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渋谷栄一翻刻(C)

小倉百人一首

凡例
1 本文は、宮内庁書陵部蔵堯孝筆『百人一首』(笠間書院刊)によった。なお、本書は「詠歌大概」(秀歌体大略を含む)と「百人一首」から成る写本。16丁ウに内題「百人一首」から始まる。
2 56の和泉式部「アラサラン」歌と57の作者名「紫式部」の補入は〈〉で記した。
3 作者名を()で記した。

   百人一首」16ウ
               天智天皇
001 秋の田のかりほのいほのとまをあらみ
   わか衣手は露にぬれつゝ
               持統天皇
002 春すきて夏きにけらし白妙の
   ころもほすてふあまのかく山
               柿本人麿
003 あしひきの山とりのおのしたりおの」17オ
   なか/\しよをひとりかもねん
               山辺赤人
004 たこのうらにうちいてゝみれはしろたへの
   ふしのたかねに雪はふりつゝ
               猿丸大夫
005 おく山にもみちふみわけ鳴しかの
   こゑきく時そあきはかなしき
               中納言家持」17ウ
006 かさゝきのわたせるはしにをく霜の
   しろきをみれは夜そふけにける
               安倍仲麿
007 あまのはrふりさけみれはかすかなる
   みかさの山にいてし月かも
               喜撰法師
008 我いほは宮このたつみしかそすむ
   よをうち山と人はいふなり」18オ
               小野小町
009 はなの色はうつりにけりないたつらに
   我身よにふるなかめせしまに
               蝉丸
010 これやこの行もかへるも別ては
   しるもしらぬもあふさかの関
               参議篁
011 わたのはらやそしまかけてこきいてぬと」18ウ
   人にはつけよあまのつり舟
               僧正遍昭
012 あまつかせ雲のかよひち吹とちよ
   をとめのすかたしはしとゝめむ
               陽成院
013 つくはねの峯よりおつるみなの川
   恋そつもりてふちとなりける
               河原左大臣(源融)」19オ
014 みちのくのしのふもちすりはれゆへに
   みたれれそめにしわれならなくに
               光孝天皇
015 君かためはるのゝにいてゝわかなつむ
   わか衣手に雪はふりつゝ
               中納言行平
016 たちわかれいなはの山のみねにおふる
   松としきかはいまかへりこん」19ウ
               在原業平朝臣
017 ちはやふる神代もきかすたつた川
   から紅にみつくゝるとは
               藤原敏行朝臣
018 すみのえのきしによる浪よるさへや
   夢ゆめかよひち人めよくらむ
               伊勢
019 難難波かたみしかきあしのふしのまも」20オ
   あはてこの世をすすくしてよとや
               元良親王
020 わひぬれは今はたおなしなにはなる
   みをつくしてもあはむとそ思ふ
               素性法師
021 今こむといひしはかりに長月の
   ありあけの月をまちいてつる哉
               文屋康秀」20ウ
022 ふくからに秋の草木のしほるれは
   むへ山かせをあらしといふらん
               大江千里
023 月みれは千々に物こそかなしけれ
   わか身ひとつの秋にはあらねと
               菅家(菅原道真)
024 このたひはぬさもとりあへす手向山
   もみちのにしき神のまに/\」21オ
(21ウ)
(22オ)
               三条右大臣(藤原定方)
025 名にしおはゝあふさか山のさねかつら
   人に知られで来るよしもがな
               貞信公(藤原忠平)
026 をくら山みねのもみちは心あらは
   いま一たひのみゆきまたなん
               中納言兼輔
027 みかのはらわきてなかるゝいつみ川」22ウ
   いつ見きとてか恋しかるらん
               源宗于朝臣
028 山さとはふゆそさひしさまさりける
   人めも草もかれぬとおもへは
               凡河内躬恒
029 心あてにおらはやおらんはつ霜の
   をきまとはせるしらきくの花
               壬生忠岑」23オ
030 ありあけのつれなく見えし別より
   暁ばかり憂きものはなし
               坂上是則
031 朝ほらけ有あけの月とみるまてに
   よし野のさとにふれるしら雪
               春道列樹
032 山川にかせのかけたるしからみは
