「定頼集」

2009.11.08見直し了

 「四条中納言」(内題)

 四条中納言集」(扉ウ)


    正月五日雪のふりて松にたる
    ひのしたりけるを
0001 いつしかとたれひきつらむ雪わけて
  子日の松はこほりとけぬに
    返したれにか

0002 冬こもりまたしかりける松ゆへに
  ねの日をとくとなにいそきけむ
    右大臣左衛門督と申ける時林
    雪作花といふ題をよまれけるに

0003 しらゆきのつもるこすゑにさく花は」(1オ)

  またふるとしのはるにさりける
    三月十日随風尋花といふ題を

   〔続〕

0004 ふくかせをいとひもはてしちりのこる
  花のしるへとけふはなりけり
    三月尽日あめをかしてさり
    ぬといふ題を

0005 かきりありて雨にさはらぬ春なれは
  ちる花かさをきてやゆくらむ
    右大弁」(1ウ)

0006 すきゝぬるはるはわかれてのこるらむ
  花ゆへけふの雨をこそおもへ
    九月九日ひねもすに翫菊といふ
    たいを

0007 ゆふつゆのをくまてきくを見つる哉
  おもてのしはをのこひつるより
    庭のおもに秋くれぬといふ
    たいを

0008 いつとなくこひしきやとの花なれと   秋のけしきはしるく見えけり」(2オ)

    庭のもみちを見てよめる

0009 もみち葉のちりつむ時そうちはへて
  はらはぬ庭のおもかくれなる
    大井河にて人/\もみちを
    よめる

0010 大井河水のあさくも見ゆる哉
  もみちの色は雨とふれとも
    四条の宮におはしける時大納言
    殿より時雨とゝもに紅葉のこらす」(2ウ)

    ちるといふ題たてまつられたり
    けれは

0011 紅葉にも雨にもそひてふる物は
  むかしをこふる涙なりけり
    御返しひめ宮のなくなり給ける
    年也

0012 春ちりし花をおもへはもみちはの
  めにとまらぬは涙なりけり
    ひろさはに人/\いきて月の
    いみしうあかう池にうつりたり
    けるに」(3オ)

0013 すむ人もなきやまさとのこけのお/もは
  やとる月さへさひしかりけり
    かりのおほくつれていきけるに

0014 かきつらね雲地にむせふかりかねの
  はかすも秋の月は見えけり
    ゑにたなはたにことひきて
    かしたる所

0015 ことのねはかさすもあら南ひこほしの
  うへのまへにはたれかひくへき」(3ウ)

    松の木のしたに人/\ゐてこと
    ひく所

0016 ひくことはこと/\なれと松風に
  かよふしらへはたかはさりけり
    月夜にたひゆく人ある所に

0017 人しれすいてたつみちのたひなれと
  そらゆく月はをくれさりけり
    紅葉の木のしたにてさけの
    む人ある所」(4オ)

0018 風にいたくちらぬさきにともみちはを
  君かためにそをりとゝめてし
    ゑにさくらのいみしうさける
    所に

0019 世とゝもにくるしともなきさくら花
  ゑには風こそかゝらさりけれ
    さくらを見はやとのたまひけ

    るをきゝていみしうめてたき
    はなをたてまつられたりける
    あかそめか家の花をゝりに」(4ウ)

    つかはしたりける

0020 さくらさくさかりになへてなりぬとも
  花なきさとはしらすやある覧
    返し

0021 わかやとにおとらぬ花はありやとも
  今はたつねしなきなたちけり
    さかのにおはして

0022 春の色をきて見る時はまれなれと
  心は秋のゝもりなりけり
    しとみのひまより月のさし」(5オ)

    いりたりけるを

0023 しとみ山へたてたれとも月かけの
  あまりあかきはもりて見えけり
    きゝもしらぬ鳥のなきけるを
    人のきこ江ける

0024a またしらぬとりもなきけるさよ/ふけて
     といひけるに

0024b いまはしりたるなのりたにせよ
    白河殿にて

0025 かきりなきにほひをそへて白川の」(5ウ)

  さとのしるへはしかにさりける
    うちよりいてたまひてゆつけの
    ゆまちたまひけるほとに時鳥
    のなきけれは

0026 ゆつけのゆまつに夜ふけてをのつから
  山郭公なくをきゝつる
    右大弁のちこにおはしけるに
    右大臣殿のうへの御もとよりくす
    たまたてまつれたまうけるを
0027 やとわかぬのきのあやめを見てたにも」(6オ)

