二四代集


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   同

0592 かくしつゝとにもかくにもなからへて君か八千世にあふよしも哉

仁和のみかとみこにおはしましける時御はの八十の賀に

の杖をみて御をはにかはりて  僧正遍昭

   同

0593 千早振神やきりけんつくからに千年の坂も越ぬへらなり

百首奉ける時          後京極摂政

   新

0594 しきまとねも神代より君かためとやかため置け

本康のみこの七十賀屏風に     素性法師

   古

0595 いにしへにありきあらすはしらねとも千年のためし君にはしめん

   同

0596 しておもひ起てかそふる代は神そしるらんわか君のため

よしみねの常成か四十賀にむすめにかはりて

   同

0597 代をまつにそ君をいはひつる千年のかけにすまんと思へは

冬の賀茂のまつりの歌       藤原敏行朝臣

   同大哥所

0598  ちはやふるかものやしろのひめこまつ(ゆふたすき&ひめこまつ)萬代ふとも色はかはらし(51オ)

 

はしめて平野の使に立けるに    大中臣能宣朝臣

0599 千早振ひらのゝ松の枝しけみ世も八千世色はかはらし

天暦御時斎宮くたり侍ける長奉送使にてまかり

るとて             中納言朝忠

   同

0600 代のはしめとけふを祈置ていま行末は神そしるらん

二条太皇太后宮賀茂のいつきと申ける時松枝映水と

いふこゝろを           京極前関白太政大臣

   千

0601  はやふるいつきの宮のありす河松ともにそかけはすむへき

小野宮太政大臣のこともかうふりしもき侍けるに

貫之

   撰

0602  大原や小しほの山の小松はらはや木たかゝれ千代のかけみん

後一条院むまれさせ給て七夜に女房盃出せと侍けれは

 紫式部(51ウ)

   

0603  めつらしきひかりさしそふさかつきはもちなからこそ千世もめくらめ

藤氏のかうふふやにまかりて    能宣朝臣

0604  二葉よりたのもしきかな春日山木き松の種そと思へは

承平四年中宮の賀屏風に      斎宮内侍

0605  <>色かへぬ松と竹との末のよをいつれ久しと君のみそみん

九条右大臣の賀屏風に       参議好古

   同

0606 <>吹かせに余所のもみちはちりくれと君かときはの影そのとけき

右大将保忠賀し侍けるに      源公忠朝臣

0607 代も猶こそあかね君か為もふこゝろの限りなけれは

内侍のかみ賀の屏風に      伊勢

0608 おほそらにむれたるたつのさしなからおもふこゝろのありけなるかな

貞辰のみこをはの賀を大井にてし侍けるに 

紀惟岳(52オ)

 

   古

0609 亀の尾の山の岩根をとめてのしら玉千世の数かも

高陽院家歌合に          俊頼朝臣

   千

0610 <>瀧つ八十氏河のはやき瀬に岩こす波はちよのかすかも

院に百首歌奉けるに      基俊

   同

0611 <>奥山のやつをの椿きみか代にいくたひ陰をかへんとすら

贈皇后宮の御うふやの七日(本云<>に兵部卿致平のみこの

きしのかたつくりて誰ともなくてを付て侍ける

元輔

0612 朝またきりふの岡にたつきしは千世のひつきのはしめ也けり

右大将定国四十賀屏風に      素性法師

   古

0613 春日野に若葉つみつゝ萬代をいはふ心は神そしるらん

式部卿為平親王子日し侍けるに   大中臣能宣朝臣

0614 千年まてかきれる松もけふよりは君にひかれて万代やへん(52ウ)

 

永承四年内裏子日に        権中納言通俊

   新

0615 子日する野への小松をうつしうへて年のなかく君そひくへき

二条院御時花有色と云心を    刑部卿範兼

   同

0616 <>君か代にあへるは誰も嬉しきをはなは色にも出にけるかな

天徳三年内裏に花宴せさせ給けるに

 九条右大臣

0617 桜はなこよひかさしにさしなからかくて千年の春をこそへめ

題しらす             よみ人しらす

0618 かつつゝ千とせの春すくすともいつかは花の色にあくへき

右大将定国四十賀屏風に      躬恒

   古

0619 山たかみ雲井にみゆるさくら花こゝろのゆきてらぬ日そなき

太政大臣四十賀し侍けるに   業平

   同

0620 さくら花ちりかひくもれ老らくのこといふなる道まかふ(53オ)

 

右大将定国四十賀屏風に      是則

   

0621 秋くれ色もかはらぬときは山よその紅葉を風そかしける

躬恒

   同

0622 住江や松をあきかせ吹からに声うちそふる奥つしらなみ

題しらす             同

   新古

0623 <>千とせふる尾山の松は秋かせの声こそかはれ色はかはらす

仙家に菊を分ていたれるかた書たるをよめる

 素性法師

   古

0624 ぬれてほす山路の菊の露のにいつか千年を我はへにけん

題しらす             興風

   新

0625 山河のきくの下水いかなれはなかれて人の老をせくらん

文治六年女御入内屏風に      皇太后宮大夫俊成

   同

0626 <>仙人の折袖匂ふ菊の露打はらふにも千世はへぬへし(53ウ)

 

貞信公家屏風に          元輔

   同

0627 神無月もみちもしらぬときは木に代かゝれ峯の白くも

寛治二年大嘗会屏風に       前中納言匡房

   同

0628 とやかへるたかのを山の玉つはき霜をはふとも色はかはらし

仁安元年大嘗会稲舂哥       皇太后宮大夫俊成

   同

0629 あふみのやさかたのいねをかけつみて道ある御代のはしめにそつく

嘉応元年入道関白宇治にて河水久澄と云心を

清輔朝臣

   同

0630 年へたるうちの橋守ことゝはんいく世になりぬ水の水上

高倉院御時内に参りて笛に万歳楽ふかせ給ひ

けるを初て聞侍て女房のもとに申侍ける

後徳大寺左大臣

   千

0631 笛の音のよろす代まてと聞えしを山もこたふる心地せしかな(54オ)

 

天暦のみかとみこにおはしましけるわたりおはし

ましける御送り物に御本奉りて

   貞信公

   撰

0632 君か為いはふこゝろのふかけれはひしりの御代の跡ならへと

御返し              天暦御製

0633 をしへくことたかはすは行末の道とくとも跡はまとはし

     五十三首(54ウ)

 

   巻第八

    哀傷歌

     題しらす             沙弥満

0634 <>世の中をにたとへん朝ほらけこきく舟ののしら波

   万

僧正遍昭

   新

0635 <>末の露もとの雫や世のをくれさきたつためし成らん

小野小町

   同

0636 <>あはれなりわか身のはてやあさみとりつには野への霞とおもへは

業平朝臣

   撰

0637 たのまれぬうき世中を歎つゝ日におふる身をいかにせん

友則

0638 <>寝てもゆねてもみえけり大かたは空蝉のよそ夢にはける

   万

忠岑(55オ)

 

   同

0639 <>ぬるかうちにみるをのみやは夢といははかなき世をも現とは

よみ人しらす

   同

0640 よの中は夢かうつゝかうつゝとも夢ともしらす有てなけれは

   同

0641 世間いつらわか身のありてなし哀とやいはんあなうとやいはん

いもうとの身まかりける時     参議篁

   同

0642 なく涙雨とふらなわたり河水まさりなはかへりくるかに

さきのおほいまうちきみを白川のあたりへ送るとて

 素性法師

   同

0643 血のなみたおちてそつ白河は君か代まての名にこそ有けれ

堀河のおほいまうち君を深草の山におさめ侍て

僧都勝延

   同

0644 空蝉はからをつゝもなくさめつ深草の山けふりたにたて

あねの身まかりけるに       忠岑(55ウ)

 

   同

0645 <>瀬をせけは淵となりてもよとみけり別をとむるしからみそなき

身まかりける人をとふらふとて   閑院

   同

0646 <>さきたゝぬくのやちたひかなしきはなかるゝ水のかへりこぬ也

紀友則身まかりける時       貫之

   同

0647 <>あすしらぬわか身とおもへと暮ぬまのけふは人こそ悲しかりけれ

諒闇のとし池の辺の花をみて    参議篁

   同

0648 <>水の面にしつく花の色さやかにも君かかけのおもほゆるかな

深草のみかとの御国忌日      文屋康秀

   同

0649 草ふかき霞のにかけかくし照日のくれしけふにやはあらぬ

かしらおろし侍て         僧正遍昭

   撰

0650 たらちねはかゝれとてしもうは玉のわか黒髪はなてすや有

深草のみかとの御時蔵人頭にてよるひる馴つかうまつり

けるを諒闇に成けれは世にもましらはすして比叡山に(56オ)

 

のほりてかしらおろしてけり又のとし皆人御ふく

ぬきてあるはかうふり給りなと悦ひけるを聞て読る

   古

0651 <>皆人は花の衣に成ぬなり苔のたもとよかきたにせよ

醍醐のみかとおはしまさてよみ侍ける

三条右大臣

   撰

0652 はかなくて世にふるよりは山科の宮の草木とならまし物を

円融院かくれにける紫野につかうまつりてよめる

                 大納言朝光

   後

0653 紫の雲のかけても思ひきやはるのかすみになしてみんとは

権大納言行成

   同

0654 をくれしと常の御幸はいそきしをけふりにそはぬ旅のかなしき

同し春桜を折て道信朝臣のもとにつかはしける

実方朝臣(56ウ)

 

   新

0655 <>墨染の比もうき世の花さかりりわすれても折てけるかな

      道信朝臣

   同

0656 <>あかさりし花をやも恋つらんありし昔を思ひいてつゝ

かくれさせ給ひて後御帳のかたひらに結ひ付られて侍ける

一条皇后宮

   後

0657 <>よもすから契りしことを忘すはこひん涙の色そゆかしき

物いふ女のもとにまかれりけるによへなく成にきと云侍けれ

源兼長

   同

0658 ありしこそ限りけれ逢事をなと後の世とちきらさりけん

皇后宮かくれさせ給てさめ奉ける夜雪のふり侍けれは

一条院御製

   同

0659 野へまてに心ひとつはかよへともわか身ゆきとはしらすや有けん

中宮かくれさせ給て秋はおまへの前栽の露を御して(57オ)

 

                 天暦御製

0660 <>秋かせになひく草葉の露よりもきえにし人をにたとへん

小式部内侍身まかりて後露をきたる萩をりたる唐

をきて侍けるを上東門院よりめしけれは

                 和泉式部

   新

0661 <>くとみし露も有けりはかなくて消にし人を何にたとへ

御返し              上東門院

   同

0662 おもひきやはかなくをきし袖の上の露をかたみにかけん物とは

同し内侍身まかりて後上東門院よりとし比りける

から衣をなき跡にも給りて侍けるに名の書付られた

をみて              和泉式部

   金

0663 <>もろともに苔の下には朽すしてうつもれぬ名をるそかなしき

同し内侍おさなき子をとゝめ置たるをみて(57ウ)

