「倭歌八代集 上下」(箱書)(2009年7月28日入力 9月2日見直し、10月17日見直し了)
二四代集(内題)
目録
第一 春上
第二 春下
第三 夏
第四 穐上
第五 秋下
第六 冬」(1オ)
第七 賀
第八 哀傷
第九 離別
第拾 羇旅」(1ウ)
(白紙)」(2オ)
(白紙)」(2ウ)
巻第一
春哥上
ふるとしに春たちける日よめる
在原元方
古
0001 \/<朱黄>としのうちに春はきにけりひとゝせをこそとやいはむことしとやいはん
立春のこゝろを みふのたゝみね
拾
0002 春たつといふはかりにやみよしのゝ山もかすみてけさはみゆらん」(3オ)
うた奉つれと仰られけれはイ<朱> 源重之
同 わたるイ<朱>
0003 /<黄>よし野山みねのしら雪いつきえてけさは霞のたちかはるらん
後京極摂政 良経公<青>
新
0004 /<黄>みよし野は山もかすみてしら雪のふりにしさとに春はきにけり
春のはしめのうたイ<青> 院御製 後鳥羽院<青>
同
0005 ほの/\と春こそそらにきにけらしあまのかく山霞たなひく
はるたつ日よめるイ<朱> 凡河内躬恒
撰
0006 /<黄>春たつときゝつるからにかすか山きえあへぬ雪の花とみゆらん」(3ウ)
堀河院に百首歌たてまつりける時立春の哥
権中納言国信
千
0007 みむろ山たにゝや春のたちぬらん雪のした水いはたゝくなり
元日に二条のイ<朱>
むつきのついたち二条のきさいの宮にてしろき
おほうちきをたまはりて
藤原敏行朝臣
撰 ゆきにイ<青>
0008 /<黄>ふる雪のみのしろ衣うちきつゝ春来にけりとおとろかれぬる
たいしらす 曾禰好忠」(4オ)
後 はかりイ<朱>春はイ<青>
0009 みしま江やつのくみわたるあしのねの一夜のほとにはるめきにけり
よみ人しらす
古
0010 /<黄>春かすみたてるやいつこみよしのゝよしのゝ山にゆきはふりつゝ
春哥イ<朱>
崇徳院に百首歌たてまつりけるとき春雪
待賢門院堀河
千
0011 /<黄>ゆき深きいはのかけ道あとたゆるよしのゝ里もはるはきにけり
一条院の御とき殿上人春哥とてこひ侍り
けるに 紫式部」(4ウ)
後
0012 みよし野は春のけしきにかすめともむすほゝれたる雪のしたくさ
寛平の御とききさいの宮のうた合せのうた
源のまさすみ
古
0013 \/<朱黄>たに風にとくる氷りのひまことにうちいつるなみや春の初はな
たいしらす 山辺赤人
新
0014 /<黄>あすからはわかなつまむとしめし野に昨日もけふも雪はふりつゝ
平兼盛
撰
0015 /<黄>けふよりはおきのやけ原かきわけてわかなつみにとたれをさそはん」(5オ)
よみ人しらす
古
0016 /<黄>かすか野のとふひの野もり出てみよ今いくかありてわかなつみてむ
同
0017 み山には松の雪たにきえなくにみやこはのへのわかなつみけり
同
0018 /<黄>あつまちをして春雨けふふりぬあすさへふらはわかなつみてん
仁和のみかとみこにイ<青>
みこにおはしましけるとき人にわかなたまはせ
おまし/\けるイ<朱>
ける御うた
光孝天皇御製
同
0019 \<朱>君かため春の野にいてゝわかなつむわか衣手に雪はふりつゝ
歌たてまつりける時 紀のつらゆき」(5ウ)
同
0020 かすか野のわかなつみにやしろたへの袖ふりはへて人のゆくらん
堀河院に百首うた奉りけるとき
源俊頼朝臣
千 ぬれにけるイ<朱>
0021 春日のゝゆきをわかなにつみそへてけふさへ袖のしほれぬる哉
権中納言国信
新
0022 /<黄>かすかのゝ下もえわたる草のうへにつれなくみゆる春の淡ゆき
春雪のふりけるをよめる
つらゆき」(6オ)
古
0023 /<黄>かすみたちこのめも春のゆきふれは花なき里も花そちりける
家のうた合せに 余寒をイ<朱> 後京極摂政
新
0024 /<黄>そらは猶かすみもやらす風さえて雪けにくもるはるの夜のつき
すとく院に百首うたたてまつりけるに
待賢門院堀川
千
0025 ときはなる松もやはるをしりぬらん初ねをいはふ人にひかれて
春のはしめによめる 藤原言直
古
0026 春やとき花やをそきと聞わかむ鶯たにもなかすも有哉」(6ウ)
二条のきさきの宮のはるのはしめの御うた
同
0027 ゆきのうちに春はきにけり鶯のこほれるなみた今やとくらむ
寛平の御とききさいの宮のうた合に
紀友則
同
0028 /<黄>花のかをかせのたよりにたくへてそ鶯さそふしるへにはやる
百首うたたてまつりけるとき
藤原家隆朝臣
新
0029 たに河のうちいつるなみも声たてつ鶯さそへはるの山かせ」(7オ)
雪の木にふりかゝれるをみて
そせいほふし
古 えイ<朱>
0030 春たては花とや見らんしらゆきのかゝれる枝にうくひすのなく
たいしらす よみ人しらす
同
0031 むめかえにきゐる鶯はるかけてなけともいまた雪はふりつゝ
和哥ところにてをのこともうたつかふまつるつ
ゐてに 関路鶯と云ことをイ<朱> 院御製
新 しイ 関イ
0032 鶯のなけともいまたふる雪に杉のはしろきあふさかの山」(7ウ)
たいしらす よみ人しらす
同
0033 \<朱>むめかえに鳴てうつろふ鶯のはね白たへにあは雪そふる
撰
0034 かきくらし雪はふりつゝしかすかにわか家のそのに鶯そなく
春イニアリ<青>
としつなの朝臣の家にて山家尋人といふこゝ
ろを 藤原範永朝臣
後
0035 /<黄>たつねつるやとはかすみに埋もれて谷のうくひす一こゑそする
贈太政大臣あひわかれてのちにある所にて
こゑをきゝて 富小路右大臣母」(8オ)
撰
0036 鶯のなくなるこゑはむかしにてわかみひとつのあらすもあるかな
題しらすイ よみ人しらす
古
0037 /<黄>もゝちとりさえつる春はものことにあら玉れともわれそふりゆく
中納言家持
萬拾
0038 はるの野にあさるきゝすのつま恋にをのかありかを人にしれつゝ
