2010年3月9日掲載
2010年3月9日更新
初撰本系統「八代集抄」(大東急記念文庫蔵本)
底本:『大東急記念文庫善本叢刊中古中世篇 和歌Ⅳ』(汲古書院 平成17年12月)
八代集抄上春上
ふるとしに春立ける日よめる
在原元方
古今<朱>
0001 \<朱>としのうちにはるはきにけりひとゝせを
/<朱>こそとやいはんことしとやいはむ
立春のこゝろを
壬生忠岑
拾遺<朱>
0002 \\<朱墨>はるたつといふはかりにやみよしのゝ
/<朱>山もかすみてけさはみゆらん
読人不知」(1ウ)
古<朱>
0003 \<朱>春かすみたゝ(ゝ=て)るやいつこみよしのゝ
/<朱>よしのゝやまに雪はふりつゝ
寛平御とき后宮の謌合
源当純
古<朱>
0004 \\<朱墨>谷かせにとくるこほりのひまことに
/<朱>うちいつる浪やはるのはつはな
みこにおはしましけるとき人にわかな
たまはせける御うた
光孝天皇御製
古<朱>
0005 \<朱>君かためはるのゝにいてゝわかなつむ」(2オ)
/<朱>わかころもてに雪はふりつゝ
堀河院百首に歟 権中納言国信
新古<朱>
0006 \<朱>かすかのゝしたもえわたる草のうへに
/<朱>つれなくみゆる春のあはゆき
家謌合に 後京極摂政
新古<朱>
0007 \<朱>そらはなをかすみもやらすかせさえて
/<朱>ゆきけにくもる春のよの月
春のはしめの御哥
二条后御哥
古<朱>
0008 \<朱>雪のうちにはるはきにけりうくひすの」(2ウ)
こほれるなみたいまやとくらん
たいしらす よみ人しらす
古<朱>
0009 \<朱>むめかえにきゐるうくひす春かけて
なけともいまたゆきはふりつゝ
和謌所哥合に
院御製
新<朱>
0010 \<朱>鶯のなけともいまたふるゆきに
すきのはしろきあふさかの山
俊綱朝臣家にて人をたつぬといふ
心を 藤原範永朝臣」(3オ)
後拾<朱>
0011 \<朱>たつねつるやとはかすみにうつもれて
谷のうくひす一声そする
贈太政大臣にあひわかれてのちある
所にてこゑをきゝて
富小路右大臣母
後撰<朱>
0012 \<朱>うくひすのなくなるこゑはむかしにて
わかみひとつのあらすもあるかな
題不知 中納言家持
拾<朱>
0013 \<朱>はるのゝにあさるきゝすのつまこひに
/<朱>おのかありかを人にしれつゝ」(3ウ)
よみ人しらす
拾<朱>
0014 おりつれはそてこそにほへむめのはな
ありとやこゝにうくひすのなく
堀河院百首に
前中納言匡房
千<朱>
0015 \<朱>にほひもてわかはそわかんむめの花
/<朱>それともみえぬはるのよの月
ひさしくまからさりけるところにて
むめの花をおりて
紀貫之」(4オ)
古<朱>
0016 \\<朱墨>人はいさこゝろもしらすふるさとは
/<朱>花そむかしのかにゝほひける
式子内親王
新<朱>
0017 \<朱>なかめつるけふはむかしになりぬとも
のきはのむめはわれをわするな
題不知 西行法之
新<朱>
0018 \\<朱墨>ふりつみしたかねのみゆきとけにけり
/<朱>きよたきかはの水のしら浪
志貴皇子」(4ウ)
0019 \\<朱墨>いはそゝくたるひのうへのさはらひの
/<朱>もえいつる春になりにけるかな
千五百番謌合に
宮内卿
新<朱>
0020 \<朱>うすくこきのへのみとりのわか草に
あとまてみゆる雪のむらきえ
堀河院百首に 藤原基俊
千<朱>
0021 \<朱>はるさめのふりそめしよりかたをかの
/<朱>すそのゝはらそあさみとりなる
百首謌よみけるに」(5オ)
殷富門院大輔
新<朱>
0022 \<朱>はるかせのかすみふきとくたえまより
みたれてなひくあをやきのいと
千五百番哥合に
藤原雅経朝臣
新<朱>
0023 \<朱>白雲のたえまになひくあをやきの