  ひまなきこひのねをやたえ南
    御返し

0028 すきたもてふくいとまたにある物を
  のきのあやめのほとをこそおもへ
    四月一日のりたかゝ女房のもと
    にいひたりける

0029 けふよりもきそめてし哉夏衣
  すきなは人の心見ゆへく
    女房にかはりて

0030 うちつけにいそきたつなる夏衣」(6ウ)

  まつしるき哉人の心の
    又のりたゝ

0031 夏衣またひとへなる心とは
  かさねぬほとに見ゆるなるらむ
    又返しに

0032 かさねてのゝちをしまたは夏衣
  けにと見るへきほとのはるけさ
    中宮の七夜に

0033 はるひ山わかねにさけるふちの花
  松にかけてやちよをいのらむ」(7オ)

    子日に

0034 千世こめておいゝつる野辺のひめこ松
  ひきてもちよのねもしられける
    春ことに花をゝしむといふ心を

  〔△〕

0035 年をへて花に心をくたく哉
  おしむにとまるはるはなけれと
    のこりのきくをゝしむ

0036 わかれにし秋のゝこりてきくの花
  にほふまかきのしまそありけり
    右大弁」(7ウ)

0037 すきぬとておしみしきくはさきのこる
  まかきのきく(きく$)しまにとまるなりけり
    いそきてきぬを人にぬはせ
    けれは御せあはせむと人/\の
    いひけれは

0038 衣河とをきあたりにあらねとも
  たれにあふせをわきていふらむ
    すたれに雨のたまのやにかゝり
    たるを」(8オ)

0039 雨にいとゝあれのみまさるふるさとに
  思もかけぬたますたれかな
    九月許さかゐといふ所に
    しほゆあみにおはしたり
    けるにひめきみの御もとに

0040 すみよしのなかゐのうらもわすられて
  みやこへとのみいそかるゝ哉
    返し

0041 立かへりひころのふれはすみよしの
  猶なかゐするうらとこそ見れ」(8ウ)

    おなし所にて

0042b 舟はゐれとも浪は立けり
    ひとりこちたまひけるを
    みちなり

0042a ゆふされはふしみのさとにいそくまに
    くもはれて月あきらか也と
    いふたいを

0043 見る人の心やそらになりぬらむ
  くまなくすめる秋のよの月
    菊いろをへんすといふたいを」(9オ)

0044 きのふ見し色もかはりてあさことに
  おもかはりするにはのきく哉
    うすさくらといふを人のもて
    まうてきたりけれは

0045 これやこのをとにきゝつるうすさくら
  くらまの山にさけるなるへし
    はるころたいゝたして人/\
    よませたまけるに

0046 をとつるゝ人しなけれはうくひすの
  ともよふこゑになくさむる哉」(9ウ)

0047 春すきはうとくやならむつれ/\を
  たえすをとなふうくひすのこゑ
    ちくふしまにまうてたりけるに

  〔新〕

0048 いそなれて心もとけぬこもまくら
  いたくなかけそきしの白浪
    おく山のたき

  〔後〕

0049 くる人もなきおく山のたきのいとは
  水のわくにそまかせたりける
    つれ/\におはしけるたはふれに」(10オ)

    こめたいにすたれかはを人/\
    よみける

  〔千〕

0050 あとたえてとふへき人もおもほえす
  たれかはけさのゆきにわけこむ
    わかくりを

  〔勅〕

0051 立かはりたれならすらむ年をへて
  わかくりかへしゆきましるみち
    なつめ

0052 宮こ人けふもそきますかたをかの
  ゆきかきわけてなつめわかせこ」(11ウ)

    もちぬひ

0053 かつきけむあまのしわさもちひろ/なる
  みるめしなくはかひあらしはや
    あはしかき
0054 水(+の)あはしかきえやすく見ゆれとも
  つゆの身よりはひさしかりけり
    やいこめ

0055 あなうやいこめてそたゝにやみな/まし
  かくつらからむ物としりせは
    右大弁人のむこになりて」(11オ)

    ひさしうまうてたまはさりけれは

0056 谷水のうへはひとつにこほるとも
  したの心はのとけからめや
    御返し

0057 こほるともうちたにとけは谷水の
  ふかき心はかくれやはする
    なにのおりにか頭弁の御もとに

0058 いにしへの春わすれすはむめの花
  もとのあるしのおるなとかめそ
    御返し」(11ウ)