よみ人しらす
古 をイ<朱>
0039 かすかのはけふはなやきそわかくさのつまもこもれり我もこもれり
中納言広庭」(8ウ)
萬拾少
0040 いにしとしねこしてうへしわかやとのわか木の梅は花さきにけり
大納言扶幹 すけもとイ<朱>
撰
0041 うへし時花みんとしもおもはぬにさきちるみれは齢老にけり
よみ人しらす
同
0042 我せこにみせむとおもひしむめの花それともみえす雪のふれゝは
柿本人麿
古冬拾万
0043 むめのはなそれともみえす久かたのあまきる雪のなへてふれゝは
よみ人しらす」(9オ)
古
0044 おりつれは袖こそにほへむめのはなありとやこゝにうくひすのなく
撰
0045 鶯のなきつるこゑにさそはれて花のもとにそわれはきにける
そせいほふし
古
0046 よそにのみあはれとそみしむめの花あかぬ色かはおりてなりけり
むめのはなをおりて人におくりはへりける
紀友則
同
0047 君ならて誰にかみせむ梅のはないろをもかをも知る人そしる
月夜に人のむめのはなをおらせけれは」(9ウ)
みつね
同
0048 月夜にはそれともみえすむめの花かを尋ねてそしるへかりける
ほり河の院に百首うたたてまつりけるとき
梅のはなの哥とてよめるイ<青> 前中納言匡房
千
0049 にほひもてわかはそわかんむめのはなそれともみえぬ春のよの月
百首うたたてまつりけるとき
藤原家隆朝臣
新
0050 むめかゝにむかしをとへは春のつきこたへぬ影そ袖にうつれる」(10オ)
百首哥めしける時 崇徳院御製
千 よふイ<朱>まふイ<青>
0051 春のよは吹まかふかせのうつりかに木ことに梅とおもひけるかな
たいしらす みつね
古
0052 はるのよのやみはあやなしむめのはないろこそ見えねかやはかくるゝ
ひさしくまからさるところにまかりてむめのはなを
おりて つらゆき
古
0053 \<朱>ひとはいさこゝろもしらすふるさとは花そむかしのかにゝほひける
たいしらす 西行ほふし」(11ウ)
新
0054 とめこかしむめさかりなるわかやとをうときも人は折にこそよれ
式子内親王
同 よイ<青>
0055 なかめつるけふはむかしになりぬとも軒はのむめは我をわするな
八条院高倉
同
0056 ひとりのみなかめてちりぬむめの花しるはかりなる人はとひこて
みつのほとりにむめの花のさきたるを見て
い勢
古
0057 春ことになかるゝ川を花とみておられぬ水に袖やぬれなん」(12オ)
同
0058 としを経て花のかゝみとなる水はちりかゝるをやくもるといふらん
むめのはなを みてイ<青> つらゆき
同
0059 くるとあくとめかれぬ物をむめの花いつの人まにうつろひぬらん
寛平の御とききさいの宮のうた合に
よみ人しらす
同
0060 むめかゝをそてにうつしてとゝめては春は過ともかたみならまし
そせいほふし
同 うつイ<朱>
0061 ちるとみてあるへきものをむめの花うたて匂の袖にとまれる」(12ウ)
むめの花をおりて人につかはしける
権中納言定頼
新
0062 こぬ人によそへてみつる梅の花ちりなん後のなくさめそなき
かへし 大弐三位
同
0063 はることにこゝろをしむる花のえにたか猶さりの袖かふれつる
題しらす 西行ほふし
同
0064 \<朱>ふりつみしたかねのみ雪とけにけり清たき川の水のしらなみ
よみ人しらす」(13オ)
同
0065 いまさらに雪ふらめやもかけろふのもゆる春ひと成にし物を
志貴皇子
同 みのイ<朱>
0066 \<朱>いはそゝくたるひのうへのさわらひのもえ出る春になりにける哉
中納言行平
古
0067 \<朱>はるのきるかすみの衣ぬきをうすみ山かせにこそみたるへらなれ
寛平の御とききさいの宮のうた合に
源宗于朝臣
同
0068 ときはなる松のみとりも春くれはいま一しほの色まさりけり」(14ウ)
うたたてまつりけるとき
つらゆき
同
0069 わかせ子かころもはるさめふることにのへのみとりそ色増りける
千五百番哥合に 宮内卿
新
0070 うすくこき野へのみとりのわかくさに跡まてみゆる雪のむら消
堀河院に百首うたたてまつりけるとき
藤原のもとゝし
千
0071 春さめのふり初しよりかた岡のすそのゝはらそあさみとりなる」(15オ)
寛平の御とききさいの宮のうた合せに
いせ
新
0072 みつのおもにあやをりみたる春雨や山のみとりをなへて染らん
百首うたよみ侍りけるに
殷富門院大輔
同
0073 はるかせのかすみ吹とくたえまよりみたれてなひく青柳の糸
千五百番哥合に 藤原雅経朝臣
同
0074 しら雲のたえまになひく青柳のかつらき山にはる風そふく」(15ウ)
たいしらす 能因法師
後 わたりイ
0075 こゝろあらん人にみせはや津国のなにはのうらの春のけしきを
後京極摂政家百首うたあはせに春曙をよ
み侍りける 藤原家隆朝臣
新
0076 かすみたつすゑの松山ほの/\と浪にはなるゝよこ雲の空
文集嘉陵春夜待不明イ<青>
不明不暗朧々月といふこゝろを
大江千里
同
0077 てりもせすくもりもはてぬ春のよのおほろ月よにしく物そなき」(16オ)
ひと/\春秋のあはれいつれにかこゝろひくと
侍イ<朱>
あらそひけるに 菅原孝標女
新
0078 あさみとり空もひとつにかすみつゝおほろにみゆる春のよの月
百首うたたてまつりけるとき
源具親朝臣
同
0079 /<黄>なにはかたかすまぬなみもかすみけりうつるもくもる朧月よに
後京極摂政家百首うたあはせに
寂蓮法師」(16ウ)
同
0080 /<黄>いまはとてたのむのかりもうちわひぬ朧月よの明ほのゝそら
かへるかりをよみはへりける
皇太后宮大夫俊成
同
0081 /<黄>きく人そなみたはおつるかへるかり鳴てゆくなる明ほのゝそら
俊頼朝臣
千
0082 春来れはたのむのかりもいまはとて帰る雲路に思たつなり
つらゆき
拾 のイ くらさイ