/<朱>かつらき山にはるかせそふく
題不知 能因法之
後<朱>
0024 \<朱>心あらん人にみせはやつのくにの
/<朱>なにはのうらの春のけしきを」(5ウ)
不明不暗朧々月といふこゝろを
大江千里
後<朱>新<墨>
0025 \<朱>てもせすくもりもはてぬ春のよの
/<朱>おほろ月よにしくものそなき
後京極摂政家百首謌合に
寂蓮法師
新<朱>
0026 \<朱>いまはとてたのむのかりもうちわひぬ
/<朱>おほろ月よのあけほのゝそら
帰雁を 皇太后宮大夫俊成
新<朱>
0027 \<朱>きく人そなみたはおつるかへるかり」(6オ)
/<朱>なきてゆくなるあけほのゝそら
春謌下
僧正遍昭
撰<朱>
0028 \<朱>いそのかみふるのやまへのさくらはな
/<朱>うへけんときをしる人そなき
貫之
古<朱>春上<墨>
0029 \\<朱墨>さくらはなさきにけらしもあしひきの」(6ウ)
/<朱>山のかひよりみゆるしら雲
高(+陽)院家哥合に
源俊頼朝臣
金<朱>
0030 \\<朱墨>やまさくらさきそめしよりひさかたの
/<朱>雲井にみゆるたきのしらいと
前中納言匡房
詞花<朱>
0031 \<朱>しら雲とみゆるにしるしみよしのゝ
/<朱>よしのゝやまの花さかりかも
崇徳院に百首謌たてまつりけるに
左京大夫顕輔」(7オ)
千<朱>
0032 \<朱>かつらきやたかまのやまのさくら花
/<朱>雲井のよそにみてやすきなん
後二条関白家にて望山花といふことを
前中納言匡房
後<朱>
0033 \\<朱墨>たかさこのおのへのさくらさきにけり
/<朱>とやまのかすみたゝすもあらなん
釈阿和哥所にて九十賀たまは
せける時屏風に 院御製
新<朱>
0034 \\<朱墨>さくらさくとをやまとりのしたりおの」(7ウ)
/<朱>なか/\しひもあかぬいろかな
はなのうたとてよめる 西行法師
千<朱>
0035 \\<朱墨>をしなへて花のさかりになりにけり
/<朱>山のはことにかゝるしらくも 皇太后宮大夫俊成
千<朱>
0036 \<朱>みよしのゝはなのさかりをけふみれは
/<朱>こしのしらねにはるかせそふく
崇徳院百首哥たてまつりける時 藤原清輔朝臣」(8オ)
千<朱>
0037 \<朱>神かきのみむろのやまははる来てそ
はなのしらゆふかけて見えける
故郷花といへるこゝろを よみ人しらす
千<朱>
0038 \<朱>さゝなみやしかのみやこはあれにしを
/<朱>むかしなからの山さくらかな
雲林院のみこのもとにきたやまに
花みにまかりて 素性法師
古<朱>
0039 \\<朱墨>いさけふははるのやまへにましりなん」(8ウ)
/<朱>くれなはなけの花のかけかは
題不知 よみ人しらす
拾
0040 \\<朱墨>さくらかりあめはふりきぬおなしくは
/<朱>ぬるともはなのかけにかくれん
百首哥に 式子内親王
新
0041 \\<朱墨>はかなくてすきにしかたをかそふれは
/<朱>花にものおもふはるそへにける
題不知 小野小町
古<朱>春下<墨>
0042 \\<朱墨>花のいろはうつりにけりないたつらに
わか身よにふるなかめせしまに」(9オ)
よみ人しらす
古<朱>春下<墨>
0043 \<朱>はることにはなのさかりはありなめと
/<朱>あひみむことはいのちなりけり 赤人
新<朱>
0044 \<朱>春さめはいたくなふりそ桜花
/<朱>またみぬ人にちらまくもおし
後京極摂政家にて 皇太后宮大夫俊成
新<朱>
0045 \\<朱墨>またやみんかたのゝみのゝさくらかり
/<朱>はなのゆきちる春のあけほの」(9ウ)
僧正遍昭におくりける 惟喬親王
古<朱>
0046 \<朱>さくら花ちらはちらなむちらすとて
/<朱>ふるさと人のきてもみなくに
花のちるをみて 紀友則
古<朱>春下<墨>
