2010年4月1日掲載
2010年4月1日更新
藤原定家加筆「斎宮女御集」(冷泉家時雨亭文庫蔵本)
底本:「斎宮女御集」(冷泉家時雨亭叢書第17巻 平安私家集4所収 朝日新聞社 1996年12月)
太字が藤原定家加筆の部分
=傍記 $ミセケチ #抹消 &重ね書き □△判読不明 < >注記
「斎宮女御集」(表紙 打付書)
斎宮女御」(扉裏)
まいり給てまたの日の御
0001 おもへともなをあやしきはあふことの
なかりしむかしいかてへつらむ
御返し
0002 むかしともいまともいさやおもほえす
おほつかなきはゆめにやあるらむ
\
あひしれりける人のものより
きてすけにふみ越さしてこれは
いかゝみるといへりけるによめる
\
0003 しらすけのま野ゝはきはらゆくさくさ」(1オ)
\
きみこそみらめまのゝはきはら
のほり給へとありける夜なやま
しときこえ給てまいり給はさり
けれは御
0004 ねられねはゆめにもあはすはるの夜を
あかしかねつる身こそつらけれ
御返
0005 ほともなくあくといふなるはるの夜は
ゆめもゝのうくみえぬなるらむ
もろともにおほむことひかせ給て
そのよまかて給けれは又の日御」(1ウ)
0006 あかさりしことこそいまもわすられね
いつしかゝへるこゑ越きかはや
返
0007 思いつることはのちこそうかりけれ
かへらはかはるこゑやきこえむ
又五月五日けふよりはいかに
0008a さ月やみおほつかなさのいとゝまさらむと
きこえ給へりけれは
0008b なかめやるそらはさのみや
又御」(2オ)
0009 いはてかくおもふ心をほとゝきす
夜ふかくなきてきかせやはせぬ
御返
0010 ものをこそいはてのやまのほとゝきす
人しれぬねをなきつゝそふる
六月つこもりに給へる御文につけて
0011 あきちかくのはなりにけり人の心のと
きこえ給へれは
0012 あきちかくなるもしられす夏のゝに
しけるくさはとふかき心は
御返」(2ウ)
0013 なつすくる野辺のあさちはしけゝれと
つゆにもかゝるものとこそきけ
七月七日うちの御
0014 こよひさへよそにやきかむわかための
あまのかはらはわたるせやなき
御返し
0015 あまのかはふみゝることのはるけきに
わたらぬせともなるにやあるらむ
又うちの御
0016 なか月のありあけのつきはすきゆけと
かけたにみえぬきみかつらさよ」(3オ)
御返し
0017 しくれゆくそらもおほろにおほつかな
かけはなれぬるほとのわりなさ
かくてまいり給てさるへき事
ありてまかて給にけれはとくたに
まいらせ給へとてしはすのつこも
りにうへの御
0018 つれもなき人のためにはいとゝしく
としもへたつるものにさりける
かへし
0019 いまいくかありともみえぬとしよりも
ふりゆく身こそかなしかりけれ」(3ウ)
としかへりて正月ゆきのふる日
0020 しらゆきとつもれるこひのあやしきは
けふたつはるもしられさりけり
かへし
0021 いとはるになるたにある越ふる雪の
心とけすときくもうき哉
又子日さしてありけるうちの
0022 ねのひにはいかにせよとかうちはへて
まつをもしらぬ心なるらむ
返し
0023 はるよりもあさきみとりの色みれは」(4オ)
ひとしほますはなきなゝりけり
まいり給はむとありけるほとの
すきけれはうちの
0024 なか/\にいつともしらぬときよりも
いまかとまつにあはぬ心よ
返し
0025 わすれくさおふとしきけはすみのえの
まつもかひなくおいにける哉
まいり給けるにわたり給て
いかなる事かありけむ返給て
0026 みつのうへのしかなきこともおもほえす」(4ウ)
ふかき心しそこにとまれは
かへし
0027 わすれかはなかれてあさきみなせ