0059 いにしへのあるしならねと梅花
  おりしる人はいかゝとかめむ
    右大弁花きこ江たまふとて

0060 春くれてちりはてにける花のうへは
  このもとにこそとはまほしけれ
    ちくせんの入道なくなりて
    のち四十九日の(+く)ゑたいかゝせたて
    まつりけるかへしやり給とて

0061 極楽のはちすの花のひものうへに
  つゆのひかりをそふるけふ哉」(12オ)

    御返し

0062 人のうへにはちすのつゆをむすひおけは
  みかけるたまのひかりこそませ
    三月三日はらへしにかはらへ
    いて給けるにくるまとものきお
    ひてさはかしかりけれは御心の
    うちに

0063 ときなはのとくもいそかしみそきには
  ゆふかけたるそ神はうくらむ
    三月つこもり郭公のなくを」(12ウ)

0064 ほととゝきす思もかけぬ春なけは
  ことしはまたてはつねきゝつる
    いとあかくしもあらぬ月のおり
    に菊のいみしうさきみたれ
    たれは女房なといてゐて見る
    とてある人のさゝめきける
0065b またきふりぬる雪かとそ見る
    とあれは

0065a 神な月おほろ月よのしら/きくは」(13オ)

    四月まゆみのもみちしたりける
    見たまひて中将殿のかれ/\に
    なり給けるころ也
    「中将/九条太/政大臣也」(頭注)

0066 すむ人もかれゆくやとは時わかす
  くさ木も秋のいろにそ有ける
    ひめきみ

0067 みとりなる松のこすゑをおもはすに
  もみちの色のこく見ゆる哉
    やはたにまうてたまひて木
    のもとにとまりたまひて」(13ウ)

    こみといふくゝつまはしよひ
    にやりたまひけるかをそかり
    けれは

0068a たかせ舟ふなてこさむとまつほと/に
    とあれは右大弁

0068b やかてにしにもかくれぬるかな
    おさなき人のおやにをくれて
    思もいれてあるを見給て
0069 もりおほすつゆもきえぬるませの/うちに

  ひとりにほへるなてしこの花」(14オ)

    うへの御せうとのおさなくおはし
    けるほとわたり給てひとよあり
    てかへりたまふにめのとのかたは
    らなるに

0070 ねたえぬる心地こそすれふえ竹の
  ひとよやふしのかきりなりける
    おまへなる人のゑをにはかに
    いとたかくわらひけれは

0071 ふりたてゝわらふこゑをは秋すきて
  またすゝむしのなくかとそきく」(14ウ)

    式部かやすまさかめになりて
    たんこになりたるにいきや
    せましいかゝせましといふと
    きゝてやりたまひける

0072 ゆきゆかすきかまほしきをいつかた/に
  ふみさたむらむあしうらの山
    五条のあまうへの御もとに君
    たちわたり給て菊のうつろひ
    たるもみちのたゝひとはつきたる
    をたてまつりたりけれは」(15オ)

0073 我のみやかゝるとおもへはふるさとに
  まかきの菊もうつろひにけり

0074 このもとを思こそやれもみちはの
  枝にすくなき色を見るかな
    みつなりかさぬきへいくにやり
    たまける
  〔後〕
0075 松山の松のうら風ふき(+よ)せは
  ひろひてしのへこひわすれかひ
    御返し

0076 たゝぬよりしほりもあへぬ衣もて」(15ウ)

  またきなかけそ松かうらなみ
    とをきほとなる人のもとより
    かゝみとくものこひたまひける
    やりたまひけるに
0077 君かゝけ見えもやするとますかゝみ
  とけと涙に猶くもりつゝ
    といひたりしおなし所なるを
    見給て

0078 ます鏡とけと涙にくもるらむ
  かけをならへて見るはうれしや」(16オ)

    うへの御おとうとの三君の御許に
    くすたまにつけていよ入道かむす/め

0079 ひくよりそしるく見えけるあやめくさ
  君かちとせにかくるちとせは
    この返しを

0080 みかくれにおふるあやめはけふことに
  たれにひかれてふへきちとせそ
    はりまのかみのひさしうたいめ
    したまはてうへにきこ江給ける
0081 あはぬまのうきにおひたるあやめくさ」(16ウ)

  たもとにかゝるねをたにも見よ
    この返しを

0082 あはぬまはわかうきからそあやめ草
  たもとにかけていはすもあら南
    女房のちこをおとこおやの
    とはさりけるに

0083 旧里のこはきかもとのつゆけさを
  とはぬつらさは秋そまつしる
    こうりを人のたてまつりたり
    けるに

0084 あさゆふにたつをやくにてうりふ山」(17オ)