0047 \<朱>ひさかたのひかりのとけき春のひに
/<朱>しつこゝろなく花のちるらむ
五十首哥たてまつりけるに 宮内卿」(10オ)
新<朱>
0048 \<朱>はなさそふひらのやまかせふきにけり
こきゆく舟のあとみゆるまて
新<朱>
0049 \<朱>あふ坂やこすゑのはなをふくからに
/<朱>あらしそかすむせきのすきむら
百首哥たてまつ 二条院讃岐
新<朱>
0050 \<朱>山たかみ峯のあらしにちるはなの
/<朱>月にあまきるあけかたのそら
千五百番歌合に 参議定家」(10ウ)
新<朱>
0051 \<墨>さくらいろのにはのはる風あともなし
/<朱>とはゝそ人のゆきとたにみむ
題不知 大納言経信
新<朱>
0052 \<朱>やまふかみすきのむらたち見えぬまて
/<朱>おのへのかせにはなのちるかな 左京大夫顕輔
新<朱>
0053 \<朱>ふもとまておのへのさくらちりこすは
たなひく雲とみてやすきまし 西行法師
新<朱>
0054 \<朱>なかむとて花にもいたくなれぬれは」(11オ)
ちるわかれこそかなしかりけれ
残花のこゝろを 後京極摂政
新<朱>
0055 \<墨>よしのやま花のふるさとあとたえて
/<黒>むなしきえたに春風そふく
堀河院百首 中納言国信
新<朱>
0056 \<朱>こよひねてつみてかへらんすみれ咲
/<朱>をのゝしはふは露しけくとも
題不知 貫之
古<朱>
0057 \<朱>よしのかはきしのやまふき吹風に」(11ウ)
そこのかけさへうつろひにけり
原見王
新<朱>
0058 \<朱>かはつれく神なひかはにかけみえて
/<朱>いまやさくらんやまふきの花
寂蓮法師
新<朱>
0059 \<朱>くれてゆくはるのみなとはしらねとも
/<朱>かすみにおつる宇治のしは舟
題しらす よみ人しらす
拾<朱>
0060 はるかすみ立別ゆくやまみちには
花こそぬさとちりまかひけれ」(11オ)
三月尽の心を 貫之
拾<朱>
0061 \<朱>かせふけはかたもさためすちる花を
いつかたへ行はるとかはみむ 躬恒
古<朱>
0062 \<朱>けふのみとはるをおもはぬときたにも
たつことやすき花のかけかは
百首哥たてまつりけるとき 後京極摂政
新<朱>
0063 \\<朱墨>明日よりはしかの花そのまれにたに
たれかはとはんはるのふるさと」(12ウ)
やよひのつこもり雨ふりける日にふちの
花をおりて 業平朝臣
古<朱>
0064 \<朱>ぬれつゝそしゐておりつる年のうちに
/<朱>はるはいく日もあらしとおもへは
崇徳院御製
千<朱>
0065 \<朱>花はねに鳥はふる巣にかへるなり
はるのとまりをしる人そなき
三月尽皇太后宮大夫俊成のもとにつかはしける
法印静賢」(13オ)
千<朱>
0066 \<墨>花はみなよものあらしにさそはれて
/<朱>ひとりやはるのけふはゆくらん」(13ウ)
夏
題不知 人麿
古<朱>
0067 \<朱>わかやとのいつみのふち波さきにけり
/<朱>やまほとゝきすいつかきなかん
持統天皇御製
新<朱>
0068 \\<朱墨>はるすきて夏きにけらししろたへの
/<朱>ころもほすてふあまのかく山
読人しらす
撰拾<朱>
0069 \<朱>ときわかすふれるゆきかと見るまてに
かきねもたはにさける卯花」(14オ)
相模
後<朱>
0070 \\<朱墨>みわたすは波のしからみかけてけり
/<朱>うのはなさけるたまかはのさと 曾禰好忠
新<朱>
0071 \<朱>はなちりしにはのこの葉もしけりあひて
/<朱>あまてる月のかけそまれなる よみ人しらす
撰<朱>
0072 \\<朱墨>ゆきかへるやそうち人のたまかつら
/<朱>かけてそたのむあふひてふなを 大納言経信」(14ウ)
金<朱>
0073 \<朱>たまかしは庭もはひろになりにけり
