倭歌八代集 上下

「倭歌八代集 上下」(箱書)(2009年7月28日入力 9月2日見直し、10月17日見直し了)

 

二四代集(内題

目録

第一 春上

第二 春下

第三 夏

第四 穐上

第五 秋下

第六 冬」(1オ)

 

第七 賀

第八 哀傷

第九 離別

第拾 羇旅」(1ウ)

 

(白紙)」(2オ)

(白紙)」(2ウ)

 

   巻第一

    

     ふるとしに春たちける日よめる

       在原元方

   古

0001 <>としのうちに春はにけりせをこそとやいはむことしとやいは

立春のこゝろを          みふのたゝみね

0002 春たつといふはかりにやみよしのゝ山もかすみてけさはみゆらん」(3オ)

 

うた奉つれと仰られけれはイ<>  源重之

   同                         わたるイ<>

0003 <>よし野山みねのしら雪いつきえけさたちかはるらん

後京極摂政 良経公<>

   新

0004 <>みよしは山もかすみてしら雪のふりにしさとに春はきにけり

春のはしめのうたイ<>      院御製 後鳥羽院<>

   同

0005 ほの/\と春こそそらにきにけらしあまのかく山霞たなひく

はるたつ日よめるイ<朱>      凡河内躬恒

   撰

0006 <>たつときつるからにかすか山きえあへぬ雪の花とみゆらん」(3ウ)

 

院に百首歌たてまつりける時立春の哥

   権中納言国信

   千

0007 みむろや春のたちぬらん雪のした水いはたゝくなり

元日に二条のイ<>

むつきのついたち二条のきさいの宮にてしろき

おほうちきをたまはりて

   藤原敏行朝臣

   撰    ゆきにイ<>

0008 <>ふる雪のみのしろ衣うちきつゝ春にけりとおとろかれぬる

たいしらす             曾禰好忠」(4オ)

 

   後                  はかり<>春はイ<>

0009 みしま江やつのくみわたるあしのねの一夜のほとにはるめきにけり

よみしらす

   古

0010 <>かすみたてるやいつこみよしのよしのゝ山にゆきはふりつゝ

                春哥イ<>

崇徳院に百首歌たてまつりけるとき

待賢門院堀河

   千

0011 <>ゆき深きいはのかけ道あとたゆるよしの里もはるはきにけり

一条院の御とき殿上人春こひ侍

けるに              紫式部」(4ウ)

 

   後

0012 みよしは春のけしきにかすめともむすほゝれたる雪のしたくさ

寛平の御とききさいの宮のうたせのうた

    源のまさすみ

   古

0013 <>たに風にとくる氷りのひまことにうちいつるなみの初はな

たいしらす            山辺赤人

   新

0014 <>あすからはわかなつまとしめし昨日もけふも雪はふりつゝ

平兼盛

   撰

0015 <>けふよりはおきのやけかきわけわかなつみにとたれをさそはん」(5オ)

 

よみ人しらす

   古

0016 <>かすか野のとふもり出てよ今いくかありわかなつみて

   同

0017 山には松の雪たにきえなくにみやこへのわかなつみけり

   同

0018 <>あつまちをして春雨けふふりぬあすさへふらはわかなつみてん

     仁和のみかとみこにイ<青>

みこにおはしましけるとき人にわかたまはせ

   おまし/\けるイ<朱>

ける御うた

  光孝天皇御製

   同

0019 <>君かため春のわかなつむわか衣手に雪はふりつゝ

たてまつりける時        紀のつらゆき」(5ウ)

 

   同

0020 かすか野のわかなつみにやしろたへの袖ふりはへて人のゆくらん

院に百首うたけるとき

   源俊頼朝臣

   千                     ぬれにけるイ<朱>

0021 春日ゝゆきをわかなにつみそへてけふさへ袖のしほれぬる

権中納言国信

   新

0022 <>かすかのゝ下もえわたる草のうへにつれなくゆる春の淡ゆき

春雪ふりけるをよめる

        つらゆき」(6オ)

 

   古

0023 <>かすみたちのめもゆきふれは花なき里も花そちりける

家のうた 余寒をイ<朱>   後京極摂政

   新

0024 <>そらは猶かすみもやらす風さえて雪けにくもるはるつき

すとく院に百首うたたてまつりけるに

      待賢門院堀

   千

0025 ときはなる松もやはるをしりぬらんねをいはふ人にひかれて

春のはしめによめる        藤原言直

   古

0026 春やとき花やをそきと聞わか鶯たにもなかすも有哉」(6ウ)

 

二条のきさきの宮のはるのはしめの御うた

   同

0027 ゆきのうちに春はきにけりのこほれるなみた今やとくら

寛平とききさいの宮のうた

 紀友則

   同

0028 <>のかをかせのたよりにたくへてそさそふしるへにはやる

百首うたたてまつりけるとき

   藤原家隆朝臣

   新

0029 たに河のうちいつなみも声たてつ鶯さそへはるのかせ」(7オ)

 

雪の木にふりかゝれるをみて

    そせいほふし

   古       えイ<朱>

0030 春たては花とや見らんしらゆきのかゝれる枝にうくひすのなく

たいしらす            よみ人しらす

   同

0031 むめかえにきゐる鶯はるかけてなけともいまた雪はりつゝ

哥ところにてをのこともうたつかまつる

てに 関路鶯と云ことをイ<朱>  院御製

   新                 しイ    関イ

0032 鶯のなけともいまたふる雪に杉のしろきあふさかの山」(7ウ)

 

たいしらす            よみ人しらす

   同

0033 <>むめかえに鳴てうつろふ鶯のはね白たへあは雪そふる

   撰

0034 かきくらしふりつゝしかすかにわか家のそのに鶯そなく

                春イニアリ<青>

としつなの朝臣の家にて山家尋人といふこゝ

               藤原範永朝臣

   後

0035 <>ねつるやとはかすみもれて谷のうくひす一こゑそする

贈太政大臣あひわかれのちにある所にて

こゑをきゝて           富小路右大臣母」(8オ)

 

   撰

0036 鶯のなくなるこゑはむかしにてわかひとつのあらすもあるかな

題しらす            よみしらす

   古

0037 <>もゝちとりさえつるものことにあられともわれそふりゆく

                      中納言家持

0038 はるの野にあさるきゝすつま恋にをのかありかを人にしれつゝ

よみ人しらす

   古   をイ<朱>

0039 かすかのはけふはなやきそわかくさつまもこもれりもこもれり

中納言広庭」(8ウ)

