架蔵本「三躰和歌・自讃歌」断簡(画像・翻刻)

2012619日作成(第1稿)

 

凡例

1.「三躰和歌」と題名のある断簡を第1丁とし、その和歌番号順に整理し、画像と翻刻を対照させた(途中「自讃歌」が錯入する)。【追記】画像は権利の関係で取り払っている状態である(2015.02.16.NPO編集)

2.和歌の冒頭に新編国歌大観の和歌番号を冠した。太字ゴシック体漢数字は「三躰和歌」の和歌番号、普通明朝体漢数字は「自讃歌」のそれを表す。

3.破損によって読めない箇所は□で表示し、一部欠損するもののその字母が判読できる箇所は□で囲って表示した。

4.各丁の右面・左面の境界については、」印を付けて(右)または」(左)と表示した。

5.一行中に改行がある箇所については、/印で表示した。

6.朱書の書き入れはその文字の後に〈朱〉と記した。なお墨書は特に断らない。

7.墨書の書き入れには大書字と小書字との2種類が存在するので文字の大きさを表示し分けた。

 


(第1紙)

三躰和歌

春夏はふとくおほきによむへし

秋冬はほそくからひて

恋旅はえむにやさしく

     作者

左馬頭(後鳥羽院<朱>)親定     左大(良経<朱>)

   天台(慈円<朱>)座主      定家朝臣

    □隆朝臣      寂蓮法師

□長明」(1右)

 

       春            親定

 □りかへるとこよのはな()のいかなれや

月はいつくもすゑのまつ山(おなし春の夜<朱>)

       夏

 なつの夜のゆめちすゝしき秋のかせ

さむるまくらにかほるたち花

       秋

 しほれこしたもとほすまもなか月の

りあけの月に秋かせそふく」(1左)

 



(第2紙)

       冬

 おもひ(思ひ)つゝ明行よはのふゆ()()

やとりや()はきそてのこほり

       恋

 いかにせむなをこり(こり)すまの浦風

くゆるけふり()のむすほゝれつゝ

       旅

 たひころも()つゝなれ行月やあらぬ

はるやみやことかすむよのそら」(2右)

 

一二二 たつねきて花に暮せる木の間より待としもなき山のはの/月

一二三 絶てやは思ひありともいかゝせむ葎の宿の秋の夕くれ

一二六 払かねさこそは露のしけからめやとるか月のそてのせはき/に

一二七 移行雲に嵐の声す也ちるかまさきのかつらき/の山

一二九 秋の色を払果ゝや久堅の月のかつらにこからしのかせ

一三〇 徒に立や浅間のゆふけふりさととひかぬる遠近/の山

一二五 なれ/\てみしはなこりの春そともなと白妙(白川<朱>)の花の下陰

一二四 か代にあへる計の道はあれと身をは頼ます行末/の空

一二八 □□結ひさためむ方しらすならはぬ野辺の夢の/かよひ地」(2左)

 


(第3紙)

一六三 なかむとて花にもいたくな馴ぬれは散わかれこそ悲/しかりけれ

一六四 あはれいかに草葉の露のこほるらん秋かせたちぬ宮城/のゝ原

一六五 月見はと契ていてし故さとの人もやこよひそて/濡すらむ

一六六 蛬夜さむに秋のなるまゝによはるか声のとをさかり/行

一六七 つの国の難波の春は夢なれや蘆のかれ葉にかせ/わたる也

一六八 としたけて又越ゆへしとおもひきやいのちなり/けり小夜の中山

一六九 風になひく富士のけふりの空にきえて

行ゑもしらぬ我

おんひ哉

一七〇 □まさとに憂世いとはむ

(友<朱>)もかなかなしく過し

むかしかたらむ」(3右)

 

                    左大臣

 春霞(アツマ)よりこそ立にけれ浅間のたけは雪けなか/らに

 松()てるよさのみなとの夕涼今吹南(フカナン)奥津塩かせ

 荻原や夜半に秋風露吹はあらぬ玉散とこの/さむしろ

一〇 やまさとはまきの葉しのき霰ふりせきいれし水/の音信もなき

一一 わすれなむなか/\またし待とてもいてにし跡は/庭のよもきふ

一二 ゆめにたに逢夜稀なる都ひとねられぬ月に/遠さかりつゝ

                    天台座主

一三 □川花の音してなかるめりかすみのうちのかせも/とゝろに」(3左)

