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定家本「更級日記」翻字(テキストデータベース)

     凡例
定家本「更級日記」をテキストデータベース用に翻字した。

1 和歌は地の文と同様に天を揃えた。
2 1字のオドリ字はゝを使用した。2字以上のオドリ字は/\と記した。
3 和歌の1字下げは、数えない。
4 丁の変わり目に、」を付け丁数とその表裏を記した。
5 地の文は0000、和歌は0001から0088まで、4桁の数字で記し、頁数は3桁、行数は2桁、字数は2桁で記した。
6 冒頭の第1文字「安」(あ)は、SARA00000010101XA1と表示される。

作品 歌 頁 行 1 2 3 4 5 6 7 8 9 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 0
SARA000000101 あつまちのみちのはてよりも猶お
SARA000000102 くつかたにおいゝてたる人いか許
SARA000000103 かはあやしかりけむをいかにおも
SARA000000104 ひはしめける事にか世中に物
SARA000000105 かたりといふ物のあんなるをいかて
SARA000000106 見はやとおもひつゝつれ/\なるひる
SARA000000107 まよひゐなとにあねまゝはゝなと
SARA000000108 やうの人々のその物かたりかのものか
SARA000000109 たりひかる源氏のあるやうなと」1オ
SARA000000201 ところ/\かたるをきくにいとゝゆか
SARA000000202 しさまされとわかおもふまゝにそら
SARA000000203 にいかてかおほえかたらむいみしく
SARA000000204 心もとなきまゝにとうしんにや
SARA000000205 くしほとけをつくりてゝあらひ
SARA000000206 なとして人まにみそかにいりつゝ
SARA000000207 京にとくあけ給て物かたりのおほ
SARA000000208 く侍なるあるかきり見せ給へと身を
SARA000000209 すてゝぬかをつきいのり申すほとに」1ウ
SARA000000301 十三になるとしのほらむとて九月
SARA000000302 三日かとてしていまたちといふ所にう
SARA000000303 つる年ころあそひなれつるところを
SARA000000304 あらはにこほちゝらしてたちさは
SARA000000305 きて日のいりきはのいとすこくきり
SARA000000306 わたりたるにくるまにのるとてうち
SARA000000307 見やりたれは人まにはまいりつゝ
SARA000000308 ぬかをつきしやくし仏のたち給へる
SARA000000309 を見すてたてまつるかなしくてひと
SARA000000310 しれすうちなかれぬかとてしたる」2オ
SARA000000401 所はめくりなともなくてかりそめ
SARA000000402 のかやゝのしとみなともなしすたれ
SARA000000403 かけまくなとひきたり南はゝる
SARA000000404 かに野の方見やらるひむかし西は
SARA000000405 うみちかくていとおもしろしゆ
SARA000000406 ふきり立渡ていみしうおかしけ
SARA000000407 れはあさいなともせすかた/\見つゝ
SARA000000408 こゝをたちなむこともあはれにかな
SARA000000409 しきにおなし月の十五日あめかき
SARA000000410 くらしふるにさかひをいてゝしも」2ウ
SARA000000501 つけのくにのいかたといふ所にとま
SARA000000502 りぬいほなともうきぬはかりに雨
SARA000000503 ふりなとすれはおそろしくていも
SARA000000504 ねられす野中にをかたちたる所に
SARA000000505 たゝ木そみつたてるその日は雨
SARA000000506 にぬれたる物ともほしくにゝたちを
SARA000000507 くれたるひと/\まつとてそこに日を
SARA000000508 くらしつ十七日のつとめてたつ昔
SARA000000509 しもつさのくにゝまのしてらといふ
SARA000000510 人すみけりひきぬのを千むら万」3オ
SARA000000601 むらをらせさらさせけるか家のあと
SARA000000602 とてふかき河を舟にてわたるむかし
SARA000000603 の門のはしらのまたのこりたる
SARA000000604 とておほきなるはしらかはのなかに
SARA000000605 よつたてりひと/\うたよむをきゝて
SARA000000606 心のうちに
SARA000100607 くちもせぬこのかはゝしらのこらすは
SARA000100608 むかしのあとをいかてしらまし
SARA000000609 その夜はくろとのはまといふ所にとまる」3ウ
SARA000000701 かたつかたはひろ山なる所のすなこ
SARA000000702 はる/\としろきに松原しけりて
SARA000000703 月いみしうあかきに風のをともいみ
SARA000000704 しう心ほそし人/\おかしかりて
SARA000000705 うたよみなとするに
SARA000200706 まとろましこよひならてはいつか見む
SARA000200707 くろとのはまの秋のよの月
SARA000000708 そのつとめてそこをたちてしもつさ
SARA000000709 のくにとむさしとのさかひにてある
SARA000000710 ふとゐかはといふかゝみのせまつさとの」4オ
SARA000000801 わたりのつにとまりて夜ひとよ舟
SARA000000802 にてかつ/\物なとわたすめのとなる
SARA000000803 人はおとこなともなくなしてさか
SARA000000804 ひにてこうみたりしかはゝなれて
SARA000000805 へちにのほるいとこひしけれはいかま
SARA000000806 ほしく思にせうとなる人いたきて
SARA000000807 ゐていきたりみな人はかりそめのかり
SARA000000808 やなといへと風すくましくひきわた
SARA000000809 しなとしたるにこれはおとこなともそはねは」4ウ
SARA000000901 いとてはなちにあら/\しけにてとまと
SARA000000902 いふ物をひとへうちふきたれは月
SARA000000903 のこりなくさしいりたるに紅のきぬ
SARA000000904 うへにきてうちなやみてふしたる月
SARA000000905 かけさやうの人にはこよなくすきて
SARA000000906 いとしろくきよけにてめつらしと
SARA000000907 おもひてかきなてつゝうちなくをいと
SARA000000908 あはれに見すてかたくおもへといそき
SARA000000909 ゐていかるゝ心地いとあかすわりなし
SARA000000910 おもかけにおほえてかなしけれは月のけうも」5オ
SARA000001001 おほえすくんしふしぬつとめて舟
SARA000001002 に車かきすへてわたしてあなたの
SARA000001003 きしにくるまひきたてゝをくりに
SARA000001004 きつる人/\これよりみなかへりぬのほ
SARA000001005 るはとまりなとしていきわかるゝほと
SARA000001006 ゆくもとまるもみなゝきなとすおさ
SARA000001007 な心地にもあはれに見ゆ今はむさ
SARA000001008 しのくにゝなりぬことにおかしき所
SARA000001009 も見えすはまもすなこしろくなとも
SARA000001010 なくこひちのやうにてむらさきおふと」5ウ
SARA000001101 きく野もあしおきのみたかくおいて
SARA000001102 むまにのりてゆみもたるすゑ見えぬま
SARA000001103 てたかくおいしけりて中をわけゆく
SARA000001104 にたけしはといふ寺ありはるかに
SARA000001105 はゝさうなといふ所のらうのあとの
SARA000001106 いしすゑなとありいかなる所そとゝへは
SARA000001107 これはいにしへたけしはといふさか也
SARA000001108 くにの人のありけるを火たきやの
SARA000001109 火たく衛しにさしたてまつりたり
SARA000001110 けるに御前の庭をはくとてなとや」6オ
SARA000001201 くるしきめを見るらむわかくにゝ
SARA000001202 七三つくりすへたるさかつほにさ
SARA000001203 しわたしたるひたえのひさこの
SARA000001204 みなみ風ふけはきたになひき
SARA000001205 北風ふけは南になひきにしふけ
SARA000001206 は東になひき東ふけは西になひ
SARA000001207 くを見てかくてあるよとひとりこちつ
SARA000001208 ふやきけるをその時みかとの御むすめ
SARA000001209 いみしうかしつかれ給たゝひとりみ
SARA000001210 すのきはにたちいて給てはしらに」6ウ
SARA000001301 よりかゝりて御覧するにこのをのこの
SARA000001302 かくひとりこつをいとあはれにいか
SARA000001303 なるひさこのいかになひくならむと
SARA000001304 いみしうゆかしくおほされけれは
SARA000001305 みすをゝしあけてあのをのこゝち
SARA000001306 よれとめしけれはかしこまりてか
SARA000001307 うらんのつらにまいりたりけれは
SARA000001308 いひつることいまひとかへりわれにいひて
SARA000001309 きかせよとおほせられけれはさかつほ
SARA000001310 のことをいまひとかへり申けれは我」7オ
SARA000001401 ゐていきて見せよさいふやうありと
SARA000001402 おほせられけれはかしこくおそろ
SARA000001403 しと思けれとさるへきにやありけむ
SARA000001404 おいたてまつりてくたるにろんなく
SARA000001405 人をひてくらむと思てその夜勢
SARA000001406 多のはしのもとにこの宮をすへたて
SARA000001407 まつりてせ多のはしをひとまはかり
SARA000001408 こほちてそれをとひこえてこの宮
SARA000001409 をかきおいたてまつりて七日七夜と
SARA000001410 いふにむさしのくにゝいきつきにけり」7ウ
SARA000001501 みかときさきみこうせ給ひぬとおほし
SARA000001502 まとひもとめ給に武蔵のくにの衛
SARA000001503 しのをのこなむいとかうはしき物
SARA000001504 をくひにひきかけてとふやうにゝけ
SARA000001505 けると申いてゝこのをのこをたつぬるに
SARA000001506 なかりけりろんなくもとのくにゝ
SARA000001507 こそゆくらめとおほやけよりつかひ
SARA000001508 くたりてをふに勢多のはしこほれて
SARA000001509 えゆきやらす三月といふにむさし
SARA000001510 のくにゝいきつきてこのをのこをたつぬるに」8オ
SARA000001601 このみこおほやけつかひをめして我
SARA000001602 さるへきにやありけむこのをのこの
SARA000001603 家ゆかしくてゐてゆけといひしかは
SARA000001604 ゐてきたりいみしくこゝありよく
SARA000001605 おほゆこのをのこつみしれうせら
SARA000001606 れは我はいかてあれとこれもさきの
SARA000001607 世にこのくにゝあとをたるへきすく世
SARA000001608 こそありけめはやかへりておほやけに
SARA000001609 このよしをそうせよとおほせられけ
SARA000001610 れはいはむ方なくてのほりてみかとに」8ウ
SARA000001701 かくなむありつるとそうしけれは
SARA000001702 いふかひなしそのをのこをつみし
SARA000001703 てもいまはこの宮をとりかへしみや
SARA000001704 こにかへしたてまつるへきにもあらす
SARA000001705 たけしはのをのこにいけらむ世の
SARA000001706 かきり武蔵のくにをあつけとら
SARA000001707 せておほやけこともなさせしたゝ
SARA000001708 宮にそのくにをあつけたてまつらせ
SARA000001709 給よしの宣旨くたりにけれはこの家
SARA000001710 を内裏のことくつくりてすませたてまつりける」9オ
SARA000001801 家を宮なとうせ給にけれは寺に
SARA000001802 なしたるをたけしはてらといふ也
SARA000001803 その宮のうみ給へることもはやかて
SARA000001804 むさしといふ姓をえてなむありける
SARA000001805 それよりのち火たきやに女はゐる
SARA000001806 也とかたる野山あしおきのなかを
SARA000001807 わくるよりほかのことなくてむさしと
SARA000001808 さかみとの中にゐてあすた河と
SARA000001809 いふ在五中将のいさことゝはむとよみ
SARA000001810 けるわたりなり中将のしふには」9ウ
SARA000001901 すみた河とあり舟にてわたりぬれは
SARA000001902 さかみのくにゝなりぬにしとみといふ
SARA000001903 所の山ゑよくかきたらむ屏風をた
SARA000001904 てならへたらむやう也かたつかたは
SARA000001905 海はまのさまもよせかへる浪のけ
SARA000001906 しきもいみしうおもしろしもろこ
SARA000001907 しかはらといふ所もすなこのいみし
SARA000001908 うしろきを二三日ゆく夏はやま
SARA000001909 となてしこのこくうすくにしきを
SARA000001910 ひけるやうになむさきたるこれは」10オ
SARA000002001 秋のすゑなれは見えぬといふに猶
SARA000002002 ところ/\はうちこほれつゝあはれけ
SARA000002003 にさきわたれりもろこしかはらに
SARA000002004 山となてしこしもさきけむこそ
SARA000002005 なと人/\おかしかるあしから山と
SARA000002006 いふは四五日かねておそろしけに
SARA000002007 くらかりわたれりやう/\いりたつ
SARA000002008 ふもとのほとたにそらのけしきはか/\
SARA000002009 しくも見えすえもいはすしけり
SARA000002010 わたりていとおそろしけなり」10ウ
SARA000002101 ふもとにやとりたるに月もなく
SARA000002102 くらき夜のやみにまとふやうなるに
SARA000002103 あそひ三人いつくよりともなくい
SARA000002104 てきたり五十許なるひとり二十許
SARA000002105 なる十四五なるとありいほのまへに
SARA000002106 からかさをさゝせてすへたりをのこ
SARA000002107 とも火をともして見れはむかしこ
SARA000002108 はたといひけむかまこといふかみいと
SARA000002109 なかくひたひいとよくかゝりていろし
SARA000002110 ろくきたなけなくてさてもありぬへき」11オ
SARA000002201 しもつかへなとにてもありぬへし
SARA000002202 なと人/\あはれかるにこゑすへて