なれる心やそこにみゆらん
又まかて給て五月まてまいり給
はさりけれは
0028 さとにのみなきわたるなるほとゝきす
わかまつときになとかつれなき
返し
0029 ほとゝきすなきてのみふるこゑ越たに
きかぬ人こそつれなかりけれ」(5オ)
ときこえ給たりしにうちのきかぬ
とかありしかはとて
0030 かくはかりまつちのやまのほとゝきす
心しらてやよそになくらむ
御返し
0031 とひかたき心をしれはほとゝきす
をとはのやまになくにやあるらん
院の御ふくになり給てのころ
うちの御
0032 すみそめの身にむつましくなりしより
おほつかなきはわひしかりけり」(5ウ)
御返し
0033 すみそめのいろたになくはほのかにも
おほつかなさをしらすやあらまし
しはすのつこもりの日ことしはけふ
越との給はせける御返に
0034 のこりなくなりはてにけるとしよりも
とまらぬ人の心をそみる
まいり給ての御てならひに
0035 たのみくる人のこゝろのそらなれは
くもゐのかはにそてそぬれける」(6オ)
なとかいたまふたりけるにうへも
かきませさせ給へりける
0036 かつみれとなをこそ恋のみちにけれ
むへも心のそらにみゆらむ
0037 なかれいつるなみたのかはにしつみなは
身のうきことは思やみなん
うちの御
0038 なみたかはそこにもふかき心あれは
みなれわたらむとおもふなるへし
0039 かくはかり思はぬやまにしらくもの
かゝりそめけむことそくやしき」(6ウ)
又うちの御
0040 くゆるこそあたにおほゆれふしのねの
たえぬけふり越あはれとはみて
御かへし
0041 身のうきを思いりえにすむとりは
なをゝしとこそねをもなきけれ
とありけるをまかて給日なりけれは
うへの御かへし
0042 たちわかれゆくをしとりのとゝめかね
こよひなくねや人もきくらむ
又」(7オ)
0043 みかきもるゑしのたえたる我なれや
たくひまたなき物思らむ
御返し
0044 たゆるよもなしとこそきけ君かため
つけて(て$)そめ(め+て)けるゑしのたく火は
たゝにもあらてまかて給けるころ
いかゝと御とふらひありけるに十月
はかりにほとちかうなり給て心ほ
そくおほされけれは
後拾
0045 かれはつるあさちかうへのしもよりも
けぬへきほと越いまかとそまつ」(7ウ)
またよそにてとし月のふるは
おほえ給はぬかと申給けれは
0046 かきくらしいつともしらすしくれつゝ
あけぬ夜なからとしもへにけり
又しはすのつこもりになとかあれたる
所にかくのみなかゐし給ときこえ給ける
御返にこ宮もおはせてのちなるへし
0047 なかめつゝあめもなみたもふるさとの
むくらのかとのいてかたき哉
とありける御返をついたちになむ
ありける」(8オ)
0048 あたらしくたつとしさへやふるさと越
いてかてにすときみかいふへき
はるになりてまいらむときこえ給け
れとさもあらさりけれはまたとしも
返らぬにやとの給はせたりける御返越
かえてのもみちにつけて
0049 かすむらんほと越もしらすしくれつゝ
すきにしあきのもみち越そみる
とありけれはうへの御返し
0050 いまこむとたのめてへぬる事の葉そ
ときはにみゆるもみちなりける」(8ウ)
返し
0051 いまとのみおもふ月日のすくめれは
かはるときは越かたみとそみる
こ宮うせ給てのちさとにひさしく
おはしけれはなとかくのみまいり給はぬ
とありけれは御返につれ/\ともの
心ほそくおほえ給てかきあつめ給へ
りけること越とりあやまちたるやう
にてまいらせ給へりける御返ともさ
りけなくて御ふみのうちにあり
0052 かきたえていくよへぬらむ
うへの」(9オ)
0052 いとみしかくもおもふへき哉