 

萬拾少

0040 いにしとしねこしてうへしわかやとのわか木の梅は花さきにけり

大納言扶幹 すけもとイ<朱>

   撰

0041 うへし時花みんとしもおもはぬにさきちるみれは齢老にけり

よみ人しらす

   同

0042 我せこにせむとおもひしむめの花それともえす雪のふれゝは

                      柿本人麿

古冬拾万

0043 むめのはなそれともえす久かたのあまきる雪のなへてふれゝは

                      よみ人しらす」(9オ)

 

   古

0044 おりつれは袖こそにほむめのはなありとやこゝにうくひすのなく

   撰

0045 なきつるこゑにさそはれて花のもとにそわれはきにける

そせいほふし

   古

0046 よそにのみあはれとそみしむめの花あかぬ色おりなりけり

むめのはなおりて人におくりはへりける

    紀友則

   同

0047 君ならて誰にかみせむのはないろをもをも知人そしる

月夜に人のむめはなをおらせけれは」(9ウ)

 

   みつね

   同

0048 月夜にはそれともえすむめのねてそしるへかりける

ほり院に百首うたたてまつりけとき

梅のはなの哥とてよめるイ<青>   前中納言匡房

   千

0049 にほひもてわかはそわかんむめのはなそれともえぬ春のよの月

百首うたたてまつりけるとき

    藤原家隆朝臣

   新

0050 むめかゝにむかしをとへは春のつきこたへぬそ袖にうつれる」(10オ)

 

百首めしける時         崇徳院御製

   千     よふイ<朱>まふイ<青>

0051 は吹まかせのうつりかに木ことに梅とおもひけるかな

たいしらす            みつね

   古

0052 はるのよのやみはあやなしむめのはないろこそえねやはかくるゝ

ひさしくまからさるところにまかりてむめのはな

おり              つらゆき

   古

0053 <>ひとはいさこゝろもしらすふるさとそむかしのゝほひける

たいしらす            西行ほふし」(11ウ)

 

   新

0054 とめこかしむめさかりなるわかやとをうときも人は折にこそよれ

式子内親王

 

   同                     よイ<青>

0055 なかめつるけふはむかしになりぬとも軒むめは我わする

八条院高倉

   同

0056 ひとりのみなかめてちりぬむめの花しるはかりなる人はとひこて

みつほとりむめののさきたるを

   

   古

0057 春ことになかるゝを花とみておられぬ水に袖やぬれなん」(12オ)

 

   同

0058 としをて花のかゝみとなる水はちりかゝるをやくもるといふらん

むめのはなを みてイ<青>     つらゆき

   同

0059 くるとあくとめかれぬ物をむめの花いつの人まにうつろひぬらん

寛平の御とききさいの宮のうた合に

     よみ人しらす

   同

0060 むめかゝをそてにうつしてとゝめてはともかたみならまし

そせいほふし

   同                      うつイ<朱>

0061 ちるとみてあるへきものむめの花うたての袖にとまれる」(12ウ)

 

むめの花をおりて人につかはしける

 権中納言定頼

   新

0062 こぬ人によそへてつる梅のちりなん後のなくさめそなき

かへし              大弐三位

   同

0063 はることにこゝろをしむる花のにたかさりの袖かふれつる

題しらす             西行ほふし

   同

0064 <>ふりつみしたかねのみ雪とけにけり清たき川の水のしらなみ

よみ人しらす」(13オ)

 

0065 いまさらに雪ふらめやもかけろふのもゆる春ひと成にし物を

志貴

   同         みのイ<朱>

0066 <>いはそゝくたるひのうへのさらひのもえ出る春になりにける哉

中納言行平

   古

0067 <>はるのきるかすみの衣ぬきをうすみ山かせにこそみたるへらなれ

寛平の御とききさいの宮のうた合に

    源宗于朝臣

   同

0068 ときはなる松のみとりも春くれはいま一しほの色まさりけり」(14ウ

 

うたたてまつりけるとき

      つらゆき

   同

0069 わかころもはるさめふることにへのみとりそ色りける

千五百番合に          宮内卿

   新

0070 うすくこき野へのみとりのわかくさまてゆる雪のむら

堀河院に百首うたたてまつりけるとき

      藤原のもとゝし

   千

0071 春さめふり初しよりかた岡のすそのゝはらそあさみとりなる」(15オ)

 

寛平の御とききさいの宮のうた

     いせ

   新

0072 みつおもにあやをりみたる春雨や山のみとりをなへて染らん

百首うたよみ侍けるに

       殷富門院大輔

   同

0073 はるかせのかすみ吹とくたえまよりみたれてなひく青柳の

千五百番合に          藤原雅経朝臣

   同

0074 しら雲のたえまになひく青柳のかつらき山にはる風そふく」(15ウ)

 

たいしらす            能因法師

   後                 わたり

0075 こゝろあらん人にせはや津国のなにはのうらのけしきを

後京極摂政家百首うたあはせに春

ける            藤原家隆朝臣

   新

0076 かすみたつすゑの松山ほの/\と浪にはなるゝよこ雲の空

    文集嘉陵春夜待不明イ<青>

不明不朧々月といふこゝろ

   大江千里

   同

0077 てりもせすくもりもはてぬ春のよのおほろ月よにしく物そなき」(16オ)

 

ひと/\春秋のあはれいつれにかこゝろひく

    侍イ<朱>

あらそひけるに          菅原孝標女

   

0078 あさみとり空もひとつにかすみつゝおほろにゆる春のよの月

百首うたたてまつりけるとき

    源具親朝臣

   同

0079 <>なにはかたかすまぬなみもかすみけりうつるもくもる朧月

後京極摂政家百首うたあはせ

     寂蓮法師」(16ウ)

 

   同

0080 <>いまはとてたのむのかりうちわひ月よの明ほのゝそら

かへるかりをよみはへりける

    皇太后宮大夫俊成

   同

0081 <>きく人そなみたおつるかへるかり鳴てゆくなる明ほのゝそら

俊頼朝臣

   千

0082 春来れはたのむのかりいまはとてる雲路に思たつなり

つらゆき

   拾              のイ      くらさイ

0083 ふるさとかすみとひ分ゆくかりにや春をすくらん」(17オ)