SARA000002203 にるものなくそらにすみのほり
SARA000002204 てめてたくうたをうたふ人/\
SARA000002205 いみしうあはれかりてけちかくて
SARA000002206 人/\もてけうするにゝしくにのあ
SARA000002207 そひはえかゝらしなといふをきゝて
SARA000002208 なにはわたりにくらふれはとめてた
SARA000002209 くうたひたり見るめのいときたな
SARA000002210 けなきにこゑさへにるものなく」11ウ
SARA000002301 うたひてさはかりおそろしけなる
SARA000002302 山中にたちてゆくを人/\あかす思
SARA000002303 てみなゝくをおさなき心地にはま
SARA000002304 してこのやとりをたゝむことさへあ
SARA000002305 かすおほゆまたあかつきよりあし
SARA000002306 からをこゆまいて山のなかのおそろ
SARA000002307 しけなる事いはむ方なし雲は
SARA000002308 あしのしたにふまる山のなから許
SARA000002309 の木のしたのわつかなるにあふひ
SARA000002310 のたゝみすちはかりあるを世はなれて」12オ
SARA000002401 かゝる山中にしもおいけむよと人/\
SARA000002402 あはれかる水はその山に三所そ
SARA000002403 なかれたるからうしてこえいてゝせき
SARA000002404 山にとゝまりぬこれよりは駿河也
SARA000002405 よこはしりの関のかたはらにいは
SARA000002406 つほといふ所ありえもいはすおほ
SARA000002407 きなるいしのよほうなる中にあな
SARA000002408 のあきたる中よりいつる水のきよ
SARA000002409 くつめたきことかきりなしふし
SARA000002410 の山はこのくに也わかおいゝてし」12ウ
SARA000002501 くにゝてはにしをもてに見えし山也
SARA000002502 その山のさまいと世に見えぬさま
SARA000002503 なりさまことなる山のすかたのこむ
SARA000002504 しやうをぬりたるやうなるにゆき
SARA000002505 のきゆる世もなくつもりたれは
SARA000002506 いろこきゝぬにしろきあこめきた
SARA000002507 らむやうに見えて山のいたゝきの
SARA000002508 すこしたひらきたるよりけふりは
SARA000002509 たちのほるゆふくれは火のもえ立
SARA000002510 も見ゆきよみかせきはかたつかたは」13オ
SARA000002601 海なるに関屋ともあまたありて
SARA000002602 うみまてくきぬきしたりけふり
SARA000002603 あふにやあらむきよみかせきの浪も
SARA000002604 たかくなりぬへしおもしろきこと
SARA000002605 かきりなしたこの浦は浪たかくて
SARA000002606 舟にてこきめくるおほ井かはと
SARA000002607 いふわたりあり水の世のつねならす
SARA000002608 すりこなとをこくてなかしたらむ
SARA000002609 やうにしろき水はやくなかれたり
SARA000002610 ふし河といふはふしの山より」13ウ
SARA000002701 おちたる水也そのくにの人のいてゝ
SARA000002702 かたるやうひとゝせころ物にまかり
SARA000002703 たりしにいとあつかりしかはこの
SARA000002704 水のつらにやすみつゝ見れは河上
SARA000002705 の方よりきなる物なかれきて物に
SARA000002706 つきてとゝまりたるを見れはほく
SARA000002707 なりとりあけて見れはきなるかみ
SARA000002708 ににしてこくうるわしくかゝれたり
SARA000002709 あやしくて見れはらいねんなるへき
SARA000002710 くにともをちもくのことみなかきて」14オ
SARA000002801 このくにらいねんあくへきにもかみ
SARA000002802 なして又そへて二人をなしたり
SARA000002803 あやしあさましと思てとりあけて
SARA000002804 ほしておさめたりしをかへる年の
SARA000002805 つかさめしにこのふみにかゝれ
SARA000002806 たりしひとつたかはすこのくにのかみ
SARA000002807 とありしまゝなるを三月のうちに
SARA000002808 なくなりて又なりかはりたるもこ
SARA000002809 のかたはらにかきつけられたりし
SARA000002810 人なりかゝる事なむありし」14ウ
SARA000002901 らいねんのつかさめしなとはことし
SARA000002902 この山にそこはくの神/\あつまりて
SARA000002903 ない給なりけりと見給へしめつらかな
SARA000002904 る事にさふらふとかたるぬましりと
SARA000002905 いふ所もすか/\とすきていみしく
SARA000002906 わつらひいてゝとうたうみにかゝる
SARA000002907 さやのなか山なとこえけむほとも
SARA000002908 おほえすいみしくゝるしけれはて
SARA000002909 ちうといふ河のつらにかりやつくり
SARA000002910 まうけたりけれはそこにて日ころ」15オ
SARA000003001 すくるほとにそやう/\をこたる
SARA000003002 冬ふかくなりたれは河風けはし
SARA000003003 くふきあけつゝたえかたくおほ
SARA000003004 えけりそのわたりしてはまなの
SARA000003005 はしについたりはまなのはし
SARA000003006 くたりし時はくろ木をわたし
SARA000003007 たりしこのたひはあとたに見えね
SARA000003008 は舟にてわたるいり江にわたりし
SARA000003009 はし也とのうみはいといみしくあしく」15ウ
SARA000003101 浪たかくていり江のいたつらなるす
SARA000003102 ともにこと物もなく松原のしけれる
SARA000003103 なかより浪のよせかへるもいろ/\の
SARA000003104 たまのやうに見えまことに松のす
SARA000003105 ゑよりなみはこゆるやうに見えて
SARA000003106 いみしくおもしろしそれよりかみ
SARA000003107 はゐのはなといふさかのえもいはす
SARA000003108 わひしきをのほりぬれはみかはのく
SARA000003109 にのたかしのはまといふやつはし
SARA000003110 は名のみしてはしの方もなくなにの」16オ
SARA000003201 見所もなしふたむらの山の中にとま
SARA000003202 りたる夜おほきなるかきの木の
SARA000003203 したにいほをつくりたれは夜ひ
SARA000003204 とよいほのうへにかきのおちかゝりたる
SARA000003205 を人/\ひろひなとす宮ちの山とい
SARA000003206 ふ所こゆるほと十月つこもりなるに
SARA000003207 紅葉ちらてさかりなり
SARA000303208 あらしこそふきこさりけれみやち山
SARA000303209 またもみちはのちらてのこれる
SARA000003210 参河と尾張となるしかすかのわたり」16ウ
SARA000003301 けに思わつらひぬへくおかしおはり
SARA000003302 のくになるみのうらをすくるにゆふ
SARA000003303 しほたゝみちにみちてこよひやと
SARA000003304 らむもちうけんにしほみちきなは
SARA000003305 こゝをもすきしとあるかきりはしり
SARA000003306 まとひすきぬみのゝくにゝなるさかひ
SARA000003307 にすのまたといふわたりしてのかみ
SARA000003308 といふ所につきぬそこにあそひと
SARA000003309 もいてきて夜ひとようた/\ふにも
SARA000003310 あしからなりし思いてられてあはれに」17オ
SARA000003401 こひしきことかきりなし雪ふり
SARA000003402 あれまとふにものゝけうもなくて
SARA000003403 ふわのせきあつみの山なとこえて
SARA000003404 近江国おきなかといふ人の家にや
SARA000003405 とりて四五日ありみつさかの山の
SARA000003406 ふもとによるひるしくれあられ
SARA000003407 ふりみたれて日のひかりもさやか
SARA000003408 ならすいみしう物むつかしそこを
SARA000003409 たちていぬかみかむさきやすくるもと
SARA000003410 なといふ所/\なにとなくすきぬ」17ウ
SARA000003501 水うみのおもてはる/\としてなて
SARA000003502 しまちくふしまなといふ所の見え
SARA000003503 たるいとおもしろし勢多のはし
SARA000003504 みなくつれてわたりわつらふあはつ
SARA000003505 にとゝまりてしはすの二日京にいる
SARA000003506 くらくいきつくへくとさるの時許
SARA000003507 にたちてゆけは関ちかくなりて
SARA000003508 山つらにかりそめなるきりかけと
SARA000003509 いふ物したるかみより丈六の仏の
SARA000003510 いまたあらつくりにおはするか」18オ
SARA000003601 かほはかり見やられたりあはれに人
SARA000003602 はなれていつこともなくておはする
SARA000003603 ほとけかなとうち見やりてすきぬ
SARA000003604 こゝらのくに/\をすきぬるにするか
SARA000003605 のきよみか関と相坂の関とはかりは
SARA000003606 なかりけりいとくらくなりて三條
SARA000003607 の宮のにしなる所につきぬひろ/\
SARA000003608 とあれたる所のすきゝつる山/\にも
SARA000003609 おとらすおほきにおそろしけ
SARA000003610 なるみやま木とものやうにて」18ウ
SARA000003701 みやこの内とも見えぬ所のさまなり
SARA000003702 ありもつかすいみしうものさはか
SARA000003703 しけれともいつしかと思し事なれは
SARA000003704 ものかたりもとめて見せよ/\とはゝ
SARA000003705 をせむれは三條の宮にしそく
SARA000003706 なる人の衛門の命婦とてさふらひ
SARA000003707 けるたつねてふみやりたれはめつ
SARA000003708 らしかりてよろこひて御前のをお
SARA000003709 ろしたるとてわさとめてたきさう
SARA000003710 しともすゝりのはこのふたにいれて」19オ
SARA000003801 をこせたりうれしくいみしくてよる
SARA000003802 ひるこれを見るよりうちはしめ
SARA000003803 又/\も見まほしきにありもつかぬ
SARA000003804 みやこのほとりにたれかは物かたり
SARA000003805 もとめ見する人のあらむまゝはゝ
SARA000003806 なりし人は宮つかへせしかくたり
SARA000003807 しなれは思しにあらぬことゝもなと
SARA000003808 ありて世中うらめしけにてほかに
SARA000003809 わたるとていつゝはかりなるちこ」19ウ
SARA000003901 ともなとしてあはれなりつる心のほと
SARA000003902 なむわすれむ世あるましきなと
SARA000003903 いひて梅の木のつまちかくていと
SARA000003904 おほきなるをこれか花のさかむおり
SARA000003905 はこむよといひをきてわたりぬるを
SARA000003906 心の内にこひしくあはれ也と思つゝ
SARA000003907 しのひねをのみなきてその年も
SARA000003908 かへりぬいつしか梅さかなむこむとあ
SARA000003909 りしをさやあるとめをかけてまち
SARA000003910 わたるに花もみなさきぬれとをとも」20オ
SARA000004001 せす思わひて花をおりてやる
SARA000404002 たのめしを猶やまつへき霜
SARA000404003 かれし梅をも春はわすれさりけり
SARA000004004 といひやりたれはあはれなることゝ
SARA000004005 もかきて
SARA000504006 猶たのめ梅のたちえはちきりをかぬ
SARA000504007 おもひのほかの人もとふなり
SARA000004008 その春世中いみしうさはかしう
SARA000004009 てまつさとのわたりの月かけあはれに見し」20ウ
SARA000004101 めのとも三月ついたちになくなり
SARA000004102 ぬせむ方なく思なけくに物かたりの
SARA000004103 ゆかしさもおほえすなりぬいみ
SARA000004104 しくなきくらして見いたしたれは
SARA000004105 ゆふ日のいとはなやかにさしたるに
SARA000004106 さくらの花のこりなくちりみたる
SARA000604107 ちる花も又こむ春は見もやせむ
SARA000604108 やかてわかれし人そこひしき
SARA000004109 又きけは侍従の大納言の御むすめ」21オ
SARA000004201 なくなり給ひぬなり殿の中将のおほ
SARA000004202 しなけくなるさまわかものゝかなし
SARA000004203 きおりなれはいみしくあはれなりと
SARA000004204 きくのほりつきたりし時これ手
SARA000004205 本にせよとてこのひめきみの御てを
SARA000004206 とらせたりしをさ夜ふけてねさ
SARA000004207 めさりせはなとかきてとりへ山
SARA000004208 たにゝけふりのもえたゝははか
SARA000004209 なく見えしわれとしらなむと
SARA000004210 いひしらすおかしけにめてたく」21ウ
SARA000004301 かき給へるを見ていとゝなみたをそへ
SARA000004302 まさるかくのみ思くんしたるを心も
SARA000004303 なくさめむと心くるしかりてはゝ物
SARA000004304 かたりなともとめて見せ給にけに
SARA000004305 をのつからなくさみゆくむらさき
SARA000004306 のゆかりを見てつゝきの見まほ
SARA000004307 しくおほゆれと人かたらひなとも
SARA000004308 えせすたれもいまたみやこなれぬ
SARA000004309 ほとにてえ見つけすいみしく心も
SARA000004310 となくゆかしくおほゆるまゝにこの」22オ
SARA000004401 源氏の物かたり一のまきよりして
SARA000004402 みな見せ給へと心の内にいのるおやの
SARA000004403 うつまさにこもり給へるにもこと事
SARA000004404 なくこの事を申ていてむまゝに
SARA000004405 この物かたり見はてむとおもへと見え
SARA000004406 すいとくちおしく思なけかるゝに
SARA000004407 をはなる人のゐ中よりのほりたる
SARA000004408 所にわたいたれはいとうつくしう
SARA000004409 おいなりにけりなとあはれかり」22ウ