0083 ふるさとのかすみとひ分ゆくかりは旅の空にや春をすくらん」(17オ)
よみ人しらす
新
0084 古さとにかへるかりかねさよふけて雲ちに迷ふ声きこゆなり
赤染衛門
後
0085 かへるかり雲ゐはるかになりぬなり又こん秋も遠しと思ふに
馬内侍
同
0086 とゝまらぬこゝろそ見えんかへるかり花の盛を人にかたるな
百首うたたてまつりけるとき
式子内親王」(17ウ)
新
0087 いまさくらさきぬとみえて薄くもりはるにかすめる世のけしき哉
たいしらす よみ人しらす
同
0088 ふしておもひおきてなかむる春雨に花のしたひもいかにとくらん
中納言家持
同
0089 ゆかむ人こむひとしのへ春かすみ立たの山のはつさくら花
西行法師
同
0090 よし野山こそのしをりの道かへてまたみぬかたの花を尋ん
紀貫之」(18オ)
同
0091 わかこゝろはるの山へにあくかれてなか/\し日をけふもくらしつ
大和のふるの山を帰るとてイ<朱> 僧正遍昭
撰 春をイ<青>
0092 いそのかみふるの山へのさくらはなうへけん時をしる人そなき
花山にて道俗さけたうへける折にイ<青> 素性法師
同
0093 山もりはいはゝいはなんたかさこのおのへのさくら折てかさゝむ」(18ウ)
(白紙)」(19オ)
(白紙)」(19ウ)
巻第弐
春哥下
歌たてまつりけるとき 紀貫之
古 もイ
0094 \/<朱黄>さくら花さきにけらしなあし引の山のかひよりみゆるしらくも
宇治前太政大臣家イ<青>
高陽院家哥合に 源俊頼朝臣
金
0095 \/<朱黄>山さくらさきそめしより久かたの雲ゐにみゆるたきのしらいと
前中納言匡房」(20オ)
詞
0096 しら雲とみゆるにしるしみよし野のよしのゝ山の花さかりかも
崇徳院に百首うたたてまつりけるとき
左京大夫顕輔
千
0097 /<黄>かつらきやたかまのやまのさくらはな雲ゐのよそにみてや過なむ
遥イニアリ<朱>
後二条関白家にて望山花といふこゝろを
前中納言匡房
後
0098 \/<朱黄>たかさこのおのへのさくらさきにけりと山のかすみたゝすもあらなん
釈阿に和哥所にて九十の賀たまはせけるとき屏」(20ウ)
風に 院御製
新
0099 \/<朱黄>さくらさくとを山とりのしたりおのなか/\し日もあかぬいろかな
花のうたとてよめる 西行法師
千
0100 \/<朱黄>をしなへてはなのさかりになりにけり山のはことにかゝるしらくも
皇太后宮大夫俊成
同
0101 みよし野の花のさかりをけふみれはこしのしらねにはる風そふく
すとく院に百首うたたてまつりけるとき
藤原清輔朝臣」(21オ)
同
0102 /<黄>神かきのみむろの山ははるきてそ花のしらゆふかけてみえける
故郷花といへる心を よみ人しらす<平忠度朝/臣のうた<青>>
同
0103 さゝなみやしかのみやこはあれにしをむかしなからのやまさくらかな
たいしらす 平城天皇御製
古 さきにイ
0104 ふるさとゝなりにしならのみやこにも色はかはらす花はさきけり
紀友則
同
0105 いろも香もおなしむかしにさくらめととしふる人そあらたまりける
忠仁公」(21ウ)
同
0106 としふれはよはひは老ぬしかはあれと花をしみれは物思ひもなし
あか人
新
0107 \/<朱黄>もゝしきのおほみや人はいとまあれやさくらかさしてけふもくらしつ
なりひらの朝臣
同
0108 花にあかぬなけきはいつもせしかともけふのこよひに似る時はなし
やよひにうるふ月ありけるとしよめる
伊勢
古 するイ<朱>
0109 さくらはなはるくはゝれる年たにもひとのこゝろにあかれやはせぬ」(22オ)
山花をのそむといへるこゝろを
京極関白前太政大臣
新 やまさくらイ<青>
0110 しら雲のたな引く山のさくら花いつれを花とゆきておらまし
祐子内親王家にて花のうたひと/\よみはへりけ
るに 権大納言長家
同
0111 花のいろにあまきるかすみたちまよひそらさへにほふ山さくら哉
たいしらす 良峯宗貞
古
0112 花のいろはかすみにこめてみせすともかをたにぬすめはるのやま風」(22ウ)
よみひとしらす
拾少
0113 あさみとりのへの霞はつゝめともこほれて匂ふ山さくら哉
古
0114 春のいろのいたり至らぬ里はあらしさけるさかさる花のみゆらん
雲林院のみこのもとに花みにきたやま
てイ<朱>
にまかりけるとき そせい法師
同
0115 \<朱>いさけふは春の山へにましりなんくれなはなけの花の陰かは
たいしらす よみ人しらす
拾少
0116 \/<朱黄>さくらかり雨はふりきぬ同しくはぬるとも花のかけにかくれん」(23オ)
そせいほふし
古 いはぬイ<朱>
0117 \<朱>おもふとち春の山へにうちむれてそこともしらぬたひねしてしか
後京極摂政家のうたあはせに野遊のこゝろを
家隆朝臣
新
0118 思ふとちそこともしらす行くれぬはなのやとかせ野へのうくひす
千五百番歌合に 皇太后宮大夫俊成
同
0119 いくとせの春に心はつくしきぬあはれとおもへみよしのゝ花
題しらすイ<青> 能因法師」(23ウ)
後 しとイ<朱> けるイ<朱>
0120 世のなかをおもひすてゝし身なれ共心よはくそ花に見えぬる
百首うたに 式子内親王
新
0121 /<黄>はかなくて過にしかたをかそふれは花に物おもふ春そへにける
たいしらす 小まち
古
0122 \/<朱黄>花のいろはうつりにけりないたつらにわか身世にふるなかめせしまに
よみ人しらす
同 そイ るイ
0123 春ことにはなのさかりは有なめとあひみむことはいのちなりけり
同
0124 はなのこと世のつねならは過してしむかしは又もかへり来なまし」(24オ)
ありはらのもとかた
同
0125 かすみたつはるの山へはとをけれと吹くる風ははなのかそする
そせいほふし
同
0126 いつまてか野へにこゝろのあくかれん花しちらすはちよもへぬへし