 

よみしらす

   新

0084 古さとかへかりかねさよふけて雲ふ声きこゆなり

赤染衛門

   後

0085 かへるかり雲ゐはるかになりぬなり又こん秋も遠しと思ふに

馬内侍

   同

0086 とゝまらぬこゝろそ見えんかへるかり花のを人にかたるな

百首うたたてまつりけるとき

    式子内親王」(17ウ

 

   新

0087 いまさくらさきぬとえて薄くもりはるにかすめる世のけしき哉

たいしらす            よみしらす

   同

0088 ふしておもひおきてなかむる春雨に花のしたひもいかにとくらん

中納言家持

   同

0089 ゆか人こむひとしのへ春かすみ立の山のはつさくら

西行法

   同

0090 よし野山こそのしりの道かへてまたみぬかたの花を

紀貫之」(18オ)

 

   同

0091 わかこゝろはるの山にあくかれてなか/\し日をけふもらしつ

大和のふるの山を帰るとてイ<朱>  僧正遍昭

   撰                      春をイ<青>

0092 いそのかみふるの山のさくらはなうへけん時をしる人そなき

花山にて道俗さけたうへける折にイ<青> 素性法師

   同

0093 山もりはいはゝいはなんたかさこおのへのさくら折てかさゝむ」(18ウ)

 

(白紙)」(19オ)

(白紙)」(19ウ)

 

   巻第

    春

     歌たてまつりけるとき       紀貫之

   古              もイ

0094 <>さくらさきにけらしなあし引の山のかひよりゆるしらくも

     宇治前太政大臣家イ<青>

高陽院家合に          源俊頼朝臣

   金

0095 <>さくらさきそめしよりかたの雲ゆるたきしらいと

前中納言匡房」(20オ)

 

   

0096 しらみゆるにしるしみよし野のよしのゝ山の花さかりかも

崇徳院に百首うたたてまつりけるとき 

左京大夫顕輔

   千

0097 <>かつらきやたかまのやまのさくらはなのよそにてや過なむ

        遥イニアリ<朱>

後二条関白家にて望山花といふこゝろ

 前中納言匡房

   後

0098 <>たかさこおのへのさくらさきにけり山のかすみたゝすもあらなん

釈阿所にて九十たまはせけるとき」(20ウ)

 

風に               院御製

   新

0099 <>さくらさくとを山とりのしたりのなか/\し日もあかぬいろかな

花のうたとてよめる        西行法師

   千

0100 <>をしなへてはなのさかりになりにけり山のはことにかゝるしらくも

皇太后宮大夫俊成

   同

0101 みよしの花のさかりをけふみれはこしのしらねにはる風そふく

すとく院に百首うたたてまつりけるとき

      藤原清輔朝臣」(21オ)

 

   

0102 <>かきのみむろの山ははるきてそのしゆふかけてみえける

故郷花といへる心を        よみ人しらす平忠度朝臣のうた<青>>

   同

0103 さゝなみやしみやこはあれにしをむかしなからのやまさくらかな

たいしらす            平城天皇御製

   古                       さきにイ

0104 ふるさとゝなりにしならのみやこにも色はかはらす花はさきけり

紀友則

   同

0105 いろもおなしむかしにさくらめととしふる人そあらたまりける

忠仁公」(21ウ)

 

   同

0106 としふれはよはひは老ぬしかはあれと花をしみれは物思もなし

あか

   新

0107 <>しきのおほみや人はいとまあれやさくらかさしてけふもくらしつ

なりひらの朝臣

   同

0108 花にあかぬなけきはいつもせしかともけふのこよひる時はなし

やよひにうるふ月ありけるとしよめ

  伊勢

   古                           するイ<朱>

0109 さくらはなはるくはれるたにもひとのころにあかれやはせぬ」(22オ)

 

山花をのそむといへるこゝろ

   京極関白前太政大臣

   新         やまさくらイ<青>

0110 しら雲のたな引く山のさくら花いつれを花とゆきてらまし

祐子内親王家にて花のうたひと/\よみはへり

るに               権大納言長家

   同

0111 花のいろにあまきるかすみたちまよひそらさへにほふ山さくら

たいしらす            良宗貞

   古

0112 花のいろかすみにこめてみせすともをたにぬすめはるやま」(22ウ)

 

よみひとしら

拾少

0113 あさみとりへの霞はつめともほれて匂ふさくら

   古

0114 春のいろのいたりらぬ里はあらしさけるさかさる花のみゆらん

雲林院のみこのもとに花みにきたやま

    てイ<朱>

にまかけるとき         そせい法師

   同

0115 <>いさけふはの山へにましりなんくれなはなけの花の陰かは

たいしらす            よみ人しらす

拾少

0116 <>さくらかり雨はふりきぬ同しくはぬるとも花のかけにかくれ」(23オ)                    

 

そせいほふし

   古                     いはぬイ<朱>

0117 <>おもふとち春の山うちむれてそこともしらぬたひねしてしか

後京極摂政家のうたあはせに野遊のこゝろ

  家隆朝臣

   新

0118 思ふとちそこともしらす行くれはなのやとかせへのうくひす

千五百番歌合に          皇太后宮大夫俊成

   同

0119 いくとせの春に心つくしきぬあはれとおもへみよしの

題しらす<青>          能因法師」(23ウ)

 

   後                  しとイ<朱>  けるイ<朱>

0120 世のなかをおもひすてなれ共心はくそ花にえぬる

百首うたに            式子内親王

   

0121 <>はかなくて過にしかたをかそふれは花に物おもふ春そへにける

たいしらす            小まち

   古

0122 <>花のいろはうつりにけりないたつらに世にふるなかめせしまに

よみしらす

   同                    そイ     るイ

0123 ことにはなのさかりはなめとあひみことはいのちなりけり

   同

0124 はなのことのつねならはしてしむかしは又もかへりなまし」(24オ)

 