SARA000004501 めつらしかりてかへるになにをかたて
SARA000004502 まつらむまめ/\しき物はまさなか
SARA000004503 りなむゆかしくし給なるものをた
SARA000004504 てまつらむとて源氏の五十余巻ひつ
SARA000004505 にいりなからさい□□とをきみ
SARA000004506 せり河しらゝあさうつなといふ物
SARA000004507 かたりともひとふくろとりいれてえて
SARA000004508 かへる心地のうれしさそいみしきや
SARA000004509 はしる/\わつかに見つゝ心もえす
SARA000004510 心もとなく思源氏を一の巻よりして」23オ
SARA000004601 人もましらすきちやうの内にう
SARA000004602 ちふしてひきいてつゝ見る心地き
SARA000004603 さきのくらひもなにゝかはせむひるは
SARA000004604 ひくらしよるはめのさめたるかき
SARA000004605 り火をちかくともしてこれを見る
SARA000004606 よりほかの事なけれはをのつから
SARA000004607 なとはそらにおほえうかふをいみ
SARA000004608 しきことに思に夢にいときよけ
SARA000004609 なるそうのきなる地のけさきたるか
SARA000004610 きて法華経五巻をとくならへと」23ウ
SARA000004701 いふと見れと人にもかたらすなら
SARA000004702 はむとも思かけす物かたりの事をのみ
SARA000004703 心にしめてわれはこのころわろき
SARA000004704 そかしさかりにならはかたちもかきり
SARA000004705 なくよくかみもいみしくなかくな
SARA000004706 りなむひかるの源氏のゆふかほ
SARA000004707 宇治の大将のうき舟の女きみのや
SARA000004708 うにこそあらめと思ける心まついと
SARA000004709 はかなくあさまし五月ついたちころ
SARA000004710 つまちかき花たちはなのいとしろく」24オ
SARA000004801 ちりたるをなかめて
SARA000704802 時ならすふる雪かとそなかめまし
SARA000704803 花橘のかほらさりせは
SARA000004804 あしからといひし山のふもとに
SARA000004805 くらかりわたりたりし木のやうに
SARA000004806 しけれる所なれは十月許の紅葉
SARA000004807 よもの山辺よりもけにいみしく
SARA000004808 おもしろくにしきをひけるやう
SARA000004809 なるにほかよりきたる人のとまいり」24ウ
SARA000004901 つるみちにもみちのいとおもしろき
SARA000004902 所のありつるといふにふと
SARA000804903 いつこにもおとらし物をわかやとの
SARA000804904 世を秋はつるけしき許は
SARA000004905 物かたりの事をひるはひくらし思
SARA000004906 つゝけよるもめのさめたるかきりは
SARA000004907 これをのみ心にかけたるに夢に見ゆ
SARA000004908 るやうこのころ皇太后宮の一品の宮の
SARA000004909 御れうに六角堂にやり水をなむ
SARA000004910 つくるといふ人あるをそはいかにと」25オ
SARA000005001 とへはあまてる御神をねむしませと
SARA000005002 いふと見て人にもかたらすなに
SARA000005003 ともおもはてやみぬるいといふかひ
SARA000005004 なし春ことにこの一品宮をなか
SARA000005005 めやりつゝ
SARA000905006 さくとまちゝりぬとなけく春はたゝ
SARA000905007 わかやとかほに花を見るかな
SARA000005008 三月つこもりかたつちいみに人の
SARA000005009 もとにわたりたるにさくらさかりに」25ウ
SARA000005101 おもしろくいまゝてちらぬもあり
SARA000005102 かへりて又の日
SARA001005103 あかさりしやとの桜を春くれて
SARA001005104 ちりかたにしもひとめ見し哉
SARA000005105 といひにやる花のさきちるおりことに
SARA000005106 めのとなくなりしおりそかしと
SARA000005107 のみあはれなるにおなしおりな
SARA000005108 くなり給し侍従大納言の御むすめ
SARA000005109 の手を見つゝすゝろにあはれなるに」26オ
SARA000005201 五月許夜ふくるまて物かたりをよ
SARA000005202 みておきゐたれはきつらむ方も見
SARA000005203 えぬにねこのいとなこうないたるを
SARA000005204 おとろきて見れはいみしうおかし
SARA000005205 けなるねこありいつくよりきつる
SARA000005206 ねこそと見るにあねなる人あな
SARA000005207 かま人にきかすないとおかしけなる
SARA000005208 ねこなりかはむとあるにいみしう
SARA000005209 ひとなれつゝかたはらにうちふした
SARA000005210 りたつぬる人やあるとこれをかく」26ウ
SARA000005301 してかふにすへて下すのあたりにも
SARA000005302 よらすつとまへにのみありて物もき
SARA000005303 たなけなるはほかさまにかほを
SARA000005304 むけてくはすあねおとゝの中につと
SARA000005305 まとはれておかしかりらうたかる
SARA000005306 ほとにあねのなやむことあるにもの
SARA000005307 さはかしくてこのねこをきたおもて
SARA000005308 にのみあらせてよはねはかしかまし
SARA000005309 くなきのゝしれともなをさるにて
SARA000005310 こそはと思てあるにわつらふあね」27オ
SARA000005401 おとろきていつらねこはこちゐてこと
SARA000005402 あるをなとゝとへは夢にこのねこ
SARA000005403 のかたはらにきてをのれはしゝうの
SARA000005404 大納言殿の御むすめのかくなりたる
SARA000005405 なりさるへきえんのいさゝかありて
SARA000005406 この中のきみのすゝろにあはれと
SARA000005407 思いて給へはたゝしはしこゝにある
SARA000005408 をこのころ下すのなかにありていみ
SARA000005409 しうわひしきことゝいひていみしう
SARA000005410 なくさまはあてにおかしけなる」27ウ
SARA000005501 ひとゝ見えてうちおとろきたれは
SARA000005502 このねこのこゑにてありつるかいみしく
SARA000005503 あはれなる也とかたり給をきくに
SARA000005504 いみしくあはれ也そのゝちはこのねこ
SARA000005505 を北をもてにもいたさす思かしつく
SARA000005506 たゝひとりゐたる所にこのねこかむか
SARA000005507 ひゐたれはかいなてつゝ侍従大納言の
SARA000005508 ひめきみのおはするな大納言殿にし
SARA000005509 らせたてまつらはやといひかくれはかほ
SARA000005510 をうちまもりつゝなこうなくも心の」28オ
SARA000005601 なしめのうちつけにれいのねこ
SARA000005602 にはあらすきゝしりかほにあはれ也
SARA000005603 世中に長恨歌といふゝみを物かたり
SARA000005604 にかきてある所あんなりときくに
SARA000005605 いみしくゆかしけれとえいひよらぬに
SARA000005606 さるへきたよりをたつねて七月七日
SARA000005607 いひやる
SARA001105608 ちきりけむ昔のけふのゆかしさに
SARA001105609 あまの河なみうちいてつるかな
SARA000005610 返し」28ウ
SARA001205701 たちいつるあまの河辺のゆかしさに
SARA001205702 つねはゆゝしきこともわすれぬ
SARA000005703 その十三日の夜月いみしくくまなく
SARA000005704 あかきにみな人もねたる夜中許に
SARA000005705 えんにいてゐてあねなる人そらを
SARA000005706 つく/\となかめてたゝいまゆくゑな
SARA000005707 くとひうせなはいかゝ思へきとゝふに
SARA000005708 なまおそろしとおもへるけしきを
SARA000005709 見てこと事にいひなしてわらひなと
SARA000005710 してきけはかたはらなる所にさき」29オ
SARA000005801 をふくるまとまりておきのは/\と
SARA000005802 よはすれとこたへさなりよひわつら
SARA000005803 ひてふえをいとおかしくふきすま
SARA000005804 してすきぬなり
SARA001305805 ふえのねのたゝ秋風ときこゆるに
SARA001305806 なとおきのはのそよとこたへぬ
SARA000005807 といひたれはけにとて
SARA001405808 おきのはのこたふるまてもふきよらて
SARA001405809 たゝにすきぬるふえのねそうき
SARA000005810 かやうにあくるまてなかめあかいて」29ウ
SARA000005901 夜あけてそみな人ねぬるそのかへる
SARA000005902 年四月の夜中はかりに火のことありて
SARA000005903 大納言殿のひめきみと思かしつきし
SARA000005904 ねこもやけぬ大納言殿のひめきみと
SARA000005905 よひしかはきゝしりかほになきて
SARA000005906 あゆみきなとせしかはてゝなりし
SARA000005907 人もめつらかにあはれなる事也
SARA000005908 大納言に申さむなとありしほとに
SARA000005909 いみしうあはれにくちおしくおほゆ
SARA000005910 ひろ/\とものふかきみ山のやうには」30オ
SARA000006001 ありなから花紅葉のおりはよもの
SARA000006002 山辺もなにならぬを見ならひた
SARA000006003 るにたとしへなくせはき所の庭の
SARA000006004 ほともなく木なともなきにいと心
SARA000006005 うきにむかひなる所にむめこうはい
SARA000006006 なとさきみたれて風につけてかゝえ
SARA000006007 くるにつけてもすみなれしふるさと
SARA000006008 かきりなく思いてらる
SARA001506009 にほひくるとなりの風を身にしめて
SARA001506010 ありしのきはのむめそこひしき」30ウ
SARA000006101 その五月のついたちにあねなる人こ
SARA000006102 うみてなくなりぬよそのことたにおさ
SARA000006103 なくよりいみしくあはれと思わたるに
SARA000006104 ましていはむ方なくあはれかなしと
SARA000006105 おもひなけかるはゝなとはみなゝく
SARA000006106 なりたる方にあるにかたみにとまりた
SARA000006107 るおさなき人/\を左右にふせたる
SARA000006108 にあれたるいたやのひまより月のも
SARA000006109 りきてちこのかほにあたりたるか
SARA000006110 いとゆゝしくおほゆれはそてをうち」31オ
SARA000006201 おほひていまひとりをもかきよせて
SARA000006202 思そいみしきやそのほとすきてし
SARA000006203 そくなる人の許よりむかしの人の
SARA000006204 かならすもとめてをこせよとありしかは
SARA000006205 もとめしにそのおりはえ見いてす
SARA000006206 なりにしをいましも人のをこせたる
SARA000006207 かあはれにかなしきことゝてかはね
SARA000006208 たつぬる宮といふ物かたりをゝこせたり
SARA000006209 まことにそあはれなるや返ことに
SARA001606210 うつもれぬかはねをなにゝたつねけむ」31ウ
SARA001606301 こけのしたには身こそなりけれ
SARA000006302 めのとなりし人いまはなにゝつけ
SARA000006303 てかなとなく/\もとありける所にかへり
SARA000006304 わたるに
SARA001706305 ふるさとにかくこそ人はかへりけれ
SARA001706306 あはれいかなるわかれなりけむ
SARA000006307 むかしのかたみにはいかてとなむ思
SARA000006308 なとかきてすゝりの水のこほれはみ
SARA000006309 なとちられてとゝめつといひたるに
SARA001806310 かきなかすあとはつらゝにとちてけり」32オ
SARA001806401 なにをわすれぬかたみとか見む
SARA000006402 といひやりたる返ことに
SARA001906403 なくさむる方もなきさのはまちとり
SARA001906404 なにかうき世にあともとゝめむ
SARA000006405 このめのとはか所見てなく/\かへりたりし
SARA002006406 のほりけむのへは煙もなかりけむ
SARA002006407 いつこをはかとたつねてか見し
SARA000006408 これをきゝてまゝはゝなりし人
SARA002106409 そこはかとしりてゆかねとさきにたつ
SARA002106410 なみたそみちのしるへなりける」32ウ
SARA000006501 かはねたつぬる宮をこせたりし人
SARA002206502 すみなれぬのへのさゝはらあとはかも
SARA002206503 なく/\いかにたつねわひけむ
SARA000006504 これを見てせうとはその夜をくり
SARA000006505 にいきたりしかは
SARA002306506 見しまゝにもえし煙はつきにしを
SARA002306507 いかゝたつねし野へのさゝはら
SARA000006508 雪の日をへてふるころよしの山に
SARA000006509 すむあまきみを思やる
SARA002406510 ゆきふりてまれの人めもたえぬらむ
SARA002406511 よしのゝ山のみねのかけみち」33オ
SARA000006601 かへるとしむ月のつかさめしにおやの
SARA000006602 よろこひすへきことありしにかひなき
SARA000006603 つとめておなし心におもふへき人の
SARA000006604 もとよりさりともと思つゝあくるをま
SARA000006605 ちつる心もとなさといひて
SARA002506606 あくるまつかねのこゑにもゆめさめて
SARA002506607 秋のもゝ夜の心地せしかな
SARA000006608 といひたる返ことに
SARA002606609 あか月をなにゝまちけむ思事
SARA002606610 なるともきかぬかねのをとゆへ」33ウ
SARA000006701 四月つこもりかたさるへきゆへありて
SARA000006702 東山なる所へうつろふみちのほと
SARA000006703 田のなはしろ水まかせたるもうへたるも
SARA000006704 なにとなくあおみおかしう見えわた
SARA000006705 りたる山のかけくらうまへちかう見
SARA000006706 えて心ほそくあはれなるゆふくれ
SARA000006707 くひないみしくなく
