源氏釈の研究[資料篇]
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源氏釈の研究[資料篇]

世尊寺伊行の「源氏物語」の書承と注釈

高千穂論叢 自第24巻3号至第32巻4号(89年12月~98年2月)
<高千穂商科大学個人研究費助成>


世尊寺伊行自筆葦手本和漢朗詠集(京都国立博物館蔵)

目 次


桐 壷   帚 木   空 蝉   夕 顔

  

はしがき


1、「源氏釈」は、世尊寺伊行(藤原行成の六世孫、永暦元年〔1160〕頃の人)による、『源氏物語』の注釈史上嚆矢の注釈書である。

2、「源氏釈」は、注釈書ではあるが、注釈をおこなうにあたって、まず、『源氏物語』の本文をかなりの分量にわたって引用し、それに出典の注釈を施す、という形態をもっている。したがって、そこに引用されている本文と注釈は、藤原定家(応保2年~仁治2年〔1162~1241〕)による注釈書「奥入」及び校訂本「青表紙本源氏物語」に先立つ資料的価値を有するものである。

3、「源氏釈」の基本的形態は、後世の注釈書のように単に本文を引用して注釈を施すというような形態とは違って、本文引用は、まず注釈する前後の物語の梗概を叙述し、次いで施注個所の原文を抄出し、それを受ける句があって、注釈に入り、出典の引用があり、またそれを受ける句があって完結するという形態である。

4、しかし、現存する「源氏釈」の数は必ずしも多くはない。しかも、それぞれの諸本の形態が甚だしく異なっているのである。

5、本稿は、「源氏釈」諸本を比較対照し、「源氏釈」所引の『源氏物語』本文とその注釈を重視して、前者においては『源氏物語』本文と「源氏釈」諸本とを対校させ、その本文校異を掲載し、後者においては出典をそれぞれの原典に当たり直して、同様に出典本文の異同を掲載し、併せて、古注釈史上における位置を確認する。

6、各注釈の見出しとして、各巻毎に番号を付して整理し、『源氏物語大成 校異篇』の青表紙本「源氏物語」本文を掲載し、「源氏釈」の引用当該箇所を[ ]で括って、その部分の頁数と行数とを記した。「源氏釈」は、その本文引用中、直接原文を抄出していると思われる部分及びその可能性が高い部分を[ ]で括った。本文校異を考えるためである。

7、校異は、『源氏物語』本文と「源氏釈所引源氏物語本文」との重複する[ ]部分について、主として『源氏物語大成 校異篇』及びその「補正」によって記載した。さらに『日本古典文学大系本 源氏物語』「校異」・『日本古典文学全集本 源氏物語』「校訂付記」等をも参照した。
 その他、陽明文庫本『源氏物語』(54帖 陽明叢書国書篇 昭和54年3月~昭和57年12月)、穂久邇文庫本『源氏物語』(54帖 日本古典文学影印叢刊 昭和54年10月~昭和55年2月)、御物本各筆『源氏物語』(54帖 日本古典文学会 昭和62年1月)、『源氏物語諸本集一・二』(帚木・末摘花・蓬生・薄雲・朝顔・乙女、野分・藤袴・真木柱・柏木・鈴虫・夕霧・竹河、天理図書館善本叢書14・30、昭和48年11月・昭和53年1月)、『源氏物語古本集』(松風・竹河・総角・浮舟、日本古典文学影印叢刊18 昭和58年10月)を参照し、略号は『源氏物語大成』で使用されている呼称を用い、諸本系統はそれぞれの叢書類の解題に従った。

8、出典は、『源氏物語事典』下巻「所引詩歌仏典索引」(玉上琢弥)及び『源氏物語引歌索引』(伊井春樹)を参照し、和歌は『新編国歌大観』(10巻)を底本とし、勅撰集・私撰集・私家集・物語の順により、重複する場合は最初のものを掲載した。
 漢詩文は『新釈漢文大系』または『全釈漢文大系』等によった。なお、それらに未所収の文献は中華書局本によった(ただし、「長恨歌」は平岡武夫・今井清校訂による)。なお、『文選』は斯波六郎『文選索引』の「文選篇目表」の番号を、また『白氏文集』は花房英樹氏の『白氏文集の批判的研究』によって作品番号を記した。
 仏典は「所引詩歌仏典索引」により、「催馬楽」「風俗歌」等の古代歌謡及び『和漢朗詠集』は『日本古典文学大系本』によった。

9、補注は、『源氏物語引歌索引』(伊井春樹)及び「所引詩歌仏典索引」(玉上琢弥)を参照し、「源氏釈」から「河海抄」までの院政期から南北朝期に至る間における「源氏釈」の注釈史的意義を中心に記述した。また「源氏釈」の依拠本文及び「源氏釈」の物語の読みに関して注記した。

