凡例
1 本文は複製本『昭和切古今和歌集』(昭和3年11月 尚古会)によって翻字した。
2 和歌には「新編国歌大観」の歌番号を頭に冠した。
3 本文中の校訂箇所について、ミセケチは$、抹消は#、併記は=、補入は+、重ね書きは&の符号で( )に記した。なお( )の中の符号の前が元の訂正以前の文字、符号の後が訂正以後の文字である。判読不能文字は△で記した。
4 勘物は次のように記した。
【二条のきさき】-贈太政大臣/長良女/藤高子(頭注)
古今和哥集巻第一
春哥上
ふるとしにはるたちける日よめる
在原元方
0001 としのうちに春はきにけりひとゝせを
こそとやいはんことしとやいはむ
春たちける日よめる
紀のつらゆき」(1オ)
0002 そてひちてむすひしみつのこほれるを
はるたつけふの風やとくらん
たいしらす よみ人しらす
0003 はるかすみたて(て=た)るやいつこみよしのゝ
よしのゝ山にゆきはふりつゝ
二条のきさきのはるのはしめのおほ
【二条のきさき】-贈太政大臣/長良女/藤高子(頭注)
むうた
0004 ゆきのうちにはるはきにけりうくひすの
こほれるなみたいまやとくらん」(1ウ)
たいしらす よみ人しらす
0005 むめかえにきゐるうくひすはるかけて
なけともいまたゆきはふりつゝ
ゆきのきにふりかゝれるをよめる
素性法師
【素性法師】-良岑宗貞男
0006 春たては花とやみらんしらゆきの
かゝれるえたにうくひすのなく
たいしらす
よみ人しらす」(2オ)
0007 こゝろさしふかくそめてしおりけれは
きえあへぬゆきのはなとみゆるか(るか=らん)
ある人のいはくさきのおほき大
まうちきみのうたなり
【さきのおほき大まうちきみ】-忠仁公(頭注)
二条のきさきのとう宮のみやすん
ところときこえけるとき正月三日おまへに
めしておほせことあるあひたに日はてり
なからゆきのかしらにふりかゝりける
をよませたまける」(2ウ)
文屋康秀
【文屋康秀】-やすひて
0008 はるの日のひかりにあたるわれ(われ=ハナ)なれと
かしらのゆきとなるそわひしき
ゆきのふりけるをよめる
きのつらゆき
0009 かすみたちこのめもはるのゆきふれは
花なきさともはなそちりける
春のはしめによめる
藤原ことなほ
【藤原ことなほ】-言直」(3オ)
0010 はるやとき花やおそきをきゝわかむ
うくひすたにもなかすもあるかな
はるのはしめのうた
みふのたゝみね
【みふのたゝみね】-忠岑
0011 春きぬと人はいへともうくひすの
なかぬかきりはあらしとそおもふ
寛平御時きさいのみやの哥合の
うた
源当純
【源当純】-まさすみ 当純/右大臣能有男(頭注)」(3ウ)
0012 たに(たに=ヤマ)風にとくるこほりのひまことに
うちいつるなみやはるのはつはな
きのとものり
【きのとものり】-友則
0013 花のかを風のたよりにたくへてそ
うくひすさそふしるへにはやる
大江千里
【大江千里】-ちさと
0014 うくひすのたによりいつるこゑなくは
はるくることをたれかしらまし
在原むねやな
【在原むねやな】-棟梁 業平男」(4オ)
0015 はるたてと花もにほはぬやまさとは
ものうかるねにうくひすそなく
たいしらす よみ人しらす
0016 のへちかくいゑゐしをれはうくひすの
なくなるこゑはあさな/\きく
0017 かすかのはけふはなやきそわかくさの
つまもこもれりわれもこもれり
0019 かすかのゝとふひのもりいてゝみよ
いまいくかありてわかなつみてん」(4ウ)
0018 みやまにはまつのゆきたにきえなくに
宮こはのへのわかなつみけり
0020 あつさゆみおしてはるさめけふゝりぬ
あすさへふらはわかなつみてん
(+アスヨリハワカナツマムトカタヲカノアシタノハラハケフヤヽクラム)
【アスヨリハワカナツマムトカタヲカノアシタノハラハケフヤヽクラム】-或本ニ/是/アリ正本ニナシ(頭注)
仁和のみかとみこにおましまし
【仁和のみかと】-光孝天皇/仁明御子(頭注)
けるときに人にわかなたまひけるおほ
むうた
0021 きみかためはるのゝにいてゝわかなつむ
わかころもてにゆきはふりつゝ」(5オ)
うたゝてまつれとおほせられしとき
よみてたてまつれる
つらゆき
0022 かすかのゝわかなつみにやしろたへの
そてふりはへて人のゆくらん
たいしらす
在原行平朝臣
【在原行平朝臣】-ゆきひら 阿保親王男
0023 春のきるかすみのころもぬきをうすみ
やま風にこそみたるへらなれ
寛平御時きさいのみやの哥合によめる」(5ウ)
源宗于朝臣
【源宗于朝臣】-むねゆき
0024 ときはなるまつのみとりもはるくれは
いまひとしほのいろまさりけり
うたゝてまつれとおほせられしとき
によみてたてまつれる
つらゆき
0025 わかせこかころもはるさめふることに
のへのみとりそいろまさりける
0026(+あをやきのいとよりかくる春しもそみたれて花のほころひにける)
西大寺のほとりのやなきをよめる
僧正遍昭
【僧正遍昭】-俗名良岑宗貞 大納言安世/男安世ハ桓武御子(頭注)」(6オ)
0027 あさみとりいとよりかけてしらつゆを
たまにもぬけるはるのやなきか
たいしらす よみ人しらす
0028 もゝちとりさへつるはるはものことに
あらたまれともわれそふりゆく
0029 をちこちのたつきもしらぬやまなかに
おほつかなくもよふことりかな
かりのこゑをきゝてこしへまかりに
ける人をおもひてよめる
凡河内みつね」(6ウ)
0030 はるくれはかりかへるなりしらくもの
みちゆきふりにことやつてまし
かへるかりをよめる
いせ
【いせ】-藤原継蔭女
0031 はるかすみたつをみすてゝゆくかりは
花なきさとにすみやならへる
たいしらす よみ人しらす
0032 をりつれはそてこそにほへむめのはな
ありとやこゝにうくひすのなく」(7オ)
0033 いろよりもかこそあはれとおもほゆれ
たかそてふれしやとのむめそも
0034 やとちかくむめのはなうゑしあちきなく
まつ人のかにあやまたれけり
0035 むめのはなたちよるはかりありしより
人のとかむるかにそしみぬる
むめのはなをゝりてよめる
東三条左のおほいまうちきみ
【東三条左のおほいまうちきみ】-嵯峨御子/源常(頭注)
0036 うくひすのかさにぬふて(て=とい)ふむめのはな」(7ウ)
をりてかさゝむおいかくるやと
たいしらす そせいほうし
0037 よそにのみあはれとそみしむめのはな
あかぬいろかはをりてなりけり
むめのはなをゝりて人におくりける
とものり
0038 きみならてたれにかみせんむめのはな
いろをもかをもしる人そしる
くらふやまにてよめる」(8オ)
つらゆき
0039 むめのはなにほふ春へはくらふやま
やみにこゆれとしるくそありける
月よにむめにはなをゝりてと人の
いひけれはをるとてよめる
みつね
0040 つきよにはそれともみえすむめのはな
かをたつねてそしるへかりける
はるのよむめのはなをよめる
0041 春のよのやみはあやなしむめのはな」(8ウ)
いろこそみえねかやはかくるゝ
はつせにまうつることにやとりける
人のいへにひさしくやとらてほとへて
のちにいたれりけれはかのいへのあ
るしかくさたかになんやとりはある
といひいたして侍りけれはそこにた
てりけるむめのはなをゝりてよめる
つらゆき
0042 人はいさこゝろもしらすふるさとは
はなそむかしのかにゝほひける」(9オ)
みつのほとりにむめのはなさけり
けるをよめる
い勢
0043 はることになかるゝかはをはなとみて
をられぬみつにそてやぬれなん
0044 としをへて花のかゝみとなるみつは
ちりかゝるをやくもるといふらん
いへにありけるむめのはなのちりけ
るをよめる
つらゆき」(9ウ)
0045 くるとあくとめかれぬものをむめのはな
いつのひとまにうつろひぬらん
寛平御時きさいのみやの哥合
のうた
よみ人しらす
0046 むめかゝをそてにうつしてとゝめては
春はすくともかたみならまし
そせい法し
0047 ちるとみてあるへきものをむめのはな
うたてにほひのそてにとまれる」(10オ)
たいしらす よみ人しらす
0048 ちりぬともかをたにのこせむめのはな
こひしきときのおもひいてにせむ
人のいへにうへたりけるさくらの
花さきはしめたりけるをみてよめる
つらゆき
0049 ことしより春しりそむるさくらはな
ちるといふことはならはさらなん
たいしらす よみ人しらす」(10ウ)
0050 やまたかみ人もすさめぬさくらはな
いたくなわひそわれみはやさむ
又はさとゝほみ人もすさめぬ山
さくら
0051 やまさくらわかみにくれは春かすみ
みねにもをにもたちかくしつゝ
そめとのゝきさきのおまへに花か
【そめとのゝきさき】-染殿后/忠仁公女/清和母后(頭注)
めにさくらのはなをさゝせたまへる
をみてよめる」(11オ)
さきのおほきおほいまうちきみ
【さきのおほきおほいまうちきみ】-従一位太政大臣/忠仁公(頭注)
0052 としふれはよはひはおいぬしかはあれと
はなをしみれはものおもひもなし
なきさの院にてさくらをみて
よめる
在原業平朝臣
【在原業平朝臣】-阿保親王男 なりひら
0053 よのなかにたえてさくらのなかりせは
はるのこゝろはのとけからまし
たいしらす よみ人しらす」(11ウ)
0054 いしはしるたきなくもかなさくらはな
たをりてもこむみぬ人のため
山のさくらをみてよめる
素性法し
0055 みてのみや人にかたらんさくらはな
てことにをりていへつとにせん
