凡例
1 穂久邇文庫蔵「新勅撰和歌集」(日本古典文学影印叢刊13 昭和55年5月 日本古典文学会)を翻刻した。
2 丁数は墨付第1丁から数えた。前遊紙1枚は数え入れない。
(空白)」1オ
新勅撰和歌集
すへらきのみことのりをうけたまはり
てわかくに(に+の)やまとうたをえらふことみ
つかきのひさしきむかしよりはしま
りてすかのねのなかき世ゝにつたはれり
いはゆる古今後撰ふたつの集のみにあら
すおほやけことになすらへてあつめしる
されたるためしむかしといひいまといひ」1ウ
その名おほくきこゆれとこゝのへの雲のう
へにめされてひさかたの月にましはれる
ともからこのことをうけたまはりをこなへ
るあとは猶まれなりしらかはのかしこき
御世ことわさしけきまつりことにのそませ
たまひてなゝそちあまりの御よはひ
たもたせたまひしはしめ後拾遺をえら
へるひとたひなむありけるしかるに」2オ
わかきみあめのしたしろしめしてより
このかたとゝせあまりのはる秋よものうみ
たつしきなみもこゑしつかになゝつの
みちたみのくさ葉もなひきよろこへり
かりこものみたれしをおさめあきくさの
おとろへしをおこさせたまひき秋つ
しま又さらにゝきはひあまつひつき
ふたゝひさかりなりたゝ延喜天暦のむ」2ウ
かし時すなほにたみゆたかによろこへりし
まつりことをしたふのみにあらす又寛喜
貞永のいま世おさまり人やすくたのし
きことの葉をしらしめむためにことさらに
あつめえらはるゝならし定家はまゝつの
としつもりかはたけの世ゝにつかうまつり
てなゝそちのよはひにすきふたしなの
くらゐをきはめてしものことをきゝてかみ」3オ
にいれかみのことをうけてしもにのふる
つかさをたまはれる時にあひてたらちね
のあとをつたへふるきうたのゝこりをひ
ろふへきおほせことをうけたまはるにより
てはるなつあきふゆおりふしのことの葉を
はしめて
きみのみよをいはひたてまつり人のく
にをおさめをこなひ神をうやまひほとけ」3ウ
にいのりをのかつまをこひ身のおもひをの
ふるにいたるまて部をわかちまきをさた
めてはまのまさこかす/\にうらのたまも
かきあつむるよし貞永元年十月二日これ
をそうすなつけて新勅撰和歌集とすと
いふことしかり」4オ
新勅撰和謌集巻第一
春哥上
うへのをのこともとしのうちにたつ
はるといへるこゝろをつかうまつりけ
るついてに
御製
0001 あらたまのとしもかはらてたつはるは
かすみはかりそゝらにしりける」4ウ
立春哥とてよみ侍ける
皇太后宮大夫俊成
0002 あまのとのあくるけしきもしつかにて
くもゐよりこそはるはたちけれ
延喜七年三月内の御屏風に元日ゆき
ふれる日 紀貫之
0003 けふしもあれみゆきしふれは草も木も
はるてふなへにはなそさきける」5オ
題しらす よみ人しらす
0004 ふゆすきてはるはきぬらしあさひさす
かすかのやまにかすみたなひく
0005 ひさかたのあまのかくやまこのゆふへ
かすみたなひくはるたつらしも
はるのはしめあめふる日草のあおみ
わたりて見え侍けれは
京極前関白家肥後」5ウ
0006 いつしかとけふゝりそむるはるさめに
いろつきわたるのへのわかくさ
たいしらす 大中臣能宣朝臣
0007 わかやとのかきねのくさのあさみとり
ふるはるさめそいろはそめける
三条右大臣家屏風に
つらゆき
0008 とふ人もなきやとなれとくるはるは」6オ
やへむくらにもさはらさりけり
法性寺入道前関白の家にて十首哥よみ
侍けるにうくひすをよめる
権中納言師俊
0009 うくひすのなきつるなへにわかやとの
かきねのゆきはむらきえにけり
うくひすはるをつくといへる心をよみ侍
ける 源俊頼朝臣」6ウ
0010 はるそとはかすみにしるしうくひすは
はなのありかをそことつけなん
久安六年崇徳院に百首哥たてまつり
けるときはるのうた
待賢門院堀河
0011 しもかれはあらはに見えしあしのやの
こやのへたてはかすみなりけり
前参議親隆」7オ
0012 松しまやをしまかさきのゆふかすみ
たなひきわたせあまのたくなは
後徳大寺左大臣十首哥よみ侍けるに
遠村霞といへる心をよみ侍ける
皇太后宮大夫俊成
0013 あさとあけてふしみのさとになかむれは
かすみにむせふうちのかはなみ
守寛法親王家に五十首哥よみ侍ける」7ウ
に春哥 覚延法師
0014 すみよしの松のあらしもかすむなり
とをさとをのゝはるのあけほの
源師光
0015 山の葉もそらもひとつに見ゆるかな
これやかすめるはるのあけほの
百首のうたに
式子内親王」8オ
0016 にほのうみやかすみのをちにこくふねの
まほにもはるのけしきなるかな
後京極摂政左大臣に侍ける時百首哥
よませ侍けるに
八条院六条
0017 月ならてなかむるものはやまの葉に
よこ雲わたるはるのあけほの
題しらす 曽祢好忠」8ウ
0018 さをひめのおもかけさらすをるはたの
かすみたちきるはるのゝへ哉
0019 このめはるはるのやま辺をきて見れは
霞のころもたゝぬひそなき
0020 まきもくのあなしのひはらはるくれは
はなかゆきかと見ゆるゆふして
0021 あさなきにさおさすよとのかはをさも
こゝろとけてはゝるそみなるゝ」9オ
山部赤人
0022 山もとにゆきはふりつゝしかすかに
このかはやなきもえにけるかも
柳をよみ侍ける
伊勢
0023 あをやきのえたにかゝれるはるさめは
いともてぬけるたまかとそ見る
0024 あさみとりそめてみたれるあをやきの」9ウ
いとをはゝるのかせやよるらん
天暦御時御屏風のうた
中務
0025 ふくかせにみたれぬきしのあをやきは
いとゝなみさへよれはなりけり
千五百番哥合に
二条院讃岐
0026 もゝしきや大宮人のたまかつら」10オ
かけてそなひくあをやきのいと
春哥よみ侍けるに
按察使隆衡
0027 をしなへてこのめもいまはゝるかせの
ふくかた見ゆるあをやきのいと
寛喜元年十一月女御入内屏風江山人家
柳をよみ侍ける
内大臣」10ウ
0028 うちはへて世は春ならしふくかせも
えたをならさぬあをやきのいと
正三位知家
0029 やまひめのとしのをなかくよりかけて
はるはたえせぬあをやきの糸
春哥とてよみ侍ける
鎌倉右大臣
0030 みふゆつきはるしきぬれはあをやきの」11オ
かつらきやまにかすみたなひく
0031 このねぬるあさけのかせにかほるなり
のきはのむめのはるのはつはな
むめの花をおりて中務かもとにつかは
しける 九条右大臣
0032 いとはやもしもにかれにしわかやとの
むめをわすれぬはるはきにけり
つくしにて梅花を見てよみ侍ける」11ウ
山上憶良
0033 春されはまつさくやとのむめのはな
ひとり見つゝやけふをくらさむ
たいしらす 凡河内躬恒
0034 いつれをかわきておらましむめの花
えたもたわゝにふれるしらゆき
つらゆき
0035 やまかせにかをたつねてやむめのはな」12オ
にほへるさとにうくひすのなく
亭子院哥合に
坂上是則
0036 きつゝのみなくうくひすのふるさとは
ちりにしむめのはなにそ有ける
題しらす 式子内親王
0037 たかゝきねそこともしらぬむめかゝの
夜半のまくらになれにけるかな」12ウ
権大納言家良
0038 たまほこの道のゆくてのはるかせに
たかさとしらぬむめのかそする
殷富門院大輔
0039 たれとなくとはぬそつらきむめの花
あたらにほひをひとりなかめて
正三位家隆
0040 いくさとか月のひかりもにほふらん」13オ
むめさくやまの峯のはるかせ
春哥とてみ侍ける
後京極摂政前太政大臣
0041 なにはつにさくやむかしのむめの花
いまもはるなるうらかせそふく
守覚法親王家五十首哥よみ侍けるに
覚延法師
0042 はるの夜の月にむかしやおもひいつる」13ウ
たかつのみやにゝほふむめかえ
皇太后宮大夫俊成
0043 むめかゝも身にしむころはむかしにて
人こそあらねはるの夜のつき
高陽院の梅花をゝりてつかはし
て侍けれは 大弐三位
0044 いとゝしくはるのこゝろのそらなるに
又はなのかを身にそしめつる」14オ
返し 宇治前関白太政大臣
0045 そらならはたつねきなまし梅花
また身にしまぬにほひとそ見る
家百首哥に夜梅といふこゝろをよみ
侍ける 前関白
0046 むめかゝもあまきる月にまかへつゝ
それとも見えすかすむころかな
後京極摂政の家の哥合に暁霞をよ」14ウ
み侍ける 宜秋門院丹後
0047 はるの夜のおほろ月夜やこれならむ
かすみにくもるありあけのそら
百首哥たてまつりける時帰雁をよめ
る 権中納言師時
0048 かへるらむゆくゑもしらすかりかねの
霞のころもたちかさねつゝ
たいしらす 大納言師氏」15オ
0049 ひさかたのみとりのそらのくもまより
こゑもほのかにかへるかりかね
前大納言資賢
0050 たちかへりあまのとわたるかりかねは
はかせに雲のなみやかくらん
よみ人しらす
0051 白妙のなみちわけてやはるはくる
かせふくまゝにはなもさきけり」15ウ
中納言家成哥合し侍けるに山寒花
遅といへる心をよみてつかはしける
藤原基俊
0052 みよしのゝ山井のつらゝむすへはや
はなのしたひもをそくとくらん
題しらす 修理大夫顕季
0053 かすみしくこのめはるさめふることに
はなのたもとはほころひにけり」16オ
権中納言長方
0054 はなゆへにふみならすかなみよしのゝ
よしのゝやまのいはのかけみち
寛治七年三月十日白河院きたやま
の花御らんしにおはしましける日
処々尋花といへるこゝろをよませたま
うける 久我太政大臣
0055 やまさくらかたもさためすたつぬれは」16ウ
はなよりさきにちるこゝろかな
右衛門督基忠
0056 はるはたゝゆかれぬさとそなかりける
花のこすゑをしるへにはして
崇徳院近衛殿にわたらせ給て遠尋
山花といふ題を講せられ侍けるによみ侍
ける 皇太后宮大夫俊成
0057 おもかけにはなのすかたをさきたてゝ」17オ
いくへこえきぬみねのしら雲
家に花五十首哥よませ侍ける時
後京極摂政前太政大臣
0058 むかしたれかゝるさくらのはなをうへて
よしのをはるのやまとなしけん
寂蓮法師
0059 いかはかりはなさきぬらんよしのやま
かすみにあまるみねのしら雲
おなし家に女房百首哥講し侍ける日
五首哥よみ侍けるに
藤原成宗
0060 はなゝれやとやまのはるのあさほらけ
あらしにかほるみねのしら雲
家に三十首哥よみ侍けるに花哥
入道前太政大臣
0061 しら雲のやへ山さくらさきにけり」18オ
ところもさらぬはるのあけほの
百首哥に 式子内親王
0062 たかさこのおのへのさくらたつぬれは
みやこのにしきいくへかすみぬ
0063 かすみゐるたかまのやまのしら雲は
はなかあらぬかかへるたひ人
家哥合に雲間花といへる心をよみ侍
ける 前関白」18ウ
0064 まかふとも雲とはわかんたかさこの
おのへのさくらいろかはりゆく
関白左大臣
0065 たちまよふよしのゝさくらよきてふけ
くもにまたるゝはるのやまかせ
典侍因子
0066 さかぬまそはなとも見えしやまさくら
おなしたかねにかゝるしら雲」19オ
中宮少将
0067 たえ/\にたなひく雲のあらはれて
まかひもはてぬやまさくら哉
文治六年女御入内屏風に
後徳大寺左大臣
0068 はなさかりわきそかねつるわかやとは
くものやへたつみねならねとも
家に百首哥よませ侍けるに」19ウ
後京極摂政前太政大臣
0069 はるはみなおなしさくらとなりはてゝ
くもこそなけれみよしのゝやま
清輔朝臣家に哥合し侍ける花哥
俊恵法師
0070 みよしのゝはなのさかりとしりなから
猶しら雲とあやまたれつゝ
正治二年百首哥たてまつりける春哥」20オ
皇太后宮大夫俊成
0071 雲やたつかすみやまかふやまさくら
はなよりほかもはなとみゆらん
千五百番哥合に
正三位家隆
0072 けふみれは雲もさくらにうつもれて
かすみかねたるみよしのゝやま」20ウ
(白紙)」21オ
新勅撰和歌集巻第二
春哥下
みこにおはしましける時の御うた
光孝天皇御製
0073 山さくらたちのみかくすはるかすみ
いつしかはれて見るよしも哉
題しらす 山部赤人
0074 神さひてふりにしさとにすむ人は」21ウ
みやこにゝほふはなをたに見す
つらゆき
0075 あつさゆみはるのやま辺にいるときは
かさしにのみそはなはちりける
源重之
0076 いろさむみはるやまたこぬとおもふまて
やまのさくらをゆきかとそ見る
山花未落といへるこゝろをよみ侍ける」22オ
橘俊綱朝臣
0077 またちらぬさくらなりけりふるさとの
よしのゝやまのみねのしら雲
月のあかき夜はなにそへて人につか
はしける 和泉式部
0078 いつれともわかれさりけりはるのよは
月こそはなのにほひなりけれ
尋花遠行といふ心をよみ侍ける」22ウ
藤原顕仲朝臣
0079 かへり見るやとはかすみにへたゝりて
はなのところにけふもくらしつ
百首哥たてまつりける時
0080 たかさこのふもとのさとはさえなくに
おのへのさくらゆきとこそ見れ
堀河院御時女房ひんかし山の花たつ
ねにつかはしけるひよみ侍ける」23オ
権中納言俊忠
0081 けふこすはをとはのさくらいかにそと
見るひとことにとはましものを
権中納言師時
0082 たちかへり又やとはましやまかせに
はなちるさとのひとのこゝろを
藤原敦兼朝臣
0083 こまなへてはなのありかをたつねつゝ」23ウ
よものやま辺のこすゑをそ見る
そのひあふさかこえてたつね侍けるに
花山のほとにたれともしらぬ女車の花
をゝりかさして侍けるみちのかたはらに
たちてかむたちめのくるまにさしいれ
させ侍ける よみ人しらす
0084 あさまたきたつねそきつるやまさくら
ちらぬこすゑのはなのしるへに」24オ
おなし御時中宮女房はな見につかはし
ける日花為春友といへるこゝろをよみ侍
ける 権中納言国信
0085 はなさかぬとやまのたにのさとひとに
とはゝやはるをいかゝくらすと
おなし御時鳥羽殿に行幸の日池上
花といへる心をよませたまうけるに
中納言実隆」24ウ
0086 さくらはなうつれるいけのかけ見れは
なみさへけふはかさしおりけり
法性寺入道殿関白家にて雨中花といへ
るこゝろをよみ侍ける
基俊
0087 やまさくらそてにゝほひやうつるとて
はなのしつくにたちそぬれぬる
寛平御時きさいの宮の哥合哥」25オ
よみ人しらす
0088 はるなからとしはくれなんちるはなを
おしとなくなるうくひすのこゑ
0089 いろふかく見る野辺たにもつねならは
はるはすくともかたみならまし
延喜六年月次御屏風三月たかへす
ところ つらゆき
0090 やま田さへいまはつくるをちるはなの」25ウ
かことはかせにおほせさらなん
左兵衛督朝任花見にまかるとてふみ
つかはして侍ける返ことに
大弐三位
0091 たれもみな花のさかりはちりぬへき
なけきのほかのなけきやはする
後冷泉院御時月前落花といへる心をよ
ませたまうけるに」26オ
大納言師忠
0092 はるの夜の月もくもらてふるゆきは
こすゑにのこる花やちるらん
建暦三年春内裏に詩哥をあはせら
れ侍けるに山居春曙といへるこゝろをよ
み侍ける 六条入道前太政大臣
0093 月かけのこすゑにのこるやまのはに
はなもかすめるはるのあけほの」26ウ
権中納言定家
0094 名もしるし峯のあらしもゆきとふる
やまさくらとのあけほのゝそら
暮山花といへるこゝろをよみ侍ける
藤原行能朝臣
0095 あすもこむかせしつかなるみよしのゝ
山のさくらはけふくれぬとも
五十首哥たてまつりけるに花下送」27オ
日といへる心を
後京極摂政前太政大臣
0096 ふるさとのあれまくたれかおしむらん
わか世へぬへきはなのかけ哉
関路花
0097 あふさかのせきふみならすかちひとの
わたれとぬれぬはなのしらなみ
題しらす 西行法師」27ウ
0098 かせふけは花のしらなみいはこえて
わたりわつらふやまかはのみつ
0099 あはれわかおほくのはるのはなを見て
そめをくこゝろたれにつたへむ
権中納言長方
0100 はるかせのやゝふくまゝにたかさこの
おのへにきゆるはなのしら雲
前関白家哥合に雲間花といへる心を」28オ
よみ侍ける 右衛門督為家
0101 たちのこすこすゑも見えすやまさくら
はなのあたりにかゝるしら雲
藤原隆祐
0102 かつら木やたかねのくもをにほひにて
まかひしはなのいろそうつろふ
中宮但馬
0103 たつねはや峯のしら雲はれやらて」28ウ
それとも見えぬやまさくらかな
建暦二年大内の花下にて三首哥つか
うまつりけるに
大納言定通
0104 かへるさのみちこそしらねさくらはな
ちりのまよひにけふはくらしつ
大宰大弐重家哥合し侍けるに花をよ
める 源師光」29オ
0105 さくらはなとしのひとゝせにほふとも
さてもあかてやこの世つきなん
題しらす 鎌倉右大臣
0106 さくらはなちらはおしけんたまほこの
みちゆきふりにおりてかさゝむ
内大臣
0107 さもこそははるはさくらのいろならめ
うつりやすくもゆく月日哉」29ウ
参議雅経
0108 はるの夜の月もありあけになりにけり
うつろふはなになかめせしまに
藤原行能朝臣
0109 うつろへは人のこゝろそあともなき
はなのかたみはみねのしらくも
藤原信実朝臣
0110 山さくらさきちるときのはるをへて」30オ
よはひは花のかけにふりにき
殷富門院大輔
0111 さくらはなちるをあはれといひ/\て
いつれのはるにあはしとすらん
花哥よみ侍けるに
前大僧正慈円
0112 花ゆへにとひくるひとのわかれまて
おもへはかなしはるのやまかせ」30ウ
0113 ちる花のふるさとゝこそなりにけれ
わかすむやとのはるのくれかた
後京極摂政前太政大臣
0114 はなはみなかすみのそこにうつろひて
くもにいろつくをはつせのやま
0115 たかさこのおのへのはなにはるくれて
のこりし松のまかひゆく哉
建保六年内裏哥合春哥」31オ
入道前太政大臣
0116 うらむへき方こそなけれはるかせの
やとりさためぬはなのふるさと
題しらす 権大納言公実
0117 山さくらはるのかたみにたつぬれは
見る人なしにはなそちりける
後京極摂政家哥合に遅日をよみ侍ける
按察使兼宗」31ウ
0118 おのゝえもかくてやひとはくたしけん
やまちおほゆるはるのそらかな
堀河院御時あさかれひのみすにさくらの
つくりえたにまりをつけてさゝせ給へり
けるを見てよみ侍ける
周防内侍
0119 のとかなるくも井は花もちらすして
はるのとまりとなりにける哉」32オ
寛喜元年女御入内屏風海辺あみひ
くところ 正三位家隆
0120 なみかせものとかなる世のはるにあひて
あみのうら人たゝぬひそなき
さとにいてゝ侍けるころ春の山をなかめ
てよみ侍ける
本院侍従
0121 くも井にもなりにける哉はるやまの」32ウ
かすみたちいてゝほとやへぬらん
歳時春尚少といへるこゝろをよみ侍ける
大江千里
0122 とし月にまさるときなしとおもへはや
はるしもつねにすくなかるらん
千五百番哥合に
二条院讃岐
0123 はるの夜のみしかきほとをいかにして」33オ
やこゑのとりのそらにしるらん
はるのくれのうた
入道前太政大臣
0124 しら雲にまかへしはなはあともなし
やよひの月そゝらにのこれる
亭子院哥合に
つらゆき
0125 ちりぬともありとたのまんさくらはな」33ウ
はるははてぬとわれにしらすな
参議顕実か家の哥合に
よみ人しらす
0126 見ぬ人にいかゝかたらんくちなしの
いはてのさとのやまふきのはな
故郷款冬といへるこゝろをよみ侍ける
皇太后宮大夫俊成
0127 ふりぬれとよしのゝみやはかはきよみ」34オ
きしの山ふきかけもすみけり
題しらす 鎌倉右大臣
0128 たまもかる井てのしからみはるかけて
さくやかはせのやまふきの花
暮春のこゝろを
入道二品親王道助
0129 わすれしな又こむはるをまつのとに
あけくれなれしはなのおもかけ」34ウ
0130 はなちりてかたみこひしきわかやとに
ゆかりのいろのいけのふちなみ
雨中藤花といへるこゝろをよみ侍ける
俊頼朝臣
0131 あめふれはふちのうらはにそてかけて
はなにしほるゝわか身とおもはん
五十首哥たてまつりけるに
嘉陽門院越前」35オ
0132 よしのかはたきついはねのふちのはな
たおりてゆかんなみはかくとも
百首哥春哥
前関白
0133 たちかへるはるのいろとはうらむとも
あすやかたみのいけのふちなみ
家百首哥よみ侍ける暮春哥
関白左大臣」35ウ
0134 なれきつるかすみのころもたちわかれ
我をはよそにかへるはるかな
内大臣
0135 けふのみとおしむこゝろもつきはてぬ
ゆふくれかきるはるのわかれに
久安百首哥たてまつりける時三月尽哥
皇太后宮大夫俊成
0136 ゆくはるのかすみのそてをひきとめて」36オ
しほるはかりやうらみかけまし」36ウ
新勅撰和歌集巻第三
夏哥
題しらす 相模
0137 かすみたにやまちにしはしたちとまれ
すきにしはるのかたみとも見む
二条太皇太后宮大弐
0138 なつころもたちかへてけるけふよりは
やまほとゝきすひとへにそまつ」37オ
夏のはしめの哥とてよみ侍ける
二条院皇后宮常陸
0139 けふはまついつしかきなけほとゝきす
はるのわかれもわするはかりに
家百首哥に首夏のこゝろをよみ侍ける
前関白
0140 けふよりはなみにおりはへなつころも
ほすやかきねのたまかはのさと」37ウ
題しらす よみ人しらす
0141 ちはやふる賀茂のうつきになりにけり
いさうちむれてあふひかさゝん
文治六年女御入内屏風に
後徳大寺左大臣
0142 いくかへりけふのみあれにあふひくさ
たのみをかけてとしのへぬらん
寛喜元年女御入内屏風」38オ
権中納言定家
0143 ひさかたのかつらにかくるあふひくさ
そらのひかりにいくよなるらん
中納言行平家哥合に
よみひとしらす
0144 すむさとはしのふのもりのほとゝきす
このしたこゑそしるへなりける
題しらす 田原天皇御製」38ウ
0145 かみなひのいはせのもりのほとゝきす
ならしのをかにいつかきなかむ
祐子内親王家紀伊
0146 きゝてしも猶そまたるゝほとゝきす
なくひとこゑにあかぬこゝろは
郭公哥十首よみ侍けるに
法性寺入道前関白太政大臣
0147 よしさらはなかてもやみねほとゝきす」39オ
きかすはひともわするはかりに
題しらす 大蔵卿行宗
0148 いつのまにさとなれぬらんほとゝきす
けふをさ月のはしめとおもふに
建保六年内裏哥合夏哥
参議雅経
0149 ほとゝきすなくやさ月のたまくしけ
ふたこゑきゝてあくるよもかな」39ウ
寛喜元年女御入内屏風五月沼江昌
蒲芟所 前関白
0150 ふかき江にけふあらはるゝあやめ草
としのをなかきためしにそひく
入道前太政大臣
0151 いくちよといはかきぬまのあやめくさ
なかきためしにけふやひかれん
寛平御時きさいの宮の哥合哥」40オ
よみひとしらす
0152 をしなへてさ月のそらを見わたせは
水も草はもみとりなりけり
題しらす つらゆき
0153 ほとゝきすこゑきゝしよりあやめ草
かさすさ月としりにしものを
ほとゝきすのうたよみ侍けるに
正三位家隆」40ウ
0154 ほとゝきすこそやとかりしふるさとの
はなたちはなにさ月わするな
祝部成茂
0155 いまはゝやかたらひつくせほとゝきす
なかなくころのさ月きぬなり
白河院御時うへのをのこともきさいの宮
の御方にくたもの申けるたまふとてうへ
に花橘をおりてをかれたりけるはこの」41オ
ふたかへしまいらすとてよみ侍ける
源師賢朝臣
0156 ほとゝきすこよひいつこにやとるらん
はなたちはなを人におられて
返し 康資王母
0157 ほとゝきすはなたちはなのやとかれて
そらにやくさのまくらゆふらん
久安百首哥たてまつりける夏哥」41ウ
大炊御門右大臣
0158 おほつかなたれそまやまのほとゝきす
とふになのらてすきぬなるかな
皇太后宮大夫俊成
0159 さらぬたにふすほともなきなつの夜を
またれてもなくほとゝきすかな
十首哥たてまつりける時
右兵衛督公行」42オ
0160 さ夜ふかみやまほとゝきすなのりして
きのまろとのをいまそすくなる