女御との
0053 たちくもるさほのかはきりはれすのみ
ひたくるそらにほとのふる哉
0054 風ふくになひくあさちはわれなれや
人のこゝろのあきをしらする
うちの御
0055 うちはへておもふかたよりふくかせに
なひくあさち越みてもしらする
0056 しらるゝにわするゝものはおほつかな
もにすむゝしのなにこそありけれ
内御返し
0056aわするらむもにすむゝしの名をとはゝかひもありとそあまは」(9ウ)
つけまし
0056bさとわかすとひわたるなるかりかねをくもゐにきくは我身なりけり
うちの御返し
0057 たまつさをつてけるほとはと越けれと
とふことたえぬかりにやはあらぬ又
0058 たまつさのたまさかにてもあれはこそとふしるしにはかりにてもくれ
又
0059 ほのかにもかせはつけしな花すゝき
むすほゝれつゝ露にぬるとは
御返し
0060 はなすゝきこちふく風になひきせは
つゆにぬれつゝあきをへましや
又
0061 秋の野のおきのしたねになくむしの」(10オ)
しのひかねては色にてぬへし
うちの御返し
0062 あきのゝにしのひかねつゝなくむしは
きみまつむしのこゑにやあるらむ
又
0063 たにかはのせゝのたまもをかきつめて
たかみくつとかならむとすらむ
内の
0064 かはのせにたまものうけることなれや
心はせけともえすといふらむ
また
0065 ひまもなく心ひとつにみるひとの」(10ウ)
もらせはもるゝ水もありけり
又
0066 なかめするそらにもあらてしくるゝは
そてのうちにや秋はたつらむ
内の御返し
0067 よそにのみふるにそゝてのひちぬらむ
心からなるしくれなるらむ
又
0068 しらつゆのきえにしほとのあきはなを
とこよのかりもなきてとひけり
うちの御
0069 かりかねのくるほとたにもちかけれは」(11オ)
きみかすむさといくらなるらん
ひさしとあるたにたひ/\になれは女御殿
0070 うらみつのうらにおいたるあしゝけみ
ひまなくものをゝもふころかな
うちの御
0071 うらむへきこともなにはのうらにおふる
あしさまにのみなとおもふらむ
又
0072 うらみては思しらなむしらなみの
かゝるをあしといふにそありける
又」(11ウ)
0073 いかにそやなのりそれよとゝはむにも
わすれかひとやあまはいはまし
いかなりけるにかありけむ
0074 さかさまにいふともなにかつらからむ
かへす/\も身越そうらむる
すけなりかむすめ東宮にまいらせ
むときゝておとこにつきたりときゝて
0075 むすふ人ありけるものをふゆかはの
はるくるかせと思けるかな
ちかきほとにわたらせ給てをとつ
れきこえさせ給はさりけれは女三宮より」(12オ)
0076 へたてけるけしき越みれは山ふきの
花心ともいひつへきかな
御返し女御とのゝ四の宮
0077 いはぬまをつゝみしほとにくちなしの
色にやみえし山ふきの花
うへわたらせ給てむらさめにおとろ
かされていそき返らせ給に
0078 あめふらはみかさのやまもあるものを
またきもさはく雲のうへ哉
女御うせさせ給てさい院よりとふらひの
御返に」(12ウ)
0079 かけみえぬなみたのふちのころもてに
うつまくあはのきえそしぬへき
うちよりひさしくまいらせ給はぬ事と
ある御返に
0080 とふことのはるかなるにはうくひすの
ふるすすたゝむことそものうき
まうのほらせ給へるにうへの御とのこも
らせ給へるほとなれはたゝにおりさせ
給てまたの日
0081 かくれぬにおふるあやめのうきねして
はてはつれなくなる心かな」(13オ)
うへよりまとをにあれやときこえ給へ
る御返に
0082 なれゆけはうきめかれはやすまのあまの