はなさかりに京をみやりてよめる
0056 みわたせはやなきさくらをこきませて
宮こそはるのにしきなりける」(12オ)
さくらの花のもとにてとしのおい
ぬることをなけきてよめる
きのとものり
0057 いろもかもおなしむかしにさくらめと
としふる人そあらたまりける
をれるさくらをよめる
つらゆき
0058 たれしかもとめてをりつるはるかすみ
たちかくすらんやまのさくらを」(12ウ)
うたたてまつれとおほせられし
ときによみてたてまつれる
0059 さくらはなさきにけらしもあしひきの
やまのかひよりみゆるしらくも
寛平御時きさいの宮の哥合哥
とものり
0060 みよしのゝやまへにさけるさくらはな
ゆきかとのみそあやまたれける
やよひにうるふ月ありけるとし
よみける」(13オ)
い勢
0061 さくらはな春くはゝれるとしたにも
人のこゝろにあかれやはせぬ
さくらの花のさかりにひさしく
とはさりける人のきたりけるときに
よみける
よみ人しらす
0062 あたなりとなにこそたてれさくらはな
としにまれなる人もまちけり
返し なりひらの朝臣」(13ウ)
0063 けふこすはあすはゆきとそふりなまし
きえすはありとも花とみましや
たいしらす 読人しらす
0064 ちりぬれはこふれとしるしなきものを
けふこそさくらをらはをりてめ
0065 をりとらはをしけにもあるかさくら花
いさやとかりてちるまてはみん
きのありとも
0066 さくらいろにころもはふかくそめてきむ
花のちりなんのちのかたみに」(14オ)
さくらのはなのさけりけるを
みにまうてきたりける人によみて
おくりける
みつね
0067 わかやとのはなみかてらにくる人は
ちりなんのちそこひしかるへき
亭子院の哥合のときよめる
い勢
0068 みる人もなきやまさとのさくらはな
ほかのちりなんのちそさかまし」(14ウ)
(白紙)」15オ
古今和哥集巻第二
春哥下
題しらす 読人しらす
0069 はるかすみたなひくやまのさくらはな
うつろはんとやいろかはりゆく
0070 まてといふにちらてしとまるものならは
なにをさくらにおもひまさまし
0071 のこりなくちるそめてたきさくらはな」(15ウ)
ありてよのなかはてのうけれは
0072 このさとにたひねしぬへしさくら花
ちりのまかひにいへちわすれて
0073 うつせみのよにもにたるかはなさくら
さくとみしまにかつちりにけり
僧正遍昭によみておくりける
これたかのみこ
【これたかのみこ】-惟喬親王文徳皇子
0074 さくらはなちらはちらなんちらすとて
ふるさと人のきてもみなくに」(16オ)
雲林院にてさくらのはなのちり
けるをみてよめる
そうくほうし
【そうくほうし】-承均法師
0075 さくらちる花のところははるなから
ゆきそふりつゝきえかてにする
さくらのはなのちり侍けるをみて
よみける
そせいほうし
0076 はなちらす風のやとりはたれかしる
われにをしへよゆきてうらみむ」(16ウ)
うりん院にてさくらの花をよめる
そうくほうし
0077 いさゝくらわれもちりなんひとさかり
ありなは人にうきめみえなん
あひしれりける人のまうてきて
かへりにけるのちによみて花に
さしてつかはしける
貫之
0078 ひとめみしきみもやくるとさくらはな
けふはまちみてちらはちらなむ」(17オ)
山のさくらをみてよめる
0079 はるかすみなにかくすらんさくらはな
ちるまをたにもみるへきものを
こゝちそこなひてわつらひけるときに
風にあたらしとておろしこめてのみ
侍けるあひたにをれるさくらのちりか
たになれりけるをみてよめる
ふちはらのよるかの朝臣
【ふちはらのよるかの朝臣】-典侍因香
0080 たれこめてはるのゆくへもしらぬまに」(17ウ)
まちしさくらもうつろひにけり
東宮の雅院にてさくらの花の
【雅院】-雅院/待賢門内北/壬生東也/文彦太子/居之(頭注)
みかはみつにちりてなかれけるを見
てよめる
すかのゝたかよ
【すかのゝたかよ】-高世
0081 えたよりもあたにちりにし花なれは
おちてもみつのあはとこそなれ
さくらの花のちりけるをよみける
つらゆき
0082 ことならはさかすやはあらぬさくらはな
みるわれさへにしつこゝろなし」(18オ)
さくらのことゝくちるものはなしと
人のいひけれはよめる
0083 さくらはなとくちりぬともおもほえす
人のこゝろそ風もふきあへぬ
さくらのはなのちるをよめる
きのとものり
0084 ひさかたのひかりのとけきはるの日に
しつこゝろなくはなのちるらん
東宮のたちはきのちんにてさくら」(18ウ)
のはなのちるをよめる
藤原よし風
【藤原よし風】-好風
0085 春風は花のあたりをよきてふけ
こゝろつからやうつろふとみむ
さくらのちるをよめる
凡河内みつね
0086 ゆきとのみふるたにあるをさくらはな
いかにちれとか風のふくらん
ひえにのほりてかへりまうてきて
よめる」(19オ)
つらゆき
0087 やまたかみゝつゝわかこしさくらはな
風はこゝろにまかすへらなり
たいしらす 大伴くろぬし
【大伴くろぬし】-一本
0088 はるさめのふるはなみたかさくらはな
ちるをゝしまぬ人しなけれは
ていしの院哥合哥 つらゆき
0089 さくらはなちりぬる風のなこりには
みつなきそらになみそたちける
奈良のみかとの御うた
【奈良のみかと】-大同帝」(19ウ)
0090 ふるさとゝなりにしならのみやこにも
いろはかはらす花はさきけり
はるのうたとてよめる
よしみねのむねさた
【よしみねのむねさた】-大納言安世男 良少将蔵人頭
0091 花のいろはかすみにこめてみせすとも
かをたにぬすめはるのやま風
寛平の御時后のみやの哥合のうた
そせいほうし
0092 花のきもいまはほりうゑし春たては」(20オ)
うつろふいろに人ならひけり
たいしらす よみ人しらす
0093 はるのいろのいたりいたらぬさとはあらし
さけるさかさるはなのみゆらん
はるのうたとてよめる
つらゆき
0094 みわやまをしかもかくすかはるかすみ
人にしられぬ花やさくらん
うりん院のみこのもとに花みに」(20ウ)
きたやまのほとりにまかれりける
ときによめる
そせい
0095 いさけふははるのやまへにまとひ(とひ=シリ)なん
くれなはなけの花のかけかは
はるのうたとてよめる
0096 いつまてかのへにこゝろのあくかれむ
花しちらすはちよもへぬへし
たいしらす よみ人しらす
0097 はることに花のさかりはありなめと」(21オ)
あひみんことはいのちのみなり(のみなり=ナリケリ)
0098 花のことよのつねならはすくしてし
むかしはまたもかへりきなまし
0099 ふく風にあつらへつくるものならは
このひともとはよきよといはまし
0100 まつ人もこぬものゆへにうくひすの
なきつる花をゝりてけるかな
寛平御時きさいの宮の哥合哥
ふちはらのおき風
【ふちはらのおき風】-興風」(21ウ)
0101 さくはなはちくさなからにあたなれと
たれかははるをうらみはてたる
0102 はるかすみいろのちくさにみえつるは
たなひく山の花のかけかも
ありはらのもとかた
【ありはらのもとかた】-元方
0103 かすみたつはるのやまへはとほけれと
ふきくる風は花のかそする
うつろへるはなをみてよめる
みつね
0104 花みれはこゝろさへにそうつりける」(22オ)
いろにはいてし人もこそしれ
題しらす よみ人しらす
0105 うくひすのなくのへことにきてみれは
うつろふ花に風そふきける
0106 吹風をなきてうらみようくひすは
われやは花にてたにふれたる
典侍洽子朝臣
0107 ちる花のなくにしとまるものならは
われうくひすにおとらましやは」(22ウ)
仁和の中将のみやすんところのいへに
哥合せんとてしける時によみける
藤原のゝちかけ
【藤原のゝちかけ】-後蔭
0108 花のちることやわひしきはるかすみ
たつたの山のうくひすのこゑ
うくひすのなくをよめる
そせい
0109 こつたへはおのかはかせにちるはなを
たれにおほせてこゝらなくらん」(23オ)
うくひすの花のきにてなくを
よめる
みつね
0110 しるしなきねをもなくかなうくひすの
ことしのみちる花ならなくに
たいしらす 読人しらす
0111 こまなへていさみにゆかんふるさとは
ゆきとのみこそ花はちるらめ
0112 ちる花をなにかうらみんよのなかに
わか身もともにあらむものかは」(23ウ)
をのゝこまち
0113 花のいろはうつりにけりないたつらに
わか身よにふるなかめせしまに
仁和の中将のみやすんところのいへ
に哥合せんとしけるときによめる
そせい
0114 をしとおもふ心はいとによられなん
ちる花ことにぬきてとゝめん
しかのやまこえにをんなのおほく
あへりけるによみてつかはしける」(24オ)
つらゆき
0115 あつさゆみはるのやまへをこえくれは
みちもさりあへす花そちりける
寛平御時きさいの宮哥合哥
0116 はるのゝにわかなつまんとこしものを
ちりかふ花にみちはまとひぬ
山てらにまうてたりけるによめる
0117 やとりしてはるの山へにねたるよは
ゆめのうちにも花そちりける
寛平御時きさいの宮哥合哥」(24ウ)
0118 ふく風とたにのみつとしなかりせは
みやまかくれの花をみましや
しかよりかへりけるをうなともの
花山にいりてふちのはなのもとに
たちよりてかへりけるによみておく
りける
僧正遍昭
0119 よそにみてかへらん人にふちのはな
はひまつはれよえたはをるとも