文治六年女御入内屏風に
後徳大寺左大臣
0161 ほとゝきすくものうへよりかたらひて
とはぬになのるあけほのゝそら
寛喜元年十一月女御入内屏風に郭公
をよみ侍ける」42ウ
右衛門督為家
0162 なかきひのもりのしめなはくりかへし
あかすかたらふほとゝきすかな
故郷郭公といへるこゝろをよみ侍ける
権中納言長方
0163 あれにけるたかつのみやのほとゝきす
たれとなにはのことかたるらん
後法性寺入道前関白百首哥よませ侍」43オ
ける時五月雨をよめる
皇太后宮大夫俊成
0164 ふりそめていくかになりぬすゝか河
やそせもしらぬさみたれのころ
さみたれをよみ侍ける
後徳大寺左大臣
0165 五月雨にむつたのよとのかはやなき
うれこすなみやたきのしらいと」43ウ
六条入道前太政大臣
0166 さみたれに伊勢をのあまのもしほくさ
ほさてもやかてくちぬへき哉
前右近中将資盛
0167 五月雨のひをふるまゝにひまそなき
あしのしのやのゝきのたまみつ
左近中将公衡
0168 さみたれのころもへぬれはさはた河」44オ
そてつくはかりあさきせもなし
源家長朝臣
0169 うちはへていくかゝへぬるなつひきの
手ひきのいとのさみたれのそら
題しらす 春宮権大夫良実
0170 たちはなのしたふくかせやにほふらん
むかしなからのさみたれのそら
関白右大臣家百首哥よみ侍けるに」44ウ
藤原光俊朝臣
0171 さみたれのそらにもつきはゆくものを
ひかり見ねはやしる人のなき
宇治入道前関白家の哥合に
相模
0172 さみたれはあかてそすくるほとゝきす
夜ふかくなきしはつねはかりに
たいしらす 前大僧正慈円」45オ
0173 郭公きゝつとやおもふさみたれの
くものほかなるそらのひとこゑ
ほとゝきすの哥あまたよみ侍けるに
橘俊綱朝臣
0174 ほとゝきすきくともなしなあしひきの
やまちにかへるあけほのゝこゑ
源師賢朝臣
0175 たかさとにまたてきくらんほとゝきす」45ウ
こよひはかりのさみたれのこゑ
百首哥に 後京極摂政前太政大臣
0176 ほとゝきすいまいく夜をかちきるらん
をのかさ月のありあけのころ
前中納言師仲さ月のつこもり人/\さそ
ひて右近馬場にまかりて郭公まち侍
けるに 祐盛法師
0177 けふこゝにこゑをはつくせほとゝきす」46オ
をのかさ月ものこりやはある
堀河院御時きさいの宮にて潤五月郭公
といふこゝろをよみ侍ける
権中納言師時
0178 雲地よりかへりもやらすほとゝきす
なをさみたるゝそらのけしきに
俊頼朝臣
0179 やよやまたきなけみそらの郭公」46ウ
さ月たにこそおちかへりつれ
題しらす 覚盛法師
0180 みなつきのそらともいはしゆふたちの
ふるからをのゝならのしたかけ
よみひとしらす
0181 草ふかきあれたるやとのともし火の
風にきえぬはほたるなりけり
家に五十首哥よみ侍けるに江蛍」47オ
入道二品親王道助
0182 しらつゆのたま江のあしのよひ/\に
あきかせちかくゆくほたるかな
参議雅経
0183 なにはめかすくもたくひのふかき江に
うへにもえてもゆくほたる哉
法成寺入道前摂政家哥合に
祭主輔親」47ウ
0184 なつの夜の雲ちはとをくなりまされ
かたふく月のよるへなきまて
夏月をよみ侍ける
正三位顕家
0185 夜もすからやとるしみつのすゝしさに
月もなつをやよそに見るらん
題しらす 如願法師
0186 あけぬるかこのまもりくる月かけの」48オ
ひかりもうすきせみのはころも
いし山にてあかつきひくらしのなくを
きゝて 藤原実方朝臣
0187 葉をしけみとやまのかけやまかふらん
あくるもしらぬひくらしのこゑ
寛喜元年女御入内屏風杜辺山井
流水ある所
正三位知家」48ウ
0188 ゆふくれはなつよりほかをゆくみつの
いはせのもりのかけそすゝしき
海辺松下行人納涼の所
正三位家隆
0189 夏衣ゆくてもすゝしあつさゆみ
いそへのやまの松のしたかせ
みな月はらへのこゝろをよみ侍ける
後京極摂政前太政大臣」49オ
0190 はやきせのかへらぬみつにみそきして
ゆくとし波のなかはをそしる
寛喜元年女御入内屏風
前関白
0191 よしのかは河波はやくみそきして
しらゆふはなのかすまさるらし
正三位家隆
0192 かせそよくならのをかはのゆふくれは」49ウ
みそきそなつのしるしなりける」50オ
新勅撰和謌集巻第四
秋哥上
はつあきの心をよみ侍ける
曽祢好忠
0193 ひさかたのいはとのせきもあけなくに
夜半にふきしく秋のはつかせ
大納言師氏
0194 かさゝきのゆきあひのはしの月なれと」50ウ
なをわたすへきひこそとをけれ
大納言師頼
0195 きのふにはかはるとなしにふくかせの
をとにそあきはそらにしらるゝ
題しらす 西行法師
0196 たまにぬくつゆはこほれて武蔵野ゝ
くさの葉むすふあきのはつかせ
正三位家隆」51オ
0197 くれゆかはそらのけしきもいかならん
けさたにかなし秋のはつかせ
右衛門督為家
0198 をとたてゝいまはたふきぬわかやとの
おきのうは葉のあきのはつかせ
うへのをのこともはつあきの心をつかう
まつりけるに
藤原資季朝臣」51ウ
0199 あしひきのやましたかせのいつのまに
をとふきかへてあきはきぬらん
家に百首哥よみ侍けるに早秋の心を
関白左大臣
0200 なつすきてけふやいくかになりぬらん
ころもてすゝし夜半の秋かせ
内大臣
0201 あまつかせそらふきまよふゆふくれの」52オ
くものけしきにあきはきにけり
藤原信実朝臣
0202 よるなみのすゝしくもあるかしきたへの
そてしのうらの秋のはつかせ
千五百番哥合に
宜秋門院丹後
0203 まくすはらうら見ぬそてのうへまても
つゆをきそむるあきはきにけり」52ウ
法性寺入道前関白中納言中将に侍ける時
山家早秋といへるこゝろをよませ侍けるに
菅原在良朝臣
0204 やまさとはくすのうらはをふきかへす
かせのけしきにあきをしるかな
殷富門院大輔三輪社にて五首哥人/\
によませ侍けるに秋哥
土御門内大臣」53オ
0205 あきといへはこゝろのいろもかはりけり
なにゆへとしもおもひそめねと
題しらす 曽祢よしたゝ
0206 さくらあさのかりふのはらをけふみれは
とやまかたかけあきかせそふく
鎌倉右大臣
0207 ゆふくれはころもてすゝしたかまとの
おのへの宮のあきのはつかせ」53ウ
0208 ひこほしのゆきあひをまつひさかたの
あまのかはらにあきかせそふく
殷富門院大輔
0209 かさゝきのよりはのはしをよそなから
まちわたる夜になりにけるかな
法印猷円
0210 あまのかはわたらぬさきのあきかせに
もみちのはしのなかやたえなん」54オ
百首哥めしける時
崇徳院御製
0211 あまのかはやそせの浪もむせふらん
としまちわたるかさゝきのはし
清輔朝臣家に哥合し侍けるに七夕の
こゝろをよみ侍ける
藤原敦仲
0212 あまのかはうきつのなみにひこほしの」54ウ
つまむかへふねいまやこくらし
後三条院御時うへのをのことも斎院に
て七夕哥よみ侍けるに
前中納言基長
0213 おもへともつらくもあるかなたなはたの
なとかひと夜とちきりをきけん
法性寺入道前関白家にて七夕のこゝろ
をよみ侍ける」55オ
菅原在良朝臣
0214 あまのかはほしあひのそらも見ゆはかり
たちなへたてそ夜半のあきゝり
宇治入道前関白の七夕哥よみ
侍けるに 権大納言経輔
0215 たなはたのわかこゝろとやあふことを
としにひとたひちきりそめけむ
百首哥よみ侍ける秋哥」55ウ
正三位家隆
0216 くさのうへのつゆとるけさのたまつさに
のきはのかちはもとつはもなし
七夕後朝のこゝろをよみ侍ける
権中納言伊実
0217 たなはたのあまのかはなみたちかへり
このくれはかりいかてわたさむ
藤原清輔朝臣」56オ
0218 あまのかはみつかけくさにをくつゆや
あかぬわかれのなみたなるらん
八条院高倉
0219 むつこともまたつきなくのあきかせに
たなはたつめやそてぬらすらん
前大納言隆房
0220 たまさかにあきのひと夜をまちえても
あくるほとなきほしあひのそら」56ウ
百首哥のなかに
式子内親王
0221 あきといへはものをそおもふやまのはに
いさよふくものゆふくれのそら
二条院讃岐
0222 いまよりのあきのねさめをいかにとも
おきのはならてたれかとふへき
秋哥よみ侍けるに」57オ
入道二品親王道助
0223 荻のはにかせのをとせぬあきもあらは
なみたのほかに月は見てまし
入道前太政大臣
0224 おきの葉にふきとふきぬるあきかせの
なみたさそはぬゆふくれそなき
題しらす さかみ
0225 いかにしてものおもふひとのすみかには」57ウ
あきよりほかのさとをたつねん
大納言師氏
0226 しらつゆと草葉にをきて秋の夜を
こゑもすからにあくるまつむし
秋哥よみ侍けるに
左近中将公衡
0227 夜ひ/\のやまのはをそき月かけを
あさちかつゆにまつむしのこゑ」58オ
藤原教雅朝臣
0228 かれはてゝのちはなにせんあさちふに
秋こそ人をまつむしのこゑ
うへのをのことも隣庭萩といふ心を
つかうまつりけるに
0229 へたてこしやとのあしかきあれはてゝ
おなし庭なるあきはきの花」58ウ
題しらす よみ人しらす
0230 しらつゆのをりいたすはきのした紅葉
衣にうつる秋はきにけり
0231 このころのあきかせさむみ萩の花
ちらすしらつゆをきにけらしも
0232 あすかゝはゆきゝのをかの秋はきは
けふゝるあめにちりかすきなん
柿本人麿」59オ
0233 しらつゆとあきの花とをこきませて
わくことかたきわかこゝろかな
佑子内親王家小弁
0234 さをしかのこゑきこゆなり宮木のゝ
もとあらのこはきはなさかりかも
白河院にて野草露繁といへる心を
をのこともつかうまつりけるに
大蔵卿行宗」59ウ
0235 かりころもはきのはなすりつゆふかみ
うつろふいろにそほちゆく哉
家に秋の哥よませ侍けるに
鎌倉右大臣
0236 道の辺のをのゝゆふきりたちかへり
見てこそゆかめ秋は木の花
0237 ふるさとのもとあらのこ萩いたつらに
見る人なしにさきかちるらむ」60オ
藤原基綱
0238 しらすけのまのゝはきはらさきしより
あさたつしかのなかぬひはなし
雲居寺譫西上人哥合し侍けるに
権中納言師時
0239 あさまたきたおらてを見む萩の花
うは葉のつゆのこほれもそする
権中納言経定哥合し侍けるによみて」60ウ
つかはしける
按察使公道
0240 をみなへしゝめゆひをきしかひもなく
なひきにけりなあきの野かせに
題しらす 二条院讃岐
0241 たつねきてたひねをせすは女郎花
ひとりやの辺につゆけからまし
菅家万葉集哥」61オ
よみひとしらす
0242 名にしおはゝしひてたのまむ女郎花
ひとのこゝろのあきはうくとも
式部卿敦慶のみこの家に人/\まうて
きてあそひなとし侍けるにをみな
へしをかさしてよみ侍ける
三条右大臣
0243 をみなへしおるてにかゝるしらつゆは」61ウ
むかしのけふにあらぬなみたか
久安百首哥たてまつりける秋哥
左京大夫顕輔
0244 わきもこかすそのにゝほふゝちはかま
つゆはむすへとほころひにけり
題しらす 権中納言長方
0245 さらすとてたゝにはすきし花すゝき
まねかて人のこゝろをも見よ」62オ
参議雅経
0246 はなすゝき草のたもとをかりそなく
なみたのつゆやをきところなき
源具親朝臣
0247 こゝろなきくさのたもともはなすゝき
つゆほしあへぬあきはきにけり
閑庭薄といへるこゝろをよみ侍ける
藤原信実朝臣」62ウ
0248 まねけとてうへしすゝきのひともとに
とはれぬ庭そしけりはてぬる
閑庭荻をよめる
藤原成宗
0249 いくあきのかせのやとりとなりぬらん
あとたえはつる庭のおきはら
題しらす 前大僧正慈円
0250 ぬしはあれと野となりにけるまかき哉」63オ
をかやかしたにうつらなくなり
よみ人しらす
0251 おほつかなたれとかしらむ秋きりの
たえまに見ゆるあさかほの花
月哥あまたよみ侍けるに
後京極摂政太政大臣
0252 しら雲のゆふゐるやまそなかりける
月をむかふるよものあらしに」63ウ
権中納言経定中将に侍ける時哥合し侍
けるによみてつかはしける月哥
大炊御門右大臣
0253 あまつそらうき雲はらふあきかせに
くまなくすめる夜半の月哉
題しらす 正三位家隆
0254 さらしなやをはすてやまのたかねより
あらしをわけていつる月影」64オ
延喜御時八月十五夜月宴哥
源公忠朝臣
0255 いにしへもあらしとそおもふ秋の夜の
月のためしはこよひなりけり
養和のころをひ百首哥よみ侍ける秋
哥 権中納言定家
0256 あまのはらおもへはかはるいろもなし
秋こそ月のひかりなりけれ」64ウ
家に百首哥よみ侍ける月哥
関白左大臣
0257 あしひきのやまのあらしに雲きえて
ひとりそらゆく秋の夜のつき
月哥とてよみ侍ける
藤原資季朝臣
0258 見るまゝにいろかはりゆくひさかたの
月のかつらの秋のもみち葉」65オ
八月十五夜よみ侍ける
寂超法師
0259 あまつそらこよひの名をやおしむらん
月にたなひくうき雲もなし
登蓮法師
0260 かそへねとあきのなかはそしられぬる
こよひにゝたる月しなけれは
後京極摂政左大将に侍ける時月五十」65ウ
首哥よみ侍けるによめる
権中納言定家
0261 あけは又秋のなかはもすきぬへし
かたふく月のおしきのみかは
月哥よみ侍けるに
左近中将基良
0262 やまの葉のつらさはかりやのこるらん
雲よりほかにあくる月かけ」66オ
権律師公猷
0263 いつくにかそらゆくゝもののこるらん
あらしまちいつるやまの葉の月
中原師季
0264 まちえてもこゝろやすむるほとそなき
やまの葉ふけていつる月かけ
真昭法師
0265 そてのうへにつゆをきそめしゆふへより」66ウ
なれていく夜のあきの月かけ
関白左大臣家百首哥よみ侍ける月哥
藤原頼氏朝臣
0266 わけぬるゝ野はらのつゆのそての上に
まつしるものは秋の夜の月
入道二品親王家に五十首哥よみ侍
けるに山家月
正三位家隆」67オ
0267 松の戸をゝしあけかたのやまかせに
雲もかゝらぬ月をみるかな
文治六年女御入内屏風にこまむかへの
哥 後京極摂政前太政大臣
0268 あつまよりけふあふさかのやまこえて
みやこにいつるもち月のこま
和歌所の哥合に海辺秋月といへる
こゝろをよみ侍ける」67ウ
小侍従
0269 おきつかせふけゐのうらによるなみの
よるとも見えす秋の夜のつき
百首哥に月哥
前関白
0270 むら雲のみねにわかるゝあとゝめて
やまのはつかにいつる月かけ
うへのをのことも海辺月といへる心を」68オ
つかうまつりけるついてに
御製
0271 わかのうらあし辺のたつのなくこゑに
夜わたる月のかけそひさしき
秋哥たてまつりけるに
正三位家隆
0272 すまのあまのまとをの衣夜やさむき
うらかせなから月もたまらす」68ウ
名所月をよめる
藤原光俊朝臣
0273 あかしかたあまのたくなはくるゝより
くもこそなけれ秋のよの月
白河院鳥羽殿におはしましけるに
田家秋興といへる心をゝのこともつかう
まつりけるに
権大納言宗通」69オ
0274 しつのをのかとたのいねのかりにきて
あかてもけふをくらしつるかな
題しらす 藤原道信朝臣
0275 いとゝしくものおもふやとをきりこめて
なかむるそらも見えぬけさ哉
前大僧正慈円
0276 世半にたくかひやかけふりたちそひて
あさきりふかしをやまたのはら」69ウ
0277 もしほやくけふりもきりにうつもれぬ
すまのせきやのあきのゆふくれ
海霧といへる心を
正三位知家
0278 けふりたにそれとも見えぬゆふ霧に
なをしたもえのあまのもしほ火
題しらす 正三位家隆
0279 ふみわけんものとも見えすあさほらけ」70オ
たけのはやまのきりのしたつゆ
西行法師
0280 をくらやまふもとをこむるゆふきりに
たちもらさるゝさをしかのこゑ」70ウ
新勅撰和謌集巻第五
秋哥下
寛平御時きさいの宮の哥合哥
よみひとしらす
0281 秋の夜のあまてる月のひかりには
をくしらつゆをたまとこそ見れ
九月十三夜の月をひとりなかめておも
ひいて侍ける」71オ
能因法師
0282 さらしなやをはすてやまに旅ねして
こよひの月をむかし見しかな
題しらす 小野小町
0283 あきの月いかなるものそわかこゝろ
なにともなきにいねかてにする
九月つきあかき夜よみ侍ける
選子内親王家宰相」71ウ
0284 あきの夜のつゆをきまさるくさむらに
かけうつりゆく山の葉の月
くまなき月をなかめあかしてよみ
侍ける 道信朝臣
0285 いつとなくなかめはすれとあきの夜の
このあかつきはことにもある哉
対月惜秋といへる心をよみ侍ける
菅原在良朝臣」72オ
0286 月ゆへになかき夜すからなかむれと
あかすもおしき秋のそら哉
秋哥よみ侍けるに
侍従具定母
0287 うき世をもあきのすゑ葉のつゆの身に
をきところなきそての月かけ
按察使兼宗
0288 ありあけの月のひかりのさやけきは」72ウ
やとすくさ葉のつゆやをきそふ
左近中将伊平
0289 みむろやましたくさかけてをくつゆに
このまの月のかけそうつろふ
百首哥中に
後京極摂政前太政大臣
0290 まきの戸のさゝてありあけになりゆくを
いくよの月とゝふ人もなし」73オ
建保二年秋哥たてまつりけるに
参議雅経
0291 身をあきのわかよやいたくふけぬらん
月をのみやはまつとなけれと
正三位家隆
0292 かきりあれはあけなんとするかねのをとに
猶なかきよの月そのこれる
入道二品親王家にて秋月哥よみ侍ける」73ウ
に 権大僧都有果
0293 かせさむみ月はひかりそまさりける
よもの草木の秋のくれかた
後京極摂政百首哥よませ侍けるに
小侍従
0294 いくめくりすきゆくあきにあひぬらん
かはらぬ月のかけをなかめて
八条院六条」74オ
0295 あきの夜はものおもふことのまさりつゝ
いとゝつゆけきかたしきのそて
秋の夜人/\もろともにおきゐて
ものかたりし侍けるに
京極前関白家肥後
0296 あきの夜をあかしかねてはあかつきの
つゆとをきゐてぬるゝそて哉
うへのをのことも秋十首哥つかう」74ウ
まつりけるに
右衛門督為家
0297 かたをかのもりのこの葉もいろつきぬ
わさ田のをしねいまやからまし
寛平御時きさいの宮の哥合の哥
よみ人しらす
0298 唐衣ほせとたもとのつゆけきは
わか身のあきになれはなりけり」75オ
題しらす 人麿
0299 あき田もるひたのいほりにしくれふり
わかそてぬれぬほす人もなし
みつね
0300 あきふかきもみちのいろのくれなゐに
ふりいてつゝなくしかのこゑかな
兵部卿元良のみこしかの山こ江の
方に時/\かよひすみ侍ける家を見に」75ウ
まかりてかきつけ侍ける
とし子
0301 かりにのみくるきみまつとふりいてつゝ
なくしかやまは秋そかなしき
題しらす 中納言家持
0302 あきはきのうつろふおしとなくしかの
こゑきくやまはもみちしにけり
鎌倉右大臣」76オ
0303 雲のゐるこすゑはるかにきりこめて
たかしのやまにしかそなくなる
前大僧正慈円
0304 むへしこそこのころものはあはれなれ
秋はかりきくさをしかのこゑ
哥合し侍けるにしかをよみ侍ける
前参議経盛
0305 峯になくしかのねちかくきこゆなり」76ウ
もみちふきおろす夜半のあらしに
建保六年内裏哥合秋哥
八条院高倉
0306 わかいほはをくらのやまのちかけれは
うき世をしかとなかぬひそなき
鹿哥とてよみ侍ける
権中納言実守
0307 おほえやまはるかにをくるしかのねは」77オ
いくのをこえてつまをこふらん
建保五年四月庚申五首秋朝
六条入道前太政大臣
0308 おほかたのあきをあはれとなくしかの
なみたなるらしのへのあさつゆ
澗底鹿といふ心をよみ侍ける
正三位知家
0309 さをしかのあさゆくたにのむもれ水」77ウ
かけたに見えぬつまをこふらん
題しらす 如願法師
0310 さをしかのなくねもいたくふけにけり
あらしのゝちのやまの葉の月
後冷泉院みこの宮と申ける時なし
つほのおまへの菊おもしろかりけるを
月あかき夜いかゝとおほせられけれは
大弐三位」78オ
0311 いつれをかわきておるへき月かけに
色見えまかふしらきくの花
あしたにまいりて侍けるにこの哥の
返しつかうまつるへきよしおほせら
れけれはよみ侍ける
権大納言長家
0312 月かけにおりまとはるゝしらきくは
うつろふいろやくもるなるらん」78ウ
康保三年内裏菊合に
天暦御製
0313 かけ見えてみきはにたてるしら菊は
おられぬ浪のはなかとそ見る
崇徳院月照菊花といへる心をよませ
たまうけるに
右兵衛督公行
0314 月かけにいろもわかれぬしらきくは」79オ
こゝろあてにそおるへかりける
按察使公通
0315 月かけにかほるはかりをしるしにて
いろはまかひぬしらきくの花
月前菊といへるこゝろを
鎌倉右大臣
0316 ぬれておるそての月かけふけにけり
まかきのきくのはなのうへのつゆ」79ウ
たいしらす 入道二品親王道助
0317 わかやとのきくのあさつゆいろもおし
こほさてにほへにはのあきかせ
秋哥よみ侍けるに
権中納言忠信
0318 なく/\もゆきてはきぬるはつかりの
なみたのいろをしる人そなき
鎌倉右大臣」80オ
0319 わたのはらやへのしほちにとふかりの
つはさのなみにあきかせそふく
如願法師
0320 月になくかりのはかせのさゆる夜に
しもをかさねてうつ衣かな
真眼法師
0321 あらしふくとをやまかつのあさ衣
ころも夜さむの月にうつなり」80ウ
擣衣のこゝろをよみ侍ける
曽祢よしたゝ
0322 ころもうつきぬたのをとをきくなへに
きりたつそらにかりそなくなる
つらゆき
0323 唐衣うつこゑきけは月きよみ
またねぬ人をそらにしるかな
久安百首哥たてまつりける秋哥」81オ
皇太后宮大夫俊成
0324 ころもうつひゝきは月のなになれや
さえゆくまゝにすみのほるらん
百首哥たてまつりける秋哥
入道前太政大臣
0325 かせさむき夜はのねさめのとことはに
なれてもさひし衣うつこゑ
前大納言隆房」81ウ
0326 いまこむとたのめし人やいかならん
月になく/\ころもうつなり
題しらす 承明門院小宰相
0327 月のいろもさえゆくそらの秋かせに
わか身ひとつと衣うつなり
月五十首哥よみ侍けるに
後京極摂政前太政大臣
0328 ひとりねの夜さむになれる月みれは」82オ
時しもあれやころもうつなり
秋哥よみ侍けるに
権大納言家良
0329 白妙の月のひかりにをくしもを
いく夜かさねてころもうつらん
正三位家隆
0330 しろ妙のゆふつけとりもおもひわひ
なくやたつたの山のはつしも」82ウ
建保六年内裏哥合秋哥
0331 たむけやまもみちのにしきぬさはあれと
猶月かけのかくるしらゆふ
百首哥中に秋哥
前関白
0332 をきまよふしのゝ葉くさの霜のうへに
よをへて月のさえわたるかな
千五百番哥合に」83オ
正三位家隆
0333 あきのあらしふきにけらしなとやまなる
しはのしたくさいろかはるまて
題しらす 藤原信実朝臣
0334 日をへてはあきかせさむみさをしかの
たちのゝまゆみもみちしにけり
百首哥たてまつりける秋哥
入道前太政大臣」83ウ
0335 あきのいろのうつろひゆくをかきりとて
そてにしくれのふらぬひはなし
参議雅経
0336 あきのゆく野山のあさちうらかれて
峯にわかるゝくもそしくるゝ
題しらす 鎌倉右大臣
0337 かりなきてさむきあさけのつゆしもに
やのゝ神山いろつきにけり」84オ
西行法師
0338 やまさとはあきのすゑにそおもひしる
かなしかりけりこからしのかせ
0339 かきりあれはいかゝは色のまさるへき
あかすしくるゝをくらやまかな
藤原伊光
0340 くれなゐのやしほのをかのもみち葉を
いかにそめよと猶しくるらん」84ウ
建保二年秋哥たてまつりける
内大臣
0341 みなせかはあきゆくみつのいろそこき
のこるやまなくしくれふるらし
参議雅経
0342 あしひきのやまとにはあらぬ唐錦
たつたのしくれいかてそむらん
僧正行意」85オ
