2009.11.07見直し了
「入道右大臣集」(扉)
入道右大臣集
三月三日れいのはらへ
しにかはらにいてたる
にひうかしやまのはな
のちりのこりたるみて
0001 けふすきてたつねましかはや
まさくら(+に)ほふめりきと人やつ
けまし」(1オ)
殿上人々尋花所不定と
いふ題を
0002 をしめともちりもとまらぬはな
ゆへにはるはやまへをすみかに
そする
三条院御時殿上人上卿子
日せんとてしけるに斎院
女はうなとものい(い$み)むとせ」(1ウ)
しほとに事ともあまり
にてとまりにしかはその
つ(+と)めてさいゐに
0003 とまりにしねのひのまつもけふ
よりはひかぬためしにひかるへき
かな
三月とうかのほとにはなの
こりなくちるをみて
0004 ちるまゝにはるのすくるをみると
きはゝななきやとにすんへかり
けり」(2オ)
治部卿の近衛御門の
家はこゝにしるところにて
ありしいへなりそこに
あるをんなしはしすみ
てはないみ(+し)うさきた
りけるほとにたれを
まつとてをしんこゝろそ
とやうにいひたり(+し)に」(2ウ)
0005 さらてたにこひしきものをむか
しみしはなちるさとに人の
まつなる
さつきのつこもりにほとゝ
きすきゝにう近のまは
にまかりてよふくるまて
えきかて
0006 ほとゝきすたつぬはかりのな
のみして(+き)かすはさてやゝとにか
へらむ」(3オ)
閏四月人々やまさとにて
ほとゝきすのうたには
かにかは(+ら)けとりてよみ
しに
0007 うちとけてなかましものを
ほとゝきすうつきのふたつなか
らましや(=か)は
上卿はなみるとて観音院の
かたより雲林院をなかめて」(3ウ)
かへり(=る)ほとにさいゐのくるま
いてゝものみてすくるほと
にふ(+み)ありみれはしめのう
ちのはなははなにもあら
ぬなるらしとありしに
0008 かせをいたみまつやまへをそ
たつねつるしめゆふはなは
ちらしとおもひて」(4オ)
しらかはにてせきこゆるひと
をみるとて十月つこもり
0009 せきこゆるひとにとはゝやみちのく
のあたちのまゆみもみちしに
きや
松上雪
0010 いかはかりよゝをへにけるまつなれ
はゆきをいたゝくほとになるらむ
をんなのとしお(+い)なはあは
しといひしに」(4ウ)
0011 あふことをおいなはいなといひしかと
いきてはえこそわかるましけれ
五月許よふくるまて人/\
ものかたりしてそのひとあか
月にいてにけれはつとめて
0012 あさほらけわかれにぬれしとこ
夏のうはゝのつゆもけさは
さなから」(5オ)
(白紙)」(5ウ)
(白紙)」(6オ)
ゆきのいみしうふりたりしに
月あかくてさいゐにまゐりて
0013 つきかけのあかさりつれはゆきめくり
なかむる人をたつねつるかな
九条にて山のゆきをのそむ
0014 いか許つもる山地の
ゆきなれ」(6ウ)
はこすゑをふみて人のゆく
らん
七月八日石山よりかへるにあふ
さ(+か)をこえて
0015 あふさかのせきこえはつるこゝろ
こそけさのわかれはおもひ
やらるれ
しのひたる人に
0016 人しれすかほにはそてをおほ
ひつゝなくはかりをそなくさめに
する」(7オ)
大宮みやにとのひとりを
たてまつりたまひて
これもていねとおほせ
られしかはもてにけたり
とてかんたうありてまた
のひむめのはたてまつ
りたまひて
0017 きみにこそみすへかりけれんめの
はなひとりをしみてくゆる」(7ウ)
けふかな
入道大納言なかたにゝて
四条中納言のもと(+よ)り
はなさかりにたにのとり
さりきたりやまのはな
ひとけおつといふをゑ
いすらくのみなかきて
0018 しつかなるはやしのはなの
あたりには」(8オ)
かせもふかすやはるのあけほ
の
よのなかのいとさはかしきとし
0019 つねよりもはかなきころのゆふ
くれはなくなるひとそかそへられ
ける
うへのうせたまひたりしに
0020 またもなくたのみしひともなき
よにはなみたにかゝるみとそなり
ぬる」(8ウ)
ゆき