よみ人しらす
同
0127 うくひすのなくのへことにきてみれはうつろふ花に風そふきける
同
0128 こまなへていさ見にゆかむふるさとは雪とのみこそ花はちるらめ
<しかの山越にて女のおほく/はへるによみてつかはしけるイ<朱>> つらゆき」(24ウ)
同
0129 あつさゆみ春の山へをこえくれは道もさりあへす花そちりける
同
0130 春のゝにわかなつまむとこし物をちりかふ花に道はまとひぬ
同
0131 やとりして春の山へにねたる夜はゆめのうちにも花そちりける
みつね
新
0132 いもやすくねられさりけり春のよは花のちるのみゆめにみえつゝ
いせ
同
0133 山さくらちりてみゆきにまかひなはいつれか花と春にとはなん
まへにてイ<青>
一条院の御ときやへさくらをたてまつれりけるを」(25オ)
たまはせてうたよめとおほせられけれは
伊勢大輔
詞
0134 いにしへのならのみやこのやへさくらけふこゝのへににほひぬる哉
たいしらす よみ人しらす
新
0135 かすみたつはるの山へにさくら花あかすちるとや鶯のなく
あか人
同
0136 春さめはいたくなふりそさくらはなまたみぬ人にちらまくもおし
有友イ<青>
紀のありとも」(25ウ)
古
0137 さくら色にころもはふかく染てきん花のちりなん後のかたみに
よみ人しらす
拾少 みてイ<朱>
0138 さくら色にわか身はふかく成ぬらんこゝろにしめて花をおしめは
イニナシ<朱>
守覚法親王家五十首うたよませ侍りけるに
家隆朝臣
新 ほとはイ<青>
0139 このもとはしるもしらぬもたまほこのゆきかふ袖は花のかそする
後京極摂政家にて春のうたよみはへりけるに
皇太后宮大夫俊成」(26オ)
同
0140 \/<朱黄>またやみむかたのゝみのゝさくらかり花のゆきちるはるのあけほの
たいしらす 祝部成仲
同 たつたのイ<青>
0141 ちりちらすおほつかなきは春かすみたなひく山のさくらなりけり
よみ人しらす
古
0142 春かすみたなひく山のさくらはなうつろはむとやいろかはり行
同
0143 まてといふにちらてしとまる物ならはなにを桜におもひまさまし
同 はすへしイ<朱>
0144 此さとにたひねしぬへしさくらはなちりのまかひに家路わすれて
同
0145 うつせみの世にも似たるか花さくらさくとみしまにかつちりにけり」(26ウ)
僧正遍昭によみてをくりける 喬イ<朱>
惟高親王
同
0146 さくらはなちらはちらなんちらすとてふる郷人のきてもみなくに
桜花のちるを見てよめる
そせいほふし
同 はイ<青>
0147 花ちらすかせのやとりをたれかしる我にをしへよゆきて恨みむ
ソウグイ<青>
承均ほふし
同
0148 さくらちる花のところは春なからゆきそふりつゝ消かてにする」(27オ)
こゝちわつらひけるとき風にあたらしとておろ
しこめて侍りけるにおれるさくらのちるを見て
因香イ<朱>
藤原のよるかの朝臣
同
0149 たれこめて春のゆくゑもしらぬまに待しさくらもうつろひにけり
すさくいんのさくらのおもしろきよしをきゝて
大将御息所
撰
0150 さきさかす我になつけそさくら花人伝にやはきかむと思ひし
花のちるをみて 友のり」(27ウ)
古
0151 \/<朱黄>ひさかたのひかりのとけき春のひにしつ心なく花のちるらむ
題しらす 藤原興風
同 おほけれとイ<青>
0152 いたつらにすくる月日はおもほえて花みてくらす春そすくなき
藤原好風
同
0153 はるかせは花のあたりをよきてふけ心つからやうつろふとみん
よみ人しらす
同
0154 ふく風にあつらへつくる物ならは此ひともとはよきよといはまし
撰
0155 おほそらにおほふはかりの袖もかな春さく花をかせに任せし」(28オ)
五十首うたたてまつりけるとき
宮内卿
新
0156 花さそふひ良の山かせふきにけりこきゆく舟の跡みゆるまて
同
0157 あふさかやこすゑの花をふくからにあらしそかすむせきの杉むら
百首うたたてまつりけるとき
さぬき
同
0158 山たかみみねのあらしにちるはなの月にあまきる明かたのそら
千五百番うたあはせに」(28ウ)
参議定家
同 庭
0159 /<黄>さくらいろの庭のはるかせあともなしとはゝそ人の雪とたにみむ
花のさかりに久しくとはさりける人のまうて
きてはへりけるに よみ人しらす
古
160
あたなりとなこそたてれさくら花としにまれなる人も待けり
かへし ありひらの朝臣
同
0161 けふ来すはあすはゆきとそふりなまし消すはあり共花とみましや
しのひておほうちのはなを御らんして後京極」(29オ)
摂政のもとにつかはしける
院御製
新 にイ<朱>
0162 けふたにも庭をさかりとうつる花きえすは有とも雪かともみよ
御かへし 後京極摂政
同
0163 さそはれぬ人のためとやのこりけんあすよりさきの花のしらゆき
すけ信かはゝの身まかりてのちかのいゑに
あつたゝの朝臣まかりてはなのちりける木のもとに
侍りけれは よみ人しらす」(29ウ)
撰
0164 いまよりはかせにまかせんさくらはなちるこのもとに君とまりけり
かへし 権中納言敦忠
同
0165 かせにしもなにかまかせむさくら花にほひあかぬにちるはうかりき
すみはへりにける女院にまいりけれはあふこ
とも侍らさりけるまたのとし花の枝につけて
元良親王
同
0166 /<黄>花のいろはむかしなからにみし人のこゝろのみこそうつろひにけれ
月のあかき夜はなを見て」(30オ)
源信明朝臣
同 あはれイ<朱>
0167 /<黄>あたら夜の月とはなとをおなしくはこゝろしれらむ人にみせはや
たいしらす みつね
同
0168 雪とのみふるたにあるをさくら花いかにちれとか風のふくらむ
つらゆきイ<青>
亭子院の哥合のうたイ<青> よみ人しらす
同
0169 さくら花ちりぬるかせのなこりには水なきそらになみそ立ける