 

   後

0664 とゝめ置て誰(いつれイ)をあはれとおもふらん子はまさるらんこはまさりけり

敦道のみこにをくれてよみ侍ける

     

0665 今はたゝそよその事と思ひ出てわするのうきふしもかな

     同し比尼にならんとおもひて

   同

0666 はてんとおもふさへこそかなしけれ君になれにし我身と思へは

     身まかりて又のとし人の夢にける

                      藤原義孝

   同

0667 きてし衣の袖もかかぬにわかれし秋に成にけるかな

     道信朝臣身まかりにけるを送て朝に読侍ける

   千

0668 おもひかねきのふの空をなかむれはそれかとゆる雲たにもなし

     花山院かくれさせ給にける時    藤原長能

   同

0669 老らくの命のあまり長くして君にたひわかれぬるかな

     贈太政大臣かくれ侍にける時彼家にまかりて(58オ) 

 

                      貞信公

   撰

0670 春の夜の夢のうちにもおもひきや君なき宿を行てみんとは

     参議兼忠身まかりてとゝめたる子ともをみて

                      参議兼忠母乳母

   同

0671 むすひ置しかたみの子たになかりせは何に忍ふの草はつま

     女なく成て又子もなく成にける人をとひてつかはして

     侍けれは             よみ人しらす

   拾少

0672 いかにせしのふの草もつみ侘ぬかたみとみえし子たになけれは

     恒徳公かくれて後女のもとに月あかき夜しのひてまかりて

                      道信朝臣

   新

0673 ほしあへぬ衣のやみにくらされて月ともいはすまとひぬるかな

     一条院かくれさせ給ひゆめにみえさせ給けれは

                      上東門院(58ウ)

   同

0674 あふことも今はなきねの夢ならていつかは君を又はるへき

     少将あつとし身まかりて後東より馬を送て侍けるに

                      清慎公

   撰

0675 またしらぬ人もありけり東路にわれも行きてそむへかりける

     後一条院かくれさせ給て五月雨の比郭公の鳴けれは

                      上東門院

   千

0676 一声も君につけなんほとゝきすこのさみたれはやみにまとふと

     恒徳公かくれ侍て常に侍ける鏡を

                      道信朝臣

   同

0677 としをへて君かみなれしますかゝみむかしのかけはとまらさりけり

     おなし時ふくぬきて

   拾少

0678 <>かきりあれはけふぬきすてつ藤衣はてなき物は涙なりけり

     大納言忠家かくれ侍にける又のとし五月五日中納言国信(59オ)

 

     ふみつかはして侍けるに      権中納言俊忠

   千

0679 墨染の袂にかゝるをみれはあやめもしらぬなりけり

     返し               権中納言国信

   同

0680 あやめ草きねをても涙のみかゝらん袖をおもひこそやれ

     河原左大臣身まかりての秋かの家の紅葉をみて

                      近院右大臣

   古

0681 うちつけにさひしくもあるか紅葉ゝもぬしなき宿は色なかりけり

     桜をうへて身まかりにける人の家の花を

                      紀茂行

   同

0682 花よりも人こそあたに成にけいつれをさきにんとか

     権中納言敦忠をとはの家にまかりて花をみて

                      謙徳公

   拾少

0683 いにしへはちるをや人のしみけんけふは花こそ昔らし(59ウ)

 

     父かおもひにて読る        忠岑

   古

0684 <>藤衣はつるゝ糸はわひ人のなみたの玉の緒とそ(や)成りける(らん)

     おもひに侍けるとし山寺へまかりける道にて

                      貫之

   古

0685 <>朝露のおくての山田かりそめにうき世中を思ぬるかな

     河原左大臣身まかりて後彼家にまかりて

   

0686 君まさてたえにし塩かまのうらさひしくもえわたるかな

     右近中将利基身まかりて後住侍りけるつかさのさうし

     に薄をうへて侍けるをみて    御春有助

   同

0687 <>きみかうへし一村すゝき虫ののしけき野へとも成にけるかな

     友則身まかりける時        忠岑

   同

0688 時しもあれ秋やは人のわかるへきあるをるたに悲しき物を

     式部卿みこ侍けるに身まかりて後帳のかたひらに(60オ)

 

     結ひ付て侍ける          閑院五のみこ

   

0689 数/\に我をわすれぬ物ならは山のかすみをあはれとは

     題しらす             読人不知

   拾少

0690 鳥山谷にけふりのもえたゝははかなくみえし我としら南

                      千里

   古

0691 もみち葉をかせにまかせてるよりもはかなき物は命也けり

                      藤原惟

   同

0692 露をなとあたなる物とおもひけんか身も草にかぬ斗を

                      伊勢

   撰

0693 程もなく誰もくれぬ世なれとまるは行を悲しとそ

                      藤原敦敏

   同

0694 萬代と契しことのいたつらに人わらへにも成ぬへきかな

     前坊かくれさせ給ける秋読侍ける 参議玄上母(60ウ)

 

   同

0695 ともにきゐし秋の露はかりかゝら物と思かけきや

     大納言信のむすめに住侍ける身まかりてのち

     法住寺にこもりゐて読侍ける    権大納言長家

   後

0696 もろともに詠し人も我もなきやとにはひとり月やすむらん

     住侍ける女身まかりて       藤原有信朝臣

   

0697 もろに有明の月もし物をいかなるやみに君まふらん

     後一条院御時常によにさふらひけるを後冷泉院の

     御時又内に参りてに上東門院へ申させ侍ける

                      天台座主明快

   後

0698 雲の上に光かくれし夕より幾夜といふに月をつらん

     二条院かくれさせ給て舟岡さめ奉けるをみて

                      法印澄憲

   千

0699 常にし君か幸をけふとへは帰らぬ旅と聞そかなしき(61オ)

 

     長恨歌の心を読侍ける       源道済

   詞

0700 おもひかねわかれしのへをてみれは浅かはらに秋かせそふく

     住侍ける女身まかりて山里に侍ける比あからさまに

     京にまうてきて          左京大夫顕輔

   千

0701 <>いつのまに身を山かつになしはてゝ都をたひとおもひ

     大炊御門右大臣かくれ侍て書たる日記を見侍て

                      後徳大寺左大臣

   同

0702 をしへくそのことの葉をみる度に又とふかたのなきそかなしき

     母のおもひにて読侍ける      民部卿成範

   同

0703 鳥へ山おもひやるこそ悲しけれひとりや苔の下にくちな

     母の身まかりてよめる       法橋顕昭

   同

0704 たらちやとまりて我をおしまゝしかはるにかはる命也せは

     母身まかりにける秋野分しける日もと住ける所にまかりて(61ウ)

 

                      参議定家

   新

0705 <>玉ゆらの露もなみたもとゝまらすなき人こふる宿の秋風

     父のおもひに侍ける秋よめる    藤原秀能

   同

0706 露をたに今はかたみのふち衣あたにも袖を吹あらし哉

     定家朝臣母身まかりて後墓所ちかきたうに

とまりて             皇太后宮大夫俊成

   同

0707 <>まれにくる夜はも悲しきまつかせをたえすや苔の下に聞ら

     神無月の比僧正慈円ところにつかはしける

                      院御製

   同

0708 <>出る折たく柴の夕けふりむせふも嬉し忘れかたみに

     雨中無常と云心を読せ給ひ

   同

0709 <>なき人のかたみのくもやしるらんゆふへの雨に色はみえねと

     やまひおもくて猶内へまいりて又あさてはかり参(62オ)

 

     へきよし申て出侍けるにかきりに覚侍けれ公忠

     朝臣のもとにつかはしける     藤原季綱

   

0710 くやしくそ後にあはんと契りけるけふを限といはまし物を

     やまひかきりに覚侍けれは     業平朝臣

   古

0711 つく道とはかねて聞しかと昨日けふとはおもはさりしを

     世をそむかんと思立侍ける比    慶滋保胤

   拾

0712 うき世をはそむかはけふもそむきなんあすもありとは頼むへき身か

     題しらす             よみ人しらす

   同

0713 朝ことにはらふ塵たにある物を今いく夜とて頼($タユ<青>)む成らん

                      花山院御製

   詞

0714 かくしつゝ今はとならん時にこそくやしきことのかひもなからめ

                      よみ人しらす

   拾

0715 <>山寺の入あひの鐘の声ことにけふもくれぬと聞そかなしき(62ウ)

 

                      藤原為頼朝臣

   

0716 <>世中にあらましかはとおもふ人なきかおほくも成にける哉

                      小町

   新

0717 あるはなくなきは数そふよの中にあはれいつれの日まてかん

                      清輔朝臣

   同

0718 世中はみしもきゝしもはかなくてむなしき空の煙けり

                      西行法師

   同

0719 いつなけきいつおもふへきことなれは後の世しらて人の過

                      前大僧正慈円

   同

0720 皆人のりかほにしてしらぬかなかならすしぬるならひ有とは

   同

0721 きのふし人はいかにとおとろけ猶なかきよの夢にそ有ける

   同

0722 蓬生にいつかをくへき露の身はけふの夕くれあすの曙

   同

0723 我もいつそあらましかはとし人をしのふとすれはいとゝそひ(63オ)

 

     人にをくれたる人をとふらふとて  西行法師

   

0724 なきをのみ身にそへてさこそは人のこひしかるらん(め)

     なけき事侍ける人をおそくとふらひけるを恨侍けれは

   同

0725 あはれともこゝろにおもふ程はかりいはれぬへくはとひもこそせめ

     西住法師やまひかきりに成侍る秋月を見て

   同

0726 諸になかめ/\て秋の月ひとりにならんことそかなしき

     西住身まかりけるをはり乱さりけるよしをきゝ

     てつかはしける          寂然法師

   千

0727 みたれすとをはり聞こそうれしけれさてもわかはなくさまね

     返し               西行法師

   同

0728 <>この世にて又あふましき悲しさにすゝめし人そ心乱れし

     九十五首〈朱〉」(63ウ)

 

   巻第九

    別離歌

     題しらす             中納言行平

   古

0729 <>立わかれいなはの山のに生る松としきかは今かへりこん

                      よみ人しらす

   同

0730 すかるなく秋のはき原あさ立て旅ゆく人をいつとかまたん

   同

0731 かきりなき雲井のよそにわかるとも人をこゝろにくらさんやは

                      忠幹

   拾少

0732 <>忘るなよ程はくもゐに成ぬともそら行月のめくりあふま

                      読人しらす

   同少

0733 わするなよわかれちに生る葛のはの秋かせふかは今かへりこん

   同少

0734 わかれてはあはんあはしそさためなき此夕くれや限り成らん

     天暦御時めのと肥後か出羽国下侍けるに藤より(64オ)