いへにふちの花さけりけるを人の」(25オ)
たちとまりてみけるをよめる
みつね
0120 わかやとにさけるふちなみたちかへり
すきかてにのみ人のみるらん
たいしらす よみ人しらす
0121 いまもかもさきにほふらんたちはなの
こしまのさきの山ふきのはな
0122 はるのあめに(あめに=サメニ)ゝほへるいろもあかなくに
かさへなつかしやまふきのはな」(25ウ)
0123 やまふきはあやなゝさきそ花みんと
うゑけんきみかこよゐこなくに
よしのかはのほとりに山吹のさけり
けるをよめる
つらゆき
0124 よしのかはきしのやまふきふく風に
そこのかけさへうつろひにけり
たいしらす よみ人しらす
0125 かはつなくゐての山吹ちりにけり
花のさかりにあはましものを
この哥はある人のいはくたち花のきよ
ともかうたなり
【たち花のきよとも】-贈太政大臣也 橘清友ハ嵯峨/后父也(頭注)」(26オ)
春のうたとてよめる
そせい
0126 おもふとちはるのやまへにうちむれて
そこともいはぬたひねしてしか
又はあはれてふことをかないひに
つゝみもて
はるのとくすくるをよめる
みつね
0127 あつさゆみはるたちしよりとし月の
いるかことくもおもほゆるかな」(26ウ)
やよひにうくひすのこゑのひさしう
きこえさりけるをよめる
つらゆき
0128 なきとむる花しなけれはうくひすも
はてはものうくなりぬへらなり
やよひのつこもりかたに山をこえけるに
山かはより花のなかれけるをよめる
ふかやふ
【ふかやふ】-清原深養父
0129 花ちれるみつのまに/\とめくれは
山にははるもなくなりにけり
はるをゝしみてよめる」(27オ)
もとかた
0130 をしめともとゝまらなくにはるかすみ
かへるみちにしたちぬとおもへは
寛平御時きさいの宮の哥合哥
おき風
0131 こゑたゝすなけやうくひすひとゝせに
ふたゝひとたにくへきはるかは
やよひのつこもりの日花つみよりかへ
りけるをんなともをみてよめる
みつね
0132 とゝむへきものとはなしにはかなくも」(27ウ)
ちるはなことにたくふこゝろか
やよひのつこもりの日あめのふり
けるにふちのはなをゝりて人に
つかはしける
なりひらの朝臣
0133 ぬれつゝそしゐてをりつるとしのうちに
はるはいくかもあらしとおもへは
ていしの院の哥合のはるのはて
のうた
みつね」(28オ)
0134 けふのみとはるをおもはぬときたにも
たつことやすき花のかけかは」(28ウ)
古今和哥集巻第三
夏哥
題しらす 読人しらす
0135 わかやとのいけのふちなみさきにけり
やまほとゝきすいつかきなかむ
このうたある人のいはくかきのも
との人まろかなり
うつきにさけるさくらをみてよめる
きのとしさた
【きのとしさた】-俊貞」(29オ)
0136 あはれてふことをあまたにやらしとや
はるにおくれてひとりさくらん
たいしらす よみ人しらす
0137 さ月まつ山ほとゝきすうちはふき
いまもなかなんこそのふるこゑ
い勢
0138 さつきこはなきもふりなんほとゝきす
またしきときの(ときの=ホトノ)のこゑをきかはや
よみ人しらす」(29ウ)
0139 さ月まつ花たちはなのかをかけは
むかしの人のそてのかそする
0140 いつのまにさ月きぬらんあしひきの
山ほとゝきすいまそなくなる
0141 けさきなきいまたゝひなるほとゝきす
花たちはなにやとはからなん
おとは山をこえけるときにほとゝき
すのなくをきゝてよめる
きのとものり
0142 おとはやまけさこえくれはほとゝきす」(30オ)
こすゑはるかにいまそなくなる
ほとゝきすのはしめてなきけるを
きゝてよめる
そせいほうし
0143 ほとゝきすはつこゑきけはあちきなく
ぬしさたまらぬこひせらるはた
奈良のいその神てらにて郭公の
なくをよめる
0144 いそのかみふるきみやこのほとゝきす
こゑ許こそむかしなりけれ
たいしらす よみ人しらす」(30ウ)
0145 夏やまになくほとゝきすこゝろあらは
おものおもふわれにこゑなきかせそ
0146 ほとゝきすなくこゑきけはわかれにし
ふるさとさへそこひしかりける
0147 郭公なかなくさとのあまたあれは
なほうとまれぬおもふものから
0148 おもひいつるときはのやまのほとゝきす
からくれなゐのふりてゝそなく
0149 こゑはしてなみたはみえぬほとゝきす
わかころもてのひつをからなん」(31オ)
0150 あしひきの山ほとゝきすをりはへて
たれかまさるとねをのみそなく
0151 いまさらにやまへかへるなほとゝきす
こゑのかきりはわかやとになけ
みくにのまち
【みくにのまち】-三国町
0152 やよやまて山ほとゝきすことつてん
われよのなかにすみわひぬとよ
寛平御時きさいのみやの哥合哥
紀友則
0153 さみたれにものおもひおれはほとゝきす」(31ウ)
よふかくなきていつちゆくらん
0154 よやくらきみちやまとへるほとゝきす
わかやとをしもすきかてになく
おほえの千さと
【おほえの千さと】-千里
0155 やとりせし花たちはなもかれなくに
なとほとゝきすこゑたえぬらん
きのつらゆき
0156 なつのよのふすかとすれはほとゝきす
なくひとこゑにあくるしのゝめ
みふのたゝみね」(32オ)
0157 くるゝかとみれはあけぬるなつのよを
あかすとやなく山ほとゝきす
きのあきみね
【きのあきみね】-秋岑
0158 夏山にこひしき人やいりにけん
こゑふりたてゝなくほとゝきす
たいしらす よみ人しらす
0159 こその夏なきふるしてしほとゝきす
それかあらぬかこゑのかはらぬ
ほとゝきすのなくをきゝてよめる
つらゆき」(32ウ)
0160 さみたれのそらもとゝろにほとゝきす
なにをうしとかよたゝなくらむ
さふらひにてをのことものさけた
うへけるにめしてほとゝきすま
つうたよめとありけれはよめる
みつね
0161 ほとゝきすこゑもきこえす山ひこは
ほかになくねをこたへやはせぬ
山にほとゝきすのなきけるをきゝ
てよめる
つらゆき」(33オ)
0162 郭公人まつやまになくなれは
我うちつけにこひまさりけり
はやくすみけるところにて郭公の
なきけるをきゝてよめる
たゝみね
【たゝみね】-忠岑
0163 むかしへやいまもこひしきほとゝきす
ふるさとにしもなきてきつらん
ほとゝきすのなきけるをきゝて
よめる
みつね
0164 ほとゝきすわれとはなしにうのはなの
うきよのなかになきわたるらん」(33ウ)
はちすのつゆをみてよめる
僧正遍昭
0165 はちすはのにこりにしまぬこゝろもて
なと(と$に)かはつゆをたまとあさむく
月のおもしろかりけるよあかつき
かたによめる
ふかやふ
0166 夏のよはまたよひなからあけぬるを
くものいつくに月やとるらん
となりよりとこなつのはなをこひに
おこせたりけれはをしみてこの」(34オ)
うたをよみてつかはしける
みつね
0167 ちりをたにすゑしとそおもふさきしより
いもとわかぬるとこなつのはな
みな月のつこもりの日よめる
0168 夏とあきとゆきかふそらのかよひちは
かたへすゝしき風やふくらん」(34ウ)
古今和哥集巻第四
秋哥上
あきたつ日よめる
藤原としゆきの朝臣
【藤原としゆきの朝臣】-右兵衛督 按察使富士麿男
0169 あきゝぬとめにはさやかにみえねとも
風のおとにそおとろかれぬる
秋のたつ日うへのをのこともか(か+も)の
かはらにかはせうえうしける」(35オ)
ともにまかりてよめる
きのつらゆき
0170 かは風のすゝしくもあるかうちよする
なみとゝもにや秋はたつらん
たいしらす よみ人しらす
0171 わかせこかころものすそをふきかへし(し=ス)
うらめつらしきあきのはつ風
0172 きのふこそさなへとりしかいつのまに
いなはそよきてあき風のふく
0173 秋風のふきにし日よりひさかたの」(35ウ)
あまのかはらにたゝぬ日はなし
0174 ひさかたのあまのかはらのわたしもり
きみわたりなはかちかくしてよ
0175 あまのかはもみちをはしに(はしに=フネニ)わたせはや
たなはたつめの秋をしもまつ
0176 こひ/\てあふよはこよひあまのかは
きりたちわたりあけすもあらなん
寛平御時なぬかのようへにさ
ふらふをのこともうたゝてまつれ」(36オ)
とおほせられけるときに人に
かはりてよめる
とものり
0177 あまのかはあさせしらなみたとりつゝ
わたりはてねはあけそしにける
おなし御時のきさいのみやの
哥合のうた
藤原おき風
0178 ちきりけんこゝろそつらきたなはたの
としにひとたひあふはあふかは
なぬかの日のよゝめる」(36ウ)
おふし河内のみつね
0179 としことにあふとはすれとたなはたの
ぬるよのかすそすくなかりける
0180 たなはたにかしつるいとのうちはへて
としのをなかくこひやわたらむ
たいしらす
そせい
0181 こよひこむ人にはあはしたなはたの
ひさしきほとにまちもこそすれ
なぬかのよのあか月によめる」(37オ)
みなもとのむねゆき
0182 いまはとてわかるゝときはあまのかは
わたらぬさきにそてそひちぬる
やうかの日よめる
みふのたゝみね
0183 けふよりはいまこむとしのきのふをそ
いつしかとのみまちわたるへき
たいしらす よみ人しらす
0186 このまよりもりくる月のかけみれは
こゝろつくしの秋はきにけり」(37ウ)
0184 おほかたのあきくるからにわか身こそ
かなしきものとおもひしりぬれ
0185 わかためにくる秋にしもあらなくに
むしのねきけはまつそかなしき