大納言経信
新
0170 山ふかみすきのむらたち見えぬまておのへのかせに花のちる哉」(31ウ)
左京大夫顕輔
同
0171 ふもとまておのへのさくらちり来すはたなひく雲とみてや過まし
西行ほふし
同
0172 /<黄>なかむとて花にもいたくなれぬれはちる別こそかなしかりけれ
五十首うたたてまつりしとき
家隆朝臣
同 つねイ<青> 松イ<朱>
0173 さくらはなゆめかうつゝかしら雲のたへてつれなきみねの春風
千五百番うた合に 権大納言良平」(32オ)
同
0174 ちるはなのわすれかたみのみねのくもそをたにのこせはるの山かせ
落花のこゝろを 雅経朝臣
同
0175 花さそふなこりをくもにふきとめてしはしは匂へ春のやまかせ
残春のこゝろを 後京極摂政
同
0176 よしの山はなのふるさとあとたえてむなしき枝にはるかせそふく
百首うたに 式子内親王
同
0177 花はちりそのいろとなくなかむれはむなしき空にはるさめそふる
たいしらす 大納言経信」(32ウ)
同 雲イ
0178 ふるさとのはなのさかりはすきぬれとおもかけさらぬ春の空かな
堀河院に百首うたたてまつりけるに
権中納言国信
千
一夜イ しけくイ<青>
0179 こよひねてつみてかへらんすみれくさをのゝ芝生はつゆふかくとも
たいしらす 貫之
古
0180 よし野川きしの山ふきふく風に底のかけさへうつろひにけり
百首うた奉りしとき 家隆朝臣
新
0181 吉の川きしのやまふきさきにけりみねのさくらはちり果ぬらん」(33オ)
皇太后宮大夫俊成
同 いさイ<朱>
0182 こまとめてなを水かはむ山ふきのはなの露そふ井手のたま河
たいしらす よみ人しらす
古
0183 /<黄>いまもかも咲にほふらんたち花のこしまかさきの山ふきの花
原見王
新 今かイ<青>
0184 かはつなく神なひかはにかけ見えていまやさくらんやま吹の花
家のふちのはなを人のたちとまりてみ侍りけれは
みつね」(33ウ)
古
0185 わかやとにさけるふちなみたちかへり過かてにのみ人のみるらん
五十首うたたてまつりけるとき
寂蓮ほふし
新
0186 /<黄>くれてゆく春のみなとはしらね共かすみにおつるうちの柴ふね
たいしらす よみ人しらす
拾少
0187 春かすみたちわかれ行山みちは花こそぬさとちりまかひけれ
三月尽のこゝろを つらゆき
同少 はなをイ<朱>
0188 かせふけはかたもさためすちる花のいつかたへゆく春とかはみむ」(34オ)
みつね
古
0189 けふのみと春をおもはぬ時たにもたつことやすき花のかけかは
百首うたたてまつりけるとき
後京極摂政
新
0190 \<朱>あすよりはしかの花そのまれにたに誰かはとはむ春のふるさと
けるにイ<朱>
やよひのつこもりの日雨ふりけれは藤のはなをお
りて人につかはしける
なりひらの朝臣」(34ウ)
古
0191 ぬれつゝそしゐて折つるとしのうちに春はいくひもあらしと思へは
百首うためしけるとき
崇徳院御製
千 ひとのイ<青>
0192 花はねに鳥はふる巣にかへるなり春のとまりをしる人そなき
三月尽に皇太后宮大夫俊成のもとにつか
はしける 法印静賢
同
0193 花はみなよものあらしにさそはれてひとりや春のけふはゆくらん
たいしらす なりひらの朝臣」(35オ)
撰 けふのまたイ<朱>
0194 おしめともはるのかきりのけふのひのゆふくれにさへなりにける哉」(35ウ)
(白紙)」(36オ)
(白紙)」(36ウ)
巻第三
夏哥 人まろイ<朱>
たいしらす よみ人しらす
古
0195 /<黄>わかやとのいけのふちなみ咲にけり山時鳥いつか来なかむ
源重之
拾
0196 花の色にそめしたもとのおしけれは衣かへうきけふにもある哉
うつきにさけるさくらをみて」(37オ)
紀俊貞
古
0197 あはれてふことをあまたにやらしとや春にをくれて独さくらん
たいしらす 持統天皇御製
新 万イ<朱> さらせるイ<朱>
0198 \/<朱黄>春すきてなつきにけらし白たへの衣ほすてふ天のかく山
源順
拾少
0199 わかやとのかきねや春をへたつらんなつきにけりとみゆるうの花
よみ人しらす
撰入拾
0200 時わかすふれる雪かとみるまてに垣ねもたはにさけるうのはな」(37ウ)
後
0201 \<朱>みわたせはなみのしからみかけてけりうの花さける玉川のさと
藤原元真
新 ゆきひとイ<青>
0202 なつくさはしけりにけりな玉ほこのみち行人もむすふはかりに
曾禰好忠
同 このまもイ<青>
0203 花ちりし庭のこのはもしけり合てあまてる月のかけそまれ成
よみ人しらす
撰 りイ
0204 ゆきかへるやそうち人のたまかつらかけてそたのむあふひてふなを
大納言経信」(38オ)
金
0205 玉かしは庭もはひろになりにけりこやゆふしてゝ神まつるころ
曾禰好忠
後
0206 \/<朱黄>さか木とるう月になれは神山のならのはかしは本つ葉もなし
よみ人しらす
古
0207 さつきまつやまほとゝきすうちはふきいまも鳴かなんこその古声
同
0208 /<黄>さつき待はなたちはなのかをかけはむかしの人の袖のかそする
同
0209 けさきなきいまたゝひなる時鳥花たちはなにやとはからなん
同
0210 こその夏鳴ふるしてしほとゝきすそれかあらぬか声のかはらぬ」(38ウ)
天暦の御とき内裏うた合に
平兼盛
拾少
0211 み山いてゝ夜半にや来つるほとゝきすあかつきかけて声の聞ゆる
たいしらす みふのたゝみね
古
0212 むかしへやいまもこひしきほとゝきす古郷にしも鳴てきつらん
修理大夫顕季
金 うはのイ<朱>
0213 みやまいてゝまた里なれぬ郭公たひの空なるねをや鳴らん
大納言経信」(39オ)
新
0214 /<黄>さなへとる山たのかけひもりにけりひくしめなはに露そこほるゝ
曾禰好忠
後
0215 みたやもりけふはさ月になりにけりいそけやさなへ老もこそすれ