 

     さうそく給りけるにそへられて侍ける

   同少

0735 <>行人をとゝめかたみのから衣たつより袖の露けかるら

     同し御めのとの餞し侍けるに    天暦御めのと少納言

     

0736 <>しむともかたしやわかこゝろなる涙をたにもえやはとゝむる

     肥後守にて下侍けるに満中朝臣餞しけるにかはらけとりて

                      元輔

   同

0737 いか斗おもふらんとかおひてわかるゝ遠きわか

     返し               源満朝臣

   同

0738 君はよし行末とをくとまる身の待ほといかあらんとすらん

     題しらす             よみ人しらす

   古

0739 <>えそしらぬよしこゝろみよ命あらはわやわするゝ人やとはぬと

                      貫之

   同

0740 <>白くもの八重にかさなる遠にてもおもはん人にこゝろへたつな(64ウ)

 

                      遊女白女

   同

0741 命たにこゝろにかなふ物ならは何かわかれのかなしかるへき

     つくしへまかるとて        源実

   同

0742 人やりの道ならなくに大かたはいきうしといひていさ帰なん

     あふ坂の関にて人を別けるに    貫之

   同

0743 かつこえて別れもゆくかあふさかは人たのめなる名にこそ有けれ

     人に別れけるに          紫式部

   新

0744 北へ行く雁のにことつよくものうは書かきすして

     寂昭上人の入唐し侍けるに装束つかはしけるとて

                      大中臣能宣朝臣

   同

0745 秋きりのたつ衣をきてよ露はかりなるかたみ成とも

     返し               寂昭法師

   同

0746 是やさはくものはたてにをるときくたつことしらぬ天の羽衣(65オ)

 

     藤原のきよふ清生〈朱〉)かあふみのすけにまかりける餞しけるに

                      紀俊貞

   古

0747 けふわかれあすはあふみとおもへともよやぬらん袖の露け

     相坂にて人に別とて        難波万雄

   同

0748 あふさかの関しまさしきならはあかすわかるゝ君をとゝめよ

     題しらす             よみ人しらす

   同

0749 から衣たつ日はきかしあさつゆのおきてゆけはけぬへき

                      寵

   同

0750 朝なけにへき君としたのまねはおもひちぬるくさ枕なり

     つくしへまかりける人のもとにつかはしける 橘倚平

   拾

0751 むかしみしいきの松はらことゝはゝわすれぬ人もありとこたへよ

     遠江守為憲かくたりけるに     道信朝臣

   後

0752 別てのよとせの春のはることに花のみやこをおもひこせる」(65ウ)

 

     別の心をる           俊頼朝臣

   千

0753 <>わするなよ帰る山路に跡たえて日数は雪のふりつもるとも

                      大僧正行尊

   同

0754 <>帰こ程をはいつといひをかしさためなき身は人たのめなり

     つくしへまかりけるむすめに    藤原節信

   後

0755 かへりては誰をみんとかおもふらん老て久しき人は有や

     俊頼朝臣伊勢国へまかる事侍けるに餞し侍け

     るによめる            大蔵卿行宗

   金

0756 待つけん我身なりせは帰るへき程をいく度君にとはまし

     堀河院に百首の歌奉ける時     権中納言国信

   同

0757 けふはさは立わかるともたよりあらはありやなしやの情わするな

     崇徳院に百首の奉ける時     左京大夫顕輔

   

0758 たのむれとこゝろかはりて帰りこはこれそやかての別なるへき(66オ)

 

                      上西門院兵衛

   

0759 かきりあらん道こそあらめ此世てわかるへしとは思はさりしを

     成尋法師入唐し侍ける時よみ侍ける

 成尋法師母

   同

0760 忍へともこの別路をおもふにはからくれなゐの涙こそふれ

     ちふるかみちの国のすけにまかりけるに 

                      小野千古母

   古

0761 たらちねのおやのまもりとあひそふるこゝろはかりはせきなとゝめそ

     題しらす             よみ人しらす

   後

0762 なけかしなつにすましき別かはこれはある世にと思ふ斗を(イ)

                      俊恵法師

   新

0763 <>かりそめのわかれとけふおもへとも今やまことの旅にも有らん

                      西行法師(66ウ)

 

   同

0764 たのめかん君もこゝろやなくさむと帰らん事はいつとなけれと

   同

0765 さりともと猶あふことをたのむかなしての山をこえぬ別は

                      道信朝臣

   

0766 たれかよも我世もしらぬ世中まつほといかゝあらんとすら

                      友則

   古

0767 下の帯のみちはかた/\わかるとも行めくりてもあはんとそ思ふ

     中将に侍ける時おひかけつほやなく蔵人のさう

     しにあつけ置て侍けるを俄に事ありて遠くまか

     りけるに女のおひかけを送りて侍りけれは

                      源善朝臣

   撰

0768 いつくとて尋きらん玉かつらわれはむかしのわれならなくに

     志賀の山越の石井のもとにて人にわかるとて 

                      貫之(67オ)

 

   古離拾雑恋

0769 <>結ふ手の雫にゝこる山の井のあかても人にわかれぬる

     人の花山にまうてきて暮て帰らとしけれは

                      僧正遍昭

   

0770 夕くれのまかきは山とえなゝよるはこえしとやとりとるへく

     四十二首〈朱〉」(67ウ)

 

   巻第十

    羇

     唐にて月をて読侍ける      安倍仲麿

   古

0771 <>天の原ふりさけみれは春日なる三笠の山にてし月かも

     もろこしにて読侍ける       山上憶良

   新

0772 いさこともはや日のへ大とものみつの浜松まち恋ぬらん

     藤原のみやよりならの都にうつり給ける時

                      元明天皇御製

   同

0773 <>とふ鳥のあすかの里におきていなは君かあたりはえすもあら

     伊勢国に御幸し給ける時      聖武天皇御製

   同

0774 妹にこひわかの松はら渡せはしひのかたにたつ鳴わたる

     帥の任はてゝつてとりのほるとて  大納言旅人

   同

0775 こゝに有てつくしやいつこ白くものたなひく山の西に有らし(68オ)

 

     題しらす

   

0776 朝霧にぬれにし袖(衣イ)をほさすして独や君か山路こゆらん

                      柿本人

   同

0777 天さかるひなの路をこきくれは明石のとより大和嶋見

   同

0778 の葉はみやまもそよにみたるめりわれはいもおもふわかれきぬれは

     おきの国になかされ侍ける時

                      参議篁

   古

0779 <>和田の原八十かけてこき出ぬと人には告よあまのつり舟

   同

0780 おもひきやひなのわかれにおとろへてあまのなはたきいさりせんとは

     事ありて津の国すまといふ所にこもりゐて

                      中納言行平

   同

0781 <>わくらはにとふ人あらはすまの浦にもしほたれつゝ侘とこたへよ

     つくしにて            菅贈太政大臣

   拾

0782 天つ星道もやとりも有なから空にうきてもおもほゆるかな(68ウ)

 

   同

0783 なかれ木も三とせありてはあひみてんよのうきことそかへらさりける

   新

0784 あし引のこなたかなたに道はあれと都へいさといふ人そなき

   同雑下

0785 霧ちて照日のえすとも身はまとはれしよるへありやと

   同

0786 つくしにも紫おふる野へはあれとなき名かなしむ人そえぬ

   同

0787 萱の関守とのみ見えつるは人もゆるさぬ道へなりけり

   同

0788 花とちり玉とみえつゝあさむけは雪ふる里そ夢にみえける

   同

0789 海ならすたゝへる水の底まても清きこゝろは月そてらさ

   同

0790 彦ほしの行あひをまつ鵲のわたるはしを我にかさな

   同

0791 なかれ木と立白波とく塩といつれからきわたつみの底

     あつまのにまかるとて      小野貞樹

   古雑下

0792 都人いかにとゝはゝ山みはれぬ雲井にわふとこたへよ

業平朝臣

   撰

0793 いとゝしく過行かたのしきにうら山しくもかへる波かな(69オ)

 

八橋の辺にてかきつはたと云文字を句の上に置て

旅のこゝろをよめる

   古

0794 <>から衣きつゝにしつましあれははる/\きぬる旅をしそ思ふ

角田川の渡りせんとて舟にのり侍けるにみやこ鳥

   

0795 <>名にしおはゝいさことゝはん都鳥わかおもふ人はありやなしやと

あつまのかたへまかるとて

   新

0796 信濃なるあさまのたけにつ煙をち近人のみやはとかめぬ

   同

0797 するかなるうつの山へのうつゝにもゆめにも人にあはぬ也けり

題しらす             壬生忠岑

   同

0798 東路やさやの中山さやかにもえぬ雲に世をやつくさ

読人不知

   同

0799 しなか鳥ゐなのをゆけは有間山ゆふ霧ちぬ宿はなくして(59ウ)

 

   同

0800 <>神かせの(イ)いせのはま荻折ふせ(しきイ)て旅ねやすらん(せまし)あらき浜へに

   古

0801 都いてゝけふみかの原いつみかせさむし衣かせやま

人丸

   古

0802 <>ほの/\と明石のうらの朝霧にかくれゆく舟をしそ思ふ

いそのかみ寺と云所にとまりて遍昭侍と聞てつかはしける

小町

   撰

0803 岩の上に旅ねをすれはいとさむし苔の衣を我にかさなん

返し               僧正遍昭

   同

0804 世をそむくの苔の衣はたゝひとへかさねはうとしいさふたりねん

亭子院吉野の宮御覧しにおはしましける

御供につかうまつりて手向山をとて

菅贈太政大臣

   古

0805 <>此度はぬさもとりあへす手向山紅葉のにしき神のまに/\(60オ)

 

都をわかるとて

0806 君かすむ宿の梢のゆく/\とかくるゝまてにかへりみしはや

題しらす             金岡

   

0807 のうへにみえし小しまかくれゆくうらもなし君に別て

熊野の道にてれいならすおはしましけるに海士

汐やくを御して         花山院御製

   後

0808 <>旅のそら夜半のけふりとのほりなはあまのもしほ火たくかとやみん

題しらす             よみ人しらす

拾少

0809 君をのみ恋つゝ旅のくさまくら露しけからぬ暁そなき

春日の使より帰りて女にける   謙徳公

0810 くはとく行てかたらんあふことの十市の里の住うかりしを

実方朝臣

   新

0811 舟なからこよひ斗はたひねせんつの波に夢はさむとも(60ウ)

 