0187 ものことにあきそかなしきもみちつゝ
うつろひゆくをかきりとおもへは
0188 ひとりぬるとこはくさはにあらねとも
あきくるよひはつゆけかりけり
是貞親王のいへの哥合哥
【是貞親王】-仁和御子/寛平二年/為親王元右近中将(頭注)
よみ人しらす(よみ人しらす$)」(38オ)
0189 いつはとはときはわかねとあきのよそ
ものおもふことのかきりなりける
かんなりのつほに人々あつまりて秋
のよをしむうたよみけるついてに
よめる
みつね
0190 かくはかりをしとおもふよをいたつらに
ねてあかすらん人さへそうき
たいしらす よみ人しらす
0191 しらくもにはねうちかはしとふかりの
かすさへみゆるあきのよの月」(38ウ)
0192 さよなかとよはふけぬらしかりかねの
きこゆるそらに月わたるみゆ
これさたのみこの家の哥合によ
める
おほえの千里
0193 月みれはちゝにものこそかなしけれ
わか身ひとつのあきにはあらねと
たゝみね
0194 ひさかたの月のかつらもあきはなほ
もみちすれはやてりまさるらん
月をよめる 在原元方」(39オ)
0195 あきのよの月のひかりしあかけれは
くらふの山もこえぬへらなり
人のもとにまかれりけるよきり/\
すのなきけるをきゝてよめる
藤原たゝふさ
【藤原たゝふさ】-忠房
0196 きり/\すいたくなゝきそあきのよの
なかきおもひはわれそまされる
是貞のみこの家の哥合哥
としゆきのあそん
0197 あきのよのあくるもしらすなくむしは」(39ウ)
わかことものやかなしかるらん
たいしらす 読人しらす
0198 あきはきもいろつきぬれはきり/\す
わかねぬことやよるはかなしき
0199 秋のよはつゆこそことにさむからし
くさむらことにむしのわふれは
0200 きみしのふくさにやつるゝふるさとは
まつむしのねそかなしかりける
0201 秋のゝにみちもまとひぬまつむしの
こゑするかたにやとやからまし」(40オ)
0202 あきのゝに人まつむしのこゑすなり
われかとゆきていさとふらはん
0203 もみちはのちりてつもれるわかやとに
たれをまつむしこゝらなくらむ
0204 ひくらしのなきつるなへに日はくれぬ
とおもふは山のかけにそありける
0205 ひくらしのなくやまさとのゆふくれは
風よりほかにとふ人もなし
はつかりをよめる
ありはらの元方」(40ウ)
0206 まつ人にあらぬものからはつかりの
けさなくこゑのめつらしきかな
これさたのみこのいへの哥合哥
とものり
0207 秋風にはつかりかねそきこゆなる
たかたまつさをかけてきつらん
たいしらす よみ人しらす
0208 わかゝとにいなおほせとりのなくなへに
けさふく風にかりはきにけり
0209 いとはやもなきぬるかりかしらつゆの」(41オ)
いろとるきゝもゝみちあへなくに
又は秋はきのしたはもいまた
もみちあへなくに
0210 はるかすみかすみていにしかりかねは
いまそなくなるあきゝりのうへに
0211 よをさむみころもかりかねなくなへに
はきのしたはもうつろひにけり
このうたはある人のいはくかきの
もとの人まろかなりと
寛平御時きさいの宮の哥合哥」(41ウ)
藤原菅根朝臣
【藤原菅根朝臣】-すかね
0212 秋風にこゑをほにあけてくるふねは
あまのとわたるかりにそありける
かりのなきけるをきゝてよめる
みつね
0213 うきことをおもひつらねてかりかねの
なきこそわたれあきのよな/\
是貞のみこの家の哥合哥
たゝみね
0214 山さとはあきこそことにわひしけれ」(42オ)
しかのなくねにめをさましつゝ
よみ人しらす
0215 おくやまにもみちふみわけなくしかの
こゑきくときそ秋はかなしき
たいしらす
0216 あきはきにうらひれおれはあしひきの
山したとよみしかのなくらん
0217 秋はきをしからみふせてなくしかの
めにはみえすておとのさやけさ
是貞のみこの家の哥合によめる」(42ウ)
藤原としゆきの朝臣
【藤原としゆきの朝臣】-敏行
0218 あきはきのはなさきにけりたかさこの
をのへのしかはいまやなくらん
むかしあひしりて侍りける人の
秋のゝにあひてものかたりしける
ついてによめる
みつね
0219 秋はきのふるえにさける花みれは
もとのこゝろはわすれさりけり
たいしらす よみ人しらす」(43オ)
0220 秋はきのしたはいろつくいまよりや
ひとりある人のいねかてにする
0221 なきわたるかりのなみたやおちつらん
ものおもふやとのはきのうへの露
0222 はきのつゆたまにぬかむとゝれはけぬ
よしみむ人はえたなからみよ
あるひとのいはくこのうたは
奈良のみかとの御哥なりと
0223 をりてみはおちそしぬへき秋はきの」(43ウ)
えたもたわゝに(たわゝに=トヲヽニ)おけるしらつゆ
0224 はきかはなちるらむをのゝ露しもに
ぬれ(ぬれ=フレ)てをゆかむさよはふくとも
これさたのみこの家の哥合に
よめる
文屋のあさやす
【文屋のあさやす】-朝康
0225 あきのゝにおくしらつゆはたまなれや
つらぬきかくるくものいとすち
たいしらす
僧正遍昭」(44オ)
0226 なにめてゝをれる許そ(なにめてゝをれる許そ=カヲヽヨミウチミハカリソ)をみなへし
われおちにきと人にかたるな
僧正遍昭かもとにならへまかり
けるときにをとこやまにて女
郎花をみてよめる
ふるのいまみち
0227 をみなへしうしとみつゝそゆきすくる
をとこやまにしたてりとおもへは
是貞親王の家の哥合哥」(44ウ)
としゆきの朝臣
0228 あきのゝにやとりはすへしをみなへし
名をむつましみたひならなくに
たいしらす
をのゝよしき
0229 をみなへしおほかるのへにやとりせは
あやなくあたのなをやたちなん
朱雀院のをみなへしあはせに
よみてたてまつりける
左のおほいまうちきみ
【左のおほいまうちきみ】-本院左大臣時」(45オ)
0230 をみなへし秋の野風にうちなひき
こゝろひとつをたれによすらむ
藤原のさたかた朝臣
【藤原のさたかた朝臣】-三条右大臣 定方
0231 あきならてあふことかたきをみなへし
あまのかはらにおひぬものゆへ
つらゆき
0232 たかあきにあらぬものゆへをみなへし
なそいろにいてゝまたきうつろふ
みつね
0233 つまこふるしかそなくなるをみなへし」(45ウ)
おのかすむのゝ花としらすや
0234 をみなへしふきすきてくる秋風は
めにはみえねとかこそしるけれ
たゝみね
0235 人のみることやくるしきをみなへし
あききりにのみたちかくるらん
タイシラス(タイシラス$) ソセイ(ソセイ$)本定
0236 ひとりのみなかむるよりは女郎花
わかすむやとにうゑてみましを
ものへまかりけるに人の家に」(46オ)
をみなへしうゑたりけるを
みてよめる
兼覧王
0237 をみなへしうしろめたくもみゆるかな
あれたるやとにひとりたてれは
寛平御時くら人ところのをのことも
さかのに花みんとてまかりたりける
ときかへるとてみなうたよみける
ついてによめる
平さたふん
【平さたふん】-定文
0238 花にあかてなにかへるらんをみなへし」(46ウ)
おほかるのへにねなましものを
是貞のみこの家の哥合によめる
としゆきの朝臣
0239 なに人かきてぬきかけしふちはかま
くるあきことにのへをにほはす
ふちはかまをよみて人につかは
しける
つらゆき
0240 やとりせし人のかたみかふちはかま
わすられかたきかにゝほひつゝ」(47オ)
ふちはかまをよめる
そせい
0241 ぬしゝらぬかこそにほへれあきのゝに
たかぬきかけしふちはかまそも
たいしらす さたふん
0242 いまよりはうゑてたにみし花すゝき
ほにいつる秋はわひしかりけり
寛平御時后宮の哥合のうた
在原棟梁
【在原棟梁】-むねやな」(47ウ)
0243 あきの野ゝくさのたもとか花すゝき
ほにいてゝまねくそてとみゆらん
そせいほうし
0244 われのみやあはれとおもはんきり/\す
なくゆふくれの(くれの=カケノ)ひくらしのこゑ(ひくらしのこゑ$ヤマトナテシコ)
たいしらす よみ人しらす
0245 みとりなるひとつくさとそ春はみし
秋はいろ/\(/\+の)花にそありける
0246 もゝくさのはなのひもとくあきのゝを
おもひたはれん人なとかめそ」(48オ)
0247 月くさにころもはすらむあさつゆに
ぬれてのゝちはうつろひぬとも
仁和のみかとのみこにおはしまし
けるときふるのたき御らんせん
とておはしましけるみちに遍
昭かはゝのいへにやとりたまへり
けるときにゝはをあきのゝにつく
りておほんものかたりのついて
によみてたてまつりける
僧正遍昭」(48ウ)
0248 さとはあれて人はふりにしやとなれや
にはもまかきもあきのゝらなる」(49オ)
古今和哥集巻第五
秋哥下
是貞のみこの家の哥合哥
文屋やすひて
【文屋やすひて】-康秀 一本朝康
0249 ふくからにあきのくさきのしをるれは
むへ山風を嵐といふらん
0250 くさもきもいろかはれともわたつうみの
なみのはなこ(こ=に)そあきなかりけれ(れ=る)」(49ウ)
あきのうたあはせしける時によめる
きのよしもち
【きのよしもち】-淑望
0251 もみちせぬときはの山はふく風の
おとにやあきをきゝわたるらん
たいしらす よみ人しらす
0252 きりたちてかりそなくなるかたをかの
あしたのはらはもみちしぬらん
0253 神無月しくれもいまたふらなくに
かねてうつろふかみなひのもり
又はわかゝとのわさたもいまたかりあけぬに」(50オ)