0343 わかやとはかつちるやまのもみち葉に
あさゆくしかのあとたにもなし
後法性寺入道前関白家哥合にもみち
をよみ侍ける
皇太后宮大夫俊成
0344 しくれゆくそらたにあるをもみちはの
あきはくれぬといろに見すらん
百首哥の中に」85ウ
式子内親王
0345 あきこそあれ人はたつねぬ松の戸を
いくへもとちよつたのもみちは
関白左大臣家百首哥よみ侍けるに
権中納言定家
0346 しくれつゝそてたにほさぬあきの日に
さこそみむろのやまはそむらめ
従三位範宗」86オ
0347 つゆしくれそめはてゝけりをくらやま
けふやちしほのみねのもみちは
中宮但馬
0348 いくとせかふるの神すきしくれつゝ
よものもみちにのこりそめけん
うへのをのことも秋十首哥つかうまつ
りけるに
権中納言隆親」86ウ
0349 しくれけんほとこそみゆれかみなひの
みむろのやまの峯のもみちは
題しらす 法印覚寛
0350 そめのこすこすゑもあらしむらしくれ
猶あかなくのやまめくりかな
建保四年右大臣家哥合故郷紅葉をよめる
正三位家隆
0351 ふるさとのみかきかはらのはしもみち」87オ
こゝろとちらせ秋のこからし
文治六年女御入内屏風に
後法性寺入道前関白太政大臣
0352 すそのよりみねのこすゑにうつりきて
さかりひさしき秋のいろかな
徳大寺左大臣
0353 このもとに又ふきかへせからにしき
おほみや人にみましゝかせん」87ウ
左京大夫顕輔哥合し侍けるに紅葉
をよみてつかはしける
権中納言経忠
0354 あらしふくふなきのやまのもみちはゝ
しくれのあめにいろそこかるゝ
家に百首哥よませ侍けるに紅葉の哥
関白左大臣
0355 たつた河みむろのやまのちかけれは」88オ
もみちをなみにそめぬひそなき
後京極摂政百首哥よませ侍けるに
小侍従
0356 をきてゆくあきのかたみやこれならん
見るもあたなるつゆのしらたま
秋のくれの哥
禎子内親王家摂津
0357 ゆくあきのたむけのやまのもみちはゝ」88ウ
かたみはかりやちりのこるらん
権中納言実有
0358 こからしのさそひはてたるもみちはを
かはせのあきとたれなかむらん
参議雅経
0359 あきはけふくれなゐくゝるたつた河
ゆくせのなみもいろかはるらん
九月尽によみ侍ける」89オ
入道前太政大臣
0360 あすよりのなこりをなにゝかこたまし
あひもおもはぬあきのわかれち
八条院高倉
0361 すきはてぬいつらなか月名のみして
みしかゝりける秋のほとかな」89ウ
新勅撰和謌集巻第六
冬哥
題しらす 大伴池主
0362 神な月しくれにあへるもみち葉の
ふかはちりなん風のまに/\
相模
0363 いつも猶ひまなきそてを神な月
ぬらしそふるはしくれなりけり」90オ
在原元方
0364 わひ人や神な月とはなりにけむ
なみたのことくふるしくれかな
大納言清隆亭子院御賀のためなか
月のころとしこに申つけていろ/\
にいとなみいそき侍けることすきに
ける神な月のついたち申つかはしける
とし子」90ウ
0365 ちゝのいろにいそきし秋はすきにけり
いまはしくれになにをそめまし
題しらす 曽祢よしたゝ
0366 つゆはかりそてたにぬれす神なつき
もみちはあめとふりにふれとも
前中納言匡房
0367 からにしきむら/\のこるもみちはや
秋のかたみのころもなるらん」91オ
権大納言宗家
0368 のこしをくあきのかたみのからにしき
たちはてつるはこからしのかせ
後朱雀院御時うへのをのことも大井
河にまかりて紅葉浮水といへる心をよみ
侍けるに中将に侍ける時
右近大将通房
0369 みつのおもにうかへるいろのふかけれは」91ウ
もみちをなみと見つるけふかな
九条太政大臣
0370 大井かはうかふもみちのにしきをは
なみのこゝろにまかせてやたつ
後冷泉院御時殿上の逍遥におなし心
をよみ侍ける
中納言資綱
0371 もみちはのなかれもやらぬ大井河」92オ
かはせはなみのをとにこそきけ
白河院御時うへのをのことも月前落
葉といへるこゝろをよみ侍けるに
橘俊綱朝臣
0372 ひさかたの月すみわたるこからしに
しくるゝあめはもみちなりけり
題しらす 入道二品親王道助
0373 こからしのもみちふきしく庭のおもに」92ウ
つゆものこらぬあきのいろかな
大蔵卿有家
0374 霜をかぬ人めもいまはかれはてゝ
まつにとひくるかせそかはらぬ
建保五年内裏哥合冬山霜
正三位家隆
0375 かさゝきのわたすやいつこゆふしもの」93オ
くもゐにしろきみねのかけはし
冬関月 藤原信実朝臣
0376 すまのうらにあきをとゝめぬせきもりも
のこるしもよの月は見るらん
法性寺入道前関白内大臣に侍ける時家
哥合に 権中納言師俊
0377 つゆむすふしも夜のかすのかさなれは
たへてやきくのうつろひぬらん」93ウ
延喜十二年十月御前のやり水のほと
りにきくうへて御あそひ侍けるついて
によませたまうける
延喜御製
0378 みなそこにかけをうつせるきくの花
なみのおるにそいろまさりける
源公忠朝臣
0379 をくしもにいろそめかへしそをちつゝ」94オ
はなのさかりはけふなからみむ
さとにいてゝしくれしける日紫式部
につかはしける
上東門院小少将
0380 雲まなくなかむるそらもかきくらし
いかにしのふるしくれなるらん
返し 紫式部
0381 ことはりのしくれのそらは雲まあれと」94ウ
なかむるそてそかはくよもなき
山路時雨といへるこゝろをよみ侍ける
源師賢朝臣
0382 そてぬらすしくれなりけり神な月
いこまのやまにかゝるむら雲
冬哥よみ侍けるに
右衛門督為家
0383 ふゆきてはしくるゝ雲のたえまたに」95オ
よものこのはのふらぬひそなき
正三位知家
0384 しくれにはぬれぬこのはもなかりけり
やまはみかさの名のみふりつゝ
法性寺入道前関白家哥合に
源兼昌
0385 ゆふつくひいるさのやまのたかねより
はるかにめくるはつしくれ哉」95ウ
前参議経盛哥合し侍けるに
藤原公重朝臣
0386 やまの葉にいりひのかけはさしなから
ふもとのさとはしくれてそゆく
平経正朝臣
0387 むら雲のとやまのみねにかゝるかと
見れはしくるゝしから木のさと
建保六年内裏哥合冬哥」96オ
前内大臣
0388 神なつきしくれにけりなあらちやま
ゆきかふそてもいろかはるまて
題しらす 前大僧正慈円
0389 みやま木ののこりはてたるこすゑより
なをしくるゝはあらしなりけり
0390 月をおもふあきのなこりのゆふくれに
こかけふきはらふ山おろしのかせ」96ウ
前大納言忠良
0391 あきのいろはのこらぬやまのこからしに
月のかつらのかけそつれなき
殷富門院大輔
0392 そらさむみこほれておつるしらたまの
ゆらくほとなきしもかれの庭
正三位家隆
0393 ふるさとのにはのひかけもさえくれて」97オ
きりのおちはにあられふるなり
千五百番哥合に
0394 ゆふつくひさすかにうつるしはのとに
あられふきまく山おろしのかせ
百首哥よみ侍ける冬哥
兵部卿成実
0395 さゆる夜はふるやあられのたまくしけ
みむろのやまのあけかたのそら」97ウ
建保四年百首哥の中に冬哥
前関白
0396 いはたゝくたきつかはなみをとさえて
たにのこゝろや夜さむなるらん
題しらす 式子内親王
0397 ふきむすふたきは氷にとちはてゝ
まつにそかせのこゑもおしまぬ
0398 おちたきついはきりこえし谷水も」98オ
ふゆはよな/\ゆきなやむなり
関白左大臣家百首哥よみ侍けるに氷を
よめる 中宮但馬
0399 ねやさむきねくたれかみのなかき夜に
なみたのこほりむすほゝれつゝ
題しらす 西行法師
0400 かせさえてよすれはやかてこほりつゝ
かへるなみなきしかのからさき」98ウ
寛喜元年女御入内屏風湖辺氷結
内大臣
0401 しかの浦やこほりのひまをゆくふねに
なみもみちあるよとやみるらん
千五百番哥合に
宜秋門院丹後
0402 ふゆの夜はあまきるゆきにそらさえて
くものなみちにこほる月かけ」99オ
二条院讃岐
0403 うちはへてふゆはさはかりなかき夜に
猶のこりけるありあけの月
久安百首哥たてまつりける時冬哥
皇太后宮大夫俊成
0404 月きよみちとりなくなりおきつかせ
ふけゐのうらのあけかたのそら
千鳥をよみ侍ける」99ウ
権中納言国信
0405 友千鳥むれてなきさにわたるなり
おきのしらすにしほやみつらん
源顕国朝臣
0406 かせふけはなにはのうらのはま千鳥
あしまになみのたちゐこそなけ
千五百番哥合に
源具親朝臣」100オ
0407 さ夜ちとりみなとふきこすしほかせに
うらよりほかのともさそふなり
題しらす 鎌倉右大臣
0408 かせさむみ夜のふけゆけはいもかしま
かたみのうらにちとりなくなり
寛喜元年女御入内屏風山路雪朝
前関白
0409 年さむきまつのこゝろもあらはれて」100ウ
はなさくいろを見するゆき哉
内大臣
0410 あらはれてとしあるみ世のしるしにや
のにもやまにもつもるしらゆき
題しらす 権中納言長方
0411 しきしまやふるのみやこはうつもれて
ならしのをかにみゆきつもれり
0412 宮木引そまやまひとはあともなし」101オ
ひはらすきはらゆきふかくして
正三位家隆
0413 たかしまやみおのそまやまあとたえて
こほりもゆきもふかきふゆかな
賀茂重政
0414 まきもくのひはらのやまもゆきとちて
まさきのかつらくる人もなし
高野に侍けるころ寂然法師大原にすみ」101ウ
侍けるにつかはしける
西行法師
0415 おほはらはひらのたかねのちかけれは
ゆきふるほとをおもひこそやれ
題しらす 刑部卿範兼
0416 たまつはきみとりのいろも見えぬまて
こせのふゆ野はゆきふりにけり
清輔朝臣」102オ
0417 雲井よりちりくるゆきはひさかたの
月のかつらのはなにやあるらん
百首哥雪哥
前関白
0418 いるひとのをとつれもせぬしらゆきの
ふかきやまちをいつる月かけ
関白左大臣
0419 をとめこのそてふるゆきのしろ妙に」102ウ
よしのゝみやはさえぬひもなし
冬月をよみ侍ける
左京大夫顕輔
0420 ゆきふかきよしのゝやまのたかねより
そらさへさえていつる月かけ
冬哥とてよみ侍ける
後京極摂政前太政大臣
0421 さひしきはいつもなかめのものなれと」103オ
くもまのみねのゆきのあけほの
0422 しもとゆふかつら木やまのいかならん
みやこもゆきはまなく時なし
鎌倉右大臣
0423 山たかみあけはなれゆくよこ雲の
たえまにみゆる峯のしらゆき
正三位家隆
0424 あけわたるくもまのほしのひかりまて」103ウ
やまのはさむし峯のしら雪
建保五年内裏哥合冬海雪
八条院高倉
0425 さとのあまのさためぬやともうつもれぬ
よするなきさのゆきのしらなみ
正三位家隆
0426 わたのはらやそしましろくふるゆきの
あまきるなみにまかふつりふね」104オ
高陽院家哥合に
康資王母
0427 ふみゝけるにほのあとさへおしきかな
こほりのうへにふれるしらゆき
題しらす 曽祢好忠
0428 ちはやふるかみなひやまのならの葉を
ゆきふりさけてたおるやまひと
堀河院に百首哥たてまつりける時」104ウ
基俊
0429 おくやまのまつの葉しのきふるゆきは
人たのめなる花にそありける
建保六年内裏哥合冬哥
入道前太政大臣
0430 つま木こるやま地もいまやたえぬらん
さとたにふかきけさのしらゆき
参議雅経」105オ
0431 かりころもすそのもふかしはしたかの
とかへるやまのみねのしらゆき
関白左大臣家百首哥よみ侍ける雪哥
兵部卿成実
0432 はしたかのとかへるやまのゆきのうちに
それとも見えぬ峯のしゐしは
古渓雪をよみ侍ける
中宮大夫通方」105ウ
0433 たにふかみゆきのふるみちあとたえて
つもれるとしをしる人そなき
家哥合に暮山雪といへる心を
前関白
0434 くれやすきひかすもゆきもひさにふる
みむろのやまのまつのしたをれ
哥合に寒夜炉火といへる心を
嘉陽門院越前」106オ
0435 いたまよりそてにしらるゝ山おろしに
あらはれわたるうつみ火のかけ
後京極摂政家哥合に
藤原隆信朝臣
0436 いかなれはふゆにしられぬいろなから
まつしも風のはけしかるらん
題しらす 鎌倉右大臣
0437 ものゝふのやそうち河をゆく水の」106ウ
なかれてはやきとしのくれ哉
五十首哥よませ侍ける時惜歳暮といへる
心を 入道二品親王道助
0438 とゝめはやなかれてはやきとしなみの
よとまぬ水はしからみもなし
正三位家隆
0439 つらかりしそてのわかれのそれならて
おしむをいそくとしのくれ哉」107オ
如願法師
0440 あすかゝはかはるふちせもあるものを
せくかたしらぬ年のくれ哉
題しらす 大納言師氏
0441 もゝしきの大宮人もむれゐつゝ
こそとやけふをあすはかたらん
貫之
0442 ふるゆきをそらにぬさとそたむけつる」107ウ
はるのさかひにとしのこゆれは」108オ
新勅撰和謌集巻第七
賀哥
貞永元年六月きさいの宮の御方にて
はしめて鶴契遐年といふ題を講せら
れ侍けるに
前関白
0443 つるの子の又やしはこのすゑまても
ふるきためしをわかよとや見む」108ウ
関白左大臣
0444 ひさかたのあまとふつるのちきりをきし
千世のためしのけふにもあるかな
寛治八年八月高陽院家哥合に月哥
周防内侍
0445 つねよりもみかさのやまのつきかけの
ひかりさしそふあめのした哉
祝のこゝろをよめる」109オ
藤原行家朝臣
0446 あめのしたひさしきみよのしるしには
みかさのやまのさか木をそさす
百首哥よませ侍ける時祝哥
後法性寺入道前関白太政大臣
0447 やちよへむきみかためとやたまつは木
葉かへをすへきほとはさためし
大宰大弐重家」109ウ
0448 むしろ田にむれゐるたつの千世もみな
きみかよはひにしかしとそおもふ
堀河院御時竹不改色といへる心をよませ
たまうけるに
富家入道前関白太政大臣
0449 いろかへぬたけのけしきにしるきかな
よろつよふへきゝみかよはひは
長保五年左大臣家哥合に」110オ
藤原長能
0450 きみか世のちとせのまつのふかみとり
さはかぬみつにかけは見えつゝ
題しらす 実方朝臣
0451 枝かはすかすかのはらのひめこまつ
いのるこゝろは神そしるらん
天徳二年右大臣五十賀屏風
清原元輔」110ウ
0452 わかやとの千世のかはたけふしとをみ
さもゆくすゑのはるかなるかな
勅使にて斎宮にまいりてよみ侍ける
中納言兼輔
0453 くれたけの世ゝのみやこときくからに
きみはちとせのうたかひもなし
一品康子内親王裳き侍けるに
公忠朝臣」111オ
0454 みなひとのいかてとおもふよろつ世の
ためしときみをいのるけふかな
天暦御時みこたちのはかまき侍けるに
中納言朝忠
0455 おほはらやをしほのこまつ葉をしけみ
いとゝちとせのかけとならなん
題しらす よみひとしらす
0456 うれしさをむかしはそてにつゝみけり」111ウ
こよひは身にもあまりぬるかな
長元六年関白しらかはにて子日侍ける
に 中納言顕基
0457 ちとせまていろやまさらんきみかため
いはひそめつるまつ(+の)みとりは
永治二年崇徳院摂政の法性寺家に
わたらせたまうて松契千年といへる心を
よませ給けるに」112オ
大炊御門左大臣
0458 うつしうへてしめゆふやとのひめこまつ
いくちよふへきこすゑなるらん
後白河院御時やそしまのまつりにすみ
よしにまかりてよみ侍ける
権中納言長方
0459 神かきやいそへのまつにことゝはむ
けふをは世ゝのためしとや見る」112ウ
仁安三年摂政閑院家にて対松争齢
といへるこゝろをよみ侍ける
権中納言兼光
0460 うつしうふるまつのみとりもきみかよも
けふこそちよのはしめなりけれ
建仁三年正月松有春色といへる心を
をのこともつかうまつりけるに
前左大臣」113オ
0461 ときはなるたまゝつかえも春くれは
千世のひかりやみかきそふらん
御いのりつかうまつりておもひをのへ
侍ける 権大僧都良算
0462 ふしておもひあふきていのるわかきみの
み世はちとせにかきらさるへし
おいのゝちはるのはしめによみ侍ける
入道前太政大臣」113ウ
0463 はるはまつ子日のまつにあらすとも
ためしにわれをひとやひくへき
天喜四年閏三月中殿に翫新成桜花哥
堀河右大臣
0464 けふそ見るたまのうてなのさくらはな
のとけきはるにあまるにほひを
権大納言信家
0465 つねよりもはるものとけきゝみか世に」114オ
ちらぬためしのはなを見るかな
寛喜元年十一月女御入内屏風京華
人家元日かきたる所
前関白
0466 はつはるの花のみやこにまつをうへて
たみのとゝめるちよそしらるゝ
江山人家柳ある所
入道前太政大臣」114ウ
0467 名にしおはゝしくやみきはのたま柳
いりえのなみにみふねこくまて
池辺藤花
正三位知家
0468 はるひさくふちのしたかけいろみえて
ありしにまさるやとのいけみつ
四月山田早苗
内大臣
0469 み田やもりいそくさなへにおなしくは」115オ
ちよのかすとれわかきみのため
八月山野に鹿たてる所
前関白
0470 いまそこれいのりしかひよかすかやま
おもへはうれしさをしかのこゑ
人家翫月
0471 わかやとのひかりを見てもくものうへの
月をそいのるのとかなれとは」115ウ
田家西収興
0472 としあれはあきのくもなすいなむしろ
かりしく民のたゝぬひそなき
入道前太政大臣
0473 あきをへてきみかよはひのありかすに
かり田のいねもちつかつむなり
円融院御時中将公任と碁つかうまつりて
まけわさにしろかねのこにむしいれて」116オ
弘徽殿にたてまつらせ侍ける
小野宮右大臣
0474 よろつ世のあきをまちつゝなきわたれ
いはほにねさすまつむしのこゑ
九月九日従一位倫子きくのわたをたま
ひておいのこひすてよと侍けれは
紫式部
0475 きくのつゆわかゆはかりにそてふれて」116ウ
はなのあるしに千世はゆつらん
菊をよみ侍ける
元輔
0476 わかやとのきくのしらつゆよろつ世の
あきのためしにおきてこそ見め
康資王母
0477 なか月にゝほひそめにしきくなれは
しもゝひさしくをけるなりけり」117オ
後冷泉院御時残菊映水といへる心を
権大納言長家
0478 神な月のこるみきはのしらきくは
ひさしきあきのしるしなりけり
承保三年大井河に行幸の日よみ侍ける
大宮右大臣
0479 大井かはふるきみゆきのなかれにて」117ウ
となせのみつもけふそすみける
前中納言伊房
0480 おほ井かはけふのみゆきのしるしにや
千世にひとたひすみわたるらん
寛喜元年女御入内屏風十一月江辺寒
芦鶴立 入道前太政大臣
0481 千世ふへきなにはのあしのよをかさね
しものふりはのつるのけころも」118オ
泥絵屏風岩清水臨時祭
権中納言定家
0482 ちりもせしころもにすれるさゝたけの
おほみや人のかさすさくらは
承保元年大嘗会主基哥丹波国か
つらの山
前中納言匡房
0483 ひさかたの月のかつらのやまひとも」118ウ
とよのあかりにあひにけるかな
寛治元年悠紀哥近江国みむろの山
0484 しくれふるみむらのやまのもみちはゝ
たかをりかけしにしきなるらん
仁安三年悠紀風俗哥
宮内卿永範
0485 あめつちをてらすかゝみのやまなれは
ひさしかるへきかけそ見えける」119オ
貞応元年悠紀哥たま野
正三位家衡
0486 いろ/\のくさはのつゆをゝしなへて
たまのゝはらに月そみかける
おなし主基の風俗哥いはや山
権中納言頼資
0487 ふかみとりたま松かえの千世まても
いはやのやまそうこかさるへき」119ウ
御屏風哥いはくら山
0488 あしひきのいはくらやまのひかけくさ
かさすや神のみことなるらん
題しらす よみひとしらす
0489 月も日もかはりゆけともひさにふる
みむろのやまのとこみやところ
延喜六年日本紀竟宴哥
誉田天皇」120オ
西三条右大臣
0490 としへたるふるきうきゝをすてねはそ
さやけきひかりとをくきこゆる
豊御食炊屋姫天皇
貞信公
0491 つゝみをはとよらのみやにつきそめて
世ゝをへぬれと水はもらさす
天平十六年正月雪ふかくつもりて侍け」120ウ
るあしたみこたちかむたちめひきゐ
て太上天皇の中宮西院にまいりて雪はら
はせ侍ける御前にめしておほみきたま
ひけるついてにそうし侍ける
井手左大臣
0492 ふるゆきのしろかみまてにおほきみに
つかへまつれはたふとくもあるか
右大臣の佐保の家にみゆきせさせたま」121オ
うける日
聖武天皇御製
0493 あおによしならのみやこのくろ木もて
つくれるやとはをれとあかぬかも」121ウ
新勅撰和歌集巻第八
羈旅哥
大宰帥に侍ける時府官らひきゐて香
椎浦にあそひ侍けるによめる
大納言旅人
0494 いさやこらかしゐのかたにしろたへの
そてさへぬれてあさなつみてん
越中守に侍ける時くにのつかさふせの」122オ
みつうみにあそひ侍ける時よめる
中納言家持
0495 ふせのうみのおきつしらなみありかよひ
いやとしのはに見つゝしのはん
あすかゝはらの御時あふみにみゆき侍
けるによみ侍ける
額田王
0496 あきの野にをはなかりふきやとれりし」122ウ
宇治のみやこのかりいほしそおもふ
芳野宮にみゆき侍ける時
持統天皇御製
0497 みよしのゝやましたかせのさむけくに
はたやこよひもわかひとりねむ
慶雲三年なにはの宮にみゆきの日
田原天皇御製
0498 あし辺ゆくかものはかひにしもふりて」123オ
さむきゆふへのことをしそおもふ
題しらす よみひとしらす
0499 いつくにかわかやとりせんたかしまの
かちのゝはらにこのひくらしつ
0500 くるしくもふりくるあめかみわのさき
さのゝわたりに家もあらなくに
弁基法師
0501 まつちやまゆふこえゆきていほさきの」123ウ
すみたかはらにひとりかもねむ
亭子院宮瀧御覧しにおはしましけ
る御ともにつかうまつりてひくらし野と
いふ所をよみ侍ける
大納言昇
0502 ひくらしのゆきすきぬともかひもあらし
ひもとくいもゝまたしとおもへは
うりふやまをこえ侍とて」124オ
(+謙徳公)
0503 ゆくひとをとゝめかねてそうりふやま
みねたちならしゝかもなくらん
おほしまのなるとゝいふ所にてよみ侍ける
恵慶法師
0504 みやこにといそくかひなくおほしまの
なたのかけちはしほみちにけり
藤原惟規か越後へくたり侍けるにつか
はしける」124ウ
伊勢大輔
0505 けふやさはおもひたつらんたひころも
身にはなれねとあはれとそきく
題しらす 和泉式部
0506 こし方をやへのしらくもへたてつゝ
いとゝ山地のはるかなる哉
みちのくにへまかりける人に
藤原清正」125オ
0507 かりそめのわかれとおもへとたけくまの
まつにほとへんことそくやしき
宇佐使餞に
左京大夫顕輔
0508 たちわかれはるかにいきのまつほとは
ちとせをすくす心地せむかも
題しらす 道因法師
0509 しぬはかりけふたになけくわかれ地に」125ウ
あすはいくへき心地こそせね
羈中暁といへるこゝろをよみ侍ける
入道前太政大臣
0510 たひころもたつあかつきのとりのねに
つゆよりさきもそてはぬれけり
別の心をよみ侍ける
源家長朝臣
0511 わかれ地をゝしあけかたのまきの戸に」126オ
まつさきたつはなみたなりけり
藤原親継
0512 わかれゆくかけもとまらすいはし水
あふさかやまは名のみふりつゝ
土左国に年へ侍ける時哥あまたよみ
侍けるに
藤原兼高
0513 あかつきそなをうきものとしられにし」126ウ
みやこをいてしありあけのそら
権大納言忠信哥合し侍けるに旅恋を
よめる
藤原信実朝臣
0514 くれにもといはぬわかれのあかつきを
つれなくいてしたひのそらかな
旅哥とてよみ侍ける
前中納言匡房」127オ
0515 またしらぬたひのみちにそいてにける
野はらしのはら人にとひつゝ
宇治関白ありまのゆ見にまかりける
道にて惜秋暮哥よみ侍けるに
権大納言長家
0516 神なひのもりのあたりにやとはかれ
くれゆくあきもさそとまるらん
斎宮群行のすゝかの頓宮にてたひの」127ウ
うたよみ侍けるに
権中納言通俊
0517 いそくともけふはとまらむたひねする