こやゆふしてゝ神まつるころ 曾禰好忠
後<朱>
0074 \\<朱墨>さかきとるう月になれは神やまの
/<朱>ならのはかしはもとつはもなし
天暦の御時内裏歌合に 平兼盛
拾<朱>
0075 \<朱>みやまいてゝよはにやきつるほとゝきす
/<朱>あかつきかけてこゑのきこゆる
山田早苗といふことを」(15オ)
大納言経信
新<朱>
0076 \<朱>さなへとる山たのかけひもりにけり
ひくしめなはに露そこほるゝ
和哥所にて入道皇太后宮大夫俊成九
十賀給はせける屏風に 後京極摂政
新<朱>
0077 \<朱>をやまたにひくしめなはのうちはへて
くちやしぬらんさみたれのころ
題不知 延喜御製
拾<朱>
0078 \<朱>あしひきの山ほとゝきすけふとてや」(15ウ)
/<朱>あやめのくさのねにたてゝなく
五十首歌人/\によけを
のうたとてよみ侍ける
後京極摂政
新<朱>
0079 \<朱>うちしめりあやめそかほるほとゝきす
/<朱>なくや五月のあめのゆふくれ
よみ人しらす
拾<朱>
0080 \<朱>ほとゝきすなくや五月のみしかよも
/<朱>ひとりしぬれはあかしかねつも
祭主輔親」(16オ)
拾<朱>
0081 あしひきのやまほとゝきすさとなれて
たそかれ時になのりすらしも
雨中木といふこゝろを 基俊
新<朱>
0082 \<墨>たまかしはしけりにけりな五月雨に
/<朱>はもりの神のしめはふるまて
宇治関白太政大臣家哥合に 相模
後<朱>
0083 \<朱>さみたれはみつのみまきのまこも草
/<朱>かりほすひまもあらしとそ思」(16ウ)
はなたち花をよめる
後<朱>
0084 \<朱>五月雨のそらなつかしくにほふかな
はなたち花はかをやかくらん
百首の哥めしけるに 崇徳院御製
千<朱>
0085 \<朱>さみたれにはなたち花のにほふよは
月すむあきもさもあらはあれ
中納言俊忠家歌合に 顕仲朝臣
金<朱>
0086 \<朱>五月雨に水まさるらしさわた河」(17オ)
まきのつきはしうきぬはかりに
崇徳院百首に 皇太后宮大夫俊成
千<朱>
0087 \\<朱墨>さみたれはたくものけふりうちしめり
/<朱>しほたれまさるすまのうら人
題しらす 参議定家
新<朱>
0088 \<朱>たまほこのみちゆき人のことつても
/<朱>たえてほとふるさみたれのそら
夏歌とて 前大僧正慈円
新<朱>
0089 \<朱>うかひ舟あはれとそみるものゝふの
/<朱>やそうちのゆふやみのそら」(17ウ)
題不知 源重之
後<朱>
0090 \\<朱墨>なつかりのたま江のあしをふみしたき
/<朱>むれゐる鳥のたつそらそなき 貫之
古<朱>
0091 \\<朱墨>なつのよの臥かとすれは郭公
/<朱>なく一声にあくるしのゝめ 読人しらす
撰<朱>
0092 \\<朱墨>たひねしてつまこひすらし郭公
神なひやまにさよふけてなく 俊頼朝臣」(18オ)
金<朱>
0093 \<墨>このさとも夕立しけりあさちふに
つゆのすからぬ草のはもなし
金<朱>
0094 \<朱>かを吹ははすのうき葉に玉こえて
すゝしくなりぬひくらしのこゑ 僧正遍昭
古<朱>
0095 \<朱>はすのはのにこりにしまぬ心もて
/<朱>なにかはつゆをたまとあさむく 基俊
金<朱>
0096 \<朱>なつのよの月まつほとのてすさみに」(18ウ)
/<朱>いはもるしみついくむすひしつ
納涼のこゝろを 源頼綱朝臣
後<朱>
0097 \<朱>なつやまのならのはそよくゆふくれは
ことしも秋のこゝちこそすれ 清輔朝臣
新<朱>
0098 \\<朱墨>をのつからすゝしくもあるか夏ころも
/<朱>ひも夕立のあめのなこりに 西行法師
新<朱>
0099 \\<朱墨>よられつるのもせの草のかけろひて
すゝしくゝもる夕立のそら」(19オ)