  ふもとのきりのはるゝまそなき
    このうりを人のもとにやり
    たりけれは

0085 うりつくり今はつらさもわすられて
  よそになれるそこひしかりける
    とある返しを

0086 山しろのとはのわたりのうりつくり
  こまほしと思おりそおほかる
    殿上にて

0087 けふよりは衣のそてもほしからす
  もみちのにしき身にしきたれは」(17ウ)

    三月はかりはしめて女御
    殿に御たいめありてのちこれ
    よりきこ江たまひける

0088 あかさりしよるのなこりのおもかけを
  やとのさくらによそへてそ見る
    御返

0089 なかむらむ花とひとつのにほひをそ
  おりてもわれはゆかしかりける
    おなし女御殿のはゝうへなく
    なり給てのちその御かはりに」(18オ)

    おほせなときこ江給て

0090 我を君昔の人とおもは南
  心はさらにかはらしものを
    御返し

0091 かはらしときけはむかしの人よりも
  こはまさりてもたのむへきかな
    しほゆにおはしてあか月かた
    に浪のたては

  〔新〕

0092 おきつ風よはに吹らしなにはかた
  あか月かけてなみそたつなる」(18ウ)

    ゆきかふ舟を

0093 思やるみやこの事をかたるやと
  ゆきかふ舟を見ぬ時そなき  
    おなしたひにて九月卅日

0094 常よりものとけき秋と思しを
  たひのそらにもやとる月哉
    十月許よるなゐのいたく
    ふりけれは

0095 こすゑにはのこりもあらし神な月
  なへてふりつるよはのくれなゐ」(19オ)

    尼上のはすのすゝをねすみの
    くひたりけるを見て

0096 よめのこのはちすのたまをくひけるは
  つみうしなはむとや思覧
    物におはしけるみちにてそとは
    をはしにわたしたりけるをわた
    り給て

0097 世をわたるちかゐのかたをいひなして
  そとは見なからこえわたる哉
    しらかはにおはしけるか御もと
    にゆきよりの朝臣ありけるか」(19ウ)

    かへりけるにをひてやりたまひ
    ける

0098 山さとにくれはとひけりいまよりは
  こひしき時のかたみにをせむ
    返し

0099 うちはへてかけとたのまはかりそめ/の
  山さとにしもをくれやはせむ
    うへの御をはのうせ給ける御
    いみにてよりみつの朝臣

0100 しての山しほりたにして見えよかし
  こにをくれたる人のためにと」(20オ)

    とありけるをきゝ給て

0101 うき世にはとまるのみこそかなし/けれ
  かくいふ人もあらしとおもへは
    おなし人の御てのありけるを
    見給て

0102 見ることに浪はよすれとはまちとり
  むかしのあとはかはらさりけり
    おなし人みのにおはしけるに
    御いのりよくせさせ給へよの
    さはかしきなときこ江たりける
    ふみを見給て」(20ウ)

0103 なかゝれと人をたにこそをしへけれ
  なとわか身をいのらさりけむ
    おとこの女房をかたらひてとう
    かとなさてまいりつゝ申さむと
    いひけるか一月はかり見えさ
    りける(+を)いかにいはむといひけるに

0104 とほとほとちきりし事は鳥のこを
  かさぬるほとをいふにさりける
    返し みつなり

0105 とほにてとゝかむる人はありぬへし
  みそかにとこそいふへかりけれ」(21オ)

    中将殿のかれかたになり給て
    五月雨のころ

  〔勅〕

0106 さみたれのゝきのしつくにあらねとも
  うき世にふれはそてそぬれける
    ひめきみ

0107 今まてもなからふる身のなかりせは
  なにゝかつゆのそてもぬれまし
    中将殿たえはてさせ給てのち
    御枕にらてんにまつをすり
    たりけるにひめきみかきつけ」(21ウ)

    給ける

0108 心には思いてしとしのふれと
  枕にてこそ松は見えけれ
    あはれなる事なと人のかた
    りきこ江けれは

0109 しきたへの枕のちりをうちはらひ
  まつかひありと見るおりも哉
    いとあかうしもあらぬ月に
    菊のいとしろう見ゆるをうへの
    帳のまへにふしたまへるを」(22オ)