SARA002706708 たゝくともたれかくひなのくれぬるに
SARA002706709 山地をふかくたつねてはこむ
SARA000006710 霊山ちかき所なれはまうてゝおかみ」34オ
SARA000006801 たてまつるにいとくるしけれは山て
SARA000006802 らなるいし井によりて手にむすひつゝ
SARA000006803 のみてこの水のあかすおほゆるかなと
SARA000006804 いふ人のあるに
SARA002806805 おく山のいしまの水をむすひあけて
SARA002806806 あかぬものとはいまのみやしる
SARA000006807 といひたれは水のむ人
SARA002906808 山の井のしつくにゝこる水よりも
SARA002906809 こは猶あかぬ心地こそすれ
SARA000006810 かへりてゆふ日けさやかにさしたるに」34ウ
SARA000006901 宮この方ものこりなく見やらるゝに
SARA000006902 このしつくにゝこる人は京にかへる
SARA000006903 とて心くるしけに思てまたつとめて
SARA003006904 山のはにいり日のかけはいりはてゝ
SARA003006905 心ほそくそなかめやられし
SARA000006906 念仏するそうのあか月にぬかつく
SARA000006907 をとのたうとくきこゆれはとをゝし
SARA000006908 あけたれはほの/\とあけゆく山きわ
SARA000006909 こくらきこすゑともきりわたりて花
SARA000006910 もみちのさかりよりもなにとなくしけり」35オ
SARA000007001 わたれるそらのけしきくもらはし
SARA000007002 くおかしきにほとゝきすさへいとち
SARA000007003 かきこすゑにあまたゝひないたり
SARA003107004 たれに見せたれにきかせむ山さとの
SARA003107005 このあかつきもおちかへるねも
SARA000007006 このつこもりの日たにの方なる木のう
SARA000007007 へにほとゝきすかしかましくないたり
SARA003207008 みやこにはまつらむ物を郭公
SARA003207009 けふひねもすになきくらすかな
SARA000007010 なとのみなかめつゝもろともにある人」35ウ
SARA000007101 たゝいま京にもきゝたらむ人あら
SARA000007102 むやかくてなかむらむと思をこする
SARA000007103 人あらむやなといひて
SARA003307104 山ふかくたれか思はをこすへき
SARA003307105 月見る人はおほからめとも
SARA000007106 といへは
SARA003407107 ふかき夜に月見るおりはしらねとも
SARA003407108 まつ山さとそ思やらるゝ
SARA000007109 あか月になりやしぬらむと思ほとに
SARA000007110 山の方より人あまたくるをとすおとろきて」36オ
SARA000007201 見やりたれはしかのえんのもとまて
SARA000007202 きてうちないたるちかうてはなつか
SARA000007203 しからぬものゝこゑなり
SARA003507204 秋の夜のつまこひかぬるしかのねは
SARA003507205 とを山にこそきくへかりけれ
SARA000007206 しりたる人のちかきほとにきてかへりぬ
SARA000007207 ときくに
SARA003607208 またひとめしらぬ山辺の松風も
SARA003607209 をとしてかへるものとこそきけ
SARA000007210 八月になりて廿よ日のあかつきかたの月」36ウ
SARA000007301 いみしくあはれに山の方はこくらく
SARA000007302 たきのをともにる物なくのみなかめ
SARA000007303 られて
SARA003707304 思しる人に見せはや山さとの
SARA003707305 秋のよふかきありあけの月
SARA000007306 京にかへりいつるにわたりし時は
SARA000007307 水はかり見えし田ともゝみなかり
SARA000007308 はてゝけり
SARA003807309 なはしろの水かけ許見えし田の
SARA003807310 かりはつるまてなかゐしにけり
SARA000007311 十月つこもりかたにあからさまにきて」37オ
SARA000007401 見れはこくらうしけれりしこのはと
SARA000007402 ものこりなくちりみたれていみしく
SARA000007403 あはれけに見えわたりて心ちよけに
SARA000007404 さゝらきなかれし水もこのはにうつ
SARA000007405 もれてあとはかり見ゆ
SARA003907406 水さへそすみたえにけるこのはちる
SARA003907407 あらしの山の心ほそさに
SARA000007408 そこなる尼に春まていのちあらは
SARA000007409 かならすこむ花さかりはまつゝけよ
SARA000007410 なといひてかへりにしを年かへりて」37ウ
SARA000007501 三月十余日になるまてをともせねは
SARA004007502 ちきりをきし花のさかりをつけぬ哉
SARA004007503 春やまたこぬ花やにほはぬ
SARA000007504 たひなる所にきて月のころ竹の
SARA000007505 もとちかくて風のをとにめのみさめ
SARA000007506 てうちとけてねられぬころ
SARA004107507 竹の葉のそよく夜ことにねさめして
SARA004107508 なにともなきに物そかなしき
SARA000007509 秋ころそこをたちてほかへうつろひ
SARA000007510 てそのあるしに」38オ
SARA004207601 いつことも露のあはれはわかれしを
SARA004207602 あさちかはらの秋そこひしき
SARA000007603 まゝはゝなりし人くたりしくにの
SARA000007604 名を宮にもいはるゝにこと人かよは
SARA000007605 してのちも猶その名をいはるときゝ
SARA000007606 ておやのいまはあいなきよしいひに
SARA000007607 やらむとあるに
SARA004307608 あさくらやいまは雲井にきく物を
SARA004307609 猶木のまろかなのりをやする
SARA000007610 かやうにそこはかなきことを思つゝく」38ウ
SARA000007701 くるをやくにて物まうてをわつかにし
SARA000007702 てもはか/\しく人のやうならむとも
SARA000007703 ねむせられすこのころの世の人は
SARA000007704 十七八よりこそ経よみをこなひも
SARA000007705 すれさること思かけられすからうし
SARA000007706 て思よることはいみしくやむことなく
SARA000007707 かたちありさま物かたりにあるひかる
SARA000007708 源氏なとのやうにおはせむ人を
SARA000007709 年にひとたひにてもかよはしたて
SARA000007710 まつりてうき舟の女君のやうに山さとに」39オ
SARA000007801 かくしすへられて花紅葉月雪を
SARA000007802 なかめていと心ほそけにてめてたか
SARA000007803 らむ御ふみなとを時/\まち見なと
SARA000007804 こそせめとはかり思つゝけあらまし
SARA000007805 事にもおほえけりおや□□なり
SARA000007806 なはいみしうやむことなくわか身も
SARA000007807 なりなむなとたゝゆくゑなき事を
SARA000007808 うち思すくすにおやからうしてはる
SARA000007809 かにとをきあつまになりて年ころは
SARA000007810 いつしか思やうにちかき所になりたらは」39ウ
SARA000007901 まつむねあく許かしつきたてゝゐて
SARA000007902 くたりて海山のけしきも見せそれ
SARA000007903 をはさる物にてわか身よりもたかう
SARA000007904 もてなしかしつきて見むとこそ
SARA000007905 おもひつれ我も人もすくせのつた
SARA000007906 なかりけれはあり/\てかくはるかな
SARA000007907 るくにゝなりにたりおさなかりし
SARA000007908 時あつまのくにゝゐてくたりてたに
SARA000007909 心地もいさゝかあしけれはこれをや
SARA000007910 このくにゝ見すてゝまとはむとすらむと」40オ
SARA000008001 思ふ人のくにのおそろしきにつけ
SARA000008002 てもわか身ひとつならはやすらかな
SARA000008003 らましをところせうひきくして
SARA000008004 いはまほしきこともえいはすせまほ
SARA000008005 しきこともえせすなとあるかわひ
SARA000008006 しうもあるかなと心をくたきしに
SARA000008007 いまはまいておとなになりにたるを
SARA000008008 ゐてくたりてわかいのちもしらす京
SARA000008009 のうちにてさすらへむはれいのこと
SARA000008010 あつまのくにゐなかひとになりて」40ウ
SARA000008101 まとはむいみしかるへし京とても
SARA000008102 たのもしうむかへとりてむと思ふるい
SARA000008103 しそくもなしさりとてわつかになり
SARA000008104 たるくにをしゝ申すへきにもあら
SARA000008105 ねは京にとゝめてなかきわかれにて
SARA000008106 やみぬへき也京にもさるへきさまに
SARA000008107 もてなしてとゝめむとは思よる事にも
SARA000008108 あらすとよるひるなけかるゝをきく
SARA000008109 心地花もみちのおもひもみなわす
SARA000008110 れてかなしくいみしく思なけかるれと」41オ
SARA000008201 いかゝはせむ七月十三日にくたる
SARA000008202 五日かねては見むも中/\なへけれは
SARA000008203 内にもいらすまいてその日はたち
SARA000008204 さはきて時なりぬれはいまはとて
SARA000008205 すたれをひきあけてうち見あはせ
SARA000008206 てなみたをほろ/\とおとしてや
SARA000008207 かていてぬるを見をくる心地めもくれ
SARA000008208 まとひてやかてふされぬるにとま
SARA000008209 るをのこのをくりしてかへるにふと
SARA000008210 ころかみに」41ウ
SARA004408301 おもふ事心にかなふ身なりせは
SARA004408302 秋のわかれをふかくしらまし
SARA000008303 とはかりかゝれたるをもえ見やられす
SARA000008304 事よろしき時こそこしおれかゝり
SARA000008305 たる事も思つゝけゝれともかくも
SARA000008306 いふへき方もおほえぬまゝに
SARA004508307 かけてこそおもはさりしかこの世にて
SARA004508308 しはしもきみにわかるへしとは
SARA000008309 とやかゝれにけむいとゝ人めも見えす
SARA000008310 さひしく心ほそくうちなかめつゝいつこはかりと」42オ
SARA000008401 あけくれ思やる道のほともしりに
SARA000008402 しかはゝるかにこひしく心ほそき
SARA000008403 ことかきりなしあくるよりくるゝまて
SARA000008404 東の山きはをなかめてすくす
SARA000008405 八月許にうつまさにこもるに一条
SARA000008406 よりまうつる道におとこくるまふた
SARA000008407 つはかりひきたてゝ物へゆくにもろ
SARA000008408 ともにくへき人まつなるへしすき
SARA000008409 てゆくにすいしんたつものをゝこせて
SARA004608410 花見にゆくときみを見るかな」42ウ
SARA000008501 といはせたれはかゝるほとの事はいら
SARA000008502 へぬもひんなしなとあれは
SARA004608503 千くさなる心ならひに秋のゝの
SARA000008504 とはかりいはせていきすきぬ七日さ
SARA000008505 ふらふほともたゝあつまちのみ思ひ
SARA000008506 やられてよしなしことからうしては
SARA000008507 なれてたひらかにあひ見せ給へと
SARA000008508 申すは仏もあはれときゝいれさせ
SARA000008509 給けむかし冬になりてひくらし
SARA000008510 あめふりくらいたる夜くもかへる風」43オ
SARA000008601 はけしうゝちふきてそらはれて
SARA000008602 月いみしうあかうなりてのきちか
SARA000008603 きおきのいみしく風にふかれて
SARA000008604 くたけまとふかいとあはれにて
SARA004708605 秋をいかに思いつらむ冬ふかみ
SARA004708606 あらしにまとふおきのかれはゝ
SARA000008607 あつまより人きたり神拝といふ
SARA000008608 わさしてくにの内ありきしに水
SARA000008609 おかしくなかれたる野のはる/\とある
SARA000008610 に木むらのあるおかしき所かな」43ウ
SARA000008701 見せてとまつ思いてゝこゝはいつことか
SARA000008702 いふとゝへはこしのひのもりとなむ申
SARA000008703 すとこたへたりしか身によそへら
SARA000008704 れていみしくかなしかりしかはむま
SARA000008705 よりおりてそこにふた時なむな
SARA000008706 かめられし
SARA004808707 とゝめをきてわかこと物や思けむ
SARA004808708 見るにかなしきこしのひのもり
SARA000008709 となむおほえしとあるを見る心地
SARA000008710 いへはさらなり返ことに
SARA004908711 こしのひをきくにつけてもとゝめをきし」44オ
SARA004908801 ちゝふの山のつらきあつまち
SARA000008802 かうてつれ/\となかむるになとか物ま
SARA000008803 うてもせさりけむはゝいみしかり
SARA000008804 しこたいの人にてはつせにはあな
SARA000008805 おそろしならさかにて人にとら
SARA000008806 れなはいかゝせむいし山せき山こ
SARA000008807 えていとおそろしくらまはさる
SARA000008808 山ゐていてむいとおそろしやおや
SARA000008809 のほりてともかくもとさしはなち
SARA000008810 たる人のやうにわつらはしかりて」44ウ
SARA000008901 わつかに清水にゐてこもりたりそ
SARA000008902 れにもれいのくせはまことしかへい事
SARA000008903 も思ひ申されすひかんのほとにて
SARA000008904 いみしうさはかしうおそろしき
SARA000008905 まておほえてうちまとろみいりたるに
SARA000008906 み帳の方のいぬふせきの内にあおき
SARA000008907 をりものゝ衣をきてにしきをかし
SARA000008908 らにもかつきあしにもはいたるそう
SARA000008909 の別当とおほしきかよりきてゆく
SARA000008910 さきのあはれならむもしらす」45オ
SARA000009001 さもよしなし事をのみとうちむつ