あしのかりいほにもみちゝりけり
関路暁雪といへる心をよみ侍ける
権大納言公実
0518 とりのねにあけぬときけはたひころも
さゆともこえむせきのしらゆき」128オ
久安百首哥たてまつりけるたひの哥
皇太后宮大夫俊成
0519 わかおもふ人に見せはやもろともに
すみたかはらのゆふくれのそら
0520 はるかなるあしやのおきのうきねにも
ゆめ地はちかきみやこなりけり
後法性寺入道前関白家百首哥よみ侍
けるにたひのこゝろをよみてつかはしける」128ウ
後徳大寺左大臣
0521 くさまくらむすふゆめ地はみやこにて
さむれはたひのそらそかなしき
百首哥たてまつりける時
後京極摂政前太政大臣
0522 うきまくらかせのよるへもしらなみの
うちぬるよゐはゆめをたに見す
式子内親王」129オ
0523 あらいそのたまものとこにかりねして
われからそてをぬらしつるかな
源師光
0524 てる月のみちゆくしほにうきねして
たひのひかすそおもひしらるゝ
題しらす 鎌倉右大臣
0525 世中はつねにもかもなゝきさこく
あまのをふねのつなてかなしも」129ウ
入道二品親王家に五十首哥よみ侍けるに
海旅
法印幸清
0526 くれぬとてとまりにかゝるゆふなみに
ことうらしるきあまのいさり火
旅泊の心をよみ侍ける
権中納言頼資
0527 夜をかさねうきねのかすはつもれとも」130オ
なみちのすゑやなをのこるらん
正三位知家
0528 なみまくらゆめにも見えすいもかしま
なにをかたみのうらといふらん
参議雅経
0529 たちかへりまたもやこえむみねの雲
あともとゝめぬよものあらしに」130ウ
真昭法師
0530 月のいろもうつりにけりなたひころも
すそのゝはきのはなのゆふつゆ
みやこをはなれてところ/\にまうて
めくり侍けるころよみ侍ける
八条院高倉
0531 世をうしとなれしみやこはわかれにき
いつこのやまをとまりともなし」131オ
0532 しら雲のやへたつやまをたつぬとも
まことのみちはなをやまとはん
建暦三年内裏詩哥合羈中眺望と
いへるこゝろをよみ侍ける
六条入道前太政大臣
0533 こえわふるやまもいくへになりぬらん
わけゆくあとをうつむしらくも
建保二年内裏哥合秋哥」131ウ
前内大臣
0534 くれはまたわかやとりかはたひ人の
かちのゝはらのはきのしたつゆ
世をのかれてのち修行のついてあさか山
をこえ侍けるにむかしのことおもひいて侍
てよみ侍ける 蓮生法師
0535 いにしへの我とはしらしあさかやま
見えしやま井のかけにしあらねは」132オ
たひのこゝろをよみ侍ける
前大僧正慈円
0536 かへりこはかさなるやまのみねことに
とまるこゝろをしほりにはせむ
みちのくにゝくたり侍ける人をゝくり
てあはつにとまりてよみ侍ける
禎子内親王家摂津
0537 あつまちの野ちのくさはのつゆしけみ」132ウ
ゆくもとまるもそてそしほるゝ
惟喬のみこのかりしけるともにひころ
侍てかへりて侍けるを猶とゝめ侍けれはよ
み侍ける
業平朝臣
0538 まくらとてくさひきむすふこともせし
あきの夜とたにたのまれなくに
なにはにみゆき侍ける時よめる」133オ
置始東人
0539 大伴のたかしのはまのまつかねを
まくらにぬれと家しおもほゆ」133ウ
新勅撰和謌集巻第九
神祇哥
延喜六年日本記竟宴哥下照姫
中納言当時
0540 からころもしたてるひめのつまこひそ
あめにきこゆるたつならぬねは
天慶六年竟宴哥国常立尊
中納言維時
0541 (+あめのしたおさむるはしめむすひをきてよろつよまてにたえぬなりけり)」134オ
月夜見尊
源公忠朝臣
0542 つきよみのあめにのほりてやみもなく
あきらけき世をみるかたのしさ
天児屋根尊
橘仲遠
0543 あさな/\てるひのひかりますことに
こやねのみこといつかわすれん」134ウ
神楽のとりものうた
0544 さゝわけはそてこそやれめとね河の
いしはふむともいさかはらより
0545 ゆみといへはしなゝきものとあつさゆみ
まゆみつきゆみひとしなもなし
堀河院御時宮いてさせ給へりけるころ
うへのをのこともまいりてわさとならぬものゝ
ねなときこえ侍けるに内の御あそひに」135オ
宮人うたはせたまひけるをおもひいてゝ
よみ侍ける
二条太皇太后宮大弐
0546 ゆふしてや神のみやひとたまさかに
もりいてし夜半ゝ猶そこひしき
庚申のよみかくらのついてに女房哥
合し侍けるに
[示+某]子内親王家宣旨」135ウ
0547 ゆふしてゝいはふいつきのみやひとは
世ゝにかれせぬさか木をそとる
潤三月侍けるとし斎院にまいりて長官
めしいてゝ女房の中につかはしける
京極前関白太政大臣
0548 はるは猶のこれるものをさくらはな
しめのうちにはちりはてにけり
賀茂臨時祭をよみ侍ける」136オ
法性寺入道前摂政太政大臣
0549 いかなれはかさしのはなは春なから
をみのころもにしものをくらん
おなし心をよみ侍ける
貫之
0550 やまあゐもてすれるころものあかひもの
なかくそ我は神につかふる
道因かすゝめ侍ける広田社哥合に社」136ウ
頭雪をよみ侍ける
三条入道左大臣
0551 やまあゐもてすれるころもにふるゆきは
かさすさくらのちるかとそ見る
臨時祭還立の御神楽をよみ侍ける
兵部卿成実
0552 たちかへるくもゐの月もかけそへて
には火うつろふやまあゐのそて」137オ
かくらをよみ侍ける
大納言通具
0553 ありあけのそらまたふかくをくしもに
月かけさゆるあさくらのこゑ
建保三年百首哥たてまつりけるにみ
むろやま
正三位家隆
0554 さか木とりかけしみむろのますかゝみ」137ウ
そのやまのはと月もくもらす
百首哥よみ侍けるに
後京極摂政前太政大臣
0555 すゝかゝはやそせしらなみわけすきて
神ちのやまのはるをみしかな
0556 かすかやまもりのしたみちふみわけて
いくたひなれぬさをしかのこゑ
建保六年内裏哥合秋哥」138オ
僧正行意
0557 かすかやま山たかゝらしあきゝりの
うへにそしかのこゑはきこゆる
日吉社垂跡の心をよみ侍ける
前大僧正慈円
0558 志賀の浦にいつゝのいろのなみたてゝ
あまくたりけるいにしへのあと
0559 朝日さすそなたのそらのひかりこそ」138ウ
やまかけてらすあるしなりけれ
0560 うけとりきうき身なりともまとはすな
みのりのつきのいりかたのそら
述懐のうたよみ侍けるに
0561 わかたのむ神もやそてをぬらすらん
はかなくおつる人のなみたに
社頭にて八十賀つかうまつりけるによみ
侍ける」139オ
祝部成仲
0562 かそふれはやそちのはるになりにけり
しめのうちなるはなをかさして
千五百番哥合に
土御門内大臣
0563 やをよろつ神のちかひもまことには
みよのほとけのめくみなりけり
あふひをよみ侍ける」139ウ
参議雅経
0564 かけていのるそのかみやまのやまひとゝ
ひともみあれのもろかつらせり
社頭にたてまつりける述懐哥
祝部忠成
0565 しもやたひをけとみとりのさか木はに
ゆふしてかけて世をいのる哉
題しらす 寂延法師」140オ
0566 もみち葉のあけのたまかきいくあきの
しくれのあめにとしふりぬらん
祝のこゝろをよみ侍ける
賀茂重政
0567 神やまのさか木もまつもしけりつゝ
ときはかきはのいろそひさしき
述懐哥よみ侍けるに
荒木田延成」140ウ
0568 やへさか木しけきめくみのかすそへて
いやとしのはにきみをいのらん
するかのくにゝ神拝し侍けるにふし
の宮によみてたてまつりける
平泰時
0569 ちはやふる神世のつきのさえぬれは
みたらしかはもにこらさりけり
寛喜三年伊勢勅使たてられ侍ける」141オ
当日まて雨はれかたく侍けるに宣旨
うけたまはりて本官にこもりて
祈請し侍けるによみ侍ける
卜部兼直
0570 あまつかせあめのやへくもふきはらへ
はやあきらけき日のみかけ見む
むま時より雨はれ侍にけり
かくらをよみ侍ける」141ウ
法印慶算
0571 さとかくらあらしはるかにをとつれて
よそのねさめもかみさひにけり
題しらす 恵慶法師
0572 しもかれやならのひろ葉をやひらてに
さすとそいそく神のみやつこ
能因法師
0573 みつかきにくちなしそめのころもきて」142オ
もみちにましるひとやはふりこ」142ウ
新勅撰和謌集巻第十
釈教哥
土左国室戸といふ所にて
弘法大師
0574 法性のむろとゝいへとわかすめは
うゐのなみかせよせぬひそなき
はちすのつゆをよみ侍ける
空也上人」143オ
0575 有漏の身は草葉にかゝるつゆなるを
やかてはちすにやとらさりけむ
いこまのやまのふもとにてをはりとり
侍けるに
大僧正行基
0576 のりのつきひさしくもかなとおもへとも
さ夜ふけにけりひかりかくしつ
題しらす 千観法師」143ウ
0577 法身の月はわか身をてらせとも
無明のくもの見せぬなりけり
あまの戒うけ侍けるに
大僧正観修
0578 ねむころにとおのいましめうけつれは
いつゝのさはりあらしとそおもふ
大僧正明尊山しなてら供養の導師にて
草木成仏のよしとき侍けるをきゝて」144オ
あしたにつかはしける
大僧都深観
0579 草木まてほとけのたねときゝつれは
このみのならむこともたのもし
返し 大僧正明尊
0580 たれもみなほとけのたねそをこなはゝ
この身なからもならさらめやは
錫杖のこゝろをよみ侍ける」144ウ
0581 むつのわをはなれてみ世のほとけには
たゝこのつゑにかゝりてそなる
法成寺入道前摂政家に法華経廿八品哥よま
せ侍けるに序品
権大納言行成
0582 むかし見しはなのいろ/\ちりかふは
けふのみのりのためしなるらん
五百弟子品」145オ
法成寺入道前摂政太政大臣
0583 きてつくる人なかりせはころもてに
かくるたまをもしらすやあらまし
廿八品哥よみ侍けるに同品
少僧都源信
0584 そてのうへのたまをなみたとおもひしは
かけゝむきみにそはぬなりけり
観音院に御封よせさせ給ける時の御哥」145ウ
冷泉院太皇太后宮
0585 けふたつるたみのけふりのたえさらは
きえてはかなきあとをとはなん
発心和哥集の哥般若心経
選子内親王
0586 世ゝをへてときくるのりはおほかれと
これそまことの心なりける
普賢十願請仏住世」146オ
0587 みなひとのひかりをあふくそらのこと
のとかにてらせくもかくれせて
薬王品尽是女身
0588 まれらなるのりをきゝつるみちしあれは
うきをかきりとおもひぬるかな
百首哥中に大悲代受苦の心を
式子内親王
0589 けちかたきひとのおもひに身をかへて」146ウ
ほのをにさへやたちましるらん
待賢門院中納言人/\すゝめて法華経廿
八品の哥よませ侍けるに譬喩品其中衆生
悉是吾子のこゝろをよめる
皇太后宮大夫俊成
0590 みなしことなになけきけんよの中に
かゝるみのりのありけるものを
随喜功徳品」147オ
0591 たにかはのなかれのすゑをくむ人も
きくはいかゝはしるしありける
美福門院極楽六時讃をゑにかゝせら
れ侍てかくへき哥つかうまつりけるに
虚空界をとひすきて歓喜国をさして
ゆかむ
0592 たおりつるはなのつゆたにまたひぬに
くものいくへをすきてきぬらん」147ウ
白銀ひかりさかりにて普賢大士来至す
0593 しろたへに月かゆきかと見えつるは
にしをさしけるひかりなりけり
舎利報恩講といふことをこなひ侍けるに
前大僧正慈円
0594 けふのゝりはわしのたかねにいてしひの
かくれてのちのひかりなりけり
0595 さとりゆく雲はたかねにはれにけり」148オ
のとかにてらせあきの夜のつき
金剛界の五部をよみ侍ける仏部
0596 いまはうへにひかりもあらしもち月と
かきるになれはひときはのそら
塵点本のこゝろをよみ侍ける
0597 ゐるちりのつもりてたかくなるやまの
おくよりいてし月を見るかな
家に百首哥よませ侍ける時五智の大円」148ウ
鏡智のこゝろを
後法性寺入道前関白太政大臣
0598 くもりなくみかきあらはすさとりこそ
まとかにすめるかゝみなりけれ
阿含経 藤原隆信朝臣
0599 ありとやはかせまつほとをたのむへき
をしかなく野にをけるしら露
安楽行品 藤原盛方朝臣」149オ
0600 やまふかみまことのみちにいるひとは
のりのはなをやしほりにはする
法華経提婆品のこゝろを
法印慶忠
0601 のりのため身をしたかへしやま人に
かへりて道のしるへをそする
紫式部ためとて結縁経供養し侍ける
所に薬草喩品をゝくり侍とて」149ウ
権大納言藤原宗家
0602 のりのあめに我もやぬれんむつましき
わかむらさきのくさのゆかりに
廿八品哥よみ侍けるに寿量品
八条院高倉
0603 身をすてゝこひぬこゝろそうかりける
いはにもおふるまつはあるよに
陀羅尼品」150オ
0604 あまつそらくものかよひちそれならぬ
をとめのすかたいつかまち見む
勧発品受持仏語作礼而去
寂然法師
0605 ちり/\にわしのたかねをおりそゆく
みのりのはなをいへつとにして
薩[土+垂]王子のこゝろをよみ侍ける
殷富門院大輔」150ウ
0606 身をすつるころもかけゝるたけのはの
そよいかはかりかなしかりけん
百首哥よみ侍けるに十界哥人界
後京極摂政前太政大臣
0607 ゆめのよに月日はかなくあけくれて
またはえかたき身をいかにせん
菩薩
0608 秋の月もちはひと夜のへたてにて」151オ
かつ/\かけそのこるくまなき
十二光仏のこゝろをよみ侍ける不断光
仏 源季広
0609 月かけはいるやまの葉もつらかりき
たえぬひかりを見るよしも哉
如来無辺誓願仕のこゝろをよめる
鑁也法師
0610 かすしらぬちゝのはちすにすむ月を」151ウ
こゝろの水にうつしてそみる
中道観のこゝろをよみ侍ける
信生法師
0611 なかむれはこゝろのそらにくもきえて
むなしきあとにのこる月かけ
悲鳴[口+幼]咽痛恋本群といへる心をよめる
寂然法師
0612 たちはなれこはきかはらになくしかは」152オ
みちふみまとふ友やこひしき
自惟孤露のこゝろを
寂超法師
0613 とことはにたのむかけなきねをそなく
つるのはやしのそらをこひつゝ
十戒哥よみ侍けるに不殺生戒
法眼宗円
0614 けふよりはかりにもいつなきゝすなく」152ウ
かたのゝみのはしもむすふなり
不偸盗戒
0615 こえしたゝおなしかさしの名もつらし
たつたのやまの夜半のしらなみ
不慳貧戒
0616 こけのしたにくちせぬ名こそかなしけれ
とまれはそれもおしむならひに
経教如鏡のこゝろをよめる」153オ
蓮生法師
0617 のちの世をてらすかゝみのかけを見よ
しらぬおきなはあふかひもなし
十如是のこゝろをよみ侍ける本来究
竟等 寂然法師
0618 をさゝはらあるかなきかのひとふしに
もともすゑはもかはらさりけり
後法性寺入道前関白舎利講のついて」153ウ
ひと/\に十如是哥よませ侍けるに如是
躰の心を
後京極摂政前太政大臣
0619 はるの夜のけふりにきえし月かけの
のこるすかたも世をてらしけり
如是性 讃岐
0620 すむとてもおもひもしらぬ身のうちに
したひてのこるありあけの月」154オ
大輔人/\に十首哥すゝめて天王寺に
まうてけるによみ侍ける
殷富門院新中納言
0621 とゝめけるかたみを見てもいとゝしく
むかしこひしきのりのあとかな
天王寺の西門にてよみ侍ける
郁芳門院安芸
0622 さはりなくいるひを見てもおもふかな」154ウ
これこそにしのかとてなりけれ
おいのゝち天王寺にこもりゐて侍ける時
ものにかきつけて侍ける
後白河院京極
0623 にしのうみいるひをしたふかとてして
きみのみやこにとをさかりぬる
なき人の手にものかきてと申ける人
に光明真言をかきてをくり侍とて」155オ
高弁上人
0624 かきつくるあとにひかりのかゝやけは
くらきみちにもやみはゝるらん
なにことかと申たりける人の返事
につかはしける
0625 きよたきやせゝのいはなみたかをやま
ひともあらしのかせそ身にしむ
0626 ゆめのよのうつゝなりせはいかゝせむ」155ウ
さめゆくほとをまてはこそあれ
住房の西のたににいはほあり定心石と
なつく松あり縄床樹となつくもとふ
たえたにして坐するにたよりあり正月
雪ふる日すこしひまあるほと坐禅する
に松のあらしはけしくふきてすみそ
めのそてにあられのふりつもりて侍ける
をつゝみていしのうへをたつとて」156オ
衣裏明珠のたとひをおもひいてゝよ
み侍ける
0627 まつのしたいはねのこけにすみそめの
そてのあられやかけしゝらたま」156ウ
(白紙)」1オ
新勅撰和謌集巻第十一
恋哥一
題しらす
よみひとしらす
0628 ゆめにたにまた見ぬひとのこひしきは
そらにしめゆふ心地こそすれ
0629 いにしへはありもやしけむ今そしる
また見ぬひとをこふるものとは」1ウ
0630 かすかやまあさゐるくものおほつかな
しらぬ人にもこひわたるかな
0631 あしわかのうらにきよするしらなみの
しらしなきみはわれおもふとも
0632 いはみかたうらみそふかきおきつなみ
よするたまもにうつもるゝ身は
0633 なにはえのこやに夜ふけてあまのたく
しのひにたにもあふよしも哉」2オ
0634 あさな/\あまのさほさすうらふかみ
をよはぬこひも我はするかな
女につかはしける
業平朝臣
0635 いへはえにいはねはむねにさはかれて
こゝろひとつになけくころ哉
はしめて人につかはしける
権中納言敦忠」2ウ
0636 雲井にてくもゐに見ゆるかさゝきの
はしをわたるとゆめに見し哉
返し よみひとしらす
0637 ゆめならは見ゆるなるらんかさゝきは
このよのひとのこゆるはしかは
下らうに侍ける時本院侍従につかはし
ける 忠義公
0638 いろにいてゝいまそしらするひとしれす」3オ
おもひわひつるふかきこゝろを
中将に侍ける時おなし女につかはしける
中納言朝忠
0639 いはてのみおもふこゝろをしる人は
ありやなしやとたれにとはまし
返し 本院侍従
0640 しるひとやそらになからんおもふなる
こゝろのそこのこゝろならては」3ウ
和泉式部につかはしける
大宰帥敦道親王
0641 うちいてゝもありにしものをなか/\に
くるしきまてもなけくけふかな
返し 和泉式部
0642 けふのまのこゝろにかへておもひやれ
なかめつゝのみすくす月日を
ひとのむすめと物かたりし侍けるを女」4オ
のおやきゝつけてもろともにゐあかし
侍にけるあしたにつかはしける
藤原高光
0643 こひやせんわすれやしなんぬともなく
ねすともなくてあかしつる夜を
題しらす 道信朝臣
0644 いつまてとわか世中もしらなくに
かねてもゝのをおもはするかな」4ウ
相模
0645 いかてかはあまつそらにもかすむへき
こゝろのうちにはれぬおもひを
五節のころまひゝめ(+の)さしくしをとりて
返しつかはすとて
藤原義孝
0646 ひとしれぬこゝろひとつになけきつゝ
つけのをくしそさすそらもなき」5オ
五節所に侍ける女いみしう見えぬと申
けるあしたひかけにつけてつかはし
ける 大宰大弐高遠
0647 ひかけさしをとめのすかた見てしより
うわのそらなるものをこそおもへ
題しらす 躬恒
0648 やまかけにつくるやま田のみかくれて
ほにいてぬこひに身をやつくさむ」5ウ
女につかはしける
業平朝臣
0649 そてぬれてあまのかりほすわたつみの
見るをあふにてやまむとやする
返し よみ人しらす
0650 いはまよりおふるみるめしつれなくは
しほひしほみちかひもありなん
題しらす 小町」6オ
0651 みなといりのたまつくり江にこくふねの
をとこそたてねきみをこふれと
0652 みるめかるあまのゆきゝのみなとちに
なこそのせきもわかすゑなくに
よみひとしらす
0653 いとへともなをすみのえのうらにほす
あみのめしけきこひもする哉
0654 こひわたるころものそてはしほみちて」6ウ
みるめかつかぬなみそたちける
堀河院艶書の哥をひと/\にめして女房
のもとにつかはして返哥をめしける時よみ
侍ける 権大納言公実
0655 としふれといはてくちぬるむもれ木の
おもふこゝろはふりぬこひ哉
返し 康資王母
0656 ふかゝらしみなせのかはのむもれ木は」7オ
したのこひちにとしふりぬとも
恋十首哥よみ侍けるに
神祇伯顕仲
0657 こひのやましけきをさゝのつゆわけて
いりそむるよりぬるゝそてかな
久安百首哥たてまつりけるこひの哥
待賢門院堀河
0658 かくとたにいはぬにしけきみたれあしの」7ウ
いかなるふしにしらせそめまし
0659 そてぬるゝ山井のしみついかてかは
人めもらさてかけを見るへき
皇太后宮大夫俊成
0660 ちらはちれいはせのもりのこからしに
つたへやせましおもふことのは
0661 なみたかはそてのみわたにわきかへり
ゆくかたもなきものをこそおもへ」8オ
清輔朝臣
0662 をのつからゆきあひのわせをかりそめに
見し人ゆへやいねかてにせん
0663 わかこひをいはてしらするよしも哉
もらさはなへて世にもこそちれ
二条院御時こひのうためしけるに
権大納言宗家
0664 ひとめをはつゝむとおもふをせきかねて」8ウ
そてにあまるはなみたなりけり
百首哥よみ侍けるに忍恋のこゝろを
前大納言資賢
0665 おもひやる方こそなけれをさふれと
つゝむ人めにあまるなみたは
家に百首哥よみ侍けるに
後法性寺入道前関白太政大臣
0666 くれなゐのなみたをそてにせきかねて」9オ
けふそおもひのいろにいてぬる
皇嘉門院別当
0667 おもひかはいはまによとむ水くきを
かきなかすにもそてはぬれけり
宜秋門院丹後
0668 そてのうへのなみたそいまはつらからぬ
ひとにしらるゝはしめとおもへは
恋哥よみ侍けるに」9ウ
皇太后宮大夫俊成
0669 みしめひきうつきのいみをさすひより
こゝろにかゝるあふひくさかな
刑部卿頼輔哥合し侍けるによみてつか
はしける忍恋
0670 いかにしてしるへなくともたつねみん
しのふのやまのおくのかよひち
題しらす 西行法師」10オ
0671 あつまちやしのふのさとにやすらひて
なこそのせきをこえそわつらふ
正三位家隆
0672 ひとしれすしのふのうらにやくしほの
わかなはまたきたつけふりかな
百首哥たてまつりけるこひの哥
宜秋門院丹後
0673 いはぬまはこゝろひとつにさはかれて」10ウ
けふりもなみもむねにこそたて
源師光
0674 わかこゝろいかなるいろにいてぬらん
また見ぬ人をおもひそめつゝ
権中納言定家
0675 まつかねをいそへのなみのうつたへに
あらはれぬへきそてのうへ哉
堀河院に百首哥たてまつりける忍恋」11オ
前中納言匡房
0676 はるくれはゆきのした草したにのみ
もえいつるこひをしる人そなき
藤原仲実朝臣
0677 あふことのかたのゝを野ゝしのすゝき
ほにいてぬこひはくるしかりけり
基俊
0678 なみまよりあかしのうらにこくふねの」11ウ
ほにはいてすもこひわたるかな
久安百首哥たてまつりけるこひの哥
清輔朝臣
0679 としふれとしるしもみえぬわかこひや
ときはのやまのしくれなるらん
題しらす 大納言通具
0680 人しれすおもひそめつとしらせはや
あきのこの葉のつゆはかりたに」12オ
寂蓮法師
0681 くれなゐのちしほもあかすみむろやま
いろにいつへきことのはも哉
参議雅経
0682 まさきちるやまのあられのたまかつら
かけしこゝろやいろにいつらん
右衛門督為家
0683 おくやまのひかけのつゆのたまかつら」12ウ
人こそしらねかけてこふれと
うへのをのことも未見恋といへる心を
つかうまつりけるついてに
御製
0684 やまの葉をわけいつる月のはつかにも
見てこそひとは人をこふなれ
恋哥よみ侍けるに
大納言実家」13オ
0685 ふみそむるこひちのすゑにあるものは
ひとのこゝろのいは木なりけり
正三位経家
0686 つくはやまは山しけやまたつね見む
こひにまされるなけきありやと
入道二品親王家に五十首哥よみ侍ける
に寄煙恋
入道前太政大臣」13ウ
0687 ふしのねのそらにやいまはまかへまし
わか身にけたぬむなしけふりを
百首哥よみ侍ける忍恋
前関白