    やとおこしきこ江給ひけるをおき
    たまはさりけれは

0110 あつさゆみをしひきしつゝよもすから
  やゝといへともいる人もなし
    ひとりをまさくり給て

0111 おもとことありとは見れといかなれは
  ひとりとのみはひとのいふらむ
    中宮の女房人にわすられて
    なけきけるを十月許にやり
    給ける」(22ウ)

0112 このころのこのはを見てもなくさめよ
  つねならぬよそつねならぬこと
    返し

0113 さためなき世はうき身こそかなし/けれ
  つねならぬ世をつねに見るへき
    ひめ宮うせ給て又の年大納言
    はつせにまゐり給ていつみ河
    のもとにてこそみたけより
    かへり給けるにこゝにてひめ/宮の」(23オ)

    御ことひき給けるをおほし
    いてゝ

0114 見ることにそてこそぬるれ泉河
  うきこときゝしわたりとおもへは
    大納言殿きゝ給て

0115 いもせ山きくにつけてもつゆけきに
  こゝゐのもりを思やらなむ
    とありけるに(とありけるに$)
    おなし秋雨のゝとやかなるに
    大納言殿」(23ウ)

0116 もみちにも雨にもそひてふる物は
  昔をこふる涙なりけり
    中納言御返し
  「此二首/在端」(頭注)

0117 はるちりし花を思てもみちはの
  めにとまらぬはなみたなりけり
    なかたにの入道殿の御もとに
    まうて給てかへりたまへり
    けるに入道殿

0118 見すてゝはかへるへしやはかせ山の
  みねのもみちのことゝとはぬを」(24オ)

    御返し

0119 あらし吹峯のもみちを見ぬ時も
  心はつねにとゝめてそくる
    なかたによりかへり給てりし
    の御もとに

  〔千〕

0120 ふるさとのいたまの風にねさめつゝ
  たにのあらしを思こそやれ
    御返し 入道殿

0121 谷風の身にしむことはふるさとの
  このもとをこそ思やりつれ」(24ウ)

    三井寺に入道大納言いり給
    けるにこしらかはにより給
    たりけるに花の心もとなかりける
    にかへさにみなちりにけれは
    入道殿

0122 ふるさとの花はまたてそちりにける
  はるよりさきにかへるとおもへと
    御返し

0123 ゆきかよふたよりならてはこぬ人を
  うしとや花のいろにちりけむ」(25オ)

    又とのゝ御返し

0124 ふるさとのあるしとおもはゝとめてま/し
  おもかはりかや花も見えけむ
    御返し

0125 うへをきし人たにもこぬふるさとに
  かへりて花をうらむるやたれ
    いたうわつらひ給けるころとこ
    ろをたてまつり給へりけれは
    御返にかきつけたまひける

0126 人のいのちなかたに山にほると/いはゝ」(25ウ)

  しぬるところはあらしとそ思ふ
    入道殿にたき物をきこ江給
    けるをたてまつり給はさりけれは

0127 いつかたに風はそふらむゝめの花
  なとこのもとにゝほひたにこぬ
    御返しとてなし
    人/\なくなりけるころ

0128 見るまゝに人はけふりとなりはてぬ
  こそひのいゑはかなしかりける」(26オ)

    女御殿の御いみはてゝ七月十五
    夜山のさすのこのとのゝみかと
    に常不軽つきにきたりける
    をのちにきゝ給て

0129 をひてこそうつへかりけれよゝへても
  そらのつゝみのちきりありやと
    返し

0130 あさゆふにたえなるのりをよむ君は
  世ゝのゝちをもなにかまつへき
    うへうせ給てのちわかなを」(26ウ)

    人のたてまつれたまへりけるを
    見たまひて

0131 いにしへのかたみにつめるわかなゆへ
  見るこのめにもみつなみたかな
    はゝうへのほかにわたり給て
    人に物いはぬをこなひにて
    ひさしうたいめしたまはてか
    へりわたりたまひてけふなむ
    いとまあきたるときこ江給け/るに」(27オ)

    いそきまいりたまひけるに人
    の又御いとまふたかりてと
    きこ江けれはかへり給ひにけれ(れ$る)
    をうへはいとまちとをにおほ
    してかくきこ江給ける

0132 このもとにきても見かたきはゝ木ゝは
  おもてふせやと思なるへし
    御返し

0133 見えかたきはゝ木ゝをこそうらみつれ
  そのはらならぬ身かはとおもへは」(27ウ)