新<朱>
0100 \\<朱墨>みちのへにしみつなかるゝやなきかけ
/<朱>しはしとてこそたちとまりつれ
夏夜深養父か琴ひきけるをきゝて 中納言兼輔
撰<朱>
0101 \<朱>みしかよのふけゆくまゝにたかさこの
みねの松風ふくかとそきく
千五百哥たてまつりけるに 後京極摂政
新<朱>
0102 \<朱>あきちかきけしきのもりになく蝉の
なみたの露やしたはそむらん」(19ウ)
題しらす 忠岑
新<朱>
0103 なつはつる扇と秋のしらつゆと
いつれかまつはをかんとすらん
崇徳院百首に 皇太后宮大夫俊成
千<朱>
0104 いつとてもをしくやはあらぬとし月を
みそきに捨つる夏のくれかな 躬恒
古<朱>
0105 なつと秋とゆきかふそらのかよひちは
かたへすゝしきかせやふくらん」(20オ)
秋上
あきたつ日よめる 藤原敏行朝臣
古<朱>秋上<墨>
0106 \<朱>あきゝぬとめにはさやかに見えねとも
/<朱>かせのをとにそおとろかれぬる
貫之
古<朱>秋上<墨>
0107 かはかせのすゝしくもあるかうちよする
浪とゝもにや秋はたつらん
題不知 読人しらす
古<朱>
0108 \<朱>きのふこそさなへとりしかいつのまに」(20ウ)
いなはそよきて秋かせのふく 家隆朝臣
新<朱>
0109 \<朱>きのふたにとはんとおもひしつのくにの
/<朱>こゝろしてはけ秋秋のはつかを 安貴王
拾<朱>
0110 \\<朱墨>秋立ていくかもあらねとこのねぬる
/<朱>あさけのかせはたもとすゝしも」(21オ)
恵慶法師
拾<朱>
0111 やへむくらさしこもりにしよもきふにいかてか秋のわきてきつらん
題しらす 寂然法師
同
0112 \/<朱黄>秋は来ぬ年も半に過ぬとや荻ふくかせのおとろかすらん
大蔵卿行宗
同
0113 物ことに秋のけしきはしるけれと先身にしむは荻のうはかせ
崇徳院に百首歌奉ける時秋の歌
皇太后宮大夫俊成
千<朱>
0114 \\<朱墨>荻の葉もちきりありてや秋かせの音信そむる妻と成らん
贈左大臣 長実」(21ウ)
金<朱>
0115 \<朱>まく葛はふあたのおほのゝ白露を
/<朱>ふきなはらひそ荻のはつかせ 西行法師
新<朱>
0116 おしなへてものをおもはぬ人にたに
こゝろをつくる秋のはつかせ
新<朱>
0117 \<朱>あはれいかに草葉のつゆのこほるらん
/<朱>秋かせたちぬみやきのゝのはら
読人しらす
古<朱>秋上<墨>
0118 あきかせのはゆきにしひよりひはかたの
なまのかはらにたゝぬひはなし好忠」(22オ)
寛平御時后宮哥合に 躬恒
古<朱>秋上<墨>
0119 \<朱>たなはたにかしつるいとのうちはへて
/<朱>としのをなかくこひやわたらん
七夕のこゝろを 読人しらす
撰<朱>秋上<墨>
0120 \<朱>たなはたのあまのとわたるけふさへや
/<朱>おちかた人のつれなかるらん 皇太后宮大夫俊成
新古<朱>秋上<墨>
0121 \<朱>織なはたのとわたる舟のかちのはに」(22ウ)
/<朱>いくあきかきつ露のたまつさ
百首歌に 式子内親王
新<朱>
0122 \<朱>なかむれはころもてすゝし久方の
あまのかはらの秋の夕霧 大納言隆季
新<朱>
0123 たなはたのあまつひれふく秋風に
やそのふねつをみふねいてらし 俊頼朝臣
千<朱>
0124 \<朱>たれはたのあまのかはらのいはさくら
/<朱>かはしもはてすあけぬこのよは」(23オ)
女御
千<朱>
0125 \<朱>わくらはにあまのかは浪よるなから
/<朱>あくるそらにはまかせすもかな
百首歌たてまつりける時 式子内親王
新<朱>
0126 \<朱>なかめわひぬ秋よりほかのやともかな
/<朱>野にも山にも月やすむらん
題しらす 千里
古<朱>秋上<墨>