しほやきころもまとをなるらん
御
0083 ぬき越あらみまとをなれともあまころも
いくそたひかはそてのぬれける
又
0084 もしほやくけふりになるゝあまころも
うきめをつゝむそてにやあるらむ
まかてゝひさしくまいらぬに
0085 あまつそらそこともみえぬおほそらに」(13ウ)
おほつかなしとなけきつる哉
女御との御返
0086 なけくらむ心をそらにみてしかな
たつあさきりに身をやなさまし
うへひさしくわたらせ給はぬころ秋の
ゆふくれにきむをいとおかしくひかせ
給にいそきわたらせ給て御かたはらに
ゐさせ給へと人おはしますともしらせ
給はぬけしきにてことにひかせ給越きか
せ給へは
0087 秋の日のあやしきほとのゆふくれに
おきふく風のをとそきこゆる」(14オ)
(白紙)」(14ウ)
0088 あめならてもる人もなきわかやとは
あさちかはらとみるそかなしき
三条のこ院にて
0089 我ならてまつうちはらふ人もなし
よもきのはら越なかめてそふる
内にて御前のふち越なむよる/\しの
ひて人こくときかせ給て
0090 あさことにうすとはきけとふちの花
こくこそいとゝいろまさりけれ
ちゝ宮おはしける時はゝうへの御かたち
なと越いまきたの方にかたりきこえ
給て御くしのめてたかりしはまたあ
らむとてとりにたてまつり給けれは」(15オ)
0091 からもなくなりにしきみかたまかつら
かけもやするとをきつゝもみむ
とてたてまつらせ給はす宮うせ給て
のち正月一日
0092 いむなれとけふしもゝのゝかなしきは
としをへたつとおもふなりけり
ゆきふる日の心ほそきに
0093 はかなくてとしふるゆきもいまみれは
ありし人にはおとらさりけり
まゝはゝのきたの方
0094 みし人のくもとなりにしそらわけて
ふるゆきさへもめつらしき哉」(15ウ)
そのはらからの少将みやつかへすへしと
きかせ給てさてすきくれのとの給は
せたりけれは少将
0095 かすならてあつさのそまにたちぬとも
すきのもと越はいつかわすれむ
御返し
0096 わすれしといふにもよらしみわのやま
すきのもとにはあめもゝりけり
せんたいの御せうふんにてつからかゝせ
給へるものをむまの内侍にみせに
たまはせたれはうへのみせむとの給は
せしにかくれさせ給にしかはくちおし」(16オ)
かりしをうれしくとて
0097 たつねてもあとはかくてもみつくきの
ゆくゑもしらぬむかしなりけり
とて中にいれて御文には
0098 きみにのみとゝめをきてしいにしへの
たえにしあと越みるそかなしき
したにみちのくにかみのあるにかきつく
0099 はまちとりあとあるをたにとゝめねは
たゝしらなみはかへすはかりそ
返し
0100 いにしへのなきになかるゝみつくきの
あとこそゝてのうらによりけれ」(16ウ)
0101 みつくきのはかなきたにもきえなくに
ゆくゑもしらぬむかしなりけり
返し
0102 はまちとりみなれしあと越ゝきつなみ
かへすやあさき心なるらむ
せんえう殿の女御の御もとより
0103 たまさかにとふひありやとかすかのゝ
のもりはいかにつけやしてけむ
御返し
0104 かすかのゝゆきのしたくさ人しれす
とふひありやと我そまちつる
野ゝ宮におはしけるころ三条の宮に」(17オ)
まゆみのもみちのひと葉ありけるに
さして
0105 こからしのかせのつかひはちかけれと
人はわするゝものにそありける
おなしのゝ宮にて琴風にかよふと
いふ題を
拾
0106 ことのねにみねのまつかせかよふらし
いつれのをよりしらへそめけむ
同
0107 まつかせのをとにみたるゝことのねを
ひけはねのひの心地こそすれ
いせにくたり給ておなし宮のみて
くらつかひにてくたりけるに御文」(17ウ)