SARA000009002 かりてみ帳の内にいりぬと見てもうち
SARA000009003 おとろきてもかくなむ見えつるとも
SARA000009004 かたらす心にも思とゝめてまかてぬ
SARA000009005 はゝ一尺の鏡をいさせてえゐて
SARA000009006 まいらぬかはりにとてそうをいた
SARA000009007 したてゝはつせにまうてさすめり
SARA000009008 三日さふらひてこの人のあへからむ
SARA000009009 さま夢に見せ給へなといひてま
SARA000009010 うてさするなめりそのほとは精」45ウ
SARA000009101 進せさすこのそうかへりて夢をた
SARA000009102 に見てまかてなむかほいなきこといかゝ
SARA000009103 かへりても申すへきといみしうぬかつき
SARA000009104 をこなひてねたりしかは御帳の方
SARA000009105 よりいみしうけたかうきよけに
SARA000009106 おはする女のうるわしくさうそき
SARA000009107 給へるかたてまつりしかゝみをひき
SARA000009108 さけてこのかゝみにはふみやそひ
SARA000009109 たりしとゝひ給へはかしこまりてふ
SARA000009110 みもさふらはさりきこのかゝみをなむ」46オ
SARA000009201 たてまつれと侍しとこたへたてまつれは
SARA000009202 あやしかりける事かなふみそふへ
SARA000009203 きものをとてこのかゝみをこなたに
SARA000009204 うつれるかけを見よこれ見れはあは
SARA000009205 れにかなしきそとてさめ/\となき
SARA000009206 給を見れはふしまろひなき
SARA000009207 なけきたるかけうつれりこのかけを
SARA000009208 見れはいみしうかなしなこれ見よと
SARA000009209 ていまかたつかたにうつれるかけを見
SARA000009210 せたまへはみすともあおやかに木長」46ウ
SARA000009301 をしいてたるしたよりいろ/\のきぬ
SARA000009302 こほれいて梅さくらさきたるにうく
SARA000009303 ひすこつたひなきたるを見せてこ
SARA000009304 れを見るはうれしなとの給となむ
SARA000009305 見えしとかたるなりいかに見えけるそ
SARA000009306 とたにみゝもとゝめす物はかなき
SARA000009307 心にもつねにあまてる御神をねむ
SARA000009308 し申せといふ人ありいつこにおは
SARA000009309 します神仏にかはなとさはいへと
SARA000009310 やう/\思ひわかれて人にとへは神に」47オ
SARA000009401 おはします伊勢におはします紀
SARA000009402 いのくにゝきのこくさうと申すはこの
SARA000009403 御神也さては内侍所にすへら神
SARA000009404 となむおはしますといふ伊勢の
SARA000009405 くにまては思かくへきにもあらさ
SARA000009406 なり内侍所にもいかてかはまいり
SARA000009407 おかみたてまつらむそらのひかりを
SARA000009408 ねむし申すへきにこそはなとうき
SARA000009409 ておほゆしそくなる人あまにな
SARA000009410 りてすかく院にいりぬるに冬ころ」47ウ
SARA005009501 なみたさへふりはへつゝそ思やる
SARA005009502 あらしふくらむ冬の山さと
SARA000009503 返し
SARA005109504 わけてとふ心のほとの見ゆるかな
SARA005109505 こかけをくらき夏のしけりを
SARA000009506 あつまにくたりしおやからうして
SARA000009507 のほりて西山なる所におちつきたれ
SARA000009508 はそこにみな渡て見るにいみし
SARA000009509 うゝれしきに月のあかき夜ひと
SARA000009510 よものかたりなとして」48オ
SARA005209601 かゝる世もありける物をかきりとて
SARA005209602 きみにわかれし秋はいかにそ
SARA000009603 といひたれはいみしくなきて
SARA005309604 思事かなはすなそといとひこし
SARA005309605 いのちのほともいまそうれしき
SARA000009606 これそわかれのかとてといひしらせ
SARA000009607 しほとのかなしさよりはたいらか
SARA000009608 にまちつけたるうれしさもかきり
SARA000009609 なけれと人のうへにても見しに
SARA000009610 おいおとろへて世にいてましらひしは」48ウ
SARA000009701 おこかましく見えしかは我はかくて
SARA000009702 とちこもりぬへきそとのみのこりな
SARA000009703 けに世を思ひいふめるに心ほそさた
SARA000009704 えす東は野のはる/\とあるにひむ
SARA000009705 かしの山きはゝひえの山よりしてい
SARA000009706 なりなといふ山まてあらはに見え
SARA000009707 わたり南はならひのをかの松風
SARA000009708 いとみゝちかう心ほそくきこえて
SARA000009709 内にはいたゝきのもとまて田とい
SARA000009710 ふものゝひたひきならすをとなとゐ中の心ちして」49オ
SARA000009801 いとおかしきに月のあかき夜なとは
SARA000009802 いとおもしろきをなかめあかし
SARA000009803 くらすにしりたりし人さとゝをく
SARA000009804 なりてをともせすたよりにつけて
SARA000009805 なにことかあらむとつたふる人に
SARA000009806 おとろきて
SARA005409807 思いてゝ人こそとはね山さとの
SARA005409808 まかきのおきに秋風はふく
SARA000009809 といひにやる十月になりて京にう
SARA000009810 つろふはゝあまになりておなし」49ウ
SARA000009901 家の内なれとかたことにすみはなれて
SARA000009902 ありてゝはたゝ我をおとなにしすへ
SARA000009903 て我は世にもいてましらはすかけ
SARA000009904 にかくれたらむやうにてゐたるを見
SARA000009905 るもたのもしけなく心ほそくお
SARA000009906 ほゆるにきこしめすゆかりある
SARA000009907 所になにとなくつれ/\に心ほそく
SARA000009908 てあらむよりはとめすをこたいのおや
SARA000009909 は宮つかへ人はいとうき事也と思て」50オ
SARA000010001 すくさするを今の世の人はさのみ
SARA000010002 こそはいてたてさてもをのつから
SARA000010003 よきためしもありさても心見よと
SARA000010004 いふ人/\ありてしふ/\にいたし
SARA000010005 たてらるまつ一夜まいるきくの
SARA000010006 こくうすき八はかりにこきかいねり
SARA000010007 をうへにきたりさこそ物かたりに
SARA000010008 のみ心をいれてそれを見るよりほか
SARA000010009 にゆきかよふるいしそくなとたに
SARA000010010 ことになくこたいのおやとものかけ」50ウ
SARA000010101 はかりにて月をも花をも見るより
SARA000010102 ほかの事はなきならひにたちいつる
SARA000010103 ほとの心地あれかにもあらすうつゝとも
SARA000010104 おほえてあかつきにはまかてぬさと
SARA000010105 ひたる心地には中/\さたまりたらむ
SARA000010106 さとすみよりはおかしき事をも見
SARA000010107 きゝて心もなくさみやせむと思おり/\
SARA000010108 ありしをいとはしたなくかなし
SARA000010109 かるへきことにこそあへかめれとおも
SARA000010110 へといかゝせむしはすになりて」51オ
SARA000010201 又まいるつほねしてこのたひは日
SARA000010202 ころさふらふうへには時/\よる/\
SARA000010203 ものほりてしらぬ人の中にうち
SARA000010204 ふしてつゆまとろまれすはつかしう
SARA000010205 ものゝつゝましきまゝにしのひて
SARA000010206 うちなかれつゝあかつきには夜ふ
SARA000010207 かくおりてひくらしてゝのおいおと
SARA000010208 ろへて我をことしもたのもしからむ
SARA000010209 かけのやうに思たのみむかひゐたる
SARA000010210 にこひしくおほつかなくのみおほゆ」51ウ
SARA000010301 はゝなくなりにしめひともゝむまれ
SARA000010302 しよりひとつにてよるはひたりみきに
SARA000010303 ふしおきするもあはれに思いてられ
SARA000010304 なとして心もそらになかめくらさる
SARA000010305 たちきゝかいまむ人のけはひし
SARA000010306 ていといみしくものつゝまし十日
SARA000010307 はかりありてまかてたれはてゝはゝ
SARA000010308 すひつに火なとをこしてまちゐたり
SARA000010309 けりくるまよりおりたるをうち
SARA000010310 見ておはする時こそ人めも見えさふらひなとも」52オ
SARA000010401 ありけれこの日ころは人こゑもせす
SARA000010402 まへに人かけも見えすいと心ほそく
SARA000010403 わひしかりつるかうてのみもまろか身
SARA000010404 をはいかゝせむとかするとうちなくを
SARA000010405 見るもいとかなしつとめてもけふ
SARA000010406 はかくておはすれはうちと人お
SARA000010407 ほくこよなくにきわゝしくもなり
SARA000010408 たるかなとうちいひてむかひゐたるも
SARA000010409 いとあはれになにのにほひのある
SARA000010410 にかとなみたくましうきこゆ」52ウ
SARA000010501 ひしりなとすらさきの世のことゆめ
SARA000010502 に見るはいとかたかなるをいとかう
SARA000010503 あとはかないやうにはか/\しからぬ心地
SARA000010504 にゆめに見るやうきよ水のらい
SARA000010505 堂にゐたれは別当とおほしき人
SARA000010506 いてきてそこはさきの生にこのみ
SARA000010507 てらのそうにてなむありし仏師に
SARA000010508 てほとけをいとおほくつくりたて
SARA000010509 まつりしくとくによりてありしす
SARA000010510 さうまさりて人とむまれたるなり」53オ
SARA000010601 このみたうの東におはする丈六の
SARA000010602 仏はそこのつくりたりし也はくを
SARA000010603 をしさしてなくなりにしそとあ
SARA000010604 ないみしさはあれにはくをした
SARA000010605 てまつらむといへはなくなりにしかは
SARA000010606 こと人はくをしたてまつりてこと人
SARA000010607 くやうもしてしと見てのちきよ水に
SARA000010608 ねむころにまいりつかうまつらまし
SARA000010609 かはさきの世にそのみてらに仏ねむ
SARA000010610 し申けむちからにをのつからようも」53ウ
SARA000010701 やあらましいといふかひなくまうて
SARA000010702 つかうまつることもなくてやみにき
SARA000010703 十二月廿五日宮の御仏名にめしあれは
SARA000010704 その夜はかりと思てまいりぬしろき
SARA000010705 きぬともにこきかいねりをみなきて
SARA000010706 四十余人はかりいてゐたりしるへし
SARA000010707 いてし人のかけにかくれてあるか中
SARA000010708 にうちほのめいてあか月にはまかつ
SARA000010709 ゆきうちゝりつゝいみしくはけしく
SARA000010710 さえこほるあかつきかたの月の」54オ
SARA000010801 ほのかにこきかいねりのそてにうつれ
SARA000010802 るもけにぬるゝかほなりみちすから
SARA005510803 年はくれ夜はあけかたの月かけの
SARA005510804 そてにうつれるほとそはかなき
SARA000010805 かうたちいてぬとならはさても宮つかへ
SARA000010806 の方にもたちなれ世にまきれたる
SARA000010807 もねちけかましきおほえもなき
SARA000010808 ほとはをのつから人のやうにもお
SARA000010809 ほしもてなさせ給やうもあらまし
SARA000010810 おやたちもいと心えすほともなく」54ウ
SARA000010901 こめすへつさりとてそのありさまの
SARA000010902 たちまちにきら/\しきいきほひ
SARA000010903 なとあんへいやうもなくいとよし
SARA000010904 なかりけるすゝろ心にてもことの
SARA000010905 ほかにたかひぬるありさまなり
SARA000010906 かし
SARA005610907 いくちたひ水の田せりをつみしかは
SARA005610908 思しことのつゆもかなはぬ
SARA000010909 とはかりひとりこたれてやみぬそのゝ
SARA000010910 ちはなにとなくまきらはしきにものかたりのことも」55オ
SARA000011001 うちたえわすられて物まめやかなる
SARA000011002 さまに心もなりはてゝそなとて
SARA000011003 おほくの年月をいたつらにてふし
SARA000011004 をきしにをこなひをも物まうて
SARA000011005 をもせさりけむこのあらましこと
SARA000011006 とても思しことゝもはこの世にあん
SARA000011007 へかりけることゝもなりやひかる源氏
SARA000011008 はかりの人はこの世におはしけり
SARA000011009 やはかほる大将の宇治にかくし
SARA000011010 すへ給へきもなき世なりあな物」55ウ
SARA000011101 くるをしいかによしなかりける心也
SARA000011102 と思しみはてゝまめ/\しくすくすと
SARA000011103 ならはさてもありはてすまいり
SARA000011104 そめし所にもかくかきこもりぬる
SARA000011105 をまことゝもおほしめしたらぬ
SARA000011106 さまに人/\もつけたえすめし
SARA000011107 なとする中にもわさとめしてわかい
SARA000011108 ひとまいらせよとおほせらるれは
SARA000011109 えさらすいたしたつるにひかされて
SARA000011110 又時/\いてたてとすきにし方の」56オ
SARA000011201 やうなるあいなたのみの心をこりを
SARA000011202 たにすへきやうもなくてさすかに
SARA000011203 わかい人にひかれており/\さしいつる
SARA000011204 にもなれたる人はこよなくなにこ
SARA000011205 とにつけてもありつきかほに我は