ありはらのもとかた

   同

0125 かすみたつはるの山へはとをけれと吹くるはなそする

そせいほふし

   同

0126 いつまてかへにころのあくかれん花しちらすはちよもへぬへし

よみ人しら

   同

0127 うくひすくのへことにきてみれはうつろふ花にふきける

   同

0128 こまなへていさにゆかむふるさとは雪とのみこそ花はちるらめ

しかの山越にて女のおほくはへるによみてつかはしけるイ<朱>> つらゆき」(24ウ)

 

   同

0129 あつさゆみ春の山をこえくれは道もさりあへす花そちりける

   同

0130 わかなつまとこしをちりかふ花に道はまとひぬ

   同

0131 やとりしての山にねたるゆめのうちにも花そちりける

みつね

   新

0132 いもやすくねられさりけり春のよは花のちるのみゆめにみえつ

いせ

   同

0133 山さくらちりてみゆきにまかひなはいつれか花と春にとはなん

          まへにてイ<青>

一条院ときやへさくらたてまつれりけるを」(25オ)

 

たまはせてうたよめとおほせられけれは

  伊勢大輔

   詞

0134 いにしへのならのみやこやへさくらけふこゝのへにほひぬる

たいしら            よみ人しらす

   新

0135 かすみたつはるの山にさくら花あかすちるとやのなく

あか

   同

0136 春さめはいたくなふりそさくらはなまたみぬ人にちらまくも

                        有友イ<青>

のありとも」(25ウ)

 

   古

0137 さくら色ころもはふかく染てき花のちりなん後のかたみに

よみしらす

拾少                   みてイ<朱>

0138 さくら色にわか身はふかく成ぬらんこゝろにしめて花をしめは

          イニナシ<朱>

守覚法親王家五十首うたよませ侍りけるに

  家隆朝臣

   新 ほとはイ<青>

0139 このもとしるもしらぬもたまほこのゆきかふ袖は花のかそする

後京極摂政家にて春のうたよみはへりけるに

  皇太后宮大夫俊成」(26オ)

 

   同

0140 <>またやみむかたのみのさくらかり花のゆきちるはるのあけほの

たいしらす            祝部成仲

   同               たつたのイ<青>

0141 ちりちらすおほつかなきは春かすみたなく山のさくらなりけり

よみしらす

   

0142 春かすみたなひく山のさくらはなうつろはとやいろかはり

   同

0143 まてといふにちらてしとまる物ならはなにおもひまさまし

   同      はすへしイ<朱>

0144 此さとにたひねしぬへしさくらはなちりのまかひに家路わすれて

   同

0145 うつせみにもたるか花さくらさくとみしまにかつちりにけり」(26ウ)

僧正遍昭によみをくりける    <朱>

    惟親王

   同

0146 さくらはなちらはちらなんちらすとてふる郷人のきてもみなくに

桜花のちるをよめ

      そせいほふし

   同         はイ<青>

0147 花ちらすかせのやとりをたれかしるにをしへよゆきみむ

                      ソウグイ<青>

承均ほふし

   同

0148 さくらちる花のところは春なからゆきそふりつゝ消かてにする」(27オ)

 

こゝちわつらひけるとき風にあたらしとておろ

しこめて侍けるにれるさくらちる

                   因香<朱>

藤原のよるかの朝臣

   同

0149 たれこめて春のゆくゑもしらぬまに待しさくらもうつろひにけり

すさくいんさくらのおもしろきよしをき

  大将御息所

   撰

0150 さきさかす我になけそさくら花にやはきかひし

花のちるをみて          友のり」(27ウ)

 

   古

0151 <>ひさかたひかりのとけき春のにしつなく花のちるらむ

題しらす             藤原興風

   同          おほけれとイ<青>

0152 いたつらにすくる月日はおもほえて花みてくらす春そすくなき

藤原好風

   同

0153 はるかせは花のあたりをよきてふけつからやうつろふとみ

よみしらす

   同

0154 にあつらへつくる物ならは此ひともとはよきよといはまし

   撰

0155 おほそらにおほふかりの袖もかな春さく花をかせせし」(28オ)

 

五十首うたたてまつりけとき

   宮内卿

   新

0156 花さそふひの山かせきにけりこきゆく舟の跡みゆるまて

   同

0157 あふさかやこすゑの花をふくからにあらしそかすむせきの杉むら

百首うたたてまつりけるとき

    さぬき

   同

0158 山たかみみねのあらしにちるはなの月にあまきる明かたのそら

千五百番うたあはせ」(28ウ)

 

       参議定家

   同        庭

0159 <>さくらいろの庭のはるかせあともなしとはそ人の雪とたにみ

花のさかりに久しくとはさりける人のまうて

きてはへりける         よみ人しらす

   古

160             あたなりとこそたてれさくら花としにまれなる人も待けり

かへし              ありひらの朝臣

   同

0161 けふすはあすはゆきとそふりなましすはあり花とみましや

しのひておほうちはなを御らんして後京極」(29オ)

 

摂政のもとにつかはしける

     院御製

   新         にイ<朱>

0162 けふたにも庭をさかとうつる花きすはとも雪かともみよ

かへし             後京極摂政

   同

0163 さそはれぬ人のためとやのこりけあすよりさきの花のしらゆき

すけ信かはゝの身まかりてのちかのいゑ

あつたゝの朝臣まかりてはなのちりける木のもとに

侍りけれは            よみ人しらす」(29ウ)

 

   撰

0164 いまよりはかせにまかせんさくらはなちるのもとに君とまりけり

かへし              権中納言敦忠

   同

0165 かせにしもなにかまかせむさくら花にほひあかぬにちるはうかりき

すみはへりにける院にまりけれはあふ

も侍らさりけるまたのとし花の枝につけて

                 元良親王

   同

0166 <>花のいろはむかしならにみし人のころのみこそうつろひにけれ

月のあかき夜はな」(30オ)

 

       源信明朝臣

   同                  あはれ<朱>

0167 <>あたらの月とはなとをおなしくはこゝろしれら人にみせはや

たいしらす            みつね

   同

0168 雪とのみふるたにあるをさくら花いかにちれとか風のふくらむ

                      つらゆきイ<青>

亭子院の哥合のうたイ<青>     よみしらす

   同

0169 さくら花ちりぬるかせなこりには水なきそらなみそ立ける

大納言経信

   新

0170 山ふかすきのむらたち見えぬまておのへのかせに花のちる哉」(31ウ)

 