0688 わかこひのもえてそらにもまかひなは
ふしのけふりといつれたかけん
関白左大臣
0689 わかこひはなみたをそてにせきとめて」14オ
まくらのほかにしる人もなし
題しらす 八条院六条
0690 わかとこのまくらもいかにおもふらん
なみたかゝらぬ夜はしなけれは
千五百番哥合に
二条院讃岐
0691 かはつなく神なひかはにさくはなの
いはぬいろをも人のとへかし」14ウ
恋哥よみ侍けるに
殷富門院大輔
0692 うちしのひおつるなみたのしらたまの
もれこほれてもちりぬへき哉
権大納言家良
0693 しのひかねなみたのたまのをゝたえて
こひのみたれそゝてに見えゆく
前関白家哥合に寄糸恋」15オ
正三位家隆
0694 たかために人のかたいとよりかけて
わかたまのをのたえむとすらん
家哥合に 後京極摂政前太政大臣
0695 よしのかははやきなかれをせくいはの
つれなきなかに身をくたくらん
こひのうたあまたよみ侍けるに
藤原頼氏朝臣」15ウ
0696 つれなさのためしはありとよしのかは
いはとかしはをあらふしらなみ
前参議経盛哥合し侍けるに
藤原盛方朝臣
0697 すみたかはせきりにむせふ水のあわの
あはれなにしにおもひそめけむ
左京大夫顕輔家哥合に
法性寺入道前関白家参河」16オ
0698 ひとしれすねをのみなけはころも河
そてのしからみせかぬひそなき
平経正朝臣哥合し侍ける恋哥
源有房朝臣
0699 なみたかはそてのしからみかけとめて
あはぬうきなをなかさすも哉
道因法師
0700 つらきにもうきにもおつるなみたかは」16ウ
いつれのかたかふちせなるらん
題しらす 平重時
0701 こかれゆくおもひをけたぬなみたかは
いかなるなみのそてぬらすらん
百首哥たてまつりけるこひのうた
如願法師
0702 やまかはのいしまのみつのうすこほり
われのみしたにむせふころかな」17オ
建保六年内裏哥合恋哥
権大納言忠信
0703 まきもくのあなしのかはのかはかせに
なひくたまものみたれてそおもふ
題しらす 侍従具定母
0704 なかれてのなをさへしのふおもひかは
あはてもきえねせゝのうたかた
正三位家隆」17ウ
0705 おもひ河身をはやなからみつのあはの
きえてもあはむ浪のまも哉
恋の心をよみ侍ける
権中納言長方
0706 おちたきつはやせのかはもいはふれて
しはしはよとむなみたとも哉
皇太后宮大夫俊成
0707 世とゝもにたえすもおつるなみた哉」18オ
ひとはあはれもかけぬたもとに」18ウ
新勅撰和謌集巻第十二
恋哥二
寛平御時きさいの宮の哥合哥
よみ人しらす
0708 なつむしにあらぬわか身のつれもなく
ひとをおもひにもゆるころ哉
0709 夏草のしけきおもひはかやり火の
したにのみこそもえわたりけれ」19オ
0710 としをへてもゆてふふしのやまよりも
あはぬおもひは我そまされる
下らうに侍ける時女につかはしける
清慎公
0711 たれにかはあまたおもひもつけそめし
きみより又はしらすそありける
題しらす 伊勢
0712 やまかはのかすみへたてゝほのかにも」19ウ
見しはかりにやこひしかるらん
0713 み山木のかけのこくさはわれなれや
つゆしけゝれとしるひともなき
女を見てつかはしける
謙徳公
0714 たとふれはつゆもひさしき世中に
いとかくものをおもはすも哉
返し とはりあけの女王」20オ
0715 あくるまもひさしてふなるつゆのよは
かりにもひとをしらしとそおもふ
神な月のついたち女につかはしける
東三条入道摂政太政大臣
0716 なけきつゝかへすころものつゆけきに
いとゝそらさへしくれそふらん
題しらす 本院侍従
0717 にはたつみゆくかたしらぬものおもひに」20ウ
はかなきあわのきえぬへきかな
道信朝臣
0718 としをへてものおもふひとのからころも
そてやなみたのとまりなるらん
よみひとしらす
0719 かたいともてぬきたるたまのをゝよはみ
みたれやしなむひとのしるへく
0720 こひわひぬあまのかるもにやとるてふ」21オ
われから身をもくたきつるかな
0721 いかたおろすそまやまかはの身なれさお
さしてくれともあはぬきみかな
0722 みや木ひくいつみのそまにたつたみの
やむときもなくこひわたるかも
0723 とをつひとかりちのいけにすむをしの
たちてもゐてもきみをしそおもふ
0724 あさかしはぬるやかはへのしのゝめの」21ウ
おもひてぬれはゆめに見えつゝ
0725 さをしかのあさふすをのゝくさわかみ
かくろへかねてひとにしらるな
0726 しらやまのゆきのしたくさ我なれや
したにもえつゝとしのへぬらん
広河女王
0727 こひくさをちからくるまになゝくるま
つみてこふらくわかこゝろから」22オ
九条右大臣
0728 ふしのねにけふりたえすときゝしかと
わかおもひにはたちをくれけり
なき名たち侍ける女につかはしける
権中納言敦忠
0729 しほたるゝあまのぬれきぬおなし名を
おもひかへさてきるよしも哉
つれなかりける女につかはしける」22ウ
右近大将道綱
0730 さころものつまもむすはぬたまのをの
たえみたえすみ世をやつくさん
題しらす よみひとしらす
0731 あふさかの名をはたのみてこしかとも
へたつるせきのつらくもあるかな
0732 きみにあはむそのひをいつとまつの木の
こけのみたれてものをこそおもへ」23オ
0733 いかはかりものおもふときのなみたかは
からくれなゐにそてのぬるらん
秋とちきりて侍けるにえあふましき
ゆへ侍けれは業平朝臣につかはしける
0734 あきかけていひしなからもあらなくに
このはふりしく江にこそありけれ
兵部卿元良のみこふみつかはしけ
る返ことによみ侍ける」23ウ
修理
0735 たかくともなにゝかはせんくれたけの
ひと夜ふたよのあたのふしをは
堀河院女房の艶書をめしけるによみ
侍ける 堀河院中宮上総
0736 つらしともいさやいかゝはいはし水
あふせまたきにたゆるこゝろは
返し 前大納言俊実」24オ
0737 世ゝふともたえしとそおもふ神かきや
いはねをくゝるみつのこゝろは
久安百首哥たてまつりける恋哥
大炊御門右大臣
0738 手にとりてゆらくたまのをたえさりし
人はかりたにあひみてしかな
左京大夫顕輔
0739 としふれと猶いはしろのむすひまつ」24ウ
とけぬものゆへ人もこそしれ
堀河院に百首哥たてまつりける時
権中納言国信
0740 くりかへしあまてる神のみやはしら
たてかふるまてあはぬきみ哉
恋哥よみ侍けるに
藤原為忠朝臣
0741 すみよしのち木のかたそきわれなれや」25オ
あはぬものゆへとしのへぬらん
建仁元年八月の哥合に久恋
入道前太政大臣
0742 まちわひてみとせもすくるとこのうへに
猶かはらぬはなみたなりけり
うへのをのことも忍久恋といへる心を
つか(か+う)まつりけるついてに
御製」25ウ
0743 よそにのみおもひふりにしとし月の
むなしきかすそつもるかひなき
建保五年四月庚申久恋といへる心をよ
み侍ける 権中納言定家
0744 こひしなぬ身のをこたりそとしへぬる
あらはあふよのこゝろつよさに
参議雅経
0745 つれなしとたれをかいはむたかさこの」26オ
まつもいとふもとしはへにけり
建保三年内大臣家百首哥よみ侍けるに
名所恋といへる心をよめる
源有長朝臣
0746 たかさこのおのへに見ゆるまつのはの
われもつれなく人をこひつゝ
庚申久恋哥
源家長朝臣」26ウ
0747 いたつらにいくとしなみのこえぬらん
たのめかをきしすゑのまつやま
如願法師
0748 あたに見しひとのこゝろのゆふたすき
さのみはいかゝかけてたのまん
題しらす 殷富門院大輔
0749 あひみてもさらぬわかれのあるものを
つれなしとてもなになけくらん」27オ
百首哥めしける時
崇徳院御製
0750 をろかにそことのはならはなりぬへき
いはてやきみにそてを見せまし
0751 さきの世のちきりありけんとはかりも
身をかへてこそ人にしられめ
権大納言隆季
0752 あふさかのせきのせきもりこゝろあれや」27ウ
いはまのしみつかけをたに見む
前関白家家哥合に寄鳥恋といへるこゝろ
をよみ侍ける
典侍因子
0753 よそにのみゆふつけとりのねをそなく
その名もしらぬせきのゆきゝに
恋哥よみ侍けるに
殷富門院大輔」28オ
0754 またこえぬあふさかやまのいはし水
むすはぬそてをしほるものかは
中宮少将
0755 いかにせんこひちのすゑにせきすへて
ゆけともとをきあふさかのやま
祝部成茂
0756 あふさかのやまはゆきゝのみちなれと
ゆるさぬせきはそのかひもなし」28ウ
賀茂重保社頭にて哥合し侍けるに恋
のこゝろをよめる
勝命法師
0757 こひちにはたかすへをきしせきなれは
おもふこゝろをとおさゝるらん
藤原伊経朝臣
0758 こひちにはまつさきにたつわかなみた
おもひかへらんしるへともなれ」29オ
題しらす 権中納言長方
0759 伊勢の海おふのうらみをかさねつゝ
あふことなしの身をいかにせん
寂蓮法師
0760 おふのうみのおもはぬうらにこすしほの
さてもあやなくたつけふりかな
入道二品親王家五十首寄煙恋
参議雅経」29ウ
0761 うらみしななにはのみ津にたつけふり
こゝろからやくあまのもしほ火
正三位知家
0762 うらみてもわか身のかたにやくしほの
おもひはしるくたつけふりかな
関白左大臣家百首忍恋
源家長朝臣
0763 しらせはやおもひいりえのたまかしは」30オ
ふねさすさほのしたにこかると
恋哥よみ侍けるに
藤原行能朝臣
0764 かすならぬみしまかくれにこくふねの
あとなきものはおもひなりけり
寂延法師
0765 はるかすみたなゝしをふねいりえこく
をとにのみきく人をこひつゝ」30ウ
殷富門院大輔
0766 うかりけるよさのうらなみかけてのみ
おもふにぬるゝそてを見せはや
崇徳院御時うへのをのことも忍恋哥
つかうまつりけるに
皇太后宮大夫俊成
0767 わかこひはなみこすいそのはまひさき
しつみはつれとしるひともなし」31オ
堀河院御時殿上にて題をさくりて十首
哥よみ侍けるにしほかまをよみ侍ける
権中納言国信
0768 うらむともきみはしらしなすまの浦に
やくしほかまのけふりならねは
家に百首哥よみ侍けるに不遇恋の心
を 後法性寺入道前関白太政大臣
0769 わかこひはあはてのうらのうつせかひ」31ウ
むなしくのみもぬるゝそて哉
百首哥たてまつりける時恋哥
入道前太政大臣
0770 いはみかたひとのこゝろはおもふにも
よらぬたまものみたれかねつゝ
後京極摂政家に百首哥よませ侍ける恋
哥 高松院右衛門佐
0771 いそなつむあまのしるへをたつねつゝ」32オ
きみを見るめにうくなみた哉
藤原隆信朝臣
0772 世とゝもにかはくまもなきわかそてや
しほひもわかぬなみのしたくさ
題しらす 正三位家隆
0773 はるのなみのいり江にまよふはつくさの
はつかに見えしひとそこひしき
女につかはしける」32ウ
前大納言隆房
0774 ひとしれぬうき身にしけきおもひくさ
おもへはきみそたねはまきける
女のゆかりをたつねてつかはしける
左近中将公衡
0775 つたへてもいかにしらせむおなし野ゝ
おはなかもとのくさのゆかりに
題をさくりてうたよみ侍けるに思草」33オ
をよめる 前中納言国通
0776 したにのみいはてふるのゝおもひくさ
なひくおはなはほにいつれとも
こひのこゝろをよみ侍ける
藤原頼氏朝臣
0777 さしも草もゆるいふきのやまのはの
いつともわかぬおもひなりけり
百首哥よみ侍けるに不遇恋」33ウ
関白左大臣
0778 いつまてかつれなきなかのおもひくさ
むすはぬそてにつゆをかくへき
百首哥たてまつりける時こひの哥
入道前太政大臣
0779 あふまてとくさをふゆのにふみからし
ゆきゝのみちのはてをしらはや
参議雅経」34オ
0780 みよしのゝみくまかすけをかりにたに
見ぬものからやおもひみたれん
0781 きえぬともあさちかうへのつゆしあれは
猶おもひをくいろやのこらん
建保六年内裏哥合恋哥
正三位知家
0782 ひとめもるわかゝよひちのしのすゝき」34ウ
いつとかまたんあきのさかりを」35オ
新勅撰和歌集巻第十三
恋哥三
けふとたのめける女につかはしける
実方朝臣
0783 大井かはゐせきによとむみつなれや
けふくれかたきなけきをそする
女につかはしけるひとにかはりてよみ
侍ける 郁芳門院安芸
0784 こえはやなあつまちときくひたちおひの
かことはかりのあふさかのせき
百首哥めしける時
崇徳院御製
0785 こひ/\てたのむるけふのくれはとり
あやにくにまつほとそひさしき
後法性寺入道前関白家百首哥よみ侍ける
初遇恋 皇太后宮大夫俊成」36オ
0786 おもひわひいのちたえすはいかにして
けふとたのむるくれをまたまし
皇嘉門院別当
0787 うれしきもつらきもおなし涙にて
あふ夜もそては猶そかはかぬ
法性寺入道前関白家哥合に
基俊
0788 かつ見れと猶そこひしきわきもこか」36ウ
ゆつのつまくしいかゝさゝまし
題しらす 謙徳公
0789 かなしさもあはれもたくひおほかるを
ひとにふるさぬことのはも哉
京極前関白(白+家)肥後
0790 ひとめもるやまゐのし水むすひても
猶あかなくにぬるゝそてかな
後朝の心を 土御門内大臣」37オ
0791 きぬ/\になるともきかぬとりたにも
あけゆくほとそこゑもおしまぬ
八条院高倉
0792 あふことを又(又+は)まつ夜もなきものを
あはれもしらぬとりのこゑかな
家に百首哥よませ侍けるに
関白左大臣
0793 名にしおはぬゆふつけとりのなきそめて」37ウ
あくるわかれのこゑもうらめし
中宮少将
0794 をのかねにつらきわかれはありとたに
おもひもしらてとりやなくらん
源有長朝臣
0795 かへるさをゝのれうらみぬとりのねも
なきてそつくるあけかたのそら
恋哥よみ侍けるなかに」38オ
権中納言家良
0796 うかりけるたかあふことのならひより
ゆふつけとりのねにわかれけん
ありあけのころものこしにあひたる
人につかはしける
さかみ
0797 あけかたにいてにし月もいりぬらん
猶なかそらのくもそみたるゝ」38ウ
陽成院哥合に
よみ人しらす
0798 おしとおもふいのちにかへてあかつきの
わかれのみちをいかてとゝめむ
題しらす
0799 あけぬとてちとりしはなくしろ妙の
きみかたまくらいまたあかなくに
家の哥合に」39オ
後京極摂政前太政大臣
0800 わすれしのちきりをたのむわかれかな
そらゆく月のすゑをかそへて
暁恋のこゝろをよみ侍ける
鎌倉右大臣
0801 さむしろにつゆのはかなくをきていなは
あかつきことにきえやわたらん
恋哥よみ侍けるに」39ウ
八条院高倉
0802 わすれしのたゝひとことをかたみにて
ゆくもとまるもぬるゝそて哉
内大臣
0803 なをさりのそてのわかれのひとことを
はかなくたのむけふのくれかな
権大納言忠信
0804 ちきりをくしらぬいのちをうらみても」40オ
あかつきかけてねをのみそなく
左近中将基良
0805 いまはとてわかれしまゝのとりのねを
わすれかたみのしのゝめのそら
前関白家哥合に寄鳥恋といへる心を
よみ侍ける 中宮少将
0806 あかつきのゆふつけとりもしらつゆの
をきてかなしきためしにそなく」40ウ
千五百番哥合に
侍従具定母
0807 くれなはとたのめても猶あさつゆの
をきあへぬとこにきえぬへきかな
堀河院に百首哥たてまつりける時後朝
恋 京極前関白(白+家)肥後
0808 そまかはのせゝのしらなみよるなから
あけすはなにかくれをまたまし」41オ
後法性寺入道前関白家百首哥
皇太后宮大夫俊成
0809 となせ河いはまにたゝむいかたしや
なみにぬれてもくれをまつらん
二条院に百首哥たてまつりける時後朝
哥 大宰大弐重家
0810 あひ見てもかへるあしたのつゆけさは
さゝわけしそてにおとりしもせし」41ウ
関白左大臣家百首後朝恋
源家長朝臣
0811 きぬ/\のつらきためしにたれなりて
そてのわかれをゆるしそめけむ
別恋といふこゝろをよめる
法印幸清
0812 あふさかのゆふつけとりもわかれ地を
うきものとてやなきはしめけむ」42オ
懇切恋といふこゝろをよみ侍ける
藤原隆祐
0813 いかにせんくれ(れ+を)まつへきいのちたに
猶たのまれぬ身をなけきつゝ
題しらす 西行法師
0814 きえかへりくれまつそてそしほれぬる
をきつるひとはつゆならねとも
よみ人しらす」42ウ
0815 うつゝともゆめともなくてあけにけり
けさのおもひはたれまさるらん
権大納言実国
0816 うつゝともゆめともたれかさたむへき
世ひともしらぬけさのわかれは
女のもとよりかへりてつかはしける
謙徳公
0817 つゆよりもいかなる身とかなりぬらん」43オ
をきところなきけさのこゝろは
題しらす 伊勢
0818 あひ見てもつゝむおもひのかなしきは
ひとまにのみそねはなかれける
中納言兼輔
0819 しのゝめのあくれはきみはわすれけり
いつともわかぬ我そかなしき
源宗于朝臣」43ウ
0820 しらつゆのをくをまつまのあさかほは
みすそなか/\あるへかりける
女のもとよりかへりてつかはしける
業平朝臣
0821 我ならてしたひもとくなあさかほの
ゆふかけまたぬはなにはありとも
題しらす 延喜御製
0822 あかてのみふれはなりけりあはぬ夜も」44オ
あふよも人をあはれとそおもふ
あしたにつかはしける
大宰帥敦道親王
0823 こひといへはよのつねのとやおもふらむ
けさのこゝろはたくひたになし
返し 和泉式部
0824 よのつねのことゝもさらにおもほえす
はしめてものをおもふ身なれは」44ウ
題しらす
0825 ゆめにたに見てあかしつるあかつきの
こひこそこひのかきりなりけれ
謙徳公
0826 とりのねにいそきいてにし月かけの
のこりおほくてあけしそらかな
家哥合に夜恋のこゝろを
後京極摂政前太政大臣」45オ
0827 みしひとのねくたれかみのおもかけに
なみたかきやるさよのたまくら
昼恋 大蔵卿有家
0828 くもとなりあめとなるてふなかそらの
ゆめにも見えよゝるならすとも
恋哥とてよみ侍ける
中納言親宗
0829 うたゝねのはかなきゆめのさめしより」45ウ
ゆふへのあめを見るそかなしき
後京極摂政家百首哥よみ侍けるに
小侍従
0830 雲となりあめとなりても身にそはゝ
むなしきそらをかたみとや見む
0831 いかなりしときそやゆめに見しことは
それさへにこそわすられにけれ
恋哥とてよみ侍ける」46オ
従三位頼政
0832 きみこふとゆめのうちにもなくなみた
さめてのゝちもえこそかはかね
清輔朝臣
0833 いかにしてさめしなこりのはかなさそ
またもみさりし夜半のゆめ哉
久安百首哥たてまつりける恋哥
堀河」46ウ
0834 ゆめのこと見しはひとにもかたらぬに
いかにちかへてあはぬなるらん
百首哥たてまつりける恋哥
前関白
0835 見るとなきやみのうつゝにあくかれて
うちぬるなかのゆめやたえなん
権大納言忠信
0836 わかこゝろやみのうつゝはかひもなし
ゆめをそたのむくるゝ夜ことに」47オ
題しらす 藤原永光
0837 さりともとたのむもかなしむはたまの
やみのうつゝのちきりはかりは
師光哥合し侍けるに恋のこゝろをよめる
藤原隆信朝臣
0838 こひしなむのちのうき世はしらねとも
いきてかひなきものはおもはし
後法性寺入道前関白家百首哥」47ウ
俊恵法師
0839 あかつきのとりそおもへははつかしき
ひと夜はかりになにいとひけん
題しらす よみ人しらす
0840 たまのをのたえてみしかきなつの夜の
夜半になるまてまつ人のこぬ
二条院皇后宮常陸
0841 とへかしなあやしきほとのゆふくれの」48オ
あはれすくさぬなさけはかりに
建礼門院右京大夫
0842 わすれしのちきりたかはぬ世なりせは
たのみやせましきみかひとこと
内にさふらひける人のこよひはかなら
すと申ける返ことにつかはしける
高松院右衛門佐
0843 これもまたいつはりそとはしりなから」48ウ
こりすやけふのくれをまたまし
こひのうたよみ侍けるに
中宮少将
0844 いつはりとおもひとられぬゆふへこそ
はかなきものゝかなしかりけれ
百首哥めされける時
後京極摂政前太政大臣
0845 なみたせくそてにおもひやあまるらん」49オ
なかむるそらもいろかはるまて
0846 うきふねのたよりもしらぬなみちにも
見しおもかけのたゝぬひそなき
式子内親王
0847 わきもこかたまものとこによるなみの
よるとはなしにほさぬそて哉
建保六年内裏哥合恋哥
前内大臣」49ウ
0848 まつしまやわか身のかたにやくしほの
けふりのすゑをとふ人も哉
権中納言定家
0849 こぬひとをまつほのうらのゆふなきに
やくやもしほの身もこかれつゝ
題しらす 権中納言長方
0850 こひをのみすまのしほひにたまもかる
あまりにうたてそてなぬらしそ」50オ
正三位家隆
0851 こゝろからわか身こすなみうきしつみ
うらみてそふるやへのしほかせ
平忠度朝臣
0852 たのめつゝこぬ夜つもりのうらみても
まつよりほかのなくさめそなき
源家長朝臣
0853 こきかへるそてのみなとのあまをふね」50ウ
さとのしるへをたれかをしへし
真昭法師
0854 いはみかたなみちへたてゝゆくふねの
よそにこかるゝあまのもしほ火
百首哥たてまつりけるにふたみのうら
をよみ侍ける
正三位家衡
0855 わかこひはあふよもしらすふたみかた」51オ
あけくれそてになみそかけゝる
題しらす 鎌倉右大臣
0856 しらまゆみいそへのやまのまつのいろの
ときはにものをおもふころかな
内大臣に侍ける時家に百首哥よみ
侍けるに名所恋といふこゝろを
前関白
0857 わくらはにあふさかやまのさねかつら」51ウ
くるをたえすとたれかたのまむ
0858 むさしのやひとのこゝろのあさつゆに
つらぬきとめぬそてのしらたま
権中納言定家
0859 くるゝ夜はゑしのたくひをそれと見よ
むろ(ろ+の)やしまもみやこならねは
正三位家隆
0860 いはのうへになみこすあへのしまつとり」52オ
うきなにぬれてこひつゝそふる」52ウ
新勅撰和謌集巻十四
恋哥四
題しらす 人麿
0861 ゆふされはきみきまさんとまちし夜の
なこりそいまもいねかてにする
0862 あしひきのやましたかせはふかねとも
きみかこぬ夜はかねてさむしも
小町」53オ
0863 こぬひとをまつとなかめてわかやとの
なとかこのくれかなしかるらん
0864 たのましとおもはむとてはいかゝせん
ゆめよりほかにあふよなけれは
在原滋春
0865 わすれなんとおもふこゝろのかなしきは
うきもうからぬものにそありける
よみひとしらす」53ウ
0866 さりともとおもふらむこそかなしけれ
あるにもあらぬ身をしらすして
女につかはしける
謙徳公
0867 おもへはやしたゆふひものとけつらん
我をはひとのこひしものゆへ
題しらす 延喜御製
0868 しくれつゝいろまさりゆくゝさよりも」54オ
ひとのこゝろそかれにけらしな
九条右大臣
0869 むさしのゝ野なかをわけてつみそめし
わかむらさきのいろはかきりか
よみひとしらす
0870 あつさゆみすゑのはらのにとかりする
きみかゆつるのたえんとおもへや
0871 梓弓ひきみひかすみむかしより」54ウ
こゝろはきみによりにしものを
0872 い勢のあまのあさなゆふなにかつくてふ
あわひのかひのかたおもひにして
0873 ゆふたゝみしらつきやまのさねかつら
のちもかならすあはむとそおもふ
0874 あふさかのせきはよるこそもりまされ
くるゝをなとて我たのむらん
女につかはしける」55オ
兵部卿元良親王
0875 あさくこそひとはみるらめせきかはの
たゆるこゝろはあらしとそおもふ
返し 平中興女
0876 せきかはのいはまをくゝる水をあさみ
たえぬへくのみゝゆるこゝろを
題しらす よみひとしらす
0877 さくらあさのをふのした草つゆしあらは」55ウ
あかしてゆかむおやはしるとも
0878 つゆしものうへともしらしむさしのゝ
我はゆかりのくさ葉ならねは