 


(第4紙)

一四 ()こもかるみつのみまきの夕間暮寝ぬにめ覚す郭公

一五 秋ふかきあわちの島の有明にかたふく月を送る/うらかせ

一六 ふるゆきにいその松風むすほゝれしまめくりする/浪聞ゆ也

一七 人しれぬなみた計に(ヌレ)きぬを夢に干てや返してそぬる

一八 そての露うらめしき迄旅衣草しくとこに秋/かせそ吹

                    定家朝臣

一九 花盛かすみのころもほころひて(みね)白妙の天の香久

二〇 □雨のふるの神杉すきかてにこたかくな乗郭公/哉

二一 □□よふをたのかりほのさむしろに月と()わかすいねかてのそら」(4右)

 

一五四 □□夕への空を人問はなきても告よはつ雁の/こゑ

一五五 □□移ひ行は玉鉾の道の山かせさむく吹/らし

一五六 □汐たく蜑の磯辺の夕けふり立名もくるし思ひ/絶なて

一六〇 □てのうへに誰ゆへ月は宿るそとよそになしても人の/とへかし

一五七 今こんと契し事を忘れすはこの夕暮の月や待覧

一五八 露をたに今は形身の藤衣あたにもそてを/吹嵐哉

西行法師

一六一 芳野山さくらかえたに雪散て花をそけなるとしにも/あるかな

一六二 □□□ま軅ていてしとおんふ身を花散なはと/ひとやまつらん」(4左)

 


(第5紙)

一四七 恨わひまたし今はの身なれともおもひ馴にし夕暮の空

一四六 おもひあれは袖に蛍を裹ても云はや物を問人はな/し

一四八 さとは荒ぬむなしき床のあたり迄身はならはしの秋/かせそ吹

一四九 月の行山に心を送入てやみなる跡の身をいかにせん

秀能

一五一 夕月夜汐みちくらし難波江の蘆のわか葉を越る白浪

一五二 足曳の山路の菊の露の上に寝覚夜ふかき月を/みる哉

一五九 月すめは四方の浮雲空にきえてみ山かくれを行嵐/かな

一五三 □さとの風すさましきゆふくれに木の葉みたれれて/物そかなしき」(5右)

 

二二 ちと(チト)りつまとふ月のかけさむし蘆の枯葉の雪のしたかせ

二三 たのむ夜の木の間の月も移ひぬこゝろの秋の色を/うらみて

二四 そてにふけさそな旅ねのゆめも見しおもふかたより/かよふ(浦<朱>)かせ

                    家隆朝臣

 さくら花散かひかすむ久堅の雲井にかほる春の/山かせ

二六 烏羽玉の夜は明ぬらし足曳の山時鳥一こゑのそら

二七 虫の音もなみた露けきゆふくれにとふものとては/荻の上かせ

二八 なかめつゝ幾度そてにくもるらんしくれにふくる/有明の月

二九 見すもあらぬなかめはかりのゆふくれを

ことあり顔になになけく

らむ」(5左)




(第6紙)

三〇 たひねするゆめちはゆるせうつの山せきとはきかす/もる人もなし

                    寂蓮法師

三一 かつらきやたかまのさくら咲にけりたつたのおくにかゝる/しら雲

三二 なつの夜の有明の空の郭公月より落る夜半の一こゑ

三三 軒ちかき松()はらふ()秋の風つき(ツキ)はしくれのそらもかはらて

三四 山ひとのみちの便もをのつからおもひたえねとゆきは/ふりつゝ

三五 うきなからかくてやつゐに()をつくし渡らてぬるゝ/えにこそ有/けれ

三六 □さしのゝつゆをはそてに分わひぬ草のしけみに/秋風そ吹

                    鴨長明」(6右)

 