のなかりけれは
0108 ふりはへも人はとふへきゆきゝちの
とくるつかひもとゝこほりけり
うちにおはせし時ひゝなあそひに
神の御もとにまうてたる女におと
こまうてあひてものいひかはす
0109 そのかみはさしもおもはてこしかとも
思ことこそことになりぬれ
女返し
0110 神世ゝりいのることたにあるものを
あたし思ひやいかゝなるらむ
おなしひゝなやしろのまへのもみち」(18オ)
ちるところにて
0111 かせはやみ神のあたりをはらふらむ
はやきせゝにもちるもみちかな
むまの内侍山ふきにさして
0112 やへなからあたにみゆれは山ふきの
したにこそなけゐてのかはつは
御返し
0113 やへ越たにあたにみえける山ふきの
ひとへ心を思こそやれ
ひさしくさとにおはしけるころおな
し内侍のもとに」(18ウ)
0114 ゆめのことおほめかれゆく世中に
いつとはむとかをとつれもせぬ
伊勢へのちのくたりのたひむか
しをおほしいてゝ
拾
0115 世にふれはまたもこえけりすゝか山
むかしのと越く(と越く$いまに)なるにやあるらむ
宮御返し
0116 すゝかやましつのをたまきもろともに
ふるにはまさることなかりけり
大王の宮に
後拾
0117 おほそらにかせまつほとのくものいの
心ほそさ越思やらなむ」(19オ)
御返し
0118 思やるわかころもてはさゝかにの
くもらぬそらにあめそふりける
一品宮よりかみをつきてこれに
ものかゝせ給てときこえ給へれは
ことかみ越つきてかゝせ給て宮
0119 くものいのかく/\へくもあらねとも
つゆのかたみをけたぬなるへし
御返し
0120 かくよりもはかなくみゆるくものいを
露のかたみにみるそかなしき」(19ウ)
伊勢の御くたりに斎院より
0121 あきゝりのたちてゆくらむ露けさに
こゝろをそへて思やるかな
おほむかへし
0122 よそなからたつあきゝりはなになれや
のへにたもとはわかれぬものを
もゝそのゝ宮にこと越かりきこえて
かへしたてまつらせ給に
0123 きゝならすことはへにけることなれと
あはぬこゑこそかひなかりけれ
御返しあい宮
0124 いはのうへのまつのためし越ひきかけは」(20オ)
世にあふことはたかひしもせし
いせより
新
0125 人をなをうらみつへしや宮ことり
ありやとたにもとふ越きかねは
御返
0126 とはねともふかきこゝろはいせのうみの
そこなるあまにおとりやはする
みねのきみうせ給てのころ
0127 世のほかのいはほのなかもはかなくて
みねのけふりといかてなりけん
御返しおなし」(20ウ)
0128 はかもなき世をすてはてし人そまつ
けふりになりてさきにたちける
一品宮よりいせの御くたりに
0129 わかれゆくほとは雲井にへたつとも
おもふ心はきりもさはらし
御返し
(一行分空白)
おなしおりに女御とのより
0130 あきゝりとたちいつるたひのそらよりも
いまはときくのつゆそこほるゝ
御返し」(21オ)
0131 きくにたにもりけるつゆ越むへしこそ
をくるゝそてのかはかさりけれ
しのひてくたり給へはなるへし
あまにならせ給ぬときゝてつちみかと
0132 あまをふねなるとにはやくこきてぬといふ
かいのしつくにきみもいかにそ
御返し宮
0133 あさましくふねなかしたるあまよりも
わかそてのうらのしほもかはかす
兵部卿宮入道し給へりしにいせより
0134 かゝらてもくもゐのほと越なけきしに
みえぬ山ち越思やるかな」(21ウ)
女三宮の御さうしかゝせたてまつら
せ給けるにあしてなかうたなと
かゝせ給ておなし心
0135 みな人のそむきはてぬるよの中に
ふるのやしろの身越いかにせむ