0254 ちはやふる神無ひやまのもみちはに
おもひはかけしうつろふものを
貞観の御時綾綺殿(綾綺殿=一本こうき殿)のまへに
むめのきありけりにしのかたに
させりけるえたのもみちはしめ
たりけるをうへにさふらふをのこ
とものよみけるついてによめる
藤原かちをむ
【藤原かちをむ】-勝臣
0255 おなしえをわきてこのはのうつろふは(うつろふは=イロツクハ)
にしこそあきのはしめなりけれ」(50ウ)
いしやまにまうてけるときおと
は山のもみちをみてよめる
つらゆき
0256 秋風のふきにし日よりおとはやま
みねのこすゑもいろつきにけり
これさたのみこの家の哥合によめる
藤原としゆきの朝臣
0257 しらつゆのいろはひとつをいかにして
あきのこのはを(このはを=ヤマヘヲ)ちゝにそむらん
壬生のたゝみね」(51オ)
0258 あきのよのつゆをはつゆとおきなから
かりのなみたやのへをそむらん
たいしらす よみ人しらす
0259 秋のつゆいろ/\ことにおけはこそ
山のこのはも(も=ノ)ちくさなるらめ
もるやまのほとりにてよめる
つらゆき
0260 しらつゆもしくれもいたくもる山は
下葉のこらすいろつきにけり
あきのうたとてよめる」(51ウ)
在原もとかた
0261 あめふれとつゆもゝらしをかさとりの
やまはいかてかもみちそめけん
神のやしろのあたりをまかりける
ときにいかきのうちのもみちをみ
てよめる つらゆき
0262 ちはやふる神のいかきにはふくすも
あきにはあへすうつろひにけり
是貞のみこの家の哥合によめる
忠岑
【忠岑】-たゝみね」(52オ)
0263 あめふれはかさとりやまのもみちはゝ
ゆきかふ人のそてさへそてる
寛平御時后宮の哥合哥
よみ人しらす
0264 ちらねともかねてそをしきもみちはゝ
いまはかきりのいろとみつれは
やまとのくにゝまかりける時さほ
山にきりのたてりけるをみてよめる
きのとものり
0265 たかためのにしきなれはかあきゝりの」(52ウ)
さほのやまへをたちかくすらん
是貞親王家の哥合のうた
よみ人しらす
0266 あきゝりはけさはなたちそさほやまの
はゝそのもみちよそにてもみむ
あきのうたとてよめる
坂上これのり
0267 さほやまのはゝそのいろはうすけれと
あきはふかくもなりにけるかな」(53オ)
人のせんさいにきくにむすひつけ
てうゑけるうた
在原業平朝臣
0268 ゑしうゑは秋なきときやさかさらん
はなこそちらめねさへかれめや
寛平御時きくのはなをよませ
たまける
としゆきの朝臣
0269 ひさかたのくものうへにてみるきくは
あまつほしとそあやまたれける」(53ウ)
このうたはまた殿上ゆるされ
さりけるときにめしあけられて
つかうまつれるとなん
是貞のみこの家の哥合哥
きのとものり
0270 つゆなからをりてかさゝむきくのはな
おいせぬあきのひさしかるへく
寛平御時きさいの宮の哥合哥
大江千里
0271 うゑしとき花まちとほにありしきく
うつろふ秋にあはんとやみし」(54オ)
おなし御ときせられけるきくあは
せにすはまをつくりてきくのはな
うゑたりけるにくはへたりけるうた
ふきあけのはまのかたにきくうゑ
たりけるをよめる
すかはらの朝臣
【すかはらの朝臣】-菅丞相(頭注)
0272 秋風のふきあけにたてるしらきくは
はなかあらぬかなみのよするか
仙宮にきくをわけて人のいたれ
るかたをよめる」(54ウ)
そせいほうし
0273 ぬれてほす山ちのきくのつゆのまに
いつかちとせをわれはへにけん
きくのはなのもとにて人の人
まてるかたをよめる
とものり
0274 はなみつゝ人まつときはしろたへの
そてかとのみそあやまたれける
おほさはのいけのかたにきく
うゑたるをよめる
0275 ひともとゝおもひし花をおほさはの」(55オ)
いけのそこにもたれかうゑけん
よのなかのはかなきことをおもひける
をりにきくのはなをみてよみけ
る
つらゆき
0276 あきのきくにほふかきりはかさしてん
花よりさきとしらぬわか身を
しらきくのはなをよめる
凡河内躬恒
0277 こゝろあてにをらはやをらんはつしもの
おきまとはせるしらきくのはな」(55ウ)
是貞みこの家の哥合哥
よみ人しらす
0278 いろかはるあきのきくをはひとゝせに
ふたゝひにほふ花とこそみれ
仁和寺にきくのはなめしける時
にうたそへてたてまつれとおほせ
られけれはよみてたてまつりける
平貞文
【平貞文】-さたふん
0279 あきをおきてときこそありけれきくのはな
うつろふからにいろのまされは
人のいへなりけるきくのはなを」(56オ)
うつしうゑたりけるをよめる
つらゆき
0280 さきそめしやとしかはれはきくの花
いろさへにこそうつろひにけれ
題しらす よみ人しらす
0281 さほやまのはゝそのもみちゝりぬへみ
よるさへみよとてらす月かけ
みやつかへひさしうつかうまつらて山
さとにこもり侍けるによめる
藤原関雄
【藤原関雄】-参議真夏男(頭注) セキヲ 治部少輔五位」(56ウ)
0282 おくやまのいはかきもみちゝりぬへし
てる日のひかりみるときなくて
たいしらす よみ人しらす
0283 たつたかはもみちみたれてなかるめり
わたらはにしきなかやたえなん
このうたはある人奈良のみかとの
御うたなりとなんまうす
【ならのみかと】-文武天皇/なり(頭注)
0284 たつたかはもみちはなかるかみなひの
みむろの山にしくれふるらし
又はあすかゝはもみちはなかる
【又はあすかゝはもみちはなかる】-人丸哥也(頭注)」(57オ)
0285 こひしくはみてもしのはむもみちはを
ふきなちらしそ山おろしの風
0286 あき風にあへすちりぬるもみちはの
ゆくへさためぬわれそかなしき
0287 秋はきぬもみちはやとにふりしきぬ
みちふみわけてとふ人はなし
0288 ふみわけてさらにやとはんもみちはの
ふりかくしてしみちとみなから
0289 あきの月山へさやかにてらせるは
おつるもみちのかすをみよとか」(57ウ)
0290 ふく風のいろのちくさにみえつるは
あきのこのはのちれはなりけり
せきを
【せきを】-関雄
0291 しものたてつゆのぬきこそよわからし
山のにしきのをれはかつちる
雲林院のきのかけにたゝすみて
よみける
僧正遍昭
0292 わひ人のわきてたちよるこのもとは
たのむかけなくもみちゝりけり
二条のきさきの東宮のみやすん」(58オ)
ところと申けるときに御屏風に
たつたかはにもみちなかれたるかたを
かけりけるをたいにてよめる
そせい
0293 もみちはのなかれてとまるみなとには
くれなゐふかきなみやたつらん
なりひらの朝臣
0294 ちはやふる神よもきかすたつたかは
からくれなゐにみつくるゝとは
是貞のみこの家の哥合哥」(58ウ)
としゆきの朝臣
0295 わかきつるかたもしられすくらふやま
きゝのこのはのちるとまかふに
たゝみね
0296 神無ひのみむろのやまをあきゆけは
にしきたちきる心ちこそすれ
きたやまにもみちをらんとてまか
れりけるときによめる
つらゆき
0297 みる人もなくてちりぬるおくやまの
もみちはよるのにしきなりけり」(59オ)
秋のうた 兼覧王
0298 たつたひめたむくる神のあれはこそ
秋のこのはのぬさとちるらめ
をのといふところにすみ侍ける
ときもみちをみてよめる
つらゆき
0299 あきのやまもみちをぬさとたむくれは
すむわれさへそたひ心ちする
神無ひの山をすきてたつたかはを
わたりけるときにもみちのなかれけ
るをよめる」(59ウ)
清原ふかやふ
【清原ふかやふ】-深養父
0300 神無ひのやまをすきゆく秋なれは
たつたかはにそぬさはたむくる
寛平御時后宮の哥合哥
藤原興風
【藤原興風】-おきかせ
0301 しらなみに秋のこのはのうかへるを
あまのなかせるふねかとそ見る
龍田河のほとりにてよめる
坂上これのり
0302 もみちはのなかれさりせはたつたかは
みつの秋をはたれかしらまし」(60オ)
しかの山こえにてよめる
春道のつらき
【春道のつらき】-列樹
0303 やまかはに風のかけたるしからみは
なかれもあへぬもみちなりけり
いけのほとりにてもみちのちるを
よめる
みつね
0304 風ふけはおつるもみちはみつきよみ
ちらぬかけさへそこにみえつゝ
亭子院御屏風のゑにかはわたら
むとする人のもみちゝるきのもとに」(60ウ)
むまひかへてたてるをよませたま
ひけれはつかうまつりける
0305 たちとまりみてをわたらむもみちはゝ
あめとふるともみつはまさらし
是貞親王の家の哥合哥
忠岑
0306 やまたもる秋のかりいほにおくつゆは
いなおほせとりのなみたなりけり
たいしらす 読人しらす
0307 ほにもいてぬ山たをもるとふちころも」(61オ)
いなはのつゆにぬれぬ日はなし
0308 かれるたにおふるひつちのほにいてぬは
よをいまさらにあきはてぬとか
きたやまに僧正遍昭とたけかり
にまかれりけるによめる
そせいほうし
0309 もみちはゝそてにこきいれてもていてなん
あきはかきりとみん人のため
寛平御時ふるき哥たてまつれと
おほせられけれはたつたかはもみち」(61ウ)
はなかるといふうたをかきてその
おなしこゝろをよめりける
おき風
0310 みやまよりおちくるみつのいろみてそ
あきはかきりとおもひしりぬる
秋のはつるこゝろをたつたかはに
おもひやりてよめる
つらゆき
0311 としことにもみちはなかすたつたかは
みなとやあきのとまりなるらん
なかつきのつこもりの日おほゐにて」(62オ)