    女院の中納言のきみつれなく
    のみありけれは

0134 ひるはせみよるはほたるに身を/なして
  なきくらしてはもえあかすかな
    おなし所の人に又やり給ける/を
    返事をつかひのせめけれは
    かみをひきむすひてたてまつり
    けれは

0135 わかほとけあとたれたまへちはやふる
  かみのかきりはいふせかりけり」(28オ)

    おなし所にはやうやすらひとて
    さふらひけるわらはのもとに
    この御なのりして人いりぬと
    きゝたまひて

0136 あやしくもわかなのりそをいせのうみの
  あまたの人にかゝるめるかな
    これはめにちかう見きこゆる
    人のいみしうかくし給めりし
    ほくともの中なりしかはし/\也
    かものまつりの日なるへし」(28ウ)

0137 ちはやふる神のしるしと思哉
  思もかけぬけふのあふひは

    いかなるおりにかありけむ
0138 はらふ人ありときゝしをしきたへの
  枕にいかてちりつもりけむ
     又

0139 ゆふつゆのいかなる方にをきつらむ
  あくるまたき(き$に)もなきなつのよを
    御返なともことにきこ江
    さりしかは」(29オ)

0140 あひおもふ事こそ人のかたからめ
  わかおもふ事をしるとたにいへ
    なとやうにて年月すくめりし
    をしはすのつこもりかたにいみ
    しうあれたりしつとめて

0141 年をへてとつるつらゝも春ちかみ
  とくれはとくるものにさりける
    返し

0142 しきたへの枕もとこにとちられて
  とけぬはとけぬ心ちこそすれ」(29ウ)

    れいのつまとをならし給けれと
    きゝすくしてあけにける又の
    つとめて

0143 まつ人やありあけの月と思しを
  さしてやみにしまきのつまのと
    御返し

0144 ひとりのみありあけの月の山のはに
  入まてさゝぬまきのつまとを
    女御殿の内にいらせ給ての春
    物いみにてまいり給はさりし/ころ」(30オ)

0145 鶯は宮この花にうつるとも
  もとのふるすはわすれさら南
    御返し

0146 雲のうへをならはさりけるうくひす/は
  もとのふるすをこひぬひそなき
    とのゐ所なと物さはかしきを
    こよひせちにきこゆへき事
    なむ御くるまの在明の月の
    いとまはゆきほとすくしてとて
    ひころをともしたまはて

0147 ゆふつくよまはゆきほともすきぬる/を」(30ウ)

  まつ人さへやいてかてにする
    御返しとてなし
    ある人のもとにかよひ給けるころ
    内にまゐりてひさしういてさり
    けれはあやにくにこのころは
    ありきもせてつれ/\なるまゝに
    れいの所にいきつゝなむなく
    さむるとて

0148 恋わひてあひ見しとこに立よれは
  まくらにちりそまちゐたりける
    返し」(31オ)

0149 しきたへの枕はさもやなかる覧
  まちゐしちりはかすつもりにき
    つほねにおはせしほとに
    尼上に申さるゝ事ありし
    人のたちよりたりしをなに
    しにきけるそなとむつかし
    けにおほしてあけにしまた
    つとめて

0150 きし方もうたかはれけり月よゝみ
  ならしかほにもとひし人哉
    返しとてもなし」(31ウ)

    まきれたまし所ありしころ
    五せちに内にまいりたれは

0151 ひかけさす雲のうへにはかけてたに
  おもひもいてしふるさとの月
    返し殿上人まいりなとして
    いとものさはかしけれはわろ
    きなめりとそ

0152 かけとめぬ月に心のくれそめて
  とよのあかりもしられさりけり
    さとより内にをくり給て」(32オ)

    せちなる事ありていつる也とあり
    しつとめてきこ江し

0153 まちかねのさとをいてぬと思しを
  おほかたとしのなにこそありけれ
    返し

0154 おもふとしふしみのさとゝきゝしかと
  なとまちかねと人のいふらむ
    さかゐといふ所にしほゆあみに
    おはしたりしにきこ江し

0155 おほつかなさかゐはるけきたひ人の
  なかゐのうらになかゐするころ」(32ウ)

    返し

0156 はる/\となかゐのうらをなかめつゝ
  こひしきことになこそつらけれ
    内にまゐりたりし又の夜
    せちにいふへき事なむあるとて
    御くるまのありけるをさるへき
    人/\さふらはぬほとにてえいて
    さりけれは心の内を見せたて
    まつらはやときこ江たりけれは

0157 うき人の心の内を見せたらは」(33オ)

