おわりに
Up date 9.21/96
Maintained by Eiichi Shibuya

おわりに

 平成7年度文部省科学研究費補助金の一般研究(C)に、「藤原定家自筆仮名文字に関するテキストデータベース及び画像データベースの作成研究」と題する研究課題で応募して、初めての応募であったにもかかわらず、幸運にも採択されて助成金を受けた。このような研究題目に対してご理解いただけたことに深く感謝申し上げる次第である。

 さて、それにしては、当初計画予定していたことと実際に研究を実施していく過程で生じた違いに対して、いろいろと思わずにはいられなかった。たとえば、半年前に計画を立て研究に必要な備品や消耗品等について調査し、購入すべきリストに掲載しておいても、その間の情報関連業界のめざましい変化である。価格は変動し次々と新製品が発売されてくる。パソコンのソフトも使ってみないとよく分からないことばかりであった。軌道に乗るまでにたくさんの時間を要してしまった。

 それはさておき、定家自筆仮名文字についてのデータベースを作成する、と最初は安易に考えていたが、実際、定家の自筆本を対象として研究を始めてみると、それらはわが国の真に貴重な古典籍ばかりであり、国宝に指定されていたり、あるいは皇室の御物であったり、あるいはまた貴族の秘庫に長く大切に保管され続けてきたものであったりして、その実物については、容易に目の及ばぬまた手の届かぬ存在のものばかりであったことだ。今さらながら、そうした古典籍の貴重さというものをしみじみと感じさせられた。

 しかし、幸いなことに、定家の書写した古典籍は複製本となって意外と数多く公刊されていることである。そうした資料を利用して、スキャナで取り込むことができた。長い年月のうちにかすれて消えてしまった文字や手垢などによって黒ずんでしまった箇所については、もはやどうにもならない点もあったが、料紙の色については、パソコンで十分に背景処理ができ、その鮮明度は、想像以上に素晴しい出来具合となった。ただ、文字の切り出し作業については、多大な時間を要した。この点が予想外な点であった。

 次に、研究成果の公開についてである。当初、CD-ROMまたはフロッピィディスクと小冊子の両方で公表したいと考えていたが、これについては、現段階においてはさまざまな問題点があり、見送らざるをえなかった。将来を期したいと思う。小誌がこのような『土左日記』だけの文字通り小さな資料集となってしまったのは、実にすべて私の責任からである。『更級日記』に関する基礎的データの公開や、これらのデータに基づいた研究編は改めて別の機会に譲りたいと思う。ご寛容を乞う。

 幸い、平成8年度も「藤原定家自筆仮名文字に関するテキストデータベース及び画像データベースの開発研究」と題する研究課題で、引き続き助成金を受けることができた。望外の幸せである。ここでは、この切り出し作業に経費を大幅に計上した。平成8年度は、主として、定家のオリジナルな家集である『拾遺愚草』上中下巻や歌論集『近代秀歌』等のTEXTデータベースとPICTデータベースを作成し、両者をリンクさせたプログラムの開発というものを目指している。

 最後に、国宝定家本「土左日記」の翻字と掲載について許可をくださった財団法人前田育徳会尊経閣文庫に対して厚くお礼申し上げます。また、研究の遅滞からいろいろとご心配やご迷惑をかけ続けた大学当局に対して深くお詫び申し上げます。

                 研究代表者  高千穂商科大学 教授 渋谷栄一
土左日記
渋谷栄一研究室へ

inserted by FC2 system