恵慶法師

   同

0812 わきもこか旅ねの衣うすき程よきてふかなん夜の山風

橘為仲朝臣

   後

0813 是やこの月みるたひにおもひやるをは山の麓なりけり

藤原範永朝臣

   千

0814 有明の月も清水にやとりけりこよひはこえ相坂の関

権中納言師時

   同

0815 はりま須磨の関やの板ひさし月もれとてやまはららん

基俊

   同

0816 あたらよをいせの荻折ていも恋しらにみつる月かな

院に百首歌奉ける時      権中納言国信

   同

0817 のうへに有明の月をましやはすまの関やにとまらさりせは

   新

0818 <>山路にてそほちにけりなしら露のあかつきおきの木ゝの雫に(61オ)

 

大納言師頼

   千

0819 <>草枕たひねの人はこゝろせよ有明の月もかたふきにけり

前大僧正覚忠

   新

0820 <>旅衣あさたつをのゝ露しけみしほりもあへす忍もちすり

皇太后宮大夫俊成

   同

0821 難波人あしたくやに宿かりてすゝろに袖のしほたるゝかな

   同

0822 よの中はうきふしけきき篠原やたひにしあれは妹夢にみゆ

百首歌めしける時         崇徳院御製

   千

0823 かり衣袖のなみたにやとる夜は月もたひねの心ちこそすれ

皇太后宮大夫俊成

   同

0824 浦つたふ磯のとまやのかち枕きゝもならはぬ波のかな

守覚法親王家五十首歌読侍けるに

   新

0825 夏かりののかりねもあはれなり玉江の月の明かたの空(61ウ)

 

   同

0826 立かへり又もきてみ松しまやをしまのとまや波にあらすな

題しらす             西行法師

   同

0827 月みとちきり置てしふる郷の人もやこよひ袖ぬらす

五十首歌奉ける時         家隆朝臣

   同

0828 <>明はまたこゆへき山のなれやそら行月の末のしら雲

旅のとて読侍ける        参議定家

   同

0829 <>旅人の袖吹返すあきかせに夕日さひしき山のかけ橋

後京極摂政家歌合に秋旅

   同

0830 <>忘れなんまつとなつけそ中/\にいなはの山のの秋かせ

山路秋行といふ心を        前大僧正慈円

   同

0831 <>龍田山秋ゆく人の袖をみよ木ゝの梢は時雨さりけり

百首歌奉ける時

   同

0832 <>さとり行まことの道に入ぬれは恋しかるへき古郷もなし(62オ)

 

熊野にまゐらせ給とて       院御製

0833 見るまゝに山かせあらくしくるめり都も今なるらん

     六十三首〈朱〉」(62ウ)

 

巻第十一

恋歌一

題しらす             藤原実方朝臣

   詞

0834 <>いかてかはおもひありともしらすへき室の八しまの煙ならては

堀河院に百首歌奉ける時初恋

    俊頼朝臣

   千

0835 <>難波江のにうつもるゝ玉かしはあらはれてたに人をこひはや

家の歌合に忍恋の心を       後京極摂政

   新

0836 <>らすなよ雲ゐるの初しくれこの葉は下に色かはるとも

題しらす             貫之

   古

0837 <>よし野河岩波たかく行水のはやくそ人を思ひそめてし

藤原勝臣

   同

0838 <>しら波の跡なきかたに行舟もかせそたよりのしるへ也ける(63オ)

 

源重之

   新

0839 <>筑波山はやましけ山しゝれとおもひ入にはさはらさりけり

よみ人しらす

   拾

0840 音にきく人にこゝろをつくはねのみねと恋しき君にも有かな

貫之

   古

0841 世中はかくこそ有けれくかせのめにみぬ人も恋しかりけり

元方

   同

0842 たよりにもあらぬおもひのあやしきは心を人につくる也けり

右近馬場のひをりの日物見ける車に女のかほのほの

かにえ侍けれはつかはしける   業平朝臣

   古

0843 <>見すもあらす見もせぬ人の恋しくはあやなくけふや詠くらさん

返し               よみしらす

   同

0844 <>知しらぬ何かあやなくわきていはおもひのみこそしるへ也けれ(63ウ)

 

女につかはしける         清慎公

   拾

0845 <>あな恋しはつかに人をみつの泡の消かへるともしらせてしかな

返し               中納言更衣

   同

0846 なかゝらしとおもふ心は水の泡にかそふる人のたのまれぬ哉

贈皇后宮に初てつかはしける    後朱雀院御製

   後

0847 <>ほのかにもしらせてしかなるかすみ霞のうちにおもふこゝろは(は$

女につかはしける         実方朝臣

   同

0848 <>かくとたにえやはいふきのさしも草さしもしらしなもゆる思ひを

題しらす             和泉式部

   同

0849 下ゆる雪まの草のめつらしくわかおもふ人にあひみてしかな

忠岑

   古

0850 春日野の雪まを分て生出くる草のはつかに見えし君

よみ人しらす

    諸本此哥ナシ〈朱〉」(64オ)

 

業平朝臣

   新

0851 春日野の若紫のすり衣しのふのみたれかきりしられす

寂然法師

   千

0852 <>みちのくのしのふもちすりしのひつゝ色には出しみたれもそする

河原左大臣

   古

0853 <>陸奥のふもちすり誰ゆへにみたれそめにし我ならなくに

忍恋の心をよませ給ける     院御製

   新

0854 わか恋はまきの下葉にもるしくれぬるとも袖の色に出めや

題しらす             人麿

   同

0855 <>石上ふるのわさ田の穂にはいてす心のうちにこひやわたらん

中納言朝忠

   同

0856 人伝にしらせてしかなかくれぬのみこもりにのみ恋やわたらん

よみ人しらす(64ウ)

 

   古

0857 <>うきくさのうへはしけれる淵なれやふかきこゝろを知人のなき

小野美材

   同

0858 わか恋はみやまかくれの草なれやしけさまされとしる人のなき

中納言家持

   新

0859 足引の山のかけくさ結ひ置てこひやわたらん逢よしをなみ

人丸

   同

0860 あしの山田庵にくかの下こかれつゝわかこらくは

友則

   

0861 河の瀬になひく玉ものみかくれて人にしられぬ恋もする哉

よみ人しらす

 <青>

0862 根はふうきはうへこそつれなけれしたえならす思ふ心を

謙徳公

   拾

0863 かくれぬの下のこゝろそうらめしきいかにせよとてつれなかるらん(65オ)

 

参議等

   撰

0864 <>東路のさの舟はしかけてのみおもひわたるをしる人のなき

久恋と云心を読せ給ひける     院御製

   新

0865 おもひつゝへにける年のかひやなきたゝあらましの夕暮の空

百首の歌の中に忍恋        式子内親王

   同

0866 <>わすれてはうちなけかるゝ夕かなわれのみしりて過る月日を

   同

0867 <>わか恋はしる人もなしせく床の涙もらすなつけの

題しらす             参議等

   撰

0868 <>浅茅生のをのゝしの原しのふれとあまりてとか人の恋しき

後法性寺入道前関白太政大臣家百首よみける時

忍恋               皇太后宮大夫俊成

   新

0869 ちらすなよしのゝ草のかりにても露かゝるへき袖の上かな(な$

題しらす             西行法師(65ウ)

 

   同

0870 おもひしる人ありあけのよなりせはつきせす身をは恨みさらまし

家に百首歌読ける時        入道前関白太政大臣

   同

0871 <>しのふるに心のひまはなけれとも猶もるものは涙なりけり

皇太后宮大夫俊成

   千

0872 <>ともしする山かすその下露や入より袖はかくしるらん

   同

0873 <>いかゝせ室の八しまに宿もかな恋のけふりを空にまかへん

題しらす             よみ人しす

   同

0874 <>いかにせん原につむ芹のねにのみなけと知人のなき

後京極摂政家百首歌よませ侍けるに恋歌

高松院右衛門佐

   新

0875 よそなからあやしとたにもおもへかし恋せぬ人の袖の色

女につかはしける         清慎公

拾少 <青>

0876 <>人しれぬおもひは年もへにけれとわれのみしるはかひなかりけり(66オ)

 

題しらす             読人不知

 <青>

0877 恋といへはおなし名にこそおもふらめいかて我身を人にしらせん

大嘗会の御禊見侍けるわらはを後に尋てつかはしける

寛祐法師

 <青>

0878 <>あまたみし豊のの諸人の君しも物をおもはするかな

左大将朝光五節の舞姫奉けるかしつきをみてしける 

大納言公任

   新

0879 つ空とよのあかりにし人の猶面影のして恋しき

みくしけ殿のへたうにつかはしける

権中納言

   撰

0880 <>いかにしてかくおもふてふことをたに人伝ならて君にしらせん

とて             輔仁親王

   千

0881 いかにせおもひを人にそめから色に出しとしのふこゝろを(66ウ)

 

女につかはしける         貫之

0882 色なはうつる斗も染てましおもふこゝろをしる人のなき<青> えやは見せける)

   撰

天暦御時内裏歌合に        忠見

0883 恋すてふ吾名はまたき立にけり人しれすこそ思ひしか

平兼盛

   同

0884 <>忍ふれと色に出にけりわかこひは物やおもふと人のとふまて

崇徳院に百首歌奉ける時恋歌    左京大夫顕輔

   千

0885 <>おもへともいはての山にとしをへて朽やはてなん谷の埋木

題しらす             よみ人しらす

拾少

0886 <>逢事まつにて年のへぬる哉身は住江に生ぬ物ゆへ

百首歌奉ける時          前大僧正慈円

   新

0887 <>わかこひは松をしくれのそめかねて葛か原に風さく也

題しらす             人しらす(67オ)

 

   古

0888 種しあれは岩にも松は生にけり恋をこひはあはさらめや

   同

0889 <>夕つくひさすやおかへの松のはのいつともぬ恋もするかな

   同

0890 <>ゆふくれは雲のはたてに物そおもふ天つ空なる人をこふとて

   同

0891 かりこものおもひ乱てわか恋といもしるらめや人しすは

   同

0892 <>つれもなき人をやねたくしら露のをくとは歎きぬとは忍は

   同

0893 <>千早振かもの社のゆふたすきひとひも君をかけぬ日はなし

   同

0894 <>わか恋はむなしきそらにみちぬらしおもひやれとも方もなし

   同

0895 するかなる田子のうら波たゝぬ日はあれとも君をこひぬ日

   同

0896 いてわれを人なとかめそ大のゆたのたゆたに物おもふ

   同

0897 <>伊勢の海につりするあまのうけなれや心ひとつを定めかねつる

   同

0898 いせの海のあまのつりなは打はへてくるしとのみや思ひわたらん

                      躬恒

   撰

0899 <>いせの海にやくあまの藤衣なるとはすれとあはぬ君かな(67ウ)

 