和哥ところにて入道皇太后宮大夫俊成に九
十賀たまはせける屏風に
後京極摂政
新
0216 /<黄>をやまたにひくしめなはの打はへてくちやしぬらん五月雨のころ
たいしらす 延喜御製」(39ウ)
拾少
0217 あし引の山ほとゝきすけふとてやあやめの草のねにたてゝなく
後京極摂政
新
0218 /<黄>うちしめりあやめそかほるほとゝきすなくやさ月の雨の夕くれ
よみ人しらす
拾少
0219 \<朱>ほとゝきすなくやさ月のみしか夜もひとりしぬれは明しかねつも
祭主輔親
同少
0220 あし引の山ほとゝきす里なれてたそかれときになのりすらしも
よみ人しらす」(40オ)
古
0221 あし曳の山ほとゝきすをりはへて誰かまさるとねをのみそなく
大納言経信
新
0222 /<黄>三島江のいりえのまこも雨ふれはいとゝしほれてかる人もなし
藤原基俊
同
0223 玉かしはしけりにけりなさみたれに葉守の神のしめはふるまて
宇治関白太政大臣家のうた 合せにイ<朱>
相模
後
0224 /<黄>さみたれはみつのみまきのまこもくさかりほす隙もあらしとそ思」(40ウ)
花たち花をよみはへりける
同
0225 さみたれのそらなつかしくにほふ哉花たち花に風やふくらん
百首うためしける時 崇徳院御製
千
0226 さみたれにはなたちはなのかほるよは月すむ秋もさもあらはあれ
たいしらす 左近中将公衡
同
0227 おりしもあれ花たちはなのかほる哉むかしをみつるゆめのまくらに
皇太后宮大夫俊成
新
0028 たれかまた花たちにおもひ出んわれもむかしの人となりなは」(41オ)
中納言俊忠家のうたあはせに五月雨をよめる
藤原顕仲朝臣
金 のイ<朱>
0229 \/<朱黄>さみたれに水まさるらしさはた川槙のつきはしうきぬはかりに
すとく院に百首うたたてまつりけるとき
皇太后宮大夫俊成
千 あまイ
0230 さみたれはたくものけふりうちしめり塩たれまさるすまのうら人
たいしらす 参議定家
新 ころイ
0231 /<黄>たまほこのみち行人のことつてもたえてほとふる五月雨の空」(41ウ)
延喜の御とき月次御屏風に
貫之
拾
0232 なつ山のかけをしけみや玉ほこの道行人もたちとまるらん
拾少 まイ
0233 さつきやみ木のしたやみにともすひは鹿のたちとのしるへなりけり
とてイ
夏のうたの中に 前大僧正慈円
鵜河をよめるイ<青>
新
0234 うかひふねあはれとそみる物のふのやそうち川のゆふやみのそら
題しらすイ<青> 源重之
後
0235 \/<朱黄>なつかりのたまえのあしをふみしたきむれゐる鳥のたつ空そなき」(42オ)
貫之
古
0236 なつのよのふすかとすれはほとゝきすなく一こゑに明るしゝのめ
よみ人しらす
同
0237 ほとゝきすなか鳴さとのあまたあれは猶うとまれぬおもふ物から
同
0238 おもひいつる時はの山のほとゝきすからくれなゐのふり出てそなく
同
0239 声はしてなみたは見えぬほとゝきすわかころもてのひつをからなん
撰
0240 たひねしてつまこひすらしほとゝきす神なひ山にさ夜ふけてなく
宇治前関白太政大臣」(42ウ)
後
0241 あり明の月たにあれやほとゝきすたゝ一こゑのゆくかたもみん
暁聞時鳥といふことをイ<青> 後徳大寺左大臣
千
0242 ほとゝきすなきつるかたをなかむれはたゝあり明の月そのこれる
ほとゝきすのうたとてイ<青> 皇太后宮大夫俊成
同
0243 すきぬるか夜半のねさめのほとゝきす声は枕にある心ちして
題しらすイ<朱> みくにのまち
古 もイ
0244 やよやまて山ほとゝきすことつてん我よの中に住わひぬとよ
大江千里」(43オ)
同
0245 やとりせし花たちはなもかれなくになと時鳥こゑたえぬらん
ことをイ<朱>
閏五月時鳥といふこゝろを
権中納言国信
新
0246 ほとゝきすさ月みなつきわきかねてやすらふ声そ空に聞ゆる
たいしらす よみ人しらす
撰
0247 わかやとのかきねにうへしなてし子は花にさかなんよそへつゝみん
俊頼朝臣
金 もイ にイ もイしイ
0248 /<黄>このさとはゆふたちしけりあさちふの露のすからぬ草のはそなき」(43ウ)
同
0249 かせふけははすのうきはに玉こえて涼しくなりぬひくらしの声
僧正遍昭
古
0250 はちすはのにこりにしまぬこゝろもてなにかは露を玉とあさむく
もとゝし
金
0251 \/<朱黄>なつのよの月まつほとの手すさひに岩もるし水いく結ひしつ
<月のおもしろかりける夜/あかつきかたによめるイ<朱>> 深養父
古 こイ
0252 夏のよはまたよひなから明ぬるを雲のいつくに月やとるらん
題しらすイ<青> 曾禰好忠」(44オ)
後
0253 \/<朱黄>なつころもたつた河原のやなき陰すゝみに来つゝならす比かな
源頼綱朝臣
同
0254 なつ山のならのはそよくゆふくれはことしも秋のこゝちこそすれ
清輔朝臣
新
0255 /<黄>をのつからすゝしくもあるかなつころも日もゆふくれの雨のなこりに
西行法師
同
0256 \/<朱黄>よられつるのもせの草のかけろひて涼しくゝもるゆふたちの空
同
0257 道のへにし水なかるゝやなきのかけしはしとてこそ立とまりつれ」(44ウ)
なつのよふかやふか琴ひくをきゝて
中納言兼輔
撰
0258 /<黄>みしかよのふけゆくまゝに高砂の嶺のまつかせ吹かとそきく
千五百番歌合に 宮内卿
新
0259 かたえさすをふのうらなしはつ秋になりもならすも風そ身にしむ
百首うたたてまつりけるとき
後京極摂政
同
0260 秋ちかきけしきのもりになく蝉の涙のつゆや下葉そむらん」(45オ)
たいしらす みふのたゝみね
同 にイ
0261 なつはつるあふきと秋のしらつゆといつれか先はをかむとすらん
すとく院に百首うた奉りけるとき みなつきの
みそきをよめるイ<青>
皇太后宮大夫俊成