よめる
0312 ゆふつくよをくらのやまになくしかの
こゑのうちにや秋はくるらん
おなしつこもりの日よめる
みつね
0313 みちしらはたつねもゆかむもみちはを
ぬさとたむけてあきはいにけり」(62ウ)
古今和哥集巻第六
冬哥
題しらす よみ人しらす
0314 たつたかは(かは=やま)にしきをりかく神無月
しくれのあめをたてぬきにして
ふゆのうたとてよめる
源宗于朝臣
0315 山さとはふゆそさひしさまさりける
人めもくさもかれぬとおもへは」(63オ)
たいしらす よみ人しらす
0316 おほそらの月のひかりしきよけれは
かけみしみつそまつこほりける
0317 ゆふされはころもてさむしみよしのゝ
よしのゝ(よしのゝ=タカキノ)山にみゆきふるらし
0318 いまよりはつきてふらなんわかやとの
すゝきおしなみふれるしらゆき
0319 ふるゆきはかつそけぬらしあしひきの
やまのたきつせおとまさるなり」(63ウ)
0320 このかはにもみちはなかるおくやまの
ゆきけのみつそいまゝさるらし
0321 ふるさとはよしのゝ山しちかけれは
ひと日もみゆきふらぬ日はなし
0322 わかやとはゆきふりしきてみちもなし
ふみわけてとふ人しなけれは
ふゆのうたとてよめる
紀貫之
0323 ゆきふれはふゆこもりせるくさもきも
はるにしられぬ花そさきける」(64オ)
しかの山こえにてよめる
紀あきみね
【紀あきみね】-秋岑
0324 しらゆきのところもわかすふりゆ(ゆ$し)けは
いはほにもさく花とこそみれ
奈良の京にまかれりけるとき
にやとれりけるところにてよめる
坂上是則
【坂上是則】-これのり
0325 みよしのゝ山のしらゆきつもるらし
ふるさとさむくなりまさるなり
寛平御時后宮の哥合哥」(64ウ)
藤原興風
0326 うらちかくふりくるゆきはしらなみの
すゑのまつ山こすかとそみる
壬生忠岑
0327 みよしのゝ山のしらゆきふみわけて
いりにし人のおとつれもせぬ
0328 しらゆきのふりてつもれるやまさとは
すむ人さへやおもひきゆらん
ゆきのふれるをみてよめる
凡河内みつね」(65オ)
0329 ゆきふりて人もかよはぬみちなれや
あとはかもなくおもひきゆらん
ゆきのふりけるをよみける
清原のふかやふ
0330 ふゆなからそらより花のちりくるは
くものあなたは春にやあるらむ
ゆきのきにふりかゝれりけるを
よめる
つらゆき
0331 ふゆこもりおもひかけぬをこのまより」(65ウ)
花とみるまてゆきそふりける
やまとのくにゝまかれりける時に
ゆきのふりけるをみてよめる
坂上これのり
0332 あさほらけありあけの月とみるまてに
よしのゝさとにふれるしらゆき
たいしらす よみ人しらす
0333 けぬかうへにまたもふりしけはるかすみ
たちなはみゆきまれにこそみめ
0334 むめのはなそれともみえすひあかたの」(66オ)
あまきるゆきのなへてふれゝは
このうたある人のいはく柿本の
人丸かうたなり
むめのはなにゆきのふれるをよめる
小野のたかむらの朝臣
0335 花のいろはゆきにましりてみえすとも
かをたにゝほへ人のしるへく
ゆきのうちのむめの花をよめる
きのつらゆき」(66ウ)
0336 むめのかのふりおけるゆきにまかひせは
たれかこと/\わきてをらまし
ゆきのふりけるをみてよめる
きのとものり
0337 ゆきふれはきことに花そさきにける
いつれをむめとわきてをらまし
ものへまかりにける人をまちて
しはすのつこもりによめる
みつね
0338 わかまたぬとしはきぬれとふゆくさの
かれにし人はおとつれもせす」(67オ)
としのはてによめる
在原元方
0339 あらたまのとしのをはりになることに
ゆきもわか身もふりまさりつゝ
寛平御時后宮の哥合哥
よみ人しらす
0340 ゆきふりてとしのくれぬるときにこそ
つゐにもみちぬまつもみえけれ
としのはてによめる
春道つらき
【春道つらき】-列樹」(67ウ)
0341 きのふといひけふとくらしてあすかゝは
なかれてはやき月日なりけり
うたゝてまつれとおほせられし
ときによみてたてまつれる
きのつらゆき
0342 ゆくとしのをしくもあるかなますかゝみ
みるかけさへにくれぬとおもへは」(68オ)
(白紙)」68ウ
古今和哥集巻第七
賀哥
題しらす 読人しらす
0343 わかきみはちよにやちよにさゝれいしの
いはほとなりてこけのむすまて
0344 渡津うみのはまのまさこをかそへつゝ
きみかちとせのありかすにせん
0345 しほのやまさしてのいそにすむちとり
きみかみよをはやちよとそなく」(69オ)
0346 わかよはひきみかやちよにとりそへて
とゝめおきてはおもひいてにせよ
仁和の御時僧正遍昭に七十賀
たまひけるときの御うた
0347 かくしつゝとにもかくにもなからへて
きみかやちよにあふよしもかな
仁和のみかとのみこにおはしまし
けるときに御をはのやそちの賀
にしろかねをつゑにつくれりける
をみてかの御をはにかはりて」(69ウ)
よみける
僧正遍昭
0348 ちはやふる神やきりけんつくからに
ちとせのさかもこえぬへらなり
ほりかはのおほいまうちきみの四十
【ほりかはのおほいまうちきみ】-堀川大臣/昭宣公/貞観十四年/任右大臣/元慶四年/任太政大臣寛平三年正月薨/年五十六(頭注)
の賀九条の家にてしける時
によめる
在原なりひらの朝臣
0349 さくらはなちりかひくもれおいらくの
こむといふなるみちまかふかに
さたときのみこのをはのよそちの
【さたときのみこ】-貞辰親王/清和第七御子(頭注)」(70オ)
賀をおほゐにてしける日よめる
きのこれをか
0350 かめのをのやまのいはねをとめておつる
たきのしらたまちよのかすかも
さたやすのみこのきさいの宮の五
【さたやすのみこ】-貞康親王/清和第四皇/子/二品式部卿/号南宮/母二条后(頭注)
十賀たてまつりける御屏風にさく
らのはなのちるしたに人の花見
たるかたかけるをよめる
藤原興風
0351 いたつらにすくす月日はおもほえて
花みてくらすはるそすくなき」(70ウ)
もとやすのみこの七十賀のうし
【もとやすのみこ】-本康親王/一品式部卿/仁明御子/号八条宮(頭注)
ろの屏風によみてかきける
きのつらゆき
0352 はるくれはやとにまつさくむめのはな
きみかちとせのかさしとそ見る
そせいほうし
0353 いにしへにありきあらすはしらねとも
ちとせのためしきみにはしめむ
0354 ふしておもひおきてかそふるよろつよは
神そしるらんわかきみのため」(71オ)
藤原三善か六十賀によみける
在原しけ春
【在原しけ春】-滋春業平男也
0355 つるかめもちとせのゝちはしらなくに
あかぬこゝろにまかせはてゝむ
このうたはある人在原とき春かと
もいふ
よしみねのつねなりかよそちの
賀にむすめにかはりてよみ侍ける
そせいほうし
0356 よろつよをまつにそきみをいはひつる
ちとせのかけにすまんとおもへは」(71ウ)
ないしのかみの右大将藤原朝臣の
四十賀しける時に四季のゑかける
うしろの屏風にかきたりける哥
0357 かすかのにわかなつみつゝよろつよを
いはふこゝろは神そしるらん
みつね(みつね$)
【みつね】-或本
0358 やまたかみくもゐにみゆるさくらはな
こゝろのゆきてをらぬ日そなき
夏 とものり(とものり$)
0359 めつらしきこゑならなくにほとゝきす」(72オ)
こゝらのとしをあかすもあるかな
秋 みつね(みつね$)
0360 すみよし(よし$ノエ)のまつを秋風ふくこと(こと=カラ)に
こゑうちそふるおきつしらなみ
忠岑(忠岑$)
0361 ちとりなくさほのかはきりたちぬらし
山のこのはもいろまさりゆく
これのり(これのり$)
0362 あきくれといろもかはらぬときはやま
よそのもみちを風そかしける」(72ウ)
冬 つらゆき(つらゆき$)
0363 しらゆきのふりしくときはみよしのゝ
やました風に花そちりける
東宮のむまれたまへりけるときに
まいりてよめる
典侍藤原よるかの朝臣
0364 みねたかきかすかの山にいつる日は
くもるときなくてらすへらなり」(73オ)
(白紙)」73ウ
古今和哥集巻第八
離別哥
題しらす 在原行平朝臣
0365 たちわかれいなはの山のみねにおふる
まつとしきかはいまかへりこむ
読人しらす
0366 すかるなく秋のはきはらあさたちて
たひゆく人をいつとかまたむ
0367 かきりなきくもゐのよそにわかるとも」(74オ)
人をこゝろにおくらさんやは
をのゝちふるかみちのくのすけに
まかりけるときにはゝのよめる
0368 たらちねのおやのまもりとあひそふる
こゝろ許はせきなとゝめそ
さたときのみこの家にて藤原
【藤原きよふ】-清生(頭注)
きよふかあふみのすけにまかり
けるときにむまのはなむけし
けるよゝめる
きのとしさた」(74ウ)
0369 けふわかれあすはあふみとおもへとも
よやふけぬらんそてのつゆけき
こしへまかりける人によみてつかは
しける
0370 かへるやまありとはきけとはるかすみ
たちわかれなはこひしかるへし
人のむまのはなむけにてよめる
きのつらゆき
0371 をしむからこひしきものを白雲の
たちなんのちはなに心ちせん」(75オ)
ともの人(の人=タチ)のくにへまかりけるによめる
在原しけ春
【在原しけ春】-業平男
0372 わかれてはほとをへたつとおもへはや
かつみなからにかねてこひしき
あつまのかたへまかりける人によみ
てつかはしける
いかこのあつゆき