左京大夫顕輔

   同

0171 ふもとまておのへさくらちりすはたなひく雲とみてや過まし

西行ほふし

   同

0172 <>むとて花にもいたくなれぬれはちる別こそかなしかりけれ

五十首うたたてまつりとき

    家隆朝臣

   同                  つねイ<青>  松イ<朱>

0173 さくらはなゆめかうつかしら雲のたてつれなきみねの春

千五百番うた合に         権大納言良平」(32オ)

 

   同

0174 ちるはなのわすれかたみのみねくもそをたにのこせはるの山かせ

落花のころを          雅経朝臣

   同

0175 花さそふなこりくもにふきとめてしはしは匂へ春のやまかせ

残春のころを          後京極摂政

   同

0176 よしの山はなのふるさとあとてむなしき枝にはるかせそふく

百首うたに            式子内親王

   同

0177 花はちりそのいろとなくなかむれはむなしき空にはるさめふる

たいしらす            大納言経信」(32ウ)

 

   同                         雲イ

0178 ふるさとはなのさかりはすきぬれとおもかけさらぬ春のかな

堀河院に百首うたたてまつりける

 権中納言国信

   千

一夜イ                    しけくイ<青>

0179 よひねてつみてかへらんすみれくさをのゝ芝生はつゆふかくとも

たいしらす            貫之

   

0180 よし野川きしの山ふきふくに底のかけさへうつろひにけり

百首うたとき        家隆朝臣

   新

0181 吉の川きしのやまふきさきにけりみねのさくらはちり果ぬらん」(33オ)

 

皇太后宮大夫俊成

   同    いさイ<朱>

0182 こまとめてなを水かはふきはなの露そふ井手のたま

たいしらす            よみ人しらす

   古

0183 <>いまもかも咲にほふらんたち花のこしまかさきの山ふきの花

原見王

               今かイ<青>

0184 かはつなく神なひかはにかけ見えていまやさくらんやま吹の

家のふちのはなを人のたちとまりてみ侍りけれは

  みつね」(33ウ)

 

   古

0185 わかやとにさけるふちなみたちかへり過かてにのみ人のみるらん

五十首うたたてまつりけるとき

   寂蓮ほふし

   新

0186 <>くれく春のみなとはしらね共かすみにおつるうちの柴ふね

たいしらす            よみ人しら

拾少

0187 春かすみたちわかれ山みちは花こそぬさとちりまかひけれ

三月尽のこゝろを         つらゆき

同少            はなをイ<朱>

0188 かせふけはかたもさためすちる花のいつかたへゆく春とかはみむ」(34オ)

 

みつね

   古

0189 けふのみと春をおもはぬ時たにもたつことやすき花のかけかは

百首うたたてまつりけるとき

    後京極摂政

   新

0190 <>あすよりはしかの花そのまれにたに誰かはとは春のふるさと

                  けるにイ<朱>

やよひつこもりの日雨ふりけれはのはな

りて人につかはしける

       なりひらの朝臣」(34ウ)

 

   古

0191 ぬれつそして折つるとしうちに春はいくもあらしと思へは

百首うためしけるとき

       崇徳院御製

   千                      ひとのイ<青>

0192 花はに鳥はふる巣にかへるなり春のとまりをしる人そなき

三月尽皇太后宮大夫俊成もとにつか

はしける             法印静賢

   同

0193 花はみなよものあらしにさそはれてひとりや春のけふはゆくらん

たいしらす            なりひらの朝臣」(35オ)

 

   撰           けふのまたイ<朱>

0194 しめともはるのかきりのけふのゆふくれにさへなりにける哉」35ウ

 

(白紙)」(36オ)

(白紙)」(36ウ)

 

   巻第三

    哥                人まろイ<朱>

     たいしらす            よみ人しら

   古

0195 <>わかやといけふちなみにけり山時鳥いつかなか

源重之

   拾

0196 花の色にそめしたもとしけれは衣かへうきけふにもある

うつきにさけるさくらをみて」(37オ)

 

       紀俊貞

   古

0197 あはれてふことをあまたにやらしとやくれて独さくらん

たいしらす            持統天皇御製

   新 万イ<朱>               さらせるイ<朱>

0198 <>春すきてなつきにけらし白たへほすてふのかく山

源順

拾少

0199 わかやとかきねや春をへたつらんなつきにけりとみゆるうの

よみ人しらす

撰入拾

0200 時わかすふれる雪かとみるまてに垣もたにさけるうのはな」(37ウ)

 

   後

0201 <>みわたせはなみのしからみかけてけりうの花さける玉のさと

藤原元真

   新               ゆきひとイ<青>

0202 なつくさしけりにけりな玉ほこみち行人もむすふはかりに

曾禰好忠

   同     このまもイ<青>

0203 花ちりし庭のこのはしけり合あまてる月のかけそまれ

よみしらす

   撰   りイ

0204 ゆきかへるやそうち人のたまかつらかけてそたのむあふひてふなを

大納言経信」(38オ)

 

   金

0205 玉かし庭もはひろにりにけりこやゆふして神まつるころ

曾禰好忠

   後

0206 <>さか木とる月になれは神山のならのはかしは本もなし

よみしらす

   古

0207 さつきまつやまほとゝきすちはふきいまかなんこその古

   同

0208 <>さつき待はなたちはなのをかけはむかしの人の袖のかそする

   同

0209 けさきなきいまたゝひなる時鳥花たちはなやとはからなん

   同

0210 こその夏鳴ふるしてしほときすそれかあらぬか声のかはらぬ」(38ウ)

 

天暦の御とき内裏うた合に

     平兼盛

拾少

0211 いてゝ夜半にやつるほとゝきすあかつきかけて声のゆる

たいしらす            みふのたゝみね

   古

0212 むかしへやいまもこひしきほとゝきす古郷にしも鳴てきつらん

修理大夫顕季

   金             うはのイ<朱>

0213 みやまいてゝまた里なれぬ郭公たひの空なるをや鳴らん

大納言経信」(39オ)

 

   新

0214 <>さなへとる山のかけもりにけりひくしめなはに露そこほるゝ

曾禰好忠

   後

0215 みたやもりけふは月にりにけりいそけやさなへ老もこそすれ

哥ところにて入道皇太后宮大夫俊成

十賀たまはせける屏風に

      後京極摂政

   新

0216 <>をやまたひくしめなはの打はへてちやしぬらん五月雨のころ

たいしらす            延喜御製」(39ウ)