     返しせぬ女のこと人にやると聞て  道命法師

   後

0900 <>しほたるゝわか身のかたはつれなくてこと浦にこそ煙立け

     題しらす             道信朝臣

   新

0901 <>すまの海士の波かけ衣よそにのみきくは我身に成にける哉

                      元方

   古

0902 逢事のなきさにしよる波なれうらみてのみそ立帰りける

                      坂上郎女

   拾少 恋五<青> しかの浦の<青>

0903 志賀の海士のつりにともせるいさり火のほのかに人をるよしもかな

                      紀内親王

   撰

0904 <>津の国の名にはたゝまくおしみこそすくもたく火の下にこかるれ

     崇徳院に百首歌奉ける時恋歌    清輔朝臣

   千

0905 <>難波女のすくもく火の下こかれうへはつれなき我身也けり

     たいしらす            貫之(68オ)

 

     

0906 津国の難波の芦のめもはるにしけきわか恋人しるらめや

                      よみ人しらす

   

0907 つのくにの難波おもはす山城のとはにあひみんをのみこそ

                      伊勢

   新

0908 <>難波かき芦のふしのもあはて此世をしてよとや

     崇徳院に百首歌奉ける時      清輔朝臣

   千

0909 逢ことはいなさ細江のみをつくしふかきしるしもなき世也けり

     恋の歌とて読侍ける        花園左大臣

   同

0910 たよりあらは海士の釣舟ことつてん人をるめにもとめ侘ぬと

                      殷富門院大輔

   新

0911 もらさはやおもふこゝろをさてのみはえそ山しろの井手のしからみ

     題しらす             中納言兼輔

   同

0912 <>みかのはらわきてなかるゝいつみいつみきとてか恋しかるらむ」(68ウ)

 

                      坂上是則

   同

0913 そのはらやふせやに生るはゝゝのありとはあはぬ君哉

                      藤原高光

   同

0914 <>年をへておもふこゝろのしるしにそ空もたよりの風は吹ける

                      よ人しらす

   拾 <青>

0915 玉江こくこも刈舟のさしはへて波もあらはあはんとそ思ふ

                      人麿

   同万

0916 みくまのゝ浦のはまゆふもゝへなるこゝろはおもへとたゝにあはぬかも

                      よみ人しらす

   新

0917 うとはまのうとくてのみや世をはへん波のよる/\あひみてしかな

   同

0918 東路のみちのはてなるひたち帯のかことはかりもあはんとそおもふ

                      友則

   古

0919 <>あつまちのさやの中山なか/\にしか人をおもひそめけん(69オ)

 

     女につかはしける         実方朝臣

   拾

0920 我ためはたなゐの清水ぬるけれと猶かきやらんてはすむやと

     返し               よみ人しらす

   同

0921 かきやらはにこりこそせめ浅きのみくつは誰かすませてもみん

     冷泉院みこの宮と申ける時さふらひける房を

     かはしていひわたり侍ける比ならひしける所にまか

     りて物に書付侍ける        謙徳公

   新

0922 つらけれとうらみんとはたおもほえ猶行さきをむこゝろに

     返し               よみ人しらす

   同

0923 雨こそはたのまもらめたのますは思はぬ人とみてやゝみ

     里はいつくそととひけれは     本院侍従

   同

0924 わかやとはそことも何かをしふへきいはてこそみめたつねけりやと

     返し               忠義公(69ウ)

 

   同

0925 わかおもひ空のけふりと成ぬれは雲なからも猶たつねみん

     題しらす             藤原惟成

   同

0926 風吹は室の八しまの夕けふりこゝろの空に立にける哉

     百首歌奉ける時          二条院讃岐

   

0927 みるめこそ入ぬる磯の草ならめ袖さへ波のしたに朽ぬる

     恋のとて読侍ける        俊頼朝臣

   同

0928 君こふなるみの浦のはま楸しれてのみもとしをふる哉

                      藤原秀能

   同

0929 もしほやくあまの磯やの夕けふりたつもくるし思ひ消なて

     後京極摂政家の歌合に       家隆朝臣

   同

0930 <>不二の根のけふりも猶そ立のほるうへなき物はおもひ也けり

                      参議定家

   同

0931 <>としもへぬいのる契りははつ山をのへのかねのよその夕暮(70オ)

 

     権中納言俊忠家恋十首歌読侍けるに祈恋の心を

                      俊頼朝臣

   

0932 うかりける人を初瀬の山おろしよはけしかれとはいのらぬものを

     九十九首〈朱〉」(70ウ)

 

   巻第十二 

    恋歌二

     百首歌めしける時         崇徳院御製

   詞

0933 <>瀬をはやみ岩にせかるゝ河のわれても末にあはんとそ思

     人の尋侘てうせにたるかとおもひつるといへりけれは

                      伊勢

   撰

0934 <>おもひ河たえすなかるゝ水の泡のうたかた人にあはて消めや

     堀院に百首歌奉時 不逢恋

     権中納言公実

   千

0935 <>おもひあまり人にとはゝや水瀬河むすはぬ水に袖はぬるやと

     後京極摂政家歌合に        寂蓮法師

   新

0936 <>ありとてもあはぬためしの名とり河くちたにはてねゝの埋木

     百首歌奉ける時          二条院さぬき(71オ)

 

   

0937 <>涙河瀧つこゝろのはやきをしからみかけてせく袖そなき

     家歌合に             後京極摂政

   同

0938 幾われ波にしれてきふね河袖に玉ちる物おもふらん

     たいしらす            藤原親盛

   千

0939 おもひせくこゝろのうちのしからみもたへすなりぬるなみた河かな

                      読人不知

   古

0940 あふさかの関になかるゝ岩清水いはてこゝろにおもひこそすれ

   同

0941 <>なみた河なに水上をたつねけん物おもふ時の我身なりけり

   拾少

0942 恋わひぬねをたになかん声たてゝいつこなるらん音なしの瀧(里イ)

                      元輔

   

0943 音なしの河とそつになかれるいは物おもふ人のなみたは

                      よみ人しらす

   同

0944 <>大井河くたすいかたのみなれさみなれぬ人も恋しかりけり(71ウ)

 

                      人丸

   同

0945 水底におふる玉ものなひきこゝろをよせておもふ此比

   同

0946 <>おく山の岩かきぬまのみこもりにひやわたらんあふよしをなみ

                      よみ人しらす

   古

0947 <>あさな/\立河霧のそらにのみうきておもひのある世也けり

   撰

0948 河とてわたら中になかるゝはいはて物おもふ涙なりけり

   拾

0949 木幡河こはたかいひしことの葉そなき名すゝかん瀧瀬もなし

                      人丸

   同

0950 <>なき名のみたつの市とはさけともいさまた人をうるよしもなし

   同

0951 <>竹の葉にをきゐる露のまろひあひてぬるとはなしに立我名哉

     女につかはしける         貞元親王

   撰

0952 大かたはなそやわか名のおしからんむかしのつまと人にかたらん

     返し               おほつふね

   古恋三

0953 人はいさわれなき名のおしけれはむかしも今もしらすとをいはん(72オ)

   撰恋二

 

     二月はかり月あかき夜二条院にて人物語なとし

     侍けるに周防内侍よりふして枕もなといふを聞て

     大納言忠家是を枕にとてかひなをさし入て侍けれは

                      周防内侍

   千

0954 春のよの夢はかりなる手枕にかひなくたゝん名こそおしけれ

     返し               大納言忠家

   同

0955 契り有て春のよふかき手枕をいかゝかひなき夢になすへき

     寄石恋といふ心を         二条院さぬき

   同

0956 <>我袖は汐にみえぬ沖の石の人こそしらねかくまもなし

     題しらす             俊恵法師

   同

0957 <>夜もすから物おもふ比は明やらぬ閨のひまさへつれなかりけり

                      読人不知

   拾少

0958 おもひきやわか人はよそなからたなはたつめのあふをみんとは(72ウ)

 

     崇徳院に百首歌奉ける時 恋歌

    大炊御門右大臣

   新

0959 わか恋はちきのかたそきかたくのみ行あはてのつもりぬる哉

     題しらす             人丸

   拾万

0960 <>乙女子か袖ふる山のみつかきの久しき代よりおもひそめてき

     堀河院に百首歌奉ける時 恋歌

    基俊

   千

0961 <>木間よりひれふる袖をよそにていかゝはすへき松浦さよ姫

     たいしらす            よみ人しらす

   古

0962 行水に数かくよりもはかなきはおもはぬ人をおもふなりけり

     つりとのゝみこにつかはしける   陽成院御製

   撰

0963 つくはねのよりおつるみなの河恋そつもりて淵と成ける

     崇徳院に百首歌奉ける時      待賢門院堀河(73オ)

 

   千

0964 <>あら磯の岩にくたくるなれやつれなき人にかくるこゝろは

                      紀貫之

   撰

0965 玉のの絶てみしかき心もて年月なか恋もするかな

     題しらす             重之

   詞

0966 <>風をいたみ岩うつ波のをのれのみくたけてをおもふ比哉

                      曾禰好忠

   新

0967 <>由良の戸を渡る舟人梶をたえ行もしらぬ恋の道哉

     百首奉ける時          後京極摂政

   同

0968 <>梶をたえ由良の湊による舟のたよりもしらぬおきつ塩風

                      式子内親王

   同

0969 <>しるへせよ跡なきにこく舟の行もしらぬ八重の

     題しらす             清正

   同

0970 <>須磨の浦に海士のこりつむもしほ木のからくも下にもえ渡哉(73ウ)

 

     五十首歌奉ける時寄雲恋      俊成卿女

   同

0971 したもえにおもひ消なん煙たにあとなき雲のはてそかなしき

     後京極摂政家歌合に        参議定家

   同

0972 <>なひかしなあまのもしほたき初て煙は空にくゆりわふとも

     たいしらす            元方

   古

0973 <>たちかへりあはれとそおもふよそにても人にこゝろを沖つしら波

                      叡覚法師

   後拾

0974 木葉ちる山のした水のうつもれてなかれもやらぬ物をこそおもへ

                      馬内侍

   同

0975 <>いかなれはしらぬに生るうきぬなはくるしや心人しれすのみ

     女につかはしける         謙徳公

   新

0976 <>唐衣袖に人めはつゝめともこほるゝものはなみた也にけり

     百首歌の中に           式子内親王(74オ)

 

   

0977 <>玉のよ絶えなはたえねなからへは忍ふることのよりもそする

                      友則

   古

0978 下にのみこふれはくるし玉のをのたえて乱れん人なとかめそ

                      よみ人しらす

   新

0979 あふことのなみの下くさみかくれてしつこゝろなくこそなかるれ

   古

0980 大かたは我名もみなとこき出なんよをうみへたにみるめすくなし

                      貞文

   同

0981 枕より又しる人もなき恋をなみたせきあへすらしつる哉

                      人丸

   同

0982 かせ吹はうつ岸の松なれやねにあらはれて鳴ぬへらなり

                      読人不知

   拾少

0983 なけきあまりつに色にそ出ぬへきいはぬを人のらはこそあらめ

                      素性法師(74ウ)