0021 かきくらしゆきふるそらはゝる
ならてかすみのまよりはなの
ちるかも
ひとのはなみにいきけるに
よはさりけれは
0022 みをしらて人をうらむるこゝろこそ
ちるはなよりもはかな
かりけれ」(9オ)
小式部のもとに大将
おはしぬときゝて
0023 人しらてくやしかりけりむらさ
きのねすりのころもかりにきと(かりにきと$ウハキニソせ)ん
0024 ぬれきぬと人にはいはんむらさ
きのねすりのころもに(に$う)はきなり
けれ(けれ$トモ)
おほゐかはのつきをよん」(9ウ)
0025 おほゐかはうつれるつきも
みえぬまてうかひにけりな
やまのもみちは
女院にていけのみつを
0026 いけみつはなかれぬものときゝ
しかとゆくすゑとをくみえわたるかな
八月十五夜月を
0027 よもすからそらすんつきをなか」(10オ)
むれはあきはあくるも
しられさりけり
そちのくたるに
0028 かへるへきたひのわかれとなく
さむるこゝろにたかふなみた
なりけり
しらかはのねのひに
0029 ねのひには人こそまつにひかれ
けれ」(10ウ)
関白うちにいとひさしく
おはして人々いとおほく
てかへりたまふにう
くひすのなきたるを
0030 やまさとのきみかたひゐはう
くひすの(=を)人に」(11オ)
きかせんこゝろなりけり
院のおほんすみよしまう
てにおほむふねよりはし
めてかんたちめ殿上人すへ
てかすもしらすう
みにまことのうるわし
きやうにしんてたいう
うみのうへにつゝけたり」(11ウ)
けるにうたあり
0031 わたつみにたまのうてなを
うつせはやすみよしといふひと
もありけむ
しらかはにてあきのこゝろや
まにあり
0032 ひねもすにやまのもみちを
みるほとにみにもそはぬか
秋のこゝろは」(12オ)
院すみよし夜りかへらせ
たまふてのころ関白との
しらかはにもみちみに
おはしま(+し)ぬときゝて
0033 いかにしてありしこゝろをなく
さめて(て$ん)もみちみにとさそはれ
ぬみは
故殿のおほんためにかやうゐにて
八講あり」(12ウ)
0034 世中にあはれはちすのなかり
せはなにゝつけてか
きみをとはまし
あめいみしうふりたるに
しのひたる人のもとに
0035 人しれすものおもふころのそて
みれはあめともしらすなみた(+と)も
なし
つきあかきよおもふ人うせて
ものおもふときくひとのもとに」(13オ)
0036 そのことの(=ト)おもはぬたにも
あるものをなにこゝちして
つきをみるらむ
ほとゝきすなきさなへとるや
まさと
0037 郭公しのはぬこゑをきくよりや
山たのさとにさなへとるらん
月
0038 人よりもこゝろの(+か)きりなかめつる」(13ウ)
つきはたれとも
わかしものゆへ
七月七日関白とのゝわかみやのおほんか
たにて
0039 たなはたはくものころもをひき
かさねかへさてぬるや
今夜なるらん
中宮御方栽菊夜
0040 きくのはなこゝろにそめてわすれめや
うつしこゝろのあらんかきりは」(14オ)
故式部卿大井におはしたりしにも
みちをよめる
0041 みなかみにもみちなかれておほゐかは
んらこにそんるたきのしらいと
小一条院故殿かつらに(に$)とのにゐてたて
まつりたまへりしに
紅葉
0042 もみちはゝにしきにみゆときゝしかとめも
あやにこそけふはなりぬれ
三十講の殿上のうたあはせにとし
いへにかはりて こひ」(14ウ)
0043 あふまてといのちのせめてをれ(れ$)しきにはこひ
こそ人のいのりなりけれ
秋はなをみて
0044 はなことにうつるこゝろのいろにいてゝ
ひとのあたなをあきやたつらん
九月尽夜
0045 秋くれてつゆんすほゝるあさねかみのこら
すしもになりぬへきかな
三月にやまにのほりたるにはなの
さかねは 座主に」(15オ)
0046 ちるとてもこゝろおこさぬはなゝ(=やまな)れは
春にはあへとはなもさかぬか
やまにそうのよみけるうた(+フタツ)をきゝて
またふたつをかへす
0047 さくらはな第四上ろにさかせはや風