 

拾少

0217 あし引の山ほとゝきすけふとてやあやめの草のねにたてゝなく

後京極摂政

   新

0218 <>うちしめりあやめそかほとゝきすなくや月の雨の夕くれ

よみ人しらす

拾少

0219 <>ほとゝきすなくや月のみしか夜もひとりしぬれはしかねつも

祭主輔親

同少

0220 あし引の山ほとゝきす里なれてたそかれときになのりすらしも

よみしらす」(40オ)

 

 古

0221 あしの山ほとゝきすをりはへて誰かまさるとをのみそなく

大納言経信

   新

0222 <>三島江のいりえのまこも雨ふれはいとゝしれてかる人もなし

藤原基俊

   同

0223 玉かしはしけりにけりなさみたれに葉守の神のしめはふるまて

宇治関白太政大臣家のうた 合せにイ<朱>

     相模

   後

0224 <>さみたれみつのみまきのまこもくさかりほすもあらしとそ思」(40ウ)

 

たち花をよみはへりける

   同

0225 さみたれのそらなつかしくにほたち花に風やふくら

百首うためしける時        崇徳院御製

   千

0226 さみたれにはなたちはなのかるよは月すむ秋もさもあらあれ

たいしらす            左近中将公衡

   同

0227 おりしもあれ花たちはなのかむかしをみつるゆめまくら

皇太后宮大夫俊成

   新

0028 たれまた花たちにおもひ出んわれもむかしの人となりなは」(41オ)

 

中納言俊忠家のうたあはせに五月雨をよめる

 藤原顕仲朝臣

   金   のイ<朱>

0229 <>さみたれに水まさるらしさはた川槙のつきはしうきぬかりに

すとく院に百首うたたてまつりけるとき

      皇太后宮大夫俊成

   千                              あまイ

0230 さみたれはたくものけふりうちしめりたれまさるすまうら

たいしらす            参議定家

   新                            ころイ

0231 <>たまほこみち行人のことつてもたえてほとふる五月雨の空」(41ウ)

 

延喜とき月次御屏風に

     貫之

   拾

0232 なつ山のかけをしけみや玉ほこの道行人もたちとまるら

拾少  まイ

0233 さつきやみ木のしたやみにともすは鹿のたちとのしるへなりけり

         とてイ

夏のうたの中に          前大僧正慈円

鵜河をよめるイ<青>

   新

0234 うかひふねあはれとそみる物のふやそうち川ゆふやみのそら

題しらすイ<青>          源重之

   後

0235 <>なつかりのたまえのあしをみしたきむれゐる鳥のたつ空そなき」(42オ)

 

貫之

   古

0236 なつのよのふすかとすれはほとゝきすなく一こゑるしゝのめ

よみしらす

   同

0237 ほとゝきすなか鳴さとのあまたあれ猶うとまれぬおもから

   同

0238 おもひいつるはの山のほとゝきすからくれなゐのふり出てそなく

   同

0239 声はしてなみたえぬほとゝきすわかころもてのひつをからなん

   撰

0240 たひねしてつまこひすらしほとゝきす神なひ山にさ夜ふけてなく

宇治前関白太政大臣」(42ウ)

 

   後

0241 あり明の月たにあれやほとゝきすたゝ一こゑゆくかたもみん

暁聞時鳥といふことをイ<青>    後徳大寺左大臣

   千

0242 ほとゝきすなきつるかたをなかむれはたゝあり明の月そのこれる

ほとゝきすのうたとてイ<青>    皇太后宮大夫俊成

   同

0243 すきぬるか夜半のねさめのほとゝきす声は枕にある心ちして

題しらすイ<朱>          みくにのまち

   古                         もイ

0244 やよやまて山ほとゝきすことつてんよの中に住わひぬとよ

大江千里」(43オ)

 

   同

0245 やとりせし花たちはなもかれなくになと時鳥こゑたえぬらん

             ことをイ<朱>

閏五月時鳥といふこゝろ

     権中納言国信

   新

0246 ほとゝきすさみなつきわきかねてやすらふ声そ空にゆる

たいしらす            よみしらす

   撰

0247 わかやとのかきにうなてし子は花にさかなんよそへつゝみん

俊頼朝臣

   金      もイ          にイ        もイしイ

0248 <>このさとはゆふたちしけりあさちふの露のすからぬ草のはそなき」(43ウ)

 

   同

0249 かせふけはすのうきに玉こえて涼しくなりくらしの声

僧正遍昭

   古

0250 はちすはのにこりにしまぬこゝろもてなにかは露を玉とあさむく

もとゝし

   金

0251 <>なつ月まつほとの手すさひに岩もるいく結ひしつ

月のおもしろかりける夜あかつきかたによめるイ<朱>> 深養父

   古                     こイ

0252 夏のよはまたよひなからぬるを雲のいつに月やとるらん

題しらすイ<青>          曾禰好忠」(44オ)

 

   後

0253 <>なつころもたつた河原のやなき陰すゝみにつゝならす比かな

源頼綱朝臣

   同

0254 なつ山のならのそよくゆふくれはことしも秋のこゝちこそすれ

清輔朝臣

   新

0255 <>のつからすゝしくもあるかなつころも日もゆふくれの雨のなこり

西行法

   同

0256 <>よられつるもせの草のかけろひて涼しくゝもゆふたちの空

   同

0257 道のへに水なかるゝやなきのかけしはしとてこそ立とまりつれ」(44ウ)

 

なつのよふかやふか琴ひくをきゝて

    中納言兼輔

   撰

0258 <>みしかけゆくまゝに高砂のまつかせ吹かとそきく

千五百番歌合に          宮内卿

   新

0259 かたさすをふのうらなしはつ秋になりもならすも風そ身にしむ

百首うたたてまつりけるとき

    後京極摂政

   同

0260 秋ちかきけしきのもりなく蝉のつゆ下葉そむらん」(45オ)

 

たいしらす            みふのたゝみね

   同                    にイ

0261 なつはつるあふきと秋のしらつゆといつれかとすらん

すとく院に百首うた奉りけるとき みなつきの

みそきをよめるイ<青>

     皇太后宮大夫俊成

   千

0262 いつとてもしくやはあらぬとし月をみそきにすつる夏の暮

みな月のつこもりの日よめるイ<朱> 凡河内躬恒

   古

0263 なつと秋とゆきかふ空の通路はかたへすゝしき風やふくらん」(45ウ)