 

   古

0984 <>音にのみきくのしら露よるはをきてひるはおもひにあへすけぬへし

     崇徳院に百首歌奉ける時      左京大夫顕輔

   千

0985 <>高砂の尾上の松をふくかせの音にのみやは聞渡るへき

     堀御時人の艶書をめして女歌よみの

     もとへつかはし返しをめし御らんしける中に

                      祐子内親王家紀伊

   金

0986 <>音にきく師のはまのあた波はかけしや袖のぬれもこそすれ

     題しらす             元方

   古

0987 <>音羽山をとにきゝつゝあふ坂の関のこなたに年をふるかな

                      よみ人しらす

   同

0988 わか園ののほすゑにうくひすの音になきぬへき恋もする

                      宮道高風

   撰

0989 春の池の玉もにあそふ鳰鳥のあしのいとなき恋もするかな(75オ)

 

                      読人不知

   拾

0990 いつかともおもはぬ沢のあやめくさたゝつく/\とこそなかるれ

   古

0991 <>ほとゝきす鳴やさ月のあやめくさあやめもしらぬ恋もする哉

   同

0992 あしひきの山ほとゝきすわかことや君にこひつゝいねかてにする

   同

0993 夏なれはやとにふすふる蚊火のいつまて我身下もえにせん

   撰

0994 <>つゝめともかくれぬ物は夏むしの身よりあまれるおもひ也けり

     後京極摂政家歌合に夏恋の心を

   寂蓮法師

   新

0995 <>おもひあれは袖に蛍をつゝみてもいはゝや物をとふ人はなし

     題しらす             友則

   古

0996 <>夕されは蛍よりけにもゆれともひかりみねはや人のつれなき

                      よみ人しらす

   撰

0997 <>打はへて音をなきくらす空蝉のむなしき恋もわれはする哉(75ウ)

 

後京極摂政

   新

0998 <>空蝉のなくねやよそにもりの露ほしあへぬ袖を人のとふまて

八条院高倉

   同

0999 つれもなき人のこゝろうつ蝉のむなしき恋に身をやかへてん

大納言重光

   撰

1000 是をよ人もすさめぬ恋すとてをなく虫のなれる姿を

よみ人しらす

   古

1001 人しれすおもへはくるしくれなの末つむ花の色にいてなん

   同

1002 <>秋のゝの花にましり咲花の色にやこひん逢よしをなみ

小野春風

   同

1003 <>花すゝきほにいてゝ恋は名をおしみしたゆふひものむすほゝれつゝ

中納言家持

   新古

1004 <>秋はきの枝もとをゝにをく露のけさ消ぬとも色に出めや(76オ)

 

貞数親王

1005 人しれす物おもふ比のわか袖は秋の草葉におとらさりけり

よみ人しらす

   

1006 <>風さむみ声よく虫よりもいはて物おもふ我そまされる

友則

   古

1007 我やとの菊のかきねにをくしもの消かへりてそ恋しかりける

忠岑

   同

1008 かきくらしふる白雪の下きえにきえて物おもふ比にも有哉

能宣朝臣

   詞

1009 かき守衛士のく火の夜はもえひるは消つゝ物をこそおもへ

院に百首歌奉ける時 忍恋の心を

 俊頼朝臣

   千

1010 <>あさてほす東乙女のかやむしろしきしのひてもすくる比哉(76ウ)

 

同御時              権大納言公実

   同

1011 <>みつ塩の末葉をあらふみたれの君をそおもふうきし沈みつゝ

家に歌合し侍ける恋歌       権大納言俊忠

   同

1012 吾こひはあまのかるもにみたれつゝかく時なき波の下草

題しらす             読人不知

   新

1013 <>よそにのみ見てやゝみなん葛まの山の峰のしら雲

千五百番歌合に          権大納言通具

   同

1014 わか恋はあふを限りのたのみたに行ゑもしらぬ空の浮雲

たいしらす            躬恒

   古

1015 我恋は行もしらすはてもなしあふをかきりとおもふ斗そ

相模

   後

1016 逢ことのなきよりかねてつらけれはさもあらましにぬるゝ袖哉

凡河内躬恒(77オ)

 

   古

1017 たのめつゝあはて年ふる偽りにこりぬこゝろを人はしらな

皇太后宮大夫俊成

   新

1018 うき身をは我たにいといとへたゝそをたに同し心と思は

殷富門院大輔

   同

1019 あすしらぬ命をそおもふをのつからあらはあふ夜を待につけても

よみ人しらす

   拾

1020 <>いかにしてしはし忘ん命たにあらはあふよのありもこそすれ

   古

1021 <>かた糸をこなたかなたによりかけてあはすは何を玉のにせん

興風

   同

1022 しぬる命いきもやするとこゝろみに玉の緒斗あはんといは

友則

   同

1023 命やは何そは露のあた物をあふにしかへはおしからなくに

よみ人しらす(77ウ)

 

   同

1024 おもふにはしのふることそまけにける色には出しと思ひし物を

女四のみこにつかはしける     九条右大臣

   拾

1025 沢にのみ年はへぬれとあしたつの心は雲の上にのみこそ

題しらす             よみ人しらす

   古

0126 わか恋を(はイ)人しるらめや敷妙の枕のみこそしらはしるらめ

   同

1027 人しれぬおもひやなそとかきのまちかけれともあふよしのなき

藤原惟成

拾少

1028 人しれす落る涙のつもりつゝ数かく斗なりにける哉

大伴百世

1029 恋しな後は何せいけるのためこそ人のみまくほしけれ

後法性寺入道前関白家歌合 恋歌

   皇太后宮大夫俊成

   千

1030         逢事は身をかへてとも待へきをよゝをへたてん程そかなしき(78オ)

 

題しらす             読人不知

   古

1031 こん世にもはや成なゝんめのまへにつれなき人を昔と思はん

   同

1032 おふともこふともあはん物なれやゆふもたゆくとくる下紐

貫之

   同

1033 敷島の大和にはあらぬ唐衣ころもへすして逢よしも

在原元方

   撰

1034 こひしとは更にもいはし下紐のとけんを人はそれとしら

権中納言俊忠家恋十首歌よみ侍ける来不留

恋のこゝろを           俊頼朝臣

   金

1035 <>おもひ草葉末にむすふ白露のたま/\きては手にもたまらす

後白院御時殿上歌合に臨期違約と云心を

皇太后宮大夫俊成

   千

1036 <>おもひきやしちのはしかきかきつめて百夜も同しまろねせんとは

     百四首〈朱〉」(78ウ)

 

巻第十三

     女につかはしける         大中臣能宣朝臣

拾少

1037 あふ事を待し月日の程よりもけふの暮こそ久しかりけれ

恋の歌とて読侍ける        八条院高倉

   新

1038 いかゝ吹身にしむ色のかはる哉たのむる暮の松かせの声

式子内親王

   同

1039 <>あふことをけふ松かの手向草いくよしるゝ袖とかはしる

寄浦恋と云心を          二条院内侍三河

   千

1040 待かねてさよも更ゐうらかせにたのまぬの音のみそする

院に百首歌奉ける時 初逢恋

俊頼朝臣

   新

1041         あしののしつはた帯のかたみすひこゝろやすくも打とくる哉(79オ)

 

後朝の心を            二条院さぬき

   

1042 明ぬれとまたきぬ/\に成やらて人の袖をもぬらしつる哉

たいしらす            大納言国経

   古

1043 あけぬとて今はのこゝろつくからになといひしらぬ思そふ

女のもとより帰りてつかはしける  道信朝臣

   後

1044 帰るさの道やはかはるかはらねとゝくるにまよけさの淡雪

   同

1045 <>あけぬれはくるゝ物とは知なから猶うらめしき朝ほらけかな

題しらす             よみ人しらす

拾少

1046 身をつめは露をあはれとおもふかなあかつきことにいかて置らん

貫之

撰又拾

1047 <>暁のなからましかは白露のおきて侘しきわかれせましや

源頼綱

   後

1048 いにしへの人さへけさはつらきかなあくれはなとか帰りそめけん(79ウ)

 

藤原義孝

   同

1049 君か為しからさりし命さへなかくもかなとおもひけるかな

家に百首よみ侍ける時後朝恋の心を 後法性寺前関白太政大臣

   千

1050 帰りつる名残のそらをなかむれはなくさめかたき有明の月

皇太后宮大夫俊成

   同

1051 わするなよ代ゝの契をすか原やふしみの里の有明のそら

崇徳院に百首歌奉ける時      待賢門院堀河

   同

1052 からこゝろもしらすくろ髪のみたれてけさは物をこそおもへ

あふみの更衣につかはしける    延喜御製

   新

1053 <>はかなくも明にけるかなあさ露のおきての後そ消まさりける

御返              更衣源周子

   同

1054 <>朝露のおきつるそらもおもほえすきえかへりつる心まと(ならイ)ひに

みくしけ殿につかはしける     権中納言敦忠(80オ)

 

   撰

1055 けふそへにさらめやはとおもへともたへぬは人のこゝろ也けり

題しらす             西行法師

   新

1056 <>俤のわすらるましきわかれかな名残を人の月にとゝめて

花山院御製

   同

1057 <>あさほらけをきつる霜の消かへり暮まつ程の袖をみせはや

源正清朝臣

   同

1058 <>こひしさにけふそ尋ぬるおく山の日かけの露に袖はぬれつゝ

題しらす             道信朝臣

   後

1059 たまさかに行あふ坂の関もりは夜をとさぬそわひしかりける

実方朝臣

   新

1060 明かたきふた見の浦による浪のそてのみぬれて奥つ

読人不知

   古

1061 むは玉のやみのうつゝはさたかなる夢にいくらもまさらさりけり(80ウ)

 

躬恒

   同

1062 なかしともおもひもはてぬ昔よりあふ人からの秋のよなれは

実方朝臣

   新

1063 中/\に物おもひめてねぬる夜ははかなき夢もえやはみえける

   同

1064 おきて見は袖のみぬれていとゝしく草葉の玉の数やまさらん

業平朝臣

   古

1065 おきもすねもせてよるをあかしては春のものとて詠くらしつ

貫之

1066 <>百羽かきはねかく鴫も我ことくあした侘しき数はまさらし

恋十五首歌合に          参議定家

   新

1067 白妙の袖のわかれに露おちて身にしむ色の秋かせそふく

女のもとにとまりて侍けるにひるは見くるしとて出侍

さりけれは            道信朝臣(81オ)

 