0879 いまはとてわするゝくさのたねをたに
ひとのこゝろにまかせすもかな
人麿
0880 たまほこの道ゆきつかれいなむしろ
しきてもひとを見るよしも哉」56オ
よみひとしらす
0881 ゆふされはみちたと/\し月まちて
かへれわかせこそのまにも見む
額田王
0882 きみまつとわかこひをれはわかやとの
すたれうこかしあきかせそふく
壬生忠岑
0883 もろくともいさしらつゆに身をなして」56ウ
きみかあたりのくさにきえなん
躬恒
0884 わひぬれはいまはとものをおもへとも
こゝろしらぬはなみたなりけり
うねへまちにて右近のつかさのさうし
にまかりいつる人をまち侍けるにゆきす
きなからたちよらす侍けれは
采女明日香」57オ
0885 みかさやまきてもとはれぬみちのへに
つらきゆくてのかけそつれなき
きさいの宮の御方にさふらひける時さと
にいて侍とて九条右大臣頭中将に侍ける
につかはしける
右近
0886 あひ見すはちきりしほとにおもひいてよ
そへつるたまを身にもはなたて」57ウ
清慎公少将に侍ける時つかはしける
式部卿敦慶親王家大和
0887 こひしさのほかにこゝろのあらはこそ
人のわするゝ身をもうらみめ
しのひてもの思侍ける時
孚子内親王
0888 つゆしけきくさのたもとをまくらにて
きみまつむしのねをのみそなく」58オ
中務
0889 身のうへもひとのこゝろもしらぬまは
ことそともなきねをのみそなく
0890 ありしよりみたれまさりてあまのかる
ものおもふ身ともきみはしらしな
題しらす 二条太皇太后宮大弐
0891 かせふけはそらにたゝよふくもよりも
うきてみたるゝわかこゝろかな」58ウ
0892 あらしかしこの世のほかをたつぬとも
なみたのそてにかゝるたくひは
堀河院に艶書の哥めしける時
周防内侍
0893 ひとしれぬそてそつゆけきあふことの
かれのみまさるやまのかけくさ
返し 大納言忠教
0894 おくやまのしたかけくさはかれやする」59オ
のきはにのみはをのれなりつゝ
おなし艶書とてよみ侍ける
権中納言俊忠
0895 みしまえのかりそめにさへまこもくさ
ゆふてにあまるこひもするかな
百首哥よみ侍ける名所恋
前関白
0896 なみたかはみなわをそてにせきかねて」59ウ
人のうきせにくちやはてなん
0897 うしとおもふものからぬるゝそてのうら
ひたりみきにもなみやたつらん
題しらす 侍従具定母
0898 ほしわひぬあまのかるもにしほたれて
われからぬるゝそてのうらなみ
前大納言隆房
0899 あまのかるみるをあふにてありしたに」60オ
いまはなきさによせぬなみ哉
後法性寺入道前関白家百首哥よみ侍
けるに 宜秋門院丹後
0900 見るまゝにひとのこゝろはのきはにて
われのみしけるわすれくさかな
俊恵法師
0901 わするなよわすれしとこそたのめしか
我やはいひしきみそちきりし」60ウ
逢不逢恋のこゝろを
二条院讃岐
0902 めのまへにかはるこゝろをしらつゆの
きえはともにとなにおもひけん
題しらす 入道前太政大臣
0903 わするなよきえはともにといひをきし
すゑのゝくさにむすふしらつゆ
鎌倉右大臣」61オ
0904 わかこひはあはてふるのゝをさゝはら
いく世まてとかしものをくらん
前大納言隆房
0905 たとりつゝわくるたもとにかけてけり
ゆきもならはぬみちしはのつゆ
寂蓮法師
0906 はなすゝきほにたにこひぬわかなかの
しもをくのへとなりにけるかな」61ウ
藤原行能朝臣
0907 なか月のしくれにぬれぬことのはも
かはるならひのいろそかなしき
宮内卿
0908 とへかしなしくるゝそてのいろにいてゝ
ひとのこゝろのあきになる身を
八条院高倉
0909 ふくからに身にそしみけるきみはさは」62オ
我をやあきのこからしのかせ
俊恵法師
0910 わきもこをかたまつよひのあきかせは
お木のうはゝをよきてふかなん
秋恋といふこゝろをよみ侍ける
入道前太政大臣
0911 萩のうへのかりのなみたをかこつとも
こひにいろこきそてやみゆらん」62ウ
0912 もみちせぬやまにもいろやあらはれん
しくれにまさるこひのなみたに
内大臣
0913 もろ人のそてまてそめよたつたひめ
よそのちしほをたくひとも見む
題しらす 侍従具定母
0914 なれ/\てあきにあふきをゝくつゆの
いろもうらめしねやの月かけ」63オ
中宮但馬
0915 月草のうつろふいろのふかけれは
人のこゝろのはなそしほるゝ
藤原教雅朝臣
0916 おもかけは猶ありあけの月くさに
ぬれてうつろふそてのあさつゆ
藤原資季朝臣
0917 しろたへのわかころもてをかたしきて」63ウ
ひとりやねなんいもにこひつゝ
恋哥あまたよみ侍けるに
民部卿成範
0918 おもひきやまたうらわかきはつくさの
あきをもまたてかれんものとは
侍従具定母
0919 とへかしなあさちふきこすあきかせに
ひとりくたくるつゆのまくらを」64オ
法印幸清
0920 よしさらはしけりもはてねあたひとの
まれなるあとの庭のよもきふ
寂蓮法師
0921 うらみわひおもひたえてもやみなまし
なにおもかけのわすれかたみそ
俊恵法師
0922 しなはやとあたにもいはしのちの世は」64ウ
おもかけたにもそはしとおもへは
左近中将公衡
0923 ちきりしにかはるうらみもわすられて
そのおもかけは猶とまる哉
前大納言忠良
0924 よのうさやきこえこさらむおもかけは
いはほのなかにをくれしもせし
題しらす みあれの宣旨」65オ
0925 おほそらにこひしきひともやとらなむ
なかむるをたにかたみとおもはん
和泉式部
0926 見えもせむ見もせむ人をあさことに
おきてはむかふかゝみともかな
0927 ちりのゐるものとまくらはなりにけり
なにのためにかうちもはらはむ
九条太政大臣中将に侍ける時たえ侍て」65ウ
のちまくらの松かきたるを見侍て
権中納言定頼女
0928 こゝろにはしのふとおもふをしきたへの
まくらにてこそまつは見えけれ
亭子院にたてまつりける
藤原恒興女
0929 わくらはにまれなるひとのたまくらは
ゆめかとのみそあやまたれける」66オ
女につかはしける
藤原高光
0930 かたときもわすれやはするつらかりし
こゝろのさらにたくひなけれは
題しらす 藤原惟成
0931 かたしきのころもをせはみゝたれつゝ
なをつゝまれぬそてのしらたま
和泉式部」66ウ
0932 あふことをたまのをにする身にしあれは
たゆるをいかゝなしとおもはぬ
0933 をゝよはみゝたれておつるたまとこそ
なみたも人のめには見ゆらめ
よみひとしらす
0934 あふことをいまはかきりとおもへとも
なみたはたえぬものにそありける
0935 よしさらはこひしきことをしのひみて」67オ
たへすはたへぬいのちとおもはん
0936 あつさゆみひきつのつなるなのりその
たれうきものとしらせそめけむ
0937 わかれてのゝちそかなしきなみたかは
そこもあらはになりぬとおもへは
0938 にほとりのおきなか河はたえぬとも
きみにかたらふことつきめやは
0939 ゆくふねのあとなきなみにましりなは」67ウ
たれかは水のあわとたに見む
0940 たちておもひゐてもそおもふくれなゐの
あかもたれひきいにしすかたを
0941 くれたけのしけくもゝのをおもふかな
ひと夜へたつるふしのつらさに」68オ
新勅撰和謌集巻第十五
恋哥五
みちのくにゝまかりて女につかはし
ける 業平朝臣
0942 しのふやましのひてかよふみちも哉
ひとのこゝろのおくもみるへく
頭中将に侍ける時しのふくさのもみ
ちしたるをふえ(え+の)なかにいれてをん」68ウ
なのもとにつかはしける
謙徳公
0943 こひしきをひとにはいはてしのふくさ
しのふにあまるいろを見よかし
返し よみひとしらす
0944 いはておもふほとにあまらはしのふ草
いとゝひさしのつゆやしけらむ
題しらす」69オ
0945 きみゝすてほとをふるやのひさしには
あふことなしのくさそおひける
0946 いへはえにふかくかなしきふえたけの
夜こゑはたれとゝふひとも哉
0947 むつのをのよりめことにそかはにほふ
ひくをとめこのそてやふれつる
0948 たまのをゝあわをによりてむすへれは
たえてのゝちもあはむとそおもふ」69ウ
0949 あふことはたまのをはかりおもほえて
つらきこゝろのなかくもあるかな
0950 ひとはいさおもひやすらんたまかつら
おもかけにのみいとゝ見えつゝ
0951 なかゝらぬいのちのほとにわするゝは
いかにみしかきこゝろなるらん
光孝天皇御製
0952 月のうちのかつらのえたをおもふとや」70オ
なみたのしくれふるこゝちする
湯原王
0953 めには見て手にはとられぬ月のうちの
かつらのこときいもをいかにせん
貫之
0954 こぬひとを月になさはやむはたまの
夜ことにわれはかけをたにみん
和泉式部」70ウ
0955 さもあらはあれ雲井なからも山のはに
いている夜ひの月とたに見は
赤染衛門
0956 たのめつゝこぬよはふともひさかたの
月をはひとのまつといへかし
大宰大弐高遠
0957 おもひやるこゝろもそらになりにけり
ひとりありあけの月をなかめて」71オ
道信朝臣
0958 ものおもふに月見ることはたえねとも
なかめてのみもあかしつるかな
たのめわたりける女につかはしける
よみひとしらす
0959 あふことをたのめぬにたにひさかたの
月をなかめぬよひはなかりき
返し 相模」71ウ
0960 なかめつゝ月にたのむるあふことを
くも井にてのみすきぬへき哉
法性寺入道前関白内大臣に侍ける時家
に哥合し侍けるによめる
堀河院中宮上総
0961 こひわたるきみかくもゐの月ならは
をよはぬ身にもかけはみてまし
月前恋といへるこゝろをよみ侍ける」72オ
皇太后宮大夫俊成
0962 こひしさのなかむるそらにみちぬれは
月もこゝろのうちにこそすめ
千五百番哥合に
二条院讃岐
0963 ふけにけりこれやたのめし夜半ならん
月をのみこそまつへかりけれ
建保六年内裏哥合に」72ウ
嘉陽門院越前
0964 あたひとをまつよふけゆくやまのはに
そらたのめせぬありあけの月
題しらす 正三位家隆
0965 あまをふねはつかの月のやまのはに
いさよふまても見えぬきみかな
殷富門院大輔
0966 まつひとはたれとねまちの月かけを」73オ
かたふくまてにわれなかむらん
権大納言家良
0967 なからへてまたやは見むとまつよゐを
おもひもしらすふくる月かな
後京極摂政家哥合に待恋をよめる
藤原隆信朝臣
0968 こぬひとをなにゝかこたむやまのはの
月はまちいてゝさ夜ふけにけり」73ウ
建暦二年廿首哥たてまつりけるこひ
の哥 正三位家隆
0969 いけにすむをしあけかたのそらの月
そてのこほりになく/\そ見る
旅恋といふこゝろをよみ侍ける
大蔵卿有家
0970 たひころもかへすゆめちはむなしくて
月をそ見つるありあけのそら」74オ
百首哥に 式子内親王
0971 いかにせんゆめちにたにもゆきやらぬ
むなしきとこのたまくらのそて
題しらす 大納言実家
0972 うちなけきいかにねし夜かとおもへとも
ゆめにも見えてころもへにけり
左近中将公衡
0973 おもひねのわれのみかよふゆめ地にも」74ウ
あひ見てかへるあかつきそなき
参議雅経
0974 なけきわひぬるたまのをのよる/\は
おもひもたえぬゆめもはかなし
正三位家隆
0975 いかにせんしはしうちぬるほとも哉
ひと夜はかりのゆめをたに見む
殷富門院大輔」75オ
0976 如何せんいまひとたひのあふことを
ゆめにたに見てねさめすも哉
法橋顕昭
0977 つらきをもうきをもゆめになしはてゝ
あふ夜はかりをうつゝともかな
道因法師
0978 ゆめにさへあはすとひとの見えつれは
まとろむほとのなくさめもなし」75ウ
千五百番哥合に
二条院讃岐
0979 あはれ/\はかなかりけるちきりかな
たゝうたゝねのはるの夜のゆめ
恋哥よみ侍けるに
藤原重頼女
0980 ちきりしもみしもむかしのゆめなから
うつゝかほにもぬるゝそてかな」76オ
夏夜恋といふ心をよみ侍ける
按察使兼宗
0981 なつむしもあくるたのみのあるものを
けつかたもなきわかおもひかな
題しらす 権大納言家良
0982 しかのたつ葉やまのやみにともす火の
あはていく夜をもえあかすらん
建保六年内裏哥合恋哥」76ウ
権中納言定家
0983 あふことはしのふのころもあはれなと
まれなるいろにみたれそめけむ
従三位範宗
0984 いかにせんねをなくむしのからころも
ひともとかめぬそてのなみたを
題しらす 従三位顕兼
0985 をのれなくこゝろからにやうつせみの」77オ
はにをくつゆに身をくたくらん
前関白家哥合に山家夕恋といへる心を
よみ侍ける
正三位知家
0986 はしたかのとやまのいほのゆふくれを
かりにもとたにちきりやはする
建保三年内裏哥合に
藤原信実朝臣」77ウ
0987 あつまちのふしのしはやましはしたに
けたぬおもひにたつけふりかな
心ならすなかたえにける女につかはしける
大宮入道内大臣
0988 ことうらのけふりのよそにとしふれと
なをこりはてぬあまのもしほ木
家哥合に顕恋といへる心をよみ侍ける
後京極摂政前太政大臣」78オ
0989 そてのなみむねのけふりはたれも見よ
きみかうき名のたつそかなしき
題しらす 左近中将公衡
0990 ゆふけふり野辺にも見えはつゐにわか
きみにかへつるいのちとをしれ
京極前関白家哥合に恋のこゝろを
大納言忠教
0991 こひしなはきみゆへとたにしられてや」78ウ
むなしきそらのくもとなりなん
題しらす 土御門内大臣
0992 さためなきかせにしたかふうき雲の
あはれゆくゑもしらぬこひかな
後京極摂政家哥合寄雲恋のこゝろを
ひとにかはりてよみ侍ける
前大僧正慈円
0993 こひしぬる夜半のけふりの雲とならは」79オ
きみかやとにやわきてしくれむ
寄木恋 正三位家隆
0994 おもひかねなかむれはまたゆふひさす
のきはのをかのまつもうらめし
千五百番哥合に
按察使兼宗
0995 ひとこゝろこの葉ふりしくえにしあれは
なみたのかはもいろかはりけり」79ウ
百首哥たてまつりける時
大炊御門右大臣
0996 つく/\とおつるなみたのかすしらす
あひ見ぬ夜半のつもりぬるかな
皇太后宮大夫俊成
0997 いかにせんあまのさかてをうちかへし
うらみても猶あかすもあるかな
待賢門院堀河」80オ
0998 うたかひしこゝろのうらのまさしさは
とはぬにつけてまつそしらるゝ
題しらす 従三位範宗
0999 はるかなるほとはくも井の月日のみ
おもはぬなかにゆきめくりつゝ
こひのうたあまたよみ侍けるに
藤原資季朝臣
1000 いつはりのことのはなくはなにをかは」80ウ
わすらるゝ世のかたみとも見む
千五百番哥合に
宮内卿
1001 つのくにのみつとないひそやましろの
とはぬつらさは身にあまるとも
源具親朝臣
1002 のちの世をたのむたのみもありなまし
ちきりかはらぬわかれなりせは」81オ
題しらす 藤原永光
1003 のちのよといひてそひとにわかれまし
あすまてとたにしらぬいのちを
津守経国
1004 あふことのいまいくとせのつき日へて
猶なか/\の身をもうらみむ
賀茂季保
1005 おなし世に猶ありなからあふことの」81ウ
むかしかたりになりにけるかな
希会恋といへる心をよみ侍ける
浄意法師
1006 せきかぬるなみたのつゆのたまのをの
たえぬもつらきちきりなりけり
右衛門督為家百首哥よませ侍けるこひの
うた 下野
1007 かたいとのあはすはさてやたえなまし」82オ
ちきりそ人のなかきたまのを
関白左大臣家百首哥逢不遇恋
従三位範宗
1008 としをへてあふことは猶かたいとの
たかこゝろよりたえはしめけん
恋十首哥よみ侍ける時
権中納言定家
1009 たれもこのあはれみしかきたまのをに」82ウ
みたれてものをおもはすも哉
百首哥よみ侍ける逢不遇恋
後京極摂政前太政大臣
1010 うつろひしこゝろのはなにはるくれて
人もこすゑにあきかせ(せ+そ)ふく
建保六年内裏哥合に
前関白
1011 めのまへにかせもふきあへすうつりゆく」83オ
こゝろのはなもいろは見えけり
中納言定頼心のうちを見せたらはと申
て侍けれはよめる
よみ人しらす
1012 あたひとのこゝろのうちを見せたらは
いとゝつらさのかすやまさらん
謙徳公蔵人少将に侍ける時臨時祭舞
人にて雪のいたくふり侍れはもの見ける」83ウ
くるまのまへにうちよりてこれはらひて
と申けれは
1013 なにゝてかうちもはらはむきみこふと
なみたにそてはくちにしものを
おなし人まひゝとにてちかくたちたる
くるまのまへをすき侍けれは
本院侍従
1014 すりころもきたるけふたにゆふたすき」84オ
かけはなれてもいぬるきみ哉
雪ふり侍ける夜按察使更衣につかは
しける 天暦御製
1015 ふゆの夜のゆきとつもれるおもひをは
いはねとそらにしりやしぬらん
御返し 更衣正妃
1016 ふゆの夜のねさめにいまはおきて見む」84ウ
つもれるゆきのかすをたのまは
女につかはしける
中納言朝忠
1017 なかれての名にこそありけれわたり河
あふせありやとたのみける哉
題しらす 光孝天皇御製
1018 やまかはのはやくもいまもおもへとも
なかれてうきはちきりなりけり」85オ
夜ふけてつまとをたゝき侍けるに
あけ侍らさりけれはあしたにつかは
しける 法成寺入道前摂政太政大臣
1019 夜もすからくひなよりけになく/\そ
まきのとくちにたゝきわひぬる
返し 紫式部
1020 たゝならしとはかりたゝくゝひなゆへ
あけてはいかにくやしからまし」85ウ
題しらす 相模
1021 我もおもふきみもしのふるあきの夜は
かたみにかせのをとそ身にしむ
貫之
1022 はなゝらて花なるものはしかすかに
あたなるひとのこゝろなりけり」86オ
新勅撰和謌集巻第十六
雑哥一
はるのはしめうくひすのをそく
なき侍けれは
選子内親王
1023 やまさとのはなのにほひのいかなれや
かをたつねくるうくひすのなき
題しらす 禎子内親王家摂津」86ウ
1024 ゆきふかきみやまのさとにすむひとは
かすむそらにやはるをしるらん
式子内親王
1025 ゆきゝえてうらめつらしきはつくさの
はつかにのへもはるめきにけり
わかくさをよみ侍ける
入道二品親王道助
1026 かすかのにまたもえやらぬわかくさの」87オ
けふりみしかきおきのやけはら
前大僧正慈円
1027 むさしのゝはるのけしきもしられけり
かきねにめくむくさのゆかりに
題しらす 殷富門院大輔
1028 いのちありてあひ見むこともさためなく
おもひしはるになりにけるかな
千五百番哥合に」87ウ
二条院讃岐
1029 さかぬまははなと見よとやみよしのゝ
やまのしらゆきゝえかてにする
題しらす 按察使隆衡
1030 かすみしくわかふるさとよさらぬたに
むかしのあとは見ゆるものかは
権大納言家良
1031 みよしのゝやまのはかすむはることに」88オ
身はあらたまのとしそふりゆく
関白左大臣家百首哥よみ侍けるにかすみ
をよめる 中宮少将
1032 さひしさのましはのけふりそのまゝに
かすみをたのむはるのやまさと
寿永のころをひ梅花をよみ侍ける
土御門内大臣
1033 こゝのへにかはらぬむめのはなみてそ」88ウ
いとゝむかしのはるはこひしき
前関白内大臣に侍ける時百首哥よませ
侍けるに庭梅をよめる
源信定朝臣
1034 やとからそむめのたちえもとはれける
あるしもしらすなにゝほふらん
題しらす 下野
1035 ありあけの月はなみたにくもれとも」89オ
見し世にゝたるむめのかそする
行念法師
1036 むめかゝのたかさとわかすにほふ夜は
ぬしさたまらぬはるかせそふく
百首哥よみ侍ける春哥
侍従具定
1037 はるの月かすめるそらのむめかゝに
ちきりもをかぬ人そまたるゝ」89ウ
土御門院哥合に春月をよみ侍ける
承明門院小宰相
1038 おほかたのかすみにつきそくもるらん
ものおもふころのなかめならねは
東山にこもりゐてのち花を見侍て
前大納言忠良
1039 おもひすてゝわか身ともなき心にも
猶むかしなるやまさくら哉」90オ
西園寺にて三十首哥よみ侍ける春哥
入道前太政大臣
1040 やまさくらみねにもおにもうへをかん
見ぬよのはるを人やしのふと
故郷花といへる心をよみ侍ける
祝部成茂
1041 はるをへてしかのはなそのにほはすは
なにかみやこのかたみならまし」90ウ
題しらす 如願法師
1042 あたなりとなにうらみけむやまさくら
はなそみしよのかたみなりける
世をのかれて葉むろといふ山さとにこ
もりゐて侍けるに花を見てよみ侍ける
前大納言光頼
1043 いさや猶はなにもそめしわかこゝろ
さてもうき世にかへりもそする」91オ
二条院御時殿上のふたのそかれて侍ける
ころ臨時祭の舞人にて南殿の花を見
て内侍丹波かもとにつかはしける
藤原隆信朝臣
1044 わするなよなれし雲井のさくらはな
うき身は春のよそになるとも
世をのかれてのち栖霞寺にまうてゝかへ
り侍けるに大内の花のこすゑさかりに」91ウ
見え侍けるをしのひてうかゝひ見侍て
頼政卿許につかはしける
皇太后宮大夫俊成
1045 いにしへのくも井のはなにこひかねて
身をわすれても見つるはるかな
返し 従三位頼政
1046 雲井なるはな(な+も)むかしをおもひいては
わするらむ身をわすれしもせし」92オ
浄名院といふ所のぬし身まかりにける
のち花を見てよみ侍ける
宋延法師
1047 うへをきてむかしかたりになりにける
ひとさへおしきはなのいろかな
はなを見てよみ侍ける
平重時
1048 としことに見つゝふる木のさくらはな」92ウ
わかよのゝちはたれかおしまん
源光行
1049 身のうさをはなにわするゝこのもとは
はるよりのちのなくさめそなき
題しらす 藤原頼氏朝臣
1050 しからきのそまやまさくらはることに
いくよみや木にもれてさくらん
花哥よみ侍けるに」93オ
前大僧正慈円
1051 よしのやま猶しもおくにはなさかは
又あくかるゝ身とやなりなん
落花をよみ侍ける
入道前太政大臣
1052 はなさそふあらしのにはのゆきならて
ふりゆくものはわか身なりけり
閑居花といへるこゝろをよみ侍ける」93ウ
按察使兼宗
1053 いとゝしくはなもゆきとそふるさとの
にはのこけちはあとたえにける
題しらす 侍従具定母
1054 めくりあはむわかゝねことのいのちたに
こゝろにかなふはるのくれかは
藤原信実朝臣
1055 くれてゆくそらをやよひのしはしとも」94オ
はるのわかれはいふかひもなし
太皇太后宮大弐四月にさきたるさく
らをおりてつかはして侍けれは
京極前関白家肥後
1056 はるはいかにちきりをきてかすきにしと
をくれてにほふはなにとはゝや
四月まつりの日あふひにつけて女につか
はしける」94ウ
藤原顕総朝臣
1057 おもひきやそのかみやまのあふひくさ
かけてもよそにならんものとは
題しらす 相模
1058 あとたえて人もわけこぬなつくさの
しけくもゝのをおもふころ哉
ゆふつくよおかしきほとにくひなの
なき侍けれは」95オ
上東門院小少将
1059 あまのとの月のかよひちさゝねとも
いかなるかたにたゝくゝひなそ
返し 紫式部
1060 まきのともさゝてやすらふ月かけに
なにをあかすとたゝくゝひなそ
やしなひ侍けるむすめに五月五日くす
たまたてまつらせ侍けるにかはりてよみ」95ウ
侍ける 右近大将道綱母
1061 かくれぬにおひそめにけるあやめ草
ふかきしたねはしる人もなし
御返し 東三条院
1062 あやめくさねにあらはるゝけふこそは
いつかとまちしかひもありけれ
おもふこと侍けるころ
権中納言定頼」96オ
1063 さみたれののきのしつくにあらねとも
うき世にふれはそてそぬれける
さみたれをよみ侍ける
藤原行能朝臣
1064 みしま江のたまえのまこもかりにたに
とはてほとふる五月雨のそら
夏月をよめる
藤原親康」96ウ
1065 わすれてはあきかとそおもふかたをかの
ならのはわけていつる月かけ
初秋のこゝろをよみ侍ける