0373 おもへとも身をしわけねはめにみえぬ
こゝろをきみにたくへてそやる
あふさかにて人をわかれけるとき」(75ウ)
によめる
なにはのよろつを
【なにはのよろつを】-万雄
0374 あふさかのせきしまさしきものならは
あかすわかるゝきみをとゝめよ
たいしらす よみ人しらす
0375 からころもたつ日はきかしあさつゆの
おきてしゆけはけぬへきものを
この哥はある人つかさをたうはりて
あたらしきめにつきてとしへて
すみける人をはすてゝたゝあすなん
たつと許いへりけるときにともかうも」(76オ)
いはてよみてつかはしける
ひたちへまかりけるときに藤原の
きみとしによみてつかはしける
寵
【寵】-或本無此名
0376 あさなけにみへきゝみとしたのまねは
おもひたちぬるくさまくらなり
きのむねさたかあつまへまかりけ
るときに人のいへにやとりてあか
つきいてたつとてまかり申しけれ
はをんなのよみていたせりける」(76ウ)
よみ人しらす
0377 えそしらぬよし(よし=イマ)こゝろみよいのちあらは
われやわするゝ人やとはぬと
あひしりて侍ける人のあつまの
かたへまかりけるをおくるとて
よめる
ふかやふ
0378 くもゐにもかよふこゝろのおくれねは
わかると人にみゆはかりなり
とものあつまへまかりけるときに
よめる
よしみねのひてをか」(77オ)
0379 しらくものこなたかなたにたちわかれ
こゝろをぬさとくたくよひ(よひ=タヒ)かな
みちのくにへまかりける人によみ
てつかはしける
つらゆき
0380 しらくものやへにかさなるをちにても
おもはん人にこゝろへたつな
人をわかれけるときによみける
0381 わかれてふことはいろにもあらなくに
こゝろにしみてわひしかるらん」(77ウ)
あひしれりける人のこしのくに
にまかりてとしへて京にまうて
きてまたかへりけるときによめる
凡河内みつね
0382 かへるやまなにそはありてあるかひは
きてもとまらぬなにこそありけれ
こしのくにへまかりける人によみ
てつかはしける
0383 よそにのみこひやわたらんしらやまの
ゆきみるへくもあらぬわか身は」(78オ)
おとはの山のほとりにて人をわか
るとてよめる
つらゆき
0384 おとはやまこたかくなきてほとゝきす
きみかわかれをゝしむへらなり
藤原(原+の)ちかけかからものゝつかひに
なか月のつこもりかたにまかりける
にうへのをのこともさけたうひ
けるついてによめる
藤原かねもち
【藤原かねもち】-参議兼茂」(78ウ)
0385 もろともになきてとゝめよきり/\す
あきのわかれはをしくやはあらぬ
平もとのり
【平もとのり】-蔵人右衛門尉元規
0386 あききりのともにたちいてゝわかれなは
はれぬおもひにこひやわたらん
源のさねかつくしへゆあみんとて
まかりけるときにさきにて
わかれをしみけるところにてよめる
しろめ
0387 いのちたにこゝろにかなふものならは
なにかわかれのかなしからまし」(79オ)
やまさきより神無ひのもりまて
おくりに人々まかりてかへりかてに
してわかれをしみけるによめる
源さね
【源さね】-右近少将実
0388 人やりのみちならなくにおほかたは
いきうしといひていさかへりなん
いまはこれよりかへりねとさねか
いひけるをりによみける
かねもち
【かねもち】-兼茂
0389 したはれてきにしこゝろの身にしあれは
かへるさまにはみちもしられす」(79ウ)
藤原これをかゝむさしのすけに
まかりけるときにおくりにあふさ
かをこゆとてよみける
つらゆき
0390 かつこえてわかれもゆくかあふさかは
人たのめなるなにこそありけれ
おほえのちふるかこしへまかりける
むまのはなむけによめる
藤原かねすけ朝臣
0391 きみかゆくこしのしら山しらねとも」(80オ)
ゆきのまに/\あとはたつねん
人の花やまにまうてきてゆふさ
りつかたかへりなんとしけるときに
よめる
僧正遍昭
0392 ゆふくれのまかきはやまとみえなゝむ
よるはこえしとやとりとるへく
やまに(やまに=ヒエニ)のほりてかへりまうてき
て人々わかれけるついてによめる
幽仙律師
【幽仙律師】-イウセン」(80ウ)
0393 わかれをは山のさくらにまかせてん
とめんとめしは花のまに/\
雲林院のみこの舎利会に山に
のほりてかへりけるにさくらの花
のもとにてよめる
僧正遍昭
0394 山風にさくらふきまきみたれなん
はなのまきれにたちとまるへく
幽仙
0395 ことならはきみとまるへくにほはなむ」(81オ)
かへすは花のうきにやはあらぬ
仁和のみかとみこにおはしまし
けるときにふるのたき御らんし
におはしましてかへりたまひけ
るによめる
兼芸法し
【兼芸法し】-ケムケイ
0396 あかすしてわかるゝなみたゝきにそふ
みつまさるとやしもはみゆらん
かむなりのつほにめしたりける日
おほみきなとたうへてあめのいた」(81ウ)
うふりけれはゆふさりまて侍て
まかりいてけるをりにさかつきを
とりて
つらゆき
0397 あきはきの花をはあめにぬらせとも
きみをはましてをしとこそおもへ
とよめりける返し
兼覧王
0398 をしむらん人のこゝろをしらぬまに
あきのしくれと身そふりにける
かねみのおほきみにはしめて」(82オ)
ものかたりしてわかれける時
によめる
みつね
0399 わかるれとうれしくもあるかこよひより
あひ(ひ+ミ)ぬさきになにをこひまし
たいしらす 読人しらす
0400 あかすしてわかるゝそてのしらたまを
きみかゝたみとつゝみてそゆく
0401 かきりなくおもふなみたにそほちぬる
そてはかはかしあはん日まてに」(82ウ)
0402 かきくらしことはふらなんはるさめに
ぬれきぬきせてきみをとゝめむ
0403 しひてゆく人をとゝめむさくらはな
いつれをみちとまとふまてちれ
志賀の山こえにていしゐのもと
にてものいひける人のわかれけるを
りによめる
つらゆき
0404 むすふてのしつくにゝこる山の井の
あかても人にわかれぬるかな」(83オ)
みちにあへりける人のくるまに
ものをいひつきてわかれけるとこ
ろにてよめる
きのとものり
0405 したのおひのみちはかた/\わかるとも
ゆきめくりてもあはんとそおもふ」(83ウ)
古今和哥集巻第九
羈旅哥
もろこしにて月をみてよみける
あへの仲麿
【あへの仲麿】-なかまろ
0406 あまのはらふりさけみれはかすかなる
みかさのやまにいてし月かも
このうたはむかし仲丸をもろこし
にものならはしにつかはしたりけるに
あまたのとしをへてえかへりまうて」(84オ)
こさりけるをこのくによりまたつかひ
まかりいたりけるにたくひてまうて
きなんとていてたちけるに明
【明州】-メイシウ
州といふところのうみへにてかの
くにの人むまのはなむけしけり
よるになりて月のいとおもしろ
くさしいてたりけるをみてよめ
るとなんかたりつたふる
おきのくにゝなかされけるときに
ふねにのりていてたつとて京なる」(84ウ)
人のもとにつかはしける
小野たかむら
【小野たかむら】-篁
0407 わたのはらやそしまかけてこきいてぬと
人にはつけよあまのつりふね
たいしらす よみ人しらす
0408 みやこいてゝけふみかのはらいつみかは
かは風さむしころもかせやま
0409 ほの/\とあかしのうらのあさきりに
しまかくれゆくふねをしそおもふ
このうたはある人のいはくかきの」(85オ)
もとの人まろかうたなり
あつまのかたへともとする人ひとり
ふたりいさなひていきけりみかはの
くにやつはしといふところにいたれり
けるにそのかはのほとりにかきつは
たいとおもしろくさけりけるを
みてきのかけにおりゐてかきつは
たといふいつもしをくのかしらに
すゑてたひのこゝろをよまんと
てよめる
在原業平朝臣」(85ウ)
0410 からころもきつゝなれにしつましあれは
はる/\きぬるたひをしそおもふ
むさしのくにとしもつふさの
くにとのなかにあるすみたかはの
ほとりにいたりてみやこのいと
こひしうおほえけれはしはし
かはのほとりにおりゐておもひや
れはかきりなくとほくもきにける
かなとおもわひてなかめおるにわた
しもりはやふねにのれ日くれ
ぬといひけれはふねにのりて」(86オ)
わたらんとするにみな人ものかな(かな$ワヒ)
しくて京におもふ人なくしも
あらすさるをりにしろきとりの
はしとあしとあかきかはのほ
とりにあそひけり京にはみえぬ
とりなりけれはみな人みしら
すわたしもりにこれはなにと
りそとゝひけれはこれなんみや
ことりといひけるをきゝてよめる
0411 なにしおはゝいさことゝはんみやことり」(86ウ)
わかおもふ人はありやなしやと
たいしらす よみ人しらす
0412 きたへゆくかりそなくなるつれてこし
かすはたらてそかへるへらなる
このうたはある人をとこをんな
もろともに人のくにへまかりけり
をとこまかりいたりてすなはち
みまかりにけれはをんなひとり
京へかへりけるみちにかへるかりの
なきけるをきゝてよめるとなんいふ」(87オ)
あつまのかたより京へまうてくと
てみちにてよめる
おと
【おと】-壬生のよしなりかむすめ
0413 やまかくすはるのかすみそうらめしき
いつれみやこのさかひなるらん
こしのくにへまかりけるときしら
山をみてよめる
みつね
0414 きえはつるときしなけれはこしちなる
しらやまのなはゆきにそありける」(87ウ)
あつまへまかりけるときみちにて
よめる
きのつらゆき
0415 いとによるものならなくにわかれちの
こゝろほそくもおもほゆるかな