1068 ちかの浦によせかくるこゝちしてひるまなくてもくらしつる哉

たいしらす            忠岑

   古

1069 <>有明のつれなくみえし別よりあかつきはかりうき物はなし

後法性寺入道前関白家歌合に    皇嘉門院別当

   千

1070 <>難波江のあしのかりねの一夜へ身を尽してや恋渡るへき

題しらす             伊勢

   撰

1071 みしゆめのおもひ出らるゝよひことにいはぬをしるは涙也けり

権中納言敦忠

拾少

1072 あひみてのゝちのこゝろにくらふれはむかしは物を思はさりけり

千五百番歌合に          後京極摂政

   新

1073 身にそふるその俤も消なゝ夢なりけりとわするはかりに

権大納言通光

   同

1074 <>詠わひぬそれとはなしに物そおもふ雲のはたての夕くれのそら(81ウ)

 

題しらす             二条院讃岐

   千

1075 <>一夜とてよかれし床の小莚にやかてもちりのつもりぬる哉

相模

1076 たのむるをたのむへきにはあらねとも待とはなくてまたれもやせん

1077 なかめつゝことありかほにくらしてもかならす夢のみえはこそあらめ

赤染衛門

1078 <>休らはてねなまし物を小夜更てかたふくまての月をみしかな

読人不知

1079 君こんといひし夜ことに過ぬれはたのまぬものゝ恋つゝそぬる

1080 <>さむしろに衣かたしき今宵もやわれを待らん宇治の橋姫

人麿

1081 ゆふけとふうらにもよくありこよひたにこさらん君をいつか待へき

参議定家(82オ)

 

   新

1082 あちきなくつらき嵐の声もうしなと夕暮にまちならひけむ

よみ人しらす

   古

1083 から衣日も夕暮になる時はかへす/\そ人はこひしき

   同

1084 <>よひ/\に枕さためんかたもなしいかにねしよか夢にみえけむ

西行法師

   新

1085 たのめぬに君くやと待よひのの更ゆかてたゝ明なましかは

入道摂政門をたゝかせ侍けるにをそく明けれはたち

わつらひぬと侍けれは       右大将道綱母

拾少雑

1086 <>歎きつゝひとりぬる夜のあくるまはいかに久しき物とかはしる

敦道のみこまうて来ける門をあけさりけれは侍ける朝に

和泉式部

後雑二

1087 長しとて明けすやはあらん秋の夜はまてかしのと斗をたに

題しらす             参議定家(82ウ)

 

   新

1088 <>かへるさの物とや人のなかむらん待よなからの有明のつき

よみ人しらす

   古

1089 <>名取河瀬ゝの埋木あらはれはいかにせんとかあひみめけむ

人丸

   拾

1090 杉板もてふけるいたのあはさらはいかにせんとかわかねけん

よみ人しらす

   古

1091 池にすむ名をゝし鳥の水をあさみかへるとすれとあらはれにけり

   同

1092 むら鳥の立にしわか名今更にことなしふともしるしあらめや

儀同三司母

   新

1093 <>忘れしの行末まてはかたけれはけふを限りのいのちとも哉

業平

   同

1094 おもふにはしのふる事そまけにけるあふにしかへはさもあらはあれ

中納言国信につかはしける     前斎院新肥前(83オ)

 

   千

1095 <>あつま屋のあさの柱われなからいつふし馴て恋しかるらん

題しらす             春道列樹

   古

1096 梓弓ひけは本末わかかたによるこそまされ恋のこゝろは

貫之

   同

1097 手もふれて月日へにけしらま弓起よるはいこそねられね

藤原仲実朝臣

   金

1098 三か月のおほろけならぬ恋しさにわれてそ出る雲の上より

小大君

拾少

1099 ふらぬ夜のこゝろをしらて大空の雨をつらしとおもひける哉

崇徳院百首歌奉ける時       上西門院兵衛

   千

1100 何せんに空たのめとて恨けんもひたえたる暮も有けり

題しらす             よみ人しらす

   古

1101 宮城のゝもとあらの小萩露をもみ風を待こと君をこそまて(83ウ)

 

   同

1102 君やこんわやゆかんのいさよひに槙のいた戸もさゝすねにけり

   同

1103 月よゝしよゝしと人に告やらはこてふにゝたりまたすしもあらす

素性法師

   同

1104 <>今こんといひしはかりに長月の有明の月を待出つる哉

和泉式部につかはしける      太宰帥敦道親王

   新

1105 秋の夜の有明の月の入まてに休らひかねて帰りにしかな

題しらす             清少納言

   詞

1106 よしさらはつらさはわれにならひけりたのめてこぬは誰かをしへし

三条右大臣

   撰

1107 <>名にしおはゝあふ坂山のさねかつら人にしられてくるよしもかな

左京大夫道雅

   後

1108 相坂は東路とこそ聞しかとこゝろつくしの関にそ有

業平朝臣(84オ)

 

   古

1109 人しれぬわかかよひの関守はよひ/\ことに打もねなゝ

左京大夫道雅

   後

1110 榊葉やゆふしてかけてそのかみにをしかへしてもたる比かな

   同

1111 <>今はたゝおもひ絶なんと斗を人つてならていふよしもかな

   同

1112 みちのくのをたえの橋や是ならんふみゝふますみ心まとはす

よみ人しらす

   撰

1113 <>なき名そと人にはいひて有ぬへしこゝろのとはゝいかゝこたへん

戒仙法師

   同

1114 あな恋し行てやみまし津のくにの今もありてふ浦のはつ

惟喬親王

   同

1115 あふ事のかたそとはしりなからたまの斗何によりけん

天徳四年内裏歌合に        中納言朝忠

拾少

1116        逢ことのたえてしなくは中/\に人をも身をも恨みさらまし(84ウ)

 

題しらす             よみ人しらす

   古

1117 <>あふことは玉のはかり名のたつはよしのゝ河のつせのこと

   新

1118 <>雲のるとを山鳥のよそにてもありとしきけは侘つゝそぬる

   同

1119 ひるはきてよるはわかるゝ山鳥のかけみる時そはなかれける

元良親王

   撰

1120 <>あふことはとを山とりのかり衣きてはかひなき音のみそなく

人麿

1121 <>足曳の山とりの尾のしたりのなか/\し夜を独かもねん

光孝天皇御製

   新

1122 <>涙のみうき出る海士のつりさのなかきよすから恋つゝそぬる

   古

1123 君こふるの床にみちぬれはみをしとそわれは成ける

女につかはしける         敏行朝臣(85オ)

 

   同

1124 つれ/\のなかめにまさる涙河そてのみぬれてあふよしもなし

返し               業平朝臣

   同

1125 浅みこそ袖はひつらめ川身さへなかるときかはたのまん

女にかはりて

   同

1126 かす/\におもひおもはすとひかたみ身をしる雨はふりそまされる

題しらす             よみ人しらす

   同

1127 よるへなみ身をこそとをく隔つれ心は君かかけと成にき

   同

1128 花かたみめならふ人のあまたあれはわすられぬらん数ならぬ

光孝天皇御製

   新

1129 あはすしてふる比ほひの数多あれははるけき空になかめをそする

元真

   同

1130 住よしのこひわすれ草たね絶てなき世にあへるわれそかなしき

読人不知(85ウ)

 

   同

1131 わかよはひおとろへゆけは白妙の袖の馴にし君をしそおもふ

   同

1132 玉くしけ明まくおしきあたら夜を衣てかれて独かもねん

   同

1133 <>大淀の松はつらくもあらなくにうらみてのみもかへる

   拾又古雑

1134 今さらにとふへき人もおもほえす八重むくらして門させりてへ

   

1135 あし引の山のやますけやますのみみねは恋しき君にも有かな

石上乙丸

同少

1136 足曳の山越くれて宿からは妹たちまちていねさらんかも

坂上郎女

同万

1137 岩根ふかさなる山はなけれともあはぬ日数を恋やわたらん

業平朝臣

   古

1138 <>秋の野に篠分し朝の袖よりもあはてこし夜そひちまさり

友則

   同

1139 さゝの葉にをく霜よりも独ぬるわか衣そさえまさりける(86オ)

 

女につかはしける         延喜御製

   新

1140 霜さやく野への草葉にあらねともなとか人めのかれまさる

御返し              よみ人しらす

   同

1141 あさちおふる野へやかるらん山のかきほの草は色もかはらす

題しらす

   古

1142 暁の鴫のはねかきもゝ羽かきみかこぬ夜は我そ数かく

   同

1143 こひしくは下にをおもへむらさきのねすりの衣色にいつなゆめ

   同

1144 君か名もわかもたてし難波なるみつともいふなあひきともいはし

   同

1145 わすらるゝ時しなけれは芦田鶴の思ひ乱て音をのみそなく

   同

1146 こりすまに又もなき名は立ぬへし人にくからぬ世にしすまへは

   新

1147 こひしさにしぬるいのちを思出てとふ人あらはなしとこたへよ

うらむること侍てさらにまうてこしとちかことして

二日斗ありて遣しける      謙徳公(86ウ)

 

   同

1148 わかれては昨日今日こそへたてつれ千世しもへる心ちのみする

返し               恵子女王

   同

1149 きのふともけふともしらす今はとて別し程の心まとひに

題しらす             読人しらす

   古

1150 あかてこそおもはん中ははなれなめそをたに後の忘かたみに

   同

1151 忘なんとおもふこゝろのつくからにありしよりけに先そかなしき

   新古

1152 わするらんと思ふこゝろのうたかひにありしよりけに物そかなしき

前大納言忠良

   千

1153 <>わすれぬやしのふやいかにあはぬのかたみとし明くれの空

よみ人しらす

   新

1154 うきなから人をはえしもわすれねはかつうらみつゝ猶そ恋しき

入道摂政久しくまうてこさりける比ひんかきて出侍

けるゆするつきの水入なら侍けるを見て(87オ)

 

右大将道綱母

   

1155 <>絶ぬるか影たにみえはとふへきをかたみの水はみくさゐにけり

中納言定頼につかはしける     大和宣旨

   同

1156 はる/\と野中にみゆる忘水たえま/\を歎く比かな

題しらす             大納言忠家

   後

1157 いか斗うれしからまし面影みゆる斗のあふ夜なりせは

女につかはしける         皇太后宮大夫俊成

   新

1158 よしさらはのちの世とたにたのめをけつらさにたへぬ身ともこそなれ

返し               参議定家母

   同

1159 たのめをかんたゝさはかりを契りにて浮世中の夢になしてよ

     百二十三首〈朱〉」(87ウ)

 

巻第十四

    恋歌四

     題しらす             読人しらす

   古

1160 <>みちのくのあさかの沼の花かつみかつみる人に恋やわたらん

   拾

1161 まきもくのひはらの霞ちかへりかくこそはみめあかぬ君哉

   古

1162 いしま行水のしら波立かへりかくこそはみめあかすもかな

   同

1163 伊勢の海の朝な夕なにかつくてふみるめに人をあくよしもかな

人麿

拾万

1164 ますかゝみにとりもちて朝な/\みれともにあく時そなき

   同

1165 難波人芦火くやはすゝたれとをのかこそとこめつらなれ

実方朝臣

   同

1166 時のまもこゝろはそらになるものをいかてすくしゝ昔なるらん

忠岑(88オ)