SARA000011206 いとわかうとにあるへきにもあらす
SARA000011207 又おとなにせらるへきおほえも
SARA000011208 なく時/\のまらうとにさしはなた
SARA000011209 れてすゝろなるやうなれとひとへに
SARA000011210 そなたひとつをたのむへきならねは」56ウ
SARA000011301 我よりまさる人あるもうらやましく
SARA000011302 もあらす中/\心やすくおほえて
SARA000011303 さんへきおりふしまいりてつれ/\な
SARA000011304 るさんへき人と物かたりなとして
SARA000011305 めてたきこともおかしくおもしろ
SARA000011306 きおり/\もわか身はかやうにたち
SARA000011307 ましりいたく人にも見しられむに
SARA000011308 もはゝかりあんへけれはたゝおほ
SARA000011309 かたの事にのみきゝつゝすくすに」57オ
SARA000011401 内の御ともにまいりたるおりあり
SARA000011402 あけの月いとあかきにわかねむし
SARA000011403 申すあまてる御神は内にそおは
SARA000011404 しますなるかしかゝるおりにまい
SARA000011405 りておかみたてまつらむと思て四月
SARA000011406 はかりの月のあかきにいとしのひて
SARA000011407 まいりたれははかせの命婦はしる
SARA000011408 たよりあれはとうろの火のいとほ
SARA000011409 のかなるにあさましくおい神さひて」57ウ
SARA000011501 さすかにいとよう物なといひゐたる
SARA000011502 か人ともおほえす神のあらはれ
SARA000011503 たまへるかとおほゆ又の夜も月の
SARA000011504 いとあかきにふちつほのひむかしの
SARA000011505 とをゝしあけてさへき人/\物かた
SARA000011506 りしつゝ月をなかむるにむめつほ
SARA000011507 の女御のゝほらせ給なるをとなひ
SARA000011508 いみしく心にくゝいうなるにも故宮の」58オ
SARA000011601 おはします世ならましかはかやう
SARA000011602 にのほらせ給はましなと人/\い
SARA000011603 ひいつるけにいとあはれなりかし
SARA005711604 あまのとを雲井なからもよそに見て
SARA005711605 むかしのあとをこふる月かな
SARA000011606 冬になりて月なくゆきもふらす
SARA000011607 なからほしのひかりにそらさすかに
SARA000011608 くまなくさえわたりたる夜のかき
SARA000011609 り殿の御方にさふらふ人/\と物
SARA000011610 かたりしあかしつゝあくれはたち」58ウ
SARA000011701 わかれ/\しつゝまかてしを思いてけ
SARA000011702 れは
SARA005811703 月もなく花も見さりし冬のよの
SARA005811704 心にしみてこひしきやなそ
SARA000011705 我もさ思ことなるをおなし心なる
SARA000011706 もおかしうて
SARA005911707 さえし夜の氷は袖にまたとけて
SARA005911708 冬の夜なからねをこそはなけ
SARA000011709 御前にふしてきけは池の鳥とも
SARA000011710 のよもすからこゑ/\はふきさはく
SARA000011711 をとのするにめもさめて」59オ
SARA006011801 わかことそ水のうきねにあかしつゝ
SARA006011802 うはけのしもをはらひわふなる
SARA000011803 とひとりこちたるをかたわらに
SARA000011804 ふし給へる人きゝつけて
SARA006111805 ましておもへ水のかりねのほとたにそ
SARA006111806 うわけのしもをはらひわひける
SARA000011807 かたらふ人とちつほねのへたてなる
SARA000011808 やりとをあけあはせて物かたりなと
SARA000011809 しくらす日又かたらふ人のうへに
SARA000011810 ものしたまふをたひ/\よひおろすに」59ウ
SARA000011901 せちにことあらはいかむとあるにかれ
SARA000011902 たるすゝきのあるにつけて
SARA006211903 冬かれのしのゝをすゝき袖たゆみ
SARA006211904 まねきもよせし風にまかせむ
SARA000011905 上達部殿上人なとにたいめんする
SARA000011906 人はさたまりたるやうなれはうゐ/\
SARA000011907 しきさと人はありなしをたに
SARA000011908 しらるへきにもあらぬに十月ついた
SARA000011909 ちころのいとくらき夜ふたん経に
SARA000011910 こゑよき人/\よむほとなりとて」60オ
SARA000012001 そなたちかきとくちにふたりはかり
SARA000012002 たちいてゝきゝつゝ物かたりしてより
SARA000012003 ふしてあるにまいりたる人のあるを
SARA000012004 にけいりてつほねなるひと/\よひ
SARA000012005 あけなとせむも見くるしさはれ
SARA000012006 たゝおりからこそかくてたゝと
SARA000012007 いふいまひとりのあれはかたわらに
SARA000012008 てきゝゐたるにおとなしくしつやか
SARA000012009 なるけはいにて物なといふくちおしから」60ウ
SARA000012101 さなりいまひとりはなとゝひて世の
SARA000012102 つねのうちつけのけさうひてなとも
SARA000012103 いひなさす世中のあはれなることゝ
SARA000012104 もなとこまやかにいひいてゝさすかに
SARA000012105 きひしうひきいりかたいふし/\
SARA000012106 ありて我も人もこたえなとする
SARA000012107 をまたしらぬ人のありけるなと
SARA000012108 めつらしかりてとみにたつへくも
SARA000012109 あらぬほとほしのひかりたに見えす
SARA000012110 くらきにうちしくれつゝこのはに」61オ
SARA000012201 かゝるをとのおかしきを中/\に
SARA000012202 えむにおかしき夜かな月のく
SARA000012203 まなくあかゝらむもはしたなく
SARA000012204 まはゆかりぬへかりけり春秋の
SARA000012205 事なといひて時にしたかひ見る
SARA000012206 ことには春かすみおもしろく
SARA000012207 そらものとかにかすみ月のおもて
SARA000012208 もいとあかうもあらすとをうなかるゝ
SARA000012209 やうに見えたるに琵琶のふかう
SARA000012210 てうゆるゝかにひきならしたる」61ウ
SARA000012301 いといみしくきこゆるに又秋にな
SARA000012302 りて月いみしうあかきにそらは
SARA000012303 きりわたりたれと手にとるはかり
SARA000012304 さやかにすみわたりたるにかせの
SARA000012305 をとむしのこゑとりあつめたる
SARA000012306 心地するに箏のことかきならされ
SARA000012307 たるゐやう定のふきすまされたる
SARA000012308 はなその春とおほゆかし又さか
SARA000012309 とおもへは冬の夜のそらさへさえ
SARA000012310 わたりいみしきにゆきのふり」62オ
SARA000012401 つもりひかりあひたるにひちりきのわなゝき
SARA000012402 いてたるは春秋もみなわすれぬ
SARA000012403 かしといひつゝけていつれにか御心
SARA000012404 とゝまるとゝふに秋の夜に心を
SARA000012405 よせてこたへ給をさのみおなし
SARA000012406 さまにはいはしとて
SARA006312407 あさ緑花もひとつにかすみつゝ
SARA006312408 おほろに見ゆる春の夜の月
SARA000012409 とこたへたれは返/\うちすんして
SARA000012410 さは秋のよはおほしすてつるなゝりな」62ウ
SARA006412501 こよひより後のいのちのもしもあらは
SARA006412502 さは春の夜をかたみとおもはむ
SARA000012503 といふに秋に心よせたる人
SARA006512504 人はみな春に心をよせつめり
SARA006512505 我のみや見む秋のよの月
SARA000012506 とあるにいみしうけうし思わつら
SARA000012507 ひたるけしきにてもろこしな
SARA000012508 とにも昔より春秋のさためは
SARA000012509 えし侍らさなるをこのかうおほし」63オ
SARA000012601 わかせ給けむ御心ともおもふにゆへ
SARA000012602 侍らむかしわか心のなひきそのお
SARA000012603 りのあはれともおかしとも思事
SARA000012604 のある時やかてそのおりのそら
SARA000012605 のけしきも月も花も心にそめ
SARA000012606 らるゝにこそあへかめれ春秋を
SARA000012607 しらせ給けむことのふしなむいみ
SARA000012608 しうゝけたまはらまほしき
SARA000012609 冬の夜の月はむかしよりすさま」63ウ
SARA000012701 しきものゝためしにひかれて侍
SARA000012702 けるに又いとさむくなとしてことに
SARA000012703 見られさりしを斎宮の御もきの
SARA000012704 勅使にてくたりしにあかつきに
SARA000012705 のほらむとて日ころふりつみた
SARA000012706 る雪に月のいとあかきにたひの
SARA000012707 そらとさへおもへは心ほそくおほ
SARA000012708 ゆるにまかり申にまいりたれはよの
SARA000012709 所にもにす思なしさへけおそろ
SARA000012710 しきにさへきところにめして」64オ
SARA000012801 円融院の御世よりまいりたりける
SARA000012802 人のいといみしく神さひふるめ
SARA000012803 いたるけはいのいとよしふかくむか
SARA000012804 しのふることゝもいひいてうちな
SARA000012805 きなとしてようしらへたるひわの
SARA000012806 御ことをさしいてられたりしはこ
SARA000012807 の世のことゝもおほえす夜の
SARA000012808 あけなむもおしう京のことも」64ウ
SARA000012901 思たえぬはかりおほえ侍しよりなむ
SARA000012902 冬の夜の雪ふれる夜は思しら
SARA000012903 れて火をけなとをいたきてもかな
SARA000012904 らすいてゐてなむ見られ侍おまへ
SARA000012905 たちもかならすさおほすゆへ侍ら
SARA000012906 むかしさらはこよひよりはくらき
SARA000012907 やみの夜のしくれうちせむは又
SARA000012908 心にしみ侍なむかし斎宮の雪の
SARA000012909 夜におとるへき心ちもせすなむなといひて」65オ
SARA000013001 わかれにしのちはたれとしられ
SARA000013002 しと思しを又のとしの八月に
SARA000013003 内へいらせ給によもすから殿上にて
SARA000013004 御あそひありけるにこの人のさふ
SARA000013005 らひけるもしらすそのよはしもに
SARA000013006 あかしてほそとのゝやりとをゝし
SARA000013007 あけて見いたしたれはあか月方
SARA000013008 の月のあるかなきかにおかしきを
SARA000013009 見るにくつのこゑきこえてと経」65ウ
SARA000013101 なとする人もありと経の人はこの
SARA000013102 やりとくちにたちとまりて物なとい
SARA000013103 ふにこたへたれはふと思いてゝ時雨
SARA000013104 の夜こそかた時わすれすこひしく
SARA000013105 侍れといふにことなかうこたふへき
SARA000013106 ほとならねは
SARA006613107 なにさまて思いてけむなをさりの
SARA006613108 このはにかけしゝくれはかりを
SARA000013109 ともいひやらぬを人/\又きあへ
SARA000013110 はやかてすへりいりてそのよさり」66オ
SARA000013201 まかてにしかはもろともなりし
SARA000013202 人たつねて返しゝたりしなとも
SARA000013203 のちにそきくありしゝくれの
SARA000013204 やうならむにいかてひわのねの
SARA000013205 おほゆるかきりひきてきかせむと
SARA000013206 なむあるときくにゆかしくて我
SARA000013207 もさるへきおりをまつにさらに
SARA000013208 なしはるころのとやかなるゆふ」66ウ
SARA000013301 つかたまいりたなりときゝてその夜
SARA000013302 もろともなりし人とゐさりいつ
SARA000013303 るにとに人/\まいりうちにもれい
SARA000013304 のひと/\あれはいてさいていりぬ
SARA000013305 あの人もさや思けむしめやかなる
SARA000013306 ゆふくれをゝしはかりてまいりたり
SARA000013307 けるにさはかしかりけれはまかつ
SARA000013308 めり
SARA006713309 かしまみてなるとのうらにこかれいつる
SARA006713310 心はえきやいそのあま人」67オ
SARA000013401 とはかりにてやみにけりあの人から
SARA000013402 もいとすくよかに世のつねならぬ
SARA000013403 人にてその人はかの人はなとも
SARA000013404 たつねとはてすきぬいまはむかし
SARA000013405 のよしなし心もくやしかりけりと
SARA000013406 のみ思しりはておやのものへゐて
SARA000013407 まいりなとせてやみにしもゝとかし
SARA000013408 く思いてらるれはいまはひとへに
SARA000013409 ゆたかなるいきおひになりて」67ウ
SARA000013501 ふたはの人をもおもふさまにか
SARA000013502 しつきおほしたてわか身もみくら
SARA000013503 の山につみあまるはかりにてのちの
SARA000013504 世まてのことをもおもはむと思は
SARA000013505 けみてしも月の廿よ日いし山に
SARA000013506 まいるゆきうちふりつゝみちのほとさ
SARA000013507 へおかしきにあふさかのせきを見る
SARA000013508 にもむかしこえしも冬そかし
SARA000013509 と思いてらるゝにそのほとしもいと
SARA000013510 あらうふいたり」68オ
SARA006813601 あふさかの関のせき風ふくこゑは
SARA006813602 むかしきゝしにかはらさりけり
SARA000013603 せきてらのいかめしうつくられたる
SARA000013604 を見るにもそのおりあらつくり
SARA000013605 の御かほはかり見られしおり思