いせにおほよとのうらといふ所に松
いとおほかりける越御はらへに
0136 おほよとのうらたつなみのかへらすは
かはらぬまつのいろをみましや
七月七日
0137 わくらはのあまのかはなみよるなから」(22オ)
あくるそらにはまかせすもかな
おなし日かたわきてせんさいあは
せゝさせ給ける越あめいたうふりて
かた人心もとなかりけれは女御殿
0138 あまのかはきのふのそらのなこりにも
みきはいかなるものとかはしる
ためちかゝはらからのためくに五月
五日まいりて宮のおまへのやり水
をみかはのいけとなむいふなる大はん
所にて
0139 ことしおいのみかはのいけのあやめくさ
なかきためしに人のひかなむ」(22ウ)
返し女御との
0140 おいの世をいへはえなりやあやめくさ
ちよにあふちの花をこそみめ
しのひてくたり給なりとて女御殿より
0141 すゝか山ふるのなかみちきみよりも
きゝならすこそをくれかたけれ
くたり給心はへなるへし御返いせより
0142 すゝかやまをとにきゝけるきみよりも
心のやみにまとひにしかな
又御返し
0143 はかなくてくもとなるともやまひこの
こたへはかりはそらにきかなむ」(23オ)
女三の宮の御ふくぬき給ころ一品の宮
にいせより
0144 あきはてゝ野辺のくさきもいろかはり
あらぬいろなるころもいかにそ
伊勢よりれいけい殿さい宮にとて
0145 うらとほみはるかなれともはまちとり
宮このかた越とはぬひそなき
御返し
0146 とひくるをまつほとすきはゝまちとり
なみまに猶そうらみらるへき
内にてなにのおりにかありけむ
0147 こちかせになひきもはてぬあまふねは」(23ウ)
身をうらみつゝこかれてそふる
ひさしくまいり給はさりけれはうへの
ゆめにみえさせ給ける
新
0148 ぬるゆめにうつゝのうさもわすられて
みる(みる=思ひ)るになくさむほとのはかなさ
又ことおりに
0149 わひぬれは身越うきくもになしつゝも
思はぬ山にかゝらすも哉
女御とのゝ御かたに花のありけるを御ら
むせむとおほせられけれはむめのえた
をゝりて
0150 みつゝのみなくさむはなのえたなれは」(24オ)
つけて心や思やらまし
御返し
0151 むめのはなしつえのつゆにかけてける
人の心はしるくみえけり
はるまかて給て秋とやきこえ給けむ
0152 春ゆきてあきまてとやは思ひけむ
かりにはあらすちきりし物を
御返し
0153 はるやこしそらのゆくゑもおもほえす
秋とはかり越きくそかなしき
なやませ給けるころうへ
0154 かゝるをもしらすやあらむしらつゆの」(24ウ)
けぬへきほともわすれぬものを
いかなるおりにかありけむ
0155 いかにそやなのりそれよとゝはむにも
わすれかひとやあまはいはまし
兵部卿宮四君
0156 ときはなるまつにつけてもとふやとて
いくたひはる越すくしきぬらん
御返し女御
0157 かくみするおりもやあるとふちの花
まつにかゝれる心なりけり
御せうとのかよひ給人にたえ給へる
もとより」(25オ)
0158 わすれゆくはるのけしき越かすむとて
つらきよしのゝ山もことはり
女御とのゝ御返し
0159 ときはやまいろかはらめやはるかすみ
たなひくかたはことになるとも
いけにふちかゝりたる越女御との
後拾
0160 むらさきにやしほそめたるふちの花
いけにはひさすものにそありける
又いかなるおりにか
0161 よそならぬときはのやまもしくれつゝ
いつもふもとのくさはぬれしや
0162 うらみても思ひしらなむしらなみの」(25ウ)
かゝるをあしといふにさりける
また
0163 ひまもなく心ひとつにみる人の
もらせはもるゝみつも
ありけり」(26オ)
(白紙)」(26ウ)