 

(白紙)」(46オ)

(白紙)」(46ウ)

 

   巻第四

    穐哥

     あきたつ日よめる         藤原敏行朝臣

   古

0264 <>秋きぬとめにはさやかにえねの音にそおとろかれぬる

かものかはらにまかりてよめるイ<朱> 紀貫之

   同

0265 <>かせのすゝしくもあるか打よするとゝもにや秋はたつらん

たいしらす            よみしらす」(47オ)

 

   同

0266 <>わかせこかころものすそを吹かへしうららしき秋のはつかせ

   同                      もそよとイ<青>のイ<青>

0267 <>きのふこそさなへとりしかいつのまにいなはそよきて秋風そふく

百首歌めしける時         崇徳院御製

   新

0268 いつしかとおきの葉むけのかたよりにそゝや秋とそ風も聞ゆる

はつ秋のこゝろをイ<朱>      藤原季通朝臣

   同

0269 このねぬるのまに秋はきにけらし朝けのの昨日にも

たいしらす            よみ人しらす

   

0270 <>うちつけに物そかなしきこのはちる秋のをけふそと思へは」(47ウ)

 

家隆朝臣

   

0271 <>昨日にとはと思ひしつのくにいく田のに秋はきにけり

よみ人しらす

   古

0272 ひとりぬる床は草にあらねとも秋くるよひは露けかりけり

安法

0273 <>なつころもまたひとへなるうたゝねに心してふけ秋の初かせ

あれたるやとに秋来るといふことをイ<青> 恵慶法師

0274 <>やへむくらしけれるやとのさひしきに人こそみえね秋はきにけり」(48オ)

 

     秋たつ日よめるイ<朱>

   後

0275 あさちはら玉まく葛のうらかせのうらかなしかる秋はきにけり

題しらすイ<青>          安貴王

276             <>あきていくかもあらねとねぬるあさけの風は袂すゝしも

藤原為頼朝臣

   後

0277 おほかたの秋くるからに身にちかくならすかせそかはれる

百首うたよみ侍りける歌に

     式子内親王

   新

0278 うたゝねのあさけの袖にかはるなりならすの秋の初かせ」(48ウ)

 

たいしらす            侍従乳母

   千

0279 秋たつときゝつるからにわかやとおき葉風の吹かはるらん

すとく院に百首うたけるとき秋の

うた               皇太后宮大夫俊成

   千           あさちふにイ<朱>

0280 八重むくらさしこもりにしよもきふにいかてか秋のわきてきつらん

たいしらす            寂然法師

   同

0281 <>秋はとしなかはに過ぬとや荻ふく驚かすらん

大蔵卿行宗」(49オ)

 

   同

0282 ものことに秋のけしきはしるけれと先にしむは荻の上風

崇徳院に百首うたたてまつりけるとき

秋のうた               皇太后宮大夫俊成

   新

0283 おきの葉もちきりありてや秋をとつれ初つまらん

       帯露イ<朱>

野草露をよみはへりける

       贈左大臣長実

   金

0284 まくすはふあたのおほのゝしら露を吹なはらひそ秋のはつかせ

秋のうたとてよめる」(49ウ)

 

        西行法師

   新

0285 をしなへて物をはぬ人にさへこゝろをつくる秋のはつ

   同

0286 <>あはれいかに草葉のつゆのこほるらん秋たちぬ宮のゝはら

崇徳院に百首うたたてまつりけるとき

    皇太后宮大夫俊成

   同

0287 みしふつきうし山田にひたはへて袖ぬらす秋はきにけり

たいしらす            大弐三位

   同

0288 秋かせは吹むすへともしら露のみたれてかぬ草のはそなき」(50オ)

 

曾根好忠

   同

0289 あさほらけおきの上はのつゆみれはやはたさむしあきかせ

こまち

   同                       うへイ

0290 吹むすふ風はむかしの秋なからありしにもそての露かな

よみ人しらす

   古

0291 秋ふきにし日よりひさかたのあまかはらにたゝぬ日はなし

   同

0292 ひさかたの天の河原のわたしもり君わたりなはかかくしてよ

   同

0293 あまの川もみちをはしにわたせはや七夕つめの秋をしもまつ」(50ウ)

 

寛平とききさいのの哥合のうた 

     躬恒

   同

0294  たなはたにかしつるいとのうちはへてとし緒長わたらん

七夕のうたとて          清原元輔

七月七日扇にはられしうす物にをりつけゝるイ<青>

   拾雑   きイ<青>

0295 天の川あかせきり晴そらすみわたるかさゝきはし

なぬかの日イ<朱>         よみ人しらす

   撰                     やイ<朱>

0296  たなはたのあまのとわたるけふさへやをちかた人のつれなかるらん

皇太后宮大夫俊成」(51オ)

 

   新

0297 たなはたのとわたるふねかちのはにいく秋かきつ露の玉つさ

式子内親王

   同

0298 なかむれはころもて涼し久かたのあまかはらの秋の夕くれ

大納言隆季

   千

0299 たなはたの天つひれふく秋かせに八十の舟津をみふねいつらし

俊頼朝臣

   

0300 たなはたのあまかはらのいはまくらかはしもす明ぬよは

百首うためしけるとき」(51ウ)

 

       崇徳院御製

   

0301 たなはたに花染ころもぬきかせはあかつき露のかへすなりけり

七夕のこゝろを          斎宮女御

   新

0302 わくらはにあまのかは浪よるなから明る空にはまかせすも

たいしらす            よみしらす

   古

0303 <>このまよりもりる月のかけみれはこゝろつくしの秋はきにけり

上東門院小少将

   新

0304 かはらしなしるもしらぬも秋のの月まつほとのはかりは」(52オ)

 

式子内親王

   同                        月やイ<朱>

0305 <>なかあわひぬあきより外のやと哉のににも月すむらん

大江千里

   古

0306 <>月みれはゝに物こそかなしけれわか身一つの秋にはあらねと

壬生忠岑

   同

0307 <>ひさかたの月のかつらも秋はもみちすれはやてりるらん

五十首うたたてまつりける時

    後京極摂政」(52ウ)