10、本稿で採用した「源氏釈」の諸本と略号は、次のとおりである。

【源氏釈諸本】
 第1次本1類 源氏或抄物(宮内庁書陵部蔵「源氏物語注釈」〔伏・505〕中「源氏或抄物云」 伊井春樹・翻刻『古代文学論叢 源氏物語と和歌』所収 昭和49年4月 武蔵野書院)---或

 第1次本2類 書陵部本(宮内庁書陵部蔵「源氏物語釈」〔457・192〕「桐壺」から「明石」まで 『未刊国文注釈大系』第11巻所収 昭和13年6月)---書

 第2次本 前田家本(前田家育徳会蔵「源氏物語釈」〔131・古〕 池田亀鑑・翻刻『源氏物語大成』巻7研究資料篇所収 昭和31年1月 中央公論社)---前

 増補本 吉川家本勘物(稲賀敬二・翻刻『源氏物語の研究』所収 昭和42年9月 笠間書院)---吉
 (参考) 都立中央図書館本(都立中央図書館蔵「伊行源氏釈」〔特別買上文庫367〕 伊井春樹・翻刻『源氏物語の探究』第3輯所収 昭和52年11月 風間書房)---都

【断簡】
 北野本「末摘花・紅葉賀」(北野克・翻刻『「末摘花」断簡』勉誠社文庫83 昭和56年2月 勉誠社)---北

【古筆切】
 伝浄弁筆浄照坊蔵「松風」(『国文学 解釈と鑑賞』昭和61年6月号 伊井春樹紹介)---浄

 伝顕昭筆建仁寺切「夕霧」(田中登蔵、写真恵与による)---顕

 伝良経筆前田家蔵「御法」(池田亀鑑・翻刻『源氏物語大成』巻7 研究資料篇所収 昭和31年1月 中央公論社)---良

 伝顕昭筆建仁寺切「椎本」(『翰墨城』昭和48年3月 中央公論社所載 伊井春樹・翻刻紹介「伝顕昭筆源氏釈切」『日本古典文学会会報』No96 昭和58年4月)---顕

 伝顕昭筆建仁寺切「東屋」(前田家蔵、池田亀鑑・翻刻『源氏物語大成』巻7 研究資料篇所収 昭和31年1月 中央公論社)---前

 伝顕昭筆建仁寺切「東屋」(出光美術館蔵、『見ぬ世の友』昭和48年3月 平凡社所載 田坂憲二・翻刻紹介「『源氏釈』『源氏古鏡』管見─建仁寺切『源氏釈』の紹介をかねて─」『天理図書館善本叢書』月報52 昭和57年11月)---出

 伝顕昭筆建仁寺切「浮舟」(前田家蔵、池田亀鑑・翻刻『源氏物語大成』巻7 研究資料篇所収 昭和31年1月 中央公論社)---前

 伝顕昭筆建仁寺切「浮舟」(出光美術館蔵『見ぬ世の友』昭和48年3月 平凡社所載 田坂憲二・翻刻紹介「『源氏釈』『源氏古鏡』管見─建仁寺切『源氏釈』の紹介をかねて─」『天理図書館善本叢書』月報52 昭和57年11月)---出

 伝顕昭筆建仁寺切「手習」(竹柏園蔵、池田亀鑑・翻刻『源氏物語大成』巻7 研究資料篇所収 昭和31年1月 中央公論社)---顕

【古注釈書所引「源氏釈」】
 奥入(池田亀鑑・翻刻『源氏物語大成』巻7 研究資料篇所収 昭和31年1月 中央公論社)---奥

 原中最秘抄(池田亀鑑・翻刻『源氏物語大成』巻7 研究資料篇所収 昭和31年1月 中央公論社)---原

 異本紫明抄(ノートルダム清心女子大学蔵、古典叢書 昭和51年5月)---異

 紫明抄(玉上琢弥編、山本利達・石田穣二校訂『紫明抄 河海抄』昭和43年6月 角川書店)---紫
 河海抄(玉上琢弥編、山本利達・石田穣二校訂『紫明抄 河海抄』昭和43年6月 角川書店)---河

【凡例】
 源氏物語及び源氏釈所引本文----[  ]で括った。
 読み仮名ルビ等------(=   )で示した。
 異文表記並記等------す(す/=きイ)と記した(本文「す」に異文表記「きイ」とある例)。
 ミセケチ訂正等------出(出/$お)と記した(本文「出」をミセケチにして「お」と訂正した例)。
 摩消訂正等---------る(る/#り)と記した(本文「る」を摩消又は塗抹して「り」と訂正した例)。
 補入---------------と(と/+は)と記した(本文「と」の次に「は」を補入した例)。
 細字1行注記--------<   >で示した。
 細字2行注記--------< / >で示した。
 外字作字------------*[*/=王+炎]と表わした(本文「*」は「王」偏で「炎」が旁の文字)。
 判読不能-----------△


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