さいなくしてちらしとおもへは
そうかへし
0048 さくらはな第四よ(=上)ろにさけりとも眼
色なくはいかゝ宴せん
0049 さくらはな第四上ろにもしさかはしも」(15ウ)
のけんしきかりてえんせん
またかへすゝみに
0050 かきりあれはしものけんしきかれり
ともかみのはなをはいかゝえせん
しらかはにてやまのもみち
0051 いろことにやまのもみちのみゆるかなた
かきところはまつやしくるゝ
於宇治殿乃伝聞雨声階波題
0052 あらしそふしくれのあめのすはえこそ(こそ$ニは)
せゝのをなみのたつそらもなし」(16オ)
やま(+し)なてらのくやうはてゝ
関白殿に
0053 ふかきうみのちかひはしらすみかさ
やまこゝろたかくもみえしきみかな
はしはみといふ題を人々よんと
きゝてこゝろみに
0054 あやしくもかせにをるてふさくなきの
はしはみよりもなかくみゆらむ
0055 はたはりやせはかりつらんからころも」(16ウ)
はしはみえてもぬひてけるかな
0056 もろこしも人のかよふはやすけれ
とはしはみちこそしられさりけれ
関白殿渡給堪円之車宿之次
見紅梅殿
0057 をられけりくれなゐふかきんめの
はなけふしろたへのゆきはふれ
とも
かへし
0058 をられけるむめのたちえにふり
まかふゆきはにほひてはなや
さゆらん」(17オ)
うたあはせのひのさくらのうた
0059 さくらはなあかぬあまりにおもふかな
ちらすはひとやをしまさらまし
やはたのりん時のまつりの
つかひのもとに
0060 なからへんきみかゝさしのふちのはな
とみるしみつやあする世もなき
0061 あきをたにおのれしるといふさを
しかの(=も)こひにはまとふものにさりける」(17ウ)
0062 ときはやまかけをうつせるおほゐかは
このはなら(な$かれ)てもみちしにけり
道命あさりはしかみのはな
をおこすとて
0063 はなのみなちりてのゝちは(=に)からくして
のこれるものはゝしかみのはな
かへし
0064 きみはさはからきはなをそこのみ
ける世のすきものとおもひけるかな」(18オ)
七月七日
0065 たなはたはいかにさためてちきり
けむあふことかたきこゝろなかさを
0066 たなはたのあくるなけきやいかならむ
人の(+こ)ひたにそらにみつなり
官奏はてゝ御前まいりて
はへりしにおほせ事にかゝる題
なんあるとてきくのはなそて
にこむすといふ題をたまはりて」(18ウ)
0067 菊のはなをるうつりかをこよひ
しもそてにこゝろを人やおくらん
0068 あきはきのかせにみたれてこほれ
しくつゆ(+の)うへにもはなはさきけり
後朝人にかはりて
0069 ふゆのひを春よりなかくさ(=ナ)す
ものはこひつゝくらすこゝろなり
けり
ゑあはせにいけみつに
月うつりたるところあるに」(19オ)
0070 やまのはのかゝらましかはいけみ
つにいれともつきはかくれさり
けり
山さとにてつきを
0071 月はれてわかみのうちもすみ
ゆくはこゝろにくものかゝり
けるかも
後朝
0072 ちとせまてちきることたに
あるものをけふをくらす(+か)ひさ
しきやなそ」(19ウ)
0073 故殿あり(+ま)におはしましゝに
ひたちのんまやといふ(+と)ころを
すくるほとに
0073 やまとにもひたちのんまや
ありけるは
とまうすほとに殿ほとなく
みかはにさけるこゝちこそすれ
殿上人前栽ほり御前に
うゝるほと」(20オ)
0074 めもあやにのへにみえつるはな
のいろはたまのうてなのにし
きなりけり
殿上のうた合ちとり
0075 さほかはのきりのあなたに
なくちとりこゑはへたて
ぬものにさりける
もみち
0076 いかなれはおなししくれに」(20ウ)
もみちするはゝそ
のもりのうすくこからむ
こひ
0077 うしとてもさらにおもひそかへ
されぬこひはうらなき
ものにさりける
皇后宮のうたあはせに春雨
にさくらの(+花)たつぬるかた
をゑにかきてありしに」(21オ)
0078 春雨にぬれてたつねんさく
