「興風集」（表紙 打付書）
おきかせ」（扉ウ）
寛平御時きさいの宮の哥合
0001 春風はゝなのあたりをよきてふけ
心つからやうつろふとみむ
古
0002 さくら（ら＄）はな（な＋は）ちくさなからにあたなれと
たれかは春をうらみはてつる
古
0003 春かすみいろのちくさにみえつるは
たなひく山のはなのかけかも
古
0004 こゑたえすなけやうくひすひとゝせに
ふたゝひとたにくへきはるかは」（１オ）
古
0005 ちきりけむ心そつらきたなはたの
としにひとたひあふはあふかは
古
0006 しらなみに秋のこのはのうかへるを
あまのなかせるふねかとそみる
古
0007 うらちかくふりくるゆきはしらなみの
すゑのまつ山こすかとそみる
古
0008 君こふるなみたのとこにみちぬれは
みをつくしとそわれはなりぬる
古
0009 しぬるいのちいきもやすると心みに
たまのをはかりあひみてしかな」（１ウ）
おなし御時にうたゝてまつれと
おほせられけれはたつたかはもみち
はなかるといふうたかきてのちに
おなし心を
古
0010 み山よりおちくるみつのいろみてそ
あきはかきりとおもひしりぬる
撰
0011 おるからにわかなはたちぬをみなへし
いさおなしくは花ことにみむ
＼
0012 秋のゝのつゆにをかるゝをみなへし
はらふ人なみぬれつゝやふる」（２オ）
0013 をみなへしはなの心のあたなれは
秋にのみこそあひわたりけれ
さたやすのあそんのさい将の（あそんのさい将の＄みこのきさいの宮の）五十
の賀たてまつりたまうける時の
御ひやうふのゑにさくらのはなみ
たるところに
古
0014 いたつらにすくる月日はおほかれと
はなみてくらすはるそすくなき
宮つかへ人をとらへて侍りしに
ひきすへしていりはへりにしかは」（２ウ）
かたみにもをとてはへりしかへ
しはへりとて
古
0015 あふまてのかたみとてこそとゝめつれ
なみたにうかふもくつなりけり
古
0016 うらみてもなきてもいはむかたそなき
かゝみにみゆるかけならすして
古
0017 なにかそのなきなたつともおしからむ
しらてまとふはわれひとりかは
撰
0018 このはちるうらにたつなみ秋なれは
もみちにはなもさきまさりけり
寛平の御時花のいろは霞にこめてといふ心をよみて
たてまつれとあるに」（３オ）
撰
0019 山風のはなのかゝとふゝもとには春の
かすみそほたしなりける
0020 うすきこきいろはわけとも花といへは
ひとつかほにもみえわたるかな
0021 きつゝのみなくうく（＋ひ）すのふるさとは
ちりにしむめのはなにそありける
0022 山さとははるのかすみにとちられて
すみかまとへるうくひすそなく
0023 あかすしてすきゆくはるにたゝち
あらはことしはかりのあとはよかなむ」（３ウ）
0024 あらしふく山のふもとにふるゆきは
とくちるむめのはなかとそみる
0025 なつのよの月はほとなくあけなから
あしたのまをそかこちよせつる
0026 なつの月ひかりをしますてる時は
なかるゝみつにかけろふそたつ
0027 むつましくかこひへたてぬかきつはた
たかためにかはうつろひぬらむ
0028 やまの井はみつなきことそみえわたる
あきのもみちのちりてかくせは」（４オ）
0029 しらなみにおりかけあまのこく舟は
いのちにかふるみるめかりにか
0030 ゆめをたに人のおもひにまかせなむ
みるは心のなくさむものを
0031 みをもかつおもふものからこひといへは
もゆるなかにもいりぬへきかな
新
0032 山かはのきくのしたみついかなれは
なかれて人のおいをせくらむ
0033 あたらしくわれのみやみむきくの花
うつらぬさきにこむ人もかな」（４ウ）
0034 おほそらの月のひかりをあしからの
山のこなたはあきにそありける
0035 なみたかはそこはかゝみときよけれと
こひしき人のかけもみえぬも
0036 おとこ山みねのもみちはちりにしを
てりてそみゆるしきにしけれは
0037 うらちかくたつあさきりはもしほやく
けふりとのみそあやまたれける
0038 つくはねのかけにおひにしさとなれは
ひかりのおふるものとたにみす」（５オ）
新
0039 しものうへにあとふみとむるはまちとり
ゆくゑもなしとなきのみそする
0040 こひしともいまはおもはすたましひの
あひみぬさきになくなりぬれは
新（新＄）
0041 あへりとも心もゆかぬゆめちをははか
なきものとむへもいひけり
0042 なけきこるをのゝひゝきのきこえぬは
山のやまひこいつちいにしそ
新
0043 あひみてもかひなかりけりむはたまの」（５ウ）
はかなきゆめにおとるうつゝは
0044 あしたつのいつれのあさかなかさらむ
おもふ心のゆかぬかきりは
＼
0045 夢にたにあひみぬなからきえねとや
こひしきことをたゝしらせてむ
0046 なきわひて身をうつせみとなりぬれは
うらむることもいまそきこ江ぬ
古
0047 わひぬれはしひてわすれむとおもへとも
ゆめてふものそ人たのめなる
＼
0048 うきてぬるかものうはけにをくしもの
きえてものおもふころにもあるかな」（６オ）
0049 こほれてもあれはたとへてなくさめし
なからのはしもいまはきこえす
0050 こひしきにみもなけつへしなくさむる
ことにしたかふ心ならねは
古
0051 みはすてつこゝろをたにもうしなは（うしなは＄はふらさ）し
つひにはいかゝなるやとをみむ
古
0052 たれをかもしる人にせむいにしへ（いにしへ＄たかさこ）の
まつもむかしのともならなくに」（６ウ）