   なかれもやらぬもみちなりけり」23ウ
               紀友則
033 ひさかたのひかりのとけき春の日に
   しつこゝろなく花のちるらん
               藤原興風
034 たれをかもしる人にせんたかさこの
   松もむかしのともならなくに
               紀貫之
035 人はいさこゝろもしらす故郷は」24オ
   はなそむかしの香にゝほひける
               清原深養父
036 夏の夜はまたよひなからあけぬるを
   くものいつくに月やとるらむ
               文屋朝康
037 しら露をかせの吹しくあきのゝは
   つらぬきとめぬ玉そちりける
               右近」24ウ
038 わすらるゝ身をはおもはすちかひてし
   人のいのちのおしくも有かな
               参議等
039 あさちふのをのゝしのはらしのふれと
   あまりてなとか人の恋しき
               平兼盛
040 しのふれと色に出にけりわか恋は
   物やおもふと人のとふまて」25オ
               壬生忠岑
041 恋すてふわか名はまたき立にけり
   人しれすこそおもひそめしか
               清原元輔
042 契きなかたみに袖をしほりつゝ
   すゑの松山なみこさしとは
               中納言敦忠
043 あひみての後の心にくらふれは」25ウ
   むかしは物をおもはさりけり
               中納言朝忠
044 逢事のたえてしなくは中/\に
   人をも身をもうらみさらまし
               謙徳公(藤原伊尹)
045 あはれともいふへき人はおもほえて
   身のいたつらになりぬへきかな
               曽祢好忠」26オ
046 ゆらのとをわたるふな人かちをたえ
   行ゑもしらぬ恋のみちかな
               恵慶法師
047 やへむくらしけれる屋とのさひしきに
   人こそみえね秋はきにけり
               源重之
048 風をいたみいはうつなみのをのれのみ
   くたけてものを思ふころ哉」26ウ
               大中臣能宣朝臣
049 みかきもり衛士のたく火のよるはもえ
   ひるはきえつゝ物をこそおもへ
               藤原義孝
050 君かためおしからさりしいのちさへ
   なかくもかなとおもひぬるかな
               藤原実方朝臣
051 かくとたにえやはいふきのさしも草」27オ
   さしもしらしなもゆるおもひを
               藤原道信朝臣
052 あけぬれはくるゝ物とはしりなから
   なをうらめしき朝ほらけかな
               右大将道綱母
053 なけきつゝひとりぬるよのあくるまは
   いかにひさしきものとかはしる
               儀同三司母(高階貴子)」27ウ
054 わすれしの行すゑまてはかたけれは
   けふをかきりのいのちともかな
               大納言公任
055 たきのをとはたえて久しくなりぬれと
   名こそなかれてなをきこえけれ
               和泉式部
056〈アラサランコノ世ノ外ノオモヒ出ニイマヒトタヒノアフコトモカナ〉
              〈紫式部〉
057 めくりあひて見しやそれともわかぬまに
   雲かくれにし夜はの月かけ」28オ
               大弐三位
058 ありま山井なのさゝ原かせふけは
   いてそよ人をわすれやはする
               赤染衛門
059 やすらはてねなまし物をさ夜ふけて
   かたふくまての月を見し哉
               小式部内侍
060 おほえ山いく野のみちのとをけれは」28ウ
   またふみもみすあまのはしたて
               伊勢大輔
061 いにしへのならの宮このやへさくら
   けふこゝのへににほひぬる哉
               清少納言
062 夜をこめてとりのそらねははかるとも
   よにあふさかの関はゆるさし
               左京大夫道雅」29オ
063 今はたゝおもひたえなんとはかり
   人つてならていふよしもかな
               権中納言定頼
064 あさほらけうちの川霧たえ/\に
   あらはれわたるせゝのあしろ木
               相模
065 うらみわひほさぬ袖たにある物を
   恋にくちなん名こそおしけれ」29ウ
               大僧正行尊
066 もろともにあはれとおもへやへさくら
   はなよりほかにしる人もなし
               周防内侍
067 春の夜のゆめはかりなるたまくらに
   かひなくたゝん名こそおしけれ
               三条院御製