らはなくものかへしのあらし
もそふく
うちのふけの障子のうた
春のはしに山庄にすた
れ(+の)まへにをとこをんなに
あへりうくひすのむめに
なく」(21ウ)
0079 やまさとにたに(+の)うくひすはる
くれははなのみやこやまつ
さかゆらむ
ゆふくれに人々やま
みちを行郭公聞て
0080 ほとゝきすいつるとやまにたひ
ねしてよつ(つ$ハ)にかへらん
こゑやきかまし」(22オ)
0081 まちかねてやまへにいれは
ほときすみねのたにちを
出一声
八月十五夜によき人家に
人々おほくあそひす
0082 なかきよのそらもさやにみえ
わたる月のためにや秋はき
つらむ」(22ウ)
人家のみつの辺にをみな
へしおほくみたれさけり
0083 をみなへしかけをうつせは心な
きみつもいろなるものにさりける
うちかはのあしろに人々
ふねにのりてきたり
0084 きみかよにすんうちかはのあしろ
木にちとせにとにやなみもうつ
らむ」(23オ)
法華経廿八品歌
序品
0085 はなのいろもまたみもしらてとひつ
れと(と$ハ)こたふる人(+モ)おもなれにけり
方便ー
0086 あはれなといぬるもよしといとはれ
しちきりをたにもんすはさりけん
辟喩ー
0087 うらやましいかなる人かいてにけん」(23ウ)
法師品
0088 もろともにこゝろおこしゝときのま
もわれ(れ$カ)ことのはをよにそつたふる
宝塔品
0089 野もやまもみなうつされしよな
りともはなをはめてし人や
ありけん
提婆闥多品
0090 たかはしとちとせのゆゆをすくし
つゝたにのこほりもみにやしみけん」(24オ)
観持品
0091 みな人はすみかもなをもかへつ
るにことわりなりやいもか(+う)らふら(ふら$)むる
安楽行品
0092 てふとなる人のゆめたにあること(こと$モノ)
のをつるのはやしのをりまてや
みし
湧出品
0093 あめつちの(+ナカニ)なかにす(+ミ)けるもろひとの(=に)
いかなるほう(ほう$ノリ)をたれをしへけん」(24ウ)
寿量品
0094 くるしくはわれをこふとや
こゝろみにしなぬいのちをしぬと
つけゝん
分別功徳
0095かすしらすとほきいのちをきく
ひとはまとひたえゆくみちをそ
へつる
随喜功ー」(25オ)
0096 このゝりをいほのつて(+にて歟)きく
たにもひとりしきくはあらし
とそおもふ
法師功ー
0097 はるかなるはなのにほひもとり
のねもこゝろにみえてみにそ
きこゆる
常不軽
0098 くるしさのつひにうれしくなる」(25ウ)
ものはおもふをにくむこゝろ
なりけり
神力品
0099 おほそらのこゑをきくより
くりかへしそなたにんきて
なをそとなふる
嘱累
0100 みをわくる人もかへりてたまの」(26オ)
とをやかてとちけむほとをこそ
おもへ
薬王
0101 如何なれはわかみのためにみを
やきて人をすくふにひちを
すてけん
妙音
0102 とほくよりみんといはれし
人にてははちすのくるに」(26ウ)
まとふへしやは
観音
0103 しつむへき人をかなしと
おもふにはふちをせになす
ものにそありける
妙荘厳王
0104 あめのしたすへらきとのみ」(27オ)
なりけるはみゆきをめて
しむくいなりけり
陀羅尼
0105 あらはにもしられぬことを
きく人はは(は$)とりの もな
らさゝりけり
普賢」(27ウ)
0106 この法をたのめ(め$ま)む人の
あることは(は$モ)なきなは(は$モ)いかて
たてしとそおもふ
(空白)
心月(+論)哥無此本 可尋入」(28オ)
(空白)
0107 こゝろにそいる秋のよの月
返し
0108 月かけを心にいるとしら
ぬみはにこれる水にう
つるとそ見る
とのむけにくるし
うなりたまての
ちれいのかむし」(28ウ)
女院にたてまつりた
まふとて
0109 つかへつるこのみのほと
をかそふれはあはれこ
すゑになりにけるかな
御返し」(29オ)
0110 すきゝつる月日のほと
もしられつゝこのみ
を見るもあはれなるかな」(29ウ)