千
0262 いつとてもおしくやはあらぬとし月をみそきにすつる夏の暮哉
みな月のつこもりの日よめるイ<朱> 凡河内躬恒
古
0263 なつと秋とゆきかふ空の通路はかたへすゝしき風やふくらん」(45ウ)
(白紙)」(46オ)
(白紙)」(46ウ)
巻第四
穐哥上
あきたつ日よめる 藤原敏行朝臣
古
0264 /<黄>秋きぬとめにはさやかにみえね共風の音にそおとろかれぬる
かものかはらにまかりてよめるイ<朱> 紀貫之
同
0265 /<黄>川かせのすゝしくもあるか打よする浪とゝもにや秋はたつらん
たいしらす よみ人しらす」(47オ)
同
0266 /<黄>わかせこかころものすそを吹かへしうら珍らしき秋のはつかせ
同 もそよとイ<青>のイ<青>
0267 /<黄>きのふこそさなへとりしかいつのまにいなはそよきて秋風そふく
百首歌めしける時 崇徳院御製
新
0268 いつしかとおきの葉むけのかたよりにそゝや秋とそ風も聞ゆる
はつ秋のこゝろをイ<朱> 藤原季通朝臣
同
0269 このねぬる夜のまに秋はきにけらし朝けの風の昨日にもにぬ
たいしらす よみ人しらす
撰
0270 /<黄>うちつけに物そかなしきこのはちる秋の始をけふそと思へは」(47ウ)
家隆朝臣
新
0271 /<黄>昨日たにとはむと思ひしつのくにのいく田の杜に秋はきにけり
よみ人しらす
古
0272 ひとりぬる床は草はにあらねとも秋くるよひは露けかりけり
安法々師
拾
0273 /<黄>なつころもまたひとへなるうたゝねに心してふけ秋の初かせ
あれたるやとに秋来るといふことをイ<青> 恵慶法師
同
0274 \/<朱黄>やへむくらしけれるやとのさひしきに人こそみえね秋はきにけり」(48オ)
秋たつ日よめるイ<朱>
後
0275 あさちはら玉まく葛のうらかせのうらかなしかる秋はきにけり
題しらすイ<青> 安貴王
拾
276
\<朱>あき立ていくかもあらねと此ねぬるあさけの風は袂すゝしも
藤原為頼朝臣
後
0277 おほかたの秋くるからに身にちかくならす扇のかせそかはれる
百首うたよみ侍りける歌に
式子内親王
新
0278 うたゝねのあさけの袖にかはるなりならす扇の秋の初かせ」(48ウ)
たいしらす 侍従乳母
千
0279 秋たつときゝつるからにわかやとのおきの葉風の吹かはるらん
すとく院に百首うた奉りけるとき秋の
うた 皇太后宮大夫俊成
千 あさちふにイ<朱>
0280 八重むくらさしこもりにしよもきふにいかてか秋のわきてきつらん
たいしらす 寂然法師
同
0281 \/<朱黄>秋はきぬとしもなかはに過ぬとや荻ふく風の驚かすらん
大蔵卿行宗」(49オ)
同
0282 ものことに秋のけしきはしるけれと先みにしむは荻の上風
崇徳院に百首うたたてまつりけるとき
秋のうた 皇太后宮大夫俊成
新
0283 おきの葉もちきりありてや秋風のをとつれ初るつまと成らん
帯露イ<朱>
野草露をよみはへりける
贈左大臣長実
金
0284 まくすはふあたのおほのゝしら露を吹なはらひそ秋のはつかせ
秋のうたとてよめる」(49ウ)
西行法師
新
0285 をしなへて物を思はぬ人にさへこゝろをつくる秋のはつ風
同
0286 /<黄>あはれいかに草葉のつゆのこほるらん秋風たちぬ宮きのゝはら
崇徳院に百首うたたてまつりけるとき
皇太后宮大夫俊成
同
0287 みしふつきうへし山田にひたはへて又袖ぬらす秋はきにけり
たいしらす 大弐三位
同
0288 秋かせは吹むすへともしら露のみたれてをかぬ草のはそなき」(50オ)
曾根好忠
同
0289 あさほらけおきの上はのつゆみれはやゝはたさむしあきの初かせ
こまち
同 うへイ
0290 吹むすふ風はむかしの秋なからありしにも似ぬそての露かな
よみ人しらす
古
0291 秋風のふきにし日よりひさかたのあまのかはらにたゝぬ日はなし
同
0292 ひさかたの天の河原のわたしもり君わたりなはかちかくしてよ
同
0293 あまの川もみちをはしにわたせはや七夕つめの秋をしもまつ」(50ウ)
寛平の御とききさいの宮の哥合のうた
躬恒
同
0294 たなはたにかしつるいとのうちはへてとしの緒長く恋やわたらん
七夕のうたとて 清原元輔
七月七日扇にはられしうす物にをりつけゝるイ<青>
拾雑 きイ<青>
0295 天の川あふよのかせにきり晴てそらすみわたるかさゝきのはし
なぬかの日イ<朱> よみ人しらす
撰 やイ<朱>
0296 たなはたのあまのとわたるけふさへやをちかた人のつれなかるらん
皇太后宮大夫俊成」(51オ)
新
0297 たなはたのとわたるふねのかちのはにいく秋かきつ露の玉つさ
式子内親王
同
0298 なかむれはころもて涼し久かたのあまのかはらの秋の夕くれ
大納言隆季
千
0299 たなはたの天つひれふく秋かせに八十の舟津をみふねいつらし
俊頼朝臣
同
0300 たなはたのあまのかはらのいはまくらかはしも果す明ぬ此よは
百首うためしけるとき」(51ウ)
崇徳院御製
同
0301 たなはたに花染ころもぬきかせはあかつき露のかへすなりけり
七夕のこゝろを 斎宮女御
新
0302 わくらはにあまのかは浪よるなから明る空にはまかせすも哉
たいしらす よみ人しらす
古
0303 /<黄>このまよりもり来る月のかけみれはこゝろつくしの秋はきにけり
上東門院小少将
新
0304 かはらしなしるもしらぬも秋のよの月まつほとの心はかりは」(52オ)
式子内親王
同 月やイ<朱>
0305 /<黄>なかあわひぬあきより外のやとも哉のにも山にも月はすむらん
大江千里
古
0306 \/<朱黄>月みれはちゝに物こそかなしけれわか身一つの秋にはあらねと
壬生忠岑
同
0307 /<黄>ひさかたの月のかつらも秋は猶もみちすれはやてり増るらん
五十首うたたてまつりける時
後京極摂政」(52ウ)
新
