0553 今よりはつきてふらなんわかやとのすゝきをしなみふれる白雪
紀貫之
同
0554 雪ふれは冬こもりせる草も木も春にしられぬ花そ咲ける
坂上是則
同
0555 みよしのゝ山の白雪つもるらし古郷さむく成まさる也
東三条入道摂政家の屏風に 平兼盛
拾
0556 見渡せは松のはしろきよしの山いく世つもれる雪にか有らん
題しらす 深養父
古
0557 冬なから空より花のちりくるは雲のあなたは春にや有らん
坂上是則」(47オ)
古
0558 朝ほらけ有明の月と見るまてに吉野の里にふれる白雪
よみ人しらす
同
0559 けぬかうへに又もふりしけはる霞たちなはみ雪稀にこそみめ
友則
同
0560 雪ふれは木毎に花そ咲にけるいつれを梅と分ておらまし
高陽院家歌合に 二条太皇大后宮摂津
金
0561 降雪に杉の青葉も埋れてしるしも見えぬ三輪の山本
家に百首歌読侍けるに 後法性寺入道関白太政大臣
新
0562 ふる雪にたくもの煙かきたえて淋しくも有か塩かまの浦
題しらす 赤人
同
0563 田子の浦に打いてゝ見れは白妙のふしの高嶺に雪は降りつゝ
百首歌奉ける時 参議定家
同
0564 \/<朱黄>駒とめて袖打はらふかけもなしさのゝわたりの雪の夕暮」(47ウ)
後京極摂政家にて山家雪といふ心を
同
0565 /<黄>待人の麓のみちや絶ぬらん軒端の杉に雪をもるなり
守覚法親王の五十首哥に 皇太后宮大夫俊成
同
0566 \/<朱黄>雪ふれは峯のまさかきうつもれて月にみかける天のかく山
右大将定国四十賀し侍ける屏風に
貫之
古賀
0567 \/<朱黄>しら雪の降りしく時はみよしのゝ山下かせに花そちりける
拾冬
源道済
後
0568 あさほらけ雪ふる空を見わたせはやまのはことに月そ残れる
源頼家朝臣
同
0569 山さとは雪こそふかく成にけれとはても年の昏にける哉
よみ人しらす
0570 雪ふりて年のくれぬる時にこそつゐにもみちぬ松も見えけれ」(48オ)
百首歌めしける時 院御製
新
0571 此ころは花ももみちも枝になししはしなきえそ松の白雪
年のはてに読侍ける 春道列樹
古
0572 /<黄>昨日といひけふとくらしてあすか河なかれてはやき月日也けり
年のはてに人に遣しける 西行法師
新
0573 をのつから岩ね(岩ね#いはぬ<朱>)をしたふ人やありとやすらふ程に年の昏ぬる
百首歌奉ける時 太皇太后宮小侍従
同
0574 おもひやれ八十の年の暮なれはいか斗かは物はかなしき
西行法師
同
0575 \<朱>むかしおもふ庭にうき木をつみ置て見し世にも似ぬ年の暮哉
後京極摂政
同
0576 \<朱>磯上ふるのゝ小篠霜をへて一夜はかりに残るとしかな
入道左大臣 実房公也」(48ウ)
同
0577 いそかれぬ年のくれこそあはれなれ昔はよそに聞し春かは
年の暮の心を 後徳大寺左大臣
同
0578 /<黄>石はしるはつせの河の波枕はやくも年のくれにけるかな
権中納言国信
金
0579 /<黄>何事を待ともなしに明くれてことしもけふに成にける哉
斎院屏風にしはす晦日の夜 平兼盛
拾
0580 /<黄>かそふれは我身につもる年月を送りむかふと何いそくらん
百五首」(49オ)
巻第七
賀哥
みつきものゆるされて国とめるを御覧して
仁徳天皇御製
新
0581 \<朱>高き屋にのほりて見れは煙たつ民のかまとはにきはひにけり
大歌所のうた
古
0582 あたらしきとしのはしめにかくしこそ千年をかねてたのしきをつめ
題しらす 読人不知
新
0583 /<黄>初はるのはつねのけふの玉はゝき手にとるからにゆらく玉の緒
延喜御時前坊むまれ給へりける時
因香朝臣
古
0584 峯たかき春日の山に出る日はくもる時なくてらすへらなり
たいしらす よみ人しらす」(50オ)
古
0585 我君は千世にや千世にさゝれ石のいはほとなりて苔のむすまて
拾
0586 君か代は天の羽衣まれにきてなつともつきぬ巌ならなむ
大江嘉言
後拾
0587 \<朱>きみか代は千世に一度ゐる塵のしらくもかゝる山となるまて
承暦二年内裏歌合に 大納言経信
同
0588 /<黄>君か代は尽しとそおもふ神かせやみもすそ河のすまむ限りは
永承四年内裏歌合に 式部大輔資業
同
0589 きみか代はしら玉椿八千世とも何にかそへむ限りなけれは
いはひのこゝろを 皇太后宮大夫俊成
新古
0590 /<黄>きみか代は千世ともさゝし天の戸やいつる月日のかきりなけれは
題不知 読人しらす
古
0591 しほの山さしての磯に住千とり君か御代をは八千世とそなく
僧正遍昭に七十賀給はせける時 光孝天皇御製」(50ウ)
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