一三八 □めよと思はて霜やかへるらむ月まつ浦の海士の/釣舟

一三九 木からしやいかにまちみん三輪の山つれなき杉の雪/折のこゑ

寂蓮法師

一四一 今はとてたのむの雁も打侘ぬ朧月の明ほのゝ空

一四二 かつらきや高間のさくら咲にけり龍立の奥に掛る/しら雲

一四三 物おもふ袖より露やならひ釼秋かせ吹は絶ぬ物/とは

一四四 むら雨の露もまたひぬ槙の葉に霧立のほる秋の夕くれ

一五〇 さひしさはその色としもなかりけり槙立山の秋の夕暮

一四五 □のなみ越ける身こそあはれなれことしも今は/すへの松山」(6左)

 


(第7紙)

具親朝臣

一三一 難波かた霞まぬ浪も霞けりうつるも曇る朧月/よに

一三二 ときしもあれたのむの雁の別さへ花散比のみ吉のゝ山

一三三 しき妙のまくらの上にすきぬ也露を尋ぬる秋のはつ/かせ

一三四 月の秋はなのみそ夜のもしほ草かくかき絶て見る夢/もなし

一三五 今は又ちらてもまかふ時雨哉ひとり深行庭のまつかせ

一三六 晴曇る影を都に先たてゝしくると告る山の端の月

一四〇 □をさかる雲井の雁のなこりさへ霞めはつらき難/は江の月

一三七 □□もかくうきてよにふるためしありやたゝよふくもの/あとのむら雨」(7右)

 

三七 □さそふ天津春かせかほるなりたかまの山の花さかり/かも

三八 □みなれし卯の花月夜ときふけ(すき)てかきねにうとき山郭公

三九 □ひのまの月のかつらのうすもみちてるとしもなき/初秋の空

四〇 さひしさはなをのこりけり跡たゆる/落葉か上の今朝のはつ雪

四一 しのはすよしほりかねぬとかたれひと(ヒト)ものお()ふそてのはてぬまに

四二 たひころもたつあかつきの

わかれより

しほれし

はてや

宮城

のゝ露」(7左)

 


(第8紙)

自讃歌

後鳥羽院

一 さくらさくとを山鳥のしたり尾のなか/\し日もあかぬ色哉

二 露は袖にものおんふ比はさそな置かならす秋(の<朱>)ならひならねと

九 おもひ出る折焼柴の夕煙むせふもうれし忘形身に

一〇 なき人の形身の雲やしくるらん夕への雨に色は/みえねと

三 みるまゝに山風荒くしくるめり都も今や夜さむなるらん

四 か恋はまきの下葉にもる時雨ぬる共袖の色に出めや

五 □□の露はあらぬ色にそきえかへる(移<朱>)は替せし/まに」(8右)

 

九六 あちきなくつらき嵐の声もうしなとゆふ暮をまち/ならひ釼

九八 きえ侘ぬ移らふ人の秋の色に身をこからしの森の/下露

九七 玉ゆらの露も涙もとゝまらすなき人こふる宿のあきかせ

九九 いつくにかこよひは宿をかり衣日もゆふくれの嶺の/嵐に

一〇〇 袖に吹さそな旅ねの夢も見しおもふ方より/かよふ浦かせ

家隆朝臣

一一一 桜花夢かうつゝかしら雲のたえてつれなき嶺の/はるかせ

一一二 いかにせん来ぬ夜あまたの郭公またしと思へは村雨/の空

一一五 □□にとはむとおもひし津の国の生田の森に/秋はきにけり」(8左)

 


(第9紙)

一〇八 岩かねの床に嵐を片敷て独やね南さよの中山

一〇九 我はかりおもふか物をとはかりに袖にしくれし庭の松風

一一〇 春の雨のあまねき御代を頼む哉霜に枯行草葉/もらすな

定家朝臣

九一 春の夜の夢のうき橋とたへして峯にわかるゝ横雲/の空

九二 駒とめて袖うちはらふ影もなしさのゝ渡のゆきの夕/暮

九四 松かねを磯辺の浪のうつたえに顕れぬへき袖の上哉

九五 □へるさのものとや人のなかむらん待夜なからの有明の/月

九三 しもへぬ祈契は初瀬山尾上の鐘のよその/ゆふ暮」(9右)

 