  いとゝつらさのかすやまさらむ
    返し

0158 むかしよりつらき心をたえつ(つ=て)見は
  人にいくつのかすをさゝまし
    さとなりしにこよひはうち
    のとのゐとていて給しをれい
    の所にやと思しかはつとめてきこ
    えし

0159 うちかはしかさぬるとこはなになれや
  返しわひつるよはのさ衣
    返し」(33ウ)

0160 かへすとはきこ江ぬ物をから衣
  かさぬときくそまさるぬれきぬ
    うちにまいらむとせしに関白殿
    の白川殿にまいり給にしに
    さはる事ありてまいらすなり
    にけれはつとめてきこ江し
0161 ゆく道もけふは猶こそとゝこほれ
  つてにも花のうへやきくとて
    返し

0162 ゆくみちもとゝこほるなる花のうへ/を」(34オ)

  いそきていかゝ人にかたらむ
    ある所にかよひ給けるころ内
    にさふらひしになとか花を
    いてゝ見ぬさてもいつかとて

163 かへりてもこゝろや(や$は)
164 猶やあくかれむ
  花もあるしもさかりすきなは
    返し

0164 あくかるゝ花の心を見るほとは
  我さへたひのそらねをそする
    ものうくていてぬほとに」(34ウ)

    心地のあしかりけれはくるまた
    へときこ江たりけれは

0165 もろともにあひもおもはぬなからゐ/の
  くるまはいかにひさしとかしる
    返し

0166 しらすやはくるま/\のひさしさ/を
  心うしとはかけていはねと
    かやにいひつゝあかしくらしゝ
    をあさましうめにちかう
    見なしきこ江てこゝにいり給
    ぬめりしかは今はふりはへて/もなと」(35オ)

    思しをしられたりけるに御
    ふみといふをとりいれたれは
    ありしにもにすいとこと/\し
    きたてふみにてこまやかに
    まめやかなる事とものあはれ
    におほしなりたる事ともの
    あるなかにかきまきらかし
    たるをとりいてたるとて

0167 思すていてにしやとのつまなれと
  したにしのふの草はおひけり」(35ウ)

    とありけるこそまことにあはれ
    なりしか 返しとてなし
    又のとしの春宮こにいて給
    たりしころさうし許へたて
    たる所にあまうへおはしましゝ
    かは御経のこゑはかりはかはら
    ねとありしよともおほえす
    いと物あはれにてすくしゝに
    くれつかたつねよりもよみすまし
    たまひたりし/に」(36オ)

    かりのなきたりしこゑにもなみた
    とゝめかたき心地するに内より
    とてにはかにくるまをたまはせ
    たるにとく/\とさはかすをかく
    なむともえきこ江あえすくるま
    にのるそらもなき心地するにたゝ
    うかみをさしいれたるを見れは
    かうそかゝれたりける

0168 こゑ許きくたにあるをかりかねの
  いとゝくもゐになりぬなるかな」(36ウ)

    めくるゝ心地してみしろくも
    おほえねとかならすとさふらひ
    つるをいかに/\とくるまの人/\の
    いふに心あはたゝしくて

0169 かりかねのくもゐになかむおりことに
  なれしとこよをこふとしらなむ
    とかみのはしにかきつけし
    はか/\しうも見えさりけむ
    かしとそありし
    をきたまひける枕をかたみに」(37オ)

    見つゝすくしけるに御ふみにかくては
    よろつすゝしうやと思しにつみの
    かうのみおほゆる事のみおほか
    れはなむありし枕たまへ仏
    につくりたてまつらむつみも
    ほろほさむとありけるをゝし
    つゝみてとみに御返もかき
    やられさりけれは(+たゝ)つゝみかみに

0170 た枕のほとけにならむのちの世も
  かりそめふしの人をたつねよ」(37ウ)

    返し御返ことのなきこそ
    中/\ことわりなれとて

0171 今はとてかへす枕はあかねとも
  ともにほとけのみちをちきらむ
    方ふたかりてとみに
    にもかへりたまはさりしほとに
    しも月はかりよりれいならす
    なやましうし給しにいみ
    しう物心ほそけにおほし
    たりしをつねの事に思なして」(38オ)

    あからさまに内よりめしたりし
    かはかくなむときこ江たりけれは
    いとかう心ほそきには

0172 春ちかみ峯のあさひのいつるまも
  またてやつゆのきえはゝてなむ
    くるまよせてれいのとく/\と
    せむるに心地もかきみたりて
    はか/\しうおほえすとて返し
    とあれとなし」(38ウ)