祝部成茂
1066 ふくかせにおきのうはゝのこたへすは
あきたつけふをたれかしらまし
権少僧都良仙
1067 世をいとふすみかはひとにしられねと」97オ
おきのはかせはたつねきにけり
兵部卿成実よませ侍ける荻風といふ心
を 藤原信実朝臣
1068 なをさりのをとたにつらきおきの葉に
ゆふへをわきてあきかせそふく
題しらす 源季広
1069 かりかねのこゑせぬ野辺を見てしかな
こゝろとはきのはなはち(ち+る)やと」97ウ
実方朝臣承香殿のおまへのすゝきを
むすひて侍けるたれならむとて女房の
よみ侍ける
よみ人しらす
1070 あきかせのこゝろもしらすはなすゝき
そらにむすへる人はたれそも
殿上人返しせむなと申けるほとに
まいりあひてよみ侍ける
実方朝臣」98オ
1071 (+かせのまにたれむすひけんはなすゝきうは葉のつゆもこゝろをくらし)
円融院御出家のゝち八月はかりひろ
さはにわたらせ給ける御ときに左右大
将つかうまつりてひとつくるまにてかへ
り侍けるに
按察使朝光<于時左大将>
1072 あきの野をいまはとかへるゆふくれは
なくむしのねそかなしかりける
返し 左近大将済時<于時右大将>」98ウ
1073 むしのねにわかなみたさへおちそはゝ
のはらのつゆのいろやかはらん
後朱雀院御時祐子内親王ふちつほに
かはらすゝみ侍けるに月くまなき夜
女房むかし思ひいてゝなかめ侍けるほと
梅壺女御まうのほり侍けるをとなひを
よそにきゝ侍て
菅原孝標女」99オ
1074 あまのとをくも井なからもよそに見て
むかしのあとをこふる月かな
五十首哥よみ侍ける時
仁和寺二品法親王守覚
1075 むかしおもふなみたのそこにやとしてそ
月をはそてのものとしりぬる
題しらす 鎌倉右大臣
1076 あさ地はらぬしなきやとの庭のおもに」99ウ
あはれいく世の月かすみけん
1077 おもひいてゝむかしをしのふそてのうへに
ありしにもあらぬ月そやとれる
月前懐旧といへる心をよみ侍ける
入道前太政大臣
1078 なかめつる身にたにかはる世中に
いかてむかしの月はすむらん
家に五十首(首+哥)よみ侍ける時」100オ
入道二品親王道助
1079 このさとはたけの葉わけてもる月の
むかしの世ゝのかけをこふらし
元暦のころをひ賀茂重保人ゝ(ゝ+の)哥すゝめ
侍て社頭哥合し侍けるに月をよめる
権中納言定家
1080 しのへとやしらぬむかしのあきをへて
おなしかたみにのこる月かけ」100ウ
秋座禅のついて夜もすから月を見侍て
さとわかぬかけもわか身ひとつの心地し
侍けれは 高弁上人
1081 月かけはいつれのやまとわかすとも
すますみねにやすみまさるらん
のちにこのうたを見せ侍(侍+け)れはよめる
法印超清
1082 いかはかりその夜の月のはれにけむ」101オ
きみのみやまはくもゝのこらし
世をのかれて高野の山にすみ侍ける時よめる
参議成頼
1083 たかのやまおくまてひとのとひこすは
しつかに峯の月は見てまし
題しらす 西行法師
1084 あらはさぬわかこゝろをそうらむへき
月やはうときをはすてのやま」101ウ
法印慶忠
1085 身につもる老ともしらてなかめこし
月さへかけのかたふきにける
正三位家隆
1086 老ぬれはことしはかりとおもひこし
またあきの夜の月を見るかな
源家長朝臣
1087 わすれしのゆくすゑかたきよの中に」102オ
むそちなれぬるそての月かけ
寂延法師
1088 いくあきをなれても月のあかなくに
のこりすくなき身をうらみつゝ
侍従具定母
1089 はらひかねくもるもかなしそらの月
つもれはおいのあきのなみたに
殷富門院大輔」102ウ
1090 いまはとて見さらむあきのそらまても
おもへはかなし夜半の月かけ
楽府を題にて哥よみ侍けるに陵園妾の
心をよめる
源光行
1091 とちはつるみやまのおくのまつの戸を
うらやましくもいへる(いへる$)いつる月かな
巫陽台のこゝろをよみ侍ける」103オ
素俊法師
1092 わきてなとゆふへのあめとなりにけん
まつたにをそきやまのはの月
故郷月といへる心をよめる
法印道清
1093 たかまとのおのへのみやの月のかけ
たれしのへとてかはらさるらん
題しらす 如願法師」103ウ
1094 このさとはしくれにけりなあきのいろの
あらはれそむるみねのもみちは
藤原基綱
1095 さほやまのはゝそのもみちいたつらに
うつろふあきはものそかなしき
行念法師
1096 たつたやまもみちのにしきをりはへて
なくといふとりのしものゆふして」104オ
明年叙爵すへく侍ける秋うへのをのこ
ともふちつほのもみち見侍けるにまか
りてよみ侍ける
藤原永光
1097 ひとはみなのちのあきともたのむらん
けふをわかれとちるもみちかな
高倉院御時ふちつほのもみちゆかしき
よし申けるひとにむすひたるもみち」104ウ
をつかはしける
建礼門院右京大夫
1098 ふくかせも枝にのとけきみよなれは
ちらぬもみちのいろをこそ見れ
前関白内大臣に侍ける時家に百首哥よ
み侍ける暮秋哥
源有長朝臣
1099 もみちはのちりかひくもるゆふしくれ」105オ
いつれかみちとあきのゆくらん
建保三年五月哥合に暁時雨といへる
心をよみ侍ける
権大納言忠信
1100 あかつきとうらみし人はかれは(△&は)てゝ
うたてしくるゝあさちふのやと
高階家仲
1101 むら雲はまたすきはてぬとやまより」105ウ
しくれにきおふありあけの月
題しらす 源泰光朝臣
1102 かくてよにわか身しくれはふりはてぬ
おいそのもりのいろもかはらて
冬哥よみ侍けるに
相模
1103 この葉ちるあらしのかせのふくころは
なみたさへこそおちまさりけれ」106オ
なけくこと侍けるころもみちのちるを
見てよみ侍ける
前大納言公任
1104 もみちにもあめにもそひてふるものは
むかしをこふるなみたなりけり
ふゆころさとにいてゝ大納言三位につか
はしける 紫式部
1105 うきねせしみつのうへのみこひしくて」106ウ
かものうはけにさえそおとらぬ
返し 従三位廉子
1106 うちはらふともなきころのねさめには
つかひしをしそ夜はにこひしき
題しらす さかみ
1107 ふゆの夜をはねもかはさすあかすらん
とをやまとりそよそにかなしき
六条右大臣小忌宰相にて侍けるあし」107オ
た(た+に)つかはしける
康資王母
1108 をみころもかへらぬものとおもはゝや
ひかけのかつらけふはくるとも
返し 六条右大臣
1109 かへりてそくやしかりけるをみころも
そのひかけのみわすれかたさに
新嘗会をよみ侍ける」107ウ
中納言家持
1110 あしひきの山したひかけかつらなる
うへにやさらにむめをしのはむ
百首哥に
式子内親王
1111 あまつかせ氷をわたるふゆの夜の
をとめのそてをみかく月かけ
五節のころ権中納言定頼内にさふら」108オ
ひけるにつかはしける
よみひとしらす
1112 ひかけさすくものうへにはかけてたに
おもひもいてしふるさとの月
なけくこと侍てこもりゐて侍けるゆき
のあした皇太后宮大夫俊成許につかはしける
左近中将公衡
1113 ふゆこもりあとかきたえていとゝしく」108ウ
ゆきのうちにそたき木つみける
題しらす 伊勢大輔
1114 わすられてとしくれはつるふゆ草の
かれはゝひともたつねさりけり
年のくれにことをかきならしてそらも
はるめきぬるにやと侍けれは
選子内親王家宰相
1115 ことのねをはるのしらへにひくからに」109オ
かすみて見ゆるそらめなるらん
返し 選子内親王
1116 ことのねのはるのしらへにきこゆれは
かすみたなひくそらかとそおもふ
題しらす 殷富門院大輔
1117 ほのかにもかきねのむめのにほふかな
となりをしめてはるはきにけり
入道親王家にて冬花といふ心をよみ」109ウ
侍ける 法印覚寛
1118 けふよりやをのかはるへとしらゆきの
ふるとしかけてさけるむめかえ
としのくれの心をよみ侍ける
寂延法師
1119 いかたしのこすてにつもるとしなみの
けふのくれをもしらぬはかなさ
行念法師」110オ
1120 ゆくとしをしらぬいのちにまかせても
あすをありとやはるをまつらん
寂超法師
1121 ゆきつもるやまちのふゆをかそふれは
あはれわか身のふりにけるかな
題しらす
相模
1122 かそふれはとしのをはりになりにけり」110ウ
わか身のはてそいとゝかなしき」111オ
新勅撰和歌集巻第十七
雑哥二
題しらす 業平朝臣
1123 わかそてはくさのいほりにあらねとも
くるれはつゆのやとりなりけり
1124 おもふこといはてそたゝにやみぬへき
われとひとしきひとしなけれは
よみ人しらす」111ウ
1125 あさなけに世のうきことをしのふとて
なけきせしまにとしそへにける
和泉式部
1126 さらにまたものをそおもふさならても
なけかぬときのある身ともなく
1127 いかにせんあめのしたこそすみうけれ
ふれはそてのみまなくぬれつゝ
さかみ」112オ
1128 あさちはら野わきにあへるつゆよりも
なをありかたき身をいかにせむ
1129 こふれともゆきもかへらぬいにしへに
いまはいかてかあはむとすらん
俊頼朝臣
1130 こひしともいはてそおもふたまきはる
たちかへるへきむかしならねは
堀河院に百首哥たてまつりける時」112ウ
基俊
1131 いにしへをおもひいつるのかなしきは
なけともそらにしる人そなき
成尋宋朝にわたり侍けるをなけき
てよみ侍ける
成尋法師母
1132 なけきつゝわか身はなきになりはてぬ
いまはこの世をわすれにし哉」113オ
述懐心をよみ侍ける
鎌倉右大臣
1133 おもひいてゝよるはすからにねをそなく
ありしむかしのよゝのふること
1134 世にふれはうきことの葉のかすことに
たえすなみたのつゆそをきける
百首哥中に述懐
惟明親王」113ウ
1135 なへて世のならひとひとやおもふらん
うしといひてもあまるなみたを
題しらす 前大納言忠良
1136 かすかやまいまひとたひとたつねきて
みち見えぬまてふるなみた哉
皇太后宮大夫俊成
1137 かすかやまいかになかれしたにみつの
すゑをこほりのとちはてつらん」114オ
1138 よもの海をすゝりのみつにつくすとも
わかおもふことはかきもやられし
源師光
1139 ゆくすゑにかゝらん身ともしらすして
わかたらちねのおほしたてけん
としわかく侍ける時はしめて百首哥
よみ侍ける述懐哥
前大僧正慈円」114ウ
1140 さしはなれみかさのやまをいてしより
身をしるあめにぬれぬひそなき
題しらす 大僧正行尊
1141 かはかりとおもひはてにし世中に
なにゆへとまるこゝろなるらん
僧正行意
1142 いたつらによそちのさかはこえにけり
みやこもしらぬなかめせしまに」115オ
如願法師
1143 なみたもてたれかをりけむからころも
たちてもゐてもぬるゝそてかな
藤原光俊朝臣
1144 しのふるもわかことはりといひなから
さてもむかしとゝふひとそなき
寿永のころをひおもふゆへや侍けん
ひとにつかはしける」115ウ
後徳大寺左大臣
1145 あらきかせふきやをやむとまつほとに
もとのこゝろのとゝこほりぬる
右大臣に侍ける時百首哥よみ侍けるに
述懐の哥
後法性寺入道前関白太政大臣
1146 いにしへのこひしきたひにおもふかな
さらぬわかれはけにうかりけり」116オ
述懐の心をよみ侍ける
左近中将公衡
1147 身のはてよいかにかならん人しれぬ
こゝろにはつる心ならすは
題しらす 後京極摂政前太政大臣
1148 さてもさはすまはすむへき世中に
人のこゝろのにこりはてぬる
寂蓮法師」116ウ
1149 さてもまたいくよかはへん世中に
うき身ひとつのをきところなさ
文集天可度のこゝろをよみ侍ける
藤原行能朝臣
1150 わたつうみのしほひにたてるみをつくし
人のこゝろそしるしたになき
しはし世をのかれて大原山いゐむろ
のたになとにすみわたり侍けるころ熊」117オ
野御幸(幸+の)御経供養の導師のかれかたき
もよおし侍てみやこにいて侍けるに
しくれのし侍けれはよかはの木のかけ
にたちよりてよみ侍ける
法印聖覚
1151 もろともにやまへをめくるむらしくれ
さてもうきよにふるそかなしき
題しらす 平泰時」117ウ
1152 世中にあさはあとなくなりにけり
こゝろのまゝのよもきのみして
高倉院御時つたへそうせさすること
侍けるにかきそへて侍ける
西行法師
1153 あとゝめてふるきをしたふ世ならなん
いまもありへはむかしなるへし
1154 たのもしなきみ/\にます時にあひて」118オ
こゝろのいろをふてにそめつる
醍醐の山にのほりて延喜の御願寺を
おかみてよみ侍ける
中原師季
1155 名をとむる世ゝはむかしにたえねとも
すくれしあとそみるもかしこき
内大臣に侍ける時家百首哥に述懐の
心を 前関白」118ウ
1156 河波をいかゝはからんふなひとの
とわたるかちのあとはたえねと
をのことも述懐哥つかうまつりけるつ
いてに 御製
1157 くりかへししつのをたまきいくたひも
とをきむかしをこひぬひそなき
述懐のこゝろをよみ侍ける
内大臣」119オ
1158 いかさまにちきりをきてしみかさ山
かけなひくまて月を見るらん
定家少将になり侍て月あかき夜よ
ろこひ申侍けるを見侍てあしたにつかは
しける 権中納言定家母
1159 みかさやまみちふみそめし月かけに
いまそこゝろのやみはゝれぬる
千五百番哥合に」119ウ
二条院讃岐
1160 かけたけてくやしかるへき秋の月
やみちゝかくもなりやしぬらん
1161 のちのよの身をしるあめのかきくもり
こけのたもとにふらぬひそなき
源為相一臈蔵人にてかうふりのほとちかく
なり侍けるによみ侍ける
道信朝臣」120オ
1162 雲のうへのつるのけころもぬきすてゝ
さはにとしへむほとのひさしさ
頭中将に侍ける宰相になりて内よりいて
侍てないしのかみのもとにつかはしける
謙徳公
1163 おりきつるくものうへのみこひしくて
あまつそらなるこゝちこそすれ
蔵人にてかうふりたまはりていかゝおもふと」120ウ
おほせこと侍けれは
藤原相如
1164 としへぬるくもゐはなれてあしたつの
いかなるさわにすまむとすらん
きこしめしておほせられ侍ける
円融院御製
1165 あしたつのくものうへにしなれぬれは
さわにすむともかへらさらめや」121オ
行幸にまいりて大将にて年ひさしくなり
侍ぬることを心のうちにおもひつゝけ侍け
る 内大臣
1166 わすれめやつかひのをさをさきたてゝ
わたるみはしにゝほふたちはな
おいのゝちひさしくしつみ侍てはか
らさるほかにつかさたまはりて外記の
まつりことにまいりていて侍けるに」121ウ
権中納言定家
1167 おさまれるたみのつかさのみつきもの
ふたゝひきくもいのちなりけり
関白左大臣家百首哥よみ侍ける眺望
哥
1168 もゝしきのとのへをいつる夜ひ/\は
またぬにむかふ山のはの月
建保四年百首哥たてまつりけるに」122オ
参議雅経
1169 うれしさもつゝみなれにしそてに又
はてはあまりの身をそうらむる
日吉のやしろにて述懐心をよみ侍ける
従三位知家
1170 あふさかのゆふつけとりもわかことや
こえゆくひとのあとになくらん
暁哥とてよみ侍ける」122ウ
前中納言匡房
1171 まとろまてものおもふやとのなかき夜は
とりのねはかりうれしきはなし
按察使隆衡
1172 かねのをとをなにとてむかしうらみけむ
いまはこゝろもあけかたのそら
参議雅経
1173 身のうへにふりゆくしものかねのをとを」123オ
きゝおとろかぬあかつきそなき
藤原宗経朝臣
1174 あかつきのかねそあはれをうちそふる
うき世のゆめのさむるまくらに
遠鐘幽といへる心を
入道二品親王助道
1175 はつせ山あらしのみちのとをけれは
いたりいたらぬかねのをとかな」123ウ
暁述懐の心をよみ侍ける
正三位家隆
1176 おもふことまたつきはてぬなかき夜の
ねさめにまくるかねのをとかな
法印覚寛
1177 身のうさをおもひつゝけぬあかつきに
をくらんつゆのほとをしらはや
題しらす 俊頼朝臣」124オ
1178 なにとなくゝち木のそまの山くたし
くたすひくれはねそなかれける
寂然法師
1179 つく/\とむなしきそらをなかめつゝ
いりあひのかねにぬるゝそてかな
法橋行賢
1180 つく/\とくるゝそらこそかなしけれ
あすもきくへきかねのをとかは」124ウ
前参議俊憲
1181 あすもありとおもふこゝろにはかられて
けふをむなしくゝらしつるかな
源光行
1182 あすもあらはけふをもかくやおもひいてん
きのふのくれそむかしなりける
家五十首哥閑中灯
入道二品親王道助」125オ
1183 これのみとゝもなふかけもさよ夜けて
ひかりそうすきまとのともし火
従三位範宗
1184 なかき夜のゆめ地たえゆくまとのうちに
猶のこりける秋のともし火
述懐哥のなかによみ侍ける
侍従具定
1185 あつめこしほたるもゆきもとしふれと」125ウ
身をはてらさぬひかりなりけり
方磐をうち侍けるかおいのゝちすたれ
ておほえ侍けれはよめる
上西門院武蔵
1186 ふけにけるわか世のほとのかなしきは
かねのこゑさへうちわすれつゝ
題しらす さかみ
1187 月かけをこゝろのうちにまつほとは」126オ
うはのそらなるなかめをそする
1188 しもこほるふゆのかはせにゐるをしの
うへしたものをおもはすもかな
俊頼朝臣
1189 なにはかたあしまのこほりけぬかうへに
ゆきふりかさぬおもしろの身や
1190 なかれあしのうきことをのみゝしま江に
あとゝとむへきこゝちこそせね」126ウ
僧正円玄やまひにしつみてひさし
く侍ける時よみ侍ける
権大僧都経円
1191 のりのみちをしへしやまは霧こめて
ふみゝしあとに猶やまとはん
文治のころをひちゝの千載集えら
ひ侍し時定家かもとに哥つかはすと
てよみ侍ける」127オ
尊円法師
1192 わかふかくこけのしたまておもひをく
うつもれぬ名はきみやのこさん
おなし時よみ侍ける
荒木田成長
1193 かきつむるかみちのやまのことの葉の
むなしくゝちむあとそかなしき
寿永二年おほかたの世しつかならす」127ウ
侍しころよみをきて侍ける哥を定家
かもとにつかはすとてつゝみかみにかきつけ
侍し 平行盛
1194 なかれての名たにもとまれゆくみつの
あはれはかなき身はきえぬとも
題しらす 法眼宗円
1195 わかのうらにしられぬあまのもしほくさ
すさひはかりにくちやはてなん」128オ
行念法師
1196 もしほくさかきをくあとやいかならん
わか身によらぬわかのうらなみ
西行法師自哥を哥合につかひ侍て判
の詞あつらへ侍けるにかきそへてつかは
しける 皇太后宮大夫俊成
1197 ちきりをきしちきりのうへにそへをかむ
わかのうらちのあまのもしほ木」128ウ
返し 西行法師
1198 若の浦にしほ木かさぬるちきりをは
かけるたくものあとにてそ見る
源氏の物語をかきておくにかきつけら
れて侍ける
従一位麗子
1199 はかもなきとりのあとゝはおもふとも
わかすゑ/\はあはれとを見よ」129オ
題しらす 和泉式部
1200 はるやくるはなやさくともしらさりき
たにのそこなるむもれ木の身は
貫之
1201 はるやいにしあきやはくらんおほつかな
かけのくち木とよをすくす身は
なけくこと侍ける時述懐哥
後京極摂政前太政大臣」129ウ
1202 かすならははるをしらましみやま木の
ふかくやたにゝむもれはてなん
1203 くもりなきほしのひかりをあふきても
あやまたぬ身を猶そうたかふ
ひとりおもひをのへ侍けるうた
鎌倉右大臣
1204 やまはさけうみはあせなん世なりとも
きみにふたこゝろわかあらめやも」130オ
新勅撰和謌集巻第十八
雑哥三
世をのかれてのち四月一日法服袈裟
をみ侍て
法成寺入道前摂政太政大臣
1205 けさかふるなつのころもはとしをへて
たちしくらゐのいろそことなる
返し 従一位倫子」130ウ
1206 またしらぬころものいろをたちかへて
きみかためにと見るそかなしき
少将高光横川にのほりて出家し侍け
る時ふすまてうしてたまはせける御哥
天暦中宮
1207 つゆしものよゐあかつきにをくなれは
とこにやきみかふすまなからん
高光横川にすみ侍けるにとふらひ」131オ
まかりてよみ侍ける
東三条入道摂政太政大臣
1208 きみかすむよかはのみつやまさるらん
なみたのあめのやむ世なけれは
おなし時恒徳公兵衛佐に侍けるかは
りの少将になり侍てよろこひに大納言
のもとにまうてきて侍けるを見てよみ
侍ける 大納言師氏女<高光妻>」131ウ
1209 それと見るおなしみかさの山の井の
かけにもそてのぬれまさるかな
左近中将成信三井寺にまかりて出家し
侍にけるに装束つかはすとて袈裟に
むすひつけ侍ける
一条左大臣室
1210 けさのまもみねはなみたもとゝまらす
きみかやまちにさそふなるへし」132オ
母のやまひをもくなり侍ていむこと
うけ侍けるにきせて侍ける袈裟を
身まかりてのち見つけてよみ侍ける
右近大将道綱母
1211 はちす葉のたまとなるらんとおもふにも
そてぬれまさるけさのつゆかな
伊勢集をかきて人のもとにつかはす
とてよめる」132ウ
中務
1212 なきひとのことのはうつすみつくきは
かきもやられすそてそぬれける
とし子とものかたりして世のはかなき
ことなと申てよみ侍ける
大納言清蔭
1213 いひつゝも世はゝかなきをかたみには
あはれといかてきみに見えまし」133オ
後一条院のきさいの宮かくれさせ(△&せ)たまひ
にけるとしのくれかのみやにまいりてよみ
侍ける 権大納言長家
1214 はるたつときくにもゝのゝかなしきは
ことしのこそになれはなりけり
返し 出羽弁
1215 あたらしきとしにそへてもかはらねは
こふるこゝろそかたみなりける」133ウ
九条右大臣かくれ侍にけるとし新嘗会の
ころ内の女房につかはしける
藤原高光
1216 しもかれのよもきのかとにさしこもり
けふのひかけを見ぬそかなしき
後高倉院かくれさせたまふてのち参議
雅清出家し侍てたふのみねにすみ侍
けるあからさまに京にまかりいてたる」134オ
よしきゝてつかはしける
内大臣
1217 こゝろこそうき世のほかにいてぬとも
みやこをたひといつならふらん
返し 左近中将雅清
1218 まよひこしゆめちのやみをいてぬれは
みやこはよそのすみそめのそて
嘉承のころをひあけくれおもひなけ」134ウ
きてよみ侍ける哥の中に
権中納言国信
1219 きみこふとくさ葉のしもの世とゝもに
をきてもねてもねこそなかるれ
1220 かきりとてたきゝつきにしのへなれは
あさちふみわけとはぬひそなき
1221 あさゆふになけきをすまにやくしほの
からくけふりにをくれにしかな」135オ
おなしころ香隆寺にまいりてもみち
を見てよみ侍ける
堀河院讃岐典侍
1222 いにしへをこふるなみたにそむれはや
もみちもふかきいろまさるらん
貞信公かくれ侍てのちかの家にまかりて
よみ侍ける
九条右大臣」135ウ
1223 ゆきかへり見れはむかしのあとなから
たのみしかけそとまらさりける
天暦八年おほきさいの宮かくれさせた
まうて五七日御誦経せさせ侍けるくし
のはこのかけこのしたにいれ侍ける
1224 ゆめかとてあけて見たれはたまくしけ
いまはむなしき身にこそありけれ
式部卿敦慶のみこかくれ侍にけるはる」136オ
よみ侍ける
中納言兼輔
1225 さきにほひかせまつほとのやまさくら
人の世よりはひさしかりけり
後冷泉院の御ふくに侍けるころ花
たちはなを女房のもとにつかはしける
大納言忠家
1226 いとゝしくはなたちはなのかほるかに」136ウ
そめしかたみのそてはぬれつゝ
題しらす つらゆき
1227 きのふまてあひみしひとのけふなきは
やまのくもとそたなひきにける
人麿
1228 みよしのゝみふねのやまにたつくもの
つねにあらむとわかおもはなくに
内わたりのさうしにのへといふわらはに」137オ
つたへてふみなとつかはしけるにのへ身
まかりにけるあきよみ侍ける
謙徳公
1229 しらつゆはむすひやするとはなすゝき