六 □空に契るおもひのとしもへぬ月日も受よ行すゑの雲

八 瑞籬やわか世の始契置しそのことの葉を神や受釼

七 詠めはや神路の山に雲消てゆふへの空にいてん月影

式子内親王

一一 山ふかみ春ともしらぬ松のとにたえ/\かゝるゆきの玉水

一二 なかめつるけふはむかしに成ぬ共軒端の梅は我を忘/な

一四 桐の葉もふみわけかたく成にけりかならす人をまつと/なけれと

一三 詠侘ぬ秋より外の宿もかな野にも山にも月や/すむらん

一五 □まつと閨へもいらぬまきの戸にいたくな更そ/山の端の月」(9左)



(第10紙)

一六 夢にてもみゆらんものを嘆つゝ打ぬる宵の袖の景/色は

一七 忘ても打なけかるゝゆふへかな我のみ知て過る月日を

一八 玉のお(よ<朱>)たえなはたえねなからへはしのふる事のよはりもする

一九 生てよも明日まて人はつらからし此夕暮を問はゝとへ/かし

二〇 それなからむかしにもあらぬ秋かせにいとゝ詠を賤の/をたまき

後京極摂政太政大臣

二一 よし野は山も霞てしら(雪<朱>)のふりにしさとに春はきに/けり

二二 □□□とを(押<朱>)明方のくも間より神代の月の影そ残/れる

二五 □□求て袖にやとれ月さりとて人の影はみえね/と」(10右)


八二 □□そふ比良の山風吹にけりこき行舟の跡みゆる/まて

有家朝臣

一〇一 日影匂へる山のさくら華つれなく消ぬ雪かとそみる

一〇二 こぬ秋のいつくれはてゝ薄氷むすふ斗の山の井の/水

一〇三 大淀の月に恨てかへる浪松はつらくも嵐吹也

一〇四 花をのみ惜なれにし御吉野ゝ木すゑに落る有明/の月

一〇五 行としを小島の蜑の濡衣かさねて袖に浪やかゝらむ(掛覧<朱>)

一〇六 □思はてたゝ大方の露にたにぬるれはぬるゝ秋の/袂も

一〇七 □□□へす夢地はむなしくて月をそ見つる/在明の空」(10左)



(第
11紙)

八一 かきくらし猶ふるさとの雪の内に跡こそみえね春は/きにけり

八三 かたゑさ(す<朱>)おふの浦なしはつ秋に成もならすもかせそみにしむ

八四 心ある小島の蜑の袂哉月宿れとはぬれぬものから

八五 月を猶まつらむものかむら雨の晴行くもの末のさと人

八六 まとろまてなかめよとてのすさひかな麻の小衣月に/うつ声

八七 霜をまつ籬の菊のよひのまに置迷ふる(まよふ<朱>)色は山の/はの月

八八 立た川嵐や峯によはるらん渡らぬ水(も<朱>)錦たへけり

八九 ら錦秋の形身や龍田山散あへぬ枝に嵐吹也

九〇 □□やいかにうわの空成風たにもまつに音する習/ありとは」(11右)

 

二三 雲は皆はらひ果たる秋風(を<朱>)松に残て月をみる哉

二四 いつもきく物とや人の思ふらむこぬ夕暮のまつかせの/こゑ

二六 わすれしと契ていてし俤をみゆらむ物を古郷の/月

二七 いはさりき今こむまての空の雲月日へたてゝ物おもへ/とは

二九 人住ぬ不はの関屋の板ひさし荒にし後は只秋のかせ

三〇 春日山都の南鹿そ思ふきたの藤なみ春にあへとは

二八 おもひあはむかきりはいつとしらねとも月な隔そ/よそのうきく()

前大僧正慈円

三一 □□まてか涙くもらて月はみし秋まちゑても秋は/恋しき」(11左)

 


(第12紙)