SARA000013606 いてられて年月のすきにけるも
SARA000013607 いとあはれ也うちいてのはまのほ
SARA000013608 となと見しにもかはらすくれかゝる
SARA000013609 ほとにまうてつきてゆやにおりて
SARA000013610 みたうにのほるに人こゑもせす」68ウ
SARA000013701 山かせおそろしうおほえてをこ
SARA000013702 なひさしてうちまとろみたる夢
SARA000013703 に中堂よりさかう給はりぬとく
SARA000013704 かしこへつけよといふ人あるに
SARA000013705 うちおとろきたれはゆめなりけりと
SARA000013706 おもふによきことならむかしと思て
SARA000013707 をこなひあかす又の日もいみしく
SARA000013708 雪ふりあれて宮にかたらひきこ
SARA000013709 ゆる人のくし給へるとものかたり
SARA000013710 して心ほそさをなくさむ三日」69オ
SARA000013801 さふらひてまかてぬそのかへる年
SARA000013802 の十月廿五日大嘗會の御禊とのゝ
SARA000013803 しるにはつせの精進はしめてそ
SARA000013804 の日京をいつるにさるへき人/\
SARA000013805 一代に一度の見ものにてゐ中せ
SARA000013806 かいの人たに見る物を月日おほ
SARA000013807 かりその日しも京をふりいてゝ
SARA000013808 いかむもいとものくるおしくなか
SARA000013809 れてのものかたりともなりぬへき」69ウ
SARA000013901 事也なとはらからなる人はいひ
SARA000013902 はらたてとちことものおやなる人
SARA000013903 はいかにも/\心にこそあらめとて
SARA000013904 いふにしたかひていたしたつる心はへ
SARA000013905 もあはれ也ともにゆく人/\もいとい
SARA000013906 みしく物ゆかしけなるはいとおし
SARA000013907 けれともの見てなにゝかはせむかゝ
SARA000013908 るおりにまうてむ心さしをさり
SARA000013909 ともおほしなむかならす仏の御しるしを」70オ
SARA000014001 見むと思たちてそのあか月に京
SARA000014002 をいつるに二条のおほちをしも
SARA000014003 わたりていくにさきにみあかしもた
SARA000014004 せともの人/\上えすかたなるをそ
SARA000014005 こらさしきともにうつるとていきちか
SARA000014006 ふむまもくるまもかち人もあれ
SARA000014007 はなそ/\とやすからすいひおとろき
SARA000014008 あさみわらひあさける物ともゝあり
SARA000014009 よしよりの兵衛のかみと申ゝ人の家
SARA000014010 のまへをすくれはそれさしきへ」70ウ
SARA000014101 わたり給なるへしかとひろうをし
SARA000014102 あけてひと/\たてるかあれは物まう
SARA000014103 て人なめりな月日しもこそ世に
SARA000014104 おほかれとわらふなかにいかなる心
SARA000014105 ある人にか一時かめをこやしてなに
SARA000014106 にかはせむいみしくおほしたちて
SARA000014107 仏の御とくかならす見給へき人に
SARA000014108 こそあめれよしなしかし物見て
SARA000014109 かうこそ思たつへかりけれとまめや
SARA000014110 かにいふ人ひとりそあるみちけんそう」71オ
SARA000014201 ならぬさきにと夜ふかういてし
SARA000014202 かはたちをくれたる人/\もまちいと
SARA000014203 おそろしうふかきゝりをもすこし
SARA000014204 はるけむとて法性寺の大門にたち
SARA000014205 とまりたるにゐなかより物見にのほる
SARA000014206 ものとも水のなかるゝやうにそ見ゆ
SARA000014207 るやすへて道もさりあへす物の心
SARA000014208 しりけもなきあやしのわらはへま
SARA000014209 てひきよきてゆきすくるをくるま
SARA000014210 をおとろきあさみたることかきり」71ウ
SARA000014301 なしこれらを見るにけにいかにい
SARA000014302 てたちしみちなりともおほゆれと
SARA000014303 ひたふるに仏をねむしたてまつりて
SARA000014304 宇治の渡にいきつきぬそこにも
SARA000014305 猶しもこなたさまにわたりする物
SARA000014306 とも立こみたれは舟のかちとりたる
SARA000014307 をのこともふねをまつ人のかすも
SARA000014308 しらぬに心おこりしたるけしき
SARA000014309 にて袖をかいまくりてかほにあてゝ
SARA000014310 さおにをしかゝりてとみに舟も」72オ
SARA000014401 よせすうそふいて見まわしいと
SARA000014402 いみしうすみたるさま也むこに
SARA000014403 えわたらてつく/\と見るにむらさ
SARA000014404 きの物かたりに宇治の宮のむすめ
SARA000014405 ともの事あるをいかなる所なれは
SARA000014406 そこにしもすませたるならむと
SARA000014407 ゆかしく思し所そかしけにおか
SARA000014408 しき所哉と思つゝからうして渡
SARA000014409 て殿の御らう所のうち殿をいりて
SARA000014410 見るにもうきふねの女きみの」72ウ
SARA000014501 かゝる所にやありけむなとまつ思いて
SARA000014502 らる夜ふかくいてしかは人/\こう
SARA000014503 してやひろうちといふ所にとゝまり
SARA000014504 てものくひなとするほとにしも
SARA000014505 ともなる物ともかうみやうのくりこ
SARA000014506 ま山にはあらすや日もくれかたに
SARA000014507 なりぬめりぬしたちてうとゝりお
SARA000014508 はさうせよやといふをいと物おそ
SARA000014509 ろしうきくその山こえはてゝにへ
SARA000014510 のゝ池のほとりへいきつきたるほと」73オ
SARA000014601 日は山のはにかゝりにたり今はやと
SARA000014602 とれとて人/\あかれてやともとむる
SARA000014603 所はしたにていとあやしけなる
SARA000014604 下すのこいへなむあるといふにいかゝは
SARA000014605 せむとてそこにやとりぬみな人/\
SARA000014606 京にまかりぬとてあやしのをのこふ
SARA000014607 たりそゐたるその夜もいもねす
SARA000014608 このをのこいていりしありくをお
SARA000014609 くの方なる女ともなとかくしあり
SARA000014610 かるゝそとゝふなれはいなや心も」73ウ
SARA000014701 しらぬ人をやとしたてまつりてかま
SARA000014702 はしもひきぬかれなはいかにすへ
SARA000014703 きそと思てえねてまはりありく
SARA000014704 そかしとねたると思ていふきくに
SARA000014705 いとむく/\しくおかしつとめて
SARA000014706 そこをたちて東大寺によりてお
SARA000014707 かみたてまつるいその神もまこと
SARA000014708 にふりにける事思やられてむけ
SARA000014709 にあれはてにけりその夜山のへと
SARA000014710 いふ所のてらにやとりていとくるし」74オ
SARA000014801 けれと経すこしよみたてまつりて
SARA000014802 うちやすみたるゆめにいみしく
SARA000014803 やむことなくきよらなる女のおは
SARA000014804 するにまいりたれは風いみしう
SARA000014805 ふく見つけてうちゑみてなにしに
SARA000014806 おはしつるそとゝひたまへはいかて
SARA000014807 かはまいらさらむと申せはそこは
SARA000014808 内にこそあらむとすれはかせの命
SARA000014809 婦をこそよくかたらはめとのたまふ
SARA000014810 と思てうれしくたのもしくていよ/\」74ウ
SARA000014901 ねむしたてまつりてはつせ河なと
SARA000014902 うちすきてその夜みてらにまう
SARA000014903 てつきぬはらへなとしてのほる
SARA000014904 三日さふらひてあか月まかてむ
SARA000014905 とてうちねふりたるよさりみたう
SARA000014906 の方よりすはいなりよりたまはる
SARA000014907 しるしのすきよとて物をなけいつる
SARA000014908 やうにするにうちおとろきたれは
SARA000014909 ゆめなりけりあか月よふかくいてゝ
SARA000014910 えとまらねはならさかのこなたなる」75オ
SARA000015001 家をたつねてやとりぬこれもいみ
SARA000015002 しけなるこいゑ也こゝはけしき
SARA000015003 ある所なめりゆめいぬなれうかいの
SARA000015004 ことあらむにあなかしこをひえさ
SARA000015005 はかせ給ないきもせてふさせ給
SARA000015006 へといふをきくにもいといみしう
SARA000015007 わひしくおそろしうて夜を
SARA000015008 あかすほとちとせをすくす心地す
SARA000015009 からうしてあけたつほとにこれは
SARA000015010 ぬす人の家也あるしの女けしき」75ウ
SARA000015101 ある事をしてなむありけるなと
SARA000015102 いふいみしう風のふく日宇治の
SARA000015103 渡をするにあしろいとちかう
SARA000015104 こきよりたり
SARA006915105 をとにのみきゝわたりこし宇治河の
SARA006915106 あしろの浪もけふそかそふる
SARA000015107 二三年四五年へたてたることを
SARA000015108 したいもなくかきつゝくれはやか
SARA000015109 てつゝきたちたるす行者めきた
SARA000015110 れとさにはあらす年月へたゝれる事也」76オ
SARA000015201 春ころくらまにこもりたり山きは
SARA000015202 かすみわたりのとやかなるにやまの
SARA000015203 方よりわつかにところなとほりも
SARA000015204 てくるもおかしいつるみちは花も
SARA000015205 みなちりはてにけれはなにとも
SARA000015206 なきを十月許にまうつるに道の
SARA000015207 ほと山のけしきこのころはいみし
SARA000015208 うそまさる物なりける山のはに
SARA000015209 しきをひろけたるやう也たきりて」76ウ
SARA000015301 なかれゆく水すいしやうをちらす
SARA000015302 やうにわきかへるなといつれにもすく
SARA000015303 れたりまうてつきてそうはうに
SARA000015304 いきつきたるほとかきしくれたる
SARA000015305 紅葉のたくひなくそ見ゆるや
SARA007015306 おく山の紅葉のにしきほかよりも
SARA007015307 いかにしくれてふかくそめけむ
SARA000015308 とそ見やらるゝ二年はかりありて
SARA000015309 又いし山にこもりたれはよもすか
SARA000015310 らあめそいみしくふるたひゐは」77オ
SARA000015401 雨いとむつかしき物ときゝてしとみ
SARA000015402 をゝしあけて見れはありあけの
SARA000015403 月のたにのそこさへくもりなく
SARA000015404 すみわたり雨ときこえつるは木
SARA000015405 のねより水のなかるゝをと也
SARA007115406 谷河の流は雨ときこゆれと
SARA007115407 ほかよりけなる在明の月
SARA000015408 又はつせにまうつれはゝしめに
SARA000015409 こよなくものたのもし所/\にま
SARA000015410 うけなとしていきもやらす山」77ウ
SARA000015501 しろのくにはゝそのもりなとに
SARA000015502 もみちいとおかしきほと也はつせ
SARA000015503 河わたるに
SARA007215504 はつせ河立帰つゝたつぬれは
SARA007215505 すきのしるしもこのたひや見む
SARA000015506 と思もいとたのもし三日さふらひて
SARA000015507 まかてぬれはれいのならさかの
SARA000015508 こなたにこ家なとにこのたひは
SARA000015509 いとるいひろけれはえやとるまし
SARA000015510 うて野中にかりそめにいほつくりて」78オ
SARA000015601 すへたれは人はたゝ野にゐて夜
SARA000015602 をあかす草のうへにむかはきなとを
SARA000015603 うちしきてうへにむしろをしきて
SARA000015604 いとはかなくて夜をあかすかしらも
SARA000015605 しとゝにつゆをくあか月かたの月
SARA000015606 いといみしくすみわたりてよにし
SARA000015607 らすおかし
SARA007315608 ゆくゑなきたひのそらにもをくれぬは
SARA007315609 宮こにて見しありあけの月
SARA000015610 なにことも心にかなはぬこともなき」78ウ
SARA000015701 まゝにかやうにたちはなれたる物
SARA000015702 まうてをしても道のほとをおかし
SARA000015703 ともくるしとも見るにをのつから心
SARA000015704 もなくさめさりともたのもしう
SARA000015705 さしあたりてなけかしなとおほ
SARA000015706 ゆることゝもないまゝにたゝおさ
SARA000015707 なき人/\をいつしか思さまにし
SARA000015708 たてゝ見むと思に年月のすき行
SARA000015709 を心もとなくたのむ人たに人の
SARA000015710 やうなるよろこひしてはとのみ」79オ
SARA000015801 思わたる心地たのもしかしいにし
SARA000015802 へいみしうかたらひよるひるうた
SARA000015803 なとよみかはしゝ人のあり/\ても
SARA000015804 いとむかしのやうにこそあらねた
SARA000015805 えすいひわたるか越前守のよめ
SARA000015806 にてくたりしかかきたえをともせ
SARA000015807 ぬにからうしてたよりたつねてこれ
SARA000015808 より
SARA007415809 たえさりし思も今はたえにけり
SARA007415810 こしのわたりの雪のふかさに」79ウ
SARA000015901 といひたる返ことに
SARA007515902 しら山のゆきのしたなるさゝれいしの
SARA007515903 中のおもひはきえむものかは
SARA000015904 やよひのついたちころに西山のお
SARA000015905 くなる所にいきたる人めも見