かひのくにへまかりけるときみちに
てよめる
みつね
0416 よをさむみおくはつしもをはらひつゝ
くさのまくらにあまたゝひねぬ
たちまのくにのゆへまかりけるとき」(88オ)
にふたみのうらといふところにと
まりてゆふさりのかれいひたうへけ
るにともにありける人々のうたよみ
けるついてによめる
藤原かねすけ
【藤原かねすけ】-利基男 中納言兼輔
0417 ゆふつくよおほつかなきをたまくしけ
ふたみのうらはあけてこそみめ
これたかのみこのともにかりにまかり
けるときにあまのかはといふところ
のかはのほとりにおりゐてさけなと」(88ウ)
のみけるついてにみこのいひけらく
かりしてあまのかはらにいたるとい
ふこゝろをよみてさかつきはさせと
いひけれはよめる
なりひらの朝臣
0418 かりくらしたなはたつめにやとからん
あまのかはらにわれはきにけり
みこゝのうたをかへす/\よみつゝ
かへしえせすなりにけれはともに
侍りてよめる
きのありつね」(89オ)
0419 ひとゝせにひとたひきますきみまては
やとかす人もあらしとそおもふ
朱雀院の奈良におはしまし
たりけるときにたむけやまにて
よみける
すかはらのあそん
0420 このたひはぬさもとりあへすたむけやま
もみちのにしき神のまに/\
そせいほうし
0421 たむけにはつゝりのそてもきるへきに」(89ウ)
もみちにあける神や
かへさん」(90オ)
古今和哥集巻第十
物名
うくひす 藤原としゆきの朝臣
0422 こゝろから花のしつくにそほちつゝ
うくひすとのみとりのなくらん
ほとゝきす
0423 くへきほとゝきすきぬれやまちわひて
なくなるこゑの人をとよむる」(90ウ)
ひくらし(ひくらし$) つらゆき(つらゆき$)
なま人はみやきひくらしあしひきの(なま人はみやきひくらしあしひきの$)
山の山ひこよひとよむなり(山の山ひこよひとよむなり$)
うつせみ 在原しけ春
0424 なみのうつせみれはたまそみたれたる
ひろはゝそてにはかなからんや
返し 壬生忠岑
0425 たもとよりはなれてたまをつゝまめや
これなんそれとうつせみんかし
うめ よみ人しらす」(91オ)
0426 あなうめにつねなるへくもみえぬかな
こひしかるへきかはにほひつゝ
かにはさくら きのつらゆき
0427 かつけともなみのなかにはさくられて
風ふくことにうきしつむたま
すもゝのはな
0428 いまいくかはるしなけれはうくひすも
ものはなかめておもふへらなり
からもゝのはな
清原ふかやふ」(91ウ)
0429 あふからもゝのはなほこそかなしけれ
わかれんことをかねておもへは
たちはな をのゝしけかけ
0430 あしひきのやまたちはなれゆくゝもの
やとりさためぬよにこそありけれ
をかたまのき
きのとものり
0431 みよしのゝよしのゝたきにうかひいつる
あわをかたまのきゆとみつらん
かちおん(かちおん$)」(92オ)
かけりてもなにをかたまのきてもみん(かけりてもなにをかたまのきてもみん$)
からはほのほとなりにしものを(からはほのほとなりにしものを$)
やまかきのき 読人しらす
0432 あきはきぬ(はきぬ=タチテ)いまやまかきのきり/\す
よな/\なかん風のさむさに
あふひ かつら
0433 かくはかりあふひのまれになる人を
いかゝつらしとおもはさるへき
0434 人めゆへ(へ=ヱ)のちにあふひのはるけくは」(92ウ)
わかつらきにやおもひなされん
くたに 僧正遍昭
0435 ちりぬれはのちはあくたになるはなを
おもひしらすもまとふてふかな
さうひ つらゆき
0436 われはけさうひにそみつる花のいろを
あたなるものといふへかりけり
をみなへし
とものり」(93オ)
0437 しらつゆをたまにぬくとやさゝかにの
花にもはにもいとをみなへし
0438 あさつゆをわけそほちつゝ花みんと
いまそのやまをみなへしりぬる
朱雀院のをみなへしあはせ
のときにをみなへしといふいつ
もしをくのかみに(みに=シラニ)におきてよ
める
つらゆき
0439 をくらやまみねたちならしなくしかの」(93ウ)
へにけんあきをしる人そなき
きちかうのはな
とものり
0440 あきちかうのはなりにけりしらつゆの
おけるくさはもいろかはりゆく
しをに よみ人しらす
0441 ふりはへていさふるさとの花みんと
こしをにほひそうつろひにける
りうたむのはな」(94オ)
とものり
0442 わかやとのはなふみしたくとりうたん
野はなけれはやこゝにしもくる
をはな よみ人しらす
0443 ありとみてたのむそかたきうつせみの
よをはなしとやおもひなしてん
けにこし
やたへのなさね
【やたへのなさね】-矢田部名実
0444 うちつけにこしとや花のいろをみん」(94ウ)
おくしらつゆのそむるはかりを
二条のきさき東宮のみやすん
ところとまうしけるときにめと
にけつりはなさせりけるをよま
せたまひける
ふんやのやすひて
0445 花のきにあらさらめともさきにけり
ふりにしこのみなるときもかな
しのふくさ」(95オ)
きのとしさた
0446 山たかみつねにあらしのふくさとは
にほひもあへす花そちりける
くれのおも(くれのおも$)
つらゆき(つらゆき$)
こしときとこひつゝおれはゆふくれの(こしときとこひつゝおれはゆふくれの$)
おもかけにのみみえわたるかな(おもかけにのみみえわたるかな$)
やまし たひらのあつゆき
0447 ほとゝきすみねのくもにやましりにし
ありとはきけとみるよしもなき」(95ウ)
からはき よみ人しらす
0448 うつせみのからはきことにとゝむれと
たまのゆくゑをみぬそかなしき
かはなくさ
ふかやふ
0449 うはたまのゆめになにかはなくさまん
うつゝにたにもあかぬこゝろを
さかりこけ
よみ人しらす
【よみ人しらす】- 高向 たかんこのとし春
0450 花のいろはたゝひとさかりこけれとも」(96オ)
かへす/\そつゆはそめける
にかたけ しけはる
0451 いのちとてつゆをたのむにかたけれは
ものわひしらになくのへのむし
かはたけ
かけのりのおほきみ
0452 さよふけてなかはたけゆくひさかたの
月ふきかへせあきのやま風
わらひ 真せいほうし」(96ウ)
0453 けふりたちもゆともみえぬくさのはを
たれかわらひとなつけそめけん
さゝ まつ ひは
はせをは
きのめのと
0454 いさゝめにときまつまにそひはへぬる
こゝろはせをは人にみえつゝ
なし なつめ くるみ
兵衛
【兵衛】-たゝふさかもとに侍ける
0455 あちきなしなけきなつめそうきことに」(97オ)
あひくるみをはすてぬものから
たゝふさかもとに侍けるおほえ(たゝふさかもとに侍けるおほえ$)
のたかつねかむすめ(のたかつねかむすめ$)
からことゝいふところにて春の
たちける日よめる
安倍清行朝臣
【安倍清行朝臣】-キヨユキ
0456 なみのおとのけさからことにきこゆるは
はるのしらへやあらたまるらん
おきのゐ(おきのゐ$) みやこしま(みやこしま$)」(97ウ)
おきのゐて身をやくよりもかなしきは(おきのゐて身をやくよりもかなしきは$)
みやこしまのわかれなりけり(みやこしまのわかれなりけり$)
いかゝさき
兼覧王
【兼覧王】-カネミ
0457 かちにあたるなみのしつくをはるなれは
いかゝさきちる花とみさらん
からさき あほのつねみ
【あほのつねみ】-阿保経覧
0458 かのかたにいつからさきにわたりけん
なみちはあとものこらさりけり」(98オ)
い勢
0459 なみのはなおきからさきてちりくめり
みつのはるとは風やなるらん
かみやかは
つらゆき
0460 む(=う)はたまのわかくろかみやかはるらむ
かゝみのかけにふれるしらゆき
よとかは
0461 あしひきの山へにおれはしらくもの
いかにせよとかはるゝときなき」(98ウ)
かたの たゝみね
0462 なつくさのうへはしけれるぬまみつの
ゆくかたのなきわかこゝろかな
かつらのみや
源ほとこす
【源ほとこす】-忠
0463 秋くれと月のかつらのみやはなる
ひかりをはなとちらすはかりを
そめとの(そめとの$) あはた(あはた$)
あやもち(あやもち$)
うきめをはよそめとのみそのかれゆく(うきめをはよそめとのみそのかれゆく$)」(99オ)
くものあはたつ山のふもとに(くものあはたつ山のふもとに$)
このうたはみつのをのみかとの(このうたはみつのをのみかとの$)
そめとのよりあはたにうつりたま(そめとのよりあはたにうつりたま$)
ひけるときによめる
百和香 よみ人しらす
0464 はなことにあかすちらしゝ風なれは
いくそはくわかうしとかはおもふ
すみなかし しけはる
0465 春かすみなかしかよひちなかりせは
あきくるかりはかへらさらまし」(99ウ)
おき火 みやこのよしか
【みやこのよしか】-都良香
0466 なかれいつるかたゝにみえぬなみたかは
おきひんときやそこはしられん
ちまき
おほえのちさと
0467 のちまきのおくれておふるなへなれと
あたにはならぬたのみとそきく
はをはしめるをはてにてなか
めをかけてときのうたよめと」(100オ)
人のいひけれはよみける
僧さうほう
【僧さうほう】-僧聖宝
0468 はなのなかめにあくやとてわけゆけは
こゝろそともにちりぬへら
なる」(100ウ)
(白紙)」101オ
(寛永八暦古筆了佐奥書)」(101ウ)
(寛永八暦古筆了佐奥書)」(102オ)
(白紙)」(102ウ)
(昭和三年奥書)」(103オ)
(白紙)」(103ウ)