三三 野辺の露は色もなくてやこほれつる袖より過る荻の/うわ風

三二 木の葉散宿に片しく袖の色を有共しらて行嵐哉

三四 岡の辺のさとに主を尋ぬれと人はこたへす山颪のかせ

三五 おもふ事なととふひとのなかるらむあふけは空に月もさや/けき

三六 をしなへて日吉の影は曇らぬに涙あやしき昨日/けふ哉

三七 よの中の晴行空に降霜のうき身ひとつそ置所/なき

三八 山さとに契し廬やあれぬらむまたねむとたに思は/さりしを

三九 □かたのむなゝの社の木綿たすき掛ても六の道に/かへすな

四〇 □さゆる山たのくろの村薄かる(人<朱>)なしにのこるころ/かな」(12右)

 

七三 □たに散露のまくらに臥侘て鶉なく也とこの山かせ

七五 惜とも涙に月も心からなれぬる袖に秋を恨て

七六 色かはる露をは袖に置迷ひうらかれて行野辺の/秋かせ

七七 ふりにける時雨はそてに秋かけていひしはかりを待とせ/しまに

七八 霜かれはそことも知らぬ草の原誰に問まし秋の/なこりを

七九 下もえに思ひきえ南けふりたに跡なき雲の果そ/かなしき

八〇 夢かとよみしを(も<朱>)契しも忘れすなからうつゝなら/ねは

七四 いにしへの秋の空まて住田川月に事とふそての/露哉

宮内卿」(12左)




(第13紙)
 六五 嵐吹峯の紅葉の日に添てもろく成行わかなみたかな

 六六 仙ひとの折そて匂ふ菊の露打払にも千代は経ぬへ/し

六八 まれにくる夜半もかなしき松風を絶すや苔の下に/聞覧

六九 散すなよ(篠<朱>)の葉草のかりにても露かゝるへき袖/の上かは

六七 難波人蘆火焼やに宿かりてすゝろにそての/しほたるゝ哉

七〇 立かへりまたもきてみん松嶋や小島の苫やなみに/あらすな

俊成女

七一 梅花あかぬ色かもむかしにておなし形身の春の/よの月

七二 □□の霞める月そやとりける春やむかしのそての/なみたに」(13右)

 

権大納言通光

四一 三しま江や霜もまたひぬ蘆(の<朱>)(に<朱>)つのくむ程の春風そ吹

四二 むさし野や行共秋の果そなきいか成風のすへに吹覧

四三 明ぬとて野へより山に入鹿の跡吹送る萩の下かせ

四四 さらに又暮をたのめと明にけり月はつれなき秋の/よのそら

四五 峯越る雲に翅やしほるらむ月にほすてふ初雁の/こゑ

四六 詠侘ぬそれとはなしに物そ思ふ雲の旗手の夕暮/の空

四七 かきりあれはしのふの山の麓にも落葉かうへの露そ/色付

四九 □□□せ代ゝに替らぬ男山あふく峯よりいつる/月影」(13左)

 


(第14紙)

五〇 浅茅生や袖に朽にし秋の霜わすれぬ夢を吹嵐かな

四八 明ほのや河瀬のなみのたかせ舟下するひとのそての/秋霧

権中納言通具

五二 あはれまたいかに忍はんそての露野原のかせに秋はきに/けり

五四 影宿す露のよすかの秋くれて月そ住けるおのゝしの/はら

五五 霜むすふ袖の片しき打とけて寝ぬ夜の月の影そ/寒けき

五六 冬の夜の寝覚ならひしまきのやのしくれの上に霰/ふる也

六〇 □さゆるそてにも影は宿りけり露より馴し/有明の月

五八 □きかへし猶もるそての涙かなしのふもよその心なら/ぬに」(14右)

 

五九 □こんと契し事は夢なからみし夜に似たる在明の/月

五七 木葉散時雨やまかふ我袖にもろき涙の色とみる/まて

五三 野辺に置露のなこりも霜かれぬあた成秋の忘形/みに

五一 梅はな誰袖ふれし匂ひそと春やむかしの月に/問はゝや

俊成

六一 むかしおもふ草の廬の夜るの雨に涙なそへそ山ほとゝ/きす

六二 わすれしよ忘るなとたに云てましくもゐの月の心/ありせは

六四 いかにして袖に光の宿るらん雲井の月は隔越身を

六三 □め置て今はとおもふ秋山の蓬か本にまつ虫そ/なく」(14左)

 

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