SARA000015906 えすのと/\とかすみわたりたるに
SARA000015907 あはれに心ほそく花はかりさき
SARA000015908 みたれたり
SARA007615909 さとゝをみあまりおくなる山ちには
SARA007615910 花見にとても人こさりけり」80オ
SARA000016001 世中むつかしうおほゆるころ
SARA000016002 うつまさにこもりたるに宮にかた
SARA000016003 らひきこゆる人の御もとよりふみ
SARA000016004 ある返こときこゆるほとにかねの
SARA000016005 をとのきこゆれは
SARA007716006 しけかりしうき世の事もわすられす
SARA007716007 いりあひのかねの心ほそさに
SARA000016008 とかきてやりつうら/\とのとかなる
SARA000016009 宮にておなし心なる人三人許
SARA000016010 ものかたりなとしてまかてゝ又の日」80ウ
SARA000016101 つれ/\なるまゝにこひしう思いて
SARA000016102 らるれはふたりの中に
SARA007816103 袖ぬるゝあらいそ浪としりなから
SARA007816104 ともにかつきをせしそこひしき
SARA000016105 ときこえたれは
SARA007916106 あらいそはあされとなにのかひなくて
SARA007916107 うしほにぬるゝあまのそて哉
SARA000016108 いま一人
SARA008016109 見るめおふる浦にあらすはあらいその
SARA008016110 なみまかそふるあまもあらしを」81オ
SARA000016201 おなし心にかやうにいひかはし世
SARA000016202 中のうきもつらきもおかしきも
SARA000016203 かたみにいひかたらふ人ちくせんに
SARA000016204 くたりてのち月のいみしうあか
SARA000016205 きにかやうなりし夜宮にまいりて
SARA000016206 あひてはつゆまとろますなかめあか
SARA000016207 いしものをこひしく思つゝねい
SARA000016208 りにけり宮にまいりあひてうつゝ
SARA000016209 にありしやうにてありと見てうち
SARA000016210 おとろきたれはゆめなりけり」81ウ
SARA000016301 月も山のはちかうなりにけりさめ
SARA000016302 さらましをといとゝなかめられて
SARA008116303 夢さめてねさめのとこのうく許
SARA008116304 こひきとつけよにしへゆく月
SARA000016305 さるへきやうありて秋ころいつみ
SARA000016306 にくたるによとゝいふよりしてみちの
SARA000016307 ほとのおかしうあはれなることいひ
SARA000016308 つくすへうもあらすたかはまと
SARA000016309 いふ所にとゝまりたるよいとくらき
SARA000016310 に夜いたうふけて舟のかちの」82オ
SARA000016401 をときこゆとふなれはあそひのき
SARA000016402 たるなりけりひと/\けうして
SARA000016403 舟にさしつけさせたりとをき
SARA000016404 火のひかりにひとへのそてなかやか
SARA000016405 にあふきさしかくしてうたうた
SARA000016406 ひたるいとあはれに見ゆ又の日山
SARA000016407 のはに日のかゝるほとすみよしの
SARA000016408 浦をすくそらもひとつにきりわ
SARA000016409 たれる松のこすゑもうみのおも
SARA000016410 てもなみのよせくるなきさの」82ウ
SARA000016501 ほともゑにかきてもをよふへき
SARA000016502 方なうおもしろし
SARA008216503 いかにいひなにゝたとへてかたらまし
SARA008216504 秋のゆふへのすみよしのうら
SARA000016505 と見つゝつなてひきすくるほと
SARA000016506 かへりみのみせられてあかすおほゆ
SARA000016507 冬になりてのほるにおほつといふ
SARA000016508 うらに舟にのりたるにその夜
SARA000016509 雨風いはもうこく許ふりふゝ
SARA000016510 きて神さへなりてとゝろくに」83オ
SARA000016601 浪のたちくるをとなひ風のふき
SARA000016602 まとひたるさまおそろしけなる
SARA000016603 こといのちかきりつと思まとはる
SARA000016604 をかのうへに舟をひきあけて夜を
SARA000016605 あかす雨はやみたれと風猶ふきて
SARA000016606 舟いたさすゆくゑもなきをかの
SARA000016607 うへに五六日とすくすからうして
SARA000016608 風いさゝかやみたるほと舟のすたれ
SARA000016609 まきあけて見わたせはゆふしほ
SARA000016610 たゝみちにみちくるさまとりも」83ウ
SARA000016701 あへす入江のたつのこゑおしまぬ
SARA000016702 もおかしく見ゆくにのひと/\あつま
SARA000016703 りきてその夜この浦をいてさせ
SARA000016704 給ていしつにつかせたまへらまし
SARA000016705 かはやかてこの御舟なこりなくな
SARA000016706 りなましなといふ心ほそうきこゆ
SARA008316707 あるゝ海に風よりさきにふなてして
SARA008316708 いしつの浪ときえなましかは
SARA000016709 世中にとにかくに心のみつくすに
SARA000016710 宮つかへとてもゝとはひとすちに」84オ
SARA000016801 つかうまつりつかはやいかゝあらむ時/\
SARA000016802 たちいてはなになるへくもなかめり
SARA000016803 としはやゝさたすきゆくにわか/\
SARA000016804 しきやうなるも月なうおほえ
SARA000016805 ならるゝうちに身のやまひいとを
SARA000016806 もくなりて心にまかせて物まうて
SARA000016807 なとせしこともえせすなりたれは
SARA000016808 わくらはのたちいてもたえてなか
SARA000016809 らふへき心地もせぬまゝにおさな
SARA000016810 きひと/\をいかにも/\わかあらむ」84ウ
SARA000016901 世に見をくこともかなとふしお
SARA000016902 き思なけきたのむ人のよろこひ
SARA000016903 のほとを心もとなくまちなけかるゝに
SARA000016904 秋になりてまちいてたるやうなれ
SARA000016905 と思しにはあらすいとほいなく
SARA000016906 くちおしおやのおりより立帰つゝ
SARA000016907 見しあつまちよりはちかきやうに
SARA000016908 きこゆれはいかゝはせむにてほとも
SARA000016909 なくゝたるへきことゝもいそくに」85オ
SARA000017001 かとてはむすめなる人のあたらし
SARA000017002 くわたりたる所に八月十よ日にす
SARA000017003 のちのことはしらすそのほとのあ
SARA000017004 りさまは物さはかしきまて人
SARA000017005 おほくいきほいたり廿七日にくたる
SARA000017006 におとこなるはそひてくたる紅の
SARA000017007 うちたるに萩のあをしをんのを
SARA000017008 りものゝさしぬきゝてたちはきて」85ウ
SARA000017101 しりにたちてあゆみいつるをそれも
SARA000017102 をり物のあをにひいろのさしぬき
SARA000017103 かりきぬきてらうのほとにてむま
SARA000017104 にのりぬのゝしりみちてくたりぬる
SARA000017105 のちこよなうつれ/\なれといといたう
SARA000017106 とをきほとならすときけはさき/\の
SARA000017107 やうに心ほそくなとはおほえて
SARA000017108 あるにをくりのひと/\又の日かへり
SARA000017109 ていみしうきら/\しうてくたり
SARA000017110 ぬるといひてこのあか月にいみしく」86オ
SARA000017201 おほきなる人たまのたちて京さま
SARA000017202 へなむきぬるとかたれとゝもの人
SARA000017203 なとのにこそはと思ゆゝしきさまに
SARA000017204 思たによらむやはいまはいかてこ
SARA000017205 のわかきひと/\おとなひさせむと
SARA000017206 おもふよりほかの事なきにかへる
SARA000017207 年の四月にのほりきて夏秋も
SARA000017208 すきぬ九月廿五日よりわつらひいてゝ
SARA000017209 十月五日にゆめのやうに見ないて」86ウ
SARA000017301 おもふ心地世中に又たくひある事
SARA000017302 ともおほえすはつせにかゝみたて
SARA000017303 まつりしにふしまろひなきたる
SARA000017304 かけの見えけむはこれにこそは
SARA000017305 ありけれうれしけなりけむかけは
SARA000017306 きし方もなかりきいまゆくすゑは
SARA000017307 あへいやうもなし廿三日はかなく
SARA000017308 くもけふりになす夜こその秋
SARA000017309 いみしくしたてかしつかれてうちそひ
SARA000017310 てくたりしを見やりしをいとくろき」87オ
SARA000017401 きぬのうへにゆゝしけなるものを
SARA000017402 きてくるまのともになく/\あゆみ
SARA000017403 いてゝゆくを見いたして思いつる
SARA000017404 心地すへてたとへむ方なきまゝ
SARA000017405 にやかて夢ちにまとひてそ思に
SARA000017406 その人やみにけむかし昔より
SARA000017407 よしなき物かたりうたのことを
SARA000017408 のみ心にしめてよるひる思てをこ
SARA000017409 なひをせましかはいとかゝるゆめの
SARA000017410 世をは見すもやあらましはつせ」87ウ
SARA000017501 にてまへのたひいなりよりたまふ
SARA000017502 しるしのすきよとてなけいてられし
SARA000017503 をいてしまゝにいなりにまうて
SARA000017504 たらましかはかゝらすやあらまし
SARA000017505 年ころあまてる御神をねむした
SARA000017506 てまつれと見ゆるゆめは人の御
SARA000017507 めのとして内わたりにありみかと
SARA000017508 きさきの御かけにかくるへきさま
SARA000017509 をのみゆめときもあはせしかとも
SARA000017510 そのことはひとつかなはてやみぬ」88オ
SARA000017601 たゝかなしけなりと見しかゝみの
SARA000017602 かけのみたかはぬあはれに心うし
SARA000017603 かうのみ心に物のかなふ方なうて
SARA000017604 やみぬる人なれはくとくもつくら
SARA000017605 すなとしてたゝよふさすかにいの
SARA000017607 ちはうきにもたえすなからふめれと
SARA000017608 のちの世も思ふにかなはすそあら
SARA000017609 むかしとそうしろめたきにたの
SARA000017610 むことひとつそありける天喜三年」88ウ
SARA000017701 十月十三日の夜の夢にゐたる所の
SARA000017702 やのつまの庭に阿弥陀仏たち
SARA000017703 たまへりさたかには見えたまはす
SARA000017704 きりひとへゝたゝれるやうにすき
SARA000017705 て見え給をせめてたえまに見たて
SARA000017706 まつれは蓮花の座のつちをあか
SARA000017707 りたるたかさ三四尺仏の御たけ
SARA000017708 六尺はかりにて金色にひかりかゝ
SARA000017709 やき給て御手かたつかたをはひろ
SARA000017710 けたるやうにいまかたつかたには」89オ
SARA000017801 いんをつくり給たるをこと人の
SARA000017802 めには見つけたてまつらす我一
SARA000017803 人見たてまつるにさすかにいみし
SARA000017804 くけおそろしけれはすたれの
SARA000017805 もとちかくよりてもえ見たてまつ
SARA000017806 らねは仏さはこのたひはかへりて
SARA000017807 のちにむかへにこむとのたまふこゑ
SARA000017808 わかみゝひとつにきこえて人はえ
SARA000017809 きゝつけすと見るにうちおとろ
SARA000017810 きたれは十四日也このゆめ許」89ウ
SARA000017901 そのちのたのみとしける
SARA000017902 をいともなとひと所にてあさゆふ見
SARA000017903 るにかうあはれにかなしきことの
SARA000017904 のちは所/\になりなとしてたれも
SARA000017905 見ゆることかたうあるにいとくらい
SARA000017906 夜六らうにあたるをいのきたる
SARA000017907 にめつらしうおほえて
SARA008417908 月もいてゝやみにくれたるをはすてに
SARA008417909 なにとてこよひたつねきつらむ
SARA000017910 とそいはれにけるねむころにか
SARA000017911 たらふ人のかうてのちをとつれぬに」90オ
SARA008518001 いまは世にあらし物とや思らむ
SARA008518002 あはれなく/\猶こそはふれ
SARA000018003 十月許月のいみしうあかきを
SARA000018004 なく/\なかめて
SARA008618005 ひまもなき涙にくもる心にも
SARA008618006 あかしと見ゆる月のかけかな
SARA000018007 年月はすきかはりゆけとゆめの
SARA000018008 やうなりしほとを思いつれは心ちも
SARA000018009 まとひめもかきくらすやうなれは」90ウ
SARA000018101 そのほとの事はまたさたかにも
SARA000018102 おほえす人/\はみなほかに
SARA000018103 すみあかれてふるさとにひとり
SARA000018104 いみしう心ほそくかなしくて
SARA000018105 なかめあかしわひてひさしう
SARA000018106 をとつれぬ人に
SARA008718107 しけりゆくよもきかつゆにそほちつゝ
SARA008718108 人にとはれぬねをのみそなく
SARA000018109 あまなる人也」91オ
SARA008818201 世のつねのやとのよもきを思やれ
SARA008818202 そむきはてたるにはのくさむら」91ウ

SARA000018301 ひたちのかみすかはらのたかすゑ
SARA000018302 のむすめの日記也母倫寧朝臣女
SARA000018303 傅のとのゝはゝうへのめひ也
SARA000018304 よはのねさめみつのはまゝつ
SARA000018305 みつからくゆるあさくらなとは
SARA000018306 この日記の人のつくられたるとそ」92オ

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