0127 \\<朱墨>月みれはちゝにものこそかなしけれ
/<朱>わかみひとつの秋にはあらねと」(23ウ)
忠岑
古<朱>秋上<墨>
0128 \<朱>ひさかたの月のかつらも秋はなを
/<朱>もみちすれはやてりまさるらん
五十首歌たてまつりしに 後京極摂政
新<朱>
0129 \\<朱墨>ふるさとのもとあらのしはきさきしより
/<朱>よな/\にはの月そうつろふ
権中納言俊忠かつらの家にて水上月
といふ心を 俊頼朝臣」(24オ)
千<朱>
0130 \\<朱墨>あすもこんのちのたまかは萩こえて
いろなる波に月やとりけり
秋歌中に 家隆朝臣
新<朱>
0131 \<墨>月たにもなくさめかたき秋のよの
心もしらぬまつのかせかな
五首哥たてさつわし 時後京極摂政
新<朱>
0132 \\<朱墨>なかめつゝおもふもさひしひさかたの
/<朱>月のみやこのあけかたのそら
秋歌中に 院御製」(24ウ)
新<朱>
0133 \\<朱墨>あきの露やたもとにいたくむすふらん
なかきよあかすやとる月かけ
家歌合に暁月の心を 二条院讃岐
新<朱>
0134 \<朱>おほかたに秋のねさめのつゆけくは
またたかそてもありあけの月
堀河院百首に 俊頼朝臣
千<朱>
0135 \\<朱墨>こからしの雪ふきはらふたかねより
/<朱>さえても月のすみのほるかな
崇徳院百首に 顕輔心」(25オ)
新<朱>
0136 \\<朱墨>あきかせにたなひく雲のたに間より
/<朱>もれいつる月のかけのさやけさ
俊頼朝臣
千<朱>
0137 \\<朱墨>てる月のたひねのとこやしもとゆふ
/<朱>かつらき山の谷かはのみつ
題不知 よみ人しらす
古<朱>秋上<墨>
0138 \<朱>なきわたるかりのなみたやおちつらん
/<朱>ものおもふやとのはきのうへのつゆ
古<朱>
0139 \\<朱墨>はきか花ちるらんをのゝ露しもに
/<朱>ぬれてをゆかんさよはふくとも」(25ウ)
天智天皇御製
撰<朱>秋中<墨>
0140 \\<朱墨>あきのたのかりほのいほのとまをあらみ
/<朱>わかころもてはつゆにぬれつゝ 中納言家持
新<朱>
\<朱>さをしかのあさたつのへみ秋はきに
/<朱>たまとみるまてをける白露 人麿
拾<朱>
0141 このころのあかつき露にわかやとの
はきかしたはゝいろつきにけり
崇徳院百首に 清輔朝臣」(26オ)
新<朱>
0142 \<朱>うすきりのかきのはなのあさしめり
秋はゆふへとたれかいひけん
堀河院百首に 大納言師頼
千<朱>
0143 \<朱>露しけきあしたのはらのおみなへし
/<朱>ひとえたをらん袖はぬるとも
題不知 よみ人しらす
新<朱>
0144 \<朱>をくらやまふもとのゝへの花すゝき
/<朱>ほのかに見ゆる秋の夕暮
百首哥に 式子内親王
新<朱>
0145 \<朱>花すゝきまたつゆふかしほにいてゝは」(26ウ)
/<朱>なかめしとおもふ秋のさかりを 藤原為頼朝臣
新<朱>
0146 \<朱>おほつかないつこなるらんむしのねを
/<朱>たつねはくさの露やこたれん
家隆朝臣
新<朱>
0147 \\<朱墨>むしのねもなかきよあかぬふるさとに
/<朱>なおおもひそふまつかせそふく 式子内親王
新<朱>
0148 \<朱>あともなきにはのあさちにむすほゝれ
/<朱>つゆのそこなるまつむしのこゑ」(27オ)
菅贈太政大臣
新<朱>
0149 \<朱>くさはには玉とみえつゝわひ人の
/<朱>そてのなみたの秋の夕暮 中納言家持
新<朱>
0150 \<朱>わかやとのおはなかすゑにしらつゆの
/<朱>おきし日よりそあきかせもふく 院御製
新<朱>
0151 \<朱>つゆはそてにものおもふころはさそなをく
かならす秋のならひならねと
新<朱>
0152 \<朱>のはらよりつゆのゆかりをたすねきて」(27ウ)