とふへきのへも見えぬあき哉
題しらす 相模
1230 あさかほのはなにやとれるつゆの身は
のとかにものをおもふへきかは」137ウ
後京極摂政前太政大臣
1231 をはりおもふすまひかなしきやまかけに
たまゆらかゝるあさかほのはな
入道前太政大臣
1232 はやせかはわたるふなひとかけをたに
とゝめぬみつのあはれ世中
前大僧正慈円
1233 とりへやま夜半のけふりのたつたひに」138オ
ひとのおもひやいとゝそふらん
俊恵法師
1234 とりへやまこよひもけふりたつめりと
いひてなかめし人もいつらは
源有房朝臣
1235 ほともなくひまゆくこまを見ても猶
あは(は+れ)ひつしのあゆみをそおもふ
正三位家隆」138ウ
1236 はかなくもけふのいのちをたのむかな
きのふをすきし心ならひに
前大納言忠良
1237 かなしさは見るたひことにますかゝみ
影たになとかとまらさりけむ
1238 なけくなよこれはうきよのならひそと
なくさめをきしことそかなしき」139オ
従三位能子かくれ侍にける秋月を見て
よみ侍ける
入道前太政大臣
1239 あはれなとまた見るかけのなかるらん
くもかくれても月はいてけり
なきひと/\を思いてゝよみ侍ける
八条院高倉
1240 かす/\にたゝめのまへのおもかけの」139ウ
あはれいくよにとしのへぬらん
公守朝臣母身まかりにける時左大臣のも
とにつかはしける
大納言実家
1241 さても猶とふにもさめぬゆめなれと
おとろかさてはいかゝやむへき
返し 後徳大寺左大臣
1242 おもへたゝゆめかうつゝかわきかねて」140オ
あるかなきかになけくこゝろを
参議通宗朝臣身まかりてのちつねに
かきかはし侍けるふみを母のこひ侍
けれはつかはすとてよみ侍ける
大納言通具
1243 身にそへてこれをかたみとしのふへき
あとさへいまはとまらさりけり
皇嘉門院かくれさせ給にけるのちの春」140ウ
高倉院の御はてすき侍にけるのち俊成
卿許につかはしける
後法性寺入道前関白太政大臣
1244 とへかしな世のすみそめはかはれとも
われのみふかきいろやいかにと
母のおもひにて北山に侍ける時よみ侍ける
内大臣
1245 しらたまはからくれなゐにうつろひぬ」141オ
こすゑもしらぬそてのしくれに
周忌はてゝよみ侍ける
1246 なこりなきけふはきのふをしのへとも
たつおもかけはゝつるひもなし
やまひにしつみ侍けるころ新少将身
まかりぬときゝて素覚法師かもとに
つかはしける
賀茂重保」141ウ
1247 あさかほのつゆのわか身をゝきなから
まつきえにける人そかなしき
後京極摂政かくれ侍にける時よみ侍ける
藤原親康
1248 うつゝのみゆめとは見えてをのつから
ぬるかうちにはなくさめもなし
賀茂重保身まかりてのちつねにうた
よみ侍けるものともあとにまかりあひて」142オ
遇友恋友といへるこゝろをよみ侍ける
によめる
覚盛法師
1249 うちむれてたつぬるやとはむかしにて
おもかけのみそあるしなりける
世をのかれてのち水辺述懐といふ心を
よみ侍ける
藤原親盛」142ウ
1250 かはりゆくかけにむかしをおもひいてゝ
なみたをむすふ山の井のみつ
題しらす 前大納言光頼
1251 ゆくひとのむすふににこるやまの井の
いつまてすまむこのよなるらん
おいのゝち母の身まかりにけるによみ侍け
る 法印覚寛
1252 とまりゐる身もおいらくのゝちなれは」143オ
さらぬわかれそいとゝかなしき
後高倉院かくれさせたまうてとし/\
すき侍ぬることをおもひてよみ侍ける
平信繁
1253 をくれしとなけきなからにとしもへぬ
さためなき世は名のみなりけり
おいのゝち述懐哥よみ侍けるに
能蓮法師」143ウ
1254 をくれゐてしなぬいのちをうらみにて
あはれかなしき世のわかれかな
入道大納言のおもひ(△&ひ)に侍ける時よみ侍ける
左近中将基良
1255 物ことにわすれかたみをとゝめをきて
なみたのたゆむときのまそなき
僧正範玄身まかりてあとに侍りける
ものともたのむかたなきよし申て」144オ
まかりちり侍ける時よめる
法印円経
1256 いかにせんたのむこかけのかれしより
すゑはにとまるつゆたにもなし
小侍従身まかりにける時よみ侍ける
法印昭清
1257 うらむへきよはひならねとかなしきは
わかれてあはぬうきよなりけり」144ウ
大神基賢か身まかりにける時誦経せ
させ侍けるによみ侍ける
中院右大臣家夕霧
1258 わかれにしひはいくかにもあらねとも
むかしのひとゝいふそかなしき
八条院かくれさせ給て御正日八月十五夜
にあたりて侍けるにあめふり侍けれは
よめる」145オ
藤原信実朝臣
1259 やみのうちもけふをかきりのそらにしも
あきのなかはゝかきくらしつゝ
父みまかりてのち月あかく侍ける夜
蓮生法師かもとにつかはしける
平泰時
1260 やまの葉にかくれし人はみえもせて
いりにし月はめくりきにけり」145ウ
返し 蓮生法師
1261 かくれにし人のかたみはつきを見よ
こゝろのほかにすめるかけかは
文集親愛自零落存者仍別離といふ
こゝろをよみ侍ける
八条院高倉
1262 あすかゝはけふのふちせもいかならん
さらぬわかれはまつほともなし」146オ
題しらす 行念法師
1263 さためなきよにふるさとをゆく水の
けふのふちせはあすかゝはらん
法恩講といふことをこなひ侍ける
になきひとの名をかきつらねてよ
み侍ける
前大僧正慈円
1264 もろひとのうつもれぬ名をうれしとや」146ウ
こけのしたにもけふは見るらむ」147オ
新勅撰和歌集巻第十九
雑哥四
亭子院大内山におはしましける時
勅使にてまいりて侍けるにふもとよ
りくものたち(ち+のほり)けるを見てよみ侍ける
中納言兼輔
1265 しら雲のこゝのへにたつみねなれは
おほうちやまといふにそありける」147ウ
題しらす よみひとしらす
1266 やましろのくせのさきさか神世より
はるはもえつゝあきはちりけり
久邇のみやこのあれにけるを見てよみ侍
ける
1267 みかのはらくにのみやこはあれにけり
おほみやひとのうつりいぬれは
かすかの社に百首哥よみてたてまつり」148オ
けるに橋哥
皇太后宮大夫俊成
1268 みやこいてゝふしみをこゆるあけかたは
まつうちわたすひつかはのはし
百首哥よみ侍けるに早秋哥
内大臣
1269 ふきそむるをとたにかはれ山しろの
ときはのもりのあきのはつかせ」148ウ
建保四年百首哥たてまつりける時
僧正行意
1270 やましろのときはのもりのゆふしくれ
そめぬみとりにあきそくれぬる
名所哥よみ侍けるに
寂身法師
1271 したくさもいかてかいろのかはるらん
そめぬときはのもりのしつくに」149オ
真昭法師
1272 あすかゝはかはせのきりもはれやらて
いたつらにふく秋のゆふかせ
題しらす よみひとしらす
1273 世中はなとやまとなるみなれかは
みなれそめすそあるへかりける
中納言家持
1274 ちとりなくさほのかはとのきよきせを」149ウ
こまうちわたしいつかゝよはむ
入道前太政大臣
1275 はるは花ふゆはゆきとてしら雲の
たえすた(た+な)ひくみよしのゝやま
正三位家隆
1276 いにしへのいくよのはなにはるくれて
ならのみやこのうつろひぬらん
前関白家哥合に名所月」150オ
源家長朝臣
1277 いつこにもふりさけいまやみかさやま
もろこしかけていつる月かけ
百首哥侍けるに
後京極摂政前太政大臣
1278 ひさかたのくもゐに見えしいこまやま
はるはかすみのふもとなりけり
題しらす よみひとしらす」150ウ
1279 いとまあらはひろひにゆかんすみの江の
きしによるてふこひわすれかひ
和泉式部
1280 すみよしのありあけの月をなかむれは
とをさかりにしかけそこひしき
亭子院の御ともにつかうまつりてすみ
よしのはまにてよみ侍ける
一条右大臣」151オ
1281 すみよしのうらにふきあくるしらなみそ
しほみつときのはなとさきける
おなしみゆきになにはのうらにて
よみ侍ける
大宰権帥公頼
1282 なにはかたしほみつはまのゆふくれは
つまなきたつのこゑのみそする
謙徳公につかはしける」151ウ
よみひとしらす
1283 おもふことむかしなからのはし/\ら
ふりぬる身こそかなしかりけれ
名所哥たてまつりける時あしや
正三位家隆
1284 みしか夜のまたふしなれぬあしのやの
つまもあらはにあくるしのゝめ
布引瀧をよめる」152オ
藤原行能朝臣
1285 ぬのひきのたきのしらいとわくらはに
とひくるひともいくよへぬらん
百首哥にもみちをよみ侍ける
入道前太政大臣
1286 したはまてこゝろのまゝにそめてけり
しくれにあける神なひのもり
(+伊勢国にみゆきの時よみ侍ける)
安貴王」152ウ
1287 いせのうみのおきつしらなみ花にもか
つゝみていもか家つとにせむ
こひのうたよみ侍ける中に
正三位家隆
1288 伊勢の海のあまのまてかたまてしはし
うらみになみのひまはなくとも
名所哥たてまつりけるにすゝか山
大蔵卿有家」153オ
1289 あきふかくなりにけらしなすゝかやま
もみちはあめとふりまかひつゝ
春浦月といへる心をよみ侍ける
家長朝臣
1290 あつさゆみいちしの浦のはるのつき
あまのたくなはよるもひくなり
しかすかのわたりにてよみ侍ける
中務」153ウ
1291 ゆけはありゆかねはくるしゝかすかの
わたりにきてそ思たゆたふ
前関白家哥合に名所月をよみ侍ける
正三位家隆
1292 ひかりそふこのまの月におとろけは
あきもなかはのさやのなかやま
藤原光俊朝臣
1293 すみわたるひかりもきよし白妙の」154オ
はまなのはしのあきの夜の月
題しらす よみひとしらす
1294 こひしくはゝまなのはしをいてゝみよ
したゆく水にかけやとまると
平兼盛するかのかみになりてくたり侍
ける時餞し侍とてよめる
大中臣能宣朝臣
1295 ゆきかへりたむけするかのふしのやま」154ウ
けふりもたちゐきみをまつらし
家五十首哥
仁和寺二品法親王守覚
1296 ふしのねはとはてもそらにしられけり
くもよりうへに見ゆるしらゆき
名所百首哥たてまつりける時よめる
従三位範宗
1297 世とゝもにいつかはきえむふしの山」155オ
けふりになれてつもるしらゆき
題しらす さかみ
1298 いつとなくこひするかなるうとはまの
うとくもひとのなりまさるかな
百首哥
後京極摂政前太政大臣
1299 あしからのせきちこえゆくしのゝめに
ひとむらかすむうきしまのはら」155ウ
題しらす 小町
1300 むさしのゝむかひのをかのくさなれは
ねをたつねてもあはれとそおもふ
よみ人しらす
1301 かつしかのまゝのうらまをこくふねの
ふな人さはくなみたつらしも
前大僧正慈円
1302 かつしかやむかしのまゝのつきはしを」156オ
わすれすわたるはるかすみ哉
ひたちにまかりてよみ侍ける
能因法師
1303 よそにのみおもひをこせしつくはねの
みねのしら雲けふみつるかな
天禄元年大嘗会悠紀屏風哥
清原元輔
1304 からさきのはまのまさこのつくるまて」156ウ
はるのなこりはひさしからなん
やまにのほり侍けるみちにて月を見
てよみ侍ける
前大僧正慈円
1305 おほたけのみねふくかせにきりはれて
かゝみのやまに月そくもらぬ
題しらす
鎌倉右大臣」157オ
1306 はるきてははなとかみらんをのつから
くち木のそまにふれるしらゆき
参議雅経
1307 はなさかていく世のはるにあふみなる
くち木のそまのたにのむもれ木
伊勢勅使にて甲賀のむまやにつき
侍ける日
後京極摂政前太政大臣」157ウ
1308 はるかなるみ神のたけをめにかけて
いくせわたりぬやすのかはなみ
題しらす よみひとしらす
1309 いまさらにさらしなかはのなかれても
うきかけ見せむものならなくに
寂蓮法師
1310 とくさかるきそのあさきぬそてぬれて
みかゝぬつゆもたまとちりけり」158オ
しなのゝくにゝまかりける人にたき
物をくり侍ける
源有教朝臣
1311 わするなよあさまのたけのけふりにも
としへてきえぬおもひありとは
題しらす よみひとしらす
1312 みちのくにありといふなるたまかはの
たまさかにたにあひ見てし哉」158ウ
陸奥守に侍ける時忠義公のもとに申を
くり侍ける
源信明朝臣
1313 あけくれはまかきのしまをなかめつゝ
みやこ恋しきねをのみそなく
題しらす よみひとしらす
1314 つらきをもいはてのやまのたにゝおふる
くさのたもとそつゆけかりける」159オ
名所哥あまたよみ侍けるに
清輔朝臣
1315 ふるさとのひとに見せはやしらなみの
きくよりこゆるすゑのまつ山
題しらす 祝部成茂
1316 心あるあまのもしほ木たきすてゝ
月にそあかすまつかうらしま
寄露恋をよめる」159ウ
寂延法師
1317 しのふ山このはしくるゝしたくさに
あらはれにけるつゆのいろかな
題しらす 平政村
1318 みや木のゝこのしたふかきゆふつゆも
なみたにまさるあきやなか覧
天暦御時御屏風哥
源信明朝臣」160オ
1319 むかしより名にふりつめるしらやまの
くもゐのゆきはきゆる世もなし
百首哥たてまつりける雪哥
大納言師頼
1320 かきくらしたまゆらやますふるゆきの
いくへつもりぬこしのしらやま
題しらす よみひとしらす
1321 あさことにいはみのかはのみおたえす」160ウ
こひしき人にあひ見てし哉
前関白家哥合に名所月といへる心を
内大臣
1322 ゆふなきにあかしのとより見わたせは
やまとしまねをいつる月かけ
題しらす 大納言旅人
1323 とものうらのいそのむろの木見ることに
あひ見しいもはわすられむやは」161オ
後京極摂政前太政大臣
1324 なみたかきむしあけのせとにゆくふねの
よるへしらせよおきつしほかせ
入道前太政大臣
1325 はるあきのくもゐのかりもとゝまらす
たかたまつさのもしのせきもり
よみ人しらす
1326 いもかためたまをひろふときのくにの」161ウ
ゆらのみさきにこのひくらしつ
1327 もかりふねおきこきくらしいもかしま
かたみのうらにたつかける見ゆ
正三位家隆
1328 時しあれはさくらとそおもふはるかせの
ふきあけのはまにたてるしら雲
名所哥よみ侍けるに
前参議教長」162オ
1329 なみよするふきあけのはまのはまかせに
時しもわかぬゆきそつもれる
堀河院に百首哥たてまつりける時
やまのうた
権中納言国信
1330 あさみとりかすみわたれるたえまより
見れともあかぬいもせやまかな
百首哥に眺望の心をよみ侍ける」162ウ
入道前太政大臣
1331 わたのはらなみとひとつにみくまのゝ
はまのみなみはやまのはもなし
題しらす 七条院大納言
1332 みくまのゝうらわのまつのたむけくさ
いくよかけきぬなみのしらゆふ
後京極摂政家百首哥に草哥十首
よみ侍けるに
寂蓮法師」163オ
1333 かせふけはゝまゝつかえのたむけくさ
つゆはかりこそぬさとちるらめ
家に十五首哥よみ侍けるに晩霞
隔浦といへるこゝろをよみ侍ける
中院入道右大臣
1334 あはちしまとわたるふねやたとるらん
やへたちこむるゆふかすみ哉
和哥所哥合に海辺霞をよみ侍ける」163ウ
前内大臣
1335 あはちしましるしのけふり見せわひて
かすみをいとふはるのふな人
題しらす よみ人しらす
1336 しかのあまのけふりやきたてやくしほの
からきこひをもわれはするかも
1337 しかのあまのめかりしほやきいとまなみ
くしけのをくしとりもみなくに」164オ
前大僧正慈円
1338 かすみしくまつらのおきにこきいてゝ
もろこしまてのはるを見る哉
秋山鹿といへる心をよみ侍ける
正三位知家
1339 あさちやまいろかはりゆくあきかせに
かれなてしかのつまをこふらん」164ウ
(白紙)」165オ
新勅撰和謌集巻第二十
雑哥五
源政長朝臣の家にて人/\なかうた
よみ侍けるに初冬述懐といへる心を
よめる
源俊頼朝臣
1340 やまさとは ふゆこそことに かなしけれ
みねふきまよふ こからしの とほそをたゝく」165ウ
こゑきけは やすきゆめたに むすはれす
しくれとゝもに かたおかの まさきのかつら
ちりにけり いまはわか身の なけきをは
なにゝつけてか なくさめむ ゆきたにふりて
しもかれの くさ葉のうへに つもらなん
それにつけてや あさゆふに わかまつ人の
われをたつぬる
かへしうた」166オ
1341 いくかへりおきふしゝてかふゆの夜の
とりのはつねをきゝそめつらん
久安百首哥たてまつりけるなかうた
皇太后宮大夫俊成
1342 しきしまや ゝまとしまねの かせとして
ふきつたへたる ことのはゝ 神のみよゝり
かはたけの 世ゝになかれて たえせねは
いまもはこやの やまかせの 枝もならさす」166ウ
しつけきに むかしのあとを たつぬれは
みねのこすゑも かけしけく よつのうみにも
なみたゝす わかのうらひと かすそひて
もしほのけふり たちまさり ゆくすゑまての
ためしとそ しまのほかにも きこゆなる
これをおもへは きみの世に あふくまかはゝ
うれしきを みわたにかゝる むもれ木の
しつめることは からひとの 三世まてあはぬ」167オ
なけきにも かはらさりける 身のほとを
おもへはかなし かすかやま みねのつゝきの
まつかえの いかにさしける すゑなれや
きたのふちなみ かけてたに いふにもたらぬ
しつえにて したゆく水に こされつゝ
いつゝのしなに としふかく とおとてみつも
へにしより よもきのかとに さしこもり
みちのしはくさ おいはてゝ はるのひかりは」167ウ
ことゝをく あきはわか身の うへとのみ
つゆけきそてを いかゝとも とふ人もなき
まきのとに 猶ありあけの 月かけを
まつことかほに なかめても おもふこゝろは
おほそらの むなしき名をは をのつから
のこさむことも あやなさに なにはのことも
つのくにの あしのしほれの かりすてゝ
すさひにのみそ なりにしを きしうつなみの」168オ
たちかへり かゝるみことの かしこさに
いり江のもくつ かきつめて とまらむあとは
みちのくの しのふもちすり みたれつゝ
しのふはかりの ふしやなからん
かへしうた
1343 やまかはのせゝのうたかたきえさらは
しられんすゑの名こそおしけれ
清輔朝臣」168ウ
1344 あしねはふ うき身のほとを つれもなく
おもひもしらす すくしつゝ ありへけるこそ
うれしけれ 世にもあらしの やまかせに
たくふこのはの ゆくゑなく なりなましかは
まつかえに 千世にひとたひ さくはなの
まれなることに いかてかは けふはあふみに
ありといふ くち木のそまに くちゐたる
たにのむもれ木 なにことを おもひいてにて」169オ
くれたけの すゑの世まても しられまし
うらみをのこす ことはたゝ とわたるふねの
とりかちの とりもあへねは をくあみの
しつみおもへる こともなく このしたかくれ
ゆくみつの あさきこゝろに まかせつゝ
かきあつめたる くち葉には よしもあらぬを
伊勢のうみの あまのたくなは なかき世に
とゝめむことそ やさしかるへき」169ウ
上西門院兵衛
1345 はるは花 あきはもみちの いろ/\に
こゝろをそめて すくせとも かせにとまらぬ
はかなさを おもひよそへて なにことも
むなしきそらに すむ月を うきよにめくる
ともとして あはれ/\と みるほとに
つもれはおいと なりはてゝ おほくのとしは
よるなみの かゝるみくつの かひなきは」170オ
はかなくむすふ みつのおもの うたかたさへも
かすならぬかな
権中納言通俊かつらの家にて旋頭哥
よみ侍けるにこひのこゝろをよめる
俊頼朝臣
1346 つれなさを おもひあかしの うらみつゝ
あまのいさりに たくものけふり おもかけにたつ
家にひと/\まうてきて旋頭哥よみ」170ウ
侍けるにたひのこゝろをよめる
藤原顕綱朝臣
1347 草枕 ゆふつゆはらふ 旅衣 そてもしほゝに
をきあかす夜の かすそかさなる
百首哥たてまつりけるたひのうた
清輔朝臣
1348 まつかねに しもうちはらひ めもあはて
おもひやる 心やいもか ゆめにみゆらん」171オ
物名
りうたむをよみ侍ける
伊勢
1349 かせさむみなくかりかねのこゑにより
うたむころもをまつやかさまし
しをに
1350 うけとむるそてをしをにてつらぬかは
なみたのたまのかすは見てまし」171ウ
たなはた
躬恒
1351 としにあひにまれにきませるきみをゝきて
またなはたてしこひはしぬとも
ひともときく
1352 あたなりとひともときくるものからに
はなのあたりはすきかてにする
くつはむし」172オ
二条太皇太后宮大弐
1353 かすならぬかゝるみくつはむしろたの
つるのよはひもなにかいのらん
すたれかけ
1354 かせにゆくゝもをあたにもわれは見す
たれかけふりをのかれはつへき
わかくり
権中納言定頼」172ウ
1355 たちかはりたれならすらむとしをへて
わかくりかへしゆきかへるみち
はきのはな
俊頼朝臣
1356 ときは木のはなれてひとり見えつるは
たくひなしとや身をはしるらん
このしまのみやしろ
1357 あなしにはこのしまのみやしろ妙の」173オ
ゆきにまかへるなみはたつらん
久安百首哥にたきもの
大炊御門右大臣
1358 大井河くたすいかたのひまそなき
おちくるたきものとけからねは
ときのふた
左京大夫顕輔
1359 つらけれときのふたのめしことのはに」173ウ
けふまていける身とはしらすや
からにしき
清輔朝臣
1360 むつこともつきてあけぬときくからに
しきのはねかきうらめしきかな
かゝけのはこ
花園左大臣家小大進
1361 しもふれはなへてかれぬるふゆくさも」174オ
いはほかゝけのはこそしほれね
からにしきをよみ侍ける
従三位頼政
1362 むはたまのよるはすからにしきしのふ
なみたのほとをしる人もなし
みつなかしはをよめる
基俊
1363 ちるもみち猶しからみにかけとめよ」174ウ
たにのしたみつなかしはてしと
物名哥よみ侍けるにやまとことかくら
後徳大寺左大臣
1364 みなとやまとことはにふくしほかせに
ゑしまのまつはなみやかくらん
きむのこと
殷富門院大輔
1365 かりころもしかまのかちにそめてきむ」175オ
のことのつゆにかへらまくおし
にしきのふすまをよめる
源有仲
1366 むかし見しとやまのさとはあれにけり
あさちかにはにしきのふすまて
しきりはのやといふことを人のよま
せ侍けるに
鴨光兼」175ウ
1367 へたてこしきりはのやまにはれねとも
ゆくかたしるくをしかなくなり
春つれ/\に侍けれは権大納言公実
許につかはしける
俊頼朝臣
1368 はかなしなをのゝをやまたつくりかね
てをたにもきみはてはふれすや
返しはせてやかてまうてきていさゝは」176オ
はなたつねにとなむさそひ侍ける
堀河院御時蔵人頭にて殿上にさふらひ
けるあしたいてさせたまうてこいたし
きときのふたをくつかうふりによ
めとおほせこと侍けれはつかうまつりける
権中納言俊忠
1369 こしたもといとゝひかたきたひのよの
しらつゆはらふきゝのこのした」176ウ
橘広房
1370 このさとゝいはねとしるきたにみつの
しつくもにほふきくのしたえた
きよみかたふしのやまをよみ侍ける
藤原行能朝臣
1371 きみしのふよな/\わけしみちしはの
かはらぬつゆやたえぬしらたま
庚申の夜あやめくさをおり句に」177オ
よみ侍ける
二条太皇太后宮大弐
1372 あなこひしやへの雲地にめもあはす
くるゝよな/\さはくこゝろか
おなしもしなき哥とてよみ侍ける
1373 あふことよいまはかきりのたひなれや
ゆくすゑしらてむねそもえける
はるのはしめに定家にあひて侍ける」177ウ
ついてに僧正聖宝はをはしめる
をはてにてなかめをかけてはるの
うたよみて侍よしをかたり侍けれは
その心よまむと申てよみ侍ける
大僧正親厳
1374 はつねの日つめるわかなかめつらしと
野辺のこまつにならへてそ見る」178オ
(白紙)」178ウ
扶老眼一校直付字誤訖
非器撰者明静」179オ