 

   撰

1167 おもふてふことをそねたくふるしける君にのみこそいふへかりけれ

友則

   古

1168 よひ/\にぬきてわかぬるかり衣かけておもはぬ時のそなき

人麿

拾万

1169 住よしの岸にむかへる淡路あはれと君をいはぬ日そなき

1170 あら磯のほか行浪のほかこゝろわれはおもはし恋はしぬとも

隔河恋といふことを        従三位頼政

   千

1171 山城のみつのゝ里に妹を置て幾度淀のふねよはふらん

よみ人しらす

   古

1172 飛鳥川渕はせになる世なりともおもひそめてん人はれし

   同

1173 あな恋し今もみてしか山城(かつ)のかきほにさける大和なてしこ

天暦御製

   拾

1174 山城のかきほにおふるなてしこにおもひよそへぬ時のまそなき(88ウ)

 

藤原忠行

   古

1175 君といへはまれみすまれ富士のねのらしけなくもゆる我恋

読人しらす

   同

1176 みても又またもみまくのほしけれはなるゝを人はいとふへらなり

   拾

1177 あやしくもいとふにはゆるこゝろかないかにしてかは思ひ絶へき

   古

1178 いたつらに行ては来ぬる物ゆへにみまくほしさにいさなはれつゝ

人麿

拾万

1179 とにかくに物はおもはひたゝくみうつすみなのたゝ一すちに

よみ人しらす

   古

1180 <>堀江こくたなゝし小こきかへりおなし人にやこひわたり南

   同

1181 人こふる(を思ふ本)こゝろはわれにあらねはや身のまとふたにしられさるらん

拾少

1182 おもはすつれなきもつらからしたのめは人をうらみつる哉

大和宣旨(89オ)

 

   後

1183 恋しさをしのひもあへぬ空蝉のうつしこゝろもなく成にけり

読人しらす

   古

1184 <>芦鴨のさく入江の白浪のしらすや人をかくこひんとは

   新

1185 <>おもほえす袖にみなとのさくかなもろこし舟のよりし斗に

   同

1186 妹か袖わかれし日より白妙のころもかたしき恋つゝそぬる

恋のとて読侍ける        前大納言忠良

   千

1187 <>れは皆おもひしことそしよりあはれ名残をいかにせんとは

土御門内大臣

   同

1188 しぬとてもこゝろを分る物ならは君に残して猶や恋まし

二条院中宮と申ける時七月七日に  後冷泉院御製

   後

1189 あふことは七夕つめにかしつれとわたらまほしき鵲のはし

人麿

拾万

1190 たらちねのおやのふこのまゆこもりいふせくもあるか妹にあはす(89ウ)

 

よみ人しらす

同少

1191 たらちねのおやのいさめしうたゝねは物おもふ時のわさにそ有ける

源英明朝臣

   撰

1192 伊勢の海のあまのまてかたいとまなみなからへにける身をそうらむる

よみ人しらす

   新

1193 浦にたくもしほのけふりなひかめや四方のかたより風はふくとも

さかみ

   後

1194 <>やくとのみ枕の下にしほたれてけふりたえせぬ床のうらかな

山口女王

   新

1195 あしへよりみちくるしほのいやましにおもふか君かわすれかねつる

   同

1196 しほかまのまへにうきたるうきのうきておもひのある世也けり

坂上郎女

   拾遺

1197 <>汐みては入ぬるいその草なれや見らくすくなくこふらくのおほき(90オ)

 

参議定家

   新

1198 <>須磨海士の袖に吹こす塩かせのなるとはすれとにもたまらす

よみ人しらす

拾少

1199 八百日行濱の砂と我こひといつれまされり沖

兼盛

同少

1200 さしなから人のこゝろをみくまのゝ浦のはまゆふいくへらん

人麿

1201 <>湊入の芦分小舟さはりおほみわかおもふ人にあはぬ比かな

大伴方見

万拾

1202 磯の上ふるとも雨にさはらめやあはんと妹にいひてしものを

人丸

1203 よそにありて雲にみゆる妹か家にはやくいたらんあゆめ黒駒

元良親王(90ウ)

 

同少又後拾

1204 <>侘ぬれは今はたおなし難波なる身をつくしてもあはんとそおもふ

本院贈太政大臣

   古

1205 もろこしの芳野の山にこもるともをくれんとおもふ我ならなくに

伊勢

   撰

1206 わかたのむよし野に君しいらは同しかさしをさしこそせめ

読人不知

   古

1207 天原ふみとゝろかしなる神もおもふ中をはさくるものかは

天智天皇御製 古今にはよみ人しらすと有

   同

1208 梓弓ひきのゝつゝら末つにわかおもふ人にことのしけゝん

人につかはしける         よみ人しらす

   同

1209 おもふとちひとり/\かこひしなは誰によそへて藤衣き

返し               橘清樹

   同

1210         泣こふる涙に袖のそほちなはぬきかへかてらよこそはきめ(91オ)

 

たいしらす            小町

   

1211 うつゝにはさもこそあらめ夢にさへ人めをよくとみるか侘しき

   同

1212 ゆめちにはあしもやすめすかよへともうつゝに一めみしことはあらす

   同

1213 <>わひぬれはして忘れんとおもへとも夢といふそ人たのめなる

小町

   同

1214 <>おもひつゝぬれはや人のみえつらん夢としりせはさめさらましを

   同

1215 うたゝねに恋しき人を見てしより夢てふ物頼みめてき

   同

1216 いとせめて恋しき時はは玉のよるの衣をかへしてそきる

敏行朝臣

   同

1217 <>恋わひて打ぬる中に行かよふ夢のたゝちはうつゝつならなん

   同

1218 <>住の江のきしによるよるさへや夢のかよひち人めよくらん

よみ人しらす(91ウ)

 

   撰

1219 おもひねのよな/\夢にあふことをたゝかた時のうつゝともかな

人丸

拾少

1220 夢をたにいかてかたみにみてしかなあはてぬるよのなくさめにせん

さかみ

   千

1221 うたゝねにはかなくさめしゆめをたに此世に又はみてやゝみなん

式子内親王

   同

1222 はかなしや枕さためぬうたゝねにほのかにまよふ夢のかよひち

読人しらす

   古

1223 ゆめのうちにあひみん事を頼つゝくらせるよひはねんかたもなし

   同

1224 恋しねとするわさならしむは玉のよるはすからに夢にみえつゝ

   同

1225 <>涙河枕なかるゝうきねには夢もさたかにえすそ有

寂蓮法師

   新

1226 <>なみた河身もうきぬへきね覚かなはかなきの名残斗に(92オ)

 

百首歌奉ける時恋歌        家隆朝臣

   同

1227 <>あふと見てことそともなく明にけりはかなの夢の忘れかたみや

素性法師

   古

1228 はかなくて夢にも人をつる夜はあしたの床そ起うかりける

よみ人しらす

拾少

1229 ゆめよりもはかなき物はかけろふのほのかにみえしかけにそ有ける

業平朝臣

   古

1230 ねぬる夜のゆめをはかなみまとろめはいやはかなにも成まさるかな

忠岑

   同

1231 いのちにもまさりておしくあるものはみはてぬ夢のさむる也けり

千五百番合に          皇太后宮大夫俊成

   新

1232 あはれなりうたゝねにのみみし夢の長きおもひにむすほゝれ

題しらす             読人しらす(92ウ)

 

1233 まくらよりあとより恋のせめくれはせんかたなみそ床中にをる

   同

1234 わりなくもねてもさめても恋しきかこゝろをいつちやらはわすれん

陸奥

   同

1235 <>あかさりし袖のなかにやいりにけんわかたましのなきこゝちする

よみ人しらす

   同

1236 こひしきにわひてたましまとひなはむなしきからの名にやのこらん

前大納言隆房

   新

1237 恋ひしなはうかれん玉よしはしたに我おもふ人のつまにとゝまれ

太皇太后宮小侍従

   千

1238 君こふとうきぬる玉のさよ更ていかなるつまにむすはれぬらん

殷富門院大輔

1239 かはりけしきを見てもいける身の命をあたに思ひける哉

業平朝臣をうらみて        よみ人しらす(93オ)

 

   古

1240 おほぬさのひくてあまたに成ぬれはおもへとえこそたのまさりけれ

返し               なりひらのあそん

   同

1241 ぬさと名にこそたてれ流てもつによるせはてふものを

題不知              読人しらす

   同

1242 <>恋せしとみたらし河にせし神はうけすも成にけるかな

人麿

拾少

1243 <>千はやふる神のいかきも越ぬへし今はわか身のおしけくもなし

左大将朝光ちかこと文を書て/返しせよと申しけれは> 馬内侍

   千

1244 <>千早振る賀茂のやしろの神もきけ君わすれすは我もわすれし

蔵内侍

   撰

1245 ちかひてもおもふにはけにけり誰為おしき命ならねは

たいしらす            読人しらす

   古

1246 玉かつらはふ木あまたに成ぬれは絶ぬこゝろのうれしけもなし(93ウ)

 

   同

1247 いてひとはことのみそよき月草のうつしこゝろは色ことにして

   同

1248 偽のなき世なりせはいかはかり人のことの葉うれしからまし

   同

1249 いつはりとおもふ物から今さらにたかまことをかわれはたのまん

人丸

拾少

1250 恋つゝもけふはくらしつ霞たつあすのはる日をいかてくらさん

藤原清正女

1251 なかめやる山はいとゝかすみつゝおほつかなさのまさるかな

道信朝臣

   後拾

1252 つれ/\とおもへはなかき春の日にたのむことゝは詠をそする

赤人

1253 わかせこならし(大和)の岡のよふこ鳥君よひかへせ夜の更ぬ時

よみ人しらす

   同

1254 たゝくとてやとのつま戸を明たれは人もこすの水鶏也けり(94オ)

 

近江采女

   古

1255 夏引の手ひきの糸をくりかへしことしけくとも絶んとおもふな

よみ人しらす

   同

1256 里人のことは夏野のしけくともかれ行君にあはさらめやは

人丸

   新

1257 夏草の露分ころもきもせぬになとわか袖のかく時なき

よみ人しらす

   拾

1258 夏草のしけみに生るまろこすけまろかまいく夜へぬらん

友則

   古

1259 蝉の声きけはかなしな夏衣うすくや人のならんとおもへは

和泉式部

   後

1260 人の身も恋にはかへつ夏虫のあらはにもゆとみえぬ斗を

読人しらす(94ウ)


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