 

   新

0308 <>ふるさとあらのこはき咲しより/\庭の月そうつろふ

権中納言俊忠かつらのいゑにて水上月と

  ことをイ<青>

いふこゝろ           俊頼朝臣

   千

0309  <>あすもこむのちの河はきこえてなるに月やとりけり

秋のうたの中に          家隆朝臣

   新

0310  なかめつゝおもふもさひし久かたの月のみやこのかたのそら

後京極摂政

   同

0311 月たにもなくさめかたき秋のよのこゝろもしらぬ松の風哉」(53オ)

 

たいしらす            院御製

   同

0312 <>あきつゆたもとにいたくふらん夜あかすやとる月

二条院讃岐

   同

0313 おほかたの秋の覚のつゆけくは又たか袖にありあけの月

月のうたあまたよみける中に

    法性寺入道前関白太政大臣

   千

0314 <>あきの月たかの雲のあなたにて晴ゆく空のる待けり

院に百首うたたてまつりけるとき」(53ウ)

 

      俊頼朝臣

   同

0315 <>こからしの雲吹はらふたかねよりさえても月の澄のほるかな

すとく院に百首うたたてまつりけるとき

    左京大夫顕輔

   新

0316 <>秋かせにたな引くものたえまよりもれる月の影のさやけさ

月のとてよめる         もとゝし

   千

0317 山のはにますみのかゝみかけたりとゆるは月のいつるなりけり

権中納言長方」(54オ)

 

   同

0318 <>やをかゆく浜のまさこかへて玉になしつる秋のよの月

清輔朝臣

   同

0319 <>まけにけるわかの秋そあはれなるかたふく月はもいてなん

俊頼朝臣

   同

0320 <>てる月のたひねのとこやしもとゆふかつき山のたに河の

よみしらす

   古

0321 しら雲はねうちかはしとふの数さへみゆる秋のよの月

のうたに湖辺月といふこゝろ」(54ウ)

 

   家隆朝臣

   新

0322 にほうみや月ののうつろへは波のにも秋はえけり

たいしらすイ<朱>         よみしらす

   古

0323 あき萩した葉色つくいまよりやひとりある人のいねかてにする

   同

0324 <>鳴わたるかりのなみたやおちつらんもの思やとの萩の上の露

   同

0325 萩のつゆ玉にぬかんとれはけぬよしみ人はえたなからみよ

   同        へくイ<朱>   とをゝにイ<朱>

0326 おりてみはそしぬへき秋はきの枝もたゝにけるしら

   同                         夜はふけぬイ<朱>

0327 <>はなちるらんのゝつゆしもにぬれてをゆかんさよはいふくとも」(55オ)

 

まろ

   新       野へのイ<朱>        さ夜はふくイ<朱>

0328 あき萩きちるをのゝつゆにぬれつきませ夜は更ぬとも

中納言家持

   同       野辺のイ<朱>

0329 さをしかのたつをのゝ秋萩に玉とみるまてけるしろつゆ

範永朝臣

   後

0330 けさ来つる野つゆに我ぬれぬうつりやしぬる萩か花すり

よみ人しらす

   撰          いほのイ<青>

0331 <>秋ののかりほのやとふまてさける秋みれとあかぬかも」(55ウ)

 

天智天皇御製

   

0332 <>あきの田のかりほのいのとまをあらみわか衣手は露にぬれつゝ

麿

0333 此ころあかつきつゆわかやとの萩のしたはゝ色つきにけり

すとく院に百首うたたてまつりけるとき

 清輔朝臣

   新

0334 <>うすきりかきの花の朝しめり秋はゆふと誰かいひけん

たいしらす            和泉式部」(56オ)

 

   千  みなイ<朱>

0335 ひともかなみせもきかせも萩花さく夕かけのくらしの声

          家イ<青>

守覚法親王五十首うたよませけるに

 法橋顕昭

   新

0336 はきはなまそてにかけてまとののへの宮にひれふるや

         をみなへし合せにイ<朱>

亭子院女郎花うた

     三条右大臣

   古

0337 秋ならてあふことかたきをみなへし天の河原におひ

貫之」(56ウ)

 

   同       からイ<朱>

0338 た秋にあらぬ物ゆへをみなへしな色にろふ

院に百首うたたてまつりけるとき

     大納言師頼

   千

0339 露しけきあしたの原のみなへし一えたをらん袖はぬるとも

たいしらす            貫之

   古

0340 やとりせし人のかたみか藤はかまわすられたきゝほひつゝ

素性法

   同

0341 ぬしらぬかこそにほへれ秋のにたかぬきかけし藤はかまそも」(57オ)

 

人麿

   新

0342 さをしかのいるのゝきはつ花いつしかいもか手枕にせん

よみ人しらす

   同

0343  をくら山ふもとのへのはなすゝきほのかにみゆる秋のゆふくれ

       うたにイ<朱>

百首うたたてまつりけるとき

    式子内親王

   同                         はイ

0344 <>花すゝきまたつゆふかしほに出てなかめしとふ秋のさかりを

寛平とききさいの宮のうた」(57ウ)

 

       在原棟梁

   古

0345 あきゝの草のたもとか花すゝきほにてまねく袖とみゆらん

たいしらす            坂上是則

   新

0346 うらかるゝあさちかはらのかるかやのみたれて物をおもふころかな

基俊

   同

0347 <>あき風のやゝはたさむく吹なへにおき上葉をとそ悲しき

よみしらす

   古

0348 秋に道もまとひぬ松むしの声するやとやからまし」(58オ)

 

藤原為頼朝臣

   拾

0349 <>おほつかないつこなるらんむし尋ねは草の露やれん

家隆朝臣

   新

0350 <>むしのもなかき夜あかぬふるさと思ひそふ松風そ

式子内親王

   同

0351 <>あともなき庭のあさちにむすほゝれつゆの底なる松虫のこゑ

よみ人しらす

   古

0352 君しのふくさにやつるゝふるさとは松むしのそかなしかりける」(58ウ)

 

   同

0353 くらしのなきつるなへに日はくれぬとふは山のにそありける

   同

0354 くらしのなく山さとゆふくれはより外にとふ人もなし


続きはこちら→「倭歌八代集 上下」(箱書)2

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