    内にも御くすりの事とてさはき
    みちたるにこなたかなた心の
    いとまなうみたれていそきま
    かりいてたれはちかうおはすと
    おもふはたのもしけれといまは
    ふみなともちからなうてえき
    こゆましきこそくちおしけれ
    こなたにときこゆへけれと
    いまさらにあいなくてかたの
    やうにはなしかしかゝれたり」(39オ)

    けるこそはゝてなりけれ

0173 こかくれにのこれるゆきのしたきえて
  日をまつほとの心地こそすれ
    御返し物もおほえさりしに
    かくまてつゝけむこそ

0174 たれもよにふるそらもなきしたき/えの
  ゆきとまるへき心地こそせね
    これは又いまきゝつけたる也
    法師になり給てのちこの」(39ウ)

    ひめきみのわつらひ給けれは
    あからさまにいて給ひたりける
    をいみしうなき給て御こそ
    てをひかへ給けれはぬきすへ
    していて給てのちにとりに
    たてまつり給とて

0175 こひしとも思心のなけれはや
  よるの衣をかへさゝるらむ
    御返しとてなし」(40オ)

    みたけさうしゝてつれ/\におほ
    されけるに経のさるへき所/\
    人にもよませ我もよみ給ける
    にしすくさうあむといふ所を

0176 わくらはにあへるおやともしらすして
  猶くさのはにやとりをそする
    月のあかゝりける夜

0177 ゆくすゑの月そゆかしきいにしへも
  こよひ許のかけはなかりき」(40ウ)

    うへの御もとかれ/\になり給て
    のちひめ君のみゝすかきを
    かきてたてまつれ給ける返
    事に

0178 あさゆふにわかなてしこの花の色を
  かれ/\になるそてそつゆけき
    あまうへの御もとよりひろめと
    いふ物たてまつり給ける
    つゝみかみにかきつけてをき
    たまひける」(41オ)

0179 よものよにのりもとむれとえかた/きを
  ひろめたまふそうれしかりける

    とありけるを 中将のきみに
0180 もとめてもえかたき人はなにな/れや
  ひろめしのりにあひにしものを
    ときこ江たりけれは

0181 ひろめてもそのにはにこそあらね/とも
  つたふるのりをきくもたのもし
    おかしき所/\人/\よみけるに」(41ウ)

    ゑしまを

0182 もしほ草かきあつめたるゑしまには
  花さく春そいろはとりける
    みゝなし山

0183 むつことはかへのみゝにもわつらはし
  みゝなし山にゆきてかたらむ
    やしほのをかのもみちはこの
    ころなむさかりにおかしきと
    ましけれはきこ江たまひける

0184 思やる心たにゆくもみちはを」(42オ)

    見せてちらすなみねのこからし
    入道殿御返し

0185 名にたかき峯のあらしはさむからし
  もみちのにしき身にしきたれは
    ゑちこの弁にかれ/\になり給
    けるころ菊の花をたてまつる
    とて

  「為時弁也/紫式部没後/祖父存/生之有之歟」(頭注)
  「大弐三位哥也」(傍注)

0186 つらからむ方こそあらめきみならて
  たれにか見せむしらきくの花
    返し」(42ウ)

0187 はつしもにまかふまかきのしらきく/を
  うつろふいろと思なすらむ
    なかたにゝによしのをかといふは
    れいの草木にもあらす人の
    見もしらすなもなきともいふ
    事もしらていみしうめてたき
    もみちのするをか也けりすわう
    のをかとたゝ人のいひつけたり
    けるを入道殿のいりたまて
    やしほのをかとつけたまたり/けるか」(43オ)

    紅葉のいとめてたかりけるころ
    きこ江給ける

0188 思やる心たにゆくもみちはを
  みせてちらすな峯のこからし
    御返し

0189 名にたかき峯のあらしはさむ
  からしもみちのにしきみにし
    きたれは」(43ウ)

    正二位行権中納言兼兵部卿藤原朝臣定頼
      寛徳元年六月九日出家
        二年正月十九日薨五十一
    諸家集多数被失適依
    見此本不顧老病之極熱
    一日終書写之功依慕故
    人也誰同志乎」(44オ)

(白紙)」(44ウ)

    右四條中納言定頼集一冊全
    京極黄門定家卿真筆無疑
    尤可謂證本者也可秘々々
      寛永元三月十一日 為頼(花押)」(45オ)

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