0308 /<朱>ふるさとの本あらのこはき咲しより夜な/\庭の月そうつろふ
権中納言俊忠かかつらのいゑにて水上月と
ことをイ<青>
いふこゝろを 俊頼朝臣
千
0309 \/<朱黄>あすもこむのちの玉河はきこえて色なる浪に月やとりけり
秋のうたの中に 家隆朝臣
新
0310 なかめつゝおもふもさひし久かたの月のみやこの明かたのそら
後京極摂政
同
0311 月たにもなくさめかたき秋のよのこゝろもしらぬ松の風哉」(53オ)
たいしらす 院御製
同
0312 \<朱>あきのつゆやたもとにいたく結ふらん長夜あかすやとる月哉
二条院讃岐
同
0313 おほかたの秋のね覚のつゆけくは又たか袖にありあけの月
月のうたあまたよみける中に
法性寺入道前関白太政大臣
千
0314 \<朱>あきの月たかねの雲のあなたにて晴ゆく空の暮る待けり
堀河院に百首うたたてまつりけるとき」(53ウ)
俊頼朝臣
同
0315 \/<朱黄>こからしの雲吹はらふたかねよりさえても月の澄のほるかな
すとく院に百首うたたてまつりけるとき
左京大夫顕輔
新
0316 \<朱>秋かせにたな引くものたえまよりもれ出る月の影のさやけさ
月の哥とてよめる もとゝし
千
0317 山のはにますみのかゝみかけたりとみゆるは月のいつるなりけり
権中納言長方」(54オ)
同
0318 \<朱>やをかゆく浜のまさこを敷かへて玉になしつる秋のよの月
清輔朝臣
同
0319 /<黄>まけにけるわか世の秋そあはれなるかたふく月は又もいてなん
俊頼朝臣
同
0320 \/<朱黄>てる月のたひねのとこやしもとゆふかつらき山のたに河の水
よみ人しらす
古
0321 しら雲にはねうちかはしとふ雁の数さへみゆる秋のよの月
和哥所のうた合せに湖辺月といふこゝろを」(54ウ)
家隆朝臣
新
0322 にほのうみや月の光のうつろへは波の花にも秋はみえけり
たいしらすイ<朱> よみ人しらす
古
0323 あき萩のした葉色つくいまよりやひとりある人のいねかてにする
同
0324 \/<朱黄>鳴わたるかりのなみたやおちつらんもの思ふやとの萩の上の露
同
0325 萩のつゆ玉にぬかんととれはけぬよしみむ人はえたなからみよ
同 へくイ<朱> とをゝにイ<朱>
0326 おりてみは落そしぬへき秋はきの枝もたはゝにをけるしら露
同 夜はふけぬイ<朱>
0327 \<朱>萩かはなちるらんをのゝつゆしもにぬれてをゆかんさよはいふくとも」(55オ)
人まろ
新 野へのイ<朱> さ夜はふくイ<朱>
0328 あき萩のさきちるをのゝ夕つゆにぬれつゝきませ夜は更ぬとも
中納言家持
同 野辺のイ<朱>
0329 さをしかの朝たつをのゝ秋萩に玉とみるまてをけるしろつゆ
範永朝臣
後
0330 けさ来つる野原のつゆに我ぬれぬうつりやしぬる萩か花すり
よみ人しらす
撰 いほのイ<青>
0331 \<朱>秋のたのかりほのやとの匂ふまてさける秋萩みれとあかぬかも」(55ウ)
天智天皇御製
撰
0332 \/<朱黄>あきの田のかりほのいほのとまをあらみわか衣手は露にぬれつゝ
人麿
拾
0333 此ころのあかつきつゆにわかやとの萩のしたはゝ色つきにけり
すとく院に百首うたたてまつりけるとき
清輔朝臣
新
0334 /<黄>うすきりのまかきの花の朝しめり秋はゆふへと誰かいひけん
たいしらす 和泉式部」(56オ)
千 みなイ<朱>
0335 ひともかなみせもきかせも萩か花さく夕かけのひくらしの声
家イ<青>
守覚法親王五十首うたよませけるに
法橋顕昭
新
0336 はきかはなまそてにかけて高まとのおのへの宮にひれふるや誰
をみなへし合せにイ<朱>
亭子院の女郎花うた合せに
三条右大臣
古
0337 秋ならてあふことかたきをみなへし天の河原におひぬ物ゆへ
紀貫之」(56ウ)
同 からイ<朱>
0338 たか秋にあらぬ物ゆへをみなへしなそ色にいてゝまたき移ろふ
堀河院に百首うたたてまつりけるとき
大納言師頼
千
0339 露しけきあしたの原のをみなへし一えたをらん袖はぬるとも
たいしらす 貫之
古
0340 やとりせし人のかたみか藤はかまわすられかたきかにゝほひつゝ
素性法師
同
0341 ぬししらぬかこそにほへれ秋のゝにたかぬきかけし藤はかまそも」(57オ)
人麿
新
0342 さをしかのいるのゝすゝきはつお花いつしかいもか手枕にせん
よみ人しらす
同
0343 をくら山ふもとのゝへのはなすゝきほのかにみゆる秋のゆふくれ
うたにイ<朱>
百首うたたてまつりけるとき
式子内親王
同 はイ
0344 /<黄>花すゝきまたつゆふかしほに出てなかめしと思ふ秋のさかりを
寛平の御とききさいの宮のうた合せに」(57ウ)
在原棟梁
古
0345 あきのゝの草のたもとか花すゝきほに出てまねく袖とみゆらん
たいしらす 坂上是則
新
0346 うらかるゝあさちかはらのかるかやのみたれて物をおもふころかな
基俊
同
0347 /<黄>あき風のやゝはたさむく吹なへにおきの上葉のをとそ悲しき
よみ人しらす
古
0348 秋のゝに道もまとひぬ松むしの声する方にやとやからまし」(58オ)
藤原為頼朝臣
拾
0349 /<黄>おほつかないつこなるらんむしのねを尋ねは草の露や乱れん
家隆朝臣
新
0350 \/<朱黄>むしのねもなかき夜あかぬふるさとに猶思ひそふ松風そ吹
式子内親王
同
0351 /<黄>あともなき庭のあさちにむすほゝれつゆの底なる松虫のこゑ
よみ人しらす
古
0352 君しのふくさにやつるゝふるさとは松むしのねそかなしかりける」(58ウ)
同
0353 ひくらしのなきつるなへに日はくれぬと思ふは山の陰にそありける
同
0354 ひくらしのなく山さとのゆふくれは風より外にとふ人もなし
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