068 心にもあらてうき世になからへは」30オ
   恋しかるへき夜はの月かな
               能因法師
069 あらしふくみむろの山のもみちはゝ
   たつたの川のにしきなりけり
               良*法師
070 さひしさに屋とをたちいてゝなかむれは
   いつくもおなし秋の夕くれ
               大納言経信」30ウ
071 夕されは門田のいなはをとつれて
   あしのまろ屋に秋かせそふく
               祐子内親王家紀伊
072 をとにきくたかしのはまのあた浪は
   かけしや袖のぬれもこそすれ
               権中納言匡房
073 たかさこのおのへのさくらさきにけり
   と山のかすみたゝすもあらなん」31オ
               源俊頼朝臣
074 うかりける人をはるせの山おろしよ
   はけしかれとはいのらぬ物を
               藤原基俊
075 契をきしさせもか露をいのちにて
   あはれことしの秋もいぬめり
               法性寺入道前関白太政大臣(藤原忠通)
076 わたのはらこきいてゝみれは久かたの」31ウ
   雲井にまかふおきつしら浪
               崇徳院御製
077 せをはやみいはにせかるゝ瀧川の
   われてもすゑにあはむとそ思ふ
               源兼昌
078 あはちしまかよふちとりの鳴声に
   いくよねさめぬすまの関もり
               左京大夫顕輔」32オ
079 秋かせにたなひく雲のたえまより
   もれいつる月のかけのさやけさ
               待賢門院堀河
080 なかゝらん心もしらすくろかみの
   みたれてけさは物をこそおもへ
               後徳大寺左大臣(藤原実定)
081 ほとゝきす鳴つるかたをなかむれは
   たゝありあけの月そのこれる」32ウ
               道因法師
082 おもひわひさてもいのちはある物を
   うきにたえぬは涙なりけり
               皇太后宮大夫俊成
083 世の中よみちこそなけれおもひ入
   山のおくにもしかそなくなる
               藤原清輔朝臣
084 なからへは又この比やしのはれん」33オ
   うしと見し世そいまは恋しき
               俊恵法師
085 夜もすからものおもふころはあけやらぬ
   ねやのひまさへつれなかりけり
               西行法師
086 なけゝとて月やは物をおもはする
   かこちかほなるわか涙かな
               寂蓮法師」33ウ
087 むらさめの露もまたひぬま木のはに
   きりたちのほる秋のゆふくれ
               皇嘉門院別当
088 難波えのあしのかりねの一よゆへ
   みをつくしてや恋わたるへき
               式子内親王
089 玉のをよたえなはたえねなからへは
   しのふる事のよはりもそする」34オ
               殷富門院大輔
090 見せはやなをしまのあまの袖たにも
   ぬれにそぬれし色はかはらす
               後京極摂政前太政大臣(藤原良経)
091 きり/\す鳴や霜よのさむしろに
   衣かたしきひとりかもねん
               二条院讃岐
092 わか袖はしほひにみえぬおきの石の」34ウ
   人こそしらねかはくまもなし
               鎌倉右大臣(源実朝)
093 よの中はつねにもかもななきさこく
   あまのを舟のつなてかなしも
               参議雅経
094 みよしのゝ山のあきかせさ夜ふけて
   故郷さむくころもうつなり
               前大僧正慈鎮」35オ
095 おほけなくうき世の民におほふ哉
   我たつそまにすみそめのそて
               入道前太政大臣(藤原公経)
096 花さそふあらしの庭の雪ならて
   ふりゆくものは我身なりけり
               権中納言定家
097 こぬ人をまつほのうらの夕なきに
   やくやもしほの身もこかれつゝ」35ウ
               従二位家隆
098 風そよくならのを川の夕くれは
   みそきそ夏のしるしなりける
               後鳥羽院御製
099 人もおし人もうらめしあちきなく
   世を思ふゆへにものおもふ身は
               順徳院御製
100 もゝしきやふるき軒はのしのふにも」36オ
   なをあまりあるむかしなりけり」36ウ
   此一冊凌老眼馳禿筆畢
   文安第二季冬中旬飛雪点
   閑窓手不亀之期也
     和歌所老拙法印(花押)」37オ
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